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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165284
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】表面処理膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/316 20060101AFI20241121BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20241121BHJP
   C23C 16/04 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
H01L21/316 X
H01L21/205
C23C16/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081352
(22)【出願日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】猪股 航也
(72)【発明者】
【氏名】田中 大地
【テーマコード(参考)】
4K030
5F045
5F058
【Fターム(参考)】
4K030AA03
4K030AA05
4K030AA06
4K030AA09
4K030AA11
4K030AA13
4K030AA14
4K030BA01
4K030BA02
4K030BA08
4K030BA09
4K030BA10
4K030BA11
4K030BA13
4K030BA15
4K030BA17
4K030BA18
4K030BA20
4K030BA21
4K030BA22
4K030BA26
4K030BA35
4K030BA37
4K030BA38
4K030BA40
4K030BA42
4K030BA43
4K030BA44
4K030BA45
4K030BA46
4K030BA47
4K030BA49
4K030BA50
4K030BA51
4K030BB14
4K030HA01
4K030HA04
4K030JA01
4K030LA15
5F045AA03
5F045AA04
5F045AB10
5F045AB11
5F045AB12
5F045AB14
5F045AC03
5F045AC07
5F045AD04
5F045AD05
5F045AD06
5F045AD07
5F045AD08
5F045AD09
5F045AD10
5F045AD11
5F045AD12
5F045AF20
5F045DB01
5F058BA06
5F058BA20
5F058BC02
5F058BC03
5F058BC08
5F058BC09
5F058BD04
5F058BD05
5F058BD10
5F058BD12
5F058BE10
5F058BF02
5F058BF24
5F058BF27
5F058BF37
(57)【要約】
【課題】絶縁体が露出する第一領域と金属及び導電性の含金属化合物から選択される少なくとも一種の金属類が露出する第二領域とを表面に有する基板の第二領域上に、表面処理膜を形成する表面処理膜の形成方法であって、表面処理膜の膜厚が厚くても、表面処理膜の第一領域へのはみ出しを抑制できる表面処理膜の形成方法を提供する。
【解決手段】絶縁体が露出する第一領域と、金属及び導電性の含金属化合物から選択される少なくとも一種の金属類が露出する第二領域とを、表面に有する基板を準備する基板準備工程と、前記第二領域の表面を酸化する酸化工程と、前記酸化工程後に、前記基板の表面を、炭素原子数が8以下であるチオールを含む表面処理剤に暴露することにより、前記第二領域上に表面処理膜を形成する暴露工程と、を含む、表面処理膜の形成方法とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁体が露出する第一領域と、金属及び導電性の含金属化合物から選択される少なくとも一種の金属類が露出する第二領域とを、表面に有する基板を準備する基板準備工程と、
前記第二領域の表面を酸化する酸化工程と、
前記酸化工程後に、前記基板の表面を、炭素原子数が8以下であるチオールを含む表面処理剤に暴露することにより、前記第二領域上に表面処理膜を形成する暴露工程と、を含む、表面処理膜の形成方法。
【請求項2】
前記絶縁体は、前記基板の表面に凹部を有し、前記金属類が露出する第二領域が前記凹部に形成されている、請求項1に記載の表面処理膜の形成方法。
【請求項3】
前記絶縁体が、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化タンタル、フッ素含有酸化ケイ素、炭素含有酸化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、炭化ケイ素、炭窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸炭窒化ケイ素、シリコン、並びに、リン、ホウ素及びゲルマニウムから選択される1種以上をドープしたシリコンからなる群より選ばれる1種以上であり、
前記金属類が、銅、コバルト、モリブデン及びルテニウムからなる群より選ばれる1種以上である、請求項1に記載の表面処理膜の形成方法。
【請求項4】
前記チオールが、ブタンチオール、ペンタンチオール、ヘキサンチオール、ヘプタンチオール及びオクタンチオールから選択される少なくとも一種を含む、請求項1に記載の表面処理膜の形成方法。
【請求項5】
前記暴露工程後、前記表面処理膜が形成された前記基板を溶剤で洗浄する溶剤洗浄工程を有する、請求項1に記載の表面処理膜の形成方法。
【請求項6】
前記溶剤が、脂肪酸アルキルエステルを含む、請求項5に記載の表面処理膜の形成方法。
【請求項7】
前記表面処理膜の膜厚が、10nm以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の表面処理膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの高集積化、微小化の傾向が高まっている。これにともない、マスクとなるパターニングされた有機膜やエッチング処理により作製されたパターニングされた無機膜の微細化が進んでいる。このため、半導体基板上に形成する有機膜や無機膜については、原子層レベルの膜厚制御が求められている。
基板上に原子層レベルで薄膜を形成する方法として、CVD(Chemical Vapor Deposition)の一種である原子層成長法(ALD(Atomic Layer Deposition)法;以下、単に「ALD法」ともいう。)が知られている。ALD法は、CVD(Chemical Vapor Deposition)法のなかでも、高い段差被覆性(ステップカバレッジ)と膜厚制御性とを併せ持つことが知られている。
【0003】
ALD法は、形成しようとする膜を構成する元素を主成分とする2種類のガスを基板上に交互に供給し、基板上に原子層単位で薄膜を形成することを複数回繰り返して所望の厚さの膜を形成する薄膜形成技術である。
ALD法では、原料ガスを供給している間に1層又は数層の原子層が形成される程度の原料ガスの成分だけが基板表面に吸着される一方で、余分な原料ガスは成長に寄与しないという、成長の自己制御機能(セルフリミット機能)を利用する。
例えば、基板上にAl膜を形成する場合、TMA(TriMethyl Aluminum)からなる原料ガスとOを含む酸化ガスが用いられる。また、基板上に窒化膜を形成する場合、酸化ガスの代わりに窒化ガスが用いられる。
【0004】
近年、ALD法を利用して基板表面での領域選択的な製膜が試みられてきている(特許文献1及び非特許文献1参照)。
これにともない、ALD法による基板上での領域選択的な製膜に好適に適用し得るように領域選択的に改質された表面を有する基板が求められてきている。
このような領域選択的に改質された表面を有する基板を得る方法としては、例えば、第1(誘電体)表面と第2(金属製)表面のうち、第2(金属製)表面の上に選択的に、硫黄含有モノマー(1-ドデカンチオール)の自己組織化単分子膜(Self-Assembled Monolayer:SAM)を形成する方法が開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2003-508897号公報
【特許文献2】特開2018-137435号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.Phys.Chem.C 2014,118,10957-10962
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図1に示されるように、絶縁体が露出する第一領域11と、金属及び導電性の含金属化合物から選択される少なくとも一種の金属類が露出する第二領域12とを、表面に有する基板1において(図1(a))、第二領域12上に、表面処理膜としてメルカプト基(SH)を有する有機化合物を用いたSAM13を形成すると(図1(b))、その後、ALD法等のCVD法により、第一領域11上に選択的にSiO等の絶縁体膜14を形成できる(図1(c))。
厚い絶縁体膜14が望まれる場合があるが、形成される絶縁体膜14がSAM13よりも大幅に厚くなると、絶縁体膜14の第一領域11とは反対側が第二領域12側に突き出る「オーバーハング」になるという問題が生じる(図1(d))。
このような絶縁体膜14のオーバーハングを抑制するために、図2に示されるように、SAM13の膜厚を厚くすることが考えられる(図2(a))。
しかしながら、SAM13の膜厚を厚くすると、SAM13が、第一領域11の表面上にはみ出してしまうという問題が生じる(図2(b))。第一領域11及び第二領域12が微細な場合に特にこの問題が顕著になる。
なお、図1は、オーバーハングを説明する模式的断面図であり、図2は、SAMの第一領域へのはみ出しを説明する模式的断面図である。
【0008】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、絶縁体が露出する第一領域と金属及び導電性の含金属化合物から選択される少なくとも一種の金属類が露出する第二領域とを表面に有する基板の第二領域上に、表面処理膜を形成する表面処理膜の形成方法であって、表面処理膜の膜厚が厚くても、表面処理膜の第一領域へのはみ出しを抑制できる表面処理膜の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、絶縁体が露出する第一領域と、金属及び導電性の含金属化合物から選択される少なくとも一種の金属類が露出する第二領域とを、表面に有する基板を準備する基板準備工程と、第二領域の表面を酸化する酸化工程と、酸化工程後に、基板の表面を、炭素原子数が8以下であるチオールを含む表面処理剤に暴露することにより、第二領域上に表面処理膜を形成する暴露工程とを含む、表面処理膜の形成方法により、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0010】
[1]絶縁体が露出する第一領域と、金属及び導電性の含金属化合物から選択される少なくとも一種の金属類が露出する第二領域とを、表面に有する基板を準備する基板準備工程と、
前記第二領域の表面を酸化する酸化工程と、
前記酸化工程後に、前記基板の表面を、炭素原子数が8以下であるチオールを含む表面処理剤に暴露することにより、前記第二領域上に表面処理膜を形成する暴露工程と、を含む、表面処理膜の形成方法。
【0011】
[2]前記絶縁体は、前記基板の表面に凹部を有し、前記金属類が露出する第二領域が前記凹部に形成されている、上記[1]に記載の表面処理膜の形成方法。
【0012】
[3]前記絶縁体が、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化タンタル、フッ素含有酸化ケイ素、炭素含有酸化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、炭化ケイ素、炭窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸炭窒化ケイ素、シリコン、並びに、リン、ホウ素及びゲルマニウムから選択される1種以上をドープしたシリコンからなる群より選ばれる1種以上であり、
前記金属類が、銅、コバルト、モリブデン及びルテニウムからなる群より選ばれる1種以上である、上記[1]又は[2]に記載の表面処理膜の形成方法。
【0013】
[4]前記チオールが、ブタンチオール、ペンタンチオール、ヘキサンチオール、ヘプタンチオール及びオクタンチオールから選択される少なくとも一種を含む、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の表面処理膜の形成方法。
【0014】
[5]前記暴露工程後、前記表面処理膜が形成された前記基板を溶剤で洗浄する溶剤洗浄工程を有する、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の表面処理膜の形成方法。
【0015】
[6]前記溶剤が、脂肪酸アルキルエステルを含む、上記[5]に記載の表面処理膜の形成方法。
【0016】
[7]前記表面処理膜の膜厚が、10nm以上である、上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の表面処理膜の形成方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、絶縁体が露出する第一領域と金属及び導電性の含金属化合物から選択される少なくとも一種の金属類が露出する第二領域とを表面に有する基板の第二領域上に、表面処理膜を形成する表面処理膜の形成方法であって、表面処理膜の第一領域へのはみ出しを抑制できる表面処理膜の形成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】オーバーハングを説明する模式的断面図である。
図2】SAMの第一領域へのはみ出しを説明する模式的断面図である。
図3】表面処理膜の形成方法を説明する模式的断面図である。
図4】基板の他の例を説明する模式的断面図である。
図5】実施例で用いた基板を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
≪表面処理膜の形成方法≫
表面処理膜の形成方法は、絶縁体が露出する第一領域と、金属及び導電性の含金属化合物から選択される少なくとも一種の金属類が露出する第二領域とを、表面に有する基板を準備する基板準備工程と、
第二領域の表面を酸化する酸化工程と、
酸化工程後に、基板の表面を、炭素原子数が8以下であるチオールを含む表面処理剤に暴露することにより、第二領域上に表面処理膜を形成する暴露工程と、を含む。
以下、各工程について、図3及び図4を用いて説明する。図3は、表面処理膜の形成方法を説明する模式的断面図である。図4は、基板の他の例を説明する模式的断面図である。
【0020】
<基板準備工程>
基板準備工程では、絶縁体が露出する第一領域11と、金属及び導電性の含金属化合物から選択される少なくとも一種の金属類が露出する第二領域12とを、表面に有する基板1を準備する(図3(a))。
(基板)
基板1は、絶縁体が露出する第一領域11と、金属及び導電性の含金属化合物から選択される少なくとも一種の金属類が露出する第二領域12とを、表面に有する。
絶縁体が露出する第一領域11と、金属及び導電性の含金属化合物から選択される少なくとも一種の金属類が露出する第二領域12は、少なくとも1つの第一領域11と、少なくとも1つの第二領域12とが、近接していることが好ましい。ここで、近接とは、少なくとも1つの第一領域11と、少なくとも1つの第二領域12とが、境界線を共有して隣接する場合(図3(a))、又は、境界線を共有せず隣や離間した位置に構成される場合を含む。後者の境界線を共有せず隣や離間した位置に構成される場合としては、例えば、図4(a)に示すように、金属類が露出する第二領域12が配線金属であり、第二領域12がバリアメタル(配線金属が第一領域等に拡散して、半導体デバイス等の性能が劣化することを防ぐために用いられる高融点金属膜)20に覆われ、このバリアメタル20と第一領域11とが接している構造が挙げられる。この場合、基板1は、絶縁体が露出する第一領域11と、金属類が露出する第二領域12と、バリアメタル20が露出する領域(第三領域)とを、表面に有する。
また、図4(b)に示されるように、絶縁体(第一領域11)は、基板1の表面に凹部を有し、この凹部に金属類が露出する第二領域12が形成されていてもよい。また、金属類(第二領域12)は、基板1の表面に凹部を有し、この凹部に絶縁体が露出する第一領域11が形成されていてもよい。
また、第一領域11及び第二領域12は、
それぞれ1つでも2つ以上でもよい。
また、基板1は、第一領域11及び第二領域12以外の領域(第一領域11及び第二領域12とは異なる材料からなる第三領域)を、1つ又は2つ以上有していてもよい。
【0021】
絶縁体が露出する第一領域11と、金属類が露出する第二領域12とを、表面に有する基板1としては、半導体デバイス作製のために使用される基板等の下地基板(図示なし)の表面に、絶縁体が露出する第一領域11を構成する無機層や、金属類が露出する第二領域12を構成する無機層が形成された基板が挙げられる。
また、絶縁体が露出する第一領域11と、金属類が露出する第二領域12とを、表面に有する基板1は、下地基板の表面が、絶縁体が露出する第一領域11であり、下地基板の表面に、金属類が露出する第二領域12を構成する無機層が形成された基板でもよい。
また、絶縁体が露出する第一領域11と、金属類が露出する第二領域12とを、表面に有する基板1は、下地基板の表面が、金属類が露出する第二領域12であり、下地基板の表面に、絶縁体が露出する第一領域11を構成する無機層が形成された基板でもよい。
なお、無機層は、パターン化されていてもパターン化されていなくてもよい。また、基板1は、下地基板を有していなくてもよい。
【0022】
下地基板としては、半導体デバイス作製のために使用される基板が例示される。かかる基板としては、例えば、ケイ素(Si)基板、窒化ケイ素(SiN)基板、シリコン酸化膜(Ox)基板、タングステン(W)基板、コバルト(Co)基板、ゲルマニウム(Ge)基板、アルミニウム(Al)基板、ニッケル(Ni)基板、ルテニウム(Ru)基板、銅(Cu)基板、窒化チタン(TiN)基板、窒化タンタル(TaN)基板、シリコンゲルマニウム(SiGe)基板等や、これらの基板上にパターン化された無機層又はパターン化されていない無機層が設けられた基板が挙げられる。
無機層は、フォトレジスト法により基板に存在する無機層の表面にエッチングマスクを作製し、その後、エッチング処理することにより形成されたパターン化された無機層、原子層成長法(ALD法)により基板の表面に形成されたパターン化された無機層が例示される。
無機層としては、半導体デバイスの作製過程において形成される無機層が例示される。
無機層の具体例としては、基板を構成する元素の自然酸化膜、基板の表面に形成した窒化ケイ素(SiN)、シリコン酸化膜(SiOx)、タングステン(W)、コバルト(Co)、ゲルマニウム(Ge)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、ルテニウム(Ru)、銅(Cu)、銀(Ag)、チタン(Ti)、金(Au)、クロム(Cr)モリブデン(Mo)、酸化アルミニウム(Al)、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化ハフニウム(HfO)、酸化タンタル(Ta)、窒化チタン(TiN)、窒化タンタル(TaN)、シリコンゲルマニウム(SiGe)、酸化ケイ素(SiO)等の無機物の膜ないし層等が例示される。
【0023】
(第一領域)
第一領域11は、絶縁体が露出している。すなわち、第一領域11は、表面に絶縁体を有する。
第一領域11の絶縁体は、酸化物、窒化物、炭化物、炭窒化物、酸窒化物、酸炭窒化物、絶縁性樹脂及び半導体からなる群より選択される1種以上の絶縁性の化合物からなり、酸化物、窒化物、炭化物、炭窒化物、酸窒化物又は酸炭窒化物が好ましい。酸化物としては、酸化ケイ素(SiOx(1≦X≦2))、酸化アルミニウム(Al)、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化ハフニウム(HfO)、酸化タンタル(Ta)、フッ素含有酸化ケイ素(SiOF)、炭素含有酸化ケイ素(SiOC)が好ましい。窒化物としては、例えば、窒化ケイ素(SiN)、窒化ホウ素(BN)が好ましい。炭化物としては、炭化ケイ素(SiC)が好ましい。炭窒化物としては、炭窒化ケイ素(SICN)が好ましい。酸窒化物としては、酸窒化ケイ素(SiON)、が好ましい。酸炭窒化物としては、酸炭窒化ケイ素(SiOCN)が好ましい。絶縁性樹脂としては、ポリイミド、ポリエステル、プラスチック樹脂等が挙げられる。半導体としては、シリコンや、リン、ホウ素及びゲルマニウムから選択される少なくとも1種をドープしたシリコンが好ましい。
【0024】
(第二領域)
第二領域12は、金属及び導電性の含金属化合物から選択される少なくとも一種の金属類が露出している。すなわち、第二領域12は、表面に、金属及び導電性の含金属化合物から選択される少なくとも一種の金属類を有する。
第二領域12の金属及び導電性の含金属化合物から選択される少なくとも一種の金属類は、第一領域11の絶縁体に対し導電体と定義してもよい。金属は、単一の金属元素からなる純金属でも、合金でもよい。
金属類としては、銅(Cu)、コバルト(Co)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、Cuを90at%以上含有する銅合金や、Coを90at%以上含有するコバルト合金等が好ましい。
【0025】
(基板表面の前処理)
基板1の表面は、前処理されていることが好ましい。
基板1の表面を前処理する処理剤(以下、「前処理剤」という場合がある。)としては、基板1の表面に存在する有機物を除去しうるものであれば特に限定されない。
前処理剤としては、具体的には、過酸化水素等の過酸化物、過ヨウ素酸等の過ハロゲン酸、硝酸や次亜塩素酸等のオキソ酸、リン酸、クエン酸、酢酸又はフッ化水素酸(HF)等が挙げられる。前処理剤は、用いる基板の種類により適宜選択すればよく、例えば、過酸化水素及び過ハロゲン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種は、SiO、Al等の無機物が基板表面に併存している場合、該無機物へダメージを与えずに金属類表面を処理する観点からも好ましい。一方、Cuを含む基板の場合、前処理剤としてはHF水溶液、酢酸、クエン酸、リン酸又は硝酸等を用いることが好ましい。
前処理剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0026】
<酸化工程>
酸化工程では、基板準備工程で準備した基板を、酸化する。酸化工程で酸化する基板は、基板準備工程で準備した基板の第二領域12の金属類が酸化して自然酸化膜が形成されたものであってもよい。
【0027】
酸化工程により、第二領域12の金属類の表面が酸化される、又は、第二領域12の金属類の表面に形成された自然酸化膜がさらに酸化されて、第二領域12の表面に、金属類が酸化された金属酸化物からなる金属酸化物層21が形成される(図3(b))。例えば、第二領域12の金属類がCuの場合は、酸化工程によりCuOからなる金属酸化物層21が形成される。
【0028】
基板を酸化する方法は特に限定されないが、酸化剤として、オゾン及び過酸化水素の少なくとも一方を用いて酸化することが好ましい。例えば、空気等の酸素を含むガスに紫外線を照射することで生成するオゾンやオゾン解離による原子状酸素で基板1(ひいては、第二領域12の金属類、又は、第二領域12の金属類の表面に形成された自然酸化膜)を酸化する方法(UVO)や、過酸化水素水に基板1を浸漬することで基板1を酸化する方法が挙げられる。
【0029】
ここで、基板準備工程で準備した基板に自然酸化膜が形成されている場合、自然酸化膜は価数が異なる金属酸化物からなり得る。例えば、第二領域12の金属類がCuの場合、基板表面の自然酸化膜はCuOとCuOとを含み得る。上記の、酸素を含むガスに紫外線を照射することで生成するオゾンやオゾン解離による原子状酸素で基板を酸化する方法(UVO)や、過酸化水素水に基板を浸漬する方法によれば、CuOからなる金属酸化物層21を形成し得る。なお、CuOは、後段の暴露工程において、表面処理剤により、容易に還元し得る。
【0030】
<暴露工程>
暴露工程では、酸化工程後に、基板の表面を、炭素原子数が8以下であるチオールを含む表面処理剤に暴露することにより、第二領域上に表面処理膜を形成する。
酸化工程後に、基板の表面を、炭素原子数が8以下であるチオールを含む表面処理剤に暴露することにより、後述する実施例に示されるように、第一領域11及び第二領域12のうち、選択的に第二領域12上に、炭素原子数が8以下であるチオールに由来する表面処理膜22が形成される(図3(c))。
形成される表面処理膜22は、膜厚が厚くても(例えば、表面処理膜22の膜厚が10nm以上)、後述する実施例に示されるように、表面処理膜22の第一領域11へのはみ出しを抑制できる。このため、第二領域12上に、矩形性が良好な表面処理膜22を形成することができる。
【0031】
以下の機構により、表面処理膜22の膜厚が厚くても、表面処理膜22の第一領域11へのはみ出しを抑制できると推測される。
メルカプト基(SH)を有する有機化合物は、金属酸化物との電子の授受を発生しやすい一方で、電子の授受が発生し難い絶縁体とは反応し難い。このため、炭素原子数が8以下であるチオールは、第二領域12の表面に形成された金属酸化物層21と選択的に反応(例えば吸着)する。
炭素原子数が8以下であるチオールは、金属酸化物層21を還元して金属にするとともに、ジスルフィドになり第二領域12の金属表面に自己組織化単分子膜(Self-Assembled Monolayer:SAM)を形成する。なお、この炭素原子数が8以下であるチオールに由来するSAMにより第二領域12の表面の水に対する接触角が向上する。
そして、金属酸化物層21を還元して生じた金属の一部は、SAMに対する接着剤として機能する。その結果、-SAM-金属-SAM-という結合を含む、SAMと金属とが交互に繰り返される構造が形成され得る。このような理由により、表面処理膜22が、単分子膜であるSAMよりも、厚膜化され得ると考えられる。表面処理膜22は、炭素原子数が8以下であるチオールのSAMが金属を介して積層された多層膜ともいえる。
ここで、表面処理膜22の膜厚を厚くすると、表面処理膜22が、第一領域11の表面上にはみ出してしまうという問題が生じる。
しかしながら、炭素原子数が8以下であるチオールを用いることにより、その炭素原子数に起因して、表面処理膜22の第一領域11へのはみ出しを抑制できる。なお、第一領域11及び第二領域12が微細な場合(例えば、第一領域11及び第二領域12を平面視した場合の、第一領域11や第二領域12の最も狭い箇所が、20nm以上80nm以下の場合)であっても、表面処理膜22の第一領域11へのはみ出しを抑制できる。
一方、炭素原子数が8超えであるチオールを用いた場合は、ある程度厚膜化し得るが、表面処理膜22の第一領域11へのはみ出しが大きくなり、表面処理膜22の矩形性が悪くなる。
【0032】
(表面処理剤)
暴露工程で用いる表面処理剤は、炭素原子数が8以下であるチオールを含む。
【0033】
表面処理剤が含むチオールの炭素原子数は、8以下であればよいが、6以下が好ましく、5以下がより好ましい。表面処理剤が含むチオールの炭素原子数の下限は特に限定されないが、3以上が好ましい。
【0034】
炭素原子数が8以下であるチオールは、アルカンチオールでも、芳香族チオールでもよい。アルカンチオールが有するアルキル基は、直鎖状でも分岐鎖状でもよいが、直鎖状であることが好ましい。
アルカンチオールとしては、ブタンチオール、ペンタンチオール、ヘキサンチオール、ヘプタンチオール、オクタンチオールが挙げられる。
芳香族チオールとしては、トルエンチオール、ベンゼンチオールが挙げられる。
【0035】
炭素原子数が8以下であるチオールは、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0036】
表面処理剤における炭素原子数が8以下であるチオールの含有量は、特に限定されないが、表面処理剤の全質量に対し、0.001質量%以上20質量%以下が好ましく、0.05質量%以上10質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上5質量%以下がさらに好ましい。
【0037】
表面処理剤は、溶剤を含んでいてもよいが、溶剤を実質的に含んでいなくてもよい。浸漬法、スピンコート法等による基板の表面処理の容易性の観点からは、表面処理剤は、溶剤を含むことが好ましい。なお、表面処理剤が溶剤を実質的に含まない場合、表面処理剤における溶剤の含有量が、5質量%以下であり、好ましくは1質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以下である。
表面処理剤が溶剤を含む場合、溶剤の配合量は、例えば5質量%超99.99質量%以下の範囲で適宜調整すればよく、例えば、表面処理剤に含まれる炭素原子数が8以下であるチオールの残部を溶剤量としてもよい。
表面処理剤が溶剤を含む場合、溶剤の配合量は、具体的には80質量%以上99.9質量%以下が好ましく、90質量%以上99.5質量%以下がより好ましい。
【0038】
溶剤は有機溶剤でも水でもよい。
有機溶剤の具体例としては、例えば、スルホキシド類、スルホン類、アミド類、ラクタム類、イミダゾリジノン類、ジアルキルグリコールエーテル類、モノアルコール系溶媒、(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル類、(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、他のエーテル類、ケトン類、他のエステル類、ラクトン類、直鎖状、分岐鎖状、又は環状の脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、テルペン類等が挙げられる。
【0039】
スルホキシド類としては、ジメチルスルホキシドが挙げられる。
【0040】
スルホン類としては、例えば、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ビス(2-ヒドロキシエチル)スルホン、テトラメチレンスルホンが挙げられる。
【0041】
アミド類としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミドが挙げられる。
【0042】
ラクタム類としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-プロピル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシメチル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシエチル-2-ピロリドンが挙げられる。
【0043】
イミダゾリジノン類としては、例えば、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジエチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジイソプロピル-2-イミダゾリジノンが挙げられる。
【0044】
ジアルキルグリコールエーテル類としては、例えば、ジメチルグリコール、ジメチルジグリコール、ジメチルトリグリコール、メチルエチルジグリコール、ジエチルグリコール、トリエチレングリコールブチルメチルエーテルが挙げられる。
【0045】
モノアルコール系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、n-ぺンタノール、イソペンタノール、2-メチルブタノール、sec-ぺンタノール、tert-ぺンタノール、3-メトキシブタノール、3-メチル-3-メトキシブタノール、n-ヘキサノール、2-メチルペンタノール、sec-ヘキサノール、2-エチル-1-ブタノール、sec-へプタノール、3-へプタノール、1-オクタノール、2-エチルヘキサノール、sec-オクタノール、n-ノニルアルコール、2,6-ジメチル-4-へプタノール、n-デカノール、sec-ヴンデシルアルコール、トリメチルノニルアルコール、sec-テトラデシルアルコール、sec-へプタデシルアルコール、メチルイソブチルカルビノール、フェノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノール、ベンジルアルコール、フェニルメチルカルビノール、ジアセトンアルコール、クレゾールが挙げられる。
【0046】
(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテルが挙げられる。
【0047】
(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートが挙げられる。
【0048】
他のエーテル類としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジイソアミルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランが挙げられる。
【0049】
ケトン類としては、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、2-へプタノン、3-へプタノン、2,6-ジメチル-4-ヘプタノンが挙げられる。
【0050】
他のエステル類としては、例えば、乳酸メチル、乳酸エチル等の乳酸アルキルエステル類;2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸エチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-メトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、エトキシ酢酸エチル、ヒドロキシ酢酸エチル、2-ヒドロキシ-3-メチルブタン酸メチル、3-メトキシブチルアセテート、3-メチル-3-メトキシ-1-ブチルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルプロピオネート、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸n-ペンチル、酢酸n-ヘキシル、酢酸n-へプチル、酢酸n-オクチル、ギ酸n-ぺンチル、酢酸イソペンチル、プロピオン酸n-ブチル、酪酸エチル、酪酸n-プロピル、酪酸イソプロピル、酪酸ブチル、n-オクタン酸メチル、デカン酸メチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、ピルビン酸n-プロピル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、2-オキソブタン酸エチル、アジピン酸ジメチル、プロピレングリコールジアセテートが挙げられる。
【0051】
ラクトン類としては、例えば、プロピロラクトン、γ-ブチロラクトン、6-ペンチロラクトンが挙げられる。
【0052】
直鎖状、分岐鎖状、又は環状の脂肪族炭化水素類としては、例えば、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-ノナン、メチルオクタン、n-デカン、n-ヴンデカン、n-ドデカン、2,2,4,6,6-ぺンタメチルヘプタン、2,2,4,4,6,8,8-ヘプタメチルノナン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンが挙げられる。
【0053】
芳香族炭化水素類としては、例えば、ベンゼン、トルエン、ベンゾトリフルオリド、キシレン、1,3,5-トリメチルベンゼン、ナフタレン、デカヒドロナフタレンが挙げられる。
【0054】
テルペン類としては、例えば、p-メンタン、ジフェニルメンタン、リモネン、テルピネン、ボルナン、ノルボルナン、ピナンが挙げられる。
【0055】
溶剤の比誘電率は、35以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましい。
このような低比誘電率を有する溶剤としては、例えば、メタノール(比誘電率:33)、イソプロパノール(IPA)(比誘電率:18.3)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(BDG)(比誘電率:13.70)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PE)(比誘電率:12.71)、ベンジルアルコール(比誘電率:13.70)、2-ヘプタノン(比誘電率:11.74)、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(比誘電率:8.66)、tert-ブタノール(比誘電率:12.5)、1-オクタノール(比誘電率:10.21)、イソブタノール(比誘電率:18.22)、ベンゾトリフルオリド(比誘電率:9.18)、デカヒドロナフタレン(比誘電率:2.16)、シクロヘキサン(比誘電率:1.99)、デカン(比誘電率:1未満)、乳酸エチル(EL)(比誘電率:13.22)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(比誘電率:15.76)、1-ノナノール(比誘電率:9.13)、トルエン(比誘電率:2.37)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PM)(比誘電率:9.4)、メチルイソブチルカルビノール(MIBC)(比誘電率:10.47)、2,6-ジメチル-4-ヘプタノール(比誘電率:2.98)、2-エチル-1-ブタノール(比誘電率:12.6)、2-ブタノンオキシム(比誘電率:2.9)、n-ジブチルエーテル(比誘電率:3.33)、酪酸ブチル(比誘電率:4.55)、2,6-ジメチル-4-ヘプタノン(比誘電率:9.82)等が挙げられる。
【0056】
溶剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0057】
(他の成分)
表面処理剤に配合し得る他の成分としては、酸、塩基性含窒素化合物、pH調整剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、粘度調製剤、消泡剤等が挙げられる。
【0058】
(表面処理剤の製造方法)
表面処理剤は、炭素原子数が8以下であるチオールを、必要に応じて含む溶剤や他の成分を公知の方法で混合して得られる。
【0059】
(曝露)
基板の表面を表面処理剤に曝露させる方法は、液相法でも、気相法でもよい。
液相法としては、表面処理剤を、例えば浸漬法、又はスピンコート法、ロールコート法及びドクターブレード法などの塗布法等の手段によって基板の表面に適用(例えば、塗布)して曝露する方法が挙げられる。
気相法としては、表面処理剤としての炭素原子数が8以下であるチオールを含む蒸気を、基板の表面に暴露させる方法が挙げられる。蒸気を暴露させる場合の雰囲気は、大気圧下でも減圧下でもよく、減圧下が好ましい。
【0060】
曝露温度としては、例えば、10℃以上90℃以下、好ましくは20℃以上80℃以下、より好ましくは20℃以上70℃以下、更に好ましくは20℃以上30℃以下である。
上記曝露時間としては、形成される表面処理膜を厚膜化する観点から、20秒以上が好ましく、30秒以上がより好ましく、45秒以上が更に好ましい。
上記曝露時間の上限値としては特に限定されないが、例えば、2時間以下等であり、典型的には1時間以下であり、15分以下が好ましく、5分以下が更に好ましく、2分以下が特に好ましい。
【0061】
<溶剤洗浄工程>
曝露工程後に、表面処理膜22が形成された基板1を溶剤で洗浄する溶剤洗浄工程を有していてもよい。
表面処理膜22が形成された基板1を溶剤で洗浄することにより、曝露工程において第一領域11上に表面処理膜22が形成された場合の、すなわち、曝露工程において第一領域11への表面処理膜22のはみ出しが生じた場合の、第一領域11上の表面処理膜22を除去することができる。
【0062】
溶剤洗浄工程で洗浄に用いる溶剤としては、アルコールや、脂肪酸アルキルエステルが挙げられる。
アルコールとしては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(IPA)、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、2,2-ジメチル-1-プロパノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコールが挙げられる。
脂肪酸アルキルエステルとしては、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、蟻酸n-ペンチル、酢酸イソペンチル、プロピオン酸n-ブチル、酪酸エチル、酪酸n-プロピル、酪酸イソプロピル、酪酸n-ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、ピルビン酸n-プロピル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、2-オキソブタン酸エチルが挙げられる。
【0063】
溶剤洗浄工程で洗浄に用いる溶剤は、1種でも、2種以上でもよい。
2種以上の溶剤を用いる場合は、2種以上の溶剤の混合溶剤を用いてもよいが、1種の溶剤で基板を洗浄し、必要に応じて乾燥した後、その他の溶剤で洗浄するようにしてもよい。例えば、アルコールでの洗浄の後に、脂肪酸アルキルエステルでの洗浄を行ってもよい。
【0064】
<乾燥工程>
暴露工程や洗浄工程の後等に、必要に応じて基板を乾燥する乾燥工程を有していてもよい。乾燥は、例えば窒素ブローにより行われる。
【0065】
上述した表面処理膜の形成方法によれば、膜厚が厚くても、表面処理膜22の第一領域11へのはみ出しが抑制された表面処理膜22を、選択的に第二領域12上に形成することができる。
表面処理膜22の膜厚は、例えば、10nm以上にすることができる。このため、第二領域12上に表面処理膜22を形成した後に、例えばALD法等のCVD法により第一領域11上にCVD膜を成膜する場合、形成されるCVD膜の膜厚が厚くても(例えば、20nm以上であっても)、CVD膜のオーバーハングが抑制できる。
また、表面処理膜22の第一領域11へのはみ出しが抑制されるため、第一領域11上へのCVD膜の形成に対する表面処理膜22による阻害が抑制され、CVD膜をより選択的に第一領域11上へ形成することができる。
【0066】
<基板表面の領域選択的製膜方法>
上記の表面処理膜の形成方法を用いて、基板表面に、ALD法等のCVD法により、領域選択的に製膜することができる。
このような基板表面の領域選択的製膜方法は、上記表面処理膜の形成方法により、上記第二領域上に表面処理膜を形成する表面処理膜形成工程と、表面処理膜形成工程後に、化学気相成長法(CVD法)によりCVD膜を形成するCVD膜形成工程とを含み、上記第一領域上に、上記第二領域上よりも上記CVD膜の材料を多く堆積させる、基板表面の領域選択的製膜方法である。
【0067】
CVD膜は、表面処理膜22とは異なる材料で構成され、例えば、SiO等の絶縁材料で形成される。
上記の表面処理膜の形成方法で上記第二領域12上に形成される表面処理膜22は、厚い膜にすることができる。このため、上記第一領域11上に形成されるCVD膜の膜厚が厚くても、CVD膜のオーバーハングが抑制できる。
また、上記の表面処理膜の形成方法で上記第二領域12上に形成される表面処理膜22は、表面処理膜22の第一領域11へのはみ出しが抑制されるため、第一領域11上へのCVD膜の形成に対する表面処理膜22による阻害が抑制され、CVD膜を選択的に第一領域11上へ形成することができる。
以下に、CVD法の一例としてのALD法による膜形成(ALD膜形成)について、説明する。
【0068】
(ALD法による膜形成)
ALD法による膜形成方法としては特に限定されないが、少なくとも2つの気相反応物質(以下単に「前駆体ガス」という。)を用いた吸着による薄膜形成方法であることが好ましい。前駆体ガスを用いた吸着は、好ましくは化学吸着である。
具体的には、下記工程(a)及び(b)を含み、所望の膜厚が得られるまで下記工程(a)及び(b)を少なくとも1回(1サイクル)繰り返す方法等が挙げられる。
(a)上記表面処理膜の形成方法で表面処理膜が形成された基板を、第1前駆体ガスのパルスに曝露する工程、及び
(b)上記工程(a)に次いで、基板を第2前駆体ガスのパルスに曝露する工程。
【0069】
上記工程(a)の後上記工程(b)の前に、プラズマ処理工程、第1前駆体ガス及びその反応物をキャリアガス、第2前駆体ガス等により除去ないし排気(パージ)する工程等を含んでいてもいなくてもよい。
上記工程(b)の後、プラズマ処理工程、第2前駆体ガス及びその反応物をキャリアガス等により除去ないしパージする工程等を含んでいてもいなくてもよい。
キャリアガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスが挙げられる。
【0070】
各サイクル毎の各パルス及び形成される各層は自己制御的であることが好ましく、形成される各層が単原子層であることがより好ましい。
上記単原子層の膜厚としては、例えば、5nm以下とすることができ、好ましくは3nm以下とすることができ、より好ましくは1nm以下とすることができ、更に好ましくは0.5nm以下とすることができる。
【0071】
第1前駆体ガスとしては、有機金属、金属ハロゲン化物、金属酸化ハロゲン化物等が挙げられ、具体的には、タンタルペンタエトキシド、テトラキス(ジメチルアミノ)チタン、ペンタキス(ジメチルアミノ)タンタル、テトラキス(ジメチルアミノ)ジルコニウム、テトラキス(ジメチルアミノ)ハフニウム、テトラキス(ジメチルアミノ)シラン、コッパーヘキサフルオロアセチルアセトネートビニルトリメチルシラン、Zn(C、Zn(CH、TMA(トリメチルアルミニウム)、TaCl、WF、WOCl、CuCl、ZrCl、AlCl、TiCl、SiCl、HfCl等が挙げられる。
【0072】
第2前駆体ガスとしては、第1前駆体を分解させることができる前駆体ガス又は第1前駆体の配位子を除去できる前駆体ガスが挙げられ、具体的には、HO、H、O、O、NH、HS、HSe、PH、AsH、C、又はSi等が挙げられる。
【0073】
工程(a)における曝露温度としては特に限定されないが、例えば、25℃以上800℃以下であり、好ましくは50℃以上650℃以下であり、より好ましくは100℃以上500℃以下であり、更に好ましくは150℃以上375℃以下である。
【0074】
工程(b)における曝露温度としては特に限定されないが、工程(a)における曝露温度と実質的に等しいか又はそれ以上の温度が挙げられる。
ALD法により形成される膜としては特に限定されないが、純元素を含む膜(例えば、Si、Cu、Ta、W)、酸化物を含む膜(例えば、SiO、GeO、HfO、ZrO、Ta、TiO、Al、ZnO、SnO、Sb、B、In、WO)、窒化物を含む膜(例えば、Si、TiN、AlN、BN、GaN、NbN)、炭化物を含む膜(例えば、SiC)、硫化物を含む膜(例えば、CdS、ZnS、MnS、WS、PbS)、セレン化物を含む膜(例えば、CdSe、ZnSe)、リン化物を含む膜(GaP、InP)、砒化物を含む膜(例えば、GaAs、InAs)、又はそれらの混合物等が挙げられる。
【実施例0075】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0076】
[実施例1]
(表面処理剤の調製)
n-オクタノール(有機溶剤)に、1-オクタンチオールを、表面処理剤の全質量に対し、2質量%となるように溶解させて、表面処理剤を調製した。
【0077】
(前処理、表面処理)
表面にCu及びSiOを有する基板1を準備した(基板準備工程)。当該基板1において、表面は、図5(a)に示されるように、平面視した場合に、幅a1が50nmである矩形のSiOからなる複数の第一領域11と、幅a2が50nmである矩形のCuからなる複数の第二領域12が、ライン上に交互に並んだパターン形状である。図5は、実施例で用いた基板1の模式図であり、図5(a)は平面図であり、図5(b)は図5(a)のA-A’断面図である。
準備した表面にCu及びSiOを有する基板を、得られた表面処理剤を用いて、以下の方法にしたがって、表面処理を行った。
具体的には、表面にCu及びSiOを有する基板を、濃度0.5質量%のHF水溶液に25℃で1分間、攪拌せずに浸漬させて前処理を行った。上記前処理後、各基板を脱イオン水(DIW)で1分間洗浄した。水洗後の基板を窒素気流により1分間乾燥させた。
乾燥後の基板を、空気にHgランプを用いて紫外線を照射することによりオゾンを生成させた雰囲気中に10分間載置することで、基板表面のCuを酸化し、基板表面にCuO層を形成した(酸化工程)。
次いで、基板を、表面処理剤に25℃で1分間、攪拌せずに浸漬させて、基板を表面処理剤に暴露した(暴露工程)。
その後、基板を、イソプロパノール(IPA)に25℃で1分間、攪拌せずに浸漬した後、窒素気流により1分間乾燥させて、表面処理膜が形成された基板を得た。
【0078】
[実施例2]
1-オクタンチオールの代わりに、1-ヘキサンチオールを用いたことの他は、実施例1と同様の操作を行った。
【0079】
[実施例3]
1-オクタンチオールの代わりに、1-ブタンチオールを用いたことの他は、実施例1と同様の操作を行った。
【0080】
[実施例4]
基板を、イソプロパノール(IPA)に25℃で1分間、攪拌せずに浸漬した後、窒素気流により1分間乾燥させた後に、さらに、酪酸ブチルに25℃で1分間、攪拌せずに浸漬した後、脱イオン水による洗浄を1分間行い、その後、窒素気流により1分間乾燥させたことの他は、実施例3と同様の操作を行った。
【0081】
[実施例5]
1-オクタンチオールの代わりに、p-トルエンチオールを用いたことの他は、実施例1と同様の操作を行った。
【0082】
[比較例1]
酸化工程を行わなかったことの他は、実施例3と同様の操作を行った。
【0083】
[比較例2]
1-オクタンチオールの代わりに、1-ドデカンチオールを用いたことの他は、実施例1と同様の操作を行った。
【0084】
[比較例3]
1-オクタンチオールの代わりに、1-デカンチオールを用いたことの他は、実施例1と同様の操作を行った。
【0085】
(表面処理膜の膜厚の測定)
得られた各基板について、それぞれ、蛍光X線分析により、Cu上に形成された表面処理膜の膜厚を測定し、以下の基準で評価した。結果を、表1の「膜厚」欄に記載する。
〇:表面処理膜の膜厚が10nm以上
×:表面処理膜の膜厚が10nm未満
【0086】
(矩形性(表面処理膜のSiO上へのはみ出し)の評価)
得られた各基板について、それぞれ、AFM(atomic force microscope)分析(装置名:Dimension Icon、Bruker社製)により、表面処理膜を観察し、以下の基準で、矩形性を評価した。結果を、表1に記載する。
◎:非常に良好な矩形性状を有する
〇:良好な矩形性状を有する
×:形状不良が認められる
【0087】
(選択性の評価)
得られた各基板について、それぞれ、AFM(atomic force microscope)分析(装置名:Dimension Icon、Bruker社製)により、観察範囲1μm×1μm、スキャン回数256回の測定条件で、第二領域(Cu)12上の凝着力及び第一領域(SiO)11上の凝着力を測定し、下記式を用いて、凝着力の差を算出した。凝着力の差が大きいほど、選択性が高くなり、Cu及びSiOのうち選択的にCu表面に表面処理膜が形成されていることを意味する。結果を表1に記載する。
凝着力の差[nN]=第一領域上の凝着力[nN]-第二領域上の凝着力[nN]
【0088】
【表1】
【0089】
表1に示されるように、絶縁体(SiO)が露出する第一領域と、金属類(Cu)が露出する第二領域とを、表面に有する基板を準備する基板準備工程と、第二領域の表面を酸化する酸化工程と、酸化工程後に、基板の表面を、炭素原子数が8以下であるチオールを含む表面処理剤に暴露することにより、第二領域上に表面処理膜を形成する暴露工程と、を含む、表面処理膜の形成方法により形成された実施例1~5の表面処理膜は、表面処理膜の膜厚が10nm以上と厚くても、表面処理膜の第一領域へのはみ出しが抑制でき、矩形性に優れることが分かる。また、実施例1~5の表面処理膜は、選択的に金属類(Cu)表面に形成されたことも分かる。
一方、酸化工程を行わなかった比較例1の表面処理膜や、表面処理剤が含むチオールの炭素原子数が8より多い比較例2及び3の表面処理膜は、表面処理膜の第一領域へのはみ出しが多く、矩形性が悪かった。
【符号の説明】
【0090】
1 基板
11 第一領域
12 第二領域
21 金属酸化物層
22 表面処理膜
図1
図2
図3
図4
図5