(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165887
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】TCF3-HLF型B細胞性急性リンパ性白血病の治療剤
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20241121BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20241121BHJP
A61K 45/06 20060101ALI20241121BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241121BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20241121BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20241121BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P35/02
A61K45/06
A61P43/00 121
A61K39/395 D
A61K31/7088
A61K39/395 U
A61K48/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082464
(22)【出願日】2023-05-18
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度国立研究開発法人日本医療研究開発機構医療研究開発推進事業費補助金橋渡し研究プログラム研究開発課題名:シーズA20-10難治性急性リンパ性白血病に対する新規予防・治療薬の開発に関する委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100136939
【弁理士】
【氏名又は名称】岸武 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】伊川 友活
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 藍彩
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084AA20
4C084MA02
4C084MA52
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZB27
4C084ZC75
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB31
4C085CC22
4C085CC23
4C085DD62
4C085EE01
4C085EE03
4C085GG01
4C085GG08
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB27
4C086ZC75
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、TCF3-HLF型B細胞性急性リンパ性白血病(TCF3-HLF型B-ALL)に対する新規な治療剤を提供することである。
【解決手段】本発明は、インターロイキン-1βの機能、及び/又は発現を阻害する有効成分を含む、TCF3-HLF型B細胞性急性リンパ性白血病の治療剤を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インターロイキン-1βの機能、及び/又は発現を阻害する有効成分を含む、TCF3-HLF型B細胞性急性リンパ性白血病の治療剤。
【請求項2】
前記有効成分が、抗インターロイキン-1β抗体、インターロイキン-1レセプターアンタゴニスト、低分子化合物、及び核酸から選択される1以上を含む、請求項1に記載の治療剤。
【請求項3】
B細胞性リンパ腫阻害剤と併用される、請求項1又は2に記載の治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TCF3-HLF型B細胞性急性リンパ性白血病の治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
急性リンパ性白血病(acute lymphoblastic leukemia;ALL)は血液がんの一種であり、小児期に発症する悪性腫瘍のうち最も頻度が高い(非特許文献1等)。
急性リンパ性白血病は、B細胞性リンパ性白血病(B-ALL)、及びT細胞性リンパ性白血病(T-ALL)に分類される。そのうち、難治性B-ALLは、TCF3(Transcription Factor 3)融合遺伝子の発現を特徴とし、TCF3-HLF型B-ALL、及びTCF3-PBX1型B-ALL等に分類される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】伊川 友活、「19. 急性リンパ性白血病の新規治療薬の開発」、上原記念生命科学財団研究報告集、35(2021)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
他方で、難治性B-ALLには、未だ有効な治療方法が見出されていない。このような状況を踏まえ、本発明者らは、難治性B-ALLのうち、TCF3-HLF型B-ALLに着目し、その有効な治療標的の探索を行った。
【0005】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、TCF3-HLF型B細胞性急性リンパ性白血病(TCF3-HLF型B-ALL)に対する新規な治療剤の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、TCF3-HLF型B細胞性急性リンパ性白血病の新規な治療標的として、インターロイキン-1βを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下を提供する。
【0007】
(1) インターロイキン-1βの機能、及び/又は発現を阻害する有効成分を含む、TCF3-HLF型B細胞性急性リンパ性白血病の治療剤。
【0008】
(2) 前記有効成分が、抗インターロイキン-1β抗体、インターロイキン-1レセプターアンタゴニスト、低分子化合物、及び核酸から選択される1以上を含む、(1)に記載の治療剤。
【0009】
(3) B細胞性リンパ腫阻害剤と併用される、(1)又は(2)に記載の治療剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、TCF3-HLF型B細胞性急性リンパ性白血病(TCF3-HLF型B-ALL)に対する新規な治療剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】TCF3-HLF型B-ALL細胞におけるIL-1βの発現の影響を示す図である。
【
図2】TCF3-HLF型B-ALL細胞における、抗IL-1β抗体存在下でのIL-1βの発現の影響を示す図である。
【
図3】TCF3-HLF型B-ALL細胞における、抗IL-1β抗体、及び白血病治療剤存在下でのIL-1βの発現の影響を示す図である。
【
図4】TCF3-HLF型B-ALL細胞における、低分子化合物存在下でのIL-1βの発現の影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0013】
<本発明の治療剤>
本発明は、TCF3-HLF型B細胞性急性リンパ性白血病の治療剤に係る発明である。
本発明の治療剤は、インターロイキン-1βの機能、及び/又は発現を阻害する有効成分を含む点に主要な技術的特徴がある。
【0014】
本発明者らは、後述の実施例のとおり、TCF3-HLF型B-ALLを発症するモデルマウスを確立し、遺伝子解析による発症メカニズムの特定を試みた。
その結果、TCF3-HLF型B-ALL細胞と、TCF3-PBX1型B-ALL細胞とでは、発現変動遺伝子が大きく異なることを見出した。
そして、TCF3-HLF型B-ALL細胞では、インターロイキン-1β(IL-1β)の発現が顕著に高いという特有の特徴を見出した。
【0015】
さらに、本発明者らは、TCF3-HLF型B-ALL細胞においてIL-1β遺伝子を欠損させると細胞増殖が顕著に抑制されたことから、IL-1βが、TCF3-HLF型B-ALL細胞の増殖を促進することを見出した。
【0016】
以上の結果から、IL-1βは、TCF3-HLF型B-ALLの有効な治療標的であることがわかった。この知見に基づけば、IL-1βの機能、及び/又は発現を阻害することで、TCF3-HLF型B細胞性急性リンパ性白血病の治療効果が期待できる。
【0017】
本発明において「治療」とは、TCF3-HLF型B細胞性急性リンパ性白血病の症状の治癒、緩和、寛解、進行抑制等を包含する。
本発明において「治療剤」とは、上記のような治療効果を実現する医薬品を包含する。
【0018】
以下、本発明の治療剤の構成について詳述する。
【0019】
(1)有効成分
本発明の治療剤は、インターロイキン-1βの機能、及び/又は発現を阻害する成分を有効成分として含む。
【0020】
インターロイキン-1βの機能、及び/又は発現を阻害する成分は、1種の成分であってもよく、2種以上の成分の組み合わせであってもよい。
【0021】
本発明において、「インターロイキン-1βの機能を阻害する成分」とは、インターロイキン-1βタンパク質が有する任意の生理的機能を阻害する成分を包含する。
インターロイキン-1βの機能を阻害する成分としては、抗インターロイキン-1β抗体、インターロイキン-1レセプターアンタゴニスト、インターロイキン-1βの機能を阻害する低分子化合物等が挙げられる。
【0022】
本発明において、「インターロイキン-1βの発現を阻害する成分」とは、インターロイキン-1β遺伝子の発現を抑制、又は遮断する成分を包含する。
インターロイキン-1βの発現を阻害する成分としては、インターロイキン-1β遺伝子の発現を抑制、又は遮断する低分子化合物や核酸等が挙げられる。
【0023】
本発明において、「低分子化合物」とは、分子量が1000以下である医薬用化合物を包含する。
本発明において有効な低分子化合物として、免疫プロテアソーム阻害剤として知られる「ONX-0914」(CAS番号:960374-59-8、分子量:580.70)が挙げられる。
【0024】
本発明において、「核酸」とは、核酸医薬として用いられ得る任意の形態の核酸(DNA、mRNA、siRNA、shRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド等)を包含する。
【0025】
本発明における有効成分の好ましい形態は、抗インターロイキン-1β抗体、インターロイキン-1レセプターアンタゴニスト、低分子化合物、及び核酸から選択される1以上である。これらのうち、本発明の効果が奏されやすいという観点から、抗インターロイキン-1β抗体が特に好ましい。
【0026】
(2)その他の有効成分
本発明の治療剤において、本発明の効果を阻害しない範囲で、上記以外の有効成分を配合してもよく、配合しなくてもよい。
また、本発明の治療剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で、上記以外の有効成分と併用してもよく、併用しなくてもよい。
【0027】
本発明の治療剤は、例えば、従来の白血病治療剤とともに併用し得る。
このような白血病治療剤として、B細胞性リンパ腫-2(BCL-2)阻害剤として知られる「ベネトクラクス」(CAS番号:1257044-40-8)が挙げられる。
本発明者らの検討の結果、本発明の治療剤(特に、抗IL-1β抗体)とともに、ベネトクラクスを併用すると、抗IL-1β抗体単独投与、及びベネトクラクス単独投与に対して、TCF3-HLF型B-ALL細胞の増殖を有意に抑制できることがわかった。
【0028】
本発明の治療剤と、その他の有効成分との使用比率は特に限定されないが、質量比で143.94:1~287.87:1であり得る。
【0029】
(3)その他の配合成分
本発明の治療剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で、通常の医薬品に含まれ得る任意の成分を配合してもよく、配合しなくてもよい。
このような成分として、溶媒、賦形剤、安定化剤、抗酸化剤、色素等が挙げられる。これらの成分の種類や量は、本発明の治療剤の形態等に応じて適宜選択できる。
【0030】
(4)本発明の治療剤の形態
本発明の治療剤の形態は特に限定されず、注射剤、経口剤等であり得る。
【0031】
(5)本発明の治療剤の投与対象
本発明の治療剤の投与対象は、TCF3-HLF型B細胞性急性リンパ性白血病を発症し得る任意の生体を包含する。例えば、本発明の治療剤の投与対象は、ヒト、及びヒト以外の哺乳類等を包含する。
【0032】
(6)本発明の治療剤の投与量
本発明の治療剤の投与量は、症状や、投与対象の状態(年齢、体重等)に応じて適宜設定できる。
【実施例0033】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
(1)TCF3融合遺伝子発現iLS細胞の作製
B6マウス骨髄のLSK(Lineage marker- Sca-1+ckit+)細胞へレトロウイルスを用いてヒトID3および改変型エストロゲン受容体(ERT2)融合遺伝子「hID3-ERT2」を導入し、これをB細胞分化誘導条件で培養することにより、iLS細胞(induced Leukocyte Stem cell)を作製した。
また、PLAT-Eパッケージング細胞(東京大学医科学研究所 北村俊雄教授より取得)から、常法によりレトロウイルスを作製した。
次いで、iLS細胞へ、レトロウイルスを用いて、TCF3-PBX1遺伝子又はTCF3-HLF遺伝子を導入した。
遺伝子導入2日後に、遺伝子導入細胞の選択マーカーであるヒトNGFR陽性の細胞をソーティングし、TCF3融合遺伝子発現iLS細胞として、「TCF3-HLF陽性iLS細胞」、及び「TCF3-PBX1陽性iLS細胞」を得た。
【0035】
なお、iLS細胞の作製は、Ikawaらの方法(“Induced Developmental Arrest of Early Hematopoietic Progenitors Leads to the Generation of Leukocyte Stem Cells.”、Stem Cell Reports. 2015 Nov 10;5(5):716-727. doi: 10.1016/j.stemcr.2015.09.012. PMID: 26607950)に基づいて実施した。
【0036】
(2)TCF3融合遺伝子発現iLS細胞の発がん評価
上記で得られたTCF3融合遺伝子発現iLS細胞を、放射線照射した野生型マウスの尾静脈から、2.0×106細胞ずつ移植した。
その結果、移植後3~4ヶ月で全ての個体が死亡した。これらの個体では、脾臓やリンパ節が肥大し、骨髄や脾臓において、「pro-B細胞」(CD19+B220+IgM-CD43+cKit+)段階にある「B-ALL様細胞」の浸潤を確認した。
【0037】
この結果から、TCF3融合遺伝子発現iLS細胞が、マウス生体内において、TCF3-HLF型又は、TCF3-PBX1型のB-ALLを発症させることを確認した。
【0038】
なお、以下、TCF3-HLF陽性iLS細胞の移植の結果得られたB-ALL様細胞を「TCF3-HLF型B-ALL細胞」という。また、TCF3-PBX1陽性iLS細胞の移植の結果得られたB-ALL様細胞を「TCF3-PBX1型B-ALL細胞」という。
【0039】
(3)遺伝子発現解析
TCF3-HLF型B-ALL細胞、及びTCF3-PBX1型B-ALL細胞について、遺伝子発現解析を行った。対照として、正常pro-B細胞の解析も併せて行った。
【0040】
(3-1)PCA解析
PCA(principal component analysis)解析を行った結果、TCF3-HLF型B-ALL細胞、及びTCF3-PBX1型B-ALL細胞の遺伝子発現パターンは大きく異なっていた。
【0041】
(3-2)パスウェイ解析
Metascape(https://metascape.org/gp/index.html#/main/step1)により発現変動遺伝子のパスウェイ解析を行った結果、TCF3-HLF型B-ALL細胞では、リンパ球の活性化、サイトカイン産生、炎症反応等に関連する遺伝子の発現増加が認められた。
これらの遺伝子の発現を制御する転写因子を解析したところ、発がんに関与する因子(TP53、MYC等)や、TCF3-HLFとの関連が示唆されてきた因子(P300、BCL6等)だけではなく、炎症反応に関わる因子(NFKB1、STAT3等)も見出された。
また、TCF3-HLF型B-ALL細胞における上記遺伝子の発現量は、正常pro-B細胞やTCF3-PBX1型B-ALL細胞と比較して顕著に高かった。
【0042】
(3-3)定量的逆転写PCR解析
上記(3-2)の結果を踏まえて、各遺伝子の発現を、定量的逆転写PCR(RT-qPCR)解析したところ、TCF3-HLF型B-ALL細胞ではIL-1βの発現量が特に高く、TCF3-PBX1型B-ALL細胞での発現量に対して100倍以上の値を示した。
この結果を踏まえ、以下、IL-1βに着目して検討を進めた。
【0043】
(4)TCF3-HLF型B-ALL細胞におけるIL-1βの発現の検討
上記(2)と同様にマウスへの細胞移植を行い、TCF3-HLF型B-ALL発症マウスを得た。
マウスから得られた、TCF3-HLF型B-ALL発症前及び発症後の細胞のそれぞれにおいて、IL-1βのmRNA、及びタンパク発現量を解析した。解析は、RT-qPCRとウェスタンブロッティングによって行った。
その結果、TCF3-HLF型B-ALL発症前の細胞では、IL-1βの発現が検出されなかった。
これに対し、TCF3-HLF型B-ALL発症後の細胞では、IL-1βの顕著な発現が検出された。
【0044】
(5)TCF3-HLF型B-ALL細胞におけるIL-1βの発現の影響-1
IL-1β遺伝子を高発現するTCF3-HLF型B-ALL細胞(YCUB2細胞)において、IL-1β遺伝子を欠損させ、その影響を検討した。
なお、IL-1β遺伝子欠損細胞の作製には、CRISPR-Cas9システムを用いた。
【0045】
IL-1β遺伝子欠損細胞においては、対照(IL-1β遺伝子を欠損していないTCF3-HLF型B-ALL細胞)に対して、細胞増殖が顕著に抑制された(
図1、
***p値<0.001)。なお、アポトーシス細胞の増加は見られず、アポトーシス細胞の増殖速度を抑制していることが示唆された。
他方で、IL-1β欠損細胞に、組み換えヒト(rh)IL-1βを添加して培養すると、濃度依存的に細胞増殖が回復した。
以上の結果から、IL-1βは、TCF3-HLF型B-ALL細胞の増殖を促進することが示された。
【0046】
(6)TCF3-HLF型B-ALL細胞におけるIL-1βの発現の影響-2
TCF3-HLF型B-ALL細胞(YCUB2細胞)に、50μg/mLの抗IL-1β抗体(InvivoGen、#mabg-hil1b-3)を添加し、6日間にわたって培養した結果、対照(抗体未添加)と比較して、細胞増殖が有意に抑制された(
図2、
***p値<0.001)。
【0047】
(7)TCF3-HLF型B-ALL細胞におけるIL-1βの発現の影響-3
TCF3-HLF型B-ALL細胞(YCUB2細胞)に、50μg/mLの抗IL-1β抗体とともに、300nMのベネトクラクスを添加することで、細胞増殖が有意に抑制された(
図3、
*p値<0.05、
**p値<0.01)。ベネトクラクスは、白血病治療剤として知られるB細胞性リンパ腫-2(BCL-2)阻害剤である。
この抑制効果は、対照(抗体未添加)に対してだけではなく、抗IL-1β抗体単独投与、及びベネトクラクス単独投与に対しても有意だった。
【0048】
(8)TCF3-HLF型B-ALL細胞におけるIL-1βの発現の影響-4
上記(2)と同様にマウスへの細胞移植を行い、TCF3-HLF型B-ALL発症マウスを得た。このマウスへ、1日あたり15mg/kgの「ONX-0914」を、10日間にわたって毎日静脈投与した。ONX-0914(CAS番号:960374-59-8)は、免疫プロテアソーム阻害剤として知られる低分子化合物である。
その結果、ONX-0914を投与したマウスは、対照(ONX-0914未投与)と比較して、生存期間が顕著に長かった。
【0049】
この結果を踏まえ、ONX-0914を添加して培養したTCF3-HLF型B-ALL細胞の定量的逆転写PCR解析を行ったところ、対照(ONX-0914未添加)と比較して、IL-1βの発現量が有意に低かった(
図4、
***p値<0.001)。
したがって、ONX-0914は、IL-1βの発現を阻害し、TCF3-HLF型B-ALLの治療に有用であることが見出された。
【0050】
(9)結論
まず、TCF3-HLF型B-ALL細胞においては、IL-1βの発現が顕著に高いという新規な知見が見出された。さらに、IL-1βはTCF3-HLF型B-ALL細胞の増殖を促進することもわかった。
そして、TCF3-HLF型B-ALL細胞に対する抗IL-1β抗体や、ONX-0914の添加により、細胞増殖が抑制されることを確認した。
したがって、TCF3-HLF型B-ALLにおいて、IL-1βは、新規な治療標的である。そのため、IL-1βの機能を阻害する成分(抗IL-1β抗体、IL-1レセプターアンタゴニスト等)、及び、IL-1βの発現を阻害する成分(ONX-0914等の低分子化合物や、核酸等)等は、TCF3-HLF型B-ALLの有効な治療剤となり得る。
【0051】
また、抗IL-1β抗体と、従来知られる、B細胞性リンパ腫阻害剤(ベネトクラクス等)等の白血病治療剤との併用により、細胞増殖の抑制効果はさらに高まり得る。