(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165044
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】低分子量ポリテトラフルオロエチレンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/28 20060101AFI20241121BHJP
【FI】
C08J3/28 CEW
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080864
(22)【出願日】2023-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】田中 孝之
(72)【発明者】
【氏名】塚本 充郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 数行
(72)【発明者】
【氏名】大島 明博
(72)【発明者】
【氏名】長澤 尚胤
(72)【発明者】
【氏名】清藤 一
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 翔太
【テーマコード(参考)】
4F070
【Fターム(参考)】
4F070AA24
4F070HA01
4F070HB14
(57)【要約】
【課題】分子量のバラツキの小さい低分子量ポリテトラフルオロエチレンの製造方法を提供する。
【解決手段】高分子量ポリテトラフルオロエチレンに、最大線量率と最小線量率との比(最大線量率/最小線量率)が2.00以下となるようにバッチ式で放射線を照射して、380℃における溶融粘度が1.0×10
2Pa・s以上、7.0×10
5Pa・s以下である低分子量ポリテトラフルオロエチレンを得る工程(1)を含む、低分子量ポリテトラフルオロエチレンの製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子量ポリテトラフルオロエチレンに、最大線量率と最小線量率との比(最大線量率/最小線量率)が2.00以下となるようにバッチ式で放射線を照射して、380℃における溶融粘度が1.0×102Pa・s以上、7.0×105Pa・s以下である低分子量ポリテトラフルオロエチレンを得る工程(1)を含む、低分子量ポリテトラフルオロエチレンの製造方法。
【請求項2】
前記放射線の最小吸収線量が50kGy以上200kGy未満である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記照射を、酸素の存在下に行う請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記放射線が電子線、ガンマ線又はX線である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記放射線の線源から前記高分子量ポリテトラフルオロエチレンの最も遠い部分までの距離を10m以下として前記照射を行う請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記放射線の線源から前記高分子量ポリテトラフルオロエチレンの最も近い部分までの距離を5cm以上として前記照射を行う請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項7】
前記高分子量ポリテトラフルオロエチレンを、前記放射線の線源の有効領域に対面する位置に配置して、前記照射が行われ、前記有効領域は、前記線源の中心からの距離が、当該中心から前記線源の端部までの距離の95%以下となる領域である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項8】
前記照射を、金属、ガラス、セラミックス、及び、有機材料からなる群より選択される少なくとも1種の材料により構成される照射容器に充填された前記高分子量ポリテトラフルオロエチレンに対して行う請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項9】
前記照射容器は、円柱状又は角柱状である請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記照射容器は、板状の面、網状の面、及び、スリット状の開口を有する面からなる群より選択される少なくとも1種の面を有する請求項8に記載の製造方法。
【請求項11】
前記高分子量ポリテトラフルオロエチレンを充填した照射容器を複数並べて配置して、前記照射を行う請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項12】
前記高分子量ポリテトラフルオロエチレンの標準比重が2.130以上、2.230以下である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項13】
前記高分子量ポリテトラフルオロエチレン及び前記低分子量ポリテトラフルオロエチレンがいずれも粉末である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項14】
工程(1)の前に、更に、前記高分子量ポリテトラフルオロエチレンを、その一次融点以上に加熱することにより成形品を得る工程(2)を含み、前記成形品は、比重が1.0g/cm3以上である請求項1又は2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、低分子量ポリテトラフルオロエチレンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分子量数千から数十万の低分子量ポリテトラフルオロエチレン(「ポリテトラフルオロエチレンワックス」や「ポリテトラフルオロエチレンマイクロパウダー」とも呼ばれる)は、化学的安定性に優れ、表面エネルギーが極めて低いことに加え、フィブリル化が生じにくいので、滑り性や塗膜表面の質感を向上させる添加剤として、プラスチックス、インク、化粧品、塗料、グリース等の製造に用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
低分子量ポリテトラフルオロエチレンの製造方法としては、重合法、放射線分解法、熱分解法等が知られている。特許文献2には、放射線分解法による低分子量ポリテトラフルオロエチレンの製造方法が記載されている。
【0004】
特許文献3及び4には、容器内でポリテトラフルオロエチレンを撹拌しながら連続式で電子線を照射する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-147617号公報
【特許文献2】国際公開第2020/013336号
【特許文献3】米国特許第4777192号明細書
【特許文献4】米国特許第6486481号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、分子量のバラツキの小さい低分子量ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示(1)は、高分子量ポリテトラフルオロエチレンに、最大線量率と最小線量率との比(最大線量率/最小線量率)が2.00以下となるようにバッチ式で放射線を照射して、380℃における溶融粘度が1.0×102Pa・s以上、7.0×105Pa・s以下である低分子量ポリテトラフルオロエチレンを得る工程(1)を含む、低分子量ポリテトラフルオロエチレンの製造方法である。
【0008】
本開示(2)は、上記放射線の最小吸収線量が50kGy以上200kGy未満である本開示(1)の製造方法である。
【0009】
本開示(3)は、上記照射を、酸素の存在下に行う本開示(1)又は(2)の製造方法である。
【0010】
本開示(4)は、上記放射線が電子線、ガンマ線又はX線である本開示(1)~(3)のいずれかとの任意の組み合わせの製造方法である。
【0011】
本開示(5)は、上記放射線の線源から上記高分子量ポリテトラフルオロエチレンの最も遠い部分までの距離を10m以下として上記照射を行う本開示(1)~(4)のいずれかとの任意の組み合わせの製造方法である。
【0012】
本開示(6)は、上記放射線の線源から上記高分子量ポリテトラフルオロエチレンの最も近い部分までの距離を5cm以上として上記照射を行う本開示(1)~(5)のいずれかとの任意の組み合わせの製造方法である。
【0013】
本開示(7)は、上記高分子量ポリテトラフルオロエチレンを、上記放射線の線源の有効領域に対面する位置に配置して、上記照射が行われ、上記有効領域は、上記線源の中心からの距離が、当該中心から上記線源の端部までの距離の95%以下となる領域である本開示(1)~(6)のいずれかとの任意の組み合わせの製造方法である。
【0014】
本開示(8)は、上記照射を、金属、ガラス、セラミックス、及び、有機材料からなる群より選択される少なくとも1種の材料により構成される照射容器に充填された上記高分子量ポリテトラフルオロエチレンに対して行う本開示(1)~(7)のいずれかとの任意の組み合わせの製造方法である。
【0015】
本開示(9)は、上記照射容器は、円柱状又は角柱状である本開示(8)の製造方法である。
【0016】
本開示(10)は、上記照射容器は、板状の面、網状の面、及び、スリット状の開口を有する面からなる群より選択される少なくとも1種の面を有する本開示(8)又は(9)の製造方法である。
【0017】
本開示(11)は、上記高分子量ポリテトラフルオロエチレンを充填した照射容器を複数並べて配置して、上記照射を行う本開示(1)~(10)のいずれかとの任意の組み合わせの製造方法である。
【0018】
本開示(12)は、上記高分子量ポリテトラフルオロエチレンの標準比重が2.130以上、2.230以下である本開示(1)~(11)のいずれかとの任意の組み合わせの製造方法である。
【0019】
本開示(13)は、上記高分子量ポリテトラフルオロエチレン及び上記低分子量ポリテトラフルオロエチレンがいずれも粉末である本開示(1)~(12)のいずれかとの任意の組み合わせの製造方法である。
【0020】
本開示(14)は、工程(1)の前に、更に、上記高分子量ポリテトラフルオロエチレンを、その一次融点以上に加熱することにより成形品を得る工程(2)を含み、上記成形品は、比重が1.0g/cm3以上である本開示(1)~(13)のいずれかとの任意の組み合わせの製造方法である。
【発明の効果】
【0021】
本開示によれば、分子量のバラツキの小さい低分子量PTFEの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図2】高分子量PTFEを充填した照射容器の一例を示す断面図である。
【
図3】高分子量PTFEを充填した照射容器の別の一例を示す断面図である。
【
図5】実施例1、2及び比較例1における線源と照射対象との位置関係及びサンプリング箇所を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
従来、高分子量PTFEに放射線を照射すると、照射容器内の位置によって放射線の吸収線量に大きな差が生じ、得られる低分子量PTFEの分子量のバラツキが大きくなるという問題があった。
本発明者らは、放射線の最大線量率と最小線量率との比が特定の範囲内となるように照射を行うことにより、得られる低分子量PTFEの分子量のバラツキが抑制されることを見出し、本開示の製造方法を完成するに至った。
以下、本開示を具体的に説明する。
【0024】
なお、本明細書において、数値の下限値から数値の上限値までの数値範囲を表す記載表現として「~」を用いた説明箇所があるが、この説明箇所における数値範囲は、下限値自体及び上限値自体を含む下限値以上、上限値以下として特定される数値範囲である。
【0025】
本開示は、高分子量PTFEに、最大線量率と最小線量率との比(最大線量率/最小線量率)が2.00以下となるようにバッチ式で放射線を照射して、380℃における溶融粘度が1.0×102Pa・s以上、7.0×105Pa・s以下である低分子量PTFEを得る工程(1)を含む、低分子量PTFEの製造方法に関する。
【0026】
工程(1)では、高分子量PTFEに、最大線量率と最小線量率との比(以下、線量率比ともいう。)が2.00 以下となるようにバッチ式で放射線を照射する。線量率比が上記範囲内にあることにより、分子量のバラツキが小さい低分子量PTFEが得られる。
上記線量率比は、1.90以下であることが好ましく、1.70以下であることがより好ましく、1.50以下であることが更に好ましく、1.30以下であることが特に好ましい。
上記線量率比は、また、1.00以上であってよく、1.10以上であってもよく、1.55超であってもよい。
【0027】
上記線量率比は、試料を収容した照射容器内の複数箇所で取得した吸収線量率の最大値及び最小値の比として求める。上記吸収線量率は、少なくとも、最も線量値が小さくなることが予想される箇所(例えば、照射容器内中心部や線源から遠い側の照射容器内表面)、及び、最も線量が高くなることが予想される箇所(例えば、線源に近い側の照射容器内表面)で求める。
吸収線量率は、化学線量計による実測及びモンテカルロシミュレーションコード“PHITS”(Journal of Nuclear Science and Technology,2018,Vol.55,No.6,p.684-690)による計算シミュレーションの二つの方法により測定することができる。化学線量計にはアラニン線量計及びPMMA線量計を用いることができる。最も線量値が小さくなることが予想される箇所には、アラニン線量計を3個設置する。また、最も線量が高くなることが予想される箇所には、放射線プロセス工程管理用として使用されるPMMA線量計を1表面箇所につき5枚設置する。
アラニン線量計を用いる場合は、ISO/ASTM51607規格及びJIS規格(JIS Z4571)に準拠して、電子スピン共鳴法(マイクロ波周波数を9.8GHz、共鳴磁場を350mTに設定)により結晶中のアラニン由来ラジカルに特化して積算測定したESRスペクトルに基づき、アラニン線量計標準試料から作成した検量線を用いて線量を算出する。
PMMA線量計を用いる場合は、線量計としてRadixW(ラジエ工業株式会社製)を用いて、ISO/ASTM51276規格及びJIS規格(JIS Z4572)に準拠して照射後、分光光度計により320nmもしくは280nmの吸光度を測定し、校正曲線より線量を算出する。
PHITSによる計算シミュレーションでは、コバルト線源の実サイズ、数量、照射時間、照射容器の大きさ、材質、形状及び放射線の透過・散乱に影響を与える照射室内の壁・床の大きさ、材質、それらの実配置を模擬して、ISO/ASTM52303規格及びJIS規格(JIS Z4574)に準拠してモンテカルロ計算シミュレーションを行う。計算シミュレーションでは、照射容器内のより詳細な線量分布を評価することができる。
このPHITS計算シミュレーションによる複数の評価点のうち、化学線量計による実測点と同箇所における線量率評価結果を実測値と比較した結果、計算シミュレーション結果の妥当性を確認できた。
【0028】
複数の照射容器に試料を収容して照射を実施する場合は、容器間の線量率比も、上述した範囲内となることが好ましい。この場合、複数の容器に収容されている試料全体における吸収線量率の最大値及び最小値から求める線量率比を上記範囲内に調整してもよく、試料全体における吸収線量の最小値と、各容器における吸収線量の最大値とから求める線量比を上記範囲内に調整してもよい。
【0029】
上記放射線としては、電離性放射線であれば特に限定されず、電子線、ガンマ線、X線、中性子線、高エネルギーイオン等が挙げられるが、電子線、ガンマ線、あるいは、X線が産業利用上好ましく、電子線又はガンマ線がより好ましい。
電子線は、例えば、電子加速器から発生させることができる。
ガンマ線は、例えば、ラジオアイソトープから発生させることができる。
X線は、例えば、粒子加速器からの粒子線を金属等のターゲットに照射することにより発生させることができる。また、高エネルギー電子線にレーザー光を衝突させ、逆コンプトン散乱(レーザーコンプトン散乱)により準単色性のX線を発生させることができる。更には、シンクロトロン放射によってX線を発生させることができるほか、粒子加速器の下段にアンジュレータやウィグラーを設置してX線を発生させてもよい。
【0030】
ガンマ線の線源としては、コバルト60線源が、工業用に普及している点で好ましい。上記線源としては、例えば、棒状又は板状のものが挙げられ、板状線源が好ましい。板状線源としては、例えば、棒状の線源ペンシルを平板上に配置したものが挙げられる。
【0031】
上記放射線は、バッチ式で照射される。
本開示において、バッチ式での照射とは、照射容器の内容物(高分子量PTFE)の供給(追加)及び排出(除去)を伴わずに照射を実施することを意味する。
したがって、本開示におけるバッチ式の照射には、内容物を供給又は排出しながら照射する態様は包含されないが、容器ごとコンベヤ等で移動させながら照射する態様等は包含される。
本開示におけるバッチ式の照射は、照射容器内での内容物(高分子量PTFE)の実質的な移動を伴わないことが好ましい。ここで、内容物の実質的な移動とは、容器内で内容物の位置が意図的に変更されることを意味し、上述した供給(追加)や排出(除去)だけでなく、内容物を撹拌すること等も含まれる。
バッチ式の照射は、連続式のような専用の照射設備が不要であり、既存の照射容器及び照射設備を用いることができるので、コストを削減することができる。また、高分子量PTFEが少量であっても処理することができる。更に、高分子量PTFEや照射条件(照射量等)を変更して処理することも容易である。
放射線の照射は、所望の吸収線量に到達するまで連続で行ってもよいし、累計で所望の吸収線量に到達するまで断続的に繰り返し行ってもよい。
【0032】
上記放射線の平均吸収線量は、例えば、10kGy以上であってよく、30kGy以上であることが好ましく、40kGy以上であることがより好ましく、50kGy以上であることが更に好ましく、60kGy以上であることが更により好ましく、70kGy以上であることが特に好ましく、80kGy以上であることが最も好ましい。また、上記平均吸収線量は、1000kGy以下であってよく、750kGy以下であることが好ましく、600kGy以下であることがより好ましく、500kGy以下であることが更に好ましく、350kGy以下であることが更により好ましく、200kGy未満であることが特に好ましい。
上記平均吸収線量は、照射容器内の線源側の表面の複数箇所に設置した線量計により測定した吸収線量の平均値として求める。線量計(化学線量計)については、上述したとおりである。
【0033】
上記放射線の照射の際の平均吸収線量率は、特に限定されないが、例えば、コバルト60等から放出されるγ線においては、0.1kGy/h以上が好ましく、1kGy/h以上がより好ましくは、2kGy/h以上が更に好ましい。
電子加速器からの電子線においては、0.1kGy/s以上が好ましく、1kGy/s以上がより好ましく、10kGy/s以上が更に好ましい。試料をコンベア等で移動させながら照射を行う場合は0.1kGy/pass以上が好ましく、1kGy/pass以上がより好ましく、10kGy/pass以上が更に好ましい。
粒子加速器からの粒子線、特に電子加速器からの電子線をX線発生用のターゲットに照射して発生させたX線においては、5Gy/s以上が好ましく、50Gy/s以上がより好ましく、0.1kGy/s以上が更に好ましく、0.5kGy/s以上が更により好ましく、1kGy/s以上が特に好ましく、10kGy/s以上が最も好ましい。試料をコンベア等で移動させながら照射を行う場合は0.1kGy/pass以上が好ましく、1kGy/pass以上がより好ましく、10kGy/pass以上が更に好ましい。
上記平均吸収線量率は、照射容器内の表面の複数箇所に設置した線量計により測定した吸収線量率の平均値として求める。線量計(化学線量計)については、上述したとおりである。また、上述したPHITS計算シミュレーションによっても求めることができる。線量計と計算シミュレーションとを併用してもよい。
【0034】
上記放射線の最小吸収線量は、例えば、10kGy以上であってよく、30kGy以上であることが好ましく、40kGy以上であることがより好ましく、50kGy以上であることが更に好ましく、60kGy以上であることが更により好ましく、70kGy以上であることが特に好ましく、80kGy以上であることが最も好ましい。また、上記最小吸収線量は、1000kGy以下であってよく、750kGy以下であることが好ましく、600kGy以下であることがより好ましく、500kGy以下であることが更に好ましく、350kGy以下であることが更により好ましく、200kGy未満であることが特に好ましい。
上記最小吸収線量は、最も線量値が小さくなることが予想される箇所(例えば、照射容器内中心部や線源から遠い側の照射容器内表面)に設置した線量計により測定した吸収線量の値として求める。線量計(化学線量計)については、上述したとおりである。
【0035】
上記放射線の照射温度は、-80℃近傍のγ分散温度以上、高分子量PTFEの融点以下であれば特に限定されない。融点近傍付近では高分子量PTFEの分子鎖が架橋することも知られており、架橋を抑制する点では、320℃以下が好ましく、310℃以下がより好ましく、300℃以下が更に好ましい。経済的には常温から50℃程度までの温度範囲で照射することが好ましいが、放射線による分解効率を上げるため、温度を昇温して照射してもよい。
上記照射温度は、照射における試料(高分子量PTFE)の温度である。
また、放射線照射継続中に試料温度が-80℃から320℃の間で変化してもよい。
【0036】
上記照射は、いかなる雰囲気中で実施してもよく、例えば、空気中、不活性ガス中、真空中等で実施できる。上記照射を、酸素の存在下で実施することも好ましい。
本明細書において、酸素の存在下とは、工程を実施する雰囲気中の酸素濃度が2.0体積%以上であることを意味する。上記酸素濃度は3.0体積%以上であってもよく、5.0体積%以上であってもよく、10体積%以上であってもよく、15体積%以上であってもよく、20体積%以上であってもよい。
なお、この時の主成分ガスは、不活性ガスであってよい。上記不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス、これらの混合ガス等が挙げられる。
上記酸素濃度は、工程を実施する雰囲気、例えば上記高分子量PTFEを配置する容器内の気相部分をガスクロマトグラフィーにて分析する方法や、酸素濃度測定機を用いる方法、上記容器内に設置した酸素検知剤の色調を調べる方法により簡便に測定できる。
【0037】
また、工程(1)を実施する環境は、加圧下、大気圧下、減圧環境のいずれであってもよい。ここでいう、減圧環境とは、ダイヤフラムポンプや、油回転ポンプ、スクロールポンプ等の真空ポンプで真空度100Pa以下に脱気した環境を意味する。
【0038】
工程(1)における照射は、上記放射線の線源の前に上記高分子量PTFEを固定して行ってもよいし、コンベヤ等を用いて、上記放射線の線源の前を通過するように上記高分子量PTFEを移動させながら行ってもよい。分子量のバラツキが小さい低分子量PTFEが容易に得られる点では、上記高分子量PTFEを移動させながら照射を行うことが好ましい。
【0039】
図1は、放射線照射の態様の一例を示す図である。
図1の態様においては、高分子量PTFE粉末を充填した照射容器11を照射台12上に配置し、線源10から上記高分子量PTFEに対して放射線を照射する。
照射台がコンベヤ等の運搬装置である場合は、線源10の前を通過するように(図中のx軸方向に)照射容器を移動させながら照射を行う。
なお、各図において、x軸は線源10の幅方向を表し、y軸は放射線の出射面に垂直な方向を表し、z軸は線源10の高さ方向を表す。
【0040】
上記照射において、上記放射線の線源から上記高分子量PTFEの最も近い部分までの距離は特に問わないが、装置の安全上5cm以上とすることが好ましい。
また、上記放射線の線源から上記高分子量PTFEの最も遠い部分までの距離は、10m以下であってよく、5m以下であってもよく、2m以下であってもよい。
これにより、線量率比を容易に上述した範囲内とすることができる。
なお、線源からの距離は、放射線の出射面からの距離をいうものとする。
【0041】
図2は、高分子量PTFEを充填した照射容器の一例を示す断面図である。
図2において、線源10から、照射容器11に充填された高分子量PTFE粉末100の最も遠い部分までの距離はaであり、線源10から高分子量PTFE粉末100の最も近い部分までの距離はbである。
【0042】
上記照射において、上記高分子量PTFEは、上記放射線の線源の下記有効領域に対面する位置に配置されることが好ましい。なお、当該有効領域は放射線の出射面における領域であってよい。
(有効領域)
線源の中心からの距離が、当該中心から線源の端部までの距離の95%以下、好ましくは90%以下となる領域。
線源が棒状や板状である場合、その端部、例えば上端及び下端付近からは充分な吸収線量が得られない場合がある。上記のように線源の有効領域に対面する位置に高分子量PTFEを配置することにより、高分子量PTFE全体で充分な吸収線量が得られ、また、線量率比を容易に上述した範囲内とすることができる。
上記高分子量PTFEを移動させながら照射を行う場合は、上記高分子量PTFEの各部分が一度は上記範囲内を通過するように移動させることが好ましい。
上記高分子量PTFEを移動させながら照射を行う場合、上記有効領域の定義における線源の端部は、上記高分子量PTFEの進行方向に垂直な方向の端部であってよい。例えば、
図1において高分子量PTFEをx軸方向に移動させる場合、上記有効領域の定義における線源の端部はz軸方向の端部(上端、下端)であってよい。
【0043】
図3は、高分子量PTFEを充填した照射容器の別の一例を示す断面図である。
図3において、高分子量PTFE粉末100は、線源10の有効領域に対面するように、線源10の上端に対応する位置から距離cだけ下方、かつ、線源10の下端に対応する位置から距離dだけ上方に配置されている。
【0044】
上記照射は、通常、照射容器に充填された上記高分子量PTFEに対して行う。
上記照射容器は、金属、ガラス、セラミックス、及び、有機材料からなる群より選択される少なくとも1種の材料により構成されることが好ましく、放射線により劣化しにくい点で、金属により構成されることがより好ましい。
上記金属としては、ステンレス、銅、鉄、チタン、アルミ等が挙げられ、汎用性の点でステンレスが好ましい。より好ましくは、高耐食ステンレスである。
上記有機材料としては、紙、ゴム、FRP(繊維強化材料)、熱可塑性有機材料等が挙げられる。
上記照射容器としては、使い捨てにできる点では紙製の照射容器が好ましく、軽量化の点ではFRP又はアルミ製の照射容器が好ましい。より好ましくは、これらを組み合わせたファイバードラムである。
【0045】
上記照射容器は、密閉容器であることが好ましい。
【0046】
上記照射容器は、密度が0.3g/cm3以上であることが好ましく、1.0g/cm3以上であることがより好ましく、3.0g/cm3以上であることが更に好ましく、また、19.3g/cm3以下であることが好ましく、8.9g/cm3以下であることがより好ましく、8.0g/cm3以下であることが更に好ましい。
上記照射容器の密度を上記範囲内とすることにより、線量率比を容易に上述した範囲内とすることができる。
上記密度は、平均密度として通常の密度測定法により測定する。
【0047】
上記照射容器の形状は、特に限定されず、円柱状、角柱状等であってよい。均一に照射できる点から、円柱状であることが好ましい。また、配置場所のデッドスペース削減、線量計の設置の容易さ、容器交換や輸送の容易さ等の観点で、角柱状であることが好ましく、四角柱状であることがより好ましい。
上記照射容器は、袋のように、内容積が可変な容器であってもよい。内容積が可変な容器と、内容積が可変でない容器とを併用してもよい。
【0048】
上記照射容器を構成する面は、板状であってよいが、実用上の軽量化の観点では、例えば、網状であってもよく、スリット状の開口を有してもよい。
上記照射容器は、板状の面、網状の面、及び、スリット状の開口を有する面からなる群より選択される少なくとも1種の面を有することが好ましい。
【0049】
上記照射容器の大きさは、上記放射線の線源と上記高分子量PTFEとの距離を上述した範囲内とすることが可能な大きさであることが好ましい。
例えば、上記照射容器が円柱状である場合は、直径が5~110cmであることが好ましく、10cm以上であることがより好ましく、また、55cm以下であることがより好ましい。
上記照射容器が角柱状である場合は、底面の少なくとも1辺の長さが5~110cmであることが好ましく、10cm以上であることがより好ましく、また、55cm以下であることがより好ましい。
上記照射容器の高さ(深さ)は、例えば、充填する高分子量PTFEの量や線源の大きさに応じて決定することができる。
【0050】
上記照射容器の厚さ、好ましくは上記照射容器の側面の厚さは0.1~10mmであることが好ましく、1mm以上であることがより好ましく、また、3mm以下であることがより好ましい。
上記照射容器の厚さを上記範囲内とすることにより、線量率比を容易に上述した範囲内とすることができる。
【0051】
上記照射は、上記高分子量PTFEを充填した照射容器を複数並べて配置して行うことが好ましい。照射容器を配置する照射台等によって放射線が散乱し、散乱線が照射容器側面に回り込むことで、容器の中心部と端部との線量に大きな差が生じることがある。照射容器を複数並べて配置することで、隣接する照射容器によって散乱線の回り込みが遮蔽され、より均一な照射が可能となる。
上記態様は、線源が板状である場合に特に好適である。上記照射容器は、線源の幅方向に並べて配置することが好ましい。
複数の上記照射容器は、互いに接していても接していなくてもよいが、散乱線の遮蔽効果を高める点では、できるだけ接近させて配置するのが好ましい。
【0052】
図4は、照射容器の配置の一例を示す図である。
図4においては、複数の照射容器11が、線源10の幅方向(図中のx軸方向)に並べて配置されている。
【0053】
上記照射は、上記高分子量PTFEを充填した複数の照射容器を高さ方向に積み上げて行ってもよい。
【0054】
上記照射は、上記高分子量PTFEに対し、複数の異なる向きから行うことが好ましい。このように照射を行うことで、より均一な照射が可能となる。
複数の異なる向きからの照射は必ずしも同時に行う必要はなく、上記高分子量PTFE(又は照射容器)の向きを変えて順次行えばよい。
上記態様において、照射は2つ以上の向きから行えばよいが、多くの向きから行うほど均一な照射が可能となる。少なくとも、1つの向きと、その反対の向きからの照射を行うことが好ましい。
【0055】
本開示の製造方法は、工程(1)の前に、更に、上記高分子量PTFEを、その一次融点以上に加熱することにより成形品を得る工程(2)を含むこともできる。この場合、工程(2)で得られた成形品、上記成形品を切削加工した場合に生じる切削屑、上記成形品を粉砕したもの(粗粒子、粉末等)等を工程(1)における上記高分子量PTFEとして使用することができる。
上記一次融点としては、300℃以上が好ましく、310℃以上がより好ましく、320℃以上が更に好ましい。
上記一次融点は、未焼成の高分子量PTFEを示差走査熱量計で測定した場合に、結晶融解曲線上に現れる吸熱カーブの最大ピーク温度を意味する。上記吸熱カーブは、示差走査熱量計を用いて、昇温速度10℃/分の条件で昇温させて得られたものである。
【0056】
工程(2)における上記成形品は、比重が1.0g/cm3以上であることが好ましく、1.5g/cm3以上であることがより好ましく、また、2.5g/cm3以下であることが好ましい。上記成形品の比重が上記範囲内にあると、表面の細孔や凸凹が小さくなり、結果的に比表面積の小さい低分子量PTFEを得ることが出来る。
上記比重は、水中置換法により測定することができる。
本開示の製造方法は、工程(2)の後に、更に、上記成形品を粉砕する工程を含むこともできる。上記成形品を粗く粉砕してから、更に小さく粉砕してもよい。
【0057】
本開示の製造方法は、工程(1)の後に、更に、上記低分子量PTFEを粉砕して、低分子量PTFEの粉末を得る工程を含むこともできる。
【0058】
上記粉砕の方法としては特に限定されないが、粉砕機で粉砕する方法が挙げられる。上記粉砕機には、遊星ミル、ハンマーミル、ピンミル、ジェットミル等の衝撃式や、回転刃と外周ステーターが凹凸による剪断力で粉砕するカッターミル等の摩砕式等がある。
【0059】
粉砕温度は-200℃以上、50℃未満であることが好ましい。冷凍粉砕では通常-200~-100℃であるが、室温付近の温度(10~30℃)で粉砕してもよい。冷凍粉砕では一般に液体窒素を使用するが、設備が膨大で粉砕コストも高くなる。工程が簡素となる点、粉砕コストを抑えることができる点で、10℃以上、50℃未満で粉砕することがより好ましく、10~40℃で粉砕することが更に好ましく、10~30℃で粉砕することが特に好ましい。
【0060】
上記粉砕の後、微粒子や繊維状粒子を気流分級により除去した後に、更に分級により粗粒子を除去してもよい。
【0061】
気流分級においては、粉砕された粒子が減圧空気により円柱状の分級室に送られ、室内の旋回気流により分散され、遠心力によって微粒子が分級される。微粒子は中央部からサイクロン及びバグフィルターへ回収される。分級室内には、粉砕粒子と空気が均一に旋回運動を行うために円錐状のコーン、ローター等の回転体が設置されている。
【0062】
分級コーンを使用する場合には、分級点の調節は二次エアーの風量と分級コーン間の隙間を調節することにより行う。ローターを使用する場合には、ローターの回転数により分級室内の風量を調節する。
【0063】
粗粒子の除去方法としては、メッシュによる気流分級、振動篩、超音波篩等が挙げられるが、気流分級が好ましい。
【0064】
次に、本開示の製造方法の工程(1)において放射線を照射する高分子量PTFE、及び、工程(1)を実施した後に得られる低分子量PTFEについて説明する。
【0065】
工程(1)を実施した後に得られる低分子量PTFEは、380℃における溶融粘度が1.0×102Pa・s以上、7.0×105Pa・s以下である。本開示において、「低分子量」とは、上記溶融粘度が上記の範囲内にあることを意味する。
上記溶融粘度は、1.0×103Pa・s以上であることが好ましく、1.5×103Pa・s以上であることがより好ましく、1.0×104Pa・s以上であることが更に好ましく、また、3.0×105Pa・s以下であることが好ましく、1.0×105Pa・s以下であることがより好ましい。
【0066】
上記溶融粘度は、ASTM D 1238に準拠し、フローテスター(島津製作所社製)及び2φ-8Lのダイを用い、予め380℃で5分間加熱しておいた2gの試料を0.7MPaの荷重にて上記温度に保って測定した値である。
【0067】
上記放射線を照射する高分子量PTFEは、標準比重(SSG)が2.130~2.230であることが好ましい。上記標準比重(SSG)はASTM D 4895に準拠し、測定した値である。
【0068】
上記高分子量PTFEは、上記低分子量PTFEよりも溶融粘度が極めて高く、その正確な溶融粘度を測定することは困難である。他方、低分子量PTFEの溶融粘度は測定可能であるが、低分子量PTFEからは、標準比重の測定に使用可能な成形品を得ることが難しく、その正確な標準比重を測定することが困難である。従って、本開示では、上記高分子量PTFEの分子量の指標として、標準比重を採用し、上記低分子量PTFEの分子量の指標として、溶融粘度を採用する。なお、上記高分子量PTFE及び上記低分子量PTFEのいずれについても、直接に分子量を特定できる測定方法は知られていない。
【0069】
上記低分子量PTFEは、融点が320~340℃であることが好ましく、324~336℃であることがより好ましい。
【0070】
上記融点は、示差走査熱量計(DSC)を用い、事前に標準サンプルとして、インジウム、鉛を用いて温度校正した上で、低分子量PTFE約3mgをアルミ製パン(クリンプ容器)に入れ、200ml/分のエアー気流下で、250~380℃の温度領域を10℃/分で昇温させて行い、上記領域における融解熱量の極小点を融点とする。
【0071】
本開示の製造方法において、上記高分子量PTFEの形状は特に限定されず、粉末(ファインパウダー、モールディングパウダー等)であってもよいし、上記高分子量PTFEの成形品であってもよいし、上記高分子量PTFEの成形品を切削加工した場合に生じる切削屑であってもよいし、上記高分子量PTFEの成形品を粉砕したもの(粗粒子、粉末等)であってもよい。上記高分子量PTFEが粉末であると、上記低分子量PTFEの粉末を容易に得ることができる。
また、上記高分子量PTFEは架橋されていてもよい。
【0072】
また、本開示の製造方法によって得られる低分子量PTFEの形状は、特に限定されないが、粉末であることが好ましい。
【0073】
本開示の製造方法によって得られる低分子量PTFEが粉末である場合、比表面積が0.5~25m2/gであることが好ましい。
低分子量PTFE粉末としては、比表面積が0.5m2/g以上、7.0m2/g未満の比表面積の低いタイプと、比表面積が7.0m2/g以上、25m2/g以下の比表面積の高いタイプがそれぞれ求められている。
比表面積の低いタイプの低分子量PTFE粉末は、例えば塗料等のマトリクス材料に容易に分散する利点がある一方、マトリクス材料への分散粒径が大きく、微分散に劣る。
比表面積の低いタイプの低分子量PTFE粉末の比表面積は、1.0m2/g以上が好ましく、5.0m2/g以下が好ましく、3.0m2/g以下がより好ましい。マトリクス材料としては、プラスチック、インクの他、塗料等も好適に用いられる。
比表面積の高いタイプの低分子量PTFE粉末は、例えば塗料等のマトリクス材料に分散させた場合、マトリクス材料への分散粒径が小さく、塗膜表面の質感を向上させる等、表面を改質する効果が高く、吸油量も多くなるが、マトリクス材料への分散に必要な時間が長い等容易に分散しないおそれがあり、また、塗料等の粘度が上昇するおそれもある。
比表面積の高いタイプの低分子量PTFE粉末の比表面積は、8.0m2/g以上が好ましく、20m2/g以下が好ましい。マトリクス材料としては、オイル、グリース、塗料の他、プラスチック等も好適に用いられる。
【0074】
上記比表面積は、表面分析計(商品名:BELSORP-miniII、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用い、キャリアガスとして窒素30%、ヘリウム70%の混合ガスを用い、冷却に液体窒素を用いて、BET法により測定する。
【0075】
本開示の製造方法によって得られる低分子量PTFEが粉末である場合、平均粒子径が0.5~200μmであることが好ましく、50μm以下がより好ましく、25μm以下が更に好ましく、10μm以下が特に好ましい。このように、平均粒子径が比較的小さい粉末であることで、例えば、塗料の添加剤として用いた場合等に、より優れた表面平滑性を有する塗膜を形成することができる。
【0076】
上記平均粒子径は、日本電子株式会社製レーザー回折式粒度分布測定装置(HELOS&RODOS)を用いて、カスケードは使用せず、分散圧力3.0barで測定を行い、粒度分布積算の50%に対応する粒子径に等しいとする。
【0077】
上記低分子量PTFEは、分子鎖末端にカルボキシル基を有していてもよい。
上記カルボキシル基の数は、主鎖炭素数106個あたり5個以下であってもよく、5個超であってもよく、30個以上であってもよい。
上記照射を実質的に酸素の不存在下で行う場合、上記カルボキシル基数は5個以下になり得る。
上記カルボキシル基の数は、下記方法により測定した値である。この測定方法による検出限界は0.5個である。
(測定方法)
特開平4-20507号公報記載の末端基の分析方法に準拠し、以下の測定を行う。
低分子量PTFE粉末をハンドプレスにて予備成形し、0.1~1.0mm厚みのフィルムを作製する。作製したフィルムについて赤外吸収スペクトル分析する。PTFEにフッ素ガスを接触させて作製した末端を完全フッ素化したPTFEの赤外吸収スペクトル分析も行い、両者の差スペクトルから次式により末端カルボキシル基の個数を算出する。
末端カルボキシル基の個数(炭素数106個あたり)=(l×K)/t
l:吸光度
K:補正係数
t:フィルムの厚み(mm)
カルボキシル基の吸収周波数は3560cm-1前後、補正係数は440とする。
【0078】
上記低分子量PTFEの分子鎖末端には、上記高分子量PTFEの重合反応において使用された重合開始剤又は連鎖移動剤の化学構造に由来する不安定末端基が生じていてもよい。上記不安定末端基としては特に限定されず、例えば、-CH2OH、-COOH、-COOCH3等が挙げられる。
【0079】
上記低分子量PTFEは、不安定末端基の安定化を行ったものであってもよい。上記不安定末端基の安定化の方法としては特に限定されず、例えば、フッ素含有ガスに曝露することにより末端をトリフルオロメチル基〔-CF3〕に変化させる方法等が挙げられる。
【0080】
上記低分子量PTFEはまた、末端アミド化を行ったものであってもよい。上記末端アミド化の方法としては特に限定されず、例えば、特開平4-20507号公報に開示されているように、フッ素含有ガスに曝露する等して得られたフルオロカルボニル基〔-COF〕をアンモニアガスと接触させる方法等が挙げられる。
【0081】
上記低分子量PTFEが上述の不安定末端基の安定化又は末端アミド化を行ったものであると、塗料、グリース、化粧品、メッキ液、トナー、プラスチックス等の相手材への添加剤として用いる場合に、相手材となじみやすく、分散性を向上させることができる。
【0082】
放射線を照射する高分子量PTFEは、テトラフルオロエチレン(TFE)単位のみからなるホモPTFEであってもよいし、TFE単位及びTFEと共重合可能な変性モノマーに基づく変性モノマー単位を含む変性PTFEであってもよい。本開示の製造方法において、ポリマーの組成は変化しないので、上記低分子量PTFEは、上記放射線を照射する高分子量PTFEが有する組成をそのまま有する。
【0083】
上記変性PTFEにおいて、上記変性モノマー単位の含有量は、全単量体単位の0.001~1質量%であることが好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、また、0.5質量%以下がより好ましく、0.1質量%以下が更に好ましい。本明細書において、上記変性モノマー単位とは、変性PTFEの分子構造の一部分であって変性モノマーに由来する部分を意味し、全単量体単位とは、変性PTFEの分子構造における全ての単量体に由来する部分を意味する。上記変性モノマー単位の含有量は、フーリエ変換型赤外分光法(FT-IR)等の公知の方法により求めることができる。
【0084】
上記変性モノマーとしては、TFEとの共重合が可能なものであれば特に限定されず、例えば、ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕等のパーフルオロオレフィン;クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕等のクロロフルオロオレフィン;トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン〔VDF〕等の水素含有フルオロオレフィン;パーフルオロビニルエーテル;パーフルオロアルキルエチレン;エチレン等が挙げられる。また、用いる変性モノマーは1種であってもよいし、複数種であってもよい。
【0085】
上記パーフルオロビニルエーテルとしては特に限定されず、例えば、下記一般式(1)
CF2=CF-ORf (1)
(式中、Rfは、パーフルオロ有機基を表す。)で表されるパーフルオロ不飽和化合物等が挙げられる。本明細書において、上記「パーフルオロ有機基」とは、炭素原子に結合する水素原子が全てフッ素原子に置換されてなる有機基を意味する。上記パーフルオロ有機基は、エーテル酸素を有していてもよい。
【0086】
上記パーフルオロビニルエーテルとしては、例えば、上記一般式(1)において、Rfが炭素数1~10のパーフルオロアルキル基を表すものであるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕が挙げられる。上記パーフルオロアルキル基の炭素数は、好ましくは1~5である。
【0087】
上記PAVEにおけるパーフルオロアルキル基としては、例えば、パーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基等が挙げられるが、パーフルオロアルキル基がパーフルオロプロピル基であるパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)〔PPVE〕が好ましい。
【0088】
上記パーフルオロビニルエーテルとしては、更に、上記一般式(1)において、Rfが炭素数4~9のパーフルオロ(アルコキシアルキル)基であるもの、Rfが下記式:
【0089】
【0090】
(式中、mは、0又は1~4の整数を表す。)で表される基であるもの、Rfが下記式:
【0091】
【0092】
(式中、nは、1~4の整数を表す。)で表される基であるもの等が挙げられる。
【0093】
パーフルオロアルキルエチレンとしては特に限定されず、例えば、(パーフルオロブチル)エチレン(PFBE)、(パーフルオロヘキシル)エチレン、(パーフルオロオクチル)エチレン等が挙げられる。
【0094】
上記変性PTFEにおける変性モノマーとしては、HFP、CTFE、VDF、PPVE、PFBE及びエチレンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。より好ましくは、HFP及びCTFEからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0095】
上記低分子量PTFEは、成形材料、インク、化粧品、塗料、グリース、オフィスオートメーション機器用部材、トナーを改質する添加剤、複写機の有機感光体材料、めっき液への添加剤等として好適に使用することができる。上記成形材料としては、例えば、ポリオキシベンゾイルポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド等のエンジニアリングプラスチックが挙げられる。上記低分子量PTFEは、特に、グリース用粘稠剤として好適である。
【0096】
上記低分子量PTFEは、成形材料の添加剤として、例えば、コピーロールの非粘着性・摺動特性の向上、家具の表層シート、自動車のダッシュボード、家電製品のカバー等のエンジニアリングプラスチック成形品の質感を向上させる用途、軽荷重軸受、歯車、カム、プッシュホンのボタン、映写機、カメラ部品、摺動材等の機械的摩擦を生じる機械部品の滑り性や耐摩耗性を向上させる用途、エンジニアリングプラスチックの加工助剤等として好適に用いることができる。
【0097】
上記低分子量PTFEは、塗料の添加剤として、ニスやペンキの滑り性向上の目的に用いることができる。上記低分子量PTFEは、化粧品の添加剤として、ファンデーション等の化粧品の滑り性向上等の目的に用いることができる。
【0098】
上記低分子量PTFEは、更に、ワックス等の撥油性又は撥水性を向上させる用途や、グリースやトナーの滑り性を向上させる用途にも好適である。
【0099】
上記低分子量PTFEは、二次電池や燃料電池の電極バインダー、電極バインダーの硬度調整剤、電極表面の撥水処理剤等としても使用できる。
【0100】
上記低分子量PTFEと潤滑油とを使用してグリースを調製することもできる。上記グリースは、上記低分子量PTFEと潤滑油とを含有することを特徴とすることから、潤滑油中に上記低分子量PTFEが均一かつ安定に分散しており、耐荷重性、電気絶縁性、低吸湿性等の特性に優れている。
【0101】
上記潤滑油(基油)は、鉱物油であっても、合成油であってもよい。上記潤滑油(基油)としては、例えば、パラフィン系やナフテン系の鉱物油、合成炭化水素油、エステル油、フッ素オイル、シリコーンオイルのような合成油等が挙げられる。耐熱性の観点からはフッ素オイルが好ましく、上記フッ素オイルとしては、パーフルオロポリエーテルオイル、三フッ化塩化エチレンの低重合物等が挙げられる。三フッ化塩化エチレンの低重合物は、重量平均分子量が500~1200であってよい。
【0102】
上記グリースは、更に、増稠剤を含むものであってもよい。上記増稠剤としては、金属石けん、複合金属石けん、ベントナイト、フタロシアニン、シリカゲル、ウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ウレタン化合物、イミド化合物等が挙げられる。上記金属石けんとしては、例えばナトリウム石けん、カルシウム石けん、アルミニウム石けん、リチウム石けん等が挙げられる。また上記ウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物及びウレタン化合物としては、例えばジウレア化合物、トリウレア化合物、テトラウレア化合物、その他のポリウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ジウレタン化合物又はこれらの混合物等が挙げられる。
【0103】
上記グリースは、上記低分子量PTFEを0.1~60質量%含むことが好ましく、0.5質量%以上含むことがより好ましく、5質量%以上含むことが更に好ましく、50質量%以下含むことがより好ましい。上記低分子量PTFEの量が多すぎると、グリースが硬くなりすぎて、充分な潤滑性を発揮できないおそれがあり、上記低分子量PTFEの量が少なすぎると、シール性が発揮できないおそれがある。
【0104】
上記グリースは、固体潤滑剤、極圧剤、酸化防止剤、油性剤、さび止め剤、粘度指数向上剤、清浄分散剤等を含むこともできる。
【0105】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【実施例0106】
次に実施例を挙げて本開示を更に詳しく説明するが、本開示はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0107】
各種物性は下記方法にて測定した。
【0108】
(溶融粘度)
サンプリングした低分子量PTFE粉末試料について、ASTM D 1238に準拠し、フローテスター(島津製作所社製)及び2φ-8Lのダイを用い、予め380℃で5分間加熱しておいた2gの試料を0.7MPaの荷重にて上記温度に保って測定した。
【0109】
(吸収線量率)
上述した化学線量計を用いる方法により実測した。
【0110】
(線量率比)
複数のサンプリング箇所で取得した吸収線量率の最大値及び最小値の比として求める。
【0111】
表中の「総合判定」欄は、以下の基準により記載した。
〇:全てのサンプリング箇所でPTFE溶融粘度の1.0×104Pa・s以上、1.0×105Pa・s以下の範囲に収まっている
×:上記以外
【0112】
実施例1
高分子量PTFEファインパウダー(1)(ASTM D 4895に準拠し、測定した標準比重2.171、ホモ体)8.0kgを重量天秤で秤量して、50Lアルミ製の気密袋(内袋ポリエチレン、コック付き)に入れ、密封した。当該気密袋を、大きさΦ300mm×350mmHのファイバードラム(材質:ボール紙)に入れ、蓋をした。ファイバードラムをガンマ線の線源に対して平行になるように置いた。照射温度は30℃であった。1.5h照射を行ったところで一旦照射を停止し、ファイバードラムを90°回転させた。再度照射を開始し、さらに1.5h照射を行ったところで再度照射を停止した。ファイバードラムをさらに90°回転させた。これを繰り返すことで4面に対して1.5hずつ計6h照射を行い、低分子量PTFE粉末を得た。当該気密袋を開封し、ペンシル形粉体試料採取器(筒井理化学器械株式会社製)を用いて、3箇所からサンプリングを行った。上側から見た線源と照射対象との位置関係及びサンプリング箇所を
図5に示す。得られた低分子量PTFEの溶融粘度を測定した。結果を表1に示す。全てのサンプリング箇所において、溶融粘度が1.0×10
4Pa・s以上、1.0×10
5Pa・s以下の範囲に収まっており、低分子量PTFEの分子量のバラツキを小さくできていることが分かる。
【0113】
実施例2
比較として、3h照射を行ったところで一旦照射を停止し、ファイバードラムを180°回転させた。再度照射を開始し、3h照射を行ったところで照射を終了し、計6h照射を行った。それ以外は、実施例1と同様の操作を行った。結果を表1に示す。全てのサンプリング箇所において、溶融粘度が1.0×104Pa・s以上、1.0×105Pa・s以下の範囲に収まっており、低分子量PTFEの分子量のバラツキを小さくできていることが分かる。
【0114】
比較例1
比較として、途中でファイバードラムを回転させずに6h照射を行った。それ以外は、実施例1と同様の操作を行った。結果を表1に示す。サンプリング箇所A及びBにおいては、溶融粘度が1.0×104Pa・s以上、1.0×105Pa・s以下の範囲に収まっているが、サンプリング箇所Cでは、上記の範囲から逸脱しており、低分子量PTFEの分子量のバラツキが大きくなっていることが分かる。
【0115】