IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 山陽特殊製鋼株式会社の特許一覧

特開2024-165108高硬度、高導電率を有する積層造形用Cu合金粉末及びこれを用いた積層造形体
<>
  • 特開-高硬度、高導電率を有する積層造形用Cu合金粉末及びこれを用いた積層造形体 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165108
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】高硬度、高導電率を有する積層造形用Cu合金粉末及びこれを用いた積層造形体
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/06 20060101AFI20241121BHJP
   C22C 9/10 20060101ALI20241121BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20241121BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20241121BHJP
   C22F 1/08 20060101ALN20241121BHJP
   B22F 10/38 20210101ALN20241121BHJP
   B22F 10/64 20210101ALN20241121BHJP
   B22F 10/28 20210101ALN20241121BHJP
   B22F 10/34 20210101ALN20241121BHJP
【FI】
C22C9/06
C22C9/10
B22F1/00 L
C22F1/00 602
C22F1/00 621
C22F1/00 628
C22F1/00 630C
C22F1/00 650F
C22F1/00 661A
C22F1/00 681
C22F1/00 687
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 691Z
C22F1/08 P
B22F10/38
B22F10/64
B22F10/28
B22F10/34
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080984
(22)【出願日】2023-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 知理
(74)【代理人】
【識別番号】100185258
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 宏理
(72)【発明者】
【氏名】澤田 俊之
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA04
4K018BA20
4K018BB03
4K018BB04
4K018BB10
4K018FA08
4K018KA33
4K018KA63
4K018KA70
(57)【要約】
【課題】高い相対密度に造形可能で、高硬度、高導電率、高熱伝導率を有する積層造形用Cu合金粉末およびこれを用いた造形体を提供する。
【解決手段】質量%で、Ni:1.20~7.30%、Si:0.25~1.80%、Mg:0.40%以下、Zr、Cr、Nb、Mn、Fe、Zn、Snのいずれか1種または2種以上の合計:0.00~2.00%、C:0.000~0.020%、P:0.000~0.020%、S:0.000~0.020%を含み、残部Cuおよび不可避的不純物からなり、かつ、上記成分において、Ni/Si:3.00~6.00であってNi+Si:1.50~9.00%である、積層造形用Cu合金粉末。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
Ni:1.20~7.30%、
Si:0.25~1.80%、
Mg:0.40%以下、
Zr、Cr、Nb、Mn、Fe、Zn、Snのいずれか1種または2種以上の合計:0.00~2.00%、
C:0.000~0.020%、
P:0.000~0.020%、
S:0.000~0.020%を含み、
残部Cuおよび不可避的不純物からなり、
かつ、上記成分において、
Ni/Si:3.00~6.00であって
Ni+Si:1.50~9.00%である、
積層造形用Cu合金粉末。
【請求項2】
請求項1に記載の成分に加えて、
さらに質量%でAg:5.00%以下を含み、残部Cuおよび不可避的不純物からなり、成分中のNi/Si:3.00~6.00であって、Ni+Si:1.50~9.00%である、積層造形用Cu合金粉末。
【請求項3】
請求項1または2に記載の積層造形用Cu合金粉末を用いて積層造形された造形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高硬度を有するとともに、優れた造形性、高導電率を示す積層造形用Cu合金粉末およびその造形体に関する。
【背景技術】
【0002】
Cu合金は導電率や熱伝導率が高いことから、各種のコイル、ヒートシンク、電気接点、金型などに用いられている。近時は、複雑な形状に対応するために、積層造形法(3Dプリンタ、三次元造形法、Additive Manufacturing、付加製造法などとも呼ばれる)による製造の試行、検討がなされつつある。
【0003】
一般に、ウィーデマン・フランツの法則(金属の熱伝導率κと導電率δとの比は、金属の種類によらず、一定温度Tで一定の値をもつ)から、金属の熱伝導率は導電率と相関しているので、ここでは、両物性に関する事項を導電率のみを用いて説明する。
【0004】
さて、Cu粉末を積層造形法により造形しようとする場合には、Cu粉末は、積層造形法の熱源として多く用いられるレーザービームを反射してしまう。そこで、積層造形にCu粉末を用いようにも、Cu粉末の温度を十分に上げ、溶融させ、残留ポアの無い高い相対密度の造形体を得ることは困難であった。
【0005】
そこで、Niをはじめとする各種の添加元素を添加することでCu合金粉末のレーザー反射率を下げ(もしくはレーザー吸収率を上げ)、溶融しやすくすることで、高い相対密度のCu合金積層造形体を得ることが試みられている(特許文献1、2、3参照。)
【0006】
もっとも、過度なNiの添加は造形体の導電率を下げることとなるので、本来Cuが有している優れた物性が損なわれることとなる。
【0007】
加えて、近年は、応力負荷状態や他の部材と接触する環境で使用されるCu合金製品向けにも積層造形法の適用が検討され始めている。これらの使用環境に耐えるためには、Cu合金積層造形体にも硬さが求められることとなる。もっとも、必要とされるCu合金積層造形体の硬さにNiが及ぼす影響についてはこれまでに詳細に検討されておらず十分に顧慮されてこなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2021-17639号公報
【特許文献2】特開2022-188809号公報
【特許文献3】国際公開第2018/199110号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のCu合金粉末を積層造形に用いるときには、優れた造形性(高い相対密度に造形できる性能)、高硬度を有するとともに高導電率を兼ね備えたCu合金造形体やその原料粉末は見当たらない状況であった。そこで、本発明は硬度、造形性や相対密度、導電率をいずれも高いレベルで兼備しうる積層造形用Cu合金粉末およびその造形体を提供することを目的とする。
【0010】
もっとも、レーザーの反射に対応して造形性を改善するべくNiの添加量を増加させようとすると、導電率を顕著に低下させてしまうので、造形性と導電率を高いレベルで兼備することは困難であり、容易ではない。
【0011】
また、溶製材において、NiはCuへの易固溶元素であることから、Niが硬さに及ぼす主な影響として固溶強化に着目して検討を進めたとしても、CuとNiの原子半径に大きな差異がないために、固溶強化によって顕著な硬さ上昇を得られることは期待しづらいであろうと推測されるので、一般的な固溶強化の発想から解決手段を導きだすことは困難である。
【0012】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、高い相対密度に造形可能な造形性に優れ、高硬度、高導電率、高熱伝導率を有する積層造形用Cu合金粉末およびこれを用いた造形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以上のように、Niに単に着目してNi量を増やせば導電率が低下するし、固溶強化では硬さの上昇は得づらい。そこで、本発明者は鋭意検討した結果、Ni添加したCuにおいて、造形体の硬さ、造形性、導電率をバランスよく兼備できる組成として、Niに加えて第三成分としてSiを所定量添加し、Ni/Siの質量比を所定範囲に規定することで、高い硬さ、優れた造形性、高い導電率を兼ね備えることを見出した。
【0014】
このようなCuへのNi、Siの同時添加が積層造形法、積層造形体に及ぼす影響について詳細に検討された文献はなく、本発明によってはじめて明らかとなった新規知見である。とりわけ、積層造形法は急冷凝固をともなう製法であり、積層造形体の結晶粒径、構成相、析出物の生成挙動など、導電率や硬さに影響する因子が溶製法とは大きく異なると考えられ、熱処理挙動なども異なると考えられる。さらに、造形性については積層造形法ならではの要求項目である。これらを総合的に検討することで本発明に到達した。
【0015】
すなわち、本発明の課題を解決する第1の手段は、
質量%で、
Ni:1.20~7.30%、
Si:0.25~1.80%、
Mg:0.40%以下、
Zr、Cr、Nb、Mn、Fe、Zn、Snのいずれか1種または2種以上の合計:0.00~2.00%、
C:0.000~0.020%、
P:0.000~0.020%、
S:0.000~0.020%を含み、
残部Cuおよび不可避的不純物からなり、
かつ、上記成分において、
Ni/Si:3.00~6.00であって
Ni+Si:1.50~9.00%である、
積層造形用Cu合金粉末である。
【0016】
その第2の手段は、第1の手段に記載の成分に加えて、さらに質量%でAg:5.00%以下を含み、残部Cuおよび不可避的不純物からなり、成分中のNi/Si:3.00~6.00であって、Ni+Si:1.50~9.00%である、積層造形用Cu合金粉末である。
ただし、第2の手段のAgは0%を除く。
【0017】
その第3の手段は、第1または第2に記載の手段の積層造形用Cu合金粉末を用いて積層造形された造形体である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の積層造形用Cu合金粉末を用いて積層造形すると、高い相対密度に造形可能で、高硬度、高導電率、高熱伝導率を有する積層造形用Cu合金粉末およびこれを用いた造形体を得ることができる。
【0019】
NiとSiの質量比であるNi/Siを所定範囲に規定することを見出したことにより、造形体を時効処理すると、所定のNiとSiの比率を有する金属間化合物が析出することから、固溶強化よりも一般的に強化効果が高いとされる析出強化を利用することができる。さらにSiが易固溶元素であるNiの金属間化合物としての析出(Cuマトリックスからの排出)を促すことで、高い導電率も得られる。
【0020】
そして、Ni/Si比を所定範囲とすることで、過度にNiリッチ、Siリッチになることを避けることができるので、上記の金属間化合物析出後のCuマトリックスに、Ni、Siとも過度な濃度で残留させることがなく、高い導電率が得られる。
【0021】
また、Mg、Zr、Cr、Nb、Mn、Fe、Zn、Snを低く抑えること、C、P、Sの不純物を低減することで高い導電率を得ることができる。
【0022】
さらにAgを添加すると、優れた造形性を維持しながら、硬さと導電率のバランスをさらに改善させることができる。本発明合金においてAgは、上記の金属間化合物の析出や、Zr、Crなどの元素を含む場合は、これら元素のCuマトリックスからの排出を、さらに促進するためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は縦軸に導電率(%IACS)、横軸にビッカース硬さ(Hv)とするグラフであり、実施例1~29を○で、比較例1~9を×でプロットして示している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明を実施うるための形態の説明に先立って、本発明のCu合金粉末に添加する各成分を規定した理由と、Ni/Siの比率及びNi+Siを規定する理由について説明する。なお、成分中の%は質量%のことである。なお、残部成分はCuと不可避的不純物である。
【0025】
Ni:1.20~7.30%
NiはSiとともに金属間化合物を析出し高硬度化するための必須元素であり、造形性改善の効果もある。しかしながら、過度に添加すると導電率を顕著に低下させてしまう。1.20%未満では効果がなく、7.30%を超えて添加すると導電率が顕著に低下する。そこで、Niは1.20~7.30%とする。好ましくはNiは2.25~6.00%、より好ましくは3.30~4.70%である。
【0026】
Si:0.25~1.80%
SiはNiとともに金属間化合物を析出し高硬度化するための必須元素であり、造形性改善の効果もある。しかしながら、過度に添加すると導電率を顕著に低下させてしまう。0.25%未満では効果がなく、1.80%を超えて添加すると導電率が顕著に低下する。そこで、Siは0.25~1.80%とする。好ましくはSiは0.55~1.45%、より好ましくは0.80~1.15%である。
【0027】
Mg:0.40%以下
Mgは易酸化元素であり、造形中に酸素と反応してガスを発生するなど、残留ポアの要因となる成分であり、また導電率を低下させる元素でもある。Mgが0.40%以下であればその影響は軽微である。他方、Mgが0.40%超えて含有されているとこれらの悪影響が大きくなる。そこで、Mgは0~0.40%とする。好ましくはMgは0.10%以下、より好ましくは0.02%以下である。
【0028】
Zr、Cr、Nb、Mn、Fe、Zn、Snの合計:0.00~2.00%
Zr、Cr、Nb、Mn、Fe、Zn、Snを1種または2種以上含有する場合、その合計量は質量%で2%以下とする。これらの元素には造形性や硬さを改善する効果もあるが、本発明の必須元素であるNiとSiを所定の比率で添加した場合と比較すると、Zr、Cr、Nb、Mn、Fe、Zn、Snの含有により高硬度と高導電率のバランスが低下する。なぜなら、これらの元素はいずれもCuマトリックスに固溶することで高硬度と高導電率のバランスを低下させるためである。この観点からは、Zr、Cr、Nb、Mn、Fe、Zn、Snを含有する場合にはその合計量として扱うことができる。そして、これら成分の合計量が2.00%を超えて含有されることになると悪影響が顕著となってくる。他方、Zr、Cr、Nb、Mn、Fe、Zn、Snの合計量が2.00%以下であれば、高硬度と高導電率のバランスへの影響は軽微である。そこで、Zr、Cr、Nb、Mn、Fe、Zn、Snの合計量は0.00~2.00%とする。より好ましくはZr、Cr、Nb、Mn、Fe、Zn、Snの合計量は0.90%以下、さらに好ましくはこれら成分の合計量は0.05%以下である。
【0029】
C、P、S:それぞれ0.000~0.020%
C、P、Sはいずれも導電率の低下を招く成分であることから、上限を厳しく制限することが望ましい。いずれの成分も0.020%以下の含有であれば影響は軽微であるが、0.020%を超えると悪影響が顕著となる。そこで、C、P、Sはいずれも0.000~0.020%とする。好ましくはC、P、Sはいずれも0.014%以下であり、さらにより好ましくは0.009%以下である。
【0030】
Ni/Si:3.00~6.00
Ni/Si比は本発明で最も重要な指標の1つである。高い造形性を維持しながら、高硬度と高導電率のバランスを兼備させるための指標である。NiとSiの質量比が3.00未満もしくは6.00超の場合には、いずれも積層造形物の高硬度と高導電率のバランスが低下する。そこで、Ni/Siの比率は3.00~6.00とする。好ましくはNi/Siは3.55~4.95であり、さらに好ましくは3.85~4.30である。
【0031】
Ni+Si:1.50~9.00%
NiおよびSiは上述のとおり本発明における重要な必須元素であり、その合計量が1.50%未満では高硬度が得られず、9.00%を超えると導電率が低下する。そこで、Ni+Siはその合計量が1.50~9.00%とする。好ましくはNi+Siは2.70~7.05%であり、より好ましくは3.90~5.10%である。
【0032】
Ag:5.00%以下
Agは上記のNi/Si比、Ni、Siの範囲でNiおよびSiを含む場合に添加すると、高硬度と高導電率のバランスがより一層高くなる。さらに、Zr、Crの1種または2種以上を含む場合により効果が高い。ただし、過度に添加するとその効果が認められなくなる。5.00%を超えて添加すると、高硬度と高導電率のバランスを改善する効果が認められなくなるとともに、高価なAgによる材料価格のみ増加してしまう。そこで、第2の手段に記載のようにAgを添加する場合は、5%以下の添加とする。好ましくはAggは0.01~2.90%、より好ましくは0.03~0.90%である。
【0033】
[O、Nについて]
本発明における粉末は合金であるから、酸素、窒素のガス成分を不可避的に含有する。そして、一般的に粉末の表面と内部ではこれらガス成分の含有量に差があり、粉末重量当たりのガス成分の含有量は総表面積(すなわち粒径)に依存する。そこで、積層造形体中の酸素や窒素による残留ポアや非金属介在物の観点からすると、粉末に含有される酸素量はO:1000ppm以下であることが好ましく、さらに500ppm以下であることがより好ましい。また窒素量はN:300ppm以下であることが好ましく、さらに150ppm以下であることがより好ましい。
【0034】
[粉末の平均粒径]
本発明における粉末は積層造形法に好適に用いることができる。積層造形法には様々な方式があるが、原料として粉末を使う場合、概ね平均粒径(体積平均)が10~200μmの粉末が使用される。好ましくは、レーザー式パウダーベッド方式の場合は平均粒径が15~40μm、電子ビーム式パウダーベッド方式の場合は平均粒径が50~100μm、デポジション方式の場合は平均粒径が55~105μmである。より好ましくは、レーザー式パウダーベッド方式の場合は平均粒径が20~35μm、電子ビーム式パウダーベッド方式の場合は平均粒径が65~85μm、デポジション方式の場合は平均粒径が70~90μmである。
【0035】
[粉末の流動度、タップ密度、平均円形度]
本発明における粉末は積層造形法に好適に用いることができる。パウダーベッド方式におけるスキージ(粉末を一定厚で敷き詰めるための板)による粉末床の均一性や、デポジション方式のフィーダーを通した粉末供給における安定性の観点からすると、粉末の流動度は30s/50gが好ましく、20s/50gがさらに好ましい。また同じ観点から、粉末のタップ密度は真密度に対して50~80%が好ましく、60~78%がさらに好ましい。さらに同じ観点から、粉末の平均円形度は0.70以上が好ましく、0.75以上がさらに好ましい。
【0036】
ここで、流動度はホールフロー法、タップ密度は容器内で粉末をタッピングして重量と嵩を測る方法、真密度はガス置換法、平均円形度はモフォロギ4(マルバーン社製)などで測定できる。
【0037】
[熱処理温度]
本発明における積層造形体は、熱処理により金属間化合物を析出し、硬さ、導電率が上昇する。熱処理温度の下限は400℃とすることができる。好ましくは熱処理温度の下限は600℃、より好ましくは650℃、さらに好ましくは700℃である。また、好ましい熱処理温度の上限は900℃、より好ましくは850℃である。
【0038】
[実施例]
表1の実施例1~29及び比較例1~9に示す成分組成及びNi/Si比のCu合金粉末を作製し、これらのCu合金粉末を用いて積層造形により造形体を得た。なお、表1に記載の粉末はCu合金粉末であるから、表に記載の成分の残部はCu及び不可避的不純物である。なお、もちろん表1の実施例は本発明における実施形態の一例であるから、これらにより特許範囲が制限されるものではないことを付言する。
【0039】
[原料粉末の製造]
ガスアトマイズ法により表1に記載の各粉末を得た。粉末の原材料を真空もしくはアルゴン雰囲気にて、アルミナ坩堝中に装入した溶解原料を高周波加熱により溶解した。次いでこの合金溶湯を、坩堝底の直径5mmのノズルから出湯し、直後に高圧アルゴンガスで噴霧した。この噴霧により合金溶湯は微細な液滴に分断され、アトマイズ装置のタワー内を落下しながら冷却、凝固し、合金粉末となる。この合金粉末を目開き63μmの網で振るい、その振るい下の粉末を、以降の積層造形における原料粉末とした。
【0040】
なお、全ての粉末において、酸素量O:1000ppm以下、窒素量N:300ppm以下、平均粒径(体積平均)は15~40μm、流動度は30s/50g以下、真密度に対するタップ密度の割合は50~80%、平均円形度は0.70以上の範囲であった。
【0041】
【表1】
【0042】
[積層造形および熱処理]
これらのCu合金粉末を用いて積層造形法により造形体を作成した。具体的な積層造形は、レーザー加熱のパウダーベッド方式の装置(商品名:EOS-M290)を用いて、エネルギー密度200J/mm3で実施した。
【0043】
造形母材となるプレートは純Cuとし、12×12×12mm(密度、硬さ)、10×10×70mm(導電率)の造形体を作製した。これらの造形体をワイヤーカットでプレートから切り離し、表1の温度と時間で熱処理を行い、各種評価を実施した。結果を表2に示す。
【0044】
なお、実施例における熱処理はAr雰囲気中で行い、所定温度で所定時間保持した後、炉冷した。また、一部の試験片については熱処理温度を変化させ、本合金における造形体の硬さと導電率のバランスにおける熱処理条件の影響も評価した。
【0045】
【表2】
【0046】
[造形体の相対密度の評価]
造形体の密度をアルキメデス法により測定した。試験片の重量を空中および水中で測定し、その差異から造形体の体積を導出し、これで空中重量を割って密度を算出する方法である。また、使用した原料粉末の密度をガス置換法により測定した。この方法は、所定の体積を有する容器に粉末を入れ、これに一定量のガスを導入し、そのガス圧から粉末の体積を導出し、これで粉末の重量を割って密度を算出する方法である。粉末の密度をその合金の真密度とし、「造形体の密度/粉末の密度×100(%)」を造形体の相対密度として評価した。
【0047】
[造形体の硬さの評価]
造形体の硬さは、ビッカース硬さ計を用いて評価した。試験力は2.94Nで測定し、n=5の平均値を評価した。
【0048】
[造形体の導電率の評価]
造形体の導電率を確認するために、4端子法により固有抵抗値を測定した(JIS C 2525)。固有抵抗値の逆数を導電率とし、純Cuの値(5.9×107(S/m)を100%IACSとして、各試料の導電率(%IACS)を評価した。試験片サイズは3×2×60mmに機械加工したものを使用し、室温、電流4A、電圧降下間距離40mmで測定した。
【0049】
また、表2の結果を図1に、縦軸に導電率(%IACS)、横軸にビッカース硬さ(Hv)とするグラフで示す。図1のグラフには、実施例を○でプロットして示している。また、比較例を×でプロットして示している。比較例の群と比して、実施例の一群は、全体として硬さと導電率のバランスに優れるものとなることがわかる。
さらに、Agを添加した実施例21,22,23は、図1の右上にシフトしており、硬さと導電率のバランスがさらに優れている。また、Cu-Niの二元系の比較例7,8,9は、導電率は高いものの硬さが極端に低く、図1上からも硬さと導電性の双方の特性が両立できておらずアンバランスであることが看取できる。
【0050】
以上のとおり、表1に示す実施例1~29の粉末は、いずれも規定の成分とNi/Siの比、Ni+Siの量を満足している粉末であり、これら粉末を用いてパウダーベッド法で積層造形して得られた造形体は、表2に示すように、相対密度が99.0%以上となり造形性に優れていることが確認された。また、図1に示すように、実施例1~29の粉末を用いた造形体は、従前の粉末を用いて積層造形した場合に比して、硬さと導電性の双方を適度にバランスさせており、比較例のプロット位置からすれば、全体として実施例のプロット位置は図1の右上方向にシフトしている。すなわち、実施例は、比較例に比して両特性を従来よりも優れて両立させている。とりわけ、Agを添加している実施例21,22,23は、図1の右上方向にさらにシフトしており、より優れた硬さと導電性を兼ね備えることが確認された。
【0051】
比較例1は、NiとSiが過少であり、Ni+Siも過少であるので、相対密度が悪く造形性に劣るものとなった。
比較例2は、NiとSiが過多であり、Ni+Siも過多であるので、導電率が顕著に低下するものとなった。
比較例3、6はNi/Siが上振れしており、比較例4、5はNi/Siが下振れしており、いずれも硬さと導電率のバランスが実施例に比して劣るものとなった。
比較例7、8、9は、Cu-Niの二元系であり、Siが不純物として微量含有されるのみであるから、Ni/Si比が大きく外れて硬さが極端に低くなっており、硬さと導電率とのバランスが悪く両立できていないものとなった。
図1
【手続補正書】
【提出日】2024-08-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項1
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項1】
質量%で、
Ni:1.20~7.30%、
Si:0.25~1.80%、
Mg:0.40%以下、
ZrNb、Mn、Fe、Zn、Snのいずれか1種または2種以上の合計:0.00~2.00%、
C:0.000~0.020%、
P:0.000~0.020%、
S:0.000~0.020%を含み、
残部Cuおよび不可避的不純物からなり、
かつ、上記成分において、
Ni/Si:3.00~6.00であって
Ni+Si:1.50~9.00%である、
積層造形用Cu合金粉末。