(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165865
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】ポリアミドイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂組成物、ポリアミドイミド樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 18/34 20060101AFI20241121BHJP
C08G 18/28 20060101ALI20241121BHJP
C08G 73/14 20060101ALN20241121BHJP
【FI】
C08G18/34 030
C08G18/28 005
C08G73/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082421
(22)【出願日】2023-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】三浦 紗理
【テーマコード(参考)】
4J034
4J043
【Fターム(参考)】
4J034BA02
4J034CA02
4J034CA22
4J034CA25
4J034CB01
4J034CB04
4J034CB07
4J034CC12
4J034CC61
4J034CC65
4J034HA01
4J034HA07
4J034HC12
4J034HC64
4J034HC71
4J034JA02
4J034LA06
4J034RA07
4J043PA02
4J043PB22
4J043QB58
4J043RA05
4J043RA34
4J043SA11
4J043SA47
4J043SB01
4J043TA11
4J043TA21
4J043TA25
4J043TA71
4J043TB01
4J043UA122
4J043UA131
4J043UB011
4J043VA021
4J043VA041
4J043XA16
4J043XB06
4J043XB07
(57)【要約】
【課題】NMPの代替溶剤を使用して、保管時の粘度安定性に優れるポリアミドイミド樹脂、及びポリアミドイミド樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】 ブロック剤で処理した末端イソシアネート基を有し、前記ブロック剤が、アルコール及びモノカルボン酸からなる群から選択される少なくとも1種を含む、ポリアミドイミド樹脂。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロック剤で処理された末端イソシアネート基を有し、前記ブロック剤が、アルコール及びモノカルボン酸からなる群から選択される少なくとも1種を含む、ポリアミドイミド樹脂。
【請求項2】
前記ブロック剤が、モノカルボン酸を含む、請求項1に記載のポリアミドイミド樹脂。
【請求項3】
前記モノカルボン酸が、炭素数2~10の脂肪族モノカルボン酸、又は安息香酸を含む、請求項1又は2に記載のポリアミドイミド樹脂。
【請求項4】
数平均分子量が5,000~100,000である、請求項1又は2に記載のポリアミドイミド樹脂。
【請求項5】
ジイソシアネートと、三塩基酸無水物又は三塩基酸ハライドを含む酸成分と、下記式(I)で表される構造を有する有機溶剤と、ブロック剤とを用いて得られ、前記ブロック剤が、アルコール及びモノカルボン酸からなる群から選択される少なくとも1種を含む、ポリアミドイミド樹脂組成物。
【化1】
[式中、R
1及びR
2は、互いに独立して炭素数が1~3のアルキル基であるか、又は互いに結合して5員又は6員の、窒素原子を含む複素環基を構成しており、R
3は水素、又は炭素数が1~4のアルキル基である。]
【請求項6】
ブロック剤で処理された末端イソシアネート基を有し、前記ブロック剤が、アルコール及びモノカルボン酸からなる群から選択される少なくとも1種を含む、ポリアミドイミド樹脂と、下記式(I)で表される構造を有する有機溶剤とを含む、ポリアミドイミド樹脂組成物。
【化2】
[式中、R
1及びR
2は、互いに独立して炭素数が1~3のアルキル基であるか、又は互いに結合して5員又は6員の、窒素原子を含む複素環基を構成しており、R
3は水素、又は炭素数が1~4のアルキル基である。]
【請求項7】
請求項5又は6に記載のポリアミドイミド樹脂組成物を含む塗料。
【請求項8】
請求項7に記載の塗料を用いて形成した塗膜を有する物品。
【請求項9】
請求項5又は6に記載のポリアミドイミド樹脂組成物を用いて形成した成形品。
【請求項10】
ポリアミドイミド樹脂と、下記式(I)で表される構造を有する有機溶剤とを含む、ポリアミドイミド樹脂組成物の製造方法であって
前記有機溶剤中で、ジイソシアネートを含むイソシアネート成分と、三塩基酸無水物又は三塩基酸ハライドを含む酸成分とを反応させて、末端イソシアネート基を有するポリアミドイミド樹脂を含む液体を形成すること
前記末端イソシアネート基を有するポリアミドイミド樹脂を含む液体と、ブロック剤とを反応させることを含み、
前記ブロック剤が、アルコール及びモノカルボン酸からなる群から選択される少なくとも1種を含む、ポリアミドイミド樹脂組成物の製造方法。
【化3】
[式中、R
1及びR
2は、互いに独立して炭素数が1~3のアルキル基であるか、又は互いに結合して5員又は6員の、窒素原子を含む複素環基を構成しており、R
3は水素、又は炭素数が1~4のアルキル基である。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリアミドイミド樹脂に関し、より詳細にはブロック剤で処理された末端イソシアネート基を有するポリアミドイミド樹脂に関する。本発明の他の実施形態は、上記実施形態のポリアミドイミド樹脂と有機溶剤とを含む樹脂組成物、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドイミド樹脂は、耐熱性、耐薬品性及び耐溶剤性に優れているため、各種機器に対する塗料、成形品材料等の様々な用途で広く用いられる。例えば、ポリアミドイミド樹脂は、エナメル線用ワニス、耐熱塗料、二次電池用セパレーター等の材料として好適に使用されている。二次電池用セパレーターの材料として、より具体的には、荷電紡糸法によって紡糸したポリアミドイミド繊維の集合体又はポリアミドイミド樹脂を用いて形成された不織布などが知られている。
【0003】
ポリアミドイミド樹脂の良溶剤としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)が知られており、NMPはポリアミドイミド樹脂の合成時に汎用されている。また、各種用途において、NMPを含有するポリアミドイミド樹脂組成物が広く使用されている。
しかし、近年、環境保全及び安全衛生の観点から、NMPの使用に関する規制が厳しくなっている。また、NMPの沸点は200℃以上であり、乾燥時に高温での加熱が必要となる。そのため、NMPを含有するポリアミドイミド樹脂組成物は、乾燥性の観点からも改善が望まれている。したがって、NMPと同等にポリアミドイミド樹脂を溶解可能な代替溶剤でありながら、比較的低い温度で良好な乾燥性が得られる有機溶剤を使用したポリアミドイミド樹脂組成物が望まれている。
【0004】
これに対し、ポリアミドイミド樹脂を溶解可能であり、かつ比較的低い沸点を有する有機溶剤として、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等を用いた様々な検討が進められている。例えば、特許文献1は、ポリアミドイミド樹脂と、DMACとを含む樹脂溶液を製造し、荷電紡糸法によって紡糸したポリアミドイミド繊維を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように特許文献1は、DMACの存在下で合成したポリアミドイミド樹脂の溶液を使用して、ポリアミドイミド繊維を紡糸できることを記載している。しかし、特許文献1には、紡糸によって得たポリアミドイミド繊維の具体的な特性、及びポリアミドイミド樹脂溶液の保管時の粘度安定性に関する記載はない。
一般的にNMP存在下でジイソシアネートと酸成分とを用いて合成して得たポリアミドイミド樹脂と比較して、DMAC等の有機溶剤の存在下で合成して得たポリアミドイミド樹脂は特性が低下しやすい。例えば、ポリアミドイミド樹脂の合成時にDMACを使用した場合、保管時に樹脂の粘度変化が起こりやすく、使用時に所望とする特性を得ることが困難となる傾向がある。
【0007】
したがって、本発明は、NMPの代替となる有機溶剤を使用して、保管時の粘度安定性に優れるポリアミドイミド樹脂を提供する。また、本発明は、上記ポリアミドイミド樹脂と、NMPの代替となる有機溶剤とを用いて構成されるポリアミドイミド樹脂組成物とその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ジイソシアネートと酸成分との反応によってポリアミドイミド樹脂を合成した場合、保管時に末端イソシアネート基の反応に起因してゲル化などの粘度増加が生じやすい。一方、本発明者は、種々の検討のなかで、NMPに代えてDMAC等の有機溶剤を使用してポリアミドイミド樹脂を合成した場合、保管時に樹脂の粘度減少が生じやすいことを見出している。これは、DMAC中でポリアミドイミド樹脂を合成した場合、イソシアネート基同士の反応が進行しやすくなり、樹脂におけるイソシアネート基同士の結合部が多くなる傾向がある。保管時の樹脂の粘度低減は、上記イソシアネート基同士の結合部の加水分解が一因であると推測される。
【0009】
上記状況から、本発明者はポリアミドイミド樹脂の保管時の粘度変化、特に粘度低減を抑制する方法について種々検討を行い、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の実施形態は以下に関するが、以下に限定されるものではない。
【0010】
[1]ブロック剤で処理された末端イソシアネート基を有し、前記ブロック剤が、アルコール及びモノカルボン酸からなる群から選択される少なくとも1種を含む、ポリアミドイミド樹脂。
【0011】
[2]前記ブロック剤が、モノカルボン酸を含む、上記[1]に記載のポリアミドイミド樹脂。
【0012】
[3]前記モノカルボン酸が、炭素数2~10の脂肪族モノカルボン酸、又は安息香酸を含む、上記[1]又は[2]に記載のポリアミドイミド樹脂。
【0013】
[4]数平均分子量が5,000~100,000である、上記[1]又は[2]に記載のポリアミドイミド樹脂。
【0014】
[5]ジイソシアネートと、三塩基酸無水物又は三塩基酸ハライドを含む酸成分と、下記式(I)で表される構造を有する有機溶剤と、ブロック剤とを用いて得られ、前記ブロック剤が、アルコール及びモノカルボン酸からなる群から選択される少なくとも1種を含む、ポリアミドイミド樹脂組成物。
【0015】
【0016】
式中、R1及びR2は、互いに独立して炭素数が1~3のアルキル基であるか、又は互いに結合して5員又は6員の、窒素原子を含む複素環基を構成しており、R3は水素、又は炭素数が1~4のアルキル基である。
【0017】
[6]ブロック剤で処理された末端イソシアネート基を有し、前記ブロック剤が、アルコール及びモノカルボン酸からなる群から選択される少なくとも1種を含む、ポリアミドイミド樹脂と、下記式(I)で表される構造を有する有機溶剤とを含む、ポリアミドイミド樹脂組成物。
【0018】
【0019】
式中、R1及びR2は、互いに独立して炭素数が1~3のアルキル基であるか、又は互いに結合して5員又は6員の、窒素原子を含む複素環基を構成しており、R3は水素、又は炭素数が1~4のアルキル基である。
【0020】
[7]上記[5]又は[6]に記載のポリアミドイミド樹脂組成物を含む塗料。
【0021】
[8]上記[7]に記載の塗料を用いて形成した塗膜を有する物品。
【0022】
[9]上記[5]又は[6]に記載のポリアミドイミド樹脂組成物を用いて形成した成形品。
【0023】
[10]ポリアミドイミド樹脂と、下記式(I)で表される構造を有する有機溶剤とを含む、ポリアミドイミド樹脂組成物の製造方法であって、
前記有機溶剤中で、ジイソシアネートを含むイソシアネート成分と、三塩基酸無水物又は三塩基酸ハライドを含む酸成分とを反応させて、末端イソシアネート基を有するポリアミドイミド樹脂を含む液体を形成すること、及び
前記末端イソシアネート基を有するポリアミドイミド樹脂を含む液体と、ブロック剤とを反応させることを含み、
前記ブロック剤が、アルコール及びモノカルボン酸からなる群から選択される少なくとも1種を含む、ポリアミドイミド樹脂組成物の製造方法。
【0024】
【0025】
式中、R1及びR2は、互いに独立して炭素数が1~3のアルキル基であるか、又は互いに結合して5員又は6員の、窒素原子を含む複素環基を構成しており、R3は水素、又は炭素数が1~4のアルキル基である。
【発明の効果】
【0026】
本発明の実施形態によれば、NMPの代替溶剤を使用して、保管時の粘度安定性に優れるポリアミドイミド樹脂を提供することができる。また、本発明の実施形態によれば、上記ポリアミドイミド樹脂と、NMPの代替溶剤とを用いて構成される、ポリアミドイミド樹脂組成物とその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
<1>ポリアミドイミド樹脂
ポリアミドイミド樹脂は、原料モノマーとして、代表的に、ジイソシアネートと、三塩基酸無水物又は三塩基酸ハライドを含有する酸成分とを使用し、これらを反応させて得られる樹脂である。本実施形態のポリアミドイミド樹脂は、上記ジイソシアネートと酸成分との反応によって得られるポリアミドイミド樹脂の末端イソシアネート基を、アルコール及び/又はモノカルボン酸といった特定のブロック剤で処理したポリアミドイミド樹脂(以下、ブロック化ポリアミドイミド樹脂という)である。
【0028】
上記実施形態のブロック化ポリアミドイミド樹脂は、より具体的には、アルコールによる処理によって形成される末端ウレタン構造、及び/又はモノカルボン酸による処理によって形成される末端アミド構造を有する。ポリアミドイミド樹脂は、後述する各原料モノマーの2種以上を各々任意に組み合わせて使用して得られる樹脂であってよい。
【0029】
(ジイソシアネート)
ジイソシアネートは、特に限定されず、芳香族ジイソシアネート及び脂肪族ジイソシアネートのいずれでもよい。原料モノマーとして、必要に応じてジイソシアネート以外のポリイソシアネート、又はカルボジイミド変性体などのポリイソシアネートの変性体をさらに使用してもよい。一実施形態において、イソシアネート成分は、ジイソシアネートのみから構成されることが好ましい。
【0030】
芳香族ジイソシアネートの具体例として、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、3,3’-ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’-ジメトキシビフェニル-4,4’-ジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等が挙げられる。脂肪族ジイソシアネートの具体例として、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアレート等が挙げられる。
耐熱性の観点から、芳香族ジイソシアネートが好ましい。なかでも、反応性の観点からは、少なくとも4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートを用いることが好ましい。
【0031】
一実施形態においてポリアミドイミド樹脂は、原料モノマーとして、イソシアネート成分に加えてジアミンを使用してもよい。ジアミンとしては、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、キシリレンジアミン、フェニレンジアミン、イソホロンジアミン等が挙げられる。
【0032】
(酸成分)
酸成分は、三塩基酸無水物又は三塩基酸ハライドを含む。三塩基酸無水物としては、特に限定されないが、好ましくは芳香族三塩基酸無水物が用いられ、なかでもトリメリット酸無水物が好ましい。三塩基酸ハライドについても特に限定はされないが、三塩基酸クロライドが好ましく、芳香族三塩基酸クロライドがさらに好ましい。具体例として、トリメリット酸無水物クロライド(無水トリメリット酸クロリド)等が挙げられる。環境への負荷を軽減させる観点から、トリメリット酸無水物等を用いることが好ましい。
【0033】
酸成分は、上記三塩基酸無水物(又は三塩基酸ハライド)の他に、ジカルボン酸、テトラカルボン酸二無水物等の飽和又は不飽和多塩基酸をさらに含んでもよい。これらの飽和又は不飽和多塩基酸は、ポリアミドイミド樹脂の特性を損なわない範囲で使用することが好ましい。
【0034】
ジカルボン酸としては、特に限定されないが、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、及びセバシン酸等が挙げられる。テトラカルボン酸二無水物としては、特に限定されないが、ピロメリット酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、及びビフェニルテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらは、単独で使用しても、又は2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0035】
三塩基酸以外のカルボン酸(ジカルボン酸とテトラカルボン酸)の総量は、ポリアミドイミド樹脂の特性を保つ観点から、全カルボン酸中に50モル%以下の範囲で使用されるのが好ましく、30モル%以下の範囲であることがより好ましい。一実施形態において、上記三塩基酸以外のカルボン酸の総量は、0質量%であってよい。
【0036】
ジイソシアネートと、酸成分との使用比率は、生成されるポリアミドイミド樹脂の分子量及び架橋度を考慮して調整することができる。例えば、酸成分の総量1.0モルに対して、ジイソシアネートの総量を0.8~1.1モルとすることが好ましく、0.95~1.08モルとすることがより好ましい。特に、末端イソシアネート基を有するポリアミドイミド樹脂が容易に得られる観点から、酸成分の総量1.0モルに対してジイソシアネートの総量を1.0~1.08モルとすることがいっそう好ましい。
上記酸成分の総量とは、三塩基酸無水物又は三塩基酸無水物ハライドと、必要に応じて使用するジカルボン酸及びテトラカルボン酸二無水物の合計量を意味する。また、ジイソシアネートの総量とは、ジアミンを含む場合はジイソシアネートとジアミンとの総量を意味する。
【0037】
(ブロック剤)
ブロック剤は、アルコール及びモノカルボン酸からなる群から選択される少なくとも1種を含む。これらを使用して末端イソシアネートを処理したブロック化ポリアミドイミド樹脂は、特定の末端構造を有し、保管時の粘度低下だけでなく、増粘も抑制され、経時後も優れた特性を容易に維持することができる。一実施形態において、保管時の粘度安定性の観点から、ポリアミドイミド樹脂は、モノカルボン酸で処理された末端イソシアネート基を有することが好ましい。
【0038】
(アルコール)
ブロック剤として使用できるアルコールは、分子内に水酸基を1つ有する飽和又は不飽和の化合物であってよく、脂肪族アルコール、及び芳香族アルコールのいずれであってもよい。
脂肪族アルコールは、炭素数1~6であってよく、直鎖、分岐、環状のいずれの構造を有してもよい。芳香族アルコールは、ベンジルアルコール等の炭素数1~3のアルキレン基を介して芳香環に水酸基が結合した化合物であってよい。芳香族アルコールにおいて、芳香族アルコールは、芳香環に水酸基、カルボキシ基以外の置換基Rを含んでもよい。置換基Rは、特に限定されないが、炭素数1~6のアルキル基及び/又はアルコキシ基であってよい。芳香族アルコールには、芳香環に水酸基が直接結合したフェノール、クレゾール等のフェノール化合物も含まれる。
一実施形態において、ブロック剤として、炭素数1~6の脂肪族アルコールがより好ましい。具体例として、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等が挙げられる。なかでもメタノールを好適に使用することができる。
【0039】
(モノカルボン酸)
ブロック剤として使用できるモノカルボン酸は、分子内にカルボキシ基を1つ有する飽和又は不飽和の脂肪族モノカルボン酸、あるいは芳香族モノカルボン酸であってよい。
脂肪族モノカルボン酸の炭素数は、2~10であってよい。すなわち、脂肪族モノカルボン酸においてカルボキシ基の炭素を除いた脂肪族基は、炭素数が1~9であってよい。上記脂肪族モノカルボン酸の炭素数は、好ましくは2~6であってよく、より好ましくは1~4であってよい。脂肪族モノカルボン酸は、直鎖状、分岐状、環状のいずれの構造を有してもよい。一実施形態において、炭素数2~6の直鎖構造のモノカルボン酸が好ましい。脂肪族モノカルボン酸の具体例として、酢酸、プロピオン酸、酪酸、メタクリル酸、吉草酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸等が挙げられる。なかでも、プロピオン酸を好適に使用することができる。
【0040】
芳香族モノカルボン酸は、例えば、カルボキシ基の炭素を除いた芳香環の炭素数が6~12であってよい。芳香族モノカルボン酸において、芳香環は、単環構造、縮合多環構造、又は芳香族基が連結基によって相互に結合した多環構造のいずれでもよい。芳香環の具体例として、ベンゼン、ナフタレン、ジフェニルアルカン、ジフェニルエーテル等が挙げられる。芳香環は、カルボキシ基以外の置換基Rをさらに有してもよい。置換基Rは、特に限定されないが、炭素数1~6のアルキル基及び/又はアルコキシ基であってよい。
芳香族モノカルボン酸の具体例として、安息香酸、トルイル酸、ケイ皮酸等が挙げられる。トルイル酸は、オルト体、メタ体、パラ体のいずれであってもよい。なかでも、安息香酸を好適に使用することができる。
【0041】
<2>ポリアミドイミド樹脂の製造方法
ポリアミドイミド樹脂は、特に限定されず周知の方法を適用して製造することができる。代表的には、原料モノマーとして、ジイソシアネートと、三塩基酸無水物及び/又は三塩基酸ハライドを含む酸成分とを使用し、これらを有機溶剤中で反応させること(重合工程)、及び上記重合工程に加えて、ポリアミドイミド樹脂の末端イソシアネート基をブロック剤で処理すること(ブロック化工程)を含む。上記重合工程において、ジイソシアネートの一部をジアミンに代えてもよい。以下、各工程についてより具体的に説明する。
【0042】
(重合工程)
上記重合工程で使用する原料モノマーの詳細は、先に説明したとおりである。重合工程は、ポリアミドイミド樹脂の合成時(重合反応時)に使用されるNMP等の周知の有機溶剤(以下、合成溶剤ともいう)を使用して実施できる。一実施形態において、有機溶剤(合成溶剤)は、NMPの代替溶剤であってよく、下記式(I)で表される構造を有する有機溶剤を少なくとも含むことが好ましい。
【0043】
【0044】
式中、R1及びR2は、互いに独立して炭素数が1~3のアルキル基であるか、又は互いに結合して5員又は6員の、窒素原子を含む複素環基を構成しており、R3は水素、又は炭素数が1~4のアルキル基である。
【0045】
上記式(I)で表される構造を有する有機溶剤の具体例として、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、4-ホルミルモルホリン(4-モルホリンカルボアルデヒド)、N,N-アセチルホルムアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、N,N-ジメチルプロピオンアミド等が挙げられる。
一実施形態において、有機溶剤は、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、及びN,N-アセチルホルムアミドからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。これら溶剤の沸点はNMPよりも低いことから、樹脂溶液の乾燥性の改善が可能となる。有機溶剤は、少なくともN,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)を含むことがより好ましい。
【0046】
上記式(I)で表される構造を有する有機溶剤を使用した場合、重合反応後の反応混合物(液体)をそのままポリアミドイミド樹脂組成物として使用することができる。すなわち、一実施形態において、合成溶剤及び後述する希釈溶剤の双方でDMAC等の上記式(I)で表される構造を有する有機溶剤を使用してもよい。
【0047】
重合工程において使用する有機溶剤の使用量は、特に限定されない。一実施形態において、ポリアミドイミド樹脂の溶解性の観点から、ジイソシアネート(及び必要に応じて使用するジアミン)と酸成分との総量100質量部に対して、有機溶剤の使用量は50~500質量部とすることが好ましい。
反応温度についても、特に限定されない。使用する有機溶剤の沸点などを考慮して調整することができ、一般に、80~180℃の温度であってよい。重合反応は、空気中の水分の影響を低減するため、窒素等の雰囲気下で実施することが好ましい。
【0048】
ポリアミドイミド樹脂を製造する重合工程の手順の具体例として以下が挙げられる。
(1)酸成分、及びジイソシアネートを一度に使用し、反応させてポリアミドイミド樹脂を合成する方法。
(2)酸成分と、ジイソシアネートの過剰量とを反応させて、末端にイソシアネート基を有するアミドイミドオリゴマーを合成した後、酸成分を追加して末端のイソシアネート基と反応させてポリアミドイミド樹脂を合成する方法。
(3)酸成分の過剰量と、ジイソシアネートとを反応させて、末端に酸又は酸無水物基を有するアミドイミドオリゴマーを合成した後、ジイソシアネートを追加して末端の酸又は酸無水物基と反応させてポリアミドイミド樹脂を合成する方法。
【0049】
本実施形態の製造方法では、上記(1)~(3)のいずれの方法を適用してもよく、必要に応じてジイソシアネートとジアミンとを併用してもよい。特に限定するものではないが、末端イソシアネート基を有するポリアミドイミド樹脂を容易に得られることから、上記(2)の方法を好ましく適用できる。ジイソシアネートと酸成分との配合比は、先に説明したとおりである。
【0050】
(ブロック化工程)
本実施形態のブロック化ポリアミドイミド樹脂は、上記重合工程に加えて、ポリアミドイミド樹脂の末端イソシアネート基をブロック剤で処理すること(ブロック化工程)によって得られる。ここで、ブロック剤として、アルコール及び/又はモノカルボン酸を使用する。これらのブロック剤については、先に説明したとおりである。
【0051】
重合工程とブロック化工程の2つの工程は、それぞれ別工程として実施しても、2つの工程を同時に、つまり重合反応とブロック化反応とを同時に実施してもよい。別工程で実施する場合、重合工程後のポリアミドイミド樹脂にブロック剤を反応させる。また、上記2つの工程を同時に実施する場合は、合成溶剤中にブロック剤を添加しておけばよい。
【0052】
ブロック化におけるブロック剤の配合量は、重合工程時に使用するジイソシアネートの全配合量を100質量部として、1.0~10.0質量部の範囲に調整することが好ましい。得られるブロック化ポリアミドイミド樹脂組成物の保管時の粘度安定性の観点から、ブロック剤の上記配合量は、2.5~5.0質量部の範囲に調整することがより好ましい。
【0053】
ポリアミドイミド樹脂の分子量は、特に限定されず、樹脂の用途に応じて調整することが好ましい。ポリアミドイミド樹脂の分子量は、合成時の条件を調整することによって調整することができる。
一実施形態において、ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量(Mn)は、5,000以上であることが好ましく、10,000以上であることがより好ましく、15,000以上であることがさらに好ましい。一方、溶剤への溶解性を確保し、塗布又は各種加工に適した粘度が容易に得られる観点から、ポリアミドイミド樹脂のMnは100,000以下であることが好ましく、80,000以下であることがより好ましく、70,000以下がさらに好ましい。
【0054】
一実施形態において、ポリアミドイミド樹脂を繊維材料の用途で使用する場合、紡糸工程での機械的強度を確保する観点から、ポリアミドイミド樹脂のMnは5,000~100,000であることが好ましい。なかでも、例えば不織布の形態に成形された時に、所望とする耐熱性を確保する観点から、ポリアミドイミド樹脂のMnは20,000以上であることが好ましい。
【0055】
一実施形態において、ポリアミドイミド樹脂のMnは、20,000~60,000の範囲であることが好ましい。上記範囲内のMnを有するポリアミドイミド樹脂を使用した場合、耐熱性と溶剤への溶解性との良好なバランスを得ることが容易となり、塗布工程を良好に実施することが可能となる。
ポリアミドイミド樹脂のMnは、樹脂合成時にサンプルリングして、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定し、目的とするMnになるまで合成を継続することにより、上記好ましい範囲に管理することができる。GPCの測定条件は、実施例に記載したとおりである。
【0056】
<3>ポリアミドイミド樹脂組成物
一実施形態において、ポリアミドイミド樹脂組成物は、ジイソシアネートと、三塩基酸無水物又は三塩基酸ハライドを含む酸成分と、上記式(I)で表される構造を有する有機溶剤と、ブロック剤とを用いて得られる混合物であってよい。上記実施形態において、混合物は、未反応のジイソシアネート、未反応の酸成分、又は未反応のブロック剤を含んでよい。他の実施形態において、混合物は、ジイソシアネートと酸成分との反応によって得られる末端イソシアネート基を有するポリアミドイミド樹脂と、未反応のブロック剤とを含んでよい。
【0057】
他の実施形態において、ポリアミドイミド樹脂組成物は、ジイソシアネートと、三塩基酸無水物又は三塩基酸ハライドを含む酸成分との反応によって得られる末端イソシアネート基を有し、その少なくとも一部がブロック剤で処理されたブロック化ポリアミドイミド樹脂と、上記式(I)で表される構造を有する有機溶剤とを含む混合物であってよい。上記実施形態において、混合物は、ブロックされていない末端イソシアネート基を有するポリアミドイミド樹脂と、未反応のブロック剤とを含んでよい。
【0058】
上記ポリアミドイミド樹脂組成物の各々の実施形態において、上記式(I)で表される構造を有する有機溶剤、及びブロック剤の詳細は、先に説明したとおりである。ポリアミドイミド樹脂組成物(以下、樹脂組成物ともいう)は、上記実施形態のポリアミドイミド樹脂、及び有機溶剤に加えて、さらに用途に応じてその他の成分を含んでもよい。
【0059】
ポリアミドイミド樹脂組成物は、有機溶剤として上記式(I)で表される構造を有する有機溶剤を少なくとも含む。ポリアミドイミド樹脂組成物は、本発明による効果を低下させない範囲で、上記式(I)で表される構造を含まないその他の溶剤をさらに含んでいてもよい。
その他の溶剤として、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジン等から選ばれる1種以上の極性溶剤、又は水を用いることができる。
【0060】
さらに、助溶剤として、アニソール、ジエチルエーテル、エチレングリコール等のエーテル化合物;アセトフェノン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサンノン、シクロペンタノン等のケトン化合物;キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素溶剤を任意に用いてもよい。
上記式(I)で表される構造を有する有機溶剤(以下、有機溶剤(I)ともいう)に加えて、これ以外のその他溶剤を使用して混合溶剤の形態とする場合、混合溶剤中のDMAC等の有機溶剤(I)の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。混合溶剤における有機溶剤(I)の含有量を上記範囲に調整することによって、本実施形態による好ましい効果を容易に得ることができる。
【0061】
一実施形態において、上記樹脂組成物は、実質的にNMPを含まないことが好ましい。「実質的にNMPを含まない」とは、樹脂組成物の全質量を基準として、好ましくはNMPの含有量が0.3質量%未満であってよい。NMPの含有量は、好ましくは0.2質量%未満であってよく、より好ましくは0.1質量%未満であってよい。そのため、例えば、樹脂の合成などのプロセスにおいて混入して樹脂組成物中に残存するNMPを完全に除外するものではない。
【0062】
本実施形態のポリアミドイミド樹脂組成物において、ポリアミドイミド樹脂の含有量は、特に限定はされず、用途に応じて適宜調整することができる。ポリアミドイミド樹脂による機能を十分に発揮させるために、樹脂組成物中の全固形成分を基準とするポリアミドイミド樹脂の含有量は10質量%以上であることが好ましい。2種以上のポリアミドイミド樹脂を組み合わせて使用してもよいが、少なくとも上記実施形態のブロック化ポリアミドイミド樹脂を含むことで保管時の粘度低減を抑制することが容易となる。
上記ポリアミドイミド樹脂の含有量は、樹脂組成物中の全固形成分を基準として、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、特に好ましくは80質量%以上であってよい。一実施形態において、上記含有量は100質量%であってもよい。
【0063】
一実施形態において、他の成分とのバランスの観点から、樹脂組成物中の固形成分を基準とするポリアミドイミド樹脂の含有量は、1~60質量%であることが好ましい。上記含有量は、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることがさらに好ましい。一方、上記含有量は50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。
【0064】
樹脂組成物中の固形成分の全質量を基準とするポリアミドイミド樹脂の含有量を上記範囲内に調整することによって、各種機器に対する保護膜などの塗膜を形成するための塗料、又は各種成形品材料として好適に使用することができる。本発明の一実施形態は、上記樹脂組成物を含む塗料であってよい。また、一実施形態は、上記塗料を用いて形成した塗膜を有する物品であってよい。さらに、一実施形態は、上記樹脂組成物を用いて形成した成形品であってよい。
【0065】
本実施形態のポリアミドイミド樹脂組成物は、各種器材に対する保護膜などの塗膜を形成するための塗料、成形品材料等、様々な用途に使用することができる。本実施形態のポリアミドイミド樹脂は、耐熱性が要求される用途でも好適に使用できる。
耐熱用途の具体例として、電池用セパレーター、燃料排ガスフィルター、耐熱部品用塗膜等の高温環境下での使用が想定される各種用途が挙げられる。このような耐熱用途での使用を想定した場合、充分な耐熱性を得る観点から、樹脂組成物を構成する樹脂は270℃以上のガラス転移温度(Tg)を有することが好ましい。
【0066】
上記耐熱用途に向けて、本実施形態のポリアミドイミド樹脂組成物は、(A)数平均分子量が20,000以上のポリアミドイミド樹脂と、(B)上記式(I)で表される構造を有する有機溶剤(有機溶剤(I)ともいう)とを含むことが好ましい。有機溶剤(I)は、少なくともN,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)を含むことが好ましい。
上記実施形態の樹脂組成物によれば、数平均分子量が20,000以上のポリアミドイミド樹脂を使用することによって、270℃以上のガラス転移温度(Tg)を得ることが容易である。ここで、Tgは、示差走査熱量計(DSC)を使用して測定した値である。また、上記ポリアミドイミド樹脂はDMACに対して優れた溶解性を示すため、優れた流動性を容易に得ることもできる。
【0067】
本実施形態のポリアミドイミド樹脂組成物は、その用途及び使用形態に応じて、ポリアミドイミド樹脂及び有機溶剤に加えて、顔料、充填材、消泡剤、防腐剤、界面活性剤、増粘剤等の任意成分をさらに含んでもよい。充填材等の任意成分の種類は、その耐水性、耐薬品性等を考慮して選択することができ、水に溶解しない成分が好ましい。
【0068】
一実施形態において、ポリアミドイミド樹脂組成物は、溶融紡糸によって製造される不織布の材料として好適に使用できる。上記樹脂組成物を用いて溶融紡糸を実施した場合、紡糸時に十分な強度を有する繊維を容易に得ることができ、また流動性の低下等を抑制し作業性を良好に維持することができる。
【0069】
一実施形態において、樹脂組成物を用いて不織布を製造する場合、樹脂組成物は、必要に応じて界面活性剤をさらに含有していることが好ましい。界面活性剤としては、特に制限されるものではないが、樹脂組成物が均一に混合して紡糸後に繊維が乾燥するまで分層又は分相を起こさず、かつ、繊維が集合してなる不織布を構成した時に多くの残留物が残らないものが好ましい。
界面活性剤の含有量は、特に制限されない。樹脂組成物の均一な混合状態を保ち、かつ、塗布や加工の製造時に悪影響を与えないようにするために、樹脂組成物中の含有量は0.01~10質量%が好ましく、0.5~5質量%がより好ましい。
【0070】
一実施形態において、樹脂組成物は、各種機器に対する保護膜などの塗膜を形成するための塗料、および成形品材料として使用することもできる。この場合、得られる塗膜及び成形品の耐水性等を向上させるために、樹脂組成物は、充填材をさらに含んでもよい。
具体的には、充填材としては、金属粉、金属酸化物(酸化アルミ、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化チタン等)、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラス粒子、セラミックス、炭化珪素、酸化珪素、弗化カルシウム、カーボンブラック、グラフアイト、マイカ、及び硫酸バリウム等を挙げることができる。これらは、各々を単独で使用しても、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0071】
一実施形態において、上記樹脂組成物は、ポリアミドイミド樹脂以外の樹脂を含んでいてもよい。例えば、必要に応じて、フッ素樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂(PES)、ポリイミド樹脂(PI)、ポリアミド樹脂、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、メラミン化合物等を、単独で使用しても、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0072】
例えば、フッ素樹脂としては、四フッ化エチレン樹脂、四フッ化エチレン-パーフルオロビニルエーテル共重合体、又は四フッ化エチレン-六フッ化プロピレン共重合体を好ましく使用することができる。これらの2種以上を組み合わせて使用してもよい。樹脂組成物にフッ素樹脂を追加した場合、非粘着性、耐食性、耐熱性及び耐薬品性等の特性を付与することが容易となる。
【0073】
エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂等)、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、臭素化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、o-クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、可撓性エポキシ樹脂、多官能エポキシ樹脂、アミン型エポキシ樹脂、複素環含有エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート、ビキシレノール型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0074】
これらのエポキシ化合物を単独で使用しても、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、エポキシ化合物は単独で添加してポリアミドイミド樹脂と反応させてよい。別法として、成形後にエポキシ化合物の未反応物が残留し難いように、硬化剤又は硬化促進剤等と共に添加してもよい。
【0075】
イソシアネート化合物としては、デュラネート等のヘキサメチレンジイソシアネートのポリイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートから合成されるポリイソシアネートなどが挙げられる。このポリイソシアネートの質量平均分子量は500~9,000であることが好ましく、より好ましくは1,000~5,000である。
【0076】
メラミン化合物としては、特に制限はない。例えば、メラミンにホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド等を反応させたメチロール基含有化合物が挙げられる。このメチロール基は、炭素原子数1~6個のアルコールでエーテル化されている構造が好ましい。
【0077】
一実施形態において、樹脂組成物はエポキシ化合物(エポキシ樹脂)をさらに含むことが好ましい。エポキシ化合物を配合することによって、ポリアミドイミド樹脂組成物の熱的、機械的、電気的特性をより向上させることができる。
樹脂組成物に含まれるエポキシ化合物、イソシアネート化合物、及びメラミン化合物の各配合量は、ポリアミドイミド樹脂100質量部に対して、それぞれ、例えば1質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましい。一方、ポリアミドイミド樹脂組成物の耐熱性と強度を保持する観点から、上記配合量は、40質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることがより好ましい。
【0078】
<4>ポリアミドイミド樹脂組成物の製造方法
一実施形態において、ポリアミドイミド樹脂組成物は、ジイソシアネートと、三塩基酸無水物又は三塩基酸ハライドを含む酸成分との反応によって得られる末端イソシアネート基がブロック剤で処理されたブロック化ポリアミドイミド樹脂と、上記式(I)で表される構造を有する有機溶剤とを含んでよい。上記ブロック化ポリアミドイミド樹脂は、上記式(I)で表される構造を有する有機溶剤(有機溶剤(I))の存在下で原料モノマーの反応、さらにブロック剤を用いた反応を行うことによって製造できる。そのため、一実施形態において、樹脂組成物は、上記ポリアミドイミド樹脂の製造方法によって得られた液体(反応混合物)をそのまま使用して製造することができる。この場合、上記液体に、必要に応じて希釈溶剤を追加してもよい。
【0079】
すなわち、一実施形態において、ポリアミドイミド樹脂組成物の製造方法は、DMAC等を含有する有機溶剤(I)中で、ジイソシアネートと、三塩基酸無水物又は三塩基酸ハライドを含む酸成分とを反応させて、末端イソシアネート基を有するポリアミドイミド樹脂を含む液体を形成すること(重合工程)と、上記末端イソシアネート基を有するポリアミドイミド樹脂を含む液体と、ブロック剤とを反応させること(ブロック化工程)とを含み、上記ブロック剤が、アルコール及びモノカルボン酸からなる群から選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする。
【0080】
他の実施形態において、上記製造方法は、上記重合工程、及びブロック化工程に加えて、ポリアミドイミド樹脂を含む液体に希釈溶剤を添加すること(希釈工程)をさらに含んでもよい。
【0081】
上記実施形態において、重合工程時に使用する有機溶剤、及び/又は希釈溶剤は、先にポリアミドイミド樹脂の製造方法において先に説明したとおりである。一実施形態において、有機溶剤(I)は少なくともDMACを含むことが好ましい。先に説明したように、重合工程とブロック化工程とは別々に実施しても、同時に実施してもよい。
【実施例0082】
以下、本発明を実施例によって説明するが、好ましい実施形態はこれらの実施例に限定されるものではなく、発明の主旨に基づいたこれら以外の多くの実施態様を含むことは言うまでもない。
【0083】
後述する実施例及び比較例において、ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は以下のようにして測定した。
<数平均分子量>
GPC機種:東ソー株式会社製のHLC-8320GPC
検出器:東ソー株式会社製のRI
波長:270nm
データ処理機:ATT 8
カラム:Gelpack GL-S300MDT-5×2
カラムサイズ:8mmφ×300mm
カラム温度:40℃
溶剤:DMF/THF=1/1(リットル)+リン酸0.06M+臭化リチウム0.06M
試料濃度:5mg/1mL
注入量:5μL
圧力:49kgf/cm2(4.8×106Pa)
流量:1.0mL/min
【0084】
<1>ポリアミドイミド樹脂溶液(樹脂組成物)の製造
(実施例1)
トリメリット酸無水物96.1g、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート126g、及びN,N-ジメチルアセトアミド519gを、温度計、撹拌機、及び冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で撹拌しながら1時間かけて徐々に昇温して90℃まで上げた。このまま3時間加熱を続けた後、反応によって生ずる炭酸ガスの急激な発泡に注意しながら徐々に昇温して140℃まで上げ、加熱開始から5時間加熱を続け、冷却し反応を停止させた。その後、メタノールを3g添加し撹拌しながら80℃で1時間にわたって加熱し、ポリアミドイミド樹脂溶液(樹脂組成物)を得た。
得られたポリアミドイミド樹脂溶液を室温まで放置した後に、外観を目視で観察したところ、均一で透明であった。このポリアミドイミド樹脂溶液の不揮発分(200℃/2時間)は、29質量%で、ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は29,000であった。
【0085】
(実施例2)
トリメリット酸無水物96.1g、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート126g、及びN,N-ジメチルアセトアミド519gを、温度計、撹拌機、及び冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で撹拌しながら1時間かけて徐々に昇温して90℃まで上げた。このまま3時間加熱を続けた後、反応によって生ずる炭酸ガスの急激な発泡に注意しながら徐々に昇温して140℃まで上げ、加熱開始から5時間加熱を続け、冷却し反応を停止させた後、安息香酸を3g添加し撹拌しながら80℃で1時間加熱し、ポリアミドイミド樹脂溶液(樹脂組成物)を得た。
得られたポリアミドイミド樹脂溶液を室温まで放置した後に、外観を目視で観察したところ、均一で透明であった。このポリアミドイミド樹脂溶液の不揮発分(200℃/2時間)は、29質量%で、ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は28,000であった。
【0086】
(実施例3)
トリメリット酸無水物105g、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート97g、3,3’-ジメトキシビフェニル-4,4’-ジイソシアネート44g、及びN,N-ジメチルアセトアミド459gを、温度計、撹拌機、及び冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で撹拌しながら2時間かけて徐々に昇温して100℃まで上げた。このまま2時間加熱を続けた後、反応によって生ずる炭酸ガスの急激な発泡に注意しながら徐々に昇温して140℃まで上げ、加熱開始から3時間加熱を続け、冷却し反応を停止させた後、プロピオン酸を3g添加し撹拌しながら80℃で1時間加熱し、ポリアミドイミド樹脂溶液(樹脂組成物)を得た。
得られたポリアミドイミド樹脂溶液を室温まで放置した後に、外観を目視で観察したところ、均一で透明であった。このポリアミドイミド樹脂溶液の不揮発分(200℃/2時間)は、32質量%であり、ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は27,000であった。
【0087】
(比較例1)
トリメリット酸無水物105g、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート97g、3,3’-ジメトキシビフェニル-4,4’-ジイソシアネート44g、及びN,N-ジメチルアセトアミド459gを、温度計、撹拌機、及び冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で撹拌しながら2時間かけて徐々に昇温して100℃まで上げた。このまま2時間加熱を続けた後、反応によって生ずる炭酸ガスの急激な発泡に注意しながら徐々に昇温して140℃まで上げ、加熱開始から3時間加熱を続け、冷却し反応を停止させポリアミドイミド樹脂溶液(樹脂組成物)を得た。
得られたポリアミドイミド樹脂溶液を室温まで放置した後に、外観を目視で観察したところ、均一で透明であった。このポリアミドイミド樹脂溶液の不揮発分(200℃/2時間)は、32質量%であり、ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は28,000であった。
【0088】
(比較例2)
トリメリット酸無水物96.1g、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート126g、及びN,N-ジメチルアセトアミド519gを、温度計、撹拌機、及び冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で撹拌しながら1時間かけて徐々に昇温して90℃まで上げた。このまま3時間加熱を続けた後、反応によって生ずる炭酸ガスの急激な発泡に注意しながら徐々に昇温して140℃まで上げ、加熱開始から6時間加熱を続け、冷却し反応を停止させた後、水を3g添加し撹拌しながら1時間80℃へ加熱し、ポリアミドイミド樹脂溶液(樹脂組成物)を得た。
得られたポリアミドイミド樹脂溶液を室温まで放置した後に、外観を目視で観察したところ、均一で透明であった。このポリアミドイミド樹脂溶液の不揮発分(200℃/2時間)は、29質量%で、ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は32,000であった。
【0089】
(参考例)
トリメリット酸無水物105g、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート97g、3,3’-ジメトキシビフェニル-4,4’-ジイソシアネート44g、及びNMP459gを、温度計、撹拌機、及び冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で撹拌しながら2時間かけて徐々に昇温して100℃まで上げた。このまま2時間加熱を続けた後、反応によって生ずる炭酸ガスの急激な発泡に注意しながら徐々に昇温して140℃まで上げ、加熱開始から2時間加熱を続け、冷却し反応を停止させポリアミドイミド樹脂溶液(樹脂組成物)を得た。
得られたポリアミドイミド樹脂溶液を室温まで放置した後に、外観を目視で観察したところ、均一で透明であった。このポリアミドイミド樹脂溶液の不揮発分(200℃/2時間)は、32質量%であり、ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は32,000であった。
【0090】
<2>ポリアミドイミド樹脂組成物の評価
(粘度変化率(%))
上記実施例、比較例及び参考例で得られたポリアミドイミド樹脂組成物(ワニス)について、以下の手順に従い、それぞれ60℃で30日間保管した前後での粘度変化率(%)を算出した。
先ず、ポリアミドイミド樹脂組成物(ワニス)を保管前にその粘度を測定した。次に、上記樹脂組成物(ワニス)の一定量を密閉容器に入れ、この密閉容器を60℃に設定した乾燥器内で30日間にわたって保管した後に粘度を測定した。それぞれの測定値から、下記(式1)に従い、粘度変化率を算出した。算出した値を表1に示す。
【0091】
(式1)
粘度変化率(%)=(V2-V1)/V1×100
【0092】
式1において、「V1」は、保管前に測定した粘度を表す。「V2」は、60℃で30日間保管後に測定した粘度を表す。
なお、それぞれの粘度測定は、JIS C 2103に準拠し、B型回転粘度計を用い、25℃、ローター3号、回転数6もしくは12rpmの条件下で実施した。
【0093】
【0094】
(評価基準)
A:粘度増減が0~5%未満である
B:粘度増減が5%以上~12%未満である
C:粘度増減が12%以上である
【0095】
表1に示すように、参考例の樹脂組成物では明らかな粘度上昇が生じるが、DMAC中で合成し、ブロック剤による処理をしていないポリアミドイミド樹脂を含む樹脂組成物(比較例1)では粘度低下が生じる。特に、比較例2に示すようにブロック剤として水を使用した場合は、加水分解が加速され、粘度減少が大きくなっている。これに対し、本発明によるブロック化ポリアミドイミド樹脂を使用した樹脂組成物(実施例1~3)は、保管時の粘度減少が抑制され、特に、モノカルボン酸によってブロック処理したポリアミドイミド樹脂を含む樹脂組成物(実施例2及び3)は粘度増加も抑制されている。
以上のことから、本発明によれば、加水分解による粘度低下を抑制し、かつ粘度増加も抑制できることで、粘度安定性に優れたポリアミドイミド樹脂組成物を提供できることが分かる。