(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166771
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】腐食生成物の定量方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/09 20180101AFI20241122BHJP
G01N 33/38 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
G01N23/09
G01N33/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083105
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】依田 侑也
(72)【発明者】
【氏名】北垣 亮馬
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 博隆
(72)【発明者】
【氏名】加美山 隆
(72)【発明者】
【氏名】石倉 我玖
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA04
2G001BA11
2G001CA04
2G001FA02
2G001KA01
2G001KA11
2G001LA02
(57)【要約】
【課題】一度の計測で、鉄筋表面における腐食生成物を広範囲に定量できる腐食生成物の定量方法を提供する。
【解決手段】コンクリート内部の鉄筋の腐食生成物の定量方法であって、前記鉄筋の中性子透過率スペクトルと、前記腐食生成物と同質の物質の中性子透過率スペクトルとを用いて、前記鉄筋における前記腐食生成物の生成量を定量する、腐食生成物の定量方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート内部の鉄筋の腐食生成物の定量方法であって、
前記鉄筋の中性子透過率スペクトルと、前記腐食生成物と同質の物質の中性子透過率スペクトルとを用いて、前記鉄筋における前記腐食生成物の生成量を定量する、腐食生成物の定量方法。
【請求項2】
腐食生成物試薬を用いて、厚さ100μm相当の腐食生成物の中性子透過率スペクトルを導出する工程と、
前記鉄筋と同質の基準鉄筋の中性子透過率スペクトルを測定する工程と、
前記鉄筋の中性子透過率スペクトルを測定する工程と、
前記基準鉄筋の中性子透過率スペクトルと前記鉄筋の中性子透過率スペクトルの差を求める工程と、
前記腐食生成物の中性子透過率スペクトルをn乗し、前記差にフィッティングして、前記鉄筋の表面における腐食生成物の厚さを推定する工程と、を有する、請求項1に記載の腐食生成物の定量方法。
【請求項3】
前記腐食生成物試薬は、α-オキシ水酸化第二鉄、またはγ-オキシ水酸化第二鉄である、請求項2に記載の腐食生成物の定量方法。
【請求項4】
前記腐食生成物の線減弱係数スペクトルを回帰分析して、前記腐食生成物の関数データを算出し、前記関数データを中性子ブラッグエッジ解析コードRITSに組み込んで前記鉄筋の中性子透過率スペクトルを解析し、前記鉄筋における鉄の厚さと前記腐食生成物の厚さとをそれぞれ導き出す、請求項1に記載の腐食生成物の定量方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート内部の鉄筋に生じる腐食生成物の定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート内部の鉄筋に生じる腐食生成物の定量方法は、鉄筋コンクリートの代表的な劣化現象の1つである。鉄筋の腐食の研究は、古くから行われている。鉄筋の腐食について、通常は、鉄筋表面上の腐食範囲を目視で確認し、腐食部を除去前後の質量変化量を計測することにより腐食量を測定していた。
【0003】
従来、鉄筋の腐食膨張によるひび割れ発生機構についての研究が知られている(例えば、非特許文献1参照)。また、中性化によるモルタル中の鉄筋の腐食状態を明らかにする方法が知られている(例えば、非特許文献2参照)。また、鉄筋の腐食生成物の微細構造やミクロメカニクス的調査を、走査型電子顕微鏡、ラマン分光法、ナノインデンテーションを組み合わせて行うことが知られている(例えば、非特許文献3参照)。さらに、コンクリート中の鉄筋の腐食量を、ひび割れ幅から推定する方法が知られている(例えば、非特許文献4参照)。
【0004】
このように、長年様々なアプローチでコンクリート中の鉄筋の腐食についての検討がなされている。しかしながら、試料にパルス中性子を照射することによって得られる中性子透過率スペクトルと、中性子の多結晶回折に起因する透過率スペクトルの変化「ブラッグエッジ(例えば、非特許文献5参照)」とを用いて、腐食生成物や腐食鉄筋についての検討を行っている研究はなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】森川雅行他:鉄筋の腐食膨張によるひびわれの発生機構に関する基礎的研究、土木学会論文集第378号/V-6、pp.97-105、1987.2.
【非特許文献2】佐伯竜彦他:中性化によるモルタル中の鉄筋腐食の定量的評価,土木学会論文集No.532/V-30、pp.55-66、1996.2.
【非特許文献3】Baozhen Jianga et.al.:Micromechanical properties of steel corrosion products in concrete studied by nano- indentation technique,Corrosion Science 163 (2020),108304.
【非特許文献4】道正泰弘他:鉄筋腐食ひび割れ幅による鉄筋腐食量の推定に関する研究、コンクリート工学年次論文、vol.36、No.1、pp.1180-1185、2014.
【非特許文献5】佐藤 博隆:中性子透過ブラッグエッジ法による金属組織情報のイメージング、まてりあ、55巻、11号、pp.532-536、2016.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非破壊で腐食生成物を局所的に分析する方法(例えば、顕微ラマン分析)は知られているものの、その分析範囲は非常に狭く、さらに腐食の深さまで定量することはできなかった。また、従来の鉄筋の腐食範囲を測定する方法では、一度に測定できる範囲が1μm程度と非常に狭かった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、一度の計測で、鉄筋表面における腐食生成物を広範囲に定量できる腐食生成物の定量方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の態様を有する。
[1]コンクリート内部の鉄筋の腐食生成物の定量方法であって、
前記鉄筋の中性子透過率スペクトルと、前記腐食生成物と同質の物質の中性子透過率スペクトルとを用いて、前記鉄筋における前記腐食生成物の生成量を定量する、腐食生成物の定量方法。
[2]腐食生成物試薬を用いて、厚さ100μm相当の腐食生成物の中性子透過率スペクトルを導出する工程と、
前記鉄筋と同質の基準鉄筋の中性子透過率スペクトルを測定する工程と、
前記鉄筋の中性子透過率スペクトルを測定する工程と、
前記基準鉄筋の中性子透過率スペクトルと前記鉄筋の中性子透過率スペクトルの差を求める工程と、
前記腐食生成物の中性子透過率スペクトルをn乗し、前記差にフィッティングして、前記鉄筋の表面における腐食生成物の厚さを推定する工程と、を有する、[1]に記載の腐食生成物の定量方法。
[3]前記腐食生成物試薬は、α-オキシ水酸化第二鉄、またはγ-オキシ水酸化第二鉄である、[2]に記載の腐食生成物の定量方法。
[4]前記腐食生成物の線減弱係数スペクトルを回帰分析して、前記腐食生成物の関数データを算出し、前記関数データを中性子ブラッグエッジ解析コードRITSに組み込んで前記鉄筋の中性子透過率スペクトルを解析し、前記鉄筋における鉄の厚さと前記腐食生成物の厚さとをそれぞれ導き出す、[1]に記載の腐食生成物の定量方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、一度の計測で、鉄筋表面における腐食生成物を広範囲に定量できる腐食生成物の定量方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例にて測定したα-オキシ水酸化第二鉄の中性子透過率スペクトルを示す図である。
【
図2】実施例にて測定した電食後の鉄筋および基準鉄筋の中性子透過率スペクトルを示す図である。
【
図3】実施例にて鉄筋の表面における腐食生成物の厚さの推定結果を示す図である。
【
図4】実施例にて腐食生成物(水酸化鉄)の線減弱係数スペクトルを回帰分析し、腐食生成物の関数データを算出した結果を示す図である。
【
図5】実施例にて鉄筋における腐食生成物の厚さの可視化した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態に係る腐食生成物の定量方法の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0012】
[腐食生成物の定量方法]
本実施形態の腐食生成物の定量方法は、コンクリート内部の鉄筋の腐食生成物の定量方法であって、前記鉄筋の中性子透過率スペクトルと、前記腐食生成物と同質の物質の中性子透過率スペクトルとを用いて、前記鉄筋における前記腐食生成物の生成量を定量する。
【0013】
本実施形態の腐食生成物の定量方法は、腐食生成物試薬を用いて、厚さ100μm相当の腐食生成物の中性子透過率スペクトルを導出する工程(以下、「第1の工程」と言う。)と、前記鉄筋と同質の基準鉄筋の中性子透過率スペクトルを測定する工程(以下、「第2の工程」と言う。)と、前記鉄筋の中性子透過率スペクトルを測定する工程(以下、「第3の工程」と言う。)と、前記基準鉄筋の中性子透過率スペクトルと前記鉄筋の中性子透過率スペクトルの差を求める工程(以下、「第4の工程」と言う。)と、前記腐食生成物の中性子透過率スペクトルをn乗し、前記差にフィッティングして、前記鉄筋の表面における腐食生成物の厚さを推定する工程(以下、「第5の工程」と言う。)と、を有することが好ましい。
【0014】
「第1の工程」
第1の工程では、腐食生成物試薬を用いて、コンクリート内部の鉄筋における、厚さ100μm相当の腐食生成物の中性子透過率スペクトルを導出する。すなわち、腐食生成物試薬の中性子透過率スペクトルを測定し、その中性子透過率スペクトルを、コンクリート内部の鉄筋における、厚さ100μm相当の腐食生成物の中性子透過率スペクトルに相当するものとする。
【0015】
腐食生成物試薬としては、鉄筋の腐食によって生成する腐食生成物に相当するα-オキシ水酸化第二鉄、またはγ-オキシ水酸化第二鉄が用いられる。α-オキシ水酸化第二鉄としては、微粉末状であり、純度99%、密度4.26g/cm3、式量88.9のものが用いられる。γ-オキシ水酸化第二鉄としては、粉末状であり、純度99%、密度4.26g/cm3、式量88.9のものが用いられる。
【0016】
アルミニウム製ホルダーに腐食生成物試薬を充填し、中性子照射装置を用いて、腐食生成物試薬の中性子透過率スペクトルを測定する。具体的には、加速器駆動パルス中性子源から放出された白色中性子を試薬に照射して透過した中性子の計数から、試薬がない時の中性子計数を除して中性子透過率を求めると共に、飛行時間法により中性子の波長分析を行って、腐食生成物試薬の中性子透過率スペクトルを測定する。これの負の自然対数を求め、100/実効厚さ(単位はμm)を乗じる。これの負の指数関数を求めることで、腐食生成物試薬の中性子透過率スペクトルを求める。
【0017】
中性子透過率スペクトルの測定における、電子エネルギーは、30MeV以上が好ましい。
中性子透過率スペクトルの測定における、電子ビーム出力は、1kW以上が好ましい。
中性子透過率スペクトルの測定における、電子線パルス幅は、5μs以下が好ましい。
中性子透過率スペクトルの測定における、中性子飛行距離は、5m以上が好ましい。
中性子透過率スペクトルの測定における、ダイレクトビーム測定時間は、1時間以上が好ましい。
中性子透過率スペクトルの測定における、試料測定時間は、1時間以上が好ましい。
中性子透過率スペクトルの測定における、試料-検出器間の距離は、200mm以下が好ましい。
検出器としては、パルス中性子飛行時間分析型イメージング検出器が好ましい。
【0018】
「第2の工程」
第2の工程では、中性子照射装置を用いて、上記鉄筋と同質の基準鉄筋の中性子透過率スペクトルを測定する。具体的には、加速器駆動パルス中性子源から放出された白色中性子を基準鉄筋に照射して透過した中性子の計数から、試薬がない時の中性子計数を除して中性子透過率を求めると共に、飛行時間法により中性子の波長分析を行って、基準鉄筋の中性子透過率スペクトルを測定する。
【0019】
中性子透過率スペクトルの測定における、電子エネルギーは、30MeV以上が好ましい。
中性子透過率スペクトルの測定における、電子ビーム出力は、1kW以上が好ましい。
中性子透過率スペクトルの測定における、電子線パルス幅は、5μs以下が好ましい。
中性子透過率スペクトルの測定における、中性子飛行距離は、5m以上が好ましい。
中性子透過率スペクトルの測定における、ダイレクトビーム測定時間は、1時間以上が好ましい。
中性子透過率スペクトルの測定における、試料測定時間は、1時間以上が好ましい。
中性子透過率スペクトルの測定における、試料-検出器間の距離は、200mm以下が好ましい。
検出器としては、パルス中性子飛行時間分析型イメージング検出器が好ましい。
【0020】
「第3の工程」
第3の工程では、中性子照射装置を用いて、上記鉄筋の中性子透過率スペクトルを測定する。具体的には、加速器駆動パルス中性子源から放出された白色中性子を鉄筋に照射して透過した中性子の計数から、試薬がない時の中性子計数を除して中性子透過率を求めると共に、飛行時間法により中性子の波長分析を行って、鉄筋の中性子透過率スペクトルを測定する。
【0021】
中性子透過率スペクトルの測定における、電子エネルギーは、30MeV以上が好ましい。
中性子透過率スペクトルの測定における、電子ビーム出力は、1kW以上が好ましい。
中性子透過率スペクトルの測定における、電子線パルス幅は、5μs以下が好ましい。
中性子透過率スペクトルの測定における、中性子飛行距離は、5m以上が好ましい。
中性子透過率スペクトルの測定における、ダイレクトビーム測定時間は、1時間以上が好ましい。
中性子透過率スペクトルの測定における、試料測定時間は、1時間以上が好ましい。
中性子透過率スペクトルの測定における、試料-検出器間の距離は、200mm以下が好ましい。
検出器としては、パルス中性子飛行時間分析型イメージング検出器が好ましい。
【0022】
「第4の工程」
第4の工程では、第2の工程で得られた基準鉄筋の中性子透過率スペクトルと、第3の工程で得られた鉄筋の中性子透過率スペクトルの差を求める。具体的には、鉄筋の中性子透過率から基準鉄筋の中性子透過率を除すことで、上記基準鉄筋の中性子透過率スペクトルと上記鉄筋の中性子透過率スペクトルの差(以下、「スペクトル差」と言う。)を求める。
【0023】
「第5の工程」
第5の工程では、上記腐食生成物の中性子透過率スペクトルをn乗し、上記スペクトル差にフィッティングして、上記鉄筋の表面における腐食生成物の厚さを推定する。
具体的には、下記のようにして、鉄筋の表面における腐食生成物の厚さを推定する。
中性子透過率スペクトル(T(λ))は、Lambert則を用いて、下記の式(1)で表される。
T(λ)=exp(-σ(λ)nt) (1)
上記の式(1)において、T(λ)は中性子波長λ毎の中性子透過率、σ(λ)は微視的中性子全断面積(cm2)、nは原子数密度(cm-3)、tは厚さ(cm)である。
また、上記の式(1)は、下記の式(2)のように記すことができる。
T(λ)=exp(-Σ(λ)t) (2)
上記の式(2)において、Σ(λ)は、巨視的中性子全断面積(cm-1)であり、線減弱係数とも呼ばれる。
上記の式(2)より、中性子透過率スペクトル(T(λ))をn乗すると、下記の式(3)に示すように、厚さtをn倍することと同義であることが分かる。
T(λ)n=exp(-Σ(λ)nt) (3)
このことから、上記腐食生成物の中性子透過率スペクトルをn乗し、上記スペクトル差にフィッティングして、上記鉄筋の表面における腐食生成物の厚さを推定することができる。具体的には、上記腐食生成物の中性子透過率スペクトルと上記スペクトル差の波長毎の差の二乗の和が最小になるように、手動もしくは計算機でnを決定する。
【0024】
「その他の工程」
本実施形態の腐食生成物の定量方法では、上記腐食生成物の線減弱係数スペクトルを回帰分析して、上記腐食生成物の関数データを算出し、上記関数データを中性子ブラッグエッジ解析コードRITSに組み込んで上記鉄筋の中性子透過率スペクトルを解析し、上記鉄筋における鉄の厚さと上記腐食生成物の厚さとをそれぞれ導き出す。中性子ブラッグエッジ解析コードRITSでは、鉄の結晶構造、集合組織構造、結晶子構造といった構造パラメータならびに鉄の厚さにより鉄の中性子透過率ブラッグエッジスペクトルを計算すると共に、上記関数と腐食生成物の厚さのパラメータにより腐食生成物の中性子透過率スペクトルを計算できる。この2つのスペクトルの乗算値を上記鉄筋の中性子透過率スペクトルに計算機を用いた最小二乗フィッティングすることで、上記構造パラメータと鉄の厚さ、腐食生成物の厚さを一斉に決定することができる。この解析をパルス中性子飛行時間分析型イメージング検出器の全画素で行うことで、上記構造パラメータと鉄の厚さ、腐食生成物の厚さを可視化することができる。
これにより、腐食生成物の厚さを可視化することができる。
【0025】
本実施形態の腐食生成物の定量方法によれば、上記鉄筋の中性子透過率スペクトルと、上記腐食生成物と同質の物質の中性子透過率スペクトルとを用いて、上記鉄筋における上記腐食生成物の生成量を定量するため、一度の計測で、鉄筋表面における腐食生成物を広範囲に定量できる。
【実施例0026】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0027】
[実施例]
「厚さ100μm相当の腐食生成物の中性子透過率スペクトルの導出」
腐食生成物試薬として、α-オキシ水酸化第二鉄(微粉末状、純度99%、密度4.26g/cm
3、式量88.9、ニラコ社製)を用いて、コンクリート内部の鉄筋における、厚さ100μm相当の腐食生成物の中性子透過率スペクトルを導出した。
アルミニウム製ホルダーに腐食生成物試薬を充填し、中性子照射装置を用いて、腐食生成物試薬の中性子透過率スペクトルを測定した。
中性子透過率スペクトルの測定における、電子エネルギーを32.4MeV、電子ビーム出力を2.3kW、電子線パルス幅を4μs、中性子飛行距離を6.24m、ダイレクトビーム測定時間を2時間、試料測定時間を2時間、試料-検出器間の距離を8.6mmとした。
検出器としては、GEM型パルス中性子飛行時間分析型イメージング検出器を用いた。
α-オキシ水酸化第二鉄の中性子透過率スペクトルを
図1に示す。
【0028】
「電食鉄筋の作製」
表1に示す調合に基づいて、モルタルを作製した。また、骨材としては、骨材種類によるばらつきの影響を均質化するために、サンドブラスト用のガラスビーズ(粒径1.5mm)を用いた。その後、鉄筋を、D6異形鉄筋を配筋した縦100mm×横200mm×高さ100mmの鋼製型枠にモルタルを打設し、28日間水中養生し、供試体とした。
得られた供試体を、非特許文献(高谷 哲他:コンクリート中における鉄筋の腐食生成物の生成プロセスおよび電気化学的特性、土木学会論文集 E2、71巻、3号、pp.235-247、2015)に基づいた構成で電食した。電食密度を1.32mA/cm2とし、経過時間を24時間、72時間、120時間の3水準とした。
【0029】
【0030】
「鉄筋および基準鉄筋の中性子透過率スペクトルの測定」
中性子照射装置を用いて、上記鉄筋、および上記鉄筋と同質の基準鉄筋(電食していない鉄筋)の中性子透過率スペクトルを測定した。
中性子透過率スペクトルの測定における、電子エネルギーを32.4MeV、電子ビーム出力を2.3kW、電子線パルス幅を4μs、中性子飛行距離を5.92m、ダイレクトビーム測定時間を18.44時間、試料測定時間を11.00時間、試料-検出器間の距離を89mmとした。
検出器としては、GEM型パルス中性子飛行時間分析型イメージング検出器を用いた。
電食後の鉄筋および基準鉄筋の中性子透過率スペクトルを
図2に示す。
【0031】
「鉄筋の表面における腐食生成物の厚さの推定」
まず、上述の通り得られた、基準鉄筋の中性子透過率スペクトルと電食後の鉄筋の中性子透過率スペクトルの差(スペクトル差)を求めた。
次に、上記腐食生成物(水酸化鉄)の中性子透過率スペクトルをn乗し、上記スペクトル差にフィッティングして、上記鉄筋の表面における腐食生成物の厚さを推定した。
結果を
図3に示す。
図3に示すように、電食時間が24時間では腐食生成物の厚さが1μm、電食時間が72時間では腐食生成物の厚さが150μm、電食時間が120時間では腐食生成物の厚さが220μmであると推定される。
【0032】
「腐食生成物の線減弱係数スペクトルの回帰分析」
腐食生成物(水酸化鉄)の線減弱係数スペクトルを回帰分析して、上記腐食生成物の関数データを算出した。結果を
図4に示す。
【0033】
「鉄筋における鉄の厚さと腐食生成物の厚さの可視化」
上記腐食生成物の関数データを中性子ブラッグエッジ解析コードRITSに組み込んで、電食後の鉄筋の中性子透過率スペクトルを解析し、電食後の鉄筋における鉄の厚さと腐食生成物の厚さとをそれぞれ導き出した。電食後の鉄筋における鉄の厚さと腐食生成物の厚さを全画素で解析することにより、腐食生成物の厚さを可視化した。結果を
図5に示す。
図5に示すように、腐食生成物の厚さを可視化することができる。