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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167016
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】細胞チップ
(51)【国際特許分類】
   C12N 11/04 20060101AFI20241122BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241122BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20241122BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
C12N11/04
C12N5/10
C12N1/00 F
C12Q1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083531
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 時郎
(72)【発明者】
【氏名】児玉 祐来
(72)【発明者】
【氏名】王 尊弘
(72)【発明者】
【氏名】川口 裕次郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 健太郎
【テーマコード(参考)】
4B033
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B033NA16
4B033NB33
4B033NB58
4B033NC06
4B033ND16
4B063QA01
4B063QQ08
4B063QS36
4B063QX02
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BC46
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】細胞の乾燥耐性、細胞の保持性、及び匂い物質等の化学物質の検出性に優れた細胞チップを提供すること。
【解決手段】細胞とゾル化可能なゲルとを含む区画を含む、細胞チップ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞とゾル化可能なゲルとを含む区画を含む、細胞チップ。
【請求項2】
前記ゲルが、温度制御、光照射、又は薬剤添加によりゾル化可能なゲルである、請求項1に記載の細胞チップ。
【請求項3】
前記ゲルが温度制御によりゾル化可能なゲルである、請求項2に記載の細胞チップ。
【請求項4】
前記ゲルのゾル化温度が40℃以下である、請求項3に記載の細胞チップ。
【請求項5】
前記ゲルのゾル化温度が30℃以下である、請求項3に記載の細胞チップ。
【請求項6】
前記ゲルのゾル-ゲル転移温度が4~25℃である、請求項3に記載の細胞チップ。
【請求項7】
前記ゲルがゾル化後に、粘度が20mPa・s以下であるゾルを形成する、請求項1に記載の細胞チップ。
【請求項8】
前記ゲルの4℃における貯蔵弾性率が0.01~20kPaである、請求項1に記載の細胞チップ。
【請求項9】
前記ゲルをゾル化後に前記細胞と被検化学物質とを接触させることを含む前記被検化学物質の検出方法に用いるための、請求項1~8のいずれかに記載の細胞チップ。
【請求項10】
前記細胞からの光の検出に用いるための、請求項1~8のいずれかに記載の細胞チップ。
【請求項11】
前記細胞が昆虫細胞である、請求項1~8のいずれかに記載の細胞チップ。
【請求項12】
前記細胞がセンサタンパク質のコード配列を含む外来性ポリヌクレオチドを含む、請求項1~8のいずれかに記載の細胞チップ。
【請求項13】
前記センサタンパク質が嗅覚受容体タンパク質である、請求項12に記載の細胞チップ。
【請求項14】
ゾル化可能なゲルの形成成分を含有する、細胞を固定するためのキット。
【請求項15】
細胞チップに細胞を固定するためのキットである、請求項14に記載のキット。
【請求項16】
細胞をゾル化可能なゲルで固定することを含む、運搬用細胞の製造方法。
【請求項17】
細胞を固定しているゾル化可能なゲルをゾル化することを含む、細胞からの光を検出する方法。
【請求項18】
ゾル化可能なゲルであって、
温度制御によりゾル化可能であり、
ゾル化温度が40℃以下であり、
ゾル-ゲル転移温度が4~25℃であり、
ゾル化後に、粘度が20mPa・s以下であるゾルを形成することができ、且つ
4℃における貯蔵弾性率が0.01~20kPaである、
ゲル。
【請求項19】
請求項18に記載のゲルを形成するゾル。
【請求項20】
請求項18に記載のゲル及び/又は請求項19に記載のゾルを含有する、請求項14に記載のキット。
【請求項21】
細胞チップに細胞を固定するためのキットである、請求項20に記載のキット。
【請求項22】
前記ゲルが請求項18に記載のゲルである、請求項16に記載の製造方法。
【請求項23】
前記ゲルが請求項18に記載のゲルである、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞チップ等に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの特定の疾患や精神状態等を特徴付ける匂い物質群が同定されており、診断マーカーとしての利用価値が高いことから、これらをターゲットとした様々な匂いセンサの開発が盛んになっている。生物の嗅覚受容体は、多様性、感度、選択性等の面で半導体等の従来の匂いセンサ素子にはない優れた特性を有することから、嗅覚受容体をセンサ素子とした新しい匂いセンサの開発が期待されている。
【0003】
特許文献1では、改変嗅覚受容体を発現する細胞や改変嗅覚受容体を備える脂質二重膜を匂いセンサとして用いることについて開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2022/024902号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
嗅覚受容体等のセンサタンパク質を備える脂質二重膜を人工的に調製する工程を有する匂いセンサは、製造効率が必ずしも十分ではないため、匂いセンサのさらなる製造効率向上が求められている。そこで、センサタンパク質を発現する細胞を利用することに着目した。
【0006】
匂いセンサ等の化学物質センサとして細胞を利用する場合、利用の簡便性の観点からは、細胞をその都度培養して調製して利用するという形態ではなく、予め細胞が容器などに保持されたものを調製しておき、それを必要な場合に利用するという形態が望ましい。後者の形態の場合、細胞の利用時まで細胞を乾燥させないことが必要であり、また製造元から利用場所までの搬送等を考慮すると細胞が安定に保持されていることが重要である。
【0007】
また、疾患等の判定に用いるという観点からは、互いに異なる嗅覚受容体を発現する複数種の細胞を同時に利用できることが望ましい。この観点から、細胞チップとしての利用が望ましい。
【0008】
そこで、本開示は、細胞の乾燥耐性、細胞の保持性、及び匂い物質等の化学物質の検出性に優れた細胞チップを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は研究を進める中で、細胞とハイドロゲルとを含む区画を含む細胞チップであれば、細胞を乾燥から防ぐことができ、且つ細胞を安定に保持できることに着目した。しかし、ハイドロゲル存在下では、化学物質添加後のセンサタンパク質の応答活性の上昇がなだらかであり、迅速且つ安定な活性測定ができないことが分かった。本発明者は、この知見に基づいて、細胞とゾル化可能なゲルとを含む区画を含む、細胞チップ、であれば、上記課題及び上記問題を解決できることを見出した。即ち、本開示は、下記の態様を包含する。
【0010】
項1. 細胞とゾル化可能なゲルとを含む区画を含む、細胞チップ。
【0011】
項2. 前記ゲルが、温度制御、光照射、又は薬剤添加によりゾル化可能なゲルである、項1に記載の細胞チップ。
【0012】
項3. 前記ゲルが温度制御によりゾル化可能なゲルである、項2に記載の細胞チップ。
【0013】
項4. 前記ゲルのゾル化温度が40℃以下である、項3に記載の細胞チップ。
【0014】
項5. 前記ゲルのゾル化温度が30℃以下である、項3に記載の細胞チップ。
【0015】
項6. 前記ゲルのゾル-ゲル転移温度が4~25℃である、項3に記載の細胞チップ。
【0016】
項7. 前記ゲルがゾル化後に、粘度が20mPa・s以下であるゾルを形成する、項1に記載の細胞チップ。
【0017】
項8. 前記ゲルの4℃における貯蔵弾性率が0.01~20kPaである、項1に記載の細胞チップ。
【0018】
項9. 前記ゲルをゾル化後に前記細胞と被検化学物質とを接触させることを含む前記被検化学物質の検出方法に用いるための、項1~8のいずれかに記載の細胞チップ。
【0019】
項10. 前記細胞からの光の検出に用いるための、項1~8のいずれかに記載の細胞チップ。
【0020】
項11. 前記細胞が昆虫細胞である、項1~8のいずれかに記載の細胞チップ。
【0021】
項12. 前記細胞がセンサタンパク質のコード配列を含む外来性ポリヌクレオチドを含む、項1~8のいずれかに記載の細胞チップ。
【0022】
項13. 前記センサタンパク質が嗅覚受容体タンパク質である、項12に記載の細胞チップ。
【0023】
項14. ゾル化可能なゲルの形成成分を含有する、細胞を固定するためのキット。
【0024】
項15. 細胞チップに細胞を固定するためのキットである、項14に記載のキット。
【0025】
項16. 細胞をゾル化可能なゲルで固定することを含む、運搬用細胞の製造方法。
【0026】
項17. 細胞を固定しているゾル化可能なゲルをゾル化することを含む、細胞からの光を検出する方法。
【0027】
項18. ゾル化可能なゲルであって、
温度制御によりゾル化可能であり、
ゾル化温度が40℃以下であり、
ゾル-ゲル転移温度が4~25℃であり、
ゾル化後に、粘度が20mPa・s以下であるゾルを形成することができ、且つ
4℃における貯蔵弾性率が0.01~20kPaである、
ゲル。
【0028】
項19. 項18に記載のゲルを形成するゾル。
【0029】
項20. 項18に記載のゲル及び/又は項19に記載のゾルを含有する、項14に記載のキット。
【0030】
項21. 細胞チップに細胞を固定するためのキットである、項20に記載のキット。
【0031】
項22. 前記ゲルが項18に記載のゲルである、項16に記載の製造方法。
【0032】
項23. 前記ゲルが項18に記載のゲルである、項17に記載の方法。
【発明の効果】
【0033】
本開示によれば、細胞の乾燥耐性、細胞の保持性、及び匂い物質等の化学物質の検出性に優れた細胞チップを提供することができる。さらに、本開示によれば、細胞チップに細胞を固定するためのキット、運搬用細胞の製造方法、細胞からの光を検出する方法、上記細胞チップへの使用に好適なゲル、当該ゲルを形成するゾル等を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】試験例4の嗅覚受容体の活性測定結果を示す。縦軸は蛍光強度を示し、横軸は時間経過を示す。化合物a(ORAが応答する物質)を添加した時点を矢印で示す。
図2】試験例5の嗅覚受容体の活性測定結果を示す。縦軸は蛍光強度を示し、横軸は時間経過を示す。化合物a(ORAが応答する物質)を添加した時点を矢印で示す。
図3】試験例6の嗅覚受容体の活性測定結果を示す。縦軸は蛍光強度の最大値からバックグラウンド値の平均(化合物添加前20秒間の平均)値を引いた値を示す。横軸において、パーセントはゼラチン濃度を示し、「ゲルなし」はゼラチン溶液に代えてバッファー溶液を添加した場合を示す。
図4】試験例7の嗅覚受容体の活性測定結果を示す。縦軸は蛍光強度の最大値からバックグラウンド値の平均(化合物添加前20秒間の平均)値を引いた値を示す。横軸において、「ゲルなし」はゼラチン溶液に代えてバッファー溶液を添加した場合を示し、他はハイドロゲル液化後のゾルの有無を示す。
図5】試験例8のゾルの粘度測定結果を示す。縦軸は粘度の測定値を示す。横軸は、ゼラチン溶液の魚ゼラチン濃度を示す。
図6】試験例9のゾルの粘度測定結果を示す。縦軸は粘度の測定値を示す。横軸は、ゼラチン溶液の魚ゼラチン濃度を示す。
図7】試験例10の貯蔵弾性率及びゾル-ゲル転移温度の測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0036】
本開示は、その一態様において、細胞とゾル化可能なゲルとを含む区画を含む、細胞チップ(本明細書において、「本開示の細胞チップ」と示すこともある。)、に関する。以下に、これについて説明する。
【0037】
細胞は、特に制限されない。細胞は、化学物質の検出に適しているという観点から、昆虫細胞、哺乳類動物細胞等の動物細胞が好ましく、CO2や温度管理が不要であるなど管理の容易さから昆虫細胞が特に好ましい。
【0038】
昆虫細胞としては、例えば、Sf細胞、MG1細胞、High FiveTM細胞、BmN細胞などが用いられる。Sf細胞としては、例えば、Sf9細胞(ATCC CRL1711)、Sf21細胞などが用いられる。昆虫細胞は、昆虫嗅覚受容体のコード配列をゲノム内に有しており、化学物質センサとして使用することができる。昆虫細胞の中でも、特にヒトリガ科(Arctiidae)の昆虫由来細胞が好ましい。
【0039】
ヒトリガ科の昆虫由来細胞は、ヒトリガ科の昆虫由来細胞の生体構成細胞の初代培養細胞、又は株化細胞であり、その限りにおいて特に制限されない。
【0040】
ヒトリガ科としては、例えばヒトリガ亜科(Arctiinae)、コケガ亜科(Lithosiinae)、カノコガ亜科(Syntominae)等が挙げられるが、これらの中でも好ましくはヒトリガ亜科が挙げられる。ヒトリガ亜科としては、好ましくはSpilosoma(クワゴマダラヒトリ属)、Spilarctia、Rhagonisの属が挙げられ、特に好ましくはクワゴマダラヒトリ属が挙げられる。クワゴマダラヒトリ属としては、特に制限されないが、特に好ましくはクワゴマダラヒトリ(Spilosoma imparilis)が挙げられる。
【0041】
ヒトリガ科の昆虫由来細胞は、公知の生物バンクから入手することもできるし、公知の方法に従って又は準じてヒトリガ科の昆虫の生体から採取・培養して得ること、必要に応じて株化して得ることができる。
【0042】
クワゴマダラヒトリ由来細胞としては、例えば農業生物資源ジーンバンクのFFPRI-SpIm-2AM-SF細胞(MAFF番号:275052)、FFPRI-SpIm-2AM-IPL411細胞(MAFF番号:275053)等が挙げられる。
【0043】
細胞は、センサタンパク質のコード配列を含む外来性ポリヌクレオチドを含むことが好ましい。これにより、任意のセンサタンパク質を発現させることができ、また目的のセンサタンパク質の発現量を増やし目的の化学物質の検出感度を高めることができる。
【0044】
外来性ポリヌクレオチドとは、昆虫細胞のゲノムDNA(特に、染色体ゲノムDNA)に由来しない塩基配列を含むポリヌクレオチドであり、その限りにおいて特に制限されない。
【0045】
本明細書において、ポリヌクレオチドには、次に例示するように、生物が内在するDNA、RNA等の典型的なポリヌクレオチド以外にも、公知の化学修飾が施されてなるポリヌクレオチド、人工ポリヌクレオチド等も包含される。ヌクレアーゼなどの加水分解酵素による分解を防ぐために、各ヌクレオチドのリン酸残基(ホスフェート)を、例えば、ホスホロチオエート(PS)、メチルホスホネート、ホスホロジチオネート等の化学修飾リン酸残基に置換することができる。また、各リボヌクレオチドの糖(リボース)の2位の水酸基を、-OR(Rは、例えばCH3(2´-O-Me)、CH2CH2OCH3(2´-O-MOE)、CH2CH2NHC(NH)NH2、CH2CONHCH3、CH2CH2CN等を示す)に置換してもよい。さらに、核酸塩基部分(ピリミジン、プリン)に化学修飾を施してもよく、例えば、ピリミジン塩基の5位へのメチル基やカチオン性官能基の導入、あるいは2位のカルボニル基のチオカルボニルへの置換などが挙げられる。さらには、リン酸部分やヒドロキシル部分が、例えば、ビオチン、アミノ基、低級アルキルアミン基、アセチル基等で修飾されたものなどを挙げることができるが、これに限定されない。また、ヌクレオチドの糖部の2´酸素と4´炭素を架橋することにより、糖部のコンフォーメーションをN型に固定したものであるBNA(LNA)等もまた、用いられ得る。
【0046】
センサタンパク質は、化学物質の存在を検出可能なタンパク質から選択すればよく、例えば化学物質をリガンドとする受容体タンパク質であることができる。センサタンパク質は、特に好ましくは嗅覚受容体タンパク質である。
【0047】
昆虫嗅覚受容体タンパク質は、7回膜貫通構造を有する膜タンパク質であり、生物の匂いセンサとして働く。嗅覚受容体タンパク質のアミノ末端(以下、「N末端」という場合もある。)からカルボキシル末端(以下、「C末端」という場合もある。)に向かって順に、N末端領域(NT)、第1膜貫通ドメイン(TM1)、第1細胞外ループ(EC1)、第2膜貫通ドメイン(TM2)、第1細胞内ループ(IC1)、第3膜貫通ドメイン(TM3)、第2細胞外ループ(EC2)、第4膜貫通ドメイン(TM4)、第2細胞内ループ(IC2)、第5膜貫通ドメイン(TM5)、第3細胞外ループ(EC3)、第6膜貫通ドメイン(TM6)、第3細胞内ループ(IC3)、第7膜貫通ドメイン(TM7)、及びC末端領域(CT)が連結されて構成される。本開示において、各領域は、TMpred(K. Hofmann, W. Stoffel, TMbase - a database of membrane spanning proteins segments, Biol. Chem. Hoppe-Seyler, 374 (1993), p. 166、https://embnet.vital-it.ch/software/TMPRED_form.html)を用いた構造予測(条件はデフォルト)により決定される。
【0048】
昆虫嗅覚受容体タンパク質の由来昆虫としては、好ましくはカ科、ショウジョウバエ科等の双翅目昆虫;カイコガ科等の鱗翅目昆虫;ミツバチ科等の膜翅目昆虫;バッタ科等の直翅目昆虫;トコジラミ科等の半翅目昆虫等が挙げられ、さらに好ましくはカ科、ショウジョウバエ科等の双翅目昆虫;バッタ科等の直翅目昆虫;トコジラミ科等の半翅目昆虫が挙げられる。カ科の昆虫としては、例えば、ガンビエハマダラカ(Anopheles gambiae)、ネッタイシマカ(Aedes aegypti)、ネッタイイエカ(Culex quinquefasciatus)等が挙げられる。ショウジョウバエ科の昆虫としては、例えば、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)、ウスグロショウジョウバエ(Drosophila pseudoobscura)、クロショウジョウバエ(Drosophila virillis)等が挙げられる。カイコガ科の昆虫としては、例えば、カイコガ(Bombyx mori)、クワコ(Bombyx mandarina)、イチジクカサン(Trilocha varians)等が挙げられる。ミツバチ科の昆虫としては、例えば、セイヨウミツバチ(Apis mellifera)、ヒメミツバチ(Apis florea)、オオミツバチ(Apis dorsata)、セイヨウオオマルハナバチ(Bombus terrestris)等が挙げられる。バッタ科の昆虫としては、例えば、トノサマバッタ(Locusta migratoria)等が挙げられ、トコジラミ科の昆虫としては、例えば、トコジラミ(Cimex lectularius)等が挙げられる。
【0049】
野生型の昆虫嗅覚受容体タンパク質として、具体的には、例えば、AaOR1、AaOR2、AaOR4、AaOR5、AaOR6、AaOR8、AaOR9、AaOR10a、AaOR15、AaOR22、AaOR24、AaOR25、AaOR26、AaOR27、AaOR28、AaOR30、AaOR34、AaOR36、AaOR38、AaOR41a、AaOR41b、AaOR42、AaOR43、AaOR44、AaOR47、AaOR49、AaOR50、AaOR52、AaOR54、AaOR58、AaOR59、AaOR60、AaOR61、AaOR64、AaOR65、AaOR66、AaOR67a、AaOR69a、AaOR70、AaOR71、AaOR72a、AaOR73、AaOR74、AaOR75、AaOR77、AaOR78、AaOR79、AaOR81、AaOR83b、AaOR84、AaOR85、AaOR86、AaOR87、AaOR91、AaOR95、AaOR97、AaOR96、AaOR99、AaOR100、AaOR102、AaOR103、AaOR104a、AaOR105、AaOR107、AaOR108、AaOR109、AaOR110、AaOR112、AaOR114、AaOR116、AaOR117、AaOR118、AaOR122、AaOR125、AaOR128、AgOR1、AgOR2、AgOR3、AgOR4、AgOR5、AgOR6、AgOR8、AgOR9、AgOR10、AgOR11a、AgOR12a、AgOR12b、AgOR13、AgOR14、AgOR15、AgOR16a、AgOR17、AgOR18、AgOR20、AgOR21、AgOR23、AgOR25、AgOR26、AgOR27、AgOR28、AgOR30、AgOR34、AgOR36、AgOR37、AgOR38、AgOR39a、AgOR40、AgOR42、AgOR44、AgOR45、AgOR46、AgOR47、AgOR49、AgOR50、AgOR54、AgOR56a、AgOR57、AgOR60、AgOR61、AgOR62、AgOR63、AgOR64、AgOR65、AgOR69、AgOR70、AgOR71、AgOR72、AgOR74、AgOR75、AgOR76a、AmOR1、AmOR3、AmOR9、AmOR10、AmOR13、AmOR41、AmOR51、AmOR52、AmOR55、AmOR71、AmOR73、AmOR78、AmOR85、AmOR89、AmOR90、AmOR114、AmOR115、AmOR118、AmOR120、AmOR121、AmOR161、BmOR1、BmOR2、BmOR3、BmOR4、BmOR5、BmOR8、BmOR9、BmOR10、BmOR13、BmOR17、BmOR18、BmOR23、BmOR24、BmOR25、BmOR35、BmOR36、BmOR42、BmOR45、BmOR49、BmOR51、BmOR52、BmOR55、BmOR56、BmOR61、DmOR1a、DmOR9a、DmOR19a、DmOR22a、DmOR22b、DmOR22c、DmOR24a、DmOR30a、DmOR33a、DmOR33b、DmOR33c、DmOR35a、DmOR42b、DmOR43a、DmOR45a、DmOR45b、DmOR47a、DmOR49b、DmOR59b、DmOR65b、DmOR65c、DmOR67b、DmOR67c、DmOR69a、DmOR71a、DmOR74a、DmOR82a、DmOR83a、DmOR83c、DmOR85a、DmOR85c、DmOR85e、DmOR85f、DmOR88a、DmOR92a、DmOR94a、DmOR94b、DmOR98b等が挙げられる。
【0050】
本明細書において、ORは嗅覚受容体(Odorant receptor)を示し、DmはDrosophila melanogaster由来であることを示し、BmはBombyx mori由来であることを示し、AgはAnopheles gambiae由来であることを示し、AaはAedes aegypti由来であることを示す。これらを含む各種嗅覚受容体タンパク質のアミノ酸配列及びコード配列は公知であるか、公知の配列に基づいた配列同一性検索により容易に同定することができる。
【0051】
センサタンパク質は、化学物質応答活性が著しく低減しない限りにおいて、野生型アミノ酸配列に対するアミノ酸変異を含むことができる。「著しく低減しない」とは、例えば、アミノ酸変異を含むセンサタンパク質の化学物質応答活性が、野生型のセンサタンパク質の化学物質応答活性100%に対して、例えば50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、よりさらに好ましくは90%以上である、ことを意味する。
【0052】
アミノ酸変異は、例えばアミノ酸の置換、挿入、付加、又は欠失であり、好ましくは置換であり、特に好ましくは保存的置換である。
【0053】
本明細書中において、「保存的置換」とは、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基に置換されることを意味する。例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジンといった塩基性側鎖を有するアミノ酸残基同士で置換されることが、保存的な置換にあたる。その他、アスパラギン酸、グルタミン酸といった酸性側鎖を有するアミノ酸残基;グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システインといった非帯電性極性側鎖を有するアミノ酸残基;アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンといった非極性側鎖を有するアミノ酸残基;トレオニン、バリン、イソロイシンといったβ-分枝側鎖を有するアミノ酸残基;チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジンといった芳香族側鎖を有するアミノ酸残基同士での置換も同様に、保存的な置換にあたる。
【0054】
センサタンパク質は、野生型アミノ酸配列、野生型アミノ酸配列に対して例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むことができる。
【0055】
本明細書において、アミノ酸配列の「同一性」とは、2以上の対比可能なアミノ酸配列の、お互いに対するアミノ酸配列の一致の程度をいう。従って、ある2つのアミノ酸配列の一致性が高いほど、それらの配列の同一性又は類似性は高い。アミノ酸配列の同一性のレベルは、例えば、配列分析用ツールであるFASTAを用い、デフォルトパラメータを用いて決定される。若しくは、Karlin及びAltschulによるアルゴリズムBLAST(Karlin S, Altschul SF.“Methods for assessing the statistical significance of molecular sequence features by using general scoringschemes”Proc Natl Acad Sci USA.87:2264-2268(1990)、KarlinS,Altschul SF.“Applications and statistics for multiple high-scoring segments in molecular sequences.”Proc Natl Acad Sci USA.90:5873-7(1993))を用いて決定できる。このようなBLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている。これらの解析方法の具体的な手法は公知であり、National Center of Biotechnology Information(NCBI)のウェブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を参照すればよい。
【0056】
センサタンパク質には、化学物質応答活性が著しく損なわれない限りにおいて、他のアミノ酸配列、例えばタンパク質タグ、蛍光タンパク質、発光タンパク質、シグナル配列等のタンパク質又はペプチドが付加されてもよい。タンパク質タグとしては、例えばビオチン、Hisタグ、FLAGタグ、Haloタグ、MBPタグ、HAタグ、Mycタグ、V5タグ、PAタグ等が挙げられる。
【0057】
本明細書において、化学物質応答活性とは、センサタンパク質が化学物質を認識し、そのセンサタンパク質単独が又は他のタンパク質と共役してシグナル伝達活性(例えば、イオンチャネル活性)を示す性質をいう。嗅覚受容体の場合であれば、嗅覚受容体が化学物質を認識し、その嗅覚受容体と嗅覚受容体共受容体とが形成した嗅覚受容体複合体が活性化されてイオンチャネル活性を示す性質をいう。センサタンパク質の化学物質応答活性は、化学物質と接触したセンサタンパク質のシグナル伝達活性を指標として(例えばシグナル分子の量を定量・評価して)測定することができる。嗅覚受容体の場合であれば、嗅覚受容体の化学物質応答活性は、化学物質と接触した嗅覚受容体と嗅覚受容体共受容体とが形成する嗅覚受容体複合体のイオンチャネル活性を指標として測定することができる。例えば、(a)嗅覚受容体、(b)嗅覚受容体共受容体、及び(c)嗅覚受容体複合体が応答した場合に細胞内に流入するイオン(カルシウムイオン等)により蛍光又は発光を発するタンパク質を発現する細胞と、化学物質とを接触させ、当該細胞の発光量を測定する。測定された発光量が多い程、嗅覚受容体の化学物質の応答活性が高いと判定する。具体的には特許文献1に記載の方法に従って測定することができる。
【0058】
センサタンパク質のコード配列は、センサタンパク質をコードする塩基配列である限り、特に制限されない。外来性ポリヌクレオチドは、その一態様において、センサタンパク質の発現カセットを含む。発現カセットは、細胞内でセンサタンパク質を発現可能なポリヌクレオチドである限り特に制限されない。センサタンパク質の発現カセットの典型例としては、プロモーター、及びそのプロモーターの制御下に配置されたセンサタンパク質のコード配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。
【0059】
プロモーターとしては、特に制限されず、適宜選択することができる。プロモーターとしては、例えばpol II系プロモーターを各種使用することができる。pol II系プロモーターとしては、特に制限されないが、例えばCMVプロモーター、EF1プロモーター、SV40プロモーター、MSCVプロモーター、昆虫由来遺伝子のプロモーター等が挙げられる。
【0060】
センサタンパク質が昆虫嗅覚受容体である場合、外来性ポリヌクレオチドは、昆虫の嗅覚受容体共受容体のコード配列を含むことが好ましい。昆虫の嗅覚受容体共受容体は、嗅覚受容体と同様に7回膜貫通構造を有する膜タンパク質であり、嗅覚受容体とヘテロ複合体を形成して機能する。嗅覚受容体と嗅覚受容体共受容体とから構成されるヘテロ複合体である嗅覚受容体複合体は、匂い物質で活性化されるイオンチャンネル活性が備わっており、活性化されるとナトリウムイオン(Na+)、カルシウムイオン(Ca2+)等の陽イオンを細胞内に流入させる。
【0061】
外来性ポリヌクレオチドは、センサタンパク質(特に、嗅覚受容体タンパク質)が応答した場合に細胞内に流入するイオン(カルシウムイオン等)により蛍光又は発光を発するタンパク質のコード配列を含むことが好ましい。このようなタンパク質としては、イクオリン、Yellow Cameleon(YC)、GCaMP等が挙げられる。或いは、本開示の細胞は、カルシウムイオン依存性蛍光色素(例えばFura-2、Fluo-3、Fluo-4等)等のイオン依存性蛍光色素を含むことが好ましい。
【0062】
外来性ポリヌクレオチドは、細胞を薬剤選別できるようにするために、薬剤耐性遺伝子のコード配列を含むことが好ましい。薬剤耐性遺伝子としては、細胞の薬剤選別に使用できる薬剤に対する耐性遺伝子を選択すればよく、例えばクロラムフェニコール耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、エリスロマイシン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子などが挙げられる。
【0063】
昆虫の嗅覚受容体共受容体のコード配列、発色又は発光するタンパク質のコード配列、薬剤耐性遺伝子のコード配列等のコード配列は、発現カセットの形態で外来性ポリヌクレオチドに含まれていることが好ましい。発現カセットの構成についてはセンサタンパク質の発現カセットと同様である。発現カセットのプロモーターは、複数のコード配列間で共有することが可能である。
【0064】
外来性ポリヌクレオチドは、好ましくはゲノムDNA(特に好ましくは染色体ゲノムDNA)に組み込まれている。これにより、安定にセンサタンパク質を発現することができ、化学物質検出に適したものとなる。この場合、ポリヌクレオチドは、ゲノムDNA内の、1つの連続領域であることができ、また2つ以上の連続領域の組み合わせ(例えばセンサタンパク質コード配列が連続領域Aに含まれ、薬剤耐性遺伝子のコード配列が連続領域Aとは別の連続領域である連続領域Bに含まれる形態、或いはセンサタンパク質コード配列が連続領域Aと連続領域Bの両方に含まれる形態)であることができる。
【0065】
ポリヌクレオチドは、別の態様において、ゲノムDNAに組み込まれない状態であることができる。この場合、外来性ポリヌクレオチドは、例えばベクターの形態であることができる。この場合、ポリヌクレオチドは、1種のポリヌクレオチド分子であることができ、また2種以上のポリヌクレオチド分子(例えばセンサタンパク質コード配列がポリヌクレオチド分子Aに含まれ、薬剤耐性遺伝子のコード配列がポリヌクレオチド分子Aとは別の分子であるポリヌクレオチド分子Bに含まれる形態、或いはセンサタンパク質コード配列がポリヌクレオチド分子Aとポリヌクレオチド分子Bの両方に含まれる形態)であることができる。
【0066】
ゲルは、ゾル化可能なものであり、その限りにおいて特に制限されない。ゾル化することにより、検出対象物質の高い拡散性が担保され、迅速且つ安定な測定が可能になると考えられる。また、ゾル化することにより、容易に除去することができるので、検出対象物質の拡散性がより優れた溶液に置換することが可能となる。このため、本開示は、その一態様において、ゾル化可能なゲルの形成成分を含有する、細胞チップに細胞を固定するためのキット、に関する。
【0067】
ゲルとしては、例えば温度制御、光照射、又は薬剤添加によりゾル化可能なゲルが挙げられる。これらの中でも、ゲル構成成分の準備の容易性、ゾル化の簡便性、ゾル-ゲル化の可逆性等の観点から、温度制御によりゾル化可能なゲルが好ましく、温度上昇によりゾル化可能なゲルがより好ましい。
【0068】
温度制御によりゾル化可能なゲルのゾル化温度は、本開示の細胞チップ中の細胞と接触して当該細胞をより強固に固定しつつも、ゾル化時の細胞への熱ダメージを抑制するという観点から、好ましくは40℃以下、より好ましくは35℃以下、さらに好ましくは30℃以下、特に好ましくは28℃以下である。当該温度の下限は、細胞の保存にとって望ましい温度で安定にゲル状態を保つことができるという観点から、好ましくは10℃、15℃、20℃、又は25℃である。
【0069】
ゾル化温度は、後述の試験例10に記載の動的粘弾性測定において、ゲルを+1℃/minで昇温させたときに損失正接が1を超える温度と定義することができる。
【0070】
温度制御によりゾル化可能なゲルのゾル-ゲル転移温度(すなわち、当該ゲルを形成前のゾルがゲルに転移する温度)は、本開示の細胞チップ中の細胞と接触して当該細胞をより強固に固定しつつも、ゾル調製及びゲル化時の細胞への熱ダメージを抑制するという観点から、好ましくは35℃以下、より好ましくは30℃以下、さらに好ましくは25℃以下、特に好ましくは20℃以下である。当該温度の下限は、0℃以上であれば特に制限されないが、細胞が凍結しない温度域で安定にゲル化可能であるという観点から、好ましくは4℃以上であり、運搬中に温度が上昇してもゲル化状態を維持するという観点から、より好ましくは10℃以上である。
【0071】
ゾル-ゲル転移温度は、後述の試験例10に記載の方法に従って測定することができる。
【0072】
ゾル化可能なゲルは、好ましくは、ゾル化後に、粘度が20mPa・s以下であるゾルを形成する。当該粘度は、検出対象物質の拡散性をより向上させることができ、より迅速且つより安定な測定に寄与するという観点から、また、細胞播種時の作業性を向上する観点から、好ましくは15mPa・s以下、より好ましくは10mPa・s以下、さらに好ましくは8mPa・s以下、よりさらに好ましくは6mPa・s以下、特に好ましくは5mPa・s以下である。当該粘度の下限は、特に制限されず、例えば0mPa・s、0.1mPa・s、0.2mPa・s、0.5mPa・s、又は1mPa・sである。
【0073】
粘度は、試験例8又は試験例9に記載の方法に従って又は準じて測定することができる。いずれか一方の方法で測定した値を、上記粘度とすることができる。粘度は、試験例9に記載の方法に従って又は準じて測定した値(すなわち、ゾル化した温度で2日間静置後の粘度)であることが好ましい。当該粘度が比較的低いことは、ゾル化後の経時的な粘度上昇が抑制されており、取扱い性に優れることを示す。
【0074】
ゾル化可能なゲルの4℃における貯蔵弾性率は、特に制限されず、例えば0.001~100kPaである。細胞を保持しつつも、ゲルと接触している細胞への外力を抑制する(すなわち細胞へのダメージを抑制する)という観点から、好ましくは0.01~20kPa、より好ましくは0.02~10kPa、さらに好ましくは0.05~5kPa、よりさらに好ましくは0.07~2kPaである。
【0075】
貯蔵弾性率は、後述の試験例10に記載の方法に従って測定することができる。
【0076】
ゾル化可能なゲルを形成する成分(ゲル形成成分:架橋されてネットワークを形成する成分)は、特に制限されないが、例えばゼラチン;寒天、カラギナン、澱粉、キサンタンガム等の多糖類;PVA、PEGなどの水溶性合成ポリマー類等が挙げられる。これらの中でも、上記した望ましい性質を発現させ易いという観点から、特に好ましくはゼラチンが挙げられる。ゼラチンは、牛骨、牛皮、豚骨、豚皮、魚鱗等のコラーゲン原料を、酸またはアルカリで前処理し、水洗、温水抽出、精製、濃縮乾燥することで得られる。ゼラチンのゾル物性及びゲル物性は、コラーゲン原料の種類、前処理、温水抽出条件等によって変化する。上記の本発明に望ましいゾル温度、ゾル-ゲル転移温度、ゾル粘度、ゲル弾性率を実現するためには、ゼラチンの中でも、魚由来のゼラチン(魚ゼラチン)が特に好ましく、前処理や温水抽出条件を適宜調整することで本発明に適したゾル物性及びゲル物性を得ることができる。
【0077】
ゲル形成成分は、1種単独であることができ、また2種以上の組合せであることができる。
【0078】
本開示の一態様において、ゾル化可能なゲル中のゼラチンの含有量は、ゲル形成成分100質量%に対して、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、よりさらに好ましくは85質量%以上、とりわけ好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上(中でも、100質量%)である。
【0079】
本開示の一態様において、ゾル化可能なゲル中のゼラチンの含有量は、ゲルを構成する固形分100質量%に対して、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、よりさらに好ましくは85質量%以上、とりわけ好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上(中でも、100質量%)である。
【0080】
ゾル化可能なゲルがゼラチンを含有する場合、当該ゲル中のゼラチンの濃度は、上記した望ましい性質を発現させ易いという観点から、好ましくは0.5~10質量%、より好ましくは0.7~8質量%、さらに好ましくは0.8~6質量%、よりさらに好ましくは0.9~4質量%、特に好ましくは1~3.5質量%である。
【0081】
ゾル化可能なゲルの溶媒は、細胞の生存に著しく悪影響を与えないものである限り特に制限されない。当該溶媒は、水を含有することが好ましい。当該溶媒中の水の含有率は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、よりさらに好ましくは85質量%以上、とりわけ好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上(中でも、100質量%)である。
【0082】
本開示は、その一態様において、ゾル化可能なゲル、及び当該ゲルを形成するゾル、に関する。より具体的には、当該ゲルは、温度制御によりゾル化可能であり、且つ
(a)ゾル化温度が一定範囲であること、
(b)ゾル-ゲル転移温度が一定範囲であること、
(c)ゾル化後に、粘度が一定範囲であるゾルを形成することができること、
(d)4℃における貯蔵弾性率が一定範囲であること、及び
(e)4℃でゲル化後、25℃に昇温して再ゾル化した際の粘度が一定範囲であること
からなる群より選択される少なくとも1つ(好ましくは2つ、より好ましくは3つ、特に好ましくは5つ)の要件を満たすゲルであることができる。
【0083】
本開示の細胞チップの区画は、細胞と、ゾル化可能なゲルとを含む。
【0084】
区画の形態は、細胞及びゲルを保持できる態様である限り特に制限されない。細胞の乾燥耐性、細胞の保持性、製造効率、又は化学物質検出性の観点から、区画は、ウェル状であることが好ましい。
【0085】
区画の材質は、細胞及ゲルを保持できるものである限り特に制限されない。材質は、例えば樹脂、金属等であることができる。
【0086】
区画における、細胞とゲルとの配置態様は、細胞の乾燥耐性、細胞の保持性が担保される限り、特に制限されない。例えば、区画において、細胞がゲルに封入されている。封入の態様は、少なくとも一部の細胞がゲルにより細胞チップ外の外気から遮断されている態様である限り、特に制限されない。
【0087】
区画は、検出感度の観点から、通常、複数個の細胞を含む。区画における面積(cm2)当たりの細胞数(cells)は、例えば5000~2000000cells/cm2である。検出感度、細胞生存性等の観点から、好ましくは10000~1500000cells/cm2、より好ましくは10000~1000000cells/cm2、さらに好ましくは20000~1000000cells/cm2、よりさらに好ましくは50000~700000cells/cm2、とりわけ好ましくは100000~500000cells/cm2である。
【0088】
1区画の底面積は、検出感度の観点、又は製造効率の観点から、好ましくは0.5~100mm2、より好ましくは1~30mm2、さらに好ましくは1.5~15mm2である。また、本発明の一態様において、面積の上限を、80mm2、60mm2、又は40mm2とすることができる。
【0089】
細胞チップが含む区画の数は、検出感度の観点、又は製造効率の観点から、好ましくは10~2000個、より好ましくは30~1000個、さらに好ましくは50~500個である。
【0090】
本開示の細胞チップは、センサタンパク質の種類が互いに異なる2種以上(より好ましくは3種以上、さらに好ましくは4種以上、よりさらに好ましくは5種以上、10種以上、15種以上、又は20種以上)の細胞を含むことが好ましい。
【0091】
本開示の細胞チップは、ゾル化可能なゲルを形成するゾルと、細胞とを含む区画において、当該ゾルをゲル化することにより、製造することができる。当該ゾルは、公知の方法に従って又は準じて得ることができる。ゲル形成成分がゼラチンである場合、上記した好適な性質のゲル/ゾルが得られ易いという観点から、溶媒に粉末状のゼラチンを添加後、12~30℃(好ましくは15~25℃)で10~60分間(好ましくは20~40分間)攪拌後、ゼラチンの溶解温度(例えば30~60℃)まで昇温させて、完全溶解するまで攪拌することが好ましい。
【0092】
本開示の細胞チップは、化学物質(特に匂い物質)の検出に用いることができる。化学物質は、例えば体液(例えば、尿、血液、唾液)、空気(例えば、室内の空気、包装内の空気)、水(例えば、河川水、海水、水道水、上水、下水)等の試料中の化学物質であることができる。この場合、例えば本開示の細胞チップの区画に、試料を添加することにより、試料中の化学物質が細胞に到達し、細胞のセンサタンパク質に接触することができる。例えば細胞内に流入するイオンを検出する(例えばイオンにより発色又は発光するタンパク質により検出する)ことにより、化学物質を検出することができる。
【0093】
本開示の細胞チップは、上述の通り、ゲルをゾル化することにより、迅速且つ安定な測定が可能になる。このため、本開示の細胞チップは、ゲルをゾル化後に前記細胞と被検化学物質とを接触させることを含む前記被検化学物質の検出方法に用いることができる。ゾル化後は、ゾル存在下で被検化学物質と細胞とを接触させてもよいし、ゾルを除去して必要に応じて他の液体を区画に添加してから被検化学物質と細胞とを接触させてもよい。細胞からの発光(基質(セレンテラジン等)添加による発光)を検出する場合には、迅速且つ安定な測定ができないという問題がより顕著であることから、本発明の技術をより好適に利用することができ、この場合、ゾル化後にゾルを除去することにより、上記問題をより効果的に解消することができる。
【0094】
本開示の細胞を固定するためのキットは、ゾル化可能なゲル成分と、細胞をゲルで固定する際に使用する試薬及び/又は器具(例えば細胞培養容器等)とを含む。本キットに含まれるゾル化可能なゲル成分は粉末状態でもゲル状態でもゾル状態でもよい。本キットに含まれる細胞培養容器は、細胞を固定するための区画を有する。1区画の底面積は、特に制限されない。検出感度の観点、又は製造効率の観点から、好ましくは0.5~100mm2、より好ましくは1~30mm2、さらに好ましくは1.5~15mm2である。また、本発明の一態様において、面積の上限を、80mm2、60mm2、又は40mm2とすることができる。
【0095】
上述の通り、ゾル化可能なゲルで細胞を固定する工程を含むことにより、細胞を安定した状態で運搬できる運搬用細胞を製造できる。当該運搬用細胞を固定しているゲルは運搬後、使用時にゾル化して、除去することも可能である。これにより、安定に運搬された後に、細胞を、ゲル/ゾル非存在下で利用することが可能となり、例えばゲル/ゾルの濁度が高い場合には問題となる細胞からの光の検出を、良好に行うことができる。このため、本開示は、その一態様において、細胞をゾル化可能なゲルで固定することを含む、運搬用細胞の製造方法、に関する。また、本開示は、その一態様において、細胞を固定しているゾル化可能なゲルをゾル化することを含む、細胞からの光を検出する方法、に関する。光を検出する方法においては、ゾル化後に、必要に応じて、細胞を発光させる処理(例えば物質添加、光照射等)を行うことができる。
【実施例0096】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0097】
試験例1.安定発現細胞の作製
クワゴマダラヒトリ(Spilosoma imparilis)由来細胞(SpIm細胞)に、嗅覚受容体タンパク質(ORA)コード配列、嗅覚受容体共受容体コード配列、カルシウムセンサー蛍光タンパク質コード配列、及びピューロマイシン耐性遺伝子コード配列がプロモーター配列の制御下に配置されてなり、且つこれらの配列が5´ITR(逆向き反復配列)及び3´ITRの間に配置されてなるトランスボゾンベクターを導入し、ピューロマイシンでセレクションを行い、上記コード配列及びプロモーター配列を含む外来DNAが染色体ゲノムDNAに組み込まれてなる嗅覚受容体安定発現SpIm細胞(以下、ORA細胞)を作製した。当該嗅覚受容体は、昆虫由来の嗅覚受容体であり、化合物aの受容体である。ORA細胞は、化合物aに応答して蛍光を発する。
【0098】
試験例2.ゼラチン溶液の作製
PBS溶液に粉末状の魚ゼラチン(新田ゼラチン株式会社製魚ゼラチン(Aタイプ))を添加し、17℃で30分間攪拌後、35℃に昇温して完全溶解するまで攪拌し、所定の魚ゼラチン濃度のゼラチン溶液を得た。0.22μmフィルターもしくはオートクレーブにより滅菌してから、以下の試験に使用した。
【0099】
試験例3.アクリル樹脂溶液の作製
2-[[2-(Methacryloyloxy)ethyl]dimethylammonio]acetate(モノマー:MO3N6O)及びN,N'-[Oxybis(2,1-ethanediyloxy-3,1-propanediyl)]bisacrylamide(架橋剤:2AAmLN)をPBS(日水製薬 #05913)水溶液に溶解させて、MO3N6O/2AAmLN水溶液を調製した。Lithium Phenyl(2,4,6-trimethylbenzoyl)phosphinate(光重合開始剤:LPA)をPBS水溶液に溶解させて、LPA水溶液を調製した。MO3N6Oの終濃度が0.8質量%、2AAmLNの終濃度が5.2質量%、且つLPAの終濃度が0.02質量%になるように、上記2種の水溶液を混合及び攪拌して、アクリル樹脂溶液を得た。
【0100】
試験例4.嗅覚受容体の活性測定1
ORA細胞を96-well plate CORNING3903に5×104/100μL/wellで播種し、27℃インキュベーター(CO2供給なし)内で静置した。培地は、Sf-900III SFM培地を使用した。 播種から24時間後に以下の操作を行った。
(試験群1)96-well plateの各wellから培養液を除去し、アクリル樹脂溶液40μLを各wellに添加した。UV光照射装置(CCS株式会社製 365 nmのLED光源)を用いて、365 nmの波長の光を110 mW/cm2で30秒照射することにより、ハイドロゲルを形成させた。ハイドロゲルの上部に、培地210μLを添加し、さらに2回培地で洗浄を行った
(試験群2)ゲルを形成せず培養を継続した。
【0101】
上記操作から24時間後に、培地をすべて除去し、0.1%BSA/1×Hanks' buffer/20mM HEPES buffer を試験群1には40μL、試験群2には80μLを各wellに添加した。
終濃度が100μMになるように化合物a(ORAが応答する物質)を各ウェルに添加し、添加前後の蛍光強度の変化をマイクロプレートリーダー(FlexStation3、Molecular Devices)を用いて定量した。
【0102】
結果を図1に示す。ハイドロゲルの非存在下(試験群2)では、化合物aを添加後の蛍光強度の上昇がシャープであり、迅速且つ安定に蛍光強度を測定できた。一方で、ハイドロゲルの存在下(試験群1)では、化合物aを添加後の蛍光強度の上昇がなだらかであり、迅速且つ安定な蛍光強度の測定ができなかった。
【0103】
試験例5.嗅覚受容体の活性測定2
ORA細胞を96-well plate CORNING3903に5×104/100μL/wellで播種し、27℃インキュベーター(CO2供給なし)内で静置した。培地は、Sf-900III SFM培地を使用した。 播種から24時間後に以下の操作を行った。
(試験群A)96-well plateの各wellから培養液を除去し、25℃のゼラチン溶液(魚ゼラチン濃度質量5%ゾル)40μLを各wellに添加した。4℃で3時間静置することにより、ゲルを形成させた。
(試験群B)試験群Aと同じ。
(試験群C)ゲルを形成せず培養を継続した。
【0104】
上記操作後に、試験群A及びBについて27℃で1時間静置することによりゲルをゾル化し、試験群Aについてはゾルを除去せず後に、0.1%BSA/1×Hanks' buffer/20mM HEPES buffer 40μLを各wellに添加した。試験群B、Cについてはゾルまたは培地を除去した後に、0.1%BSA/1×Hanks' buffer/20mM HEPES buffer 80μLを各wellに添加した。終濃度が100μMになるように化合物a(ORAが応答する物質)を各ウェルに添加し、添加前後の蛍光強度の変化をマイクロプレートリーダー(FlexStation3、Molecular Devices)を用いて定量した。
【0105】
結果を図2に示す。ゲルをゾル化した場合(試験群A)では、化合物aを添加後の蛍光強度の上昇がシャープであり、迅速且つ安定に蛍光強度を測定できた。また、試験群Bと試験群Cとの比較よりゲルで細胞を固定することは、化学物質の検出の迅速性及び安定性にほとんど影響が無かった。
【0106】
試験例6.嗅覚受容体の活性測定3
ORA細胞を96-well plate CORNING3903に5×104/100μL/wellで播種し、27℃インキュベーター(CO2供給なし)内で静置した。培地は、Sf-900III SFM培地を使用した。
【0107】
播種から24時間後に、96-well plateの各wellから培養液を除去し、25℃ のゼラチン溶液(魚ゼラチン濃度2~8質量%ゾル)40μLを各wellに添加した。4℃で1時間以上静置することにより、ゲルを形成させた。ゲルの上部に、培地100μLを添加した。また、ゼラチン溶液に換えず培地100μLで培養を続けた群も準備した。ゲル形成操作後、4℃で保存した。
【0108】
ゲル形成操作から72時間後に、27℃で1時間静置することによりゲルをゾル化し、ゾルを除去した後に、0.1%BSA/1×Hanks' buffer/20mM HEPES buffer 80μLを各wellに添加した。終濃度が0,0.1,1,10μMになるように化合物a(ORAが応答する物質)を各ウェルに添加し、添加前後の蛍光強度の変化をマイクロプレートリーダー(FlexStation3、Molecular Devices)を用いて定量した。
【0109】
結果を図3に示す。各種濃度のゲルを使用した場合全てについて、化学物質の検出が可能であった。また、ハイドロゲルで細胞を固定し4℃で保存しても、化学物質の検出が可能であった。
【0110】
試験例7.嗅覚受容体の活性測定4
ORA細胞を96-well plate CORNING3903に5×104/100μL/wellで播種し、27℃インキュベーター(CO2供給なし)内で静置した。培地は、Sf-900III SFM培地を使用した。
【0111】
播種から24時間後に、96-well plateの各wellから培養液を除去し、25℃のゼラチン溶液(魚ゼラチン濃度5質量%ゾル)40μLを各wellに添加した。4℃で3時間静置することにより、ゲルを形成させた。また、ゼラチン溶液に換えず培地100μLで培養を続けた群も準備した。
【0112】
ゲル形成操作後、すぐに27℃で1時間静置することによりゲルをゾル化し、ゾルを除去した後に、0.1%BSA/1×Hanks' buffer/20mM HEPES buffer 80μLを各wellに添加した。或いは、ゾル化後にゾルを除去せずに0.1%BSA/1×Hanks' buffer/20mM HEPES buffer 40μL添加した。終濃度が0,0.1,1,10μMになるように化合物a(ORAが応答する物質)を各ウェルに添加し、添加前後の蛍光強度の変化をマイクロプレートリーダー(FlexStation3、Molecular Devices)を用いて定量した。
【0113】
結果を図4に示す。ゾル除去操作の有無に関わらず、化学物質の検出が可能であった。ただし、ゾルを除去した方が検出感度は高かった。
【0114】
試験例8.ゾルの粘度測定1
サンプルチューブにゼラチン溶液(魚ゼラチン濃度2~5質量%ゾル)を添加し、熱履歴の解消の目的で40℃のカラムオーブンで1時間静置した。25℃のインキュベーターにサンプルチューブを移し、30分間静置した。サンプルチューブを4℃の冷蔵庫に1日保管してゲル化した。25℃のインキュベーターにサンプルチューブを移し、1時間静置してゾル化した。京都電子工業社製EMS-1000型粘度計を使用し、2mm アルミニウムプローブを用い、測定温度25℃で粘度を測定した。
【0115】
結果を図5に示す。ゼラチン溶液(魚ゼラチン濃度2~5%ゾル)から形成されたゲルは、ゾル化後に比較的低粘度のゾルを形成した。
【0116】
試験例9.ゾルの粘度測定2
サンプルチューブにゼラチン溶液(魚ゼラチン濃度2~5質量%ゾル)を添加し、熱履歴の解消の目的で40℃のカラムオーブンで1時間静置した。25℃のインキュベーターにサンプルチューブを移し、30分間静置した。サンプルチューブを4℃の冷蔵庫に1日保管してゲル化した。25℃のインキュベーターにサンプルチューブを移し、2日間静置してゾル化した。京都電子工業社製EMS-1000型粘度計を使用し、2mm アルミニウムプローブを用い、測定温度25℃で粘度を測定した。
【0117】
結果を図6に示す。ゾル化後1時間で測定した結果である図5と、ゾル化後2日間で測定した結果である図6との比較より、比較的高濃度では、ゾル化後、時間経過に伴い粘度が上昇することが分かった。
【0118】
試験例10.ゲルの貯蔵弾性率及びゾル-ゲル転移温度の測定
株式会社アントンパール・ジャパン製MCR302粘弾性測定装置を用いて、CP50-1 プレートを用い、試料量1ml、周波数1Hz、歪1%で測定を実施した。最初に25℃で粘度測定を実施した後、冷却速度-1℃/minで4℃まで降温することで温度分散測定を実施した。損失正接が1を下回る点をゾル-ゲル転移点とした。続いて、温度が4℃に到達してから10分後に貯蔵弾性率の測定を実施した。
【0119】
結果を図7及び表1に示す。4℃での貯蔵弾性率は、5wt%: 1.3kPa、4wt%: 1.1kPa、3wt%: 0.3kPa、2wt%: 0.1kpa、1wt%: 0.002kPaであった。
【0120】
【表1】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7