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特開2024-165245キノイド化合物、その製造法及び光電変換素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165245
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】キノイド化合物、その製造法及び光電変換素子
(51)【国際特許分類】
   H10K 30/60 20230101AFI20241121BHJP
   C07D 455/04 20060101ALI20241121BHJP
   C07D 265/38 20060101ALI20241121BHJP
   C07D 279/22 20060101ALI20241121BHJP
   C07D 295/155 20060101ALI20241121BHJP
   C07D 209/86 20060101ALI20241121BHJP
   C07C 253/30 20060101ALI20241121BHJP
   H10K 30/30 20230101ALI20241121BHJP
   C07C 255/42 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
H10K30/60
C07D455/04 CSP
C07D265/38
C07D279/22
C07D295/155
C07D209/86
C07C253/30
H10K30/30
C07C255/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081271
(22)【出願日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000173762
【氏名又は名称】公益財団法人相模中央化学研究所
(72)【発明者】
【氏名】山縣 拓也
(72)【発明者】
【氏名】青柳 圭哉
(72)【発明者】
【氏名】浅野 祥生
(72)【発明者】
【氏名】金子 岳史
(72)【発明者】
【氏名】岩永 宏平
【テーマコード(参考)】
4H006
5F149
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA02
4H006AA03
4H006AB92
4H006AC24
4H006QN30
5F149AB11
5F149LA02
5F149XA43
5F149XA53
(57)【要約】      (修正有)
【課題】赤色用光電変換材料として適した吸収特性を示すキノイド化合物の提供、及び当該キノイド化合物の合成方法の提供。
【解決手段】式(1)で示されるキノイド化合物及びその製造方法。

(Rは、H、ハロゲン、アルキル基又はシアノ基;Rは、H、アルキル基又は芳香族炭化水素基であり、2つのRは一体となって環を形成してもよい;Rは、H又はアルキル基で、隣接するRと一体となって環を形成してもよい;Rは、H又はアルキル基;R~Rは、H、ハロゲン又はハロアルキル基を表し、R~Rのうち少なくとも1つはハロアルキル基)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示されるキノイド化合物。
【化1】
式(1)中、
は、同一又は相異なって、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~4のアルキル基又はシアノ基を表す。
は、同一又は相異なって、水素原子、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数6~18の芳香族炭化水素基を表し、2つのRは一体となって環を形成してもよく、2つのRは酸素原子又は硫黄原子を介して結合し一体となって環を形成してもよい。
は、同一又は相異なって、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表し、Rは隣接するRと一体となって5又は6員環を形成してもよい。
は、同一又は相異なって、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。
~Rは、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1~4のハロアルキル基を表し、R~Rのうち少なくとも1つは炭素数1~4のハロアルキル基である。
【請求項2】
式(1)中、Rが、水素原子又はフッ素原子であり、
が、炭素数1~4のアルキル基である、請求項1に記載のキノイド化合物。
【請求項3】
式(1)中、R及びRが、水素原子である、請求項1に記載のキノイド化合物。
【請求項4】
式(1)中、R~Rのうち少なくとも1つはトリフルオロメチル基である、請求項1に記載のキノイド化合物。
【請求項5】
式(1)中、Rが、水素原子又はトリフルオロメチル基である、請求項1に記載のキノイド化合物。
【請求項6】
式(1)中、R、R及びRが、水素原子であり、 R及びRのうち、少なくとも1つはトリフルオロメチル基である、請求項1に記載のキノイド化合物。
【請求項7】
下記式(2)
【化2】
(式(2)中、Rは、同一又は相異なって、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。Xはハロゲン原子を表す。)で示されるハロゲン化芳香族化合物(2)と、下記式(3)
【化3】
(式(3)中、Rは、同一又は相異なって、水素原子、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数6~18の芳香族炭化水素基を表し、2つのRは一体となって環を形成してもよく、2つのRは酸素原子又は硫黄原子を介して結合し一体となって環を形成してもよい。Rは、同一又は相異なって、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表し、Rは隣接するRと一体となって環を形成してもよい。Rは、同一又は相異なって、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。R~Rは、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1~4のハロアルキル基を表し、R~Rのうち少なくとも1つは炭素数1~4のハロアルキル基である。)で示されるベンゾフェノン化合物と、を有機金属試薬存在下で反応させることを特徴とする、下記式(1)
【化4】
(式中、R~Rは、前記と同じ意味を表す。)で示されるキノイド化合物の製造方法。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載のキノイド化合物を含んでなる光電変換素子。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか1項に記載のキノイド化合物を光電変換層に含んでなる光電変換素子。
【請求項10】
光電変換層にさらにフラーレン誘導体を含む、請求項9に記載の光電変換素子。
【請求項11】
フラーレン誘導体がC60又はC70である、請求項10に記載の光電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キノイド化合物、その製造方法及び光電変換素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光電変換素子は、光センサーなどの撮像素子や太陽電池などの光発電装置に使用されている。有機光電変換材料を用いる光電変換素子が特許文献1などに開示されている。
【0003】
光電変換素子としては、シリコン半導体を用いた素子が広く用いられており、特に撮像素子としてはシリコンフォトダイオードが主に使用されている。このようなシリコンフォトダイオードは可視光領域全域に感度を有しているため、この上部にRGBがモザイク状に配置されたカラーフィルターを用いて各画素をRGBそれぞれの受光部として振り分けることでカラー撮像を行っている。本方式ではカラーフィルターでの入射光の損失により光の利用効率が低いため、撮像素子の高感度化の障壁となることが懸念される。そこで、RGB各色の有機光電変換層を積層した撮像素子(以下積層型有機撮像素子)が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。本方式はカラーフィルターによる光の損失がないため、カラーフィルターを用いた場合と比べて光の利用効率が数倍となるため、カメラなどのデバイスの高画素化に伴う画素の微細化に優位性を持つ高感度のデバイスへの利用が期待されている。
【0004】
積層型有機撮像素子の光電変換層としては、高い光吸収能及びRGB各層の色に適した波長選択性を有することが求められる。特に、表色系の等色関数と同様の吸収特性を示すことが望ましく、例えば赤色の等色関数の極大点の波長は600nmであることから、赤色用光電変換材料としては600nm近傍において極大吸収を示すことが好ましい。特許文献2及び非特許文献2には、R層(赤色用光電変換層)としてホウ素サブナフタロシアニンクロリド(以下、SubNc)を光電変換材料として用いた赤色用光電変換素子について記載されており、単層膜で波長約680nmの極大吸収を示し、光電変換素子の外部量子効率についても光電変換層の膜厚50nmの素子において波長約680nmにて極大値を示すことが報告されているが、赤色用光電変換材料としては、より600nm近傍に極大吸収を示す材料が求められる。
【0005】
特許文献3には、キノイド誘導体を含む電気活性化合物が記載されているが、フェニル基上にハロアルキル基を有さない点で本発明のキノイド化合物とは異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許4148374号公報
【特許文献2】特開2017-73426号公報
【特許文献3】特開平4334343号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Japanese Journal of Applied Physics,2011年、50巻、024103頁
【非特許文献2】電子情報通信学会論文誌C Vol. J101-C No.9 pp.352-361頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、既存材よりも赤色用光電変換材料として適した吸収特性を示す、すなわち600nm近傍において極大吸収を示すキノイド化合物を提供すること、及び当該キノイド化合物を簡便に合成する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、新規なキノイド化合物が600nm近傍に極大吸収を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち本発明は、
[1]
下記式(1)で示されるキノイド化合物。
【0011】
【化1】
【0012】
式(1)中、
は、同一又は相異なって、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~4のアルキル基又はシアノ基を表す。
は、同一又は相異なって、水素原子、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数6~18の芳香族炭化水素基を表し、2つのRは一体となって環を形成してもよく、2つのRは酸素原子又は硫黄原子を介して結合し一体となって環を形成してもよい。
は、同一又は相異なって、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表し、Rは隣接するRと一体となって5~6員環を形成してもよい。
は、同一又は相異なって、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。
~Rは、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1~4のハロアルキル基を表し、R~Rのうち少なくとも1つは炭素数1~4のハロアルキル基である。
【0013】
[2]
式(1)中、Rが、水素原子又はフッ素原子であり、
が、炭素数1~4のアルキル基である、[1]に記載のキノイド化合物。
【0014】
[3]
式(1)中、R及びRが、水素原子である、[1]又は[2]に記載のキノイド化合物。
【0015】
[4]
式(1)中、R~Rのうち少なくとも1つはトリフルオロメチル基である、[1]~[3]のいずれかに記載のキノイド化合物。
【0016】
[5]
式(1)中、Rが、水素原子又はトリフルオロメチル基である、[1]~[4]のいずれかに記載のキノイド化合物。
【0017】
[6]
式(1)中、R、R及びRが、水素原子であり、
及びRのうち、少なくとも1つはトリフルオロメチル基である、[1]に記載のキノイド化合物。
【0018】
[7]
下記式(2)
【0019】
【化2】
【0020】
(式(2)中、Rは、同一又は相異なって、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。Xはハロゲン原子を表す。)で示されるハロゲン化芳香族化合物(2)と、式(3)
【0021】
【化3】
【0022】
(式(3)中、Rは、同一又は相異なって、水素原子、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数6~18の芳香族炭化水素基を表し、2つのRは一体となって環を形成してもよく、2つのRは酸素原子又は硫黄原子を介して結合し一体となって環を形成してもよい。Rは、同一又は相異なって、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表し、Rは隣接するRと一体となって環を形成してもよい。Rは、同一又は相異なって、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。R~Rは、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1~4のハロアルキル基を表し、R~Rのうち少なくとも1つは炭素数1~4のハロアルキル基である。)で示されるベンゾフェノン化合物と、を有機金属試薬存在下で反応させることを特徴とする、式(1)
【0023】
【化4】
【0024】
(式(1)中、R~Rは、前記と同じ意味を表す。)で示されるキノイド化合物の製造方法。
【0025】
[8]
[1]~[6]のいずれかに記載のキノイド化合物を含んでなる光電変換素子。
【0026】
[9]
[1]~[6]のいずれかに記載のキノイド化合物を光電変換層に含んでなる光電変換素子。
【0027】
[10]
光電変換層にさらにフラーレン誘導体を含む、[9]に記載の光電変換素子。
【0028】
[11]
フラーレン誘導体がC60又はC70である、[10]に記載の光電変換素子。
【発明の効果】
【0029】
本発明のキノイド化合物(1)は、赤色光領域に極大吸収を有し、かつ高い耐熱性を有することから、赤色光用有機光電変換材料に代表される有機電子材料としての適用が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本明細書中、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。また、具体的に明示する場合を除き、「~」の前後に記載される数値の単位は同じである。本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。また、個別に記載した上限値及び下限値は任意に組み合わせ可能である。
【0031】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0032】
本発明のキノイド化合物(1)におけるR~Rの定義について説明する。
【0033】
で表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を例示することができ、キノイド化合物(1)の性能が良い点で、フッ素原子が好ましい。
【0034】
で表される炭素数1~4のアルキル基としては、直鎖状、分岐状又は環状アルキル基のいずれでもよく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、2-メチルプロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、2-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基などを例示することができ、キノイド化合物(1)の合成が容易な点でメチル基が好ましい。
【0035】
は、水素原子又はフッ素原子が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0036】
で表される炭素数1~6のアルキル基としては、直鎖状、分岐状又は環状アルキル基のいずれでもよく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、2-メチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、3-シクロプロピルプロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、2-ブチル基、3-メチルブタン-2-イル基、tert-ブチル基、シクロブチル基、ペンチル基、2-メチルペンチル基、2-ペンチル基、2-メチルペンタン-2-イル基、3-ペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基などを例示することができ、キノイド化合物(1)の性能が良い点で、炭素数1~4のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0037】
で表される2つのアルキル基は、一体となって環を形成してもよく、2つのアルキル基が酸素原子又は硫黄原子を介して結合し一体となって環を形成してもよい。当該環としてはピロリジン環、ピペリジン環、アゼパン環、モルホリン環、チオモルホリン環などを例示することができ、キノイド化合物(1)の合成が容易な点で、ピロリジン環又はピペリジン環が好ましい。
【0038】
で表される炭素数6~18の芳香族炭化水素基としては、単環、連結又は縮環のいずれでもよく、フェニル基、ナフチル基、ビフェニリル基、フェナントリル基、アントニル基、ピレニル基、ペリレニル基、フルオレニル基、トリフェニレニル基などを例示することができ、得られるキノイド化合物(1)の収率が良い点で、フェニル基、ナフチル基又はビフェニル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。
【0039】
で表される2つの芳香族炭化水素基は、一体となって環を形成してもよく、2つの芳香族炭化水素基が酸素原子又は硫黄原子を介して結合し一体となって環を形成してもよい。当該環としては、カルバゾール環、ベンゾ[c]カルバゾール環、フェノキサジン環、フェノチアジン環などを例示することができる。
【0040】
で表されるアルキル基及び芳香族炭化水素基は、一体となって環を形成してもよく、アルキル基及び芳香族炭化水素基が酸素原子又は硫黄原子を介して結合し一体となって環を形成してもよい。当該環としては、インドリン環などを例示することができる。
【0041】
で表される炭素数1~4のアルキル基としては、Rで例示した炭素数1~4のアルキル基と同様のものを例示することができ、キノイド化合物(1)の合成が容易な点でメチル基が好ましい。
【0042】
は、隣接するRと一体となって5~6員環を形成してもよく、当該環としては、1,2,3,4-テトラヒドロピリジン環又は1,4-ジヒドロキノリン環、インドリン環等を例示することができる。
【0043】
は、キノイド化合物(1)の合成が容易な点で、水素原子又はメチル基が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0044】
で表される炭素数1~4のアルキル基としては、Rで例示した炭素数1~4のアルキル基と同様のものを例示することができ、キノイド化合物(1)の合成が容易な点でメチル基が好ましい。
【0045】
は、キノイド化合物(1)の合成が容易な点で、水素原子又はメチル基が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0046】
で表されるハロゲン原子としては、Rで例示したハロゲン原子と同様のものを例示することができる。
【0047】
で表される炭素数1~4のハロアルキル基としては、直鎖状、分岐状又は環状ハロアルキル基のいずれでもよく、具体的には、トリフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、ペルフルオロエチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、1,1-ジフルオロエチル基、2,2-ジフルオロエチル基、ペルフルオロプロピル基、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル基、2,2,3,3-テトラフルオロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、1,1-ジフルオロプロピル基、ペルフルオロイソプロピル基、2,2,2-トリフルオロ-1-(トリフルオロメチル)エチル基、ペルフルオロシクロプロピル基、2,2,3,3-テトラフルオロシクロプロピル基、ペルフルオロブチル基、2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブチル基、3,3,4,4,4-ペンタフルオロブチル基、4,4,4-トリフルオロブチル基、クロロメチル基、ブロモメチル基、ヨードメチル基、2-クロロエチル基、3-ブロモプロピル基、6,6,6-トリフルオロヘキシル基、8,8,8-トリフルオロオクチル基などを例示することができ、キノイド化合物(1)の合成が容易な点で、フルオロアルキル基が好ましく、トリフルオロメチル基がより好ましい。
【0048】
は、キノイド化合物(1)の性能が良い点で、水素原子又はトリフルオロメチル基が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0049】
で表されるハロゲン原子としては、Rで例示したハロゲン原子と同様のものを例示することができる。
【0050】
で表される炭素数1~4のハロアルキル基としては、Rで例示した炭素数1~4のハロアルキル基と同様のものを例示することができ、キノイド化合物(1)の合成が容易な点で、フルオロアルキル基が好ましく、トリフルオロメチル基がより好ましい。
【0051】
は、キノイド化合物(1)の性能が良い点で、水素原子又はトリフルオロメチル基が好ましく、トリフルオロメチル基がより好ましい。
【0052】
で表されるハロゲン原子としては、Rで例示したハロゲン原子と同様のものを例示することができる。
【0053】
で表される炭素数1~4のハロアルキル基としては、Rで例示した炭素数1~4のハロアルキル基と同様のものを例示することができ、キノイド化合物(1)の合成が容易な点で、フルオロアルキル基が好ましく、トリフルオロメチル基がより好ましい。
【0054】
は、キノイド化合物(1)の性能が良い点で、水素原子又はトリフルオロメチル基が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0055】
で表されるハロゲン原子としては、Rで例示したハロゲン原子と同様のものを例示することができる。
【0056】
で表される炭素数1~4のハロアルキル基としては、Rで例示した炭素数1~4のハロアルキル基と同様のものを例示することができ、キノイド化合物(1)の合成が容易な点で、フルオロアルキル基が好ましく、トリフルオロメチル基がより好ましい。
【0057】
は、キノイド化合物(1)の性能が良い点で、水素原子又はトリフルオロメチル基が好ましく、トリフルオロメチル基がより好ましい。
【0058】
で表されるハロゲン原子としては、Rで例示したハロゲン原子と同様のものを例示することができる。
【0059】
で表される炭素数1~4のハロアルキル基としては、Rで例示した炭素数1~4のハロアルキル基と同様のものを例示することができ、キノイド化合物(1)の合成が容易な点で、フルオロアルキル基が好ましく、トリフルオロメチル基がより好ましい。
【0060】
は、キノイド化合物(1)の性能が良い点で、水素原子又はトリフルオロメチル基が好ましく、トリフルオロメチル基がより好ましい。
【0061】
本発明のキノイド化合物(1)としては、特に限定するものではなく、例えば、下記の(1-1)から(1-20)に示す構造の化合物を具体的に例示することができる。
【0062】
【化5】
【0063】
なお本明細書中、Meはメチル基を表す。
【0064】
(1-1)から(1-20)で示される化合物のうち、本発明のキノイド化合物(1)としては、合成が容易な点で(1-1)~(1-3)で示される化合物が好ましく、(1-1)で示される化合物がより好ましい。
【0065】
次に、本発明のキノイド化合物(1)の製造方法(以下、本発明の製造方法と称する。)について説明する。
【0066】
本発明のキノイド化合物(1)は、次の反応式に示される工程1により製造することができる。
【0067】
【化6】
【0068】
式中、Rは、同一又は相異なって、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~4のアルキル基又はシアノ基を表す。Rは、同一又は相異なって、水素原子、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数6~18の芳香族炭化水素基を表し、2つのRは一体となって環を形成してもよく、2つのRは酸素原子又は硫黄原子を介して結合し窒一体となって環を形成してもよい。Rは、同一又は相異なって、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表し、Rは隣接するRと一体となって5~6員環を形成してもよい。Rは、同一又は相異なって、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。R~Rは、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1~4のハロアルキル基を表し、R~Rのうち少なくとも1つは炭素数1~4のハロアルキル基である。Xはハロゲン原子を表す。
【0069】
工程1は前駆体化合物(2)とベンゾフェノン化合物(3)を有機金属試薬存在下で反応させ、キノイド化合物(1)を製造する工程である。
【0070】
工程1に用いる前駆体化合物(2)としては、例えば、以下の(2-1)から(2-6)に示す構造の化合物を具体的に示すことができる。
【0071】
【化7】
【0072】
キノイド化合物(1)の収率がよい点で、(2-1)又は(2-2)で表される化合物が好ましく、(2-1)で表される化合物がより好ましい。前駆体化合物(2)は、当業者の良く知る汎用的方法、例えばOrganic & Biomolecular Chemistry,2022年,20巻,5933-5937頁に開示されている方法等に従えば、製造することができる。また、市販品を用いてもよい。
【0073】
工程1に用いるベンゾフェノン化合物(3)としては、例えば、下記の(3-1)から(3-10)に示す構造の化合物を具体的に例示することができる。
【0074】
【化8】
【0075】
合成が容易な点で、(3-1)、(3-4)で示される化合物が好ましく、(3-1)で示される化合物がより好ましい。ベンゾフェノン化合物(3)は、当業者の良く知る汎用的な方法で製造することができ、例えば、Journal of the American Chemical Society,2021年,143巻,2097-2107頁に開示されている方法等に従えば、製造することができる。また、市販品を用いてもよい。
【0076】
工程1で用いる前駆体化合物(2)とベンゾフェノン化合物(3)とのモル比に特に制限はなく、収率がよい点で前駆体化合物(2):ベンゾフェノン化合物(3)のモル比が10:1から1:10の範囲にあることが好ましく、2:1から1:2の範囲にあることがより好ましく、1:1であることがさらに好ましい。
【0077】
工程1は、前駆体化合物(2)に有機金属試薬を作用させた後に、ベンゾフェノン化合物(3)を反応させることが好ましい。
【0078】
工程1に用いる有機金属試薬としては、具体的には、ハロゲン化イソプロピルマグネシウム、ハロゲン化フェニルマグネシウム、ハロゲン化アニシルマグネシウム、ハロゲン化フリルマグネシウム、ハロゲン化チエニルマグネシウムなどのグリニャール試薬、ブチルリチウム、フェニルリチウム、トリルリチウム、チエニルリチウム、ピリジルリチウムなどの有機リチウム試薬、ハロゲン化フェニルマンガンなどの有機アリールマンガン試薬などを例示することができる。その中でもキノイド化合物(1)の合成の収率がいい点で、有機リチウム試薬が好ましく、ブチルリチウムがより好ましい。
【0079】
工程1で用いる前駆体化合物(2)と有機金属試薬とのモル比に特に制限はなく、収率がよい点で前駆体化合物(2):有機金属試薬のモル比が10:1~1:10の範囲にあることが好ましく、2:1~1:2の範囲にあることがより好ましく、1:1~1:1.5であることがさらに好ましい。
【0080】
工程1は溶媒中で実施することができる。用いることのできる溶媒に特に制限はなく、反応を阻害しない溶媒であればよい。このような溶媒としては、具体的には、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、アニソール、テトラリン等の芳香族炭化水素;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル;等を例示することができ、これらを任意の比で混合して用いてもよい。溶媒の使用量に特に制限はない。これらのうち、本発明のキノイド化合物(1)の反応収率がよい点で脂肪族炭化水素、エーテル又はこれらの混合溶媒が好ましく、ヘキサン、THF又はこれらの混合溶媒がより好ましい。
【0081】
工程1を実施する際の反応温度には特に制限はなく、通常は-100~140℃から適宜選択された温度にて実施することができ、本発明のキノイド化合物(1)の反応収率が良い点で-86~30℃から適宜選択された温度にて実施することが好ましく、-80~30℃から適宜選択された温度にて実施することがさらに好ましい。
【0082】
本発明のキノイド化合物(1)は、工程1の反応の終了後に通常の処理を行うことで得ることができる。必要に応じて、再結晶、カラムクロマトグラフィー、昇華又は分取HPLC等で精製してもよい。
【実施例0083】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されるものではない。
【0084】
H-NMR測定]
H-NMRの測定には、Bruker AVANCE III 400 または AVANCE III HD 400 NMRを用いた。H-NMRは、重クロロホルムを測定溶媒とし、内部標準物質としてテトラメチルシラン(TMS)を用いて測定した。
【0085】
[HPLC測定]
HPLCの測定には、LC-2040C 高速液体クロマトグラフ(島津製作所製)を用いた。溶離液はメタノール:テトラヒドロフラン:水=94:5:1を使用した。
【0086】
[薄膜作製及び膜厚測定]
薄膜作製は真空蒸着法により行い、ELORA-500(アルバック機工(株)製)を用いた。基板は、予めイソプロピルアルコールにより洗浄した後、酸素プラズマ洗浄を行ったものを用いた。
【0087】
[吸収スペクトル測定]
吸収スペクトル測定には分光光度計V-750(日本分光製)を用いた。スキャンスピード400nm/分で測定を行った。測定試料には真空蒸着法により石英基板上に作製した薄膜を用いた。
【0088】
合成実施例-1
2-(4-((3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル)(4-(ジメチルアミノ)フェニル)メチレン)シクロヘキサ-2,5-ジエン-1-イリデン)マロノニトリル(キノイド化合物(1-1))
【0089】
【化9】
【0090】
2-(4-ブロモフェニル)マロノニトリル(2-1)(0.20g,0.91mmol)にTHF中、-78℃にて1.6M n-ブチルリチウム-ヘキサン溶液(1.1mL,1.8mmol)を作用させて4時間撹拌した後、(3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル)(4-(ジメチルアミノ)フェニル)メタノン(3-1)(0.33g,0.91mmol)を加えて室温まで昇温しながら17時間撹拌した。得られた懸濁液をアセトニトリルで希釈し、シリカパッドにて濾過した後に溶媒留去した。得られた固体をクロロホルムに溶解させ、リサイクルGPC(溶離液:CHCl)にて精製することで緑色固体の2-(4-((3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル)(4-(ジメチルアミノ)フェニル)メチレン)シクロヘキサ-2,5-ジエン-1-イリデン)マロノニトリル(キノイド化合物(1-1))を得た(収量:0.050g,収率:11%)。
H-NMR(400MHz,CDCl):δ8.04(brs,1H),7.74(brs,2H),7.41(dd,J=9.5,2.1Hz,1H),7.24(dd,J=9.5,2.1Hz,1H),7.15(dd,J=9.5,2.1Hz,1H),7.14(brd,J=9.2Hz,2H),6.86(dd,J=9.5,2.1Hz,1H),6.74(brd,J=9.2Hz,2H),3.18(s,6H).。
【0091】
合成参考例-1
2-(4-(ビス(4-(ジメチルアミノ)フェニル)メチレン)シクロヘキサ-2,5-ジエン-1-イリデン)マロノニトリル(R-1)
【0092】
【化10】
【0093】
2-(4-ブロモフェニル)マロノニトリル(1.4g,6.4mmol)にTHF中、-78℃にて1.6M ブチルリチウムのヘキサン溶液(8.8mL,14mmol)を作用させて4時間撹拌した後、ビス(4-(ジメチルアミノ)フェニル)メタノン(1.6g,5.8mmol)を加えて室温まで昇温しながら17時間撹拌した。得られた懸濁液にアセトニトリルで希釈し、シリカパッドにて濾過した後に溶媒留去した。得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl)にて精製した後、熱トルエンにより再結晶することで緑色固体の2-(4-(ビス(4-(ジメチルアミノ)フェニル)メチレン)シクロヘキサ-2,5-ジエン-1-イリデン)マロノニトリル(化合物(R-1))を得た(収量:0.15g,収率:6%)。
H-NMR(400MHz,CDCl): δ7.26(brd,J=9.0Hz,4H)7.18(brd,J=9.5Hz,2H),7.15(brd,J=9.5Hz,2H),6.74(brd,J=9.0Hz,4H),3.16(s,12H).。
【0094】
評価実施例-1
真空蒸着法により、石英基板上に本発明のキノイド化合物(1-1)の薄膜を作製し、該薄膜の吸収スペクトルを測定した。極大吸収波長、製膜前純度及び製膜後純度を表1に示した。製膜前純度及び製膜後純度は、HPLCの測定により得られるピークの面積比により算出し、製膜前純度は昇華精製を行ったキノイド化合物(1-1)をクロロホルムに溶解させて得た溶液を用いて測定し、製膜後純度は該薄膜をクロロホルムに溶解させて得た溶液を用いて測定した。
【0095】
評価比較例-1
キノイド化合物(1-1)の代わりに2-(4-(ビス(4-(ジメチルアミノ)フェニル)メチレン)シクロヘキサ-2,5-ジエン-1-イリデン)マロノニトリル(化合物(R-1))を用いたこと以外は評価実施例-1と同様に行った。
【0096】
【表1】
【0097】
評価実施例-1及び評価比較例-1より、本発明のキノイド化合物は評価比較例-1で示された化合物(R-1)より極大吸収波長が600nmに近く、また製膜後純度が高いことから高い耐熱性を示すことが分かり、赤色用光電変換材料として有用であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明のキノイド化合物(1)は、有機フォトダイオード材料、有機薄膜太陽電池材料、有機半導体レーザー材料、有機ELディスプレイ材料、フォトニック結晶材料等の電子材料等に利用することができる。