(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166666
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】オートインデューサー-2阻害剤、バイオフィルム形成抑制剤、並びに殺菌作用の増強剤、及び殺菌作用の増強方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/727 20060101AFI20241122BHJP
A61P 17/10 20060101ALI20241122BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20241122BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20241122BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241122BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241122BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20241122BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
A61K31/727
A61P17/10
A61P17/00 101
A61P31/04
A61P43/00 121
A61K45/00
A61K8/73
A61Q19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082900
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】濱田 昌子
(72)【発明者】
【氏名】南 さやか
【テーマコード(参考)】
4C083
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C083AD211
4C083AD212
4C083BB48
4C083CC02
4C083CC41
4C083DD21
4C083DD22
4C083DD23
4C083EE13
4C083EE14
4C084AA19
4C084MA13
4C084MA17
4C084MA28
4C084MA32
4C084MA63
4C084NA05
4C084ZA901
4C084ZA902
4C084ZB351
4C084ZB352
4C084ZC751
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA27
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA16
4C086MA27
4C086MA34
4C086MA63
4C086NA14
4C086ZA90
4C086ZB35
4C086ZC41
(57)【要約】
【課題】本開示の目的は、オートインデューサー-2阻害剤を提供することである。
【解決手段】ヘパリン類似物質は、オートインデューサー-2に対して優れた阻害活性を示し、オートインデューサー-2阻害剤として利用できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘパリン類似物質を含む、オートインデューサー-2阻害剤。
【請求項2】
キューティバクテリウム属細菌、シュードモナス属細菌、及びビブリオ属細菌よりなる群から選択される少なくとも1種の細菌のオートインデューサー-2を阻害するために使用される、請求項1に記載のオートインデューサー-2阻害剤。
【請求項3】
皮膚外用剤に配合して使用される、請求項1又は2に記載のオートインデューサー-2阻害剤。
【請求項4】
ニキビの予防又は治療が求められる皮膚に適用される、請求項1又は2に記載のオートインデューサー-2阻害剤。
【請求項5】
ヘパリン類似物質を含む、バイオフィルムの形成抑制剤。
【請求項6】
キューティバクテリウム属細菌及び/又はシュードモナス属細菌のバイオフィルム形成を抑制するために使用される、請求項5に記載のバイオフィルムの形成抑制剤。
【請求項7】
皮膚外用剤に配合して使用される、請求項5又は6に記載のバイオフィルムの形成抑制剤。
【請求項8】
ニキビの予防又は治療が求められる皮膚に適用される、請求項5又は6に記載のバイオフィルムの形成抑制剤。
【請求項9】
バイオフィルム中の細菌に対する殺菌剤の殺菌作用を増強させるための剤であって、
ヘパリン類似物質を含む、殺菌作用の増強剤。
【請求項10】
キューティバクテリウム属細菌、シュードモナス属細菌、及びビブリオ属細菌よりなる群から選択される少なくとも1種の細菌に対する殺菌剤の殺菌作用の増強のために使用される、請求項9に記載の殺菌作用の増強剤。
【請求項11】
皮膚外用剤に配合して使用される、請求項9又は10に記載の殺菌作用の増強剤。
【請求項12】
アクネ菌に対する殺菌剤の殺菌作用を増強するために使用される、請求項9又は10に記載の殺菌作用の増強剤。
【請求項13】
殺菌剤を含む製剤において、バイオフィルム中の細菌に対する殺菌剤の殺菌作用を増強させる方法であって、
殺菌剤を含む製剤にヘパリン類似物質を配合する、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、オートインデューサー-2阻害剤、バイオフィルム形成抑制剤、バイオフィルム中の細菌に対する殺菌剤の殺菌作用の増強させるための剤、及びバイオフィルム中の細菌に対する殺菌剤の殺菌作用を増強させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クオラムセンシングとは、同種菌の生産するシグナル物質であるオートインデューサーの菌体外濃度を感知することで、同種菌の菌密度を感知し、それに合わせて特定の遺伝子発現や表現型をコントロールする微生物間情報伝達機構の一つである。クオラムセンシングは、細菌感染、病原性発現、バイオフィルム形成、毒素産生等に関与していることが知られている。
【0003】
例えば、齲蝕の原因菌であるストレプトコッカス・ミュータンス、歯周病の原因菌であるポルフィロモナス・ジンジバリス、胃潰瘍及び胃癌の一因になるヘリコバクター・ピロリ、食中毒や出血性腸炎等の一因になるクロストリジウム・パーフリンジェンス等の多くの病原性細菌では、オートインデューサー-2(以下、AI-2)をシグナル分子としてクオラムセンシングを制御している。そのため、AI-2阻害剤を使用することにより、これらの病原性細菌のクオラムセンシングを阻害することができ、その結果、これらの病原性細菌によって引き起こされる各種感染症の予防又は治療が期待できる。
【0004】
また、ニキビ(尋常性ざ瘡)の発症にもクオラムセンシングが関与していると考えられている。具体的には、アクネ菌(Cutibacterium acnes)は、毛包内で形成されたバイオフィルム内でAI-2の産生能が高まり、リパーゼによる皮脂の分解を促進し、ニキビの増悪因子を増大させていることが報告されている(非特許文献1参照)。また、ニキビの予防又は治療には、抗菌剤等の薬剤によってアクネ菌の増殖を抑制することが有効であるが、アクネ菌は毛包内で形成されたバイオフィルムで保護されているため、薬剤を経皮適用しても、バイオフィルムが薬剤の浸透を妨げ、薬効を低減させている。AI-2阻害剤によってアクネ菌のクオラムセンシングを阻害することにより、アクネ菌のバイオフォルムの形成を抑制し、その結果、ニキビの予防又は治療薬の薬効を高めることが期待される。
【0005】
従来、AI-2に対して阻害活性がある成分について種々検討されている。例えば、特許文献1には、5-アミノ-n-吉草酸、ブタン-1,4-ジアミン、グアニン、アセト酢酸、γ-ヒドロキシ酪酸、ピペリジン、グルコン酸、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタル酸、N8-アセチルスペルミジン及びウロカニン酸、並びにこれらの塩をAI-2阻害剤として使用できることが開示されている。また、特許文献2には、4,5-ジヒドロキシ-2-シクロペンテン-1-オンをAI-2阻害剤として使用できることが開示されている。
【0006】
しかしながら、AI-2の阻害活性やバイオフィルム形成抑制活性の更なる向上、AI-2の阻害活性やバイオフィルム形成抑制活性を有する製品の多様化への追従等のために、AI-2阻害剤やバイオフィルム形成抑制剤として使用できる新たな成分の開発が切望されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】S. M. Lwin et al., Acne, quorum sensing and danger, Clinical and Experimental Dermatology, Volume 39, Issue 2, p.162-167, 13 February 13 2014
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2012-97036号公報
【特許文献2】国際公開第2003/77844号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本開示の目的は、AI-2阻害剤を提供することである。また、本開示の他の目的は、バイオフィルム形成抑制剤を提供することである。また、本開示の更に他の目的は、バイオフィルム中の細菌に対する殺菌剤の殺菌作用の増強させるための剤を提供することである。また、本開示の更に別の目的は、バイオフィルム中の細菌に対する殺菌剤の殺菌作用を増強させる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、ヘパリン類似物質には、AI-2に対して優れた阻害活性があり、皮膚や粘膜で形成されるバイオフィルムの形成を抑制する作用があることを知得し、AI-2阻害剤又はバイオフィルム形成抑制剤の有効成分として利用できることを見出した。更に、本発明者は、ヘパリン類似物質には、バイオフィルムの形成を抑制する作用に加え、バイオフィルム中の細菌に対する殺菌剤の殺菌作用の増強させる作用があることを見出した。本開示は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0011】
即ち、本開示の一実施形態では、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1-1. ヘパリン類似物質を有効成分とする、AI-2阻害剤。
項1-2. キューティバクテリウム属細菌、シュードモナス属細菌、及びビブリオ属細菌よりなる群から選択される少なくとも1種の細菌のAI-2を阻害するために使用される、項1-1に記載のAI-2阻害剤。
項1-3. 皮膚外用剤に配合して使用される、項1-1又は1-2に記載のAI-2阻害剤。
項1-4. ニキビの予防又は治療が求められる皮膚に適用される、項1-1~項1-3のいずれかに記載のAI-2阻害剤。
項1-5. ヘパリン類似物質のAI-2阻害剤の製造のための使用。
項1-6. AI-2阻害が求められる身体部位に有効量のヘパリン類似物質を適用する、AI-2阻害方法。
項1-7. AI-2を阻害する処置に使用されるヘパリン類似物質。
項1-8. AI-2阻害のためのヘパリン類似物質の非治療的使用。
【0012】
また、本開示の他の実施形態では、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項2-1. ヘパリン類似物質を有効成分とする、バイオフィルムの形成抑制剤。
項2-2. キューティバクテリウム属細菌及び/又はシュードモナス属細菌のバイオフィルム形成を抑制するために使用される、項2-1に記載のバイオフィルムの形成抑制剤。
項2-3. 皮膚外用剤に配合して使用される、項2-1又は2-2に記載のバイオフィルムの形成抑制剤。
項2-4. ニキビの予防又は治療が求められる皮膚に適用される、項2-1~項2-3のいずれかに記載のバイオフィルムの形成抑制剤。
項2-5. ヘパリン類似物質のバイオフィルムの形成抑制剤の製造のための使用。
項2-6. バイオフィルムの形成抑制が求められる身体部位に有効量のヘパリン類似物質を適用する、バイオフィルムの形成抑制方法。
項2-7. バイオフィルムの形成を抑制する処置に使用されるヘパリン類似物質。
項2-8. バイオフィルムの形成抑制のためのヘパリン類似物質の非治療的使用。
【0013】
また、本開示の更に他の実施形態では、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項3-1. バイオフィルム中の細菌に対する殺菌剤の殺菌作用を増強させるための剤であって、ヘパリン類似物質を有効成分とする、殺菌作用の増強剤。
項3-2. キューティバクテリウム属細菌、シュードモナス属細菌、及びビブリオ属細菌よりなる群から選択される少なくとも1種の細菌に対する殺菌剤の殺菌作用の増強のために使用される、項3-1に記載の殺菌作用の増強剤。
項3-3. 皮膚外用剤に配合して使用される、項3-1又は3-2に記載の殺菌作用の増強剤。
項3-4. アクネ菌に対する殺菌剤の殺菌作用を増強するために使用される、項3-1~3-3のいずれかに記載の殺菌作用の増強剤。
項3-5. ヘパリン類似物質の、バイオフィルム中の細菌に対する殺菌剤の殺菌作用を増強させるための剤の製造のための使用。
項3-6. バイオフィルムが形成されている身体部位に、有効量のヘパリン類似物質と殺菌剤を適用する、殺菌方法。
項3-7. バイオフィルム中の細菌に対する殺菌剤の殺菌作用を増強させるためのヘパリン類似物質の非治療的使用。
【0014】
また、本開示の更に別の実施形態では、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項4-1. 殺菌剤を含む製剤において、バイオフィルム中の細菌に対する殺菌剤の殺菌作用を増強させる方法であって、
殺菌剤を含む製剤にヘパリン類似物質を配合する、前記方法。
項4-2. キューティバクテリウム属細菌、シュードモナス属細菌、及びビブリオ属細菌よりなる群から選択される少なくとも1種の細菌に対する殺菌剤の殺菌作用の増強のために行われる、項4-1に記載の方法。
項4-3. 前記製剤が皮膚外用剤である、項4-1又は4-2に記載の方法。
項4-4. アクネ菌に対する殺菌剤の殺菌作用を増強するために行われる、項4-1~4-3のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0015】
本開示のAI-2阻害剤によれば、抗菌活性を発揮させることなくAI-2を阻害できるので、皮膚や粘膜で生じる細菌のクオラムセンシングを阻害することが可能になる。また、本開示のバイオフィルム形成抑制剤によれば、皮膚や粘膜に形成されるバイオフィルムの形成を効果的に抑制することができる。例えば、ニキビの原因となるアクネ菌は毛包内で形成されたバイオフィルムで保護されており、従来技術では、ニキビの予防又は治療剤(例えば、アクネ菌に対する殺菌剤)を経皮適用しても、当該予防又は治療剤の浸透がバイオフィルムによって妨げられ、ニキビの予防又は治療効果を十分に奏することができないが、本開示のAI-2阻害剤又はバイオフィルム形成抑制剤を、ニキビの予防又は治療が求められる皮膚に適用することにより、アクネ菌のバイオフィルムの形成を抑制でき、当該予防又は治療剤によるニキビの予防又は治療効果を有効に発現させることが可能になる。
【0016】
また、本開示の殺菌作用の増強剤によれば、バイオフィルム中の細菌に対する殺菌剤の殺菌作用を増強できるので、バイオフィルムが形成されている皮膚や粘膜に対して、本開示の殺菌作用の増強剤と殺菌剤を適用することにより、バイオフィルム中の細菌を効果的に殺菌することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示において、数値範囲に関する表記「X~Y」は、X以上Y以下の範囲を指す。
【0018】
1.AI-2阻害剤
本開示のAI-2阻害剤は、ヘパリン類似物質を有効成分とすることを特徴とする。以下、本開示のAI-2阻害剤について詳述する。
【0019】
[有効成分]
本開示のAI-2阻害剤では、有効成分として、ヘパリン類似物質を使用する。ヘパリン類似物質は、コンドロイチン多硫酸等の多硫酸化ムコ多糖であり、保湿作用や血行促進作用等を有することが知られている公知の成分である。AI-2をシグナル物質としてクオラムセンシングを制御している細菌に対してヘパリン類似物質を共存させると、当該細菌のAI-2を阻害することができる。
【0020】
本開示で使用されるヘパリン類似物質の由来については、特に制限されないが、例えば、ムコ多糖類を多硫酸化することにより得られたもの、食用獣の組織(例えば、ウシの気管軟骨を含む肺臓)から抽出したもの等が挙げられる。本開示の外用乳化組成物では、ヘパリン類似物質として、日本薬局方外医薬品規格に収戴されているヘパリン類似物質が好適に使用される。
【0021】
[用途]
本開示のAI-2阻害剤は、AI-2をシグナル物質としてクオラムセンシングを制御している細菌において、AI-2を阻害するために使用される。本開示のAI-2阻害剤は、当該細菌のAI-2阻害によって、そのクオラムセンシングを阻害できる。その結果、本開示のAI-2阻害剤は、病原性発現、バイオフィルム形成、毒素産生等を抑制でき、当該細菌による感染症の予防又は治療効果が奏される。このため、本開示のAI-2阻害剤は、AI-2をシグナル物質としてクオラムセンシングを制御している細菌が存在する身体部位(口腔内、皮膚等)に適用することにより、当該細菌による感染症の予防又は治療剤として使用することができる。更に、開示のAI-2阻害剤は、前記細菌のクオラムセンシングを阻害することによってバイオフィルム中の前記細菌に対して殺菌剤の殺菌作用を効果的に発揮させることができるので、殺菌剤と併用してバイオフィルム中の細菌の殺菌目的で使用することもできる。
【0022】
AI-2をシグナル物質としてクオラムセンシングを制御している細菌としては、例えば、キューティバクテリウム・アクネ(アクネ菌)等のキューティバクテリウム属細菌;緑膿菌(シュードモナス・エルギノーザ)等のシュードモナス属細菌;ビブリオ・ハーベイ、ビブリオ・コレラ、ビブリオ・フィッシェリ等のビブリオ属細菌;ストレプトコッカス・ミュータンス、ストレプトコッカス・ニューモニエ、ストレプトコッカス・ゴードニー、ストレプトコッカス・オラリス、ストレプトコッカス・ソブリナス、ストレプトコッカス・アンギノーサス等のストレプトコッカス属細菌;ポルフィロモナス・ジンジバリス等のポルフィロモナス属細菌;クロストリジウム・パーフリンジェンス、クロストリジウム・ディフィシル等のクロストリジウム属細菌;ヘリコバクター・ピロリ等のヘリコバクター属細菌;エンテロバクター・クロアカ等のエンテロバクター属細菌;黄色ブドウ球菌(スタフィロコッカス・アウレウス)等のスタフィロコッカス属細菌;サルモネラ・エンテリカ、サルモネラ・ティピムリウム等のサルモネラ属細菌;カンピロバクター・ジェジュニ、カンピロバクター・コリ等のカンピロバクター属細菌;エシェリキア・コリ等のエシェリキア属細菌等;アクチノマイセス・ネスランディ等のアクチノマイセス属細菌;フゾバクテリウム・ヌクレアタム等のフゾバクテリウム属細菌;アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス等のアグリゲイティバクター属細菌;プレボテラ・インターメディア等のプレボテラ属細菌等が挙げられる。これらの中でも、本開示のAI-2阻害剤の適用対象となる細菌として、好ましくは、キューティバクテリウム属細菌、シュードモナス属細菌、及びビブリオ属細菌が挙げられる。
【0023】
例えば、本開示のAI-2阻害剤は、アクネ菌のAI-2を阻害することによって、そのクオラムセンシングを阻害できる。その結果、本開示のAI-2阻害剤は、アクネ菌のバイオフィルムの形成、ニキビの症状の進行を抑制できる。このため、本開示のAI-2阻害剤は、ニキビの予防又は治療目的で使用することができる。更に、アクネ菌のバイオフィルムの形成を抑制することにより、ニキビの予防又は治療剤(例えば、アクネ菌に対する殺菌剤)がアクネ菌に作用し易くすることができるので、本開示のAI-2阻害剤は、ニキビの予防又は治療剤の薬効向上の目的で使用することもできる。また、本開示のAI-2阻害剤は、バイオフィルム中のアクネ菌に対して殺菌剤の殺菌作用を効果的に発揮させることができるので、殺菌剤と併用してバイオフィルム中のアクネ菌の殺菌の目的で使用することもできる。
【0024】
本開示のAI-2阻害剤は、緑膿菌のAI-2を阻害することによって、緑膿菌の毒素産生を抑制できる。このため、本開示のAI-2阻害剤は、緑膿菌感染症の予防又は治療剤として使用することができる。また、前述の通り、本開示のAI-2阻害剤は、バイオフィルム中の緑膿菌に対して殺菌剤の殺菌作用を効果的に発揮させることができるので、殺菌剤と併用してバイオフィルム中の緑膿菌の殺菌の目的で使用することもできる。
【0025】
本開示のAI-2阻害剤は、ストレプトコッカス・ミュータンスのAI-2を阻害することによって、そのクオラムセンシングを阻害できる。その結果、齲蝕の原因となるバイオフィルムの形成や当該細菌の耐酸性の獲得を抑制できるので、本開示のAI-2阻害剤は、齲蝕の予防又は治療剤として使用することができる。また、本開示のAI-2阻害剤は、バイオフィルム中のストレプトコッカス・ミュータンスに対して殺菌剤の殺菌作用を効果的に発揮させることができるので、殺菌剤と併用してバイオフィルム中のストレプトコッカス・ミュータンスの殺菌の目的で使用することもできる。
【0026】
本開示のAI-2阻害剤は、ポルフィロモナス・ジンジバリス、ストレプトコッカス・ゴードニー、フゾバクテリウム・ヌクレアタム、アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス、又はプレボテラ・インターメディのAI-2を阻害することによって、そのクオラムセンシングを阻害できる。その結果、歯周病の原因となるバイオフィルムの形成や当該細菌による毒素産生等を抑制できるので、本開示のAI-2阻害剤は、歯周病の予防又は治療剤として使用することができる。また、本開示のAI-2阻害剤は、バイオフィルム中の細菌に対して殺菌剤の殺菌作用を効果的に発揮させることができるので、殺菌剤と併用してバイオフィルム中の歯周病菌の殺菌の目的で使用することもできる。
【0027】
本開示のAI-2阻害剤は、アクチノマイセス・ネスランディのAI-2を阻害することによって、そのクオラムセンシングを阻害できる。その結果、齲蝕又は歯周病等の原因となるバイオフィルム形成抑制できるので、本開示のAI-2阻害剤は、齲蝕又は歯周病の予防剤として使用することができる。また、本開示のAI-2阻害剤は、バイオフィルム中のアクチノマイセス・ネスランディに対して殺菌剤の殺菌作用を効果的に発揮させることができるので、殺菌剤と併用してバイオフィルム中のアクチノマイセス・ネスランディの殺菌の目的で使用することもできる。
【0028】
本開示のAI-2阻害剤は、サルモネラ・エンテリカ、サルモネラ・ティピムリウム、カンピロバクター・ジェジュニ、カンピロバクター・コリ、エシェリキア・コリ等の食中毒菌のAI-2を阻害することによって、そのクオラムセンシングを阻害できる。その結果、食中毒の原因となる毒素産生を抑制できるので、本開示のAI-2阻害剤は、食中毒の予防又は治療剤として使用することができる。
【0029】
本開示のAI-2阻害剤は、クロストリジウム・パーフリンジェンスのAI-2を阻害することによって、腸内でのエンテロトキシンの産生を抑制できる。このため、本開示のAI-2阻害剤は、食中毒、出血性腸炎又はガス壊疽の予防又は治療剤として使用することができる。
【0030】
本開示のAI-2阻害剤は、ヘリコバクター・ピロリのAI-2を阻害することによって、ウレアーゼの産生を阻害して当該細菌の胃への定着を抑制できる。このため、本開示のAI-2阻害剤は、胃炎、胃潰瘍又は胃癌の予防又は治療剤として使用することができる。
【0031】
本開示のAI-2阻害剤は、エンテロバクター属細菌のAI-2を阻害することによって、腸管出血性大腸菌の志賀毒素の産生を抑制できる。このため、本開示のAI-2阻害剤は、腸管出血性大腸感染症の予防又は治療剤として使用することができる。
【0032】
[AI-2阻害剤が配合される製剤]
本開示のAI-2阻害剤が配合される製剤の剤型については、特に限定されず、固体状、半固体状、又は液体状のいずれであってもよい。
【0033】
本開示のAI-2阻害剤が配合される製剤として、具体的には、皮膚外用剤、口腔ケア製品等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは皮膚外用剤が挙げられる。
【0034】
本開示のAI-2阻害剤を皮膚外用剤に配合にする場合(即ち、AI-2阻害用の皮膚外用剤として提供する場合)、ヘパリン類似物質を、他の添加成分や薬効成分等と組み合わせて所望の形態に調製すればよい。皮膚外用剤としては、皮膚外用医薬品及び化粧料が挙げられ、具体的には、クリーム剤、ローション剤、ジェル剤、乳液剤、液剤、パップ剤、貼付剤、リニメント剤、エアゾール剤、水性軟膏剤、パック剤等の皮膚外用医薬品;水性軟膏、クリーム、乳液、化粧水、ローション、パック、ゲル等の化粧料等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは皮膚外用医薬品が挙げられる。
【0035】
本開示のAI-2阻害剤を皮膚外用剤に配合にする場合、皮膚外用剤におけるヘパリン類似物質の含有量については、皮膚外用剤の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば0.003~1重量%、好ましくは0.003~0.3重量%、より好ましくは0.003~0.1重量%が挙げられる。
【0036】
本開示のAI-2阻害剤が配合される皮膚外用剤には、殺菌剤が含まれていてもよい。皮膚外用剤に本開示のAI-2阻害剤と殺菌剤が含まれている場合には、バイオフィルム中の細菌に対する殺菌剤の殺菌作用を増強して発揮させることが可能になる。殺菌剤の種類については、身体に適用可能であることを限度として特に限定されないが、例えば、イソプロピルメチルフェノール(ビオゾール)、フェノール等のフェノール系殺菌剤;ジンクピリチオン、ナトリウムピリチオン等のピリジン系殺菌剤;塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化デカリニウム等のカチオン系殺菌剤等が挙げられる。これらの殺菌剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、本開示のAI-2阻害剤が配合される皮膚外用剤に殺菌剤を含有させる場合、皮膚外用剤における殺菌剤の含有量については、皮膚外用剤の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば0.01~1重量%、好ましくは0.01~0.5重量%、より好ましくは0.01~0.2重量%が挙げられる。
【0037】
本開示のAI-2阻害剤を口腔ケア製品に配合にする場合(即ち、AI-2阻害用の口腔ケア製品として提供する場合)、ヘパリン類似物質を、他の添加成分や薬効成分等と組み合わせて所望の形態に調製すればよい。口腔ケア製品としては、口腔内に適用されて口腔内で一定時間滞留し得るものであればよいが、具体的には、液状歯磨剤、練歯磨剤、含嗽剤、口中清涼剤(マウススプレー等)、口腔用パスタ剤、歯肉マッサージクリーム等の口腔衛生剤が挙げられる。
【0038】
本開示のAI-2阻害剤を口腔ケア製品に配合にする場合、口腔ケア製品におけるヘパリン類似物質の含有量については、口腔ケア製品の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.003~1重量%、好ましくは0.003~0.3重量%、より好ましくは0.003~0.1重量%が挙げられる。
【0039】
本開示のAI-2阻害剤が配合される口腔ケア製品には、う蝕菌や歯周病菌等の細菌に対する殺菌剤が含まれていてもよい。口腔ケア製品に本開示のAI-2阻害剤と殺菌剤が含まれている場合には、殺菌剤の殺菌作用を増強して発揮させることができる。殺菌剤の種類については、特に限定されないが、例えば、イソプロピルメチルフェノール(ビオゾール)、トリクロサン等のフェノール系殺菌剤;クロルヘキシジン塩酸塩、クロルヘキシジングルコン酸塩等のビスビグアニド系殺菌剤;塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化デカリニウム等のカチオン系殺菌剤等が挙げられる。これらの殺菌剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、本開示のAI-2阻害剤が配合される口腔ケア製品に殺菌剤を含有させる場合、口腔ケア製品における殺菌剤の含有量については、皮膚外用剤の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば0.01~1重量%、好ましくは0.01~0.5重量%、より好ましくは0.01~0.2重量%が挙げられる。
【0040】
2.バイオフィルム形成抑制剤
本開示のバイオフィルム形成抑制剤は、ヘパリン類似物質を有効成分とすることを特徴とする。以下、本開示のバイオフィルム形成抑制剤について詳述する。
【0041】
[有効成分]
本開示のバイオフィルム形成抑制剤では、有効成分として、ヘパリン類似物質を使用する。バイオフィルムを形成する細菌に対してヘパリン類似物質を共存させると、当該細菌のバイオフィルム形成能を阻害することができる。
【0042】
本開示のバイオフィルム形成抑制剤で使用されるヘパリン類似物質の由来については、前記「1.AI-2阻害剤」の欄に記載の通りである。
【0043】
[用途]
本開示のバイオフィルム形成抑制剤は、細菌によるバイオフィルムの形成を抑制する目的で、バイオフィルムが形成されている身体部位(皮膚、口腔内等)又はバイオフィルムが形成されるおそれがある身体部位(皮膚、口腔内等)に適用して使用される。皮膚や粘膜におけるバイオフィルムは、病原性細菌の保護、細菌の病原性発現、細菌の毒素産生等に関与しているので、皮膚や粘膜におけるバイオフィルムの形成を抑制することによって、皮膚や粘膜を健全な状態にすることができる。また、本開示のバイオフィルム形成抑制剤は、バイオフィルム中の細菌に対して殺菌剤の殺菌作用を効果的に発揮させることができるので、殺菌剤と併用してバイオフィルム中の細菌の殺菌目的で使用することもできる。
【0044】
本開示のバイオフィルム形成抑制剤において、抑制対象となるバイオフィルムの原因菌の種類については、特に制限されないが、例えば、前記「1.AI-2阻害剤」において、クオラムセンシングを制御している細菌として例示したものが挙げられる。本開示のバイオフィルム形成抑制剤において、抑制対象となるバイオフィルムの原因菌の好適な例としては、キューティバクテリウム・アクネス(アクネ菌)等のキューティバクテリウム属細菌、緑膿菌(シュードモナス・エルギノーザ)等のシュードモナス属細菌が挙げられる。
【0045】
例えば、アクネ菌のバイオフィルムの形成を抑制することにより、ニキビの症状の進行を抑制できるので、本開示のバイオフィルム形成抑制剤は、ニキビの予防又は治療剤として使用することができる。また、アクネ菌のバイオフィルムの形成を抑制することにより、ニキビの予防又は治療剤(例えば、アクネ菌に対する抗菌剤)がアクネ菌に作用し易くすることができるので、本開示のバイオフィルム形成抑制剤は、ニキビの予防又は治療剤の薬効向上の目的で使用することもできる。更に、本開示のバイオフィルム形成抑制剤は、殺菌剤と併用してバイオフィルム中のアクネ菌の殺菌の目的で使用することもできる。また、緑膿菌のバイオフィルムの形成を抑制することによって、緑膿菌の毒素産生能を低減できるので、本開示のバイオフィルム形成抑制剤は、緑膿菌感染症の予防又は治療剤として使用することができる。更に、本開示のバイオフィルム形成抑制剤は、殺菌剤と併用してバイオフィルム中の緑膿菌の殺菌の目的で使用することもできる。また、口腔内で形成されるバイオフィルムは、齲蝕又は歯周病の原因となっているので、本開示のバイオフィルム形成抑制剤は、齲蝕の予防又は治療剤として使用することもできる。更に、本開示のバイオフィルム形成抑制剤は、殺菌剤と併用してバイオフィルム中のう蝕菌又は歯周病菌の殺菌の目的で使用することもできる。
【0046】
[バイオフィルム形成抑制剤が配合される製剤]
本開示のバイオフィルム形成抑制剤が配合される製剤の剤型については、特に限定されず、固体状、半固体状、又は液体状のいずれであってもよい。
【0047】
本開示のバイオフィルム形成抑制剤が配合される製剤として、具体的には、皮膚外用剤、口腔ケア製品等が挙げられる。本開示のバイオフィルム形成抑制剤が配合される製剤の具体例、当該製剤におけるヘパリン類似物質の含有量、当該製剤に殺菌剤を含有させる場合の殺菌剤の種類及びその含有量等については、前記「1.AI-2阻害剤」の場合と同様である。
【0048】
3.殺菌作用の増強剤
本開示の殺菌作用の増強剤は、バイオフィルム中の細菌に対する殺菌剤の殺菌作用の増強させるための剤であって、ヘパリン類似物質を有効成分とすることを特徴とする。以下、本開示の殺菌作用の増強剤について詳述する。
【0049】
[有効成分]
本開示の殺菌作用の増強剤では、有効成分として、ヘパリン類似物質を使用する。ヘパリン類似物質と殺菌剤を併用して、バイオフィルムに適用すると、バイオフィルム内の細菌に対して殺菌剤の殺菌作用を増強して発揮させることができる。
【0050】
本開示の殺菌作用の増強剤で使用されるヘパリン類似物質の由来については、前記「1.AI-2阻害剤」の欄に記載の通りである。
【0051】
[用途]
本開示の殺菌作用の増強剤は、バイオフィルム中の細菌に対する殺菌剤の殺菌作用を増強するための添加成分として使用される。皮膚や口腔内にバイオフィルムが形成されている場合には、バイオフィルムが殺菌剤の浸透を妨げ、殺菌剤の殺菌作用を十分に発揮できなくなるが、本開示の殺菌作用の増強剤と殺菌剤を併用してバイオフィルムに適用することにより、バイオフィルム中の細菌に対しても、効果的に殺菌作用を発揮させることができる。
【0052】
本開示の殺菌作用の増強剤において殺菌作用の増強対象となる殺菌剤の種類については、特に制限されないが、例えば、例えば、イソプロピルメチルフェノール(ビオゾール)、トリクロサン、フェノール等のフェノール系殺菌剤;クロルヘキシジン塩酸塩、クロルヘキシジングルコン酸塩等のビスビグアニド系殺菌剤;ジンクピリチオン、ナトリウムピリチオン等のピリジン系殺菌剤;塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化デカリニウム等のカチオン系殺菌剤等が挙げられる。
【0053】
本開示の殺菌作用の増強剤において、殺菌作用の増強対象となる殺菌剤の標的細菌の種類については、特に制限されないが、例えば、前記「1.AI-2阻害剤」において、クオラムセンシングを制御している細菌として例示したものが挙げられる。本開示の殺菌作用の増強剤において、殺菌作用の増強対象となる殺菌剤の標的細菌の好適な例としては、キューティバクテリウム・アクネス(アクネ菌)等のキューティバクテリウム属細菌、緑膿菌(シュードモナス・エルギノーザ)等のシュードモナス属細菌が挙げられる。
【0054】
例えば、バイオフィルム中のアクネ菌を効果的に殺菌することによりニキビの予防又は治療効果の向上を期待できるので、本開示の殺菌作用の増強剤は、ニキビの予防又は治療剤で使用される殺菌剤の殺菌作用の増強目的で好適に使用できる。また、バイオフィルム中の緑膿菌を効果的に殺菌することにより緑膿菌感染症の予防又は治療効果の向上を期待できるので、本開示の殺菌作用の増強剤は、緑膿菌感染症の予防又は治療剤で使用される殺菌剤の殺菌作用の増強目的でも好適に使用できる。また、バイオフィルム中のう蝕菌又は歯周病菌を効果的に殺菌することによりう蝕又は歯周病の予防又は治療効果の向上を期待できるので、本開示の殺菌作用の増強剤は、う蝕又は歯周病の予防又は治療剤で使用される殺菌剤の殺菌作用の増強目的でも好適に使用できる。
【0055】
[殺菌作用の増強剤が配合される製剤]
本開示の殺菌作用の増強剤が配合される製剤の剤型については、特に限定されず、固体状、半固体状、又は液体状のいずれであってもよい。
【0056】
本開示の殺菌作用の増強剤が配合される製剤には、殺菌剤が含まれていることが好ましい。本開示の殺菌作用の増強剤と殺菌剤を含む製剤は、バイオフィルムが形成されている身体部位(皮膚、口腔内等)に適用して使用すればよい。
【0057】
また、本開示の殺菌作用の増強剤が配合される製剤に殺菌剤が含まれていない場合には、本開示の殺菌作用の増強剤が配合される製剤と、殺菌剤を含む製剤とを、同時又は任意の順で、バイオフィルムが形成されている身体部位(皮膚、口腔内等)に適用すればよい。
【0058】
本開示の殺菌作用の増強剤が配合される製剤として、具体的には、皮膚外用剤、口腔ケア製品等が挙げられる。本開示のバイオフィルム形成抑制剤が配合される製剤の具体例、当該製剤におけるヘパリン類似物質の含有量、当該製剤に殺菌剤を含有させる場合にはその含有量等については、前記「1.AI-2阻害剤」の場合と同様である。
【0059】
4.殺菌作用の増強方法
本開示の殺菌作用の増強方法は、殺菌剤を含む製剤において、バイオフィルム中の細菌に対する殺菌剤の殺菌作用を増強させる方法であって、殺菌剤を含む製剤にヘパリン類似物質を配合することを特徴とする。
【0060】
本開示の殺菌作用の増強方法で使用されるヘパリン類似物質の由来及び配合量、殺菌剤の種類、殺菌剤の標的細菌の種類、製剤における殺菌剤の含有量、製剤の種類等については、前記「3.殺菌作用の増強剤」の欄に記載の通りである。
【実施例0061】
以下、本開示を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0062】
試験例1:AI-2阻害活性の検証
1.試験方法
AI-2を認識することにより発光するレポーター細菌を使用して、AI-2阻害活性を測定した。使用した試験材料及び測定条件は以下の通りである。
【0063】
(1)試験材料
・レポーター細菌
レポーター細菌として、ビブリオ・ハーベイMM32株(ATCC BAA-1121、luxN::Cm, luxS::Tn5Ka)を使用した。
【0064】
・Km-LB培地
塩化ナトリウム10g/L、バクトトリプトン10g/L、及び酵母エキス5g/Lを含むLB培地を高圧蒸気滅菌(121℃、15分間)し、その後、カナマイシン硫酸塩を50mg/Lとなるように無菌的に添加することにより、Km-LB培地を調製した。
【0065】
・AB培地
先ず、0.3Mの塩化ナトリウム、0.05Mの硫酸マグネシウム、及び2g/Lのカザミノ酸(ビタミンフリー、Difco社製)を含む水溶液を水酸化カリウムでpH7.5に調整し、高圧蒸気滅菌(121℃、15分間)を行った。この水溶液100mLに、1Mリン酸カリウムバッファー(1Mリン酸二水素カリウム水溶液と1Mリン酸水素二カリウム水溶液を混合してpH7.0に調整したバッファー)1mL、0.1MのL-アルギニンを含む水溶液1mL、50重量%のグリセロールを含む水溶液2mL、0.1mg/mLのリボフラビンを含む水溶液0.01mL、及び10mg/mLのチアミン塩酸塩を含む水溶液0.01mLを添加し、孔径0.22μmのフィルターで濾過滅菌を行うことにより、AB培地を得た。
【0066】
・HMF含有液
4-ヒドロキシ-5-メチル-3(2H)-フラノン(HMF)(CAS:19322-27-1)2.35mg、エタノール1mL、及び滅菌蒸留水9mLをガラス容器中で混合し、HMF含有液(2,000μMのHMF含有)を調製した。HMFは、AI-2活性を有していることが知られており、本試験では、HMFをAI-2代替物として使用した。
【0067】
・BMF含有液
4-ブロモ-5-(4-メトキシフェニル)-2(5H)-フラノン(BMF)(CAS:32060-84-7)2.15mg、エタノール4mL、及び滅菌蒸留水36mLを混合し、BMF含有液(200μMのBMF含有)を調製した。BMFは、AI-2を阻害する活性を有していることが知られており、本試験では、BMFをポジティブコントロールとして使用した。
【0068】
・検体
10容量%のエタノールを含む水溶液に、ヘパリン類似物質、サクシニルアテロコラーゲン液(海洋性コラーゲン濃度1%)、又はヒアルロン酸ナトリウムを表1に示す濃度の20倍の濃度となるようにそれぞれ添加し、各種検体を調製した。
【0069】
(2)測定条件
レポーター細菌をKm-LB培地で前培養し、前培養液の600nmの吸光度(OD600)を測定し、Km-LB培地を適量添加してOD600が0.50となるように調整し、レポーター細菌液を得た。このレポーター細菌液をAB培地で2,500倍に希釈し、レポーター細菌希釈液を得た。
【0070】
無菌ガラス試験管内で、レポーター細菌希釈液0.9mLと検体0.05mLを混合し、遮光下、30℃、撹拌(180rpm)条件下で10分間インキュベートした。次いで、HMF含有液0.05mLを添加して、遮光下、30℃、撹拌(180rpm)条件下で4時間インキュベートした。この時点で検体は20倍希釈されている。表1に記載する終濃度は、この時点の各成分の濃度である。インキュベート後の液0.1mLを発光測定用プレートに移し、マイクロプレートリーダー(装置:SpextraMax iD5、測定モード:LUM endpoint、MOLECULAR DEVICE社)で、578nmの発光強度(サンプルの発光強度)を測定した。また、インキュベート後の液中のレポーター細菌の生菌数をコロニーカウンティング法によって測定した。
【0071】
ブランクとして、検体の代わりに10容量%のエタノールを含む水溶液を使用し、且つHMF含有液の代わりに10容量%のエタノールを含む水溶液を使用して、前記と同条件で発光強度(ブランクの発光強度)及び生菌数を測定した。
【0072】
ネガティブコントロールとして、検体の代わりに10容量%のエタノールを含む水溶液を使用して、前記と同条件で発光強度(ネガティブコントロールの発光強度)及び生菌数を測定した。
【0073】
ポジティブコントロールとして、検体の代わりにBMF含有液を使用して、前記と同条件で発光強度(ポジティブコントロールの発光強度)及び生菌数を測定した。
【0074】
測定された発光強度の値から下記算出式に従ってAI-2阻害率を算出した。
【数1】
【0075】
2.試験結果
得られた結果を表1に示す。サクシニルアテロコラーゲン及ヒアルロン酸ナトリウムでは、AI-2に対する阻害活性が認められなかった。これに対して、ヘパリン類似物質では、抗菌活性を示さず、且つAI-2に対する阻害活性が優れていることが分かった。
【0076】
【0077】
試験例2:アクネ菌のバイオフィルム形成抑制作用の検証
1.試験方法
アクネ菌を使用して、バイオフィルム形成抑制作用を評価した。使用した試験材料及び測定条件は以下の通りである。
【0078】
(1)試験材料
・アクネ菌
アクネ菌として、キューティバクテリウム・アクネス(NBRC 107605)を使用した。
【0079】
・2×BHI液体培地
ブレインハートインフージョン(BHI)ブロス(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)37gを蒸留水500mLに混合し、高圧蒸気滅菌(121℃、15分)することにより、2×BHI液体培地を得た。
【0080】
・BHI寒天培地
ブレインハートインフュージョン培地(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)を用いて、製造元のプロトコールに従ってBHI寒天培地を得た。
【0081】
・検体
蒸留水に、ヘパリン類似物質、ローズウォーター、又はソルビット液(ソルビット濃度70重量%)を表2に示す濃度の2.5倍の濃度となるようにそれぞれ添加し、各種検体を調製した。但し、ヘパリン類似物質又はローズウォーターが100重量%の検体については、蒸留水は添加されていない。
【0082】
(2)測定条件
アクネ菌をBHI寒天培地に塗抹し、アネロパックを収容したアネロボックスに入れて嫌気条件で37℃で3日間培養した。次いで、培養後のアクネ菌を2×BHI液体培地に懸濁し、OD600=0.02~0.03になるよう調製し、供試菌液を得た。供試菌液中のアクネ菌の生菌数をコロニーカウンティング法(BHI寒天培地、アネロパックを入れたアネロボックス使用、37℃、3~5日)によって測定した。96ウェルマイクロタイタープレートの各ウェル(1検体当たり6ウェル)に供試菌液100μL、10%グルコース溶液20μL、検体80μLを添加し、アネロパックを入れたアネロボックスに入れて、5%CO2インキュベーター内で嫌気条件で37℃で7日間培養した。この時点で検体は2.5倍希釈されている。表2に記載する終濃度は、この時点の各成分の濃度である。その後、1つのウェルについては、底面のバイオフィルムが全て剥離・懸濁するまでピペッティングし、生菌数をコロニーカウンティング法(BHI寒天培地、アネロパックを入れたアネロボックス使用、37℃、3~5日)によって測定した。残りのウェルについては、バイオフィルムを傷つけないように培養液を穏やかに除去した後に、安全キャビネット内に1時間静置して乾燥させることにより、バイオフィルムをウェル底面に固着させた。その後、ウェルに0.1%クリスタルバイオレット染色液160μLを添加し、10分間静置した。次いで、染色液を除去し、PBS 200μLを用いた洗浄を2回実施した。次いで、99.5%エタノール200μLを添加し、ピペッティングにより染色液を抽出した。得られた抽出液を適宜希釈して、595nmの吸光度(サンプルの吸光度)を測定した。
【0083】
ブランクとして、供試菌液及び検体の代わりに1×BHI液体培地(2×BHI液体培地を滅菌蒸留水で2倍希釈したもの)を使用して、前記と同条件で生菌数及び595nmの吸光度(ブランクの吸光度)を測定した。
【0084】
コントロールとして、検体の代わりに滅菌蒸留水を使用して、前記と同条件で生菌数及び595nmの吸光度(コントロールの吸光度)及び生菌数を測定した。
【0085】
測定された595nmの吸光度の値から下記算出式に従ってバイオフィルム形成抑制率を算出した。
【数2】
【0086】
2.試験結果
得られた結果を表2に示す。ローズウォーター及びソルビットでは、アクネ菌のバイオフィルムに対する形成抑制効果が微弱であった。これに対して、ヘパリン類似物質では、アクネ菌に対する抗菌活性を発揮することなく、アクネ菌のバイオフィルムに対する形成抑制効果を格段顕著に奏していた。前記試験例1に示すように、ヘパリン類似物質にはAI-2阻害活性があるため、AI-2阻害によりアクネ菌のクオラムセンシングが阻害され、バイオフォルムの形成が抑制されたと考えられる。
【0087】
【0088】
試験例3:殺菌剤の殺菌作用に及ぼす影響の検証
1.試験方法
浮遊しているアクネ菌及びバイオフィルム中のアクネ菌に対する殺菌作用を評価した。使用した試験材料及び測定条件は以下の通りである。
【0089】
(1)試験材料
・アクネ菌
アクネ菌として、キューティバクテリウム・アクネス(NBRC 107605)を使用した。
【0090】
・BHI寒天培地
ブレインハートインフュージョン培地(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)を用いて、製造元のプロトコールに従ってBHI寒天培地を得た。
【0091】
・2×BHI液体培地
ブレインハートインフージョン(BHI)ブロス(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)37gを蒸留水500mLに混合し、高圧蒸気滅菌(121℃、15分)することにより、2×BHI液体培地を得た。
【0092】
・検体
表3に示す組成の検体を調製した。
【0093】
【0094】
(2)試験条件
(2-1)浮遊しているアクネ菌に対する殺菌効果の検証
アクネ菌をBHI寒天培地に塗抹し、アネロパックを収容したアネロボックスに入れて嫌気条件で37℃で3日間培養した。次いで、培養後のアクネ菌を2×BHI液体培地に懸濁し、OD600=0.02~0.03になるよう調製して供試菌液を得た。得られた供試菌液5mL、グルコース10重量%含有水溶液1mL、及び蒸留水4mLを混合し、アクネ菌増殖用懸濁液を得た。アクネ菌増殖用懸濁液を滅菌試験管に収容して、アネロパックを収容したアネロボックスに入れて、5%CO2インキュベーター内で嫌気条件で37℃で7日間培養した。
【0095】
7日間の培養後に培養液を穏やかにピペッティングして50mL容チューブに回収し、攪拌した。次いで、遠心分離に供した後に、上清を除去し、沈殿している菌体に滅菌蒸留水10mLを入れて懸濁し、再度遠心分離に供した。その後、上清を除去し、沈殿している菌体に滅菌蒸留水10mLを入れ、2.0×10
8~1.0×10
9CFU/mLの菌液を調製した。調製した菌液0.1mLを96ウェルマイクロタイタープレートの各ウェル(1検体当たり6ウェル)に添加し、コントロール溶液(DMSO(ジメチルスルホキシド)36重量%を含有する水溶液)又は殺菌剤溶液(イソプロピルメチルフェノール0.2重量%及びDMSO36重量%を含有する水溶液)を0.1mL添加し、ピペッティングにより攪拌した。次いで、37℃で30分間静置培養した。静置培養後に、各ウェル内の懸濁液中のアクネ菌の生菌数をコロニーカウンティング法(BHI寒天培地、アネロパックを入れたアネロボックス使用、37℃、3~5日)によって測定した。下記式に従って、殺菌活性値を算出した。
【数3】
【0096】
(2-2)バイオフィルム中のアクネ菌に対する殺菌効果の検証
アクネ菌をBHI寒天培地に塗抹し、アネロパックを収容したアネロボックスに入れて嫌気条件で37℃で3日間培養した。次いで、培養後のアクネ菌を2×BHI液体培地に懸濁し、OD
600=0.02~0.03になるよう調製して供試菌液を得た。得られた供試菌液5mL、グルコース10重量%含有水溶液1mL、及び検体4mLを混合し、バイオフィルム形成用懸濁液を調製した。表4に記載する終濃度は、この時点の各成分の濃度である。次いで、96ウェルマイクロタイタープレートの各ウェル(1検体当たり6ウェル)に、前記で得られたバイオフィルム形成用懸濁液200μLを添加し、アネロパックを入れたアネロボックスに入れて、5%CO
2インキュベーター内で嫌気条件で37℃で7日間培養することにより、ウェル内にバイオフィルムを形成させた。その後、ウェル内のバイオフィルムを傷つけないように培養上清を穏やかに除去した。次いで、ウェル内にPBSを0.3mLを添加した後に、バイオフィルムを傷つけないように上清を穏やかに除去した。その後、ウェル内にコントロール溶液(DMSO(ジメチルスルホキシド)18重量%を含有する水溶液)又は殺菌剤溶液(イソプロピルメチルフェノール0.1重量%及びDMSO18重量%を含有する水溶液)を200μL添加し、37℃で30分間静置培養した。次いで、ウェルの底面のバイオフィルムが全て剥離・懸濁するまでピペッティングし、バイオフィルム由来懸濁液を調製して、バイオフィルム由来懸濁液の生菌数をコロニーカウンティング法(BHI寒天培地、アネロパックを入れたアネロボックス使用、37℃、3~5日)によって測定した。下記式に従って、殺菌活性値を算出した。
【数4】
【0097】
2.試験結果
得られた結果を表4に示す。イソプロピルメチルフェノールは、浮遊しているアクネ菌に対して優れた殺菌作用を示したが、ヘパリン類似物質非存在下で形成させたバイオフィルム中のアクネ菌に対しては殺菌作用が殆ど認められなかった。これに対して、イソプロピルメチルフェノールは、ヘパリン類似物質存在下で形成させたバイオフィル中のアクネ菌に対して優れた殺菌作用を示した。即ち、本試験結果から、ヘパリン類似物質には、殺菌剤の作用を高める効果、特にバイオフィルム中に存在する細菌に対する殺菌剤の作用を高める効果があることが分かった。
【0098】