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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166576
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】吸収性物品
(51)【国際特許分類】
   A61F 13/511 20060101AFI20241122BHJP
【FI】
A61F13/511 400
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082761
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水元 陽星
(72)【発明者】
【氏名】宇田 萌笑
(72)【発明者】
【氏名】笠川 郁
(72)【発明者】
【氏名】松永 慶
【テーマコード(参考)】
3B200
【Fターム(参考)】
3B200AA01
3B200AA03
3B200BA01
3B200BA09
3B200BA14
3B200BB03
3B200DC07
(57)【要約】
【課題】体液の吸収量と逆戻り量の両方を改善できる吸収性物品を提供する。
【解決手段】吸収性物品1は、液透過性を有する表面側シート2と、液不透過性の裏面側シート3と、表面側シート2及び裏面側シート3の間に配置された吸収体4と、を備え、表面側シート2は、吸収体4側の下層不織布21と、吸収体4と反対の表面側の上層不織布20と、を備え、下層不織布21の空隙率が上層不織布20の空隙率よりも低く、上層不織布20の空隙率及び下層不織布21の空隙率の差が0.05%以上2.30%以下である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液透過性を有する表面側シートと、液不透過性の裏面側シートと、前記表面側シート及び前記裏面側シートの間に配置された吸収体と、を備え、
前記表面側シートは、前記吸収体側の下層不織布と、前記吸収体と反対の表面側の上層不織布と、を備え、
前記下層不織布の空隙率が前記上層不織布の空隙率よりも低く、前記上層不織布の空隙率及び前記下層不織布の空隙率の差が0.05%以上2.30%以下である、吸収性物品。
【請求項2】
前記上層不織布の空隙率及び前記下層不織布の空隙率は、いずれも97.8%以下である、請求項1に記載の吸収性物品。
【請求項3】
前記表面側シートは、前記上層不織布及び前記下層不織布が繊維同士の交絡により一体化されることで、前記上層不織布及び前記下層不織布の間に複合層を備えており、
前記複合層の空隙率が前記上層不織布の空隙率よりも低く、前記上層不織布の空隙率及び前記複合層の空隙率の差が2.70%以上5.00%以下である、請求項1又は2に記載の吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えばおりもの、経血、汗、尿などの体液を吸収するために使用される吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば女性の膣分泌物であるおりものを吸収する吸収性物品として、おりものシートが知られている。おりものシートなどの吸収性物品においては、体液の吸収量及び吸収した体液の逆戻り量が製品の品質に大きく関わる重要な設計要素である。吸収量が少ないと、吸収性物品の使用時に体液が吸収性物品に吸収されずに吸収性物品から漏れるおそれがある。また、逆戻り量が多いと、吸収性物品の表面(ユーザの肌に接触する側の面)側に吸収した体液が逆戻りし、体液がユーザの肌に触れることでユーザに不快感を与える。
【0003】
特許文献1及び2では、吸収性物品の表面側シートに用いる不織布の構成繊維の目付、繊度、親水度などの物性値を調整することで、吸収量及び逆戻り量の改善を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許6607609号公報
【特許文献2】特許4127494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
不織布は、内部の繊維間に多数の微小な空隙を含んだ構造である。不織布の空隙率が高いと、繊維間の空隙における体液の保持性が高まるため、吸収量が増える。しかし、不織布の繊維間に保持された体液が吸収体にスムーズに吸収されないと、繊維間の空隙に保持した体液の量が多いことでかえって逆戻り量が増える。このように、吸収量と逆戻り量は不織布の空隙率の観点においてトレードオフの関係にある。そのため、特許文献1及び2のように、表面側シートに用いる不織布を構成する繊維の目付、繊度、親水度などの調整だけでは、体液の吸収量及び逆戻り量の両方の改善を図ることに限界がある。
【0006】
本開示は、上記課題を解決する吸収性物品を提供するものであり、体液の吸収量と逆戻り量の両方を改善できる吸収性物品の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の吸収性物品は、上記課題を解決するため、以下の項1に記載の吸収性物品を主題として包含する。
【0008】
項1.液透過性を有する表面側シートと、液不透過性の裏面側シートと、前記表面側シート及び前記裏面側シートの間に配置された吸収体と、を備え、
前記表面側シートは、前記吸収体側の下層不織布と、前記吸収体と反対の表面側の上層不織布と、を備え、
前記下層不織布の空隙率が前記上層不織布の空隙率よりも低く、前記上層不織布の空隙率及び前記下層不織布の空隙率の差が0.05%以上2.30%以下である、吸収性物品。
【0009】
また、本開示の吸収性物品は、上記項1に記載の吸収性物品の好ましい態様として、以下の項2に記載の吸収性物品を包含する。
【0010】
項2.前記上層不織布の空隙率及び前記下層不織布の空隙率は、いずれも97.8%以下である、項1に記載の吸収性物品。
【0011】
また、本開示の吸収性物品は、上記項1から項2に記載の吸収性物品の好ましい態様として、以下の項3に記載の吸収性物品を包含する。
【0012】
項3.前記表面側シートは、前記上層不織布及び前記下層不織布が繊維同士の交絡により一体化されることで、前記上層不織布及び前記下層不織布の間に複合層を備えており、
前記複合層の空隙率が前記上層不織布の空隙率よりも低く、前記上層不織布の空隙率及び前記複合層の空隙率の差が2.70%以上5.00%以下である、項1又は2に記載の吸収性物品。
【発明の効果】
【0013】
本開示の吸収性物品によれば、体液の吸収量と逆戻り量の両方を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は吸収性物品の概略構成を示す平面図である。
図2図2は吸収性物品の概略構成を示す背面図である。
図3図3は吸収性物品の一部分における概略構成を示す拡大断面図(図1のX1-X1断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の吸収性物品の実施形態について、添付図面を参照して説明する。
【0016】
吸収性物品の全体構成
吸収性物品は、ユーザの衣類(例えば下着)又は肌に取り付けられて、ユーザから排出される体液を吸収するために使用される。体液は、例えば、おりもの、経血、汗、尿などが挙げられる。吸収性物品としては、おりものシート(パンティライナー)、生理用ナプキン、おむつ、失禁パッド、脇汗パッドなどを例示できる。本実施形態においては、吸収性物品がおりものシートである。
【0017】
吸収性物品の形状及び大きさは、特に限定されるものではなく、使用時に適用されるユーザの身体の部位に合わせた形状及び大きさに設計される。吸収性物品の厚みは、特に限定されるものではなく、使用時にユーザが吸収性物品に触れた際にユーザが違和感を感じない程度の厚みに設計される。吸収性物品がおりものシートである場合、おりものシートの厚みは、例えば1.2mm以上3.8mm以下である。
【0018】
図1から図3に示すように、吸収性物品1は、液透過性を有する表面側シート(トップシート)2と、液不透過性の裏面側シート(バックシート)3と、表面側シート2及び裏面側シート3の間に配置された吸収体4と、を備える。吸収性物品1は、表面側から裏面側に向かって順に、表面側シート2、吸収体4及び裏面側シート3が積層された多層構造である。なお、本開示において、吸収性物品1の表面側は使用時にユーザの肌に接触する側を指し、吸収性物品1の裏面側は表面側と反対側を指している。
【0019】
吸収性物品1は、表面側シート2がユーザの肌に接触するように使用される。ユーザから排出された体液は、表面側シート2を透過して吸収体4に吸収される。裏面側シート3は、吸収体4に吸収された体液が吸収性物品1の裏面側から漏れてユーザの衣服などに付着するのを抑制する。
【0020】
吸収性物品1の裏面側シート3は、粘着部5が形成されている。吸収性物品1は、使用時に、裏面に形成された粘着部5によってユーザの衣類などに貼り付けられる。粘着部5は、この種の吸収性物品に用いられる公知の粘着剤などによって形成できる。
【0021】
吸収性物品1の外周縁部には、外周全長にわたって圧着部6が形成されている。圧着部6は、例えば、熱圧着加工、超音波圧着加工、圧力のみを付与する単なる圧着加工などを吸収性物品1に対して表面側から厚み方向に施すことにより、形成される。圧着部6により、表面側シート2、吸収体4及び裏面側シート3は相互に固定される。圧着部6の幅は特に限定されず、例えば2mm以上5mm以下である。圧着部6の厚みは、上述した圧着加工により、吸収性物品1において圧着部6以外の箇所の厚みよりも薄い。
【0022】
表面側シート
表面側シート2は、液体を透過できる不織布シートである。表面側シート2は、ユーザから排出された体液を受容して吸収体4に移行する。表面側シート2の目付けは、例えば20g/m以上40g/m以下であり、好ましくは27g/m以上36g/m以下である。表面側シート2の厚みは、例えば0.10mm以上0.50mm以下であり、好ましくは0.15mm以上0.40mm以下である。
【0023】
表面側シート2は、図3に示すように、上層不織布20と、下層不織布21と、を備える。上層不織布20は、下層不織布21よりも吸収性物品1の表面側に位置し、吸収性物品1の最表面を構成する。
【0024】
本実施形態では、表面側シート2は、上層不織布20及び下層不織布21を接着剤による貼り合わせではなく上層不織布20を構成する繊維と下層不織布21を構成する繊維を交絡させて一体化することにより、形成されている。これにより、表面側シート2は、上層不織布20及び下層不織布21の間に複合層22を備える。上層不織布20及び下層不織布21の一体化は、例えば、スパンレース法、ニードルパンチ法、水流交絡法などにより実現できる。
【0025】
表面側シート2は、体液吸収体1の吸収量を増やしかつ逆戻り量を減らすため、上層不織布20と下層不織布21で空隙率が異なり、下層不織布21の空隙率が上層不織布20の空隙率よりも低い、言い換えれば、上層不織布20の空隙率が下層不織布21の空隙率よりも高い、ことを特徴とする。
【0026】
不織布は、内部の繊維間に多数の微小な空隙を含んだ構造であり、不織布の空隙率が高いと、繊維間の空隙における体液の保持性が高まる。そのため、上層不織布20は、空隙率が高いことで、ユーザから排出された体液が上層不織布20内に引き込まれて繊維間の空隙に保持されやすいため、多量の体液を保持できる。
【0027】
また、不織布の空隙率が低いと、繊維間の空隙の毛管圧が高まるため、体液の吸引力が高まる。そのため、下層不織布21は、上層不織布20の繊維間の空隙に保持された体液を下層不織布21の面方向に拡散させながら吸収体4にスムーズに移行できる。
【0028】
このように、表面側シート2は、上層不織布20の空隙率が高く、ユーザから排出された体液を保持できる空隙が多いうえ、下層不織布21の空隙率が低く、受容した体液を素早く吸収体4に移行する。よって、表面側シート2において、一度に多くの量の体液を受容しても、体液が吸収体4に吸収される前に溢れることを抑制できるので、吸収量が多い吸収性物品1を実現できる。
【0029】
一方で、下層不織布21においては、空隙率が低く、繊維間の空隙の毛管圧が高い。そのため、例えば吸収体4が圧縮などされた場合に、下層不織布21が吸収体4から逆戻りする体液を受けると、下層不織布21においては体液が上層不織布20の方に引き込まれやすい。しかし、下層不織布21においては、空隙率が低いので、繊維間の空隙に体液が保持されにくい。逆戻り量は、繊維間の空隙の毛管圧だけでなく、繊維間の空隙に保持される体液の量も大きく影響する。よって、下層不織布21においては、繊維間の空隙に保持される体液の量が少ないので、体液の逆戻りが起こりにくい。
【0030】
また、上層不織布20においては、空隙率が高く、繊維間の空隙の毛管圧が低い。そのため、下層不織布21から上層不織布20に体液が引き込まれても、上層不織布20においては、表面側に体液が引き込まれにくい。よって、上層不織布20においても、体液の逆戻りが起こりにくい。
【0031】
このように、表面側シート2は、下層不織布21の空隙率が低く、吸収体4から逆戻りした体液を保持できる空隙が少ないうえ、上層不織布20の空隙率が高く、逆戻りした体液を表面側までスムーズに移行できない。そのため、表面側シート2において体液の逆戻りが起こりにくいので、逆戻り量が少ない吸収性物品1を実現できる。
【0032】
上層不織布20の空隙率及び下層不織布21の空隙率の差は、0.05%以上2.30%以下である。つまり、下層不織布21の空隙率が上層不織布20の空隙率よりも0.05%から2.30%低い、言い換えれば、上層不織布20の空隙率が下層不織布21の空隙率よりも0.05%から2.30%高いと、吸収性物品1の吸収量を増加でき、かつ、吸収性物品1の逆戻り量を減少できる。上層不織布20の空隙率及び下層不織布21の空隙率の差は、0.05%以上2.30%以下であればよいが、0.10%以上1.50%以下であることが好ましく、0.15%以上0.70%以下であることがより好ましい。
【0033】
上層不織布20においてユーザから排出された体液を多量に保持でき、かつ、吸収体4からの体液の逆戻りが起こりにくいとの観点から、上層不織布20の空隙率は、92.0%以上98.5%以下であることが好ましく、95.0%以上97.8%以下であることがより好ましい。
【0034】
下層不織布21においてユーザから排出された体液をスムーズに吸収体4に移行でき、かつ、吸収体4からの体液の逆戻りが起こりにくいとの観点から、下層不織布21の空隙率は、92.0%以上98.5%以下であることが好ましく、95.0%以上97.8%以下であることがより好ましい。
【0035】
上層不織布20及び下層不織布21の空隙率は、表面側シート2又は表面側シート2を備えた吸収性物品1をX線CTスキャンすることで表面側シート2の内部構造を画像化し、繊維が存在していない部分の体積分率を算出することにより、求められる。なお、後述する複合層22の空隙率も、同様の方法で求められる。
【0036】
上層不織布20及び下層不織布21の素材となる繊維は、天然繊維、合成繊維、半合成繊維、複合繊維、及び上述した繊維を適宜混ぜた混合繊維などを例示できる。天然繊維は、コットン、シルク、パルプ、羊毛、麻などを例示できる。合成繊維は、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリアミド、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ビニロンなどを例示できる。半合成繊維は、レーヨン、アセテートなどを例示できる。複合繊維は、ポリエチレン/ポリエステル、ポリエチレン/ポリプロピレンなどを例示できる。上層不織布20及び下層不織布21の素材には、例示した繊維の一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
上層不織布20及び下層不織布21は、親水性を有することが好ましい。上層不織布20及び下層不織布21が親水性を有することにより、ユーザから排出された体液を吸収体4にスムーズに移行できる。
【0038】
上層不織布20及び下層不織布21の親水性は、上層不織布20及び下層不織布21の素材となる繊維自体がもつ親水性により発揮できる。親水性をもつ繊維は、綿、麻、羊毛などを例示できる。あるいは、上層不織布20及び下層不織布21の親水性は、上層不織布20及び下層不織布21の素材となる合成繊維に対して親水剤による表面処理を施すことにより発揮できる。親水剤は、陰イオン性界面活性剤、カルボン酸塩、アシル化加水分解たんぱく質、スルホン酸塩、硫酸エステル塩、リン酸エステル塩、非イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレン系界面活性剤、カルボン酸エステル、カルボン酸アミド、ポリアルキレキシドブロック共重合体、陽イオン性界面活性剤、第四級アンモニウム塩、両性界面活性剤、イミダゾリニウム誘導体などを例示できる。
【0039】
上層不織布20は、吸収性物品1の最表面を構成し、ユーザの肌に接触する。そのため、上層不織布20の素材となる繊維に、コットン、レーヨン繊維、アセテート繊維などのセルロース系繊維を用いるのが好ましい。セルロース系繊維は、吸湿性に優れるため、肌表面の水分を適度に保つことができるとともに繊維自身が水分を吸って柔らかくなるので肌との摩擦が少ないという利点があるうえ、静電気の発生が極めて少ないという利点がある。特に、セルロース系繊維の中でも天然繊維であるコットンを上層不織布20の構成繊維に用いると、上層不織布20の肌触りがよくなりかつ肌への刺激性が低くなる(かぶれにくなる)ため、ユーザは吸収性物品1の使用時に良好な使用感を得られる。
【0040】
また、ユーザに対する上層不織布20の肌触りを良好にするために、上層不織布20を構成する繊維が下層不織布21を構成する繊維よりも細いことが好ましい。
【0041】
上層不織布20の素材となる繊維の太さ(繊度)は、ユーザに対する上層不織布20の肌触りを良好にするとの観点、及び、上層不織布20の空隙率を高くするとの観点から、0.5dtex以上2.5dtex以下であることが好ましく、1.5dtex以上2.0dtex以下であることがより好ましい。
【0042】
下層不織布21の素材となる繊維の太さ(繊度)は、ユーザから排出された体液を吸収体4にスムーズに移行するとの観点、及び、吸収体4に吸収された体液の逆戻りを抑制するとの観点から、1.5dtex以上6.0dtex以下であることが好ましく、2.0dtex以上5.0dtex以下であることがより好ましい。
【0043】
なお、複数種類の繊度を有する繊維が混合されている場合、本開示の繊度は、繊維ごとに繊度に当該繊度を有する繊維が全体に占める割合を掛けた値を算出し、全ての繊度について算出した値を合算することで求められる数値である。例えば、繊度が1.2dtexの繊維が50%の割合で含まれ、繊度が2.0dtexの繊維が50%の割合で含まれている場合、本開示の繊度は、1.2×0.5+2.0×0.5=1.6dtexである。
【0044】
複合層22は、上層不織布20及び下層不織布21の間に形成された層であり、上層不織布20を構成する繊維と下層不織布21を構成する繊維とが絡み合っている層である。表面側シート2は、上層不織布20と下層不織布21が互いに接する界面が不明確であり、上層不織布20及び下層不織布21の間に、上層不織布20及び下層不織布21よりも空隙率の低い複合層22が介在している。
【0045】
上層不織布20の空隙率及び複合層22の空隙率の差は、好ましくは2.70%以上5.00%以下である。つまり、複合層22の空隙率が上層不織布20の空隙率よりも2.70%から5.00%低い、言い換えれば、上層不織布20の空隙率が複合層22の空隙率よりも2.70%から5.00%高い。このような複合層22が上層不織布20及び下層不織布21の間に介在することにより、吸収性物品1の吸収量を増加でき、かつ、吸収性物品1の逆戻り量を減少できる。上層不織布20の空隙率及び複合層22の空隙率の差は、2.70%以上5.00%以下であることが好ましいが、2.80%以上3.40%以下であることがより好ましい。
【0046】
吸収体
吸収体4は、ユーザから排出されて表面側シート2を透過した体液を吸収する。吸収体4は、体液の吸収性を有するものであれば特に制限はなく、一般におりものシート、生理用ナプキン、おむつ、失禁パッド、脇汗パッドなどに用いられている吸収体を使用できる。吸収体4は、例えば、吸水性パルプ、吸水性ポリマー(SAP)などの公知の吸収材の他、織物、編物、不織布又はパルプ製品などのシート状の繊維構造体を使用できる。吸収体4は、肌あたりが良好でありかつ吸収性に優れることから、シート状の繊維構造体、その中でも、不織布を用いるのが好ましい。吸収体4に用いられる不織布の製造方法は、特に限定されず、従来公知の方法に従って製造できる。
【0047】
吸収体4の素材となる繊維は、天然繊維、合成繊維、半合成繊維、複合繊維、及び上述した繊維を適宜混ぜた混合繊維などを例示できる。天然繊維は、コットン、シルク、パルプ、羊毛、麻などを例示できる。天然繊維の中でも、アレルギーなどの接触性皮膚炎が起こりにくく、かぶれにくく、かつ、吸収性に優れる点から、(タンパク質系成分でない)コットンやパルプなどのセルロース系繊維が好ましい。合成繊維は、ナイロン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリアミド、アクリル、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル、ウレタンなどを例示できる。半合成繊維は、レーヨン、アセテート、キュプラなどを例示できる。複合繊維は、ポリエチレン/ポリエステル、ポリエチレン/ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル/ポリプロピレンなどを例示できる。吸収体4の素材には、例示した繊維の一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。二種以上を組み合わせる例としては、セルロース系繊維と複合繊維の組み合わせが挙げられる。
【0048】
吸収体4に不織布などを用いる場合は、体液を良好に吸収するとの観点から、例えば、吸水性ポリマー(SAP)が含まれていてもよい。
【0049】
裏面側シート
裏面側シート3は、体液の透過を抑制するシート(フィルムを含む)である。裏面側シート3は、吸収体4に吸収された体液が吸収性物品1の裏面側から外部へ漏れるのを抑制する。裏面側シート3は、体液を通さない性質があれば特に制限はなく、例えば、液不透過性のフィルム、SMSなどの液不透過性の不織布、スパンボンド不織布又はポイントボンド不織布などに液不透過性のフィルムをラミネートした積層シートを使用できる。
【0050】
液不透過性のフィルムは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、ポリビニルアルコール、セロファン、塩化ビニルなどからなるフィルム、又は、上述したフィルムを二以上積層した多層フィルムなどを例示できる。
【0051】
吸収性物品の作用・効果
以上説明したように、本実施形態の吸収性物品1においては、表面側シート2が空隙率の異なる上層不織布20及び下層不織布21を備えており、下層不織布21の空隙率が上層不織布20の空隙率よりも低く、上層不織布20の空隙率及び下層不織布21の空隙率の差が0.05%以上2.30%以下である。
【0052】
このように、ユーザから排出される体液を受ける上層不織布20の空隙率が高いことから、上層不織布20においては体液が繊維間の空隙に保持されやすく、多量の体液を保持できる。一方、下層不織布21の空隙率が低いことから、下層不織布21においては繊維間の空隙の毛管圧が高まり、上層不織布20の繊維間の空隙に保持された体液を吸収体4にスムーズに移行できる。その結果、吸収性物品1の吸収量を増加できるため、吸収性物品1の使用時に表面側シート2に体液が残るのを抑制できる。
【0053】
また、下層不織布21の空隙率が低いことから、下層不織布21においては体液が繊維間の空隙に保持されにくく、吸収体4からの体液の逆戻りが起こりにくい。加えて、上層不織布20の空隙率が高いことから、上層不織布20においては繊維間の空隙の毛管圧が低く、吸収体4からの体液の逆戻りが起こりにくい。その結果、吸収性物品1の逆戻り量を低減できるため、吸収性物品1の使用時に表面側シート2に体液が逆戻りするのを抑制できる。
【0054】
よって、本実施形態の吸収性物品1によれば、使用時の表面の濡れ感を改善できるため、使用時にユーザが快適な使用感を得られる。
【0055】
また、本実施形態の吸収性物品1においては、上層不織布20の空隙率及び前記下層不織布の空隙率は、いずれも97.8%以下である。これにより、本実施形態の吸収性物品1によれば、吸収量の増加及び逆戻り量の低減を効果的に改善できるため、ユーザは吸収性物品1の使用時にさらに良好な使用感を得られる。
【0056】
また、本実施形態の吸収性物品1においては、表面側シート2は、上層不織布20及び下層不織布21が繊維同士の交絡により一体化されることで、上層不織布20及び下層不織布21の間に複合層22を備えており、複合層22の空隙率が上層不織布20の空隙率よりも低く、上層不織布20の空隙率及び複合層22の空隙率の差が2.70%以上5.00%以下である。これにより、本実施形態の吸収性物品1によれば、吸収量の増加及び逆戻り量の低減を効果的に改善できるため、ユーザは吸収性物品1の使用時にさらに良好な使用感を得られる。
【0057】
変形例
以上、本開示の吸収性物品の一実施形態について説明したが、本開示の吸収性物品は上述した実施形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変形ができる。例えば、以下の変形ができる。また、以下の変形例の要旨は、適宜組み合わせることができる。
【0058】
上述した実施形態では、表面側シート2は、上層不織布20及び下層不織布21の間に複合層22を備えている。変形例として、上層不織布20及び下層不織布21を接着あるいは熱溶着で貼り合わせてもよく、表面側シート2が、上層不織布20及び下層不織布21の間に複合層22を備えていなくてもよい。
【0059】
上述した実施形態では、圧着部6が、吸収性物品1の外周縁の位置において、外周縁に沿って一周にわたり設けられている。他の変形例として、圧着部6は、吸収性物品1の外周縁から内側に離れた位置において、外周縁に沿って一周にわたり設けられてもよい。
【0060】
上述した実施形態では、表面側シート2にエンボス加工などによる小さな凹部が形成されていない。他の変形例として、表面側シート2にエンボス加工などによる小さな凹部が形成されてもよい。
【0061】
上述した実施形態では、表面側シート2、吸収体4及び裏面側シート3は圧着部6によって相互に固定されている。他の変形例として、表面側シート2、吸収体4及び裏面側シート3は、接着剤もしくは熱溶着などによる貼り合わせで固定されてもよい。接着剤としては、例えば、水溶性の接着剤(例えばアクリル系水溶性接着剤)、非水溶性接着剤(例えば、ゴム系ホットメルト、オレフィン系ホットメルト)などが挙げられる。
【0062】
上述した実施形態では、吸収性物品1が表面側シート2、吸収体4及び裏面側シート3の三層構造である。他の変形例として、吸収性物品1は、例えば、表面側シート2と吸収体4との間に、透液効果、拡散効果、又は、表面側への体液の逆戻りを止める効果を有するシートを設けてもよい。
【実施例0063】
以下、実施例及び比較例を用いて、本開示の吸収性物品の作用・効果について説明する。なお、本開示の吸収性物品は以下の実施例には限定されない。
【0064】
表面側シートに実施例1-5及び比較例1-2のそれぞれの不織布を用いた場合の吸収量及び逆戻り量を測定する試験を行った。また、表面側シートに実施例1-5及び比較例1-2のそれぞれの不織布を用いた場合の使用感について、官能評価を行った。
【0065】
実施例1-5及び比較例1-2のいずれも、吸収量及び逆戻り量の測定試験においては、不織布のサイズが60mm×60mmである。また、実施例1-5及び比較例1-2のいずれも、不織布は、コットン繊維で構成された上層不織布と、ポリプロピレン繊維で構成された下層不織布との二層構造である。実施例1,2,4については、上層不織布及び下層不織布の間に複合層が形成されている。各例の不織布における上層不織布、下層不織布及び複合層の空隙率は以下の表1に示すとおりである。
【0066】
吸収量の測定試験
吸収量を測定する試験では、実施例1-5及び比較例1-2のそれぞれについて、まず、乾いた状態の不織布の重量X1(g)を測定する。次に、水を溜めたバットを用意し、気泡が入らないようにして不織布をバット内の水に浸す。不織布の全体に水が行き渡っていることが確認できると、不織布を水に30秒間つからせる。30秒経過すると、不織布をピンセットを用いて水から引き上げ、クリップに挟んでビュレットスタンドに吊り下げる。不織布を30秒間、吊り下げた後、不織布の重量Y1(g)を測定する。実施例1-5及び比較例1-2のそれぞれについて、不織布の重量変化Y1-X1(g)を吸収量とする。実施例1-5及び比較例1-2の吸収量の結果を表1に示す。
【0067】
逆戻り量の測定試験
逆戻り量を測定する試験では、実施例1-5及び比較例1-2のそれぞれについて、まず、JIS P 3801の[ろ紙(化学分析用)]に規定される2種に相当するろ紙を10枚用意し、ろ紙10枚の重量X2(g)を測定する。次に、水を溜めたバットを用意し、60mm×60mmのサイズのエアスルー不織布を気泡が入らないようにしてバット内の水に浸す。水がエアスルー不織布の全体に行き渡っていることが確認できると、エアスルー不織布を水に30秒間つからせる。30秒経過すると、エアスルー不織布をピンセットを用いて水から引き上げ、クリップに挟んでビュレットスタンドに吊り下げる。エアスルー不織布を30秒間、吊り下げた後、トレーの上に置く。そして、実施例1-5及び比較例1-2のそれぞれの不織布をエアスルー不織布の上に置き、不織布の上にろ紙10枚を重ねる。そして、ろ紙の上に380g(底が平坦な75mm×35mmのサイズのもの)の錘を載せ、10秒間放置する。10秒後、ろ紙10枚の重量Y2(g)を測定する。実施例1-5及び比較例1-2のそれぞれについて、ろ紙10枚の重量変化Y2-X2(g)を逆戻り量とする。実施例1-5及び比較例1-2の逆戻り量の結果を表1に示す。
【0068】
使用感の官能試験
実施例1-5及び比較例1-2のそれぞれの不織布を表面側シートに用いたおりものシートを作製後、10名の被験者に5時間以上装着してもらい、吸収量と逆戻りに対する使用感の主観評価をとった。評価軸は7段階であり、使用感がよいほど得点が高い評価とした。その評価結果を表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
実施例1-5及び比較例1-2を対比すると、表面側シートが空隙率の異なる上層不織布及び下層不織布を備えており、下層不織布の空隙率が上層不織布の空隙率よりも低く、上層不織布の空隙率及び下層不織布の空隙率の差が0.05%以上2.30%以下であることで、吸収量及び逆戻り量のいずれについても改善できることが確認された。
【0071】
また実施例1及び実施例3、並びに、実施例4及び実施例5を対比すると、表面側シートが上層不織布及び下層不織布の間に複合層を備えており、複合層の空隙率が上層不織布の空隙率よりも低く、上層不織布の空隙率及び複合層の空隙率の差が2.70%以上5.00%以下であることで、吸収量及び逆戻り量のいずれについてもより効果的に改善できることが確認された。
【0072】
また実施例1-3及び実施例4-5を対比すると、上層不織布の空隙率及び下層不織布の空隙率のいずれもが97.8%以下であることで、吸収量及び逆戻り量のいずれについてもより効果的に改善できることが確認された。
【符号の説明】
【0073】
1 吸収性物品
2 表面側シート
3 裏面側シート
4 吸収体
20 上層不織布
21 下層不織布
22 複合層
図1
図2
図3