(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166904
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】粥の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 7/10 20160101AFI20241122BHJP
【FI】
A23L7/10 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083325
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】株式会社日清製粉ウェルナ
(71)【出願人】
【識別番号】523066484
【氏名又は名称】ロイヤル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小柴 春樹
(72)【発明者】
【氏名】尾家 麻里子
(72)【発明者】
【氏名】堤 英晃
【テーマコード(参考)】
4B023
【Fターム(参考)】
4B023LC02
4B023LC05
4B023LC07
4B023LC08
4B023LE19
4B023LK13
4B023LK14
4B023LK15
4B023LK16
4B023LP08
4B023LP10
4B023LP15
4B023LP20
(57)【要約】
【課題】出汁を用いて粥を製造する場合でも、十分な粒感を有していて食べごたえがあり、しかも簡便に喫食可能になる粥の製造方法を提供すること。
【解決手段】(1)水性液体で野菜類を茹でた後に固液分離して、煮汁1及び茹で調理済み野菜類をそれぞれ得る工程、(2)煮汁1で肉類を茹でた後に固液分離して、煮汁2及び茹で調理済み肉類をそれぞれ得る工程、並びに(3)煮汁2で米を調理して粥を得る工程を有する、粥の製造方法。(1’)水性液体で肉類を茹でた後に固液分離して、煮汁1’及び茹で調理済み肉類をそれぞれ得る工程、(2’)煮汁1’で野菜類を茹でた後に固液分離して、煮汁2’及び茹で調理済み野菜類をそれぞれ得る工程、並びに(3’)煮汁2’で米を調理して粥を得る工程を有する、粥の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)水性液体で野菜類を茹でた後に固液分離して、煮汁1及び茹で調理済み野菜類をそれぞれ得る工程、
(2)煮汁1で肉類を茹でた後に固液分離して、煮汁2及び茹で調理済み肉類をそれぞれ得る工程、並びに
(3)煮汁2で米を調理して粥を得る工程
を有する、粥の製造方法。
【請求項2】
さらに、工程(1)で得られた茹で調理済み野菜類及び/又は工程(2)で得られた茹で調理済み肉類を、工程(3)で得られた粥に加える工程を有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
さらに、得られた粥を冷蔵又は冷凍する工程を有する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
(1’)水性液体で肉類を茹でた後に固液分離して、煮汁1’及び茹で調理済み肉類をそれぞれ得る工程、
(2’)煮汁1’で野菜類を茹でた後に固液分離して、煮汁2’及び茹で調理済み野菜類をそれぞれ得る工程、並びに
(3’)煮汁2’で米を調理して粥を得る工程
を有する、粥の製造方法。
【請求項5】
さらに、工程(1’)で得られた茹で調理済み肉類及び/又は工程(2’)で得られた茹で調理済み野菜類を、工程(3’)で得られた粥に加える工程を有する、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
さらに、得られた粥を冷蔵又は冷凍する工程を有する、請求項4又は5記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粥の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粥は、米を大量の水で炊いたものであり、米粒がかろうじて形状を保っている程度に柔らかく煮込まれ、消化性のよい食品である。粥は、米の澱粉が溶け出してわずかに甘さが感じられ、そのまま食べてもよく、別途味付けを行ったり具材等を加えて食べてもよく、世界中で親しまれている。
【0003】
粥に風味や旨味を付与するために、粥を製造する際に、水に出汁を加える方法がある。しかしながら、米を出汁と共に加熱すると、米の形が崩れやすくなって粒感が得られにくくなる場合がある。また、米の澱粉が多く溶け出すことにより、出汁の風味が立ちにくくなる場合もある。これらの課題を解消するためには、出汁を加えるタイミングや順番を変えたり、出汁をとるための材料を変えるごとに調節して調理を行う必要があるため、調理過程が非常に煩雑になる。
【0004】
特許文献1には、水、昆布、ダイコン、玉ネギ及び白ねぎを混合・加熱して肉水を製造する段階と、前記肉水に海老、カキ、イカ、イガイ、ニラ、塩及びごま油を混合・加熱して肉水混合物を製造する段階と、前記肉水混合物を用いて粥を製造する方法が記載されている。特許文献2には、米、鶏、2種の魚介類を入れた水を沸騰させ、塩及びうま味調味料を加えて煮出し、前記鶏に切り込みを入れて油を放出させてから鶏を取り出し、前記魚介類の一方を残して他方を取り出し、さらに煮る、粥の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-103473号公報
【特許文献2】特開2021-83411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、出汁を用いて粥を製造する場合でも、十分な粒感を有していて食べごたえがあり、しかも簡便に喫食可能になる粥の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、米を炊く出汁を種々変更して粥を製造したところ、肉類及び野菜類を特定の順で使用してとった出汁を用いると、出汁の風味が高い上に、米が溶けにくくなり、結果として風味と粒感の良好な粥を得ることができることを見出した。
【0008】
本発明は、
(1)水性液体で野菜類を茹でた後に固液分離して、煮汁1及び茹で調理済み野菜類をそれぞれ得る工程、
(2)煮汁1で肉類を茹でた後に固液分離して、煮汁2及び茹で調理済み肉類をそれぞれ得る工程、並びに
(3)煮汁2で米を調理して粥を得る工程
を有する、粥の製造方法を提供する。
【0009】
また、本発明は、
(1’)水性液体で肉類を茹でた後に固液分離して、煮汁1’及び茹で調理済み肉類をそれぞれ得る工程、
(2’)煮汁1’で野菜類を茹でた後に固液分離して、煮汁2’及び茹で調理済み野菜類をそれぞれ得る工程、並びに
(3’)煮汁2’で米を調理して粥を得る工程
を有する、粥の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、出汁の風味が高い上に、十分な粒感を有していて食べごたえがあり、しかも簡便に喫食可能になる粥の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、粥の製造方法を提供する。本発明の第1の形態の製造方法及び第2の形態の製造方法について、以下に順に説明する。
本発明の第1の形態は、
(1)水性液体で野菜類を茹でた後に固液分離して、煮汁1及び茹で調理済み野菜類をそれぞれ得る工程、
(2)煮汁1で肉類を茹でた後に固液分離して、煮汁2及び茹で調理済み肉類をそれぞれ得る工程、並びに
(3)煮汁2で米を調理して粥を得る工程
を有する、粥の製造方法である。
【0012】
工程(1):
工程(1)では、水性液体で野菜類を茹でた後に固液分離して、煮汁1及び茹で調理済み野菜類をそれぞれ得る。工程(1)において茹で調理済み野菜類を分離して得られる煮汁1は、野菜出汁ともいえる。
工程(1)で用いる水性液体は、典型的には水であり、精製水、水道水、井戸水等を用いることができる。水には、本発明の効果を阻害しない範囲で塩等の調味料を加えてもよい。調味料を加える場合、その添加量は水中で1質量%以下であることが、最終的に得られる粥で調味料の味が強くなりすぎず出汁の風味が引き立つ点で好ましい。
【0013】
ここで、上述したように、工程(1)は、「野菜類を茹でる」ことによって煮汁1、即ち野菜出汁を得る工程である。従って、野菜類に由来する出汁であっても、市販の粉末出汁又は濃縮出汁の形態の野菜スープの素を水で希釈したものをそのまま煮汁とみなすことは、工程(1)、即ち煮汁1を得ることには該当しない。
また、本発明は、出汁をとる素材の使用順序に特徴がある。具体的には、第1の形態では、出汁をとる素材として、先ず野菜類を使用し、次に肉類を使用するという点に特徴がある。従って、工程(1)で野菜類を茹でるために用いる水性液体として、各種の出汁、例えば、予め昆布類、かつお節又は煮干し等から水出ししておいた出汁や、市販の粉末出汁又は濃縮出汁(例えば、カツオとコンブのだしの素、鶏がらスープの素、野菜スープの素等)を水に溶かしたもの等は、採用しない。
【0014】
工程(1)で用いる野菜類としては、特に制限されないが、出汁用野菜として汎用されているものが好ましく、例えば根菜類、葉菜類及び茎菜類、より具体的には、タマネギ、ニンジン、セロリ、キャベツ等が挙げられるほか、ジャガイモ等のイモ類、キノコ類、昆布類等も、本発明では野菜類に含まれるものとする。これらの野菜類は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができ、中でも、タマネギ、ニンジン、セロリ、キャベツ及びジャガイモからなる群から選択される1種以上が好ましい。また、これらの野菜類は、そのまま切らずに用いてもよいし、必要に応じて切断等してから用いてもよく、種類によって、皮を付けたまま用いても又は皮を除去してから用いてもよい。野菜類は、固液分離可能な程度に切断された状態、特に、千切り、くし切り、短冊切り等、断面が多い状態にして用いると、比較的短時間の茹で操作によっても十分に出汁をとることができるため好ましい。
【0015】
茹で操作は、野菜出汁をとるための常法で行えばよい。例えば、鍋に張った水性液体を90℃~沸騰になるまで加熱し、野菜類を投入して水温を80~98℃に調節しながら、10秒~12時間、好ましくは30秒~6時間、さらに好ましくは3分~1時間茹でればよい。茹で時間は、用いる野菜の種類や状態等に応じて適宜決定すればよく、例えば、切らずに丸ごとの根菜類を用いる場合は茹で時間を長めに設定し、火が通りやすい状態に切断された野菜類や、昆布類のように短時間の加熱が常法であるものを用いる場合は、茹で時間を短めに設定すればよい。
また、このとき、水性液体10リットルに対し野菜類0.1~7キロ、特に0.2~4キロの比率で使用すると、風味の良い野菜出汁を得ることができるので好ましい。
【0016】
次いで、茹で操作を行った鍋の内容物(煮汁と茹でた野菜類)を、篩や網等を用いて固液分離する。分離された液体は煮汁1、即ち野菜出汁であり、分離された固体は、茹で調理済みの野菜類である。そして、得られた煮汁1を次の工程(2)で用いる。
【0017】
尚、工程(1)において茹で時間が長いと、水性液体は蒸発して量が減少する場合があるので、必要に応じて、茹で操作の途中若しくは終了後又は固液分離の後に、水を適宜加えて煮汁1の量を調整してもよい。最終的な煮汁1の量が、「(工程(1)の茹で操作の開始時に使用した水性液体の量)±20質量%」の範囲内になるようにすると、風味の良い野菜出汁となる。
【0018】
工程(2):
工程(2)では、工程(1)で得られた煮汁1で肉類を茹でた後に固液分離して、煮汁2及び茹で調理済み肉類をそれぞれ得る。工程(2)において茹で調理済み肉類を分離して得られる煮汁2は、野菜/肉混合出汁ともいえる。
工程(2)で用いる肉類としては、特に制限されず、出汁をとることができるものであればよく、鶏肉、豚肉、牛肉等の畜肉類が挙げられるほか、本発明においては、イワシ、タイ、アジ、ホタテ、エビ等の魚介類も肉類に包含され、さらに、乾燥肉類、例えば干し肉、かつお節及び煮干しも肉類に包含されるものとする。つまり本発明でいう「肉類」は、動物類由来の出汁用素材ということができる。ただし、肉類として乾燥肉類を用いると、所謂乾物臭さが生じ、粥の風味に悪影響を及ぼす場合があるため、乾燥していない肉類を用いるのが好ましい。
これらの肉類は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができ、中でも、鶏肉、牛肉、タイ、ホタテ及びエビからなる群から選択される1種以上が好ましい。また、肉類は、種類によって、そのまま切らずに用いてもよいし、必要に応じて切断等してから用いてもよく、また、皮や殻を付けたまま用いても又は除去してから用いてもよい。肉類は固液分離可能な程度に切断された状態、特に、ぶつ切りやスライス切り等、断面が多い状態にして用いると、比較的短時間の茹で操作によっても十分に出汁をとることができるため好ましい。
【0019】
茹で操作は、肉出汁をとるための常法で行えばよく、例えば、工程(1)と同様にして行うことができる。具体的には、鍋に張った煮汁1を90℃~沸騰になるまで加熱し、肉類を投入して水温を80~98℃に調節しながら、30秒~12時間、好ましくは5分~6時間、さらに好ましくは3分~1時間茹でればよい。茹で時間は、用いる肉類の種類や状態等に応じて適宜決定すればよく、例えば、大きな塊状の肉類を用いる場合は茹で時間を長めに設定し、火が通りやすい肉類を用いる場合は、茹で時間を短めに設定すればよい。
また、このとき、煮汁1の10リットルに対し肉類0.1~7キロ、特に1~5キロの比率で使用すると、風味の良い野菜/肉混合出汁を得ることができる。また、必要に応じて、煮汁1に塩等の調味料を加えてもよいが、調味料を加える場合、その添加量は、工程(1)で添加した調味料があればそれも合わせて、最終的に得られる煮汁2中で1質量%以下であることが、最終的に得られる粥で調味料の味が強くなりすぎず出汁の風味が引き立つ点で好ましい。
【0020】
次いで、茹で操作を行った鍋の内容物(煮汁と茹でた肉類)を、篩や網等を用いて固液分離する。分離された液体は煮汁2、即ち野菜/肉混合出汁であり、分離された固体は、茹で調理済みの肉類である。そして、得られた煮汁2を次の工程(3)で用いる。
尚、工程(1)と同様に、工程(2)でも、必要に応じて、茹で操作の途中若しくは終了後又は固液分離の後に、水を適宜加えて煮汁2の量を調整してもよい。最終的な煮汁2の量が、「(工程(1)の茹で操作の開始時に使用した水性液体の量)±20質量%」の範囲内になるようにすると、風味の良い野菜/肉混合出汁となる。
【0021】
工程(3):
工程(3)では、工程(2)で得られた煮汁2、即ち野菜/肉混合出汁で米を調理して粥を得る。米の調理方法は、特に限定されず、粥を炊くための常法に従えばよい。例えば、生米を煮汁2に浸漬し、沸騰するまで加熱後、吹きこぼれないように火加減調節しながら、10~40分間程度米を炊けばよい。水加減については、一般的に、ご飯(米飯)を炊くときに使用する水の容量は、米の容量の1.1~1.2倍程度が目安とされるところ、粥を炊くときには、それより多い量の水を用い、所望の食感が得られるように、使用する水の量を調節する。工程(3)で米を調理する際には、煮汁2の1000mLに対し生米50~250g、特に100~200gの比率で炊くと、粒感の良好な粥を得ることができるので好ましい。
必要に応じて、生米を事前に水に浸漬して吸水させたり、米の加熱時に調味料等又は後述の具材を加えることもできる。また、生米に代えて、予め炊いておいた米飯を煮汁2で煮てもよい。
【0022】
工程(3)で用いる米は、喫食可能な精米後の米粒であればよい。米の好ましい種類としては、ジャポニカ種、インディカ種及びジャバニカ種が挙げられ、これらから選択される1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、米は、籾から外皮を除去したものである玄米、玄米を精白した白米、及び白米をさらに精白した無洗米のいずれであってもよく、これらの中では無洗米が好ましい。
【0023】
さらに、米と共に、本発明の効果を阻害しない範囲で、米以外の穀物粒、例えば、大麦、あわ、ひえ等(以下、「他の穀物粒」ともいう)を混合して用いてもよい。他の穀物粒は、いわゆる雑穀類であり、近年その栄養性が注目されており、健康への寄与を期待して米に混合して炊飯されることも行われている。
他の穀物粒の使用量は、米と他の穀物粒との合計量のうちの50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることがさらに好ましく、5質量%以下であることがより一層好ましく、0質量%であること、即ち米以外の穀物粒を用いないことが最も好ましい。
【0024】
本発明の第1の形態の製造方法では、以上のようにして、粥を製造することができる。本発明の第1の形態の製造方法で得られる粥は、米粒を含有する流動状食品である。より詳細には、本発明の第1の形態の製造方法で得られる粥は、少なくとも米粒を含む穀物粒を含有する固形部と、液状部とからなる流動状食品である。
【0025】
本明細書において、固形部とは、粥における液状部以外の部分をいう。具体的には、粥を目開き2.0mmの篩に通して2つに分画し、5分間静置後も篩上に残る部分を固形部、篩を通過した部分を液状部とする。従って、米を原材料とする成分であっても、この定義で固形部にならないもの、例えば米粉は、液状部に含まれる米粒ではなく、液状部の成分として扱う。
【0026】
また、上述の手順で篩を使って粥を分画することにより得られた固形部は、後述の具材を含んでいない場合は、該固形部そのものを、該粥中に含まれる穀物粒(即ち、米粒と、場合によって含まれる他の穀物粒との総体)とみなす。分画により得られた固形部が、上述した穀物粒以外に具材を含んでいる場合は、該固形部から具材を取り除くことにより穀物粒のみの状態とし、この穀物粒を該粥中に含まれる穀物粒とみなす。従って、粥中に含まれる穀物粒は、含水状態にある炊飯物であり、液状部に使用された他の材料に由来する成分や固形部中の具材に由来する成分を吸収して含んでいる場合がある。
【0027】
本発明の第1の形態の製造方法で得られる粥において、穀物粒の含有量は、湿重量基準で、該粥の液状部100質量部に対して、好ましくは50~500質量部、より好ましくは100~400質量部、より一層好ましくは200~300質量部である。穀物粒の含有量が50質量部以上であると、粥において十分な粒感を得られやすい。一方で、穀物粒の含有量が500質量部以下であると、穀物粒同士が接着して団子状になることを防止することができる。
尚、ここでいう穀物粒は、米粒と、場合によって含まれる他の穀物粒とを意味するので、上記した穀物粒の含有量は、米粒と他の穀物粒との合計量として計算する。また、ここでいう穀物粒の「湿重量」は、上述の手順で篩を使って粥を固形部と液状部とに分画することにより得た(該固形部に具材が含まれている場合は、さらに該固形部から具材を取り除くことにより得た)含水状態の穀物粒の重量を意味する。
【0028】
このようにして得られた粥は、そのまま喫食してもよく、具材を加えて喫食してもよく、別途用意したたれやあんをかけて喫食してもよい。
【0029】
具材を加える場合、その例としては、特に限定されず、肉類(魚介類を含む)、野菜類(イモ類及びキノコ類を含む)、豆類、木の実類、果実類、卵等の粥に適用し得る食材が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。具材の種類、大きさ及び形状は、該粥の種類に応じて適宜選択することができる。
【0030】
具材を加える場合、工程(1)で煮汁1と固液分離された茹で調理済み野菜類及び/又は工程(2)で煮汁2と固液分離された茹で調理済み肉類を具材として用いると、具材の風味・食感と粥の風味・食感の一体性が高められるため好ましい。つまり、本発明の第1の形態の製造方法は、工程(3)より後に、工程(4)として、工程(1)で得られた茹で調理済み野菜類及び/又は工程(2)で得られた茹で調理済み肉類を、工程(3)で得られた粥に加える工程を有することができる。
尚、具材は、種類に応じて、工程(4)で加えるのではなく、例えば工程(3)で加えて米と一緒に調理してもよい。
【0031】
粥における具材の含有量は、湿重量基準で、粥の液状部100質量部に対して、好ましくは0~150質量部、より好ましくは0~80質量部である。尚、ここでいう具材の「湿重量」は、上述の手順で篩を使って粥を固形部と液状部とに分画した後、該固形部から取り出した、含水状態の具材の重量を意味する。
従って、粥に含まれる固形部は、前述の穀物粒(米粒、及び場合によって含まれる他の穀物粒)と具材との合計量として、粥の液状部100質量部に対して、50~650質量部であることが望ましい。
【0032】
また、得られた粥は、容器等に密封して保存しておき、必要時に開封して喫食してもよい。例えば、粥を耐圧・耐熱性の包装容器に密封後、加熱殺菌処理を行って常温で保存可能にしたり、包装容器に密封後、冷蔵又は冷凍して保存することができる。本発明で得られる粥は、冷蔵又は冷凍保存用食品として好適である。つまり、本発明の第1の形態の製造方法は、工程(3)より後に、工程(5)として、得られた粥を冷蔵又は冷凍する工程を有することができる。工程(5)は、工程(4)の後でもよい。冷蔵又は冷凍の方法は、食品分野における常法に従えばよい。
【0033】
保存に用いる包装容器は、粥を密封することができるものであれば特に制限されず、耐熱性の包装容器や包装袋を挙げることができる。例えば、ポリプロピレン等の耐熱性プラスチック製容器、アルミニウム製の缶、耐熱性プラスチック製やアルミニウム製のパウチ容器等を挙げることができる。
【0034】
包装容器で保存した粥は、保存後に、必要に応じて再加熱を行うことで、喫食することができる。再加熱方法は特に制限されず、例えば、包装容器を開封して中身を皿等に出して電子レンジを用いて加熱する方法や、包装容器ごとをそのまま湯煎等で加熱する方法が挙げられる。
【0035】
次に、本発明の第2の形態の製造方法について説明する。
本発明の第2の形態は、
(1’)水性液体で肉類を茹でた後に固液分離して、煮汁1’及び茹で調理済み肉類をそれぞれ得る工程、
(2’)煮汁1’で野菜類を茹でた後に固液分離して、煮汁2’及び茹で調理済み野菜類をそれぞれ得る工程、並びに
(3’)煮汁2’で米を調理して粥を得る工程
を有する、粥の製造方法である。
【0036】
第1の形態と第2の形態との違いは、肉類と野菜類を茹でる順番の違いである。従って、本発明の第2の形態の製造方法は、肉類と野菜類を茹でる順番以外は、上述の第1の形態の製造方法に準じて実施することができる。
【0037】
工程(1’):
工程(1’)では、水性液体で肉類を茹でた後に固液分離して、煮汁1’及び茹で調理済み肉類をそれぞれ得る。工程(1’)において茹で調理済み肉類を分離して得られる煮汁1’は、肉出汁ともいえる。工程(1’)で用いる水性液体は、前述の工程(1)で用いる水性液体と同様であり、工程(1’)で用いる肉類は、前述の工程(2)で用いる肉類と同様である。
【0038】
工程(1’)の茹で操作は、前述の工程(2)における肉類の茹で操作に準じて行うことができる。具体的には、鍋に張った水性液体を90℃~沸騰になるまで加熱し、肉類を投入して水温を80~98℃に調節しながら、30秒~12時間、好ましくは5分~6時間、さらに好ましくは3分~1時間茹でればよい。このとき、水性液体10リットルに対し肉類0.1~7キロ、特に1~5キロの比率で使用すると、風味の良い肉出汁を得ることができる。
尚、工程(1)と同様に、工程(1’)においても、必要に応じて、茹で操作の途中若しくは終了後又は固液分離の後に、水を適宜加えて煮汁1’の量を調整してもよい。最終的な煮汁1’の量が、「(工程(1’)の茹で操作の開始時に使用した水性液体の量)±20質量%」の範囲内になるようにすると、風味の良い肉出汁となる。
【0039】
工程(2’):
工程(2’)では、工程(1’)で得られた煮汁1’で野菜類を茹でた後に固液分離して、煮汁2’及び茹で調理済み野菜類をそれぞれ得る。工程(2’)において茹で調理済み野菜類を分離して得られる煮汁2’は、肉/野菜混合出汁ともいえる。工程(2’)で用いる野菜類は、前述の工程(1)で用いる野菜類と同様である。
【0040】
工程(2’)の茹で操作は、前述の工程(1)における野菜類の茹で操作に準じて行うことができる。具体的には、鍋に張った煮汁1’を90℃~沸騰になるまで加熱し、野菜類を投入して水温を80~98℃に調節しながら、10秒~12時間、好ましくは30秒~6時間、さらに好ましくは3分~1時間茹でればよい。このとき、煮汁1’の10リットルに対し野菜類0.1~7キロ、特に0.2~4キロの比率で使用すると、風味の良い肉/野菜混合出汁を得ることができる。
尚、工程(2)と同様に、工程(2’)においても、必要に応じて、茹で操作の途中若しくは終了後又は固液分離の後に、水を適宜加えて煮汁2’の量を調整してもよい。最終的な煮汁2’の量が、「(工程(1’)の茹で操作の開始時に使用した水性液体の量)±20質量%」の範囲内になるようにすると、風味の良い肉/野菜混合出汁となる。
【0041】
工程(3’):
工程(3’)においては、工程(2’)で得られた煮汁2’、即ち肉/野菜混合出汁で米を調理して粥を得る。工程(3’)の米の調理は、前述の工程(3)と同様にして行うことができる。
【0042】
本発明の第2の形態の製造方法に関し、以上に述べなかった点については、前述の第1の形態の製造方法について説明を適宜適用することができる。
【実施例0043】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例等によって何ら限定されるものではない。
【0044】
(実施例1~5)
工程(1):鍋を用意し、清水5リットルを入れて火にかけ、沸騰させた。ここに野菜類(くし切りにしたタマネギ、ニンジン、ジャガイモ、セロリ及びキャベツのうちのいずれか1種)1kgを入れ、沸騰する手前の状態を保ちながら15分間茹でた。その後、鍋の内容物を網で濾すことにより固液分離して、煮汁1及び茹で調理済み野菜をそれぞれ得た。煮汁1は、必要に応じて水を加えて5リットルにした後、元の鍋に戻した。
工程(2):工程(1)で得た煮汁1の5リットルに、鶏胸肉のぶつ切り1kgを入れ、火にかけて沸騰する手前の状態を保ちながら30分間茹でた。鍋の内容物を網で濾すことにより固液分離して、煮汁2及び茹で調理済み鶏胸肉をそれぞれ得た。煮汁2は、必要に応じて水を加えて5リットルにした。
工程(3):小鍋を用意し、研いで水切りした白米45gと煮汁2の300ミリリットルを入れて火にかけ、吹きこぼれないように30分間調理して粥を製造した。
【0045】
(実施例6~10)
工程(1’):鍋を用意し、清水5リットルを入れて火にかけ、沸騰させた。ここにぶつ切りにした肉類(鶏胸肉、牛すじ肉、タイ、ホタテ及びエビのうちのいずれか1種)1kgを入れ、沸騰する手前の状態を保ちながら30分間茹でた。その後、鍋の内容物を網で濾すことにより固液分離して、煮汁1’及び茹で調理済み肉類をそれぞれ得た。煮汁1’ は、必要に応じて水を加えて5リットルにした後、元の鍋に戻した。
工程(2’):工程(1’)で得た煮汁1’に、ニンジンのくし切り1kgを入れ、火にかけて沸騰する手前の状態を保ちながら15分間茹でた。鍋の内容物を網で濾すことにより固液分離して、煮汁2’及び茹で調理済みニンジンをそれぞれ得た。煮汁2’は、必要に応じて水を加えて5リットルにした。
工程(3’):小鍋を用意し、研いで水切りした白米45gと煮汁2’の300ミリリットルを入れて火にかけ、吹きこぼれないように30分間調理して粥を製造した。
【0046】
(比較例1~5)
工程(2)を行わず、工程(3)において、煮汁2に代えて、工程(1)で得られた煮汁1を用いた以外は、実施例1~5と同様にして粥を製造した。
【0047】
(比較例6~10)
工程(2’)を行わず、工程(3’)において、煮汁2’に代えて、工程(1’)で得られた煮汁1’を用いた以外は、実施例6~10と同様にして粥を製造した。
【0048】
(比較例11~15)
鍋を5つ用意し、清水5リットルを入れて火にかけ、沸騰させた。ここにぶつ切りにした肉類(鶏胸肉、牛すじ肉、タイ、ホタテ及びエビのうちのいずれか1種)1kgを入れ、さらに各鍋にニンジンのくし切り1kgを入れ、沸騰する手前の状態を保ちながら60分間茹でた。鍋の内容物を網で濾すことにより固液分離して、煮汁並びに茹で調理済みの肉類及びニンジンをそれぞれ得た。煮汁は、必要に応じて水を加えて5リットルにした。
小鍋を用意し、研いで水切りした白米45gと煮汁300ミリリットルを入れて火にかけ、吹きこぼれないように30分間調理して粥を製造した。
【0049】
(比較例16~20)
鍋を6つ用意し、それぞれ清水5リットルを入れて火にかけ、沸騰させた。ぶつ切りにした肉類(鶏胸肉、牛すじ肉及びタイ)並びにくし切りにした野菜類(タマネギ、ニンジン及びセロリ)のうちのいずれか1種1kgを各鍋に個別に入れ、沸騰する手前の状態を保ちながら30分間茹でた。鍋の内容物を網で濾すことにより固液分離して、肉類の煮汁及び茹で調理済みの肉類それぞれ3種類並びに野菜類の煮汁及び茹で調理済みの野菜類それぞれ3種類を得た。各煮汁は、必要に応じて水を加えて5リットルにした。
小鍋を用意し、研いで水切りした白米45gと、肉類の煮汁150ミリリットル及び野菜類の煮汁150ミリリットルを表3に記載の組み合わせで入れて火にかけ、吹きこぼれないように30分間調理して粥を製造した。
【0050】
(試験例1)製造直後の評価
製造直後の粥を10名の訓練された専門パネラーに喫食してもらい、その品質(粥の風味及び米粒の粒感)を下記の基準で評価した。それらの結果を10名の平均点として表1~3に示す。
【0051】
<粥の風味の評価基準>
5:肉と野菜の濃厚な旨味が十分に感じられ、非常に良好
4:肉と野菜の濃厚な旨味が感じられ、良好
3:だしの旨味があり、許容範囲
2:だしの旨味があまり感じられず、不良
1:だしの旨味が全く感じられず、非常に不良
<米粒の粒感の評価基準>
5:粥中に米粒の粒感が十分に感じられ、食べごたえが十分にあり、非常に良好
4:粥中に米粒の粒感が感じられ、食べごたえがあり、良好
3:粥中に米粒の粒感がやや物足りないが、許容範囲
2:粥中に米粒の粒感があまり感じられず、不良
1:粥中に米粒の粒感が全く感じられず、非常に不良
【0052】
(試験例2)冷凍保存後の評価
製造した粥を耐熱性のポリプロピレン製のトレイに100g入れ、ラップをして-20℃の冷凍庫に入れて、5日間冷凍保存した。保存後に冷凍庫から取り出し、電子レンジで500Wにて3分間再加熱した。この粥の品質を試験例1と同様に評価した。それらの結果を10名の平均点として表1~3に示す。
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
(実施例11及び12)
実施例11においては、実施例2で得られた粥200gに、実施例2の工程(1)で得られた茹で調理済みのニンジン10~15g及び工程(2)で得られた茹で調理済みの鶏胸肉35~40gを、それぞれ食べやすい大きさに切ってから入れて、具材入りの粥とした。
また、実施例12においては、実施例6で得られた粥200gに、実施例6の工程(1’)で得られた茹で調理済みの鶏胸肉35~40g及び工程(2’)で得られた茹で調理済みのニンジン10~15gを、それぞれ食べやすい大きさに切ってから入れて、具材入りの粥とした。
得られた具材入りの粥を専門パネラーに喫食してもらったところ、いずれの粥も、具材の風味・食感と粥の風味・食感の一体性が高いことが確認できた。