(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165393
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】接合基板の製造方法および半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/02 20060101AFI20241121BHJP
【FI】
H01L21/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081559
(22)【出願日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】大槻 剛
(72)【発明者】
【氏名】松原 寿樹
(72)【発明者】
【氏名】阿部 達夫
(57)【要約】
【課題】接合技術において、接合不良の発生を低減することができる接合基板の製造方法を提供する。
【解決手段】2つの基板の表面同士を直接接合して製造する接合基板の製造方法であって、前記直接接合する表面における平均表面粗さRaと表面自由エネルギーとを基準として前記2つの基板を用意する工程と、該用意した2つの基板を直接接合する工程とを有しており、前記2つの基板を用意する工程において、前記直接接合する表面の平均表面粗さRaが1nm以下であり、かつ、前記表面自由エネルギーの指標となる、前記直接接合する表面と水との接触角が70°以下の基板を用意する接合基板の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの基板の表面同士を直接接合して製造する接合基板の製造方法であって、
前記直接接合する表面における平均表面粗さRaと表面自由エネルギーとを基準として前記2つの基板を用意する工程と、該用意した2つの基板を直接接合する工程とを有しており、
前記2つの基板を用意する工程において、
前記直接接合する表面の平均表面粗さRaが1nm以下であり、かつ、前記表面自由エネルギーの指標となる、前記直接接合する表面と水との接触角が70°以下の基板を用意することを特徴とする接合基板の製造方法。
【請求項2】
前記2つの基板を用意する工程において、
基材の表面に、該基材とは異なる材料をスパッタリングすることで、前記直接接合する表面における前記表面自由エネルギーを調整した基板を用意することを特徴とする請求項1に記載の接合基板の製造方法。
【請求項3】
半導体装置の製造方法であって、
請求項1または請求項2に記載の接合基板の製造方法により製造した接合基板を用いて前記半導体装置を製造することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合基板の製造方法および半導体装置の製造方法に関し、例えば、SiCウェーハやGaN基板などを接合して製造する接合基板の製造方法および半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SiCやGaNは、Siとくらべて広いバンドギャップを有することから高い絶縁破壊強度を有し、また熱伝導率も大きいためパワーデバイスや高周波用デバイスなどの各種半導体デバイス用の半導体材料として期待されている材料である。また、半導体基板を接合することで、放熱特性の向上を促すことなどが行われている。
【0003】
例えば、非特許文献1では、SiCを使用したデバイスでは、SiC基板とそれにつづくエピタキシャル成長でコストの半分を占めることが報告されており、基板のコスト低減は非常に重要であることが指摘されている。このコスト低減策として、4H-SiC基板にH+イオン注入を行い、基板剥離を行う方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、H+イオンを注入した単結晶と多結晶のSiC基板を貼り合わせたのちに、単結晶および多結晶それぞれを剥離する方法が開示されている。
さらに、特許文献2にも多種多様な基板をH+の剥離技術にて作製する方法が述べられており、表面を研磨やドライエッチングした後にInGaNをエピタキシャル成長させる方法が記載されている。
【0004】
さらにSiC以外では、非特許文献2において、GaN基板にダイヤモンド基板を接合することで、放熱特性を向上させることが提案・開示されている。
【0005】
非特許文献3ではこれらの基板接合における表面自由エネルギーについて言及されており、固体同士が接触するとその接触面間で原子が結合を作れば表面自由エネルギーが減少し、固体全体のエネルギーも低下することが接合の駆動力であるとされている。またこのときの接合時の要件として基板同士の表面粗さ(Ra:平均表面粗さ)が1nmを切る必要性が述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-018890号公報
【特許文献2】特表2013-513963号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】岩室,“SiC MOSFET高性能化・高信頼化の進展”,ワイドバンドギャップ半導体学会特別公開シンポジウム予稿集、ワイドバンドギャップ半導体学会、 2022年
【非特許文献2】檜座秀一,西村邦彦,柳生栄治,山向幹雄、“ダイヤモンド放熱基板を用いたGaN-HEMTの開発”,応用物理,90,(3),167(2021)
【非特許文献3】須賀唯知,“表面活性化による常温接合とそのメカニズム”,応用物理,89,(9),498(2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように基板接合時の表面粗さについての知見から、Raを1nm以下にまで研磨・加工を行うが、実際には接合不良が発生することがある。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、接合技術において、接合不良の発生を低減することができる接合基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、2つの基板の表面同士を直接接合して製造する接合基板の製造方法であって、
前記直接接合する表面における平均表面粗さRaと表面自由エネルギーとを基準として前記2つの基板を用意する工程と、該用意した2つの基板を直接接合する工程とを有しており、
前記2つの基板を用意する工程において、
前記直接接合する表面の平均表面粗さRaが1nm以下であり、かつ、前記表面自由エネルギーの指標となる、前記直接接合する表面と水との接触角が70°以下の基板を用意することを特徴とする接合基板の製造方法を提供する。
【0011】
このように本発明は直接接合する表面について、Raを1nm以下にすること以外に、さらに表面自由エネルギーを考慮するものである。表面自由エネルギーが小さいと、基板同士が反発し接合できなくなることが考えられる。そこで適度な大きさ以上の表面自由エネルギー(具体的には水との接触角を指標として、該接触角が70°以下)を有する2つの基板を用意してそれらを直接接合することで、特にウェーハ面内(接合界面)で部分的に接合しなくなる接合不良を低減することが可能となる。そのため高品質な接合基板を提供することができる。
【0012】
このとき、前記2つの基板を用意する工程において、
基材の表面に、該基材とは異なる材料をスパッタリングすることで、前記直接接合する表面における前記表面自由エネルギーを調整した基板を用意することができる。
【0013】
このようにすれば、例えば、直接接合のために一旦用意した基材の表面における水との接触角が70°を超えている場合であっても、上記スパッタリングによりスパッタ層を形成してそのスパッタ層の表面における表面自由エネルギーを調整し、水との接触角が70°以下の表面を有する基板を用意することができる。
【0014】
また本発明は、半導体装置の製造方法であって、
上記本発明の接合基板の製造方法により製造した接合基板を用いて前記半導体装置を製造することを特徴とする半導体装置の製造方法を提供する。
【0015】
このようにして製造した半導体装置は高品質な接合基板を備えるため、接合界面で剥離等が生じることもなく、高品質で信頼性が高い半導体装置となる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明の接合基板の製造方法によれば、基板接合時の接合不良を低減することが可能になる。さらに、本発明の半導体装置の製造方法によって高品質で信頼性の高いものを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の接合基板の製造方法および半導体装置の製造方法の一例を示すフロー図である。
【
図2】本発明の接合基板の製造方法で用いる2つの基板と、該2つの基板を直接接合して得られる接合基板の一例を示す説明図である。
【
図3】接触角の例(120°程度と70°以下)を示す説明図である。
【
図4】本発明の接合基板の製造方法で用いる2つの基板の別の一例を示す説明図である。
【
図5】各基板の表面での接触角を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
前述したように、半導体基板などの基板同士の直接接合において接合不良が見られるという課題があった。本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、接合する基板同士の表面の粗さ(Ra)だけでなく、表面自由エネルギーも考慮することが重要であることに気づいた。豊田敦志,“粘着メモ・ふせんの技術”,精密工学会誌,89,(3),233(2023)にあるように、ポストイットの接着でもみられている現象と同様であることを見出した。また、表面自由エネルギーは接触角と関係があり(今林慎一郎,“固体表面の濡れ性に対する表面粗さの効果”,Review of Polarography,115,54,(2)(2008))、接触角を評価・指標とすることで表面自由エネルギーを評価可能である。そこで、より具体的にはRaが1nm以下であり、かつ、水との接触角が70°以下の表面同士であれば、接合不良を大きく低減することができ、より高品質で信頼性の高い接合基板の製造方法を提供できることを見出し、本発明を完成させた。
さらに、本発明者らは上記課題について鋭意検討を重ねた結果、上記接合基板を用いることにより、高品質で信頼性の高い半導体装置を提供できることを見出し、本発明を完成させた。
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
まず、
図2に本発明の接合基板の製造方法で用いる2つの基板と、該2つの基板を直接接合して得られる接合基板を示す。
ここでは
図2に示すように、用意する2つの基板は支持基板1とボンド基板2である。また、この支持基板1の一方の表面11とボンド基板2の一方の表面21とを直接接合して製造されたものが接合基板3である。表面11と表面21との接合箇所が接合界面31である。
支持基板1やボンド基板2の種類は特に限定されず、例えば半導体基板とすることができる。より具体的にはシリコン基板とすることもできるし、SiC基板やGaN基板などの化合物半導体基板とすることもできる。また単結晶基板とすることもできるし、多結晶基板とすることもできる。
基板サイズや形状も特に限定されず、例えば直径200mmの円形の基板とすることができる。また直径300mm、さらには450mmのものとすることができる。なお、サイズが大きいほど通常は接合不良が生じやすいので、その接合不良を低減するための本発明はより有効である。
【0020】
そして、実際に直接接合されることになる支持基板1の表面11とボンド基板2の表面21は、双方とも平均表面粗さRa(以下、単にRaとも言う)が1nm以下である。Raの値が、より好ましくは0.9nm以下、さらには0.8nm以下のものとすることができる。Raの値が小さいものほど好ましく、下限は0nmとすることができる。
【0021】
なお、平均表面粗さRaの測定方法は特に限定されるものではなくその都度決定することができるが、市販の測定器を用いてRaの測定をすることができる。
例えば共焦点レーザー顕微鏡(Lasertec製OPTELICSなど)により測定された視野角100μmの点群データから算出された測定値とすることができる。
あるいは、例えばキーエンス製レーザー顕微鏡VK-X100seriesを使用し、測定長さ4mmで行った測定値とすることもできる。
必要に応じて複数箇所(例えば5箇所)で測定を行ってそれらの平均値を得ることも可能である。
【0022】
上記Raの条件に加えて、双方の表面11、21は適度な大きさの表面自由エネルギー(Surface Free Energy。以下、単にSFEとも言う)を有している。ここでSFEに関して、SFEの指標として、表面11、21と水との接触角を用いて表す。具体的な接触角の条件は70°以下である。接触角の値が、より好ましくは66°以下、さらには62°以下、59°以下、53°以下のものとすることができる。接触角の値が小さいものほど好ましく、0°に近ければ近いものほど良い。より確実に良好な接合界面31を得られるからである。
【0023】
接触角の説明として
図3を参照する。被測定基板101の上に水滴102が付着している。この水滴102の液面と被測定基板101の表面とで形成される角度が接触角103である。
図3の上図において接触角103は120°程度となっているが、本発明における支持基板1とボンド基板2の場合では、接触角は上述したように70°以下である。70°以下の例を
図3の下図に示す。
SFEが大きいほど濡れ性が大きなものとなり、接触角は小さくなり、また、接合に好適なものとなる。
【0024】
なお、接触角の測定方法は特に限定されるものではなくその都度決定することができるが、市販の測定器(例えば協和界面科学株式会社製の接触角計PCA-11)を用いて接触角の測定をすることができる。
例えば、
図3の上図に示すシリンジ104から表面に純水2.0μlの液滴を1箇所に滴下し、画像解析から接触角を求めることができる。必要に応じて1箇所ではなく、複数箇所(例えば5箇所)で測定を行ってそれらの平均値を得ることも可能である。
【0025】
支持基板1の表面11とボンド基板2の表面21の両方に関して、Raが1nmより大きかったり、または、接触角が70°より大きかったりすると、支持基板1とボンド基板2を直接接合できなかったり、あるいは仮に直接接合できたとしても、接合基板3の接合界面31において部分的な未接合部(ボイド)が生じ易い。一方、Raと接触角の両方が上記条件を満たす場合には直接接合可能であるし、ボイドが極めて少ない、あるいはボイドが無い極めて良好な接合界面31を得ることができる。さらにはRaや接触角が小さいほど、より一層確実に、その良好な接合界面31を得ることができる。
【0026】
ところで支持基板1やボンド基板2は、上述したようにシリコン基板、SiC基板、GaN基板などの単独の材料の基材からなるものとすることもできるが、そのような基材の表面に異なる材料の層を有する構成とすることもできる。
【0027】
図4に2つの基板(支持基板1やボンド基板2)の別の例を示す。
図4の例では、基材4の表面に、該基材4とは異なる材料をスパッタリングして得られたスパッタ層5を有している。基材4とスパッタ層5を合わせた構成全体が支持基板1やボンド基板2に相当するものである。この場合、スパッタ層5の表面51が、支持基板1における表面11やボンド基板21における表面21に相当する。すなわち、スパッタ層5の表面51が上記のRaや接触角の数値条件を満たしている。
例えば、基材4がSiC基板やGaN基板、スパッタ層5がSi層からなるものとすることができるが、特にこれらの材料に限定されない。
このような構成の利点としては、一旦用意した基材4の表面がRaや接触角の上記条件を満たしていない場合に、上記スパッタ層5を形成することで改質されて上記条件を満たす良好な表面51とすることができることが挙げられる。
なお、スパッタ層5は1層に限らず、複数層としてもよい。このとき、最表面の層においてRaと接触角が本発明の規定範囲となる必要がある。また、層の形成方法もスパッタ法に限定されず、種々の公知の方法で形成してよい。
【0028】
以下、
図2(あるいは
図4)の支持基板1とボンド基板2を用いた本発明の接合基板の製造方法および半導体装置の製造方法について説明する。
図1に本発明の接合基板の製造方法および半導体装置の製造方法のフローを示す。全体として、2つの基板の用意(工程1)、2つの基板の直接接合(接合基板の製造)(工程2)、接合基板を用いた半導体装置の製造(工程3)からなっている。
【0029】
以下、各工程について説明する。
(工程1:2つの基板の用意)
まず直接接合する基板を2つ用意する。これらの基板を用意する際、直接接合する表面におけるRaとSFEとを基準として用意する。より具体的には、前述したようにRaが1nm以下であり、かつ、水との接触角(SFEの指標)が70°以下の表面を有する基板を用意する。すなわち、上記Raと接触角の条件を共に満たす、
図2の表面11を有する支持基板1と表面21を有するボンド基板2とを用意する。
なお支持基板1とボンド基板2は、単独材料からなるものを用意しても良いし、
図4のような基材4と異なる材料のスパッタ層5とからなるものを用意しても良い。
例えば、単結晶のものや多結晶のものを用意したり、必要に応じて両面研磨装置や片面研磨装置などの各種研磨装置を用いて研磨加工を施したり、ターゲットを用いたスパッタリングによって上記スパッタ層5を形成したりして、上記のRaと接触角の条件を満たす表面状態に調整することができる。
【0030】
(工程2:2つの基板の直接接合)
支持基板1の表面11とボンド基板2の表面21(
図1と
図2ではボンド基板2は上下逆さまで表示されている)を対向して貼り合わせることにより、これらの表面同士を直接接合して接合基板3を製造する。
直接接合する表面11、21は双方とも上記Raと接触角の条件を満たしているため、接合不良の発生を低減することができ、接合界面31においてボイドが極めて少ない(あるいはボイドが無い)良好な接合基板3を得ることができる。
【0031】
このとき、必要に応じて接合基板3に熱処理を施して接合強度を向上させてもよい。また、接合後にボンド基板部の薄膜化が必要な場合は、イオン注入剥離法等の既存の公知の技術を用いて行えばよい。
【0032】
(工程3:接合基板を用いた半導体装置の製造)
次に、上記のようにして製造した接合基板3を用いて半導体装置6を製造する。接合基板3のボンド基板部等に熱処理、酸化膜形成、エッチング処理、フォトレジスト処理等の各種処理を適宜施して、所望のデバイスを得ることができる。
接合基板3を利用することで、デバイス層の作製のためのエピタキシャル成長の回数を無くしたり減らしたりすることができ、安価に半導体装置6を得ることができる。また、本発明の製造方法で製造した接合基板3は接合界面31が良好で高品質なため、製造する半導体装置6も高品質で信頼性が高いものとすることができる。すなわち、剥離などの心配がなく信頼性を保つことが可能である。
【実施例0033】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1-3、比較例1)
ボンド基板として、直径200mm、厚さ355μmで、n型、抵抗率10Ω・cmで(0001)面に対して4°オフアングルの4H-SiC単結晶基板を準備した。この基板はシリカを砥粒として表面の研磨を行うことで、表面平均粗さRaを0.8nmまで平坦化した。
RaはLasertec製OPTELICSにより測定された視野角100μmの点群データから算出された測定値とした。
【0034】
次に支持基板として、以下のものを準備した。
まず、ボンド基板と同じ4H-SiC単結晶基板を準備した。またボンド基板と同じサイズのポリSiC基板を準備した。上記と同様にしてそれぞれの表面の研磨を行うことで、Raを0.8nmまで平坦化した。
さらに、ボンド基板と同じ4H-SiC単結晶基板を準備し、上記と同様にして表面の研磨を行うことで、Raを0.8nmまで平坦化した後、シリコンのスパッタを行ったものを準備した。なおスパッタ層の表面のRaは0.8nmであった。
また、ボンド基板と同じサイズのポリSiC基板を準備し、上記と同様にして表面の研磨を行うことで、Raを0.8nmまで平坦化した後、シリコンのスパッタを行ったものを準備した。なおスパッタ層の表面のRaは0.8nmであった。
【0035】
これら、(1)4H-SiC単結晶基板(ボンド基板用、支持基板用)、(2)ポリSiC基板(支持基板用)、(3)シリコンスパッタ済み4H-SiC単結晶基板(支持基板用)、(4)シリコンスパッタ済みポリSiC基板(支持基板用)について、それぞれの表面の接触角を、協和界面科学株式会社製の接触角計PCA-11を用いて(水は2μl使用)測定した。測定は5箇所で行いその平均値とした。
その接触角の測定結果を
図5に示す。
図5に示すように、(2)ポリSiC基板のみ、接触角が83°と大きく、表面自由エネルギーが小さいことがわかった。
一方、(1)4H-SiC単結晶基板の接触角は53°であり、(3)シリコンスパッタ済み4H-SiC単結晶基板と(4)シリコンスパッタ済みポリSiC基板の接触角は62°であり小さく、表面自由エネルギーは比較的大きいことがわかった。
【0036】
次に、これらの基板を以下の組み合わせで直接接合を試みた。
(実施例1)(1)+(1):4H-SiC単結晶基板同士
Ra:共に0.8nm
接触角:共に53°
(実施例2)(1)+(3):4H-SiC単結晶基板とシリコンスパッタ済み4H-SiC単結晶基板
Ra:共に0.8nm
接触角:(1)が53°、(3)が62°
(実施例3)(1)+(4):4H-SiC単結晶基板とシリコンスパッタ済みポリSiC基板
Ra:共に0.8nm
接触角:(1)が53°、(4)が62°
(比較例1)(1)+(2):4H-SiC単結晶基板とポリSiC基板
Ra:共に0.8nm
接触角:(1)が53°、(2)が83°
【0037】
ここで条件Aを[Raが1nm以下]、条件Bを[接触角が70°以下]とすると、条件A、Bの両方を満たす実施例1-3では接合可能であった。また、超音波顕微鏡により確認したところ、ウェーハ面内(接合基板の接合界面)で接合のできない箇所は確認されなかった。
一方で、条件Aを満たし、条件Bを満たさない比較例1では接合可能であった。しかしながら、ウェーハ面内で接合のできない箇所があることが超音波顕微鏡より確認された。
図6に接合不良箇所であるボイドの観察図を示す。
【0038】
以下では、Raや接触角が種々の(1)4H-SiC単結晶基板、(2)ポリSiC基板、(3)シリコンスパッタ済み4H-SiC単結晶基板、(4)シリコンスパッタ済みポリSiC基板を用意してこれらを組み合わせて直接接合を試みた。
(実施例4-6、比較例2)
以下の条件で直接接合を試みた。
(実施例4)(1)+(1):4H-SiC単結晶基板同士
Ra:共に0.9nm
接触角:共に56°
(実施例5)(1)+(3):4H-SiC単結晶基板とシリコンスパッタ済み4H-SiC単結晶基板
Ra:共に0.9nm
接触角:(1)が56°、(3)が66°
(実施例6)(1)+(4):4H-SiC単結晶基板とシリコンスパッタ済みポリSiC基板
Ra:共に0.9nm
接触角:(1)が56°、(4)が66°
(比較例2)(1)+(2):4H-SiC単結晶基板とポリSiC基板
Ra:共に0.9nm
接触角:(1)が56°、(2)が86°
【0039】
条件A、Bの両方を満たす実施例4-6では接合可能であった。また、超音波顕微鏡により確認したところ、ウェーハ面内でボイドは確認されなかった。
一方で、条件Aを満たし、条件Bを満たさない比較例2では接合可能であった。しかしながら、ウェーハ面内でボイドがあることが超音波顕微鏡より確認された。比較例1よりボイドの数が多く、サイズも大きかった。
【0040】
(実施例7-9、比較例3)
以下の条件で直接接合を試みた。
(実施例7)(1)+(1):4H-SiC単結晶基板同士
Ra:共に1.0nm
接触角:共に59°
(実施例8)(1)+(3):4H-SiC単結晶基板とシリコンスパッタ済み4H-SiC単結晶基板
Ra:共に1.0nm
接触角:(1)が59°、(3)が70°
(実施例9)(1)+(4):4H-SiC単結晶基板とシリコンスパッタ済みポリSiC基板
Ra:共に1.0nm
接触角:(1)が59°、(4)が70°
(比較例3)(1)+(2):4H-SiC単結晶基板とポリSiC基板
Ra:共に1.0nm
接触角:(1)が59°、(2)が89°
【0041】
条件A、Bの両方を満たす実施例7-9では接合可能であった。また、超音波顕微鏡により確認したところ、ウェーハ面内でボイドは確認されなかった。
一方で、条件Aを満たし、条件Bを満たさない比較例3では接合可能であった。しかしながら、ウェーハ面内でボイドがあることが超音波顕微鏡より確認された。比較例2より更にボイドの数が多く、サイズも大きかった。
【0042】
(比較例4-7)
以下の条件で直接接合を試みた。
(比較例4)(1)+(1):4H-SiC単結晶基板同士
Ra:共に1.2nm
接触角:共に62°
(比較例5)(1)+(3):4H-SiC単結晶基板とシリコンスパッタ済み4H-SiC単結晶基板
Ra:(1)が1.2nm、(3)が1.0nm
接触角:(1)が62°、(3)が70°
(比較例6)(1)+(4):4H-SiC単結晶基板とシリコンスパッタ済みポリSiC基板
Ra:(1)が1.2nm、(4)が1.0nm
接触角:(1)が62°、(4)が70°
(比較例7)(1)+(2):4H-SiC単結晶基板とポリSiC基板
Ra:(1)が1.2nm、(2)が1.0nm
接触角:(1)が62°、(2)が89°
【0043】
条件Bを満たし、条件Aを満たさない比較例4-6も、条件A、Bの両方を満たさない比較例7も、いずれも接合できなかった。
【0044】
また、Raや接触角が種々のGaN単結晶基板、ポリGaN基板、シリコンスパッタ済みGaN単結晶基板、シリコンスパッタ済みポリGaN基板を用意してこれらについても組み合わせて直接接合を試みた。
その結果、条件A、Bの両方を満たす場合は接合可能であり、かつ、ウェーハ面内でボイドは確認されなかった。
一方で、条件A、Bのうち1つでも満たさなかった場合は接合できなかったり、あるいは接合可能であってもウェーハ面内でボイドが多数確認された。
【0045】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。