(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165391
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】生体試料測定装置、校正方法
(51)【国際特許分類】
G01F 23/292 20060101AFI20241121BHJP
【FI】
G01F23/292 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081552
(22)【出願日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐尾 真侑
(72)【発明者】
【氏名】中村 悠介
(72)【発明者】
【氏名】角野 雅仁
(72)【発明者】
【氏名】堀畑 文恭
【テーマコード(参考)】
2F014
【Fターム(参考)】
2F014AA05
2F014FA04
2F014GA01
(57)【要約】
【課題】1つ以上の成分領域を有する生体試料を測定する際に、測定装置のずれとレンズ収差による液高さ測定精度の低下を回避する。
【解決手段】本開示に係る生体試料測定装置は、パターン形状を表面に有するキャリブレータの撮像画像からゆがみ係数と液高さ変換係数を取得し、これらに基づいて試料の液高さを補正する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の成分領域を有する生体試料を測定する生体試料測定装置であって、
前記生体試料を透過した光を用いて前記生体試料の第1撮像画像を生成するとともに、パターン形状が表面に形成されたキャリブレータを透過した透過光を用いて前記キャリブレータの第2撮像画像を生成可能に構成された、撮像部、
前記第2撮像画像を用いて、前記撮像部が撮像した画像のゆがみを補正するためのゆがみ係数を算出する、ゆがみ係数算出部、
前記ゆがみ係数を用いて、前記撮像部が撮像した画像内の画素数を長さに変換するための変換係数を算出する、変換係数算出部、
前記第1撮像画像に対して前記変換係数を適用することにより、前記生体試料の液高さを測定する、液量測定部、
を備える
ことを特徴とする生体試料測定装置。
【請求項2】
前記液量測定部は、前記生体試料のうち測定対象とする対象部分を前記生体試料の撮像画像から特定するように構成されており、
前記撮像部は、前記生体試料を透過した前記光が有する第1波長成分を用いて、前記生体試料の第3撮像画像を生成し、
前記撮像部は、前記生体試料を透過した前記光が有する第2波長成分を用いて、前記生体試料の第4撮像画像を生成し、
前記液量測定部は、前記第3撮像画像における前記第1波長成分を用いて生成された部分と、前記第4撮像画像における前記第2波長成分によって生成された部分との間の差分に起因する量を特定し、
前記液量測定部は、前記特定した量が閾値以上となる部分を特定することにより、前記対象部分の範囲を特定する
ことを特徴とする請求項1記載の生体試料測定装置。
【請求項3】
前記パターン形状は、前記生体試料の液高さ方向に沿って配列された複数の形状によって構成されている
ことを特徴とする請求項1記載の生体試料測定装置。
【請求項4】
前記生体試料測定装置はさらに、前記キャリブレータと前記生体試料に対して第1波長成分を有する第1光または第2波長成分を有する第2光を照射する光源を備え、
前記光源は、前記第1光と前記第2光のうち波長の短いほうを前記キャリブレータに対して照射し、
前記撮像部は、前記キャリブレータを透過した光を用いて前記第2撮像画像を生成する
ことを特徴とする請求項1記載の生体試料測定装置。
【請求項5】
前記変換係数算出部は、前記生体試料の液高さ方向の位置ごとに前記変換係数を算出し、
前記液量測定部は、前記第1撮像画像の前記液高さ方向の位置に対応する前記変換係数を適用することにより、前記生体試料の液高さを測定する
ことを特徴とする請求項1記載の生体試料測定装置。
【請求項6】
前記パターン形状は、前記生体試料の液高さ方向に沿って周期的に配列された複数の形状によって構成されており、
前記ゆがみ係数算出部は、前記第2撮像画像における前記パターン形状の周期を、前記液高さ方向の位置ごとに取得し、
前記ゆがみ係数算出部は、前記第2撮像画像から取得した前記パターン形状の周期に対して関数フィッティングを実施することにより、前記ゆがみを表すゆがみ関数を求め、
前記ゆがみ係数算出部は、前記ゆがみ関数を構成するパラメータを、前記ゆがみ係数として用いる
ことを特徴とする請求項1記載の生体試料測定装置。
【請求項7】
前記変換係数算出部は、前記ゆがみ係数を用いて前記第2撮像画像の前記ゆがみを補正し、
前記変換係数算出部は、前記キャリブレータが有する前記パターン形状の実サイズを、前記補正した前記第2撮像画像が有する前記パターン形状の画素数で除算することにより、前記変換係数を算出する
ことを特徴とする請求項1記載の生体試料測定装置。
【請求項8】
前記ゆがみ係数算出部は、前記生体試料の液高さ方向の位置に依存するゆがみについて前記ゆがみ係数を算出し、
前記変換係数算出部は、前記第2撮像画像の基準位置において、前記キャリブレータが有する前記パターン形状の実サイズを、前記第2撮像画像が有する前記パターン形状のピクセル数で除算することにより、前記変換係数の基準値を取得し、
前記変換係数算出部は、前記ゆがみ係数を用いて構成した関数を前記基準値に対して適用することにより、前記液高さ方向の位置に依存して変化する前記変換係数を算出する
ことを特徴とする請求項1記載の生体試料測定装置。
【請求項9】
前記液量測定部は、前記ゆがみ係数を用いて、前記第1撮像画像のひずみを補正し、
前記液量測定部は、前記補正した前記第1撮像画像に対して、前記変換係数を適用することにより、前記生体試料の液高さを測定する
ことを特徴とする請求項1記載の生体試料測定装置。
【請求項10】
前記液量測定部は、前記液高さ方向の位置ごとに算出した前記変換係数のうち、前記第1撮像画像の前記液高さ方向の位置に対応する値を適用することにより、前記生体試料の液高さを測定する
ことを特徴とする請求項8記載の生体試料測定装置。
【請求項11】
前記変換係数算出部は、前記生体試料を収容する容器のサイズごとにそれぞれ異なるサイズを有する複数の前記キャリブレータそれぞれの前記第2撮像画像を用いて、前記容器のサイズごとに前記変換係数を算出し、
または、
前記変換係数算出部は、前記撮像部が前記第2撮像画像を撮像するときにおけるワーキングディスタンスと、前記撮像部が前記第1撮像画像を撮像するときにおけるワーキングディスタンスとの間の比率にしたがって、前記第2撮像画像から求めた前記変換係数を拡大または縮小する
ことを特徴とする請求項1記載の生体試料測定装置。
【請求項12】
前記生体試料測定装置はさらに、前記撮像部が撮像する対象物の位置を調整する位置調整部を備え、
前記位置調整部は、前記ゆがみ係数および前記変換係数を算出するために用いた前記第2撮像画像を撮像するときにおける前記パターン形状の位置と、前記ゆがみ係数および前記変換係数を適用する前記第1撮像画像を撮像するときにおける前記生体試料の被測定面の位置とが同じになるように、前記生体試料の位置を調整する
ことを特徴とする請求項1記載の生体試料測定装置。
【請求項13】
前記生体試料測定装置はさらに、前記撮像部が撮像する対象物の位置を調整する位置調整部を備え、
前記撮像部は、前記キャリブレータが第1位置にあるとき前記キャリブレータの画像を撮像し、
前記撮像部は、前記キャリブレータが奥行方向において前記第1位置とは異なる第2位置にあるとき前記キャリブレータの画像を撮像し、
前記変換係数算出部は、前記変換係数として、前記第1位置における第1係数と前記第2位置における第2係数を算出し、
前記変換係数算出部は、前記第1係数と前記第2係数を用いて、前記キャリブレータの位置と前記変換係数との間の関係を表す関数を算出し、
前記変換係数算出部は、前記関数が記述している前記関係のなかから、前記生体試料測定装置の個体ごとに共通して用いる、前記変換係数と前記生体試料の位置とのペアを特定し、
前記位置調整部は前記ペアによって特定される位置に前記生体試料を配置し、前記液量測定部は前記ペアによって特定される前記変換係数を用いる
ことを特徴とする請求項1記載の生体試料測定装置。
【請求項14】
前記生体試料を収容する容器と前記キャリブレータは、同一形状または相似形状である
ことを特徴とする請求項1記載の生体試料測定装置。
【請求項15】
1つ以上の成分領域を有する生体試料を測定する生体試料測定装置を校正する方法であって、
パターン形状が表面に形成されたキャリブレータを透過した透過光を用いて前記キャリブレータの撮像画像を生成するステップ、
前記撮像画像を用いて、前記生体試料測定装置が撮像した画像のゆがみを補正するためのゆがみ係数を算出する、ステップ、
前記ゆがみ係数を用いて、前記生体試料測定装置が撮像した画像内の画素数を長さに変換するための変換係数を算出する、ステップ、
を有する校正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複数の成分領域へ分離された生体試料を測定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
血液検査など臨床検査の効率化を目的に、従来目視確認で実施されていた分析前(分注前)の生体検体の液量確認作業を自動化する技術が求められている。対象となる検体は、遠心分離などによって複数層に分離されており、このうち血清や血漿など分析対象となる試料の液量のみを測る技術が必要である。また、検体が血液試料である場合、検体を収容する採血管には患者識別用のバーコードラベルなどが貼られており、ラベルが貼られた状態で測定可能とする技術が必要である。さらには、すでに導入されている検体搬送装置などにオプションとして検体測定装置を搭載することが望まれており、装置の小型化が必要である。
【0003】
このような生体試料測定装置として、例えば特許文献1は、複数層に分離した試料に対して、2波長のパルス光を時分割に切り替えて照射し、試料を鉛直方向に走査しながら透過光を測定することにより、複数層に分離した試料の所定領域の高さを検出する技術について開示している。
【0004】
特許文献2は、光源が出射する2つの波長成分の光源とエリアカメラを用いて生体試料の撮像画像を生成し、撮像時の露光時間またはゲインを2つ以上用いてそれぞれ生成した前記撮像画像を比較することにより、生体試料のうち測定対象部分を最も明瞭に識別できる撮像画像を選択する技術について開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】US2012/0013889
【特許文献2】特開2022-178784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されている技術は、複数の成分により構成される生体試料について、測定対象に対して吸収率が異なる2波長の透過光の信号から、測定対象領域の境界を精度よく特定して液量を測定する液量測定技術に関するものである。しかしながら、特許文献1においては、検体(採血管)を長軸方向に鉛直走査しながら測定する必要があり、走査機構の分だけ装置の小型化が難しい。
【0007】
特許文献2に開示されている技術は、エリアカメラを用いて近赤外光の透過画像を取得することにより、ラベルが貼られた生体試料においても、試料の回転や鉛直走査機構を不要とし、装置の小型化を実現可能な液量測定技術に関するものである。本技術は、透過画像から測定対象となる領域を検出し、液高さを求めて液量を算出するが、その際には測定対象領域の画素数を長さに変換する変換係数が必要になる。変換係数は、生体試料からエリアカメラまでの距離に応じて決まるので、据え付けなどによる装置のずれの影響を回避することが課題となる。また、エリアカメラを用いて撮像した画像はレンズ収差によりゆがみが発生するので、精度よく液高さを検出するためには、撮像画像のゆがみを補正する必要がある。
【0008】
本開示は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、1つ以上の成分領域を有する生体試料を測定する際に、測定装置のずれとレンズ収差による液高さ測定精度の低下を回避することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る生体試料測定装置は、パターン形状を表面に有するキャリブレータの撮像画像からゆがみ係数と液高さ変換係数を取得し、これらに基づいて試料の液高さを補正する。
【発明の効果】
【0010】
本開示に係る生体試料測定装置によれば、1つ以上の成分領域を有する生体試料を測定する際に、装置のずれとレンズ収差による液高さ測定精度の低下を回避し、解析精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態1に係る生体試料測定装置101の構成図である。
【
図2A】測定対象領域を特定する原理を説明する図である。
【
図2B】測定対象領域を特定する原理を説明する図である。
【
図5】キャリブレータ301の撮像方法を説明する図である。
【
図6A】
図5の構成を用いて明暗の縞間隔が一定のキャリブレータ301を撮像したキャリブレータ画像601の説明図である。
【
図6B】
図6Aの解析範囲602について、レンズの歪曲収差がある場合の縞間隔画素数[pixel]の分布を示した図である。
【
図7】
図6Bの実際の縞間隔の長さ[mm]を縞周期[pixel]で割って求めた液高さ変換係数[mm/pixel]を説明する図である。
【
図8】ゆがみ係数算出部109がゆがみ係数を取得する処理を示すフローチャートである。
【
図9】キャリブレータ画像601のゆがみ補正を実施した上で液高さ変換係数を求める方法について説明するフローチャートである。
【
図10】
図8で取得するゆがみ係数とゆがみ関数をもとに、鉛直方向の座標を変数とする分布(関数)として液高さ変換係数を取得する方法を説明するフローチャートである。
【
図11】
図9で取得する定数の液高さ変換係数を用いる液量測定方法を説明するフローチャートである。
【
図12】
図10の処理で取得する液高さ変換係数の分布を用いる液量測定方法を説明するフローチャートである。
【
図13】実施形態2に係る生体試料測定装置101の構成図である。
【
図14】液高さ変換係数の値から生体試料102の撮像位置を調整する方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施の形態1>
本開示の実施形態において測定する生体試料は、開栓前(分析前)のラベルが貼られた検体であって、遠心分離有無により複数の成分層(典型的には1層~3層)に分離されているものを想定する。測定対象とするのは、複数層に分離した検体のうち、例えば血漿や血清などのような、生化学分析装置などによる分析対象となる(分注対象となる)部分である。
【0013】
図1は、本開示の実施形態1に係る生体試料測定装置101の構成図である。生体試料測定装置101は、生体試料102を測定する装置である。生体試料102は、上記のように複数の層で構成された試料である。生体試料測定装置101は、生体試料102の測定対象領域103を特定し、その液量を測定する。生体試料測定装置101は、面照明光源104、エリアカメラ105、時分割制御ドライバ106、キャリブレーションデータ取得部107、液量測定部108を備える。
【0014】
面照明光源104は、出射する光の波長を2つの波長間で切り替えることができるように構成されており、その光によって生体試料102を照明する。面照明光源104が出射する光は、生体試料102を構成している2以上の成分層を同時に(すなわち2以上の成分層をまたいで)照明することができる。また、成分層によらず、最上部層の上面(試料と空気層の境界)を照射することができる。光の波長を切り替えるとは、必ずしも単一の波長のみを有する光を出射することを要するものではなく、最も強度が強い波長成分を切り替えることができればよい(波長λ1=970±100nm、波長λ2=1550±100nmなど)。成分層が1層または3層である生体試料102において、成分層の層数が測定前にわかっている場合には、2つの波長のどちらかを用いれば足り、波長を切り替える必要はない。理由と波長の選択方法は後述の測定原理において説明する。
【0015】
エリアカメラ105は、生体試料102を透過した面照明光を撮像することにより、生体試料102の2次元撮像画像を生成する。エリアカメラ105は、面照明光源104が出射する波長帯の光を検出できる感度特性を有する。エリアカメラ105は、例えばInGaAsカメラなどによって構成できる。また、エリアカメラ105は、キャリブレータ画像を取得する。キャリブレータの詳細については後述する。
【0016】
時分割制御ドライバ106は、面照明光源104が出射する光の波長を時分割で切り替える。時分割制御ドライバ106は、波長切り替えと同期して、エリアカメラ105の露光時間(またはゲイン)をその波長に適した時間へ調整する。エリアカメラ105による撮像タイミングは、面照明光源104が出射する波長に同期して時分割制御ドライバ106が制御する。時分割制御ドライバ106は、液量測定部108から処理結果を受け取りその結果にしたがって再撮影を制御する場合もある。
【0017】
キャリブレーションデータ取得部107は、エリアカメラ105が取得するキャリブレータ画像を解析する。キャリブレーションデータ取得部107は、ゆがみ係数算出部109、液高さ変換係数算出部110、キャリブレーションデータ記憶部111を備える。ゆがみ係数算出部109は、レンズ収差の影響で生じる画像のゆがみを表すゆがみ係数を算出する。液高さ変換係数算出部110は、エリアカメラ105が取得する生体試料102の画像のうち、液高さ領域の画素数を液高さ[mm]に変換する変換係数を算出する。ゆがみ係数および液高さ変換係数の算出方法は後述する。キャリブレーションデータ記憶部111は、ゆがみ係数算出部109が取得するゆがみ係数と、液高さ変換係数算出部110が取得する液高さ変換係数を格納する。
【0018】
液量測定部108は、エリアカメラ105が取得した撮像画像から、測定対象領域103を抽出し、撮像画像中の液高さにあたる鉛直方向の液高さ画素数[pixel]を取得する。液量測定部108は、キャリブレーションデータ記憶部111にアクセスして、格納されているゆがみ係数と液高さ変換係数を取得し、これらを用いて撮像画像から取得した液高さ画素数[pixel]を液高さ[mm]に変換し、さらに生体試料102の容器径の情報を用いて液量を算出する。液量測定部108が実行する処理内容の詳細は後述する。
【0019】
<実施の形態1:液量測定の原理>
図2Aと
図2Bは、測定対象領域を特定する原理を説明する図である。
図1の構成において、エリアカメラ105は、
図2Aおよび
図2Bのような、生体試料102の2次元の透過画像を撮像する。
【0020】
図2Aは生体試料102が3層に分離されている例を示す。
図2Bは生体試料102が2層に分離されている例を示す。血餅202は、生体試料102を遠心分離したとき下層にできるものである。分離材201は、血餅202と測定対象領域103を分離するために混入させるものである。
【0021】
面照明光源104が出射する第1波長(波長1)と第2波長(波長2)を比較すると、波長1が血餅202を透過するときの透過率と波長2が血餅202を透過するときの透過率はほぼ同じである。したがって、波長1を用いて取得した血餅202の撮像画像と波長2を用いて取得した血餅202の撮像画像との間の差分は、ごく僅かである。分離材201についても同様に、波長1の透過率と波長2の透過率はほぼ同じであるので、両画像間の差分はごく僅かである。
【0022】
これに対して、波長1が測定対象領域103を透過するときの透過率と波長2が測定対象領域103を透過するときの透過率は、大きく異なる。したがって、波長1を用いて取得した測定対象領域103の撮像画像と波長2を用いて取得した測定対象領域103の撮像画像との間の差分は、顕著である。この差分を識別することにより、測定対象領域103を撮像画像から抽出することができる。
【0023】
波長1および波長2として採用する波長帯は、
図2Aと
図2Bが例示するように、測定対象領域103においては顕著な差分が波長間で生じるが、それ以外の部分においては差分がほぼ生じないように、あらかじめ選択しておく必要がある。この条件を満たせば、具体的な波長の数値は任意でよい。すなわち、少なくとも、波長1が測定対象領域103を透過するときの透過率と波長2が測定対象領域103を透過するときの透過率との間の差分は、波長1が測定対象領域103以外を透過するときの透過率と波長2が測定対象領域103以外を透過するときの透過率との間の差分よりも大きければよい。
【0024】
上記測定原理を用いることにより、生体試料102が複数の成分層に分離されている場合において、測定対象領域103を特定することができる。液量測定部108はこの原理にしたがって、測定対象領域103を特定する。成分層の数は問わないが、血漿や血清などの典型的な生体試料においては、1層~3層に分離されている。いずれの場合においても測定対象領域103を精度よく特定できる。
【0025】
成分層が1層の生体試料102と成分層が3層の生体試料102について、成分層の数があらかじめ測定前にわかっている場合には、1波長のみの透過画像を用いて測定可能である。
図2Аのように3層となっている場合は、測定対象領域103の上下に位置する分離材201や空気層と測定対象領域103との間の吸収率の差がある波長を選べばよい。1層の場合には、測定対象領域103の上部の空気層と、測定対象領域103の吸収率との間に差がある波長を選べばよい。
【0026】
液量測定部108は、上述のようにして取得する測定対象領域103の境界を検出して液高さに該当する液高さ画素数を取得し、取得した液高さ画素数と、
図1のキャリブレーションデータ記憶部111に格納する液高さ変換係数[mm/Pixel]を用いて、液高さ[mm]を求める。液高さ変換係数の求め方は後述する。液量測定部108は、このように求めた液高さ[mm]と採血管の径情報をもとに液量を算出する。
【0027】
<実施の形態1:キャリブレーションの目的>
上述のとおり、生体試料測定装置101が液量を求めるためには、撮像画像から取得する液高さ画素数を液高さ[mm]に変換する液高さ変換係数[mm/Pixel]が必要である。液高さ変換係数は、エリアカメラ105が撮像する視野[mm]とエリアカメラ105のセンサ画素数から求めることができるが、高精度に液高さ[mm]を求めるためには、液高さ変換係数を正確に求める必要があり、次の2点の課題がある。
【0028】
1点目は、生体試料102の撮像位置とエリアカメラ105との間の距離(ワーキングディスタンス)のずれに関するものである。エリアカメラ105の視野は、ワーキングディスタンスによって拡大縮小し、液高さ変換係数もワーキングディスタンスによって決定する。装置の据え付けなどによって、生体試料102の撮像位置やエリアカメラ105の位置が装置ごとにずれると、ワーキングディスタンスが変わることによって液高さ変換係数の値もずれることになり、液高さ[mm]検出精度の低下に直結する。そこで、より正確に液高さ変換係数を求めるためには、生体試料測定装置101の個体ごとに液高さ変換係数を求めるキャリブレーションが必要である。
【0029】
2点目は、レンズ収差により生じる画像ゆがみに関するものである。テレセントリック光学系でない一般的なレンズで撮像する場合、レンズの歪曲収差により画像中心から画像端にかけて画像のゆがみが生じる。詳細は後述するが、このような画像ゆがみがある場合、液高さ変換係数は画素位置に応じて変化することになる。したがって、正確な液高さ変換係数を求めるためには、画像ゆがみの検出と画像ゆがみに応じた液高さ変換係数の補正が必要になる。特に、生体試料測定装置101は、測定対象領域103の液高さを測定するので、液高さ方向のゆがみについて補正が必要となる。
【0030】
以上の2点の課題を解決するため、生体試料測定装置101の個体ごとに後述のキャリブレーションを実施する。キャリブレーションにおいては、高精度な液高さ変換係数を求めることを目的に、装置ごとに画像のゆがみを表すゆがみ係数と、ゆがみ係数にもとづき液高さを算出・補正する液高さ変換係数を取得し、これらをキャリブレーションデータ記憶部111に格納する。液量測定部108は、キャリブレーションデータ記憶部111に格納されたゆがみ係数と液高さ変換係数を取得し、これらを液高さの算出において用いることにより、高精度に液高さ[mm]を算出することができる。
【0031】
<実施の形態1:キャリブレーション手順>
図3Aと
図3Bは、キャリブレータ301の例である。キャリブレーションデータ取得部107は、エリアカメラ105が撮像するキャリブレータ301の撮像画像を取得し、キャリブレータ301の表面に形成されている形状パターンを解析してゆがみ係数と液高さ変換係数を取得する。
【0032】
キャリブレータ301は、
図3Aのような平面状や
図3Bのような円筒状の筐体に、パターン302が形成されたものである。
図3のパターン302は、鉛直方向に白黒の縞パターンがある例である。キャリブレータ301の形状は、平面板や円柱の他、直方体状でもよいが、いずれの形状であっても、筐体の表面にパターン302があるものとする。キャリブレータ301の形状が生体試料102の容器と同一形状または相似形状であれば、ゆがみ係数や液高さ変換係数を計算するための演算負荷を抑制することができる。
【0033】
キャリブレータ301の筐体の材質は、樹脂またはプラスチックなど、生体試料測定装置101の面照明光源104の少なくとも1つの波長を透過する材質とする。パターン302は、筐体に直接印字されたものでもよいし、紙にパターン302を印刷したものを筐体表面に貼ったものでもよい。その他適当な方法により筐体上に形成してもよい。キャリブレーションデータ取得部107は、エリアカメラ105が取得するパターン302のコントラストを解析するので、パターン302は、面照明光源104の波長を透過する領域と透過しない領域によって構成する。キャリブレータ301を透過した光を用いて各係数を計算することにより、キャリブレータ301を撮像する際に用いた装置設定(撮像対象物の位置、光学的構成など)を、試料撮像時にもそのまま用いることができる。
【0034】
図4Aと
図4Bは、パターン302の例を示した図である。
図3Aと
図4Aは明暗のデューティー比が互いに異なる。パターン302は、鉛直方向に明暗のパターンのある、
図4Aの縞パターンや
図4Bの格子パターンなどである。パターン302の縞間隔[mm]がわかっているものであれば、縞や格子パターンでなくてもよく、白黒のデューティー比も任意でよい。等間隔で明暗を繰り返す縞や格子パターンを用いる場合は、キャリブレーションデータ取得部107が実施するゆがみ係数取得処理の演算量が少なく済む。既知のパターンであればランダムパターンでもよい。
【0035】
パターン302の印字範囲は、撮像する生体試料102の鉛直方向の領域をカバーすることができる範囲とし、少なくとも測定対象領域103の高さの範囲より広い範囲にパターン302がある必要がある。具体的には、長さ100mmの採血管のうち90mmの範囲をエリアカメラ105で撮像する場合は、エリアカメラ105の鉛直方向の視野範囲全面にパターン302が存在すればよい。エリアカメラ105の視野範囲に対して、液量測定部108が解析する画像の範囲が狭い場合は、印字範囲を液量測定部108の解析範囲に合わせることにより、キャリブレーションデータ取得部107のゆがみ係数取得処理の演算量が少なく済む。
【0036】
図5は、キャリブレータ301の撮像方法を説明する図である。キャリブレータ301は、エリアカメラ105のレンズ面に対して平行になるように配置し、面照明光源104の光をキャリブレータ301に対して照射したときの透過光をエリアカメラ105によって撮像する。キャリブレータ301に対して照射する光は1波長のみでよい。波長970nmと波長1550nmなどの2波長の光を照射する面照明光源104を用いる場合は、色収差によるボケの小さい、短い方の波長(970nm)の光を用いてキャリブレータ301を撮像することにより、パターン302のコントラストを向上させ精度よく解析できる。
【0037】
キャリブレータ301の配置位置は、エリアカメラ105からキャリブレータ301までの距離がわかっていれば任意でよい。キャリブレータ301の配置位置を、生体試料102の撮像位置と一致させれば、ゆがみ係数と液高さ変換係数を取得するときの演算量が少なく済む。
【0038】
<実施の形態1:レンズ収差による画像ゆがみ補正方法>
図6Aと
図6Bは、撮像画像のゆがみを説明する図である。
図6Aは、
図5の構成を用いて明暗の縞間隔が一定のキャリブレータ301を撮像したキャリブレータ画像601の説明図である。
図6Bは、
図6Aの解析範囲602について、レンズの歪曲収差がある場合の縞間隔画素数[pixel]の分布を示した図である。
図6Bの横軸はキャリブレータ画像601の鉛直方向座標を示し、縦軸は明暗の縞間隔画素数[pixel]を示している。
【0039】
明暗パターンの縞間隔が一定であるキャリブレータ301を撮像した場合にも、レンズの歪曲収差がある場合には縞間隔が一定にならず、
図6Bのように画像端になるほど縞間隔画素数が小さくなるように撮像される。このようなキャリブレータ301の縞間隔の分布が画像のゆがみを表している。
【0040】
図7は、
図6Bの実際の縞間隔の長さ[mm]を縞周期[pixel]で割って求めた液高さ変換係数[mm/pixel]を説明する図である。画像のゆがみによって縞間隔画素数が変わるので、液高さ変換係数も鉛直方向の座標に依存した分布となる。つまり、生体試料102の液面位置によって液高さ変換係数が異なり、画像中心の縞周期から求めた液高さ変換係数を画像端の液高さ画素数の変換においてそのまま用いると、液高さ精度は低下する。精度よく液高さ[mm]を求めるには、
図6Bおよび
図7の分布を考慮して液高さ画素数を変換する必要がある。
【0041】
ゆがみ係数算出部109は、上述のゆがみを表すゆがみ係数を取得する。液高さ変換係数算出部110は、ゆがみ係数に基づく液高さ変換係数を取得する。具体的手法を以下に説明する。
【0042】
図8は、ゆがみ係数算出部109がゆがみ係数を取得する処理を示すフローチャートである。エリアカメラ105が撮像するキャリブレータ画像601を取得する(S801)。画像の中心領域に設定する解析範囲602の輝度分布から、
図6のような鉛直方向の縞周期分布を取得する(S802)。解析範囲602の幅は最大で採血管径程度として設定し、解析範囲602の水平方向の画素値を平均して縞周期分布を取得することにより、ノイズの影響を低減することができる。取得した縞周期分布とゆがみ関数をフィッティングするゆがみ係数を取得する(S803)。式1はゆがみ関数の例である。ydはゆがみ関数であり、yは鉛直方向の座標であり、k1とk2はゆがみ係数である。式1とS802で取得する縞周期分布との間の誤差が最小となるようにゆがみ係数を設定し、取得したゆがみ係数は、キャリブレーションデータ記憶部111に格納する(S804)。
【0043】
液高さ精度に影響するのは、鉛直方向(液高さ方向)のゆがみのみであるので、水平方向のゆがみは考慮しなくてもよく、ゆがみ関数は鉛直方向の座標を変数とする1方向でよい。後述の採血管径の検出を実施する場合は、同様に水平方向のゆがみ関数を求めるか、あるいは鉛直方向のゆがみ関数を水平方向のゆがみ関数としても用いてもよい。1方向のゆがみ関数のみを求める場合は、演算量が少なく済む効果がある。
【0044】
【0045】
液高さ変換係数算出部110は、キャリブレーションデータ記憶部111に格納されるゆがみ係数をもとに液高さ変換係数を取得する。
図9と
図10は、液高さ変換係数を求める方法を説明するフローチャートである。画像ゆがみを考慮して液高さ変換係数を求める方法は2通りあり、1つ目は、キャリブレータ画像601のゆがみ補正によって
図6Bの縞周期分布を補正したうえで、定数の液高さ変換係数を求める方法である(
図9)。2つ目は、ゆがみ関数から液高さ変換係数の分布を求める方法である(
図10)。
【0046】
図9は、キャリブレータ画像601のゆがみ補正を実施した上で液高さ変換係数を求める方法について説明するフローチャートである。まず、キャリブレータ画像601と、キャリブレーションデータ記憶部111に格納してあるゆがみ係数とを取得する(S901)。次に、ゆがみ係数を用いて定義する式1などのゆがみ関数に応じて画素間隔の拡大縮小を実施し、これによりキャリブレータ画像の鉛直方向についてゆがみ補正を実施する(S902)。続いて、ゆがみ補正を実施したキャリブレータ画像601の明暗周期分布を取得する(S903)。S902の処理により、S903で取得する
図6Bの明暗周期の分布は、実際のキャリブレータ周期の分布と一致するように平坦になる。最後に、実際のキャリブレータ周期[mm]を明暗周期[pixel]で割ることにより、定数の液高さ変換係数[mm/pixel]を取得し(S904)、キャリブレーションデータ記憶部111に格納する(S905)。S902は、キャリブレータ画像601のゆがみ補正を実施することとしたが、キャリブレータ画像601ではなく鉛直方向の縞周期分布をゆがみ関数によって補正してもよい。
【0047】
図10は、
図8で取得するゆがみ係数とゆがみ関数をもとに、鉛直方向の座標を変数とする分布(関数)として液高さ変換係数を取得する方法を説明するフローチャートである。まず、キャリブレータ画像601とゆがみ係数を取得し(S1001)、液高さ変換係数の基準値を、キャリブレータ画像601の中心領域などの縞周期を用いて取得する(S1002)。次に、ゆがみ係数をもとに
図8のゆがみ関数を設定し、そのゆがみ関数の逆数を用いて、液高さ変換係数の基準値を鉛直方向の座標に依存して補正した、液高さ変換係数の分布を取得する(S1003)。取得した液高さ変換係数の分布を同様にキャリブレーションデータ記憶部111に格納する(S1004)。
【0048】
図9と
図10は、どちらの方法でも画像ゆがみを考慮した液高さ変換係数を取得でき、どちらか片方の方法を実装し実行すればよいが、
図9と
図10のどちらを実行するかによって、格納する液高さ変換係数の内容が異なり、後述の液量測定処理のフローも異なる。
【0049】
以上の処理を装置ごとのキャリブレーションとしてあらかじめ実施する。生体試料102の液量測定時には、キャリブレーションデータ記憶部111に格納するゆがみ係数と液高さ変換係数を取得して液量を測定する。以上により、据え付けなどによるワーキングディスタンスのずれ、および、画像ゆがみによる液高さ測定精度の低下を回避できる。
【0050】
<実施の形態1:液量測定方法>
図11と
図12は、液量測定部108が液量を測定する処理を説明するフローチャートである。
図11は
図9の方法で取得する液高さ変換係数を用いる方法であり、
図12は
図10の方法で取得する液高さ変換係数の分布を用いる方法である。液高さ変換係数算出部110が実行する処理内容(
図9または
図10)に応じて、
図11と
図12いずれを用いるかを切り替えることができる。
【0051】
図11は、
図9で取得する定数の液高さ変換係数を用いる液量測定方法を説明するフローチャートである。液量測定部108は、エリアカメラ105が取得する生体試料102の撮像画像を取得し(S1101)、キャリブレーションデータ記憶部111にアクセスし、ゆがみ係数と液高さ変換係数(定数)を取得する(S1102)。次に、ゆがみ係数を利用して、
図9のS902と同じ方法で、生体試料102の撮像画像の画像ゆがみを補正する(S1103)。画像ゆがみの補正は、少なくとも鉛直方向において実施し、後述の採血管径の検出などを実施する場合は、キャリブレータ画像601の補正と同様に水平方向のゆがみ補正も実施する。画像ゆがみを補正した生体試料画像に対して、
図2で説明した原理にもとづき、境界の輝度勾配などを検出することにより、測定対象領域103を抽出する(S1104)。抽出した測定対象領域の鉛直方向の画素数を液高さ画素数とし、S1102で取得する液高さ変換係数を、液高さ画素数に乗算することにより、液高さ[mm]を取得する(S1105)。液量は、液高さ[mm]と採血管径の情報を用いて算出する(S1106)。採血管情報は、測定前に使用する採血管の情報を取得してもよいし、後述の方法で生体試料102の画像から取得してもよい。
【0052】
図11の測定対象領域抽出処理(S1104)は、生体試料102の撮像画像から中心領域を抽出するなどの処理によって一次元の輝度信号を取得して測定対象領域103の境界を検出することもできる。その場合は、生体試料画像ゆがみ補正処理(S1103)で出力するゆがみ補正後の画像に対して一次元の輝度信号取得処理を実行してもよいし、S1103の前に一次元輝度信号取得処理を実行し、取得する一次元輝度信号に対して、S1103のゆがみ補正を実行してもよい。一次元輝度信号に対してゆがみ補正と測定対象領域103の抽出処理を実行することにより、演算量を低減することができる。
【0053】
図12は、
図10の処理で取得する液高さ変換係数の分布を用いる液量測定方法を説明するフローチャートである。
図12の処理は、
図11の処理と異なり、生体試料102の撮像画像のゆがみ補正を実施せず、S1201で取得する撮像画像に対して
図11のS1104と同様の処理で測定対象領域を抽出する(S1203)。S1204では、S1203で検出する測定対象領域の座標(画素単位)に対応する液高さ変換係数を、S1202で取得する液高さ変換係数分布から取得し、鉛直方向の測定対象領域の範囲で液高さ変換係数を積算することにより、液高さ[mm]を取得する。
図11の処理と同様に、S1203は、一次元輝度信号に対して境界検出を実施してもよい。S1205の液量計算処理は
図11のS1106と同様である。
【0054】
以上の
図11および
図12の処理によって、画像ゆがみを補正できるため、精度よく液高さを取得し液量を測定することができる。
【0055】
<実施の形態1:採血管径の利用>
液高さの精度に影響するものとして、液高さ変換係数の値に影響するワーキングディスタンスのずれについて説明したが、装置据え付けなどによるずれの他、採血管径によってもワーキングディスタンスは変わり液高さ測定精度に影響する。例えば、採血管径13mmのものと16mmのものでは、カメラから採血管表面までの距離は1.5mmずれることになる。このずれの影響を回避する方法として、採血管径に応じた液高さ変換係数を用意しておき、測定時に取得する採血管径の情報に応じて使い分ける方法がある。
【0056】
採血管径に応じた液高さ変換係数の取得方法は、以下のものが考えられる:(a)採血管径と同じ
図3Bのような円筒状のキャリブレータ301を採血管径の種類の分だけ用意しておき、それぞれを用いてキャリブレーションを実施し、採血管径に対応するゆがみ係数および液高さ変換係数を取得・格納しておく;(b)キャリブレータ301の径と実際の採血管の径の差を考慮して、それぞれのワーキングディスタンスの比に応じて、液高さ変換係数を拡大縮小したものを取得し、キャリブレーションデータ記憶部111にあらかじめ格納するか、あるいは液量測定時に拡大縮小した液高さ変換係数を都度取得する。
【0057】
図3Aのような平面状のキャリブレータ301を用いる場合は、キャリブレータ301を撮像する際のワーキングディスタンスと、採血管径によって決まる生体試料102を撮像する際のワーキングディスタンスとの間の比に応じて、キャリブレータ301から求める液高さ変換係数を拡大縮小したものを、採血管表面における液高さ変換係数として取得する。
【0058】
液量測定部108は、液高さから液量を求めるために採血管情報を取得する。採血管の情報は、あらかじめ液量測定部108に格納しておいてもよいし、生体試料102の撮像画像から測定ごとに採血管径を検出してもよい。いずれにおいても、測定時に採血管径を取得することにより、採血管径に応じた液高さ変換係数を利用することができる。生体試料102の撮像画像から採血管径を取得する方法としては、採血管と背景のエッジの輝度差から境界を検出して径を求める方法などがある。
【0059】
<実施の形態2>
図13は、本開示の実施形態2に係る生体試料測定装置101の構成図である。本実施形態においては、実施形態1で説明した構成に加えて、撮像位置調整部1301、把持機構1302、把持機構制御ドライバ1303、を備える。その他の構成は実施形態1と同様である。
【0060】
把持機構1302は、生体試料102およびキャリブレータ301を把持する機構である。把持機構制御ドライバ1303は、撮像位置調整部1301の出力結果をもとに把持機構1302の位置を制御するドライバである。撮像位置調整部1301は、撮像位置記憶部1304と生体試料撮像位置取得部1305からなる。撮像位置記憶部1304は、キャリブレータ301の撮像位置と、生体試料撮像位置取得部1305で取得する生体試料102の撮像位置を記憶する。生体試料撮像位置取得部1305は、撮像位置記憶部1304に格納されたキャリブレータ301の撮像位置の情報と、キャリブレーションデータ記憶部に格納されている液高さ変換係数の情報を取得し、これらを用いて生体試料102の撮像位置を取得する。
【0061】
図13では、把持機構1302を用いてキャリブレータ301および生体試料102の撮像位置を調整しているが、把持する方法でなくとも、生体試料102とキャリブレータ301の底を固定する治具と、治具の位置を調整するレールなどを備え、制御ドライバで治具の位置を制御するなどの方法で撮像位置を調整してもよい。
【0062】
<実施の形態2:キャリブレータと生体試料撮像位置の調整>
液高さ変換係数は、ワーキングディスタンスによって決まるので、精度よく液高さを求めるためには、キャリブレータ301のパターン302面の撮像位置と生体試料102の測定面の位置を一致させる必要がある。
【0063】
測定する採血管径と同じ径をもつ円筒状のキャリブレータ301を利用する場合には、キャリブレータ301と生体試料102の撮像位置を一致させる。撮像位置記憶部1304に記憶されるキャリブレータ301の撮像位置を生体試料撮像位置取得部1305が取得し、生体試料102の撮像位置を把持機構制御ドライバ1303に送る。
【0064】
キャリブレータ301の径が採血管径と異なる場合や、板状のキャリブレータなど形状の違いによって、キャリブレータ301のパターン302の印字面の位置と、生体試料102の測定面の位置がずれる場合は、生体試料撮像位置取得部1305において、キャリブレータ301の撮像位置からずれ量の分だけシフトさせた撮像位置を取得し、その取得した撮像位置で生体試料102を撮像する。これにより、キャリブレーションで取得するゆがみ係数と液高さ変換係数をそのまま用いて液高さを求めることができる。なお、この場合は、実施の形態1で説明した方法で、液高さ変換係数の拡大・縮小で液高さ変換係数を補正して用いることもできる。
【0065】
<実施の形態3>
実施形態2では、キャリブレータ301の撮像位置に基づき、生体試料102の撮像位置を調整する方法を説明した。本方法によれば、正確な液高さ変換係数を用いて精度よく液高さを測定することができる。一方で、据え付けなどによってエリアカメラ105や把持機構1302の位置のずれが生じる場合は、装置間で生体試料102のワーキングディスタンスがずれることになる。ワーキングディスタンスのずれは、エリアカメラ105の視野を拡大・縮小させることになるので、解像度が装置間で変わることになる。
【0066】
本開示に実施形態3では、この問題に対して、
図13の構成において、キャリブレーションで取得する液高さ変換係数の値をもとに生体試料102の撮像位置を調整する。これにより、装置間で共通のワーキングディスタンスに設定することができる。
【0067】
図14は、液高さ変換係数の値から生体試料102の撮像位置を調整する方法を説明するフローチャートである。まず、撮像位置記憶部に格納する1点目の撮像位置でキャリブレータ301の撮像画像1を取得する(S1401)。続いて、把持機構制御ドライバ1303はキャリブレータ301を撮像位置記憶部に格納する2点目の撮像位置に移動させ(S1402)、撮像画像2を取得する(S1403)。2点目の撮像位置は、1点目の撮像位置から、エリアカメラ105に対して奥行き方向にずらした位置である(プラス方向でもマイナス方向でもどちらでもよい)。撮像画像1と撮像画像2それぞれについて、実施形態1の方法で液高さ変換係数を取得する。取得方法は、
図9または
図10のどちらかの方法でよく、
図9の場合は定数の液高さ変換係数を取得し、
図10の場合は液高さ変換係数の分布を求めるための基準値を取得する(S1404)。生体試料撮像位置取得部1305は、取得した2つの液高さ変換係数(または液高さ変換係数の基準値)と、それぞれの撮像位置の座標から、横軸を撮像位置の座標、縦軸を液高さ変換係数とする一次関数を設定する(S1405)。取得した一次関数から、装置間共通とする液高さ変換係数が得られる撮像位置の座標を取得する(S1406)。取得した撮像位置を撮像位置記憶部1304に格納し、生体試料102の測定時に使用する。以上の手順を装置ごとのキャリブレーション時に実施することによって、装置間で共通のワーキングディスタンス(および共通の液高さ変換係数)で生体試料102を撮像できる。
【0068】
共通のワーキングディスタンスで撮像することの効果としては、装置間で同じ解像度で撮像することができるほか、ワーキングディスタンスのずれによるレンズのピントのずれを低減することもできる。
【0069】
<本開示の変形例について>
本開示は、前述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0070】
実施形態1のキャリブレーションは、装置据え付け時など装置ごとに実施してもよいし、測定ごとに都度キャリブレータ301を用いてキャリブレーションを実施してもよい。
【0071】
実施形態1においては、生体試料102の具体的構成(血清試料)を想定し、透過画像を得るために用いる波長の具体例を説明した。本開示はこれに限るものではなく、その他種類の試料についても適用できる。すなわち、試料の吸光度特性に基づき、
図2A~
図2Bで例示したような透過画像を得るための波長を適切に選択することによって、その他の試料について適用することができる。
【0072】
キャリブレーションデータ取得部107、液量測定部108、撮像位置調整部1301は、その機能を実装した回路デバイスなどのハードウェアによって構成することもできるし、その機能を実装したソフトウェアをCPU(Central Processing Unit)などの演算装置が実行することによって構成することもできる。
【0073】
以上の実施形態において、キャリブレータ301は、生体試料測定装置101の構成要素とすることもできるし、生体試料測定装置101とは別の部材として構成することもできる。
【0074】
以上の実施形態において、ゆがみ係数や液高さ変換係数を計算する手順は、必ずしも生体試料102を測定するときに実施する必要はなく、例えば生体試料102を測定するまえにあらかじめ実施してその結果を生体試料測定装置101内に保持しておいてもよい。
【符号の説明】
【0075】
101:生体試料測定装置
104:面照明光源
105:エリアカメラ
106:時分割制御ドライバ
107:キャリブレーションデータ取得部
108:液量測定部
301:キャリブレータ
1301:撮像位置調整部