(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167060
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】化学強化ガラス及び化学強化ガラスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 21/00 20060101AFI20241122BHJP
G09F 9/00 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
C03C21/00 101
G09F9/00 302
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024073707
(22)【出願日】2024-04-30
(31)【優先権主張番号】P 2023083362
(32)【優先日】2023-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】片岡 裕介
(72)【発明者】
【氏名】藤原 祐輔
【テーマコード(参考)】
4G059
5G435
【Fターム(参考)】
4G059AA01
4G059AA08
4G059AC16
4G059HB03
4G059HB08
4G059HB13
4G059HB14
4G059HB15
4G059HB16
4G059HB17
4G059HB22
4G059HB23
4G059HB24
4G059HB25
5G435AA06
5G435BB00
5G435GG43
5G435HH05
5G435KK07
5G435LL07
(57)【要約】
【課題】本発明は、CS
90が圧縮応力の総量に対してより大きく、それによりset落下強度に優れる化学強化ガラスを提供することを目的とする。
【解決手段】厚さt[mm]を有する化学強化ガラスであって、圧縮応力層深さDOC[μm]が160t[μm]以上であり、表面からの深さ90μmにおける圧縮応力値CS
90[MPa]を、引張応力の積分値ICT[MPa・μm]で除した値CS
90/ICT[μm
-1]が0.0012μm
-1以上である化学強化ガラス。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さt[mm]を有する化学強化ガラスであって、
圧縮応力層深さDOC[μm]が160t[μm]以上であり、
表面からの深さ90μmにおける圧縮応力値CS90[MPa]を、引張応力の積分値ICT[MPa・μm]で除した値CS90/ICT[μm-1]が0.0012μm-1以上である、化学強化ガラス。
【請求項2】
前記CS90が5+50t[MPa]以上である、請求項1に記載の化学強化ガラス。
【請求項3】
前記DOCを表面からの深さ50μmにおける圧縮応力値CS50[MPa]で除した値DOC/CS50が0.8μm/MPa以上である、請求項1又は2に記載の化学強化ガラス。
【請求項4】
前記CS90を表面からの深さ50μmにおける圧縮応力値CS50[MPa]で除した値CS90/CS50が0.30以上である、請求項1又は2に記載の化学強化ガラス。
【請求項5】
散乱光光弾性応力計で測定され、ガラス表面からの深さx[μm]における応力値CSx[MPa]のプロファイルにおいて、CSx≧0の範囲における応力CSxの1階微分の値CSx’が2未満である、請求項1又は2に記載の化学強化ガラス。
【請求項6】
散乱光光弾性応力計で測定され、ガラス表面からの深さx[μm]における応力値CSx[MPa]のプロファイルにおいて、CSx≧0の範囲における応力CSxの2階微分の値CSx’’が-0.02~0.06である、請求項1又は2に記載の化学強化ガラス。
【請求項7】
ガラス表面応力計で測定される、表面圧縮応力値CS0が750MPa以上である、請求項1又は2に記載の化学強化ガラス。
【請求項8】
下記条件のサンドペーパーセット落下強度試験により測定したset落下強度が40.5cm以上である、請求項1又は2に記載の化学強化ガラス。
条件:#80サンドペーパー上に前記化学強化ガラスを搭載した電子デバイス、または前記化学強化ガラスと前記化学強化ガラスを保持する筐体とを一体とさせた電子デバイス模擬構造体を30cmの高さから落下させる。前記化学強化ガラスが割れなければ落下高さを5cm上げて、再び落下させる。落下した後に前記化学強化ガラスが割れない限り、落下高さを5cm上げた高さから落下させる工程を繰り返す。前記化学強化ガラスが初めて割れる高さを割れ高さとする。10サンプルを用いて落下試験を実施し、10サンプルの平均割れ高さをset落下強度とする。
【請求項9】
厚さt[mm]を有する化学強化ガラスであって、
電子線マイクロアナライザーにより測定される化学強化ガラスの板厚方向のNaイオン濃度プロファイルから求められる、Naイオン拡散深さが290t[μm]以上であり、 化学強化ガラスの母組成におけるNa2O濃度と表面からの深さ50μmにおけるNa2O濃度との差分ΔNa50[mol%]に対する、化学強化ガラスの母組成におけるNa2O濃度と表面からの深さ90μmにおけるNa2O濃度との差分ΔNa90[mol%]の比ΔNa90/ΔNa50が0.55以上である、化学強化ガラス。
【請求項10】
化学強化ガラスの母組成におけるNa2O濃度[mol%]に対する前記ΔNa90[mol%]の比が1.26以上である、請求項9に記載の化学強化ガラス。
【請求項11】
化学強化用ガラスを第1溶融塩組成物に接触させる第1イオン交換処理と、
前記第1イオン交換処理後に、前記化学強化用ガラスに第2溶融塩組成物を接触させる第2イオン交換処理と、を含む、化学強化ガラスの製造方法であって、
前記第1イオン交換処理後かつ前記第2イオン交換処理前に熱処理することを含み、
第1イオン交換処理温度T
CT[℃]と第1イオン交換時間t
CT[分]が下記式で定義される強化指標(H値)が10600以下の範囲かつ、
前記熱処理において、下記式で定義される熱処理効果指標値(I値)が220以上である、化学強化ガラスの製造方法。
【数1】
【数2】
ただし、上記式において、
t
CTは前記第1イオン交換処理の処理時間[分]であり、
T
CTは前記第1イオン交換処理の温度[℃]であり、
Σ[Me
2O]は前記化学強化用ガラスにおけるアルカリ金属イオン酸化物濃度の総和[mol%]であり、
t
dは前記熱処理として前記第1イオン交換処理温度T
CT[℃]の80%以上の温度に化学強化用ガラスが静置される時間[分]であり、
T
dは前記熱処理の温度[℃]である。
【請求項12】
前記熱処理の温度Td[℃]が360℃以上であるか、又は、前記熱処理の時間td[分]が10分間以上である、請求項11に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項13】
前記化学強化用ガラスについて、下式(1)で求められるCTA値をx[MPa]とした際に、
前記第1イオン交換処理により、前記化学強化用ガラスの下式(2)で求められるCTave値を、x[MPa]超とし、
前記第2イオン交換処理により、前記化学強化用ガラスの前記CTave値を、x[MPa]未満とする、請求項11又は12に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【数3】
t:板厚[mm]
K1c:破壊靱性値[MPa・m
1/2]
CTave=ICT/LCT…式(2)
ICT:引張応力の積分値[MPa・μm]
LCT:引張応力領域の板厚方向長さ[μm]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学強化ガラス及び化学強化ガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯端末のカバーガラス等には、化学強化ガラスが用いられている。化学強化ガラスは、ガラスを硝酸ナトリウムなどの溶融塩組成物に接触させて、ガラス中に含まれるアルカリ金属イオンと、溶融塩組成物に含まれるよりイオン半径の大きいアルカリ金属イオンとの間でイオン交換を生じさせ、ガラスの表面部分に圧縮応力層を形成したものである。化学強化ガラスの強度は、ガラス表面からの深さを変数とする圧縮応力値(以下、CSとも略す。)で表される応力プロファイルに依存する。
【0003】
携帯端末等のカバーガラスは、落下した時などの変形によって割れることがある。このような破壊、すなわち曲げによる破壊を防ぐためには、ガラス表面における圧縮応力を大きくすることが有効である。そのため最近では700MPa以上の高い表面圧縮応力を形成することが多くなっている。
【0004】
一方、携帯端末等のカバーガラスは、端末がアスファルトや砂の上に落下した際に、突起物との衝突によって割れることがある。このような破壊、すなわち衝撃による破壊を防ぐためには、圧縮応力層深さを大きくして、ガラスのより深い部分にまで圧縮応力層を形成して強度を向上することが有効である。
【0005】
例えば、特許文献1には、ガラス表面からの深さ90μmにおける応力値CS90は、落下時の衝撃による割れ耐性の向上に寄与する値であることが記載されている。
【0006】
一方で、ガラス物品の表面部分に圧縮応力層を形成すると、ガラス物品中心部には、圧縮応力の総量に応じた引張応力(以下、CTとも略す。)が必然的に発生する。当該CT値が大きくなりすぎると、ガラス物品が破壊する際に激しく割れて破片が飛散する。CT値がその閾値(以下、CTリミットとも略す。)を超えると、ガラスが自壊して加傷時の破砕数が爆発的に増加し得る。CTリミットはガラス組成に対し固有の値である。
【0007】
したがって化学強化ガラスは、表面圧縮応力を大きくし、より深い部分にまで圧縮応力層を形成する一方で、CTリミットを超えないように、表層の圧縮応力の総量が設計される。
【0008】
スマートフォンに用いるガラス系材料の強度を評価する指標の一つとして、「set落下強度試験」がある。「set落下強度試験」は、スマートフォン筐体又はスマートフォンを模したモック板とガラス系材料とを貼り合わせたサンプルを落下させて、割れが発生した落下高さを強度の指標とする試験である。set落下強度は製品として使用される際のガラス系材料の強度を反映し得る指標である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1では、CTリミットに着目した所定の方法で化学強化処理を行うことでset落下強度の向上を図っている。しかしながら、応力プロファイルにおいてCS90をより大きくするという観点では不十分な場合があった。
【0011】
そこで本発明は、CS90が圧縮応力の総量に対してより大きく、それによりset落下強度に優れる化学強化ガラスを提供することを目的とする。また、本発明は、CS90を圧縮応力の総量に対してより大きくでき、それによりset落下強度を向上できる化学強化ガラスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは鋭意検討の結果、2段階以上のイオン交換処理によって化学強化ガラスを製造する際に、第1イオン交換処理後、第2イオン交換処理前に適切な熱処理を行うことで、得られる化学強化ガラスのCS90を圧縮応力の総量に対してより大きくできることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の1~13に関する。
1.厚さt[mm]を有する化学強化ガラスであって、
圧縮応力層深さDOC[μm]が160t[μm]以上であり、
表面からの深さ90μmにおける圧縮応力値CS90[MPa]を、引張応力の積分値ICT[MPa・μm]で除した値CS90/ICT[μm-1]が0.0012μm-1以上である、化学強化ガラス。
2.前記CS90が5+50t[MPa]以上である、前記1に記載の化学強化ガラス。
3.前記DOCを表面からの深さ50μmにおける圧縮応力値CS50[MPa]で除した値DOC/CS50が0.8μm/MPa以上である、前記1又は2に記載の化学強化ガラス。
4.前記CS90を表面からの深さ50μmにおける圧縮応力値CS50[MPa]で除した値CS90/CS50が0.3以上である、前記1又は2に記載の化学強化ガラス。
5.散乱光光弾性応力計で測定され、ガラス表面からの深さx[μm]における応力値CSx[MPa]のプロファイルにおいて、CSx≧0の範囲における応力CSxの1階微分の値CSx’が2未満である、前記1又は2に記載の化学強化ガラス。
6.散乱光光弾性応力計で測定され、ガラス表面からの深さx[μm]における応力値CSx[MPa]のプロファイルにおいて、CSx≧0の範囲における応力CSxの2階微分の値CSx’’が-0.02~0.06である、前記1又は2に記載の化学強化ガラス。
7.ガラス表面応力計で測定される、表面圧縮応力値CS0が750MPa以上である、
前記1又は2に記載の化学強化ガラス。
8.下記条件のサンドペーパーセット落下強度試験により測定したset落下強度が40.5cm以上である、前記1又は2に記載の化学強化ガラス。
条件:#80サンドペーパー上に前記化学強化ガラスを搭載した電子デバイス、または前記化学強化ガラスと前記化学強化ガラスを保持する筐体とを一体とさせた電子デバイス模擬構造体を30cmの高さから落下させる。前記化学強化ガラスが割れなければ落下高さを5cm上げて、再び落下させる。落下した後に前記化学強化ガラスが割れない限り、
落下高さを5cm上げた高さから落下させる工程を繰り返す。前記化学強化ガラスが初めて割れる高さを割れ高さとする。10サンプルを用いて落下試験を実施し、10サンプルの平均割れ高さをset落下強度とする。
9.厚さt[mm]を有する化学強化ガラスであって、
電子線マイクロアナライザーにより測定される化学強化ガラスの板厚方向のNaイオン濃度プロファイルから求められる、Naイオン拡散深さが290t[μm]以上であり、
化学強化ガラスの母組成におけるNa2O濃度と表面からの深さ50μmにおけるNa2O濃度との差分ΔNa50[mol%]に対する、化学強化ガラスの母組成におけるNa2O濃度と表面からの深さ90μmにおけるNa2O濃度との差分ΔNa90[mol%]の比ΔNa90/ΔNa50が0.55以上である、化学強化ガラス。
10.化学強化ガラスの母組成におけるNa2O濃度[mol%]に対する前記ΔNa90[mol%]の比が1.26以上である、前記9に記載の化学強化ガラス。
11.化学強化用ガラスを第1溶融塩組成物に接触させる第1イオン交換処理と、
前記第1イオン交換処理後に、前記化学強化用ガラスに第2溶融塩組成物を接触させる第2イオン交換処理と、を含む、化学強化ガラスの製造方法であって、
前記第1イオン交換処理後かつ前記第2イオン交換処理前に熱処理することを含み、
第1イオン交換処理温度TCT[℃]と第1イオン交換時間tCT[分]が下記式で定義される強化指標(H値)が10600以下の範囲かつ、
前記熱処理において、下記式で定義される熱処理効果指標値(I値)が220以上である、化学強化ガラスの製造方法。
【0014】
【0015】
【0016】
ただし、上記式において、
tCTは第1イオン交換処理の処理時間[分]であり、
TCTは前記イオン交換処理の温度[℃]であり、
Σ[Me2O]は前記化学強化用ガラスにおけるアルカリ金属イオン酸化物濃度の総和
[mol%]であり、
tdは前記熱処理として前記第1イオン交換処理温度TCT[℃]の80%以上の温度に化学強化用ガラスが静置される時間[分]であり、
Tdは前記熱処理の温度[℃]である。
12.前記熱処理の温度Td[℃]が360℃以上であるか、又は、前記熱処理の時間td[分]が10分間以上である、前記11に記載の化学強化ガラスの製造方法。
13.前記化学強化用ガラスについて、下式(1)で求められるCTA値をx[MPa]とした際に、
前記第1イオン交換処理により、前記化学強化用ガラスの下式(2)で求められるCTave値を、x[MPa]超とし、
前記第2イオン交換処理により、前記化学強化用ガラスの前記CTave値を、x[MPa]未満とする、前記11又は12に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【0017】
【0018】
t:板厚[mm]
K1c:破壊靱性値[MPa・m1/2]
CTave=ICT/LCT…式(2)
ICT:引張応力の積分値[MPa・μm]
LCT:引張応力領域の板厚方向長さ[μm]
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、CS90が圧縮応力の総量に対してより大きく、それによりset落下強度に優れる化学強化ガラスを提供できる。また、本発明によれば、第1イオン交換処理後、第2イオン交換処理前に適切な熱処理を行うことで、CS90を圧縮応力の総量に対してより大きくでき、それによりset落下強度を向上できる化学強化ガラスの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る化学強化ガラスの、SLPで測定された応力プロファイルの一例を示す図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る化学強化ガラスの板厚方向のNaイオン濃度プロファイルの一例を示す図である。
【
図3】
図3は、化学強化処理の工程を模式的に例示する図である。
【
図4】
図4の(a)及び(b)は、本実施形態に係る化学強化ガラスの応力プロファイルの一例を示す図である。
図4の(a)及び(b)に示す応力プロファイルは、SLPにより測定したガラス表層の応力プロファイル情報とFSMにより測定したガラス内部における応力プロファイルの情報を合成して作成したものである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書において数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。また、本明細書において、ガラスの組成(各成分の含有量)について、特に断らない限り、酸化物基準のモル百分率表示で表し、モル%を単に「%」と表記する。
また、本明細書において「実質的に含有しない」とは、原材料等に含まれる不純物レベル以下である、つまり意図的に加えたものではないことをいう。具体的には、たとえば0.1%未満である。
【0022】
本明細書において「非晶質ガラス」とは、粉末X線回折法によって、結晶を示す回折ピークが認められないガラスをいう。「結晶化ガラス」は、「非晶質ガラス」を加熱処理して、結晶を析出させたものであり、結晶を含有する。本明細書においては、「非晶質ガラス」と「結晶化ガラス」とを合わせて「ガラス」ということがある。また、加熱処理によって結晶化ガラスとなる非晶質ガラスを、「結晶化ガラスの母ガラス」ということがある。
以下において、「化学強化ガラス」は、化学強化処理を施した後のガラスを指し、「化学強化用ガラス」は、化学強化処理を施す前のガラスを指す。
【0023】
<応力測定方法>
近年、スマートフォンなどのカバーガラス向けに、ガラス内部のリチウムイオンをナトリウムイオンと交換し(Li-Na交換)、その後更にガラスの表層部において、ガラス内部のナトリウムイオンをカリウムイオンに交換する(Na-K交換)、2段階以上の化学強化を実施したガラスが主流になっている。
【0024】
このような化学強化ガラスの応力プロファイルを非破壊で取得するには、例えば散乱光光弾性応力計(Scattered Light Photoelastic Stress Meter、以下、SLPとも略す)やガラス表面応力計(Film Stress Measurement、以下、FSMとも略す)などが併用され得る。
【0025】
散乱光光弾性応力計(SLP)を用いる方法では、ガラス表層から数十μm以上のガラス内部において、Li-Na交換に由来した圧縮応力を測定できる。
【0026】
一方、ガラス表面応力計(FSM)を用いる方法では、ガラス表面から数十μm以下の、ガラス表層部において、Na-K交換に由来した圧縮応力を測定できる(例えば、国際公開第2018/056121号、国際公開第2017/115811号)。
【0027】
従って、2段化学強化ガラスにおける、ガラス表層と内部における応力プロファイルとしては、SLP及びFSMの情報を合成したものが用いられることがある。
【0028】
本明細書において圧縮応力CS0、CS1、表層圧縮応力層深さDOL-tailはガラス表面応力計(FSM)で測定される値を、圧縮応力CS50、CS90、引張応力CT、圧縮応力層深さDOCは、散乱光光弾性応力計(SLP)で測定される値を意味する。表層圧縮応力層深さDOL-tailとは、FSMによって測定できる圧縮応力層の最大深さをいう。
【0029】
散乱光光弾性応力計とは、レーザ光の偏光位相差を該レーザ光の波長に対して1波長以上可変する偏光位相差可変部材と、該偏光位相差を可変されたレーザ光が強化ガラスに入射されたことにより発する散乱光を所定の時間間隔で複数回撮像し複数の画像を取得する撮像素子と、該複数の画像を用いて前記散乱光の周期的な輝度変化を測定し該輝度変化の位相変化を算出し、該位相変化に基づき前記強化ガラスの表面からの深さ方向の応力分布を算出する演算部と、を有する応力測定装置である。
【0030】
散乱光光弾性応力計を用いる応力プロファイルの測定方法としては、国際公開第2018/056121号に記載の方法が挙げられる。散乱光光弾性応力計としては、例えば、折原製作所製のSLP-1000、SLP-2000が挙げられる。これらの散乱光光弾性応力計に付属ソフトウェアSlpIV_up3(Ver.2019.01.10.001)を組み合わせると高精度の応力測定が可能である。
【0031】
<CTave>
本明細書における「CTave」(MPa)は、下式により求められる。CTaveは引張応力の平均値に相当する値であり、引張応力領域の応力値を板厚全幅で積分し、引張応力領域の長さで除した値である。
CTave=ICT/LCT
ICT:引張応力の積分値(MPa・μm)
LCT:引張応力領域の板厚方向長さ(μm)
【0032】
<CSx>
本明細書における「CSx」とは、ガラス表面からの深さx(μm)における圧縮応力値(MPa)である。
【0033】
<Naイオン濃度プロファイル>
本明細書において、深さx(μm)におけるNaイオン濃度は、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer、電子線マイクロアナライザー)により、板厚方向の断面における濃度を測定する。EPMAの測定は、具体的には例えば以下のように行う。
【0034】
まず、ガラス試料をエポキシ樹脂で包埋し、第1の主面および第1の主面に対向する第2の主面に対して垂直方向に機械研磨して断面試料を作製する。研磨後の断面にCコートを施し、EPMA(JEOL社製:JXA-8500F)を用いて測定を行う。加速電圧は15kV、プローブ電流は30nA、積算時間は1000msec./pointとして1μm間隔でNaイオン濃度とSiイオン濃度のX線強度のラインプロファイルを取得する。得られたNaイオン濃度プロファイルについて、板厚中央部(500×t)±25μm(板厚t[mm])のSiイオン濃度の平均カウントで除することで規格化する。特定の深さにおけるNa2O濃度は板厚中央部(500×t)±25μm(板厚t[mm])の平均カウントを化学強化ガラスの母組成におけるNa2O濃度に対応するとして、全板厚のカウントをNa2Oのモル%に比例換算して算出する。
【0035】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施できる。例えば、本明細書において例示される複数の実施形態について、各実施形態の好ましい態様を互いに組み合わせたり、各実施形態の一部を別の実施形態の好適態様に置換したりしてもよい。
【0036】
<化学強化ガラスの製造方法>
本発明の実施形態に係る化学強化ガラスの製造方法(以下、本製造方法ともいう。)は、化学強化用ガラスを第1溶融塩組成物に接触させる第1イオン交換処理と、前記第1イオン交換処理後に、前記化学強化用ガラスに第2溶融塩組成物を接触させる第2イオン交換処理と、を含み、前記イオン交換処理において、下記式で定義される強化指標値(H値)が10600以下である。本発明の実施形態に係る化学強化ガラスの製造方法は、前記第1イオン交換処理後かつ前記第2イオン交換処理前に熱処理することを含み、前記熱処理において、下記式で定義される熱処理効果指標値(I値)が220以上である。
【0037】
【0038】
【0039】
ただし、上記式において、
tCTは前記第1イオン交換処理の処理時間であり[分]であり、
TCTは前記第1イオン交換処理の温度[℃]であり、
Σ[Me2O]は前記化学強化用ガラスにおけるアルカリ金属イオン酸化物濃度の総和[mol%]であり、
tdは前記熱処理として前記第1イオン交換処理温度TCT[℃]の80%以上の温度に化学強化用ガラスが静置される時間[分]であり、
Tdは前記熱処理の温度[℃]である。
【0040】
化学強化処理は、大きなイオン半径の金属イオン(典型的には、NaイオンまたはKイオン)を含む金属塩(例えば、硝酸カリウム)の融液に浸漬する等の方法で、ガラスを金属塩に接触させることにより、ガラス中の小さなイオン半径の金属イオン(典型的には、NaイオンまたはLiイオン)が大きなイオン半径の金属イオン、(典型的には、Liイオンに対してはNaイオンまたはKイオンであり、Naイオンに対してはKイオン)と置換させる処理である。
【0041】
化学強化処理の速度を速くするためには、ガラス中のLiイオンをNaイオンと交換する「Li-Na交換」を利用することが好ましい。またイオン交換により大きな圧縮応力を形成するためには、ガラス中のNaイオンをKイオンと交換する「Na-K交換」を利用することが好ましい。
【0042】
本製造方法は、かかる化学強化処理として、化学強化用ガラスを第1溶融塩組成物に接触させる第1イオン交換処理と、第1イオン交換処理後に、化学強化用ガラスに第2溶融塩組成物を接触させる第2イオン交換処理と、を含む。化学強化処理は、第1イオン交換処理及び第2イオン交換処理の2段階のイオン交換によってもよく、さらなるイオン交換処理を含む3段階以上のイオン交換によってもよい。
【0043】
本製造方法においては、第1イオン交換処理温度TCT[℃]と第1イオン交換時間tCT[分]が下記式で定義される強化指標(H値)が10600以下の範囲かつ、第1イオン交換処理後かつ第2イオン交換処理前に熱処理することを含み、かかる熱処理において、下記式で定義される熱処理効果指標値(I値)が220以上である。
【0044】
【0045】
【0046】
ただし、上記式において、
tCTは前記第1イオン交換処理の処理時間[分]であり、
TCTは前記第1イオン交換処理の温度[℃]であり、
Σ[Me2O]は化学強化用ガラスにおけるアルカリ金属イオン酸化物濃度の総和[mol%]であり、
tdは熱処理として第1イオン交換処理温度TCT[℃]の80%以上の温度に化学強化用ガラスが静置される時間[分]であり、
Tdは熱処理の温度[℃]である。
【0047】
本発明者らは、2段階以上のイオン交換処理によって化学強化ガラスを製造する際に、第1イオン交換処理において適切な熱処理を行うとともに、該第1イオン交換処理後、第2イオン交換処理前に適切な熱処理を行うことで、得られる化学強化ガラスのCS90を圧縮応力の総量に対してより大きくできることを見出した。すなわち、上記式で定義されるH値が10600以下の範囲となる第1イオン交換処理後、第2イオン交換処理前に熱処理効果指標値(I値)が220以上である熱処理を行うことで、得られる化学強化ガラスのCS90を圧縮応力の総量に対してより大きくできることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0048】
図1は、本製造方法により得られた化学強化ガラスの、SLPで測定された応力プロファイルの一例を示す図である。
図1の実線は本製造方法により得られた化学強化ガラス(実施例における例3)の応力プロファイルである。破線は熱処理の時間と温度を変更し、熱処理効果指標値(I値)が220を下回る条件とした以外は実線の化学強化ガラスと同様の方法で得られた化学強化ガラス(実施例における例5)の応力プロファイルである。
図1より、例5と例3の化学強化ガラスを比較すると、例3において、CS
50は同等程度を維持しながらCS
90がより大きいことがわかる。また、CS
90の増大とともに、DOCも大きくなっていることがわかる。加えて、実施例において詳述するが、本製造方法により得られた化学強化ガラスである例3はCS
90/ICTの値が例5よりも大きくなっている。ここで、CS
90/ICTは化学強化ガラスに導入された圧縮応力の総量に対するCS
90の値の大きさの指標であり、その詳細は後述する。
【0049】
このように本製造方法によりCS
90を向上できる理由としては、熱処理によって、第1イオン交換処理において導入されたアルカリ金属イオンがガラス深部方向へより拡散され、深部の圧縮応力をより増加させるためと考えられる。
図2は、
図1に例示した例5と例3の化学強化ガラスについて、電子線マイクロアナライザーにより測定された化学強化ガラスの板厚方向のNaイオン濃度プロファイルを示す図である。実線は例3の化学強化ガラスを示し、破線は例5の化学強化ガラスを示す。例5と例3の化学強化ガラスのNaイオン濃度プロファイルを比較すると、実際に、応力プロファイルの場合と同様に、例3の化学強化ガラスの方が深さ90μm付近におけるNaイオン濃度がより大きく、Naイオン拡散深さもより大きくなっていることがわかる。
【0050】
かかる熱処理の効果を大きくするには、例えば、熱処理の温度をより高くすることにより、ガラス中に含まれるアルカリイオンの熱運動を促進することが寄与し得ると考えられる。又は、熱処理の時間をより長くすることにより、熱処理で加える熱量をより多くすることが寄与し得ると考えられる。これについて、拡散深さは拡散方程式より拡散時間の平方根に比例することから、熱処理効果も同様に熱処理時間の平方根に比例すると考えられる。また、化学強化用ガラスにおけるアルカリ金属イオン濃度の総和がより大きい場合、ガラス中に含まれるアルカリイオンの総量を増やすことにより熱処理の影響をより受けやすいと考えられる。また、第1イオン交換処理の処理時間がより長い場合は、化学強化適用後のガラス中に含まれるアルカリイオンの総量を増やすことにより熱処理の影響をより受けやすいと考えられる。
これらの知見に基づく指標が上述の強化指標(H値)及び熱処理効果指標値(I値)であり、第1イオン交換処理における強化指標(H値)を10600以下とし、且つ第2イオン交換処理前に熱処理効果指標値(I値)が220以上の条件で熱処理を行うことで、CS90が向上された化学強化ガラスが得られる。
【0051】
本製造方法において、上記の効果を得る観点から熱処理効果指標値(I値)は220以上であり、230以上が好ましく、240以上がより好ましく、250以上がさらに好ましい。熱処理効果指標値(I値)は、発生応力の緩和抑制の観点からは300以下が好ましく、280以下がより好ましく、270以下がさらに好ましい。
【0052】
上述の通り、熱処理効果指標値(I値)を220以上とするためには、Σ[Me2O]、td、Td及びtCTをそれぞれ適切に制御することが好ましい。上述のとおり、Σ[Me2O]は化学強化用ガラスにおけるアルカリ金属イオン酸化物濃度の総和[mol%]であり、tdは熱処理の時間[分]であり、Tdは熱処理の温度[℃]であり、tCTは第1イオン交換処理の処理時間[分]である。
【0053】
例えば、熱処理の温度Td[℃]が360℃以上であるか、又は、熱処理の時間td[分]が10分間以上であることが好ましい。これにより、比較的簡便に熱処理効果指標値(I値)を大きくしやすい。
【0054】
Σ[Me2O]は、熱処理効果指標値(I値)を大きくする観点から、5mol%以上が好ましく、6mol%以上がより好ましく、7mol%以上がさらに好ましく、8mol%以上が特に好ましく、9mol%以上が最も好ましい。一方で、Σ[Me2O]は、ガラスの成形性の観点から、35mol%以下が好ましく、30mol%以下がより好ましく、25mol%以下がさらに好ましく、20mol%以下が特に好ましく、18mol%以下が最も好ましい。Σ[Me2O]は、化学強化用ガラスにおけるアルカリ金属イオン濃度の総和であり、具体的には酸化物基準のモル百分率表示でのLi2O、Na2O及びK2Oの濃度の総和[mol%]である。
【0055】
熱処理の温度Td[℃]は、熱処理効果指標値(I値)を大きくする観点から、360℃以上が好ましく、365℃以上がより好ましく、370℃以上がさらに好ましく、375℃以上が特に好ましく、380℃以上が最も好ましい。一方で、熱処理の温度Td[℃]は、発生応力の緩和抑制の観点から500℃以下が好ましく、490℃以下がより好ましく、480℃以下がさらに好ましく、470℃以下が特に好ましく、460℃以下が最も好ましい。
【0056】
熱処理の時間td[分]は、熱処理効果指標値(I値)を大きくする観点から、10分間以上が好ましく、15分間以上がより好ましく、20分間以上がさらに好ましく、25分間以上が特に好ましく、30分間以上が最も好ましい。一方で、熱処理の時間td[分]は、生産性の低下抑制の観点から120分間以下が好ましく、105分間以下がより好ましく、90分間以下がさらに好ましく、75分間以下が特に好ましく、70分間以下が最も好ましい。
【0057】
第1イオン交換処理の処理時間[分]は、熱処理によって深層へ移行できる応力エネルギーを十分導入する観点から、150分間以上が好ましく、180分間以上がより好ましく、200分間以上がさらに好ましく、220分間以上が特に好ましい。一方で、第1イオン交換処理の処理時間[分]は、生産性の低下抑制の観点から360分間以下が好ましく、330分間以下がより好ましく、300分間以下がさらに好ましく、270分間以下が特に好ましく、250分間以下が最も好ましい。
【0058】
熱処理は、第1イオン交換処理後、第2イオン交換処理前に行われるものであればよく、その具体的な方法は特に限定されない。なお、「第1イオン交換処理後」とは、第1イオン交換処理において第1溶融塩組成物から化学強化ガラスを取り出した後であればよく、「第2イオン交換処理前」とは、第2イオン交換処理において第2溶融塩組成物に化学強化ガラスを浸漬する前であればよい。具体的には例えば、第1イオン交換処理により付着した溶融塩を落とす「液滴工程」、取り出した第1イオン交換処理を施したガラスを加熱する「加熱工程」、第1イオン交換処理後のガラスに第2イオン交換処理を施す前に加熱する「予熱工程」などが挙げられる。
【0059】
化学強化処理は例えば以下の(a)~(d)の工程をこの順に含むものである。ここで、本製造方法においては、第1イオン交換処理((b)強化工程)を行った後の(c)液滴工程において熱処理を行うことが好ましい。これにより、プロセスが煩雑とならず効率的に本発明の効果が得られる。
(a)予熱工程
(b)強化工程(イオン交換処理)
(c)液滴工程
(d)取り出し工程
【0060】
図3は、上記(a)~(d)の工程を模式的に例示する図であり、
図3の(a)~(d)がそれぞれ、上記工程(a)~(d)に対応する。
(a)予熱工程では、化学強化用ガラス1を溶融塩組成物53に浸漬する前に予め加熱する。予熱工程を行うことで、溶融塩に投入した際の熱衝撃によるガラス割れを抑制することができる。例えば(b)強化工程における溶融塩組成物の温度に対し-80℃~+80℃の範囲に化学強化用ガラスを加熱することが好ましい。予熱工程は公知の方法で行えばよいが、例えば
図3のように、溶融塩バス50上に設けられる雰囲気ヒーター25を用いて化学強化用ガラス1を加熱できる。
図3において溶融塩バス50は溶融塩ヒーター55を備えており、溶融塩組成物53は溶融塩ヒーター55により加熱される。
【0061】
(b)強化工程では、化学強化用ガラス1を溶融塩組成物53に浸漬することで、イオン交換処理を行う。イオン交換処理の好ましい条件は後に詳述する。
【0062】
(c)液滴工程は、化学強化用ガラス1を溶融塩組成物53から取り出した後、所定の時間静置することで、化学強化用ガラス1に付着している溶融塩組成物を自然落下させて除去する工程である。(c)液滴工程では、化学強化用ガラス1に付着している溶融塩組成物の溶融状態を維持するために、
図3に示すような雰囲気ヒーター25等を用いて化学強化用ガラス1を加熱する。ここで、加熱の条件を上述した好ましい熱処理の条件とし、熱処理効果指標値(I値)が220以上となるようにすることで、液滴工程において本製造方法の熱処理を実施し得る。このように液滴工程において本製造方法の熱処理を行えば、プロセスを複雑化させることなく得られる化学強化ガラスのCS
90をより大きくできるため、また、強化炉から取り出した際にCTリミットを超過しにくくなるため、好ましい。
【0063】
(d)取り出し工程では、化学強化ガラス(化学強化用ガラス)を化学強化処理用装置から取り出す。取り出された化学強化ガラス(化学強化用ガラス)は、例えば洗浄工程、加飾工程等に供されてもよい。そして、次の段階のイオン交換処理を行う必要があれば、再度工程(a)~(d)を行ってもよい。本製造方法は2段階のイオン交換処理を含むので、具体的には例えば1回目の工程(a)、第1イオン交換処理である1回目の工程(b)、本製造方法の熱処理を行う1回目の工程(c)、1回目の工程(d)、2回目の工程(a)、第2イオン交換処理である2回目の工程(b)、2回目の工程(c)及び2回目の工程(d)をこの順に含んでいてもよい。本製造方法において、第1イオン交換処理と第2イオン交換処理との間に計2回以上の加熱工程を含む場合、各回の加熱における熱処理効果指標値の合計を220以上とすることが好ましい。
【0064】
上記では液滴工程で本製造方法の熱処理を行う場合を例示したが、液滴工程以外で本製造方法の熱処理を行ってもよい。例えば2回目の工程(a)において本製造方法の熱処理を行ってもよいし、1回目の工程(d)の後に、別途用意した加熱装置等を用いて本製造方法の熱処理を行ってもよい。
【0065】
なお、液滴工程において、化学強化用ガラスの表面には溶融塩組成物が付着しているものの、溶融塩組成物に化学強化用ガラスを浸漬している場合に比べれば少量である。よって、液滴工程において本製造方法の熱処理を行ったとしても、得られる化学強化ガラスに影響を及ぼすほどのイオン交換等は生じていないと考えられる。また、本製造方法の熱処理によるアルカリ金属イオンのガラス深部方向への拡散は、ガラスの内部で生じている現象である。これらのことから、液滴工程以外で本製造方法の熱処理を行った場合でも、同様にCS90を向上する効果が得られ得る。
【0066】
以下、本製造方法におけるイオン交換処理の好ましい態様について詳しく説明する。
【0067】
本製造方法は、上述の通り第1イオン交換処理と、第2イオン交換処理とを含む。第1イオン交換処理で用いる第1溶融塩組成物と、第2イオン交換処理で用いる第2溶融塩組成物とは通常、互いに異なる組成である。好適な応力プロファイルを得やすい観点から、第1イオン交換処理は主として「Li-Na交換」を利用する処理であることが好ましく、第2イオン交換処理は主として「Na-K交換」を利用する処理であることが好ましい。
【0068】
(第1イオン交換処理)
第1イオン交換処理は主として「Li-Na交換」を利用した処理であることが好ましい。この場合、ナトリウムイオンを含有する第1溶融塩組成物に化学強化用ガラスを浸漬させて、第1イオン交換処理を行うことが好ましい。化学強化用ガラスの詳細は後述するが、Li-Na交換を行うためには、化学強化用ガラスとしてリチウム含有ガラスを用いることが好ましい。
【0069】
主として「Li-Na交換」を利用する第1イオン交換処理によれば、ガラス中のリチウムイオンを溶融塩中のナトリウムイオンと交換することにより、ガラス深層部までナトリウムが導入され、深い圧縮応力層を形成できる。
【0070】
化学強化処理を行うための溶融塩としては、例えば、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、塩化物などが挙げられる。このうち硝酸塩としては、例えば、硝酸リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸セシウム、硝酸銀などが挙げられる。硫酸塩としては、例えば、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸セシウム、硫酸銀などが挙げられる。炭酸塩としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどが挙げられる。塩化物としては、例えば、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化セシウム、塩化銀などが挙げられる。これらの溶融塩は単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
溶融塩組成物としては、硝酸塩を主成分とするものが好ましく、より好ましくは硝酸ナトリウム、硝酸カリウムを主成分とするものである。ここで「主成分とする」とは溶融塩組成物における含有量が80質量%以上であることを指す。
【0072】
第1溶融塩組成物における硝酸ナトリウムの含有量は40質量%超であることが好ましい。第1実施態様において、第1溶融塩組成物における硝酸ナトリウムの含有量は、65質量%以上、75質量%以上、85質量%以上、95質量%以上であってもよい。硝酸ナトリウムが上記範囲であると、第1イオン交換において、「Li-Na交換」により、ガラス深層に入るナトリウムの量が増加し、CS90を上げる効果が生じる。
【0073】
一方第1溶融塩組成物に硝酸カリウムを加える場合、その含有量は、65質量%以下、45質量%以下、25質量%以下、15質量%以下であってもよい。硝酸カリウムが上記範囲であると、「Na-K交換」よりも「Li-Na交換」が支配的に機能するので、ガラス深層部にナトリウムイオンを十分に導入できる。
【0074】
第1イオン交換処理では、好ましくは360℃以上の第1溶融塩組成物に化学強化用ガラスを浸漬することが好ましい。第1溶融塩組成物の温度が360℃以上であると、イオン交換が進行しやすく、CTリミットを超える範囲まで圧縮応力を導入できる。より好ましくは380℃以上、さらに好ましくは400℃以上である。また、第1溶融塩組成物の温度は、蒸発による危険性、溶融塩の組成変化の観点から、通常450℃以下である。
【0075】
第1イオン交換処理では、第1溶融塩組成物に化学強化用ガラスを浸漬する時間は、30分間以上であると表面圧縮応力が大きくなるので好ましい。浸漬時間は、より好ましくは60分間以上である。浸漬時間が長すぎると、生産性が下がるだけでなく、緩和現象により圧縮応力が低下する場合がある。そのため、浸漬時間は通常360分間以下である。なお、第1イオン交換処理の時間は上述のtCTであり、熱処理効果指標値(I値)にも影響し得る値である。そのため、熱処理効果指標値(I値)を好適な値とすることを目的に第1イオン交換処理の時間が調整されてもよい。
【0076】
(第2イオン交換処理)
第2イオン交換処理は主として「Na-K交換」を利用した処理であることが好ましい。この場合、カリウムイオンを含有する第2溶融塩組成物に化学強化用ガラスを浸漬させて、第2イオン交換処理を行うことが好ましい。主として「Na-K交換」を利用する第2イオン交換処理では、ガラス中のナトリウムイオンがカリウムイオンと交換され、ガラス表層部10μm以下の領域に、カリウムイオンが導入される。また、第2溶融塩組成物が少量のリチウムイオンを含有する場合は、同時に、ガラス表層部のナトリウムイオンが、「Na-Li交換」により減少することにより、ナトリウムに起因する圧縮応力が緩和する。なお、SLPにより測定される応力プロファイルには、カリウムイオンが導入されたガラス表層部の応力の影響は反映されない。従って、SLPにより測定される応力プロファイルを用いることで、ナトリウムイオンの減少による引張応力減少を確認できる。
【0077】
第2溶融塩組成物における硝酸カリウム濃度は85質量%以上が好ましく、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上である。上限は特に制限されないが、通常99.95質量%以下である。
【0078】
第2溶融塩組成物にリチウムイオンを含有する場合には、第2溶融塩組成物は、0.05質量%以上10質量%以下の硝酸リチウムを含有することが好ましい。第2溶融塩組成物が前記範囲の硝酸リチウムを含有することにより、第1イオン交換処理で、ガラス表面付近に導入されたナトリウムイオンと第2溶融塩組成物中のリチウムイオンとの交換が、該ナトリウムイオンと第2溶融塩組成物中のカリウムイオンとの交換と並行して起こり、ガラス表面の応力を減弱できる。第2溶融塩組成物における硝酸リチウムの含有量は、より好ましくは0.3質量%以上5質量%以下である。
【0079】
第2溶融塩組成物は硝酸ナトリウムを含有してもよい。含有する場合、硝酸ナトリウム濃度は好ましくは0.1質量%超であり、より好ましくは0.5質量%以上である。硝酸ナトリウムが上記範囲であると、第2溶融塩組成物を交換せずに本発明の効果を発揮し得る期間を長くでき、ガラス処理量を多くし得る。第2溶融塩組成物の硝酸ナトリウム濃度は5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは3質量%以下であると、更に好ましくは2質量%以下であり、最も好ましくは1質量%以下であると、第2イオン交換処理後の化学強化ガラスの引張応力をCTリミット値未満に抑制しやすい。
【0080】
第2イオン交換処理においては、化学強化用ガラスを好ましくは360℃以上の第2溶融塩組成物に浸漬させることが好ましい。第2溶融塩組成物の温度が360℃以上であると、イオン交換が進行しやすい。より好ましくは380℃以上、さらに好ましくは400℃以上である。また、第2溶融塩組成物の温度は、蒸発による危険性、溶融塩の組成変化の観点から、通常450℃以下であり、「Na-Li交換」による応力の過度な減少を防ぐ観点から、440℃以下がより好ましい。
【0081】
第2イオン交換処理においては、第2溶融塩組成物に化学強化用ガラスを浸漬させる時間は、5分間以上であると、第1イオン交換処理でガラス表面付近に導入されたナトリウムイオンと第2溶融塩組成物中のリチウムイオンとの交換が十分に起こり、ガラス表面の応力を減弱させやすい。浸漬時間は、より好ましくは30分間以上であり、さらに好ましくは45分間以上である。浸漬時間は基板への入熱による応力の過度な減少を防ぐ観点から、120分間以下であることが好ましい。
【0082】
本製造方法において、第1イオン交換処理によりCTリミット値を超える引張応力を化学強化用ガラスに付与し、その後に続く第2イオン交換処理により引張応力をCTリミット値未満とすることが好ましい。これにより、引張応力がCTリミットを超えることを回避しつつも、表面からの深さが比較的深い領域の圧縮応力をより高くすることができ、化学強化ガラスの落下強度をより高めることに寄与する。
【0083】
すなわち、化学強化用ガラスについて、下式(1)で求められるCTA値[MPa]を用いて、第1イオン交換処理により、化学強化用ガラスの下式(2)で求められるCTave値を、CTA値[MPa]超とし、第2イオン交換処理により、前記化学強化用ガラスの前記CTave値を、CTA値[MPa]未満とすることが好ましい。
【0084】
【0085】
t:板厚[mm]
K1c:破壊靱性値[MPa・m1/2]
CTave=ICT/LCT…式(2)
ICT:引張応力の積分値[MPa・μm]
LCT:引張応力領域の板厚方向長さ[μm]
【0086】
ここで、「破壊靱性値K1c」は、JIS R1607:2015に規定するIF法による値である。K1cの値はガラス組成に依存する値であり、ガラス組成により調整し得る。
上記CTA値は、CTリミットに相当する値である。CTave値をx[MPa]超とすることは、引張応力をCTリミット値超とすることに相当し、CTave値をx[MPa]未満とすることは、引張応力をCTリミット値未満とすることに相当する。第1イオン交換処理により、化学強化用ガラスの下式(2)で求められるCTave値を、x[MPa]超とし、第2イオン交換処理により、前記化学強化用ガラスの前記CTave値を、x[MPa]未満とする方法として、例えば、1)本製造方法における第1イオン交換処理と第2イオン交換処理との間の熱処理における処理条件を適宜最適化する方法、2)国際公開第2022/181812号に記載のイオン交換処理の方法が挙げられる。
【0087】
<化学強化用ガラス>
本製造方法では、化学強化用ガラスを化学強化して化学強化ガラスを得る。本製造方法における化学強化用ガラスは、リチウム含有ガラスが好ましく、リチウムアルミノシリケートガラスが好ましい。本製造方法における化学強化用ガラスは結晶化ガラスであってもよく、非晶質ガラスであってもよい。なお、本発明の実施形態に係る化学強化ガラスの母組成は、化学強化前の化学強化用ガラスの組成と一致し、化学強化用ガラスが結晶化ガラスであるとき、化学強化ガラスも結晶化ガラスとなる。
【0088】
一実施形態において、化学強化ガラスの母組成(化学強化用ガラスの組成)としては、より具体的には例えば、下記のガラス組成Xa、ガラス組成Xb、ガラス組成Xcが挙げられる。化学強化ガラスが結晶化ガラスである場合、その母組成としては、ガラス組成Xcが好ましい。
ガラス組成Xa:酸化物基準のモル%表示で、SiO2を54~77%、Al2O3を9~21%、Li2Oを5~16%、含有する組成。
ガラス組成Xb:酸化物基準のモル%表示で、SiO2を52~75%、Al2O3を8~20%、Li2Oを5~16%、含有する組成。
ガラス組成Xc:酸化物基準のモル%表示で、SiO2を40~70%、Li2Oを10~35%、Al2O3を1~15%、含有する組成。
【0089】
ガラス組成Xcの一態様としては、酸化物基準のモル%表示で、
SiO2を40~70%、
Li2Oを10~35%、
Al2O3を1~15%、
P2O5を0.5~5%、
ZrO2を0.5~5%、
B2O3を0~10%、
Na2Oを0~3%、
K2Oを0~1%、
SnO2を0~4%、含有する組成が挙げられる。
【0090】
ガラス組成Xcの別の一態様としては、酸化物基準のモル%表示で、
SiO2を50~70%、
Li2Oを15~30%、
Al2O3を1~10%、
P2O5を0.5~5%、
ZrO2を0.5~8%、
MgOを0.1~10%、
Y2O3を0~5%
B2O3を0~10%、
Na2Oを0~3%、
K2Oを0~1%、
SnO2を0~2%、含有する組成が挙げられる。
【0091】
以下、好ましいガラス組成について説明する。
【0092】
本実施形態における化学強化用ガラスにおいて、SiO2はガラスのネットワーク構造を形成する成分である。また、化学的耐久性を上げる成分である。
ガラス組成Xaにおいて、SiO2の含有量は54%以上が好ましい。SiO2の含有量は、より好ましくは56%以上、さらに好ましくは60%以上、特に好ましくは64%以上、極めて好ましくは68%以上である。一方、ガラス組成Xaにおいて、溶融性を良くするためにSiO2の含有量は77%以下が好ましく、より好ましくは75%以下、さらに好ましくは73%以下、特に好ましくは71%以下である。
ガラス組成Xbにおいて、SiO2の含有量は52%以上が好ましい。SiO2の含有量は、より好ましくは56%以上、さらに好ましくは60%以上、特に好ましくは64%以上、極めて好ましくは68%以上である。一方、ガラス組成Xbにおいて、溶融性を良くするためにSiO2の含有量は75%以下が好ましく、より好ましくは73%以下、さらに好ましくは71%以下、特に好ましくは69%以下である。
ガラス組成Xcにおいて、SiO2の含有量は45%以上が好ましい。SiO2の含有量は、より好ましくは48%以上、さらに好ましくは50%以上、特に好ましくは52%以上、極めて好ましくは54%以上である。一方、溶融性を良くするためにSiO2の含有量は70%以下が好ましく、より好ましくは68%以下、さらに好ましくは66%以下、特に好ましくは64%以下である。
【0093】
Al2O3は化学強化による表面圧縮応力を大きくする成分であり、必須である。
ガラス組成Xaにおいて、Al2O3の含有量は好ましくは9%以上、より好ましくは以下順に10%以上、11%以上、12%以上、13%以上、さらに好ましくは14%以上、特に好ましくは15%以上である。一方、ガラス組成Xaにおいて、Al2O3の含有量は、ガラスの失透温度が高くなりすぎないために21%以下が好ましく、18%以下がより好ましく、以下順に17%以下、16%以下がさらに好ましく、15%以下が最も好ましい。
ガラス組成Xbにおいて、Al2O3の含有量は好ましくは8%以上、より好ましくは以下順に10%以上、11%以上、12%以上、13%以上、さらに好ましくは14%以上、特に好ましくは15%以上である。一方、ガラス組成Xbにおいて、Al2O3の含有量は、ガラスの失透温度が高くなりすぎないために20%以下が好ましく、18%以下がより好ましく、以下順に17%以下、16%以下がさらに好ましく、15%以下が最も好ましい。
ガラス組成Xcにおいて、Al2O3の含有量は好ましくは1%以上であり、より好ましくは2%以上、さらに好ましくは以下順に3%以上、5%以上、5.5%以上、6%以上、特に好ましくは6.5%以上、最も好ましくは7%以上である。一方、Al2O3の含有量は、ガラスの失透温度が高くなりすぎないために15%以下が好ましく、12%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましく、9%以下が特に好ましく、8%以下が最も好ましい。
【0094】
Li2Oは、イオン交換により圧縮応力を形成させる成分であり、主結晶の構成成分であるため必須である。
ガラス組成Xaにおいて、Li2Oの含有量は、好ましくは5%以上、より好ましくは7%以上、さらに好ましくは10%以上である。一方、ガラス組成Xaにおいて、ガラスを安定にするためにLi2Oの含有量は、16%以下が好ましく、より好ましくは15%以下、さらに好ましくは14%以下、最も好ましくは12%以下である。
ガラス組成Xbにおいて、Li2Oの含有量は、好ましくは5%以上、より好ましくは7%以上、さらに好ましくは10%以上である。一方、ガラス組成Xbにおいて、ガラスを安定にするためにLi2Oの含有量は、16%以下が好ましく、より好ましくは15%以下、さらに好ましくは14%以下、最も好ましくは12%以下である。
ガラス組成Xcにおいて、Li2Oの含有量は、好ましくは10%以上、より好ましくは14%以上、より好ましくは15%以上、さらに好ましくは18%以上、特に好ましくは20%以上、最も好ましくは22%以上である。一方、ガラスを安定にするためにLi2Oの含有量は、35%以下が好ましく、より好ましくは32%以下、さらに好ましくは30%以下、特に好ましくは28%以下、最も好ましくは26%以下である。
【0095】
Na2Oは、ガラスの溶融性を向上させる成分である。
ガラス組成Xaにおいて、Na2Oは必須ではないが、含有する場合は好ましくは0.5%以上、より好ましくは0.8%以上であり、特に好ましくは1%以上である。Na2Oは多すぎると結晶が析出しにくくなり、または化学強化特性が低下するため、Na2Oの含有量は10%以下が好ましく、8%以下がより好ましく、6%以下が特に好ましい。
ガラス組成Xbにおいて、Na2Oは必須ではないが、含有する場合は好ましくは1%以上、より好ましくは2%以上であり、特に好ましくは5%以上である。Na2Oは多すぎると結晶が析出しにくくなり、または化学強化特性が低下するため、Na2Oの含有量は15%以下が好ましく、12%以下がより好ましく、10%以下が特に好ましい。
ガラス組成Xcにおいて、Na2Oは必須ではないが、含有する場合は好ましくは0.5%以上、より好ましくは1%以上であり、特に好ましくは2%以上である。Na2Oは多すぎると主結晶であるLi3PO4などの結晶が析出しにくくなり、または化学強化特性が低下するため、Na2Oの含有量は10%以下が好ましく、9%以下がより好ましく、8%以下がさらに好ましく、7%以下が特に好ましい。
【0096】
K2Oは、Na2Oと同じくガラスの溶融温度を下げる成分であり、含有してもよい。
ガラス組成Xaにおいて、K2Oを含有する場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは0.8%以上、さらに好ましくは1%以上である。K2Oは多すぎると化学強化特性が低下する、または化学的耐久性が低下するため、好ましくは5%以下、より好ましくは4%以下、さらに好ましくは3%以下、特に好ましくは2.5%以下、最も好ましくは2%以下である。
ガラス組成Xbにおいて、K2Oを含有する場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは0.8%以上、さらに好ましくは1%以上である。K2Oは多すぎると化学強化特性が低下する、または化学的耐久性が低下するため、好ましくは10%以下、より好ましくは8%以下、さらに好ましくは6%以下、特に好ましくは4%以下、最も好ましくは2%以下である。
ガラス組成Xcにおいて、K2Oを含有する場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上、特に好ましくは2%以上である。K2Oは多すぎると化学強化特性が低下する、または化学的耐久性が低下するため、好ましくは5%以下、より好ましくは4%以下、さらに好ましくは3%以下、特に好ましくは2%以下、最も好ましくは1%以下である。
【0097】
ガラス組成Xaにおいて、Na2OおよびK2Oの合計の含有量Na2O+K2Oはガラス原料の溶融性を向上するために2%以上が好ましく、3%以上がより好ましい。また、Li2O、Na2OおよびK2Oの含有量の合計(以下、R2O)に対するK2O含有量の比K2O/R2Oは0.2以下であると、化学強化特性を高くし、化学的耐久性を高くできるので好ましい。K2O/R2Oは0.17以下がより好ましく、0.15以下がさらに好ましい。なお、R2Oは10%以上が好ましく、12%以上がより好ましく、14%以上がさらに好ましい。また、R2Oは20%以下が好ましく、18%以下がより好ましい。
【0098】
ガラス組成Xbにおいて、Na2OおよびK2Oの合計の含有量Na2O+K2Oはガラス原料の溶融性を向上するために3%以上が好ましく、5%以上がより好ましい。また、Li2O、Na2OおよびK2Oの含有量の合計(以下、R2O)に対するK2O含有量の比K2O/R2Oは0.2以下であると、化学強化特性を高くし、化学的耐久性を高くできるので好ましい。K2O/R2Oは0.15以下がより好ましく、0.10以下がさらに好ましい。なお、R2Oは10%以上が好ましく、12%以上がより好ましく、15%以上がさらに好ましい。また、R2Oは20%以下が好ましく、18%以下がより好ましい。
【0099】
ガラス組成Xcにおいて、Na2OおよびK2Oの合計の含有量Na2O+K2Oはガラス原料の溶融性を向上するために1%以上が好ましく、2%以上がより好ましい。また、Li2O、Na2OおよびK2Oの含有量の合計(以下、R2O)に対するK2O含有量の比K2O/R2Oは0.2以下であると、化学強化特性を高くし、化学的耐久性を高くできるので好ましい。K2O/R2Oは0.15以下がより好ましく、0.10以下がさらに好ましい。なお、R2Oは10%以上が好ましく、15%以上がより好ましく、20%以上がさらに好ましい。また、R2Oは29%以下が好ましく、26%以下がより好ましい。
【0100】
ガラス組成Xa及びガラス組成Xbにおいて、P2O5は、化学強化による圧縮応力層を深くする成分であり、含有してもよい。P2O5の含有量は、圧縮応力層を深くするために、好ましくは0.5%以上、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上、特に好ましくは2%以上、極めて好ましくは2.5%以上である。
一方、P2O5含有量が多すぎると、溶融時に分相しやすくなり、また耐酸性が著しく低下するので、P2O5の含有量は、好ましくは5%以下、より好ましくは4.8%以下、さらに好ましくは4.5%以下、特に好ましくは4.2%以下である。
【0101】
ガラス組成Xcにおいて、P2O5は、Li3PO4結晶の構成成分であり、必須である。P2O5の含有量は、結晶化を促進するために、好ましくは0.5%以上、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上、特に好ましくは2%以上、極めて好ましくは2.5%以上である。一方、P2O5含有量が多すぎると、溶融時に分相しやすくなり、また耐酸性が著しく低下するので、P2O5の含有量は、好ましくは5%以下、より好ましくは4.8%以下、さらに好ましくは4.5%以下、特に好ましくは4.2%以下である。
【0102】
SiO2、Al2O3、P2O5およびB2O3は、ガラスの網目形成成分(以下、NWFとも略す)であり、NWFの総量が多いことで、結晶化ガラスの強度が高くなる。それによって結晶化ガラスの破壊靱性値が向上する。かかる観点から、ガラス組成Xcにおいて、NWFの総量は60%以上が好ましく、63%以上がより好ましく、65%以上が特に好ましい。しかしNWFが多すぎるガラスは溶融温度が高くなるなど、製造が困難になるから85%以下が好ましく、80%以下がより好ましく、75%以下がより好ましい。
【0103】
ガラス組成Xcにおいて、Li2O、Na2OおよびK2Oの総量のNWFすなわち、SiO2、Al2O3、P2O5およびB2O3の総量に対する比が0.20~0.60であることが好ましい。Li2O、Na2OおよびK2Oは網目修飾成分であり、NWFに対する比率を低下させることは、ネットワーク中の隙間を増やすため、耐衝撃性を向上させる。そのため、NWFに対する比率は0.60以下が好ましく、0.55以下がより好ましく、0.50以下が特に好ましい。一方、これらは化学強化の際に必要な成分なので、化学強化特性を高くするために、Li2O、Na2OおよびK2Oの総量のNWFに対する比率は0.20以上が好ましく、0.25以上がより好ましく、0.30以上が特に好ましい。
【0104】
ZrO2は、機械的強度と化学的耐久性を高める成分であり、CSを著しく向上させるため、含有することが好ましい。ZrO2の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上、特に好ましくは2%以上であり、最も好ましくは2.5%以上である。
一方、溶融時の失透を抑制するために、ZrO2は8%以下が好ましく、7.5%以下がより好ましく、7%以下がさらに好ましく、6%以下が特に好ましい。ZrO2の含有量が多すぎると失透温度の上昇により粘性が低下する。かかる粘性の低下により成形性が悪化するのを抑制するため、成形粘性が低い場合は、ZrO2の含有量は5%以下が好ましく、4.5%以下がより好ましく、3.5%以下がさらに好ましい。
【0105】
ZrO2/R2Oは、化学的耐久性を高くするためには、0.02以上が好ましく、0.04以上がより好ましく、0.06以上がさらに好ましく、0.08以上が特に好ましく、0.1以上が最も好ましい。結晶化後の透明性を高くするためには、ZrO2/R2Oは、0.2以下が好ましく、0.18以下がより好ましく、0.16以下がさらに好ましく、0.14以下が特に好ましい。
【0106】
MgOは、ガラスを安定化させる成分であり、機械的強度と耐薬品性を高める成分でもあるため、Al2O3含有量が比較的少ない等の場合には、含有することが好ましい。MgOの含有量は、好ましくは1%以上、より好ましくは2%以上、さらに好ましくは3%以上、特に好ましくは4%以上である。
一方、MgOを添加し過ぎるとガラスの粘性が下がり失透または分相が起こりやすくなる。MgOの含有量は、20%以下が好ましく、より好ましくは19%以下、さらに好ましくは18%以下、特に好ましくは17%以下である。
【0107】
TiO2は結晶化を促進し得る成分であり、含有してもよい。TiO2は必須ではないが、含有する場合は、好ましくは0.05%以上であり、より好ましくは0.1%以上である。一方、溶融時の失透を抑制するために、TiO2の含有量は1%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましく、0.3%以下がさらに好ましい。
【0108】
SnO2は結晶核の生成を促成する作用があり、含有してもよい。SnO2は必須ではないが、含有する場合、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上、特に好ましくは2%以上である。一方、溶融時の失透を抑制するために、SnO2の含有量は4%以下が好ましく、3.5%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましく、2.5%以下が特に好ましい。
【0109】
Y2O3は化学強化ガラスが破壊した時に破片が飛散しにくくする効果のある成分であり、含有させてよい。Y2O3の含有量は、好ましくは0.2%以上、より好ましくは0.5%以上、さらに好ましくは1%以上、特に好ましくは2%以上、極めて好ましくは3%以上である。一方、溶融時の失透を抑制するために、Y2O3の含有量は5%以下が好ましく、4%以下がより好ましい。
【0110】
B2O3は、化学強化用ガラスまたは化学強化ガラスのチッピング耐性を向上させ、また溶融性を向上させる成分であり、含有してもよい。B2O3を含有する場合の含有量は、溶融性を向上するために、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上である。一方、B2O3の含有量が多すぎると溶融時に脈理が発生したり、分相しやすくなったりして化学強化用ガラスの品質が低下しやすいため10%以下が好ましい。B2O3の含有量は、より好ましくは8%以下、さらに好ましくは6%以下であり、特に好ましくは4%以下である。
【0111】
BaO、SrO、MgO、CaOおよびZnOは、いずれもガラスの溶融性を向上する成分であり含有してもよい。
【0112】
このうちBaO、SrO、ZnOは、ガラス組成Xcにおいて、残留ガラスの屈折率を向上させて析出結晶相に近づけることにより結晶化ガラスの光透過率を向上して、ヘーズ値を下げるために含有してもよい。その場合、BaO、SrOおよびZnOの含有量の合計(以下、BaO+SrO+ZnO)は0.3%以上が好ましく、0.5%以上がより好ましく、0.7%以上がさらに好ましく、1%以上が特に好ましい。一方で、これらの成分は、イオン交換速度を低下させる場合がある。化学強化特性を良くするために、BaO+SrO+ZnOは2.5%以下が好ましく、2%以下がより好ましく、1.7%以下がさらに好ましく、1.5%以下が特に好ましい。
【0113】
La2O3、Nb2O5およびTa2O5は、いずれも化学強化ガラスが破壊した時に破片が飛散しにくくする成分であり、屈折率を高くするために、含有させてもよい。これらを含有する場合、La2O3、Nb2O5およびTa2O5の含有量の合計(以下、La2O3+Nb2O5+Ta2O5)は好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上であり、特に好ましくは2%以上である。また、溶融時にガラスが失透しにくくなるために、La2O3+Nb2O5+Ta2O5は4%以下が好ましく、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは2%以下であり、特に好ましくは1%以下である。
【0114】
また、CeO2を含有してもよい。CeO2はガラスを酸化することで着色を抑える場合がある。CeO2を含有する場合の含有量は0.03%以上が好ましく、0.05%以上がより好ましく、0.07%以上がさらに好ましい。CeO2の含有量は、透明性を高くするために1.5%以下が好ましく、1.0%以下がより好ましい。
【0115】
化学強化ガラスを着色して使用する際は、所望の化学強化特性の達成を阻害しない範囲において着色成分を添加してもよい。着色成分としては、例えば、Co3O4、MnO2、Fe2O3、NiO、CuO、Cr2O3、V2O5、Bi2O3、SeO2、Er2O3、Nd2O3が挙げられる。
【0116】
着色成分の含有量は、合計で1%以下の範囲が好ましい。ガラスの可視光透過率をより高くしたい場合は、これらの成分は実質的に含有しないことが好ましい。
【0117】
紫外光の照射に対する耐候性を高めるために、HfO2、Nb2O5、Ti2O3を添加してもよい。紫外光照射に対する耐候性を高める目的で添加する場合には、他の特性に影響を抑えるために、HfO2、Nb2O5およびTi2O3の含有量の合計は1%以下が好ましく、0.5%以下がさらに好ましく、0.1%以下がより好ましい。
【0118】
また、ガラスの溶融の際の清澄剤等として、SO3、塩化物、フッ化物を適宜含有してもよい。清澄剤として機能する成分の含有量の合計は、添加しすぎると強化特性、結晶化挙動に影響をおよぼすため、酸化物基準の質量%表示で、2%以下が好ましく、より好ましくは1%以下であり、さらに好ましくは0.5%以下である。下限は特に制限されないが、典型的には、酸化物基準の質量%表示で、合計で0.05%以上が好ましい。
【0119】
清澄剤としてSO3を用いる場合のSO3の含有量は、少なすぎると効果が見られないため、酸化物基準の質量%表示で、0.01%以上が好ましく、より好ましくは0.05%以上であり、さらに好ましくは0.1%以上である。また、清澄剤としてSO3を用いる場合のSO3の含有量は、酸化物基準の質量%表示で、1%以下が好ましく、より好ましくは0.8%以下であり、さらに好ましくは0.6%以下である。
【0120】
清澄剤としてClを用いる場合のClの含有量は、添加しすぎると強化特性などの物性に影響をおよぼすため、酸化物基準の質量%表示で、1%以下が好ましく、0.8%以下がより好ましく、0.6%以下がさらに好ましい。また、清澄剤としてClを用いる場合のClの含有量は、少なすぎると効果が見られないため、酸化物基準の質量%表示で、0.05%以上が好ましく、より好ましくは0.1%以上であり、さらに好ましくは0.2%以上である。
【0121】
清澄剤としてSnO2を用いる場合のSnO2の含有量は、添加しすぎると結晶化挙動に影響をおよぼすため、酸化物基準の質量%表示で、1%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましく、0.3%以下がさらに好ましい。また、清澄剤としてSnO2を用いる場合のSnO2の含有量は、少なすぎると効果が見られないため、酸化物基準の質量%表示で、0.02%以上が好ましく、より好ましくは0.05%以上であり、さらに好ましくは0.1%以上である。
【0122】
As2O3は含有しないことが好ましい。As2O3を含有する場合は、0.3%以下が好ましく、0.1%以下がより好ましく、含有しないことが最も好ましい。
【0123】
本発明の化学強化に供される化学強化用ガラスの組成は、以上のような組成を有する。上記組成のガラスが得られるように、ガラス原料を適宜調合し、ガラス溶融窯で加熱溶融する。その後、バブリング、撹拌、清澄剤の添加等によりガラスを均質化し、所定の厚さのガラス板に成形し、徐冷する。またはブロック状に成形して徐冷した後に切断する方法で板状に成形してもよい。
【0124】
板状に成形する方法としては、例えば、フロート法、プレス法、フュージョン法及びダウンドロー法が挙げられる。特に、大型のガラス板を製造する場合は、フロート法が好ましい。また、フロート法以外の連続成形法、たとえば、フュージョン法及びダウンドロー法も好ましい。
【0125】
また、化学強化用ガラスは、結晶化ガラスであってもよい。結晶化ガラスである場合には、ケイ酸リチウム結晶、アルミノケイ酸リチウム結晶、リン酸リチウム結晶からなる群から選ばれる1以上の結晶を含有する結晶化ガラスが好ましい。ケイ酸リチウム結晶としては、メタケイ酸リチウム結晶、ジケイ酸リチウム結晶等が好ましい。リン酸リチウム結晶としては、オルトリン酸リチウム結晶等が好ましい。アルミノケイ酸リチウム結晶としては、β-スポジュメン結晶、ペタライト結晶等が好ましい。
【0126】
結晶化ガラスの結晶化率は、機械的強度を高くするために10%以上が好ましく、15%以上がより好ましく、20%以上がさらに好ましく、25%以上が特に好ましい。また、透明性を高くするために、70%以下が好ましく、60%以下がより好ましく、50%以下が特に好ましい。結晶化率が小さいことは、加熱して曲げ成形等しやすい点でも優れている。結晶化率は、X線回折強度からリートベルト法で算出できる。リートベルト法については、日本結晶学会「結晶解析ハンドブック」編集委員会編、「結晶解析ハンドブック」(共立出版 1999年刊、p492~499)に記載されている。
【0127】
結晶化ガラスの析出結晶の平均粒径は、透明性を高くするために300nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましく、150nm以下がさらに好ましく、100nm以下が特に好ましい。析出結晶の平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)像から求め得る。また、走査型電子顕微鏡(SEM)像から推定できる。
【0128】
<化学強化ガラス>
本発明の実施形態に係る化学強化ガラス(以下、本化学強化ガラスともいう。)は、上述の本製造方法により得られる。すなわち、本化学強化ガラスは、化学強化ガラスに導入された圧縮応力の総量に対し、CS90の値が比較的大きいものである。これにより、本化学強化ガラスはset落下強度に優れる。
ここで、set落下強度試験において、特にサンドペーパーなどの表面粗さが大きい評価面に対しては、ガラス表面から特定の深さにある部分の応力が効くことがわかっている。具体的には、評価面が番手60番から100番のサンドペーパーである場合のset落下強度は、表面からの深さ90μmの応力と正の相関がある。また、評価面が番手100番から140番のサンドペーパーである場合のset落下強度は、表面からの深さ70μmの応力と正の相関がある。また、評価面が番手160番から200番のサンドペーパーである場合のset落下強度は、表面からの深さ50μmの応力と正の相関がある。
【0129】
すなわち、CS90の値が大きいことは、set落下強度のなかでも、特に「SP#80落下強度」の向上に寄与する。そのため、本化学強化ガラスは特に「SP#80落下強度」に優れるものである。
【0130】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る化学強化ガラスは、厚さt[mm]を有する化学強化ガラスであって、圧縮応力層深さDOC[μm]が160t[μm]以上であり、表面からの深さ90μmにおける圧縮応力値CS90[MPa]を、引張応力の積分値ICT[MPa・μm]で除した値CS90/ICT[μm-1]が0.0012μm-1以上である。
【0131】
CS90/ICTの値が比較的大きいことは、化学強化ガラスに導入された圧縮応力の総量に対し、CS90の値が比較的大きいことを意味する。すなわち、CS90/ICTの値が大きいほど、同程度の圧縮応力が導入された場合の比較においてCS90がより向上された化学強化ガラスとなり、落下強度を向上できる。
【0132】
また、本製造方法により得られるガラスはDOCが比較的大きいものである。これにより、本化学強化ガラスはより深部まで圧縮応力が導入されたものとなり、落下強度に優れたものとなる。具体的に、本実施形態においてDOCは160t[μm]以上である。
【0133】
CS90/ICT[μm-1]は、0.0012μm-1以上であり、0.0013μm-1以上が好ましく、0.0014μm-1以上がより好ましく、0.0015μm-1以上がさらに好ましく、0.0016μm-1以上が特に好ましい。一方で、set落下強度以外の強度とのバランスの観点からは、CS90/ICT[μm-1]は、0.0050μm-1以下が好ましく、0.0048μm-1以下がより好ましく、0.0045m-1以下がさらに好ましく、0.0042μm-1以下が特に好ましく、0.0040μm-1以下が最も好ましい。
【0134】
DOCは、化学強化ガラスの厚さをt[mm]として、160t[μm]以上であり、165t[μm]以上が好ましく、170t[μm]以上がより好ましく、180t[μm]以上がさらに好ましく、190t[μm]以上が最も好ましい。一方で、処理時間の長時間化による生産性の低下の観点からは、DOCは、350t[μm]以下が好ましく、300t[μm]以下がより好ましく、280t[μm]以下がさらに好ましく、250t[μm]以下が特に好ましく、240t[μm]以下が最も好ましい。
【0135】
CS90は落下強度を高める観点では大きい方が好ましいが、板厚t[mm]の値に応じてその好ましい値は異なる。CS90は5+50t[MPa]以上であることが好ましく、7+50t[MPa]以上がより好ましく、8+50t[MPa]以上がさらに好ましく、9+50t[MPa]以上が特に好ましい。一方、CS90は、set落下強度以外の強度とのバランスの観点から、-85+250t[MPa]以下が好ましく、-83+250t[MPa]以下がより好ましく、-84+250t[MPa]以下がさらに好ましく、-83+250t[MPa]以下が特に好ましい。
【0136】
DOCを表面からの深さ50μmにおける圧縮応力値CS50[MPa]で除した値DOC/CS50は、0.8μm/MPa以上が好ましく、0.83μm/MPa以上がより好ましく、0.85μm/MPa以上がさらに好ましく、0.87μm/MPa以上が特に好ましく、0.9μm/MPa以上が最も好ましい。DOC/CS50が比較的大きいことは、CS50が同等の場合による比較で、DOCがより大きいことを意味する。これにより、より深層側に応力を導入することが出来、高いset落下強度を得ることが出来るため好ましい。一方で、深層応力と表層応力のバランスの観点から、DOC/CS50は2.0μm/MPa以下が好ましく、1.8μm/MPa以下がより好ましく、1.6μm/MPa以下がさらに好ましく、1.5μm/MPa以下が特に好ましく、1.4μm/MPa以下が最も好ましい。
【0137】
CS90を表面からの深さ50μmにおける圧縮応力値CS50[MPa]で除した値CS90/CS50は、0.30以上が好ましく、0.31以上がより好ましく、0.32以上がさらに好ましく、0.35以上が特に好ましく、0.40以上が最も好ましい。CS90/CS50が比較的大きいことは、CS50が同等の場合による比較で、CS90がより大きいことを意味する。これにより、特にSP#80落下強度を上げることが出来るため好ましい。一方で、SP#180落下強度とのバランスの観点から、CS90/CS50は2.0以下が好ましく、1.8以下がより好ましく、1.6以下がさらに好ましく、1.5以下が特に好ましく、1.2以下が最も好ましい。
【0138】
散乱光光弾性応力計で測定され、ガラス表面からの深さx[μm]における応力値CSx[MPa]のプロファイルにおいて、CSx≧0の範囲における応力CSxの1階微分の値の絶対値|CSx’|は4未満が好ましく、3.5以下がより好ましく、3.0以下がさらに好ましく、2.8以下が特に好ましく、2.6以下が最も好ましい。|CSx’|が比較的小さいことは、緩慢なプロファイル形状であり、深層側に渡り安定した応力値を持つことを意味する。すなわち、CSx’が上記範囲であることで、深層側で高い応力を持ち高いset落下強度を得ることが出来るため好ましい。一方で、圧縮応力と引張応力の釣り合い観点から、|CSx’|は0.05以上が好ましく、0.1以上がより好ましく、0.2以上がさらに好ましく、0.3以上が特に好ましく、0.5以上が最も好ましい。
【0139】
散乱光光弾性応力計で測定され、ガラス表面からの深さx[μm]における応力値CSx[MPa]のプロファイルにおいて、CSx≧0の範囲における応力CSxの2階微分の値CSx’’が-0.02~0.06であることが好ましい。CSx’’は、0.06以下が好ましく、0.057以下がより好ましく、0.055以下がさらに好ましく、0.052以下が特に好ましく、0.050以下が最も好ましい。一方、CSx’’は、-0.02以上が好ましく、0.000以上がより好ましく、0.010以上がさらに好ましく、0.015以上が特に好ましく、0.020以上が最も好ましい。CSx’’の値が0に近い(絶対値が小さい)ほど、応力プロファイルはより直線的形状となり、深さ90μmにおける応力値CS90を効果的に向上できる。CSx’’は0をとってもよく、すなわち応力プロファイルは変曲点を有してもよい。深層部に変曲点を有する応力プロファイルは、引張応力CTを特に小さくできるため、CTをCTリミット値未満としやすいという観点で好ましい。一方、CSx’’は正の値をとり、応力プロファイルは変曲点を有さなくてもよい。変曲点の無いプロファイルは局所的な応力低下が無いため、ガラス表層から生じたクラックの進展を防ぐことが出来る点で好ましい。
【0140】
なお、応力プロファイルの微分方法として、本発明では下記式で表されるように、CSxのプロファイルにおいて、xの変化分が0.5μmである時のCSxの変化率をCSx’の値として用い、xの変化分が0.5μmである時のCSx’の変化率を、CSx’’の値として用いている。
CSx’=(CSx+0.5-CSx)/0.5
CSx’’=(CSx+0.5’-CSx’)/0.5
【0141】
ガラス表面応力計で測定される、表面圧縮応力値CS0は表層の圧縮応力を高め、撓み等の変形に対する強度を向上する観点から、750MPa以上が好ましく、780MPa以上がより好ましく、800MPa以上がさらに好ましく、850MPa以上が特に好ましく、900MPa以上が最も好ましい。一方で、割れた場合に激しい破砕が生じるのを抑制する観点から、CS0は2500MPa以下が好ましく、2000MPa以下がより好ましく、1800MPa以下がさらに好ましく、1600MPa以下が特に好ましく、1400MPa以下が最も好ましい。
【0142】
ガラス表面応力計で測定される、ガラス表面からの深さ1μmにおける圧縮応力値CS1[MPa]は、ガラス表面に存在する細かい傷の先端がさらに開くことを抑制する観点から、550MPa以上が好ましく、560MPa以上がより好ましく、580MPa以上がさらに好ましく、600MPa以上が特に好ましく、650MPa以上が最も好ましい。一方、CS1は、割れた場合に細かい破砕片が飛散することを抑制する観点から、1000MPa以下が好ましく、950MPa以下がより好ましく、900MPa以下がさらに好ましく、850MPa以下が特に好ましく、800MPa以下が最も好ましい。
【0143】
ガラス表面応力計で測定される表層圧縮応力層深さDOL-tail[μm]は、衝突による割れ防止の観点から、2.8μm以上が好ましく、3.0μm以上がより好ましく、3.1μm以上がさらに好ましく、3.3μm以上が特に好ましく、3.5μm以上が最も好ましい。一方で、圧縮応力と引張応力の総量とのバランスをガラスの板厚方向全体で釣り合わせるため、DOL-tail[μm]は、10.0μm以下が好ましく、9.0μm以下がより好ましく、8.5μm以下がさらに好ましく、8.0μm以下が特に好ましく、7.5μm以下が最も好ましい。
【0144】
ガラス表面からの深さ50μmにおける圧縮応力値CS50[MPa]は、落下強度を向上する観点から、90MPa以上が好ましく、95MPa以上がより好ましく、100MPa以上がさらに好ましく、105MPa以上が特に好ましく、110MPa以上が最も好ましい。一方、CS50は、応力によるエネルギーの過大な導入により破砕した時の細かい破片が飛散することを抑制する観点から、300MPa以下が好ましく、250MPa以下がより好ましく、200MPa以下がさらに好ましく、180MPa以下が特に好ましく、160MPa以下が最も好ましい。なお、CS50の値が大きいことは、set落下強度のなかでも、特に「SP#180落下強度」の向上に寄与する。
【0145】
表面からの深さ50μmにおける圧縮応力値CS50[MPa]を、引張応力の積分値ICT[MPa・μm]で除した値CS50/ICT[μm-1]は、落下強度を向上する観点から、0.0037μm-1以上が好ましく、0.0039μm-1以上がより好ましく、0.0040μm-1以上がさらに好ましく、0.0042μm-1以上が特に好ましく、0.0043μm-1以上が最も好ましい。一方で、落下強度以外の強度とのバランスの観点からは、CS50/ICT[μm-1]は、0.0100μm-1以下が好ましく、0.0090μm-1以下がより好ましく、0.0080μm-1以下がさらに好ましく、0.0060μm-1以下が特に好ましく、0.0050μm-1以下が最も好ましい。
【0146】
CT-Max[MPa]は、応力プロファイルにおける最大の引張応力値を表す。CT-Maxは、優れたset落下強度を実現する観点から、厚さt[mm]の場合、170-150t[MPa]以上が好ましく、172-150t[MPa]以上がより好ましく、175-150t[MPa]以上がさらに好ましく、180-150t[MPa]以上が特に好ましい。一方、CT-Maxは、応力エネルギーの過大な導入による破砕した時の細かい破片が飛散することを抑制する観点から、157.5-75t[MPa]以下が好ましく、152.5-75t[MPa]以下がより好ましく、150-75t[MPa]以下がさらに好ましく、148-75t[MPa]以下が特に好ましく、146-75t[MPa]以下が最も好ましい。
【0147】
CTave[MPa]は、上述の方法で求められる、引張応力の平均値に相当する値である。CTaveは、優れたset落下強度を実現する観点から、厚さt[mm]の場合、107.5-75t[MPa]以上が好ましく、110-75t[MPa]以上がより好ましく、112.5-75t[MPa]以上がさらに好ましく、115-75t[MPa]以上が特に好ましい。一方、CTaveは、応力エネルギーの過大な導入による破砕した時の細かい破片が飛散することを抑制する観点から、127.5-75t[MPa]以下が好ましく、125-75t[MPa]以下がさらに好ましく、122.5-75t[MPa]以下が特に好ましく、120-75t[MPa]以下が最も好ましい。
【0148】
ICT[MPa・μm]は、板厚半分までの引張応力の積分値を表す。ICTは、優れたset落下強度を実現する観点から、厚さt[mm]の場合、250+17500t[MPa・μm]以上が好ましく、300+17500t[MPa・μm]以上がより好ましく、350+17500t[MPa・μm]以上がさらに好ましく、400+17500t[MPa・μm]以上が特に好ましい。一方、ICTは、応力エネルギーの過大な導入による破砕した時の細かい破片が飛散することを抑制する観点から、4000+20000t[MPa・μm]以下が好ましく、3950+20000t[MPa・μm]以下がより好ましく、3900+20000t[MPa・μm]以下がさらに好ましく、3850+20000[MPa・μm]以下が特に好ましく、3800+20000t[MPa・μm]以下が最も好ましい。
【0149】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る化学強化ガラスは、厚さt[mm]を有する化学強化ガラスであって、電子線マイクロアナライザーにより測定される化学強化ガラスの板厚方向のNaイオン濃度プロファイルから求められる、Naイオンの拡散深さが290t[μm]以上であり、化学強化ガラスの母組成におけるNa
2O濃度と表面からの深さ50μmにおけるNa
2O濃度との差分ΔNa50[mol%]に対する、化学強化ガラスの母組成におけるNa
2O濃度と表面からの深さ90μmにおけるNa
2O濃度との差分ΔNa90[mol%]の比ΔNa90/ΔNa50が0.55以上である。
図1、2を用いて先述した通り、本製造方法で得られるガラスは、CS
90及びDOCが比較的大きく、また、これに対応して、Naイオンの拡散深さと表面からの深さ90μmにおけるNa
2O濃度も比較的大きくなっている。本発明の第2の実施形態に係る化学強化ガラスは、Naイオンの拡散深さが290t[μm]以上であり、ΔNa90/ΔNa50が0.55以上であることで、set落下強度、特に、SP#80落下強度に優れる。
【0150】
電子線マイクロアナライザーを用いた、化学強化ガラスの板厚方向のNaイオン濃度プロファイルの測定方法は上述した通りである。なお、Naイオン拡散深さは、取得した板厚方向のNaイオンプロファイルのうち板厚中心から±50μmの範囲におけるカウント数の平均値μと標準偏差σを算出し、カウント数がμ+3σ以上となる最も基板表面に近い位置の値である。
【0151】
Naイオン拡散深さ[μm]は、深層まで圧縮応力を導入し、落下強度を向上する観点から、化学強化ガラスの厚さをt[mm]として、290t[μm]以上が好ましく、330t[μm]以上がより好ましく、360t[μm]以上がさらに好ましく、400t[μm]以上が特に好ましく、430t[μm]以上が最も好ましい。一方で、多量のイオン交換による溶融塩の劣化抑制の観点からは、Naイオン拡散深さは、500t[μm]以下が好ましく、480t[μm]以下がより好ましく、470t[μm]以下がさらに好ましく、460t[μm]以下が特に好ましく、450t[μm]以下が最も好ましい。
【0152】
化学強化ガラスの母組成におけるNa2O濃度と表面からの深さ90μmにおけるNa2O濃度との差分ΔNa90[mol%]に対する、化学強化ガラスの母組成におけるNa2O濃度と表面からの深さ50μmにおけるNa2O濃度との差分ΔNa50[mol%]の比ΔNa90/ΔNa50は、落下強度を向上する観点から、0.55以上が好ましく、0.60以上がより好ましく、0.70以上がさらに好ましく、0.80以上が特に好ましく、0.90以上が最も好ましい。一方で、表層応力とのバランスの観点から、ΔNa90/ΔNa50は2.0以下が好ましく、1.5以下がより好ましく、1.3以下がさらに好ましく、1.2以下が特に好ましく、1.0以下が最も好ましい。
【0153】
化学強化ガラスの母組成におけるNa2O濃度[mol%]に対するΔNa90[mol%]の比は、落下強度を向上する観点から、1.26以上が好ましく、1.27以上がより好ましく、1.28以上がさらに好ましく、1.29以上が特に好ましく、1.30以上が最も好ましい。一方で、かかる比は、表層応力とのバランスの観点から、2.0以下が好ましく、1.8以下がより好ましく、1.7以下がさらに好ましく、1.6以下が特に好ましく、1.5以下が最も好ましい。
【0154】
本化学強化ガラスは、第1の実施形態に係る化学強化ガラスであり、かつ、第2の実施形態に係る化学強化ガラスであってもよい。すなわち、第2の実施形態に係る化学強化ガラスのより好ましい態様は、第1の実施形態に係る化学強化ガラスにおける好ましい態様と同様である。また、第1の実施形態に係るガラスが、上記第2の実施形態に係る化学強化ガラスの好適態様を備えてもよい。
【0155】
以下、第1の実施形態及び第2の実施形態に係る化学強化ガラスに共通する好ましい態様についてさらに説明する。
【0156】
本化学強化ガラスは、下記条件のサンドペーパーセット落下強度試験により測定したset落下強度(SP#180落下強度)が、60cm以上であることが好ましく、より好ましくは65cm以上、さらに好ましくは70cm以上、もっとも好ましくは75cm以上である。前記set落下強度が60cm以上であることにより、製品としてガラスが使用される際に優れた強度を示す。
条件:#180サンドペーパー上に前記化学強化ガラスを搭載した電子デバイス、または前記化学強化ガラスと前記化学強化ガラスを保持する筐体とを一体とさせた電子デバイス模擬構造体を30cmの高さから落下させる。前記化学強化ガラスが割れなければ落下高さを5cm上げて、再び落下させる。落下した後に前記化学強化ガラスが割れない限り、落下高さを5cm上げた高さから落下させる工程を繰り返す。前記化学強化ガラスが初めて割れる高さを割れ高さとする。10サンプルを用いて落下試験を実施し、10サンプルの平均割れ高さをset落下強度とする。
【0157】
本化学強化ガラスは、下記条件のサンドペーパーセット落下強度試験により測定したset落下強度(SP#80落下強度)が、40.5cm以上であることが好ましく、より好ましくは41.0cm以上、さらに好ましくは42.0cm以上、もっとも好ましくは45.0cm以上である。前記set落下強度が40.5cm以上であることにより、製品としてガラスが使用される際に優れた強度を示す。また、本化学強化ガラスは、CS90/ICTが大きいことで、下記条件によるset落下強度が大きくなりやすい。
条件:#80サンドペーパー上に前記化学強化ガラスを搭載した電子デバイス、または前記化学強化ガラスと前記化学強化ガラスを保持する筐体とを一体とさせた電子デバイス模擬構造体を30cmの高さから落下させる。前記化学強化ガラスが割れなければ落下高さを5cm上げて、再び落下させる。落下した後に前記化学強化ガラスが割れない限り、落下高さを5cm上げた高さから落下させる工程を繰り返す。前記化学強化ガラスが初めて割れる高さを割れ高さとする。10サンプルを用いて落下試験を実施し、10サンプルの平均割れ高さをset落下強度とする。
【0158】
本化学強化ガラスは、4点曲げ強度が650MPa以上であることが好ましく、より好ましくは675MPa以上、さらに好ましくは700MPa以上、特に好ましくは750MPa以上である。
【0159】
本化学強化ガラスの形状は特に限定されないが、典型的には板状であり、平板状でもよく曲面状でもよい。また、厚さの異なる部分があってもよい。
【0160】
化学強化ガラスが板状の場合、その厚さ(t)は、3.0mm以下が好ましく、より好ましくは、以下段階的に、2.0mm以下、1.6mm以下、1.5mm以下、1.1mm以下、0.9mm以下、0.80mm以下、0.70mm以下である。また、当該厚さ(t)は、化学強化処理による十分な強度が得られるために、好ましくは0.30mm以上であり、より好ましくは0.40mm以上であり、さらに好ましくは0.50mm以上である。
【0161】
本化学強化ガラスは、携帯電話、スマートフォン等のモバイル機器等の電子機器に用いられるカバーガラスとして、特に有用である。さらには、携帯を目的としない、テレビ、パーソナルコンピュータ、タッチパネル等の電子機器のカバーガラス、エレベータ壁面、家屋やビル等の建築物の壁面(全面ディスプレイ)にも有用である。また、窓ガラス等の建築用資材、テーブルトップ、自動車や飛行機等の内装等やそれらのカバーガラスとして、また曲面形状を有する筺体等にも有用である。
【実施例0162】
以下、本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれに限定されない。
<化学強化用ガラスの作製>
酸化物基準のモル百分率表示で示した下記組成となるようにガラス原料を調合し、ガラスとして400gになるように秤量した。ついで、混合した原料を白金るつぼに入れ、1500~1700℃の電気炉に投入して3時間程度溶融し、脱泡し、均質化した。
硝材A:SiO2 68%、Al2O3 12%、Y2O3 1.4%、Li2O 10.7%、Na2O 1.6%、K2O 1.8%、MgO 3.5%、その他成分1%。
硝材B:SiO2 66.2%、Al2O3 11.2%、Y2O3 0.5%、Li2O 10.4%、Na2O 5.6%、K2O 1.5%、MgO 3.1%、その他成分1.5%。
【0163】
得られた溶融ガラスを金属型に流し込み、ガラス転移点より50℃程度高い温度に1時間保持した後、0.5℃/分の速度で室温まで冷却し、ガラスブロックを得た。得られた溶融ガラスを型に流し込み、ガラス転移点(714℃)付近の温度に約1時間保持した後、0.5℃/分の速度で室温まで冷却してガラスブロックを得た。
【0164】
得られたガラスブロックを切断、研削し、最後に両面を鏡面研磨して、120mm×60mmで板厚0.70mm、0.50mmのガラス板(化学強化用ガラス)を得た。
【0165】
<化学強化処理および化学強化ガラスの評価>
上記で得られたガラス板を用いて、表1~3に示す条件で溶融塩組成物に浸漬させて、第1イオン交換処理及び第2イオン交換処理を施し、例1~16の化学強化ガラスを得た。ただし、第1イオン交換処理としての強化工程を経た後の液滴工程(1回目の液滴工程)において、表1~3に示す条件で熱処理を行った。「液滴温度」は熱処理の温度を表し、「液滴時間」は熱処理の時間を表す。例3、4、7、9~16、20、21、25は実施例であり、例1、2、5、6、8、17~19、22~24は比較例である。得られた化学強化ガラスを以下の方法により評価した。結果を表1~3に示す。
【0166】
[散乱光光弾性応力計による応力測定]
散乱光光弾性応力計(折原製作所製SLP-2000)を用いて、国際公開第2018/056121号に記載の方法により化学強化ガラスの応力を測定した。また、散乱光光弾性応力計(折原製作所製SLP-2000)の付属ソフト[SlpV(Ver.2019.11.07.001)]を用いて、応力プロファイルを算出した。
【0167】
応力プロファイルを得るために使用した関数はσ(x)=[a1×erfc(a2×x)+a3×erfc(a4×x)+a5]である。ai(i=1~5)はフィッティングパラメータであり、erfcは相補誤差関数である。相補誤差関数は下記式によって定義される。
【0168】
【0169】
本明細書における評価では、得られた生データと上記の関数の残差二乗和を最小化することで、フィッティングパラメータを最適化した。測定処理条件は単発とし、測定領域処理調整項目は表面でエッジ法を、内部表面端は6.0μmを、内部左右端は自動を、内部深部端は自動(サンプル膜厚中央)を、そして位相曲線のサンプル厚さ中央迄延長はフィッティング曲線を、それぞれ指定選択した。
【0170】
ガラス表面から数十μm以下のガラス表層部における応力は、ガラス表面応力計(折原製作所製FSM6000-UV)を用いて、国際公開第2018/056121号、国際公開第2017/115811号に記載の方法により測定した。
【0171】
また、同時に断面方向のアルカリ金属イオンの濃度分布(ナトリウムイオン及びカリウムイオン)の測定をEPMA(Electron Probe Micro Analyzer、電子線マイクロアナライザー)で行い、得られた応力プロファイルと矛盾がないことを確認した。
【0172】
また、上記の測定結果及び得られた応力プロファイルから、CS0、CS1、CS3、DOL-tail、CSx’、CSx’’、CS50、CS90、DOC、ICT、CT-Max、CTaveの値を得た。なお、CSx’、CSx’’はそれぞれの最大値と最小値を表1~3に示す。
【0173】
[Naイオン濃度プロファイル]
深さx(μm)におけるNaイオン濃度は、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer、電子線マイクロアナライザー)により、板厚方向の断面における濃度を測定した。EPMAの測定は、具体的には以下のように行った。まず、ガラス試料をエポキシ樹脂で包埋し、第1の主面および第1の主面に対向する第2の主面に対して垂直方向に機械研磨して断面試料を作製した。研磨後の断面にCコートを施し、EPMA(JEOL社製:JXA-8500F)を用いて測定を行った。加速電圧は15kV、プローブ電流は30nA、積算時間は1000msec./pointとして1μm間隔でNaイオン濃度とSiイオン濃度のX線強度のラインプロファイルを取得した。得られたNaイオン濃度プロファイルについて、板厚中央部(500×t)±25μm(板厚t[mm])のSiイオン濃度の平均カウントで除することで規格化した。特定の深さにおけるNa2O濃度は板厚中央部(500×t)±25μm(板厚t[mm])の平均カウントを化学強化ガラスの母組成におけるNa2O濃度に対応するとして、全板厚のカウントをNa2O濃度のモル%に比例換算して算出した。
【0174】
[set落下強度試験]
落下強度試験は、120×60×0.7mm、0.6mm、0.5mmのガラスサンプルを出願当時一般的に使用されているスマートフォンのサイズに質量と剛性を調節した構造体にはめ込み、疑似スマートフォン筐体を用意し、床に水平に置いた大理石の上に#180SiCサンドペーパー又は#80SiCサンドペーパーを大理石と並行に敷いて固定し、前記#180SiCサンドペーパー又は#80SiCサンドペーパーの上に前記疑似スマートフォン筐体をサンドペーパーに対し水平にした状態で自由落下させた。
落下高さは、30cmの高さから開始し、落下させ、割れなかった場合は5cm高さを上げて再度落下させる作業を割れるまで繰り返した。初めて割れたときの高さを落下高さとした。各例につき10枚ずつ落下試験を実施した時の平均割れ高さの結果を「SP#180落下強度」又は「SP#80落下強度」として、表1~3に示す。
【0175】
[4PB強度(4点曲げ強度)]
化学強化ガラスを120mm×60mmの短冊状に加工し、支持具の外部支点間距離が30mm、内部支点間距離が10mm、クロスヘッド速度が5.0mm/分の条件で4点曲げ試験を行い、4点曲げ強度を測定した。試験片の個数は、10個とした。なお、前記化学強化ガラスは、短冊状に加工した後、1000番手の砥石(東京ダイヤモンド工具製作所製)を用いて自動面取り加工(C面取り)し、0.1mm径ナイロンブラシとショウロックスNZ砥粒(昭和電工社製)を用いて端面を鏡面加工して得られた120×60×0.7mm厚のものを測定した。
【0176】
【0177】
【0178】
【0179】
図1に、SLPで測定された例5及び例3の化学強化ガラスの応力プロファイルを示す。また、
図2に、例5及び例3の化学強化ガラスのNaイオン濃度プロファイルを示す。
図4の(a)に例4の化学強化ガラスの応力プロファイルを、
図4の(b)に例5の化学強化ガラスの応力プロファイルを示す。
図4の(a)及び(b)に示す応力プロファイルは、SLPにより測定したガラス表層の応力プロファイル情報とFSMにより測定したガラス内部における応力プロファイルの情報を合成して作成したものである。応力プロファイルの合成には折原製作所製ソフトウェアである「PMC」を用いた。
表1並びに
図1、2及び4に示す結果より、第1イオン交換処理後、第2イオン交換処理前に熱処理効果指標値が220以上の条件で熱処理を行った実施例の化学強化ガラスは、CS
90/ICT及びDOCが比較的大きく、圧縮応力の総量に対するCS
90の値が比較的大きいものであった。また、実施例の化学強化ガラスは、ΔNa90/ΔNa50及びNaイオン拡散深さも比較的大きい傾向があった。そして、このような実施例の化学強化ガラスは、強度として、特にSP#80落下強度に優れるものであった。例えば、板厚と化学強化用ガラスの組成が同じである例1~5、例6~16、例17~21、例22~25同士でそれぞれ比較すると、実施例の化学強化ガラスはいずれも、比較例の化学強化ガラスに対しSP#80落下強度により優れる結果となった。
【0180】
以上説明した通り、本明細書には次の事項が開示されている。
1.厚さt[mm]を有する化学強化ガラスであって、
圧縮応力層深さDOC[μm]が160t[μm]以上であり、
表面からの深さ90μmにおける圧縮応力値CS90[MPa]を、引張応力の積分値ICT[MPa・μm]で除した値CS90/ICT[μm-1]が0.0012μm-1以上である、化学強化ガラス。
2.前記CS90が5+50t[MPa]以上である、前記1に記載の化学強化ガラス。
3.前記DOCを表面からの深さ50μmにおける圧縮応力値CS50[MPa]で除した値DOC/CS50が0.8μm/MPa以上である、前記1又は2に記載の化学強化ガラス。
4.前記CS90を表面からの深さ50μmにおける圧縮応力値CS50[MPa]で除した値CS90/CS50が0.30以上である、前記1~3のいずれか1に記載の化学強化ガラス。
5.散乱光光弾性応力計で測定され、ガラス表面からの深さx[μm]における応力値CSx[MPa]のプロファイルにおいて、CSx≧0の範囲における応力CSxの1階微分の値CSx’が2未満である、前記1~4のいずれか1に記載の化学強化ガラス。
6.散乱光光弾性応力計で測定され、ガラス表面からの深さx[μm]における応力値CSx[MPa]のプロファイルにおいて、CSx≧0の範囲における応力CSxの2階微分の値CSx’’が-0.02~0.06である、前記1~5のいずれか1に記載の化学強化ガラス。
7.ガラス表面応力計で測定される、表面圧縮応力値CS0が750MPa以上である、
前記1~6のいずれか1に記載の化学強化ガラス。
8.下記条件のサンドペーパーセット落下強度試験により測定したset落下強度が40.5cm以上である、前記1~7のいずれか1に記載の化学強化ガラス。
条件:#80サンドペーパー上に前記化学強化ガラスを搭載した電子デバイス、または前記化学強化ガラスと前記化学強化ガラスを保持する筐体とを一体とさせた電子デバイス模擬構造体を30cmの高さから落下させる。前記化学強化ガラスが割れなければ落下高さを5cm上げて、再び落下させる。落下した後に前記化学強化ガラスが割れない限り、
落下高さを5cm上げた高さから落下させる工程を繰り返す。前記化学強化ガラスが初めて割れる高さを割れ高さとする。10サンプルを用いて落下試験を実施し、10サンプルの平均割れ高さをset落下強度とする。
9.厚さt[mm]を有する化学強化ガラスであって、
電子線マイクロアナライザーにより測定される化学強化ガラスの板厚方向のNaイオン濃度プロファイルから求められる、Naイオン拡散深さが290t[μm]以上であり、
化学強化ガラスの母組成におけるNa2O濃度と表面からの深さ50μmにおけるNa2O濃度との差分ΔNa50[mol%]に対する、化学強化ガラスの母組成におけるNa2O濃度と表面からの深さ90μmにおけるNa2O濃度との差分ΔNa90[mol%]の比ΔNa90/ΔNa50が0.55以上である、化学強化ガラス。
10.化学強化ガラスの母組成におけるNa2O濃度[mol%]に対する前記ΔNa90[mol%]の比が1.26以上である、前記9に記載の化学強化ガラス。
11.化学強化用ガラスを第1溶融塩組成物に接触させる第1イオン交換処理と、
前記第1イオン交換処理後に、前記化学強化用ガラスに第2溶融塩組成物を接触させる第2イオン交換処理と、を含む、化学強化ガラスの製造方法であって、
前記第1イオン交換処理後かつ前記第2イオン交換処理前に熱処理することを含み、
第1イオン交換処理温度TCT[℃]と第1イオン交換時間tCT[分]が下記式で定義される強化指標(H値)が10600以下の範囲かつ、
前記熱処理において、下記式で定義される熱処理効果指標値(I値)が220以上である、化学強化ガラスの製造方法。
【0181】
【0182】
【0183】
ただし、上記式において、
tCTは第1イオン交換処理の処理時間[分]であり、
TCTは前記イオン交換処理の温度[℃]であり、
Σ[Me2O]は前記化学強化用ガラスにおけるアルカリ金属イオン酸化物濃度の総和
[mol%]であり、
tdは前記熱処理として前記第1イオン交換処理温度TCT[℃]の80%以上の温度に化学強化用ガラスが静置される時間[分]であり、
Tdは前記熱処理の温度[℃]である。
12.前記熱処理の温度Td[℃]が360℃以上であるか、又は、前記熱処理の時間td[分]が10分間以上である、前記11に記載の化学強化ガラスの製造方法。
13.前記化学強化用ガラスについて、下式(1)で求められるCTA値をx[MPa]とした際に、
前記第1イオン交換処理により、前記化学強化用ガラスの下式(2)で求められるCTave値を、x[MPa]超とし、
前記第2イオン交換処理により、前記化学強化用ガラスの前記CTave値を、x[MPa]未満とする、前記11又は12に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【0184】
【0185】
t:板厚[mm]
K1c:破壊靱性値[MPa・m1/2]
CTave=ICT/LCT…式(2)
ICT:引張応力の積分値[MPa・μm]
LCT:引張応力領域の板厚方向長さ[μm]
【0186】
本発明を詳細に、また特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく、様々な修正や変更を加えることができることは、当業者にとって明らかである。