(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165222
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】ポリイミドフィルム
(51)【国際特許分類】
C08G 73/16 20060101AFI20241121BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
C08G73/16
C08J5/18 CFG
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081176
(22)【出願日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】599055382
【氏名又は名称】学校法人東邦大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 匡俊
(72)【発明者】
【氏名】石井 淳一
(72)【発明者】
【氏名】江原 和也
【テーマコード(参考)】
4F071
4J043
【Fターム(参考)】
4F071AA60
4F071AA86
4F071AA88
4F071AF10
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4F071AH13
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4J043PA02
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4J043ZB50
(57)【要約】 (修正有)
【課題】室温で高濃度に重合溶媒に溶解し得、かつ、テトラカルボン酸二無水物と高い重付加反応性を示すエステル基含有ジアミンを用いて得られる、高T
g、低CTEを維持しながら、大幅に低減した吸水率とDFを発現する、新規なポリイミドフィルムを提供すること。
【解決手段】下記一般式(1)で表される繰り返し単位を50mol%以上含むポリイミドからなり、動作周波数10GHz、相対湿度50%、23℃において空洞共振器摂動法で測定した誘電正接が0.003以下であるポリイミドフィルム。
(式中、X
1は、特定の4価の芳香族基を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される繰り返し単位を50mol%以上含むポリイミドからなり、
動作周波数10GHz、相対湿度50%、23℃において空洞共振器摂動法で測定した誘電正接が0.003以下であるポリイミドフィルム。
【化1】
(式中、X
1は、下記式(a)~(e)で表される4価の芳香族基から選ばれる少なくとも1種を表す。)
【化2】
【請求項2】
熱機械分析によって測定された100~200℃の間の平均線熱膨張係数が、15ppm/K以下である請求項1記載のポリイミドフィルム。
【請求項3】
動的力学分析により測定されたガラス転移温度が350℃以上である、または前記ガラス転移温度が検出されない請求項1記載のポリイミドフィルム。
【請求項4】
吸水率が1.0%以下である請求項1記載のポリイミドフィルム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項記載のポリイミドフィルムからなる、フレキシブルプリント配線基板の耐熱絶縁基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミドフィルムに関し、さらに詳述すると、超高速・大容量・低遅延通信・多数同時接続に適した5Gフレキシブルプリント回路基板用絶縁フィルムに要求される高い耐熱性および低熱膨張性を維持しながら、高周波(GHz帯)に対して低い誘電正接を示す、高熱寸法安定性耐熱絶縁ポリイミドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
軽量で繰り返しの曲げ・展開や、複雑な形状に折り曲げて実装が可能な電子回路基板、フレキシブルプリント配線基板(FPC)は、近年、パーソナルコンピューター、スマートフォン、デジタルカメラ、プリンター、ハードディスク、医療用機器、自動車電装部品等で広く用いられている。
【0003】
最近、スマートフォン等の超高速・大容量・低遅延通信・多数同時接続を可能にする新通信規格:5Gへの移行に伴い、特定のFPC部品、例えば、スマートフォンのアンテナ部とメイン基板を接続するFPCには、従来にない優れた高周波誘電特性が求められている。この点、現行のFPCでは、その絶縁基板として耐熱性に優れたポリイミドが用いられているが、5G用動作周波数(≧3.6GHz)において、絶縁層における誘電現象に由来する誘電損失が大きいために、超高速・大容量・低遅延通信・多数同時接続の実現が困難であった。これを解決するため、現在、ポリイミド絶縁層の誘電正接(tan δまたはDissipation Factor:DF)を大幅に低減することが、緊急の課題となっている。
【0004】
後述するように、従来のポリイミドは高いDF値を示す。これは、分子構造中に高含有率で存在する、強く分極したイミド基によるものである(例えば、非特許文献1参照)。また、イミド基は、その高い分極性によりポリイミドフィルムの高い吸水率の主因にもなっている。FPCは、電子機器内でも、水分を含む外環境の空気と常に接触した状態で使用されるため、電気絶縁層としてのポリイミドフィルムは、空気中の水分を飽和吸湿した状態にあり、かつ、水は非常に高いDF値(2.45GHz,25℃でDF=0.12、10GHz、25℃ではDF=約0.4)を示すことから、ポリイミドフィルムに吸着した水分もポリイミドフィルムのDF値増加に少なからず影響する。
【0005】
一方、ポリイミド鎖間に強い分子間力を与えるイミド基は、ポリイミドの超耐熱性を支える要因となっているため、DF値低減を目論み、イミド基含有率を低減する分子構造へ安易に変更すると、肝心の耐熱性が大きく損なわれる可能性がある。そのため、絶縁フィルムの優れた耐熱性を維持しながら、DF値や吸水率を大幅に低減することは容易ではない。
【0006】
また、5G-FPC用絶縁フィルムには、低DF、低吸水率、高耐熱性に加えて、優れた熱寸法安定性も求められる。熱寸法安定性とは、デバイス製造過程で発生する複数の高温加熱-室温冷却の温度サイクルに対する、ガラス転移温度(Tg)以下での温度領域におけるフィルム面(XY)方向の寸法安定性を意味する。絶縁フィルムの熱寸法安定性を高めるためは、絶縁フィルムのTgをデバイス製造工程における最高到達温度よりもはるかに高い温度に設定することはもちろんのこと、上記温度サイクルに伴うTg以下での絶縁フィルムの熱膨張-熱収縮を抑制すること、具体的には、絶縁フィルムの線熱膨張係数(CTE)を銅箔並みの値(約20ppm/K)またはそれ以下にまで大きく低減する必要がある。
【0007】
FPCに用いられた絶縁フィルムのCTEが高いと、温度サイクルの間にフィルムが温度に追従して大きく熱膨張-熱収縮を繰り返すことになり、これによってフィルムに不可逆な歪が蓄積すると、デバイス構成部品・素子や回路の位置ずれ、界面剥離、絶縁基板の反り、透明電極の破断等の深刻な不具合が発生する恐れがある。
しかし、短期耐熱性の指標であるガラス転移温度(Tg)が極めて高く、かつ、CTE、吸水率およびGHz帯での誘電正接が大幅に低減された耐熱絶縁基板材料を開発することは容易ではない。
【0008】
FPCの耐熱絶縁フィルムとして現在最もよく用いられているポリイミドフィルムは、テトラカルボン酸二無水物成分としてピロメリット酸二無水物(以下、PMDAと称す。)とジアミン成分として4,4’-オキシジアニリン(以下、4,4’-ODAと称す。)から得られる下記式(4)で表される繰り返し単位を有するポリイミドフィルム(例えば、Kapton(登録商標)Hフィルム)であり、従来のFPC用途の要求特性を十分に満足している。
しかし、このポリイミドフィルムは、高いDF値(0.0114@10GHzを示し、5G-FPC用絶縁フィルムに求められる高周波誘電特性を満足していない。また、吸水率も約2~3%と高い。これらは前述のように、ポリイミド構造中に高い含有率で含まれる強く分極したイミド基によるものである。
【0009】
【0010】
熱寸法安定性により優れたポリイミドフィルムとして、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、s-BPDAと称す。)とp-フェニレンジアミン(以下、p-PDAと称す。)より得られ、銅箔より低いCTEを示す、下記式(5)で表される繰り返し単位を有するポリイミドフィルム(Upilex(登録商標)S)が知られている。このポリイミドは、上記のPMDA/4,4’-ODA系ポリイミドよりイミド基含有率がやや低いため、誘電正接、吸水率共に、PMDA/4,4’-ODA系ポリイミドより低い値を示すが、その誘電正接は依然として、高い値(DF=0.0054、@10GHz)である。
【0011】
【0012】
一方、液晶ポリエステル、例えば、Vecstar(登録商標)は、非常に低い誘電正接(0.002、@18GHz)を示す。しかし、一般に液晶ポリエステルは、短期耐熱性(Tg)の点では、ポリイミドに比べるとかなり劣る。また、液晶ポリエステルは、通常の有機溶媒に溶解しにくいため溶液加工性に乏しく、一般に溶液キャスト法で製膜することは困難である。
【0013】
近年、ポリイミドフィルムの簡便な製造工程(ポリイミド前駆体の重合、そのワニスのキャスト製膜、高温加熱処理(熱イミド化反応工程))をそのまま適用でき、しかも剛直な構造のポリイミド系で典型的に見られる好ましい特性(すなわち、優れた耐熱性と低熱膨張性)と液晶ポリエステルに固有の特性(すなわち、低吸水率および低DF)を併せ持つ、新規な高分子素材であるポリイミド(ポリエステルイミド)を製造する技術が開示されている(例えば、非特許文献2および3参照。)。
【0014】
この技術によれば、エステル連結基を介して、芳香環をパラ位で長手方向に繋げて延長した構造を有するモノマー(テトラカルボン酸二無水物およびジアミン)を用いることで、高Tg、低CTEに加えて、低吸水率、低DFも実現可能となる。
また、この技術によれば、下記式(6)に示すように、エステル連結基を介して芳香環をパラ位で繋げて長手方向に延長したモノマー(例えばジアミン)を設計し、これを用いることで、ポリイミド主鎖の剛直性・直線性を維持したまま、ポリイミド構造中の高分極性イミド基の含有率を大幅に下げることができ、その結果、低CTE、高Tgを維持しながら、さらに低吸水率化および低DF化した絶縁フィルムが得られると期待される。
【0015】
【0016】
上記ジアミンの場合と同様にして、テトラカルボン酸二無水物も長手方向に増環・延長することで、同様な特性発現効果が期待される。
ここで示した分子設計手法は、今のところ、高Tg、低CTEを維持しながら、吸水率とDFを共に大幅に低減可能な極めて限られた方法であり、これ以外の方法は知られていない。
【0017】
しかし、上記のモノマーの増環・延長手法にも限界がある。例えば、エステル基含有ジアミンは、芳香環を3環以上に増環すると、ジアミン自身の溶媒溶解性が急激に悪化して、加熱しても溶媒に溶けなくなり、ポリイミド前駆体の重合が困難になる(例えば、非特許文献3参照)。すなわち、ポリイミド前駆体の重付加反応は、通常、ジアミンの溶液に、ジアミンと実質的に等モルのテトラカルボン酸二無水物の固体(粉末)を添加・室温撹拌する手順で行うため、ジアミンはテトラカルボン酸二無水物の添加前に完全に溶媒溶解しておく必要がある。また、十分に高分子量のポリイミド前駆体を得るためには、ジアミンは高濃度に溶解しておかなければならない。このように、ジアミンの優れた重合溶媒溶解性は必須条件である。
【0018】
また、ジアミンの溶解性不足を補う方法として、ジアミンを重合溶媒に高濃度で溶かす目的で、加熱してジアミンを溶かし、ジアミンの再析出を避けるため、その溶液を加熱したままテトラカルボン酸二無水物粉末を添加して重付加反応を行う方法もあり得るが、この方法では、しばしば、ポリイミド前駆体の分子量が十分に上がりにくくなるため、重付加反応は加熱して行うべきではない。
そのため、使用するジアミンは、加熱することなく十分高濃度で重合溶媒に溶解する必要があるが、上述のとおり、エステル基含有ジアミンは、芳香環を3環に増環したとたんに溶媒溶解性が低下して、重付加反応の際にしばしば加熱が必要となるか加熱しても十分に溶解しないという不具合がしばしば発生する。
【0019】
一方、テトラカルボン酸二無水物は、粉末のままジアミン溶液に仕込むため、溶媒溶解性の観点からの制約はジアミンほど厳しくはないが、テトラカルボン酸二無水物を増環・延長して芳香環数が6環を越えてくると、その中間体であるエステル基含有ビスフェノールが溶媒溶解性を完全に失い、エステル基含有テトラカルボン酸二無水物の合成自体が困難となる。
【0020】
また、上記の増環・延長手法は、芳香環数が増加してある限界値を超えると、前述のような重大な問題に直面するばかりか、エステル基含有モノマーの製造工程数の増加を伴うため、製造コストが著しく増加するという経済上の深刻な問題もある。
【0021】
以上のように、現実的な製造工程数(製造コスト)で、高Tg、低CTEを維持しながら、吸水率とDFの大幅低減を可能にする、モノマーの分子設計手法はこれまでに知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】ACS Applied Polymer Materials, 3, 362 (2021).
【非特許文献2】Polymers for Advanced Technologies, 31, 389 (2020).
【非特許文献3】Polymers, 12, 859 (2020).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、室温で高濃度に重合溶媒に溶解し得、かつ、テトラカルボン酸二無水物と高い重付加反応性を示すエステル基含有ジアミンを用いて得られる、高Tg、低CTEを維持しながら、大幅に低減した吸水率とDFを発現する、新規なポリイミドフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、メチル置換基を特定の位置に導入した芳香環2環型エステル基含有ジアミンを用い、これと極性基を一切含まず、直線性・剛直性の高い分子構造を有する所定のテトラカルボン酸二無水物と組み合わせることで、現実的な製造コストで、高Tg、低CTEを維持しながら、大幅に低減した吸水率とDFを発現する材料(変性ポリイミド:ポリエステルイミド)が得られることを見出した。すなわち、上記ジアミンを用いることで、重付加反応によりポリイミド前駆体を得る際に、モノマーの溶解性の問題を回避しながら、スムーズに所定のテトラカルボン酸二無水物と重付加反応して十分に高分子量のポリイミド前駆体が得られ、これをキャスト製膜・高温熱処理(熱イミド化)することで、高Tg、低CTE、低吸水率および低DFを同時に発現するポリイミドを得ることができることを見出すとともに、このポリイミドが、現実的な製造コストで、超高速・大容量・低遅延通信・多数同時接続を実現する5G-FPC用絶縁フィルムに適した耐熱絶縁フィルムを与えることを見出し、本発明を完成した。
【0025】
すなわち、本発明は、
1. 下記一般式(1)で表される繰り返し単位を50mol%以上含むポリイミドからなり、動作周波数10GHz、相対湿度50%、23℃において空洞共振器摂動法で測定した誘電正接が0.003以下であるポリイミドフィルム、
【化4】
(式中、X
1は、下記式(a)~(e)で表される4価の芳香族基から選ばれる少なくとも1種を表す。)
【化5】
2. 熱機械分析によって測定された100~200℃の間の平均線熱膨張係数が、15ppm/K以下である1のポリイミドフィルム、
3. 動的力学分析により測定されたガラス転移温度が350℃以上である、または前記ガラス転移温度が検出されない1のポリイミドフィルム、
4. 吸水率が1.0%以下である1のポリイミドフィルム、
5. 1~4のいずれかのポリイミドフィルムからなる、フレキシブルプリント配線基板の耐熱絶縁基板
を提供する。
【発明の効果】
【0026】
本発明のポリイミドフィルムは、高Tg、低CTEを維持しながら、大幅に低減した吸水率とDFを発現できるのみならず、現実的な製造コストで、超高速・大容量・低遅延通信・多数同時接続を実現する5G-FPC用絶縁フィルムに適した実用的価値の高い耐熱絶縁フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】実施例1で得られたポリイミドおよびその前駆体薄膜の赤外線吸収スペクトルである。
【
図2】実施例2で得られたポリイミドおよびその前駆体薄膜の赤外線吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係るポリイミドフィルムは、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を50mol%以上、好ましくは70mol%以上、より好ましくは90mol%以上、より一層好ましくは95mol%以上、最適は100mol%含むポリイミドからなり、動作周波数10GHz、相対湿度50%、23℃において空洞共振器摂動法で測定した誘電正接が0.003以下であることを特徴とする。
【0029】
【化6】
(式中、X
1は、下記式(a)~(e)で表される4価の芳香族基から選ばれる少なくとも1種を表す。)
【化7】
【0030】
[1]ポリイミド前駆体の製造方法
以下、ポリイミド前駆体を重合する方法の一例について説明するが、これに限定されず、公知の方法を適用することができる。
ポリイミド前駆体は、下記式(2)で表されるジアミンを含むジアミン成分を全て完全に重合溶媒に溶解し、これに下記式(7)~(11)で表されるテトラカルボン酸二無水物のうち少なくとも1つを含むテトラカルボン酸二無水物成分の固体(粉末)を添加し、密封して0~100℃、好ましくは20~60℃で1~100時間、好ましくは2~80時間撹拌して得ることができる。
【0031】
【0032】
上記重合反応の際、反応容器に仕込むジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物成分とのモル比は、ジアミン成分の総量1に対して、テトラカルボン酸二無水物成分の総量が0.8~1.1であり、好ましくは0.9~1.1、より好ましくは0.95~1.05である。ポリイミド前駆体の重合度をできるだけ高める場合は、ジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物成分は実質的に等モルで仕込まれる。
【0033】
また、重合開始時のモノマー(固形分)の濃度は、5~60質量%であり、好ましくは10~50質量%である。ポリイミド前駆体の重合度の増加に伴い、重合溶液の粘度が高くなりすぎて効果的な撹拌に支障が生じた場合は、適宜同一の脱水処理済み溶媒で希釈してもよい。
【0034】
上記重合反応に用いる溶媒は、原料モノマーと生成するポリイミド前駆体が十分に溶解し、かつ、これらと反応しない溶媒であれば特に限定されないが、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン(NMP)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホルトリアミド等のアミド溶媒;γ-プチロラクトン等の環状エステル溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホン系溶媒;シクロペンタノン、シクロへキサノン等ケトン系溶媒;m-クレゾール、p-クレゾール、3-クロロフェノール、4-クロロフェノール等のフェノール系溶媒等を用いることができる。また、これらを2種類以上混合して用いてもよい。中でも、溶解力、安全性、経済性の観点からNMPが好適に用いられる。
【0035】
上記重合反応の際に使用するジアミン成分総量のうち、上記式(2)で表されるジアミンの割合は、50mol%以上、好ましくは70mol%以上、より好ましくは90mol%以上、より一層好ましくは95mol%以上、最適は100mol%である。含有率をこの範囲にすることで、所望する物性を有するポリイミドフィルムを得ることができる。
すなわち、上記重合反応の際、重合反応性、反応溶液の均一性およびポリイミドフィルムの要求特性を損なわない範囲で、上記式(2)で表されるジアミン以外のジアミンを、ジアミン総量のうち50mol%以下の範囲で併用することができる。併用するジアミンとしては芳香族ジアミンでも脂肪族ジアミンでもよい。
【0036】
併用可能な芳香族ジアミンの具体例としては、p-PDA、m-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノトルエン、2,5-ジアミノトルエン、2,4-ジアミノキシレン、2,4-ジアミノデュレン、4,4’-メチレンジアニリン、4,4’-メチレンビス(3-メチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(3-エチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2-メチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2-エチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(3,5-ジメチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(3,5-ジエチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジメチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジエチルアニリン)、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、2,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、ベンジジン、3,3’-ジヒドロキシベンジジン、3,3’-ジメトキシベンジジン、o-トリジン、m-トリジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4-(3-アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、p-ターフェニレンジアミン、4-アミノフェニル 4-アミノベンゾエート(以下、APABと称する。)、4-アミノ-2-メトキシフェニル 4-アミノベンゾエート(以下、MeO-APABと称する。)、ハイドロキノンビス(4-アミノベンゾエート)、メチルハイドロキノンビス(4-アミノベンゾエート)、メトキシハイドロキノンビス(4-アミノベンゾエート)、フェニルハイドロキノンビス(4-アミノベンゾエート)、ビス(4-アミノフェニル)テレフタレート、ビス(4-アミノ-2-メチルフェニル)テレフタレート等が挙げられる。これらを2種類以上用いてもよい。
【0037】
併用可能な脂肪族ジアミンの具体例としては、トランス-1,4-シクロヘキサンジアミン、シス-1,4-シクロヘキサンジアミン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、4,4’-メチレンビス(3-メチルシクロヘキシルアミン)、4,4’-メチレンビス(3-エチルシクロヘキシルアミン)、4,4’-メチレンビス(3,5-ジメチルシクロヘキシルアミン)、4,4’-メチレンビス(3,5-ジエチルシクロヘキシルアミン)、イソホロンジアミン、1,4-シクロヘキサンビス(メチルアミン)、2,5-ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,6-ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、3,8-ビス(アミノメチル)トリシクロ〔5.2.1.0〕デカン、1,3-ジアミノアダマンタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン、1,3-プロパンジアミン、1,4-テトラメチレンジアミン、1,5-ペンタメチレンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,7-ヘプタメチレンジアミン、1,8-オクタメチレンジアミン、1,9-ノナメチレンジアミン、シロキサン含有ジアミン等が挙げられる。これらを2種類以上用いてもよい。また、これらの脂肪族ジアミンと前述の芳香族ジアミンを併用してもよい。
【0038】
上記重合反応の際に使用するテトラカルボン酸二無水物成分は、上記式(7)~(11)で表されるテトラカルボン酸二無水物のうち少なくとも1つを含み、2つ以上含んでもよい。また、その含有量はテトラカルボン酸二無水物成分総量のうち、50mol%以上、好ましくは70mol%以上、より好ましくは90mol%以上、より一層好ましくは95mol%以上、最適は100mol%である。含有率をこの範囲にすることで、所望する物性を有するポリイミドフィルムを得ることができる。
すなわち、上記重合反応の際、重合反応性、反応溶液の均一性およびポリイミドフィルムの要求特性を損なわない範囲で、上記式(7)~(11)で表されるテトラカルボン酸二無水物以外のテトラカルボン酸二無水物を、テトラカルボン酸二無水物成分の総量のうち50mol%以下の範囲で併用することができる。
【0039】
併用可能な芳香族テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、2-メチル-1,4-フェニレンビス(トリメリテートアンハイドライド)、2-メトキシ-1,4-フェニレンビス(トリメリテートアンハイドライド)、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン酸二無水物、2,2’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。また、これらを2種類以上用いてもよい。
【0040】
併用可能な脂肪族テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]ヘプタンテトラカルボン酸二無水物、テトラヒドロフラン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、3c-カルボキシメチルシクロペンタンー1r,2c,4c-トリカルボン酸1,4:2,3-二無水物、ビシクロ-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらを2種類以上用いてもよい。また、これらの脂肪族テトラカルボン酸二無水物と前述の芳香族テトラカルボン酸二無水物を併用してもよい。
【0041】
ポリイミド前駆体ワニスのハンドリングおよびポリイミドフィルムの物性の観点から、ポリイミド前駆体の30℃における固有粘度は、0.5~5.0dL/gの範囲が好ましく、1.0~3.0dL/gの範囲がより好ましい。
【0042】
上記のようにして得られたポリイミド前駆体の均一なワニスを、次のキャスト製膜工程で適切な溶液粘度に調整する等の目的で、溶媒で適度に希釈してもよい。希釈には前述の重合溶媒が使用可能である。通常、重合に用いたものと同一の溶媒で希釈するが、ワニスの均一性が損なわれなければ異なった溶媒で希釈してもよい。また、希釈溶媒として2種類以上の溶媒を混合して用いてもよい。これらの希釈溶媒はあらかじめ脱水処理されていることが望ましい。
【0043】
ポリイミド前駆体ワニスをそのまま用いるか、または前述の希釈溶媒で適度に希釈後、大量の水やメタノール等の貧溶媒中に滴下して繊維状の粉末として析出させ、濾過・洗浄・乾燥してポリイミド前駆体を単離することもできる。さらに、単離した粉末を、再度、溶媒に溶解して均一なワニスとすることができる。その際、再溶解には前述の重合溶媒が使用可能である。通常、重合に用いたものと同一の溶媒で希釈するが、ワニスの均一性が損なわれなければ異なった溶媒で希釈してもよい。また、再溶解溶媒として2種類以上の溶媒を混合して用いてもよい。これらの再溶解溶媒はあらかじめ脱水処理されていることが望ましい。再溶解を促進するため、溶液を30~120℃、好ましくは40~80℃で1分~4時間、より好ましくは5分~1時間加熱してもよい。
【0044】
重合して得られたポリイミド前駆体ワニスの粘度を安定化するため、またはポリイミド前駆体の分子量を適度に下げること等を目的とし、重合して得られたポリイミド前駆体ワニスをそのまま用いるかまたは前述の希釈溶媒で適度に希釈後、50~130℃、好ましくは70~120℃で10分~6時間、より好ましくは30分~4時間加熱してもよい。また、ポリイミド前駆体を部分的にイミド化することを目的として、沈殿析出・ゲル化を生じないように注意しながら、重合により得られたポリイミド前駆体ワニスをそのまま用いるか、または前述の希釈溶媒で適度に希釈後、70~160℃、好ましくは80~150℃で10分~6時間、より好ましくは30分~4時間加熱してもよい。
【0045】
上述のとおり、本発明では、上記式(2)で表されるジアミンであって、特に、メチル置換基が4-アミノフェニル基の2位に結合した下記式(3)で表されるジアミン(4-アミノ-2-メチルフェニル4-アミノベンゾエート(以下、M-APABと称する。))を用い、これとアミド基、尿素基、ウレタン基、イミダゾール基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、シアノ基、スルホニル基等の極性基を一切含まず、剛直で直線性の高い分子構造を有する上記式(7)~(11)で表されるテトラカルボン酸二無水物を組み合わせて得られる系を採用することで、重付加反応によりポリイミド前駆体を得る際に、モノマーの溶解性の問題なくスムーズに重付加反応して十分に高分子量のポリイミド前駆体を得ることができる。また、この前駆体をキャスト製膜・高温熱処理(熱イミド化)して得られたポリイミドフィルムは、高Tg、低CTEを維持しながら、大幅に低減した吸水率とDFを発現するという特性を有している。本発明によって、現実的な製造コストで、超高速・大容量・低遅延通信・多数同時接続を実現する5G-FPC用絶縁フィルムに適した実用的価値の高い耐熱絶縁フィルムを提供することが可能となる。
【0046】
【0047】
なお、APABの特定の位置にメチル基を導入したM-APABを用い、これと上記所定のテトラカルボン酸二無水物を組み合わせるだけで、上記のような顕著な複合的フィルム物性改善効果が発現されることは、これまで知られていなかった。これは、小さな置換基であるメチル基をジアミンに導入しても、イミド基含有率の減少分はほんの僅かにすぎず、イミド基含有率の観点からは、フィルムの吸水率やDFが大幅に下がる現象を予期することが難しいという事情によるものと考えられる。
【0048】
[2]ポリイミドフィルムの製造方法
以下、本発明のポリイミドフィルムの作製方法の一例を示すが、フィルム製造方法はこれに限定されない。
上記のように得られたポリイミド前駆体の均一なワニスを様々な材質、例えば、ガラス、銅、アルミニウム、ステンレス、シリコン等の支持体(基板)上に塗工し、熱風乾燥器中、40~150℃、好ましくは50~140℃で1分~4時間、より好ましくは5分~3時間乾燥し、ポリイミド前駆体のキャストフィルムを得る。
【0049】
続いて、得られたポリイミド前駆体フィルムを、基板上で真空中または窒素等の不活性ガス中、200~400℃、好ましくは230~380℃、より好ましくは250~360℃で加熱することで本発明のポリイミドフィルムが得られる。なお、昇温は段階的に行ってもよい。熱イミド化は、真空中または不活性ガス中で行うことが好ましいが、イミド化温度が高すぎなければ空気中で行ってもよい。
【0050】
熱イミド化工程後、ポリイミドフィルム/基板積層体を水浴やアルコール浴等に浸漬し、ポリイミドフィルムを基板から剥離して自立フィルムとし、これを、残留歪を除く等の目的で真空中、不活性ガス中または空気中でさらに熱処理してもよい。その際、フィルムの変形や配向緩和によるCTEの増加等の悪影響を抑制するため、熱処理の温度条件を適宜選択することができる。
【0051】
本発明のポリイミドフィルムの要求特性を損なわない範囲で、上記のようにして得られた前駆体ワニスに、無機フィラー、接着促進剤、剥離剤、難燃剤、紫外線安定剤、界面活性剤、レベリング剤、消泡剤、蛍光増白剤、架橋剤、重合開始剤、感光剤等各種添加剤を添加して熱イミド化し、ポリイミドフィルムを作製してもよい。
【0052】
本発明のポリイミドフィルムは、5G-FPC用耐熱絶縁基板に好適に用いることができる。その際のフィルム厚は、特に限定されず、適宜調節することができるが、10~120μmが好適な範囲である。
【実施例0053】
以下、合成例および実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、以下に例示した物性値は、次の方法により測定した。
【0054】
(1)赤外線吸収(FT-IR)スペクトル
合成したモノマーおよびその中間体の赤外線吸収スペクトルは、フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光(株)製、FT-IR4100)を用い、KBrプレート法にて測定した。また、透過法にてポリイミドおよびその前駆体薄膜(約5μm厚)の赤外線吸収スペクトルを測定した。
(2)1H-NMRスペクトル
合成したモノマーおよびその中間体の1H-NMRスペクトルは、NMR分光計(日本電子(株)製、JMN-ECP400)を用い、重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO-d6)を溶媒として測定した。
(3)元素分析
有機微量元素分析装置((株)ジェイ・サイエンス・ラボ製、MICRO CORDER JM10)を用い、合成したモノマーのC、H、Nの化学組成分析を行った。
(4)示差走査熱量分析(融点)
合成したモノマーおよびその中間体の融点は、示差走査熱量分析装置(ネッチ・ジャパン(株)製、DSC3100)または示差走査熱量分析装置((株)リガク製、DSC8231)を用い、窒素雰囲気中、昇温速度5℃/分で測定したサーモグラムの吸熱ピーク温度から求めた。
(5)固有粘度
ポリイミド前駆体の還元粘度(ηred)は、ポリアミド酸の重合後のワニスを重合溶媒で希釈して、固形分濃度0.5質量%の溶液とし、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定した。この値は実質的に固有粘度(ηinh)とみなすことができ、この値が高いほどポリアミド酸の分子量が高いことを表す。通常、この条件で測定された還元粘度が1.0dL/g以上であると、十分高分子量であるとみなすことができる。
(6)ガラス転移温度(Tg)
熱機械分析装置((株)リガク製、TMA8311)を用いて、試験片(長さ:20mm、幅:5mm、チャック間長さ:15mm)に膜厚1μm当たり静荷重0.5gをかけて、昇温速度5℃/分で室温から450℃まで昇温して試験片の伸びを計測してTMA曲線を記録した。TMA曲線の勾配が非常に小さい温度域と、大きな温度域でそれぞれ接線を引き、これらの交点より、ポリイミドフィルム(約20μm厚)のガラス転移温度(Tg)を求めた。Tgが高いほど、短期耐熱性に優れていることを表す。
(7)線熱膨張係数(CTE)
熱機械分析装置((株)リガク製、TMA8311)を用いて、試験片(長さ:20mm、幅:5mm、チャック間長さ:15mm)に膜厚1μm当たり静荷重0.5gをかけて、昇温速度5℃/分における試験片の伸びより、100~200℃の範囲での平均値としてポリイミドフィルム(約25μm厚)のフィルム面(XY)方向のCTEを求めた。この値がゼロに近いほど、Tg以下での温度領域における熱寸法安定性に優れていることを表す。
(8)5%重量減少温度(Td
5)
熱重量分析装置(ネッチ・ジャパン(株)製、TG-DTA2000S)または熱重量分析装置((株)リガク製、TG8121)を用いて、窒素中および空気気流中、昇温速度10℃/分での昇温過程におけるポリイミドフィルム(膜厚約20μm)の質量が初期質量の5%減少した時の温度を測定した。窒素中で測定したTd
5の値が高いほど長期耐熱性(熱安定性)が高いことを表す。
(9)機械的特性:引張弾性率、破断伸び、破断強度
ポリイミドフィルム(試験片:30mm長×3mm幅×25μm厚)の機械的特性は、引張試験機((株)エー・アンド・デイ製、テンシロンUTM-2)を用い、延伸速度8mm/分で測定した(有効試験片数n>15)。応力-歪曲線の初期の勾配から引張弾性率(E)、フィルムが破断した時の伸び率および応力から破断伸び(εb)および破断強度(σb)をそれぞれ求めた。
(10)吸水率(WA)
JIS K 7209に従い、50℃で24時間真空乾燥したポリイミドフィルム(膜厚20~30μm)の質量(W0)を秤量し、次にそのフィルムを23℃の水に24時間浸漬した後、余分の水分を拭き取り、質量(W)を秤量し、WA=(W-W0)/W0×100(%)より吸水率(WA)を求めた。
(11)高周波誘電特性:誘電率(εr)、誘電正接(tan δ)
ポリイミドフィルムの高周波誘電特性(10GHz)は、(株)DJKにおいて、フィルムを23℃、50%RHの環境に24時間置いた後、同一の温度・湿度条件で空洞共振器摂動法(IEC62810準拠、キーサイト・テクノロジー社製、PNAネットワークアナライザN5222B、(株)関東電子応用開発製、空洞共振器10GHz用CP531)を用いて測定した。
【0055】
[1]モノマーの合成
[合成例1]ジアミン(MeO-APAB)の合成
【化10】
【0056】
100mLナス型フラスコに、2-メトキシ-4-ニトロフェノール(東京化成工業(株)製、14.9mmol、2.528g)を脱水テトラヒドロフラン(THF、5mL)に溶かし、さらに脱酸剤としてピリジン(1.5mL)を添加し、セプタムキャップで密栓してA液とした。一方、別の100mLナス型フラスコ中、4-ニトロ安息香酸クロリド(2.798g、15.1mmol)を脱水THF(3mL)に溶解し、セプタムキャップで密栓してB液とした。
A液を氷浴で冷却し、マグネチックスターラーで撹拌しながら、A液にB液をシリンジでゆっくりと滴下したところ、沈殿が析出し、撹拌しにくくなったため、さらに脱水THFを追加した。滴下終了後、冷却下で数時間撹拌し、さらに室温で24時間撹拌した。反応終了後、析出物を濾別し、冷トルエンで洗浄した後、塩化物イオンが検出されなくなるまで水で洗浄して、副生成物であるピリジン塩酸塩を完全に除去した。100℃で12時間真空乾燥し、淡黄色の粗生成物3.61g(収率:76%)が得られ、これをFT-IR(KBrプレート法)および1H-NMRスペクトル(DMSO-d6)で分析したところ、目的とする高純度のジニトロ体であることが確認された。
【0057】
次いで、200mL3口フラスコ中、得られたジニトロ体(3.607g)を脱水N,N-ジメチルホルムアミド(DMF、60mL)に溶解させ、これにPd/C粉末(0.365g)を添加し、水素バブリングしながら100℃で撹拌した。薄層クロマトグラフィー(TLC)で反応を追跡し、6.5時間経過後、TLCで原料の消失が確認されたため、反応の終点とした。室温まで冷却後、Pd/Cを濾過により除去した。得られた濾液をエバポレーターで濃縮し、大量の水中に滴下して茶色の粗生成物を析出させた。得られた粗生成物を洗浄・濾過し、80℃で12時間真空乾燥して、茶色の生成物(収率73%)を得た。さらに、これを酢酸エチルで再結晶して精製した(再結晶収率:24%)。生成物の分析結果を以下に示す。以下の分析結果より、得られた生成物は、上記式(12)で表される目的とするMeO-APABであることが確認された。
【0058】
・融点:200℃(DSC)
・FT-IRスペクトル(KBrプレート法、cm-1):3438/3355/3239(アミン、N-H伸縮振動)、3057/3039(芳香族C-H伸縮振動)、2979/2943(メトキシ基、脂肪族C-H伸縮振動)、1692(エステルC=O伸縮振動)、1631(NH2変角振動)、1518(1,4-フェニレン基)、1279(O-C伸縮振動).
・1H-NMRスペクトル(400MHz,DMSO-d6,δ,ppm):7.72(d、2H(相対積分強度2.11H)、J=8.7Hz、4-アミノベンゾイル基(CO-Ph-NH2)の2,6-プロトン)、6.71(d、1H(1.02H)、J=8.4Hz、4-アミノフェノール基(O-Ph-NH2)の6-プロトン)、6.60(d、2H(2.08H)、J=8.7Hz、CO-Ph-NH2基の3,5-プロトン)、6.31(d、1H(1.01H)、J=2.4Hz、O-Ph-NH2基の3-プロトン)、6.11(dd、1H(0.893H)、J=8.4、2.4Hz、O-Ph-NH2の5-プロトン)、6.06(s、2H(1.76H)、CO-Ph-NH2のアミノ基)、5.03(s、2H(1.71H)、O-Ph-NH2のアミノ基)、3.63(s、3H(3.00H)、メトキシ基).
・元素分析(C14H14O3N2、分子量258.27):推定値(%)C;65.11、H;5.46、N;10.85、分析値C;64.69、H;5.31、N;10.63
【0059】
[合成例2]テトラカルボン酸二無水物(TA-44BP)の合成
【化11】
【0060】
200mLナス型フラスコ中、4,4’-ビフェノール(44BP、7.45g、40mmol)を脱水DMF(30mL)に溶かし、さらに脱酸剤としてピリジン(7.9mL、120mmol)を添加し、セプタムキャップで密栓してA液とした。一方、別の300mLナス型フラスコ中、トリメリット酸無水物クロリド(16.90g、80.3mmol)を脱水DMF(70mL)に溶解し、セプタムキャップで密栓してB液とした。
B液を氷浴で冷却し、マグネチックスターラーで撹拌しながら、B液にA液をシリンジでゆっくりと滴下したところ、黄色沈殿が析出した。滴下終了後、冷却下で数時間撹拌し、さらに室温で24時間撹拌した。反応終了後、析出物を濾別し、少量のDMFで洗浄した後、塩化物イオンが検出されなくなるまで水で洗浄して、副生成物であるピリジン塩酸塩を完全に除去した。これを200℃で12時間真空乾燥し、黄色の粗生成物を得た(収率:87%)。さらに、これをγ-ブチロラクトン(GBL)から再結晶し、少量のGBL次いでトルエンで洗浄し、200℃で12時間真空乾燥し、金色板状晶を得た(再結晶収率:84%)。この生成物の分析結果を以下に示す。これらの分析結果より、得られた生成物は上記式(11)で表される目的とするTA-44BPであることが確認された。
【0061】
・融点:326℃(DSC)
・FT-IRスペクトル(KBrプレート法、cm-1):3104(芳香族C-H伸縮振動)、1861/1776(ジカルボン酸無水物基、C=O伸縮振動)、1731(エステル基、C=O伸縮振動)、1496(1,4-フェニレン基).加水分解物による水素結合性COOH基のO-H伸縮振動(通常2600cm-1付近)や原料の44BP由来のフェノール性O-H伸縮振動(通常3400~3200cm-1付近)の吸収帯は見られなかった。
・1H-NMRスペクトル(400MHz,DMSO-d6,δ,ppm):8.68~8.65(m、4H、末端無水フタル酸(PAn)基の3,3’-および6.6‘-プロトン)、8.30(d、2H、J=7.8Hz、PAn基の5,5’-プロトン)、7.86(d、4H、J=8.6Hz、中央ビフェニレン(BP)基の2,2’,6,6’-プロトン)、7.52(d、4H、J=8.7Hz、BP基の3,3’,5,5’-プロトン).
・元素分析(C30H14O10、分子量534.44):推定値(%)C;67.42、H;2.64、分析値C;67.66、H;2.86
【0062】
[2]ポリイミド前駆体の重合、ポリイミドフィルムの作製および特性評価
[実施例1]
よく乾燥した密閉反応容器中、M-APAB(和歌山精化工業(株)製、3mmol)をモレキュラーシーブス4Aで脱水処理済みのNMPに溶かし、マグネチックスターラーで撹拌しながら、この溶液に、s-BPDA粉末(三菱ケミカル(株)製、3mmol)を加えて撹拌を続けた(初期全固形分濃度:40質量%)。重合が進むにつれて溶液粘度が増加し、十分に撹拌できなくなったため、適宜必要最小量のNMPを追加し、最終的に室温で72時間撹拌して均一で粘稠なポリイミド前駆体ワニスを得た(最終全固形分濃度:21.7質量%)。NMP中、30℃、0.5質量%の濃度でオストワルド粘度計にて測定したポリイミド前駆体の還元粘度は1.59dL/gであり、十分に高分子量体のポリイミド前駆体が得られた。
このポリイミド前駆体ワニスをガラス基板に塗布し、熱風乾燥器中80℃で3時間乾燥してポリイミド前駆体のキャストフィルムを得た。これをガラス基板ごと電気炉に入れ、250℃で1時間、さらに350℃で1時間、真空中で段階的に昇温・加熱して熱イミド化を行った。残留応力を除去するため、フィルムをガラス基板から剥がし、さらに真空中350℃(歪が除去できない場合は400℃)で1時間熱処理を行い、膜厚約20μmの濁りのない可撓性のポリイミドフィルムを得た。
別途、薄膜試料(膜厚約5μm)を用いて熱イミド化前後で測定した赤外線吸収スペクトル(透過法)を
図1に示す。熱イミド化工程により、ポリイミド前駆体由来の1662および1536cm
-1付近のアミド基C=O伸縮振動吸収帯が完全に消失し、代わりにイミド基特性吸収帯(1775、1719、1374、739cm
-1が現れていることから、この加熱条件で熱イミド化反応が完結することが確認された。
【0063】
得られたポリイミドフィルム(膜厚約20μm)は、室温~450℃の範囲で明瞭なガラス転移を示さず、さらに極めて低い線熱膨張係数(6.5pm/K)を有していた。また、機械的特性を評価した結果、引張弾性率(ヤング率)は9.32GPaであり、超高弾性率を示した。これらの結果は、テトラカルボン酸二無水物、ジアミン共に剛直な構造のモノマーを用いたことによるポリイミド主鎖全体の剛直・直線性と、熱イミド化によって誘起された主鎖の高度な面内配向によるものと考えられる。また、5%重量減少温度は窒素中で500℃であり、十分に高い化学的耐熱性(長期耐熱性)も保持していた。さらにこのポリイミドフィルムは低吸水率(0.77%)を示した。また、10GHzにおける誘電率は3.27、誘電正接(DF)は0.00299であった。このDF値は、液晶ポリエステルと比べてわずかに高い値であり、かなり低いDF値を有していた。このように、このポリイミドフィルムは5G-FPC用耐熱絶縁フィルム材に適した複数の特性を同時に兼ね備えていた。表1にポリイミドフィルムの物性値をまとめて示す。
【0064】
[比較例1]
ジアミンとしてM-APABの代わりAPABを用いた以外は、実施例1と方法と同様にして、ポリイミド前駆体を重合し、キャスト製膜・熱イミド化してポリイミドフィルム作製し、物性を評価した。
表1に示されるように、このポリイミドは、比較的良好な物性を有していたが、実施例1で得られた本発明のポリイミドと比べると、吸水率、DF共により高い値であり、特にDFの増加は予想外に顕著であった。
【0065】
[比較例2]
ジアミンとしてM-APABの代わりに、合成例1で得られたMeO-APABを用いた以外は、実施例1と同様にして、ポリイミド前駆体を重合し、キャスト製膜・熱イミド化してポリイミドフィルム作製し、物性を評価した。この系では、フィルムの変形を避けるため、ガラス基板から剥離後の残留応力除去用の熱処理はTg以下の温度で実施した。
表1に示されるように、このポリイミドは、比較的良好な物性を有していたが、実施例1で得られた本発明のポリイミドと比べると、吸水率、DF共にかなり高い値であり、特にDFの増加は予想外に顕著であった。
【0066】
[実施例2]
テトラカルボン酸二無水物として、s-BPDAの代わりに、合成例2で得られたTA-44BPを用いた以外は、実施例1と同様にしてポリイミド前駆体を重合し、キャスト製膜、熱イミド化してポリイミドフィルムを作製し、フィルム特性を評価した。
表1に示されるように、このポリイミドは、優れた物性を有しており、DFは実施例1で得られたポリイミドに比べてさらに低減していた(0.00268)。これはs-BPDAの代わりにエステル基含有テトラカルボン酸二無水物(TA-44BP)を用い、これとM-APABを組み合わせたことで発現した相乗効果によるものと考えられる。
【0067】
[比較例3]
テトラカルボン酸二無水物としてTA-44BPを用い、ジアミンとしてAPABを用いた以外は、実施例1と同様にして、ポリイミド前駆体を重合し、キャスト製膜・熱イミド化してポリイミドフィルム作製し、物性を評価した。
表1に示されるように、このポリイミドは比較的良好な物性を有していたが、実施例2で得られた本発明のポリイミドと比べると、高いDF値を示した。
【0068】
[比較例4]
テトラカルボン酸二無水物としてTA-44BPを用い、ジアミンとしてMeO-APABを用いた以外は、実施例1と同様にして、ポリイミド前駆体を重合し、キャスト製膜・熱イミド化してポリイミドフィルムを作製し、物性を評価した。この系では、フィルムの変形を避けるため、ガラス基板から剥離後の残留応力除去用の熱処理はTg以下の温度で実施した。
表1に示されるように、このポリイミドは、比較的良好な物性を有していたが、実施例2で得られた本発明のポリイミドと比べると、吸水率、DF共により高い値を示した。特にDFの増加は予想外に顕著であった。
【0069】
[比較例5]
テトラカルボン酸二無水物としてPMDAを、ジアミンとして4,4’-ODAを用い、実施例1と同様にして、ポリイミド前駆体を重合し、キャスト製膜・熱イミド化してポリイミドフィルムを作製した。吸水率は2.9%、DF値は10GHzで0.0114と、共に高い値であった。これらの結果はこのポリイミドのイミド基含有率が高いためであると推察される。
【0070】
[比較例6]
テトラカルボン酸二無水物としてs-BPDAを、ジアミンとしてp-PDAを用い、実施例1と同様にして、ポリイミド前駆体を重合し、キャスト製膜・熱イミド化してポリイミドフィルムを作製した。このポリイミドのDF値を測定したところ、10GHzで0.00538と高い値であった。これはジアミンにM-APABを使用しなかったためであると推察される。
【0071】