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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166539
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】電波吸収体
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20241122BHJP
【FI】
H05K9/00 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082701
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 浩史
【テーマコード(参考)】
5E321
【Fターム(参考)】
5E321AA50
5E321BB31
5E321BB60
5E321GG05
5E321GH10
(57)【要約】
【課題】高い電波吸収特性を有し、従来よりも薄くできる電波吸収体を提供する。
【解決手段】誘電体と、規則的に配列された複数の開口部を有する導体とを、積層した構造を有し、開口部の最長部の長さが、吸収対象波長の0.1%~2%である、電波吸収体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体と、規則的に配列された複数の開口部を有する導体とを、積層した構造を有し、
前記開口部の最長部の長さが、吸収対象波長の0.1%~2%である、電波吸収体。
【請求項2】
前記誘電体の厚みが、前記吸収対象波長の10%より小さい、請求項1に記載の電波吸収体。
【請求項3】
前記吸収対象波長における誘電体の複素誘電率に関し、虚部が実部よりも大きい、請求項1又は2に記載の電波吸収体。
【請求項4】
全光線透過率が29%以下である、請求項1~3のいずれかに記載の電波吸収体。
【請求項5】
前記開口部が格子状であり、隣接する開口部間の最短距離が0.05mm以下である、請求項1~4のいずれかに記載の電波吸収体。
【請求項6】
28GHz~44GHzの周波数領域全体における電磁波の吸収量が30%以上である、請求項1~5のいずれかに記載の電波吸収体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会において電波は、放送、通信、医療、化学分析、位置測定、遠隔操作等、様々な分野で利用されている。例えば、周波数帯が30GHz~300GHzである電波を使用するミリ波レーダーは、車両の自動運転を支える重要技術の1つである。
【0003】
ミリ波レーダーは、上記周波数帯の電波を使用して、対象物との距離、速度、角度を測定する。利用技術の1つである車両自動運転を例に挙げると、ADAS(先進運転支援システム)の普及に伴い、前方監視用レーダーとして長距離を検知できる76GHz~79GHzのミリ波レーダーが使用されている。ミリ波レーダーは、ミリ波を発信し、対象物で反射して戻ってきたミリ波を受信用のアンテナで受け取ることにより、対象物との距離等を検出する。また、準ミリ波と呼ばれる24GHz~30GHzの電波は側方監視用レーダー等に使用されている。28GHz程度の電波は、通信装置(5G)においても用いられている。
【0004】
ミリ波レーダーの装置では、アンテナと制御回路との間に電波を遮蔽する遮蔽部材を設けている。これにより、対象物以外(路面等)で反射したミリ波の受信による、検出精度の低下を抑制している。
【0005】
特許文献1には、抵抗被膜と誘電体層と電波遮蔽層が順次積層された、電波干渉型の電波吸収体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2023-25502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ミリ波レーダー等のセンサーは、小型化及び軽量化が要求されるため、構成部材である電波吸収体(遮蔽部材)も、高い電波吸収特性を保持したまま、より薄く、軽量であることが求められる。
本発明は、高い電波吸収特性を有し、従来よりも薄くできる電波吸収体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、電波反射体として用いられている金属薄板に代えて、規則的に配列された複数の開口部(非導体部)を有する導体を使用することで、従来より高い電波吸収特性を有する電波吸収体が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明によれば、以下の電波吸収体が提供される。
1.誘電体と、規則的に配列された複数の開口部を有する導体とを、積層した構造を有し、
前記開口部の最長部の長さが、吸収対象波長の0.1%~2%である、電波吸収体。
2.前記誘電体の厚みが、前記吸収対象波長の10%より小さい、1に記載の電波吸収体。
3.前記吸収対象波長における誘電体の複素誘電率に関し、虚部が実部よりも大きい、1又は2に記載の電波吸収体。
4.全光線透過率が29%以下である、1~3のいずれかに記載の電波吸収体。
5.前記開口部が格子状であり、隣接する開口部間の最短距離が0.05mm以下である、1~4のいずれかに記載の電波吸収体。
6.28GHz~44GHzの周波数領域全体における電磁波の吸収量が30%以上である、1~5のいずれかに記載の電波吸収体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高い電波吸収特性を有し、従来よりも薄くできる電波吸収体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る電波吸収体の概略側面図である。
図2】本発明で使用する導体の一例の平面写真である。
図3】本発明で使用する導体の一例の平面写真である。
図4】本発明で使用する導体の一例の平面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[電波吸収体]
本発明の一実施形態に係る電波吸収体は、誘電体と、規則的に配列された複数の開口部を有する導体とを、積層した構造を有する。そして、導体開口部の最長部の長さが、電波吸収体が吸収する電波の波長(以下、吸収対象波長という。)の0.1%~2%であることを特徴とする。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る電波吸収体の概略側面図である。電波吸収体10は、誘電体層1の片面に、メッシュ状の導体2からなる層を積層した構造を有する。電波吸収体10は、誘電体層1側から入射した電波を吸収する。
本実施形態では、メッシュ状の導体2の開口部の最長部の長さを、吸収対象波長の0.1%~2%としてある。これにより、従来の電波吸収体より薄く軽量化しながら、電波吸収性能を向上することができる。
【0014】
本実施形態の電波吸収体の構成は、電波吸収体10に限定されない。例えば、誘電体の層内にメッシュ状の導体が埋設していてもよい。すなわち、電波がメッシュ状の導体に接触する前に誘電体を透過する構造であればよい。
また、規則的に配列された複数の開口部を有する導体は、メッシュ状(網目状)に限定されない。例えば、金属等のシートからパンチングにて円、楕円、多角形等を打ち抜いたシート(パンチングメタル)でもよい。
また、印刷、蒸着、エッチング等により誘電体層の片面に、規則的に配列された複数の開口部を有する導体を形成してもよい。開口部は何もない空間(空気層)であってもよく、また、非導体材料からなっていてもよい。
以下、電波吸収体の構成部材等について説明する。
【0015】
<誘電体>
本実施形態で使用する誘電体としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等が挙げられる。誘電率の調整が容易であることから、熱硬化性樹脂が好ましい。具体的に、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、熱硬化性ポリイミド、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は1種単独で使用することができ、また、2種以上を組合わせて使用することもできる。樹脂の種類に応じて、適切な硬化剤を用いることが好ましい。
【0016】
一実施形態において、誘電体の誘電率を制御するために、上記樹脂等である母材にフィラーを配合してもよい。フィラーとしては、炭素繊維、炭素粒子、金属粒子、中空粒子等が挙げられる。
複素誘電率の虚部(ε”)は、ε”=σ/ω(ωは交流電流の角周波数[rad/s](ω=2πf)であり、σは導体の導電率[S/m]である。)の関係から、試料の導電率に相関する量である。導電ネットワークをより形成しやすい導電性の繊維状のフィラー(炭素繊維等)や、また、比重の大きい導電フィラー(金属粒子、炭素粒子等)を用いることや、比重差の大きいフィラーを組合わせて混合することなどにより、積極的にフィラーを偏在させることで、導電性を大きく向上させることが可能である。これにより、通常、誘電体の複素誘電率の虚部の値を高めることができる。
【0017】
炭素繊維としては、ピッチ系炭素繊維及びPAN系炭素繊維のいずれも使用できる。炭素繊維は1種を単独で使用してもよく、また、2種以上を混合して使用してもよい。
一実施形態において、誘電体に対する炭素繊維の含有量は1質量%以上であってもよく、2質量%以上であってもよい。また、炭素繊維の含有量は5質量%以下であってもよく、4質量%以下であってもよく、3質量%以下であってもよい。
【0018】
炭素繊維の平均長さは、100μm~4000μmが好ましい。該範囲であれば、少量の炭素繊維で高い吸収特性が得られる。炭素繊維の平均長さは、150μm以上であってもよく、200μm以上であってもよい。
ここで平均長さとは、無作為に選択した25本の炭素繊維の長さを、走査型電子顕微鏡(SEM)で測定した、その平均値である。
なお、平均長さは電波吸収体の製造時における炭素繊維(原料)の平均長さである。製造後の電波吸収体内における炭素繊維の平均長さも前記範囲にあることが好ましい。
【0019】
炭素粒子としては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラック、オイルファーネスカーボン等が挙げられる。
誘電体に対するカーボン粒子の含有量は0.1質量%以上であってもよく、0.5質量%以上であってもよい。また、5質量%以下であってもよく、4質量%以下であってもよく、3質量%以下であってもよい。
【0020】
金属粒子は、導電性の金属からなる粒子であれば特に限定されない。金属としては鉄が好ましい。鉄粉粒子としては、球状鉄粉粒子、扁平鉄粉粒子、軟磁性鉄合金系粒子等が挙げられる。
誘電体に対する鉄系粒子の含有量は2質量%以上であってもよく、4質量%以上であってもよい。また、10質量%以下であってもよく、8質量%以下であってもよく、6質量%以下であってもよい。
【0021】
中空粒子としては、例えば、セラミックバルーン、ガラスバルーン、シラスバルーンが挙げられる。
中空粒子の平均直径(d50:メジアン径)は、炭素繊維の平均長さの1/2以下であることが好ましい。より好ましくは炭素繊維の平均長さの1/3以下である。なお、中空粒子の平均直径は、JIS Z 8819-1:1999に基づく値である。
【0022】
中空粒子の耐圧強度は8MPa以上が好ましい。中空粒子の耐圧強度が低いと、樹脂との混合時等に割れが発生しやすいためである。中空粒子の耐圧強度は10MPa以上であることがより好ましい。
なお、耐圧強度はASTM D3102-78に準拠したグリセロール法により測定される。
【0023】
電波吸収体全体に対する中空粒子の含有量は0.1質量%以上であってもよく、0.5質量%以上であってもよい。また、5質量%以下であってもよく、3質量%以下であってもよい。
【0024】
誘電体は、課題を解決できる範囲内で公知の樹脂添加剤を含有することができる。公知の樹脂添加剤としては、熱、光、紫外線等に対する安定剤、滑剤、核剤、可塑剤、帯電防止剤、離型剤、難燃剤、軟化剤、分散剤、酸化防止剤、色材等を挙げることができる。
上記公知の樹脂添加剤の合計含有割合は、誘電体の30質量%以下が好ましく、より好ましくは10質量%以下である。
【0025】
一実施形態において、誘電体の厚さは、吸収対象波長の10%より小さい。本実施形態では、誘電体を従来の電波吸収体より薄くしても、高い電波吸収特性を実現することができる。誘電体の厚さは、吸収対象波長の8%以下でもよく、6%以下も可能である。
【0026】
例えば、電波の周波数が28GHzである場合、波長は10.7mmであるから、誘電体の好適な厚みは1.07mm未満となる。電波の周波数が44GHzである場合、波長は6.8mmであるから、誘電体の好適な厚みは0.68mm未満となる。軽量化の観点から誘電体は薄い方が好ましいが、誘電体の厚さは、通常0.2mm以上である。
【0027】
一実施形態において、吸収対象波長における誘電体の複素誘電率の、虚部の値が実部の値よりも大きい。これにより、電波吸収体の電波吸収能力を向上できる。複素誘電率の実部と虚部の大小関係は、上述したとおり誘電体にフィラーを配合することにより調整できる。なお、誘電体のマトリックスである樹脂等のみでは、誘電体の複素誘電率の虚部が実部よりも大きくなることは稀である。
誘電体の複素誘電率は、実施例で後述する自由空間法で測定することができる。
【0028】
誘電体は、例えば、上述した樹脂と、フィラーと、必要に応じて任意成分とを混合し、シート状に成形することにより製造できる。混合には必要により、ハイスピードディスパー、サンドグラインドミル、バスケットミル、三本ロール、ボールミル等、公知の分散用装置を用いてもよい。
混合時において、各種成分は所定量となるように、一度に又は分割して混合することができる。混合時における各成分の順序は特に制限はない。
【0029】
上述した各成分を、熱硬化性樹脂(硬化前の液状体)又は樹脂を溶剤に溶解させた溶液に混合し、混合液をキャスト成膜、アプリケータ成膜等により、所望の厚みのシート状に形成し、加熱する方法が挙げられる。混合液の加熱時間は、用いる樹脂や樹脂溶液の粘度、使用溶剤等を考慮して適宜調整することができる。
【0030】
<導体>
本実施形態で使用する導体は、規則的に配列された複数の開口部を有するシート状体であり、開口部の最長部の長さは、吸収対象波長の0.1%~2%である。本実施形態では開口部の長さを調整することにより、特定波長の吸収能力を向上できる。
【0031】
例えば、周波数が28GHzである電波の波長は10.7mmであるため、開口部の最長部を0.0107mm~0.214mmに調整する。周波数が44GHzである電波の波長は6.8mmであるため、開口部の最長部を0.0068mm~0.136mmに調整する。
例えば、吸収対象の電波の周波数が28GHz~44GHzである場合、開口部の最長部を0.0068mm~0.214mmに調整することができる。
開口部の最長部の長さは、吸収対象波長の0.1%~1.5%であることが好ましく、0.2%~1.25%であることがより好ましく、0.5%~1.1%であることがさらに好ましい。
【0032】
開口部の形状は特に限定されない。例えば、格子状、円状、楕円状、多角形状、星状が挙げられる。開口部の形状は格子状(正方形、長方形、菱形)であることが好ましい。開口部の最長部とは、例えば、格子状では長い方の対角線長を意味し、楕円状では長径を意味する。
【0033】
導体が格子状である場合、隣接する開口部間の最短距離は、0.05mm以下であることが好ましい。これにより、導体の開口部の比率を高くすることができ、電波吸収体をさらに軽量化できる。なお、導体の線間の下限は、通常0.01mm以上である。
【0034】
一実施形態において、導体の厚さ(又は線直径)は0.5mm以下であり、0.3mm以下であってもよく、0.1mm以下であってもよい。軽量化の観点から導体は薄い方がよいが、通常0.01mm以上である。
【0035】
一実施形態において、導体の目開き率(導体の全面積に対する開口部合計の比率)は1%以上、7%以上、又は9%以上である。また、40%以下又は35%である。
【0036】
導体としては、鉄、アルミニウム、銅、ニッケル、金、銀等の金属、SUS等の合金等、一般的な金属材料が挙げられる。安価であることからSUS、アルミニウム又は銅が好ましい。
なお、ポリアニリンやポリチオフェンのような導電性高分子を、導体として用いることは好ましくない。
【0037】
本実施形態で使用する導体は、その全体が導電性を有する必要はなく、主に電波に作用する表面領域に存在していればよい。例えば、規則的に配列された複数の開口部を有する樹脂シートの表面に、金属メッキを形成したメッキ被覆樹脂シートでもよい。また、各種繊維からメッシュシート(織物)を作製し、該シートに金属メッキを施したメッキ体でもよい。
軽量化の観点から、一実施形態において導体は、金属メッキされた樹脂又は繊維であることが好ましい。
【0038】
メッキされる基材となる樹脂及び繊維は限定されず、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエステル、(メタ)アクリレート等が挙げられる。
メッキとしては、例えば、ニッケル(Ni)めっきが挙げられる。
【0039】
金属メッキ体を使用する場合、メッキ厚は下記式(1)で表される表皮深さdよりも厚くする。
【数1】
(式中、dは表皮深さ[m]、ρは導体の電気抵抗率[Ω・m](ρ=1/σ)、ωは交流電流の角周波数[rad/s](ω=2πf)、μは導体の透磁率[H/m]、σは導体の導電率[S/m]、fは交流電流の周波数[Hz]である。)
【0040】
規則的に配列された複数の開口部を有する導体は、金属線を織って(平織り、綾織り等)形成したもの、非導電性基材に導体を印刷又は蒸着で形成したもの、樹脂製の織物に金属メッキを形成したもの等、様々な態様が挙げられる。電波吸収体の用途に合わせて、重量面や費用面等を考慮して選択することができる。
【0041】
図2~4は、本実施形態に使用できる導体の一例の平面写真である。図2はSUSを平織りしたシートである。図3はポリエステルメッシュ基材(綾織り)にNi無電解めっきを施したシートである。図4はポリエステルメッシュ基材(平織り)にNi無電解めっきを施したシートである。
【0042】
<電波吸収体の製造>
本実施形態に係る電波吸収体は、例えば、上述した誘電体と、導体と、を積層して製造することができる(図1)。例えば、誘電体1をメッシュ状の導体2上に直接成膜する方法や、誘電体1にメッシュ状の導体2を貼り付けることにより製造することができる。誘電体1とメッシュ状の導体2の間に一般的な粘着層等の樹脂層が形成されていてもよい。
なお、図1ではシート状の電波吸収体を例示したが、本実施形態の電波吸収体はシート等の平面体に限定されず、使用部位に合わせて適宜成形し、製造することができる。
【0043】
また、一実施形態に係る電波吸収体は、導体を上述した誘電体として硬化させる前の熱硬化性樹脂の溶液中にディップした後、硬化、乾燥させて製造することもできる。
【0044】
一実施形態において、電波吸収体は、誘電体の表面に導電性の有機高分子や導体からなる抵抗被膜を有しない。本実施形態の電波吸収体は、電波吸収体内部で電磁波が誘電体の誘電損失により熱に変換されるため、抵抗被膜を設ける必要はない。
【0045】
一実施形態において、電波吸収体の全光線透過率は29%以下である。本実施形態の電波吸収体では、誘電体の開口部が小さいため、全光線透過率は低い。したがって、全光線透過率の高い金属メッシュデバイス(MMD)とは明らかに異なる。
全光線透過率は、光線透過率測定法で測定する。
【0046】
本実施形態の電波吸収体は、特に28GHz~44GHzの周波数領域全体において、高い電波吸収性能を有する。具体的には、28GHz~44GHzの周波数領域全体における電波の吸収量を30%以上とすることができ、50%以上又は60%以上にすることも可能である。
【実施例0047】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
なお、下記において、温度条件や圧力条件について特に記載されていない操作は、温度条件は常温(通常25℃)付近、圧力条件は常圧(通常0.1013MPa)で行った。
【0048】
製造例1
シリコーン樹脂(ポリジメチルシロキサン:ダウ・東レ株式会社製、Silpot184(登録商標)の主材)92.8質量%(硬化後)、炭素繊維(ミドルファイバー、日本グラファイトファイバー(株)製、XN-100-15M、平均長さ150μm)2.2質量%、及び軟磁性扁平粉末(山陽特殊製鋼(株)製 RD145AS)5質量%を、自転公転式ミキサー(あわとり練太朗 ARE-310)を使用して、2000rpmで2分間撹拌混合した。
得られた混合液に、上記主材10に対し、Silpot184(登録商標)の硬化剤を1(体積比)添加し、さらに、2000rpmで2分間撹拌混合し、その後、2000rpmで2分間脱泡した。
脱泡した混合液を10cm角のアルミ容器に流し込み、その後、アルミ容器をホットプレートにて100℃で40分間加熱し、硬化させた。硬化物(キャストフィルム)をアルミ容器から剥がすことにより、誘電体を作製した。
【0049】
製造例2~6
混合液の配合を表1に示すように変更した他は、製造例1と同様にして誘電体を作製した。
使用材料は下記のとおりである。
(樹脂)
シリコーン樹脂(ポリジメチルシロキサン:ダウ・東レ株式会社製、Silpot184(登録商標))
(炭素繊維)
・ミドルファイバー(日本グラファイトファイバー(株)製)
平均長さ 150μm(XN-100-15M)
平均長さ 250μm(XN-100-25M)
(中空粒子)
・中空ガラスビーズ(ポッターズ・バロティーニ(株)製 Q-CEL 7040S)
(炭素粒子)
・ケッチェンブラック(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製ライオナイトCB)
(金属粒子)
・軟磁性扁平粉末(山陽特殊製鋼(株)製 RD145AS、鉄系金属粒子)
【0050】
【表1】
【0051】
実施例1
製造例1で製造した誘電体に、メッシュ状の導体であるSUSの平織り400メッシュ(メッシュ開口部の最長部長さ:0.059mm、線径:0.023mm、clever社製 SUS400-023)を積層して電波吸収体を作製した。
【0052】
実施例2~6、比較例1~5
誘電体及び導体を表2に示すように変更した他は、実施例1と同様にして電波吸収体を作製した。
【0053】
【表2】
【0054】
表2中、導体種類A~Eは下記のとおりである。
A:SUSの平織り400メッシュ(メッシュ開口部の最長部長さ:0.059mm、線径:0.023mm、clever社製 SUS400-023)
B:ポリエステルメッシュ基材にNi無電解めっき(めっき厚さ:0.4μm)を施したメッシュ状の導体(綾織り、メッシュ開口部の最長部長さ:0.021mm)
C:ポリエステルメッシュ基材にNi無電解めっき(めっき厚さ:0.4μm)を施したメッシュ状の導体(平織り、メッシュ開口部の最長部長さ:0.072mm)
D:アルミ板(2mm厚)
E:SUSの平織り100メッシュ(メッシュ開口部の最長部長さ:0.239mm、線径:0.1mm、Hikari社製:PS100-321)
【0055】
実施例及び比較例で作製した電波吸収体について、電波吸収特性及び全光線透過率を測定した。測定結果を表3及び4に示す。
<電波吸収特性>
電波吸収特性(電波吸収量及び誘電体の複素誘電率)の測定は、自由空間法にて実施した。
・使用機器:PNAマイクロ波ネットワークアナライザN5227(キーサイト・テクノロジー社製)
・試験条件
雰囲気:大気中
温度:室温
周波数:28GHz~44GHz
照射角度:垂直
【0056】
<光線透過率測定>
光線透過率の測定は、日本電色工業株式会社製濁度計NDH5000を用いて、プラスチック透明材料の全光線透過率の試験方法であるJIS K 7361-1により行った。
【0057】
【表3】
【0058】
【表4】
【0059】
表3から、実施例1~6は全ての周波数において吸収特性量30%以上の高い吸収特性が得られることが確認できる。一方、導体に開口部を有さないアルミ板を用いた比較例1~4では、実施例1~3及び5と同じ誘電体を使用しているにも関わらず、全ての周波数において電波吸収量は30%未満となった。
比較例5では、導体の開口部の最長部の長さが吸収対象波長の2%より長いため、実施例と比べて電波吸収特性が低かった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の電波吸収体は、ミリ波領域の電波を吸収する部材として、車両、土木構造物、建築物、港湾設備、船舶設備、橋梁、電力設備、通信設備、機械設備等に使用することができる。具体的に、船舶、航空機、車両等に使用するミリ波レーダー装置、電気・電子機器等に使用される電波吸収遮蔽部材として好適である。また、道路のガードレール、トンネル内壁、スマートシティ等の交通インフラ環境における不要電波吸収遮蔽部材として好適である。
【符号の説明】
【0061】
10 電波吸収体
1 誘電体層
2 メッシュ状の導体からなる層
図1
図2
図3
図4