(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165397
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/02 20060101AFI20241121BHJP
【FI】
H01L21/02 C
H01L21/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081568
(22)【出願日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(71)【出願人】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【弁理士】
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 貴之
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【弁理士】
【氏名又は名称】今藤 敏和
(72)【発明者】
【氏名】井上 史大
(72)【発明者】
【氏名】寺西 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】川合 章仁
(72)【発明者】
【氏名】山本 直子
(57)【要約】
【課題】有機接着剤を利用せずに板状物とキャリアウェーハのような仮支持基板とを仮接合するとともに、この板状物と支持基板とを接合した後に仮支持基板を板状物から容易に分離可能な積層体の製造方法を提供する。
【解決手段】積層体の製造方法であって、雰囲気の温度が第1温度範囲に維持された状態で板状物の一方の面及び仮支持基板の仮接合面のそれぞれに酸化膜を成膜する成膜ステップと、酸化膜の露出されている面に親水化処理を施す親水化ステップと、酸化膜を介して板状物と仮支持基板とを仮接合する仮接合ステップと、支持基板の接合面に接合材を形成する接合材形成ステップと、接合材を介して板状物と支持基板とを接合する接合ステップと、雰囲気の温度を第1温度範囲よりも高い第2温度範囲に維持することによって、酸化膜に内包された水を気化させる気化ステップと、板状物と仮支持基板とを分離する分離ステップと、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面と該一方の面の裏側に位置する他方の面とを有する板状物を備える積層体を製造する積層体の製造方法であって、
雰囲気の温度が第1温度範囲に維持された状態で該板状物の該一方の面又は仮支持基板の仮接合面の少なくとも一方に酸化膜を成膜する成膜ステップと、
該成膜ステップの後に、該酸化膜の露出されている面に親水化処理を施す親水化ステップと、
該親水化ステップの後に、該板状物の該一方の面と該仮支持基板の該仮接合面とが該酸化膜を介して対向した状態で両面を接近させることによって、該酸化膜を介して該板状物と該仮支持基板とを仮接合する仮接合ステップと、
該板状物の該他方の面又は支持基板の接合面の少なくとも一方に接合材を形成する接合材形成ステップと、
該仮接合ステップ及び該接合材形成ステップの後に、該板状物の該他方の面と該支持基板の該接合面とが該接合材を介して対向した状態で両面を接近させることによって、該接合材を介して該板状物と該支持基板とを接合する接合ステップと、
該接合ステップの後に、雰囲気の温度を該第1温度範囲よりも高い第2温度範囲に維持することによって、該酸化膜に内包された水を気化させる気化ステップと、
該気化ステップの後に、該板状物と該仮支持基板とを分離する分離ステップと、
を備える積層体の製造方法。
【請求項2】
該第1温度範囲は、80℃以上300℃以下である請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
該第2温度範囲は、200℃以上350℃以下である請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
該成膜ステップの後かつ該親水化ステップの前に、雰囲気の温度を該第1温度範囲よりも高く、かつ、該第2温度範囲よりも低い第3温度範囲に維持することによって、該酸化膜に内包された該水の一部を気化させる予備気化ステップをさらに備える請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
該酸化膜の厚さは、1μm以下である請求項1乃至4のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方の面と一方の面の裏側に位置する他方の面とを有する板状物を備える積層体を製造する積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスパッケージの高集積化等を目的として、CoC(Chip on Chip)、CoW(Chip on Wafer)又はWoW(Wafer on Wafer)等の三次元実装技術の開発が進められている。例えば、CoWにおいては、複数のチップを支持基板となるウェーハに接合してから、複数のチップの境界に沿って支持基板を分割することによって半導体デバイスパッケージが製造される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複数のチップが一つずつ支持基板に接合される場合、その所要時間が長くなる。この点を踏まえて、Co-D2W(Collective Die to Wafer bonding)と呼ばれる技術が提案されている。具体的には、Co-D2Wにおいては、複数のチップが支持基板となるウェーハとは別のウェーハ(仮支持基板)に仮接合された状態で一括して支持基板に接合される。そして、複数のチップが支持基板に接合されれば、仮支持基板が複数のチップから分離される。
【0005】
Co-D2Wにおける複数のチップと仮支持基板との仮接合は、例えば、比較的厚い、例えば、厚さが30μm程度の有機接着剤を利用して行われる。具体的には、この仮接合は、有機接着剤を介して複数のチップのそれぞれを仮支持基板の所望の位置に配置した状態で有機接着剤を硬化させることによって行われる。
【0006】
ただし、有機接着剤は、その硬化に伴って収縮する。そのため、複数のチップのそれぞれは、仮支持基板の所望の位置からずれた状態で仮支持基板に仮接合されることがある。この場合、複数のチップのそれぞれを支持基板の所望の位置において接合させることが困難になるおそれがある。
【0007】
さらに、比較的厚い有機接着剤を利用して複数のチップと仮支持基板とが仮接合される場合、仮支持基板に仮接合された複数のチップの高さにばらつきが生じることがある。このような場合、複数のチップを支持基板に接合するために両者を互いに強く押し付けることが必要になる。その結果、この接合の際に、複数のチップのそれぞれがさらに移動して、各チップを支持基板の所望の位置において接合させることが困難になるおそれがある。
【0008】
さらに、有機接着剤は、接着力が強く、複数のチップと仮支持基板との分離は必ずしも容易ではない。また、有機接着剤の少なくとも一部は、仮支持基板を複数のチップのそれぞれから分離させた後に複数のチップに残存する。そして、残存した有機接着剤は、半導体デバイスの性能を劣化させるコンタミネーションになるおそれがある。
【0009】
そのため、仮支持基板を複数のチップから分離した後には、一般的に、有機接着剤を除去するように複数のチップが洗浄される。しかしながら、この洗浄の所要時間は、長くなりやすい。その結果、チップのような板状物と、板状物が接合された支持基板と、を備える積層体の製造に必要な時間が長くなりやすい。
【0010】
これらの点に鑑み、本発明の目的は、有機接着剤を利用せずに板状物と仮支持基板とを仮接合するとともに、この板状物と支持基板とを接合した後に仮支持基板を板状物から容易に分離可能な積層体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、一方の面と該一方の面の裏側に位置する他方の面とを有する板状物を備える積層体を製造する積層体の製造方法であって、雰囲気の温度が第1温度範囲に維持された状態で該板状物の該一方の面又は仮支持基板の仮接合面の少なくとも一方に酸化膜を成膜する成膜ステップと、該成膜ステップの後に、該酸化膜の露出されている面に親水化処理を施す親水化ステップと、該親水化ステップの後に、該板状物の該一方の面と該仮支持基板の該仮接合面とが該酸化膜を介して対向した状態で両面を接近させることによって、該酸化膜を介して該板状物と該仮支持基板とを仮接合する仮接合ステップと、該板状物の該他方の面又は支持基板の接合面の少なくとも一方に接合材を形成する接合材形成ステップと、該仮接合ステップ及び該接合材形成ステップの後に、該板状物の該他方の面と該支持基板の該接合面とが該接合材を介して対向した状態で両面を接近させることによって、該接合材を介して該板状物と該支持基板とを接合する接合ステップと、該接合ステップの後に、雰囲気の温度を該第1温度範囲よりも高い第2温度範囲に維持することによって、該酸化膜に内包された水を気化させる気化ステップと、該気化ステップの後に、該板状物と該仮支持基板とを分離する分離ステップと、を備える積層体の製造方法が提供される。
【0012】
好ましくは、該第1温度範囲は、80℃以上300℃以下である。また、好ましくは、該第2温度範囲は、200℃以上350℃以下である。さらに、この積層体の製造方法は、該成膜ステップの後かつ該親水化ステップの前に、雰囲気の温度を該第1温度範囲よりも高く、かつ、該第2温度範囲よりも低い第3温度範囲に維持することによって、該酸化膜に内包された該水の一部を気化させる予備気化ステップをさらに備えることが好ましい。加えて、好ましくは、該酸化膜の厚さは、1μm以下である。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、その露出されている面が親水化された酸化膜を利用して板状物と仮支持基板とが仮接合される。すなわち、本発明においては、有機接着剤を利用することなく、酸化膜の露出されている面において生じる水素結合を利用して板状物と仮支持基板とが仮接合される。
【0014】
また、本発明においては、板状物と支持基板との接合が完了した後に、酸化膜を成膜する際の雰囲気の温度よりも高い温度に雰囲気の温度を維持することによって酸化膜に内包された水を気化させる。これにより、仮支持基板を板状物から分離させる際に分離起点として作用する多数のボイドが酸化膜に形成される。その結果、本発明においては、仮支持基板を板状物から分離することが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1(A)は、ウェーハの一例を模式的に示す斜視図であり、
図1(B)は、
図1(A)に示されるウェーハから製造されるチップの一例を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図2は、チップを備える積層体を製造する積層体の製造方法の一例を模式的に示すフローチャートである。
【
図3】
図3(A)は、それぞれの一方の面に酸化膜が成膜された複数のチップを模式的に示す断面図であり、
図3(B)は、仮接合面に酸化膜が成膜された仮支持基板を模式的に示す断面図である。
【
図4】
図4(A)は、チップの一方の面に成膜された酸化膜に対して親水化処理を施す様子を模式的に示す断面図であり、
図4(B)は、仮支持基板の仮接合面に成膜された酸化膜に対して親水化処理を施す様子を模式的に示す断面図である。
【
図5】
図5(A)は、チップと仮支持基板とを仮接合する様子を模式的に示す断面図であり、
図5(B)は、仮接合されたチップ及び仮支持基板を模式的に示す断面図である。
【
図6】
図6は、接合面に接合材が形成された支持基板を模式的に示す断面図である。
【
図7】
図7(A)は、チップと支持基板とを接合する様子を模式的に示す断面図であり、
図7(B)は、接合されたチップ及び支持基板を模式的に示す断面図である。
【
図8】
図8は、酸化膜に内包された水が気化した後の複数のチップ、仮支持基板及び支持基板を備える積層体を模式的に示す断面図である。
【
図9】
図9は、チップから仮支持基板を分離する様子を模式的に示す断面図である。
【
図10】
図10は、
図2に示される積層体の製造方法とは異なる積層体の製造方法の一例を模式的に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1(A)は、ウェーハの一例を模式的に示す斜視図であり、
図1(B)は、
図1(A)に示されるウェーハから製造されるチップの一例を模式的に示す斜視図である。
図1(A)に示されるウェーハ11は、例えば、互いに概ね平行な表面11a及び裏面11bを含み、単結晶シリコン等の半導体材料を素材とする。
【0017】
ウェーハ11の外縁には、その素材となる半導体材料の特定の結晶方位を示すためのノッチ11cが形成されている。また、ウェーハ11の表面11a側には、複数のデバイス13が形成されている。なお、複数のデバイス13は、マトリックス状に配列されている。すなわち、複数のデバイス13の境界は、格子状に延在する。そして、複数のデバイス13の境界に沿ってウェーハ11を分割することによって、複数のチップ15が製造される。
【0018】
図2は、板状物(具体的には、チップ15)を備える積層体を製造する積層体の製造方法の一例を模式的に示すフローチャートである。この方法においては、まず、チップ15の一方の面(例えば、デバイス13が形成されていない側の面)及び仮支持基板のチップ15に仮接合される側の面である仮接合面のそれぞれに酸化膜を成膜する(成膜ステップS1)。
【0019】
図3(A)は、それぞれの一方の面に酸化膜が成膜された複数のチップ15を模式的に示す断面図である。
図3(A)に示される酸化膜17は、例えば、PECVD(Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition)を利用して成膜される酸化シリコン膜である。
【0020】
このような酸化膜17は、例えば、複数のチップ15のそれぞれの一方の面が内部空間において露出されているチャンバに液体TEOS(Tetraethyl orthosilicate)等の液体原料を気化することによって得られるガスを供給した状態で、このガスをプラズマ化することによって成膜される。
【0021】
ここで、酸化膜17を成膜する際の雰囲気の温度、すなわち、チャンバ内の温度は、成膜される酸化膜17の水の含有量が多くなるように設定される。例えば、この温度は、80℃以上300℃以下、好ましくは100℃以上260℃以下、より好ましくは120℃以上220℃以下、最も好ましくは120℃以上180℃以下の第1温度範囲に含まれるように設定される。
【0022】
また、酸化膜17は、後述するチップ15と仮支持基板との仮接合の際にチップ15の仮支持基板側への沈み込みが抑制されるように、薄い膜厚を有する。例えば、この酸化膜17は、1μm以下、好ましくは500nm以下、より好ましくは250nm以下、最も好ましくは125nm以下の膜厚を有する。
【0023】
また、酸化膜17の露出されている面、すなわち、デバイス13から遠い側の面を平坦化するために、この面には化学機械研磨(CMP)等の平坦化処理が施されてもよい。さらに、酸化膜17は、膜厚が1μm超にされるように成膜された後、膜厚が1μm以下になるとともに露出されている面が平坦化されるように平坦化処理が施されてもよい。加えて、平坦化処理は、酸化膜17を成膜前のチップ15の一方の面に対して施されてもよい。
【0024】
図3(B)は、仮接合面に酸化膜が成膜された仮支持基板を模式的に示す断面図である。
図3(B)に示される仮支持基板19は、例えば、複数のデバイス13が形成されていない点を除いて
図1(A)に示されるウェーハ11と同じ構造物である。
【0025】
あるいは、仮支持基板19は、ガラス等の絶縁材料を素材とする基板であってもよい。また、仮支持基板19は、
図1(A)に示されるウェーハ11よりも厚く、かつ/又は、直径が大きい基板であってもよい。
【0026】
また、
図3(B)に示される酸化膜21は、例えば、
図3(A)に示される酸化膜17と同様の方法で成膜される酸化シリコン膜である。さらに、この酸化膜21の露出されている面及び/又は酸化膜21を成膜前の仮支持基板19の仮接合面に対して平坦化処理が施されてもよい。
【0027】
成膜ステップS1の後には、酸化膜17,21の露出されている面に親水化処理を施す(親水化ステップS2)。
図4(A)は、酸化膜17の露出されている面に親水化処理を施す様子を模式的に示す断面図であり、
図4(B)は、酸化膜21の露出されている面に親水化処理を施す様子を模式的に示す断面図である。
【0028】
この親水化処理は、酸化膜17,21の露出されている面にOH基を形成して活性化するための処理である。例えば、親水化処理は、大気圧下において、窒素プラズマ又は紫外線を照射部10から酸化膜17,21の露出されている面に向かって照射することによって実施される。
【0029】
なお、この親水化処理を実施する際には、酸化膜17,21に内包されている水が気化されないことが好ましい。そのため、親水化処理を実施する際の雰囲気の温度は、酸化膜17,21を成膜する際の雰囲気の温度よりも低い温度、例えば、室温に設定される。
【0030】
親水化ステップS2の後には、酸化膜17,21を介してチップ15と仮支持基板19とを仮接合する(仮接合ステップS3)。
図5(A)は、チップ15と仮支持基板19とを仮接合する様子を模式的に示す断面図であり、
図5(B)は、仮接合されたチップ15及び仮支持基板19を模式的に示す断面図である。
【0031】
この仮接合の際には、まず、複数のチップ15のそれぞれの一方の面と仮支持基板19の仮接合面とを酸化膜17,21を介して対向させる。そして、この状態を維持したまま、複数のチップ15のそれぞれと仮支持基板19とに、例えば、10kN程度の荷重が作用するまで両面を接近させる。その結果、酸化膜17と酸化膜21との間で水素結合が生じることによって複数のチップ15と仮支持基板19とが仮接合される。
【0032】
なお、この仮接合は、大気圧下において実施されてもよいし、105Pa以下の減圧雰囲気下で実施されてもよい。また、酸化膜17と酸化膜21との間で生じる水素結合を促進するために、この仮接合の直前に酸化膜17,21の露出されている面に水が供給されてもよい。
【0033】
また、この仮接合を実施する際には、酸化膜17,21に内包されている水が気化されないことが好ましい。そのため、仮接合を実施する際の雰囲気の温度は、酸化膜17,21を成膜する際の雰囲気の温度よりも低い温度、例えば、室温に設定される。
【0034】
仮接合ステップS3の後には、支持基板のチップ15に接合される側の面である接合面に接合材を形成する(接合材形成ステップS4)。
図6は、接合面に接合材が形成された支持基板を模式的に示す断面図である。
【0035】
図6に示される支持基板23は、例えば、単結晶シリコン等の半導体材料を素材とし、かつ、
図1(A)に示されるウェーハ11と同様の形状を有するウェーハである。また、支持基板23の接合面側には、それぞれがチップ15に含まれるデバイス13と接続される複数のデバイス25が形成されている。なお、複数のデバイス25は、必須の構成要素ではなく、なくてもよい。
【0036】
図6に示される接合材27は、例えば、
図3(A)に示される酸化膜17と同様の方法で酸化シリコン膜を成膜した後、複数のデバイス25が露出されるように接合材27の露出されている面にCMP等の平坦化処理を施すことによって形成される。ただし、この場合、接合材27を成膜する際の雰囲気の温度は、成膜される酸化シリコン膜の水の含有量が少なくなるような温度、例えば、350℃超に設定される。
【0037】
あるいは、接合材27は、BCB(Benzocyclobutene)等を含む有機接着剤であってもよい。この場合、接合材27は、例えば、雰囲気の温度を、例えば、室温に維持した状態で複数のデバイス25が露出されるように支持基板23の接合面に塗布してから、有機接着剤がプリベーク(ソフトベーク)されるように雰囲気の温度を、例えば、170℃程度に維持することによって形成される。
【0038】
接合材形成ステップS4の後には、接合材27を介してチップ15と支持基板23とを接合する(接合ステップS5)。
図7(A)は、チップ15と支持基板23とを接合する様子を模式的に示す断面図であり、
図7(B)は、接合されたチップ15及び支持基板23を模式的に示す断面図である。
【0039】
なお、接合材27が酸化シリコン膜によって構成される場合には、接合材形成ステップS4の後かつ接合ステップS5の前に、上述した親水化処理を接合材27の露出されている面に対して施すことが必要になる。また、接合ステップS5の直前には、複数のチップ15のそれぞれの他方の面及び/又は支持基板23の接合面が洗浄されてもよい。
【0040】
チップ15と支持基板23とを接合する際には、まず、複数のチップ15のそれぞれの他方の面と支持基板23の接合面とを接合材27を介して対向させる。そして、この状態を維持したまま、複数のチップ15のそれぞれと支持基板23とに、例えば、10kN程度の荷重が作用するまで両面を接近させる。その結果、複数のチップ15と支持基板23とが接合される。
【0041】
なお、この接合は、大気圧下において実施されてもよいし、105Pa以下の減圧雰囲気下で実施されてもよい。また、接合材27が酸化シリコン膜によって構成される場合には、複数のチップ15と接合材27との水素結合を促進するために、この接合の直前に複数のチップ15のそれぞれの他方の面及び/又は接合材27の露出されている面に水が供給されてもよい。
【0042】
また、接合材27が有機接着剤によって構成される場合、この接合を実施する際の雰囲気の温度は、接合材27を硬化させることが可能な温度、例えば、300℃程度に設定される。さらに、接合ステップS5においてデバイス13に含まれる配線(例えば、銅(Cu)配線)とデバイス25に含まれる配線(例えば、銅(Cu)配線)とを直接接続させる場合、すなわち、ハイブリッドボンディングを形成する場合には、この接合を実施する際の雰囲気の温度は、例えば、250℃以上350℃以下に設定されてもよい。
【0043】
接合ステップS5の後には、酸化膜17,21に内包された水を気化させる(気化ステップS6)。
図8は、酸化膜17,21に内包された水が気化した後の複数のチップ15、仮支持基板19及び支持基板23を備える積層体を模式的に示す断面図である。
【0044】
この気化ステップS6においては、例えば、赤外線ランプを備える熱処理装置を利用して窒素雰囲気下で積層体を加熱する。これにより、仮支持基板19を複数のチップ15から分離させる際に分離起点として作用する多数のボイド29が酸化膜17,21に形成される。
【0045】
なお、酸化膜17,21に内包された水を気化させるためには、酸化膜17,21を成膜する時よりも雰囲気の温度を高くする必要がある。他方、積層体を加熱する際の雰囲気の温度が高すぎると、酸化膜17と酸化膜21との間で水素結合よりも強固なシロキサン結合が生じるおそれがある。
【0046】
そのため、積層体を加熱する際の雰囲気の温度は、200℃以上350℃以下、好ましくは215℃以上320℃以下、より好ましくは230℃以上290℃以下、最も好ましくは245℃以上260℃以下の第2温度範囲に含まれるように設定される。
【0047】
また、接合材27が有機接着剤によって構成される場合、すなわち、接合ステップS5において雰囲気の温度が、例えば、300℃程度に設定される場合には、接合ステップS5と気化ステップS6とが間断なく連続して実施されてもよい。
【0048】
気化ステップS6の後には、チップ15と仮支持基板19とを分離する(分離ステップS7)。
図9は、チップ15から仮支持基板19を分離する様子を模式的に示す断面図である。
【0049】
この分離ステップS7においては、チップ15から仮支持基板19を離隔させるような外力を仮支持基板19及び/又は支持基板23に付与する。その結果、仮支持基板19がチップ15から分離されてチップ15と支持基板23とを備える積層体31が製造される。
【0050】
さらに、仮支持基板19がチップ15から分離された後にチップ15の一方の面に残存する酸化膜17が除去されるように、この積層体31にエッチングが施されてもよい。また、この積層体31は、複数のチップ15の境界に沿って分割されることによって個片化されてもよい。
【0051】
図2に示される積層体の製造方法においては、その露出されている面が親水化された酸化膜17,21を利用してチップ15と仮支持基板19とが仮接合される。すなわち、この方法においては、有機接着剤を利用することなく、酸化膜17,21の露出されている面において生じる水素結合を利用してチップ15と仮支持基板19とが仮接合される。
【0052】
また、この方法においては、チップ15と支持基板23との接合が完了した後に、酸化膜17,21を成膜する際の雰囲気の温度(第1温度範囲)よりも高い温度(第2温度範囲)に雰囲気の温度を維持することによって酸化膜17,21に内包された水を気化させる。これにより、仮支持基板19を複数のチップ15から分離させる際に分離起点として作用する多数のボイド29が酸化膜17,21に形成される。その結果、この方法においては、仮支持基板19をチップ15から分離することが容易になる。
【0053】
なお、上述した内容は本発明の一態様であって、本発明は上述した内容に限定されない。例えば、成膜ステップS1においては、各チップ15の一方の面又は仮支持基板19の仮接合面のいずれか一方のみに酸化膜17,21が成膜されてもよい。すなわち、本発明においては、酸化膜17又は酸化膜21のいずれか一方はなくてもよい。
【0054】
また、成膜ステップS1においては、各チップ15のデバイス13が形成されている側の面に酸化膜17が成膜されてもよい。すなわち、各チップ15は、そのデバイス13が形成されている側が仮支持基板19に接合され、かつ、そのデバイス13が形成されていない側が支持基板23に接合されてもよい。また、この場合には、支持基板23の接合面側には、複数のデバイス25が形成されなくてもよい。
【0055】
また、成膜ステップS1においては、複数のチップ15へと分割される前のウェーハ11の一方の面(例えば、裏面11b)に酸化膜17が成膜されてもよい。この場合、複数のチップ15は、成膜ステップS1の後かつ親水化ステップS2の前に、複数のデバイス13の境界に沿ってウェーハ11を分割することによって製造されてもよい。
【0056】
また、本発明においては、接合ステップS5よりも前であれば接合材形成ステップS4が実施されるタイミングは限定されない。例えば、接合材形成ステップS4は、成膜ステップS1よりも前に実施されてもよい。
【0057】
そして、成膜ステップS1に先立つ接合材形成ステップS4においては、板状物(具体的には、複数のチップ15又は複数のチップ15へと分割される前のウェーハ11)の他方の面に、上述した酸化シリコン膜によって構成される接合材27と同様の接合材が形成されてもよい。
【0058】
すなわち、この場合、支持基板23の接合面のみならず、板状物の他方の面にも接合材が形成されてもよい。あるいは、この場合、支持基板23の接合面に接合材27を形成することなく、板状物の他方の面にのみ接合材が形成されてもよい。
【0059】
また、本発明の積層体の製造方法は、
図2に示されるステップ以外のステップを含んでもよい。
図10は、
図2に示される積層体の製造方法とは異なる積層体の製造方法の一例を模式的に示すフローチャートである。具体的には、
図10に示される方法においては、成膜ステップS1の後かつ親水化ステップS2の前に、酸化膜17,21に内包された水の一部を気化させる(予備気化ステップS8)。
【0060】
この予備気化ステップS8においては、例えば、酸化膜17,21に内包される水の量を減少させるために、赤外線ランプを備える熱処理装置を利用して窒素雰囲気下で一方の面に酸化膜17が成膜されている板状物及び/又は仮接合面に酸化膜21が成膜されている仮支持基板19を加熱する。
【0061】
なお、酸化膜17,21に内包された水を気化させるためには、酸化膜17,21を成膜する時よりも雰囲気の温度を高くする必要がある。他方、積層体を加熱する際の雰囲気の温度が高すぎると、酸化膜17,21に内包される水の全てが気化されるおそれがある。そのため、板状物及び/又は仮支持基板19を加熱する際の雰囲気の温度は、上記の第1温度範囲よりも高く、かつ、上記の第2温度範囲よりも低い第3温度範囲に含まれるように設定される。
【0062】
また、本発明においては、仮支持基板19に仮接合され、かつ、支持基板23に接合される板状物は、ウェーハ11であってもよい。すなわち、本発明においては、ウェーハ11から製造される複数のチップ15が支持基板23に接合されるのではなく、ウェーハ11自体が支持基板23に接合されてもよい。さらに、この場合、複数のデバイス13がウェーハ11に形成されなくてもよい。
【0063】
その他、上述した実施形態にかかる構造及び方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0064】
10:照射部
11:ウェーハ(11a:表面、11b:裏面、11c:ノッチ)
13:デバイス
15:チップ
17:酸化膜
19:仮支持基板
21:酸化膜
23:支持基板
25:デバイス
27:接合材
29:ボイド
31:積層体