(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165595
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】成形体
(51)【国際特許分類】
B32B 21/00 20060101AFI20241121BHJP
B32B 27/04 20060101ALI20241121BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20241121BHJP
B32B 27/42 20060101ALI20241121BHJP
B27M 3/18 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
B32B21/00
B32B27/04 Z
B32B27/40
B32B27/42 101
B32B27/42
B27M3/18 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081913
(22)【出願日】2023-05-17
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度及び令和2年度、戦略的基盤技術高度化支援事業「3次元立体・複雑形状と傾斜機能を具備する木質複合部材の開発とイス座面への適用」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】391014114
【氏名又は名称】株式会社SANKEI
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100108947
【弁理士】
【氏名又は名称】涌井 謙一
(74)【代理人】
【識別番号】100117086
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典弘
(74)【代理人】
【識別番号】100124383
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 一永
(72)【発明者】
【氏名】安田 府佐雄
(72)【発明者】
【氏名】関 雅子
(72)【発明者】
【氏名】三木 恒久
(72)【発明者】
【氏名】阿部 充
【テーマコード(参考)】
2B250
4F100
【Fターム(参考)】
2B250AA13
2B250DA01
2B250EA02
2B250FA31
2B250FA43
2B250FA47
2B250GA03
2B250HA01
4F100AK33
4F100AK33C
4F100AK36
4F100AK36A
4F100AK36B
4F100AK51
4F100AK51A
4F100AK51D
4F100AP00
4F100AP00A
4F100AP00B
4F100AP00C
4F100AP00D
4F100EH17
4F100EJ17
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4F100EJ50
4F100EJ82
4F100EJ82A
4F100EJ82B
4F100EJ82C
4F100EJ82D
4F100GB81
4F100JK01
4F100JK12
(57)【要約】
【課題】樹脂含浸単板を異なる種類の樹脂を含浸させ形成して積層することにより、含浸樹脂の特徴を生かしたこれまでにない成形体を形成できる。
【解決手段】第一樹脂含浸単板を木質素材にメラミン系樹脂およびウレタン系樹脂を含浸させて形成し、第二樹脂含浸単板を木質素材にメラミン系樹脂を含浸させて形成し、第三樹脂含浸単板を木質素材にフェノール系樹脂を含浸させて形成し、第四樹脂含浸単板は、木質素材にウレタン系樹脂を含浸させて形成した。そして、第一樹脂含浸単板と第二樹脂含浸単板をその表面同士を密着して重ねて、さらにその重ねた積層体のいずれかの側に第二樹脂含浸単板、第三樹脂含浸単板または第四樹脂含浸単板のいずれかを積層加圧して、三層一体に構成して成形体とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一樹脂含浸単板から第四樹脂含浸単板のうち複数を選択してその表面同士が直接に密着して重ねられ一体に構成されたこと特徴とする成形体。
(1)前記第一樹脂含浸単板は、木質素材にメラミン系樹脂およびウレタン系樹脂が含浸された樹脂含浸単板。
(2)前記第二樹脂含浸単板は、木質素材にメラミン系樹脂が含浸された樹脂含浸単板。
(3)前記第三樹脂含浸単板は、木質素材にフェノール系樹脂が含浸された樹脂含浸単板。
(4)前記第四樹脂含浸単板は、木質素材にウレタン系樹脂が含浸された樹脂含浸単板。
【請求項2】
第一樹脂含浸単板と第二樹脂含浸単板とがその表面同士を密着して重ねられ、さらにその重ねた積層体のいずれかの側に第二樹脂含浸単板、第三樹脂含浸単板または第四樹脂含浸単板のいずれかが積層加圧されて、三層一体に構成されたことを特徴とする成形体。
(1)第一樹脂含浸単板は、木質素材にメラミン系樹脂およびウレタン系樹脂が含浸された樹脂含浸単板。
(2)前記第二樹脂含浸単板は、木質素材にメラミン系樹脂が含浸された樹脂含浸単板。
(3)前記第三樹脂含浸単板は、木質素材にフェノール系樹脂が含浸された樹脂含浸単板。
(4)前記第四樹脂含浸単板は、木質素材にウレタン系樹脂が含浸された樹脂含浸単板。
【請求項3】
第一樹脂含浸単板と第二樹脂含浸単板とが表面を直接に密着して重ねられ、さらに前記第二樹脂含浸単板の他面に第三樹脂含浸単板の表面が密着して積層加圧され、三層一体に構成された請求項2に記載の成形体。
【請求項4】
第一樹脂含浸単板と第二樹脂含浸単板とが表面を直接に密着して重ねられ、さらに前記第二樹脂含浸単板の他面に第三樹脂含浸単板の表面が密着して積層され、曲面や凹凸部を備えた成形体が三層一体に構成された請求項3に記載の成形体。
【請求項5】
第一樹脂含浸単板と第二樹脂含浸単板とが表面を直接に密着して重ねられ、さらに以下のAまたはBが三層に積層加圧されて、椅子用の座面または背面の形状に応じて、曲面や凹凸部を有する成形体が三層一体に構成されたこと特徴とした請求項2に記載の成形体。
(A)前記第二樹脂含浸単板の他面に第三樹脂含浸単板の表面が密着され、前記第一樹脂含浸単板が使用者の接触面に位置するように積層された。
(B)前記第一樹脂含浸単板の他面に第四樹脂含浸単板の表面が密着され、前記第四樹脂含浸単板が使用者の接触面に位置するように積層された。
【請求項6】
使用者の臀部または背中が接触する側の表面を加熱処理した成形体であって、椅子用の座面または背面の形状に応じて、曲面や凹凸部を備えた成形体が三層一体に構成された請求項5に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、単板に樹脂を含浸させてなる樹脂含浸単板を積層して一体とする成形体であって、各樹脂含浸単板には異なる樹脂を含浸させてあることを特徴とする成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂を含浸させて木材自体の特性を生かしつつ様々な機能を加えた提案が様々なされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、合板の曲げ強度、弾性係数を大幅に向上圧せるために、複数の木質単板を、接着剤を介して貼り合わせて構成する合板であって、建築用の床材、壁材、屋根材などに使用されるものが記載されている。接着剤としては、繊維強化材に接着組成物を含浸させて構成している。この中で樹脂組成物として、フェノール樹脂組成物、メラミン樹脂組成物、ウレタン樹脂組成物およびユリア樹脂組成物の単体あるいはこれらの共縮合性樹脂組成物から構成される旨の記載があるが、選択された1種類の樹脂組成物のみで接着剤を構成する実施例が記載されている。また、この場合、木質単板には樹脂を含浸させていない。
また、特許文献2には、楽器用に希少な天然素材を割れにくく外見デザインの自由度を高め、製造容易とするために、木質単体間に接着剤を用いることなく、木質単板に樹脂を塗布又は含浸させして積層して熱圧着して楽器用の積層体を構成する提案がされている。ここで用いられる樹脂はメラミン樹脂であるが、木材の接着剤に用いられる樹脂であれば、ユリア樹脂、フェノール樹脂などでも可能である旨が記載されている(引用文献2の段落番号0015)旨の記載があるが、選択された1種類の樹脂組成物のみで接着剤を構成する実施例が記載されている。この場合、積層体はスライスして積層単板としてメラミン樹脂に含浸させて熱盤プレスにて楽器用木質材料を得る旨の記載がされている(特許文献2の段落番号0026)。しかし、熱盤プレスで凹凸形状とする旨の記載はない。
また、引用文献3では、建物の正面や壁用に使用され、多数の隆起部や窪みを有するシートであって、接着剤結合や切削加工による材料の除去によることなくプレス加工により、容易に製造することを目的にしている。このシートは、8~12mm程度の厚さで平らなコアシートの表面に部品を配置して構成していた。ここで部品は木材繊維材料からなる隆起部を形成して湾曲した表面を形成している。ここで、部品(隆起部)はコアシートに加圧下で熱結合または熱成形され(引用文献3の段落番号0035)、また、部品は湾曲した表面に、メラミン樹脂処理された装飾紙層を形成する場合も記載されている(引用文献3の段落番号0038)。また、シートの片側または両側に形成する装飾層は、架橋されたアクリル、ウレタン、エポキシ、またはメラミン樹脂などからなる構成される場合もあるとしている(引用文献3の段落番号0038)。また、コアは熱硬化性フェノール-ホルムアルデヒド樹脂を含浸せたクラフト紙、木材繊維、セルロース繊維などを使用する旨が記載されている(引用文献3の段落番号0020、0026)。
また、特許文献4では、比較的低い圧力で高強度の強化木材を得ることを目的として、フェノール樹脂の含浸により木材を軟化させる技術と、木材の水蒸気処理とを組み合わせて強化木材を形成する強化木材の製造方法が提案されている。より具体的には、水蒸気処理をした単板に低分子量のフェノール樹脂を0.5気圧の減圧下で、3日間含浸させ、その後風乾させて単板を形成し、単板の木目を揃えて4枚積層して、150℃の熱板を用いて圧縮して試験板を得る旨が記載されている。
また、特許文献5では、積層材から椅子などを構成する場合、芯材と木質系表面材との間に炭素繊維シートに炭素繊維強化樹脂を含浸させてなる強化層や浸透防止層を設けて積層していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7-214506号公報
【特許文献2】特開2004-58416号公報
【特許文献3】特開2003-220652号公報
【特許文献4】特開2006-240032号公報
【特許文献5】特開2016-199003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アクリル、ウレタン、エポキシ、またはメラミン樹脂などの樹脂は、木材の接着として利用されてきた樹脂であり(特許文献1)、これらの樹脂を木材に含浸させてその木材に接着剤を使うことなく積層させて合板を形成するものである(特許文献2~4)。しかし、各文献では異なる含浸樹脂を適用できる旨の記載はあるものの、積層する各木質材料に含浸させる樹脂材料は1種類であり、実際に異なる樹脂材料を木質材料に含浸させ、その木質材料を含浸させる構成を検討した例は無い。
これは、一般的に異なる種類の化合物を接触させて積層成形したときに、その界面においては単一のものよりも化学的親和性が低いために、積層界面の接着強度が著しく低下し、積層境界面での剥離等の不具合が多く生じ、困難さを要していたと考えられる。換言すれば、従来の発明では、そもそも異なる種類の化合物による積層材層を選択せずに、かつ積層界面での接着強度などの不具合を接着剤そのもの工夫や接着剤層構造を工夫することにより成形体の様々な性質を実現していたと言える。接着剤層の工夫については、特に、特許文献1、2、5などに記載されている。
また、特許文献3では、屈曲形状の成形体を形成する旨の記載はあるが、芯となるコアシートを屈曲させないで、コアシートに部品による隆起物を付けて外見上、屈曲した形状に形成するものである。
【0006】
そこで、この発明では、木質素材(木材)に樹脂を含浸させて形成した樹脂含浸単板を形成し、その複数を接着剤使用することなく積層して形成する成形体を構成するにあたり、各樹脂含浸単板に異なる樹脂を含浸させ、成形体で樹脂含浸単板の積層面がはがれることなく所望の強度を発揮させる樹脂含浸単板の組み合わせを実現することを目的とする。これにより、成形体を折り曲げた形状に成形する場合など、各樹脂樹脂含浸単板の特性(強度、柔らかさなど)を充分に発揮された成形体の製造が期待できる。
さらに、この成形体を家具など様々な製品に適用するに際して、とりわけ椅子などの人の体が接触する樹脂含浸単板の表面で、木質素材の視覚的・触覚的な特徴を発揮できる樹脂含浸単板の構成を実現することも目的とする。とりわけ、椅子の座面に適用する場合、3次元賦形と同時に人が接触する表面には、木質感(柔らかさや木目)が高い材料を選択する必要があり、かつ成形体の下面側には脚を取り付けるに十分な強度や変肉も要するなど成形体に異なる性質が求められていた。このような樹脂含浸単板を積層した成形体を椅子の座面などに活用例した例は見当たらない。
さらにこの発明は、この成形体を椅子の座面や背板面に適用することにより、強度を担保(積層材なので層間強度が重要)しつつ、座り心地が良く、形状の自由度(局面・凹凸などが自由に成形できる)、表面の適度な柔らかさ(木質感)を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、異なる性質を備えた複数の樹脂含浸単板を用意し、積層した際に接着界面での親和性などを考慮して、これらの樹脂含浸単板の種々の組み合わせを検討した結果、木質素材にメラミン系樹脂およびウレタン系樹脂を含浸させて形成した第一樹脂含浸単板、木質素材にメラミン系樹脂を含浸させて形成した第二樹脂含浸単板、板状基材にフェノール系樹脂を含浸させて形成した第三樹脂含浸単板から、2つまたは3つを選択して表面同士を直接に積層して、上記課題を解決する新規構造の成形体を構成する。
【0008】
すなわちこの第1の発明は、第一樹脂含浸単板から第四樹脂含浸単板のうち複数を選択してその表面同士が直接に密着して重ねられ一体に構成されたこと特徴とする成形体である。
(1)前記第一樹脂含浸単板は、木質素材にメラミン系樹脂およびウレタン系樹脂が含浸された樹脂含浸単板。
(2)前記第二樹脂含浸単板は、木質素材にメラミン系樹脂が含浸された樹脂含浸単板。
(3)前記第三樹脂含浸単板は、木質素材にフェノール系樹脂が含浸された樹脂含浸単板。
(4)前記第四樹脂含浸単板は、木質素材にウレタン系樹脂が含浸された樹脂含浸単板。
【0009】
また、第2の発明は、第一樹脂含浸単板と第二樹脂含浸単板とがその表面同士を密着して重ねられ、さらにその重ねた積層体のいずれかの側に第二樹脂含浸単板、第三樹脂含浸単板または第四樹脂含浸単板のいずれかが積層加圧されて、三層一体に構成されたことを特徴とする成形体である。
(1)第一樹脂含浸単板は、木質素材にメラミン系樹脂およびウレタン系樹脂が含浸された樹脂含浸単板。
(2)前記第二樹脂含浸単板は、木質素材にメラミン系樹脂が含浸された樹脂含浸単板。
(3)前記第三樹脂含浸単板は、木質素材にフェノール系樹脂が含浸された樹脂含浸単板。
(4)前記第四樹脂含浸単板は、木質素材にウレタン系樹脂が含浸された樹脂含浸単板。
【0010】
前記第2の発明において、第一樹脂含浸単板と第二樹脂含浸単板とが表面を直接に密着して重ねられ、さらに前記第二樹脂含浸単板の他面に第三樹脂含浸単板の表面が密着して積層加圧され、三層一体に構成された成形体である。
【0011】
さらに、第一樹脂含浸単板と第二樹脂含浸単板とが表面を直接に密着して重ねられ、さらに前記第二樹脂含浸単板の他面に第三樹脂含浸単板の表面が密着して積層され、曲面や凹凸部を備えた成形体が三層一体に構成された成形体である。
【0012】
また、前記第2の発明を椅子の座面などに適用した発明は、第一樹脂含浸単板と第二樹脂含浸単板とが表面を直接に密着して重ねられ、さらに以下のAまたはBが三層に積層加圧されて、椅子用の座面または背面の形状に応じて、曲面や凹凸部を有する成形体が三層一体に構成されたこと特徴とした成形体である。
(A)前記第二樹脂含浸単板の他面に第三樹脂含浸単板の表面が密着され、前記第一樹脂含浸単板が使用者の接触面に位置するように積層された。
(B)前記第一樹脂含浸単板の他面に第四樹脂含浸単板の表面が密着され、前記第四樹脂含浸単板が使用者の接触面に位置するように積層された。
【0013】
さらに、前記において、使用者の臀部または背中が接触する側の表面を加熱処理した成形体であって、椅子用の座面または背面の形状に応じて、曲面や凹凸部を備えた成形体が三層一体に構成された請求項5に記載の成形体である。
【0014】
前記における「三層」は、三層に限らず、さらに他の樹脂含浸単板などを積層して四層、五層とした成形体も含む。
【発明の効果】
【0015】
この発明は、木質素材にメラミン系樹脂およびウレタン系樹脂を含浸させて形成した第一樹脂含浸単板、木質素材にメラミン系樹脂を含浸させて形成した第二樹脂含浸単板、板状基材にフェノール系樹脂を含浸させて形成した第三樹脂含浸単板から、2つまたは3つを選択して表面同士を直接に積層して、新規構造の成形体を構成した。これにより、接着剤を使用することなく、同一の各樹脂含浸単板を積層した場合と同等の層間の強度を確保した一体の成形体を構成できる。
さらに、この発明は使用目的に応じて、第一樹脂含浸単板、第二樹脂含浸単板、第三樹脂含浸単板を選択でき、各樹脂含浸単板の性質の違いを利用して、さらに必要に応じて表面加工を施すことにより、成形体の応用範囲を拡大できる。
特に、第一樹脂含浸単板と第二樹脂含浸単板とをその表面同士を密着して重ねて、これを核として積層体を構成すれば、接着界面の親和性などがさらに高まり、屈曲した成形などの場合であっても層間の強度や成形体に要求される様々な特性を確保できる。
とりわけこの成形体を椅子の座面などに適用することにより、強度を担保しつつ、座り心地を高め、かつ人の腰の形状に合わせた曲面を形成できる効果がある。さらに最上面の樹脂含浸単板の表面を、再加熱処理をすることにより適度な柔らかさを実現して質感を高めることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】2層積層木質成形体の見掛けの層間せん断強さの実験結果を表すグラフ。
【
図2】3層積層木質成形体の見掛けの層間せん断強さの実験結果を表すグラフ。
【
図3】実施例7および実施例8で、3層積層木質成形体表面のブリネル硬さの実験結果を表すグラフ。
【
図4】実施例9で「積層木質成形体UM-M-P」の3次元形状を表す外観写真。
【
図5】実施例10で「積層木質成形体UM-P-M」の3次元形状を表す外観写真。
【
図6】実施例11で「積層木質成形体U-UM-M」の意匠面を表す外観写真。
【
図7】実施例12で、再加熱した「積層木質成形体U-UM-M」の意匠面を表す外観写真。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は上記「課題を解決するための手段」の欄に記載した内容のとおりであるが、具体的な実施するための形態の一例を示す。
【0018】
本発明の含浸単板に使用する単板は、通常は木質素材を使用する。木質素材としては、木材(スギ、ヒノキ、マツ等の針葉樹;ポプラ、ブナ、ナラ、カバ等の広葉樹)、竹、麻類(ジュート、ケナフ、亜麻、ヘンプ、ラミー、サイザル等)、草本類等の、細胞壁を有する植物体に由来するものであって、植物体そのもの若しくはその廃材又はこれらの化学処理物のいずれでもよい。また、本発明の単板の形状及び厚さは、特に限定されないが、厚みは0.1mm~10mm、より好ましくは、0.5mm~5mm、さらに好ましくは、1mm~5mmである。また、単板は挽板、突板どちらでもよく、上記のような厚さの板状になっていればよく、その加工形態は特に限定されない。
【0019】
本発明で使用するメラミン系樹脂、ウレタン系樹脂、フェノール系樹脂は、特に限定されないが、好ましくは樹脂又はその前駆体である。前駆体は、低分子化合物及び高分子化合物のいずれでもよい。それぞれの樹脂の重量平均分子量は特に限定されないが、好ましくは100~200000、より好ましくは、100~20000である。木質素材の細胞壁内に浸透可能な分子量メラミン系樹脂、フェノール系樹脂を用いる場合、硬化剤を併用することができる。
【0020】
上記各樹脂は、更に、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、充填剤、抗菌剤、防腐剤、帯電防止剤等を含有することができる。
【0021】
本発明の樹脂含浸単板を製造する方法は、特に限定されないが、樹脂を含浸させる工程(以下、「含浸工程」という)を含む方法とすることができる。以下、この含浸工程を備える本発明の製造方法について、説明する。
【0022】
本発明の樹脂含浸単板を製造方法では、例えば、上記含浸工程では、樹脂を木質素材に含浸させる限りにおいて、(1)樹脂のみ、(2)樹脂と、該樹脂を溶解する媒体とを含む液、(3)樹脂と、該樹脂を溶解せず分散させる媒体とを含む液のいずれかを用いることができる。これらのうち、(2)及び(3)の液を用いることが好ましい。尚、(2)及び(3)の樹脂含有液の媒体は、細胞壁への浸透性の面から水を含むことが好ましいが、水に樹脂が溶解しない場合は、樹脂を溶解する媒体を、適宜、選択することができる。
【0023】
上記含浸工程では、樹脂含浸単板を送風乾燥、減圧乾燥、高温乾燥等により脱水して、例えば、含水率が10質量%以下とし、その後、例えば、樹脂含有液に浸漬し、必要により減圧条件、加圧条件、冷却・加熱条件等とすることにより、樹脂含浸単板内部に液注入を行って、細胞壁内に樹脂含有液を浸透させ、その後、樹脂含有液の媒体を除去することにより、細胞壁内に樹脂を含む樹脂含浸単板を得ることができる。媒体を除去する方法は、送風乾燥、減圧乾燥、高温乾燥等が選択される。作製した樹脂含浸単板には、水又は用いた媒体が含まれ(残存し)ていてもよい。
【0024】
本発明の成形体は、第一樹脂含浸単板から第四樹脂含浸単板のうち複数を選択してその表面同士が直接に密着して重ねられ一体に構成されたものであるが、その樹脂含浸単板の選択枚数および積層枚数は特に限定されない。また、成形体に同じ種類の樹脂含浸単板を含めることもでき、例えば3層とした場合で、第一樹脂含浸単板の両面にそれぞれ第二樹脂含浸単板を積層して成形体とすることともできる。
また、一つの成形体で部分的に積層枚数を増減させてもよい。例えば、第一樹脂含浸単板と第二樹脂含浸単板を積層した成形体で、その一部分にさらに第三樹脂含浸単板を積層させたような成形体とすることもできる。また、逆に、例えば、第一樹脂含浸単板と第二樹脂含浸単板を積層させた成形体で、部分的に第二樹脂含浸単板が存在しない第一樹脂含浸単板のみの部分が存在する成形体とすることもでき、さらに、この第一樹脂含浸単板のみの部分で、その部分に第三樹脂含浸単板などの他の樹脂含浸単板を積層させたような成形体とすることもできる。
【0025】
第一樹脂含浸単板から第四樹脂含浸単板の同じ種類の樹脂含浸単板を積層する枚数は、特に限定されないが、2~10枚、より好ましくは、2~5枚、さらに好ましくは1~3枚で樹脂含浸単板の種類によって選択枚数を変化させても良いし、成形体の厚みを変化させるために部分的に枚数を増減させてもよい。
【0026】
本発明の樹脂含浸単板の積層する順番は、特に限定されないが、成形体の表面(意匠面、座面であれば人が接触する面)に木質感の高いウレタン系樹脂の含浸単板を設置することが好ましい。また、成形体の裏面にリブや補強部等の局面や凹凸を設ける場合、高い流動性が要求されるため、フェノール系樹脂含浸単板を配置することが望ましい。また、高い強度特性が要求される場合や、裏面に金具を取り付ける場合は、裏面にメラミン系または/およびフェノール系樹脂の含浸単板を使用することが望ましい。
【0027】
本発明の樹脂含浸単板を積層した成形体の作製は、プレスにより熱圧することで行われる。あらかじめ加熱しておいた金型内に、積層した樹脂含浸単板を配置し、積層方向に加圧することで単板の層間を圧着させる。プレス温度は、特に限定されないが、40~220℃、好ましくは60~200℃、より好ましくは120~180℃である。木材の熱分解を抑制するために、200℃未満とすることが好ましい。プレス圧力は、成形体の形状および所望の表面性状に応じて選択することができる。例えば、成形体の形状が複雑ではない場合(変形量が大きくない場合)、成形体に負荷される面圧は1~100MPa、好ましくは、1~50MPaが選択される。成形体の表面に素材の木目が要求される場合は、木材の繊維破断を抑制するために50MPa以下(望ましくは20MPa以下)の低圧力でプレスを行うことが適切である。一方で、高い圧力でプレスを行うことで、木材に剪断力を作用させるとともに細胞間すべりによる塑性流動を生じさせて、金型内で所定の自由空間に細胞を移動させ、該自由空間を満たし、賦形することにより、樹脂や金属を用いて得られたと同様の、所期の形状、サイズ及び表面性を有する成形体を得ることができる。この場合、好ましい圧力は1~500MPa、より好ましくは5~200MPaである。このように、成形体を製造する場合には、成形温度や加圧時の圧力を、適宜、設定することができるが、その他、原料含水率、成形時間等を設定し、成形体の性状等を制御することもできる。
【0028】
本発明における成形体の製造に使用する金型は特に限定されないが、一般的な金属および樹脂の成形用途に使用される金型が含まれる。成形体の表面を形成する金型表面は、平面であっても曲面や凹凸部などの形状を含んでいてもよい。
【0029】
本発明において、成形体表面に熱可塑性のウレタン系樹脂を配置した成形体の場合、成形体を再加熱することで、木質成形体表面の空隙を増大させ、さらに柔らかい木質素材の質感が得られる。再加熱の方法や条件(温度・圧力等)は、特に限定されないが、ウレタン系樹脂の軟化温度以上で行うことが好ましい。また、成形体表面に金型(平面・局面を問わない)を接触させた状態で再加熱を行うことで、その金型の表面形状に合わせた成形体表面を形成することができる。
【実施例0030】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明する。但し、これらの実施例は、本発明の一部の実施形態を示すものに過ぎないため、本発明をこれらの実施例に限定して解釈するべきではない。
【0031】
1.使用した木質素材A
【0032】
ヒノキの厚さ約4mmのかつら剥き単板から、長さがそれぞれ約200mm(繊維方向:L)、約300mm(繊維直交方向:T)の板状の木材試料を複数切り出し、送風定温乾燥器内で、105℃で4時間以上乾燥させたものを用いた。
【0033】
2.使用した含浸樹脂
【0034】
(1)ブロックドイソシアネート化合物(MOI) 昭和電工社製2-[0-(1’-メチルプロピリデンアミノ)カルボキシアミノ]エチルメタクリラート「カレンズ MOI-BM」(商品名)を用いた。
この化合物は、約120℃以上に加熱することにより脱ブロック、即ち、メチルエチルケトンオキシム基が解離する化合物である。
【0035】
(2)ポリエチレングリコール1540(PEG1540)
富士フイルム和光純薬社製ポリエチレングリコール「ポリエチレングリコール1,540」(商品名)を用いた。分子量は約1500である。
【0036】
(3)メラミン樹脂
DIC社製メラミン/ホルムアルデヒド系樹脂「アミディアM-3(60)」(商品名)を用いた。これは水溶性樹脂である。
【0037】
(4)フェノール樹脂
アイカ工業社製フェノール/ホルムアルデヒド系樹脂「PX-341」(商品名)を用いた。これは水溶性樹脂である。
【0038】
3.樹脂含浸木材試料の作製
【0039】
(1)ポリウレタン前駆体含有木質材料
予め、60℃で融解させたポリエチレングリコールを水に溶解させて得られたポリエチレングリコール水溶液と、エタノールに溶解させて得られたブロックドイソシアネート化合物のエタノール溶液を混合し、
ポリエチレングリコール1540(PEG1540):ブロックドイソシアネート化合物(MOI)=1:1(質量比)
で固形分濃度20wt%の35%エタノール水溶液を含浸液(以下、「含浸液L1」という)とした。
次に、木質素材Aを、約20℃の「含浸液L1」に浸漬し、その状態で、室温(約20℃)で減圧(0.01MPa、1時間)し、その後、加圧(0.8MPa、約18時間)した。そして、含浸液L1から、含浸液L1が含浸された木質素材を取り出し、網棚に載置し、室温(約20℃)で2日間風乾し、その後、35℃の送風乾燥器内で約3日間、更に、35℃の減圧乾燥器内で2日間以上乾燥させ、脱溶物であるポリウレタン前駆体含有木質材料を得た。
得られたポリウレタン前駆体含有木質材料(以下、「含浸木材U」という)の、「含浸液L1」に接触させる前の木質素材Aに対する重量増加率を算出したところ、42%であった。
【0040】
(2)メラミン添加ポリウレタン前駆体含有木質材料
予め、60℃で融解させたポリエチレングリコールを水に溶解させてポリエチレングリコール水溶液を調製し、このポリエチレングリコール水溶液を室温に冷却した後、メラミン樹脂を添加して混合液とし、この混合液と、ブロックドイソシアネート化合物をエタノールに溶解させて得られたエタノール溶液とを混合し、
ポリエチレングリコール1540(PEG1540):ブロックドイソシアネート化合物(MOI):メラミン樹脂=1:1:1(質量比)、
固形分濃度20%の35%エタノール水溶液を含浸液(以下、「含浸液L2」とした。
次に、木質素材Aを、約20℃の含浸液L2に浸漬し、ポリウレタン前駆体含有木質材料と同様の操作を行って、脱溶物であるメラミン添加ポリウレタン前駆体含有木質材料を得た。
得られたメラミン添加ポリウレタン前駆体含有木質材料(以下、「含浸木材UM」という)の含浸液L2に接触させる前の木質素材Aに対する重量増加率を測定および算出したところ、43%であった。
【0041】
(3)メラミン樹脂含有木質材料
含浸液L1に代えて、DIC社製メラミン/ホルムアルデヒド系樹脂「アミディア M-3」(商品名)を用いてメラミン/ホルムアルデヒド系樹脂の固形分濃度を20%としてメラミン樹脂水溶液(以下、「含浸液L3」という)を用いた以外は、ポリウレタン前駆体含有木質材料と同様の操作を行って、メラミン樹脂含有木質材料を得た。
得られたメラミン樹脂含有木質材料(以下、「含浸木材M」という)の、含浸液L3に接触させる前の木質素材Aに対する重量増加率を測定および算出したところ、42%であった。
【0042】
(4)フェノール樹脂含有木質材料
含浸液L1に代えて、アイカ工業社製フェノール/ホルムアルデヒド系樹脂「PX-341」(商品名)を用いてフェノール/ホルムアルデヒド系樹脂の固形分濃度を20%としてフェノール樹脂水溶液(以下、「含浸液L4」という)を用いた以外は、ポリウレタン前駆体含有木質材料と同様の操作を行って、フェノール樹脂含有木質材料を得た。
得られたフェノール樹脂含有木質材料(以下、「含浸木材P」という)の、含浸液L4に接触させる前の木質素材Aに対する重量増加率を測定および算出したところ、53%であった。
【0043】
4.2層積層木質成形体の作製と評価
【0044】
(1)実施例1
それぞれ49mm(L)×50mm(T)に切断した「含浸木材M」「含浸木材U」を1枚ずつ(合計2枚)を、繊維方向を同一方向に揃えて直接に積層して、温度170℃に設定したパンチ面積52mm×50mmの平板を有する密閉金型内に設置し、荷重2.5ton(約10MPa)でプレス成形させ、5分間圧力を保持した後、密閉金型を50℃以下に冷却してから、厚さ3.0mmの「積層木質成形体M-U」を作製した。当然、「含浸木材M」「含浸木材U」の間に接着剤などを介在させていない(各実施例で同様)。
「積層木質成形体M-U」から、繊維方向に幅11mm、長さ20mmの短冊状試験片を6本切り出し、JIS K7078(炭素繊維強化プラスチックの層間せん断試験方法)に準じて、見掛けの層間せん断強さ評価した結果を
図1に示す。
【0045】
(2)実施例2
それぞれ49mm(L)×50mm(T)に切断した「含浸木材P」「含浸木材U」を1枚ずつ使用した以外は、実施例1と同様の操作を行って、厚さ2.5mmの「積層木質成形体P-U」を作製した。
「積層木質成形体P-U」から、実施例1と同様の操作を行って、見掛けの層間せん断強さ評価した結果を
図1に示す。
【0046】
(3)実施例3
それぞれ49mm(L)×50mm(T)に切断した含浸木材M、含浸木材UMを1枚ずつ使用した以外は、実施例1と同様の操作を行って厚さ3.2mmの「積層木質成形体M-UM」を作製した。
「積層木質成形体M-UM」から、実施例1と同様の操作を行って、見掛けの層間せん断強さ評価した結果を
図1に示す。
【0047】
(4)実施例4
それぞれ49mm(L)×50mm(T)に切断した「含浸木材P」「含浸木材UM」を1枚ずつ使用した以外は、実施例1と同様の操作を行って厚さ2.7mmの「積層木質成形体P-UM」を作製した。
「積層木質成形体M-UM」から、実施例1と同様の操作を行って、見掛けの層間せん断強さ評価した結果を
図1に示す。
【0048】
(5)比較例1
それぞれ49mm(L)×50mm(T)に切断した「含浸木材U」を2枚使用した以外は、実施例1と同様の操作を行って厚さ2.8mmの「積層木質成形体U-U」を作製した。
「積層木質成形体U-U」から、実施例1と同様の操作を行って、見掛けの層間せん断強さ評価した結果を
図1に示す。
【0049】
(6)比較例2
それぞれ49mm(L)×50mm(T)に切断した「含浸木材UM」を2枚使用した以外は、実施例1と同様の操作を行って厚さ2.7mmの「積層木質成形体UM-UM」を作製した。「積層木質成形体UM-UM」から、実施例1と同様の操作を行って、見掛けの層間せん断強さ評価した結果を
図1に示す。
【0050】
(7)比較例3
それぞれ49mm(L)×50mm(T)に切断した含浸木材Mを2枚使用した以外は、実施例1と同様の操作を行って厚さ3.4mmの「積層木質成形体M-M」を作製した。
「積層木質成形体M-M」から、実施例1と同様の操作を行って、見掛けの層間せん断強さ評価した結果を
図1に示す。
【0051】
(8) 比較例4
それぞれ49mm(L)×50mm(T)に切断した「含浸木材UM」を2枚使用した以外は、実施例1と同様の操作を行って厚さ2.7mmの「積層木質成形体P-P」を作製した。
「積層木質成形体P-P」から、実施例1と同様の操作を行って、見掛けの層間せん断強さ評価した結果を
図1に示す。
【0052】
(9)評価
上記のように、
図1は実施例1~4と、実施例1~4で使用した各含浸樹脂材料の単体からかなる積層木質成形体同士を積層した比較例1~4との見掛けの層間せん断強さを比較した実験結果である。
図1から、実施例2~4の層間せん断強度は比較例3(メラミン樹脂含有木質材料の「積層木質成形体M-M」)と同等レベルであった。
また、
図1中、実施例1(M-U)の棒グラフの「ひし形のプロット」は構成する2種類の積層木質成形体(比較例1「U-U」と比較例3「M-M」)の平均値を表す。同様に実施例2(P-U)の棒グラフのプロットは構成する2種類の積層木質成形体(比較例1「U-U」と比較例4「P-P」)の平均値を表す。同様に実施例2(M-UM)は比較例3と比較例2の平均値、実施例4(P-UM)は比較例4と比較例2の平均値を示している。特に、実施例3の層間せん断強さは構成する積層木質成形体(比較例2、3)の平均値よりも大きいことを示している。すなわち、メラミン樹脂含有木質材料とメラミン添加ポリウレタン前駆体含有木質材料の組み合わせた「積層木質成形体(M-UM)」は、層間での親和性がそれぞれの単体の積層木質成形体以上に良好であることが示唆された。
【0053】
5.3層積層木質成形体の作製と評価
【0054】
(1) 実施例5
それぞれ49mm(L)×50mm(T)に切断した含浸木材U、含浸木材M、含浸木材Pをこの順で1枚ずつ積層した合計3枚を使用(繊維方向を同一に積層)して、温度170℃に設定したパンチ面積52mm×50mmの平板を有する密閉金型内に設置し、荷重2.5ton(約10MPa)でプレス成形させ、5分間圧力を保持した後、密閉金型を50℃以下に冷却してから、厚さ4.2mmの「積層木質成形体U-M-P」を作製した。
「積層木質成形体U-M-P」から、繊維方向に幅10mm、長さ35mmの短冊状試験片を3本切り出し、JIS/K7078(炭素繊維強化プラスチックの層間せん断試験方法)に準じて、見掛けの層間せん断強さ評価した結果を
図2に示す。
【0055】
(2)実施例6
49mm(L)×50mm(T)に切断した「含浸木材U」「含浸木材P」「含浸木材M」をこの順で1枚ずつ積層した合計3枚を使用した以外は、実施例5と同様の操作を行って厚さ4.4mmの「積層木質成形体U-P-M」を作製した。
「積層木質成形体U-P-M」から、実施例5と同様の操作を行って、見掛けの層間せん断強さ評価した結果を
図2に示す。
【0056】
(3)実施例7
それぞれ49mm(L)×50mm(T)に切断した「含浸木材UM」「含浸木材M」「含浸木材P」をこの順で1枚ずつ積層した合計3枚を使用した以外は、実施例5と同様の操作を行って厚さ4.1mmの「積層木質成形体UM-M-P」を作製した。
「積層木質成形体UM-M-P」から、実施例5と同様の操作を行って、見掛けの層間せん断強さ評価した結果を
図2に示す。
続いて、「積層木質成形体UM-M-P」の層間せん断試験後のサンプルの両端部分(損傷がない部分)を用いて、JIS/Z2101(木材の試験方法)に準じて、積層木質成形体の両表面(「含浸木材UM」成形表面と「含浸木材P)成形表面)のブリネル硬さを評価した結果を
図3に示す。
【0057】
(4)実施例8
それぞれ49mm(L)×50mm(T)に切断した「含浸木材UM」「含浸木材P」「含浸木材M」をこの順で1枚ずつ積層した合計3枚を使用した以外は、実施例5と同様の操作を行って厚さ4.3mmの「積層木質成形体UM-P-M」を作製した。
「積層木質成形体UM-P-M」から、実施例5と同様の操作を行って、見掛けの層間せん断強さ評価した結果を
図2に示す。
続いて、「積層木質成形体UM-P-M」の層間せん断試験後のサンプルを用いて、実施例7と同様の操作を行って、積層木質成形体の両表面(「含浸木材UM成形表面と含浸木材M成形表面)ブリネル硬さを評価した結果を
図3に示す。
【0058】
(5)比較例5
49mm(L)×50mm(T)に切断した「含浸木材U」を3枚積層した合計3枚を使用した以外は、実施例5と同様の操作を行って厚さ4.2mmの「積層木質成形体U-U-U」を作製した。
「積層木質成形体U-U-U」から、実施例5と同様の操作を行って、見掛けの層間せん断強さ評価した結果を
図2に示す。
【0059】
(6)比較例6
49mm(L)×50mm(T)に切断した「含浸木材UM」を3枚積層した合計3枚を使用した以外は、実施例5と同様の操作を行って厚さ3.9mmの「積層木質成形体UM-UM-UM」を作製した。
「積層木質成形体UM-UM-UM」から、実施例5と同様の操作を行って、見掛けの層間せん断強さ評価した結果を
図2に示す。
【0060】
(7)比較例7
49mm(L)×50mm(T)に切断した「含浸木材M」を3枚積層した合計3枚を使用した以外は、実施例5と同様の操作を行って厚さ4.7mmの「積層木質成形体M-M-M」を作製した。
「積層木質成形体M-M-M」から、実施例5と同様の操作を行って、見掛けの層間せん断強さ評価した結果を
図2に示す。
【0061】
(8)比較例8
49mm(L)×50mm(T)に切断した「含浸木材P」を3枚積層した合計3枚を使用した以外は、実施例5と同様の操作を行って厚さ4.1mmの「積層木質成形体P-P-P」を作製した。
「積層木質成形体P-P-P」から、実施例5と同様の操作を行って、見掛けの層間せん断強さ評価した結果を
図2に示す。
【0062】
(9)比較例9
49mm(L)×50mm(T)に切断した「含浸木材M」「含浸木材U」「含浸木材P」をこの順で1枚ずつ積層した合計3枚を使用した以外は、実施例5と同様の操作を行って厚さ4.1mmの「積層木質成形体M-U-P」を作製した。
「積層木質成形体M-U-P」から、実施例5と同様の操作を行って、見掛けの層間せん断強さ評価した結果を
図2に示す。
【0063】
(10)比較例10
49mm(L)×50mm(T)に切断した「含浸木材M」「含浸木材UM」「含浸木材P」をこの順で1枚ずつ積層した合計3枚を使用した以外は、実施例5と同様の操作を行って厚さ4.3mmの「積層木質成形体M-UM-P」を作製した。
「積層木質成形体M-UM-P」から、実施例5と同様の操作を行って、見掛けの層間せん断強さ評価した結果を
図2に示す。
【0064】
(11)評価
上記のように
図2から、実施例6~8は、曲げ破壊により破壊したため、せん断破壊強度は曲げ破壊強度よりも大きかった。実施例7(「積層木質成形体UM-M-P」)と実施例8(「積層木質成形体UM-P-M))が最も層間せん断強さが大きかった。したがって、3層の積層木質成形体を作製する場合の積層順は、メラミン添加ポリウレタン前駆体含有木質材料(UM)を表層に配置し、次いで、メラミン樹脂含有木質材料(M)もしくはフェノール樹脂含有木質材料(P)を配置する順番とすることが好ましいことがわかった。
次に、見掛けの層間せん断強さ(MPa)が最も高かった実施例7と実施例8の積層木質成形体について、表面の柔らかさを評価した結果を
図3に示す。
実施例7(「積層木質成形体UM-M-P」)と実施例8(「積層木質成形体UM-P-M」)のどちらにおいても、「含浸木材UM」成形表面の方がもう片面(「含浸木材P」成形表面、「含浸木材M」成形表面)よりもブリネル硬さが小さく、柔らかいことがわかった。「含浸木材UM」成形表面を製品の意匠面(成形体を見せる面、成形体と接触する面)とする方が、柔らかい木材の質感が得られるため好ましいことが分かった。
【0065】
6.3次元形状の積層木質成形体の作製
【0066】
(1) 「含浸木材UM」を約10mm(L)×10mm(T)に切断した木片約20g(以下、「木片UM」)と、それぞれ95mm(L)×95mm(T)に切断した「含浸木材UM」(以下、「板UM」)、含浸木材P(以下、「板P」)、含浸木材M(以下、「板M」)を以下のように3次元形状の積層木質成形体の作製に供した。
成形体の作製は、表面温度が下型(平らな意匠面、下のプレス板に設置)で160~170℃、上型(リブが配置された面、上のプレス板に配置)で130~140℃に加熱された金型を用いた。
【0067】
(2)実施例9
「木片UM」「板UM」「板M」「板P」の順で配置および積層し、下型に投入し、600kN(面圧75MPa)でプレスを行い、5分間圧力を保持した後、金型を50℃以下に冷却してから、作製された「積層木質成形体UM-M-P」を取り出した。「積層木質成形体UM-M-Pの外観写真を
図4に示す。図中の1は積層木質成形体全体を、2と3はそれぞれ後方押出しにより流動成形したリブ部と補強部を示す。
【0068】
(3)実施例10
「木片UM」「板UM」「板P」「板M」の順で配置および積層し、金型に投入した以外は、実施例9と同様の操作を行い、「積層木質成形体UM-P-M」を作製した。「積層木質成形体UM-P-M」の外観写真を
図5に示す。図中の1は積層木質成形体全体を、2と3はそれぞれ後方押出しにより流動成形したリブ部と補強部を示す。
【0069】
(4)評価
図4および
図5より、「積層木質成形体UM-P-M」よりも「積層木質成形体UM-M-P」の方が、各構成材料(「板UM」、「板P」、「板M」)がリブ部2内に良好に充填しており良好な積層木質成形体1が得られた。すなわち、積層木質成形体1においてほぼ直角に折り曲げたリブ部2等の複雑形状が要求される側の面(すなわち、屈曲成形する際に凹面側に位置する面)は、フェノール樹脂含有木質材料を配置した積層構造とすることが好ましいと言える。
なお、より柔らかい表面となる場合には、「積層木質成形体U-UM-M」の組み合わせも考えられる。
【0070】
7.意匠面再加熱による木質感(見た目、柔らかさ)の付与
【0071】
(1)実施例11
49mm(L)×50mm(T)に切断した「含浸木材U」「含浸木材UM」「含浸木材M」をこの順で1枚ずつ積層した合計3枚を使用した以外は、実施例5と同様の操作を行って厚さ4.3mmの「積層木質成形体U-UM-M」を作製した。その成形した「積層木質成形体U-UM-M」(積層木質成形体1)の「含浸木材U」成形表面側(意匠面1a)の外観写真を
図6に示す。意匠面1aのブリネル硬さを測定した結果、
16.3±3.9N/mm
2
であった。
【0072】
(2)実施例12
実施例11で作製した「積層木質成形体U-UM-M」を用いて、「含浸木材U」成形表面側(すなわち「積層木質成形体U-UM-M」の上面)を170℃に加熱した平らな熱板上に接触させた状態で、400g(面圧約1.6kPa)の重りを負荷しながら5分間加熱させ、「再加熱積層木質成形体U-UM-M」を作製した。その成形した「再加熱積層木質成形体U-UM-M」の「含浸木材U」の成形表面側(意匠面1a)の外観写真を
図7に示す。「再加熱積層木質成形体U-UM-M」の厚さを測定した結果、厚さが4.6mmとなっており、再加熱前の「積層木質成形体U-UM-M」の厚さと比較して約7%増加していた。意匠面1aのブリネル硬さを測定した結果、
3.65±2.8N/mm
2
であった。
【0073】
(3)評価
再加熱した実施例12のブリネル硬さは、再加熱前の上記実施例11のブリネル硬さの4分の1以下に低下した。このことから、積層木質成形体を構成する「含浸木材U」成形表面を再加熱処理することで、さらに柔らかい木材の質感が得られることがわかった。再加熱により成形体厚さが増加したことから、「含浸木材U」成形表面近傍の木材中の空隙が再加熱処理により回復したことが原因と考えられる。
また、
図6と
図7の外観写真の比較からも、
図7の再加熱積層木質成形体の方が木材の木目に沿った表面の凹凸が観察され、再加熱により見た目にも木材の質感が向上したことがわかる。
したがって、椅子用の座板、背板など使用者の臀部または背中が接触する面に、木材の質感の向上を求めた場合には、「積層木質成形体UM-M-P」(表面UM。表面UMの表面を加熱も含む。実施例9など)、「積層木質成形体U-UM-M」(表面U。表面Uの表面を加熱も含む。実施例11、実施例12など)が好ましいと考えられる。なお、現段階の成形では、成形不良が出にくい「積層木質成形体UM-M-P」(表面UM)が最適と考えられる。
とりわけ、通常、椅子の座面(成形体)の底には、脚部の取りつけ用金具などを固定する場合があるため、比較的強度が高くかつ偏厚(異なる肉厚)に対応し易い「含浸木材P」が位置することが有用である。
【0074】
8.他の実施形態
【0075】
(1) 前記において木質素材としてヒノキを使ったが、当然に他の木材を使用することもできる。
(2) また、前記において「メラミン系樹脂」「ウレタン系樹脂」「フェノール系樹脂」「メラミン系樹脂およびウレタン系樹脂」の特定は、上記実施形態に限られず、同系とされる他の樹脂材料を使用することもできる。
(3) また、前記において本発明の実施形態を説明したが、本発明は上述した実施形態に限られることなく特許請求の範囲の記載から把握される技術的範囲において種々に変更可能である。