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特開2024-165560銀粉、混合銀粉及び導電性ペースト並びに銀粉及び混合銀粉の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165560
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】銀粉、混合銀粉及び導電性ペースト並びに銀粉及び混合銀粉の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20220101AFI20241121BHJP
   B22F 9/24 20060101ALI20241121BHJP
   B22F 1/068 20220101ALI20241121BHJP
   B22F 1/052 20220101ALI20241121BHJP
   B22F 1/10 20220101ALI20241121BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
B22F1/00 K
B22F9/24 E
B22F1/068
B22F1/052
B22F1/10
H01B1/22 A
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081842
(22)【出願日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100179903
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】藤井 政徳
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5G301
【Fターム(参考)】
4K017AA03
4K017BA02
4K017CA07
4K017DA01
4K017EJ01
4K017FB01
4K017FB03
4K017FB07
4K018BA01
4K018BB04
4K018BC30
4K018BD04
4K018KA33
5G301DA03
5G301DA42
5G301DD01
5G301DD02
(57)【要約】
【課題】線印刷した際に、電極配線の低抵抗化を達せられる銀粉及び混合粉、さらにそれを用いた導電性ペーストを得る。
【解決手段】銀粒子上面の主領域が(111)面又は(111)面に近い面である銀粒子を全粒子の20%以上95%未満含有し、前記銀粒子のKAM値が0.4以上1.0以下である銀粉。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀粒子上面の主領域が(111)面又は(111)面に近い面である銀粒子を全粒子の20%以上95%未満含有し、前記銀粒子のKAM値が0.4以上1.0以下である銀粉。
【請求項2】
レーザー回折法による体積基準のメジアン径を、銀粒子の断面測定における平均厚みで割ったアスペクト比が、1.2以上4.0未満である請求項1に記載の銀粉。
【請求項3】
銀粒子の断面測定における平均厚みが310nm以上である請求項1または2に記載の銀粉。
【請求項4】
銀粒子上面の主領域が(111)面又は(111)面に近い面である銀粒子を全粒子の30%以上含有しており前記銀粒子のKAM値が0.4未満である高結晶性銀粉に対し、機械的エネルギーを与えることにより前記銀粒子のKAM値が0.4以上1.0以下となるまで歪付与する、銀粉の製造方法。
【請求項5】
銀キレート錯体溶液に、アミノ酸を添加して調液した後、アスコルビン酸系還元剤を添加することにより前記高結晶性銀粉を得る、請求項4に記載の銀粉の製造方法。
【請求項6】
前記歪付与した後の銀粉が、レーザー回折法による体積基準のメジアン径を、銀粒子の断面測定における平均厚みで割ったアスペクト比が1.2以上4.0未満である、請求項4に記載の銀粉の製造方法。
【請求項7】
前記高結晶性銀粉の断面測定における平均厚みが310nm以上であり、前記歪付与した後の銀粉の断面測定における平均厚みが310nm以上である請求項4に記載の銀粉の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の銀粉と、前記銀粉よりも比表面積が大きい微小銀粉とを混合する、混合銀粉の製造方法。
【請求項9】
混合銀粉に占める請求項1に記載の銀粉の混合割合が10wt%~90wt%となるように混合する、請求項8に記載の混合銀粉の製造方法。
【請求項10】
銀粒子上面の主領域が(111)面又は(111)面に近い面である銀粒子を少なくとも含有し、前記銀粒子のKAM値が0.4以上1.0以下である混合銀粉。
【請求項11】
混合後の比表面積が0.20m/g以上1.50m/g以下である、請求項10に記載の混合銀粉。
【請求項12】
請求項1に記載の銀粉と、樹脂成分と、溶剤とを含む導電性ペースト。
【請求項13】
請求項10に記載の混合銀粉と、樹脂成分と、溶剤とを含む導電性ペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀粉、混合銀粉及び導電性ペースト並びに銀粉及び混合銀粉の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池などの電極回路形成、ビアホール充填、部品実装用接着剤等の用途において、球形状の銀粉と扁平形状のフレーク銀粉とを混合してフィラーとして使用し、さらに樹脂成分を含む導電性ペーストが使用されている。
【0003】
特許文献1には、フィラーとしての銀粉と、樹脂成分と、有機溶剤とからなる銀ペーストにおいて、銀粉には、一次粒子の平均粒径が0.6μm以下の微小球状銀粉と、一次粒子の平均厚みが50nm以下の極薄板状銀粉とを混合した混合銀粉を用いることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、フレーク状であって単結晶構造を有しかつその最大平面が格子面(111)である銀粒子が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-285673号公報
【特許文献2】特開2019-173120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、電極配線の線幅が25μm程度であったものが、線幅15μm以下に細くすることが求められている。そして、導電性ペーストにより細線を形成する際に、断線なく印刷が可能であると共に、電極配線の抵抗をさらに低抵抗化することが求められていた。
【0007】
そこで、本発明では、細線印刷した際に、電極配線のさらなる低抵抗化を達せられるような銀粉及び混合粉、さらにそれを用いた導電性ペーストを得ることを目的とし、そのような銀粉の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上述の課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果、本発明者等は、以下に述べる本発明を完成させた。すなわち、上述の課題を達成するための要旨構成は以下のとおりである。
【0009】
(1) 銀粒子上面の主領域が(111)面又は(111)面に近い面である銀粒子を全粒子の20%以上95%未満含有し、前記銀粒子のKAM値が0.4以上1.0以下である銀粉。
【0010】
(2) レーザー回折法による体積基準のメジアン径を、銀粒子の断面測定における平均厚みで割ったアスペクト比が、1.2以上4.0未満である(1)に記載の銀粉。
【0011】
(3) 銀粒子の断面測定における平均厚みが310nm以上である(1)または(2)に記載の銀粉。
【0012】
(4) 銀粒子上面の主領域が(111)面又は(111)面に近い面である銀粒子を全粒子の30%以上含有しており前記銀粒子のKAM値が0.4未満である高結晶性銀粉に対し、機械的エネルギーを与えることにより前記銀粒子のKAM値が0.4以上1.0以下となるまで歪付与する、銀粉の製造方法。
【0013】
(5) 銀キレート錯体溶液に、アミノ酸を添加して調液した後、アスコルビン酸系還元剤を添加することにより前記高結晶性銀粉を得る、(4)に記載の銀粉の製造方法。
【0014】
(6) 前記歪付与した後の銀粉が、レーザー回折法による体積基準のメジアン径を、銀粒子の断面測定における平均厚みで割ったアスペクト比が1.2以上4.0未満である、(4)又は(5)に記載の銀粉の製造方法。
【0015】
(7) 前記高結晶性銀粉の断面測定における平均厚みが310nm以上であり、前記歪付与した後の銀粉の断面測定における平均厚みが310nm以上である、(4)~(6)のいずれかに記載の銀粉の製造方法。
【0016】
(8) (1)~(3)のいずれかに記載の銀粉と、前記銀粉よりも比表面積が大きい微小銀粉とを混合する、混合銀粉の製造方法。
【0017】
(9) (1)~(3)のいずれかに記載の銀粉の混合割合が10wt%~90wt%となるように混合する、(8)に記載の混合銀粉の製造方法。
【0018】
(10)銀粒子上面の主領域が(111)面又は(111)面に近い面である銀粒子を少なくとも含有し、前記銀粒子のKAM値が0.4以上1.0以下である混合銀粉。
【0019】
(11) 混合後の比表面積が0.20m/g以上1.50m/g以下である、(10)に記載の混合銀粉。
【0020】
(12) (1)~(3)のいずれかに記載の銀粉と、樹脂成分と、溶剤とを含む導電性ペースト。
【0021】
(13) (10)又は(11)に記載の混合銀粉と、樹脂成分と、溶剤とを含む導電性ペースト。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、細線印刷した際に、電極配線の低抵抗化を達せられる銀粉及び混合粉、さらにそれを用いた導電性ペーストを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明における(111)面に近い面を説明する図である。
図2】実施例1に係る銀粉の銀粒子上面の主領域が(111)面又は(111)面に近い面である銀粒子のSEM観察像と、銀粒子上面のEBSD測定によるIPFマップと、KAMマップとを併せて掲載した図である。
図3】実施例2に係る銀粉の銀粒子上面の主領域が(111)面又は(111)面に近い面である銀粒子のSEM観察像と、銀粒子上面のEBSD測定によるIPFマップと、KAMマップとを併せて掲載した図である。
図4】実施例3に係る銀粉の銀粒子上面の主領域が(111)面又は(111)面に近い面である銀粒子のSEM観察像と、銀粒子上面のEBSD測定によるIPFマップと、KAMマップとを併せて掲載した図である。
図5】比較例1に係る銀粉の銀粒子上面の主領域が(111)面である銀粒子のSEM観察像と、銀粒子上面のEBSD測定によるIPFマップと、KAMマップとを併せて掲載した図である。
図6】比較例2に係る銀粉の銀粒子上面の主領域が(111)面又は(111)面に近い面である銀粒子のSEM観察像と、銀粒子上面のEBSD測定によるIPFマップと、KAMマップとを併せて掲載した図である。
図7】比較例3に係る銀粒子のSEM観察像と、銀粒子上面のEBSD測定によるIPFマップと、KAMマップである。
図8】実施例1の2000倍のSEM観察像である。
図9】比較例3の2000倍のSEM観察像である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に係る銀粉の実施形態の説明に先立ち、本明細書における用語を説明する。
【0025】
<面方位>
本発明に係る銀粉の面方位は、電子線後方散乱回折(Electron BackScatter Diffractio;EBSD)により測定される方位分布(IPFマップ)における、(111)面、(001)面、及び(101)面を頂点とするステレオ三角図の色見本に基づくマッピングにより同定する。この測定では、SEMチャンバー内にてステージ上の結晶性試料を大きく傾斜させ、ステージの傾き(Tilt)が60°~70°となるようにして、規定の入射角で電子線が試料に対し照射され、試料において反射した回折電子をEBSDのカメラに受けて菊池パターンを取得する。そして、銀粒子上面についての方位分布(IPFマップ)が作成される。実施例においては、EBSD分析装置(株式会社TSLソリューションズ製 OIM Analysis6.2)を使用し、60μm×180μmの測定範囲において、ステップサイズを0.30μmとして測定した。また、SEM観察条件としては、加速電圧15kV、倍率1500倍、Tilt70°の条件の下で実施し、信頼性指数(CI値)が0.2以下である信頼性の低い測定点を除き、方位分布(Inverse Pole Figure(IPF))マップを作成して評価した。銀粒子上面以外に照射された電子線は、回折電子を十分取得できない、または、信頼性指数が低くなるため、信頼性指数の設定によって銀粒子上面でない測定点を除外できる。そのため、IPFマップが作成される領域を、本発明における銀粒子上面とする。
【0026】
<(111)面に近い面>
EBSD測定されたIPFマップでは、マップ上の各点は(111)面、(001)面及び(101)面を示す点を頂点として取ったステレオ三角形の色見本のグラフをもとにマッピングが行われる。当該マッピングの色見本の概略図を図1に示す。なお、実際にはIPFマップ及び色見本のグラフ上の各点はRGBカラーで区別され、例えば(111)面はRGB=(0,0,255)(カラー名:青)、(001)面はRGB=(255,0,0)(カラー名:赤)、(101)面はRGB=(0,255,0)(カラー名:緑)である。そして、図1のCSSカラーコードにおいてRGB=(0,0,255)、RGB=(0,85,255)、RGB=(85,85,255)及びRGB=(85,0,255)を直線で囲んだ領域A(青色に近い色の領域)を本明細書における「(111)面に近い面」として扱う。実際の銀粒子観察時のIPFマップにおいて銀粒子上面の主領域がこの色見本グラフの領域Aに相当する色で表される場合は、その銀粒子の表面を「(111)面に近い面」とみなすことができる。また、「主領域」とは、このIPFマップで色付けされた領域のうちの60%以上の領域を指す。本明細書においては、IPFマップ上で観察される15個以上の銀粒子に対して評価することによりその割合を求める。すなわち、IPFマップ上で観察される1つの銀粒子において、その銀粒子上面において、60%以上が(111)面に近い面である場合、その銀粒子は、銀粒子上面の主領域が(111)面又は(111)面に近い面である銀粒子という。
【0027】
<KAM値>
銀粒子のKAM値は、上述のIPFマップにおいて確認された銀粒子上面の主領域が(111)面又は(111)面に近い面である銀粒子に対して、観察倍率を上げて該当する銀粒子1個が視野内に入るように拡大して、その銀粒子上面についてのSEM-EBSDにおいて測定される歪分布(KAMマップ)を作成し、当該銀粒子上面における歪ヒストグラムの平均値を算出することにより定める。IPFマップ上で観察される10個以上の上述の銀粒子に対して、個々に、銀粒子上面部分の歪分布の(Kernel Average Misorientation(KAM))値を評価する。本発明に係るKAM値は、10個以上の銀粒子(銀粒子上面の主領域が(111)面又は(111)面に近い面である銀粒子)の銀粒子上面のKAM値の平均値である。実施例においては、EBSD分析装置の条件を6μm×18μmの測定範囲、ステップサイズを40nmとし、SEM観察条件として倍率15000倍とした以外は上述のIPFマップ観察条件と同様にして、該当する銀粒子上面の方位分布(Inverse Pole Figure(IPF))マップを作成した後に、KAMマップを取得している。
【0028】
<メジアン径>
本発明に係る銀粉のレーザー回折法による体積基準のメジアン径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定した粒度分布から求める。本実施形態では、レーザー回折散乱式粒子径分布測定装置として、マイクロトラック・ベル株式会社製のマイクロトラック粒度分布測定装置MT-3300EXII(以下、単に粒度分布測定装置と記載する)を用いた場合を例示して以下説明する。銀粉の粒度分布は、所定の分散媒に分散して、すなわち、湿式で測定した値を用いてよい。なお実施例では、銀粉0.1gを分散媒としてのイソプロピルアルコール40mLに加え、超音波ホモジナイザー(株式会社日本精機製作所製、US-150T;19.5kHz、チップ先端直径18mm)により2分間分散させて分散液を調整した後、この分散液を粒度分布測定装置に供して銀粉の粒度分布を測定した。
【0029】
本明細書において、体積基準のメジアン径は、累積50%径またはD50とも記載する。累積50%径とは、粒度分布における、粒子径の小さい側からの体積基準での粒子量の累積が50%となる径である。同様に累積10%径は、粒度分布における、粒子径の小さい側からの体積基準での粒子量の累積が10%となる径である。累積90%径は、粒度分布における、粒子径の小さい側からの体積基準での粒子量の累積が90%となる径である。以下では、体積基準での累積10%径、累積50%径及び累積90%径をそれぞれ、D10、D50及びD90と記載する場合がある。
【0030】
<平均厚み>
また、本発明に係る銀粉中の銀粒子の断面測定における平均厚みとは、銀粒子断面のSEM観察像に基づいて求めた厚みの平均値である。実施例において、銀粒子の断面形状を把握するためのSEM観察像は、樹脂固めした銀粉をクロスセクションポリッシャーArBlade 5000(株式会社日立ハイテク製)で研磨することで断面出しを行ったのち、銀粒子断面を5000倍の倍率でSEM観察することにより行った。銀粒子の厚みは、銀粒子断面のSEM観察像中の個々の粒子画像を面積最小となる長方形で囲った際の短辺を指す。また、平均厚みとは、厚みの計測において、20個以上の銀粒子を撮像し、その計測した短辺の平均値のことをいう。
【0031】
<アスペクト比>
また、本発明に係る銀粉においては、レーザー回折法による体積基準のメジアン径を、銀粒子の断面測定における平均厚みで割った値をアスペクト比として用い、「レーザー回折法による体積基準のメジアン径を、銀粒子の断面測定における平均厚みで割ったアスペクト比」という。
【0032】
<比表面積>
本発明に係る銀粉の比表面積(Specific surface area(SSA))は、BET法を用いる。実施例では、株式会社マウンテック製のMacsorb HM-model 1210により測定した値を用いた。
【0033】
以下、本実施形態に係る銀粉の詳細を説明する。本実施形態おいて銀粉とは、銀粒子の集合体としての粉体(以後、単に銀粉という)である。
【0034】
(銀粉)
本実施形態に係る銀粉は、SEM-EBSD測定における銀粒子上面の主領域が(111)面又は(111)面に近い面である銀粒子を全粒子の20%以上95%未満含有し、前記銀粒子のKAM値が0.4以上1.0以下である。この銀粒子を用いた導電性ペーストは、細線印刷した際に、電極配線の低抵抗化を達成することができる。
【0035】
本発明に係る銀粉は、SEM-EBSD測定における銀粒子上面の主領域が(111)面又は(111)面に近い面である銀粒子は全粒子の30%以上であることが好ましく、40%以上であることがさらに好ましい。また、銀粉が(111)面に近い面だけで構成される場合でも本発明の銀粉では、銀粒子上面の主領域が(111)面又は(111)面に近い面である銀粒子は全粒子の70%未満であることがさらに好ましい。なお、銀粉における上記「銀粒子上面の主領域が(111)面又は(111)面に近い面である銀粒子」の含有率は、できるだけ銀粒子が重ならないように分散配置して行われたEBSD測定のIPFマップ(色見本のグラフをもとにしたマッピング)において、観測される全粒子の個数に対して、上述のように銀粒子上面の主領域が(111)面又は(111)面に近い面を持つ銀粒子であると観察される銀粒子の個数割合である。以下、この個数割合をIPF値とも記載する。
【0036】
また、SEM-EBSD測定における銀粒子上面の主領域が(111)面又は(111)面に近い面である銀粒子を10個以上評価した平均のKAM値は0.4以上1.0以下であり、当該KAM値は0.5以上であることが好ましい。本発明の銀粒子には(111)面を有するように結晶成長した銀粒子に比べて歪を有しており、KAM値が0.4以上1.0以下の範囲で歪があることで電極配線のさらなる低抵抗化を得ることができる。
【0037】
さらに、本発明に係る銀粉は、銀粒子の断面測定における平均厚みが310nm以上であることが好ましく、レーザー回折法による体積基準のメジアン径を、前記平均厚みで割ったアスペクト比が、1.2以上4.0未満であることが好ましい。アスペクト比を1.2以上4.0未満の範囲とすれば、アスペクト比が4.0以上である扁平形状の銀粒子に比べて細線印刷性が向上する。厚さが310nm未満では、緻密な焼成膜を形成しにくく、焼成膜の導電性が低下しやすい。また、ペースト化したときのペースト粘度が高くなり、ペーストの印刷性が低下する恐れがある。また、平均厚みが厚いことで、後述の製造時において「機械的エネルギーを与える」ときに、上述のKAM値となる歪を与えることが容易となる。当該平均厚みは、400nm以上とすることがより好ましく、500nm以上とすることがさらに好ましい。また、3000nm以下とすることが好ましい。3000nmを超える場合は、細線印刷が難しくなる場合がある。また、当該アスペクト比は、1.5以上とすることがより好ましく、1.8以上とすることがさらに好ましい。また、当該アスペクト比は3.8以下とすることがより好ましく、3.6以下とすることがさらに好ましい。
【0038】
SEM-EBSD測定における銀粒子上面の主領域が(111)面又は(111)面に近い面である銀粒子は、銀の面心立方の結晶構造に由来する略多角平板や略多角柱の粒子形状を有することも好ましい。すなわち、銀粒子上面は、略多角平板における多角形を有する上面、または、略多角柱の多角形を有する上面であることが好ましい。さらに、角が取れた粒子形状であることも好ましく、略多角平板や略多角柱は、多角平板や多角柱と見なすための上面(底面)や側面の一部が観察されればよく、角が丸まっていてよい。
【0039】
そして、本発明に係る銀粉の比表面積は0.10m/g以上1.00m/g以下であることが好ましい。当該比表面積の下限値は0.15m/g以上とすることがより好ましく、0.20m/g以上とすることがさらに好ましい。また、当該比表面積の上限値は0.90m/g以下とすることがより好ましく、0.80m/g以下とすることがさらに好ましい。
【0040】
(混合銀粉の製造方法)
また、本発明に係る銀粉と、本発明に係る銀粉よりも比表面積が大きい微小銀粉とを混合した混合銀粉を得ることも好ましい。本発明の銀粉と微小銀粉とを混合することで、導電性ペーストとした際にペースト中の銀の充填率を上げることができ、その結果、電極配線の抵抗をさらに低抵抗化することができる。混合銀粉に占める本発明に係る銀粉の混合割合としては、本発明に係る銀粉が10wt%~90wt%となるように混合することが好ましい。本発明に係る銀粉を20wt%以上混合することも好ましく、30wt%以上混合することも好ましい。本発明に係る銀粉を80wt%以下混合することがより好ましく、70wt%以下混合することがさらに好ましい。本発明に係る銀粉よりも比表面積が大きい微小銀粉は、IPF値がゼロである銀粉とすることができ、面積最小となる外接長方形の長辺/短辺による平均アスペクト比が1.5未満であることが好ましい。また、本発明に係る銀粉よりも比表面積が大きい微小銀粉は、平均Heywood径が本発明に係る銀粒子の断面測定における平均厚みよりも小さいことがより好ましく、微小銀粉の平均Heywood径が500nm未満であることがさらに好ましい。微小銀粉の平均アスペクト比と、微小銀粉の平均Heywood径は、SEM像に対して画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(Mac-View、株式会社マウンテック社製)を用いてそれぞれ合計400個以上の銀粒子外形の面積最小となる外接長方形の長辺/短辺と、Heywood径の計測を行って平均値を求める。
【0041】
(混合銀粉)
本発明に係る混合銀粉は、銀粒子上面の主領域が(111)面又は(111)面に近い面である銀粒子を少なくとも含有し、前記銀粒子のKAM値が0.4以上1.0以下である混合銀粉である。IPF値がゼロである微小銀粉との混合割合がいくつであっても、本発明に係る銀粉が混合された混合銀粉であれば、IPFマップにおいて、本発明の銀粒子上面の主領域が(111)面又は(111)面に近い面である銀粒子が見つかる。混合銀粉の比表面積は0.20m/g以上1.50m/g以下であることが好ましく、0.30m/g以上1.20m/g以下であることがより好ましく、0.35m/g以上1.10m/g以下であることがさらに好ましい。細線印刷可能な導電性ペーストに適する範囲として、さらに好ましくは比表面積が0.40m/g以上0.80m/g以下であり、最も好ましくは比表面積が0.60m/g以上0.75m/g以下である。
【0042】
また、上記混合銀粉において、SEM-EBSD測定における銀粒子上面の主領域が(111)面又は(111)面に近い面である銀粒子の個数の全粒子個数に対する個数割合(IPF値)は、微小銀粉の単位重量あたりの粒子個数が多くなるため計測が難しいが、例えば、視野内に本発明の銀粒子を含んでいるIPFマップにおいて、0.1%以上であることが好ましく、1%以上であることがより好ましい。一方、当該銀粒子を全粒子の90%以下含有する混合銀粉であることが好ましく、80%以下含有することがより好ましく、70%以下含有することがさらに好ましい。当該銀粒子の割合が多すぎると、熱処理による電極形成の際に多結晶粒子によるネッキングの起点が少なくなるためである。
【0043】
(導電性ペースト)
また、本発明による導電性ペーストは、上述の混合銀粉と、樹脂成分と、溶剤とを含む。溶剤及びバインダー等は、使用態様に応じて適宜選定することができる。
【0044】
(銀粉の製造方法)
【0045】
本発明に係る銀粉の製造方法の説明にあたり、銀粒子上面の主領域が(111)面又は(111)面に近い面である銀粒子を全粒子の30%以上含有しており、KAM値が0.4未満である銀粉を高結晶性銀粉と呼称する。本発明に係る銀粉の製造方法では銀粒子上面の主領域が(111)面又は(111)面に近い面である銀粒子を全粒子の30%以上含有する高結晶性銀粉に対し、機械的エネルギーを与えることにより銀粒子のKAM値が0.4以上1.0以下となるまで歪付与することを特徴とする。高結晶性銀粉は銀粒子の断面測定における平均厚みが310nm以上に厚いことが好ましい。また、機械的エネルギーを与えて得られた銀粉中の銀粒子の断面測定における平均厚みが310nm以上であることが好ましく、アスペクト比の平均値は、1.2以上4.0未満であることが好ましい。高結晶性銀粉は、銀粒子上面の主領域が(111)面又は(111)面に近い面である銀粒子において、(111)面又は(111)面に近い面に対する垂直方向の厚みが、310nm以上に厚いことがより好ましい。
【0046】
以下では、本実施形態に係る銀粉の製造に適した製造方法の具体的態様を説明する。なお、以下に説明する銀粉の製造方法は、本実施形態に係る銀粉の製造を実現する一例であって、本実施形態に係る銀粉は、以下に説明する製造方法により製造された銀粉に限られない。
【0047】
まず、原料として、銀水溶液を用意することが好ましい。この銀水溶液は銀イオンを含有する水溶液であればよく、例えば硝酸銀水溶液を用いることができる。銀水溶液は他にも硫酸銀、シアン化銀、酢酸銀による銀水溶液であってもよい。
【0048】
この銀水溶液に対し、pH調整したのち、温度調整を行えばよい。pHは1.0以上5.0以下とすることが好ましく、1.5以上3.0以下とすることがより好ましい。例えば濃硝酸を用いて調整することができる。pH調整によって銀粒子サイズを調整することができる。銀水溶液の温度は10℃以上35℃以下が好ましく、17℃以上30℃以下とすることがより好ましい。この温度範囲であれば還元により銀粒子として回収することができる。また、この温度とすることで、銀粒子サイズを適正化できる。
【0049】
次に、銀水溶液中の銀イオンを錯体化して、銀キレート錯体溶液とするために錯化剤としてキレート化合物を混合することが好ましい。キレート化合物としては、例えばEDTA-4Na水溶液を挙げることができ、他にもエチレンジアミン、グリシン、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、アルケニルコハク酸、DMSAなどを用いることができる。また、キレート化合物を混合する際に錯体化を補助するための添加剤としてアミノ酸を添加することが好ましく、例えばL(+)-アルギニン水溶液を用いることができ、他にL-アラニン、L-アスパラギン、L-グルタミン、L-フェニルアラニン、L-グルタミン酸、L-グルタミン、L-アスパラギン酸、L-グリシン、L-トリプトファンなどを用いることができる。アミノ酸を添加することで銀粒子の厚みが増し、平均厚みが310nm以上の高結晶性銀粉とすることができる。
【0050】
そして、得られた銀キレート錯体溶液において、還元剤を加えることで高結晶性銀粉を生成、析出させればよい。このとき、高結晶性銀粉の析出の際に、分散性を向上させるために表面処理剤を同時に添加することも好ましい。還元剤としては公知の還元剤を用いることができるが、pHが酸性領域でも還元可能で、粒径、アスペクト比の制御が容易なことから、L-アスコルビン酸水溶液、L-アスコルビン酸ナトリウム水溶液、イソアスコルビン酸水溶液などを用いることが好ましい。また、表面処理剤としては、脂肪酸もしくはその塩を用いることができ、例えばステアリン酸エマルション、オレイン酸、ヒマシ硬化脂肪酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、カプリン酸、リシノール酸、リノール酸、リノレン酸などを用いることができる。
【0051】
以上の高結晶性銀粉の生成においては任意の方法及び原料を用いることができるが、特に、銀キレート錯体溶液に、アミノ酸を添加して調液した後、アスコルビン酸系還元剤を添加することにより、高結晶性銀粉が厚く成長し、分散が良いので機械処理しやすいため、好ましい。
【0052】
また、このように湿式反応で得られたスラリー(懸濁液)中の高結晶性銀粉は、濾過等により固液分離して、その後洗浄及び乾燥することで乾燥粉として回収することができる。
【0053】
スラリーの濾過にはヌッチェ等を用いてもよく、ろ過、水洗及び乾燥を順次実施してもよい。水洗においては、洗浄液の電気伝導率を測定し、電気伝導率が2.0mS/m以下となるまで水洗を繰り返し行うことが好ましく、1.0mS/m以下となるまで繰り返すことがより好ましい。
【0054】
洗浄後の高結晶性銀粉は、十分に脱水した後、乾燥させることが好ましい。乾燥には、強制循環式大気乾燥機、真空乾燥機、気流乾燥装置等の乾燥機を使用することができる。乾燥時の温度としては、100℃以下で実施することが好ましく、80℃以下で実施することがより好ましい。100℃を超えると銀粉中の銀粒子が凝集及び焼結してしまう場合があるため、好ましくない。乾燥時間としては、温度に合わせて任意の時間を設定することができるが、5時間以上とすることが好ましい。
【0055】
ここで、乾燥後の高結晶性銀粉には、機械的エネルギーを加えてKAM値が0.4以上1.0以下となるまで銀粉中の銀粒子を歪付与する。高結晶性銀粉は、平均厚みが310nm以上に厚いことが好ましい。
【0056】
本発明において、「機械的エネルギーを与える」とは、銀粉に対して物理的な力を加えることをいい、例えば、攪拌翼の回転によるせん断力、銀粒子同士の衝突力など主に機械的なエネルギーを与えることをいう。装置としては、高速回転する撹拌翼を有するサンプルミル等の電動ミルや気流式粉砕機を使用することが好ましい。また、本発明において「歪付与」とは、高結晶性銀粉中の単結晶粒子の結晶面を僅かに歪ませることをいう。結晶面を僅かに歪ませることで、面内の導電性を大きく損なうことなく活性にして、電極形成の熱処理時にネッキングを促進することができるため、電極配線の低抵抗化に有利である。また、「歪付与」に伴い、生成された高結晶性銀粉の結晶面に由来する鋭利な角が取り除かれていることも、印刷時に詰まりを生じさせる恐れがすくないため好ましい。なお、後述の比較例2のように銀粉に機械的エネルギーを与えても、凝集が解されるだけで銀粉に加わるエネルギーが少なければKAM値が0.4以上1.0以下とはならない。KAM値が0.4以上1.0以下となるまで歪を付与するには、十分な機械的エネルギーを加える必要がある。
【0057】
このようにして得られた銀粒子を用いた導電性ペーストは、細線印刷した際に、電極配線の低抵抗化を達成することができる。
【実施例0058】
以下、銀粉、導電性ペースト及び銀粉の製造方法の実施例を説明する。
【0059】
(実施例1)
銀を170g含有する硝酸銀水溶液3000gを準備し、67.5wt%の濃硝酸45.4gを加えpH調整したのち、25℃に温度調整した。この溶液を攪拌しながら4.3wt%のEDTA-4Na水溶液(キレストOD-50)を0.43gと5wt%L(+)-アルギニン水溶液10.7gを加えて銀錯体水溶液を得た。その後、この銀錯体水溶液に10wt%のL-アスコルビン酸水溶液を1500g加え、攪拌を止めて4分30秒静置して銀錯体水溶液を還元した。攪拌を再開し、市販のステアリン酸エマルション(中京油脂株式会社製のセロゾール920、水を82%含有)を2.03g加えて銀粒子を含むスラリーを得た。
【0060】
次に、このスラリーをろ過し、通水後の液の電気伝導度が0.5mS/m以下になるまで水洗し、73℃で10時間真空乾燥して、高結晶性銀粉を得た。
【0061】
歪付与のための処理としてサンプルミル(協立理工(株)製SK-10型)に50gずつ投入し、最大回転速度で60秒間の歪付与処理をすることで、実施例1に係る銀粒子の集合体としての銀粉を得た。
【0062】
そして、導電性ペーストを得るための混合銀粉としては、混合した際のSSAがおおよそ0.6m/g~0.75m/gになるように、実施例1に係る銀粉と微小銀粉(DOWAハイテック製AG-2-1C agent added)とを重量比で1:1で混合して調製した。なお、AG-2-1C agent addedのIPF値はゼロであり、体積基準のメジアン径(D50)は0.80μm、比表面積は1.00m/gである。AG-2-1C agent addedの銀粒子のSEM像に対して画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(Mac-View、株式会社マウンテック社製)を用いてそれぞれ合計400個以上の銀粒子外形の計測を行ったところ、平均アスペクト比が1.3、平均Heywood径が0.34μmの球状銀粉であった。
【0063】
(実施例2)
硝酸量を30.2gとした以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係る銀粉を得た。
【0064】
そして、導電性ペーストを得るための混合銀粉としては、混合した際のSSAがおおよそ0.6m/g~0.75m/gになるように、実施例2に係る銀粉とDOWAハイテック製AG-2-1C agent addedとを重量比で1:1で混合して調製した。
【0065】
(実施例3)
硝酸量を15.1gとした以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係る銀粉を得た。
【0066】
そして、導電性ペーストを得るための混合銀粉としては、混合した際のSSAがおおよそ0.6m/g~0.75m/gになるように、実施例3に係る銀粉とDOWAハイテック製AG-2-1C agent addedとを重量比で1:1で混合して調製した。
【0067】
(比較例1)
歪付与処理をしなかった以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係る銀粉を得た。比較例1に係る銀粉は、上記の高結晶性銀粉である。
【0068】
そして、導電性ペーストを得るための混合銀粉としては、混合した際のSSAがおおよそ0.6m/g~0.75m/gになるように、比較例1に係る銀粉とDOWAハイテック製AG-2-1C agent addedとを重量比で1:1で混合して調製した。
【0069】
(比較例2)
歪付与処理に用いる装置をコーヒーミル(メリタ製ECG62)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2に係る銀粉を得た。
【0070】
そして、導電性ペーストを得るための混合銀粉としては、混合した際のSSAがおおよそ0.6m/g~0.75m/gになるように、比較例2に係る銀粉とDOWAハイテック製AG-2-1C agent addedとを重量比で6:4で混合して調製した。
【0071】
(比較例3)
銀粉として、DOWAハイテック製FA-S-20を用意した。この銀粉は、略球状の銀粉に滑剤を混合した後、振動ミルを用いて扁平化処理を行ったものである。
【0072】
そして、導電性ペーストを得るための混合銀粉としては、比較例3の銀粉のSSAが他の銀粉(実施例1~3や比較例1、2)より大きいため、混合した際のSSAを他の銀粉の混合後のSSAに近づけるように、比較例3に係る銀粉とDOWAハイテック製AG-2-1C agent addedとを重量比で7:3で混合して調製した。
【0073】
上記実施例及び比較例に係る銀粉の製造条件等の概要を表1に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
(銀粉評価)
銀粉の評価は以下に説明するとおり行った。
【0076】
まず、銀粉の比表面積の測定は、株式会社マウンテック製のMacsorb HM-model 1210を用いて行った。比表面積の測定の際、測定装置内に60℃で10分間He-N混合ガス(窒素30%)を通流して脱気した後、BET1点法により測定した値を用いた。
【0077】
銀粉の粒度分布測定は、レーザー回折式粒度分布装置(マイクロトラック・ベル株式会社製のマイクロトラック粒度分布測定装置MT-3300EXII)を用いて行った。測定の直前に、銀粉0.3gをイソプロピルアルコール40mLに加え、出力45Wの超音波洗浄器により5分間分散させた。そして当該分散液中の銀粒子の粒度分布を測定した。メジアン径(累積50%粒子径、いわゆるD50)は、体積基準による値を採用した。また、以上の比表面積及び粒度分布の測定は混合銀粉についても同様に測定した。
【0078】
次に、銀粉中の銀粒子の断面観察を行った。まず、Specifix Resin 0.7gに対し、硬化剤としてSpecifix-20 Curring Agentを0.1g混合したものにそれぞれの銀粉を4g加えてスパチュラで軽く混合した。その後、減圧したデシケータ内で30分脱泡し、再度スパチュラで混合した。ペースト状になったものを型に入れて一晩室温で静置し、樹脂固めを行った。樹脂固めした銀粉をクロスセクションポリッシャーArBlade 5000(株式会社日立ハイテク製)で研磨することで断面出しを行ったのち、FE-SEM IT-800SHL(日本電子株式会社製)にてSEM観察像の撮影を行い、個々の粒子画像を面積最小となる長方形で囲った際の短辺を厚みとして算出した。
【0079】
次に、導電性粘着シートを敷いたステージ上に銀粒子が重ならないように配置して、EBSE-SEMを用いて、銀粉中の銀粒子のSEM観察およびIPFマップとKAMマップの作成を行った。図2~7に、実施例1~3及び比較例1~3のそれぞれに係る銀粉の銀粒子上面の主領域が(111)面又は(111)面に近い面である銀粒子の、15000倍で観察したときのSEM観察像と、銀粒子上面のEBSD測定によるIPFマップと、KAMマップとを併せて掲載している。SEM観察像には記号Aを、IPFマップには記号Bを、KAMマップには記号Cをそれぞれ付している。また、実施例1及び比較例3の粒子形状を示す2000倍のSEM観察像をそれぞれ図8及び図9にそれぞれ示す。
【0080】
また、上述のとおり、本発明に係る銀粉の面方位は、電子線後方散乱回折(Electron BackScatter Diffraction(EBSD))分析装置(株式会社TSLソリューションズ製 OIM Analysis6.2)を使用し、60μm×180μmの測定範囲において、ステップサイズを0.30μmとして測定した。SEM観察条件としては、加速電圧15kV、倍率1500倍、Tilt70°の条件の下で実施し、信頼性指数(CI値)が0.2以下である信頼性の低い測定点を除くことにより、銀粒子上面の方位分布(Inverse Pole Figure(IPF))マップを作成した。そしてIPFマップ上の全粒子(少なくとも15個以上)の銀粒子を評価し、銀粒子の銀粒子上面の、銀粒子上面の主領域が(111)面又は(111)面に近い面である銀粒子の割合(%)を評価しIPF値とした。なお、比較例3の銀粒子は、図7のIPFマップ(記号B)に示すような銀粒子上面のIPFマップにおいて様々な面方位を示す小さな領域が多数存在している銀粒子(多結晶粒子とする)が、倍率1500倍においても観察され、銀粒子上面の主領域が(111)面又は(111)面に近い面である銀粒子は一つも観察されなかったため、IPF値はゼロとした。
【0081】
そして、倍率1500倍でのIPFマップ上で観察される10個以上の「銀粒子上面の主領域が(111)面又は(111)面に近い面である銀粒子」に焦点をあて銀粒子1個が視野内に入るように倍率を上げてさらなる測定を行った。EBSD分析装置の条件を6μm×18μmの測定範囲に、ステップサイズを40nmとし、SEM観察条件としては、倍率15000倍とした以外は上記測定方法と同様にして、上記銀粒子の方位分布(Inverse Pole Figure(IPF))マップを作成した。ここで、10個以上の上記銀粒子に対して銀粒子上面部分のみを用いて歪分布(Kernel Average Misorientation(KAM))を取得してKAM値を評価し、10個以上の銀粒子上面のKAM値から平均のKAM値を算出した。比較例3においても、多結晶粒子に対して同様の測定方法によりIPFマップとKAMマップを取得し、平均のKAM値を算出した。以上の結果を下記表2に示す。
【0082】
(導電性ペースト評価)
導電性ペーストの各特性の評価は以下のとおり行った。
【0083】
まず、導電性ペーストは、実施例及び比較例で得られた混合銀粉93質量%、エポキシ樹脂(ADEKA製EP4901E)3.8質量%,(三菱ケミカル製 jER1009)1.0質量%、硬化剤(和光純薬製 三フッ化ホウ素モノエチルアミン錯体)0.2質量%、溶剤(BCA:ブチルカルビトールアセテート)2.3質量%を、プロペラレス自公転式撹拌脱泡装置(株式会社EME製のVMX-N360)を用いて1200rpmで30秒撹拌し混合した。その後、3本ロール(EXAKT社製の80S)を用いて、ロールギャップを100μm~20μmまで通過させて混錬し、導電性ペーストを得た。
【0084】
上記の手順で得られた導電性ペーストについて、スクリーン印刷機(マイクロテック社製MT-320T)を用いて、線幅が17μmで、長さが150mmのラインパターンを印刷して導電性ペーストの膜を形成した。得られた膜を、大気循環式乾燥機を用い、200℃で30分間加熱硬化し、導電膜を形成した。デジタルマルチメーター(ADVANTEST社製R6551)を用いて、各導電膜のライン抵抗値を測定した。
【0085】
以上の銀粉、混合銀粉及びその導電性ペーストの評価結果について、表2に示す。
【0086】
【表2】
【0087】
本発明により得られた銀粉を用いた導電性ペーストは、比較例に比べてライン抵抗が低減することが確認できた。
【0088】
本実施形態に係る銀粉は、導電性ペースト用の導電性フィラーとしての用途に適したものである。本実施形態に係る銀粉を用いた導電性ペーストは、基板上への導電パターンの形成や、電極の形成に用いることができる。本実施形態に係る銀粉を用いた導電性ペーストは、例えば、スクリーン印刷、オフセット印刷、フォトリソグラフィ法などにより基板上に印刷することで、導電パターンや電極などの導電膜(以下、単に導電膜と記載する場合がある)を形成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明によれば、線印刷した際に、電極配線の低抵抗化を達せられる銀粉及び混合粉、さらにそれを用いた導電性ペーストを得ることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9