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特開2024-165702Fe基ナノ結晶合金用Fe基アモルファス合金リボン、及びFe基ナノ結晶合金用Fe基アモルファス合金リボンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165702
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】Fe基ナノ結晶合金用Fe基アモルファス合金リボン、及びFe基ナノ結晶合金用Fe基アモルファス合金リボンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 45/02 20060101AFI20241121BHJP
   B22D 11/06 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
C22C45/02 A
B22D11/06 360B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082109
(22)【出願日】2023-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】中原 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】板垣 肇
(72)【発明者】
【氏名】井上 皓太
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004DB02
4E004QA01
4E004SB02
4E004TA01
4E004TB02
4E004TB03
4E004TB04
4E004TB05
(57)【要約】
【課題】本発明は、Fe基アモルファス合金リボン、またはFe基ナノ結晶合金リボンの厚さを薄くしたとしても、占積率の低下を抑制することができる、Fe基ナノ結晶合金用Fe基アモルファス合金リボン、及びFe基ナノ結晶合金用Fe基アモルファス合金リボンの製造方法を提供する。
【解決手段】厚さが11μm以上14μm以下であり、IEC60404-8-11:2018に準拠して測定される占積率が73%以上である、Fe基ナノ結晶合金用Fe基アモルファス合金リボン。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さが11μm以上14μm以下であり、
IEC60404-8-11:2018に準拠して測定される占積率が73%以上である、
Fe基ナノ結晶合金用Fe基アモルファス合金リボン。
【請求項2】
一方の表面がロール面で、他方の表面が自由面であり、
前記ロール面の最大山高さRpが1.2μm以上であり、最大谷深さRvが3.7μm以下である、
請求項1に記載のFe基ナノ結晶合金用Fe基アモルファス合金リボン。
【請求項3】
前記ロール面の算術平均粗さRaが0.6μm以下である、
請求項2に記載のFe基ナノ結晶合金用Fe基アモルファス合金リボン。
【請求項4】
前記ロール面の最大断面高さRtが4μm以上7μm以下である、
請求項2に記載のFe基ナノ結晶合金用Fe基アモルファス合金リボン。
【請求項5】
冷却ロールの表面に、Fe基合金の合金溶湯を供給することで、Fe基アモルファス合金リボンを製造するFe基アモルファス合金リボンの製造方法であって、
前記冷却ロールの前記合金溶湯が供給される面に雰囲気ガスを噴射する、
Fe基ナノ結晶合金用Fe基アモルファス合金リボンの製造方法。
【請求項6】
前記Fe基アモルファス合金リボンは、厚さが11μm以上14μm以下である、
請求項5に記載のFe基ナノ結晶合金用Fe基アモルファス合金リボンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種トランス、各種リアクトル・チョークコイル、ノイズ対策部品、レーザ電源や加速器などに用いられるパルスパワー磁性部品、通信用パルストランス、各種モータ磁心、各種発電機、各種磁気センサ、アンテナ磁心、各種電流センサ、磁気シールド等に用いられるFe基ナノ結晶合金用Fe基アモルファス合金リボン、及びFe基ナノ結晶合金用Fe基アモルファス合金リボンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種トランス、各種リアクトル、チョ-クコイル、ノイズ対策部品、レーザ電源、加速器用パルスパワー磁性部品等に用いられる軟磁性材料としては、珪素鋼、フェライト、アモルファス合金やナノ結晶合金等が知られている。フェライト材料は飽和磁束密度が低く、温度特性が悪い問題があり、動作磁束密度が大きくなるように設計されるハイパワーの用途にはフェライトは磁気的に飽和しやすく不向きである。珪素鋼板は、材料が安価で磁束密度が高いが、高周波の用途に対しては磁心損失が大きいという問題がある。アモルファス合金は、通常液相や気相から急冷し製造される。結晶粒が存在しないため、Fe基やCo基アモルファス合金は、本質的に結晶磁気異方性が存在せず、優れた軟磁気特性を示すことが知られており、電力用変圧器鉄心、チョークコイル、磁気ヘッドや電流センサなどに使用されているが、Fe基アモルファス合金は磁歪が大きく、Co基アモルファス合金ほどの高透磁率が得られない問題が、Co基アモルファス合金は低磁歪で高透磁率であるが、飽和磁束密度が1T以下と低い問題がある。
【0003】
ナノ結晶合金は、Co基アモルファス合金に匹敵する優れた軟磁気特性とFe基アモルファス合金に匹敵する高い飽和磁束密度を示すことが知られており、コモンモードチョークコイルなどのノイズ対策部品、高周波トランス、パルストランス、電流センサ等の磁心に使用されている。代表的組成系は特許文献1や特許文献2に記載のFe-Cu-(Nb,Ti,Zr,Hf,Mo,W,Ta)-Si-B系合金やFe-Cu-(Nb,Ti,Zr,Hf,Mo,W,Ta)-B系合金等が知られている。これらのFe基ナノ結晶合金は、通常液相や気相から急冷しアモルファス合金とした後、これを熱処理により微結晶化することにより作製されている。液相から急冷する方法としては単ロ-ル法、双ロ-ル法、遠心急冷法、回転液中紡糸法、アトマイズ法やキャビテーション法等が知られている。また、気相から急冷する方法としては、スパッタ法、蒸着法、イオンプレ-ティング法等が知られている。Fe基ナノ結晶合金はこれらの方法により作製したアモルファス合金を微結晶化したもので、アモルファス合金にみられるような熱的不安定性がほとんどなく、Fe系アモルファス合金と同程度の高い飽和磁束密度と低磁歪で優れた軟磁気特性を示すことが知られている。更にナノ結晶合金は、経時変化が小さく、温度特性にも優れていることが知られている。
【0004】
アモルファス合金からなるアモルファス合金リボンを量産する場合、一般的には単ロール法などの溶湯超急冷法により製造される。単ロール法では、外周面が例えば銅(Cu)合金である冷却ロールの表面に合金溶湯を吐出し、急冷凝固させる。これにより、アモルファス合金リボンが製造される。そして、ナノ結晶合金からなるナノ結晶合金リボンは、このアモルファス合金リボンを熱処理し結晶化することにより製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平4-4393号公報
【特許文献2】特開平1-242755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年では、半導体デバイスの高周波化に伴い、より高効率、かつ小型・軽量化が求められており、高周波における損失が低い軟磁性材料が求められている。そこで、Fe基アモルファス合金リボンから製造されるFe基ナノ結晶合金リボンの厚さを薄くすることで、渦電流による損失を低くすること考えられる。しかしながら、Fe基アモルファス合金リボンを製造(鋳造)する際に、合金溶湯と冷却ロールとの界面に巻き込まれる空気や雰囲気ガスにより、Fe基アモルファス合金リボンの表面に凹部(エアポケット)が形成される。Fe基アモルファス合金リボンが薄い場合には、凹部の影響による占積率の低下が顕著となる。
【0007】
そこで、本発明は、Fe基アモルファス合金リボン、またはFe基ナノ結晶合金リボンの厚さを薄くしたとしても、占積率の低下を抑制することができる、Fe基ナノ結晶合金用Fe基アモルファス合金リボン、及びFe基ナノ結晶合金用Fe基アモルファス合金リボンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、厚さが11μm以上14μm以下であり、IEC60404-8-11:2018に準拠して測定される占積率が73%以上である、Fe基ナノ結晶合金用Fe基アモルファス合金リボンを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、Fe基アモルファス合金リボン、またはFe基ナノ結晶合金リボンの厚さを薄くしたとしても、占積率の低下を抑制することができる、Fe基ナノ結晶合金用Fe基アモルファス合金リボン、及びFe基ナノ結晶合金用Fe基アモルファス合金リボンの製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の実施形態に好適な、単ロール法によるFe基アモルファス合金リボン製造装置の一例を概念的に示す概略断面図である。
図2図2は、実施例4の光学顕微鏡により得られたロール面の画像である。
図3図3は、比較例1の光学顕微鏡により得られたロール面の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0012】
本明細書中において、Fe基アモルファス合金リボンとは、Fe基アモルファス合金からなるリボン(薄帯)を指す。また、本明細書中において、Fe基アモルファス合金とは、含有される金属元素の中で含有量(原子%)が最も多い元素がFe(鉄)であるアモルファス合金を指す。
【0013】
本明細書中において、Fe基ナノ結晶合金リボンとは、Fe基ナノ結晶合金からなるリボン(薄帯)を指す。また、本明細書中において、Fe基ナノ結晶合金とは、含有される金属元素の中で含有量(原子%)が最も多い元素がFe(鉄)であるナノ結晶合金を指す。
【0014】
本開示に係るFe基ナノ結晶合金用のFe基アモルファス合金リボンは、Fe基アモルファス合金リボンを結晶化させることによりFe基ナノ結晶合金を製造するためのFe基アモルファス合金リボンである。以下、本開示に係る「Fe基ナノ結晶合金用のFe基アモルファス合金リボン」を単に「Fe基アモルファス合金リボン」とも称する。
【0015】
<Fe基アモルファス合金リボン>
【0016】
Fe基アモルファス合金リボンは、製造時に冷却ロールの表面に付与された溶湯の冷却体であり、冷却ロールと接した一方の表面がロール面として、冷却ロールと接していない他方の表面が自由面として形成される。ロール面と自由面とは、Fe基アモルファス合金リボン表面の光沢により目視で判別することができる。ロール面は、冷却ロール表面の凹凸を転写しているため自由面よりも光沢がない。よって、Fe基アモルファス合金リボンの両面のうち、比較して、光沢がある面が自由面であり、光沢がない面がロール面となる。
【0017】
Fe基アモルファス合金リボンは、厚さが11μm以上14μm以下であり、占積率が73%以上である。Fe基アモルファス合金リボンの厚さを11μ以上とすることで、鋳造中における、Fe基アモルファス合金リボンの破断が起こりにくく、連続的に巻取ことができる。Fe基アモルファス合金リボンの厚さを14μm以下とすることで、電流損失が小さくなり、高周波領域での透磁率を高くすることができる。Fe基アモルファス合金リボンの厚さは、IEC 60404-8-11:2018に準拠し、鋳造方向から採取した2000mm長さの試料の重量およびリボン長さ、リボン幅、リボン密度から換算することができる。Fe基アモルファス合金リボンの占積率は、IEC 60404-8-11:2018に準拠し、100mm長さに切断した20枚のFe基アモルファス合金リボンを積層して積層体とし、マイクロメータにより測定される積層体の最大厚さとFe基アモルファス合金リボンの厚さの比により換算することができる。
【0018】
Fe基アモルファス合金リボンは、幅方向(鋳造方向に直交する方向)の寸法が30mm以上300mm以下であることが好ましい。
【0019】
Fe基アモルファス合金リボンは、ロール面の算術平均粗さRaが0.1μm以上0.6μm以下であることが好ましい。Fe基アモルファス合金リボンのロール面の算術平均粗さRaを0.6μm以下とすることで、ロール面の表面に凹凸が少ないFe基アモルファス合金リボンとすることができる。なお、算術平均粗さRaは、JIS B 0601:2001に準拠し、評価長さを4.0mmとし、カットオフ値を0.8mmとし、カットオフ種別を2RC(位相補償)として測定する。ここで、評価長さの方向は、Fe基アモルファス合金リボンの幅方向(鋳造方向に直交する方向)の中央を幅方向に沿って測定する。なお、Fe基アモルファス合金リボンは、自由面の方がロール面よりも算術平均粗さRaが大きくなる傾向にある。
【0020】
Fe基アモルファス合金リボンは、ロール面の最大断面高さRtが4μm以上7μm以下であることが好ましい。Fe基アモルファス合金リボンのロール面の最大断面高さRtを4μm以上とすることで、Fe基アモルファス合金リボンの冷却ロールへの密着性が安定し、鋳造中のFe基アモルファス合金リボンの破断が起こりにくく、連続して巻き取ることができる。Fe基アモルファス合金リボンのロール面の最大断面高さRtを7μm以下とすることで、ロール面の表面に凹凸が少ないFe基アモルファス合金リボンとすることができ、占積率が向上する。最大断面高さRtは、JIS B 0601:2001に準拠し、評価長さを4.0mmとし、カットオフ値を0.8mmとし、カットオフ種別を2RC(位相補償)として測定(評価)する。ここで、評価長さの方向は、Fe基アモルファス合金リボンの幅方向(鋳造方向に直交する方向)の中央を幅方向に沿って測定する。
【0021】
Fe基アモルファス合金リボンは、ロール面の最大山高さRpが1.2μm以上で2.0μm以下あることが好ましい。Fe基アモルファス合金リボンのロール面の最大山高さRpを1.2μm以上以上とすることで、Fe基アモルファス合金リボンの冷却ロールへの密着性が安定し、鋳造中のFe基アモルファス合金リボンの破断が起こりにくく、連続して巻き取ることができる。最大山高さRpは、JIS B 0601:2001に準拠し、評価長さを4.0mmとし、カットオフ値を0.8mmとし、カットオフ種別を2RC(位相補償)として測定(評価)する。ここで、評価長さの方向は、Fe基アモルファス合金リボンの幅方向(鋳造方向に直交する方向)の中央を幅方向に沿って測定する。
【0022】
Fe基アモルファス合金リボンは、ロール面の最大谷深さRvが0.5μm以上3.7μm以下であることが好ましい。Fe基アモルファス合金リボンのロール面の最大谷深さRvを3.7μm以下とすることで、ロール面の表面に凹が少ないFe基アモルファス合金リボンとすることができ、占積率が向上する。最大谷深さRvは、JIS B 0601:2001に準拠し、評価長さを4.0mmとし、カットオフ値を0.8mmとし、カットオフ種別を2RC(位相補償)として測定(評価)する。ここで、評価長さの方向は、Fe基アモルファス合金リボンの幅方向(鋳造方向に直交する方向)の中央を幅方向に沿って測定する。
【0023】
Fe基アモルファス合金リボンは、ロール面の最大高さRzが3.0μm以上5.0μm以下であることが好ましい。Fe基アモルファス合金リボンのロール面の最大高さRzを3.0μm以上とすることで、Fe基アモルファス合金リボンの冷却ロールへの密着性が安定し、鋳造中のFe基アモルファス合金リボン破断が起こりにくく連続して巻き取ることができる。Fe基アモルファス合金リボンのロール面の最大高さRzを5.0μm以下とすることで、ロール面の表面に凹凸が少ないFe基アモルファス合金リボンとすることができ、占積率が向上する。最大高さRzは、JIS B 0601:2001に準拠し、評価長さを4.0mmとし、カットオフ値を0.8mmとし、カットオフ種別を2RC(位相補償)として測定(評価)する。ここで、評価長さの方向は、Fe基アモルファス合金リボンの幅方向(鋳造方向に直交する方向)の中央を幅方向に沿って測定する。
【0024】
Fe基アモルファス合金リボンは、空間厚が4.8μm以下であることが好ましい。Fe基アモルファス合金リボンの空間厚を4.8μm以下とすることで、複数のFe基アモルファス合金リボンを積層して積層体とした際に、Fe基アモルファス合金リボンの厚みに対して、最大厚みが小さい積層体とすることができる。空間厚は、Fe基アモルファス合金リボンの厚さ(厚さ)とFe基アモルファス合金リボンの占積率(占積率)を用いて以下の数式1より求めることができる。
【0025】
[数1] 空間厚=厚さ×(100-占積率)/占積率
【0026】
Fe基アモルファス合金リボンは、反りが15mm以下であることが好ましい。Fe基アモルファス合金リボンの反りを15mm以下とすることで、Fe基アモルファス合金リボンの冷却ロールへの密着性が安定し、鋳造中のFe基アモルファス合金リボン破断が起こりにくく、連続的に巻き取ることができる。Fe基アモルファス合金リボンの反りは、Fe基アモルファス合金リボンをその両端が水平基準面上に設置するように置いた際の水平基準面と幅方向に反って浮き上がった最大高さをレーザー測定器によって測定する。
【0027】
Fe基アモルファス合金リボンは、周波数1kHzにおける比透磁率が75000以上であることが好ましい。周波数10kHzにおける比透磁率が50000以上であることが好ましい。周波数100kHzにおける比透磁率が10000以上であることが好ましい。Fe基アモルファス合金リボンの比透磁率は、Fe基アモルファス合金リボンを巻いて作成したトロイダルコアを550℃×20分で熱処理し、ナノ結晶化させた状態にてLCRメータを用いて、磁界0.05A/m、ターン数1の条件でインダクタンス(LS)を測定し、以下の数式2より求めることができる。ただし、数式2におけるlは磁路長、Aは断面積、μ0は真空の透磁率を示す。
【0028】
[数2] 比透磁率μr=L・l/A/μ0
【0029】
Fe基アモルファス合金リボンを構成するFe基アモルファス合金は、含有される金属元素の中で含有量(原子%)が最も多い元素がFe(鉄)であり、Fe-Si-B-Cu-Nb系組成を有する場合が好ましい。
【0030】
Fe基アモルファス合金は、少なくともFe(鉄)を含有するが、更に、Si(ケイ素)及びB(ホウ素)を含有することが好ましく、より好ましくは、Fe、Si及びBに加え、更に、銅(Cu)及びニオブ(Nb)を含有するものである。Fe基アモルファス合金は、更に、合金溶湯の原料となる純鉄等に含まれる元素である、C(炭素)を含んでいてもよい。なお、ニオブ(Nb)はモリブデン(Mo)又はバナジウム(V)に置換可能であり、鉄(Fe)の一部をニッケル(Ni)又はコバルト(Co)に置換できる。
【0031】
Fe基アモルファス合金としては、Fe、Si、B、Cu、Nb、C及び不可避不純物の総含有量を100原子%としたときに、Feの含有量が72原子%~84原子%であり、Siの含有量が2原子%~20原子%であり、Bの含有量が5原子%~14原子%であり、Cuの含有量が0.2原子%~2原子%であり、Nbの含有量が0.1原子%~5原子%であり、C(炭素)の含有量が0.5原子%以下であり、残部が不純物からなるFe基アモルファス合金が挙げられる。
【0032】
上記Feの含有量が72原子%以上であると、合金リボンの飽和磁束密度がより高くなるので、合金リボンを用いて製造される磁心のサイズの増加又は重量の増加がより抑制される。上記Feの含有量が84原子%以下であると、合金のキュリー点の低下及び結晶化温度の低下がより抑制されるので、磁心の磁気特性の安定性がより向上する。
【0033】
また、上記C(炭素)の含有量が0.5原子%以下であると、合金リボンの脆化がより
抑制される。上記C(炭素)の含有量としては、0.1原子%~0.5原子%が好ましい。より好ましいC(炭素)の含有量としては、0.15原子%~0.35原子%である。上記C(炭素)の含有量が0.1原子%以上であると、合金溶湯及び合金リボンの生産性に優れる。
【0034】
より好ましくは、Fe、Si、B、Cu、Nb、C及び不可避不純物の総含有量を100原子%とした場合に、Siの含有量が12原子%~18原子%であり、Bの含有量が5原子%~10原子%であり、Cuの含有量が0.8原子%~1.2原子%であり、Nbの含有量が2.0原子%~4.0原子%であり、Cの含有量が0.1原子%~0.5原子%であり、残部がFe及び不可避不純物からなるFe基アモルファス合金である。さらに好ましくは、Fe、Si、B、Cu、Nb、C及び不可避不純物の総含有量を100原子%とした場合に、Siの含有量が14原子%~16原子%であり、Bの含有量が6原子%~9原子%であり、Cuの含有量が0.9原子%~1.1原子%であり、Nbの含有量が2.5原子%~3.5原子%であり、Cの含有量が0.15原子%~0.35原子%であり、残部がFe及び不可避不純物からなるFe基アモルファス合金である。
【0035】
上述したFe基アモルファス合金の各々において、C(炭素)の含有量は、Fe、Si、及びBの総含有量を100原子%としたときに、0.1原子%~0.5原子%であることが好ましい。
【0036】
<Fe基ナノ結晶合金リボン>
Fe基ナノ結晶合金リボンは、上述のFe基アモルファス合金リボンを熱処理することにより得られる。Fe基アモルファス合金リボンの熱処理は、公知の方法により行うことができる。
【0037】
<Fe基アモルファス合金リボンの製造方法>
Fe基アモルファス合金リボンの製造方法を以下に説明する。
【0038】
図1は、単ロール法によるFe基アモルファス合金リボン製造装置の一例を概念的に示す概略断面図であり、合金リボン製造装置を、冷却ロール30の軸方向及び合金リボンの幅方向に対して垂直な面で切断した場合の切断面を示している。ここで、合金リボン22Cは、本発明の一実施形態のFe基アモルファス合金リボンの一例である。また、冷却ロール30の軸方向と合金リボン22Cの幅方向とは同一方向である。
【0039】
図1に示すように、Fe基アモルファス合金リボン製造装置である合金リボン製造装置100は、溶湯ノズル10を備えた坩堝20と、その外周面が溶湯ノズル10の先端に対向する冷却ロール30と、を備えている。
【0040】
坩堝20は、合金リボン22Cの原料となる合金溶湯22Aを収容しうる内部空間を有しており、この内部空間と溶湯ノズル10内の溶湯流路とが連通されている。これにより、坩堝20内に収容された合金溶湯22Aを、溶湯ノズル10によって冷却ロール30に吐出できるようになっている(図1では、合金溶湯22Aの吐出方向及び流通方向を矢印Qで示している)。なお、坩堝20及び溶湯ノズル10は、一体に構成されたものであってもよいし、別体として構成されたものであってもよい。
【0041】
坩堝20の周囲の少なくとも一部には、加熱手段としての高周波コイル40が配置されている。これにより、合金リボンの母合金が収容された状態の坩堝20を加熱して坩堝20内で合金溶湯22Aを生成したり、外部から坩堝20に供給された合金溶湯22Aの液体状態を維持できるようになっている。
【0042】
また、溶湯ノズル10は、合金溶湯を矢印Qの方向へ吐出するための開口部(吐出口)を有している。この開口部は、矩形(スリット形状)の開口部とすることが好適である。
【0043】
溶湯ノズル10の先端と冷却ロール30の外周面との距離(最近接距離)は、溶湯ノズル10によって合金溶湯22Aを吐出したときに、パドル22B(溶湯溜まり)が形成される程度に近接している。
【0044】
冷却ロール30は、回転方向Pの方向に軸回転する。冷却ロール30の内部には水等の冷却媒体が流通されており、冷却ロール30の外周面に形成された合金溶湯の塗膜を冷却できるようになっている。合金溶湯の塗膜を冷却することにより、合金リボン22C(Fe基アモルファス合金リボン)が生成される。
【0045】
冷却ロール30の材質としては、Cu及びCu合金(Cu-Be合金、Cu-Cr合金、Cu-Zr合金、Cu-Cr-Zr合金、Cu-Ni合金、Cu-Ni-Si合金、Cu-Ni-Si-Cr合金、Cu-Zn合金、Cu-Sn合金、Cu-Ti合金等)が挙げられ、熱伝導性が高い点で、Cu合金が好ましく、Cu-Be合金、Cu-Cr-Zr合金、Cu-Ni合金、Cu-Ni-Si合金、又はCu-Ni-Si-Cr合金がより好ましい。
【0046】
冷却ロール30外周面の表面粗さには特に限定はないが、冷却ロール30外周面の算術平均粗さ(Ra)は、0.1μm~0.5μmが好ましく、0.1μm~0.3μmがより好ましい。冷却ロール30外周面の算術平均粗さRaが0.5μm以下であると、合金リボンを用いて巻磁心を製造する際の占積率がより向上する。冷却ロール30外周面の算術平均粗さRaが0.1μm以上であると、Raの調整がより容易である。
【0047】
冷却ロール30の直径は、冷却能の観点から、200mm~1000mmが好ましく、300mm~800mmがより好ましい。また、冷却ロール30の回転速度は、単ロール法において通常設定される範囲とすることができるが、周速10m/s~40m/sが好ましく、周速20m/s~30m/sがより好ましい。
【0048】
合金リボン製造装置100は、更に、溶湯ノズル10よりも冷却ロール30の回転方向の下流側(以下、単に「下流側」ともいう)に、冷却ロールの外周面からFe基アモルファス合金リボンを剥離する剥離手段として、剥離ガスノズル50を備えている。本一例では、剥離ガスノズル50から、冷却ロール30の回転方向Pとは逆向き(図1中の破線の矢印の方向)に剥離ガスを吹きつけることによって、冷却ロール30から合金リボン22Cを剥離する。剥離ガスとしては、例えば、窒素ガスや圧縮空気等の高圧ガスを用いることができる。
【0049】
合金リボン製造装置100は、更に、剥離ガスノズル50よりも下流側に、冷却ロール30の外周面を研磨するための研磨手段として、研磨ブラシロール60を備えている。研磨ブラシロール60は、ロール軸部材61と、ロール軸部材61の周囲に配置された研磨ブラシ62と、を含む。研磨ブラシ62は、複数の砥粒がコーティングされた不織布から構成される。研磨ブラシロール60は、回転方向Rの方向に軸回転することにより、その研磨ブラシ62の不織布によって冷却ロール30の外周面を研磨する。
【0050】
上記研磨手段(例えば研磨ブラシロール60)による研磨の目的は、必ずしも冷却ロールの外周面を削ることには限定されず、冷却ロールの外周面に残留した残留物を除去することも含まれる。研磨の目的は、下記の第1の目的及び第2の目的の少なくとも一方であることが好ましい。
【0051】
第1の目的は、冷却ロール外周面の平滑性の劣化を修復することである。詳細には、合金溶湯と冷却ロール外周面とが最初に接触する際、冷却ロール外周面(例えばCu合金)のごく一部が合金溶湯中に溶解し、冷却ロール外周面に微小な凹部(脱落部分)が形成されることにより、冷却ロール外周面の平滑性が劣化する場合がある。冷却ロール外周面の平滑性の劣化は、製造される合金リボンのロール面(冷却ロール外周面に接触していた面。以下、同じ。)の平滑性の劣化の原因となり得る。冷却ロール外周面の平滑性が劣化した場合においても、上記研磨により、上記微小な凹部(脱落部分)に対して相対的に凸部となっている部分(即ち、溶解が抑制された部分)をほぼ均等に除去することにより、冷却ロール外周面の平滑性の劣化を修復できる。その結果、冷却ロール外周面の平滑性の劣化に起因する、合金リボンのロール面の平滑性の劣化を抑制できる。
【0052】
第2の目的は、合金リボン剥離後の冷却ロール外周面に残留した残留物(合金)を除去することである。冷却ロール外周面に吐出された合金溶湯は、急速に冷却されて合金リボンを形成し、その後、冷却ロール外周面から剥離される。このとき、合金リボンの材質である合金の一部が、冷却ロール外周面から剥離されずに残留物として残留し、この残留物が冷却ロール外周面に固着して凸部を形成する場合がある。合金リボンの鋳造は連続して行われるため、上記残留物による凸部が形成された冷却ロール外周面に対し、再度合金溶湯が吐出される。その結果、製造される合金リボンのロール面において、上記凸部に対応する位置に凹部が形成され、合金リボンのロール面の平滑性が劣化する場合がある。また、上記凸部を構成する残留物(合金)の熱伝導性が冷却ロール外周面(例えばCu合金)の熱伝導性よりも低い場合には、上記凸部において、冷却ロールによる急冷特性が局所的に劣化し、合金リボンの磁気特性が低下するおそれがある。合金リボン剥離後の冷却ロール外周面に上記残留物が残留した場合においても、上記研磨により、上記残留物を除去することができる。その結果、上記残留物に起因する、合金リボンのロール面の平滑性の劣化を抑制できる。また、上記残留物に起因する、合金リボンの磁気特性の低下を抑制できる。
【0053】
合金リボン製造装置100は、更に、冷却ロールの合金溶湯が供給される面に雰囲気ガスを噴射(供給)するための雰囲気ガスノズル70を備えている。
【0054】
雰囲気ガスノズル70から噴射される雰囲気ガスは、ノズル先端部のロール表面付近のガス雰囲気を制御するため、CO2ガス又はCOガスを吹き付けている。
【0055】
合金リボン製造装置100は、上述した要素以外のその他の要素(例えば、製造された合金リボン22Cを巻き取る巻き取りロール等)を備えていてもよい。
【0056】
次に、合金リボン製造装置100を用いた合金リボン22Cの製造方法の一例について説明する。まず、坩堝20に、合金リボン22Cの原料となる合金溶湯22Aを準備する。合金溶湯22Aの温度は、合金の組成を考慮して適宜設定されるが、例えば1210℃~1410℃、好ましくは1280℃~1400℃である。
【0057】
次に、回転方向Pに軸回転する冷却ロール30の外周面に、溶湯ノズル10によって合金溶湯を吐出し、パドル22Bを形成しながら合金溶湯による塗膜を形成する。形成された塗膜を冷却ロール30の外周面で冷却し、外周面上に合金リボン22Cを形成する。次に、冷却ロール30の外周面に形成された合金リボン22Cを、剥離ガスノズル50からの剥離ガスの吹きつけによって冷却ロール30の外周面から剥離し、不図示の巻き取りロールによってロール状に巻き取って回収する。一方、合金リボン22Cが剥離した後の冷却ロール30の外周面は、回転方向Rに軸回転する研磨ブラシロール60の研磨ブラシ62によって研磨される。研磨された冷却ロール30の外周面に対し、再び合金溶湯が吐出される。以上の動作が繰り返されることにより、長尺状の合金リボン22Cが連続的に製造(鋳造)される。
【実施例0058】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0059】
<Fe基アモルファス合金リボンの作製>
図1に示す合金リボン製造装置100と同様の合金リボン製造装置を準備した。冷却ロールとしては、外周面の材質がCu-Be合金であり、直径が400mmであり、外周面の算術平均粗さRaが0.3μmである冷却ロールを用いた。
【0060】
まず、坩堝内で、Fe、Si、B、Cu、Nb、C及び不可避不純物からなる合金溶湯(以下、「Fe-Si-B-Cu-Nb系合金溶湯」ともいう。)を調製した。具体的には、純鉄、フェロシリコン、及びフェロボロンを混合して溶解させ、Fe、Si、B、Cu、Nb、C及び不可避不純物の総含有量を100原子%としたときに、Siの含有量が15原子%であり、Bの含有量が7原子%であり、Cuの含有量が1原子%であり、Nbの含有量が3原子%であり、Cの含有量が0.2原子%であり、残部がFe及び不可避不純物からなる合金溶湯を調製した。原子%の数値は、溶湯から合金の一部を採取して、ICP発光分光分析法により測定された量である。
【0061】
次に、このFe-Si-B-Cu-Nb系合金溶湯を、長辺の長さ53mm×短辺の長さ0.3mmの矩形(スリット形状)の開口部を有する溶湯ノズルの該開口部から、回転する冷却ロールの外周面に吐出し、急冷凝固させて、リボン幅53mmのアモルファス合金リボンを500kg作製(鋳造)した。鋳造時間は60分であり、合金リボンが切れることなく連続して鋳造された。上記鋳造は、冷却ロール外周面を研磨ブラシロールの研磨ブラシ(不織布)によって研磨しながら行った。
【0062】
以下に、鋳造の詳細な条件を示す。
<鋳造条件>
合金溶湯温度:1350℃~1390℃
冷却ロールの周速:20m/s~30m/s
合金溶湯の吐出圧力:5kPa~30kPaの範囲内で調整
溶湯ノズル先端と冷却ロールの外周面との距離(ギャップ):0.1mm~0.35mmの範囲内で調整
【0063】
実施例1~8、及び比較例5では、雰囲気ガスノズルから所定の雰囲気ガスを噴射(供給)しながら、厚さが表1の寸法になるように製造した。
【0064】
比較例1~4では、雰囲気ガスノズルから雰囲気ガスを噴射(供給)せずに、厚さが表1の寸法となるように製造した。
【0065】
実施例1~8および比較例1~5について、ロール面および自由面の表面粗さ(算術平均粗さRa、最大山高さRp、最大谷深さRv、最大高さRz、最大断面高さRt)、厚さ、反り、占積率、空間厚、比透磁率を測定した。各測定値の測定結果は表1に示す。なお、各測定値の測定方法については、前述のとおりである。
【0066】
【表1】
【0067】
表1に示すように、実施例1~8では、冷却ロールの前記溶湯が供給される面に雰囲気ガスが噴射(供給)することによって、厚さが11μm以上14μm以下であっても、占積率が73%以上であるFe基アモルファス合金リボンを得ることができた。また、空間厚は4.8μm以下であった。また、図2に、実施例4の光学顕微鏡により得られたロール面の画像を示す。
【0068】
比較例1~3では、冷却ロールの前記溶湯が供給される面に雰囲気ガスが噴射(供給)していないが、厚さが14μm超であるため、占積率が73%以上となった。また、空間厚は4.8μm超であった。図3に、比較例1の光学顕微鏡により得られたロール面の画像を示す。
【0069】
比較例4では、冷却ロールの前記溶湯が供給される面に雰囲気ガスが噴射(供給)せず、厚さを14μm以下としたところ、占積率が73%未満となった。また、空間厚は4.8μm超であった。比較例5では、冷却ロールの前記溶湯が供給される面に雰囲気ガスが噴射(供給)したが、ロール面の最大山高さRpが1.2μm未満であるため、占積率が73%未満となった。また、空間厚は4.8μm超であった。
【0070】
以上のとおり、冷却ロールの前記溶湯が供給される面に雰囲気ガスが噴射(供給)されることによって、厚さが11μm以上14μm以下であっても、占積率が73%以上であるFe基アモルファス合金リボンを得られることが分かる。また、冷却ロールの前記溶湯が供給される面に雰囲気ガスが噴射(供給)されることによって、空間厚が4.8μm以下であるFe基アモルファス合金リボンを得られることが分かる。
【0071】
また、実施例1~8では、冷却ロールの前記溶湯が供給される面に雰囲気ガスが噴射(供給)されることによって、凹部(エアポケット)の形成を抑制し、ロール面の算術平均粗さRaを0.6μm以下と小さくすることができた。同様に、冷却ロールの前記溶湯が供給される面に雰囲気ガスが噴射(供給)されることによって、最大山高さRp、最大谷深さRv、最大高さRz、および最大断面高さRtを小さくすることができた。このように、冷却ロールの前記溶湯が供給される面に雰囲気ガスが噴射(供給)されることによって、凹部(エアポケット)の形成が抑制されているため、占積率を向上する(空間厚を抑える)ことができる。図2および図3からも、比較例(図3)に比べて、実施例(図2)におけるロール面の凹部(エアポケット)の形成が抑制されていることが分かる。
【符号の説明】
【0072】
10:溶湯ノズル
20:坩堝
30:冷却ロール
40:高周波コイル
50:剥離ガスノズル
60:研磨ブラシロール
70:雰囲気ガスノズル
100:合金リボン製造装置

図1
図2
図3