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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166806
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】情報処理方法および補正方法
(51)【国際特許分類】
   G05D 1/43 20240101AFI20241122BHJP
【FI】
G05D1/02 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083157
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504193837
【氏名又は名称】国立大学法人室蘭工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100129230
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 理恵
(72)【発明者】
【氏名】望月 章志
(72)【発明者】
【氏名】水上 雅人
(72)【発明者】
【氏名】蝦名 徳一
【テーマコード(参考)】
5H301
【Fターム(参考)】
5H301AA01
5H301AA10
5H301CC03
5H301CC06
5H301CC10
5H301FF11
5H301GG09
5H301GG11
(57)【要約】
【課題】カメラの取付位置をより正確に把握し、高精度な自己位置推定を可能にする。
【解決手段】2次元的に移動可能な移動ロボット1が推定する自己位置を補正するための補正係数を求める。移動ロボット1はビジュアルオドメトリ法により自己位置を推定するためのVO部20を備える。VO部20がビジュアルオドメトリ法により取得した移動ロボット1の移動軌跡データと、外界センサが取得した移動ロボット1の基準点31の移動軌跡データとを取得し、ビジュアルオドメトリ法により取得した移動軌跡データと外界センサで取得した移動軌跡データとの間の距離の合計値を最小化する補正係数を求める。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2次元的に移動可能な移動体が推定する自己位置を補正するための補正係数を求める情報処理方法であって、
前記移動体はビジュアルオドメトリ法により自己位置を推定するためのセンサ部を備え、
コンピュータが、
前記センサ部が取得した前記移動体の移動軌跡を示す第1移動軌跡データと、外部のセンサが取得した前記移動体の基準点の移動軌跡を示す第2移動軌跡データと取得し、
第1移動軌跡データと第2移動軌跡データとの間の距離の合計値を最小化する補正係数を求める
情報処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の情報処理方法であって、
前記補正係数は前記センサ部と前記移動体の基準点との相対的な位置関係および前記センサ部の向きと前記移動体の向きとの関係を含み、
前記第1移動軌跡データと前記第2移動軌跡データは、前記移動体が直線移動した移動軌跡と前記移動体が回転移動または旋回移動した移動軌跡を含む
情報処理方法。
【請求項3】
請求項1に記載の情報処理方法であって、
焼きなまし法を用いて前記距離の合計値を最小化する補正係数を求める
情報処理方法。
【請求項4】
2次元的に移動可能な移動体が推定する自己位置を補正する補正方法であって、
センサ部が自己位置を推定し、
コンピュータが、
前記センサ部と前記移動体の基準点との相対的な位置関係および前記センサ部の向きと前記移動体の向きとの関係を含む補正係数を用いて前記自己位置を補正する
補正方法。
【請求項5】
請求項4に記載の補正方法であって、
前記移動体の基準点から前記移動体上の任意の点への相対位置で前記補正係数を補正する
補正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、情報処理方法および補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
屋外に設置されたインフラ構造物の点検には、人手による移動台車を用いた環境測定装置や移動ロボットが用いられる。例えば、地下埋設物の点検には、地中レーダを搭載し、2次元的に移動可能な装置が用いられる。地下埋設物探査では地下埋設物の位置を正確に把握するために、地下埋設物の位置とロボットの基準位置との相対位置を高精度に求めることが必要となる。
【0003】
地中レーダでは、探査作業の効率化の観点から、全方位に自在に移動できることが望ましい。また、点検箇所が狭隘空間で、その場で大きく旋回できないような環境もある。このような場合、非特許文献1に記載の、任意の方向に移動可能なホロノミック全方向移動機構を有したロボットを利用できる。
【0004】
全方向移動機構を用いた移動測定装置では、測定地点の位置情報に紐付けて測定データを分析および管理する。このため、位置情報の精度が測定データの品質に大きく関わり、2次元平面での位置精度を高める必要がある。位置については、移動原点からの相対移動量を高精度に推定できればよい。
【0005】
屋内については、非特許文献2には、天井付近に設置したカメラの画像を用いて屋内を移動するロボットの位置を算出する方法が提案されている。非特許文献3には、WiFi電波を用いて、送信機からの距離を推定することにより移動ロボットの位置を算出する方法が提案されている。非特許文献4には、地面画像を用いて自己位置を推定する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】K. Tadakuma, R. Tadakuma and J. Berengeres,“Development of Holonomic Omnidirectional Vehicle wiith 'Omini-Ball':Spherical Wheels,”Proceedings of the 2007 IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems, San Diego, CA, USA 2007
【非特許文献2】Jae Hong Shim and Young Im Cho,“A Mobile Robot Localization via Indoor Fixed Remote Surveillance Cameras,”Sensors. 16. 195. 2016.
【非特許文献3】Joydeep Biswas and Manuela Veloso,“WiFi localization and navigation for autonomous indoor mobile robots,”Proc. of 2010 IEEE International Conference on Robotics and Automation
【非特許文献4】Linguang Zhang, Adam Finkelstein and Szymon Rusinkiewicz,“High-Precision Localization Using Ground Texture,”ICRA2019
【非特許文献5】T. Kosakai, Y. Kataoka, Y. Ebina, M. Mizukami, and S. Mochizuki,“Two-dimensional self-localization using sensor-fusion of mobile robot for inspecting underground infrastructure facilities,”Proc. of ICPE2022 (2022)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
屋外での移動測定を対象とする場合、非特許文献2の方法では、クレーン車などでカメラを上方に設置する必要があり、高コスト、作業煩雑化の観点から現実的ではない。非特許文献3のWiFi電波を用いる方法は、屋外に電磁遮蔽物が存在する場合は誤差拡大につながることが危惧される。非特許文献4では、あらかじめ地面画像を取得しておく必要があり、より大規模なシステムになった場合、地図データベースの容量が大きくなるので探索に時間がかかるといった課題がある。
【0008】
自己位置を推定する方法として、カメラで移動中の路面の動画像を撮影し、撮影した動画像に含まれるフレーム間の画像の変位量を測定することにより、移動ロボットの移動量を算出するビジュアルオドメトリ法が知られている。ビジュアルオドメトリ法は、原理的には画像分解能での自己位置推定精度が得られるため、精度面で有効であると考えられる。
【0009】
しかしながら、移動ロボットに搭載されるカメラの取付位置とロボットに設定される基準位置とを完全に一致させることは困難である。ビジュアルオドメトリ法により自己位置が高精度に推定できたとしても、取付誤差により、ビジュアルオドメトリ法で推定した自己位置とロボットの基準位置との誤差は必ず残ることになる。ロボットの基準位置とカメラの取付位置を正確に合わせようとすると、測定の手間と高精度なレーザ変位計が必要となる。
【0010】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであり、カメラの取付位置をより正確に把握し、高精度な自己位置推定を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一態様の情報処理方法は、2次元的に移動可能な移動体が推定する自己位置を補正するための補正係数を求める情報処理方法であって、前記移動体はビジュアルオドメトリ法により自己位置を推定するためのセンサ部を備え、コンピュータが、前記センサ部が取得した前記移動体の移動軌跡を示す第1移動軌跡データと、外部のセンサが取得した前記移動体の基準点の移動軌跡を示す第2移動軌跡データと取得し、第1移動軌跡データと第2移動軌跡データとの間の距離の合計値を最小化する補正係数を求める。
【0012】
本開示の一態様の補正方法は、2次元的に移動可能な移動体が推定する自己位置を補正する補正方法であって、センサ部が自己位置を推定し、コンピュータが、前記センサ部と前記移動体の基準点との相対的な位置関係および前記センサ部の向きと前記移動体の向きとの関係を含む補正係数を用いて前記自己位置を補正する。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、カメラの取付位置をより正確に把握し、高精度な自己位置推定を可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、移動ロボットの構成の一例を示す側面図である。
図2図2は、移動ロボットの構成の一例を示す正面図である。
図3図3は、移動ロボットの構成の一例を示す上面図である。
図4図4は、移動ロボットの移動軌跡データ得る処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図5図5は、移動ロボットの座標系とカメラの座標系の一例を示す図である。
図6図6は、補正係数を導出する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図7図7は、焼きなまし法により補正係数を導出する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図8図8は、外界センサの移動軌跡データの一例を示す図である。
図9図9は、内界センサの移動軌跡データの一例を示す図である。
図10図10は、移動軌跡データを補正する処理の一例を示すフローチャートである。
図11図11は、移動ロボットの移動軌跡の一例を示す図である。
図12図12は、補正前の移動軌跡データの一例を示す図である。
図13図13は、補正後の移動軌跡データの一例を示す図である。
図14図14は、移動ロボットの軌跡の例を示す図である。
図15図15は、直線系と旋回系の移動軌跡を複合した移動軌跡の一例を示す図である。
図16図16は、2つのマーカを設置した移動ロボットの構成の一例を示す上面図である。
図17図17は、2つのマーカとカメラの位置関係を示す図である。
図18図18は、外界センサで取得した軌跡と内界センサで取得した軌跡の一例を示す図である。
図19図18は、外界センサで取得した軌跡と内界センサで取得した軌跡の一例を示す図である。
図20図20は、本実施形態の処理を実行する装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[移動ロボットの構成]
図1ないし図3を参照し、補正係数を求める対象の移動ロボット1の構成の一例について説明する。図1は移動ロボット1の側面図、図2は移動ロボット1の正面図、図3は移動ロボット1の上面図である。
【0016】
移動ロボット1は、筐体11に車輪12を備える。移動ロボット1は車輪12により2次元平面上(図ではXY平面)を移動可能である。車輪12に、オムニホイールやメカナムホイールを用いて、2次元平面を任意の方向に移動可能なホロノミック全方向移動機構とするとよい。
【0017】
移動ロボット1は、筐体11内にビジュアルオドメトリ(VO)部20を備える。VO部20は、筐体11内の下部に配置されて路面動画を撮影し、路面動画を解析して移動ロボット1の移動軌跡データを得る。VO部20は、路面動画を撮影するカメラ21、路面との撮影距離を測る距離センサ、外部光を遮光するボックス、安定した光量で路面を照らす照明、および各部を制御し、移動軌跡データを得る制御部を備える。VO部20は移動ロボット1の自己位置(移動軌跡データ)を得るためのセンサ部として用いられる。
【0018】
VO部20は、カメラ21で路面を動画撮影し、距離センサで撮影距離を記録する。VO部20は、路面撮影動画と撮影距離との関係から1画素あたりの物理長さを導出し、路面撮影動画の画像フレーム間の移動画素数を画像処理によりに導出する。VO部20は、1画素あたりの物理長さと画像フレーム間の移動画素数をもとに移動ロボット1の移動量を算出して、移動ロボット1の自己位置を推定する。
【0019】
VO部20は、カメラ21と移動ロボット1の基準点との相対的な位置関係を示す補正係数を用いて、推定した自己位置を移動ロボット1の基準点の位置に補正する。補正係数は、VO部20で得られた移動軌跡データと外界センサで得られた移動ロボット1の基準点の移動軌跡データとに基づいて事前に算出しておく。補正係数は、カメラ21と基準点との間のXY平面における位置関係だけでなく、移動ロボット1の向きとカメラ21の向きの関係も含む。補正係数の導出については後述する。
【0020】
補正係数の導出時、移動ロボット1は、筐体11の上面にマーカ30を備える。マーカ30は、外界センサが移動ロボット1の位置および向きを推定するために利用する目印である。例えば、マーカ30内のある点を移動ロボット1の基準点31とする。本実施形態では、非特許文献5の技術を利用して、移動ロボット1と移動ロボット1の移動範囲を網羅する俯瞰カメラで動画を撮影し、動画からマーカ30を検出し、マーカ30の移動量を高精度に求めることで時系列の移動軌跡データを得る。
【0021】
本実施形態では、動画を撮影する俯瞰カメラおよび動画からマーカ30を検出して移動軌跡データを得る装置を外界センサとして用いる。外界センサはこれに限らず、移動ロボット1の外部から移動ロボット1の移動軌跡データを得られるものであればよい。
【0022】
なお、マーカ30と外界センサは、補正係数を求めるために用いる構成であり、補正係数を求めた後は不要である。
【0023】
[動作]
次に、図4のフローチャートを参照し、移動ロボット1の移動軌跡データ得る処理の一例について説明する。
【0024】
ステップS1にて、VO部20が測定した移動ロボット1の移動軌跡データと外界センサが測定した移動ロボット1の移動軌跡データから、移動軌跡データ間の距離を用いた評価関数を最小化する補正係数を求める。
【0025】
ステップS2にて、移動ロボット1を屋外(屋内でもよい)で動かし、VO部20が測定した移動軌跡データを補正係数で補正し、移動ロボット1の基準点31の移動軌跡データを得る。
【0026】
なお、ステップS1の補正係数の導出は、装置実装誤差による影響のキャリブレーションのため、装置実装時に1度だけ実施すればよい。ステップS1で補正係数を導出後は、移動ロボット1のマーカ30を取り外してもよい。
【0027】
[補正係数の導出]
図5に、移動ロボット1の座標系とカメラ21の座標系を示す。移動ロボット1の座標系は外界センサが設定した矩形領域の直交座標系(図のXY座標系)とし、カメラ21の座標系は、カメラ21を原点として、カメラ21の向きをいずれかの軸とした直交座標系(図のPQ座標系)とする。カメラ21とマーカ30は移動ロボット1に固定されるので、移動ロボット1が移動してもカメラ21と基準点31との相対的な位置関係(ズレ量)は変わらない。カメラ21と基準点31とのズレ量D(dx, dy, dθ)が分かれば、VO部20で得られた移動軌跡データを補正して基準点31の移動軌跡データを得ることができる。
【0028】
ズレ量Dが分かっている場合、kフレーム目における基準点31の位置座標(v'xk,v'yk,v'θk)は以下の手順で求めることができる。式(1)により、カメラ21の内界センサ座標系の位置座標(vpk,vqk,vφk)を基準点31の初期位置座標(ax0,ay0)に基づいて並進移動し、初期角度aθ0に基づいて回転させる。式(2)により、ズレ量Dを考慮して、カメラ21の位置座標(内界センサ座標系)を基準点31の位置座標(外界センサ座標系)に合わせる。カメラ21の向きvφkと移動ロボット1の向きaθkと差は一定であり、式(3)が成り立つ。
【0029】
【数1】
【0030】
補正式として式(2)を利用する場合は、移動ロボット1の向きaθkを、方位のズレ量dθとカメラ21の向きvφkに置き換える。これにより、上記の式に、ビジュアルオドメトリ法で取得したカメラ21の位置座標(vpk,vqk,vφk)とズレ量D(dx,dy,dθ)とを代入することで、カメラ21の位置座標を基準点31の位置座標に補正できる。
【0031】
次に、図6のフローチャートを参照し、補正係数(ズレ量)を導出する処理の一例について説明する。
【0032】
ステップS11にて、移動ロボット1を移動させながら、VO部20による移動ロボット1の移動軌跡データ(内界センサデータ)と、外界センサによる移動ロボット1の移動軌跡データ(外界センサデータ)とを取得する。
【0033】
ステップS12にて、外界センサデータから移動ロボット1の初期位置座標(ax0,ay0)と初期角度aθ0を抽出する。
【0034】
ステップS13にて、ステップS12で抽出した初期位置座標(ax0,ay0)と初期角度aθ0で内界センサデータをオフセット補正する。
【0035】
ステップS14にて、最小値探索により補正係数を導出する。
【0036】
ここで最小値探索による補正係数の導出について説明する。
【0037】
式(1)ないし式(3)で求められるカメラ21の補正後の位置座標(v'x,v'y,v'θ)と外界センサで取得した基準点31の位置座標(ax,ay,aθ)をもとに、ユークリッド距離の総和を用いた評価関数Sを次式(4)で定める。
【0038】
【数2】
【0039】
ここで、iは各時刻(フレーム番号)、nは補正係数の導出に用いるフレーム数(データ数)を表す。
【0040】
評価関数Sが最小となった場合、各時刻iでは必ずしも最短距離とはならない場合があるが、軌跡全体として最適にフィットしたものとなる。すなわち、評価関数Sが最小値となることは全nフレームにおいてカメラ21と基準点31との差分量が最小となることを意味する。よって、評価関数Sを最小するd'x,d'y,d'θを求めることが、カメラ21と基準点31とのズレ量D(dx,dy,dθ)を求めることに相当する。なお、評価関数Sの最小の導出は最小値探索問題であり、再急降下法、ニュートン法などで求めることができる。
【0041】
評価関数Sが最小となるd'x,d'y,d'θの厳密解を解析的に求めることは困難である。本実施形態では、乱択アルゴリズムである焼きなまし法による最小値探索を用いて近似解を求めた。焼きなまし法は、現在状態uの近傍u'を検討し、次の状態をuとするかu'とするかを確率的に決定する方法である。遷移確率pは次式で与えられる。
【0042】
【数3】
【0043】
ここで、Tは温度に相当するパラメータである。新たな状態S(u')が現在の状態S(u)より良ければ(S(u)>S(u'))、状態をS(u')とする。新たな状態S(u')が現在の状態S(u)より悪くても(S(u)≦S(u'))、式(5)の確率で状態をS(u')とする。温度Tが高いほど状態がS(u')に遷移する確率が高く、温度Tが低いほど状態がS(u')に遷移する確率が低くなる。温度Tは時間とともに下がる。最初のうちは最適解を求めて広い領域が探索され、徐々に探索範囲が狭まり、評価関数Sの値が低い領域に向かい、最終的に評価関数Sが最小となる状態に収束する。
【0044】
図7のフローチャートを参照し、焼きなまし法により補正係数を導出する処理の一例について説明する。
【0045】
ステップS151にて、初期状態u=(dx,dy,dθ)と初期温度T0を設定する。
【0046】
ステップS152にて、温度Tを下げて、次の状態u'(現在の状態の近傍)を生成する。具体的には、次の状態u'を次式(6)の3状態のなかから選択する。
【0047】
【数4】
【0048】
これら3状態から選ばれる確率は等しく三分の一とする。δx,δy,δθは、一定の範囲でランダムに決まるように次式(7)で設定する。ただし、温度とともに範囲が減少するように設定する。
【0049】
【数5】
【0050】
ここで、j,hは定数、Tは現在の温度である。
【0051】
ステップS153にて、新しい状態u'のスコア(評価値S(u'))を算出する。
【0052】
ステップS154にて、現在の状態の評価値S(u)と新しい状態の評価値S(u')とを比較する。
【0053】
S(u)>S(u')であれば、つまり、新しい状態の評価値S(u')が良ければ、ステップS155にて、新しい状態u’を採用し、ステップS152に戻る。
【0054】
S(u)≦S(u')であっても、ステップS156にて、式(5)の確率で、ステップS155に進んで新しい状態u'を採用するか、現在の状態uのままでステップS152に戻るか決定する。
【0055】
以上のステップS152からステップS156までの処理を一定時間繰り返し、一定時間経過後の状態u'=(d'x,d'y,d'θ)を補正係数とする。
【0056】
外界センサで取得した移動軌跡データと内界センサで取得した移動軌跡データとを入力データとして、評価関数Sの最小値を焼きなまし法で求めた例を示す。
【0057】
図8図9に移動軌跡データの一例を示す。図8は外界センサで取得した移動軌跡データである。図9は内界センサで取得した移動軌跡データである。移動ロボット1に直線移動と90度回転とを組み合わせて矩形領域の外周を移動させた。なお、図9の内界センサの移動軌跡データは、外界センサデータから抽出した移動ロボット1の初期位置座標(ax0,ay0,aθ0)を考慮してオフセット補正を適用したデータである。図中の「軌跡ずれ」と記載している箇所で、外界センサの移動軌跡データと内界センサの移動軌跡データの位置の違いが発生している。これは、カメラ21と基準点31の相対的な位置ずれによる影響であることがわかっている。
【0058】
初期状態をdx=0, dy=0, dθ=0、初期温度T0=20℃とし、式(7)の定数j,hをそれぞれj=1000,h=0.087と設定して、焼きなまし法でズレ量Dを求めた。ズレ量Dはdx=2.6721[mm],dy=-13.8073[mm],dθ=0.0652[rad]と求められた。このズレ量Dは、基準点31から見たカメラ21のズレ量を示している。
【0059】
[移動軌跡データの補正]
次に、図10のフローチャートを参照し、ビジュアルオドメトリ法で取得した移動軌跡データを補正する処理の一例について説明する。
【0060】
ステップS21にて、VO部20は、カメラ21で路面を撮影し、VOデータ(撮影動画)を取得する。このとき同時に、移動ロボット1は搭載した測定機器で測定を実施してもよい。
【0061】
VO部20は、ステップS22にて、撮影動画のフレームから特徴点を抽出し、ステップS23にて、フレーム間の特徴点ペアの移動量を求めて自己位置を推定する。
【0062】
ステップS21からS23までの処理で、VO部20は、ビジュアルオドメトリ法により移動軌跡データを取得する。
【0063】
ステップS24にて、VO部20は、式(2)と補正係数を利用して、ビジュアルオドメトリ法で取得した自己位置から基準点31の位置座標を求める。移動ロボット1による測定後に、別の装置が、VO部20の取得した移動軌跡データを補正して基準点31の位置座標を求めてもよい。
【0064】
これにより、移動ロボット1の初期位置を原点とした座標系の移動軌跡データが得られる。初期位置座標にオフセット量(ax0,ay0,aθ0)の補正を行ってもよい。
【0065】
続いて、図11ないし図13を参照し、ビジュアルオドメトリ法で得られた移動軌跡データを補正した結果の一例について説明する。
【0066】
図11に示すように、移動ロボット1を、姿勢を一定として、斜め45度方向に前後移動する移動パターンで移動させて、ビジュアルオドメトリ法で移動軌跡データを得た。また、比較のため、外界センサによる移動軌跡データも取得した。
【0067】
ビジュアルオドメトリ法で得られた移動軌跡データに、外界センサの初期位置座標(ax0,ay0,aθ0)を考慮したオフセット補正を適用し、事前に求めた補正係数dx=2.6721[mm],dy=-13.8073[mm],dθ=0.0652[rad]と式(2)を用いて補正後の移動軌跡データを得た。補正後の移動軌跡データは、外界センサのXY座標系で定義されたデータとなる。
【0068】
図12に、補正前の移動軌跡データを示す。比較対象として、外界センサで取得した移動軌跡データも示している。図12に示す補正前の移動軌跡データは、ビジュアルオドメトリ法で得られた移動軌跡データにオフセット補正を適用して外界センサで得られた移動軌跡データと初期位置を合わせた。図13に、補正係数を用いて補正した補正後の移動軌跡データを示す。
【0069】
図13に示すように、補正後の移動軌跡データと外界センサで得られた移動軌跡データとはよく一致していることがわかり、本実施形態の補正方法の有用性が確認できる。
【0070】
[軌跡例]
次に、補正係数の導出の際の移動ロボット1の軌跡例について説明する。
【0071】
補正係数は、内界センサで測定されるカメラ座標系の移動軌跡データと外界センサで測定される外界センサ座標系の移動軌跡データとを用いて導出される。同時刻に測定された内界センサデータと外界センサデータとのデータ数が多いほど、最小値探索の精度に影響する。移動軌跡データを取得するための移動軌跡として、直線系の移動軌跡と旋回系の移動軌跡がある。
【0072】
直線系の移動軌跡には、図14(a)に示すように、移動ロボット1の前方、後方、横方向、および斜め方向がある。移動ロボット1の向きを固定し、直線的に並進移動させることで、カメラ21の向きと移動ロボット1の向きとのズレを求めることができる。カメラ21の向きと移動ロボット1の向きがずれていると、例えば、移動ロボット1が外界センサのXY座標系の軸に沿って移動しても、カメラ21で得られる移動軌跡はPQ座標系の軸に沿ったものではなくなる。移動方向のズレを求めることで、カメラ21の向きと移動ロボット1の向きとのズレを求めることができる。
【0073】
旋回系の移動軌跡には、図14(b)に示すような円移動と、図14(c)に示すような四方移動がある。円移動は、半径Rの円周上を前方移動する移動である。半径が0のときはその場での回転となる。四方移動は、矩形領域の外周に沿った移動である。四方移動には、直線移動のみで構成されたものと、回転移動または旋回移動が組み合わされて構成されたものがある。移動ロボット1を回転移動または旋回移動させることで、カメラ21と基準点31の位置のズレを求めることができる。移動ロボット1が回転移動または旋回移動したとき、カメラ21と基準点31の移動軌跡は円形となる。円形の軌跡から回転移動または旋回移動の中心位置が特定できる。カメラ21と基準点31の円形の軌跡の中心位置は一致するので、中心位置と円形の軌跡の開始位置または終了位置との位置関係からカメラ21と基準点31の位置のズレを求めることができる。外界センサのXY座標系とカメラ21のPQ座標系の軸のズレは直線系の移動軌跡で求めたズレを用いて補正できる。
【0074】
直線系の移動軌跡と旋回系の移動軌跡とを取得することで、カメラ21と基準点31の位置のズレ量と向きのズレを求めることができる。図15に、直線系と旋回系の移動軌跡を複合した移動軌跡の一例を示す。直線系の移動軌跡と旋回系の移動軌跡とを別々の工程で取得してもよい。
【0075】
ただし、姿勢を維持したままの並進で移動し続けたり、または、1点を中心に回転・旋回運動したりすることは難しい。そこで、本実施形態では、カメラ21と基準点31との位置ズレ量dx,dyとXY座標系とPQ座標系の方位ズレdθとを用いてPQ座標系をXY座標系に変換する式(2)を構築し、カメラ21の移動軌跡データを式(2)で変換した移動軌跡データが基準点31の移動軌跡データに最適にフィットするズレ量D(dx,dy,dθ)を求める最適値問題に帰着させて、最適値を導出することにより、カメラ21と基準点31との相対的な位置関係を求めた。
【0076】
[任意の点への補正]
次に、移動軌跡データの任意の点への補正について説明する。移動ロボット1に測定機器を搭載して測定を行う場合、測定機器の位置(ターゲット位置)の移動軌跡データが取得できるとよい。補正係数を求めておくことで、VO部20によるビジュアルオドメトリ法で得られた移動軌跡データを基準点31の移動軌跡データに補正できる。基準点31とターゲット位置との相対的な位置関係が既知であれば、VO部20で得られた位置情報からターゲット位置の位置情報を得ることができる。基準点31とターゲット位置との相対的な位置関係は設計値等で把握できる。
【0077】
図16に示すように、移動ロボット1に2つのマーカ30A,30Bを設置した。VO部20で移動ロボット1の移動軌跡データを取得するとともに、外界センサで点31A,31Bの移動軌跡データを取得し、焼きなまし法により、点31A,31Bのそれぞれとカメラ21とのズレ量を導出した。ズレ量の導出に用いた移動軌跡データは、四方移動であり、各頂点で90度回転した軌跡である。点31Aから見たカメラ21のズレ量は、dx=2.6721[mm],dy=-13.8073[mm],dθ=0.0652[rad]であった。点31Bから見たカメラ21のズレ量は、dx=0.7058[mm],dy=541.5261[mm],dθ=0.0649[rad]であった。図17に、導出したズレ量に基づく点31A,31Bとカメラ21の位置関係を示す。導出結果について、組立誤差等が含まれることを考慮しても、設計値とほぼ同様の位置関係が得られていることを確認した。
【0078】
図18に、外界センサで取得した点31Aの軌跡と、内界センサ(VO部20)で取得した軌跡を補正係数で補正した軌跡を示す。図19に、外界センサで取得した点31Bの軌跡と、内界センサで取得した軌跡を補正係数で補正した軌跡を示す。点31Bの軌跡の補正に利用した補正係数は、点31Aについて求めた補正係数に点31Aと点31Bとの相対的な位置関係をオフセット補正したものである。例えば、図17の例では、点31Aから見たカメラ21のズレ量dx=2.6721[mm],dy=-13.8073[mm]に、点31Aから点31Bへの相対的な位置関係(1.96,-555.3)をオフセット補正したズレ量dx=0.7121[mm],dy=-541.4927[mm]を補正係数として用いる。点31A,31Bの位置が異なることで移動軌跡が大きく異なっている。図18図19のいずれも、内界センサの軌跡を補正して、外界センサで取得した軌跡と同様の軌跡が得られている。
【0079】
基準点31についての補正係数を求めておけば、VO部20で取得した移動軌跡データを補正することで、任意のターゲット位置の移動軌跡データを取得できることがわかる。
【0080】
以上説明したように、本実施形態の補正係数を求める方法は、VO部20がビジュアルオドメトリ法により取得した移動ロボット1の移動軌跡データと、外界センサが取得した移動ロボット1の基準点31の移動軌跡データとを取得し、ビジュアルオドメトリ法により取得した移動軌跡データと外界センサで取得した移動軌跡データとの間の距離の合計値を最小化する補正係数を求める。これにより、移動ロボット1を移動させて、VO部20と外界センサとで移動軌跡データを取得するだけで、カメラ21の取付位置と移動ロボット1に設定される基準点31のズレ量(補正係数)を求めることができる。また、VO部20の取付位置に要求される精度を低くできるので、安価にシステムを構成できる。VO部20が見えない位置に設置されていても、カメラ21の取付位置を把握できる。
【0081】
また、移動ロボット1上の任意の点について基準点31からの相対位置がわかれば、その相対位置で補正係数を補正することで、任意の点の移動軌跡を得ることができる。その結果、位置の異なる複数のセンサの移動軌跡をまとめて取得することが可能となる。
【0082】
上記説明した本実施形態の各処理を実施する装置には、例えば、図20に示すような、中央演算処理装置(CPU)901と、メモリ902と、ストレージ903と、通信装置904と、入力装置905と、出力装置906とを備える汎用的なコンピュータシステムを用いることができる。このコンピュータシステムにおいて、CPU901がメモリ902上にロードされた所定のプログラムを実行することにより、この装置が実現される。このプログラムは磁気ディスク、光ディスク、半導体メモリなどの、コンピュータが読み取り可能な非一時的な記録媒体に記録することも、ネットワークを介して配信することもできる。
【符号の説明】
【0083】
1 移動ロボット
11 筐体
12 車輪
20 VO部
21 カメラ
30 マーカ
31 基準点
図1
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