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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165221
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】高速3次元撮影装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01J 3/36 20060101AFI20241121BHJP
   G01J 3/18 20060101ALI20241121BHJP
   G01J 3/26 20060101ALI20241121BHJP
   G02B 21/06 20060101ALI20241121BHJP
   G02B 21/36 20060101ALI20241121BHJP
   G02B 21/00 20060101ALI20241121BHJP
   H04N 23/55 20230101ALI20241121BHJP
   H04N 23/56 20230101ALI20241121BHJP
   H04N 23/60 20230101ALI20241121BHJP
   H04N 13/218 20180101ALI20241121BHJP
【FI】
G01J3/36
G01J3/18
G01J3/26
G02B21/06
G02B21/36
G02B21/00
H04N23/55
H04N23/56
H04N23/60 500
H04N13/218
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081172
(22)【出願日】2023-05-17
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「世界最高速の3次元カメラの開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100103137
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 滋
(72)【発明者】
【氏名】中川 桂一
(72)【発明者】
【氏名】島田 啓太郎
【テーマコード(参考)】
2G020
2H052
5C122
【Fターム(参考)】
2G020CC02
2G020CC26
2G020CC63
2G020CD04
2G020CD24
2H052AB01
2H052AB24
2H052AC05
2H052AC09
2H052AC25
2H052AC34
2H052AF14
2H052AF25
5C122DA03
5C122DA30
5C122EA59
5C122FA04
5C122FA08
5C122FB03
5C122FB16
5C122FB17
5C122FC01
5C122FC02
5C122FH18
5C122GG01
5C122GG21
5C122HB05
5C122HB06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高速現象の3次元プロファイルを連続撮影可能な手法を提供する。
【解決手段】波長の異なる複数の部分からなる伸長パルスを異なる角度から対象に入射させることで、異なる角度から入射された各伸長パルスの各部分に、波長に対応した時間において角度に依存した対象の像情報を保持させること;前記像情報を保持した伸長パルスを、波長毎かつ角度毎に空間的に分離して、波長毎かつ角度毎の複数の2次元画像情報として検出すること;各波長において、複数角度における複数の2次元画像情報から3次元画像を再構成すること;からなる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
光源から出射されたパルスを伸長して、波長の異なる複数の部分からなる伸長パルスを生成する遅延生成器と、
前記伸長パルスを分割して、異なる角度から対象に入射させる多角度照明器と、
各部分に波長に対応した時間において角度に依存した対象の像情報が保持された各伸長パルスを、像情報が保持された状態で波長毎かつ角度毎に空間的に分離して分離要素を生成する空間分離器と、
像情報が保持された各分離要素を、複数の2次元画像情報として検出するイメージセンサと、
各波長において、複数角度における複数の2次元画像情報から3次元画像を再構成する3次元再構成手段と、
からなる高速3次元撮影装置。
【請求項2】
前記光源は、超短パルス光源である、
請求項1に記載の高速3次元撮影装置。
【請求項3】
前記伸長パルスは、10 ns 以下のフレーム間隔で像情報が取得可能な波長分散を有している、
請求項1または2に記載の高速3次元撮影装置。
【請求項4】
前記多角度照明器は、前記遅延生成器から入射された伸長パルスを複数の伸長パルスに分割する回折光学素子を備えている、
請求項1に記載の高速3次元撮影装置。
【請求項5】
前記空間分離器は、各伸長パルスを、像情報が保持された状態で、角度に応じて空間的に分離する第1光学系と、波長に応じて空間的に分離する第2光学系と、を含んでいる、請求項1に記載の高速3次元撮影装置。
【請求項6】
前記第1光学系は、レンズと、レンズアレイを含む、
請求項5に記載の高速3次元撮影装置。
【請求項7】
前記第2光学系は、回折光学素子と、バンドパスフィルタを含む、
請求項5または6に記載の高速3次元撮影装置。
【請求項8】
前記空間分離器は、前記複数の2次元画像情報がイメージセンサ上で分離して結像されるように、各伸長パルスを空間的に分離して前記分離要素を生成する、
請求項1に記載の高速3次元撮影装置。
【請求項9】
光源と、
光源から出射されたパルスを伸長して、波長の異なる複数の部分からなる伸長パルスを生成する遅延生成器と、
前記伸長パルスを分割して、異なる角度から対象に入射させる多角度照明器と、
各部分に波長に対応した時間において角度に依存した対象の像情報が保持された各伸長パルスを、像情報が保持された状態で波長毎かつ角度毎に空間的に分離して分離要素を生成する空間分離器と、
像情報が保持された各分離要素を、複数の2次元画像情報として検出するイメージセンサと、
からなる高速撮影装置。
【請求項10】
波長の異なる複数の部分からなる伸長パルスを異なる角度から対象に入射させることで、異なる角度から入射された各伸長パルスの各部分に、波長に対応した時間において角度に依存した対象の像情報を保持させること、
前記像情報を保持した伸長パルスを、波長毎かつ角度毎に空間的に分離して、波長毎かつ角度毎の複数の2次元画像情報として検出すること、
各波長において、複数角度における複数の2次元画像情報から3次元画像を再構成すること、
を含む、高速3次元撮影方法。
【請求項11】
各伸長パルスを、像情報が保持された状態で、角度に応じて空間的に分離する第1分離ステップと、波長に応じて空間的に分離する第2分離ステップで分離することで、波長毎かつ角度毎の複数の分離要素を取得する、
請求項10に記載の高速3次元撮影方法。
【請求項12】
前記分離要素を、イメージセンサ上で結像することで前記複数の2次元画像情報を検出する、
請求項11に記載の高速3次元撮影方法。
【請求項13】
前記伸長パルスは、10 ns 以下のフレーム間隔で像情報が取得可能な波長分散を有している、
請求項10に記載の高速3次元撮影方法。
【請求項14】
波長の異なる複数の部分からなる伸長パルスを異なる角度から対象に入射させることで、異なる角度から入射された各伸長パルスの各部分に、波長に対応した時間において角度に依存した対象の像情報を保持させること、
前記像情報を保持した伸長パルスを、波長毎かつ角度毎に空間的に分離して、波長毎かつ角度毎の複数の2次元画像情報として検出すること、
を含む、高速撮影方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速3次元撮影装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超高速イメージングは、プラズマや衝撃波など、フェムト秒からナノ秒の時間領域で生じる高速現象の詳細を理解するために強力なツールである。機械的・電気的な動作を一切排除することで、高速度カメラの撮影速度の制限を解決し、高速度カメラでは捉えられない現象を連続撮影するため、これまでに超短パルスを用いたナノ秒以下の時間分解能の光学的高速撮影手法が開発されてきた(特許文献1、非特許文献1)。
【0003】
対象(高速現象)の3次元形状は、対象の光学特性の3次元分布、すなわち、3次元プロファイルとして規定される。ここで、既存のナノ秒以下の時間分解能の高速撮影手法(特許文献1及び非特許文献1)は、取得可能な空間が2次元に制限される。そのため、高速現象の解析には、現象の軸対称性などを考慮して3次元プロファイルを仮定する必要がある。
【0004】
しかしながら、本来計測を必要とする複雑現象では、電磁波や材料の不均一性や確率的事象により、3次元プロファイルを仮定することは困難であり、従来の手法では、3次元的に複雑な高速現象の正確な3次元プロファイルを取得できない。非特許文献2には、複数角度からの現象の情報を、レンズアレイを用いて空間的に分離して取得し、3次元分布を再構成する手法が開示されているが、ナノ秒以下の分解能での連写撮影はできない。したがって、対象の3次元プロファイルを計測可能な、超高速シングルショット撮影技術が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6120280号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】K. Nakagawa, A. Iwasaki, Y. Oishi, R. Horisaki, A. Tsukamoto, A. Nakamura, K. Hirosawa, H. Liao, T. Ushida, K. Goda, F. Kannari and I. Sakuma, “Sequentially timed all-optical mapping photography (STAMP)” Nature Photonics 8, 695-700 (2014).
【非特許文献2】K. L. Baker, “Tomographic reconstruction of high-energy-density plasmas with picosecond temporal resolution” Optics Letters 31(6), 730-732 (2006).
【非特許文献3】H. Kudo et al., “Image reconstruction for sparse-view CT and interior CT-introduction to compressed sensing and differentiated” Quantitative imaging in medicine and surgery (2013)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、高速現象の3次元プロファイルを連続撮影可能な手法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明が採用した第1の技術手段は、
光源と、
光源から出射されたパルスを伸長して、波長の異なる複数の部分からなる伸長パルスを生成する遅延生成器と、
前記伸長パルスを分割して、異なる角度から対象に入射させる多角度照明器と、
各部分に波長に対応した時間において角度に依存した対象の像情報が保持された各伸長パルスを、像情報が保持された状態で波長毎かつ角度毎に空間的に分離して分離要素を生成する空間分離器と、
像情報が保持された各分離要素を、複数の2次元画像情報として検出するイメージセンサと、
各波長において、複数角度における複数の2次元画像情報から3次元画像を再構成する3次元再構成手段と、
からなる高速3次元撮影装置、である。
【0009】
1つの態様では、前記光源は、超短パルス光源である。
1つの態様では、前記伸長パルスは、10 ns 以下のフレーム間隔で像情報が取得可能な波長分散(波長に応じた時間遅延)を有している。
1つの態様では、伸長パルスはパルス列である。
1つの態様では、異なるフレーム間隔の像情報を提供可能な複数種類の伸長パルスを生成可能な複数の遅延生成器を備えており、これらの遅延生成器を選択可能としてもよい。
【0010】
1つの態様では、前記多角度照明器は、前記遅延生成器から入射された伸長パルスを複数の伸長パルスに分割する回折光学素子を備えている。
【0011】
1つの態様では、前記空間分離器は、各伸長パルスを、像情報が保持された状態で、角度に応じて空間的に分離する第1光学系と、波長に応じて空間的に分離する第2光学系と、を含んでいる。
1つの態様では、前記第1光学系は、レンズと、レンズアレイを含んでいる。
1つの態様では、前記第2光学系は、回折光学素子と、バンドパスフィルタを含んでいる。
【0012】
1つの態様では、前記空間分離器は、前記複数の2次元画像情報がイメージセンサ上で分離して結像されるように、各伸長パルスを空間的に分離する。
【0013】
1つの態様では、前記イメージセンサは、CCDイメージセンサ、CMOSイメージセンサから選択される。
1つの態様では、前記3次元再構成手段は、3Dトモグラフィック再構成である。
【0014】
本発明が採用した第2の技術手段は、
光源と、
光源から出射されたパルスを伸長して、波長の異なる複数の部分からなる伸長パルスを生成する遅延生成器と、
前記伸長パルスを分割して、異なる角度から対象に入射させる多角度照明器と、
各部分に波長に対応した時間において角度に依存した対象の像情報が保持された各伸長パルスを、像情報が保持された状態で波長毎かつ角度毎に空間的に分離して分離要素を生成する空間分離器と、
像情報が保持された各分離要素を、複数の2次元画像情報として検出するイメージセンサと、
からなる高速撮影装置、である。
【0015】
本発明が採用した第3の技術手段は、
波長の異なる複数の部分からなる伸長パルスを異なる角度から対象に入射させることで、異なる角度から入射された各伸長パルスの各部分に、波長に対応した時間において角度に依存した対象の像情報を保持させること、
前記像情報を保持した伸長パルスを、波長毎かつ角度毎に空間的に分離して、波長毎かつ角度毎の複数の2次元画像情報として検出すること、
各波長において、複数角度における複数の2次元画像情報から3次元画像を再構成すること、
を含む、高速3次元撮影方法、である。
【0016】
1つの態様では、各伸長パルスを、像情報が保持された状態で、角度に応じて空間的に分離する第1分離ステップと、波長に応じて空間的に分離する第2分離ステップで分離することで、波長毎かつ角度毎の複数の分離要素を取得する。
第1分離ステップと第2分離ステップが実行される時間的な順序は限定されるものではなく、第1分離ステップが先でも、第2分離ステップが先でも、あるいは、第1分離ステップと第2分離ステップが実質的に同時に実行されてもよい。
【0017】
1つの態様では、前記分離要素を、イメージセンサ上で結像することで前記複数の2次元画像情報を検出する。
1つの態様では、前記複数の2次元画像情報は、イメージセンサ上で分離して結像されている。
【0018】
1つの態様では、前記伸長パルスは、超短パルスを伸長することで得られる。
1つの態様では、前記伸長パルスは、10 ns 以下のフレーム間隔で像情報が取得可能な波長分散(波長に応じた時間遅延)を有している。
【0019】
本発明が採用した第4の技術手段は、
波長の異なる複数の部分からなる伸長パルスを異なる角度から対象に入射させることで、異なる角度から入射された各伸長パルスの各部分に、波長に対応した時間において角度に依存した対象の像情報を保持させること、
前記像情報を保持した伸長パルスを、波長毎かつ角度毎に空間的に分離して、波長毎かつ角度毎の複数の2次元画像情報として検出すること、
を含む、高速撮影方法、である。
【0020】
高速現象の3次元プロファイルの取得を考えた時に、得られる3次元情報は対象によって異なり得る。例えば、像情報が物体の持つ吸収係数により定まる物体を撮影する場合には、3次元の吸収係数分布が取得される。像情報が散乱係数により定まる物体を撮影する場合は、3次元の散乱係数が取得される。非透過物体を対象とする場合は、その物体の3次元分布・形状が取得される。対象に応じて得られる3次元情報は、撮影対象の光学特性に起因するものであることから、本明細書において、「対象の3次元プロファイル」は、「対象の光学特性の3次元分布」と言い換えることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、ナノ秒以下の時間領域で発生する高速現象の3次元プロファイルのシングルショット連続撮影を可能とする。従来手法では取得可能な空間が2次元に制限されるため、軸対称性など3次元プロファイルを仮定して解析が行われている。しかしながら、本来計測を必要とする複雑現象では、電磁波や材料の不均一性や確率的事象によりそのように仮定することは困難である。本発明は、対象となる高速現象の3次元プロファイルを撮影することで、高速現象の3次元プロファイルの仮定を必要とせずに、高速現象の詳細な解析を可能とする。
【0022】
本発明は、これまで取得可能な空間が2次元に限られているがために、詳細が不明であった超高速現象の、3次元ダイナミクスを可視化することができる。これにより、加工・エネルギ・環境・医療など多分野の科学技術において重要な、レーザ誘起プラズマや絶縁破壊、放電、衝撃波、結晶化学反応、音響生体作用など、多様な高速現象の解析が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本実施形態に係る高速3次元撮影システムの全体図である。
図2】本実施形態に係る高速3次元撮影方法を示すフロー図である。
図3】10ps以下(100fs~10ps)のフレーム間隔を実現するための遅延生成器の実施例を示す概念図である。
図4】10ps~50psのフレーム間隔を実現するための遅延生成器の実施例を示す概念図である。
図5】50ps~数ns(10ns)のフレーム間隔を実現するための遅延生成器の実施例を示す概念図である。
図6】異なるパルス間隔を備えた伸長パルス(パルス列)を例示する。
図7】本実施形態に係る多角度照明器(伸長パルス分割器)を示す図である。
図7A】他の実施形態に係る多角度照明器を示す図である。
図7B】さらに他の実施形態に係る多角度照明器を示す図である。
図8】本実施形態に係る照明系(多角度照明器)及び検出系(図14)を示す。
図9】本実施形態に係る検出系を説明する概念図である。
図10】イメージセンサ上に集約された像情報(2次元画像)及び再構成された3次元画像を示す概念図である。
図11図9(A)に係る光学系を概念図である。
図12図9(B)に係る光学系を示す図である。
図13図9(B)に係る光学系を示す図である。
図14図9(C)に係る光学系を示す図である。
図15図9(C)に係る光学系を示す図である。
図16図8に類似の図であり、光学系の設計を説明する図である。
図17図9(C)に係る光学系のイメージセンサ上の投影図を示す。
図18】各波長、各角度の投影像を全て空間的に離散化した高速現象の撮影を例示する図である。
図19】本実施形態に係る3次元再構成手法を説明する図である。
図20】波長の異なる複数の部分からなる伸長パルスと、空間分離器で分離された分離要素(像情報)の波長成分の時間間隔βと、の対応を説明する図であり、上図は、伸長パルスとして例示するパルス列における時間間隔αを示している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[A]高速3次元撮影システム及び方法の概要
[A-1]高速3次元撮影システムの概要
本実施形態に係る3次元高速撮影システムの概要を図1に例示する。本実施形態に係る3次元高速撮影システムは、対象を照射する照射光を生成する照明系と、対象が配置される撮影部と、撮影部からの出射光(対象を透過ないし反射した光)を検出する検出系を備え、照明系からの照明光が撮影部において対象(現象)を照明する。撮影部からの出射光(透過光や反射光)は対象(現象)の像情報を保持しており、検出系において、出射光に保持された像情報を検出する。本実施形態に係る3次元高速撮影システムでは、検出系で検出された像情報(複数の2次元画像情報)を用いて、各波長において、複数角度における複数の2次元画像から3次元画像を再構成する3次元再構成手段(3D動画像再構成装置)を備えており、検出された像情報(2次元画像情報)を3次元再構成することで対象の3次元動画情報を取得する。
【0025】
照明系は、超短パルス光源と、超短パルス光源から出射されたパルスを伸長して、波長の異なる複数の部分からなる伸長パルスを生成する遅延生成器(パルスストレッチャ)と、伸長パルスを分割して、異なる角度から対象に入射させるパルス分割器(多角度照明器)と、からなる。照明系において、波長の異なる複数の部分からなる照射光が複数用意され、これらの照射光を、複数角度から現象に入射させるようになっている。
【0026】
撮影部において、それぞれ異なる角度から複数の照射光(伸長パルス)が対象に照射され、各部分(波長成分)には、波長に対応した時間において異なる角度に依存した対象の像情報が保持される。超高速現象に対して、波長の異なる複数の部分からなる伸長パルス(例えば、波長の異なるパルスからなるパルス列)を、複数の角度から入射させると、波長λ1のパルスが時間t1、波長λ5のパルスが時間t5に現象を通過するようになっており、各パルス(λ12,...λn)の通過タイミングt1~tnが異なるため、それぞれの波長に対応する時間の像情報が取得される。像情報が保持された各伸長パルスは、例えば、透過光ないし反射光として、撮影部から異なる角度θ1~θmで出射される。
【0027】
検出系は、異なる角度θ1~θmで撮影部から出射された各伸長パルスを、像情報が保持された状態で波長毎かつ角度毎に空間的に分離する空間分離器と、空間分離器で空間的に分離された光、すなわち、像情報が保持された状態で空間的に分離された伸長パルスの分離要素を、複数の2次元画像情報として検出する撮像素子ないしイメージセンサと、からなる。典型的には、空間分離器で空間的に分離された出射光ないし分離要素(2次元画像情報)は、イメージセンサの受光面上の異なる位置で結像されて検出される。
【0028】
検出系では、空間分離器によって、各角度、各波長のパルスが持つ全ての像情報を分離要素としてイメージセンサ上に集約させることで、各波長つまり各時間における、複数角度の2次元画像を取得でき、それぞれの2次元画像から対象の3次元プロファイルをトモグラフィック再構成(Tomographic Reconstruction)して、超高速3次元動画像を取得できる。なお、本実施形態に係る3次元高速撮影システムにおいて、検出系を広義に捉えると、3D動画像再構成装置は検出系の構成要素となり、検出系を狭義に捉えると、本実施形態に係る3次元高速撮影システムは、照明系(光学系)と、撮影部と、検出系(光学系)と、3D動画像再構成装置(コンピュータから構成され得る)からなると考えらえる。
【0029】
[A-2]高速3次元撮影方法の概要
本実施形態に係る高速3次元撮影方法は、波長の異なる複数の部分からなる伸長パルスを異なる角度から対象に入射させることで、異なる角度から入射された各伸長パルスの各部分に、波長に対応した時間において角度に依存した対象の像情報を保持させること;前記像情報を保持した伸長パルスを、波長毎かつ角度毎に空間的に分離して、波長毎かつ角度毎の複数の2次元画像情報として検出すること;各波長において、複数角度における複数の2次元画像情報から3次元画像を再構成すること;からなる。伸長パルスがパルス列で、投影光としてのパルス列に像情報が保持されるものにおいては、高速3次元撮影方法は、波長の異なるパルス列を複数角度から現象に入射させることで、各パルスに入射タイミング及び入射方向に応じて異なる投影像を取得させること;各時間、各角度の投影像を全て空間的に分離して、検出を行うことで、高速現象の3次元プロファイルを連続撮影すること;からなる。
【0030】
本実施形態に係る高速撮影において達成可能なフレーム間隔は、伸長パルスの波長分散(波長に応じた時間遅延)によって決定される。空間分離器により生成された分離要素は、その波長成分に応じた時間情報を備えており、この時間情報は、伸長パルスの波長分散(波長に応じた時間遅延)に依存する。図20は、遅延生成器によって生成された波長の異なる複数の部分からなる伸長パルスと、空間分離器で分離された分離要素(像情報)の波長成分の時間間隔(すなわち、フレーム間隔)βと、の対応を説明する図であり、上図は、伸長パルスとして例示するパルス列における時間間隔αを示している。フレーム間隔βはパルス列の時間間隔αに対応しており、かつ依存する。なお、パルス列の時間間隔αは実質的にフレーム間隔βと同じとなり得るが、これが保証されているわけではない。
【0031】
図2を参照しつつ、高速3次元撮影方法の概要について説明する。超短パルス光源から出射された超短パルスは、パルスストレッチャ(遅延生成器)によって引き延ばされて、所望の複数nの波長成分λ1~λnからなる伸長パルスが生成される。図2では、5つの波長成分を備えた伸長パルスを仮定している。伸長パルスは、多角度照明器(パルス分割器)によって分割され、複数mの異なる角度から対象に入射(照射)される。図2では、9つの角度を仮定しており(m=9)、5つの波長成分(n=5)を備えた伸長パルスが9つの異なる角度から対象に入射される。対象から9つの異なる角度で出射された伸長パルスは、それぞれ5つの波長成分において像情報を保持しており、入射タイミング及び入射方向に応じて、全体で45(m×n)の像情報が取得される。9つの方向で出射した伸長パルスは、空間分離器で、波長毎かつ角度毎に分離されることで45(m×n)の分離光(分離要素)が生成され、イメージセンサによって45の分離光を検出することで、45(m×n)の2次元画像が取得される。波長成分λ1~λn毎に2次元画像を3次元再構成することで、λ1~λnに対応する(依存する)時刻t1~tnにおける時系列の3次元画像(3次元高速動画像)が得られる。図示の例では、各時刻tにおいて、9つの2次元画像から当該時刻tにおける3次元画像が再構成される。図2では、λ1~λ5に対応する時刻t1~t5における5つの時系列の3次元画像が得られる。
【0032】
本実施形態に係る3次元高速撮影おいて重要なことは、(i)ある時間において、複数の角度から像情報を取得し、それらの像情報に基づいて、その時間の3次元プロファイルを再構成すること;(ii)同一の角度から入射された伸長パルスは、波長に応じて異なる時間の像情報を取得すること、である。ある時間の3次元像情報を再構成するためには、異なる角度から入射させる伸長パルスの特定の波長成分同士が同時に入射されることが必要となる。これは、3次元再構成を行うためには、複数の角度からの像情報を同時に取得する必要があるからである。そのため、取得する像情報においては、同じ時間の像情報を複数の角度から取得する必要がある。
【0033】
上記条件を満たしていれば、異なる角度から対象に入射させる複数の伸長パルスが異なる波長成分を備えた伸長パルスを含んでいてもよい。例えば、異なる角度から入射するパルスの波長が異なる場合もあり得る。具体的には、ある角度の伸長パルス(パルス列)が(λ1, λ2, λ3)の波長成分で構成され、別のある角度の伸長パルスが(λ4, λ5, λ6)の波長成分で構成されていてもよい。また、波長以外においても、異なる角度から入射させる伸長パルスの空間プロファイルや偏光が同じではないような状況も想定され得る。また、全ての伸長パルスを同一タイミングで入射させなくてもよい。例えば、角度θ1~角度θ4の伸長パルスは同一タイミング(時間t1~時間t4)で入射させ、角度θ5~角度θ8の伸長パルスはそれとは異なるタイミング(時間t5~時間t8)で入射し、それぞれの取得した時間領域で3次元再構成を行い、結果的に時間t1~時間t8の3次元動画像が得られるようにしてもよい。
【0034】
[B]照明系
[B-1]概要
本実施形態に係る照明系は、超短パルス光を出射する超短パルス光源と、超短パルス光源から出射されたパルスを伸長(ストレッチ)して、波長の異なる複数の部分からなる伸長パルスを生成する遅延生成器(パルスストレッチャ)と、伸長パルスを分割して、異なる角度から対象に入射させるパルス分割器(多角度照明器)と、からなる。照明系においては、まず、超短パルスレーザ光を、ガラスなどの材料分散を用いた光学系やグレーティングペアなどの構造分散を用いた第1の光学系により、波長ごとに異なる遅延時間を生じさせる。次いで、回折光学素子などを用いた第2の光学系により、伸長パルスを複数の伸長パルスに分割し、それぞれ異なる角度から撮影したい対象に入射させる。そうすることで、各波長成分(λ12,...λn)のパルスが、波長分散(波長に応じた時間遅延)に依存して、それぞれ異なる時間(t1,t2,...tn)に、複数の角度からの対象の像情報を取得する。
【0035】
典型的には、伸長パルスはパルス列であるが、これには限定されず、「波長の異なる複数の部分からなる照射光(伸長パルス)」ないし「波長ごとに異なる遅延時間を持つ照射光(伸長パルス)」であれば、パルス列として複数のパルスに離散化されている必要はなく、波長ごとが連続的に時間的に引き延ばされたパルスも照明光として使用可能である。
【0036】
[B-2]光源
本実施形態に係る光源は、典型的には、1つの超短パルス光源であり、超短パルスから遅延生成器を用いて、伸長パルスを生成する。なお、複数の波長の光源を個別に動作させてもよい。例えば、短波長幅の半導体パルスレーザ(ピコ秒パルスレーザ、ナノ秒パルスレーザ)を複数組み合わせて用いてもよい。
【0037】
超短パルスからパルス伸長を行う場合は、現状の遅延生成器では10ns程度までのフレーム間隔が実現されており、理論上は100nsやそれ以上のフレーム間隔も実現可能である。複数の光源を組み合わせて使用する場合は、μsやmsフレーム間隔での撮影も可能となり得る。なお、原理的には、本発明は、波動であれば、光(可視光~近赤外光)に限らず、全電磁波領域(X線、THz、電波など)でも電子線でも適用可能であり、「光源」という文言は、線源に応じて適宜置き換えられ得ることが当業者に理解される。
【0038】
[B-3]遅延生成器(パルスストレッチャ)
本実施形態に係る照明系の第1光学系は、超短パルスレーザ光を引き延ばす遅延生成器(パルスストレッチャ)である。遅延生成器の構成としては、ガラスなどの材料分散を用いた光学系やグレーティングペアなどの構造分散を用いた光学系により、波長ごとに異なる遅延時間を生じさせるものが例示される。
【0039】
波長の異なるパルス列の生成について、図3図5を参照しつつ説明する。図3は、フレーム間隔100fs~10psのフレーム間隔を実現するための遅延生成器の概念図である。図3に示す遅延生成器は、ガラスの材料分散を利用したものであり、ミラー対を用いて超短パルスレーザ光をガラス内で伝搬させている。所望のフレーム間隔Δtは、Δt=D(λ)LΔλに従って得ることができる。ここで、D(λ)は分散係数、Lは通過長、Δλは波長差である。このような遅延生成器は、ガラスブロックやガラスロッドを用いて構築することができる。
【0040】
図4は、フレーム間隔10ps~50psのフレーム間隔を実現するための遅延生成器の概念図であり、グレーティングペア(回析格子対)とミラーを用いて構築されている。
所望のフレーム間隔Δtは、Δt≒2λΔs/(dc)に従って得ることができる。ここで、dは溝間隔、λは波長、cは光速である。
【0041】
図5は、フレーム間隔:50ps~数nsのフレーム間隔を実現するための遅延生成器の概念図であり、上図に示す態様は、回折格子対とミラー群を用いて構築されている。下図に示す態様は、ミラー対、回折格子対及びミラーを用いて構築されている。所望のフレーム間隔Δtは、Δt≒4L/cに従って得ることができる。ここで、Lはミラー対の距離、cは光速である。
【0042】
本実施形態では、3種類の異なる遅延生成器を用いて、100ps~10nsのフレーム間隔を備えた伸長パルスが実現可能となっている。図6に遅延生成器によって引き延ばすことで生成された伸長パルス(複数の波長成分からなるパルス列)を例示する。図6において、Intervalは「パルス列の時間間隔」ないし「時間軸上で隣接するパルスの時間間隔』を意味している。図6において、横軸の時間スケールはそれぞれ異なり、各パルスの間隔がIntervalに対応している。照明系の第1光学系において光路を切り替える切替スイッチを用意しておけば、所望のフレーム間隔に応じて、3種類の遅延生成器を選択的に用いることが可能である。また、切替スイッチを用いずに、所望のフレーム間隔に応じて、遅延生成器を適宜組み直すようにしてもよい。図3図5に示す遅延生成器(パルスストレッチャ)は例示であり、当業者において、所望のフレーム間隔を実現するための具体的な第1光学系が設計し得ることが理解される。
【0043】
[B-4]パルス分割器(多角度照明器)
本実施形態に係る照明系の第2光学系は、伸長パルスを分割して、複数の伸長パルスを異なる角度から対象に入射させるパルス分割器(多角度照明器)である。図7に示すように、本実施形態に係るパルス分割器(多角度照明器)は、回折光学素子及びレンズを用いた光学系により、伸長パルスを複数に分割し、それぞれ異なる複数の角度から撮影したい対象に入射(集光・照射)させる。こうすることで、各波長成分のパルス(λ12,...λn)が、それぞれ異なる時間(t1,t2,...tn)に、複数の角度からの対象の投影像を取得する。図7Aは、他の実施形態に係る多角度照明器を示し、ミラーアレイと、レンズと、から構成され、1つの光線の断面がミラーアレイの複数のミラーにまたがって入射することで、1つの光線が複数の光線へと空間的に分離され、その後、レンズを用いて、対象へ入射されるようになっている。示す図である。図7Bは、さらに他の実施形態に係る多角度照明器を示し、回折光学素子と、カーブミラーアレイと、から構成され、回折光学素子で分割された光線が、各カーブミラーアレイで反射されて対象に入射されるようになっている。図7図7(A)、図7(B)に示すパルス分割器(多角度照明器)は例示であり、当業者において、所望の複数の角度から伸長パルスを照射するための具体的な光学系が設計し得ることが理解される。
【0044】
[C]撮影部撮影部に配置された対象(例えば超高速現象)には、複数の角度から複数の照射光(伸長パルス)が照射される。超高速現象に対して、複数の異なる波長成分からなる伸長パルス(パルス列)を、複数の角度から入射させると、波長λ1のパルスが時間t1、波長λ5のパルスが時間t5に現象を通過するようになっており、各パルス(λ12,...λn)の通過タイミングt1,t2,...tnが異なるため、それぞれの波長に対応する時間の像情報が取得される。撮影部において、各波長成分のパルス(λ12,...λn)が、それぞれ異なる時間(t1,t2,...tn)に、複数の角度からの対象の像情報を取得するようになっている。各伸長パルスは、当該伸長パルスの入射角度に依存した時系列(t1,t2,...tn)の像情報を保持した状態で撮影部から出射される。時系列像情報が保持された各伸長パルスは、例えば、透過光ないし反射光として、それぞれ異なる角度で撮影部から出射される。
【0045】
[D]検出系[D-1]概要
検出系では、異なる角度から入射した照明光が得た像情報を、それぞれイメージセンサ上で分離して取得する。検出系は、異なる角度で撮影部から出射された各伸長パルスを、像情報が保持された状態で波長毎かつ角度毎に空間的に分離する空間分離器と、空間分離器で空間的に分離された光、すなわち、像情報が保持された状態で空間的に分離された伸長パルスの各分離要素を、複数の2次元画像情報として検出する撮像素子ないしイメージセンサと、からなる。
【0046】
検出系においては、まず、レンズアレイや回折光学素子、バンドパスフィルタなどからなる空間分離器を用いて、各角度及び各波長の2次元像情報を空間的に分離し、露光状態に保持されたイメージセンサ上で撮像する。こうすることで、各波長すなわち各時間(t1,t2,...tn)における、複数角度θ1~θmの像情報(例えば、投影像)を取得することができる。波長毎かつ角度毎に検出された2次元画像情報(例えば、投影像)を用いて、各時間(=波長)において、複数角度の2次元画像から3次元画像を再構成(トモグラフィック再構成)することで、対象(高速現象)の3次元プロファイルを取得する。
【0047】
[D-2]空間分離器
本実施形態に係る空間分離器は、波長、角度の両方のパラメータを用いて、像情報を保持した伸長パルスを分離して2次元画像をイメージセンサ上に撮像する。イメージセンサ上での検出(撮像)の態様には、以下の3つの態様を例示することができる。
1.各角度、各波長(=各時間)のパルスが完全に分離し、2次元画像(x,y)として検出される場合(図9(B)、(C))。
2.各角度、各波長(=各時間)の2次元画像(x,y)が重なってはいないが、2次元画像(x,y)ごとにまとまってはいない状態で検出される場合(図9(A))。
3.各角度、各波長(=各時間)の2次元画像(x,y)が重なるが、圧縮センシングのように特殊な仮定や操作により、像を再構成する場合。
【0048】
本実施形態に係る空間分離器において重要な点の一つは、いかにして再構成に必要な全情報を、イメージセンサという2次元の限られた面積に集約させるかである。本実施形態では、波長、角度両方のパラメータを独立して操作することで、像情報を保持した出射光を分離して2次元画像をイメージセンサ上に撮像する。本実施形態では、波長、角度両方のパラメータを独立して操作する点において、波長のみを操作する特許文献1及び非特許文献1の開示事項、角度のみを操作する非特許文献2の開示事項とは異なる。本実施形態に係る空間分離器は、各伸長パルスを、像情報が保持された状態で、角度に応じて空間的に分離する第1光学系と、波長に応じて空間的に分離する第2光学系と、を含んでいる。本明細書では、空間分離器の3つの実施例について開示する。以下に述べる空間分離器の構成(各光学系を構成する複数の光学要素の組み合わせ等)は例示であって、本発明に係る空間分離器を限定するものでない点に留意されたい。
【0049】
[D-2-1]空間分離器(第1実施例)
空間分離器の第1実施例を、図9(A)、図11に示す。第1実施例では、先ず、像情報を保持した出射光を、角度ごとに大きく分離し、全体に2次元空間を配置し、その各点(集光スポット)を時間ごとに分けて結像する。第1実施例に係る光学系(現象通過後の結像方法)は、角度ごとに分離するレンズアレイ系、2次元空間を集光点分布として分離するマイクロレンズアレイ系、波長ごとに微小変位させる分光系により構成されている。これにより、イメージセンサ上において、各パラメータを分離し集光点分布として結像する。
【0050】
図11に示すように、第1実施例に係る空間分離器は、対物レンズとレンズアレイからなる角度分離手段と、マイクロレンズアレイからなる空間分離手段と、レンズと回折格子とレンズからなる波長(時間)分離手段と、からなる。レンズ及びレンズアレイはセットで各角度から撮影した像情報を空間的に分離する。マイクロレンズアレイは2次元空間(x,y)を集光スポット分布に変換する。レンズ、回折格子、レンズはセットで集光スポット分布を波長ごとに分離する。後述する第2実施例、第3実施例と同様に、レンズとレンズアレイのセットをレンズとミラーアレイのセットに置き換えることが可能である。
【0051】
[D-2-2]空間分離器(第2実施例)
空間分離器の第2実施例を、図9(B)、図12図13に示す。図9(B)に示すように、第2実施例では、像情報を保持した出射光は、イメージセンサ上において、角度ごとに分離され、その中で時間ごとに分離されており、それぞれ2次元空間として結像される。図12では、レンズ、第1レンズアレイ、回折光学素子、バンドパスフィルタ、第2レンズアレイから光学系が構成されている。図13に示すように、第2実施例では、レンズ、レンズアレイ、回折光学素子、バンドパスフィルタがこれを実現する最小構成の1例であると考えられる。図13の光学系において、レンズとレンズアレイがセットで各角度から撮影した像情報を空間的に分離する。回折光学素子、バンドパスフィルタは、さらに各波長の像情報を分離する。図12に示す光学系において、レンズ、第1レンズアレイ、回折格子、バンドパスフィルタは図13の光学系と同様の役割を持ち、第2レンズアレイは各像情報をイメージセンサ上に結像させるために用いられる。図13に示す態様では、結像の機能はレンズアレイに含まれる。
【0052】
図12に示す光学系においては、回折光学素子及びバンドパスフィルタのセットを、第3実施例で述べるようにスライスミラー系(回折格子、レンズ、スライスミラーのセット)に置き換えることができる。さらに、図12に示す光学系においては、レンズと第1レンズアレイのセットを、第3実施例で述べるレンズとミラーアレイのセットに置き換えることができる。また、回折光学素子とバンドパスフィルタのセットを用いる場合に、その後方の第2レンズアレイを、1つのレンズで置き換えて結像を行うことも可能である。
【0053】
[D-2-3]空間分離器(第3実施例)
空間分離器の第3実施例を、図9(C)、図14図15に示す。第3実施例では、像情報を保持した出射光は、イメージセンサ上において、時間ごとに分離され、その中で角度ごとに分離され、それぞれ2次元空間として結像されている。図14では、検出系の光学系は、レンズ、レンズアレイ、回折光学素子、バンドパスフィルタ、レンズから光学系が構成されている。図15に示すように、第3実施例では、レンズ、レンズアレイ、回折光学素子、バンドパスフィルタがこれを実現する最小構成の1例であると考えられる。図14では、バンドパスフィルタの後方でレンズをもう1つ使用しているが、これは実際の光学設計に起因するものであり(倍率や各素子の配置・仕様の問題)、角度・波長を分離するという観点における最小構成の1つとしては図15のようになる。
【0054】
図14において、レンズとレンズアレイはセットで各角度から撮影した像情報を空間的に分離する。回折光学素子、バンドパスフィルタは各波長の像情報を分離する。回折光学素子はパルスを複数の角度方向に分割し,バンドパスフィルタはそれぞれに対して波長選択を行い(入射角に応じて異なる波長成分を透過させる)、レンズはイメージセンサ上に結像させる役割がある。図15に示すように、後方にレンズを含まない場合には、イメージセンサ上に結像させる機能は、レンズアレイに含まれる。
【0055】
第3実施例に係る光学系において、レンズとレンズアレイのセットを置き換え可能な構成としては、以下の文献のようにレンズとミラーアレイのセットを用いる構成が採用し得る。
S. Yeola et al.,“Single-shot ultrafast imaging via spatiotemporal division of femtosecond laser pulses” Journal of the Optical Society of America B (2018).
【0056】
回折光学素子、バンドパスフィルタ、レンズのセットを置き換え可能な構成としては、以下の文献のようにスライスミラー系を用いる構成が採用し得る。具体的には、(ピックオフミラー→)回折格子1→レンズ1→スライスミラー→レンズ1→回折格子1→(結像用)レンズ→イメージセンサとなる。この構成でも波長ごとに像を分離可能である。
T. Saiki et al.,“Sequentially timed all-optical mapping photography boosted by a branched 4f system with a slicing mirror” Optics Express (2020).
【0057】
図16を参照しつつ、照明系及び検出系に係る光学系の具体的な設計について言及する。図16において、照明系は、回折光学素子DOE、レンズL1、レンズL2からなり、伸長パルスを複数の角度からターゲットTに入射させる。検出系は、レンズL3、レンズアレイLA、回折光学素子DOE、バンドパスフィルタBPF、レンズL4からなる。図中、CP:共役面(中間像)、D0:元のビーム径、D:ターゲット通過時のビーム径(視野に相当する)、θ:回折光のターゲットへの入射角、s:ターゲットから各パルスの集光点までの距離、である。図16に示す光学系を設計するためのパラメータとしては、各レンズL1~L4の焦点距離、レンズアレイLAの焦点距離、D、θ、θ0(DOEの回折角)を例示することができる。当業者において、各パラメータを調整することで、最適な光学系を設計し得る。また、実際の光学系を構成する光学要素によって、用い得るパラメータは変わり得る点に留意されたい。
【0058】
空間分解能をあげるためには、(i)開口数(NA)を大きくする、(ii)結像系の倍率を高くする、(iii)各角度のパルスをオーバーラップしないようにする、という3つの要素が重要となる。(i)のためにはθを大きくすることが重要であり、(ii)と(iii)のためにはDを小さくし、レンズアレイ(LA)部分で各パルスを分離できるような光学配置が重要である。
【0059】
例えば、各パルスが集光する直前で重なるように設計することで、Dを<50μmにすることが可能である。マイクロスケールの対象を観測するためには、ターゲット(T)部分で各パルスのビーム径を数10μm程度に絞ることが重要である。本実施形態では、異なる角度からのプローブパルスが、集光する直前の状態でターゲットに入射し、かつ全てが重なることができるような、光学設計を行っている。
【0060】
本実施形態では、オーバーラップを防ぐために、各パルスをレンズアレイ(LA)で分離して共役面(CP)で結像している。本実施形態では、レンズL3とレンズアレイLA間の距離を調整することで、LA通過後の各パルスが全て平行光になるように調整している。こうすることで、後方の光学系に、撮影部から出射されたパルスを、平行光で入射させるようにしている。
【0061】
[D-3]撮像素子(イメージセンサ)
本実施形態では、空間分離器で、像情報を保持した出射光を、波長毎かつ角度毎に分離し、この各角度、各波長のパルス(分離光)が持つ全ての像情報をイメージセンサ上に集約させる。これにより、各波長つまり各時間における、複数角度からの2次元画像を取得できる。これらの2次元画像をトモグラフィック再構成することで超高速3次元動画像、すなわち、対象(高速現象)の3次元プロファイルを取得する。
【0062】
図9に示すように、イメージセンサの受光面には、時間tにおける複数角度θ~θからの4つの2次元画像、時間tにおける複数角度θ~θからの4つの2次元画像、時間tにおける複数角度θ~θからの4つの2次元画像、時間tにおける複数角度θ~θからの4つの2次元画像、時間tにおける複数角度θ~θからの4つの2次元画像が空間的に分離して検出(結像)されている。各2次元画像は、xy座標で特定されている。
【0063】
撮像素子としては、CCDイメージセンサ、CMOSイメージセンサが例示されるが、本実施形態で用い得る撮像素子は限定されず、CCDイメージセンサ、CMOSイメージセンサの他、SPADイメージセンサ、イメージインテンシファイア、EMCCDカメラ、InGaAsカメラ等を例示することができる。撮像素子の数は1つに限定されるものではなく、複数の撮像素子上に結像させて対象の像を検出してもよい。2次元画像の検出において、より大面積(空間的に分離された複数の光を異なる位置に入射できるような面積)の受光面を備えたデバイスもしくは複数のCCD素子や写真乾板を用意してもよい。
【0064】
空間分離器(第3実施例)を用いた場合には、像情報を保持した出射光は、イメージセンサ上において、時間ごとに分離され、その中で角度ごとに分離され、それぞれ2次元空間として結像されている。図17では、照明光が、3×3の角度から現象に入射され、取得した像情報を、第3実施例に係る光学系を備えた空間分離器によって3×3の角度かつ5つの波長に分離してなる45個の像情報を1つのイメージセンサの異なる位置に入射されて検出(投影像)したものを示している。図18は、高速現象(レーザアブレーションプラズマ)の3×3の角度かつ5つの波長の投影像を示している。
【0065】
[E]3次元動画再構成装置(3Dトモグラフィック再構成)
本実施形態に係る3次元動画再構成装置では、各時間(=波長)において、複数角度の2D画像から3D画像を再構成(トモグラフィック再構成)することで、超高速3D動画像を取得する。図9に示すように、3次元再構成手段によって、時間tにおける複数角度θ~θからの4つの2次元画像から時刻tにおける3次元画像を再構成し、時間tにおける複数角度θ~θからの4つの2次元画像から時刻tにおける3次元画像を再構成し、時間tにおける複数角度θ~θからの4つの2次元画像から時刻tにおける3次元画像を再構成し、時間tにおける複数角度θ~θからの4つの2次元画像から時刻tにおける3次元画像を再構成し、時間tにおける複数角度θ~θからの4つの2次元画像から時刻tにおける3次元画像を再構成し、時刻t~tにおける各2次元画像から対象の3次元動画を得ることができる。
【0066】
図17に示すように、イメージセンサで取得した複数の2次元画像を用いた3次元再構成は、3Dトモグラフィック再構成を用いて実行することができる。撮影部から角度θ2で出射された伸長パルスは、波長λ1~λ5,…に対応する時刻t1~t5,…の像情報を保持しており、空間分離器でこれらの像情報が分離要素に分離され、各分離要素は、イメージセンサ上で2次元画像2D(λ12), 2D(λ22) , 2D(λ32) , 2D(λ42) , 2D(λ52) ,… として検出される。同様に、角度θ3で出射された伸長パルスは、波長λ1~λ5,…に対応する時刻t1~t5,…の像情報を保持しており、空間分離器でこれらの像情報が分離要素に分離され、各分離要素は、イメージセンサ上で2次元画像2D(λ13), 2D(λ23) , 2D(λ33) , 2D(λ43) , 2D(λ53) ,… として検出される。同一時刻で得られた複数の2次元画像を用いて、当該時刻における3次元画像を再構成する。例えば、λ1に対応する時刻t1で取得された2次元画像2D(λ12), 2D(λ13) , 2D(λ14) , 2D(λ15) ,…を用いて3次元画像3D(t1)を再構成する。同様に、3次元画像3D(t2), 3D(t3), 3D(t4), 3D(t5)…を再構成することで、これらの3次元画像から高速三次元動画像を取得する。
【0067】
トモグラフィック再構成は、再構成を複数角度で得られた像から行う手法であり、例えば、非特許文献3、4に記載されている。3次元再構成部はコンピュータ(例えば、入力部、メモリ、プロセッサ、出力部、表示部等を備える)から構成することができる。3D再構成するための具体的な手段は当業者において公知であり、Zernike polynomial expansion; Maximum likelihood-expectation maximization (MLEM); Minimum Fisher Information (MFI); Deep neural networkなどを例示することができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係る高速撮影システムは、広く使われている光学素子や機器で構成される照明系と検出系の組み合わせで構成することができ、3次元再構成部はコンピュータから構成することができる。システムの構築は容易で、かつ目的に応じて最適化できる柔軟性を備えている。既存の光学系や機器への適用、特に顕微鏡への組み込みも可能である。また、高速読み出しが可能な撮像素子やコンピュータと組み合わせることで、超高速現象をより長い時間捉えることができるハイグレードな高速ビデオカメラを構成することもできる。
【0069】
本発明は、ナノ秒以下の分解能かつシングルショットで3D動画像を撮影可能な手法を提供する。本発明は、高速現象を伴う製品(レーザー加工機や放電加工機など)の開発に有用である。まず、加工中の高速現象を可視化することで、加工現象の学理を明らかにすることで、最適な加工プロセスを実現するためのパラメータ設計が可能になると考えられる。更に、実際の加工機へ実装によるモニタリング、そしてフィードバック制御が実現可能である。レーザ加工や放電加工では、材料の不均一性や入力パラメータ(レーザ、電圧)の不安定性などに応じて、加工プロセスに設計からの誤差が生じることが想定され、入力パラメータや材料表面形状は、加工中のプラズマや放電といった高速現象の3次元的なダイナミクスと強く関係することから、これらを高速3Dモニタリングすることで、誤差をフィードバックした加工プロセスの最適化が期待される。そのため、複合材料の表面処理・加工、更には生体組織を対象とするレーザ治療なども含め、幅広い応用可能性がある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20