(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165664
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】植物の代謝物含量調節剤
(51)【国際特許分類】
A01N 37/06 20060101AFI20241121BHJP
A01P 21/00 20060101ALI20241121BHJP
A01N 65/12 20090101ALI20241121BHJP
A01N 43/08 20060101ALI20241121BHJP
A01N 27/00 20060101ALI20241121BHJP
A01G 7/06 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
A01N37/06
A01P21/00
A01N65/12
A01N43/08 B
A01N27/00
A01G7/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082037
(22)【出願日】2023-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 安津美
(72)【発明者】
【氏名】田中 謙
【テーマコード(参考)】
2B022
4H011
【Fターム(参考)】
2B022EA10
4H011AB03
4H011BB06
(57)【要約】
【課題】植物の代謝物含量調節剤を提供すること。
【解決手段】エチニレン基が2つ並んだジアセチレン構造を有する化合物を含有する、植物の代謝物含量調節剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
[式中:R
1は一部がエステル基、カルボニル基、又は酸素原子に置き換わっていてもよい炭化水素基を示す。R
2は一部がエステル基、カルボニル基、又は酸素原子に置き換わっていてもよい炭化水素基を示す。]
で表される化合物及びその溶媒和物からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、植物の代謝物含量調節剤。
【請求項2】
前記化合物が一般式(2):
[式中:R
2は前記に同じである。R
11、R
12、R
13は、それぞれ一部がエステル基、カルボニル基又は酸素原子に置き換わっていてもよい炭化水素基か、又は水素原子を示す。R
11とR
13は結合して環を形成してもよい。]
で表される化合物及びその溶媒和物からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、請求項1に記載の代謝物含量調節剤。
【請求項3】
前記R11と前記R13は結合して環を形成する場合、脂環式炭化水素基である、請求項2に記載の代謝物含量調節剤。
【請求項4】
前記化合物が一般式(3):
[式中:R
2は前記に同じである。R
111はアルキル基を示す。R
21は一部がエステル基、カルボニル基、又は酸素原子に置き換わっていてもよい炭化水素基を示す。]
で表される化合物である、請求項1に記載の代謝物含量調節剤。
【請求項5】
前記化合物が一般式(4):
[式中:R
111はアルキル基を示す。R
22は一部がエステル基に置き換わった炭化水素基、又はアルキル基を示す。]
で表される化合物である、請求項1に記載の代謝物含量調節剤。
【請求項6】
前記化合物が一般式(5):
[式中:R
111はアルキル基を示す。R
221は鎖式不飽和炭化水素基を示す。]
で表される化合物である、請求項1に記載の代謝物含量調節剤。
【請求項7】
前記化合物が植物由来物質である、請求項1~6のいずれかに記載の代謝物含量調節剤。
【請求項8】
前記植物由来物質がアキノキリンソウ属植物、オケラ属植物、ヨモギ属植物由来物質のいずれかである、請求項7に記載の代謝物含量調節剤。
【請求項9】
前記代謝物がテルペノイド化合物、硫黄化合物、及びそれらの配糖体からなる群並びに脂肪酸、より選択される少なくとも1種である、請求項1~6のいずれかに記載の代謝物含量調節剤。
【請求項10】
前記テルペノイド化合物がグリチルリチン(局方名: グリチルリチン酸)及びそれらの配糖体からなる群、またはビタミンE及びK並びにビタミンE及びKの前駆体からなる群、より選択される少なくとも1種である、請求項9に記載の代謝物含量調節剤。
【請求項11】
前記硫黄化合物がアリシン及びアリシンの前駆体並びに分解物からなる群、またはイソチオシアネート及びイソチオシアネートの前駆体並びに分解物からなる群、より選択される少なくとも1種である、請求項9に記載の代謝物含量調節剤。
【請求項12】
前記脂肪酸がオレイン酸ならびにパルミチン酸からなる群、より選択される少なくとも1種である、請求項9に記載の代謝物含量調節剤。
【請求項13】
対象となる前記植物が薬用植物および野菜である、請求項1~6のいずれかに記載の代謝物含量調節剤。
【請求項14】
対象となる薬用植物がカンゾウ、野菜がルッコラ、二十日大根、ニンニクである、請求項13に記載の代謝物含量調節剤。
【請求項15】
請求項1~6のいずれかに記載の代謝物含量調節剤を植物に施用することを含む、植物の代謝物含量の調節方法。
【請求項16】
請求項1~6のいずれかに記載の代謝物含量調節剤を植物に施用することを含む、代謝物含量が調節された植物の製造方法。
【請求項17】
さらに、代謝物含量が調節された植物を収穫することを含む、請求項16に記載の製造方法。
【請求項18】
請求項16に記載の製造方法で得られ得る、代謝物含量が調節された植物。
【請求項19】
一般式(1):
[式中:R
1は一部がエステル基、カルボニル基、又は酸素原子に置き換わっていてもよい炭化水素基を示す。R
2は一部がエステル基、カルボニル基、又は酸素原子に置き換わっていてもよい炭化水素基を示す。]
で表される化合物及びその溶媒和物からなる群より選択される少なくとも1種の成分を含有し、且つ前記成分を含有しない植物に比べて代謝物含量が調節されてなる、植物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、植物の代謝物含量調節剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、我が国で使用される機能性植物の大部分は、海外から輸入されているが、自然環境の変化に伴う野生資源の減少によって、我が国が確保できる資源量が低下している。さらには遺伝子資源の保護に関する国際的な規制の強化によって安定した機能性植物資源の確保がますます困難になりつつある。一方、高齢化社会においては、QOLの観点から健康寿命延伸を図ること、医療経済の観点から医療及び介護費低減のための予防ケアの実行が望まれており、薬用植物や機能性食材の需要も今後さらに増加すると考えられる。こうした状況に対して、我が国では国内の自給率を高める様々な努力がなされているが、栽培者の高齢化や収益性の低さなどの問題により自給率が十分に改善されていない状況にある。近年、これらの問題を解決するため水耕栽培などの新たな栽培研究がなされているが、機能成分高含有植物の効率的な増産のためには光・潅水・施肥などの栽培条件の検討だけでは解決されない課題も多く残されている。
【0003】
薬用植物や機能性食材の有効成分とされる代謝物の多くは、本来ストレスに対する耐性や防御のために生産されているものと考えらえる。従って、薬用植物や機能性食材の品質の向上を図るためには、他の植物との相互作用など植物の環境に対する応答機能を理解し、それを利用することが合理的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常の食品摂取プロセスを活用した予防アプローチであれば、植物の機能性成分を高めることにより、日常の自然な形での機能性成分の継続的摂取が可能であると考えられる。また、有効な生薬・漢方薬を活用した未病アプローチが有効であると考えられる。これらの観点から、機能成分高含有植物の生産が望まれる。
【0006】
一方、植物には、外部刺激に応じて代謝物量を調節するメカニズムが備えられている。代謝物として、テルペノイド、硫黄化合物、脂肪酸等の多くの機能成分が知られており、この含量を調節することにより、機能成分高含有植物を得ることができると考えられる。
【0007】
特許文献1では、植物に対して特定波長の光の照射及びUV-B照射を行うことにより代謝物含量を調節する技術が報告されている。しかしながら、この技術は、波長を調節した光を照射するための装置が必要であり、簡便に利用することができない。
【0008】
本開示は、植物の代謝物含量調節剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題に鑑みて鋭意研究を進めた結果、エチニレン基が2つ並んだジアセチレン構造を有する化合物が、植物の代謝物含量調節活性を有することを見出した。本発明者は、この知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本開示の発明を完成させた。即ち、本開示は、下記の態様を包含する。
【0010】
項1.
一般式(1):
【0011】
[式中:R
1は一部がエステル基、カルボニル基、又は酸素原子に置き換わっていてもよい炭化水素基を示す。R
2は一部がエステル基、カルボニル基、又は酸素原子に置き換わっていてもよい炭化水素基を示す。]
で表される化合物及びその溶媒和物からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、植物の代謝物含量調節剤。
【0012】
項2.
前記化合物が一般式(2):
【0013】
[式中:R
2は前記に同じである。R
11、R
12、R
13は、それぞれ一部がエステル基、カルボニル基又は酸素原子に置き換わっていてもよい炭化水素基か、又は水素原子を示す。R
11とR
13は結合して環を形成してもよい。]
で表される化合物及びその溶媒和物からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、項1に記載の植物の代謝物含量調節剤。
【0014】
項3.
前記R11と前記R13は結合して環を形成する場合、脂環式炭化水素基である、項2に記載の代謝物含量調節剤。
【0015】
項4.
前記化合物が一般式(3):
【0016】
[式中:R
2は前記に同じである。R
111はアルキル基を示す。R
21は一部がエステル基、カルボニル基、又は酸素原子に置き換わっていてもよい炭化水素基を示す。]
で表される化合物である、項1~3のいずれかに記載の代謝物含量調節剤。
【0017】
項5.
前記化合物が一般式(4):
【0018】
[式中:R
111はアルキル基を示す。R
22は一部がエステル基に置き換わった炭化水素基、又はアルキル基を示す。]
で表される化合物である、項1~4のいずれかに記載の代謝物含量調節剤。
【0019】
項6.
前記化合物が一般式(5):
【0020】
[式中:R
111はアルキル基を示す。R
221は鎖式不飽和炭化水素基を示す。]
で表される化合物である、項1~5のいずれかに記載の代謝物含量調節剤。
【0021】
項7.
前記化合物が植物由来物質である、項1~6のいずれかに記載の代謝物含量調節剤。
【0022】
項8.
前記植物由来物質がアキノキリンソウ属植物、オケラ属植物、ヨモギ属植物由来物質のいずれかである、項1~7のいずれかに記載の代謝物含量調節剤。
【0023】
項9.
前記代謝物がテルペノイド化合物、硫黄化合物、及びそれらの配糖体からなる群並びに脂肪酸、より選択される少なくとも1種である、項1~8のいずれかに記載の代謝物含量調節剤。
【0024】
項10.
前記テルペノイド化合物がグリチルリチン(局方名: グリチルリチン酸)及びそれらの配糖体からなる群、またはビタミンE及びK並びにビタミンE及びKの前駆体からなる群、より選択される少なくとも1種である、項1~9のいずれかに記載の代謝物含量調節剤。
【0025】
項11.
前記硫黄化合物がアリシン及びアリシンの前駆体並びに分解物からなる群、またはイソチオシアネート及びイソチオシアネートの前駆体並びに分解物からなる群、より選択される少なくとも1種である、項1~10のいずれかに記載の代謝物含量調節剤。
【0026】
項12.
前記脂肪酸がオレイン酸ならびにパルミチン酸からなる群、より選択される少なくとも1種である、項1~11のいずれかに記載の代謝物含量調節剤。
【0027】
項13.
対象となる前記植物が薬用植物および野菜である、項1~12のいずれかに記載の代謝物含量調節剤。
【0028】
項14.
対象となる薬用植物がカンゾウ、野菜がルッコラ、二十日大根、ニンニクである、項1~13のいずれかに記載の代謝物含量調節剤。
【0029】
項15.
項1~14のいずれかに記載の代謝物含量調節剤を植物に施用することを含む、植物の代謝物含量の調節方法。
【0030】
項16.
項1~14のいずれかに記載の代謝物含量調節剤を植物に施用することを含む、代謝物含量が調節された植物の製造方法。
【0031】
項17.
さらに、代謝物含量が調節された植物を収穫することを含む、項16に記載の製造方法。
【0032】
項18.
項16又は17に記載の製造方法で得られ得る、代謝物含量が調節された植物。
【0033】
項19.
一般式(1):
【0034】
[式中:R
1は一部がエステル基、カルボニル基、又は酸素原子に置き換わっていてもよい炭化水素基を示す。R
2は一部がエステル基、カルボニル基、又は酸素原子に置き換わっていてもよい炭化水素基を示す。]
で表される化合物及びその溶媒和物からなる群より選択される少なくとも1種を含有し、且つ前記成分を含有しない植物に比べて代謝物含量が調節されてなる、植物。
【発明の効果】
【0035】
本開示によれば、植物の代謝物含量調節剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】試験例1で測定された、カンゾウにおける対照群及びエキス添加群の植物中グリチルリチン量及びグリチルリチン合成関連遺伝子発現量、並びに各群の植物体重量を示す。
【
図2】試験例3で測定された、カンゾウにおける対照群及びセイタカアワダチソウ由来の化合物A添加群の植物中グリチルリチン量及びグリチルリチン合成関連遺伝子発現量、並びに各群の植物体重量を示す。
【
図3】試験例4で測定された、カンゾウにおける対照群及びホソバオケラやシナオケラ由来の化合物B添加群およびカワラヨモギ由来の化合物C添加群の植物中グリチルリチン量及びグリチルリチン合成関連遺伝子発現量、並びに各群の植物体重量を示す。
【
図4】試験例5で測定された、カンゾウにおける対照群及びエキス添加群、セイタカアワダチソウ由来の化合物A添加群並びホソバオケラやシナオケラ由来の化合物B添加群およびカワラヨモギ由来の化合物C添加群のグリチルリチン生合成経路及びグリチルリチン合成関連遺伝子群の発現量を示す。
【
図5】試験例6で測定された、アブラナ科・ユリ科植物における対照群及びエキス添加群とセイタカアワダチソウ由来の化合物A添加群の代謝物含有量、並びに各群での植物体重量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0038】
1.代謝物含量調節剤
本開示は、その一態様において、一般式(1)で表される化合物(本明細書において、「本開示の化合物」と示すこともある。)及びその溶媒和物からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、植物の代謝物含量調節剤(本明細書において、「本開示の調節剤」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0039】
本開示の化合物は、一般式(1):
【0040】
【0041】
R1は一部がエステル基、カルボニル基、又は酸素原子に置き換わっていてもよい炭化水素基を示す。R2は一部がエステル基、カルボニル基、又は酸素原子に置き換わっていてもよい炭化水素基を示す。
【0042】
R1又はR2で示される炭化水素基としては、特に制限されず、例えば鎖式炭化水素基、環式炭化水素基、鎖式炭化水素基と環式炭化水素基との組合せからなる基等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは鎖式炭化水素基が挙げられ、より好ましくは鎖式不飽和炭化水素基が挙げられる。
【0043】
R1又はR2で示される炭化水素基の炭素原子数は、特に制限されず、例えば1~16、好ましくは1~12、より好ましくは2~9である。
【0044】
R1又はR2で示される炭化水素基が鎖式不飽和炭化水素基である場合、多重結合(二重結合、三重結合)の数は、例えば1~5、好ましくは1~4、より好ましくは1~3である。
【0045】
R1又はR2で示される炭化水素基は、炭化水素基の一部がエステル基(-C(=O)-O-、又は-O-C(=O)-)、カルボニル基(-C(=O)-)、又は酸素原子(-O-)に置き換わったものであってもよい。「一部」とは、炭化水素基を構成する二価の基であり、通常はメチレン基である。
【0046】
R1で示される炭化水素基は、一部がエステル基に置き換わった炭化水素基であることが好ましく、一部がエステル基に置き換わった鎖式炭化水素基であることがより好ましく、一部がエステル基に置き換わった鎖式不飽和炭化水素基であることがさらに好ましい。
【0047】
本開示の化合物として、より好ましくは一般式(2):
【0048】
【0049】
R2は前記に同じである。R11、R12、R13は、それぞれ一部がエステル基、カルボニル基又は酸素原子に置き換わっていてもよい炭化水素基か、又は水素原子を示す。R11とR13は結合して環を形成してもよい。
【0050】
R11とR13は結合して環を形成する場合、脂環式炭化水素基が好ましい。環を構成する炭素原子の数は、好ましくは4~9、より好ましくは5~8、さらに好ましくは6~8である。
【0051】
本開示の化合物として、さらに好ましくは一般式(3):
【0052】
【0053】
R1及びR2は前記に同じである。R111はアルキル基を示す。R111で示されるアルキル基は、特に制限されず、直鎖状アルキル基及び分岐鎖状アルキル基のいずれも包含する。R111で示されるアルキル基の炭素原子数は、例えば1~6、好ましくは1~4、より好ましくは1~2、さらに好ましくは1である。R111で示されるアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
【0054】
R21は一部がエステル基、カルボニル基、又は酸素原子(好ましくは1~2の酸素原子、より好ましくは1つの酸素原子)に置き換わっていてもよい炭化水素基を示す。R21で示される炭化水素基としては、特に制限されず、例えば鎖式炭化水素基、環式炭化水素基等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは環状炭化水素基が挙げられ、より好ましくは脂環式炭化水素基が挙げられる。
【0055】
R21で示される炭化水素基の炭素原子数は、特に制限されず、例えば2~8、より好ましくは3~7、さらに好ましくは4~5である。
【0056】
本開示の化合物として、よりさらに好ましくは一般式(4):
【0057】
【0058】
R111は前記に同じである。R22は一部がエステル基に置き換わった炭化水素基(好ましくは鎖式炭化水素基、より好ましくは鎖式不飽和炭化水素基)、又はアルキル基を示す。R22で示される炭化水素基の炭素原子数は、特に制限されず、例えば2~12、好ましくは4~10である。R22で示されるアルキル基は、特に制限されず、直鎖状アルキル基及び分岐鎖状アルキル基のいずれも包含する。R22で示されるアルキル基の炭素原子数は、例えば1~6、好ましくは1~4、より好ましくは1~2、さらに好ましくは1である。R22で示されるアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
【0059】
R22は、一部がエステル基に置き換わった炭化水素基であることが好ましい。
【0060】
本開示の化合物として、特に好ましくは一般式(5):
【0061】
【0062】
R111は前記に同じである。R221は鎖式不飽和炭化水素基を示す。
【0063】
R221で示される鎖式不飽和炭化水素基の炭素原子数は、特に制限されず、例えば2~8、より好ましくは2~6、さらに好ましくは3~5である。
【0064】
R221で示される鎖式不飽和炭化水素基における多重結合(二重結合、三重結合)の数は、例えば1~2、より好ましくは1である。R221で示される鎖式不飽和炭化水素基における多重結合は、二重結合であることが好ましい。
【0065】
R221で示される鎖式不飽和炭化水素基は、好ましくは分岐鎖状である。R221で示される鎖式不飽和炭化水素基は、好ましくはアルケニル基であり、より好ましくは分岐鎖状アルケニル基である。アルケニル基としては、例えばビニル基、アリル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、1-メチルアリル基、2-ペンテニル基、2-ヘキセニル基等が挙げられる。
【0066】
本開示の化合物として、具体的には、セイタカアワダチソウ及びホソバオケラやシナオケラ並びにカワラヨモギ由来物質である後述の実施例の表1および表2に示される化合物等が挙げられる。
【0067】
本開示の化合物は、植物由来物質(すなわち、植物に含まれる物質)であることが好ましい。本開示の化合物の由来する植物としては、例えばセイタカアワダチソウ等のアキノキリンソウ属植物; ホソバオケラやシナオケラ等のオケラ属植物; カワラヨモギ等のヨモギ属; ブタクサ等のブタクサ属植物; ヒメジョオン、ハルジョオン等のカシヨモギ属植物; オオアレチノギク、ヒメムカシヨモギ等のイズハハコ属植物等が挙げられる。由来植物としては、好ましくはキク科植物、より好ましくはアキノキリンソウ属植物およびオケラ属植物、さらに好ましくはセイタカアワダチソウおよびホソバオケラやシナオケラならびにカワラヨモギが挙げられる。
【0068】
本開示の化合物は、特に制限されるものではない。溶媒場物を構成する溶媒としては、例えば、水、薬学的に許容される有機溶媒(例えばエタノール、グリセロール、酢酸等)等が挙げられる。
【0069】
本開示の化合物の溶媒和物は、特に制限されるものではない。溶媒和物を構成する溶媒としては、例えば、水、薬学的に許容される有機溶媒(例えばエタノール、グリセロール、酢酸等)等が挙げられる。
【0070】
本開示の化合物は、様々な方法で調製することができる。
【0071】
本開示の化合物としては、例えば植物から抽出して得られた抽出物、又は該抽出物から分離及び/又は精製して得られた化合物を使用することができる。
【0072】
抽出に用いる植物の部位としては、特に制限されず、例えば根、茎、葉、花、種子等が挙げられる。抽出溶媒は、特に制限されない。抽出溶媒としては、例えば水; メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等アルコール; 酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等の酢酸アルキルエステル; 超臨界二酸化炭素等が挙げられる。抽出溶媒は1種単独でもよいし、2種以上の組合せであってもよい。抽出時の溶媒の温度は、特に制限されないが、好ましくは20~25℃である。抽出時間は、抽出方法、溶媒、温度等によって異なり、特に制限されない。
【0073】
本開示の化合物は、通常の分離手段により抽出物より分離され、更に精製することができる。この分離及び精製手段としては、例えば蒸留法、再結晶法、カラムクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー、親和クロマトグラフィー、プレパラティブ薄層クロマトグラフィー、溶媒抽出法等を採用できる。
【0074】
本開示の化合物としては、市販の化合物を利用すること、また市販の化合物を出発物質として合成したものを使用することもできる。
【0075】
本開示の化合物及びその溶媒和物は、植物の代謝物含量調節活性を有する。このため、本開示の化合物及びその溶媒和物からなる群より選択される少なくとも1種は、植物の代謝物含量調節剤(本開示の調節剤)の有効成分として利用することができる。
【0076】
本開示の調節剤は、植物における代謝物含量を調節するために用いられる。「代謝物含量を調節」とは、代謝物含量を変化させることであり、代謝物含量を向上させること、及び代謝物を低下させることのいずれも包含する。本開示の好ましい態様において、本開示の調節剤は、代謝物含量向上化剤である。
【0077】
本開示の調節剤の対象植物は、薬用植物および下記植物に限定される。
農作物;トウモロコシ(馬歯種、硬粒種、軟粒種、爆裂種、糯種、甘味種、フィールドコーン)、イネ(長粒種、短粒種、中粒種、ジャポニカ種、熱帯ジャポニカ種、インディカ種、ジャワニカ種、水稲、陸稲、浮稲、直播、移植、糯米)、コムギ(パンコムギ(硬質、軟質、中質、赤コムギ、白コムギ)、デュラムコムギ、スペルトコムギ、クラブコムギ、それぞれの冬コムギ型、春コムギ型)、オオムギ(二条オオムギ(=ビールムギ)、六条オオムギ、ハダカムギ、もち麦、それぞれの冬オオムギ型、春オオムギ型)、ライムギ(冬ライムギ型、春ライムギ型)、トリティカーレ(冬トリティカーレ型、春トリティカーレ型)、エンバク(冬エンバク型、春エンバク型)、ソルガム、ワタ(アップランド種、ピマ種)、ダイズ(完熟種子収穫品種、枝豆品種、青刈り品種、それぞれの無限伸育型、有限伸育型、半有限伸育型)、ラッカセイ(ピーナッツ)、サイトウ(インゲンマメ)、ライマメ、アズキ、ササゲ、リョクトウ、ウラドマメ、ベニバナインゲン、タケアズキ、モスビーン、テパリービーン、ソラマメ、エンドウ、ヒヨコマメ、レンズマメ、ルーピン、キマメ、アルファルファ、ソバ、テンサイ(製糖用、飼料用、根菜、葉菜、燃料)、ナタネ(冬ナタネ型、春ナタネ型)、カノーラ(冬カノーラ型、春カノーラ型)、ヒマワリ(搾油用、食用、観賞用)、サトウキビ、タバコ、チャノキ、クワ等、
野菜;ナス科野菜(ナス、トマト、ピーマン、トウガラシ、ベルペッパー、ジャガイモ等)、ウリ科野菜(キュウリ、カボチャ、ズッキーニ、スイカ、メロン、スカッシュ等)、アブラナ科野菜(ダイコン、カブ、セイヨウワサビ、コールラビ、ハクサイ、キャベツ、カラシナ、ブロッコリー、カリフラワー等)、キク科野菜(ゴボウ、シュンギク、アーティチョーク、レタス等)、ユリ科野菜(ネギ、タマネギ、ニンニク、アスパラガス等)、セリ科野菜(ニンジン、パセリ、セロリ、アメリカボウフウ等)、アカザ科野菜(ホウレンソウ、フダンソウ等)、シソ科野菜(シソ、ミント、バジル、ラベンダー等)、イチゴ、サツマイモ、ヤマノイモ、サトイモ等、
果樹;仁果類(リンゴ、セイヨウナシ、ニホンナシ、チュウゴクナシ、カリン、マルメロ等)、核果類(モモ、スモモ、ネクタリン、ウメ、オウトウ、アンズ、プルーン等)、カンキツ類(ウンシュウミカン、オレンジ、レモン、ライム、グレープフルーツ等)、堅果類(クリ、クルミ、ハシバミ、アーモンド、ピスタチオ、カシューナッツ、マカダミアナッツ等)、液果類(ブルーベリー、クランベリー、ブラックベリー、ラズベリー等)、ブドウ、カキ、イチジク、オリーブ、ビワ、バナナ、コーヒー、ナツメヤシ、ココヤシ等、
観賞植物;花木、街路樹(トネリコ、カバノキ、ハナミズキ、ユーカリ、イチョウ、ライラック、カエデ、カシ、ポプラ、ハナズオウ、フウ、プラタナス、ケヤキ、クロベ、モミノキ、ツガ、ネズ、マツ、トウヒ、イチイ)、花卉、観葉植物、シバ類。
前記した植物は、一般的にとして栽培される品種であれば限定されない。
【0078】
本開示の調節剤の対象植物としては、これらの中でも、好ましくはマメ科植物(例えば、カンゾウ等)、アブラナ科植物(例えば、二十日ダイコンやルッコラ等)、ユリ科植物(例えばニンニク等)が挙げられ、より好ましくはマメ科植物が挙げられる。マメ科植物の中でも、特に好ましくはカンゾウ属植物が挙げられる。カンゾウ属植物としては、例えばロシアカンゾウ(G. echinata)、スペインカンゾウ(G. glabra)、アメリカカンゾウ(G. lepidota)、ウラルカンゾウ(G. uralensis)、シンキョウカンゾウ(G. inflata)等が挙げられる。
【0079】
本開示の調節剤の対象植物は、一態様において、代謝物の利用に供される植物、例えば薬用植物および野菜が好ましい。薬用植物とは、植物の少なくとも一部が薬用に供される植物を意味する。薬は生薬(未精製薬、薬用ハーブ)、漢方薬、民間薬等が例示され、薬事法により医薬に分類されない食品も含む。野菜とは、苗を植えて1年以内に収穫する草木植物を意味する。薬用植物において薬用に供される部位あるいは野菜において、提供される部位としては、全草、茎葉、花、蕾、種子、果実、果皮、根、地下茎、根茎、木部、樹皮、及びこれらの2種以上を含む植物部位等が例示される。
【0080】
薬用植物としては、カンキョウ、アキョウ、イレイセン、インチンコウ、ウイキョウ、エンゴサク、オウギ、オウゴン、オウバク、オウレン、オンジ、ガイヨウ、カシュウ、カッコン、カッセキ、カロコン、カロニン、カンゾウ、キキョウ、キクカ、キジツ、キッソウコン、キョウカツ、キョウニン、クジン、ケイガイ、ケイヒ、コウカ、コウジン、コウブシ、コウベイ、コウボク、ゴシツ、ゴシュユ、ゴボウシ、ゴマ、ゴミシ、サイコ、サイシン、サンザシ、サンシシ、サンシュユ、サンショウ、サンソウニン、サンヤク、カンジオウ、ジコッピ、シコン、シツリシ、シナマオウ、シャクヤク、シャゼンシ、ジュクジオウ、シュクシャ、ショウキョウ、ショウバク、ショウマ、シンイ、セッコウ、センキュウ、ゼンコ、センコツ、センタイ、センナ、ソウジュツ、ソウハクヒ、ソボク、ソヨウ、ダイオウ、タイソウ、タクシャ、チクジョ、チクセツニンジン、チモ、チャヨウ、チョウジ、チョウトウコウ、チョレイ、チンピ、テンナンショウ、テンマ、テンモンドウ、トウガシ、トウキ、トウニン、トウヒ、トコン、トチュウ、ドッカツ、ニンジン、ニンドウ、バイモ、バクガ、バクモンドウ、ハッカ、ハマボウフウ、ハンゲ、ビャクゴウ、ビャクシ、ビャクジュツ、ビワヨウ、ビンロウジ、ブクリョウ、ブシ、フンマツアメ、ボウイ、ボウフウ、ボクソク、ボタンピ、ボレイ、マオウ、マシニン、モクツウ、モッコウ、ヨクイニン、リュウガンニク、リュウコツ、リュウタン、リョウキョウ、レンギョウ、レンニク、ワキョウカツが例示される。
【0081】
代謝物には一次代謝物と二次代謝物が存在する。一次代謝物は植物の細胞成長、発生、生殖等の生命に直接的に関与しているのに対し、二次代謝物は生命に直接関与してはいない代わりに、通常、外部からのストレス(紫外線等)、外敵(病原菌等)から自身を守るなどの機能を有する。生体膜の主原料である脂肪酸は、二次代謝物同様に外部からのストレスから自身を保護するために合成が調整される。代謝物としては、テルペノイド化合物、フラボノイド化合物、アルカロイド化合物、テルペン化合物、硫黄化合物、フェノール化合物、それらの誘導体、それらの配糖体等並びに脂肪酸が存在する。これらの中でも、テルペノイド化合物、硫黄化合物、及びそれらの配糖体並びに脂肪酸が好ましい。
【0082】
配糖体を構成する糖としては、例えばグルコース、アラビノース、ピラノース、ラフィノース、ルチノース、アピオース、ラムノース、ルチノース、プリメベロース、ゲンチオビオース、ジギトキソース、ガラクトース、キシロース等が挙げられ、さらにこれらが複数個連結してなる糖が挙げられる。
【0083】
テルペノイド化合物及びその配糖体としては、例えばグリチルリチン、ファルネソール、グリチルレチン酸、ピクロトキシン、カンタリジン、グラヤノトキシン、ホルボール、ペリルアルデヒド、テルペンアルカロイド、ピネン、10-デアセチルバッカチン、酢酸リナリル、ゲラン酸、ハロモン、シトロネラール、リコペン、ローズオキシド、酢酸ゲラニル、アニサチン、リナロール、クリプトキサンチン、グリシルレチン酸、シネオール、ツジョン、グアイアズレン、ゲラニオール、アブシシン酸、セスキテルペンラクトン、ククルビタシン、シメン、スクアレン、ノートカトン、ボルネオール、ネロール、アンゲリカ酸、イオノン、カルボン、アブシンチン、チオテルピネオール、ビサボロール、ジメチルアリル二リン酸、ネペタラクトン、アザジラクチン、フェランドレン、アビエチン酸、ストリゴラクトン、メントン、クミンアルデヒド、プロストラチン、シトラール、アーテミシニン、12-O-テトラデカノイルホルボール13-アセタート、トリコテセン、アズレン、カルベオール、フペルジンA、ギンコライド、ラクチュコピクリン、コリアミルチン、リモネン、フィトール、ジベレリン酸、クロシン、メンタン、チモール、ラノステロール、サポニン、アスカリドール、イソペンテニル二リン酸、インドメタシンファルネシル、ロンギホレン、Β-クリプトキサンチン、イリドイド、チグリン酸、3-メチルブタン酸、ミルセン、ベルベノン、タキサン、テルピネオール、フコキサンチン、パルテノリド、ゲラニルゲラニルピロリン酸、サンタロール等が挙げられる。
【0084】
硫黄化合物としては、アリシン、アリイン、アホエン、イソチオシアネート等およびそれらの前駆体並びに分解物が挙げられる。
【0085】
脂肪酸としては、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ステアリン酸、パルミチン酸等が挙げられる。
【0086】
本開示の調節剤は、有効成分のみからなるものでもよいが、有効成分に加えて、後述の剤形、施用態様等に応じて種々の他の成分を含んでいてもよい。本開示の調節剤中の有効成分(乾燥重量)の含有割合は、後述の剤形、施用態様等に応じて適宜決定することができるが、例えば0.0001~100質量%の範囲を例示することができる。当該含有割合の上限は、例えば99質量%、98質量%、97質量%、95質量%、90質量%、80質量%、70質量%、又は60質量%である。当該含有量の下限は、例えば0.001質量%、0.01質量%、0.1質量%、1質量%、2質量%、3質量%、5質量%、10質量%、20質量%、30質量%、40質量%、又は50質量%である。
【0087】
他の成分としては、例えば担体、固着剤、分散剤、補助剤等が挙げられる。担体としては、例えば、タルク、ベントナイト、クレー、カオリン、ケイソウ土、ホワイトカーボン、バーミキュライト、ケイ砂等の固体担体;水溶性高分子化合物(ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸等)、水、植物油、液体動物油等の液体担体等が挙げられる。固着剤としては、例えば、カゼイン、ゼラチン、アラビアゴム、アルギン酸等が挙げられる。分散剤としては、例えば、アルコール硫酸エステル類、ポリオキシエチレングリコールエーテル等が挙げられる。補助剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、デンプン、乳糖等が挙げられる。上記担体、固着剤、分散剤および補助剤は、それぞれの目的に応じて、それぞれ単独でまたは適宜組合せて使用することができる。
【0088】
本開示の調節剤の剤形は、農学的に許容される剤形である限り特に限定されない。例えば、粒剤、1キロ粒剤、500グラム粒剤、250グラム粒剤、ジャンボ剤等の粒剤; 粉剤、DL粉剤、FD粉剤等の粉剤; 粉粒剤、微粒剤F、細粒剤F等の粉粒剤; 粉末; 水和剤、フロアブルゾルSC、顆粒水和剤、ドライフロアブル等の水和剤; 水溶剤、顆粒水溶剤等の水和剤; 乳剤、EW剤等の乳剤; 液剤、EW剤等の液剤; 油剤、サーフ剤等の油剤; エアゾル; ペースト剤; マイクロカプセル剤; パック剤等が挙げられる。
【0089】
本開示の調節剤を植物に施用することにより、植物の代謝物含量を調節することができる。
【0090】
施用は、植物の細胞に有効成分が接触可能な態様であれば、特に制限されない。施用は、例えば、培地(例えば、土壌等)に適用する態様である。この場合、培地中の有効成分濃度は、例えば0.02~500pm、好ましくは0.1~200ppm、より好ましくは0.3~100ppm、さらに好ましくは1~50ppm、よりさらに好ましくは3~30ppm、とりわけ好ましくは5~20ppmである。
【0091】
施用態様はとしては、例えば、散布、滴下、塗布、植物生育環境中(土壌中、水中、固形培地中、液体培地中等)への混合又は溶解等が挙げられる。より具体的には、例えば水耕液に添加する態様、土壌表面上に散布する態様、肥料と混合する態様等が挙げられる。
【0092】
2.調節方法、製造方法、植物
本開示は、その一態様において、本開示の調節剤を植物に施用することを含む、植物の代謝物含量の調節方法、に関する。本開示は、その一態様において、本開示の調節剤を植物に施用することを含む、代謝物含量が調節された植物の製造方法、似関する。これらの方法をまとめて、「本開示の方法」と示すこともある。
【0093】
本開示の方法により、植物の代謝物含量が調節される。一態様において、本開示の調節剤を施用して得られた植物は、本開示の調節剤を施用しない以外は同じ条件で得られた植物に比べて、代謝物の少なくとも1種の含量が、例えば1.1倍以上、1.2倍以上、1.3倍以上、1.5倍以上、1.7倍以上、2.0倍以上、2.2倍以上、又は2.5倍以上に向上する。
【0094】
本開示の方法は、さらに、代謝物含量が調節された植物を収穫することを含むことが好ましい。収穫は、植物又はその一部を、土壌又は培地から切り離し、移動(例えば流通)可能な状態とする工程である限り、特に制限されない。収穫工程においては、必要に応じて、植物を洗浄、加工等する工程を含むことができる。
【0095】
本開示は、その一態様において、本開示の方法で得られ得る、代謝物含量が調節された植物、に関する。当該植物は、通常、有効成分を含有する。このため、本開示は、その一態様において、有効成分を含有し、且つ有効成分を含有しない植物に比べて代謝物含量が調節されてなる、植物、にも関する。これらの態様において、代謝物の調節の程度については、上記の通りである。
【0096】
植物の代謝物含量は、対象とする代謝物の種類に応じて、公知の方法に従って又は準じて、測定することができる。一例として、後述の実施例に記載の方法に従って又は準じて、測定する。
【実施例0097】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0098】
試験例1
セイタカアワダチソウからエキスを抽出し、得られたエキスの代謝物含量調節活性を評価する活性試験を行った。活性評価は、代謝物であるグリチルリチン及びグリチルリチン合成関連遺伝子(CYP72A154)発現を指標として行った。具体的な方法は以下の通りである。
【0099】
<試験例1-1.カンゾウの生育条件>
カンゾウ(Glycyrrhiza uralensis)の種子を10%次亜塩素酸ナトリウム液で5分間表面殺菌し、滅菌水で3回洗浄した。殺菌した種子はスクロース0.5 %、グリシン2.00 mg/L、myo-イノシトール100 mg/L、ニコチン酸0.50 mg/L、ピリドキシン塩酸塩0.50 mg/L、チアミン塩酸塩0.10 mg/L、寒天0.8 %、pH 5.7に調整されたMS培地(FUJIFILM和光)に播種した。発芽した種子はスクロース3 %、グリシン2.00 mg/L、myo-イノシトール100 mg/L、ニコチン酸0.50 mg/L、ピリドキシン塩酸塩0.50 mg/L、チアミン塩酸塩0.10 mg/L、寒天0.8 %、pH 5.7に調整されたMS培地に移植した。発芽および栽培は温度約25 ℃、明暗16/8時間の条件で行った。
【0100】
<試験例1-2.セイタカアワダチソウエキスの抽出>
セイタカアワダチソウ地下茎および根から、エキスを抽出した。具体的には次のようにして行った。具体的にはセイタカアワダチソウ地下部を天日干しで2, 3日乾燥した。得られたセイタカアワダチソウ地下部を室温下、2.5倍量のヘキサンで一晩抽出した。3回抽出を行い、得られた抽出液を合わせ、減圧濃縮することにより、ヘキサン抽出物を得た。液体クロマトグラフィーにて成分濃度を測定した。
【0101】
<試験例1-3.活性試験>
播種後1週間培養したカンゾウを、セイタカアワダチソウエキスが10 ppmの濃度になるよう添加したMS培地(エキス添加群)と、当該エキスを添加しないコントロールMS培地(対照群)にそれぞれ移植し、3週間培養した。
【0102】
培養後、カンゾウを地上部と根に分けて秤量し、液体窒素で凍らせて粉砕した。植物体重量160 mgに対して2 mLのMeOH-CHCl3-H2O(2.5:1:1)混合溶液を加えた後、遠心して上清を得た。続いて1 mLのMeOH-CHCl3(1:1)混合溶液を加えた後、遠心して上清を得た。2つの上清を合わせた溶液に、0.5 mLの水を加えて混和し、水層中のグリチルリチン量を分析した。分析装置及び分析条件は以下の通りである。
・装置:Shimadzu LC-IT-TOF mass spectrometer equipped with an ESI interface. ESIパラメータ: 電圧, -3.5 kV (negative ion mode); キャピラリ温度, 200℃; ネブライザーガス流量 1.5 L/min.
・MS条件:測定範囲m/z 700 to 1000. イオン蓄積時間 100 ms.
・HPLC条件: カラム A Waters Atlantis T3 column (2.1 mm i.d. × 150 mm, 5 μm). カラム温度40℃. 移動相 (A) 5 mM 酢酸アンモニウム溶液 (B) アセトニトリル. Gradient condition: 0-30 min, linear gradient from 10 to 100% B, and 30-40 min, isocratic at 100% B. 流速 0.2 mL/min.。
【0103】
培養後、カンゾウを地上部と根に分けて秤量し、液体窒素で凍らせて粉砕した。植物体重量20 mgに対して1 mLのisogenII ((株)ニッポンジーン、311-07361)を加えた後、激しく撹拌し、さらに400μLの水を加え激しく撹拌した後10分間静置し、続いて遠心して1mLの上清を得た。上清に100%イソプロパノール溶液を1mL加えチューブを傾けて撹拌させた後10分間静置し、続いて遠心をしてRNAのペレットを得た。ペレットを75%エタノール溶液で洗浄した後、水に溶解した。水に溶解したRNA量200ngを秤量し、DNase処理をRQ1 RNase-Free DNase(Promega, M6101)のプロトコール通りに行った後、cDNA合成をLunaScript RT SuperMix Kit(New England BioLabs, E3010L)のプロトコール通りに行った。合成したcDNAは10倍希釈をし、RT-PCRでの遺伝子量の定量をLuna Universal qPCR Master Mix(New England BioLabs, M3003E)のプロトコール通りに行い、遺伝子発現を分析した。
・RT-PCRに用いた装置:Applied Bioscience Step one Plus(#4376592).
・RT-PCR条件:95℃で60秒を1サイクル、95℃で15秒および60℃で30秒を40サイクル、melting curveの測定
・分析方法:ハウスキーピング遺伝子ACT7、グリチルリチン合成関連遺伝子CYP72A154の遺伝子量(Ct値)を測定した。グリチルリチン合成遺伝子発現量はddCt法{2^-(グリチルリチン合成遺伝子量-ハウスキーピング遺伝子量)}を用いて計算した。
【0104】
<結果>
対照群及びエキス添加群の植物中グリチルリチン及びグリチルリチン合成関連遺伝子(CYP72A154)発現量、並びに各群の植物体重量を
図1に示す。エキス添加群で植物中グリチルリチン量並びにグリチルリチン合成関連遺伝子(CYP72A154)発現が有意に増加していた(
*p< 0.05)が、植物体重量変化に有意差は認められなかった。
【0105】
試験例2
セイタカアワダチソウエキス(試験例1-2)中の成分をHPLC法により分析した。具体的には、セイタカアワダチソウヘキサン抽出物1 mgを正確に秤量し、1 mLのメタノールに溶解した。作成した溶液を2倍希釈後(0.5 mg/mL溶液)、フィルターろ過し、サンプルとした。同様に、単離したcis-dehydromatricaria ester、(2Z, 8Z)-10-angeloyloxy-matricaria ester、(2Z, 8Z)-10-Tigloyloxy-matricaria esterについて、0.005、0.01、0.05 mg/mLの標準溶液を作成した。これらをHPLC分析に供し、得られたピーク面積からヘキサン抽出物中のポリアセチレン類含有量を算出した。測定条件を次に示す。また、結果の一部を表1に示す。
・検出器:フォトダイオードアレイ検出器SPD-M20A
・測定条件:カラムA Waters Atlantis T3 column (2.1 mm i.d. × 150 mm, 5 μm). カラム温度40℃. 移動相 (A) 5 mM 酢酸アンモニウム溶液 (B) アセトニトリル. Gradient condition: 0-30 min, linear gradient from 10 to 100% B, and 30-40 min, isocratic at 100% B. 流速 0.2 mL/min. 波長 254 nm。
【0106】
【表1】
表1に示されるとおり、セイタカアワダチソウエキスには、エチニレン基が2つ並んだ構造を有する化合物が複数含まれていた。
【0107】
試験例3
試験例2で特定された化合物の1つ(化合物A:(2Z,8Z)-10-angeloyloxy-matricaria ester、表1の上から2つ目の化合物)の代謝物含量調節活性を評価する活性試験を行った。活性評価は、代謝物であるグリチルリチン及びグリチルリチン合成関連遺伝子(CYP72A154)発現を指標として行った。具体的な方法は以下の通りである。
【0108】
<試験例3-1.カンゾウの生育条件>
カンゾウ(Glycyrrhiza uralensis)の種子を10%次亜塩素酸ナトリウム液で5分間表面殺菌し、滅菌水で3回洗浄した。殺菌した種子はスクロース0.5 %、グリシン2.00 mg/L、myo-イノシトール100 mg/L、ニコチン酸0.50 mg/L、ピリドキシン塩酸塩0.50 mg/L、チアミン塩酸塩0.10 mg/L、寒天0.8 %、pH 5.7に調整されたMS培地(FUJIFILM和光)に播種した。発芽した種子はスクロース3 %、グリシン2.00 mg/L、myo-イノシトール100 mg/L、ニコチン酸0.50 mg/L、ピリドキシン塩酸塩0.50 mg/L、チアミン塩酸塩0.10 mg/L、寒天0.8 %、pH 5.7に調整されたMS培地に移植した。発芽および栽培は温度約25 ℃、明暗16/8時間の条件で行った。
【0109】
<試験例3-2.化合物Aの精製>
セイタカアワダチソウ根から、化合物Aを精製した。具体的には次のようにして行った。試験例1と同様に、ヘキサン抽出物を得て、その後、液体クロマトグラフィーにて目的化合物を分取して得た。
【0110】
セイタカアワダチソウ地下部(435 g)より得たヘキサン抽出物(10.9 g)をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (溶媒:クロロホルム)に付し、9つのフラクション(以下、Fr.とする)1~Fr.9に分画した。Fr.2 (665 mg)を中圧シリカゲルクロマトグラフィー (溶媒:ヘキサン:酢酸エチル=5:1)に付し、4画分(Fr.2-1~2-4)に分離した。得られたFr.2-3を減圧濃縮・乾固し、cis-dehydromatricaria ester (89 mg)を得た。
【0111】
Fr.2-2(50 mg)を分取薄層クロマトグラフィー(溶媒:ヘキサン:酢酸エチル=5:1)に付し、4画分(Fr.2-2-1~2-2-4)に分離した。得られたFr.2-2-2を減圧濃縮・乾固し、trans-dehydromatricaria ester (11 mg)を得た。
【0112】
Fr.3 (653 mg)を中圧シリカゲルクロマトグラフィー(溶媒:ヘキサン:酢酸エチル=5:1)に付し、5画分(Fr.3-1~3-5)に分離した。Fr.3-3(328 mg)をODSカラムクロマトグラフィー (溶媒:メタノール:水=85:15)に付し、3画分(Fr.3-3-1~3-3-3)に分離した。得られたFr.3-3-2を減圧濃縮・乾固し、化合物A(2Z, 8Z)-10-angeloyloxy-matricaria ester (299 mg)を得た。
【0113】
Fr.4、Fr.5、Fr.3-4を合わせた画分296 mgをODSカラムクロマトグラフィー (溶媒:メタノール:水=85:15)に付し、7画分(Fr.4-1~4-7)に分離した。得られたFr.4-2およびFr.3-3-1を合わせた画分72 mgを分取逆相高速液体クロマトグラフィー (溶媒:アセトニトリル:水=65:35)に付し、4画分(Fr.4-2-1~4-2-4)に分離した。得られたFr.4-2-1~Fr.4-2-3を減圧濃縮・乾固し、(2Z, 8Z)-10-methacryloyloxy-matricaria ester (2.2 mg)、(2Z, 8Z)-10-isobutyryloxy-matricaria ester (0.8 mg)、(2Z, 8Z)-10-tigloyloxy-matricaria ester (33.1 mg)をそれぞれ得た。
【0114】
<試験例3-3.活性試験>
播種後1週間培養したカンゾウを、化合物Aが10 ppmの濃度になるよう添加したMS培地(化合物添加群)と、当該化合物を添加しないコントロールMS培地(対照群)にそれぞれ移植し、3週間培養した。
【0115】
培養後、カンゾウを地上部と根に分けて秤量し、液体窒素で凍らせて粉砕した。植物体重量160 mgに対して2 mLのMeOH-CHCl3-H2O(2.5:1:1)混合溶液を加えた後、遠心して上清を得た。続いて1 mLのMeOH-CHCl3(1:1)混合溶液を加えた後、遠心して上清を得た。2つの上清を合わせた溶液に、0.5 mLの水を加えて混和し、水層中のグリチルリチン量を分析した。分析装置及び分析条件は以下の通りである。
・装置:Shimadzu LC-IT-TOF mass spectrometer equipped with an ESI interface. ESIパラメータ: 電圧, -3.5 kV (negative ion mode); キャピラリ温度, 200℃; ネブライザーガス流量 1.5 L/min.
・MS条件:測定範囲m/z 700 to 1000. イオン蓄積時間 100 ms.
・HPLC条件: カラム A Waters Atlantis T3 column (2.1 mm i.d. × 150 mm, 5 μm). カラム温度40℃. 移動相 (A) 5 mM 酢酸アンモニウム溶液 (B) アセトニトリル. Gradient condition: 0-30 min, linear gradient from 10 to 100% B, and 30-40 min, isocratic at 100% B. 流速 0.2 mL/min.。
【0116】
培養後、カンゾウを地上部と根に分けて秤量し、液体窒素で凍らせて粉砕した。植物体重量20 mgに対して1 mLのisogenII ((株)ニッポンジーン、311-07361)を加えた後、激しく撹拌し、さらに400μLの水を加え激しく撹拌した後10分間静置し、続いて遠心して1mLの上清を得た。上清に100%イソプロパノール溶液を1mL加えチューブを傾けて撹拌させた後10分間静置し、続いて遠心をしてRNAのペレットを得た。ペレットを75%エタノール溶液で洗浄した後、水に溶解した。水に溶解したRNA量200ngを秤量し、DNase処理をRQ1 RNase-Free DNase(Promega, M6101)のプロトコール通りに行った後、cDNA合成をLunaScript RT SuperMix Kit(New England BioLabs, E3010L)のプロトコール通りに行った。合成したcDNAは10倍希釈をし、RT-PCRでの遺伝子量の定量をLuna Universal qPCR Master Mix(New England BioLabs, M3003E)のプロトコール通りに行い、遺伝子発現を分析した。
・RT-PCRに用いた装置:Applied Bioscience Step one Plus(#4376592).
・RT-PCR条件:95℃で60秒を1サイクル、95℃で15秒および60℃で30秒を40サイクル、melting curveの測定
・分析方法:ハウスキーピング遺伝子ACT7、グリチルリチン合成関連遺伝子CYP72A154の遺伝子量(Ct値)を測定した。グリチルリチン合成遺伝子発現量はddCt法{2^-(グリチルリチン合成遺伝子量-ハウスキーピング遺伝子量)}を用いて計算した。
【0117】
<結果>
対照群及びセイタカアワダチソウ由来の化合物A添加群の植物中グリチルリチン及びグリチルリチン合成関連遺伝子(CYP72A154)発現量、並びに各群の植物体重量を
図2に示す。セイタカアワダチソウ由来の化合物A添加群で植物中グリチルリチン量並びにグリチルリチン合成関連遺伝子(CYP72A154)発現が有意に増加していた(
*p< 0.05)が、植物体重量変化に有意差は認められなかった。
【0118】
試験例4
下記表2に示したホソバオケラやシナオケラ由来の化合物Bおよびカワラヨモギ由来の化合物Cの代謝物含量調節活性を評価する活性試験を行った。活性評価は、代謝物であるグリチルリチン及びグリチルリチン合成関連遺伝子(CYP72A154)発現を指標として行った。具体的な方法は以下の通りである。
【0119】
【0120】
<試験例4-1.カンゾウの生育条件>
カンゾウ(Glycyrrhiza uralensis)の種子を10%次亜塩素酸ナトリウム液で5分間表面殺菌を3回繰り返し、滅菌水で3回洗浄した。殺菌した種子はスクロース0.5 %、グリシン2.00 mg/L、myo-イノシトール100 mg/L、ニコチン酸0.50 mg/L、ピリドキシン塩酸塩0.50 mg/L、チアミン塩酸塩0.10 mg/L、寒天0.8 %、pH 5.7に調整されたMS培地(FUJIFILM和光)に播種した。発芽した種子はスクロース3 %、グリシン2.00 mg/L、myo-イノシトール100 mg/L、ニコチン酸0.50 mg/L、ピリドキシン塩酸塩0.50 mg/L、チアミン塩酸塩0.10 mg/L、寒天0.8 %、pH 5.7に調整されたMS培地に移植した。発芽および栽培は温度約25 ℃、明暗16/8時間の条件で行った。
【0121】
<試験例4-2.活性試験>
播種後1週間培養したカンゾウを、ジアセチレン構造をもつ化合物群が10 ppmの濃度になるよう添加したMS培地(化合物B・C添加群)と、当該化合物を添加しないコントロールMS培地(対照群)にそれぞれ移植し、3週間培養した。
【0122】
培養後、カンゾウを地上部と根に分けて秤量し、液体窒素で凍らせて粉砕した。植物体重量100 mgに対して1 mLのEtOH-H2O(1:1)混合溶液を加えた後、遠心して上清を得た。続いて1 mLのEtOH-H2O(1:1)混合溶液を加えた後、遠心して上清を得た。2つの上清を合わせた溶液を、450nmのフィルターに通し、溶液中のグリチルリチン量を分析した。分析装置及び分析条件は以下の通りである。
・装置:Waters Xevo G2-XS QTof
・MS条件: キャピラリー電圧, 2.6 kV (negative ion mode); ソース温度, 150℃; 脱溶媒ガス温度 0℃; 脱溶媒ガス流量, 800 L/hr; 測定範囲m/z, 400 to 2000.
・HPLC条件: カラム A Waters HSS C18 column (2.1 mm i.d. × 150 mm, 1.8 μm). カラム温度40℃. 移動相 (A) 5 mM 酢酸アンモニウム溶液 (B) アセトニトリル. Gradient condition: (B)25%→(8min)→49%→(1min)→100%(5min). 流速 0.2 mL/min.
【0123】
培養後、カンゾウを地上部と根に分けて秤量し、液体窒素で凍らせて粉砕した。植物体重量20 mgに対して1 mLのisogenII ((株)ニッポンジーン、311-07361)を加えた後、激しく撹拌し、さらに400μLの水を加え激しく撹拌した後10分間静置し、続いて遠心して1mLの上清を得た。上清に100%イソプロパノール溶液を1mL加えチューブを傾けて撹拌させた後10分間静置し、続いて遠心をしてRNAのペレットを得た。ペレットを75%エタノール溶液で洗浄した後、水に溶解した。水に溶解したRNA量200ngを秤量し、DNase処理をRQ1 RNase-Free DNase(Promega, M6101)のプロトコール通りに行った後、cDNA合成をLunaScript RT SuperMix Kit(New England BioLabs, E3010L)のプロトコール通りに行った。合成したcDNAは10倍希釈をし、RT-PCRでの遺伝子量の定量をLuna Universal qPCR Master Mix(New England BioLabs, M3003E)のプロトコール通りに行い、遺伝子発現を分析した。
・RT-PCRに用いた装置:Applied Bioscience Step one Plus(#4376592).
・RT-PCR条件:95℃で60秒を1サイクル、95℃で15秒および60℃で30秒を40サイクル、melting curveの測定
・分析方法:ハウスキーピング遺伝子ACT7、グリチルリチン合成関連遺伝子CYP72A154の遺伝子量(Ct値)を測定した。グリチルリチン合成遺伝子発現量はddCt法{2^-(グリチルリチン合成遺伝子量-ハウスキーピング遺伝子量)}を用いて計算した。
【0124】
<結果>
対照群及びジアセチレン構造をもつ化合物添加群の植物中グリチルリチン及びグリチルリチン合成関連遺伝子(CYP72A154)発現量、並びに各群の植物体重量を
図3に示す。ホソバオケラやシナオケラ由来の化合物B添加群で植物中グリチルリチン量が上昇し、グリチルリチン合成関連遺伝子(CYP72A154)発現が有意に増加していた(
***p< 0.001)が、植物体重量変化に有意差は認められなかった。また、カワラヨモギ由来の化合物C添加群で植物中グリチルリチン量が上昇し、グリチルリチン合成関連遺伝子(CYP72A154)発現が有意に増加していた(
*p< 0.05)が、植物体重量変化に有意差は認められなかった。
【0125】
試験例5
試験例1で使用したエキスおよび試験例3で使用したセイタカアワダチソウ由来の化合物Aならびに試験例4で使用したホソバオケラやシナオケラ由来の化合物Bおよびカワラヨモギ由来の化合物Cの代謝物含量調節活性のメカニズムを評価する活性試験を行った。活性評価は、グリチルリチン合成関連遺伝子群の遺伝子発現量を指標として行った。具体的な方法は以下の通りである
【0126】
<試験例5-1.カンゾウの生育条件>
カンゾウ(Glycyrrhiza uralensis)の種子を10%次亜塩素酸ナトリウム液で5分間表面殺菌を3回繰り返し、滅菌水で3回洗浄した。殺菌した種子はスクロース0.5 %、グリシン2.00 mg/L、myo-イノシトール100 mg/L、ニコチン酸0.50 mg/L、ピリドキシン塩酸塩0.50 mg/L、チアミン塩酸塩0.10 mg/L、寒天0.8 %、pH 5.7に調整されたMS培地(FUJIFILM和光)に播種した。発芽した種子はスクロース3 %、グリシン2.00 mg/L、myo-イノシトール100 mg/L、ニコチン酸0.50 mg/L、ピリドキシン塩酸塩0.50 mg/L、チアミン塩酸塩0.10 mg/L、寒天0.8 %、pH 5.7に調整されたMS培地に移植した。発芽および栽培は温度約25 ℃、明暗16/8時間の条件で行った。
【0127】
<試験例5-2.活性試験>
播種後1週間培養したカンゾウを、エキス及びセイタカアワダチソウ由来の化合物A群並びにホソバオケラやシナオケラ由来の化合物Bおよびカワラヨモギ由来の化合物Cが10 ppmの濃度になるよう添加したMS培地(エキス・化合物添加群)と、当該エキス及び化合物Aを添加しないコントロールMS培地(対照群)にそれぞれ移植し、3週間培養した。
【0128】
培養後、カンゾウを地上部と根に分けて秤量し、液体窒素で凍らせて粉砕した。植物体重量20 mgに対して1 mLのisogenII ((株)ニッポンジーン、311-07361)を加えた後、激しく撹拌し、さらに400μLの水を加え激しく撹拌した後10分間静置し、続いて遠心して1mLの上清を得た。上清に100%イソプロパノール溶液を1mL加えチューブを傾けて撹拌させた後10分間静置し、続いて遠心をしてRNAのペレットを得た。ペレットを75%エタノール溶液で洗浄した後、水に溶解した。水に溶解したRNA量200ngを秤量し、DNase処理をRQ1 RNase-Free DNase(Promega, M6101)のプロトコール通りに行った後、cDNA合成をLunaScript RT SuperMix Kit(New England BioLabs, E3010L)のプロトコール通りに行った。合成したcDNAは10倍希釈をし、RT-PCRでの遺伝子量の定量をLuna Universal qPCR Master Mix(New England BioLabs, M3003E)のプロトコール通りに行い、遺伝子発現を分析した。
・RT-PCRに用いた装置:Applied Bioscience Step one Plus(#4376592).
・RT-PCR条件:95℃で60秒を1サイクル、95℃で15秒および60℃で30秒を40サイクル、melting curveの測定
・分析方法:ハウスキーピング遺伝子ACT7、グリチルリチン合成関連遺伝子群(6種類)の遺伝子量(Ct値)を測定した。各グリチルリチン合成関連遺伝子群の発現量はddCt法{2^-(各グリチルリチン合成遺伝子量群-ハウスキーピング遺伝子量)}を用いて計算した。
【0129】
<結果>
対照群およびエキス、セイタカアワダチソウ由来の化合物A、ホソバオケラやシナオケラ由来の化合物Bおよびカワラヨモギ由来の化合物C添加群におけるグリチルリチンの生合成経路並びに生合成経路にかかわるグリチルリチン合成関連遺伝子群の発現量を
図4に示す。
図4のグリチルリチン合成関連遺伝子群では、エキス、セイタカアワダチソウ由来の化合物A、ジホソバオケラやシナオケラ由来の化合物Bおよびカワラヨモギ由来の化合物C添加群で遺伝子発現が優位に上昇している場合は赤の上矢印、優位に低下している場合は青の下矢印で示す。その結果、グリチルリチン合成に直接作用するCYP72A154の遺伝子は、エキス及び化合物A、B、Cすべてにおいて発現が対照群よりも優位に上昇していた。グリチルリチン合成の上流の遺伝子bASでは化合物Aのみで発現が対照群よりも優位に上昇していたが、エキス及び化合物B,Cでは対照群と比較して変化がなかった。ソヤサポニン合成に関わる遺伝子CYP93E3でもbAS同様に化合物Aのみで発現が対照群よりも優位に上昇していたが、エキス及び化合物B,Cでは対照群と比較して変化がなかった。また、オレアノリン酸およびベツリン酸合成に関わる遺伝子CYP716A179では、化合物Aのみで発現が対照群よりも優位に低下していたが、エキス及び化合物B,Cでは対照群と比較して変化がなかった。
【0130】
試験例6
試験例1で使用したエキスおよび試験例3で使用したセイタカアワダチソウ由来の化合物Aの代謝物含量調節活性をカンゾウ以外の植物(ルッコラ、二十日大根、ニンニク)で評価する活性試験を行った。活性評価は、二次代謝物および一次代謝物を網羅的に検証できるメタボローム解析(LC-MSおよびGC-MS)を利用して、すべての二次代謝物および一次代謝物を指標として行った。具体的な方法は以下の通りである。
【0131】
<試験例6-1.植物の生育条件>
ルッコラ(Eruca vesicaria)の種子、二十日大根(Raphanus sativus)の種子、ニンニク(Allium sativum)の球根を10%次亜塩素酸ナトリウム液で5分間表面殺菌を3回繰り返し、滅菌水で3回洗浄した。殺菌した種子はスクロース0.5 %、グリシン2.00 mg/L、myo-イノシトール100 mg/L、ニコチン酸0.50 mg/L、ピリドキシン塩酸塩0.50 mg/L、チアミン塩酸塩0.10 mg/L、寒天0.8 %、pH 5.7に調整されたMS培地(FUJIFILM和光)に播種した。発芽した種子はスクロース3 %、グリシン2.00 mg/L、myo-イノシトール100 mg/L、ニコチン酸0.50 mg/L、ピリドキシン塩酸塩0.50 mg/L、チアミン塩酸塩0.10 mg/L、寒天0.8 %、pH 5.7に調整されたMS培地に移植した。発芽および栽培は温度約25 ℃、明暗16/8時間の条件で行った。
【0132】
<試験例6-2.活性試験>
エキスおよびセイタカアワダチソウ由来の化合物Aが10 ppmの濃度になるよう添加したMS培地(化合物添加群)と、当該化合物を添加しないコントロールMS培地(対照群)にそれぞれに滅菌したルッコラ並びに二十日大根の種子およびニンニクの球根移植し、2~4週間培養した。
【0133】
培養後、ルッコラ、二十日大根およびニンニクを地上部と根に分けて、地上部のみを秤量し、液体窒素で凍らせて粉砕した。植物体重量32 mgに対して2 mLのMeOH-CHCl3-H2O(2.5:1:1)混合溶液を加えた後、遠心して上清を得た。続いて1 mLのMeOH-CHCl3(1:1)混合溶液を加えた後、遠心して上清を得た。2つの上清を合わせた溶液に、0.5 mLの水を加えて混和し、遠心分離して上層をLC-MS、下層をGC-MSで分析した。分析装置及び分析条件は以下の通りである。
・LC-MSの装置:Shimadzu LC-IT-TOF mass spectrometer equipped with an ESI interface. ESIパラメータ: 電圧, +4.5 kV (positive ion mode)及び -3.5 kV (negative ion mode); キャピラリ温度, 200℃; ネブライザーガス流量 1.5 L/min.
・GC-MSの装置:Shimadzu 2010 GC-MS system (Shimadzu, Kyoto, Japan) equipped with a DB-5MS capillary column (0.25 mm × 30 m, 0.25 μm film thickness, Agilent. Technologies, CA). インジェクター温度, 270℃; transfer line and ion source, 300℃; オーブン温度, 50℃~300℃(10℃/min).
・LC-MS条件:測定範囲m/z 150 to 1500. イオン蓄積時間 100 ms.・HPLC条件: カラム A Waters Atlantis T3 column (2.1 mm i.d. × 150 mm, 5 μm). カラム温度40℃. 移動相 (A) 5 mM 酢酸アンモニウム溶液 (B) アセトニトリル. Gradient condition: 0-30 min, linear gradient from 10 to 100% B, and 30-40 min, isocratic at 100% B. 流速 0.2 mL/min.。
・GC-MS条件:キャリアガス, ヘリウム(1mL/min);イオンエネルギー, 70eV及び60 μA.ピークアノテーション: NIST 11 Mass Spectral Library 及び the Wiley Registry of Mass Spectral Data 9th Editionを使用した。
【0134】
<結果>
対照群及びエキス並びにセイタカアワダチソウ由来の化合物A添加群の植物中で変化した主要な代謝物量、並びに各群の植物体重量を
図5に示す。3週間培養したルッコラでは、エキス並びにセイタカアワダチソウ由来の化合物A添加群でパルミチン酸の含有量が有意に増加していた(
***p< 0.001)。2週間培養した二十日大根では、セイタカアワダチソウ由来の化合物A添加群でラファサチン(イソチオシアネートの前駆体)の含有量が有意に増加していた(
*p< 0.05)。2週間並びに4週間培養したニンニクでは、エキス並びにセイタカアワダチソウ由来の化合物A添加群で二硫化アリル(アリシンの前駆体)の含有量が有意に増加していた(
*p< 0.05,
**p< 0.01)。ルッコラ、二十日大根、及びニンニクともに植物体重量変化に有意差は認められなかった。その他、エキスまたはセイタカアワダチソウ由来の化合物A添加群で優位に含有量が変化した代謝物およびその含有量を表3に示す。
【0135】