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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166716
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】評価方法及びレーザー加工装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/00 20140101AFI20241122BHJP
【FI】
B23K26/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083016
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【弁理士】
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 貴之
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【弁理士】
【氏名又は名称】今藤 敏和
(72)【発明者】
【氏名】前田 充史
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AD18
4E168CA06
4E168CB07
4E168CB24
4E168DA24
4E168DA43
4E168EA05
4E168HA01
4E168JA12
4E168JA13
4E168KA01
(57)【要約】
【課題】ビームプロファイラ、波面センサ等の光学測定器を用いることなく、レーザー加工装置においてレーザービームの非点収差を評価する。
【解決手段】被加工物に対するレーザービームの照射方向である第1方向に沿ってレーザービーム照射ユニットの集光器と被加工物とを相対的に移動させることにより、複数の高さ位置に集光点を位置付けることと、第1方向と交差する第2方向に沿って集光器と被加工物とを相対的に移動させることと、により、集光点の各高さ位置に応じて被加工物の露出面の異なる位置にレーザービームを照射することで、それぞれスポット状の複数の加工痕を形成する加工工程と、各加工痕の画像を取得する撮像工程と、各加工痕の画像から各加工痕の縦横比を算出する縦横比算出工程と、複数の高さ位置と各加工痕の縦横比とに基づいて非点収差の程度を示す指標を算出する非点収差算出工程と、を備える評価方法が提供される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー加工装置においてレーザービームの非点収差を評価する評価方法であって、
被加工物に対する該レーザービームの照射方向である第1方向に沿ってレーザービーム照射ユニットの集光器と該被加工物とを相対的に移動させることにより、該レーザービームの集光点が該被加工物の露出面に位置するときの基準高さ位置よりも該第1方向の一方向に所定距離だけ離れた第1の高さ位置と、該基準高さ位置よりも該第1方向において該一方向とは反対の他方向に所定距離だけ離れた第2の高さ位置と、の間に位置する複数の高さ位置に該集光点を位置付けることと、該第1方向と交差する第2方向に沿って該集光器と該被加工物とを相対的に移動させることと、により、該集光点の各高さ位置に応じて該被加工物の該露出面の異なる位置に該レーザービームを照射することで、それぞれスポット状の複数の加工痕を形成する加工工程と、
該複数の加工痕を撮像して各加工痕の画像を取得する撮像工程と、
各加工痕の画像から各加工痕の縦横比を算出する縦横比算出工程と、
該集光点の該複数の高さ位置と、各加工痕の縦横比と、に基づいて非点収差の程度を示す指標を算出する非点収差算出工程と、
を備えることを特徴とする評価方法。
【請求項2】
レーザー加工装置であって、
被加工物を保持する保持ユニットと、
レーザー発振器と、該レーザー発振器から出射されたレーザービームを集光するための集光器と、を有するレーザービーム照射ユニットと、
該集光器と該保持ユニットとを該被加工物に対する該レーザービームの照射方向である第1方向に沿って相対的に移動させる第1移動機構と、
該集光器と該保持ユニットとを該第1方向と交差する第2方向に沿って相対的に移動させる第2移動機構と、
該保持ユニットで保持された該被加工物を撮像する撮像ユニットと、
プロセッサ及びメモリを有するコントローラと、
を備え、
該コントローラは、
該第1移動機構を動作させて該第1方向に沿って該集光器と該被加工物とを相対的に移動させることにより、該レーザービームの集光点が該被加工物の露出面に位置するときの基準高さ位置よりも該第1方向の一方向に所定距離だけ離れた第1の高さ位置と、該基準高さ位置よりも該第1方向において該一方向とは反対の他方向に所定距離だけ離れた第2の高さ位置と、の間に位置する複数の高さ位置に該集光点を位置付けることと、該第2移動機構を動作させて該第2方向に沿って該集光器と該被加工物とを相対的に移動させることと、により、該集光点の各高さ位置に応じて該被加工物の該露出面の異なる位置に該レーザービームを照射することで、それぞれスポット状の複数の加工痕を形成する加工制御部と、
該撮像ユニットで撮像された複数の加工痕のそれぞれの画像から各加工痕の縦横比を算出する縦横比算出部と、
該集光点の該複数の高さ位置と、各加工痕の縦横比と、に基づいて非点収差の程度を示す指標を算出する非点収差算出部と、を有することを特徴とするレーザー加工装置。
【請求項3】
該レーザービーム照射ユニットは、非点収差を補正する非点収差補正ユニットを更に有し、
該コントローラは、
該非点収差算出部により算出された非点収差の程度を示す該指標の絶対値が閾値よりも大きい場合に、該非点収差補正ユニットを動作させて該指標の絶対値を閾値以下とする非点収差補正部を更に有することを特徴とする請求項2に記載のレーザー加工装置。
【請求項4】
該非点収差補正ユニットは、空間光位相変調器又は一対の凸型のシリンドリカルレンズを含むことを特徴とする請求項3に記載のレーザー加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー加工装置においてレーザービームの非点収差を評価する評価方法と、当該評価方法を実行可能なレーザー加工装置と、に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザー加工装置を用いたレーザー加工として、被加工物に吸収される波長を有するレーザービームで被加工物に溝を形成することや(例えば、特許文献1参照)、被加工物を透過する波長を有するレーザービームの集光点を被加工物の内部に位置付ける様に被加工物にレーザービームを照射することで被加工物の内部に比較的脆弱な改質領域を形成すること(例えば、特許文献2参照)、が知られている。
【0003】
レーザー加工装置は、被加工物にレーザービームを照射するためのレーザービーム照射ユニットを備える。レーザービーム照射ユニットは、レーザー発振器と、複数の光学素子と、を含む。レーザー発振器から出射されたレーザービームは、複数の光学素子を経て、理想的には一点に集光した状態で被加工物に照射される。
【0004】
しかし、複数の光学素子を経たレーザービームは、1つ以上の光学素子の歪み等に起因する非点収差の影響により十分に集光しないことがある。この場合、被加工物が適切に加工されないという問題が生じ得る。それゆえ、非点収差を適切に評価し、必要であれば非点収差を補正する必要がある。
【0005】
非点収差を評価するためには、レーザービームの一部を分岐させてチャックテーブルの外周部に設けられた凹面鏡へ照射し、凹面鏡からの反射光をビームプロファイラへ導くことで、レーザービームの空間的な強度分布を解析する方法が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
また、非点収差を評価する他の手法として、レーザービームの一部を分岐させてチャックテーブルの外周部に設けられた凹面鏡へ照射し、凹面鏡からの反射光を波面センサ(即ち、シャック・ハルトマン波面センサ)へ導くことで、レーザービームの波面を解析する方法が知られている(例えば、特許文献4参照)。
【0007】
しかし、ビームプロファイラ、波面センサ等の光学測定器を用いる場合、レーザービームを反射するための凹面鏡と、凹面鏡で反射された反射光を上述の光学測定器に導くための観察専用の光学系と、光学測定器そのものと、が必要となるので、その分だけレーザー加工装置が高価になる。
【0008】
また、レーザービームの一部が凹面鏡へ分岐され、レーザービームのその他が集光レンズを含む集光器へ分岐されるので、集光器と、観察専用の光学系と、光学測定器と、に対して精密な位置調整が必要となる。もし、位置調整が適切になされなかった場合、非点収差を適切に評価できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003-320466号公報
【特許文献2】特開2002-192370号公報
【特許文献3】特開2021-90990号公報
【特許文献4】特開2021-79394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は係る問題点に鑑みてなされたものであり、チャックテーブル近傍に配置される凹面鏡と、ビームプロファイラ、波面センサ等の光学測定器と、凹面鏡及び光学測定器間に配置される観察専用の光学系と、を用いることなく、レーザー加工装置においてレーザービームの非点収差を評価することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様によれば、レーザー加工装置においてレーザービームの非点収差を評価する評価方法であって、被加工物に対する該レーザービームの照射方向である第1方向に沿ってレーザービーム照射ユニットの集光器と該被加工物とを相対的に移動させることにより、該レーザービームの集光点が該被加工物の露出面に位置するときの基準高さ位置よりも該第1方向の一方向に所定距離だけ離れた第1の高さ位置と、該基準高さ位置よりも該第1方向において該一方向とは反対の他方向に所定距離だけ離れた第2の高さ位置と、の間に位置する複数の高さ位置に該集光点を位置付けることと、該第1方向と交差する第2方向に沿って該集光器と該被加工物とを相対的に移動させることと、により、該集光点の各高さ位置に応じて該被加工物の該露出面の異なる位置に該レーザービームを照射することで、それぞれスポット状の複数の加工痕を形成する加工工程と、該複数の加工痕を撮像して各加工痕の画像を取得する撮像工程と、各加工痕の画像から各加工痕の縦横比を算出する縦横比算出工程と、該集光点の該複数の高さ位置と、各加工痕の縦横比と、に基づいて非点収差の程度を示す指標を算出する非点収差算出工程と、を備える評価方法が提供される。
【0012】
本発明の他の態様によれば、レーザー加工装置であって、被加工物を保持する保持ユニットと、レーザー発振器と、該レーザー発振器から出射されたレーザービームを集光するための集光器と、を有するレーザービーム照射ユニットと、該集光器と該保持ユニットとを該被加工物に対する該レーザービームの照射方向である第1方向に沿って相対的に移動させる第1移動機構と、該集光器と該保持ユニットとを該第1方向と交差する第2方向に沿って相対的に移動させる第2移動機構と、該保持ユニットで保持された該被加工物を撮像する撮像ユニットと、プロセッサ及びメモリを有するコントローラと、を備え、該コントローラは、該第1移動機構を動作させて該第1方向に沿って該集光器と該被加工物とを相対的に移動させることにより、該レーザービームの集光点が該被加工物の露出面に位置するときの基準高さ位置よりも該第1方向の一方向に所定距離だけ離れた第1の高さ位置と、該基準高さ位置よりも該第1方向において該一方向とは反対の他方向に所定距離だけ離れた第2の高さ位置と、の間に位置する複数の高さ位置に該集光点を位置付けることと、該第2移動機構を動作させて該第2方向に沿って該集光器と該被加工物とを相対的に移動させることと、により、該集光点の各高さ位置に応じて該被加工物の該露出面の異なる位置に該レーザービームを照射することで、それぞれスポット状の複数の加工痕を形成する加工制御部と、該撮像ユニットで撮像された複数の加工痕のそれぞれの画像から各加工痕の縦横比を算出する縦横比算出部と、該集光点の該複数の高さ位置と、各加工痕の縦横比と、に基づいて非点収差の程度を示す指標を算出する非点収差算出部と、を有するレーザー加工装置が提供される。
【0013】
好ましくは、該レーザービーム照射ユニットは、非点収差を補正する非点収差補正ユニットを更に有し、該コントローラは、該非点収差算出部により算出された非点収差の程度を示す該指標の絶対値が閾値よりも大きい場合に、該非点収差補正ユニットを動作させて該指標の絶対値を閾値以下とする非点収差補正部を更に有する。
【0014】
また、好ましくは、該非点収差補正ユニットは、空間光位相変調器又は一対の凸型のシリンドリカルレンズを含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様に係る評価方法では、それぞれスポット状の複数の加工痕を被加工物に形成し(加工工程)、複数の加工痕を撮像して各加工痕の画像を取得し(撮像工程)、各加工痕の画像から各加工痕の縦横比を算出し(縦横比算出工程)、集光点の複数の高さ位置と、各加工痕の縦横比と、から非点収差の程度を示す指標を算出する(非点収差算出工程)。
【0016】
それゆえ、チャックテーブル近傍に配置される凹面鏡と、ビームプロファイラ、波面センサ等の光学測定器と、凹面鏡及び光学測定器間に配置される観察専用の光学系と、を用いることなく、レーザー加工装置においてレーザービームの非点収差を評価できる。このことは、レーザー加工装置の低コスト化につながり得ると共に、凹面鏡、光学測定器及び観察専用の光学系を省略するので、これらの精密な位置調整作業が不要となる。
【0017】
本発明の他の態様に係るレーザー加工装置では、それぞれスポット状の複数の加工痕を撮像ユニットで撮像した上で、コントローラの縦横比算出部が複数の加工痕のそれぞれの画像から各加工痕の縦横比を算出し、コントローラの非点収差算出部が集光点の複数の高さ位置と、各加工痕の縦横比と、から非点収差の程度を示す指標を算出する。
【0018】
それゆえ、上述の凹面鏡と、光学測定器と、観察専用の光学系と、を用いることなく、レーザー加工装置においてレーザービームの非点収差を評価できる。このことは、レーザー加工装置の低コスト化につながり得ると共に、凹面鏡、光学測定器及び観察専用の光学系の精密な位置調整作業が不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】評価方法のフロー図である。
図2】レーザー加工装置の斜視図である。
図3図3(A)はレーザービーム照射ユニットの概要図であり、図3(B)は一対のシリンドリカルレンズの斜視図である。
図4図4(A)は非点収差を有さない理想的なレーザービームの集光状態を示す図であり、図4(B)は非点収差を有するレーザービームの集光状態を示す図である。
図5】保持工程及び加工工程を示す図である。
図6図6(A)は基準高さ位置にある集光点を示す図であり、図6(B)は基準高さ位置よりも上方にある集光点を示す図であり、図6(C)は基準高さ位置よりも下方にある集光点を示す図である。
図7図7(A)は平面視における加工痕の一例を示す図であり、図7(B)は平面視における加工痕の他の例を示す図である。
図8】デフォーカス値及び楕円率の測定結果と、測定結果に基づく近似曲線と、を示すグラフである。
図9図9(A)はレーザービームLの断面をXY座標系で示す図であり、図9(B)はレーザービームLの断面をX´Y´座標系で示す図である。
図10】撮像工程を示す図である。
図11図11(A)は波面センサを用いたレーザービームの非点収差の測定を示す概要図であり、図11(B)は波面センサを用いて得られたレーザービームの波面を二次元的に示す図である。
図12】一対のシリンドリカルレンズ間の距離の変化量と、非点収差の程度を示す指標と、を調整する実験装置の概要を示す平面図である。
図13】一対のシリンドリカルレンズ間の距離の変化量と、非点収差の程度を示す指標と、を示す実験結果である。
図14図14(A)は第1変形例に係る加工痕の縦横比を示す図であり、図14(B)は第2変形例に係る加工痕の縦横比を示す図であり、図14(C)は第3変形例に係る加工痕の縦横比を示す図である。
図15図15(A)は第2の実施形態のZ軸方向移動機構を示す側面図であり、図15(B)は第3の実施形態のZ軸方向移動機構を示す側面図である。
図16】第4の実施形態のレーザービーム照射ユニット及びチャックテーブルを示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1の実施形態)添付図面を参照して、本発明の一態様に係る実施形態について説明する。図1は、図2に示すレーザー加工装置2においてレーザービームLの非点収差を評価する評価方法のフロー図である。
【0021】
当該評価方法では、レーザー加工装置2において、保持工程S10、加工工程S20、撮像工程S30、縦横比算出工程S40、非点収差算出工程S50等が順次行われる。そこで、まず、レーザー加工装置2について説明する。図2は、レーザー加工装置2の斜視図である。
【0022】
図2では、レーザー加工装置2の構成要素の一部を機能ブロックで示す。図2にそれぞれ示すX軸方向(第2方向)、Y軸方向、及び、Z軸方向(第1方向)は、互いに直交(交差)する。X軸方向は、加工送り方向と略平行であり、Y軸方向は、割り出し送り方向と略平行である。また、Z軸方向は、高さ方向(鉛直方向)と略平行である。
【0023】
レーザー加工装置2は、その構成要素を支持する基台4を備える。基台4は、平板状の基部6と、基部6の後方(Y軸方向の一方)に位置しており上方に伸びる立設部8と、を含む。基部6の上方には、被加工物11を吸引保持するチャックテーブル(保持ユニット)10が設けられている。
【0024】
チャックテーブル10は、金属で形成された円板状の枠体を有する。枠体の上部には、枠体よりも小径の円板状の凹部が形成されており、この凹部には、多孔質板セラミックスで形成された円板状の多孔質板が固定されている。
【0025】
枠体には、多孔質板に負圧を供給するための所定の流路(不図示)が形成されている。枠体には、管部(不図示)を介して真空ポンプ等の吸引源(不図示)が接続されており、多孔質板には、吸引源から所定の流路を介して負圧が伝達される。
【0026】
多孔質板の上面と、枠体の上面とは、略面一となっており、被加工物11を吸引保持する略平坦な保持面10aとして機能する。本実施形態のチャックテーブル10では、負圧で被加工物11を吸引保持するバキュームチャックを採用するが、静電気力で被加工物11を吸引保持する静電チャック等を採用してもよい。
【0027】
保持面10aは、XY平面と略平行に配置された略平坦な面であり、Z軸方向と直交する。枠体の外周部には、複数(本実施形態では4つ)のクランプユニット10bが枠体の周方向に沿って略等間隔で配置されている。
【0028】
チャックテーブル10の下方には、チャックテーブル10をY軸方向に沿って移動させるためのボールねじ式のY軸方向移動機構12が設けられている。Y軸方向移動機構12は、基部6の上面に固定されY軸方向に略平行に配置された一対のY軸ガイドレール14を備える。
【0029】
Y軸ガイドレール14には、Y軸方向移動テーブル16がスライド可能に固定されている。Y軸方向移動テーブル16の下面側には、ナット部(不図示)が設けられており、このナット部には、Y軸方向と略平行に配置されたねじ軸18が複数のボール(不図示)を介して回転可能に結合されている。
【0030】
ねじ軸18の一端部には、ステッピングモータ等の駆動源20が連結されている。駆動源20でねじ軸18を回転させれば、Y軸方向移動テーブル16は、Y軸方向に沿って移動する。Y軸方向移動テーブル16の上面側には、チャックテーブル10をX軸方向に移動させるボールねじ式のX軸方向移動機構(第2移動機構)22が設けられている。
【0031】
X軸方向移動機構22は、Y軸方向移動テーブル16の上面に固定されX軸方向に略平行に配置された一対のX軸ガイドレール24を備える。X軸ガイドレール24には、X軸方向移動テーブル26がスライド可能に固定されている。
【0032】
X軸方向移動テーブル26の下面側には、ナット部(不図示)が設けられており、このナット部には、X軸方向と略平行に配置されたねじ軸28が回転可能に結合されている。ねじ軸28の一端部には、ステッピングモータ等の駆動源30が連結されている。
【0033】
駆動源30でねじ軸28を回転させれば、X軸方向移動テーブル26は、X軸方向に沿って移動する。X軸方向移動テーブル26の上面側には、円柱状の支持台32が設けられている。支持台32の上部には、チャックテーブル10が配置されている。
【0034】
支持台32の内部には、モータ等の駆動源(不図示)が設けられており、必要に応じてチャックテーブル10をZ軸方向に平行な回転軸の周りに所定の角度範囲で回転移動させる。チャックテーブル10では、上述の様に被加工物11が保持される。
【0035】
被加工物11は、例えば、シリコン単結晶基板を有するウェーハである。被加工物11は、典型的には、デバイス等が形成されていないベアウェーハであるが、ベアウェーハにデバイス、回路、薄膜等が形成されたウェーハであってもよい。
【0036】
被加工物11は、シリコン単結晶基板に限定されず、化合物物半導体単結晶基板、複酸化物単結晶基板、セラミックス単結晶基板、又は、硬質樹脂等の非単結晶基板を有するウェーハであってもよい。
【0037】
被加工物11は、樹脂製のテープ15を介して金属製の環状フレーム17で支持されている。具体的には、環状フレーム17の開口部に被加工物11を配置した上で、被加工物11の裏面11bと、環状フレーム17の一面とに、円形のテープ15を貼り付ける。
【0038】
これにより、被加工物11、テープ15及び環状フレーム17が一体化された被加工物ユニット19が形成される。なお、テープ15は、基材層と、粘着層と、の積層構造を有するダイシングテープである。
【0039】
テープ15を介して被加工物11の裏面11b側が保持面10aで吸引保持されると、被加工物11の表面(露出面)11aが上方に露出する。このとき、環状フレーム17は上述の複数のクランプユニット10bで挟持される。
【0040】
立設部8には、Z軸方向移動機構(第1移動機構)34が設けられている。Z軸方向移動機構34は、立設部8に固定された一対のZ軸ガイドレール36を有する。なお、図2では、1つのZ軸ガイドレール36が示されている。
【0041】
一対のZ軸ガイドレール36には、Z軸方向移動板38がスライド可能に取り付けられている。Z軸方向移動板38の裏面側には、ナット部(不図示)が設けられており、ナット部には、Z軸方向と略平行に配置されたねじ軸(不図示)が複数のボール(不図示)を介して回転可能に結合されている。
【0042】
ねじ軸の上端部には、ステッピングモータ等の駆動源40が連結されている。駆動源40でねじ軸を回転させれば、Z軸方向移動板38は、Z軸方向に沿って移動する。Z軸方向移動板38の表面側には、支持具42が固定されている。
【0043】
支持具42は、レーザービーム照射ユニット44を構成する円筒状の筐体46を支持している。本実施形態では筐体46内に、レーザー発振器48が配置されている。しかし、レーザー発振器48は、筐体46外に配置されてもよく、この場合、レーザー発振器48は、筐体46と共にZ軸方向に沿って移動しない。
【0044】
レーザー発振器48は、Nd:YAG結晶等のレーザー媒質を有する。レーザー発振器48は、レーザー媒質に励起光を照射するランプ等の励起光源と、レーザービームLが出射されるタイミングを制御するQスイッチと、を更に有する。レーザー発振器48からは、所定の波長を有するパルス状のレーザービームLが出射される。
【0045】
被加工物11に対してレーザーアブレーション加工を行う本実施形態では、レーザービームLは、レーザー発振器48から出射された後、非線形光学結晶(不図示)により被加工物11を加工可能な所定の波長に変換される。更にその後、ヘッド部50からZ軸方向に沿って保持面10aへ照射される。つまり、Z軸方向は、被加工物11に対するレーザービームLの照射方向となる。
【0046】
非線形光学結晶は、例えばLBO(LiB)結晶であり、レーザービームLの波長を1064nm(被加工物11を透過する波長)から355nm(被加工物11に吸収される波長)に変換する。波長変換されたパルス状のレーザービームLは、ヘッド部50から保持面10aへ照射される。
【0047】
ここで、図3(A)及び図3(B)を参照し、レーザービーム照射ユニット44について更に説明する。図3(A)は、レーザービーム照射ユニット44の概要図である。
【0048】
ヘッド部50は、レーザービームLの進行方向を変えるミラー52と、レーザービームLの非点収差を補正する非点収差補正ユニット54と、レーザービームLを集光するための集光器56と、を含む。
【0049】
本実施形態の非点収差補正ユニット54は、図3(B)に示す一対の平凸型(即ち、凸型)のシリンドリカルレンズ54a,54bを有する。図3(B)は、略同じ焦点距離fをそれぞれ有する一対のシリンドリカルレンズ54a,54bの斜視図である。
【0050】
一対のシリンドリカルレンズ54a,54bは、向かい合う様に配置され略平坦な矩形の平面54a,54bを有する。平面54a,54bの縦辺は互いに略平行であり、平面54a,54bの横辺も互いに略平行である。
【0051】
図3(B)では、平面54a,54bの中心に位置し且つ平面54a,54bと直交する仮想的な軸54cを示す。軸54cに沿って一対のシリンドリカルレンズ54a,54bを見た場合に、平面54a,54bは略完全に重なる。
【0052】
なお、平面54a,54bは、矩形ではなく円形であってもよい。この場合、各シリンドリカルレンズ54a,54bの外形は円形であり、図3(B)に示す様に、軸54cに沿って一対のシリンドリカルレンズ54a,54bを見た場合に、平面54a,54bは、略完全に重なる。
【0053】
図3(B)に示す様に、一対のシリンドリカルレンズ54a,54bは、円筒状の凸部が延在する横方向A1がX軸方向と平行となり、平面54a,54bにおいて横方向A1と直交する縦方向A2がY軸方向と平行となる様に配置されている。
【0054】
しかし、後述する様に、一対のシリンドリカルレンズ54a,54bを軸54cの周りに回転させる場合、必ずしも、横方向A1はX軸方向と平行にならない。縦方向A2についても同様である。
【0055】
レーザービームLは、軸54cに沿って、一対のシリンドリカルレンズ54a,54bを通過する。つまり、レーザービームLは、シリンドリカルレンズ54aの凸面54aに入射した後、シリンドリカルレンズ54bの凸面54bから出射する。
【0056】
ところで、レーザービームLは、理想的にはレーザービームLの進行方向に対して直交する完全に平坦な波面で構成されるが、実際には有限の歪み(波面収差)を持つ。
【0057】
レーザービームLのビーム半径をRとしたとき、波面収差Wは、直交関数であるZernike多項式:Z を用いて下記の式(1)のように展開できる。なお、x及びyは、レーザービームLの進行方向に対して直交する平面を規定する座標軸であり、c は、Zernike多項式Z の(m,n)に対応する係数である。
【0058】
【数1】
【0059】
Zernike多項式の詳細は、例えば、「Vasudevan Lakshminarayanan及びAndre Fleck著, “Journal of Modern Optics”, Vol. 58, No. 7, Taylor & Francis, 10 April 2011, p.545-561」に記載されている。
【0060】
式(1)において、c は、0°-90°方向の非点収差成分に対応し、c-2 -2 は±45°方向の非点収差成分に対応する。ここで、Z は、下記の式(2)で表現され、Z-2 は、下記の式(3)で表現される。
【0061】
【数2】
【0062】
【数3】
【0063】
この様に、波面をZernike多項式で展開することにより、c で0°-90°方向の非点収差成分を表すことができ、c-2 で±45°方向の非点収差成分を表すことができる。以下では簡単のため、c を第1成分cと表し、c-2 を第2成分cと表す。
【0064】
ここで、軸54cと平行な方向に沿って一対のシリンドリカルレンズ54a,54bの一方又は両方を移動させることで、一対のシリンドリカルレンズ54a,54b間の距離を2fからΔだけ変化させた場合、第1成分cの変化量であるδcは下記の式(4)を用いて表される。
【0065】
【数4】
【0066】
また、一対のシリンドリカルレンズ54a,54bの距離を維持したまま軸54cの周りにシリンドリカルレンズ54a,54bのどちらか一方を回転させた場合、第2成分cの変化量であるδcは下記の式(5)を用いて表される。
【0067】
【数5】
【0068】
なお、式(4)及び(5)で使用されるRは、非点収差補正ユニット54に入射する前におけるレーザービームLの半径である。レーザー発振器48から出射された直後のレーザービームLがガウシアンビームである場合に、このレーザービームLの単位面積当たりのパワーがピークパワーの1/e(eは自然対数の底)となるときのレーザービームLの幅をレーザービームLの直径と規定し、このレーザービームLの直径の半分を上述のRとして規定するのが好ましい。
【0069】
本実施形態では、一対の平凸型のシリンドリカルレンズ54a,54bを用いるので、平凸型のシリンドリカルレンズ(不図示)と、平凹型のシリンドリカルレンズ(不図示)と、の凹及び凸を離間させた状態で対向させて配置する場合に比べて、レーザービームLの拡大又は縮小させることなく、第1成分c及び第2成分cを調整できるという利点がある。
【0070】
なお、非点収差補正ユニット54は、一対のシリンドリカルレンズ54a,54bに代えて、LCOS-SLM(Liquid Crystal on Silicon - Spatial Light Modulator)(即ち、空間光位相変調器)を有してもよい。
【0071】
LCOS-SLMでは、液晶分子の傾きを電気的に適宜制御することにより、非点収差を打ち消す様に、LCOS-SLMに入射したレーザービームLの位相を制御できる。つまり、LCOS-SLMは、第1成分c及び第2成分cの両方を調整できる。
【0072】
レーザービームLは、非点収差補正ユニット54を経て集光器56に入射する。集光器56は、集光レンズ56aを有し、保持面10aで保持された被加工物11の表面11a近傍にレーザービームLを集光させる。
【0073】
Z軸方向移動機構34で集光器56をZ軸方向に沿って移動させることで、レーザービームLの集光点のZ軸方向における位置が、被加工物11に対して調整される。つまり、集光器56とチャックテーブル10とをZ軸方向に沿って相対的に移動させることで、集光点のZ軸方向における位置が調整される。
【0074】
また、X軸方向移動機構22により、集光器56と、被加工物11を保持したチャックテーブル10と、をX軸方向に沿って相対的に移動させることで、被加工物11におけるレーザービームLの被照射位置が調整される。
【0075】
図4(A)は、非点収差を有さない理想的なレーザービームLが集光レンズ56aを経て焦点56bに集光する様子を示す図である。図4(A)に示すレーザービームLの波面56cは、集光レンズ56aに入射する前においてXY平面と略平行である。
【0076】
この場合、レーザービームLの進行方向において集光レンズ56aの先に位置する集光レンズ56aの焦点56bにおいて、当該進行方向と直交する平面での被照射領域が略真円となる様にレーザービームLは集光する。
【0077】
これに対して、図4(B)は、非点収差を有するレーザービームLが集光レンズ56aを経て集光する様子を示す図である。図4(B)に示すレーザービームLの波面56cは、XY平面と平行ではなく、鞍状である。
【0078】
この場合、レーザービームLの進行方向で集光レンズ56aの先に位置し且つ当該進行方向と直交する第1平面56dにおいて、当該進行方向と直交する第1方向に沿って長軸が配置された楕円となる様に、レーザービームLは集光する。
【0079】
更に、レーザービームLの進行方向で第1平面56dよりも先に位置し且つ当該進行方向と直交する第2平面56dにおいて、当該進行方向と第1方向とにそれぞれ直交する第2方向に沿って長軸が配置された楕円となる様に、レーザービームLは集光する。
【0080】
なお、レーザービームLの進行方向で第1平面56dと第2平面56dとの間においては、当該進行方向と直交する平面におけるレーザービームLのスポットが略真円となる様に、レーザービームLが集光する。
【0081】
本実施形態では、レーザービームLの進行方向と直交する平面においてレーザービームLのスポットが略真円になる位置を、レーザービームLの集光点Pと称する。
【0082】
図4(B)に示す様に、レーザービームLの進行方向(即ち、Z軸方向)の位置に応じてレーザービームLのスポットの形状が変化するので、Z軸方向における集光点Pの位置に応じて、表面11aに照射されるレーザービームLの照射領域の形状は異なることとなる。
【0083】
そこで、本実施形態では、後述する様に、レーザービームLを被加工物11に照射してアブレーション加工することにより形成された加工痕11c(図5参照)の形状を利用して、レーザービームLの非点収差の程度を評価する。
【0084】
ここで、図2に戻る。円筒状の筐体46の先端部近傍の側部には、撮像ユニット60が設けられている。本実施形態の撮像ユニット60は、顕微鏡カメラユニットであり、いずれも不図示の対物レンズと、光源と、撮像素子と、を有する。
【0085】
例えば、光源は、可視光帯域の光を発光可能な白色LED(Light Emitting Diode)を有し、撮像素子は、CCD(Charge-Coupled Device)イメージセンサ又はCMOS(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)イメージセンサを有する。
【0086】
対物レンズは、チャックテーブル10の保持面10aと対向する様に配置されている。撮像ユニット60は、保持面10aで保持された被加工物11の表面11a側を撮像可能である。
【0087】
撮像ユニット60には、レーザービームLが直接的にも間接的にも入射しない。撮像ユニット60は、被加工物11の加工前において被加工物11に加工を施す加工位置の確認、被加工物11の加工後において被加工物11に施された加工結果の確認等に使用される。
【0088】
ところで、基台4には、レーザー加工装置2の構成要素を覆うカバー(不図示)が設けられている。カバーの前方(Y軸方向の他方)の側面には、タッチパネル62が設けられている。
【0089】
タッチパネル62は、静電容量方式のタッチセンサを含む液晶ディスプレイであり、作業者がレーザー加工装置2に指示を入力する入力装置として機能し、更に、指示を入力するためのGUI(Graphical User Interface)、撮像ユニット60で得た画像等を表示するための表示装置としても機能する。
【0090】
レーザー加工装置2には、Y軸方向移動機構12、X軸方向移動機構22、支持台32内の駆動源、Z軸方向移動機構34、吸引源、レーザービーム照射ユニット44、撮像ユニット60、タッチパネル62等の動作を制御するコントローラ64が設けられている。
【0091】
コントローラ64は、例えば、CPU(Central Processing Unit)に代表されるプロセッサ64aと、メモリ64bと、を有するコンピュータによって構成されている。メモリ64bは、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等の主記憶装置と、フラッシュメモリ等の補助記憶装置と、を含む。
【0092】
補助記憶装置には、所定のプログラムを含むソフトウェアが記憶されている。このソフトウェアに従い処理装置等を動作させることによって、コントローラ64の機能が実現される。
【0093】
補助記憶装置には、第1のプログラムが記憶されている。第1のプログラムをプロセッサ64aで実行することで、第1のプログラムは、レーザービーム照射ユニット44、Y軸方向移動機構12、X軸方向移動機構22、Z軸方向移動機構34等を動作させて被加工物11に複数の加工痕11cを形成する加工制御部66として機能する(図5参照)。
【0094】
本実施形態の加工制御部66は、X軸方向移動機構22を動作させることでX軸方向に沿って相対的に集光器56とチャックテーブル10とを移動させると共に、Z軸方向に沿う複数の高さ位置に集光点Pを位置付ける様にZ軸方向移動機構34を動作させる。
【0095】
但し、加工制御部66は、Y軸方向移動機構12を動作させることでY軸方向に沿って相対的に集光器56とチャックテーブル10とを移動させると共に、Z軸方向に沿う複数の高さ位置に集光点Pを位置付ける様にZ軸方向移動機構34を動作させてもよい。
【0096】
また、加工制御部66は、X軸方向移動機構22及びY軸方向移動機構12を動作させることでX軸方向及びY軸方向に沿って相対的に集光器56とチャックテーブル10とを移動させると共に、Z軸方向に沿う複数の高さ位置に集光点Pを位置付ける様にZ軸方向移動機構34を動作させてもよい。
【0097】
複数の高さ位置は、基準高さ位置Z図6(A)参照)よりも上方向(Z軸方向の一方向)に所定距離Aだけ離れた第1の高さ位置Z図6(B)参照)と、基準高さ位置ZよりもZ軸方向において下方向(一方向とは反対の他方向)に所定距離Aだけ離れた第2の高さ位置Z図6(C)参照)と、の間に位置する。
【0098】
なお、本明細書において、複数の高さ位置が第1の高さ位置Zと第2の高さ位置Zとの間に位置するとは、Z軸方向において端部に位置する第1の高さ位置Z及び第2の高さ位置Zの各位置が複数の高さ位置に含まれることを意味するものとする。
【0099】
図6(A)は、基準高さ位置Zにある集光点Pを示す図であり、図6(B)は、基準高さ位置Zよりも上方にある集光点Pを示す図であり、図6(C)は、基準高さ位置Zよりも下方にある集光点Pを示す図である。
【0100】
基準高さ位置Zは、保持面10aで保持された被加工物11の表面11aのZ軸方向の高さ位置である。集光点Pが、表面11a(即ち、基準高さ位置Z)に位置するとき、レーザービームLは、表面11aにジャストフォーカスしている。
【0101】
これに対して、集光点Pが、Z軸方向において第1の高さ位置Z及び第2の高さ位置Z間のうち表面11a(即ち、基準高さ位置Z)以外に位置するとき、レーザービームLは、表面11aに対してデフォーカスしている。第1の高さ位置Z及び第2の高さ位置Zを規定する所定距離Aは、例えば700μmであるが、700μmのみに限定されるものではない。
【0102】
加工制御部66は、集光器56とチャックテーブル10で保持された被加工物11とをZ軸方向に沿って相対的に移動させることにより、第1の高さ位置Z及び第2の高さ位置Zの間の複数の高さ位置に集光点Pが配置されるタイミングで集光器56から表面11aにレーザービームLを照射する。
【0103】
例えば、加工制御部66は、レーザー発振器48とミラー52との間(図3(A)参照)の間に配置されシャッタとして機能するAOM(Acousto-Optic Modulator)又はEOM(electro-optic modulator)(いずれも不図示)を電気的に制御することで、集光器56からのレーザービームLの照射及び非照射を制御する。
【0104】
この場合、チャックテーブル10をX軸方向に沿って所定の速度で移動させ、且つ、集光器56をZ軸方向に沿って第1の高さ位置Zから第2の高さ位置Zまで所定の速度で移動させると共に、一定の時間間隔でシャッタを開けばよい。
【0105】
この様に、集光点Pを複数の高さ位置に位置付けると共に、X軸方向に沿って集光点Pと、被加工物11と、を相対的に移動させることにより、集光点Pの各高さ位置に応じて表面11aの異なる位置に離散的にレーザービームLを照射する。これにより、それぞれスポット状の加工痕11cを形成する。
【0106】
なお、加工制御部66は、AOM又はEOM等のシャッタに代えて、Qスイッチを制御することによりレーザービームLの繰り返し周波数を十分に低い値としてもよい。例えば、レーザービームLの繰り返し周波数を20Hzとすれば、レーザービームLは0.05sに一回の頻度で集光器56から照射される。
【0107】
この場合において、チャックテーブル10を600mm/sで移動させるならば、X軸方向に沿って300mmの範囲(即ち、0.5sの時間)において、略等間隔に配置された10点の加工痕11cを形成可能である。
【0108】
つまり、AOM又はEOM等によるレーザービームLのオンオフに代えて、レーザービームLの繰り返し周波数と、集光点P及びチャックテーブル10のX軸方向における相対的な移動速度と、により、表面11aの異なる位置に加工痕11cを形成できる。
【0109】
表面11aに複数の加工痕11cを形成した後、複数の加工痕11cの画像が、撮像ユニット60により撮像される。本実施形態の撮像ユニット60は、各加工痕11cを個別に撮像するが、撮像ユニット60の性能が十分に高い場合には、複数の加工痕11cをまとめて一括的に撮像してもよい。
【0110】
補助記憶装置には、第2のプログラムが記憶されている。第2のプログラムをプロセッサ64aで実行することで、第2のプログラムは、縦横比算出部70として機能する(図5参照)。
【0111】
縦横比算出部70は、複数の加工痕11cの各画像を画像処理することにより、それぞれの画像から各加工痕11cの縦横比εと、加工痕11cの傾き角度θと、を算出する。加工痕11cが楕円となる本実施形態では、互いに直交する2つの軸の長さの比で縦横比εを算出する。
【0112】
図7(A)は、平面視における加工痕11cの一例を示す図である。この例では、加工痕11cは、楕円形状を有し、加工痕11cの短軸はX´軸方向に沿い、短軸の長さはaである。また、加工痕11cの長軸はY´軸方向に沿い、長軸の長さはbである。X´軸方向とY´軸方向とは直交し、X´軸方向はXY平面においてX軸方向に対して角度θだけ傾いている。
【0113】
本実施形態では、後述する様に、X´軸方向とX軸方向とが成す傾き角度θを算出する。また、{(Y´軸方向に沿う加工痕11cの長さ)/(X´軸方向に沿う加工痕11cの長さ)}により、加工痕11cの縦横比εを算出する。図7(A)の例において、加工痕11cの縦横比εは、b/aとなる。
【0114】
図7(B)は、平面視における加工痕11cの他の例を示す図である。図7(B)の例では、長さaを有する加工痕11cの長軸がX´軸方向に沿い、長さbを有する加工痕11cの短軸がY´軸方向に沿う。図7(B)の例においても、加工痕11cの縦横比εはb/aである。
【0115】
なお、縦横比εの算出において、X´軸方向に沿う長さを分母とし、Y´軸方向に沿う長さを分子とする上述の算出方法は、あくまでも一例である。Y´軸方向に沿う長さを分母とし、X´軸方向に沿う長さを分子としてもよい。
【0116】
基準高さ位置Zに対する集光点Pの複数の高さ位置のずれ(即ち、デフォーカス値)を横軸とし、各加工痕11cの縦横比εを縦軸としてプロットすると、図8に示す複数のドットが得られる。
【0117】
デフォーカス値とは、レーザービームLの集光点Pが被加工物11の表面11aからどれくらいずれているか(即ち、デフォーカスの程度)を示している。集光点Pが基準高さ位置Z(即ち、被加工物11の表面11a)にあるとき(図6(A)参照)、デフォーカス値はゼロである。
【0118】
また、本実施形態では、図6(B)に示す様に集光点Pが基準高さ位置Zよりも被加工物11から離れた側にあるとき、デフォーカス値は正であるとし、図6(C)に示す様に集光点Pが基準高さ位置Zよりも被加工物11側にあるとき、デフォーカス値は負であるとする。
【0119】
図8に示す複数のドットとの誤差が最小二乗法により最小化される近似曲線72a(図8参照)は、コントローラ64の非点収差算出部72(図5参照)により算出される。補助記憶装置には、第3のプログラムが記憶されており、第3のプログラムをプロセッサ64aで実行することで、第3のプログラムは、非点収差算出部72として機能する。
【0120】
詳しくは後述するが、本実施形態において理論的な考察により得られる縦横比ε(式(12)参照)は、デフォーカス値の関数として表され、未知の第1成分cと、他の既知のパラメータと、を含む。
【0121】
非点収差算出部72は、最小二乗法により算出される近似曲線72aと、未知の第1成分c(又は後述する第1成分c´)を含み且つデフォーカス値の関数として表現される理論的な縦横比εと、を比較することで、第1成分c(又は後述する第1成分c´)を算出する。
【0122】
本実施形態の非点収差算出部72は、最小二乗法を利用した近似曲線72aを算出した上で第1成分cを算出するが、これに代えて、非点収差算出部72は、デフォーカス値ゼロでの近似直線の傾き、縦横比εの極大値及び極小値の関係等に基づいて、第1成分cを算出してもよい。但し、最小二乗法を利用する方が比較的高い精度で第1成分cを算出できる。
【0123】
ここで、第1成分cを含み且つデフォーカス値の関数として表現される縦横比εについて説明する。まず、非点収差を有しない理想的なレーザービームLの半径は、下記の式(6)を用いて表される。なお、レーザービームLの進行方向は、Z軸方向と平行であると仮定する。
【0124】
【数6】
【0125】
式(6)において、zDFは、デフォーカス値である。Mは、理想的なガウシアンレーザービーム(基本モードビーム)からの解離を示す数値であり、理想的なガウシアンレーザービームの場合、M=1である。
【0126】
fは、集光レンズ56aの焦点距離であり、λは、レーザービームLの波長であり、πは円周率であり、Dは、集光レンズ56aに入る前のレーザービームLの直径であり、上述の式(4)及び(5)に示すRの2倍に略等しい。
【0127】
仮に、XY平面において、レーザービームLの非点収差を評価した場合、当該非点収差は、上述の第1成分cと、上述の第2成分cと、を含み得る。
【0128】
そこで、簡便化のため、第2成分cがゼロとなる様に、レーザービームLを取り扱う座標系を変換する。具体的には、第2成分cがゼロとなる新たなX´座標及びY´座標を得るために、X軸及びY軸を角度θだけ回転する(下記の式(7)参照)。
【0129】
【数7】
【0130】
この場合、第1成分c及び第2成分cを含むX座標及びY座標と、第2成分cを含まないが座標系を変換した後の第1成分c´を含むX´座標及びY´座標とは、式(2)及び式(3)に基づいて、下記の式(8)を充たす。
【0131】
【数8】
【0132】
図9(A)は、レーザービームLの断面をXY座標系で示す図であり、図9(B)は、レーザービームLの断面をX´Y´座標系で示す図である。
【0133】
式(7)及び式(8)から、第1成分c及び第2成分cは、第1成分c´を用いて下記の式(9)により表される。
【0134】
【数9】
【0135】
ところで、X´Y´座標系において、非点収差の第1成分c´を有するレーザービームLのX´軸方向での長さwX´(zDF)は、下記の式(10)で表され、非点収差の第1成分c´を有するレーザービームLのY´軸方向での長さwY´(zDF)は、下記の式(11)で表される。なお、DX´は、X´軸方向におけるレーザービームLの直径であり、DY´は、Y´軸方向におけるレーザービームLの直径である。
【0136】
【数10】
【0137】
【数11】
【0138】
式(10)及び式(11)を用いると、X´Y´座標系でのレーザービームLの縦横比ε(ZDF)は、下記の式(12)で表される。
【0139】
【数12】
【0140】
式(12)は、あくまでレーザービームLの縦横比εであるが、レーザービームLの縦横比εは、上述した加工痕11cの縦横比ε(=b/a)と同視できる。このことを、次に説明する。
【0141】
レーザービームLで被加工物11に対してアブレーション加工を施すレーザー加工においては、被加工物11の被加工性を表す指標として、「加工閾値」がしばしば取り上げられる(例えば、「藤田雅之及び橋田昌樹著、“Journal of Plasma and Fusion Research”, 一般社団法人 プラズマ・核融合学会, Vol.81, Suppl. (2005) p195-201」参照)。
【0142】
レーザービームLを被加工物11に照射した場合、「所定の光強度(即ち、フルエンス)」以上のレーザービームLが照射された場合にのみ、被加工物11がレーザービームLでアブレーション加工される。
【0143】
また、「所定の光強度」は、被加工物11を構成する材料、並びに、レーザービームLのパルス幅、波長及び繰り返し周波数が同一であれば、略一定である。つまり、「所定の光強度」が、上述の「加工閾値」に相当する。
【0144】
ところで、レーザービームLをその進行方向に直交する断面で見た場合に、レーザービームLの光強度は一様ではない。レーザービームLの光強度は、中心部で比較的強く、外周部で比較的弱い傾向にある。
【0145】
この様な光強度の分布は、上述の断面で見た場合に、複数の等高線で表現できる。レーザー発振器48から出射されるレーザービームLにおいて、これら複数の等高線の各々は、略相似な形状となる。
【0146】
これら複数の等高線の中には、上述の「加工閾値」と一致する光強度を有する「第1の等高線」が含まれており、アブレーション加工においては、第1の等高線及び第1の等高線よりも内側に位置するレーザービームLのみが被加工物11のレーザー加工に寄与することとなる。即ち、被加工物11に対してレーザー加工を施すと、その際に生じる加工痕の形状は、第1の等高線の形状と略一致する。
【0147】
複数の等高線の中には、レーザービームLの外形を表す「第2の等高線」も含まれる。上述の通り、各等高線が略相似であるので、第1及び第2の等高線は略相似であり、第1及び第2の等高線の縦横比も略一致する。
【0148】
従って、レーザービームLをその進行方向に直交する断面で見た場合に、レーザービームLの外形の縦横比は、アブレーション加工により被加工物11に形成された加工痕11cの縦横比εと同視できると考えられる。
【0149】
そこで、本実施形態では、被加工物11に照射される前のレーザービームLの縦横比εを、レーザービームLが被加工物11に照射されることで表面11a側に形成された加工痕11cの縦横比εで評価するという新規な手法を採用している。
【0150】
非点収差算出部72には、上述の式(12)が予め記憶されている。図8に示す近似曲線72aと、式(12)とは、略一致するので、非点収差算出部72は、集光点Pの複数の高さ位置と、各加工痕11cの縦横比εと、に基づいて(即ち、近似曲線72aに基づいて)、第1成分c´の値を算出できる。
【0151】
また、非点収差算出部72には、上述の式(9)が予め記憶されている。非点収差算出部72は、得られた第1成分c´の値と、角度θの値と、式(9)と、に基づいて、第1成分cの値及び第2成分cの値(即ち、非点収差の程度を示す指標)を算出する。
【0152】
ところで、非点収差の程度を示す指標としては、本実施形態の様な第1成分c及び第2成分cの値以外にも、X´Z平面内での集光点と、Y´Z平面内での集光点と、の距離を表す非点隔差を算出してもよい。
【0153】
これに代えて、非点収差の程度を示す指標としては、本実施形態とは異なる規格化係数を含むZernike多項式の係数(詳細は、「R.Noll, “Zernike polynomials and atmospheric turbulence”, Journal of Optical Society Of America, Vol.66, No.3, March 1976」のTABLE I. におけるZ及びZを参照)を算出してもよい。また、第1成分c´と、角度θとを、非点収差の程度を示す指標として算出しもよい。
【0154】
この様に、本実施形態では、チャックテーブル10近傍に凹面鏡と、ビームプロファイラ、波面センサ等の光学測定器と、凹面鏡及び光学測定器間に配置される観察専用の光学系と、を配置することなく、レーザー加工装置2においてレーザービームLの非点収差を評価できる。
【0155】
このことは、レーザー加工装置2の低コスト化につながり得ると共に、凹面鏡、光学測定器及び観察専用の光学系を省略するので、これらの精密な位置調整作業が不要となるという利点がある。
【0156】
補助記憶装置には、第4のプログラムが記憶されており、第4のプログラムを、プロセッサ64aで実行することで、第4のプログラムは、非点収差補正部74として機能する(図5参照)。
【0157】
非点収差補正部74は、第1成分cの値の絶対値と第2成分cの値の絶対値とが予め設定された閾値よりもそれぞれ大きい場合に、非点収差補正ユニット54を動作させて、第1成分cの値の絶対値と第2成分cの絶対値とをそれぞれ閾値以下とする。
【0158】
第1成分c及び第2成分cの各閾値は、例えば、10nmである。第1成分cの値の絶対値(即ち、|c|)が10nmを超えた場合(例えば、第1成分cの値が、-20nm、32nm等の場合)、非点収差補正部74は、第1成分cの値の絶対値を10nm以下とする様に、式(4)のΔを調整する。
【0159】
非点収差補正部74は、第2成分cの値の絶対値(即ち、|c|)が閾値を超えた場合、第2成分cの値の絶対値を閾値以下とする様に、式(5)のδθを調整する。
【0160】
但し、±45°非点収差が悪影響を及ぼさないことが自明であるような加工を行う場合には、必ずしも|c|に対して閾値を設けたり、δθを調整したりしなくてもよい。また、±45°非点収差の発生が想定されない場合には、式(7)の座標変換を行うことなくc´=cとして扱い、縦横比を算出する際にθ=0として計算を進めてもよい。
【0161】
なお、非点収差を算出する際に第1成分c´と角度θとを非点収差の程度を示す指標として算出した場合には、シリンドリカルレンズ54aとシリンドリカルレンズ54bの両方を-θだけ回転し、|c´|が閾値を下回る様に式(4)のΔを調整してよい。
【0162】
次に、レーザー加工装置2においてレーザービームLの非点収差を評価する評価方法について図1の各工程に沿って説明する。まず、図5に示す様に、被加工物ユニット19(被加工物11)をチャックテーブル10で吸引保持する(保持工程S10)。
【0163】
次いで、図5に示す様に、X軸方向に沿って集光器56とチャックテーブル10とを相対的に移動させながら、第1の高さ位置Z図6(B)参照)と第2の高さ位置Z図6(C)参照)との間に位置する複数の高さ位置に集光点Pを位置付ける様に、集光器56とチャックテーブル10とをZ軸方向に沿って相対的に移動させる。
【0164】
このとき、集光器56が各高さ位置に配置されるタイミングで集光器56から被加工物11の表面11aにレーザービームLを照射することにより、表面11aの異なる位置にそれぞれスポット状の複数の加工痕11cを形成する(加工工程S20)。
【0165】
なお、チャックテーブル10及び集光器56は、必ずしも一定の速度で移動しなくてもよい。チャックテーブル10が、所定長さの移動と停止とを繰り返すと共に、集光器56も、所定長さの移動と停止とを繰り返してもよい。
【0166】
この様に、加工工程S20では、(i)Z軸方向移動機構34を動作させてZ軸方向に沿って集光器56と被加工物11とを相対的に移動させることにより複数の高さ位置に集光点Pを位置付けることと、(ii)X軸方向移動機構22を動作させてX軸方向に沿って集光器56と被加工物11とを相対的に移動させること、により、集光点Pの各高さ位置に応じて加工痕11cを形成する。
【0167】
図5は、保持工程S10及び加工工程S20を示す図である。本実施形態では、最初に、デフォーカス値を第1の高さ位置Z図6(B)参照)に対応する正の第1の値とした上で加工痕11cを形成し、最後に、デフォーカス値を第2の高さ位置Z図6(C)参照)に対応する負の第2の値とした上で加工痕11cを形成する。
【0168】
但し、最初に、デフォーカス値を負の第2の値とした上で加工痕11cを形成し、最後に、デフォーカス値を正の第1の値とした上で加工痕11cを最後に形成してもよい。
【0169】
図5に示す様に、加工工程S20後の表面11aには、X軸方向に沿って複数の加工痕11cが離散的に形成されるが、複数の加工痕11cは、必ずしも一列に並ぶ様に形成されなくてもよい。
【0170】
例えば、Y軸方向に沿って適宜割り出し送りを行うことで、それぞれX軸方向に沿って並ぶ様に一列目の複数の加工痕11cと、二列目の複数の加工痕11cと、を形成してもよい。同様に、一列目から三列目、又は、一列目から四列目に複数の加工痕11cをそれぞれ形成してもよい。
【0171】
複数の加工痕11cをN列以上形成する場合(なお、Nは以上の自然数である)、一列目における最初の加工痕11c形成時のデフォーカス値を正の第1の値(又は負の第2の値)とし、N列目における最後の加工痕11c形成時のデフォーカス値を負の第2の値(又は正の第1の値)とする。
【0172】
加工工程S20の後、複数の加工痕11cを撮像ユニット60で撮像して、各加工痕11cの画像を取得する(撮像工程S30)。図10は、撮像工程S30を示す図である。本実施形態では、撮像ユニット60を1つの加工痕11cの上方に配置して1つの加工痕11cを撮像した後、チャックテーブル10を加工送りする。
【0173】
そして、撮像ユニット60を直前に撮像した加工痕11cに隣接する他の加工痕11cの上方に配置して、他の1つの加工痕11cを撮像する。同様にして、全ての加工痕11cを撮像する。但し、2以上の加工痕11cを撮像ユニット60で一度に撮像してもよい。
【0174】
各加工痕11cの画像を取得した後、上述の縦横比算出部70が、各加工痕11cの画像を画像処理することにより、各加工痕11cの画像から各加工痕11cの縦横比ε(図7(A)及び図7(B)参照)と、加工痕11cの傾き角度θと、を算出する(縦横比算出工程S40)。縦横比算出部70が行う画像処理は、二値化処理、輪郭抽出処理等を含む。
【0175】
次いで、集光点Pの複数の高さ位置(図8の横軸)と、各高さ位置に対応する加工痕11cの縦横比ε(図8の縦軸)と、のデータ(即ち、図8に示す複数のドット)に基づいて、非点収差算出部72が近似曲線72aを算出する。
【0176】
そして、非点収差算出部72は、近似曲線72aと式(12)とが一致するという前提の下、第1成分c´を算出し、次いで、式(9)から、第1成分c及び第2成分c(即ち、非点収差の程度を示す指標)をそれぞれ算出する(非点収差算出工程S50)。
【0177】
図8に示す実験では、加工痕11cの長軸及び短軸は、それぞれX軸方向又はY軸方向に沿っており、θ=0(即ち、第2成分c´=0)であった。また、DX´=DY´=D(即ち、レーザービームLは円柱である)であった。この場合、式(12)は、以下の式(13)の様に簡略化できる。
【0178】
【数13】
【0179】
図8に示す実験では、M=1.1、f=50mm、λ=355nm、D=3.2μm、R=D/2であった。近似曲線72aと、式(13)とが一致するという前提の下、第1成分cを算出すると、第1成分c=-37nmであった。
【0180】
本実施形態では、被加工物11の表面11aに複数の加工痕11cを形成することで、非点収差を評価できるので、チャックテーブル10近傍に凹面鏡等が不要になる。このことは、レーザー加工装置2の低コスト化につながり得ると共に、凹面鏡、光学測定器、及び、観察専用の光学系の精密な位置調整作業が不要となる利点もある。
【0181】
比較例として、各高さ位置に集光器56が位置付けられたときにパルス状のレーザービームLを被加工物11に照射するのではなく、集光器56からパルス状のレーザービームLを被加工物11に略連続的に照射している状態で、数字の8の字形状を有する一続きの加工痕を形成することも考えられる。
【0182】
具体的には、集光器56をZ軸方向に沿って移動させ、且つ、被加工物11をX軸方向に沿って移動させて第1の一続きの加工痕を形成し、集光器56をZ軸方向に沿って移動させ、且つ、被加工物11をY軸方向に沿って移動させて第2の一続きの加工痕を形成する。
【0183】
比較例の場合、平面視での一続きの加工痕において最もくびれた位置を特定することによりX軸方向及びY軸方向の両方において基準高さ位置Zを特定する必要があるところ、レーザービームLの出力が加工閾値よりも十分に高くないと、このくびれた位置を特定するのが難しい。
【0184】
これに対して、本実施形態では、ドット状の加工痕11cが形成されればよく、レーザービームLの出力を加工閾値よりも十分に高くする必要がない。係る点において、本実施形態の方が有利である。
【0185】
また、比較例の場合、レーザービームLの出力を加工閾値よりも十分に高くして一続きの加工痕を形成すると、レーザー加工時に発生するデブリが加工痕に付着し、加工痕においてくびれた位置を特定することが困難になるという問題もある。係る点においても、本実施形態の方が有利である。
【0186】
ところで、第1成分cの絶対値が閾値よりも大きい場合(S60でYES)、式(4)に示すΔを調整する(非点収差補正工程S70)。非点収差補正工程S70の後、再度、加工工程S20から非点収差算出工程S50までを行い、第1成分cの絶対値が閾値以下となったか否かを確認する。
【0187】
加工工程S20から非点収差算出工程S50までの一連の流れは、第1成分cの絶対値が閾値以下となるまで繰り返される。第1成分cの絶対値が閾値以下となった場合(S60でNO)、フローを終了する。
【0188】
なお、第2成分cの絶対値が閾値よりも大きく、第2成分cが調整対象となる場合には、式(5)に示すδθを調整する。この場合も、加工工程S20から非点収差算出工程S50までの一連の流れは、第2成分cの絶対値が閾値以下とするまで繰り返される。
【0189】
勿論、第1成分c及び第2成分cの両方が、それぞれ閾値よりも大きい場合(S60でYES)、Δを調整して第1成分cの絶対値を低減すると共に、δθを調整して第2成分cの絶対値を低減する。
【0190】
次に、図11(A)及び図11(B)を用いて、近似曲線72a及び式(12)から算出された第1成分c´が妥当な結果であったか否かを検証した実験について説明する。
【0191】
図11(A)は、波面センサ80を用いたレーザービームLの非点収差の測定を示す概要図である。本検証実験では、レーザー加工装置2を使用して、集光レンズ56aを経たレーザービームLを、被加工物11ではなく波面センサ80へ照射した。
【0192】
図11(B)は、波面センサ80を用いて得られたレーザービームLの波面を二次元的に示す図である。図11(B)に示す円形領域の上下端近傍の領域(±90°方向)は+30nmから+40nmに対応し、図11(B)に示す円形領域の左右端近傍の領域(0°-180°方向)は-40nmから-30nmに対応し、円形領域の±45°方向と±135°方向とは約0nmに対応する。
【0193】
即ち、図11(B)に示すレーザービームLは、円形領域のうち±90°方向の端部において紙面手前側に突出する突出領域を有し、且つ、0°-180°方向の端部において紙面奥側に陥没する陥没領域を有する鞍状の波面を有する。
【0194】
図11(B)に示す結果は、図8に示す実験で使用したレーザービームLの波面の非点収差が、0°-90°方向の非点収差である第1成分cに支配され、±45°方向の非点収差である第2成分cをほとんど含まないことを意味する。
【0195】
図11(B)の波面をZernike多項式で展開し、第1成分cを定量的に評価した結果、第1成分cは-36nmであった。この結果は、図8及び式(13)で得られた結果(第1成分c=-37nm)と1nmの誤差を有する。
【0196】
しかし、式(13)を用いて算出された第1成分cと、波面センサ80を用いて算出された第1成分cとは、測定誤差を考慮しても、十分に合致していると言える。つまり、式(13)を用いた算出方法が、妥当な手法であることが明らかとなった。
【0197】
次に、図3(B)に示す一対のシリンドリカルレンズ54a,54bにおいて平面54a,54b間の距離を2fからΔだけ変化させた場合、第1成分cの変化量であるδcが上述の式(4)に従うことを確認した実験について説明する。
【0198】
図12は、一対のシリンドリカルレンズ54a,54b間の距離の変化量と、非点収差の程度を示す指標(0°-90°方向の非点収差である第1成分c)と、を調整する実験装置82の概要を示す平面図である。なお、図12では、実験装置82の構成要素を簡略化している。
【0199】
実験装置82は、光学素子を固定可能な光学台84を有する。光学台84上において、シリンドリカルレンズ54aは、軸54c(図3(B)参照)に沿う矢印B方向に移動可能に固定されており、シリンドリカルレンズ54bは、矢印B方向には移動しない様に固定されている。
【0200】
一対のシリンドリカルレンズ54a,54bを経たレーザービームLは、反射型のND(Neutral Density)フィルタ92を経て、波面センサ80へ入射する。なお、NDフィルタ92及び波面センサ80は、光学台84に固定されている。
【0201】
実験装置82を用いて、一対のシリンドリカルレンズ54a,54b間の距離を2fから変化させると共に、波面センサ80で第1成分cを定量的に評価した。
【0202】
図13は、一対のシリンドリカルレンズ54a,54b間の距離の変化量(横軸)と、非点収差の程度を示す指標(即ち、第1成分c及び第2成分c)(縦軸)と、を示す実験結果である。
【0203】
なお、横軸は、2f(fは、各シリンドリカルレンズ54a,54bの焦点距離)からの変化量の大きさを示す。本実験では、基準位置(即ち、2fからの変化量ゼロ)に対して、一対のシリンドリカルレンズ54a,54b間の距離が、増加又は減少する様に、シリンドリカルレンズ54bを移動させた。
【0204】
その結果、図13に示す様に、0°-90°方向の非点収差である第1成分cは略線型に変化したが、±45°方向の非点収差である第2成分cは、略変化しなかった。つまり、一対のシリンドリカルレンズ54a,54b間の距離を変えることで第2成分cを変化させることなく、第1成分cのみを変化させることができることが示された。
【0205】
ところで、上述の実施形態や実験では、進行方向における断面が円又は楕円のレーザービームLについて述べたが、レーザービームLの断面の形状はこれに限定されない。図14(A)は、第1変形例に係る加工痕11cの縦横比εを示す図である。
【0206】
図14(A)では、加工痕11cを矩形に近似した上で縦横比εを算出する例を示す。この場合、加工痕11cの縦横比ε、即ち、(Y軸方向に沿う加工痕11cの長さ)/(X軸方向に沿う加工痕11cの長さ)、はb/aとなる。
【0207】
図14(B)は、第2変形例に係る加工痕11cの縦横比εを示す図である。図14(B)では、加工痕11cを菱形に近似した上で縦横比εを算出する例を示す。この場合も、加工痕11cの縦横比εはb/aとなる。
【0208】
図14(C)は、第3変形例に係る加工痕11cの縦横比εを示す図である。図14(C)では、図14(A)に示す例と同様に、加工痕11cを矩形に近似した上で縦横比εを算出する例を示す。
【0209】
但し、図14(C)では、縦横比算出部70が、撮像ユニット60で得られた画像を二値化処理し、次いで、加工痕11cの輪郭の座標情報を取得し、座標情報から縦横比εを算出する。
【0210】
より具体的には、Y軸方向に沿う加工痕11cの長さを、1つの加工痕11cの上端の座標(YMAX)と下端の座標(YMIN)との差(即ち、YMAX-YMIN)で算出し、X軸方向に沿う加工痕11cの長さを、当該1つの加工痕11cの右端の座標(XMAX)と左端の座標(XMIN)との差(即ち、XMAX-XMIN)で算出する。
【0211】
その上で、縦横比εを、(Y軸方向に沿う加工痕11cの長さ)/(X軸方向に沿う加工痕11cの長さ)=(YMAX-YMIN)/(XMAX-XMIN)で算出する。この様に、撮像ユニット60で得られた画像から縦横比算出部70が縦横比εを算出すれば、楕円、矩形、菱形等の予め定められた形状に限定されず、任意の形状の加工痕11cに対しても自動的に縦横比εを算出できる。
【0212】
(第2の実施形態)次に、図15(A)を参照し、第2の実施形態について説明する。図15(A)は、集光器56とチャックテーブル10とをZ軸方向(第1方向)に沿って相対的に移動させる第2の実施形態のZ軸方向移動機構(第1移動機構)94を示す側面図である。
【0213】
第2の実施形態のZ軸方向移動機構94は、集光器56をZ軸方向に沿って移動させるピエゾアクチュエータ94aを有する。ピエゾアクチュエータ94aは、例えば、1.0μmから20μmの範囲で集光器56をZ軸方向に沿って移動させる。
【0214】
第2の実施形態は、Z軸方向移動機構94を有する点で第1の実施形態と異なるが、その他の点では、第1の実施形態と同じであってよい。第2の実施形態において、Z軸方向移動機構34を併用してもよい。
【0215】
(第3の実施形態)次に、図15(B)を参照し、第3の実施形態について説明する。図15(B)は、集光器56とチャックテーブル10とをZ軸方向(第1方向)に沿って相対的に移動させる第3の実施形態のZ軸方向移動機構(第1移動機構)96を示す側面図である。
【0216】
第3の実施形態のZ軸方向移動機構96は、例えば、チャックテーブル10をZ軸方向に沿って移動させるボールねじ式の移動機構(不図示)を有する。Z軸方向移動機構96は、例えば、X軸方向移動テーブル26で支持され、チャックテーブル10及び支持台32(図1参照)をZ軸方向に沿って移動させる。
【0217】
第3の実施形態は、Z軸方向移動機構96を有する点で第1の実施形態と異なるが、その他の点では、第1の実施形態と同じであってよい。第3の実施形態において、Z軸方向移動機構34を併用してもよい。
【0218】
(第4の実施形態)次に、図16を参照し、第4の実施形態について説明する。図16は、第4の実施形態のレーザービーム照射ユニット44及びチャックテーブル10を示す概要図である。第4の実施形態では、保持面10aが下方を向く様に配置されたチャックテーブル10で吸引保持された被加工物11の表面11aに対して、下方から上方へレーザービームLを照射する。
【0219】
但し、チャックテーブル10は、第1の実施形態と同様に、XY平面方向に移動可能であり、レーザービーム照射ユニット44はZ軸方向に沿って移動可能である。なお、第2の実施形態の様に、集光器56をZ軸方向に沿って移動させてもよく、第3の実施形態の様に、チャックテーブル10をZ軸方向に沿って移動させてもよい。
【0220】
第4の実施形態は、レーザービーム照射ユニット44及びチャックテーブル10が第1の実施形態と比較して上下反転している点で第1の実施形態と異なるが、その他の点では、第1の実施形態と同じであってよい。
【0221】
第2、第3及び第4の実施形態においても、表面11aに複数の加工痕11cを形成することで、非点収差を評価できるので、チャックテーブル10近傍に凹面鏡等が不要になる。このことは、レーザー加工装置2の低コスト化につながり得ると共に、凹面鏡、光学測定器、及び、観察専用の光学系の精密な位置調整作業が不要となる利点もある。
【0222】
その他、上述の実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。例えば、負圧で被加工物ユニット19を吸引保持するチャックテーブル10に代えて、略三点で支持した状態で被加工物ユニット19を保持する保持構造(保持ユニット)、静電気力で被加工物ユニット19を吸引保持する不図示の静電チャック(保持ユニット)等を採用することもできる。
【0223】
また、非点収差補正ユニット54は、必ずしもヘッド部50に配置されなくてもよい。非点収差補正ユニット54は、ヘッド部50外に配置されてもよく、例えば、レーザービーム照射ユニット44を構成する筐体46の内部に配置されてもよい。
【符号の説明】
【0224】
2:レーザー加工装置、4:基台、6:基部、8:立設部
10:チャックテーブル(保持ユニット)、10a:保持面、10b:クランプユニット
11:被加工物、11a:表面(露出面)、11b:裏面、11c:加工痕
12:Y軸方向移動機構、14:Y軸ガイドレール
15:テープ、17:環状フレーム、19:被加工物ユニット
16:Y軸方向移動テーブル、18:ねじ軸、20:駆動源
22:X軸方向移動機構(第2移動機構)、24:X軸ガイドレール
26:X軸方向移動テーブル、28:ねじ軸、30:駆動源、32:支持台
34:Z軸方向移動機構(第1移動機構)、36:Z軸ガイドレール
38:Z軸方向移動板、40:駆動源、42:支持具
44:レーザービーム照射ユニット、46:筐体、48:レーザー発振器
50:ヘッド部、52:ミラー
54:非点収差補正ユニット、54a,54b:シリンドリカルレンズ
54a,54b:平面、54a,54b:凸面、54c:軸
56:集光器、56a:集光レンズ、56b:焦点
56c,56c:波面、56d:第1平面、56d:第2平面
60:撮像ユニット、62:タッチパネル
64:コントローラ、64a:プロセッサ、64b:メモリ
66:加工制御部
70:縦横比算出部
72:非点収差算出部、72a:近似曲線
74:非点収差補正部
80:波面センサ
82:実験装置、92:NDフィルタ
94:Z軸方向移動機構、94a:ピエゾアクチュエータ
96:Z軸方向移動機構、A:所定距離、B:矢印
A1:横方向、A2:縦方向
L:レーザービーム、P:集光点
S10:保持工程、S20:加工工程、S30:撮像工程、S40:縦横比算出工程
S50:非点収差算出工程、S70:非点収差補正工程
:基準高さ位置、Z:第1の高さ位置、Z:第2の高さ位置
c1:第1成分、c2:第2成分
f:焦点距離、ε:縦横比、θ:角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16