(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165123
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】黒鉛ルツボ及びこれを用いた金属試料の酸素濃度測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 31/12 20060101AFI20241121BHJP
C30B 35/00 20060101ALI20241121BHJP
G01N 1/22 20060101ALI20241121BHJP
G01N 1/44 20060101ALI20241121BHJP
G01N 33/20 20190101ALI20241121BHJP
G01N 31/00 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
G01N31/12 A
C30B35/00
G01N1/22 U
G01N1/44
G01N1/22 R
G01N33/20
G01N31/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081006
(22)【出願日】2023-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 和文
(72)【発明者】
【氏名】石澤 純一
【テーマコード(参考)】
2G042
2G052
2G055
4G077
【Fターム(参考)】
2G042AA01
2G042BA07
2G042CA03
2G042CA04
2G042CB06
2G042DA05
2G042EA20
2G042GA01
2G042HA01
2G052AA11
2G052AA13
2G052AB02
2G052AD12
2G052AD32
2G052AD42
2G052AD52
2G052EB11
2G052FD16
2G052FD18
2G052JA08
2G052JA11
2G055AA07
2G055CA25
2G055CA29
4G077AA02
4G077BA04
4G077EB01
4G077EG03
4G077EG04
4G077FE14
4G077GA01
4G077GA06
4G077GA07
(57)【要約】
【課題】GFA法による金属試料の酸素濃度の測定において二重構造のルツボの外ルツボを繰り返し使用した場合でも酸素濃度の測定誤差の増加を抑制することが可能な黒鉛ルツボを提供する。
【解決手段】本発明による黒鉛ルツボ10は、試料2を収容する内ルツボ11と、内ルツボ11を収容する外ルツボ12とを備える。外ルツボ12内に内ルツボ11を収容した状態における外ルツボ12の上端部12eと内ルツボ11の上端部11eとの高さの差Δh=h
2-h
1は1.1mm以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
GFA法による金属試料の酸素濃度の測定に用いられる黒鉛ルツボであって、
前記金属試料を収容する内ルツボと、
前記内ルツボを収容する外ルツボとを備え、
前記外ルツボ内に前記内ルツボが収容された状態における前記外ルツボの上端部と前記内ルツボの上端部との高さの差が1.1mm以下であることを特徴とする黒鉛ルツボ。
【請求項2】
前記高さの差が0~0.6mmである、請求項1に記載の黒鉛ルツボ。
【請求項3】
GFA法による金属試料の酸素濃度測定方法であって、
黒鉛ルツボ内に収容した金属試料を融点未満の温度で加熱して表面酸化膜を除去する前処理工程と、
前記表面酸化膜が除去された前記金属試料を融点以上の温度で加熱して前記金属試料中の酸素に由来するCOガスを発生させ、IR検出器を用いて前記COガスを定量分析する本分析工程とを備え、
前記黒鉛ルツボは、
前記金属試料を収容する内ルツボと、
前記内ルツボを収容する外ルツボとを備え、
前記外ルツボ内に前記内ルツボを収容した状態における前記外ルツボの上端部と前記内ルツボの上端部との高さの差が1.1mm以下であることを特徴とする金属試料の酸素濃度測定方法。
【請求項4】
前記内ルツボは新たな試料の測定の度に交換され、
前記外ルツボは前記新たな試料の測定の度に交換されず所定の使用回数まで繰り返し使用される、請求項3に記載の金属試料の酸素濃度測定方法。
【請求項5】
前記所定の使用回数が50回以上100回以下である、請求項4に記載の金属試料の酸素濃度測定方法。
【請求項6】
前記金属試料がシリコンウェーハから切り出されたシリコン片である、請求項4に記載の金属試料の酸素濃度測定方法。
【請求項7】
前記シリコン片が、p型ドーパントがドープされた比抵抗が0.2Ω・cm以下のシリコン単結晶又はn型ドーパントがドープされた比抵抗が0.1Ω・cm以下のシリコン単結晶からなる、請求項6に記載の金属試料の酸素濃度測定方法。
【請求項8】
前記外ルツボの上端部及び下端部には上部電極及び下部電極がそれぞれ接続され、
前記上部電極及び前記下部電極を介して前記黒鉛ルツボに高周波電力が供給されることにより前記黒鉛ルツボが加熱され、
前記上部電極は前記内ルツボに接触していない、請求項3に記載の金属試料の酸素濃度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒鉛ルツボ及びこれを用いた金属試料の酸素濃度測定方法に関し、特に、GFA(Gas Fusion Analyzer)によるシリコン試料の酸素濃度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン結晶中の酸素濃度の評価方法としては、FT-IR(Fourier Transform Infrared spectroscopy analysis:フーリエ変換赤外分光分析法)が広く用いられており、ASTM(American Society for Testing and Materials:米国材料試験協会)で標準化されている。この方法は、ウェーハに赤外光を透過させたときのシリコン結晶中の格子間酸素による吸収量を測定するもので、その吸収量から結晶中の酸素を定量化するという原理に基づくものである。光吸収量は、シリコン結晶中の格子間酸素濃度に非常に敏感なため、高感度・高信頼性の評価が可能である。
【0003】
しかしながら、赤外光をある程度透過する試料でなければFT-IRによる評価自体が不可能である。例えばエピタキシャルウェーハの基板材料として好ましく用いられる、ボロンが高濃度にドープされた低抵抗率(例えば20mΩ・cm以下、特に10mΩ・cm以下)のシリコン単結晶や、ディスクリートデバイス向けの基板材料として好ましく用いられる、リン、砒素、アンチモンが高濃度にドープされた低抵抗率のシリコン単結晶の場合、試料中に大量に含まれる自由電子によって光が吸収され、赤外光を全く通さないため、FT-IRを適用できないという問題がある。
【0004】
FT-IRでは評価が困難なシリコン結晶中の酸素濃度を評価する方法として、GFAが注目されている。GFAは、試料を高温で融解することで試料中に含まれる酸素をCOとしてガス化し、そのガスを化学的に分析して元の試料に含まれていた酸素を定量化するという原理に基づくものである。GFA法は試料の融解を必要とする完全な破壊法であるが、測定装置が比較的安価であり、測定にあまり熟練を要せず短時間で評価が行なえる利点がある。
【0005】
GFAによる試料の酸素濃度分析方法に関し、特許文献1~3には、黒鉛ルツボ内の試料を融点より低い温度で予備加熱して表面に付着した酸素等を取り除いた後、融点以上の温度で加熱して試料の本分析を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-188107号公報
【特許文献2】特開2004-053577号公報
【特許文献3】特開2004-219364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
試料の高温で融解する際に用いる黒鉛ルツボに電極を接続して抵抗加熱方式により黒鉛ルツボを直接発熱させると、電極の接続位置に応力が加わり、黒鉛ルツボが割れて溶融した試料が流出するおそれがある。このような事故を防止する方法として二重構造の黒鉛ルツボを用いる方法がある。二重ルツボを用いた場合、電極が接続された外ルツボが割れた場合でも、溶融物は内ルツボ内に留まるので、溶融物の流出を防止できる。また新たな試料の測定時には内ルツボのみを交換して外ルツボを再利用することができ、黒鉛ルツボの交換にかかるコストを低減することができる。
【0008】
しかしながら、二重構造のルツボを使用してGFA法によるシリコン試料の酸素濃度の測定を行う場合、試料の測定回数の増加に連れて試料の酸素濃度の測定誤差が増加するという問題がある。
【0009】
したがって、本発明の目的は、ルツボ内の溶融物の流出を防止すると共に、試料の測定回数の増加により生じる酸素濃度の測定誤差の増加を抑制することが可能な黒鉛ルツボ及びこれを用いた金属試料の酸素濃度測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者が鋭意研究を重ねた結果、酸素濃度の測定誤差の増加の原因は、二重構造の黒鉛ルツボの外ルツボを繰り返し使用することでその上端部が徐々に変質して抵抗率が増加することにあり、抵抗率の増加を抑えることで上記課題を解決できることを見出した。黒鉛ルツボの抵抗率が高くなると、試料の前処理工程で黒鉛ルツボが異常発熱して試料の意図しない溶解が発生し、これにより本分析で試料から供給される酸素の量が減少する。黒鉛ルツボの異常発熱を抑えることができれば、前処理工程で試料中の酸素が蒸発しないので、本分析で試料中の酸素濃度を正確に測定することが可能である。
【0011】
本発明はこのような技術的知見に基づくものであり、本発明による黒鉛ルツボは、GFA法による金属試料の酸素濃度の測定に用いられる黒鉛ルツボであって、前記金属試料を収容する内ルツボと、前記内ルツボを収容する外ルツボとを備え、前記外ルツボ内に前記内ルツボが収容された状態における前記外ルツボの上端部と前記内ルツボの上端部との高さの差(前記ルツボの上端部の前記内ルツボの上端部からの突出量)が1.1mm以下であることを特徴とする。
【0012】
また本発明は、GFA法による金属試料の酸素濃度測定方法であって、黒鉛ルツボ内に収容した金属試料を融点よりも低い温度で加熱して表面酸化膜を除去する前処理工程と、前記表面酸化膜が除去された前記金属試料を融点以上の温度で加熱して前記金属試料中の酸素に由来するCOガスを発生させ、IR(Infrared:赤外線)検出器を用いて前記COガスを定量分析する本分析工程とを備え、前記黒鉛ルツボは、前記金属試料を収容する内ルツボと、前記内ルツボを収容する外ルツボとを備え、前記外ルツボ内に前記内ルツボを収容した状態における前記外ルツボの上端部と前記内ルツボの上端部との高さの差が1.1mm以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、二重構造のルツボの外ルツボを繰り返し使用した場合でも前処理時に前記外ルツボの異常発熱が発生することを抑制できる。したがって、本分析での試料の酸素濃度の測定誤差の増加を抑制することができる。
【0014】
本発明において、前記高さの差は0~0.6mmであることが好ましい。これにより、前処理時に前記外ルツボの異常発熱が発生する確率をさらに低減することができる。
【0015】
本発明において、前記内ルツボは新たな試料の測定の度に交換され、前記外ルツボは前記新たな試料の測定の度に交換されず所定の測定回数まで繰り返し使用されることが好ましい。この場合において、前記所定の測定回数は50回以上100回以下であることが好ましい。これにより、ルツボの割れによる溶融物の流出を防止すると共に、試料の測定回数の増加により生じる酸素濃度の測定誤差の増加を抑制することができる。
【0016】
本発明において、前記金属試料はシリコンウェーハから切り出されたシリコン片であることが好ましく、p型ドーパントがドープされた比抵抗が0.2Ω・cm以下のシリコン単結晶又はn型ドーパントがドープされた比抵抗が0.1Ω・cm以下のシリコン単結晶からなることが好ましい。本発明によれば、FT-IRによる評価が困難な、ドーパントが高濃度にドープされた低抵抗率のシリコンウェーハの酸素濃度を測定することができる。
【0017】
本発明において、前記外ルツボの上端部及び下端部には上部電極及び下部電極がそれぞれ接続され、前記上部電極及び前記下部電極を介して前記黒鉛ルツボに高周波電力を印加することにより前記黒鉛ルツボを発熱させ、前記上部電極は前記内ルツボに接触していないことが好ましい。これにより、黒鉛ルツボを直接発熱させて内容物を加熱することができ、また内ルツボの割れによる溶融物の流出を防止することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ルツボ内の溶融物の流出を防止すると共に、試料の測定回数の増加により生じる酸素濃度の測定誤差の増加を抑制することが可能な黒鉛ルツボ及びこれを用いた金属試料の酸素濃度測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態による黒鉛ルツボの構成を示す略断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示した黒鉛ルツボの略分解図であって、外ルツボから内ルツボを取り出した状態を示す図である。
【
図3】
図3は、上記黒鉛ルツボを用いたGFA法によるシリコン試料の酸素濃度の測定方法の説明図である。
【
図4】
図4は、比較例及び実施例による黒鉛ルツボを使用結果であって、外ルツボの使用回数と前処理工程における黒鉛ルツボの消費電力との相関式を示すグラフである。
【
図5】
図5は、外ルツボと内ルツボとの高さの差が0.6mm、1.1mm及び1.2mmである黒鉛ルツボを使用したときの、外ルツボの使用回数と前処理工程における黒鉛ルツボの消費電力との相関式を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の実施の形態による黒鉛ルツボの構成を示す略断面図である。また
図2は、
図1に示す黒鉛ルツボの略分解図であって、外ルツボから内ルツボを取り出した状態を示す図である。
【0022】
図1に示すように、黒鉛ルツボ10はいわゆる二重ルツボであって、試料を収容する内ルツボ11と、内ルツボ11を収容する外ルツボ12とで構成されている。
図2に示すように、内ルツボ11は外ルツボ12から取り出し可能であり、新たな試料の測定の度に新品に交換される。一方、外ルツボ12は新たな試料の測定の度に交換されず、所定の使用回数(例えば50~100回)まで繰り返し使用される。
【0023】
GFA法において二重構造のルツボを使用する理由は、ルツボが割れたときに溶融物が漏れ出す事故を防止するためである。抵抗加熱方式により黒鉛ルツボを直接発熱させる場合、熱膨張係数の違いから黒鉛ルツボの電極接続位置にひび割れが発生しやすく、ルツボ内の溶融物が漏れ出すおそれがある。しかし、二重ルツボの場合、外ルツボ12が割れたとしても溶融物は内ルツボ11内に収容されているので、溶融物の漏れ出しを防止することができる。
【0024】
内ルツボ11は、円筒状の直胴部11aと、直胴部11aの下方に設けられた底部11bとを有している。本実施形態において、底部11bの外側の底面は平坦であるが、内ルツボ11の内側の底面は丸みを帯びている。
【0025】
外ルツボ12は、円筒状の直胴部12aと、直胴部12aの下方に設けられた底部12bとを有している。内ルツボ11を収容可能にするため、外ルツボ12の直胴部12aの内径R2は、内ルツボ11の直胴部11aの外径R1よりもわずかに大きい。また外ルツボ12の内側の底面は丸みを帯びているが、外ルツボ12の内側のコーナー部には段差12cが設けられており、外ルツボ12内の内ルツボ11は、外ルツボ12の内側コーナー部の段差12cによって支持される。
【0026】
内ルツボ11が外ルツボ12内に収容された状態(
図1参照)において、外ルツボ12の上端部12eは内ルツボ11の上端部11eよりも上方に位置するが、外ルツボ12の上端部12eの高さh
2と内ルツボ11の上端部11eとの高さh
1の差Δh=h
2-h
1は1.1mm以下(Δh≦1.1mm)であり、好ましくは0~0.6mm(0mm≦Δh≦0.6mm)である。外ルツボ12の上端部12eの高さh
2が内ルツボ11の上端部11eから見て高すぎると、外ルツボ12の内周面の露出面積が大きくなり、外ルツボ12の再利用回数の増加と共に外ルツボ12の上端部12eへのシリコン(Si)の含侵が進み、当該上端部12eの抵抗率が高くなる。これにより、黒鉛ルツボ10の上端部での異常発熱が発生しやすくなり、前処理工程でもシリコン試料の意図しない溶解が発生する。しかし、外ルツボ12の上端部12eの高さh
2と内ルツボ11の上端部11eの高さh
1との差Δhが1.1mm以下(Δh≦1.1mm)であれば、外ルツボ12の上端部の抵抗率の増加を抑制することができる。したがって、外ルツボ12の上端部12eの異常発熱を防止することができ、シリコン試料の酸素濃度の測定精度の悪化を防止することができる。
【0027】
図3は、上記黒鉛ルツボ10を用いたGFA法によるシリコン試料の酸素濃度の測定方法の説明図である。
【0028】
図3(a)に示すように、黒鉛ルツボ10の外ルツボ12の上端部及び下端部に上部電極21及び下部電極22をそれぞれ接続し、内ルツボ11内にシリコン試料1をセットする。1回目の試料測定では、内ルツボ11及び外ルツボ12共に新品が使用される。上部電極21は外ルツボ12の上端にのみ接続され、内ルツボ11の上端には接触していないことが好ましい。上部電極21が内ルツボ11に接触していると内ルツボ11に応力が加わり、内ルツボ11が割れるおそれがある。しかし、上部電極21を外ルツボ12にのみ接続する場合にはそのような問題を回避することができる。
【0029】
シリコン試料1はシリコンウェーハから切り出されたシリコン片であり、特にボロン、ガリウム、インジウムといったp型ドーパントがドープされた比抵抗が0.2Ω・cm以下のシリコン単結晶又はリン、砒素、アンチモンといったn型ドーパントがドープされた比抵抗が0.1Ω・cm以下のシリコン単結晶からなることが好ましい。このようなシリコン試料の酸素濃度をFT-IR法で測定することは困難であり、GFA法による測定が好適だからである。
【0030】
次に
図3(b)に示すように、上部電極21と下部電極22と間に高周波電源23を接続し、1850~2200Wの高周波電力を印加して黒鉛ルツボ10を直接発熱させる。このとき、シリコンの融点よりも低い温度になる電力を供給してシリコン試料1の表面酸化膜2を除去する前処理工程を実施する。
【0031】
次に
図3(c)に示すように、シリコンの融点以上の温度になるように3500~3800Wの高周波電力を印加してシリコン試料1を融解する。このとき、黒鉛ルツボ10から供給される炭素(C)とシリコン試料1に含まれる酸素(O)が反応してCOガス(又はCO
2ガス)が発生する。
図3(d)に示すように、GFA法は、
図3(b)の前処理及び
図3(c)の本分析で発生したCOガスをIR検出器で吸光度に換算し、本分析の吸光度面積から酸素濃度を算出する。
【0032】
図3(e)に示すように、2回目の試料測定では、黒鉛ルツボ10の内ルツボ11は新品に交換されるが、外ルツボ12は再利用される。上記のように、内ルツボ11は新たな試料の測定の度に交換されるが、外ルツボ12は所定の使用回数に到達するまで繰り返し使用される。内ルツボ11内にはシリコン試料1がセットされ、外ルツボ12の上端部及び下端部には上部電極21及び下部電極22がそれぞれ接続される。
【0033】
次に、
図3(f)に示すように、シリコン試料1の表面酸化膜2を除去する前処理工程を行った後、
図3(g)に示すようにシリコン試料1の本分析工程が行われる。
図3(h)に示すように、GFA法は、
図3(f)の前処理及び
図3(g)の本分析で発生したCOガスをIR検出器で吸光度に換算し、本分析の吸光度面積から酸素濃度を算出する。
【0034】
内ルツボに比べて外ルツボの上端部の突出量が大きい従来の黒鉛ルツボ10を使用してGFA法による酸素濃度の測定を行った場合、
図3(f)の前処理及び
図3(g)の本分析において外ルツボ12の上端部12eの化学反応(SiC化)が進むので、上端部12eの抵抗率の上昇が顕著である。したがって、外ルツボ12を繰り返し使用することにより、
図3(f)の前処理で黒鉛ルツボ10の異常発熱が発生し、前処理での試料の意図しない融解によって本分析での酸素濃度の測定誤差が大きくなる。
【0035】
しかし上記のように、本実施形態による黒鉛ルツボ10を使用してGFA法による酸素濃度の測定を行った場合、
図3(f)の前処理及び
図3(g)の本分析において外ルツボ12の上端部12eの化学反応(SiC化)が抑制されるので、上端部12eの抵抗率の上昇が抑えられる。したがって、外ルツボ12を繰り返し使用しても
図3(f)の前処理で黒鉛ルツボ10の異常発熱が発生せず、試料の意図しない融解を防止することができる。したがって、本分析で試料を確実に融解してシリコン試料中の酸素濃度の測定精度を高めることができる。
【0036】
本発明は、以上の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能であり、それらも本発明の範囲に包含されるものであることは言うまでもない。
【0037】
例えば、上記実施形態においては、二重構造の黒鉛ルツボを用いてシリコン試料中の酸素の定量分析を行う場合を例に挙げたが、鉄、ニッケル、チタン等の他の金属試料中の酸素の定量分析に黒鉛ルツボを使用してもよい。また、窒素等の酸素以外の他の不純物元素の定量分析に黒鉛ルツボを使用することも可能である。
【実施例0038】
(比較例1~3)
内ルツボを外ルツボ内にセットした状態における内ルツボの上端部と外ルツボの上端部の高さの差が1.4mmである比較例1~3による黒鉛ルツボを用いて、シリコン試料の酸素濃度の測定を繰り返し行った。上記のように、外ルツボは繰り返し使用し、内ルツボは新しい試料の測定の度に交換した。シリコン試料の酸素濃度測定では、予め表面酸化膜を除去する前処理を行った後、試料の本分析を行った。試料の前処理時には黒鉛ルツボの消費電力と試料の溶出異常の有無を評価した。
【0039】
(実施例1、2)
内ルツボを外ルツボ内にセットした状態における内ルツボの上端部と外ルツボの上端部の高さの差が0.6mmである実施例1、2による黒鉛ルツボを用いて、シリコン試料の酸素濃度の測定を繰り返し行った。上記のように、外ルツボは繰り返し使用し、内ルツボは新しい試料の測定の度に交換した。シリコン試料の酸素濃度測定では、予め表面酸化膜を除去する前処理を行った後、試料の本分析を行った。試料の前処理時には黒鉛ルツボの消費電力と試料の溶出異常の有無を評価した。
【0040】
図4は、比較例1~3及び実施例1、2による黒鉛ルツボを使用結果であって、外ルツボの使用回数と前処理工程における黒鉛ルツボの消費電力との相関式を示すグラフである。
【0041】
図4に示すように、比較例1~3による黒鉛ルツボを使用した場合、試料の分析回数が増えるにつれて黒鉛ルツボの消費電力が上昇していることが分かる。特に、比較例1では、外ルツボの使用回数xと前処理工程における黒鉛ルツボの消費電力yとの関係を示す回帰直線は、y=0.27x+1798.1となり、決定係数はR
2=0.7571となった。また比較例2では、外ルツボの使用回数xと前処理工程における黒鉛ルツボの消費電力yとの関係を示す回帰直線は、y=0.156x+1798.2となり、決定係数はR
2=0.0991となった。比較例3では、外ルツボの使用回数xと前処理工程における黒鉛ルツボの消費電力yとの関係を示す回帰直線は、y=0.4079x+1790.9となり、決定係数はR
2=0.8878となった。このように、試料の分析回数の増加と共に前処理工程における黒鉛ルツボの消費電力が上昇した理由は、シリコンが外ルツボの上端部に含侵して外ルツボの抵抗値が上昇したことによるものと考えられる。また試料の分析回数が30回を超えた段階で、本分析前の前処理で溶出異常が発生した。
【0042】
一方、実施例1、2による黒鉛ルツボを使用した場合、試料の分析回数の増加と共に前処理工程における黒鉛ルツボの消費電力は上昇しているものの、比較例1~3と比べると緩やかに上昇していることが分かる。実施例1では、外ルツボの使用回数xと前処理工程における黒鉛ルツボの消費電力(最大値)yとの関係を示す回帰直線は、y=0.2132x+1778.7となり、決定係数はR2=0.6643となった。また実施例2では、外ルツボの使用回数xと前処理工程における黒鉛ルツボの消費電力yとの関係を示す回帰直線は、y=0.1361x+1777.6となり、決定係数はR2=0.6581となった。このように、比較例と比べて消費電力の上昇が緩やかとなった理由は、外ルツボの上端部へのシリコンの含侵による外ルツボの抵抗値の上昇が抑えられたためと考えられる。
【0043】
実施例1、2及び比較例1~3の結果をもとに、外ルツボと内ルツボとの高さの差を任意に変化させたときの外ルツボ使用回数と前処理工程における黒鉛ルツボの消費電力との相関式を導き出し、当該相関式に基づいて、外ルツボの使用回数が50回に達したときに異常発熱が発生し得る、具体的には消費電力が1810Wに到達する、内ルツボと外ルツボとの高さの差を推定した。これは、消費電力が1810Wに達すると、試料の溶出異常が発生する確率が非常に高いことが実施例1、2及び比較例1~3の結果から予想できるためである。
【0044】
図5は、外ルツボと内ルツボとの高さの差が0.6mm、1.1mm及び1.2mmである黒鉛ルツボを使用したときの、外ルツボの使用回数と前処理工程における黒鉛ルツボの消費電力との相関式を示すグラフである。
【0045】
図5に示すように、外ルツボと内ルツボとの高さの差が1.2mmである黒鉛ルツボを使用した場合、外ルツボの使用回数が48回に到達した時点で消費電力(MAX)が1810W以上となった。しかし、外ルツボと内ルツボとの高さの差が1.1mmである黒鉛ルツボを使用した場合、外ルツボの使用回数が50回を超えても消費電力(MAX)は1810W以下となった。以上の結果から、外ルツボと内ルツボとの高さの差が1.1mmよりも大きくなると、外ルツボの使用回数が50回以下のときに試料の溶出異常が発生する確率が非常に高くなるが、高さの差が1.1mm以下であれば、外ルツボの使用回数が50回以下のときに試料の溶出異常が発生する確率が非常に低いことが分かった。