(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166916
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】固体電解質及び全固体リチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/056 20100101AFI20241122BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20241122BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20241122BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20241122BHJP
H01B 1/08 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
H01M10/056
H01M10/0562
H01M10/052
H01B1/06 A
H01B1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083348
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山本 翔一
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
【Fターム(参考)】
5G301CA02
5G301CA16
5G301CA19
5G301CA25
5G301CA30
5G301CD01
5G301CE02
5H029AJ07
5H029AK03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H029HJ02
(57)【要約】
【課題】良好な耐湿性を有する固体電解質及び全固体リチウムイオン電池を提供する。
【解決手段】組成式1:Li
αA
xM
yO
4(組成式1において、AはGe、SiまたはTi、MはV、PまたはAs、3.25≦α≦3.75、0.30≦x≦0.75、且つ、0.25≦y≦0.70である。)で表される固体電解質粒子と、固体電解質粒子の表面に設けられた炭素数3以上のアルキルハライドとを含む、固体電解質。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式1:LiαAxMyO4(組成式1において、AはGe、SiまたはTi、MはV、PまたはAs、3.25≦α≦3.75、0.30≦x≦0.75、且つ、0.25≦y≦0.70である。)
で表される固体電解質粒子と、
前記固体電解質粒子の表面に設けられた炭素数3以上のアルキルハライドと、
を含む、固体電解質。
【請求項2】
前記アルキルハライドのアルキル基が直鎖のアルキル基である、請求項1に記載の固体電解質。
【請求項3】
前記アルキルハライドが、1-ブロモペンタン、1-クロロペンタン、1-ブロモヘキサン、1-クロロヘキサン、1-ブロモへプタン、または1-クロロへプタンである、請求項1に記載の固体電解質。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の固体電解質を含む固体電解質層と、正極層と、負極層とを含む全固体リチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質及び全固体リチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年におけるパソコン、ビデオカメラ、及び携帯電話等の情報関連機器や通信機器等の急速な普及に伴い、その電源として利用される電池の開発が重要視されている。該電池の中でも、エネルギー密度が高いという観点から、リチウムイオン電池が注目を浴びている。また、車載用等の動力源やロードレベリング用といった大型用途におけるリチウムイオン二次電池についても、エネルギー密度や電池特性の向上が求められている。
【0003】
LISICON型酸化物系固体電解質は、Liイオンを伝導する固体材料として、次世代の全固体電池用固体電解質として期待されている。また、異なる価数のイオンと置換することでLi欠損や過剰Liの導入が可能であり、様々な元素と組み合わせた材料を作製することができる利点も有する。
【0004】
非特許文献1には、LISICON型酸化物系固体電解質であるLi3.5Ge0.5V0.5O4と、Ni-Co-Mn三元系正極活物質であるNCM111(Ni、Co及びMnを1:1:1の組成比で含む正極活物質)を組み合わせて、スパークプラズマ焼結で共焼結したセルを作製した結果、安定した充放電挙動を示すセル用焼結体を作製することができたことを開示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Toyoki Okumura, Tomonari Takeuchi, and Hironori Kobayashi, All-Solid-State Batteries with LiCoO2-Type Electrodes: Realization of an Impurity-Free Interface by Utilizing a Cosinterable Li3.5Ge0.5V0.5O4 Electrolyte, ACS Appl. Energy Mater. (2021), 4, 1, 30-34.
【非特許文献2】M. Bose, A. Basu, D. Mazumdar, D.N. Bose, Solid solutions of Li3VO4 Li4GeO4 as solid electrolytes: NMR and related studies, Solid State Ionics, Volume 15, Issue 2, (1985), 101-107.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
不燃性の酸化物系固体電解質を用いた酸化物系全固体リチウムイオン電池は、従来のリチウムイオン電池と比較して非常に安全性が高く、信頼性が向上した次世代の電池として注目されている。その電池の固体電解質として用いられる材料であるLi3.5Ge0.5V0.5O4は、LISICON型構造という材料群に属する材料で、酸化物系固体電解質として比較的高い0.1mS/cmに迫るイオン伝導度を有し、焼結が700℃程度で可能であり、正極活物質との界面形成がしやすいという特徴がある。
【0007】
しかしながら、Li3.5Ge0.5V0.5O4をはじめとするLISICON型構造材料の多くは、水蒸気を含有する大気中に曝露するとLiOHを経由して徐々に不純物相であるLi2CO3が析出し、純度を下げる原因となる。例えば、Li3VO4・Li4GeO4固溶体のNMRと電気伝導率の研究から、活性化エネルギーは広い範囲で組成の変化に影響を受けないが、水分には非常に敏感であることが示されている(非特許文献2)。このように不純物相の生成で固体電解質の純度が下がることにより、イオン伝導度の低下が問題となっている。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、良好な耐湿性を有する固体電解質及び全固体リチウムイオン電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記知見を基礎にして完成した本発明は以下の(1)~(4)で規定される。
(1)組成式1:LiαAxMyO4(組成式1において、AはGe、SiまたはTi、MはV、PまたはAs、3.25≦α≦3.75、0.30≦x≦0.75、且つ、0.25≦y≦0.70である。)
で表される固体電解質粒子と、
前記固体電解質粒子の表面に設けられた炭素数3以上のアルキルハライドと、
を含む、固体電解質。
(2)前記アルキルハライドのアルキル基が直鎖のアルキル基である、(1)に記載の固体電解質。
(3)前記アルキルハライドが、1-ブロモペンタン、1-クロロペンタン、1-ブロモヘキサン、1-クロロヘキサン、1-ブロモへプタン、または1-クロロへプタンである、(1)または(2)に記載の固体電解質。
(4)(1)~(3)のいずれかに記載の固体電解質を含む固体電解質層と、正極層と、負極層とを含む全固体リチウムイオン電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、良好な耐湿性を有する固体電解質及び全固体リチウムイオン電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態に係る固体電解質粒子と1-ブロモペンタンとの分子間力によるファンデルワールス結合の状態を表す模式図である。
【
図2】本実施形態に係る全固体リチウムイオン電池の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0013】
<固体電解質>
本実施形態の固体電解質は、組成式1:LiαAxMyO4(組成式1において、AはGe、SiまたはTi、MはV、PまたはAs、3.25≦α≦3.75、0.30≦x≦0.75、且つ、0.25≦y≦0.70である。)で表される固体電解質粒子と、固体電解質粒子の表面に設けられた炭素数3以上のアルキルハライドとを含む。
【0014】
本実施形態の固体電解質粒子は、LISICON型固体電解質であるLiαGexVyO4の母材料、または当該母材料に、Si、Ti、PまたはAsを置換してなる組成を有している。このような構成によれば、固体電解質を構成する元素の種類が多いLISICON型となるため、活性化エネルギーが低減し、良好なイオン伝導度を有する固体電解質が得られる。この結果、全固体リチウムイオン電池の容量がより大きくなる。
なお、本発明において、固体電解質とは、リチウムイオンの対アニオンとして、中心元素に酸素原子が配位結合したオキソ酸イオンを骨格に有する固体電解質を指す。
【0015】
本実施形態の固体電解質粒子は、上記組成式1において、αが3.25未満であると、キャリア濃度が低いためイオン伝導度が低下するという問題が生じるおそれがある。また、αが3.75超であると、単一相合成が困難となる問題が生じるおそれがある。本実施形態の固体電解質粒子は、上記組成式1において、3.4≦α≦3.7であるのが好ましい。
【0016】
本実施形態の固体電解質粒子は、上記組成式1において、xが0.30未満であると、Li4GeO4相等のイオン伝導性の低い相が生じるおそれがある。また、xが0.75超であると、結晶格子が大きくなるためLiサイト間距離が長くなり、イオン伝導度が低下するおそれがある。本実施形態の固体電解質粒子は、上記組成式1において、0.4≦x≦0.6であるのが好ましい。
【0017】
本実施形態の固体電解質粒子は、上記組成式1において、yが0.25未満であると、元素置換による活性化エネルギー低減の効果が弱いため、イオン伝導度の向上効果が小さいおそれがある。また、yが0.70超であると、Li4VO4などの不純物相が生成し、イオン伝導度が低下するおそれがある。本実施形態の固体電解質粒子は、上記組成式1において、0.3≦y≦0.6であるのが好ましい。
【0018】
本実施形態の固体電解質は、固体電解質粒子の表面に炭素数3以上のアルキルハライドが設けられている。アルキルハライドは、ハロゲン化アルキルとも呼ばれ、一般式:R-X(Rはアルキル基、Xはハロゲン原子)で表される有機化合物である。固体電解質粒子の表面のアルキルハライドは、そのハロゲン原子が固体電解質粒子側に、アルキル基が固体電解質粒子の反対側に位置するように配置し、ハロゲン原子と固体電解質粒子の表面の半金属原子であるGeや金属原子であるV、表面に露出した水酸基(OH)の水素原子等との間で分子間力による結合(ファンデルワールス結合)が生じている。
図1に、本実施形態に係る固体電解質粒子と1-ブロモペンタン(アルキルハライド)との分子間力によるファンデルワールス結合の状態を表す模式図を示す。
【0019】
このように、固体電解質粒子の表面に炭素数3以上のアルキルハライドが設けられていると、固体電解質が水蒸気を含有する大気中に曝露されたとき、固体電解質粒子の表面の炭素数3以上のアルキルハライドが固体電解質粒子の表面への水蒸気の吸着を抑制する。従って、本実施形態の固体電解質の耐湿性が向上する。
【0020】
アルキルハライドの炭素数が3以上であると、固体電解質粒子の表面に存在する炭素群が多くなり、水蒸気の吸着を良好に抑制することができる。アルキルハライドの炭素数の上限は特に限定されないが、固体電解質の性能を妨げない程度であるのが好ましい。このような観点から、アルキルハライドの炭素数は、3~16であるのが好ましく、3~12であるのがより好ましく、3~8であるのが更により好ましい。
【0021】
アルキルハライドのアルキル基は、分岐したアルキル基であっても耐湿性の向上効果を有するが、直鎖のアルキル基であるのがより好ましい。アルキルハライドのアルキル基が直鎖のアルキル基であると、
図1に示すように、アルキルハライドのアルキル基が固体電解質粒子の反対側へ直線状に伸びた状態となっているため、より少ない炭素数で、固体電解質粒子の表面に接近しようとする水蒸気をより遠くへ排除することができる。従って、固体電解質の性能を維持しつつ、より耐湿性を向上させることができる。
【0022】
アルキルハライドは、固体電解質粒子の表面の少なくとも一部に設けられていると、それだけ耐湿性の向上効果はあるが、耐湿性を最も向上させるという観点からは、固体電解質粒子の表面全体を覆うように設けられていることが好ましい。
【0023】
アルキルハライドの具体例としては、1-ブロモペンタン、1-クロロペンタン、1-ブロモヘキサン、1-クロロヘキサン、1-ブロモへプタン、1-クロロへプタン等が挙げられる。これらのアルハライドは、炭素数が5~7である直鎖のアルキル基を有しており、炭素数が多すぎないため固体電解質の性能を維持することができ、且つ、直鎖のアルキル基を有しているため、より耐湿性を向上させることができるという観点から特に好ましいアルハライドである。
【0024】
本実施形態の固体電解質の平均粒径D50(50%累積体積粒度D50)は特に限定されないが、0.01~100μmであってもよく、0.1~100μmであってもよく、0.1~50μmであってもよい。
【0025】
本実施形態の固体電解質は以下のようにして作製することができる。
まず、アルゴンガスまたは窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気のグローブボックス内で所定の組成となるように固体電解質粒子の原料を秤量する。ここで用いる各原料は、例えば、LiOH・H2O、GeO2、V2O5、SiO2、TiO2、H3PO4、H3AsO3等が挙げられる。
【0026】
次に、乳鉢などにより、5~30分混合して混合粉を作製する。このとき、混合粉の平均粒径D50(50%累積体積粒度D50)が5~40μmとなるような時間だけ混合することが好ましい。
【0027】
次に、当該混合粉をアルミナ製匣鉢にのせ、600~1000℃で1~20時間焼成することで、組成式1:LiαAxMyO4(組成式1において、AはGe、SiまたはTi、MはV、PまたはAs、3.25≦α≦3.75、0.30≦x≦0.75、且つ、0.25≦y≦0.70である。)で表される、本実施形態の固体電解質粒子を作製することができる。
【0028】
次に、アルキルハライドを原液のまま、もしくは無水エタノールで10質量%に調整した溶液を作製し、コーティング液として準備する。
次に、固体電解質粒子1gに対してアルキルハライドが0.5~10gになるよう固体電解質粒子とコーティング液を三角フラスコに投入し、室温において30分間スターラーで分散させてスラリーを作製する。
次に、作製した固体電解質粒子とコーティング液とのスラリーを遠心分離して固液分離した後、上澄み液を除去し、回収した固体を、管状炉を用いて80℃で12時間真空乾燥する。
このようにして、本実施形態に係る固体電解質を作製することができる。
【0029】
<全固体リチウムイオン電池>
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池は、固体電解質層と、正極層と、負極層とを含む。本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池は、固体電解質層と、正極層と、負極層とを用いて
図2に示すような構成とすることができる。
【0030】
(固体電解質層)
本実施形態の固体電解質層は、上述の本実施形態の固体電解質によって形成される。固体電解質層の平均厚みについては特に限定されず、目的に応じて適宜設計することができる。本実施形態の固体電解質層の平均厚みは、例えば、50μm~500μmであってもよく、50μm~100μmであってもよい。
【0031】
本実施形態の固体電解質層の形成方法については特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。本実施形態の固体電解質層の形成方法としては、例えば、上述の本実施形態の固体電解質のターゲット材料を用いたスパッタリング、または、上述の本実施形態の固体電解質を圧縮成形する方法などが挙げられる。
【0032】
(正極層)
本実施形態の正極層は、公知のリチウムイオン電池用正極活物質と、上述の本実施形態の固体電解質または別の固体電解質とを混合してなる正極合材を層状に形成したものである。正極層における正極活物質の含有量は、例えば、50質量%以上99質量%以下であることが好ましく、60質量%以上90質量%以下であることがより好ましい。
【0033】
公知のリチウムイオン電池用正極活物質としては、例えば、組成式2:LiaNibCocMndO2(組成式2において、1.00≦a≦1.08、0.60≦b≦0.90、且つ、b+c+d=1.0である。)で表される正極活物質を含む。本実施形態の正極活物質が、上記組成式2で示すようにNi比率が0.60~0.90と高いハイニッケルNCM正極活物質であると、一般的に全固体リチウムイオン電池の容量が高くなる。また、このような観点から、上記組成式2において、0.80≦b≦0.90であるのがより好ましい。
【0034】
正極合材は、さらに導電助剤を含んでもよい。当該導電助剤としては、炭素材料、金属材料、または、これらの混合物を用いることができる。導電助剤は、例えば、炭素、ニッケル、銅、アルミニウム、インジウム、銀、コバルト、マグネシウム、リチウム、クロム、金、ルテニウム、白金、ベリリウム、イリジウム、モリブデン、ニオブ、オスニウム、ロジウム、タングステン及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種の元素を含んでもよい。導電助剤は、好ましくは、導電性が高い炭素単体、炭素や、ニッケル、銅、銀、コバルト、マグネシウム、リチウム、ルテニウム、金、白金、ニオブ、オスニウム又はロジウムを含む金属単体、またはそれらの混合物、化合物である。炭素材料としては、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、デンカブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック、黒鉛、炭素繊維、活性炭等を用いることができる。
【0035】
全固体リチウムイオン電池の正極層の平均厚みについては特に限定されず、目的に応じて適宜設計することができる。全固体リチウムイオン電池の正極層の平均厚みは、例えば、1μm~100μmであってもよく、1μm~10μmであってもよい。
【0036】
全固体リチウムイオン電池の正極層の形成方法については特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。全固体リチウムイオン電池の正極層の形成方法としては、例えば、全固体リチウムイオン電池用正極活物質を圧縮成形する方法などが挙げられる。
【0037】
(負極層)
全固体リチウムイオン電池の負極層は、公知の全固体リチウムイオン電池用負極活物質を層状に形成したものであってもよい。また、当該負極層は、公知の全固体リチウムイオン電池用負極活物質と、固体電解質とを混合してなる負極合材を層状に形成したものであってもよい。負極層における負極活物質の含有量は、例えば、10質量%以上99質量%以下であることが好ましく、20質量%以上90質量%以下であることがより好ましい。
【0038】
負極層は、正極層と同様に、導電助剤を含んでもよい。当該導電助剤は、正極層において説明した材料と同じ材料を用いることができる。負極活物質としては、例えば、炭素材料、具体的には、人造黒鉛、黒鉛炭素繊維、樹脂焼成炭素、熱分解気相成長炭素、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、フルフリルアルコール樹脂焼成炭素、ポリアセン、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、天然黒鉛及び難黒鉛化性炭素等、または、その混合物を用いることができる。また、負極材としては、例えば、金属リチウム、金属インジウム、金属アルミ、金属ケイ素等の金属自体や他の元素、化合物と組み合わせた合金を用いることができる。
【0039】
全固体リチウムイオン電池の負極層の平均厚みについては特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。全固体リチウムイオン電池の負極層の平均厚みは、例えば、1μm~100μmであってもよく、1μm~10μmであってもよい。
【0040】
全固体リチウムイオン電池の負極層の形成方法については特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。全固体リチウムイオン電池の負極層の形成方法としては、例えば、負極活物質を圧縮成形する方法、負極活物質を蒸着する方法などが挙げられる。
【0041】
リチウムイオン電池を構成するその他の部材については特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、正極集電体、負極集電体、及び、電池ケースなどが挙げられる。
【0042】
正極集電体の大きさ及び構造については特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。
正極集電体の材質としては、例えば、ダイス鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン合金、銅、金、ニッケルなどが挙げられる。
正極集電体の形状としては、例えば、箔状、板状、メッシュ状などが挙げられる。
正極集電体の平均厚みとしては、例えば、10μm~500μmであってもよく、50μm~100μmであってもよい。
【0043】
負極集電体の大きさ及び構造については特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。
負極集電体の材質としては、例えば、ダイス鋼、金、インジウム、ニッケル、銅、ステンレス鋼などが挙げられる。
負極集電体の形状としては、例えば、箔状、板状、メッシュ状などが挙げられる。
負極集電体の平均厚みとしては、例えば、10μm~500μmであってもよく、50μm~100μmであってもよい。
【0044】
電池ケースについては特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、従来の全固体電池で使用可能な公知のラミネートフィルムなどが挙げられる。ラミネートフィルムとしては、例えば、樹脂製のラミネートフィルム、樹脂製のラミネートフィルムに金属を蒸着させたフィルムなどが挙げられる。
電池の形状については特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、円筒型、角型、ボタン型、コイン型、扁平型などが挙げられる。
【0045】
<耐湿性>
Li3.5Ge0.5V0.5O4をはじめとするLISICON型構造材料の多くは、水蒸気を含有する大気中に曝露するとLiOHを経由して徐々に不純物相であるLi2CO3が析出し、純度を下げる原因となる。本実施形態では、固体電解質の耐湿性の評価として、粉末X線回折法:XRD(θ/2θ法)によって得られたLi2CO3ピーク(2θ=31.65°~31.90°)の高さを当該固体電解質がどれだけ水分を含んでいるかの指標とする。そして、固体電解質の耐湿性については、固体電解質に大気曝露試験を行い、大気曝露前と後とで、それぞれXRD解析を行う。そして、XRD結果におけるLi2CO3ピーク(2θ=31.65°~31.90°)の高さの最大値について、大気曝露前の当該最大値(Ia)と大気曝露後の当該最大値(Ib)との比:Ib/Iaが2.0以下であるときを、良好な耐湿性を有していると評価する。
【0046】
上述のXRDは、以下の条件により解析することができる。
・X線回折装置:株式会社リガク製SmartLab
・光源:CuKα線
・電圧:40kV
・電流:30mA
・スキャン速度:2θ=7.5°/分
【実施例0047】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を提供するが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。
【0048】
<1.固体電解質の作製>
(実施例1)
アルゴン雰囲気のグローブボックス内で原料仕込み組成が目的化合物の化学量論組成となるように原料を秤量し、乳鉢を用いて15分間混合して混合粉を作製した。次に、当該混合粉の2g程度をアルミナボートにのせ、600℃で12時間仮焼し、乳鉢で手解砕して仮焼粉を得た。その後、仮焼紛1g程度を再びアルミナボートにのせ、700℃で12時間本焼成することで、Li3.5Ge0.5V0.5O4の組成を有する固体電解質粒子を得た。
得られた固体電解質粒子を、ジェットミルで処理することで平均粒径D50=3.7μmの固体電解質粒子を得た。
次に、1-ブロモペンタンを原液のまま、コーティング液として準備した。ここで「原液」とは溶媒で希釈されていない1-ブロモペンタン等のアルキルハライドの液(純度98%以上など)を意味する。
次に、固体電解質粒子1gに対してコーティング液である1-ブロモペンタンの原液が10gになるよう固体電解質粒子とコーティング液を三角フラスコに投入し、室温において30分間スターラーで分散させた。
次に、固体電解質粒子とコーティング液とのスラリーを遠心分離して固液分離した後、上澄み液を除去し、回収した固体を、管状炉を用いて80℃で12時間真空乾燥した。
乾燥後、粉末を軽く乳棒と乳鉢で解砕した。
このようにして、1-ブロモペンタンでコーティングされたLi3.5Ge0.5V0.5O4の粉末を得た。
【0049】
(実施例2)
コーティング液に10質量%の1-ブロモペンタン無水エタノール溶液を用いた以外は、実施例1と同様の手順で実施した。
【0050】
(実施例3)
使用する固体電解質粒子として、合成したLi3.5Ge0.5V0.5O4に対して遊星ボールミルとジェットミル処理により平均粒径D50=0.4μmを有する固体電解質粒子を作製した以外は、実施例1と同様の手順で実施した。
【0051】
(実施例4)
使用する固体電解質粒子として、合成後手解砕処理により平均粒径D50=10.5μmを有する固体電解質粒子を作製した以外は、実施例1と同様の手順で実施した。
【0052】
(実施例5)
コーティング液に原液の1-クロロペンタンを用いた以外は、実施例1と同様の手順で実施した。
【0053】
(実施例6)
コーティング液に10質量%の1-クロロペンタン無水エタノール溶液を用いた以外は、実施例1と同様の手順で実施した。
【0054】
(比較例1)
固体電解質粒子にコーティング処理を行わない以外は、実施例1と同様の手順で実施した。
【0055】
<2.固体電解質粒子の組成評価>
実施例1~6及び比較例1で得られた各固体電解質粒子のサンプルを0.5gはかり取り、種々の酸を用いて溶液化した後、株式会社日立ハイテク製の誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-OES)「PS7800」を用いて、組成分析を行うことができる。
【0056】
<3.固体電解質粒子の平均粒径>
実施例1~6及び比較例1で得られた各固体電解質粒子のサンプルについて、それぞれ平均粒径D50(50%累積体積粒度D50)を以下のようにして測定した。
得られた各固体電解質粒子100mgを、Microtrac社製レーザー回折型粒度分布測定装置「MT3300EXII」を用いて、50%流速中、40Wの超音波を60秒間照射して分散後、粒度分布を測定し、体積基準の累積粒度分布曲線を得た。得られた累積粒度分布曲線において、50%累積時の体積粒度を、固体電解質粒子の50%累積体積粒度D50(平均粒径D50)とした。なお、測定の際の水溶性溶媒は0.02μmのフィルターを通し、溶媒屈折率を1.333、粒子透過性条件を透過、粒子屈折率を1.81、形状を非球形とし、測定レンジを0.021~2000μm、測定時間を30秒とした。
【0057】
<4.固体電解質のXRD評価(耐湿性評価)>
実施例1~6で得られた各固体電解質のサンプル(固体電解質粒子の表面がアルキルハライドで被覆されたサンプル)と比較例1で得られた固体電解質のサンプルについて、以下の条件で大気曝露を行った。
各固体電解質のサンプルをアルミナボート上に0.5g程度優しく載せ、そのアルミナボートを60℃、相対湿度40%に設定した恒温恒湿槽(ADVANTEC社製、THR050FB)に入れて15時間安置した。安置後、回収した各サンプルを乳棒乳鉢で軽く解砕し、大気曝露サンプルを得た。
実施例1~6で得られた各固体電解質のサンプル(固体電解質粒子の表面がアルキルハライドで被覆されたサンプル)と比較例1で得られた固体電解質のサンプルについて、上述の大気曝露後のものと、大気曝露前のものとについて、それぞれ以下に示す条件でXRD評価を行った。
・X線回折装置:株式会社リガク製SmartLab
・光源:CuKα線
・電圧:40kV
・電流:30mA
・スキャン速度:2θ=7.5°/分
ここで得られた実施例1~6及び比較例1に係るX線回折パターンに関し、大気曝露前のものと大気曝露後のものについて、それぞれ
図3~9に示す。
XRD結果におけるLi
2CO
3ピーク(2θ=31.65°~31.90°)の高さの最大値について、大気曝露前の当該最大値(I
a)と大気曝露後の当該最大値(I
b)との比:I
b/I
aを算出した。
上記製造条件及び試験結果を表1に示す。
【0058】
【0059】
(評価結果)
実施例1~6に係る固体電解質は、いずれも組成式1:LiαAxMyO4(組成式1において、AはGe、SiまたはTi、MはV、PまたはAs、3.25≦α≦3.75、0.30≦x≦0.75、且つ、0.25≦y≦0.70である。)で表される固体電解質粒子と、固体電解質粒子の表面に設けられた炭素数3以上のアルキルハライドとを含んでいたため、XRD結果におけるLi2CO3ピーク(2θ=31.65°~31.90°)の高さの最大値について、大気曝露前の当該最大値(Ia)と大気曝露後の当該最大値(Ib)との比:Ib/Iaが2.0以下であった。このため、実施例1~6に係る固体電解質は、いずれも耐湿性が良好であったことがわかる。
一方、比較例1は、固体電解質粒子の表面にアルキルハライドが設けられておらず、大気曝露前の当該最大値(Ia)と大気曝露後の当該最大値(Ib)との比:Ib/Iaが2.0を超えていた。このため、比較例1に係る固体電解質は、耐湿性が不良であったことがわかる。
なお、実施例1~6に係る固体電解質は組成式1:LiαAxMyO4において、AがGeであり、MがVである組成に係るものである。ここで、AがSiまたはTiである場合や、MがPまたはAsである場合であっても、固体電解質粒子の表面に設けられた炭素数3以上のアルキルハライドを含んでおり、当該アルキルハライドが物理的な障壁となり、また、炭素数3以上と一定程度の疎水性を有することにより、水蒸気が固体電解質表面に吸着することを抑制するという効果は生じると考えられる。よって、固体電解質の組成式1において、AがSiまたはTiである場合や、MがPまたはAsである場合であっても、固体電解質粒子の表面に設けられた炭素数3以上のアルキルハライドを含んだ固体電解質は、固体電解質粒子の表面にアルキルハライドが設けられていない場合と比較して耐湿性は良好となると考えられる。