(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166899
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】シャフト一体型ボンド磁石およびシャフト一体型ボンド磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 1/2726 20220101AFI20241122BHJP
H02K 15/03 20060101ALI20241122BHJP
H01F 7/02 20060101ALI20241122BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
H02K1/2726
H02K15/03 C
H01F7/02 J
H01F7/02 Z
H01F41/02 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083315
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】小野 累信
(72)【発明者】
【氏名】平柳 栄治郎
(72)【発明者】
【氏名】荒井 雄太郎
(72)【発明者】
【氏名】碓井 裕之
【テーマコード(参考)】
5E062
5H622
【Fターム(参考)】
5E062CC02
5E062CD05
5E062CE04
5E062CG01
5H622CA01
5H622CA07
5H622DD02
5H622PP01
5H622PP10
5H622QA02
5H622QA10
(57)【要約】
【課題】シャフトと、ボンド磁石との接合強度が高いシャフト一体型ボンド磁石を提供すること。
【解決手段】円筒状のボンド磁石3と、前記ボンド磁石3を同軸に貫通し、前記ボンド磁石から突出する円柱状のシャフト2とが一体に構成されたシャフト一体型ボンド磁石1において、前記シャフト2は複数の溝13を周面に有し、それぞれの前記溝13は、両端が先細りで、内面がなだらかであり、前記ボンド磁石3は、前記溝13を全長にわたって覆う。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のボンド磁石と、前記ボンド磁石を同軸に貫通し、前記ボンド磁石から突出する円柱状のシャフトとが一体に構成されたシャフト一体型ボンド磁石において、
前記シャフトは複数の溝を周面に有し、
それぞれの前記溝は、両端が先細りで、内面がなだらかであり、
前記ボンド磁石は、前記溝を全長にわたって覆う
シャフト一体型ボンド磁石。
【請求項2】
前記溝は、前記シャフトの軸方向に対して平行である
請求項1に記載のシャフト一体型ボンド磁石。
【請求項3】
前記溝は、第1の方向に平行に配置された複数の第1溝と、前記第1の方向と交差する第2の方向に平行に配置された複数の第2溝とを含む
請求項1に記載のシャフト一体型ボンド磁石。
【請求項4】
前記溝は、一様な横断面形状を有する中央部と、前記中央部の両端にそれぞれ連続しており、前記中央部から離れるほど幅が狭く、かつ、浅くなる先細部とを有する
請求項1から請求項3のいずれか一つに記載のシャフト一体型ボンド磁石。
【請求項5】
。
前記溝は、前記中央部が互いに平行になるように配置されている
請求項4に記載のシャフト一体型ボンド磁石。
【請求項6】
前記中央部の横断面形状は、
円弧状の底部と、
前記底部の両側からそれぞれ前記シャフトの周面に向かう側部とを有する
請求項4に記載のシャフト一体型ボンド磁石。
【請求項7】
前記中央部の横断面形状は、
両側の側部に対する垂線同士の成す角度が130度以上180度以下である
請求項6に記載のシャフト一体型ボンド磁石。
【請求項8】
前記垂線は、前記溝の底と前記シャフトの周面との距離を、前記底に近い側から3:1に分けた深さに足を有する
請求項7に記載のシャフト一体型ボンド磁石。
【請求項9】
円柱形の棒材の側面にホブ盤を用いて複数の溝を形成し、
磁石粉末と樹脂とを混錬した材料を、前記溝を全長にわたって覆い、前記棒材の端部を端面から露出させる円筒状に成形する
シャフト一体型ボンド磁石の製造方法。
【請求項10】
前記溝は、前記棒材の軸方向に対して平行である
請求項9に記載のシャフト一体型ボンド磁石の製造方法。
【請求項11】
前記溝は、第1の方向に平行に配置された複数の第1溝と、前記第1の方向と交差する第2の方向に平行に配置された複数の第2溝とを含む
請求項9に記載のシャフト一体型ボンド磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャフト一体型ボンド磁石およびシャフト一体型ボンド磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
円筒状のボンド磁石に円柱状のシャフトを挿入させて一体化したシャフト一体化ボンド磁石が提案されている(特許文献1)。シャフト一体型ボンド磁石は、各種モータの回転子等に利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シャフト一体型ボンド磁石を搭載するモータの寸法、回転速度、回転トルクおよび使用環境等の仕様は様々である。したがって、モータの仕様に合わせた様々な仕様のシャフト一体型ボンド磁石が提供されている。
【0005】
しかしながら一般論として、寿命が長く、信頼性の高いモータを実現するためには、シャフトと、ボンド磁石との接合強度が高いシャフト一体型ボンド磁石が提供されることが望ましい。
【0006】
一つの側面では、シャフトと、ボンド磁石との接合強度が高いシャフト一体型ボンド磁石の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
円筒状のボンド磁石と、前記ボンド磁石を同軸に貫通し、前記ボンド磁石から突出する円柱状のシャフトとが一体に構成されたシャフト一体型ボンド磁石において、前記シャフトは複数の溝を周面に有し、それぞれの前記溝は、両端が先細りで、内面がなだらかであり、前記ボンド磁石は、前記溝を全長にわたって覆う。
【発明の効果】
【0008】
一つの側面では、シャフトと、ボンド磁石との接合強度が高いシャフト一体型ボンド磁石を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】シャフト一体型ボンド磁石の縦断面図である。
【
図8】シャフト一体型ボンド磁石の製造工程を説明する説明図である。
【
図9】シャフト一体型ボンド磁石の製造工程を説明する説明図である。
【
図10】シャフト一体型ボンド磁石の製造工程を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施の形態1]
図1は、シャフト一体型ボンド磁石1の斜視図である。シャフト一体型ボンド磁石1は、シャフト2と、ボンド磁石3とを備える。ボンド磁石3は、略円筒状である。シャフト2は、ボンド磁石3を同軸に貫通する略円柱状である。シャフト2とボンド磁石3とは一体に構成されている。
【0011】
モータの回転子として使用される場合、図示を省略するベアリング等を介してシャフト2が回転可能に支持される。図示を省略する固定子からボンド磁石3に回転磁界が加えられて、ボンド磁石3とシャフト2とが一体に回転する。シャフト2はモータの出力軸の機能を果たす。
【0012】
図2は、シャフト2の斜視図である。シャフト2の中央部分に、シャフト2の軸方向に平行な溝部13が全周にわたって平目ローレット状に形成されている。溝部13は、シャフト2の周面に設けられた溝の例示である。ただし溝部13の形状は、JIS(Japanese Industrial Standards:日本産業規格) B951 ローレット目で規定されている溝形状とは異なる。
【0013】
図3は、シャフト一体型ボンド磁石1の縦断面図である。
図4は、
図3におけるIV部拡大図である。本実施の形態においては、シャフト2には偶数本の溝部13が等間隔に形成されており、
図3は180度離れた2本の溝部13を通る面による断面図である。溝部13は、両端で緩やかに浅くなっている。
図3および
図4に示すように、ボンド磁石3は溝部13を全長にわたって覆う。なお溝部13は奇数本であっても良い。
【0014】
溝部13がボンド磁石3の外側に露出しないため、シャフト一体型ボンド磁石1の外面に露出するボンド磁石3とシャフト2との界面は、
図1に示すようにシャフト2の外周に対応する円形である。界面が露出する長さを最小限にすることにより、界面からの水分または油分等の侵入によるシャフト2とボンド磁石3との接合強度の減少を予防できる。
【0015】
溝部13が存在することにより、シャフト2とボンド磁石3との接合部の面積が広くなるため、シャフト2とボンド磁石3とが強固に接合されたシャフト一体型ボンド磁石1を提供できる。
【0016】
図5は、シャフト2の拡大側面図である。
図5は、溝部13の端部を拡大して示す。溝部13は、一様な横断面形状を有する中央部11と、中央部11の両端にそれぞれ連続する先細りの先細部12とを備える。
図2および
図5に示すように、先細部12においては、中央部11から離れるほど溝部13の幅が緩やかに狭くなっている。
【0017】
シャフト2の周面における中央部11の中心線とその両側の先細部12の中心線とは、一直線状である。以下の説明においては、シャフト2の周面における中央部11の中心線と先細部12の中心線とにより形成される直線を、溝部13の中心線と記載する場合がある。複数の溝部13同士は、中央部11同士が互いに平行になるように配置されている。複数の溝部13の中心線同士も、互いに平行である。
【0018】
図6は、中央部11におけるシャフト2の横断面図である。開口を外側に向けた略U形状の溝部13が、シャフト2の全周にわたって配置されている。それぞれの溝部13の形状は、同一である。溝部13の形状の詳細については、後述する。
【0019】
シャフト2の材料は、たとえば鉄、珪素鋼、磁性ステンレス鋼またはアルミニウム合金等である。シャフト2の材料は、樹脂であってもよい。シャフト2の材料は、樹脂と無機材料の粉または繊維とを混合した複合材であってもよい。複合材に使用される無機材料は、たとえば純金属、合金、またはセラミックス等であり、無機材料の形状はたとえば粉末、フレークまたはウィスカ等である。
【0020】
シャフト2の溝部13は、たとえば円柱形の棒材であるシャフト素材の側面をホブ盤により加工して製作される。
図4において、二点鎖線で示すホブ71は、ホブ盤の刃物であるホブ71の外径を模式的に示す。ホブ71の外周に設けられた切刃は図示を省略する。ホブ71がシャフト2の素材である丸棒の側面に当てられた状態で、シャフト素材の軸方向、具体的には
図4の下方向に移動させられる。
【0021】
ホブ71がシャフト素材の軸方向に移動しながら研削した部分には、一様な横断面形状を有する中央部11が形成される。溝部13の研削の開始位置および終了位置には、先細りの先細部12が形成される。以上により、中央部11と先細部12とが連続する、なだらかな内面の溝部13が形成される。
【0022】
図7は、
図6におけるVII部拡大図である。溝部13の横断面は、略円弧状の底部135と、底部135の両端からそれぞれシャフト2の周面に向かう略直線状の側部136とを有する。側部136とシャフト2の周面との境界部は、R面形状になっている。
【0023】
それぞれの溝部13の一番深い部分を結ぶ溝部13の内接円51を、二点鎖線で示す。内接円51とシャフト2の周面との距離を四等分する円を三本の二点鎖線の円弧で示す。このうち、最もシャフト2の周面に近い円弧を、基準円54と定める。基準円54は、内接円51とシャフト2の周面との間の距離を、内接円51に近い側から3:1に分ける円である。
【0024】
基準円54と溝部13との交点を足561として、溝部13の内側に向かって引いた垂線56同士の角度をAとする。なお、
図7において接線57は足561を通る溝部13の接線である。すなわち、垂線56と接線57とは、足561において直交する。接線57同士の成す角度Bと前述の角度Aとの関係は、角度の単位に[度]を使用する場合、B=180-Aである。
【0025】
本実施の形態においては、Aは156度、Bは24度である。なお、
図6および
図7は溝部13の断面形状の例示であり、図示した形状に限定するものではない。溝部13の形状に関する変形例については後述する。
【0026】
ボンド磁石3は、磁性粉末と、結合剤である樹脂との混合物である磁性組成物を、所定の形状に圧縮成形および固化することにより製作される。磁性粉末として、希土類系磁性粉末を使用することができる。希土類系磁性粉末としては、R-T-B系磁性粉末(Rは少なくとも一種の希土類元素であってNd、Prのいずれか一方を必ず含む、TはFeまたはFeとCo、Bは硼素であって一部をC(炭素)で置換できる)が好ましい。R-T-B系磁性粉末の形状は、急冷法により製造された磁性粉末であり、好ましくは扁平形状(例えば、粉末粒子の形状アスペクト比=短径/長径が0.3以下)である。扁平形状を有するR-T-B系磁性粉末を用いることにより、材料(磁性粉末及び樹脂の混合物)の圧縮成形の際に、磁性粉末が積層し易くなる。また、成形時に磁性粉末間に空隙または樹脂溜まりが比較的でき難くなり、高密充填が可能となる。R-T-B系磁性粉末の粒子径は、粒径20μm以下の第1磁石粉末と粒径20μm超220μm以下でピーク粒度が80~120μmの第2磁石粉末を第1磁石粉末が5~15質量%、第2磁石粉末が85~95質量%とし合計で100質量%となるように混合した磁石粉末を用いる。ここで、平均粒子径は体積分布の算術平均径であり、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定する。
【0027】
一方、ボンド磁石3に使用する樹脂(成形体用樹脂)は、一般的なボンド磁石に用いられる熱硬化性樹脂あるいは2液性の樹脂であって、好ましい樹脂として、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられる。
【0028】
磁石粉末を100質量%としたときに1~2質量%の樹脂を混ぜるのが望ましい。1質量%未満では成形体強度が低下するおそれがある。また2質量%超の場合には磁粉の含有量が相対的に低下し磁気特性が低くなるおそれがある。
【0029】
本実施の形態のボンド磁石3の密度は5.8~6.2g/cm3である。圧縮成形を用いることにより、磁性粉末の密度が高く、優れた磁気特性を有するボンド磁石3を製造できる。圧縮成型時の成形圧力は1~2.5GPaであるのが望ましい。1GPa以下では成形体強度が低下する。また2.5GPaを超えた場合でも実質的に成形体強度の増大は見込めず、2.5GPa超の成形圧力は必要ない。
【0030】
図6に示す溝部13の断面形状の寸法は、第2磁石粉末の中で最大のサイズのものが凹部の内部にちょうど収まる程度が望ましい。それぞれの横断面において溝部13の内部に一個から数個の第2磁石粉末が収容され、第2磁石粉末の隙間に第1磁石粉末が入り込み、樹脂により溝部13の内面と、第1磁石粉末と、第2磁石粉末とが接合されることにより、シャフト2の外側に、良好な特性のボンド磁石3が強固に固定される。
【0031】
図8から
図10は、シャフト一体型ボンド磁石1の製造工程を説明する説明図である。
図8から
図10は、いずれも製造されるシャフト一体型ボンド磁石1の中心軸を含む縦断面図を示す。
【0032】
まず、磁性粉末と、結合剤である樹脂との混合物である磁性組成物を準備する手順を説明する。平均粒径150μmの磁粉をボールミルで粉砕し、<20μmの磁粉を取り除いた後、再度粉砕する。このようにして粉砕と分級とを繰り返して、<20μmの磁粉を残りの磁粉(ピーク粒度100μm)と混合し、<20μmの磁粉が10質量%となるように調整する。
【0033】
この磁粉と、常温で固体の熱硬化性エポキシ樹脂(磁粉に対して1質量%)を溶媒(MEK:Methyl Ethyl Ketone)で希釈したものとを混錬して磁性組成物を作製する。以下の説明では、磁性組成物を材料42と記載する場合がある。
【0034】
図8Aは、製造工程において使用する成形装置の成形動作の開始位置(以下「定位置」という)を示している。この成形装置は、円筒状のダイ10と、上側金型20と、下側金型30とを備えている。
【0035】
上側金型20は、ダイ10の内径にほぼ等しい外径を有する長尺円筒状の第1上パンチ21と、第1上パンチ21の内径にほぼ等しい外径を有する長尺円筒状の第2上パンチ22と、第2上パンチ22の内径にほぼ等しい直径を有する長尺円柱状の上コア23とを備えた三重構成であり、ダイ10内を上方向から挿通可能である。第1上パンチ21はダイ10内を上下方向に挿通可能であって、第2上パンチ22は第1上パンチ21内を上下方向に挿通可能であり、上コア23は第2上パンチ22内を上下方向に挿通可能である。第1上パンチ21の移動(上昇/下降)と、第2上パンチ22の移動(上昇/下降)と、上コア23の移動(上昇/下降)とは、互いに独立して行える。
【0036】
下側金型30は、ダイ10の内径にほぼ等しい外径を有する長尺円筒状の第1下パンチ31と、第1下パンチ31の内径にほぼ等しい外径を有する長尺円筒状の第2下パンチ32と、第2下パンチ32の内径にほぼ等しい直径を有する長尺円柱状の下コア33とを備えた三重構成であり、ダイ10内を下方向から挿通可能である。第1下パンチ31はダイ10内を上下方向に挿通可能であって、第2下パンチ32は第1下パンチ31内を上下方向に挿通可能であり、下コア33は第2下パンチ32内を上下方向に挿通可能である。第1下パンチ31の移動(上昇/下降)と、第2下パンチ32の移動(上昇/下降)と、下コア33の移動(上昇/下降)とは、互いに独立して行える。
【0037】
まず、
図8Bに示す如く、第1下パンチ31を下降させて第2下パンチ32とダイ10との間に空間41を形成する。このときの下降距離d1(空間41の深さ)は、製造されるシャフト一体型ボンド磁石1におけるボンド磁石3の長さと、後述する圧縮成形工程での材料42の圧縮率とを考慮して決定される。次いで、
図8Cに示す如く、この空間41内にボンド磁石3の材料42(磁性粉末及び樹脂の混合物(磁性組成物))を充填する。
【0038】
次に、
図8Dに示す如く、下コア33を下降させて第2下パンチ32の内部に開放部43を形成する。このときの下降距離d2(開放部43の長さ)は、シャフト2のうち、ボンド磁石3の端面から突出する部分の長さを考慮して決定される。
【0039】
次いで、
図9Aに示す如く、予め準備しておいたシャフト2を、開放部43に挿入する。この際、シャフト2は一方の端面が下コア33に当接するまで下降させる。シャフト2は、自重によって下降させてもよいし、手動あるいは専用治具(専用装置)などを用いて下降させてもよい。
【0040】
次に、
図9Bに示す如く、第1上パンチ21、第2上パンチ22及び上コア23を下降させる。上コア23はシャフト2の他方の端面に当接するまで下降させて上コア23及び下コア33によってシャフト2を挟持する。また、第1上パンチ21及び第2上パンチ22は、シャフト2の一部の領域を覆う位置まで下降させる。第1上パンチ21及び第2上パンチ22の下降位置は、シャフト2のうちボンド磁石3の端面から突出する部分の長さを考慮して決定される。
【0041】
なお、
図8Dから
図9Aに基づく前記実施の形態に代えて、
図8Dにおいて、下コア33を下降させて第2下パンチ32の内部に開放部43を形成する際、その下降距離d2(開放部43の長さ)を、シャフト2がボンド磁石3から突出する部分の長さと、シャフト2がボンド磁石3で覆われる部分の長さとの合計に対応する長さとしてもよい。このとき、
図8Aにおいて、シャフト2のボンド磁石3から突出する部分が第2下パンチ32から突出する。結果として、シャフト2のボンド磁石3から突出する部分と突出しない部分との境界と、充填した材料42の上面と、第2下パンチ32の上面と、ダイ10の上面とは、上下方向で同じ位置になる。
【0042】
次いで、
図9Cに示す如く、第2下パンチ32、上コア23及び下コア33を連動して下降させる。このとき、第1上パンチ21及び第2上パンチ22をさらに連動して下降させる。そして、
図9Dに示す如く、シャフト2のボンド磁石3に覆われる部分を材料42中に埋没させる。このときの上コア23及び下コア33ならびに第1上パンチ21及び第2上パンチ22の下降距離(
図9Bの上コア23及び下コア33ならびに第1上パンチ21及び第2上パンチ22の位置から
図9Dの上コア23及び下コア33ならびに第1上パンチ21及び第2上パンチ22の位置までの距離)は、シャフト2のうちボンド磁石3の端面から突出する部分の長さと、後述する圧縮成形工程での材料42の圧縮率とを考慮して決定される。
【0043】
図9Dに示す如く、第1上パンチ21及び第2上パンチ22は、材料42の上面に当接するまで、もしくはダイ10の上面まで下降させる。この結果、シャフト2及び材料42は、上側金型20と下側金型30とで封止された状態となる。
【0044】
なお、
図9Bから
図9Dに基づく前記実施の形態においては、第2下パンチ32を下降させる際、第1下パンチ31の下降位置まで下降(
図8Bに示す下降距離d1だけ下降)させているが、シャフト一体型ボンド磁石1の形状などに応じて、第2下パンチ32の下降位置を、第1下パンチ31の下降位置よりも上または下に位置させてもよい。
【0045】
また、
図9Bから
図9Dに基づく前記実施の形態において、予め上コア23と下コア33によってシャフト2を挟持して、第2下パンチ32を下降させながら、上コア23及び下コア33を連動して下降させて、シャフト2の中央部分を材料42中に埋没させる工程に代えて、予め上コア23と下コア33によってシャフト2を挟持せず、第2下パンチ32を下降させながら、下コア33のみを下降させて、下コア33上にシャフト2が載置された状態で自重によって下降させてもよい。また、シャフト2の下降は手動あるいは専用治具(専用装置)などを用いて行ってもよい。
【0046】
次いで、
図10Aに示す如く、第1下パンチ31を下降させるとともに、第2上パンチ22を下降させる。ここで、
図10Aでは、第1下パンチ31を下降させるとともに、第2上パンチ22を下降させたが、第1下パンチ31を下降させるとともに、第2上パンチ22及び第1上パンチ21を下降させても良い。
【0047】
その後、
図10Bに示す如く、ダイ10を下降させるとともに、上コア23と下コア33によってシャフト2を挟持しながら上コア23、下コア33、第1上パンチ21及び第2上パンチ22を下降させる。ここで、第1上パンチ21と第2上パンチ22の材料42と接する面の高さ位置が同じになるよう、第1上パンチ21と第2上パンチ22の下降量を調整する。また、第1下パンチ31と第2下パンチ32の材料42と接する面の高さ位置が同じになるよう、第1下パンチ31と第2下パンチ32の上昇量を調整する。ダイ10の下降によって、第1下パンチ31及び第2下パンチ32が相対的に上昇することになる。そして、第1上パンチ21及び第2上パンチ22と第1下パンチ31及び第2下パンチ32とにより材料42を、下方向と上方向との2方向から圧縮して、シャフト2及び材料42を一体化して成形する。
【0048】
なお、ダイ10を下降させることしたが、第1下パンチ31及び第2下パンチ32を、直接上昇させるようにしてもよい。
図10A,
図10Bに基づく前記実施形態において、ダイ10の下降距離と上コア23と下コア33の下降距離は同じであってもよいし、異なっていてもよい。ダイ10、上コア23と下コア33、第1上パンチ21及び第2上パンチ22の下降距離、あるいは第1下パンチ31及び第2下パンチ32を上昇させる場合の上昇距離などは、後述する成形体44の形状などを考慮して決定すればよい。
【0049】
次に、
図10Cに示す如く、ダイ10、第1上パンチ21、第2上パンチ22、上コア23、第1下パンチ31、第2下パンチ32、及び下コア33を全て上昇させる。この際、ダイ10、第1下パンチ31、及び第2下パンチ32が定位置に戻るまで、上昇動作を行う。次いで、
図10Dに示す如く、第1上パンチ21、第2上パンチ22及び上コア23を更に上昇させて定位置まで戻す。その後、成形体44をダイ10から取り出して、成形処理を終了する。なお、
図10Cから
図10Dに基づく前記実施の形態に代えて、ダイ10のみを下降させて成形体44をダイ10から取り出した後、ダイ10、第1上パンチ21、第2上パンチ22、上コア23、第1下パンチ31、第2下パンチ32、及び下コア33の全てを定位置に戻るように動作させてもよい。なお第1の実施形態において成形圧力はたとえば2GPaである。
【0050】
取り出された成形体44は、樹脂が硬化されていないので、取り出した成形体44に対して、たとえば200℃で1時間の熱処理を施し、樹脂を硬化させる。これにより、所望の密度、形状を有するシャフト一体型ボンド磁石1が得られる。
【0051】
硬化させた成形体44に対し、常温で液体の熱硬化性エポキシ樹脂(粘度が100~600mPa・s)を減圧後加圧雰囲気で含浸させた後、洗浄や遠心分離などの工程を経て磁石表面の余分な樹脂を除去し、200℃で1時間加熱硬化させる。以上により、成形体44からボンド磁石3が作製される。
【0052】
上述した実施の形態では、ボンド磁石3が磁性粉末と熱硬化性樹脂との混合物(磁性組成物)にて構成されていることとしたが、ボンド磁石3が主剤と硬化剤とからなる2液性のエポキシ樹脂と磁性粉末との混合物とからなっていても良い。2液性の樹脂を用いる場合は、成形体44は室温でも硬化するが、たとえば200℃で1時間の熱処理により硬化を促進しても良い。またボンド磁石3に対して熱硬化性のエポキシ樹脂を含浸する構成を示したが、ボンド磁石3に対して2液性のエポキシ樹脂を含浸させても良い。含浸は公知の方法を用いれば良く、含侵は、減圧法、加圧法、真空加圧法等の方法を適用すればよい。
【0053】
このような磁性粉末及び熱硬化性エポキシ樹脂、2液性のエポキシ樹脂を含む構成では、磁性粉末の充填率が高くて強度のばらつきが少ないシャフト一体型ボンド磁石1を提供でき、磁気特性の向上を図ることができる。
【0054】
シャフト2を一体成形したボンド磁石3に樹脂を含浸させた際の効果についてさらに説明する。含浸された樹脂はボンド磁石3の磁性粉と樹脂の隙間に入り込みボンド磁石3の強度を向上させる。さらに含浸された樹脂は磁性粉と樹脂とシャフト2との間に入り込み、ボンド磁石3とシャフト2とを強固に結合させるという格別の効果を有している。
【0055】
シャフト2の外周面に溝部13を有するため、シャフト2とボンド磁石3との一体成形を行うことにより、磁性粉と樹脂とが溝部13の形状に倣い成形されるため、シャフト2とボンド磁石3とは固着される。この状態でも必要十分な強度であるが、更に高い固着性能を要求される場合に樹脂含浸を行うと、含浸された樹脂は、ボンド磁石3とシャフト2との接着強度を高めるとともに、例えばシャフト2の溝部13に磁粉と樹脂が入っていない空隙がある場合でも、ボンド磁石3とシャフト2との隙間に入りこみ(充填され)シャフト2とボンド磁石3とを一体化する効果を発し、さらに高い固着性能を発揮することができる。またボンド磁石3の対候性を高めるとともに、渦電流損失を低減できる可能性を有する。更にシャフト2とボンド磁石3とを一体成形することで、シャフト2とボンド磁石3との同軸度、および、シャフト一体型ボンド磁石1を回転させた場合の振れ精度が向上する。
【0056】
含浸に用いる樹脂には、エポキシ樹脂が使用可能である。エポキシ樹脂としては、加熱硬化型、主剤と硬化剤からなる2液性エポキシ樹脂を利用できる。2液性であっても、常温硬化のみならず、加熱により硬化を促進しても良い。
【0057】
次に成形体用樹脂と含浸用樹脂との組み合わせについて説明する。成形体用樹脂に熱硬化型のエポキシ樹脂を用い、含浸用樹脂に熱硬化型の樹脂を用いることができる。また成形体用樹脂に熱硬化型樹脂、含浸用樹脂に2液性のエポキシを用いても良い。2液性のエポキシ樹脂を含浸した後、加熱しても良い。また含浸用樹脂の硬化剤のみを先に含浸させ主剤を後で含浸しても良い。硬化剤を主剤を混合しないで含浸した場合、主剤の硬化が進まないので、主剤を長く使用することができる。成形体用樹脂に2液性エポキシ、含浸用樹脂に加熱硬化型樹脂を用いても良い。成形体用樹脂に2液性エポキシ、含浸用樹脂に2液性エポキシを用いても良い。2液性のエポキシ樹脂の場合、加熱しなくても硬化するが硬化促進のため加熱しても良い。
【0058】
上述したシャフト一体型ボンド磁石1の製造手順にあって、磁性粉末と樹脂との混合物、または、磁性粉末のみである材料42に、潤滑剤を添加するようにしてもよい。このような潤滑剤を加えることにより、材料42とダイ10との摩擦が和らげられて、成形装置の長寿命化を図れる。
【0059】
以下、上述したシャフト一体型ボンド磁石1におけるボンド磁石3とシャフト2との結合強度について説明する。
【0060】
前述したように、シャフト2の中央部分の周面には、複数の溝部13がシャフト2の軸方向に対して平行に形成されている。溝部13は、
図2および
図5を使用して説明したように両端が先細りであり、
図3および
図4を使用して説明したように両端が緩やかに浅く形成されている。溝部13の内面には角部がなく、なだらかな形状である。
【0061】
図8から
図10を使用した製造工程において、シャフト2は軸方向に沿って材料42の中に押し込まれる。したがって、材料42は溝部13の長手方向に沿って流動して、溝部13の内部を埋める。溝部13の内面はなだらかに形成されているため、材料42の流動はスムーズに行われる。仮に材料42に気泡が巻き込まれた場合であっても、溝部13の内部で空気溜りを形成せずに、流動する。
【0062】
以上により、溝部13に内部に安定的に材料42が充填されて、シャフト2とボンド磁石3とが強固に接合されたシャフト一体型ボンド磁石1が作成される。さらに、溝部13の内面に角部等がないため、充填中に一部の磁性粉末に強い圧力が加わって砕かれるような現象が発生しにくい。したがって、所望の磁気特性を有するボンド磁石3を備えるシャフト一体型ボンド磁石1を安定して作成できる。
【0063】
シャフト2は、周面から外側に突出する部分を有さず、両端面以外には中心軸に対して垂直な面も有さない。したがって、シャフト2を材料42の中に押し込む際の力を必要最低限に抑えることができ、無駄なエネルギーを使用せずにシャフト一体型ボンド磁石1を製造できる。
【0064】
本実施の形態によると、シャフト2と、ボンド磁石3との接合強度が高いシャフト一体型ボンド磁石1を提供できる。本実施の形態によると、シャフト2とボンド磁石3との接合界面からの水分侵入等による劣化が少ないため、寿命の長いシャフト一体型ボンド磁石1を提供できる。
【0065】
なおシャフト2には、たとえばDカットまたはキー溝等の、被回転物またはカップリングとモータとの連結に用いられる構成が設けられていてもよい。シャフト2の端部には、面取り加工が施されていてもよい。
【0066】
図2および
図5においては、シャフト2の母線に沿って溝部13が形成されている場合を示すが、溝部13は母線に対して傾いて螺旋状に形成されてもよい。ホブ盤を使用することにより、任意の傾きを有する螺旋状の溝部13を形成できる。
【0067】
螺旋状の溝部13を使用することにより、スラスト荷重、すなわちシャフト2の中心軸に平行な方向の強度が高いシャフト一体型ボンド磁石1を提供できる。
【0068】
[変形例1]
図11は、変形例1のシャフト2の拡大断面図である。本変形例においては、
図7を使用して説明した実施の形態1の溝部13に比べて、底部135の半径が大きく、底部135と側部136との接合部がシャフト2の中心に近い。本変形例においては、垂線56同士が成す角度Aは130度、接線57同士が成す角度Bは50度である。
【0069】
なお、
図11は、望ましい角度Aの下限を示す。
図8から
図10を使用して説明したように、シャフト2の外側に圧縮成形によりボンド磁石3を形成する場合、ダイ10等の型を外すことによりボンド磁石3、および、シャフト2のうちボンド磁石3により押し付けられていた部分は膨張する。この膨張現象は、スプリングバックと呼ばれる。
【0070】
角度Aが
図11に示すよりも小さい場合、スプリングバックにより、シャフト2とボンド磁石3との界面を引きはがす方向の応力が発生しやすい。したがって、シャフト2を高速で回転させた場合に、ボンド磁石3が破損するリスクが高まる。
【0071】
しかしながら、たとえばシャフト2の表面処理、またはボンド磁石3に使用する樹脂材料を適切に選択すること等により、シャフト2とボンド磁石3との接合強度を高められる場合には、角度Aは130度よりも小さく定められてもよい。低速回転用モータ、または、小トルク向けモータ等向け等の、シャフト2およびボンド磁石3に加わる負荷が小さい用途に使用する場合も、角度Aは130度よりも小さく定められてもよい。
【0072】
[変形例2]
図12は、変形例2のシャフト2の拡大断面図である。本変形例においては、溝部13の両側の接線57同士が略平行であり、2本の垂線56は一直線を形成している。本変形例においては、角度Aは180度、角度Bは0度である。
【0073】
なお、
図12は、望ましい角度Aの上限を示す。仮に角度Aが180度を超える場合、溝部13はいわゆるオーバーハング形状になるため、ホブ71による加工は困難である。
【0074】
しかしながら、たとえばシャフト2をMIM(Metal Injection Molding)等の手法により作成する場合には、角度Aが180度を超えるシャフト2を作成可能である。一般的にMIM加工はホブ盤による加工よりも高価になるが、高価格が許容される用途向けのシャフト一体型ボンド磁石1の場合は、角度Aは180度よりも大きく定められてもよい。シャフト2とボンド磁石3との接合強度が高いシャフト一体型ボンド磁石1を実現できる。
【0075】
[実施の形態2]
本実施の形態は、互いに交差する溝部13を備えるシャフト一体型ボンド磁石1に関する。実施の形態1と共通する部分については、説明を省略する。
【0076】
図13は、実施の形態2のシャフト2の模式図である。シャフト2の中央部分に溝部13が綾目ローレット状に形成されている。溝部13は、
図13において右下がりに示す第1溝131と、左下がりに示す第2溝132とを含む。右下がりの方向は第1の方向の例示であり、左下がりの方向は第2の方向の例示である。
【0077】
第1溝131、第2溝132とも、シャフト2の周面に螺旋状に形成されている。第1溝131、第2溝132とも、実施の形態1の溝部13と同様に、一様な横断面形状を有する中央部11と、中央部11の両端にそれぞれ連続する先細りの先細部12とを備える。
【0078】
本実施の形態によると、シャフト2とボンド磁石3との接合部の面積が実施の形態1よりもさらに広くなるため、シャフト2とボンド磁石3とが強固に接合されたシャフト一体型ボンド磁石1を提供できる。
【0079】
各実施例で記載されている技術的特徴(構成要件)はお互いに組合せ可能であり、組み合わせすることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものでは無いと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味では無く、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0080】
特許請求の範囲に記載した独立請求項および従属請求項は、引用形式に関わらずあらゆる組み合わせにおいて、相互に組み合わせることが可能である。さらに、特許請求の範囲には他の2以上のクレームを引用するクレームを記載する形式(マルチクレーム形式)を用いているが、これに限るものではない。マルチクレームを少なくとも一つ引用するマルチクレーム(マルチマルチクレーム)を記載する形式を用いて記載しても良い。
【符号の説明】
【0081】
1 シャフト一体型ボンド磁石
2 シャフト
3 ボンド磁石
10 ダイ
11 中央部
12 先細部
13 溝部(溝)
131 第1溝
132 第2溝
135 底部
136 側部
20 上側金型
21 第1上パンチ
22 第2上パンチ
23 上コア
30 下側金型
31 第1下パンチ
32 第2下パンチ
33 下コア
41 空間
42 材料(磁性組成物)
44 成形体
51 内接円
54 基準円
56 垂線
561 足
57 接線
71 ホブ