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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166389
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】筋萎縮抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20241121BHJP
   A61K 36/23 20060101ALI20241121BHJP
   A61K 36/54 20060101ALI20241121BHJP
   A61K 36/67 20060101ALI20241121BHJP
   A61K 36/906 20060101ALI20241121BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20241121BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241121BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20241121BHJP
【FI】
A23L33/105
A61K36/23
A61K36/54
A61K36/67
A61K36/906
A61P21/00
A61P43/00 111
A23L33/105 ZNA
C12N15/09 Z ZNA
C12N15/09 Z
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024162005
(22)【出願日】2024-09-19
(62)【分割の表示】P 2020151920の分割
【原出願日】2020-09-10
(71)【出願人】
【識別番号】000116297
【氏名又は名称】ヱスビー食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194973
【弁理士】
【氏名又は名称】尾崎 祐朗
(72)【発明者】
【氏名】立花 宏文
(72)【発明者】
【氏名】恩田 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】吉野 七海
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、MuRF1又はAtogin-1の発現を抑制して、サルコペニアを改善(予防又は治療)できる筋萎縮抑制剤を提供することである。
【解決手段】前記課題は、本発明のコリアンダー、カルダモン、ロングペッパー、及びシナモンからなる群から選択される少なくとも1種の破砕物又は抽出物を有効成分として含む筋萎縮抑制剤によって、解決することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コリアンダー、カルダモン、ロングペッパー、及びシナモンからなる群から選択される少なくとも1種の破砕物又は抽出物を有効成分として含む筋萎縮抑制剤。
【請求項2】
MuRF1及び/又はAtorogin-1の発現を抑制する、請求項1に記載の筋萎縮抑制剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の筋萎縮抑制剤を含む、筋萎縮抑制用食品組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の筋萎縮抑制剤又は請求項3に記載の筋萎縮抑制用食品組成物の有効量を対象に摂取させる工程を含む、筋萎縮抑制方法(但し、人への医療行為を除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋萎縮抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
サルコペニアは、加齢による骨格筋の量の減少及び強度の低下を伴う症候群である。サルコペニアの予防や改善には、高強度のトレーニングが有効であることが確認されている。しかしながら、高齢者において、高強度の運動を積極的に実施することは身体的な負担が大きい。このため、サルコペニアの予防や改善には、手軽に実施できる栄養面からのアプローチが望まれている。
例えば、筋肉機能改善効果を有する成分として、プロアントシアニジンを有効成分として含有する筋肉萎縮抑制剤(特許文献1)、果実由来ポリフェノールを有効成分とする廃用性筋萎縮時の筋繊維タイプの移行を抑制する筋繊維タイプ移行抑制剤(特許文献2)、カテキン類を有効成分とする筋機能低下抑制剤(特許文献3)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-338464号公報
【特許文献2】特開2006-328031号公報
【特許文献3】特開2008-13473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
筋肉減少に係わる遺伝子としてMuRF1及びAtogin-1が報告されている。本発明の目的は、MuRF1又はAtogin-1の発現を抑制して、サルコペニアを改善(予防又は治療)できる筋萎縮抑制剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、サルコペニアを改善(予防又は治療)できる筋萎縮抑制剤について、鋭意研究した結果、驚くべきことに、コリアンダー、カルダモン、ロングペッパー、又はシナモンが、筋肉減少に係わるMuRF1及びAtogin-1を抑制することを見出した。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
従って、本発明は、
[1]コリアンダー、カルダモン、ロングペッパー、及びシナモンからなる群から選択される少なくとも1種の破砕物又は抽出物を有効成分として含む筋萎縮抑制剤、
[2]MuRF1及び/又はAtorogin-1の発現を抑制する、[1]に記載の筋萎縮抑制剤、
[3][1]又は[2]に記載の筋萎縮抑制剤を含む、筋萎縮抑制用食品組成物、及び
[4][1]又は[2]に記載の筋萎縮抑制剤又は[3]に記載の筋萎縮抑制用食品組成物の有効量を対象に摂取させる工程を含む、筋萎縮抑制方法(但し、人への医療行為を除く)、
に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の筋萎縮抑制剤によれば、骨格筋の萎縮を抑制し、サルコペニアを予防又は改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】蒸留水抽出物のMuRF1遺伝子の発現に対する作用を示したグラフである。
図2】蒸留水抽出物のAntrogin-1遺伝子の発現に対する作用を示したグラフである。
図3】熱水抽出物のMuRF1遺伝子の発現に対する作用を示したグラフである。
図4】熱水抽出物のAntrogin-1遺伝子の発現に対する作用を示したグラフである。
図5】エタノール抽出物のMuRF1遺伝子の発現に対する作用を示したグラフである。
図6】エタノール抽出物のAntrogin-1遺伝子の発現に対する作用を示したグラフである。
図7】ヘキサン抽出物のAntrogin-1遺伝子の発現に対する作用を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
《筋萎縮抑制剤》
本発明の筋萎縮抑制剤は、コリアンダー、カルダモン、ロングペッパー、及びシナモンからなる群から選択される少なくとも1種の破砕物又は抽出物を有効成分として含む。本発明の筋萎縮抑制剤は、好ましくは、MuRF1及び/又はAtrogin-1の発現を抑制することによって、筋肉の萎縮を抑制する。
【0009】
《サルコペニア》
サルコペニアは、加齢、疾病、運動不足、栄養不良などにより筋肉量が減少することに伴う筋力低下、身体的機能低下である。サルコペニアは、適度の運動によって予防改善できる。しかし、高齢者が骨折などにより、長期の入院をすると筋肉量が低下し、運動ができなくなり、さらにサルコペニアが進行する悪循環に陥ることがある。
本明細書においてサルコペニアの改善とは、予防又は治療を含む。
【0010】
(コリアンダー)
本発明の筋萎縮抑制剤の有効成分として用いるコリアンダーは、セリ科の一種であり香辛料として使用される。香辛料としては、植物全体を使用したり、果実や種子部分をコリアンダーシードと称して使用されたり、葉や茎の部分をコリアンダーリーフやパクチーと称して使用されたりする。また本発明のコリアンダーは、収穫したそのままの状態、又は粉末若しくはペーストの粉砕物の状態などの、どの様な形状であってもよい。そして使用部位は、特に制限されることはなく、特定の部位のみでも、2種以上の部位の混合物でもよい。好ましい部位は、コリアンダーシード、又はコリアンダーリーフである。さらに本発明の筋萎縮抑制剤の有効成分として、生状態であっても、乾燥した状態のものを用いてもよい。
【0011】
(カルダモン)
本発明の筋萎縮抑制剤の有効成分として用いるカルダモンは、グリーンカルダモンであっても、ブラックカルダモンであってもよく、生でも乾燥されていてもよい。また収穫したそのままの状態、又は粉末若しくはペーストの粉砕物の状態などの、どの様な形状であってもよい。好ましい部位は香辛料として使用される果実であるが、他の部位、又は果実と他の部位の混合物であってもよい。本発明の筋萎縮抑制剤の有効成分として、乾燥物、又は生の部位を用いてもよい。
【0012】
(ロングペッパー)
本発明の筋萎縮抑制剤の有効成分として用いるロングペッパーは、ヒハツ(piper longum L.)とも呼ばれるコショウ科のツル性木質植物である。本発明のロングペッパーは、収穫したそのままの状態、又は粉末若しくはペーストの粉砕物の状態などの、どの様な形状であってもよい。そして使用部位は、特に制限されることはなく、特定の部位のみでも、2種以上の部位の混合物でもよい。好ましい部位は、香辛料として使用される果実である。さらに本発明の筋萎縮抑制剤の有効成分として、生状態であっても、乾燥した状態のものを用いてもよい。
【0013】
(シナモン)
本発明の筋萎縮抑制剤の有効成分として用いるシナモンは、ニッケイ属(Cinnamomum)の樹木であり、チャイニーズシナモン、セイロンシナモン、インドネシアシナモン、インドシナモンであってもよく、収穫したそのままの状態、又は粉末若しくはペーストの粉砕物の状態などの、どの様な形状であってもよい。そして使用部位は、特に制限されることはなく、特定の部位のみでも、2種以上の部位の混合物でもよい。好ましい部位は、香辛料として使用される樹皮である。さらに本発明の筋萎縮抑制剤の有効成分として、生状態であっても、乾燥した状態のものを用いてもよい。
【0014】
《粉砕物》
本発明において、粉砕物とは、コリアンダー、カルダモン、ロングペッパー又はシナモン(以下、コリアンダー等と記されているときは、コリアンダー、カルダモン、ロングペッパー、シナモンをいう。)が粉砕された状態のものであればよく、例えば粉末状、粒状、又はペースト状であることができる。粉砕物は、好ましくは粉末である。粉砕物又は粉末に加工するための処理は、特に限定されないが、例えばクラッシャー、ミル、ブレンダー、ミキサー、及び石臼などの粉砕用の機器又は器具を用いて、当業者が通常使用する任意の方法により植物体を粉砕する処理が挙げられる。粉砕前に、当業者が通常使用する任意の方法、例えば100℃以上の熱風、有効成分に影響を与えない温風、凍結乾燥などにより植物体を乾燥してもよく、水分を10重量%以下まで乾燥させ、乾燥させた植物体を一定期間保管しておいてもよい。
【0015】
本発明の筋萎縮抑制剤に含まれるコリアンダー等が粉砕物である場合、限定されるものではないが、例えばコリアンダー等の粉砕物の平均最長径が、0.01~4mm、好ましくは、0.02~1mm、より好ましくは0.02~0.5mmのものを使用することができる。また、コリアンダー等の粉砕物の90重量%以上が、0.01~4mm、好ましくは、0.02~1mm、より好ましくは0.02~0.5mmの最長径を有するものを使用することができる。また、コリアンダー等の粉砕物の90重量%以上が、JIS試験篩いメッシュ換算表において、4.7メッシュ(4mm)16メッシュ(1mm)、又は30メッシュ(0.5mm)、を通過するものを使用することができる。コリアンダー等の粉砕物の最長径が1mm以下であると、本発明のMuRF1又はAtrogin-1発現が向上することから、最長径4mm以下のものを使用することが好ましい。
コリアンダー等の平均最長径の計測は、粒径を計測するための公知の機器を使用して行うことができる。
【0016】
《抽出物》
本発明の筋萎縮抑制剤は、コリアンダー等の抽出物を含むことができる。本発明の筋萎縮抑制剤は、コリアンダー等の粉砕物と抽出物との両方を含むこともできる。本発明の筋萎縮抑制剤の有効成分の抽出に用いるコリアンダー等は、果実を生のまま用いてもよく、又は乾燥させたものを用いてもよい。また、抽出効率が向上するように、破砕物又は粉体の状態に加工してもよい。
【0017】
有効成分の抽出には、植物に由来する成分の抽出に用いられる通常の抽出方法、例えばこれらに限定されるものではないが、水蒸気蒸留法、溶剤抽出法、圧搾法(直接、高温、若しくは低温)、又は超臨界抽出法を用いることができる。これらの抽出法の組み合わせ、例えば圧搾した後に溶剤抽出する方法を用いてもよい。
【0018】
溶剤抽出法で抽出する場合に用いられる抽出溶媒は、抽出液中に有効成分が充分に抽出されることができる限りにおいては限定されないが、例えば有機溶媒、水性溶媒、又は有機溶媒及び水性溶媒の混合物を使用することができる。
【0019】
本発明の筋萎縮抑制剤に含まれるコリアンダー等の抽出物は、有機溶媒、例えばアルコール、アセトン、ベンゼン、エステル、酢酸エチル、ヘキサン、クロロホルム、及びジエチルエーテルなどにより抽出されることができる。アルコールとしては、抽出液中に有効成分が充分に抽出されることができる限りにおいては限定されないが、例えばメタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、及びブチルアルコール等の炭素数1~5の一価アルコールを使用することができる。1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、及びグリセリン等の炭素数2~5の多価アルコールを使用することもできる。好ましいアルコールは、炭素数1~5の一価アルコールであり、より好ましいアルコールは、メタノール及びエタノールであり、最も好ましいアルコールは、エタノールである。
【0020】
本発明の筋萎縮抑制剤に含まれるコリアンダー等の抽出物は、水性溶媒により抽出することができる。水性溶媒としては、水を含んでいる限りにおいて限定されるものではなく、例えば水、生理食塩水、又は緩衝液などを使用することができる。緩衝液としては、リン酸緩衝液、リン酸ナトリウム緩衝液、炭酸ナトリウム緩衝液、クエン酸緩衝液、クエン酸リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、及びトリス緩衝液などが挙げられる。前記水性溶媒のpHは、特に制限されない。
【0021】
本発明の筋萎縮抑制剤に含まれるコリアンダー等の抽出物は、有機溶媒と水性溶媒との混合物により抽出されることができる。抽出溶媒中に含まれる水性溶媒の量は、抽出液中に有効成分が充分に抽出されることができる限りにおいては限定されないが、抽出溶媒の全体量に対して、例えば50重量%以上、70重量%以上、又は90重量%以上であることができる。
【0022】
本発明の筋萎縮抑制剤に含まれるコリアンダー等の抽出物を溶剤抽出法で抽出する場合、抽出温度は、抽出液中に有効成分が充分に抽出されることのできる温度である限り、特に限定されるものではないが、-50℃~100℃であることが好ましく、0℃~100℃であることがより好ましく、5℃~100℃であることが最も好ましい。
【0023】
本発明の筋萎縮抑制剤に含まれるコリアンダー等の抽出物の抽出時間は、例えばコリアンダー等の状態、すなわち、生若しくは乾燥物であるか、又は破砕物若しくは粉体の状態に加工した場合にはその加工状態に応じて適宜決定することができる。さらに、抽出時間は、例えば抽出液の温度、又は撹拌若しくは振盪の有無などの抽出条件に応じて適宜決定することができる。抽出時間は、5秒~1週間であることが好ましく、5秒~1日であることがさらに好ましく、10分~12時間であることが最も好ましい。また、本発明の筋萎縮抑制剤に含まれるコリアンダー等の抽出物を溶剤抽出法で抽出する場合、抽出効率が向上するように、撹拌又は振盪しながら実施することが好ましい。
【0024】
圧搾法とは、コリアンダー等に物理的に圧力をかけて、コリアンダー等の抽出物を抽出する方法である。常温で行う直接圧搾法、高温で行う高温圧搾法、及び低温で行う低温圧搾法がある。本発明の筋萎縮抑制剤に含まれる抽出物は、いずれの圧搾法を用いても抽出可能である。
【0025】
本発明の筋萎縮抑制剤に含まれる抽出物は、超臨界抽出法を用いて抽出可能である。超臨界抽出法とは、超臨界状態にある物質を用いて特定の植物から抽出物を抽出する方法である。超臨界状態にある物質としては、例えば二酸化炭素は、強力な溶解力を有するため、コーヒーの脱カフェイン、又は植物などの天然原料からの香料及び医薬品成分抽出に一般に用いられている。
【0026】
(MuRF1)
MuRF1(Muscle RING-Finger Protein-1)は、分子量40kDaの、骨格筋、心筋特異的に発現するRING型ユビキチンリガーゼである。筋萎縮時に発現量が亢進することが知られている。一方で、MuRF1のノックアウトマウスでは、筋委縮が起こらないことが報告されており、筋委縮に関連するタンパク質であると考えられている。
【0027】
(Atorogin-1)
Atorogin-1は、MAFbx-1とも称され、分子量40kDaのSCF複合型ユビキチンリガーゼである。SCF複合型ユビキチンリガーゼは、cullinをプラットフォームタンパク質として、Rbx1(Roc1)のRINGドメインにE2が結合し、Skp1を介して結合するFボックスタンパク質が基質タンパク質を認識しユビキチン化する。Atorogin-1も、筋萎縮時に発現量が亢進することが知られており、一方で、Atorogin-1のノックアウトマウスでは、筋委縮が起こらないことが報告されている。
【0028】
本発明における有効成分である、コリアンダー等の粉砕物又は抽出物は、それ単独で、あるいは、好ましくは薬剤学的又は獣医学的に許容することのできる通常の担体又は希釈剤と共に、対象[動物、好ましくは哺乳動物(特にはヒト)]に有効量で投与することができる。また、ヒト以外の動物には、飼料として飲食物の形で与えることも可能である。
【0029】
本発明の筋萎縮抑制剤は、コリアンダー等の粉砕物又は抽出物から成るものでもよく、また、コリアンダー等の粉砕物又は抽出物を含むものでもよい。本発明の筋萎縮抑制剤が、コリアンダー等の粉砕物又は抽出物を含むものである場合、他の添加剤を含むことができる。
【0030】
本発明の筋萎縮抑制剤の投与剤型としては、特には限定がなく、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、エキス剤、若しくは丸剤等の経口剤、又は非経口剤を挙げることができる。
【0031】
前記経口剤は、例えばゼラチン、アルギン酸ナトリウム、澱粉、コーンスターチ、白糖、乳糖、ぶどう糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、ポリビニルピロリドン、結晶セルロース、大豆レシチン、ショ糖、脂肪酸エステル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、ケイ酸マグネシウム、無水ケイ酸、又は合成ケイ酸アルミニウムなどの賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、希釈剤、保存剤、着色剤、香料、矯味剤、安定化剤、保湿剤、防腐剤、又は酸化防止剤等を用いて、常法に従って製造することができる。
【0032】
非経口剤としては、例えば注射剤を挙げることができる。注射剤の調製においては、有効成分の他に、例えば生理食塩水若しくはリンゲル液等の水溶性溶剤、植物油若しくは脂肪酸エステル等の非水溶性溶剤、ブドウ糖若しくは塩化ナトリウム等の等張化剤、溶解補助剤、安定化剤、防腐剤、懸濁化剤、又は乳化剤などを任意に用いることができる。
【0033】
本発明の筋萎縮抑制剤は、限定されるものではないが、例えばコリアンダー等の抽出物を乾燥することにより得られた乾固物として、例えば0.01~500mg/mL、好ましくは、0.1~400mg/mL、より好ましくは0.5~300mg/mL、さらに好ましくは1~200mg/mL、さらに好ましくは2~150mg/mL、最も好ましくは1~100mg/mLで含有することができる。
【0034】
本発明のコリアンダー等の投与量は、適宜決定することができるが、例えば抽出物を乾燥することにより得られた乾固物として、1~3000mg/kg体重/日、好ましくは、5~2000mg/kg体重/日、より好ましくは10~1500mg/kg体重/日、さらに好ましくは15~1000mg/kg体重/日、さらに好ましくは20~800mg/kg体重/日、最も好ましくは25~400mg/kg体重/日であることができる。
【0035】
また、本発明の筋萎縮抑制剤を用いる場合の投与量は、得られた抽出物の乾固物(又は凍結乾燥粉末)として、0.1~1000mg/kg体重/日、好ましくは0.5~500mg/kg体重/日、より好ましくは1~250mg/kg体重/日、さらに好ましくは3~100mg/kg体重/日、さらに好ましくは5~50mg/kg体重/日、又は最も好ましくは8~30mg/kg体重/日であることができる。
【0036】
もちろん、上記の投与法は一例であり、他の投与法であってもよい。ヒトへの筋萎縮抑制剤の投与方法、投与量、投与期間、及び投与間隔等は、管理された臨床治験によって決定されることが望ましい。
【0037】
本発明の筋萎縮抑制剤は、ヒトに対して投与することができるが、投与対象はヒト以外の動物であってもよく、イヌ、ネコ、ウサギ、ハムスター、モルモット、及びリス等のペット;牛及び豚等の家畜;マウス、ラット等の実験動物;並びに、動物園等で飼育されている動物等が挙げられる。
【0038】
《食品組成物》
本発明の食品組成物は、本発明の筋萎縮抑制剤を含む。本発明の食品組成物は、食品材料を含んでもよい。本明細書において、食品材料とは、カレー又はビールなどの完成した食品又は飲料、カレー又はビールなどの原料となるスパイス、又は味噌又は日本酒などのそのままでも食品又は飲料として食することが可能であり、且つ料理の原料としても用いることのできるものを含む。
【0039】
食品としては、具体的には、サラダなどの生鮮調理品;コロッケ、白身魚フライ、ピザ、ハンバーグなどの加熱調理品;野菜炒めなどの炒め調理品;トマト、ピーマン、セロリ、ニガウリ、ニンジン、ジャガイモ、及びアスパラガスなどの野菜及びこれら野菜を加工した調理品;クッキー、パン、ビスケット、乾パン、ケーキ、煎餅、羊羹、プリン、ゼリー、アイスクリーム類、チューインガム、クラッカー、チップス、チョコレート及び飴等の菓子類;うどん、パスタ、及びそば等の麺類;かまぼこ、ハム、及び魚肉ソーセージ等の魚肉練り製品;チーズ、クリーム、及びバターなどの乳製品;みそ、しょう油、ソース、ドレッシング、ケチャップ、マヨネーズ、スープの素、麺つゆ、カレー粉、塩こしょう、ごま塩、みりん、おでんの素、ルウ、シーズニングスパイス等の調味料類;豆腐などの大豆食品;こんにゃく;並びにサプリメントなどを挙げることができる。食品は、好ましくは、ソース(例えばカレー用、シチュー用、グラタン用、若しくはパスタ用のもと)ルウ(例えばカレー用若しくはシチュー用のもの)、ミックススパイス、シーズニングスパイス、又はサプリメントである。
【0040】
飲料としては、例えばコーヒー飲料;ココア飲料;前記の野菜から得られる野菜ジュース;グレープフルーツジュース、オレンジジュース、ブドウジュース、及びレモンジュース等の果汁飲料;緑茶、紅茶、煎茶、及びウーロン茶等の茶飲料;ビール、ワイン(赤ワイン、白ワイン、又はスパークリングワインなど)、清酒、梅酒、発泡酒、ウィスキー、ブランデー、焼酎、ラム、ジン、及びリキュール類等のアルコール飲料;乳飲料;豆乳飲料;流動食;並びにスポーツ飲料などを挙げることができる。飲料は、好ましくは、スパイスティー(例えばハーブティー又はチャイ)である。
【0041】
本発明の食品組成物は、例えば粉末状、顆粒状、固形状、液状、カプセル状、ペースト状、ゲル状、又は錠剤状であることができる。
【0042】
これらの食品又は飲料には、所望により、酸化防止剤、香料、酸味料、着色料、乳化剤、保存料、調味料、甘味料、香辛料、pH調整剤、安定剤、酸化防止剤、植物油、動物油、糖及び糖アルコール類、ビタミン、有機酸、果汁エキス類、野菜エキス類、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品添加物及び食品素材を単独で又は2種以上組み合わせて配合することができる。これらの食品素材及び食品添加物の配合量は、本発明の目的を損なわない範囲内で適宜決定することができる。
【0043】
これらの食品又は飲料は、例えばレトルト及びオートクレーブなどの加熱加圧滅菌、バッチ式殺菌、プレート殺菌、通電加熱殺菌、マイクロ波加熱殺菌、並びに、インジェクション及びインフュージョンなどのスチーム殺菌などの一般的な殺菌処理を行うことができる。
【0044】
食品及び飲料には、機能性食品(飲料)及び健康食品(飲料)が含まれる。本明細書において「健康食品(飲料)」とは、健康に何らかの効果を与えるか、あるいは、効果を期待することができる食品又は飲料を意味し、「機能性食品(飲料)」とは、前記「健康食品(飲料)」の中でも、生体調節機能(すなわち、免疫賦活機能)を充分に発現することができるように設計及び加工された食品又は飲料を意味する。機能性食品及び健康食品は、顆粒状、固形状、液状、カプセル状、ゲル状、又は錠剤状であることができる。
【0045】
食品又は飲料には、動物に対する飼料が含まれる。対象となる動物は、例えばヒトなどの霊長類、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、又はマウス等が挙げられる。
【0046】
《筋萎縮抑制方法》
本発明の筋萎縮抑制方法は、前記筋萎縮抑制剤、又は前記筋萎縮抑制用食品組成物の有効量を対象に摂取させる工程を含む。しかしながら、本発明の筋萎縮抑制方法は、人への医療行為を含まない。具体的には、トレーニングジム、介護施設等における筋萎縮抑制剤の摂取、筋萎縮抑制用食品組成物の摂食などを含む。
本発明の筋萎縮抑制方法における「筋萎縮抑制剤」、及び「筋萎縮抑制用食品組成物」は、それぞれの項に記載のものである。
【実施例0047】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0048】
《実施例1》
本実施例では、コリアンダーシード(乾燥された果実部)及びカルダモン(乾燥された果実部)から蒸留水抽出物を調製した。
コリアンダーシード又はカルダモンを20gに10倍量の蒸留水(200g)を添加し、そして混合した。スターラーを用いて、4℃で12時間攪拌した。抽出液を3200rpmで10分間、遠心分離した。上清を回収し、最大孔径20~25μmのフィルターで吸引濾過した。得られた上清を凍結乾燥し、水抽出物の乾固物を得た。
【0049】
《実施例2》
本実施例では、シナモン(乾燥された樹皮)、コリアンダーシード(乾燥された果実部)及びカルダモン(乾燥された果実部・種子部)から熱水抽出物を調製した。
シナモン、コリアンダーシード又はカルダモンを20gに10倍量の蒸留水(200g)を添加し、そして混合した。スターラーを用いて、95℃で1時間攪拌した。抽出液を3200rpmで10分間、遠心分離した。上清を回収し、最大孔径20~25μmのフィルターで吸引濾過した。得られた上清を凍結乾燥し、熱水抽出物の乾固物を得た。
【0050】
《実施例3》
本実施例では、ロングペッパー(乾燥された果実部)及びシナモン(乾燥された樹皮)からエタノール抽出物を調製した。
ロングペッパー及びシナモンの粉末を1g/mLとなるように100%エタノールに懸濁し、15分の振とう処理を2回行うことにより抽出を行った。抽出後遠心により上清を回収した。エバポレーターで溶媒を乾固し、残留物の重量を測定した後に、200mg/mLとなるようにジメチルスルホキシド(DMSO)及びエタノールの混合溶液に溶解し、試験サンプルを得た。
【0051】
《実施例4》
本実施例では、シナモン(乾燥された樹皮)からヘキサン抽出物を調製した。
ロングペッパー(乾燥された果実部)の粉末を200g/mLとなるように100%n-ヘキサンに懸濁し、15分の振とう処理を2回行うことにより抽出を行った。抽出後遠心により上清を回収した。エバポレーターで溶媒を乾固し、残留物の重量を測定した後に、200mg/mLとなるようにジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し、試験サンプルを得た。
【0052】
《実施例5》
マウス筋芽細胞株を用いて、実施例1~4で得られた香辛料の抽出物のMuRF1及びAtrogin-1の発現に対する作用を検討した。
マウス筋芽細胞株C2C12を、2×10cells/mLとなるように12well plateに播種した。10%FBS-DMEMで24時間前培養を行った後、0.5%FBS-DMEM(分化誘導培地)に交換した(分化誘導培地は誘導開始から48時間後に一回交換)。分化後、各香辛料抽出物(終濃度0.01mg/mL)を含む分化誘導培地に置換し24時間処理後、各香辛料抽出物およびデキサメタゾン(Dex:1mM)を含む分化誘導培地に置換し、24時間処理した。デキサメタゾンの添加により、MuRF1遺伝子、Atrogin-1遺伝子の発現が亢進し、筋肉の萎縮状態のモデルとなる。
【0053】
回収した細胞中のMuRF1遺伝子、Atrogin-1遺伝子の発現を、Real-time RT PCRによって測定した。
前培養した細胞上清を除去し、細胞表面をPBS(-)で洗浄した。細胞にSepasol RAN I Super G(ナカライテスク)を1mL加えてピッペッティングにより回収した。さらにクロロホルムを200μL加えて2分間激しく転倒混和した。混和後、12,000×gで15分間遠心した。遠心後、水溶液層を498μL回収した。
回収した水溶液層に等量のプロパノールを加え、転倒混和した後10分間氷上で静置した。その後12,000×gで10分間遠心した。遠心後、上清を除去し、75%エタノールを加えて転倒混和し、12,000×gで5分間遠心した。遠心後に上清を除去し、自然乾燥させた後に超純水を添加して氷上で15分間静置した。分光光度計(BioSpec-nano, SHIMADZU)でmRNA液の吸光度を測定し、液中mRNAの濃度を求めた。
マイクロチューブに100ngのRNAを含んだRNA水溶液を滅菌超純水で13.5μLにフィルアップし、0.5μLのオリゴdTプライマーを添加した。mRNAとオリゴdTプライマーの混合液を70℃で5分間加熱後に4℃で冷却した。さらに5μLのdNTPと5μLの5×逆転写反応緩衝液、0.5μLのRNaseインヒビター(インビトロジェン社)、0.2μLの逆転写酵素(ニッポンジーン社)、0.3μLの超純水を加えて42℃で60分間加熱した。その後、4℃で冷却した。反応終了後、超純水で40倍に希釈した。
PCR96wellプレートに、cDNAを1μL、MuRF1、又はAtrogin-1のフォワードプライマー及びリバースプライマーをそれぞれ1μL、超純水を3μL、DNA検出溶液を5μL加え、95℃-1分、(95℃-3秒、60℃-30秒)×40サイクルの条件で反応させた。解析は比較Ct法を用いた。β-actinを内在性コントロールとして用い、目的遺伝子発現の補正に使用した。装置は、StepOne Plus(ライフテクノロジーズ社製)を用いた。それぞれのプライマーは以下の通りである。
MuRF1フォワードプライマー:5’-TGAGGTGCCTACTTGCTCCT-3’;配列番号1)
MuRF1リバースプライマー:5’-TCACCTGGTGGCTATTCTCC-3’;配列番号2)
Atrogin-1フォワードプライマー:5’-ATGCACACTGGTGCAGAGAG-3’;配列番号3)
Atrogin-1リバースプライマー:5’-TGTAAGCACACAGGCAGGTC-3’;配列番号4)
【0054】
カルダモンの蒸留水抽出物及び熱水抽出物は、MuRF1及びAtrogin-1の発現を抑制した(図1~4)。コリアンシードの蒸留水抽出物は、MuRF1及びAtrogin-1の発現を抑制し(図1~2)、熱水抽出物は、Atrogin-1の発現を抑制した(図4)。シナモンの熱水抽出物及びエタノール抽出物は、Atrogin-1の発現を抑制した(図4及び6)。ロングペッパーのエタノール抽出物は、MuRF1の発現を抑制し(図5)、ヘキサン抽出物は、Atrogin-1の発現を抑制した(図7)。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の筋萎縮抑制剤は、筋萎縮時に発現が亢進するMuRF1及びAtrogin-1の発現を抑制し、サルコペニアの症状を改善することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
2024166389000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2024-10-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルダモン、シナモン、及びロングペッパーからなる群から選択される少なくとも1種の破砕物又は抽出物を有効成分として含む筋萎縮抑制剤。
【請求項2】
MuRF1及び/又はAtorogin-1の発現を抑制する、請求項1に記載の筋萎縮抑制剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の筋萎縮抑制剤を含む、筋萎縮抑制用食品組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の筋萎縮抑制剤又は請求項3に記載の筋萎縮抑制用食品組成物の有効量を対象に摂取させる工程を含む、筋萎縮抑制方法(但し、人への医療行為を除く)。