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特開2024-166853エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物、溶融成形材料、および溶融成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166853
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物、溶融成形材料、および溶融成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 29/04 20060101AFI20241122BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
C08L29/04 S
C08K3/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083236
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】中井 喜裕
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BB221
4J002BE031
4J002DE076
4J002DE146
4J002FB016
4J002FD016
4J002FD206
4J002GB00
4J002GG02
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】溶融成形加工性に優れ、高湿度下でのガスバリア性に優れるEVOH樹脂組成物の提供を目的とする。
【解決手段】エチレン構造単位の含有量が20~60モル%のエチレン-ビニルアルコール系共重合体(A)とハイドロタルサイト熱分解物(B)とを含有する、エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン構造単位の含有量が20~60モル%のエチレン-ビニルアルコール系共重合体(A)とハイドロタルサイト熱分解物(B)とを含有する、エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物。
【請求項2】
前記ハイドロタルサイト熱分解物(B)の含有量が、前記エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物に対して0.7~12質量%である、請求項1記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物を含有する、溶融成形材料。
【請求項4】
20℃90%RHの環境下に2週間静置した前記溶融成形材料を、CuKα線を用いて広角X線回折で測定した時に2θ=9~13°にハイドロタルサイト由来のピークを有する、請求項3記載の溶融成形材料。
【請求項5】
請求項3記載の溶融成形材料からなる、溶融成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン-ビニルアルコール系共重合体(以下、「EVOH樹脂」と称することがある)組成物、溶融成形材料、および溶融成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン-ビニルアルコール系共重合体(以下、「EVOH樹脂」と称することがある)は、透明性、酸素等のガスバリア性、保香性、耐溶剤性、耐油性、機械強度等に優れており、フィルム、シート、ボトル等に成形され、食品包装材料、医薬品包装材料、工業薬品包装材料、農薬包装材料等の各種包装材料として広く用いられている。
【0003】
しかし、EVOH樹脂は、分子内に比較的活性な水酸基を有するため、高湿度下におけるガスバリア性が劣化しやすい傾向があり、溶融成形時の加熱による分解温度を上げるなど熱安定性の点で改善が求められている。
【0004】
上記の課題に対し、例えば、特許文献1では、ガスバリア性、耐薬品性および柔軟性の向上を目的として、EVOH樹脂およびポリオレフィンにハロゲン捕捉剤としてハイドロタルサイトを含有した樹脂組成物が開示されている。
【0005】
また、特許文献2では、分子内に2個以上の水酸基を有する化合物と多価カルボン酸の一部が架橋されている組成物に対して、耐熱水性を向上させる目的でハイドロタルサイト類化合物の水分散液を用いて塗工処理または浸漬処理してなるガスバリア性組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-88666号公報
【特許文献2】特開2005-146267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1では、ハイドロタルサイトはEVOH樹脂およびポリオレフィンの比較的高温の加工温度により層間水の脱水による発泡が生じることから、溶融成形加工性に問題がある。
また、特許文献2では、水分散液を用いた塗工処理または浸漬処理が開示されているが、ハイドロタルサイト熱分解物は水分散液にした時点でハイドロタルサイトに戻ることが知られている上、水分散液を用いてフィルムを形成しており生産性に劣る。
【0008】
そこで、本発明ではこのような背景の下において、溶融成形加工性に優れ、高湿度下でのガスバリア性に優れるEVOH樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
しかるに、本発明者はかかる事情に鑑み、EVOH樹脂(A)にハイドロタルサイト熱分解物(B)を含有させることで、溶融成形時の製膜性が良好であり、高湿度下でのガスバリア性を改善できることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の態様を有する。
[1]
エチレン構造単位の含有量が20~60モル%のエチレン-ビニルアルコール系共重合体(A)とハイドロタルサイト熱分解物(B)とを含有する、エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物。
[2]
前記ハイドロタルサイト熱分解物(B)の含有量が、前記エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物に対して0.7~12質量%である、[1]記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物。
[3]
[1]または[2]記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物を含有する、溶融成形材料。
[4]
20℃90%RHの環境下に2週間静置した前記溶融成形材料を、CuKα線を用いて広角X線回折で測定した時に2θ=9~13°にハイドロタルサイト由来のピークを有する、[3]記載の溶融成形材料。
[5]
[3]記載の溶融成形材料からなる、溶融成形品。
【発明の効果】
【0011】
本発明のEVOH樹脂組成物は、溶融成形加工性に優れ、高湿度下でのガスバリア性に優れる。
【0012】
また、本発明の樹脂組成物からなる溶融成形材料は、溶融混練時や溶融成形時等の加熱時におけるハイドロタルサイト層間水の脱水による発泡が生じず成形加工性に優れることから、例えば、食品、薬品、農薬等の包装材料、特に、液体包装用材料等の、溶融成形を経由して得られる各種の成形物の成形材料として、好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されない。
なお、本発明において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」または「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)または「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」または「Y未満であることが好ましい」旨の意も包含する。
なお、本発明において、「xおよび/またはy(x,yは任意の構成または成分)」とは、xのみ、yのみ、xおよびy、という3通りの組合せを意味するものである。
【0014】
<EVOH樹脂組成物>
本発明の一実施態様に係るEVOH樹脂組成物(以下、「本EVOH樹脂組成物」と称する)は、EVOH樹脂(A)と、特定のハイドロタルサイト熱分解物(B)とを含有するものである。
以下、各成分について説明する。
【0015】
[EVOH樹脂(A)]
本発明で用いるEVOH樹脂(A)は、通常、エチレンとビニルエステル系モノマーとの共重合体であるエチレン-ビニルエステル系共重合体をケン化させることにより得られる樹脂であり、非水溶性の熱可塑性樹脂である。
【0016】
前記ビニルエステル系モノマーとしては、市場入手性や製造時の不純物処理効率がよい点から、代表的には酢酸ビニルが用いられる。酢酸ビニル以外の他のビニルエステル系モノマーとしては、例えばギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル、安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等が挙げられるが、通常炭素数3~20、好ましくは炭素数4~10、特に好ましくは炭素数4~7の脂肪族ビニルエステルが用いられる。これらは通常単独で用いるが、必要に応じて複数種を同時に用いてもよい。
【0017】
前記エチレンとビニルエステル系モノマーとを共重合させる重合法としては、公知の任意の重合法、例えば溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合等を用いて行うことができるが、一般的にはメタノールを溶媒とする溶液重合が用いられる。また、得られたエチレン-ビニルエステル系共重合体のケン化も公知の方法で行い得る。
このようにして製造されるEVOH樹脂(A)は、エチレン由来の構造単位とビニルアルコール構造単位を主とし、ケン化されずに残存する若干量のビニルエステル構造単位を含むものである。
【0018】
前記EVOH樹脂(A)におけるエチレン構造単位の含有量は20~60モル%であり、好ましくは25~50モル%、特に好ましくは25~35モル%である。前記エチレン構造単位の含有量は、ビニルエステル系モノマーとエチレンとを共重合させる際のエチレンの圧力によって制御することができ、かかる含有量が低すぎる場合は、高湿下のガスバリア性、溶融成形性が低下する傾向があり、逆に高すぎる場合は、ガスバリア性が低下する傾向がある。
なお、かかるエチレン構造単位の含有量は、ISO14663に基づいて測定することができる。
【0019】
前記EVOH樹脂(A)におけるケン化度は、通常90~100モル%、好ましくは95~100モル%、特に好ましくは99~100モル%である。前記ケン化度は、エチレン-ビニルエステル系共重合体をケン化する際のケン化触媒(通常、水酸化ナトリウム等のアルカリ性触媒が用いられる)の量、温度、時間等によって制御でき、かかるケン化度が低すぎる場合にはガスバリア性、熱安定性、耐湿性等が低下する傾向がある。
かかるEVOH樹脂(A)のケン化度は、JIS K6726(但し、EVOH樹脂は水/メタノール溶媒に均一に溶解した溶液として用いる)に基づいて測定することができる。
【0020】
前記EVOH樹脂(A)におけるメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2160g)は、通常0.5~100g/10分であり、好ましくは1~50g/10分、特に好ましくは3~35g/10分である。かかるMFRが大きすぎる場合には、製膜時の安定性が損なわれる傾向があり、小さすぎる場合には粘度が高くなり過ぎて溶融押出しが困難となる傾向がある。
前記MFRは、EVOH樹脂(A)の重合度の指標となるものであり、エチレンとビニルエステル系モノマーを共重合する際の重合開始剤の量や、溶媒の量によって調整することができる。
【0021】
前記EVOH樹脂(A)における融点は、通常240℃以下であり、好ましくは170~230℃、特に好ましくは180~220℃である。前記融点が高すぎると成形時EVOH樹脂が分解しやすくなる傾向があり、低すぎると押出成形性が不安定となる傾向がある。
かかるEVOH樹脂(A)の融点は、例えば、示差走査熱量分析計を用い、JIS K7121において、一定の熱処理を行った後融解温度を測定する方法に準じて求めた融解ピーク温度を融点として測定することができる。
【0022】
また、前記EVOH樹脂(A)には、本発明の効果を阻害しない範囲で、以下に示すコモノマーに由来する構造単位が、さらに含まれていてもよい(例えばEVOH樹脂(A)の10モル%以下)。
前記コモノマーとしては、例えばプロピレン、1-ブテン、イソブテン等のオレフィン類、3-ブテン-1-オール、3-ブテン-1,2-ジオール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1,2-ジオール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類やそのエステル化物、アシル化物等の誘導体;2-メチレンプロパン-1,3-ジオール、3-メチレンペンタン-1,5-ジオール等のヒドロキシアルキルビニリデン類;1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジプロピオニルオキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジブチリルオキシ-2-メチレンプロパン等のヒドロキシアルキルビニリデンジアセテート類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはアルキル基の炭素数が1~18のモノまたはジアルキルエステル類;アクリルアミド、アルキル基の炭素数が1~18のN-アルキルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、2-アクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のアクリルアミド類;メタアクリルアミド、アルキル基の炭素数が1~18のN-アルキルメタクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、2-メタクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のメタクリルアミド類;N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド等のN-ビニルアミド類;アクリルニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類;アルキル基の炭素数が1~18のアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル化合物類;トリメトキシビニルシラン等のビニルシラン類;酢酸アリル、塩化アリル等のハロゲン化アリル化合物類;アリルアルコール、ジメトキシアリルアルコール等のアリルアルコール類;トリメチル-(3-アクリルアミド-3-ジメチルプロピル)-アンモニウムクロリド、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等のコモノマーが挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0023】
なかでも、ヒドロキシ基含有α-オレフィン類が好ましく、特には3-ブテン-1,2-ジオール、5-ヘキセン-1,2-ジオールが好ましい。前記ヒドロキシ基含有α-オレフィン類を共重合した場合、得られるEVOH樹脂は、側鎖に1級水酸基を有することとなる。このような側鎖に1級水酸基を有するEVOH樹脂、特には側鎖に1,2-ジオール構造を有するEVOH樹脂は、ガスバリア性を保持しつつ二次成形性が良好になる点で好ましい。
【0024】
本発明で用いるEVOH樹脂(A)が、側鎖に1級水酸基を有する場合、当該1級水酸基を有するモノマー由来の構造単位の含有量は、EVOH樹脂(A)の通常0.1~20モル%、好ましくは0.5~15モル%、特に好ましくは1~10モル%である。
【0025】
また、前記EVOH樹脂(A)としては、エステル化、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等の「後変性」されたEVOH樹脂を用いることもできる。
【0026】
前記後変性されたEVOH樹脂を用いる場合、その変性率は、通常10モル%以下であり、好ましくは4モル%以下である。用いるEVOH樹脂の変性率が高すぎる場合、熱劣化しやすくなり、ロングラン性が低下する傾向がある。
【0027】
さらに、前記EVOH樹脂(A)は、エチレン構造単位の含有量、ケン化度、重合度、共重合成分等が異なるEVOH樹脂の混合物であってもよい。
【0028】
[ハイドロタルサイト熱分解物(B)]
ハイドロタルサイト熱分解物(B)とは、Mg1-xAlx1+x/2で表され、ハイドロタルサイトを焼成(例えば、500~700℃で1~3時間)して得られるものである。
【0029】
かかるハイドロタルサイトは、次の一般式(1)で示される化合物であり、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
[式]〔M2+ 1-x3+ x(OH)2x+〔An- x/n・mH2O〕x・・・(1)
【0030】
上記式(1)において、
2+:Mg2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+等の2価金属。
3+:Al3+、Fe3+、Cr3+、Co3+、In3+等の3価金属。
n-:OH-、F-、Cl-、Br-、NO3 -、CO3 2-、SO4 2-、Fe(CN)6 3-、CH3COO-、シュウ酸イオン、サリチル酸イオン等のn価のアニオン。
xは、0<x≦0.33の範囲にある。
【0031】
上記式(1)で表される具体的なハイドロタルサイトとしては、
Mg4Al2(OH)12CO3・3H2O(x=0.33)、
Mg4.5Al2(OH)13CO3・3.5H2O(x=0.3)、
Mg6Al2(OH)16CO3・4H2O(x=0.25)、等が挙げられる。
【0032】
ハイドロタルサイト熱分解物(B)は、具体的には、CuKα線を用いて広角X線回折(XRD)で測定した時に43°付近(例えば40~46°)、64°付近(例えば60~67°)にハイドロタルサイト熱分解物(B)由来のピークがみられるものである。
ハイドロタルサイト熱分解物(B)の広角X線回折は、後記に記載の測定条件で測定することができる。
【0033】
ハイドロタルサイト熱分解物(B)の含有量は、本EVOH樹脂組成物に対して0.7~12質量%が好ましく、より好ましくは0.9~11.5質量%、さらに好ましくは1.2~11質量%、特に好ましくは2~10.5質量%、殊に好ましくは2.5~10質量%である。少なすぎると高湿度下でのガスバリア性改善効果に劣る傾向があり、多すぎるとEVOH樹脂が分解してしまう傾向がある。
【0034】
[その他の熱可塑性樹脂]
本EVOH樹脂組成物には、EVOH樹脂(A)およびハイドロタルサイト熱分解物(B)以外に、さらに樹脂成分として、他の熱可塑性樹脂を、本発明の効果を阻害しない範囲(例えば本EVOH樹脂組成物の通常30質量%以下、好ましくは20質量%以下、特に好ましくは10質量%以下)にて含有することができる。
【0035】
他の熱可塑性樹脂としては、公知の熱可塑性樹脂を用いることができ、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリ塩化ビニリデン、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0036】
[その他の配合剤]
また、本EVOH樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲において、一般にEVOH樹脂に配合する配合剤が含有されていてもよい。前記配合剤としては、例えば、可塑剤(例えばエチレングリコール、グリセリン、ヘキサンジオール等の脂肪族多価アルコール等)、酸素吸収剤[例えばアルミニウム粉、亜硫酸カリウム等の無機系酸素吸収剤;アスコルビン酸、さらにその脂肪酸エステルや金属塩等、没食子酸、水酸基含有フェノールアルデヒド樹脂等の多価フェノール類、テルペン化合物、三級水素含有樹脂と遷移金属とのブレンド物(例えば、ポリプロピレンとコバルトの組合せ)、炭素-炭素不飽和結合含有樹脂と遷移金属とのブレンド物(例えばポリブタジエンとコバルトの組合せ)、光酸化崩壊性樹脂(例えばポリケトン)、アントラキノン重合体(例えばポリビニルアントラキノン)等や、さらにこれらの配合物に光開始剤(ベンゾフェノン等)や、前記以外の酸化防止剤や消臭剤(活性炭等)を添加したもの等の高分子系酸素吸収剤]、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、帯電防止剤、界面活性剤(但し、滑剤として用いるものを除く)、抗菌剤、アンチブロッキング剤、充填材(例えば無機フィラー等)等を配合してもよい。これらの化合物は、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0037】
[EVOH樹脂組成物の製造方法]
本EVOH樹脂組成物は、前記必須成分であるEVOH樹脂(A)とハイドロタルサイト熱分解物(B)と、必要に応じて前記の各任意成分を用いて製造されるが、製造方法としては、例えば、ドライブレンド法、溶融混合法、マスターバッチ法等の公知の方法が挙げられる。これらのなかでも、前記EVOH樹脂(A)とハイドロタルサイト熱分解物(B)とを含有する組成物原料を溶融混合する工程を備えることにより製造することが好ましい。また、これらの製造方法は、任意に組み合わせることも可能である。
【0038】
前記ドライブレンド法としては、例えば、(I)EVOH樹脂(A)を含有するペレットとハイドロタルサイト熱分解物(B)とをタンブラー等を用いてドライブレンドする方法等が挙げられる。
【0039】
前記溶融混合法としては、例えば、(II)EVOH樹脂(A)を含有するペレットとハイドロタルサイト熱分解物(B)とのドライブレンド物を溶融混練して、ペレットや他の成形物を得る方法や、(III)溶融状態のEVOH樹脂(A)に粉末微量フィーダー等を用いてハイドロタルサイト熱分解物(B)を添加して溶融混練し、ペレットや他の成形物を得る方法等が挙げられる。
【0040】
また、前記の各方法においては、あらかじめEVOH樹脂(A)とハイドロタルサイト熱分解物(B)とを所定割合で配合し、ハイドロタルサイト熱分解物(B)の濃度の高い組成物(マスターバッチ)を作製し、かかる組成物(マスターバッチ)をEVOH樹脂(A)に配合することにより、所望の濃度の樹脂組成物を得ることも可能である。
【0041】
なお、ハイドロタルサイト熱分解物(B)は水および/またはアニオン・酸と反応して元のハイドロタルサイトに戻りやすいことから、ハイドロタルサイト熱分解物(B)の水分散液を用いての配合は除くことが好ましい。
【0042】
さらに本発明においては、前記の異なる手法を組み合わせることが可能である。なかでも、生産性や本発明の効果がより顕著な樹脂組成物が得られる点で、溶融混合法が好ましく、特には(III)の方法が好ましい。
【0043】
なお、前記各方法によって得られる樹脂組成物のペレットや、前記各方法で用いられるEVOH樹脂(A)およびハイドロタルサイト熱分解物(B)を含有するペレットの形状は任意であり、例えば、球形、オーバル形、円柱形、立方体形、直方体形など任意の形状が採用可能である。ペレットの形状は、通常、オーバル形または円柱形であり、その大きさは、後に成形材料として用いる場合の利便性の観点から、円柱形の場合は底面の直径が通常1~6mm、好ましくは2~5mmであり、長さは通常1~6mm、好ましくは2~5mmである。オーバル形の場合は長径が通常1.5~30mm、好ましくは3~20mm、より好ましくは3.5~10mmである。短径は通常1~10mm、好ましくは2~6mmであり、より好ましくは2.5~5.5mmである。かかる長径および短径を測定する方法は、例えばペレットを手に取り観察し、ノギス等の計測器を用いて長径を測定した後に、かかる長径に垂直な断面のうち最大面積となる断面位置を目視および触覚で認定し、かかる断面を想定した場合の短径を同様に測定する方法が挙げられる。
【0044】
なお、本EVOH樹脂組成物の形状がペレットである場合、溶融成形時のフィード性を安定させる点で、ペレットの表面に公知の滑剤を付着させることが好ましい。滑剤の種類としては、例えば、炭素数12以上の高級脂肪酸(例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸等)、高級脂肪酸エステル(高級脂肪酸のメチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、オクチルエステル等)、高級脂肪酸アミド(例えば、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミド等の飽和高級脂肪酸アミド;オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等の不飽和高級脂肪酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド等のビス高級脂肪酸アミド等)、低分子量ポリオレフィン(例えば分子量500~10000程度の低分子量ポリエチレン、または低分子量ポリプロピレン等、またはその酸変性品)、炭素数6以上の高級アルコール、エステルオリゴマー、フッ化エチレン樹脂等が挙げられる。これらの化合物は、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。また、かかる滑剤の含有量は、本EVOH樹脂組成物の通常5質量%以下、好ましくは1質量%以下である。なお、下限は通常0質量%である。
【0045】
このようにして得られる本EVOH樹脂組成物は、高湿度下でのガスバリア性が改善するものであり、ハイドロタルサイト熱分解物(B)を含有しない系を1(基準)とした場合、1%以上改善することが好ましく、より好ましくは1.5%以上、さらに好ましくは5%以上、特に好ましくは10%以上である。上限値は通常12%である。
ガスバリア性改善率は、例えば後記実施例に記載の方法を用いることができる。
【0046】
本EVOH樹脂組成物は、ペレットの他、粉末状や液体状といった、さまざまな形態に調製され、各種の成形物の成形材料として提供される。特に本発明においては、溶融成形材料として提供される場合、本発明の効果がより効率的に得られる傾向があり好ましい。
なお、本EVOH樹脂組成物には、本EVOH樹脂組成物に用いられるEVOH樹脂(A)およびハイドロタルサイト熱分解物(B)以外の樹脂を混合して得られる樹脂組成物も含まれる。
【0047】
前記成形物としては、例えば本EVOH樹脂組成物から成形された溶融成形品や単層フィルムをはじめとして、本EVOH樹脂組成物からなる層を有する多層構造体等が挙げられる。
【0048】
本発明の一実施形態に係る溶融成形材料は、本EVOH樹脂組成物を含有するものであり、かかる前記溶融成形材料および溶融成形材料からなる溶融成形品は、高湿度下におけるガスバリア性、特に酸素バリア性に優れる。かかる溶融成形材料および溶融成形品は、20℃90%RHの環境下に2週間静置し、CuKα線を用いて広角X線回折で測定した時に2θ=9~13°にハイドロタルサイト由来のピークを有することが好ましい。
【0049】
本発明においては、EVOH樹脂(A)とハイドロタルサイト熱分解物(B)とを含む溶融成形材料および溶融成形品(例えばフィルム)を調湿することで、ハイドロタルサイト熱分解物(B)がEVOH樹脂(A)中で変化しハイドロタルサイトが形成される。さらにエージングすることで、EVOH樹脂(A)とハイドロタルサイトとの相互作用が形成される。EVOH樹脂(A)とハイドロタルサイトとの相互作用と、ハイドロタルサイトが本来有する酸素の迷路効果により、高湿度下でのガスバリア性(特に酸素バリア性)が改善されるものと推測される。
【0050】
なお、上記広角X線回折は、下記の条件で測定されるものである。
[測定条件]
・使用機器:D8 DISCOVER(ブルカージャパン社製)
・デテクター:二次元検出器 VANTEC-500(ブルカージャパン社製)
・電圧:50kV
・電流:100mA
・カメラ長:100mm
・測定方法:反射法
・積算時間: 20分間
・波長:CuKα線(Kα1、Kα2は分離せず)
・デテクター位置:2θ=0、35、60°
・X線入射角:θ=0.3°
・2θ方向一次元化の条件:2θ=0~59°または0~84°、方位角(chi)=-110~-70°
【0051】
上記広角X線回折に用いる試料としては、後述するフィルム状態としたEVOH樹脂組成物をそのまま用いればよい。また、上記EVOH樹脂組成物のフィルムが他の基材と積層されている場合であって、EVOH樹脂組成物層を剥離できる場合は、EVOH樹脂組成物層を剥離して測定を行い、剥離できない場合は、他の基材と積層された状態のまま測定を行えばよい。なお、測定時において、剥離したEVOH樹脂組成物層(フィルム)の厚みは、30μm以上であることが好ましく、フィルムの厚みが足りない場合は、フィルムを積層してもよい。
【0052】
[多層構造体]
本発明の一実施形態に係る多層構造体(以下、「本多層構造体」と称する)は、本EVOH樹脂組成物からなる層を備えるものである。本EVOH樹脂組成物からなる層(以下、単に「本EVOH樹脂組成物層」と称する)は、本EVOH樹脂組成物以外の熱可塑性樹脂を主成分とする他の基材(以下、基材に用いられる樹脂を「基材樹脂」と略記することがある)と積層することで、さらに強度を付与したり、本EVOH樹脂組成物層を水分等の影響から保護したり、他の機能を付与することができる。
【0053】
前記基材樹脂としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、エチレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリプロピレン系樹脂、ポリブテン、ポリペンテン、ポリ環状オレフィン系樹脂(環状オレフィン構造を主鎖および側鎖の少なくとも一方を有する重合体)等の(未変性)ポリオレフィン系樹脂や、これらのポリオレフィン類を不飽和カルボン酸またはそのエステルでグラフト変性した不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等の変性オレフィン系樹脂を含む広義のポリオレフィン系樹脂、アイオノマー、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂(共重合ポリアミドも含む)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等のハロゲン化ポリオレフィン、芳香族または脂肪族ポリケトン類等が挙げられる。これらは、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0054】
これらのうち、疎水性樹脂である、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂が好ましく、より好ましくは、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ環状オレフィン系樹脂およびこれらの不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂であり、特にポリ環状オレフィン系樹脂は、疎水性樹脂として好ましく用いられる。
【0055】
本多層構造体の層構成は、本EVOH樹脂組成物層をa(a1、a2、・・・)、基材樹脂層をb(b1、b2、・・・)とするとき、a/b、b/a/b、a/b/a、a1/a2/b、a/b1/b2、b2/b1/a/b1/b2、b2/b1/a/b1/a/b1/b2等、任意の組み合わせが可能である。また、該多層構造体を製造する過程で発生する端部や不良品等を再溶融成形して得られる、本EVOH樹脂組成物と本EVOH樹脂組成物以外の熱可塑性樹脂との混合物を含むリサイクル層をRとするとき、b/R/a、b/R/a/b、b/R/a/R/b、b/a/R/a/b、b/R/a/R/a/R/b等とすることも可能である。本多層構造体の層の数はのべ数にて通常2~15、好ましくは3~10である。前記の層構成において、それぞれの層間には、必要に応じて接着性樹脂を含有する接着性樹脂層を介在させてもよい。
【0056】
前記接着性樹脂としては、公知のものを使用でき、基材樹脂層「b」に用いる熱可塑性樹脂の種類に応じて適宜選択すればよい。代表的には不飽和カルボン酸またはその無水物をポリオレフィン系樹脂に付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシ基を含有する変性ポリオレフィン系重合体を挙げることができる。前記カルボキシ基を含有する変性ポリオレフィン系重合体としては、例えば、無水マレイン酸グラフト変性ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレン、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-エチルアクリレート共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-酢酸ビニル共重合体、無水マレイン酸変性ポリ環状オレフィン系樹脂、無水マレイン酸グラフト変性ポリオレフィン系樹脂等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。
【0057】
本多層構造体において、本EVOH樹脂組成物層と基材樹脂層との間に、接着性樹脂層を用いる場合、接着性樹脂層が本EVOH樹脂組成物層の両側に位置することから、疎水性に優れた接着性樹脂を用いることが好ましい。
【0058】
前記基材樹脂、接着性樹脂には、本発明の趣旨を阻害しない範囲(例えば樹脂全体に対して、30質量%以下、好ましくは10質量%以下)において、従来知られているような可塑剤、フィラー、クレー(モンモリロナイト等)、着色剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、核材、ブロッキング防止剤、ワックス等を含んでいてもよい。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0059】
前記本EVOH樹脂組成物層と前記基材樹脂層との積層(接着性樹脂層を介在させる場合を含む)は、公知の方法にて行うことができる。例えば、本EVOH樹脂組成物のフィルム、シート等に基材樹脂を溶融押出ラミネートする方法、基材樹脂層に本EVOH樹脂組成物を溶融押出ラミネートする方法、本EVOH樹脂組成物と基材樹脂とを共押出する方法、本EVOH樹脂組成物(層)と基材樹脂(層)とを有機チタン化合物、イソシアネート化合物、ポリエステル系化合物、ポリウレタン化合物等の公知の接着剤を用いてドライラミネートする方法、基材樹脂上に本EVOH樹脂組成物の溶液を塗工してから溶媒を除去する方法等が挙げられる。これらのなかでも、コストや環境の観点から考慮して、本EVOH樹脂組成物層を溶融成形する工程を備えることにより製造することができる。具体的には共押出する方法が好ましい。
【0060】
本多層構造体は、必要に応じて(加熱)延伸処理を施してもよい。延伸処理は、一軸延伸、二軸延伸のいずれであってもよく、二軸延伸の場合は同時延伸であっても逐次延伸であってもよい。また、延伸方法としてはロール延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法、延伸ブロー法、真空圧空成形等のうち延伸倍率の高いものも採用できる。延伸温度は、多層構造体の融点近傍の温度で、通常40~170℃、好ましくは60~160℃程度の範囲から選ばれる。延伸温度が低すぎる場合は延伸性が不良となり、高すぎる場合は安定した延伸状態を維持することが困難となる。
【0061】
また、延伸処理後の本多層構造体は、寸法安定性を付与することを目的として、熱固定を行ってもよい。熱固定は周知の手段で実施可能であり、例えば前記延伸処理された本多層構造体を、緊張状態を保ちながら通常80~180℃、好ましくは100~165℃で通常2~600秒間程度熱処理を行う。
【0062】
前記延伸処理された本多層構造体をシュリンク用フィルムとして用いる場合には、熱収縮性を付与するために、前記の熱固定を行わず、例えば延伸処理後の本多層構造体に冷風を当てて冷却固定する等の処理を行えばよい。
【0063】
本多層構造体(延伸したものを含む)の厚み、さらには多層構造体を構成する本EVOH樹脂組成物層、基材樹脂層および接着性樹脂層の厚みは、層構成、基材樹脂の種類、接着性樹脂の種類、用途や包装形態、要求される物性等により一概にいえないが、本多層構造体(延伸したものを含む)の厚みは、通常10~5000μm、好ましくは30~3000μm、特に好ましくは50~2000μmである。本EVOH樹脂組成物層は通常1~500μm、好ましくは3~300μm、特に好ましくは5~200μmであり、基材樹脂層は通常5~3000μm、好ましくは10~2000μm、特に好ましくは20~1000μmであり、接着性樹脂層は、通常0.5~250μm、好ましくは1~150μm、特に好ましくは3~100μmである。
【0064】
さらに、本多層構造体における本EVOH樹脂組成物層の基材樹脂層に対する厚みの比(本EVOH樹脂組成物層/基材樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常1/99~50/50、好ましくは5/95~45/55、特に好ましくは10/90~40/60である。また、本多層構造体における本EVOH樹脂組成物層の接着性樹脂層に対する厚み比(本EVOH樹脂組成物層/接着性樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常10/90~99/1、好ましくは20/80~95/5、特に好ましくは50/50~90/10である。
【0065】
また、本多層構造体を用いてカップやトレイ状の多層容器を得ることも可能である。その場合は、通常絞り成形法が採用され、具体的には真空成形法、圧空成形法、真空圧空成形法、プラグアシスト式真空圧空成形法等が挙げられる。さらに多層パリソン(ブロー前の中空管状の予備成形物)からチューブやボトル状の多層容器(積層体構造)を得る場合はブロー成形法が採用される。具体的には、押出ブロー成形法(双頭式、金型移動式、パリソンシフト式、ロータリー式、アキュムレーター式、水平パリソン式等)、コールドパリソン式ブロー成形法、射出ブロー成形法、二軸延伸ブロー成形法(押出式コールドパリソン二軸延伸ブロー成形法、射出式コールドパリソン二軸延伸ブロー成形法、射出成形インライン式二軸延伸ブロー成形法等)等が挙げられる。得られる積層体は必要に応じ、熱処理、冷却処理、圧延処理、印刷処理、ドライラミネート処理、溶液または溶融コート処理、製袋加工、深絞り加工、箱加工、チューブ加工、スプリット加工等を行うことができる。
【0066】
そして、本多層構造体を用いて得られたフィルム、シート、延伸フィルムからなる袋およびカップ、トレイ、チューブ、ボトル等からなる容器や蓋材は、一般的な食品、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品等の各種の包装材料容器として有用である。特に、本EVOH樹脂組成物からなる層は、柔軟性を有し着色が抑制されていることから、本EVOH樹脂組成物および本多層構造体は、水、食品、医薬品、農薬等の液体包装用材料(例えばバッグインボックス用バッグやパウチインディスペンサー用インナーバッグ等)として、とりわけ有用である。
【実施例0067】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0068】
実施例に先立って、以下の成分を準備した。
【0069】
[EVOH]
・EVOH(A1):エチレン含有量25モル%、融点195℃、ケン化度99.7モル%、MFR4.0[g/10分](210℃、荷重2160g)
・EVOH(A2):エチレン含有量9モル%、融点213℃、ケン化度98.0モル%、MFR130[g/10分](210℃、荷重2160g)
【0070】
[ハイドロタルサイト熱分解物]
・ハイドロタルサイト熱分解物(B1):Mg6Al2(OH)16CO3・4H2Oをマッフル炉にて500℃2時間加熱して熱分解物であるMg6Al29を作製。
(なお、XRD測定において、加熱によりハイドロタルサイトの層間に由来する2θ=11°付近のピークが消失し、2θ=43°、63°付近のハイドロタルサイト熱分解物由来のピークが見られたことから、ハイドロタルサイト熱分解物の生成を確認した。)
【0071】
<実施例1>
エチレン含有量25モル%のEVOH(A1)とハイドロタルサイト熱分解物(B1)とを、(B1)が樹脂組成物全体に対して1質量%となるようドライブレンドし、混合物を得た。そして、前記混合物を、二穴ダイを備えた二軸押出機(20mmφ)に供給し、下記の押出条件で押出、吐出されるストランドに空気を吹き付けることでストランドを固化させ、切断することでEVOH樹脂組成物のペレットを得た。
【0072】
[押出条件]
・押出機設定温度(℃):C1/C2/C3/C4/C5/C6
=150/200/210/210/210/210
・スクリュー回転数:200rpm
【0073】
<実施例2~4>
実施例1において、ハイドロタルサイト熱分解物(B1)の含有量を表1に記載の通りに変更したこと、ハイドロタルサイト熱分解物(B1)を粉末微量フィーダーで添加したこと以外は、実施例1と同様にしてEVOH樹脂組成物のペレットを得た。
【0074】
<比較例1>
実施例1において、ハイドロタルサイト熱分解物(B1)を用いなかった以外は、実施例1と同様にしてEVOH樹脂組成物のペレットを得た。
【0075】
<比較例2>
実施例1において、EVOH(A1)の代わりにEVOH(A2)を用いた以外は、実施例1と同様にしてEVOH樹脂組成物のペレットを得た。
【0076】
〔溶融押出単層フィルムの作製〕
得られた実施例1~4および比較例1~2のEVOH樹脂組成物のペレットから以下の条件で押出することにより、溶融押出単層フィルムを得た。これを20℃、90%RHの環境下に2週間静置した後、ガスバリア材として用いた。
各溶融押出フィルムの製膜性およびガスバリア性改善率を下記の測定方法により求め、その結果を表1に示す。
(フィルム作製条件)
・押出機:ブラベンダー社製 プラストグラフEC-plus
・スクリュー:単軸、20mmΦ、フルフライト
・シリンダー部設定温度:190~210℃
・冷却ロール設定温度:80℃
・フィルムの厚み:20μm
【0077】
[製膜性]
ガスバリア材の外観を目視で判定し、下記に基準にて評価した。
〇・・・発泡痕や穴あき等がないもの
×・・・発泡痕や穴あき等があるもの
【0078】
[ガスバリア性改善率]
得られた各ガスバリア材(溶融押出単層フィルム)について、20℃、90%RHにおける酸素透過度を、酸素透過度測定装置(MOCON社製「OXTRAN2/21」)を用いて測定し、この測定した値を厚み20μmの値に換算し、ガスバリア性を示す値とした。かかる換算した酸素透過度を下記の式にあてはめることにより、ガスバリア性改善率(%)を算出した。
[式] ガスバリア性改善率(%)=(1-[測定サンプル(実施例1~4)の酸素透過度]/[ハイドロタルサイト熱分解物(B)を含有しない系(比較例1)の酸素透過度])×100
【0079】
【表1】
【0080】
前記表1から、特定量のハイドロタルサイト熱分解物(B)を含有する実施例1~4のEVOH樹脂組成物は、製膜性(溶融成形加工性)に優れるものであり、ハイドロタルサイト熱分解物(B)を含有しない比較例1のEVOH樹脂組成物に比べて、高湿度下でのガスバリア性改善率が高いものであった。
また、EVOHのエチレン構造単位の含有量が本発明規定よりも少ない比較例2のEVOH樹脂組成物は、MFRが大きすぎるため、製膜できないものであった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本EVOH樹脂組成物は、溶融成形時の熱劣化が抑制されることから、各種食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品等の各種包装材料として有用である。