(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165208
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】カルボラン化合物及びそれを用いたハロゲン化芳香族化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 5/02 20060101AFI20241121BHJP
C07C 57/62 20060101ALI20241121BHJP
C07C 57/58 20060101ALI20241121BHJP
C07F 19/00 20060101ALI20241121BHJP
C07C 41/18 20060101ALI20241121BHJP
C07C 43/225 20060101ALI20241121BHJP
C07C 67/287 20060101ALI20241121BHJP
C07C 69/54 20060101ALI20241121BHJP
C07C 67/307 20060101ALI20241121BHJP
C07C 69/76 20060101ALI20241121BHJP
C07C 247/04 20060101ALI20241121BHJP
C07C 227/16 20060101ALI20241121BHJP
C07C 229/30 20060101ALI20241121BHJP
C07C 69/732 20060101ALI20241121BHJP
C07F 7/08 20060101ALI20241121BHJP
C07C 59/135 20060101ALI20241121BHJP
C07C 311/08 20060101ALI20241121BHJP
C07C 25/18 20060101ALI20241121BHJP
C07C 17/12 20060101ALI20241121BHJP
C07C 25/22 20060101ALI20241121BHJP
C07B 39/00 20060101ALI20241121BHJP
B01J 31/26 20060101ALI20241121BHJP
C07D 313/12 20060101ALI20241121BHJP
C07D 337/14 20060101ALI20241121BHJP
C07D 209/48 20060101ALI20241121BHJP
C07D 207/26 20060101ALI20241121BHJP
C07D 261/18 20060101ALI20241121BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20241121BHJP
【FI】
C07F5/02 E CSP
C07C57/62
C07C57/58
C07F19/00
C07C41/18
C07C43/225 B
C07C67/287
C07C69/54 B
C07C67/307
C07C69/76 Z
C07C247/04
C07C227/16
C07C229/30
C07C69/732 Z
C07F7/08 H
C07C59/135
C07C311/08
C07C25/18
C07C17/12
C07C25/22
C07B39/00 C
C07B39/00 D
C07B39/00 E
B01J31/26 Z
C07D313/12
C07D337/14
C07D209/48
C07D207/26
C07D261/18
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081147
(22)【出願日】2023-05-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年度 大阪大学大学院工学研究科 応用化学専攻 分子創成化学コース 物質機能化学コース 修士論文発表会 要旨集、第83頁-第84頁
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100174779
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 康晃
(72)【発明者】
【氏名】西井 祐二
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
4H048
4H049
4H050
【Fターム(参考)】
4G169AA06
4G169BA21A
4G169BA21B
4G169BB04A
4G169BB08A
4G169BB08B
4G169BB14A
4G169BC26A
4G169BC26B
4G169BC32A
4G169BC32B
4G169BC74A
4G169BD01A
4G169BD01B
4G169BD02A
4G169BD03A
4G169BD04A
4G169BD04B
4G169BD08A
4G169BD08B
4G169BD15A
4G169BD15B
4G169BE21A
4G169BE21B
4G169BE22A
4G169BE34A
4G169CB25
4G169CB68
4G169DA02
4H006AA01
4H006AA02
4H006AC30
4H006BA05
4H006BA13
4H006BA37
4H006BA49
4H006BB12
4H006BB41
4H006BT12
4H006BU46
4H039CA52
4H039CA53
4H039CA54
4H039CD10
4H048AA01
4H048AA03
4H048AB40
4H048VA77
4H049VN01
4H049VP01
4H049VQ04
4H049VQ24
4H049VR24
4H049VS04
4H049VS24
4H050AA01
4H050AA03
4H050AB40
(57)【要約】
【課題】芳香族化合物のハロゲン化反応において高い活性を示す触媒化合物及びそれを用いたハロゲン化芳香族化合物の製造方法を提供すること。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるカルボラン化合物。
(式中、R
1、及びR
2は、それぞれ独立して、水素原子、又は硫黄原子含有置換基を表し、R
1とR
2のうち、少なくとも1個は硫黄原子含有置換基である。)
硫黄原子含有置換基はアルキルチオ基であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるカルボラン化合物。
【化1】
(式中、R
1、及びR
2は、それぞれ独立して、水素原子、又は硫黄原子含有置換基を表し、R
1とR
2のうち、少なくとも1個は硫黄原子含有置換基である。)
【請求項2】
前記硫黄原子含有置換基が、アルキルチオ基である、請求項1に記載のカルボラン化合物。
【請求項3】
R1、及びR2が、アルキルチオ基である、請求項1に記載のカルボラン化合物。
【請求項4】
さらに、カルボラン化合物を構成するホウ素原子が置換基を有する、請求項1又は2に記載のカルボラン化合物。
【請求項5】
前記置換基が、アシル基、シロキシ基、シリル基、アルキル基、及びハロゲン原子からなる群から選ばれる、請求項4に記載のカルボラン化合物。
【請求項6】
前記置換基が、2位及び3位のホウ素原子上には存在しない、請求項4に記載のカルボラン化合物。
【請求項7】
少なくとも1つの芳香族基を有し、前記芳香族基が少なくとも1つの水素原子を有する芳香族化合物を、請求項1又は2に記載のカルボラン化合物、助触媒、及びハロゲン化剤の存在下で反応させて前記芳香族基がハロゲン原子を有するハロゲン化芳香族化合物を得る、ハロゲン化芳香族化合物の製造方法。
【請求項8】
前記反応を非プロトン性溶媒の存在下に行う、請求項7に記載のハロゲン化芳香族化合物の製造方法。
【請求項9】
前記助触媒が、インジウム(III)トリフルオロメタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸銀、テトラフルオロホウ酸銀(I)、ヘキサフルオロリン酸銀(I)、及びヘキサフルオロアンチモン(V)酸銀からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項7に記載のハロゲン化芳香族化合物の製造方法。
【請求項10】
前記助触媒が、ヘキサフルオロアンチモン(V)酸銀である、請求項7に記載のハロゲン化芳香族化合物の製造方法。
【請求項11】
ハロゲン化剤が、N-ハロゲン元素結合型のハロゲン化剤である、請求項7に記載のハロゲン化芳香族化合物の製造方法。
【請求項12】
前記反応の温度が、5~100℃の範囲内である、請求項7に記載のハロゲン化芳香族化合物の製造方法。
【請求項13】
前記ハロゲン原子が、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子からなる群から選ばれる、請求項7に記載のハロゲン化芳香族化合物の製造方法。
【請求項14】
下記式(3-1)~(3-6)で表されるハロゲン化芳香族化合物。
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
又は
【化7】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボラン化合物及びそれを用いたハロゲン化芳香族化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族化合物は、医薬品、農薬、発光素子、及び電子材料など、様々な機能性有機分子として幅広く利用されており、精密な分子加工を実現する技術の開発が常に求められてきた。特に、2010年ノーベル化学賞を受賞したクロスカップリング反応は、選択的に芳香族化合物を連結することを可能とし、現代の学術的及び工業的研究に欠かすことのできない技術となっている。
【0003】
塩素(Cl)、臭素(Br)、及ヨウ素(I)といったハロゲン元素を含む分子(ハロゲン化合物)は、クロスカップリング反応の原料として用いられており、多様な化学結合に変換できる万能なビルディングブロックとして認識されている。
また、合成中間体としての価値のみならず、市販の医農薬品の約60%がハロゲン化合物である事実は、ハロゲン化合物が分子特性を調整する手段としても重要であることを示している。
【0004】
従来、ハロゲン化合物の製造方法では、Cl2,Br2,I2といった分子状ハロゲン試薬を、活性化剤としての酸触媒と併用することが一般的となっている。
しかしながら、分子状ハロゲン試薬を用いた製造方法では、酸を使用する等の厳しい反応条件が必要になり、このような厳しい反応条件は、医薬品やファインケミカルなどの繊細な分子構造を破壊してしまい、また選択性の制御も困難であるという課題があった。
これに対して、例えば、特許文献1、2等に記載の方法が提案されていた。
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法では、原料がアミノ基を有する芳香族化合物に限定されており、幅広い原料化合物に使用できなかった。
また、特許文献2の方法では、反応温度は温和であるもの、基質の量に対して、大過剰の酸が必要になる点で厳しい反応条件になっており、反応性には改善の余地があった。
このような事情から、ハロゲン化合物の製造方法について抜本的な技術刷新が求められてきた。
【0006】
また、ハロゲン化合物の製造方法に用いられるハロゲン化剤として、N-ハロスクシンイミド(NCS、NBS、NIS)は安価で安定な結晶性固体であり、実用性に優れた代替ハロゲン化試薬として汎用されている。N-ハロスクシンイミドを用いた製造方法としては、例えば、非特許文献1の方法が提案されている。
しかしながら、N-ハロスクシンイミドを用いた製造方法であっても、反応性が低く、十分とはいえなかった。
以上のように、ハロゲン化合物の製造方法に使用できる効果的な触媒を開発することが課題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭55-47633号公報
【特許文献2】国際公開第2008/143141号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】“Triptycenyl Sulfide: A Practical and Active Catalyst for Electrophilic Aromatic Halogenation Using N-Halosuccinimides”, Yuji Nishii, M. Ikeda, Y. Hayashi, S. Kawauchi, M. Miura, J. Am. Chem. Soc. 142, 3, pp.1621-1629 (2020).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、芳香族化合物のハロゲン化反応において高い活性を示す触媒化合物及びそれを用いたハロゲン化芳香族化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、2つの炭素原子のうち少なくとも1つの炭素原子に硫黄原子が直接結合したm-カルボランを用いることによってハロゲン化芳香族化合物を高収率で製造できることを見い出し、この知見に基づいてさらに研究を進め、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、以下の発明を包含する。
[1]下記一般式(1)で表されるカルボラン化合物。
【化1】
(式中、R
1、及びR
2は、それぞれ独立して、水素原子、又は硫黄原子含有置換基を表し、R
1とR
2のうち、少なくとも1個は硫黄原子含有置換基である。)
[2]前記硫黄原子含有置換基が、アルキルチオ基である、[1]に記載のカルボラン化合物。
[3]R
1、及びR
2が、アルキルチオ基である、[1]に記載のカルボラン化合物。
[4]さらに、カルボラン化合物を構成するホウ素原子が置換基を有する、[1]又は[2]に記載のカルボラン化合物。
[5]前記置換基が、アシル基、シロキシ基、シリル基、アルキル基、及びハロゲン原子からなる群から選ばれる、[4]に記載のカルボラン化合物。
[6]前記置換基が、2位及び3位のホウ素原子上には存在しない、[4]に記載のカルボラン化合物。
[7]少なくとも1つの芳香族基を有し、前記芳香族基が少なくとも1つの水素原子を有する芳香族化合物を、[1]又は[2]に記載のカルボラン化合物、助触媒、及びハロゲン化剤の存在下で反応させて前記芳香族基がハロゲン原子を有するハロゲン化芳香族化合物を得る、ハロゲン化芳香族化合物の製造方法。
[8]前記反応を非プロトン性溶媒の存在下に行う、[7]に記載のハロゲン化芳香族化合物の製造方法。
[9]前記助触媒が、インジウム(III)トリフルオロメタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸銀、テトラフルオロホウ酸銀(I)、ヘキサフルオロリン酸銀(I)、及びヘキサフルオロアンチモン(V)酸銀からなる群から選ばれる少なくとも1種である、[7]に記載のハロゲン化芳香族化合物の製造方法。
[10]前記助触媒が、ヘキサフルオロアンチモン(V)酸銀である、[7]に記載のハロゲン化芳香族化合物の製造方法。
[11]ハロゲン化剤が、N-ハロゲン元素結合型のハロゲン化剤である、[7]に記載のハロゲン化芳香族化合物の製造方法。
[12]前記反応の温度が、5~100℃の範囲内である、[7]に記載のハロゲン化芳香族化合物の製造方法。
[13]前記ハロゲン原子が、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子からなる群から選ばれる、[7]に記載のハロゲン化芳香族化合物の製造方法。
[14]下記式(3-1)~(3-6)で表されるハロゲン化芳香族化合物。
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
又は
【化7】
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、芳香族化合物のハロゲン化反応において高い活性を示す触媒化合物、及びそれを用いたハロゲン化芳香族化合物の製造方法を提供できる。
また、本発明によれば、芳香族化合物のハロゲン化反応において高い化学選択性と位置選択性を有する触媒化合物、及びそれを用いたハロゲン化芳香族化合物の製造方法を提供できる。
さらに、本発明によれば、芳香族化合物のハロゲン化反応において、温和な反応条件(例えば、温度については100℃以下での反応;酸については使用量の低減等)で高い活性を示す触媒化合物、及びそれを用いたハロゲン化芳香族化合物の製造方法を提供できる。
また、本発明によれば、様々な官能基を有する広範な芳香族化合物に対して適用可能であり、対応するハロゲン化芳香族化合物を製造することができる。
さらに、芳香族化合物が有するベンゼン環に導入されるハロゲン原子の数の調整も、従来困難であったが、本発明によれば、触媒量やハロゲン化試薬の量を調整することによって、ベンゼン環に導入されるハロゲン原子の数も簡便に調整することができる。
また、本発明によれば、触媒化合物の安定性に優れるため、ハロゲン化反応後に触媒化合物を回収して再利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係るハロゲン化芳香族化合物の製造方法における反応メカニズムの模式図を表す。
【
図2】実施例3及び比較例3における結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のカルボラン化合物は、下記一般式(1)で示される構造を有する。
【化8】
(式中、R
1、及びR
2は、それぞれ独立して、水素原子、又は硫黄原子含有置換基を表し、R
1とR
2のうち、少なくとも1個は硫黄原子含有置換基である。)
【0015】
カルボラン(ジカルバドデカボラン)は10個のホウ素原子と2個の炭素原子からなる、正二十面体構造を持つクラスター分子である。
本発明のm-カルボラン(1,7-ジカルバドデカボラン)化合物は、2つの炭素原子のうち少なくとも1つの炭素原子に、硫黄原子含有置換基に含まれる硫黄原子が直接結合した構造を有する。
【0016】
従来技術では、芳香族化合物のハロゲン化反応において使用する触媒について、反応性に関与する触媒活性点の電子状態を精密に制御できないという課題が残されていた。
理由として、触媒に求められる性能として、ハロゲン化試薬からハロゲン原子を捕捉するための高いドナー性と、反応基質である芳香族化合物にハロゲン原子を受け渡すための優れたアクセプター性という、相反する性質を両立することが困難であったためである。
これに対して、本発明のカルボラン化合物を用いた場合では、硫黄原子含有置換基の置換位置を最適化するとともに、必要に応じてカルボランのホウ素原子上へ置換基を導入することによる、電子状態の精密なチューニングが可能であることから、ハロゲン化反応に適したドナー性とアクセプター性の両立が実現できる。
本発明のカルボラン化合物は、触媒としての安定性に優れ、かつ、2つの炭素原子のうち少なくとも1つの炭素原子に硫黄原子含有置換基に含まれる硫黄原子が直接結合した構造を有することで、芳香族化合物のハロゲン化反応において、反応に関係する電子状態を幅広く制御することができる。
具体的には、炭素原子上に硫黄原子含有置換基を有するm-カルボラン化合物、助触媒、及びハロゲン化剤を混合した際に、高反応性のハロスルホニウム錯体が形成し、この錯体が芳香族化合物と求電子置換反応を起こすことで、目的生成物のハロゲン化芳香族化合物が得られる。想定される反応メカニズムの模式図を
図1に示す。
【0017】
図1において、ハロゲン化剤であるN-ハロスクシンイミド、硫黄原子含有置換基を有するm-カルボラン触媒(
図1では、実施例1-1の触媒A)、及び助触媒(
図1では、AgSbF
6)の反応により、反応活性種であるハロスルホニウム錯体が形成している。ここで、ハロゲン化剤からカルボラン触媒の硫黄原子へとハロゲン原子が移動しており、助触媒に含まれるSbF
6アニオンが対アニオンとなっている。
ハロスルホニウム錯体に含まれるハロゲン原子は、高い求電子性を有しており、反応基質の芳香族化合物に対して求電子的に付加し、アレニウムイオン中間体を与える。ここで、ハロゲン原子は芳香族化合物に受け渡されており、
図1の上部に示すようにカルボラン触媒が再生する。
ハロゲン原子を受け取ったアレニウムイオン中間体は、Ag-スクシンイミドによって脱プロトン化されることで、目的生成物であるハロゲン化芳香族化合物を与える。このとき、副生成物としてスクシンイミドが得られるとともに、助触媒が再生する。
また、本発明に係るm-カルボラン化合物は、化学的及び熱的安定性に優れるため、
図1で示されるハロゲン化反応に供された後、回収して再利用することも可能である。
【0018】
R1、及びR2における硫黄原子含有置換基としては、m-カルボランの炭素原子に直接結合する役割の硫黄原子と、炭化水素基とを有する置換基が挙げられる。具体的には、アルキルチオ基、アリールチオ基等が挙げられ、芳香族化合物のハロゲン化反応においてより高い活性を示す点から、アルキルチオ基が好ましい。
アルキルチオ基としては、直鎖状又は分岐鎖状のいずれであってもよい。
アルキルチオ基のアルキル基が有する炭素数としては、例えば、1~8が好ましく、芳香族化合物のハロゲン化反応においてより高い活性を示す点から、1~6がより好ましく、1~4がさらに好ましく、1~3が特に好ましい。
アルキルチオ基としては、具体的には、メチルチオ基、エチルチオ基、n-プロピルチオ基、イソプロピルチオ基、n-ブチルチオ基等が挙げられる。
アリールチオ基のアリール基が有する炭素数としては、例えば、6~30が好ましく、6~22がより好ましく、6~14がさらに好ましく、6~10が特に好ましい。
アリールチオ基としては、具体的には、フェニルチオ基、トルイルチオ基、ナフチルチオ基等が挙げられる。
【0019】
ある好適な実施形態としては、R1、及びR2が、アルキルチオ基である、カルボラン化合物が挙げられる。
【0020】
他のある好適な実施形態としては、カルボラン化合物を構成するホウ素原子が置換基を有する、カルボラン化合物が挙げられる。
他の実施形態としては、カルボラン化合物を構成するホウ素原子が置換基を有しない、カルボラン化合物が挙げられる。
【0021】
前記ホウ素原子上に置換基を有するカルボラン化合物において、置換基の数は、1~8が好ましく、2~8がより好ましい。
【0022】
前記カルボラン化合物がホウ素原子上に有する置換基としては、アシル基、シロキシ基、シリル基、アルキル基、及びハロゲン原子等が挙げられる。
アシル基としては、例えば、脂肪族アシル基、芳香族アシル基が挙げられる。
脂肪族アシル基としては、例えば、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ピバロイル基、及びヘキサノイル基等が挙げられる。脂肪族アシル基の炭素数としては、1~7が好ましく、1~5がより好ましく、1~3がさらに好ましい。
芳香族アシル基としては、例えば、ベンゾイル基、o-トルオイル基、m-トルオイル基、p-トルオイル基、及びフタロイル基等が挙げられる。
シロキシ基としては、例えば、トリメチルシロキシ基、トリエチルシロキシ基、エチルジメチルシロキシ基、フェニルジメチルシロキシ基、ビニルジメチルシロキシ基、及び3,3,3-トリフルオロプロピルジメチルシロキシ基等が挙げられる。
シリル基としては、トリアルキルシリル基、アリール(アルキル)アルコキシシリル基、アルコキシジアリールシリル基、トリアリールシリル基、アルキルジアリールシリル基、アリールジアルキルシリル基、トリアラルキルシリル基などが挙げられる。
トリアルキルシリル基としては、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、ジメチルヘキシルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基、メチルジイソプロピルシリル基、イソプロピルジメチルシリル基等が挙げられる。
アリール(アルキル)アルコキシシリル基としては、例えば、tert-ブチルメトキシフェニルシリル基等が挙げられる。
アルコキシジアリールシリル基としては、例えば、tert-ブトキシジフェニルシリル基等が挙げられる。
トリアリールシリル基としては、例えば、トリフェニルシリル基等が挙げられる。
アルキルジアリールシリル基としては、例えば、tert-ブチルジフェニルシリル基等が挙げられる。
アリールジアルキルシリル基としては、例えば、ジメチルクメニルシリル基等が挙げられる。
トリアラルキルシリル基としては、例えば、トリベンジルシリル基等が挙げられる。
アルキル基としては、直鎖状又は分岐鎖状のいずれであってもよい。
アルキル基としては、アルキル基が有する炭素数としては、例えば、1~12が好ましく、芳香族化合物のハロゲン化反応においてより高い活性を示す点から、1~8がより好ましく、1~6がさらに好ましく、1~4が特に好ましい。
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、ネオペンチル基、1-エチルプロピル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、イソオクチル基等が挙げられる。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0023】
本発明のカルボラン化合物は、m-カルボラン化合物であるため、カルボラン骨格に含まれる2つの炭素原子の位置が、o-カルボラン化合物より遠く、p-カルボラン化合物より近い位置にある。
2つの炭素原子がこの位置関係にあり、さらに2つの炭素原子のうち少なくとも1つの炭素原子上に硫黄原子が直接結合することによって、ハロゲン化芳香族化合物の製造反応において、ハロスルホニウム錯体を形成するための電子状態及び形成した後の電子状態が、適切に制御されていると考えられる。
【0024】
また、前記の2位及び3位以外のホウ素原子上に置換基を有するm-カルボラン化合物は、芳香族化合物のハロゲン化反応においてより高い活性を示し、より温和な反応条件でハロゲン化反応が進行する。
2位及び3位に置換基が存在しないことによって、m-カルボラン化合物の骨格に存在する炭素原子上に直接結合した硫黄原子付近の立体的特性を変化させることなく、電子状態を精密にチューニングできることが、ハロスルホニウム錯体として、芳香族化合物とより効率的に反応を進行させるために重要と考えられる。
【0025】
本発明の一般式(1)で示される構造を有するカルボラン化合物は、公知の方法に準じて製造することができる。例えば、”A New Series of Organoboranes. I. Carboranes from the Reaction of Decaborane with Acetylenic Compounds”, T. L. Heying, J. W. Ager Jr., S. L. Clark, D. J. Mangold, H. L. Goldstein, M. Hillman, R. J. Polak, and J. W. Szymanski, Inorganic Chemistry 1963, 2 (6): 1089-1092.に記載方法でo-カルボラン化合物を製造し、所定温度(例えば、400~700℃)で加熱し、精製することで、m-カルボラン(1,7-ジカルバドデカボラン)を製造し、硫黄原子含有置換基を公知の置換基導入法(例えば、強塩基の存在下、有機硫黄化合物とm-カルボランを反応させる方法等)によって、導入することができる。
また、硫黄原子含有置換基を有しない、原料のm-カルボラン化合物は、市販品を使用することができる。
さらに、硫黄原子含有置換基を有さず、1位及び/又は7位にメルカプト基を有するm-カルボラン化合物を用いて、公知の置換基導入法によって硫黄原子含有置換基を導入することができる。
1位及び/又は7位にメルカプト基を有するm-カルボラン化合物は、市販品を使用することができる。
また、原料のm-カルボラン化合物を構成するホウ素原子に置換基を導入する方法としては、公知の方法(例えば、求電子置換反応を用いた方法等)を使用することができる。
【0026】
なお、本明細書において、数値範囲(各成分の使用量、含有量、配合比、各成分から算出される値及び各物性等)の上限値及び下限値は適宜組み合わせ可能である。
【0027】
本発明のある実施形態としては、少なくとも1つの芳香族基を有し、前記芳香族基が少なくとも1つの水素原子を有する芳香族化合物を、上記したいずれかのカルボラン化合物、助触媒、及びハロゲン化剤の存在下で反応させて前記芳香族基がハロゲン原子を有するハロゲン化芳香族化合物を得る、ハロゲン化芳香族化合物の製造方法が挙げられる。
本発明に係るハロゲン化芳香族化合物の製造方法によって、芳香族基が有する環における炭化水素の水素原子をハロゲン原子に置換することができる。
【0028】
本発明に係るハロゲン化芳香族化合物の製造方法によって、芳香族基が有する環において炭化水素の水素原子と置換されるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子からなる群から選ばれる少なくとも1種の原子が好ましい。
【0029】
基質に用いる芳香族化合物としては、少なくとも1つの芳香族基を有し、前記芳香族基が少なくとも1つの水素原子を有する芳香族化合物であれば、特に限定されず、使用できる。
基質に用いる芳香族化合物としては、例えば、下記一般式(2)で表される芳香族化合物が挙げられる。
【化9】
(式(2)中、nは1以上5以下の整数であり、Rは、直鎖状、分岐鎖状もしくは環状の非置換又は置換の有機基、アミノ基、アミド基、ニトリル基、ニトロ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アシルアミノ基、カルバモイル基、及びハロゲン原子からなる群から選ばれる官能基を表す。)
【0030】
Rに係る有機基は、ヘテロ原子を有していてもよい。
ヘテロ原子としては、例えば、窒素原子、硫黄原子、酸素原子、セレン原子、テルル原子、リン原子、ケイ素原子、及び、ホウ素原子が挙げられる。
Rに係る有機基は、例えば、-O-基、-S-基、-SO2-基、-SO-基、-CO-基等を含んでいてもよい。Rに係る有機基は、例えば、-O-基を含み、環を形成し、エポキシ基等であってもよく、縮合非芳香族系ヘテロ環基(ジアゼピン環とチオフェン環が縮合した複素環基等)であってもよい。
さらに、Rに係る有機基は、例えば、ハロゲン原子で置換されたエポキシ基等であってもよい。
Rに係るハロゲン原子及びRに係る有機基が置換基として有するハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0031】
Rに係る有機基としては、炭化水素基、複素環基等が挙げられる。
Rに係る炭化水素基としては、飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基のいずれであってもよい。
炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アリールアルケニル基、アルキニル基、シクロアルキニル基、アリールアルキニル基等が挙げられる。
複素環基としては、チエニル基、フリル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、ピリジル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、1,2,4-オキサジアゾリル基、1,3,4-オキサジアゾリル基、1,2,4-チアジアゾリル基、1,3,4-チアジアゾリル基、トリアゾリル基、テトラゾリル基、トリアジニル基、N-2-ピロリジノン基などの5~6員単環式芳香族複素環基等が挙げられる。
【0032】
Rに係るアルキル基が有する炭素数としては、特に限定されないが、1~20が好ましく、1~12がより好ましく、1~6がさらに好ましい。
アルキル基としては、直鎖状又は分岐鎖状のいずれであってもよい。
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基等が挙げられる。
【0033】
Rに係るシクロアルキル基が有する炭素数としては、特に限定されないが、3~20が好ましく、4~12がより好ましく、5~8がさらに好ましい。
シクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。
【0034】
Rに係るアリール基が有する炭素数としては、特に限定されないが、6~40が好ましく、6~30がより好ましく、6~14がさらに好ましい。
アリール基としては、例えば、フェニル基、ビフェニル基、インデニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、フルオレニル基、ピレニル基、トリル基、キシリル基、トリメチルフェニル基、エチルフェニル基、イソプロピルフェニル基、テトラメチルフェニル基等が挙げられる。
Rに係るアラルキル基が有する炭素数としては、特に限定されないが、7~40が好ましく、7~30がより好ましく、7~15がさらに好ましい。
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、メチルベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、ナフチルメチル基、インデニルメチル基、ビフェニルメチル基等が挙げられる。
Rに係るアルケニル基が有する炭素数としては、特に限定されないが、2~20が好ましく、2~12がより好ましく、2~6がさらに好ましい。
アルケニル基としては、例えば、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、イソプロペニル基、3-ブテニル基、2-ブテニル基、1-ブテニル基、1-メチル-2-プロペニル基、4-ペンテニル基、ヘキセニル基等が挙げられる。
Rに係るシクロアルキル基が有する炭素数としては、特に限定されないが、3~30が好ましく、4~28がより好ましく、5~25がさらに好ましい。
シクロアルケニル基としては、例えば、シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、オキソシクロヘキセニル基、シクロヘキセニルメチル基、シクロヘキセニルエチル基、シクロヘプテニル基、オキソシクロヘプテニル基、シクロヘプテニルメチル基、シクロヘプテニルエチル基等の飽和単環式炭化水素基;オキソインデニル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エニル基の不飽和二環式炭化水素基等が挙げられる。
Rに係るアリールアルケニル基が有する炭素数としては、特に限定されないが、7~40が好ましく、7~30がより好ましく、7~15がさらに好ましい。
アリールアルケニル基としては、例えば、スチリル基、1-フェニルアリル基、2-フェニルアリル基、3-フェニルアリル基、3,3-ジフェニルアリル基、2,2-ジフェニルビニル基、1,2-ジフェニルビニル基、1-フェニル-1-ブテニル基、3-フェニル-1-ブテニル基等が挙げられる。
Rに係るアルキニル基が有する炭素数としては、特に限定されないが、2~20が好ましく、2~12がより好ましく、2~6がさらに好ましい。
アルキニル基としては、エチニル基、n-プロピニル基、n-ブチニル基、イソブチニル基、n-ペンチニル基、1-ヘキシニル基、2-ヘキシニル基、2-ヘプチニル基、1-オクチニル基等が挙げられる。
Rに係るシクロアルキニル基が有する炭素数としては、特に限定されないが、3~30が好ましく、4~28がより好ましく、5~25がさらに好ましい。
シクロアルキニル基としては、例えば、シクロブチニル基、シクロペンチニル基、シクロヘキシニル基、シクロヘプチニル基、シクロオクチニル基等が挙げられる。
Rに係るアリールアルキニル基が有する炭素数としては、特に限定されないが、7~40が好ましく、7~30がより好ましく、7~15がさらに好ましい。
アリールアルキニル基としては、例えば、フェニルエチニル基、トリルエチニル基、ビフェニリルエチニル基、ナフチルエチニル基等が挙げられる。
【0035】
Rに係る炭化水素基は置換基を有していてもよい。
置換基としては、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、ニトリル基、アミノ基、アジド基、イソチオシアネート基、炭素数1~6のアルキル基等が挙げられる。
そのため、Rに係る炭化水素基は、例えば、アルキルアミノ基等であってもよい。アルキルアミノ基としては、例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ブチルアミノ基、sec-ブチルアミノ基、tert-ブチルアミノ基等のモノアルキルアミノ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、エチルメチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、メチルプロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基等のジアルキルアミノ基が挙げられる。
式(2)中、nは1以上5以下の整数であり、2以上5以下の整数であってもよい。
【0036】
一般式(2)で表される芳香族化合物としては、具体的には、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、メシチレン、1,2,3-トリメチルベンゼン、1-メチルナフタレン、2-メチルナフタレン、1,2-ジメチルナフタレン、エチルベンゼン、α-ハロエチルベンゼン、ジエチルベンゼン、プロピルベンゼン、ジイソプロピルベンゼン、ブチルベンゼン、イソブチルベンゼン、s-ブチルベンゼン、クメン、シメン等のアルキル基を有する芳香族化合物;ジフェニルメタン、1,2-ジフェニルエタン、2,2-ジフェニルプロパン、トリフェニルメタン等のアラルキル基を有する芳香族化合物;ビフェニル、o-テルフェニル、m-テルフェニル、p-テルフェニル等のアリール基を有する芳香族化合物;o-メチルアニソール、m-メチルアニソール、p-メチルアニソール、エチルアニソール、フェネトール、メトキシフェノール等のアルコキシ基を有する芳香族化合物;安息香酸、o-メチル安息香酸、m-メチル安息香酸、p-メチル安息香酸、エチル安息香酸、オキシ安息香酸、アミノ安息香酸、ジメチルアミノ安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、フランカルボン酸、チオフェンカルボン酸、ピリジンカルボン酸、2-(4-フェニル-3-フルオロフェニル)プロパン酸(別名「フルルビプロフェン」)等のカルボキシル基を有する芳香族化合物;ブロモベンゼン、クロロベンゼン、ハロトルエン(p-ブロモトルエン、p-クロロトルエン等)、ハロキシレン等のハロゲン原子を有する芳香族化合物;ニトロベンゼン、p-メチルニトロベンゼン、p-エチニルニトロベンゼン、ピクリン酸等のニトロ基を有する芳香族化合物;フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、キシレノール、1-ヒドロキシ-4-イソプロピルフェノール、チモール、ヒドロキノン、レゾルシノール、ピロガロール、ジ(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,2-ジ(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ジ(4-ヒドロキシフェニル)プロパン等のヒドロキシル基を有する芳香族化合物;ブロチゾラム、エチラム等のチエノジアゼピン系化合物等が挙げられる。
【0037】
基質に用いる芳香族化合物としては、芳香族基が少なくとも1つの水素原子を有する芳香族化合物であれば使用できるため、一般式(2)で表される芳香族化合物以外に、一般式(2)で表されるベンゼン環を一部に有する縮合多環芳香族化合物;六置換ベンゼン骨格を有し、当該ベンゼン骨格が少なくとも1つの水素原子を有する芳香族基を1個以上有する芳香族化合物(例えば、ヘキサフェニルベンゼン及びその誘導体等)などが挙げられる。
六置換ベンゼン骨格を有する芳香族化合物が有する芳香族基は、一般式(2)で表される芳香族基であってもよい。
一般式(2)で表されるベンゼン環と、縮合多環芳香族化合物は直接結合していてもよく、-O-基、-S-基、-SO2-基、-SO-基、-CO-基、エステル結合等を介して結合していてもよい。
【0038】
前記縮合多環芳香族化合物としては、環がベンゼン環のみからなる縮合ベンゼン環化合物;環がベンゼン環と炭素原子のみを含む縮合多環式芳香族化合物;ヘテロ環とベンゼン環とを含む縮合芳香族ヘテロ環化合物等が挙げられる。
縮合多環芳香族化合物における各環の数は特に限定されず、1個以上であればよく、2個以上であってもよい。例えば、縮合芳香族ヘテロ環化合物においては、ヘテロ環とベンゼン環について、それぞれ1個以上有していればよく、ヘテロ環が1個以上であり、ベンゼン環が2個以上である化合物であってもよい。
これらの縮合多環芳香族化合物において、一般式(2)において説明した官能基Rを有する化合物を基質の芳香族化合物として使用できる。
【0039】
前記縮合ベンゼン環化合物としては、例えば、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、テトラセン、ペンタセン、ベンゾピレン、クリセン、ピレン、トリフェニレン、コランニュレン、コロネン、オバレン等が挙げられる。
前記縮合多環式芳香族化合物としては、例えば、アセナフテン、フルオレン、フルオランテン、インダン、等が挙げられる。
【0040】
縮合芳香族ヘテロ環化合物としては、例えば、インドール系化合物(インドール、トリプトファン、インジゴ、インドメタシン、インドリン、インドレニン、オキシインドール、インドキシル、イサチン等)、ベンゾフラン系化合物(ベンゾフラン、クマラン-2-オン等)、ベンゾチオフェン系化合物(ベンゾチオフェン等)、ベンゾアゾール系化合物(インダゾール、ベンゾイソオキサゾール、ベンゾイソチアゾール等のベンゾ-1,2-アゾール類;ベンゾイミダゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール等のベンゾ-1,3-アゾール類等)、イミダゾピリジン系化合物(ゾルピデム等)、ナフトフラン系化合物(ナフト[1,2-b]フラン、ナフト[2,1-b]フラン等)、フタル酸イミド、無水フタル酸等のヘテロ五員環とベンゼン環とを有する芳香族化合物;キノリン系化合物(キノリン、イソキノリン、キノリジニウム塩、9aH-キノリジン、2H-キノリジン、4H-キノリジン、キノリンN-オキシド、2-キノロン、4-キノロン、イソキノロン、イソキノリンN-オキシド、ホモフタル酸イミド等)、1-ベンゾピリリウム塩(アントシアニン、アントシアニジン等)、2-ベンゾピリリウム塩、ベンゾピラン系化合物(ベンゾピラン(2H-クロメン、4H-クロメン、1H-イソクロメン、3H-イソクロメン)、ベンゾ-2-ピロン(クマリン)、ベンゾ-4-ピロン(クロモン)、フラボン、イソフラボン、ルテオリン等のベンゾピラン骨格を有する化合物;イソクロマン、クロマン等のベンゾピラン誘導体)、ベンゾジアジン系化合物(シンノリン、フタラジン、キナゾリン、キノキサリン等)、ナフトピラン系化合物(3H-ナフト[2,1-b]ピラン、2H-ナフト[1,2-b]ピラン、2H-ナフト[2,3-b]ピラン、6H-ジベンゾ[b,d]ピラン、6H-ベンゾ[c]クロメン-6-オン等)、1-ベンゾチオピリリウム塩、2-ベンゾチオピリリウム塩、ベンゾジオキサン等のヘテロ六員環とベンゼン環とを有する芳香族化合物;ベンゾアゼピン系化合物(3H-3-ベンゾアゼピン等)、アクリジン系化合物(アクリジン、9-フェニルアクリジン、9(10H)-アクリドン、3-アミノ-9-(p-アミノフェニル)アクリジン等)、フェノチアジン系化合物(クロルプロマジン、レボメプロマジン、フルデカシン、ペルフェナジン等)、β-カルボリン系化合物(エチル 9H-ピリド[3,4-b]インドール-3-カルボキシラート、2,3,4,9-テトラヒドロ-1H-β-カルボリン-1-カルボン酸等)、ベンゾジアゼピン系化合物(クロチアゼパム、ロラゼパム、ブロマゼパム、アルプラゾラム、ジアゼパム、クロキサゾラム、クロルジアゼポキシド、ロフラゼプ酸エチル、トリアゾラム、ロルメタゼパム、ニトラゼパム、フルニトラゼパム、エスタゾラム、クアゼパム、フルラゼパム、ハロキサゾラム等)、ベンゾオキセピン系化合物(6,11-ジヒドロ-11-オキソジベンゾ[b,e]オキセピン-2-酢酸(別名「イソキセパック」)、8-メトキシ-1-ベンゾオキセピン-3,5-ジオン等)、ベンゾジオキセピン系化合物(3,4-ジヒドロ-2H-1,5-ベンゾジオキセピン-7-カルボン酸、オロパタジン(商品名「アレロック」)協和キリン株式会社製等)、ジベンゾチエピン系化合物(10,11-ジヒドロジベンゾ[b,f]チエピン、2-(10,11-ジヒドロ-10-オキソジベンゾ[b,f]チエピン-2-イル)プロピオン酸(別名「ザルトプロフェン」)等)などのヘテロ七員環とベンゼン環とを有する芳香族化合物等が挙げられる。
【0041】
ある好適な実施形態としては、基質の芳香族化合物のハロゲン化反応を非プロトン性溶媒の存在下に行う、ハロゲン化芳香族化合物の製造方法が挙げられる。
【0042】
非プロトン性溶媒としては、ハロアルカン系溶媒、非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
ハロアルカン系溶媒としては、例えば、1,2-ジクロロエタン(DCE)、ジクロロメタン、クロロホルム等が挙げられる。
非プロトン性極性溶媒としては、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、ニトロメタン、ニトロエタン等が挙げられる。
【0043】
助触媒としては、反応活性種であるハロスルホニウム錯体を形成しやすい点から、インジウム(III)トリフルオロメタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸銀、テトラフルオロホウ酸銀(I)、ヘキサフルオロリン酸銀(I)、及びヘキサフルオロアンチモン(V)酸銀等が挙げられ、ヘキサフルオロアンチモン(V)酸銀が好ましい。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。助触媒は、市販品を使用することもできる。
【0044】
助触媒の使用量としては、反応活性種であるハロスルホニウム錯体を形成しやすい点から、基質の芳香族化合物1モルに対して、0.1~5モル当量であることが好ましく、0.2~4モル当量であることがより好ましく、0.5~2モル当量であることがさらに好ましい。
【0045】
ハロゲン化剤としては、反応活性種であるハロスルホニウム錯体を形成しやすい点から、N-ハロゲン元素結合型のハロゲン化剤;一塩化ヨウ素が挙げられる。
N-ハロゲン元素結合型のハロゲン化剤としては、塩素結合型のハロゲン化剤、臭素結合型のハロゲン化剤、ヨウ素結合型のハロゲン化剤が挙げられる。N-ハロゲン元素結合型のハロゲン化剤は、助触媒の存在下、窒素原子に結合しているハロゲン原子が容易に解離し得るため、ハロゲン化剤として好適に使用できる。
N-ハロゲン元素結合型のハロゲン化剤としては、具体的には、N-ハロスクシンイミド;N-ハロヒダントイン;N-ハロフタルイミド;N-ハロサッカリン;ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム、ジブロモイソシアヌル酸、ジヨードイソシアヌル酸、トリクロロイソシアヌル酸、トリブロモイソシアヌル酸、トリヨードイソシアヌル酸等のN-ハロ化合物が挙げられる。
N-ハロスクシンイミドとしては、具体的には、N-クロロスクシンイミド(NCS)、N-ブロモスクシンイミド(NBS)、N-ヨードスクシンイミド(NIS)が挙げられる。
N-ハロヒダントインとしては、具体的には、1,3-ジヨード-5,5-ジメチルヒダントイン(DIH)、1,3-ジブロモ-5,5-ジメチルヒダントイン(DBH)、1,3-ジクロロ-5,5-ジメチルヒダントイン(DCH)が挙げられる。
N-ハロフタルイミドとしては、具体的には、N-クロロフタルイミド、N-ブロモフタルイミド、N-ヨードフタルイミドが挙げられる。
N-ハロサッカリンとしては、具体的には、N-クロロサッカリン、N-ブロモサッカリン、N-ヨードサッカリンが挙げられる。
ハロゲン化剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。ハロゲン化剤としては、市販品を使用することもできる。
【0046】
ハロゲン化剤の使用量は、目的とするハロゲン化芳香族化合物に応じて適宜変更できる。
本発明に係るハロゲン化芳香族化合物の製造方法では、ハロゲン化剤の使用量を調整することで、簡便に多重ハロゲン化反応を行うことができる。
ある実施形態において、基質の芳香族化合物が1つのハロゲン原子により置換されたハロゲン化芳香族化合物を生成する場合、ハロゲン化剤の使用量としては、基質の芳香族化合物1モルに対して、0.5モル当量以上1.5モル当量未満であることが好ましく、0.8モル当量以上1.4モル当量以下であることがより好ましく、0.9モル当量以上1.2モル当量以下であることがさらに好ましい。
上記の範囲内であれば、ハロゲン化が効率良く進行し、化学選択性と位置選択性を向上させることができる。
【0047】
他のある実施形態において、基質の芳香族化合物が2つのハロゲン原子により置換されたハロゲン化芳香族化合物を生成する場合、ハロゲン化剤の使用量としては、基質の芳香族化合物1モルに対して、1.5モル当量以上2.5モル当量未満であることが好ましく、1.8モル当量以上2.4モル当量以下であることがより好ましく、1.9モル当量以上2.2モル当量以下であることがさらに好ましい。
上記の範囲内であれば、ハロゲン化が効率良く進行し、化学選択性と位置選択性を向上させることができる。
【0048】
別の他のある実施形態において、基質の芳香族化合物が3つのハロゲン原子により置換されたハロゲン化芳香族化合物を生成する場合、ハロゲン化剤の使用量としては、基質の芳香族化合物1モルに対して、2.5モル当量以上3.5モル当量未満であることが好ましく、2.8モル当量以上3.4モル当量以下であることがより好ましく、2.9モル当量以上3.2モル当量以下であることがさらに好ましい。
上記の範囲内であれば、ハロゲン化が効率良く進行し、化学選択性と位置選択性を向上させることができる。
【0049】
別の他のある実施形態において、基質の芳香族化合物が4つのハロゲン原子により置換されたハロゲン化芳香族化合物を生成する場合、ハロゲン化剤の使用量としては、基質の芳香族化合物1モルに対して、3.5モル当量以上4.5モル当量未満であることが好ましく、3.8モル当量以上4.4モル当量以下であることがより好ましく、3.9モル当量以上4.2モル当量以下であることがさらに好ましい。
上記の範囲内であれば、ハロゲン化が効率良く進行し、化学選択性と位置選択性を向上させることができる。
【0050】
多重ハロゲン化反応を行うことによって、例えば、基質の芳香族化合物としてハロゲン原子を有する場合を含めて、複数のハロゲン原子を有する多環芳香族化合物は、段階的なクロスカップリング反応によって、比較的容易に複雑なナノカーボン構造を有する化合物に変換することもできる。
【0051】
本発明に係るハロゲン化芳香族化合物の製造方法において、カルボラン化合物、助触媒、及びハロゲン化剤の存在下における反応温度は、5~100℃の範囲内であることが好ましく、8~90℃の範囲内であることがより好ましく、10~80℃の範囲内であることがさらに好ましい。
本発明に係るハロゲン化芳香族化合物の製造方法では、目的の化合物であるハロゲン化芳香族化合物を上記温度範囲内の温和な条件下において、高収率で製造することができる。
さらに、本発明に係るハロゲン化芳香族化合物の製造方法において、圧力は特に加圧が不要であり、標準大気圧(1atm)条件下という温和な条件下で、目的のハロゲン化芳香族化合物を製造できる。
【0052】
本発明に係るハロゲン化芳香族化合物の製造方法において、基質の芳香族化合物の芳香族基が有する水素原子と置換されるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子が挙げられる。
【0053】
本発明の他の実施形態としては、下記式(3-1)~(3-6)で表されるハロゲン化芳香族化合物が挙げられる。
【化10】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
上記式で表されるハロゲン化芳香族化合物について、例えば、式(3-1)~(3-3)で表されるハロゲン化芳香族化合物は、2-[4-(2,2-ジクロロシクロプロピル)フェノキシ]-2-メチルプロピオン酸(別名「シプロフィブラート」)の誘導体として有用である。
シプロフィブラート(商品名「Modalim(登録商標)」、サノフィ・アベンティス株式会社製)は、ペルオキシダーゼ増殖因子活性化受容体(PPAR)作動薬として機能し(例えば、特開2019-116498号公報、WO2018/016596号、特表2000-515526号等)、脂質降下薬として知られており、医薬用途において有用である。
シプロフィブラートが脂質降下薬として有用であるため、式(3-1)~(3-3)で表されるハロゲン化芳香族化合物も、シプロフィブラートの誘導体として使用できる点で有用である。
【0060】
また、式(3-4)~(3-6)で表されるハロゲン化芳香族化合物は、それぞれイソキセパック(isoxepac)、ザルトプロフェン(zaltoprofen)、フルルビプロフェン(Flurbiprofen)の誘導体として有用である。
イソキセパック(isoxepac)、ザルトプロフェン(zaltoprofen)、及びフルルビプロフェン(Flurbiprofen)、及びニメスリドは、非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs:Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs)として知られており、医薬用途において有用である。
イソキセパックは、シクロオキシゲナーゼ1(COX-1)とCOX-2の両方を可逆的に阻害するCOX阻害剤として機能し、非ステロイド抗炎症薬として有用であるため、式(3-4)で表されるハロゲン化芳香族化合物も、イソキセパックの誘導体として使用できる点で有用である。
ザルトプロフェンは、COX-2を比較的選択的に阻害するCOX阻害剤として機能し、非ステロイド抗炎症薬として有用であるため、式(3-5)で表されるハロゲン化芳香族化合物も、ザルトプロフェンの誘導体として使用できる点で有用である。
フルルビプロフェンは、COX-1とCOX-2をそれぞれ阻害するCOX阻害剤として機能し、非ステロイド抗炎症薬として有用であるため、式(3-6)で表されるハロゲン化芳香族化合物も、フルルビプロフェンの誘導体として使用できる点で有用である。
上記化合物に限定されず、本発明で製造されるハロゲン化芳香族化合物は、農薬、医薬品の有効成分(例えば、他の有効成分として、レフルノミド(抗リウマチ薬)、フェノフィブラート(高脂血症治療剤)、スタチン系化合物(HMG-CoA還元酵素阻害薬)等)の誘導体として利用できる点で有用である。
【0061】
また、本発明で製造されるハロゲン化芳香族化合物は、医薬品に限定されず、例えば、有機EL素子に使用される発光材料(例えば、α-NPD(N,N’-ビス(ナフタレン-1-イル)-N,N’-ビス(フェニル)ベンジジン)、TPD(N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-N,N’-ビス(フェニル)-ベンジジン)、Alq3(トリス(8-キノリノラト)アルミニウム)、CuPc(銅フタロシアニン)、BAlq(ビス(2-メチル-8-キノリノレート)-4-(フェニルフェノラト)アルミニウム)、DPVBi(4,4’-ビス(2,2-ジフェニルビニル)ビフェニル)、スピロ-DPVBi、DCM((E)-2-(2-(4-(ジメチルアミノ)スチリル)-6-メチル-4H-ピラン-4-イリデン)マロノニトリル)、ベンゾオキサゾールZn錯体、ベンゾキノリノールBe錯体等)、電子部品材料の誘導体としても利用できる。
本発明に係る製造方法では、芳香族基が少なくとも1つの水素原子を有する限り、位置選択的に水素原子をハロゲン原子に置換できるため、上記のような各種成分の誘導体としてハロゲン化芳香族化合物を製造することができる。
【0062】
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的思想の範囲内において、上記した構成の全部又は一部を種々組み合わせた実施形態を含む。
【実施例0063】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で多くの変形が当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【0064】
[実施例1:m-カルボラン化合物の製造例]
<実施例1-1及び1-2>
N2バルーンとゴムキャップを備えた二口丸底フラスコに、m-カルボラン(144mg、1.0mmol)を入れた。次いで、フラスコにジエチルエーテル(4mL)をシリンジで加えた。得られた溶液を0℃に冷却し、n-ブチルリチウム(ヘキサン中1.58M、1.02mmol)を滴下し、滴下終了からさらに1時間0℃で撹拌した。
次いで、ジメチルジスルフィド(94mg、1.02mmol)をシリンジで加えた。混合物を30分かけて室温まで加温し、得られた溶液を水に注ぎ入れ、酢酸エチルで3回抽出した。合わせた有機層をNa2SO4で乾燥させ、減圧下で濃縮した。残留物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離剤:ヘキサン)で精製することにより、触媒A(白色固体50mg、26%収率)及び触媒B(白色固体74mg、63%収率)を得た。
【0065】
触媒A:融点 58.7-59.5 ℃; 1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 2.98 (s, 1H), 2.28 (s, 3H), 3.70-1.40 (cage BH); 13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 74.9, 55.4, 19.3; 11B NMR (128 MHz, CDCl3) δ -3.6 (d, J = 163.2 Hz, 1B), -9.1~-15.3 (m, 9B); HRMS (EI) m/z: [M]+ Calcd for C3H14S10B2
11B8 190.1819; Found 190.1818.
【0066】
触媒B:融点 44.3-45.4 ℃; 1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 2.28 (s, 6H), 3.70-1.40 (cage BH); 13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 72.9, 19.4; 11B NMR (128 MHz, CDCl3) δ -6.5 (d, J = 165.5 Hz, 2B), -9.7~-13.1 (m, 8B); HRMS (EI) m/z: [M]+ Calcd for C4H16S2
10B2
11B8 236.1697; Found 236.1694.
以上のようにして、表1に記載の触媒A及び触媒Bを製造した。
【0067】
<実施例1-3>
m-カルボランを9,10-ジクロロ-m-カルボラン(0.5mmol)に変更する以外は、実施例1-1と同様にして、表1に記載の触媒Cを製造した(白色固体41mg、54%収率)。
9,10-ジクロロ-m-カルボランは文献記載の方法(“Electrophilic Halogenation of closo-1,2-C2B8H10”, Inorg. Chem. 56, 5971-5975 (2017))により製造した。触媒Cは、m-カルボランの9位と10位のホウ素原子上に塩素原子を有していた。
触媒C:融点 101.1-102.6 ℃; 1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 2.30 (s, 6H), 3.70-1.40 (cage BH); 13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 67.5, 19.6; 11B NMR (128 MHz, CDCl3) δ -0.0 (s, 2B), -6.6 (d, J = 163.8 Hz, 2B), -11.8 (d, J = 169.7 Hz, 4B), -18.8 (d, J = 189.8 Hz, 2B); HRMS (EI) m/z: [M]+Calcd for C4H14
35Cl2S2
10B11B9 305.0881; Found 305.0894.
以上のようにして、表1に記載の触媒Cを製造した。
【0068】
<実施例1-4>
m-カルボランを9,10-ジメチル-m-カルボラン(0.43mmol)に変更する以外は、実施例1-1と同様にして、表1に記載の触媒Dを製造した(無色液体63mg、56%収率)。9,10-ジメチル-m-カルボランは文献記載の方法(A. Himmelspach, M. Finze, Eur. J. Inorg. Chem. 2010, 2012-2024 (2010). K. Ohta, T. Ogawa, A. Kaise, Y. Endo, Bioorg. Med. Chem. 22, 3508-3514 (2014))により製造した。
触媒D: 1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 2.25 (s, 6H), 0.30 (s, 6H), 3.70-1.40 (cage BH); 13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 69.9, 19.3, BCH3 peaks were not observed; 11B NMR (128 MHz, CDCl3) δ -0.5 (s, 2B), -5.2 (d, J = 160.2 Hz, 2B), -10.4 (d, J = 165.0 Hz, 4B), -16.6 (d, J = 183.0 Hz, 2B); HRMS (EI) m/z: [M]+ Calcd for C6H20S2
10B2
11B8 264.2010; Found 264.2014.
以上のようにして、表1に記載の触媒Dを製造した。
【0069】
<実施例1-5>
m-カルボランを9,10-ビス(トリメチルシリルメチル)-m-カルボラン(0.5mmol)に変更する以外は、実施例1-1と同様にして、表1に記載の触媒Eを製造した(無色液体77mg、38%収率)。
触媒E: 1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 2.24 (s, 6H), 0.06 (s, 18H), -0.01 (s, 4H), 3.70-1.40 (cage BH); 13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 68.9, 18.8, -0.0, BCH2 peaks were not observed; 11B NMR (128 MHz, CDCl3) δ 0.5 (s, 2B), -5.3 (d, J = 156.8 Hz, 2B), -11.2 (d, J = 161.3 Hz, 4B), -16.8 (d, J = 182.6 Hz, 2B); HRMS (EI) m/z: [M-Me]+ Calcd for C11H33S2Si2
10B11B9394.2529; Found 394.2535.
【0070】
9,10-ビス(トリメチルシリルメチル)-m-カルボランは下記の方法で製造した。
N2バルーンとゴムキャップを備えた二口丸底フラスコに、9,10-ジヨード-m-カルボラン(198mg、0.5mmol)を入れ、ジメトキシエタン(5mL)をシリンジで加えた。
得られた溶液を0℃に冷却し、トリメチルシリルマグネシウムブロミド(ジエチルエーテル中1.0M、3.0mmol)を滴下した。次いで、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド(35.0mg、0.05mmol)及びヨウ化銅(I)(9.5mg、0.05mmol)を加え、16時間90℃で撹拌した。得られた溶液を塩化アンモニウム水溶液に注ぎ入れ、ジエチルエーテルで3回抽出した。合わせた有機層をNa2SO4で乾燥させ、減圧下で濃縮した。残留物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離剤:ヘキサン)で精製することにより、9,10-ビス(トリメチルシリルメチル)-m-カルボラン(無色液体156mg、99%収率)を得た。
以上のようにして、表1に記載の触媒Eを製造した。
【0071】
<実施例1-6>
m-カルボランを4,5,6,8,9,10,11,12-オクタメチル-m-カルボラン(3.0mmol)に変更する以外は、実施例1-1と同様にして、表1に記載の触媒Fを製造した(白色固体636mg、61%収率)。4,5,6,8,9,10,11,12-オクタメチル-m-カルボランは文献記載の方法(A. Herzog, A. Maderna, G. N. Harakas, C. B. Knobler, M. F. Hawthorne, Chem. Eur. J. 5, 1212-1217 (1999).)により製造した。触媒Fは、m-カルボランの2位と3位のホウ素原子以外のホウ素原子上にメチル基を有し、1位と7位にメチルチオ基を有していた。
触媒F:昇華点280 ℃; 1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 2.23 (s, 6H), 0.19 (s, 12H), -0.14 (s, 6H), -0.17 (s, 6H), 3.70-1.40 (cage BH); 13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 66.2, 17.8, -4.0 (BCH3 peaks); 11B NMR (128 MHz, CDCl3) δ 1.6 (s, 2B), -3.0 (s, 2B), -5.5 (s, 4B), -16.9 (d, J = 174.8 Hz, 2B); HRMS (EI) m/z: [M]+ Calcd for C12H32S2
10B2
11B8 348.2949; Found 348.2953.
以上のようにして、表1に記載の触媒Fを製造した。
【0072】
【表1】
表中、●は炭素原子を表し、〇はホウ素原子を表し、Meはメチル基を表し、TMSはトリメチルシリル基を表す。
【0073】
[比較例1:本発明以外の触媒化合物の製造例]
<比較例1-1>
市販品として、下記式で表される9-メチルチオトリプチセン(Trip-SMe)を使用した。
【化16】
【0074】
<比較例1-2>
9-メチルチオ-m-カルボランは文献記載の方法(“Modular triazine-based carborane-containing carboxylic acids - synthesis and characterisation of potential boron neutron capture therapy agents made of readily accessible building blocks”, M. Kellert, D. J. Worm, P. Hoppenz, et al. Dalton Trans. 48, 10834-10844 (2019).)により製造した。下図中、●は炭素原子を表し、〇はホウ素原子を表し、SMeはメチルチオ基を表す。
【化17】
【0075】
<比較例1-3>
1-メチルチオ-o-カルボランは文献記載の方法(S. V. Timofeev, M. V. Zakharova, E. M. Mosolova, I. A. Godovikov, I. V. Ananyev, I. B. Sivaev, V. I. Bregadze, J. Organomet. Chem. 721-722, 92-96 (2012).)により製造した。下図中、●は炭素原子を表し、〇はホウ素原子を表し、SMeはメチルチオ基を表す。
【化18】
【0076】
[実施例2]
<実施例2-1>
実施例1-1の触媒A、AgSbF
6助触媒、ハロゲン化剤としてN-ブロモスクシンイミド(NBS)の存在下、反応活性種となるハロスルホニウム錯体を系中で発生させ、2,4-ジクロロアニソールの臭素化を行った。
具体的には、基質、触媒A、助触媒、及びNBSの比率として、基質の2,4-ジクロロアニソール1モルに対して、硫黄原子換算で0.02モル等量の触媒A、0.01モル当量のAgSbF
6助触媒、及び1.0モル当量のNBSの存在下、大気圧下(1atm)かつ室温で2時間反応させ、2,4-ジクロロ-6-ブロモアニソールを製造した(収率60%)。
【化19】
【0077】
<実施例2-2>
触媒Aを、実施例1-2の触媒Bに変更した以外は、実施例2-1と同様にして、2,4-ジクロロ-6-ブロモアニソールを製造した(収率84%)。
【0078】
<実施例2-3>
触媒Aを、実施例1-3の触媒Cに変更し、助触媒をトリフルオロメタンスルホン酸(0.1モル当量)に変更した以外は、実施例2-1と同様にして、2,4-ジクロロ-6-ブロモアニソールを製造した(収率47%)。
【0079】
<実施例2-4>
触媒Aを、実施例1-4の触媒Dに変更した以外は、実施例2-1と同様にして、2,4-ジクロロ-6-ブロモアニソールを製造した(収率95%)。
【0080】
<実施例2-5>
触媒Aを、実施例1-5の触媒Eに変更し、反応時間を1時間に変更した以外は、実施例2-1と同様にして、2,4-ジクロロ-6-ブロモアニソールを製造した(収率91%)。
【0081】
<実施例2-6>
触媒Aを、実施例1-6の触媒Fに変更し、反応時間を1時間に変更した以外は、実施例2-1と同様にして、2,4-ジクロロ-6-ブロモアニソールを製造した(収率95%)。
【0082】
[比較例2]
<比較例2-1>
触媒を用いない以外は、実施例2-1と同様にして、反応を行った。しかしながら、触媒の不存在下では反応が十分に進まず、2,4-ジクロロ-6-ブロモアニソールを検出できなかった。
【0083】
<比較例2-2>
触媒Aを、比較例1-1の触媒Trip-SMeに変更した以外は、実施例2-1と同様にして、2,4-ジクロロ-6-ブロモアニソールを製造した(収率3%)。
【0084】
<比較例2-3>
触媒Aを、比較例1-2の触媒に変更した以外は、実施例2-1と同様にして、2,4-ジクロロ-6-ブロモアニソールを製造する反応を行った(各種分析において目的生成物の形成は確認できなかった)。
【0085】
<比較例2-4>
触媒Aを、比較例1-3の触媒に変更した以外は、実施例2-1と同様にして、2,4-ジクロロ-6-ブロモアニソールを製造する反応を行った(各種分析において目的生成物の形成は確認できなかった)。
【0086】
[実施例3]
<実施例3-1a>
実施例1-6の触媒F、AgSbF
6助触媒、ハロゲン化剤としてN-ブロモスクシンイミド(NBS)の存在下、反応活性種となるハロスルホニウム錯体を系中で発生させ、アクリル酸フェニルの臭素化を行った。
具体的には、基質のアクリル酸フェニル1モルに対して、0.01モル当量の触媒F、0.02モル当量のAgSbF
6助触媒、及び1.0モル当量のNBSの存在下、大気圧下(1atm)かつ室温で18時間反応させ、3-(4-ブロモフェニル)アクリル酸を製造した(収率40%)。
を用いて、ハロゲン化を行った。
【化20】
【0087】
<実施例3-1b>
反応温度を60℃に変更する以外は、実施例3-1aと同様にして、3-(4-ブロモフェニル)アクリル酸を製造した(収率81%)。
【0088】
[比較例3]
<比較例3-1~3-6>
触媒Fを、下記表2に記載の文献で製造された触媒に変更する以外は、実施例3-1aと同様にして、3-(4-ブロモフェニル)アクリル酸を製造した。結果を
図2に示す。
【表2】
比較例3-1a(室温)及び3-1b(60℃)では、触媒Fの代わりにAuCl
3を触媒に用いた以外は、実施例3-1a及び3-1bと同様にして、3-(4-ブロモフェニル)アクリル酸を製造した。
比較例3-2a(室温)及び3-2b(60℃)では、触媒Fの代わりにFeCl
3を触媒に用いた以外は、実施例3-1a及び3-1bと同様にして、3-(4-ブロモフェニル)アクリル酸を製造した。
比較例3-3a(室温)及び3-3b(60℃)では、触媒Fの代わりに3-ニトロベンゼンスルホンアミド(m-NBSA)と1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)を触媒に用いた以外は、実施例3-1a及び3-1bと同様にして、3-(4-ブロモフェニル)アクリル酸を製造した。
比較例3-4a(室温)及び3-4b(60℃)では、触媒Fの代わりにジメチルスルホキシド(DMSO)を触媒に用いた以外は、実施例3-1a及び3-1bと同様にして、3-(4-ブロモフェニル)アクリル酸を製造した。
比較例3-5a(室温)及び3-5b(60℃)では、[TEMPO][OTf]を触媒に用いて、3-(4-ブロモフェニル)アクリル酸を製造した。
比較例3-6a(室温)及び3-6b(60℃)では、触媒を使用せずに、AgSbF
6の代わりにトリフルオロメタンスルホン酸を助触媒として使用した以外は、実施例3-1a及び3-1bと同様にして、3-(4-ブロモフェニル)アクリル酸を製造した。
【0089】
図2に示される結果から、従来公知の触媒を用いた反応条件では、目的生成物は低収率でしか得られず、また原料の回収率が低いことから副反応の競合が示唆された。
これに対して、実施例3-1bでは、84%収率で目的生成物を得ることができた。特に、実施例3-1bでは、原料の化合物がほぼ100%目的の化合物に転化していることが確認された。
【0090】
[実施例4]
<実施例4-1>
実施例1-6の触媒F、AgSbF
6助触媒、ハロゲン化剤としてN-ブロモスクシンイミド(NBS)の存在下、反応活性種となるハロスルホニウム錯体を系中で発生させ、2-(2-メトキシエトキシエチル)エチル 4-メチルベンゾエート(2-(2-methoxyethoxy)ethyl 4-methylbenzoate)のハロゲン化を行った。
具体的には、基質の2-(2-メトキシエトキシエチル)エチル 4-メチルベンゾエート1モルに対して、0.01モル当量の触媒F、0.02モル当量のAgSbF
6助触媒、及び1.2モル当量のNBSの存在下、1,2-ジクロロエタン溶媒中(基質濃度0.1M)、大気圧下(1atm)かつ60℃で18時間反応させ、下記式で示される化合物を製造した(収率76%)。
【化21】
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ 8.20 (d, J= 1.7 Hz, 1H), 7.87 (dd, J = 1.7, 7.8 Hz, 1H), 7.28 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 4.48-4.45 (m, 2H), 3.83-3.81 (m, 2H), 3.70-3.67 (m, 2H), 3.57-3.55 (m, 2H), 3.38 (s, 3H), 2.44 (s, 3H);
13C NMR (100 MHz, CDCl
3) δ 165.3, 143.4, 133.5, 130.7, 129.4, 128.5, 124.8, 71.9, 70.6, 69.2, 64.3, 59.1, 23.2.
【0091】
<実施例4-2>
実施例1-6の触媒F、AgSbF
6助触媒、ハロゲン化剤としてN-ブロモスクシンイミド(NBS)の存在下、反応活性種となるハロスルホニウム錯体を系中で発生させ、メチル 4-(3-アジドプロポキシ)ベンゾエート(methyl 4-(3-azidopropoxy)benzoate)のハロゲン化を行った。
具体的には、基質のメチル 4-(3-アジドプロポキシ)ベンゾエート1モルに対して、0.02モル当量の触媒F、0.04モル当量のAgSbF
6助触媒、及び1.0モル当量のNBSの存在下、1,2-ジクロロエタン溶媒中(基質濃度0.1M)、大気圧下(1atm)かつ60℃で18時間反応させ、下記式で示される化合物を製造した(収率80%)。
【化22】
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ 8.24 (d, J= 2.1 Hz, 1H), 7.97 (dd, J = 2.1, 8.6 Hz, 1H), 6.91 (d, J = 8.6 Hz, 1H), 4.18 (t, J = 5.9 Hz, 2H), 3.90 (s, 3H), 3.61 (t, J = 6.6 Hz, 2H), 2.16-2.09 (m, 2H);
13C NMR (100 MHz, CDCl
3) δ 165.7, 158.5, 134.9, 130.6, 124.0, 111.9, 65.7, 52.2, 48.0, 28.6 (one peak overlapped).
【0092】
<実施例4-3>
実施例1-6の触媒F、AgSbF
6助触媒、ハロゲン化剤としてN-ブロモスクシンイミド(NBS)の存在下、反応活性種となるハロスルホニウム錯体を系中で発生させ、2-フェニルイソインドリン-1,3-ジオン(2-phenylisoindoline-1,3-dione)のハロゲン化を行った。
具体的には、基質の2-フェニルイソインドリン-1,3-ジオン1モルに対して、0.01モル当量の触媒F、0.02モル当量のAgSbF
6助触媒、及び1.0モル当量のNBSの存在下、1,2-ジクロロエタン溶媒中(基質濃度0.25M)、大気圧下(1atm)かつ室温で14時間反応させ、下記式で示される化合物を製造した(収率97%)。
【化23】
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ 7.95-7.92 (m, 2H), 7.83-7.74 (m, 2H), 7.65-7.57 (m, 2H), 7.37-7.31 (m, 2H);
13C NMR (100 MHz, CDCl
3) δ 166.8, 134.5, 132.2, 131.5, 130.7, 127.9, 123.8, 121.7.
【0093】
<実施例4-4>
実施例1-6の触媒F、AgSbF
6助触媒、ハロゲン化剤としてN-ブロモスクシンイミド(NBS)の存在下、反応活性種となるハロスルホニウム錯体を系中で発生させ、2-(フェニルチオ)イソインドリン-1,3-ジオン(2-(phenylthio)isoindoline-1,3-dione)のハロゲン化を行った。
具体的には、基質の2-(フェニルチオ)イソインドリン-1,3-ジオン1モルに対して、0.01モル当量の触媒F、0.02モル当量のAgSbF
6助触媒、及び1.0モル当量のNBSの存在下、1,2-ジクロロエタン溶媒中(基質濃度0.25M)、大気圧下(1atm)かつ室温で14時間反応させ、下記式で示される化合物を製造した(収率97%)。
【化24】
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ 7.95-7.92 (m, 2H), 7.81-7.78 (m, 2H), 7.51-7.44 (m, 4H);
13C NMR δ 167.6, 134.9, 134.0, 132.8, 132.5, 131.9, 124.2, 124.0.
【0094】
<実施例4-5>
実施例1-6の触媒F、AgSbF
6助触媒、ハロゲン化剤としてN-ブロモスクシンイミド(NBS)の存在下、反応活性種となるハロスルホニウム錯体を系中で発生させ、エチル 4-(エチル(フェニル)アミノ)ブタ-2-イノアート(ethyl 4-(ethyl(phenyl)amino)but-2-ynoate)のハロゲン化を行った。
具体的には、基質のエチル 4-(エチル(フェニル)アミノ)ブタ-2-イノアート1モルに対して、0.01モル当量の触媒F、0.02モル当量のAgSbF
6助触媒、及び1.0モル当量のNBSの存在下、1,2-ジクロロエタン溶媒中(基質濃度0.25M)、大気圧下(1atm)かつ室温で14時間反応させ、下記式で示される化合物を製造した(収率84%)。
【化25】
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ 7.33 (d, J= 9.1 Hz, 2H), 6.67 (d, J = 9.1 Hz, 2H), 4.12 (s, 2H), 3.74 (s, 3H), 3.41 (q, J = 7.1 Hz, 2H), 1.21 (t, J = 7.1 Hz, 3H);
13C NMR (100 MHz, CDCl
3) δ
153.6, 146.4, 132.0. 115.5, 110.2, 84.1, 75.5, 52.8, 46.0, 39.9, 12.3.
【0095】
<実施例4-6>
実施例1-6の触媒F、AgSbF
6助触媒、ハロゲン化剤としてN-ブロモスクシンイミド(NBS)の存在下、反応活性種となるハロスルホニウム錯体を系中で発生させ、4-メトキシフェニル 4-ヒドロキシブタ-2-イノアート(4-methoxyphenyl 4-hydroxybut-2-ynoate)のハロゲン化を行った。
具体的には、基質の4-メトキシフェニル 4-ヒドロキシブタ-2-イノアート1モルに対して、0.01モル当量の触媒F、0.02モル当量のAgSbF
6助触媒、及び1.0モル当量のNBSの存在下、1,2-ジクロロエタン溶媒中(基質濃度0.25M)、大気圧下(1atm)かつ室温で14時間反応させ、下記式で示される化合物を製造した(収率87%)。
【化26】
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ 7.35 (d, J= 2.8 Hz, 1H), 7.06 (dd, J = 2.8, 8.9 Hz, 1H), 6.87 (d, J = 9.0 Hz, 1H), 4.47-4.40 (m, 2H), 3.86 (s, 3H), 2.83 (s, 1H);
13C NMR (100 MHz, CDCl
3) δ 154.2, 151.6, 143.0, 126.1, 121.0, 111.8, 111.5, 88.3, 56.5, 50.5 (one peak overlapped).
【0096】
<実施例4-7>
実施例1-6の触媒F、AgSbF
6助触媒、ハロゲン化剤としてN-ブロモスクシンイミド(NBS)の存在下、反応活性種となるハロスルホニウム錯体を系中で発生させ、2-(4-メトキシベンゾイル)-5-(トリイソプロピルシリル)ペンタ-1-エン-4-イン-3-オン(2-(4-methoxybenzyl)-5-(triisopropylsilyl)pent-1-en-4-yn-3-one)のハロゲン化を行った。
具体的には、基質の2-(4-メトキシベンゾイル)-5-(トリイソプロピルシリル)ペンタ-1-エン-4-イン-3-オン1モルに対して、0.01モル当量の触媒F、0.02モル当量のAgSbF
6助触媒、及び1.0モル当量のNBSの存在下、1,2-ジクロロエタン溶媒中(基質濃度0.25M)、大気圧下(1atm)かつ室温で14時間反応させ、下記式で示される化合物を製造した(収率89%)。
【化27】
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ 7.36 (d, J= 2.2 Hz, 1H), 7.09 (dd, J = 2.2, 8.4 Hz, 1H), 6.82 (d, J = 8.4 Hz, 1H), 6.64 (s, 1H), 5.90-5.84 (m, 1H), 3.86 (s, 3H), 3.54 (s, 2H), 1.15-1.07 (m, 21H);
13C NMR (100 MHz, CDCl
3) δ 178.6, 154.4, 148.6, 133.8, 131.9, 131.7, 129.2, 111.9, 111.5, 102.1, 96.4, 56.2, 34.4 18.4, 11.0; HRMS (APCI) m/z: [M+H]
+ Calcd for C
22H
32BrO
2Si 435.1349; Found 435.1351.
【0097】
[実施例5]
<実施例5-1>
実施例1-6の触媒F、AgSbF
6助触媒、ハロゲン化剤としてN-ブロモスクシンイミド(NBS)の存在下、反応活性種となるハロスルホニウム錯体を系中で発生させ、シプロフィブラートのハロゲン化を行った。
具体的には、基質のシプロフィブラート1モルに対して、0.01モル当量の触媒F、0.02モル当量のAgSbF
6助触媒、及び1.0モル当量のNBSの存在下、1,2-ジクロロエタン溶媒中(基質濃度0.2M)、大気圧下(1atm)かつ室温で18時間反応させ、下記式で示される化合物を製造した(収率90%)。
【化28】
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ 7.46 (d, J= 2.1 Hz, 1H), 7.12 (dd, J = 2.1, 8.4 Hz, 1H), 7.01 (d, J = 8.4 Hz, 1H), 6.69 (very broad, 1H), 2.83 (dd, J = 8.3, 10.6 Hz, 1H), 1.99 (dd, J = 7.5, 10.6 Hz, 1H), 1.79 (dd, J = 7.6, 8.2 Hz, 1H), 1.66 (s, 6H);
13C NMR (100 MHz, CDCl
3) δ 177.6, 151.1, 131.9, 131.3, 128.7, 120.4, 116.7, 81.7, 60.3, 34.3, 26.0, 24.9 (1 peak overlapped).
【0098】
<実施例5-2>
実施例1-6の触媒F、AgSbF
6助触媒、ハロゲン化剤としてN-ブロモスクシンイミド(NBS)の存在下、反応活性種となるハロスルホニウム錯体を系中で発生させ、イソキセパックのハロゲン化を行った。
具体的には、基質のイソキセパック1モルに対して、0.01モル当量の触媒F、0.02モル当量のAgSbF
6助触媒、及び1.0モル当量のNBSの存在下、1,2-ジクロロエタン溶媒中(基質濃度0.1M)、大気圧下(1atm)かつ室温で18時間反応させ、下記式で示される化合物を製造した(収率96%)。
【化29】
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ 8.09 (d, J= 2.1 Hz, 1H), 7.99 (dd, J = 2.1, 7.7 Hz, 1H), 7.74 (d, J = 2.2 Hz, 1H), 7.60-7.56 (m, 1H), 7.51-7.46 (m, 1H), 7.39 (dd, J = 0.8, 7.5 Hz, 1H), 5.30 (s, 2H), 3.67 (s, 2H) (the OH peak not observed);
13C NMR (100 MHz, CDCl
3) δ 189.9, 156.9, 139.9, 139.7, 135.1, 133.1, 132.4, 129.6, 129.5, 127.94, 127.87, 126.5, 115.1, 74.2 (2 peaks overlapped); HRMS (EI) m/z: [M]
+ Calcd for C
16H
11
79BrO
4345.9841; Found 345.9833.
【0099】
<実施例5-3>
実施例1-6の触媒F、AgSbF
6助触媒、ハロゲン化剤としてN-ブロモスクシンイミド(NBS)の存在下、反応活性種となるハロスルホニウム錯体を系中で発生させ、アニラセタムのハロゲン化を行った。
具体的には、基質のアニラセタム1モルに対して、0.02モル当量の触媒F、0.04モル当量のAgSbF
6助触媒、及び2.0モル当量のNBSの存在下、1,2-ジクロロエタン溶媒中(基質濃度0.1M)、大気圧下(1atm)かつ60℃で18時間反応させ、下記式で示される化合物を製造した(収率81%)。
【化30】
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ 7.87 (d, J= 2.0 Hz, 1H), 7.62 (dd, J = 1.9, 8.6 Hz, 1H), 6.89 (d, J = 8.6 Hz, 1H), 3.95-3.91 (m, 5H), 2.62 (t, J = 7.7 Hz, 2H), 2.19-2.10 (m, 2H);
13C NMR (100 MHz, CDCl
3) δ 174.7, 168.7, 158.9, 134.8, 130.6, 127.4, 110.9, 110.5, 56.4, 46.8, 33.3, 17.7.
【0100】
<実施例5-4>
実施例1-6の触媒F、AgSbF
6助触媒、ハロゲン化剤としてN-クロロスクシンイミド(NCS)の存在下、反応活性種となるハロスルホニウム錯体を系中で発生させ、シプロフィブラートのハロゲン化を行った。
具体的には、基質のシプロフィブラート1モルに対して、0.01モル当量の触媒F、0.02モル当量のAgSbF
6助触媒、及び1.0モル当量のNCSの存在下、1,2-ジクロロエタン溶媒中(基質濃度0.2M)、大気圧下(1atm)かつ室温で18時間反応させ、下記式で示される化合物を製造した(収率87%)。
【化31】
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ 8.09 (very broad, 1H), 7.29 (d, J = 2.0 Hz, 1H), 7.09-7.03 (m, 2H), 2.83 (dd, J= 8.3, 10.6 Hz, 1H), 1.99 (dd, J = 7.5, 10.6 Hz, 1H), 1.79 (dd, J= 7.6, 8.2 Hz, 1H), 1.64 (s, 6H);
13C NMR (100 MHz, CDCl
3) δ 178.2, 150.1, 131.1, 130.8, 128.0, 121.0, 81.6, 60.3, 34.4, 26.0, 24.87, 24.86.
【0101】
<実施例5-5>
実施例1-6の触媒F、AgSbF
6助触媒、ハロゲン化剤としてN-クロロスクシンイミド(NCS)の存在下、反応活性種となるハロスルホニウム錯体を系中で発生させ、レフルノミドのハロゲン化を行った。
具体的には、基質のレフルノミド1モルに対して、0.025モル当量の触媒F、0.05モル当量のAgSbF
6助触媒、及び3.0モル当量のNCSの存在下、1,2-ジクロロエタン溶媒中(基質濃度0.1M)、大気圧下(1atm)かつ60℃で18時間反応させ、下記式で示される化合物を製造した(収率88%)。
【化32】
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ 8.65 (d, J= 8.6 Hz, 1H), 8.51 (d, J = 0.5 Hz, 1H), 8.03 (s, 1H), 7.70 (d, J= 1.8 Hz, 1H), 7.59 (ddd, J = 0.5, 1.5, 8.7 Hz, 1H), 2.82 (d, J = 0.6 Hz, 3H);
13C NMR (100 MHz, CDCl
3) δ 173.4, 158.9, 147.7, 137.1, 127.0 (q, J = 33.5 Hz), 126.3 (q, J = 3.7 Hz), 125.2 (q, J = 3.7 Hz), 123.3 (q, J = 272.7 Hz), 122.6, 121.1, 112.0, 12.8;
19F NMR (376 MHz, CDCl
3) δ -62.4.
【0102】
<実施例5-6>
実施例1-6の触媒F、AgSbF
6助触媒、ハロゲン化剤としてN-クロロスクシンイミド(NCS)の存在下、反応活性種となるハロスルホニウム錯体を系中で発生させ、フェノフィブラートのハロゲン化を行った。
具体的には、基質のフェノフィブラート1モルに対して、0.01モル当量の触媒F、0.02モル当量のAgSbF
6助触媒、及び1.0モル当量のNCSの存在下、1,2-ジクロロエタン溶媒中(基質濃度0.1M)、大気圧下(1atm)かつ室温で18時間反応させ、下記式で示される化合物を製造した(収率93%)。
【化33】
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ 7.86 (d, J= 2.2 Hz, 1H), 7.70 (d, J = 8.6 Hz, 2H), 7.59 (dd, J = 2.2, 8.6 Hz, 1H), 7.47 (d, J = 8.6 Hz, 2H), 6.86 (d, J = 8.6 Hz, 1H), 5.10 (sept, J = 6.3 Hz, 1H), 1.69 (s, 6H), 1.23 (d, J = 6.3 Hz, 6H);
13C NMR (100 MHz, CDCl
3) δ 193.2, 172.7, 155.5, 138.8, 135.6, 132.4, 131.15, 131.13, 129.5, 128.7, 125.6, 116.9, 81.0, 69.5, 25.2, 21.5.
【0103】
<実施例5-7>
実施例1-6の触媒F、AgSbF
6助触媒、ハロゲン化剤としてN-ヨードスクシンイミド(NIS)の存在下、反応活性種となるハロスルホニウム錯体を系中で発生させ、ニメスリドのハロゲン化を行った。
具体的には、基質のニメスリド1モルに対して、0.01モル当量の触媒F、0.02モル当量のAgSbF
6助触媒、及び1.0モル当量のNISの存在下、1,2-ジクロロエタン溶媒中(基質濃度0.2M)、大気圧下(1atm)かつ60℃で18時間反応させ、下記式で示される化合物を製造した(収率96%)。
【化34】
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ 6.69 (very broad, 1H), 7.68 (d, J = 2.1 Hz, 1H), 7.14 (dd, J = 1.9, 8.5 Hz, 1H), 6.89 (d, J = 8.5 Hz, 1H), 2.81 (dd, J = 8.4, 10.5 Hz, 1H), 1.97 (dd, J = 7.5, 10.4 Hz, 1H), 1.78 (t, J = 8.0 Hz, 1H), 1.69 (s, 6H);
13C NMR (100 MHz, CDCl
3) δ 178.8, 153.9, 134.0, 131.2, 129.7, 118.2, 91.4, 81.3, 60.4, 34.1, 26.0, 25.2.
【0104】
<実施例5-8>
実施例1-6の触媒F、AgSbF
6助触媒、ハロゲン化剤としてN-ヨードスクシンイミド(NIS)の存在下、反応活性種となるハロスルホニウム錯体を系中で発生させ、シプロフィブラートのハロゲン化を行った。
具体的には、基質のシプロフィブラート1モルに対して、0.01モル当量の触媒F、0.02モル当量のAgSbF
6助触媒、及び1.0モル当量のNISの存在下、1,2-ジクロロエタン溶媒中(基質濃度0.2M)、大気圧下(1atm)かつ室温で18時間反応させ、下記式で示される化合物を製造した(収率96%)。
【化35】
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ 7.95-7.92 (m, 2H), 7.81-7.78 (m, 2H), 7.51-7.44 (m, 4H);
13C NMR δ 167.6, 134.9, 134.0, 132.8, 132.5, 131.9, 124.2, 124.0.
【0105】
<実施例5-9>
実施例1-6の触媒F、AgSbF
6助触媒、ハロゲン化剤としてN-ヨードスクシンイミド(NIS)の存在下、反応活性種となるハロスルホニウム錯体を系中で発生させ、クロフィブラートのハロゲン化を行った。
具体的には、基質のクロフィブラート1モルに対して、0.01モル当量の触媒F、0.02モル当量のAgSbF
6助触媒、及び1.0モル当量のNISの存在下、1,2-ジクロロエタン溶媒中(基質濃度0.2M)、大気圧下(1atm)かつ室温で18時間反応させ、下記式で示される化合物を製造した(収率98%)。
【化36】
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ 6.69 (very broad, 1H), 7.68 (d, J = 2.1 Hz, 1H), 7.14 (dd, J = 1.9, 8.5 Hz, 1H), 6.89 (d, J = 8.5 Hz, 1H), 2.81 (dd, J = 8.4, 10.5 Hz, 1H), 1.97 (dd, J = 7.5, 10.4 Hz, 1H), 1.78 (t, J = 8.0 Hz, 1H), 1.69 (s, 6H);
13C NMR (100 MHz, CDCl
3) δ 178.8, 153.9, 134.0, 131.2, 129.7, 118.2, 91.4, 81.3, 60.4, 34.1, 26.0, 25.2; HRMS (EI) m/z: [M]
+ Calcd for C
13H
13
35Cl
37ClO
3I 415.9257; Found 415.9270.
【0106】
<実施例5-10>
実施例1-6の触媒F、AgSbF
6助触媒、ハロゲン化剤としてN-ヨードスクシンイミド(NIS)の存在下、反応活性種となるハロスルホニウム錯体を系中で発生させ、フルルビプロフェンのハロゲン化を行った。
具体的には、基質のフルルビプロフェン1モルに対して、0.01モル当量の触媒F、0.02モル当量のAgSbF
6助触媒、及び1.0モル当量のNISの存在下、1,2-ジクロロエタン溶媒中(基質濃度0.1M)、大気圧下(1atm)かつ60℃で18時間反応させ、下記式で示される化合物を製造した(収率76%)。
【化37】
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ 7.76 (d: A
2portion of A
2B
2, J = 8.6 Hz, 2H), 7.36 (t, J= 8.0 Hz, 1H), 7.29-7.24 (m, 2H), 7.19-7.12 (m, 2H), 3.78 (q, J = 7.2 Hz, 1H), 1.55 (d, J = 7.2 Hz, 3H) (the OH peak not observed);
13C NMR (100 MHz, CDCl
3) δ 179.2, 159.5 (d, J = 248.7 Hz), 141.5 (d, J = 7.7 Hz), 137.6, 134.9, 130.7 (d, J = 3.0 Hz), 130.5 (d, J= 3.7 Hz), 127.1 (d, J = 13.1 Hz), 123.8 (d, J = 3.5 Hz), 115.5 (d, J = 23.6 Hz), 93.7, 44.7, 18.0;
19F NMR (376 MHz, CDCl
3) δ -117.1; HRMS (EI) m/z: [M]
+ Calcd for C
15H
12FO
2I 369.9867; Found 369.9873.
【0107】
[実施例6]
<実施例6-1>
実施例1-6の触媒F、AgSbF
6助触媒、ハロゲン化剤としてN-ブロモスクシンイミド(NBS)の存在下、反応活性種となるハロスルホニウム錯体を系中で発生させ、o-テルフェニルのハロゲン化を行った。
具体的には、基質のo-テルフェニル1モルに対して、0.025モル当量の触媒F、0.05モル当量のAgSbF
6助触媒、及び2.0モル当量のNBSの存在下、1,2-ジクロロエタン溶媒中(基質濃度0.1M)、大気圧下(1atm)かつ室温で24時間反応させ、下記式で示される化合物を製造した(収率81%)。
【化38】
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ 7.45-7.36 (m, 8H), 7.00 (d, J = 8.6 Hz, 4H);
13C NMR (100 MHz, CDCl
3) δ 140.1, 139.2, 131.5, 131.3, 130.5, 128.0, 121.0.
【0108】
<実施例6-2>
実施例1-6の触媒F、AgSbF
6助触媒、ハロゲン化剤としてN-ブロモスクシンイミド(NBS)の存在下、反応活性種となるハロスルホニウム錯体を系中で発生させ、o-テルフェニルのハロゲン化を行った。
具体的には、基質のo-テルフェニル1モルに対して、0.025モル当量の触媒F、0.05モル当量のAgSbF
6助触媒、及び3.0モル当量のNBSの存在下、1,2-ジクロロエタン溶媒中(基質濃度0.1M)、大気圧下(1atm)かつ60℃で24時間反応させ、下記式で示される化合物を製造した(収率76%)。
【化39】
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ 7.56-7.53 (m, 2H), 7.39-7.36 (m, 4H), 7.24 (dd, J = 0.7, 7.9 Hz, 1H), 6.98-6.94 (m, 4H);
13C NMR (100 MHz, CDCl
3) δ 141.1, 138.9, 138.7, 138.1, 133.2, 132.0, 131.45, 131.42, 131.3, 131.2, 131.0, 121.9, 121.6, 121.4.
【0109】
<実施例6-3>
実施例1-6の触媒F、AgSbF
6助触媒、ハロゲン化剤としてN-ブロモスクシンイミド(NBS)の存在下、反応活性種となるハロスルホニウム錯体を系中で発生させ、o-テルフェニルのハロゲン化を行った。
具体的には、基質のo-テルフェニル1モルに対して、0.025モル当量の触媒F、0.05モル当量のAgSbF
6助触媒、及び5.0モル当量のNBSの存在下、1,2-ジクロロエタン溶媒中(基質濃度0.1M)、大気圧下(1atm)かつ60℃で24時間反応させ、下記式で示される化合物を製造した(収率80%)。
【化40】
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ 7.63 (s, 2H), 7.38 (d, J = 8.6 Hz, 4H), 6.94 (d, J = 8.6 Hz, 4H);
13C NMR (100 MHz, CDCl
3) δ 139.8, 137.7, 135.1, 131.6, 131.1, 124.2, 121.9.
【0110】
近年、ナノグラフェンやカーボンナノチューブに代表されるナノカーボン材料に関する研究が活発に行われており、その製造に際して、同一分子内に複数のハロゲン置換基を有する、多重ハロゲン化合物は有力なビルディングブロックとなることが期待される。しかしながら、複数のハロゲン置換基を一挙に導入するには、一般に厳しい反応条件(例えば、臭素や塩素をハロゲン化剤として、強酸とともに高温加熱するなど)が必要となり、選択性を制御した化学合成は極めて困難な課題であった。実際、o-テルフェニルの臭素化反応は、複雑な混合物を与える反応例しか報告されていない [C. F. H. Allen, F. P. Pingert, J. Am. Chem. Soc. 64, 11, 2639-2643 (1942).]。
これに対して、実施例6-1から6-3の結果のように、本発明に係るカルボラン触媒を用いた条件では、NBSの使用量をo-テルフェニルに対して2~5当量に調整することで、ジブロモ化、トリブロモ化及びテトラブロモ化生成物をそれぞれ高収率で得ることができた。
その他にも、ペンタクロロフェナントレン、ヘキサクロロクリセンのように、文献未知の多重ハロゲン化合物を、市販の炭化水素分子から単工程で得ることも可能である。
【0111】
<実施例6-4>
実施例1-6の触媒F、AgSbF
6助触媒、ハロゲン化剤としてN-クロロスクシンイミド(NCS)の存在下、反応活性種となるハロスルホニウム錯体を系中で発生させ、テトラフェニルメタンのハロゲン化を行った。
具体的には、基質のテトラフェニルメタン1モルに対して、0.025モル当量の触媒F、0.05モル当量のAgSbF
6助触媒、及び5.0モル当量のNCSの存在下、1,2-ジクロロエタン溶媒中(基質濃度0.2M)、大気圧下(1atm)かつ60℃で24時間反応させ、下記式で示される化合物を製造した(収率94%)。
【化41】
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ 7.24 (d, J= 8.8 Hz, 2H), 7.07 (d, J = 8.7 Hz, 2H);
13C NMR (100 MHz, CDCl
3) δ 144.1, 132.6, 132.0, 128.1, 63.3.
【0112】
<実施例6-5>
実施例1-6の触媒F、AgSbF
6助触媒、ハロゲン化剤としてN-ブロモスクシンイミド(NBS)の存在下、反応活性種となるハロスルホニウム錯体を系中で発生させ、テトラフェニルメタンのハロゲン化を行った。
具体的には、基質のテトラフェニルメタン1モルに対して、0.025モル当量の触媒F、0.05モル当量のAgSbF
6助触媒、及び4.0モル当量のNBSの存在下、1,2-ジクロロエタン溶媒中(基質濃度0.2M)、大気圧下(1atm)かつ室温で24時間反応させ、下記式で示される化合物を製造した(収率82%)。
【化42】
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ 7.39 (d, J= 8.8 Hz, 8H), 7.01 (d, J = 8.8 Hz, 8H);
13C NMR (100 MHz, CDCl
3) δ 144.4, 132.4, 131.1, 120.8, 63.6.
【0113】
<実施例6-6>
実施例1-6の触媒F、AgSbF
6助触媒、ハロゲン化剤としてN-ブロモスクシンイミド(NBS)の存在下、反応活性種となるハロスルホニウム錯体を系中で発生させ、ヘキサフェニルベンゼンのハロゲン化を行った。
具体的には、基質のヘキサフェニルベンゼン1モルに対して、0.025モル当量の触媒F、0.05モル当量のAgSbF
6助触媒、及び1.0モル当量のNBSの存在下、1,2-ジクロロエタン溶媒中(基質濃度0.05M)、大気圧下(1atm)かつ60℃で24時間反応させ、下記式で示される化合物を製造した(収率92%)。
【化43】
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ 7.05 (d, J= 8.5 Hz, 12H), 6.61 (d, J = 8.5 Hz, 12H);
13C NMR (100 MHz, CDCl
3) δ 139.5, 138.4, 132.5, 130.4, 120.3.
【0114】
<実施例6-7>
実施例1-6の触媒F、AgSbF
6助触媒、ハロゲン化剤としてN-クロロスクシンイミド(NCS)の存在下、反応活性種となるハロスルホニウム錯体を系中で発生させ、2,6-ジブロモナフタレンのハロゲン化を行った。
具体的には、基質の2,6-ジブロモナフタレン1モルに対して、0.025モル当量の触媒F、0.05モル当量のAgSbF
6助触媒、及び4.0モル当量のNCSの存在下、1,2-ジクロロエタン溶媒中(基質濃度0.1M)、大気圧下(1atm)かつ60℃で24時間反応させ、下記式で示される化合物を製造した(収率65%)。
【化44】
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ 8.17 (d, J= 9.2 Hz, 1H), 7.89 (s, 1H), 7.83 (d, J = 9.2 Hz, 1H);
13C NMR (100 MHz, CDCl
3) δ 134.9, 133.4, 132.9, 131.7, 130.9, 129.9, 128.6, 126.9, 125.8, 121.0.
【0115】
<実施例6-8>
実施例1-6の触媒F、AgSbF
6助触媒、ハロゲン化剤としてN-クロロスクシンイミド(NCS)の存在下、反応活性種となるハロスルホニウム錯体を系中で発生させ、2,7-ジブロモナフタレンのハロゲン化を行った。
具体的には、基質の2,7-ジブロモナフタレン1モルに対して、0.025モル当量の触媒F、0.05モル当量のAgSbF
6助触媒、及び2.0モル当量のNCSの存在下、1,2-ジクロロエタン溶媒中(基質濃度0.1M)、大気圧下(1atm)かつ室温で24時間反応させ、下記式で示される化合物を製造した(収率74%)。
【化45】
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ 7.72 (d, J= 8.8 Hz, 2H), 7.53 (d, J = 8.8 Hz, 2H);
13C NMR (100 MHz, CDCl
3) δ 134.4, 131.5, 130.3, 130.0, 128.6, 126.8.
【0116】
<実施例6-9>
実施例1-6の触媒F、AgSbF
6助触媒、ハロゲン化剤としてN-クロロスクシンイミド(NCS)の存在下、反応活性種となるハロスルホニウム錯体を系中で発生させ、フェナントレンのハロゲン化を行った。
具体的には、基質のフェナントレン1モルに対して、0.025モル当量の触媒F、0.05モル当量のAgSbF
6助触媒、及び5.0モル当量のNCSの存在下、1,2-ジクロロエタン溶媒中(基質濃度0.05M)、大気圧下(1atm)かつ室温で24時間反応させ、下記式で示される化合物を製造した(収率49%)。
【化46】
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ 9.30 (dd, J= 1.1, 8.6 Hz, 1H), 7.73 (dd, J = 1.1, 7.8 Hz, 1H), 7.61 (d, J = 8.3 Hz, 1H), 7.54 (d, J = 8.3 Hz, 1H), 7.49 (dd, J = 7.8, 8.5 Hz, 1H);
13C NMR (100 MHz, CDCl
3) δ 132.8, 131.6, 131.5, 131.0, 130.7, 130.6, 130.5, 130.1, 130.0, 128.8, 127.5, 126.8, 125.6 (1 peak overlapped).
【0117】
<実施例6-10>
実施例1-6の触媒F、AgSbF
6助触媒、ハロゲン化剤としてN-クロロスクシンイミド(NCS)の存在下、反応活性種となるハロスルホニウム錯体を系中で発生させ、クリセンのハロゲン化を行った。
具体的には、基質のクリセン1モルに対して、0.025モル当量の触媒F、0.05モル当量のAgSbF
6助触媒、及び6.0モル当量のNCSの存在下、1,2-ジクロロエタン溶媒中(基質濃度0.1M)、大気圧下(1atm)かつ室温で48時間反応させ、下記式で示される化合物を製造した(収率19%)。
【化47】
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ 8.86 (dd, J = 1.2, 8.5 Hz, 2H), 7.75 (dd, J= 1.2, 7.8 Hz, 2H), 7.50 (dd, J = 7.8, 8.5 Hz, 2H);
13C NMR (100 MHz, CDCl
3) δ 132.6, 131.3, 131.0, 129.75, 129.73, 129.4, 127.4, 126.7, 126.5.
上記のように、本発明に係るカルボラン触媒は、従来技術と比較して優れた反応活性を有し、さらに高い選択性を有しており、当該分野における革新的な効果が十分に認められた。
これまで困難とされてきた化学合成プロセスの劇的な効率化を実現するとともに、多様な新規ビルディングブロックを創出できることは、学術的及び産業的に多大な波及効果を持つものと考えられる。