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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167353
(43)【公開日】2024-12-03
(54)【発明の名称】農業用防虫ネット
(51)【国際特許分類】
   A01M 29/12 20110101AFI20241126BHJP
   A01M 29/34 20110101ALI20241126BHJP
【FI】
A01M29/12
A01M29/34
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024150103
(22)【出願日】2024-08-30
(62)【分割の表示】P 2019564771の分割
【原出願日】2019-01-15
(31)【優先権主張番号】P 2018003967
(32)【優先日】2018-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】514215457
【氏名又は名称】株式会社イノベックス
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 真吏
(72)【発明者】
【氏名】内田 剛人
(72)【発明者】
【氏名】後藤 英司
(72)【発明者】
【氏名】彦坂 晶子
(72)【発明者】
【氏名】石井 雅久
(72)【発明者】
【氏名】奥島 里美
(72)【発明者】
【氏名】森山 英樹
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 民人
(72)【発明者】
【氏名】久保田 健嗣
(72)【発明者】
【氏名】大西 純
(57)【要約】
【課題】アザミウマおよびコナジラミ等の微小害虫を有効に防除し且つ通気性にも優れた、微小害虫用の農業用防虫ネットを提供すること。
【解決手段】本発明は、エトフェンプロックスが練り込まれている農業用防虫ネットであり、微小害虫を有効に防除し且つ通気性にも優れている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エトフェンプロックスが練り込まれていることを特徴とする、農業用防虫ネット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アザミウマおよびコナジラミ等の微小害虫用の農業用防虫ネットに関する。
【背景技術】
【0002】
農業分野において害虫は、加害様式に応じて食害性や吸汁性等いくつかのタイプに分類される。吸汁性害虫は、作物の表面にストローのような吸管を挿したり、口を押し当てて針のような器官で穴をあける等して作物の汁を吸う。そのため作業従事者は、吸汁性害虫の場合、少数しか存在していない段階ではその寄生に気付きにくく、繁殖等によりある程度数が増え、生育不良や着色異常等の外観変化が生じてから寄生に気付くことが多い。作業従事者が吸汁性害虫の寄生に気付いたときには、駆除が困難な状況となっており、また、作物被害も回復できない程度にまで進んでいることがほとんどである。
【0003】
吸汁性害虫のうち特にアザミウマやコナジラミは、体長10mm以下、ほとんどは3mm以下と小型であるため、上記問題が顕著である。加えて、アザミウマやコナジラミは、ウイルス病を媒介することがある。また、薬剤耐性を持つ種もいる。そのため、アザミウマやコナジラミは徹底した防除が強く望まれる。
【0004】
アザミウマやコナジラミを防除する手段として、農薬の散布が普及しているが、近年は、食の安全や環境への配慮から農薬の散布量を減らすことが求められている。そのため、農薬と併用して或いは農薬に替えて農業用防虫ネットが使用される機会が多くなっている。アザミウマやコナジラミに対しては、網目の細かい農業用防虫ネットが使用される。
【0005】
アザミウマやコナジラミを防除するために網目の細かい農業用防虫ネットを使用すると、目の粗い農業用防虫ネットと比較して通気性が妨げられる。夏季の栽培においては通気性を確保し、外部環境との換気を良好とすることが重要である。通気性が悪い場合は被覆内部が高温となり作物の生育阻害を引き起こすだけでなく、作業従事者にも負担が大きく、熱中症にもなりかねない。
【0006】
通気性の問題を解決するため、特許文献1は、赤色で網目が比較的大きな(目合いが0.8mm×0.8mm以上)防虫ネットを提案している。特許文献1の防虫ネットは、赤色が虫に視認されないという知見を利用しているため、網目を大きくしてもアザミウマやコナジラミ等の小型害虫を物理的に防除できると謳っている。しかしながら、実際の現場ではアザミウマやコナジラミは風によって流される、所謂受動的飛来により作物に到達することが多く、この場合、視認の可否関係なく作物に接近してしまう。そのため、特許文献1の防虫ネットは、その効果を十分に発揮できておらず、実際の現場でも効果を存分に発揮できる実用的な農業用防虫ネットの開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012-95617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、アザミウマおよびコナジラミ等の微小害虫を有効に防除し且つ通気性にも優れた、微小害虫用の農業用防虫ネットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、エトフェンプロックスが練り込まれていることを特徴とする、農業用防虫ネットが提供される。
【0010】
さらに、本発明の農業用防虫ネットにおいては、以下の態様が好ましい。
(1)アザミウマまたはコナジラミ用である。
(2)目合いが0.4mm以上0.8mm以下である。
(3)エトフェンプロックスが練り込まれたモノフィラメントからなる織物である。
【0011】
また、本発明によれば、アザミウマおよびコナジラミの防除が特に強く望まれている、ナス科若しくはウリ科の作物の栽培または花卉栽培に使用される農業用防虫ネットも提供される。具体的には、エトフェンプロックスが練り込まれており、目合いが0.4mm以上0.8mm以下であり、ナス科若しくはウリ科の作物の栽培または花卉栽培に使用されることを特徴とする、農業用防虫ネットが提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の農業用防虫ネットには、エトフェンプロックスが練り込まれている。エトフェンプロックスは、虫が接触することで化学的忌避効果を発揮するタイプの防虫剤である。本発明者等は、アザミウマやコナジラミが新たに寄生を開始する際の行動様式を観察し、その結果、エトフェンプロックスを練り込んだ農業用防虫ネットにおいて、目合い4.0mmまで、特に0.8mmまでであれば優れた化学的忌避効果が発揮できるという知見に到達した。
【0013】
詳述すると、アザミウマやコナジラミは、ほとんどの場合、遠くの寄生地から飛んできて新たな作物に寄生する。その際、アザミウマやコナジラミは、自力で飛ぶこともあるが、飛翔能力がそれほど高くないために風に流されるようにして飛来することもある。いずれにしろ、農業用防虫ネットが張ってあると、アザミウマやコナジラミはネット上に着地し、脚を使ってネットをくぐり抜け、新たな作物に到達する。
【0014】
上述した目合いのエトフェンプロックス含有農業用防虫ネットを使用する場合、アザミウマやコナジラミはくぐり抜けに時間を要する。その結果、エトフェンプロックスの化学的忌避効果が十分に発揮され、アザミウマやコナジラミは、くぐり抜けを完遂することなく農業用防虫ネットから離れていく。一方、目合いが大きすぎると、くぐり抜けに要する時間が短く、化学的忌避効果が発揮されないうちにくぐり抜けが完了してしまう。
特に本発明では、目合い0.8mmを境に効果が大きく変わる。その理由は定かではないが、本発明者等は、次のように考えている。即ち、体の大きさや形状、脚の生え方等が総合的に影響した結果、アザミウマやコナジラミは、目合い0.8mm以下の農業用防虫ネットでは、飛来後、複数のフィラメントに脚をかけて腹這いの体勢でとまり、脚を使って体勢を変えながらネットをくぐり抜ける。よって、くぐり抜け完了までの時間が長い。一方、目合いが0.8mmより大きい農業用防虫ネットでは、1本のフィラメントにしがみつくようにして着地することが多く、その場合、体勢をあまり変えることなく短時間でスムーズにネットをくぐり抜けてしまう。
【0015】
網目が小さい程くぐり抜けに時間を要するが、小さすぎると通気性が損なわれる。目合いを0.2mm以上、特に0.4mm以上に設定すると、作物にとって十分な通気性を確保することができる。
【0016】
このように、本発明では、エトフェンプロックス含有農業用防虫ネットについて、その目合いを特定の数値範囲に設定することで、通気性を確保しながらアザミウマやコナジラミに対する優れた防除性を発揮することに成功している。
【0017】
加えて、本発明の農業用防虫ネットでは、エトフェンプロックスが塗布ではなく練り込みにより含有されているので、エトフェンプロックスが作物に付着する虞や土壌中に移行し残留する虞が限りなく低い。そのため、本発明の農業用防虫ネットは、食の安全や環境への配慮という点において安心して使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、アザミウマおよびコナジラミを有効に防除することができる、アザミウマまたはコナジラミ用の農業用防虫ネットである。
【0019】
本明細書において「アザミウマ」は、昆虫綱アザミウマ目Thysanopteraの昆虫の総称である。アザミウマは、成虫での体長が0.5~10mm、多くは2mm前後である微小な昆虫であり、全体として細長い形をしている。また、世界中で3500種以上存在し、日本では100種以上存在する。具体的には、ミカンキイロアザミウマ、ミナミキイロアザミウマ、ネギアザミウマ、ヒラズハナアザミウマ、クロトンアザミウマ、ツノオオクダアザミウマ、クロゲハナアザミウマ等を挙げることができる。
【0020】
本明細書において「コナジラミ」とは、昆虫綱半翅目同翅亜目コナジラミ科Aleyrodidaeの昆虫の総称である。コナジラミは、成虫での体長が3mm以下である。日本には、外来種を含め約70種が生息しており、世界には約1100種が存在する。コナジラミとしては、例えば、オンシツコナジラミ、タバココナジラミ、シルバーリーフコナジラミ、ミカンコナジラミ、ミカントゲコナジラミ、ヒメコナジラミ等を挙げることができる。
【0021】
アザミウマおよびコナジラミは、どちらも吸汁性昆虫であり、中でも作物に被害をもたらすものは吸汁性害虫として防除対象となっている。被害は、種類や生息域、作物等によって異なるが、例えばアザミウマであれば、葉に白い斑点が着く、新葉が正常に展開しない、果実が白く膨れる、果実のがく付近で凹凸したり瘡蓋様表皮ができる、蕾が開かなくなるといった被害が知られている。コナジラミであれば、例えば、トマト果実における着色むらや白斑症、ピーマンやシシトウの生長不良や果実白化といった被害が知られている。更に、アザミウマとコナジラミはどちらも、ウイルス病の媒介虫である。
【0022】
アザミウマやコナジラミは、新たな作物に寄生をする際、別の寄生地域から飛んでくる。飛んでくるのは成虫である。飛んできた成虫は、寄生後、短いサイクルで繁殖して個体数を増やす。よって、アザミウマやコナジラミの農業用防虫ネットによる防除では、基本的に、飛んでくる成虫が対象となる。アザミウマやコナジラミの成虫は、飛来してくる際に農業用防虫ネットが張ってあると、いったんネット上に着地してから脚を使って網目をくぐり抜け、その後、ネットから作物まで移動する。
【0023】
本発明は、この着地からくぐり抜けまでの行動様式に着目し、良好な通気性と優れた防除効果を両立すべく、防虫剤としてエトフェンプロックスを練り込んだ樹脂を用い、目合いを特定の大きさに設定した農業用防虫ネットを提供する。
【0024】
目合いは、具体的には、0.2mm以上4.0mm以下であり、好適には0.4mm以上0.8mm以下、より好適には0.6mm以上0.8mm未満、特に好適には0.7mm以上0.8mm未満である。目合いが小さすぎると通気性が不十分になる虞があり、大きすぎると、アザミウマやコナジラミがネットを短時間でくぐりぬけ、エトフェンプロックスによる化学的忌避効果が不十分となる虞がある。
【0025】
尚、本発明における目合いの定義は、一般的に目開きとも称されるものであり、農業用防虫ネットが織物または編物からなる場合、フィラメントとフィラメントの間の空間の距離を意味する。また、割繊維ウェブまたは割繊維ウェブ積層体からなる場合、幹繊維の中心と中心の間の距離を意味する。いずれの場合も、展張時に5目分計測した時の平均値(mm)で表される。
【0026】
本発明の一実施態様として、エトフェンプロックスを練り込んだ樹脂から防虫性フィラメントを製造し、かかるフィラメントを織ってまたは編んで得られる農業用防虫ネットがある。
【0027】
本発明に使用される樹脂としては、公知の熱可塑性樹脂を何ら制限なく使用することができる。具体的には、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610等のポリアミド樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレン(サクシネート/アジペート)共重合体等の生分解性ポリマー;ポリスチレン樹脂;ポリメチルメタクリレート等のポリアクリレート樹脂;ポリエーテル樹脂;熱可塑性ポリウレタン等の熱可塑性エラストマー;テトラフルオロエチレン/エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルコキシルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリビニリデンフロライド、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-ビニリデンフロライド共重合体等のフッ素樹脂;等を挙げることができる。
【0028】
熱可塑性樹脂としては、強度、耐候性および加工性が良好であるという観点から、ポリオレフィン樹脂またはポリエステル樹脂が好ましく、ポリオレフィン樹脂が特に好ましい。
【0029】
エトフェンプロックスは、化学名が2-(4-エトキシフェニル)-2-メチルプロピル=3-フェノキシベンジル=エーテルであり、ピレスロイドと同様の作用機構により防虫性を発揮するが、温血動物に対する毒性が低く、皮膚・粘膜への刺激が弱く、魚毒性も低いという利点を有し、WHOによってその安全性が確認されている。
【0030】
本発明の農業用防虫ネットにおけるエトフェンプロックス含有量は、0.1~4.0質量%が好ましく、0.5~2.0質量%が特に好ましい。エトフェンプロックスが少なすぎると、防除効果が不十分となる虞があり、多すぎると、使用環境によってはエトフェンプロックスの流亡が起こる虞がある。
【0031】
本発明では、安全性や加工性が損なわれない限り、公知の防虫剤を併用してもよい。エトフェンプロックス以外の公知の防虫剤としては、例えば、ピレトリン、シネリン、ジャスモリン、アレスリン、レスメトリン、フェンバレラート等のピレスロイド系防虫剤;トキサフェン、ベンゾエピン等の環状ジエン系防虫剤;マラチオン、フェニトロチオン等の有機リン系防虫剤;カルバリル、メソミル、プロメカルブ等のカルバメート系防虫剤;等を挙げることができる。
【0032】
本発明では、また、必要に応じて公知の添加剤を使用してもよい。公知の添加剤としては、例えば、ベンゼンスルホン酸アミド等の徐放助剤;分散助樹脂、親和性樹脂(例えばエチレン‐エチルアクリレート)等として使用される異種の熱可塑性樹脂類;耐候剤;難燃剤;酸化防止剤;酸化チタン、酸化ケイ素、炭酸カルシウム、チッ化ケイ素、炭化ケイ素、硫酸バリウム、カーボンブラック等の無機顔料;フタロシアニン金属系、コバルト青等の有機顔料;ステアリン酸金属塩類;エチレンビスステアリルアミド;メタケイ酸カルシウム;含水ケイ酸マグネシウム;アミノシラン;メラミンシアヌレート;アイオノマー類;金属イオン封鎖剤;包接化合物;着色防止剤;帯電防止剤;シリコーンオイル;界面活性剤;強化繊維;カルボジイミド;エポキシ化合物;オキサゾリン化合物;クレー、タルク、カオリン、ジルコニウム酸等の無機粒子や架橋高分子粒子等の粒子類;抗酸化剤;イオン交換剤;紫外線吸収剤;等が挙げられる。
【0033】
織物または編物からなる本実施態様の農業用防虫ネットは、公知の方法により上記の材料から防虫性フィラメントを製造し、かかるフィラメントを織ってまたは編んで製造される。
【0034】
防虫性フィラメントは、モノフィラメントでもマルチフィラメントでもよいが、強度やコストの観点からモノフィラメントが好ましい。
【0035】
防虫性フィラメントの太さは、ネットの大きさや使用環境等に応じて適宜決めればよいが、70~340デニールが好ましく、100~270デニールが特に好ましい。防虫性フィラメントが太すぎると通気性が十分確保できない虞があり、細すぎると、糸切れ等する虞がある。
【0036】
織組織および編組織に特に制限はない。製織により防虫性ネットを製造する場合、経糸または緯糸の少なくとも一部として、好適には全ての経糸または全ての緯糸として、特に好適には全ての経糸および全ての緯糸として防虫性フィラメントを使用する。
【0037】
織組織としては、例えば、三原組織(平織、斜文織、朱子織等)、変化組織(変化平織、斜子織、変化斜文織、急斜文、山形斜文、変化朱子織等)、特別組織(蜂須織、梨地織)、混合組織等の一重組織;よこ二重織(玉ラシャ等)、たて二重織(両面朱子等)、二重組織(風通織、袋織等)等の重ね組織;たてパイル組織(たてビロード等)、よこパイル組織(別珍、コーデュロイ等)、タオル組織等のパイル組織;絽、紗等の搦組織;紋組織;が挙げられる。
【0038】
製織は公知の方法に従って行えばよく、換言すると、選択した織組織に応じて公知の方法を選択すればよい。
【0039】
また、前述の防虫性フィラメントを編んで農業用防虫ネットとする場合、編み糸の少なくとも一部として、好ましくは全ての編み糸として防虫性フィラメントを使用し、経編または緯編をする。
【0040】
編組織としては、例えば、平編み、リブ編み、パール編み、両面編み等の緯編組織;シングルデンビー編み、シングルコード編み、シングルアトラス編み、ハーフトリコット編み、ラッセル編等の経編組織;がある。編組織によっては、編糸(地糸)以外に柄糸を使用することがある。また、ラッセル編等のようにテープヤーンを使用する場合もある。柄糸やテープヤーンには、防虫性フィラメントを使用してもよく、公知の糸を使用してもよい。
【0041】
編立は、公知の方法に従って行えばよく、即ち、選択した編組織に応じて適切な公知の方法を選択すればよい。
【0042】
織物の場合も編物の場合も、目ずれを防止するために、製織後または編立後に熱融着処理などを行ってもよい。
【0043】
また、本発明の別の実施態様として、割繊維ウェブまたは割繊維ウェブ積層体からなる農業用防虫ネットがある。割繊維ウェブは、公知の方法により上記材料からなる樹脂フィルムを製造し、かかる樹脂フィルムにスリットを入れて割繊して得られる。割繊維ウェブ積層体は、割繊維ウェブを積層して得られる。
【0044】
本発明においては、エトフェンプロックスの量を調整しやすく、また、展張時に引張具合によって目合いが変化しづらいという観点から、織物からなることが好ましく、平織の織物からなることが特に好ましい。
【0045】
本発明の農業用防虫ネットの使用方法に特に制限はなく、例えば、支柱を用いて農業用防虫ネットにより作物を被覆するトンネル張りや平張り、ビニールハウスの側面に農業用防虫ネットを張るハウスサイド張り、ビニールハウスの外面全体を農業用防虫ネットで覆う全面張り、支柱等を用いずに作物を被覆するベタがけ等の方法で使用してよい。本発明の効果が最大限に発揮されるという観点から、ハウスサイド張りが好ましい。
【0046】
本発明の農業用防虫ネットは、アザミウマやコナジラミに寄生される可能性がある作物の栽培に使用すればよい。アザミウマやコナジラミは多種多様の作物に寄生するので、使用対象を一概に定めることはできないが、例えば食用作物の場合であれば、スイカやキュウリ等のウリ科;トマトやピーマン、ナス、シシトウ、タバコ等のナス科;ミカン科;ネギ等のヒガンバナ科;キャベツ等のアブラナ科;ホウレンソウ等のアカザ科;インゲン等のマメ科;といった作物に適用することができる。
【0047】
食用作物の中では、特にウリ科またはナス科の作物栽培に使用することが好ましい。これらの作物は、アザミウマやコナジラミによる被害が顕著であり、特に、アザミウマやコナジラミが媒介となってウイルス感染しやすいからである。しかも、栽培時期が温暖な季節であるために、アザミウマやコナジラミが活発に活動し、被害が拡大しやすい。加えて、これらの科に属する作物にはトマトやピーマンなど、栽培時に温度と通気(湿度)の両方のコントロールが重要になるものが多く含まれている。
【0048】
また、本発明の農業用防虫ネットは、トルコギキョウやキク等の花卉類栽培にも好適に使用される。花卉は鑑賞に耐えるよう、花弁はもちろん茎や葉も含めてキズなく色むらなく生育することが強く求められる作物であるところ、アザミウマやコナジラミに寄生されると、知らぬ間に吸汁されて花や葉に白斑が生じたり、変形してしまう。更に、コナジラミの場合は、粘着質の排泄物が付着し、これも外観を損ねてしまう。よって、花卉類は、アザミウマやコナジラミを防除する必要性が特に高い作物である。
【実施例0049】
以下、本発明を実施例により更に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0050】
(実験例1:タバココナジラミ)
ネット状資材として、縦横の目合いが共に0.75mmである、エトフェンプロックスを混練させたモノフィラメントを緯糸として使ったポリエチレン製平織防虫ネット(以下、薬剤入り防虫ネットと呼ぶことがある)1を用意した。この防虫ネットにおけるエトフェンプロックス含有率は0.9質量%であった。また、経糸と緯糸はいずれも150デニールであった。
また、対比のために緯糸にエトフェンプロックスを混練させていない点以外は薬剤入り防虫ネット1と同じであるポリエチレン製平織防虫ネット(以下、薬剤無防虫ネットと呼ぶことがある。)2を用意した。
幅6.5cm高さ6.5cm奥行17cmのプラスチック製容器を用意し、かかるプラスチック製容器の中間部を、薬剤入り防虫ネット1または薬剤無防虫ネット2で仕切った。一方にタバココナジラミを放虫し、他方にはキュウリ葉を設置した。葉側の容器側面外部にLED光源を設置してLED光源により光照射を行い、タバココナジラミを誘引した。どちらの実験もn=2とし、ネットを通過した数と残存した数を数えた。結果を表1に示す。
【表1】
表1に示したように、本発明の農業用防虫ネットを使用することでタバココナジラミの侵入数を減少させることができた。
【0051】
(実験例2:アザミウマ)
ネット状資材として、縦横の目合いが共に0.40mmである、エトフェンプロックスを混練させたモノフィラメントを緯糸として使ったポリエチレン製平織防虫ネット(以下、薬剤入り防虫ネットと呼ぶことがある)3を用意した。この防虫ネットにおけるエトフェンプロックス含有率は0.9質量%であった。また、経糸と緯糸はいずれも150デニールであった。
また、対比のために緯糸にエトフェンプロックスを混練させていない点以外は薬剤入り防虫ネット3と同じであるポリエチレン製平織防虫ネット(以下、薬剤無防虫ネットと呼ぶことがある。)4を用意した。
幅6.5cm高さ6.5cm奥行17cmのプラスチック製容器を用意し、かかるプラスチック製容器の中間部を、薬剤入り防虫ネット3または薬剤無防虫ネット4で仕切った。一方にアザミウマを放虫し、他方にはナス葉を設置してアザミウマを誘引した。アザミウマの種類としてミカンキイロアザミウマ、ヒラズハナアザミウマ、ネギアザミウマ、およびミナミキイロアザミウマの4種を用い、ネットを通過した数と残存した数を数えた。結果を表2に示す。
【表2】
表2に示したように、本発明の農業用防虫ネットを使用することで、すべてのアザミウマの種類に対して侵入数を減少させることができた。
【0052】
[1]エトフェンプロックスが練り込まれていることを特徴とする、農業用防虫ネット。
[2]アザミウマまたはコナジラミ用である、[1]に記載の農業用防虫ネット。
[3]目合いが0.4mm以上0.8mm以下である、[1]~[2]に記載の農業用防虫ネット。
[4]エトフェンプロックスが練り込まれたモノフィラメントからなる織物である、[1]~[3]に記載の農業用防虫ネット。
[5]エトフェンプロックスが練り込まれており、
目合いが0.4mm以上0.8mm以下であり、
ナス科若しくはウリ科の作物の栽培または花卉栽培に使用されることを特徴とする、農業用防虫ネット。
【手続補正書】
【提出日】2024-11-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エトフェンプロックスが0.1~4.0質量%の含有量で練り込まれており、
太さが70~340デニールである防虫性フィラメントを用い、
目合いが0.4mm以上0.8mm以下であり、
アザミウマまたはコナジラミ用であることを特徴とする、農業用防虫ネット。
【請求項2】
エトフェンプロックスが練り込まれたモノフィラメントからなる織物である、請求項1に記載の農業用防虫ネット。
【請求項3】
エトフェンプロックスが0.1~4.0質量%の含有量で練り込まれており、
(但し、式(I)

〔式中、
Cyは群E1~E2より選ばれる基を有していてもよいフェニル基、群E1~E2より選ばれる基を有していてもよい5~6員のヘテロアリール基、群E1~E3より選ばれる基を有していてもよい3~7員のシクロアルキル基又は群E1~E3より選ばれる基を有していてもよい5~7員のシクロアルケニル基を表し、
1 はハロゲン原子で置換されていてもよいC1~C4鎖式炭化水素基、ハロゲン原子又は水素原子を表し、
2 はハロゲン原子で置換されていてもよいC1~C4鎖式炭化水素基、-C(=G)R 4 、シアノ基、ハロゲン原子又は水素原子を表し、
3 は少なくとも1つのフッ素原子を含むC1~C5ハロアルキル基又はフッ素原子を表し、
Gは酸素原子又は硫黄原子を表し、
4 はハロゲン原子で置換されていてもよいC1~C4アルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1~C4アルコキシ基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC3~C6アルケニルオキシ基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC3~C6アルキニルオキシ基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1~C4アルキルアミノ基、ハロゲン原子で置換されていてもよいジ(C1~C4アルキル)アミノ基、ヒドロキシル基、アミノ基、C2~C5環状アミノ基又は水素原子を表し、
mは0又は1を表し、nは0、1又は2を表し、
群E1は、群Lから選ばれる基で置換されていてもよいC1~C6鎖式炭化水素基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC3~C6シクロアルキル基、-OR 5 、-SR 5 、-S(=O)R 5 、-S(=O) 2 5 、-C(=O)R 6 、-OC(=O)R 7 、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシル基及びハロゲン原子からなる一価基の群を表し、
群E2は、群Lから選ばれる基で置換されていてもよいC2-C6アルカンジイル基、群Lから選ばれる基で置換されていてもよい1,3-ブタジエン-1,4-ジイル基、-G-T-G-及び-T-G-T-からなる二価基の群を表し、
群E3は、=O、=NO-R 5 、=C=CH 2 及び=C(R 8 )R 9 からなる二価基の群を表し、
Tはメチレン基又はエチレン基を表し、
5 は群Lから選ばれる基で置換されていてもよいC1~C4鎖式炭化水素基又は群Lから選ばれる基で置換されていてもよいC3~C6シクロアルキル基を表し、
6 はハロゲン原子で置換されていてもよいC1~C4アルコキシ基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC3~C6アルケニルオキシ基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC3~C6アルキニルオキシ基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1~C4アルキルアミノ基、ハロゲン原子で置換されていてもよいジ(C1~C4アルキル)アミノ基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1~C4アルキル基、ヒドロキシル基、アミノ基、C2~C5環状アミノ基又は水素原子を表し、
7 はハロゲン原子で置換されていてもよいC1~C4アルコキシ基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC3~C6アルケニルオキシ基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC3~C6アルキニルオキシ基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1~C4アルキルアミノ基、ハロゲン原子で置換されていてもよいジ(C1~C4アルキル)アミノ基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1~C4アルキル基、アミノ基、C2~C5環状アミノ基又は水素原子を表し、
8 およびR 9 は同一または相異なり、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1~C4アルコキシ基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1~C4鎖式炭化水素基、ハロゲン原子又は水素原子を表し、
群Lは、ヒドロキシル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1~C4アルコキシ基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC3~C6アルケニルオキシ基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC3~C6アルキニルオキシ基、アミノ基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1~C4アルキルアミノ基、ハロゲン原子で置換されていてもよいジ(C1~C4アルキル)アミノ基、C2~C5環状アミノ基、-C(=O)R 6 、-OC(=O)R 7 及びハロゲン原子からなる群を表す。〕
で示される有機硫黄化合物を含有するものを除く。)
太さが70~340デニールである防虫性フィラメントを用い、
目合いが0.4mm以上0.8mm以下であり、
アザミウマまたはコナジラミ用であることを特徴とする、農業用防虫ネット。