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特開2024-167509重合性組成物、イオン交換樹脂、イオン交換膜、膜電極接合体、及び水素製造装置
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  • 特開-重合性組成物、イオン交換樹脂、イオン交換膜、膜電極接合体、及び水素製造装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167509
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】重合性組成物、イオン交換樹脂、イオン交換膜、膜電極接合体、及び水素製造装置
(51)【国際特許分類】
   C08F 212/14 20060101AFI20241127BHJP
   C25B 13/08 20060101ALI20241127BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20241127BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20241127BHJP
   C08J 5/22 20060101ALI20241127BHJP
   B01J 41/14 20060101ALI20241127BHJP
   B01J 41/04 20170101ALI20241127BHJP
   C08F 212/04 20060101ALI20241127BHJP
   C08L 25/16 20060101ALI20241127BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20241127BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
C08F212/14
C25B13/08 301
C25B1/04
C25B9/00 A
C08J5/22 104
C08J5/22 CER
C08J5/22 CEZ
B01J41/14
B01J41/04
C08F212/04
C08L25/16
C08K5/20
C08F2/44 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083625
(22)【出願日】2023-05-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】上森 理弘
(72)【発明者】
【氏名】浅田 陽亮
(72)【発明者】
【氏名】磯村 武範
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
4J011
4J100
4K021
【Fターム(参考)】
4F071AA37X
4F071AA39X
4F071FA10
4F071FB02
4F071FC02
4F071FD02
4F071FE03
4J002BC101
4J002EP016
4J002ET016
4J002EU026
4J002EU036
4J002EU106
4J002FD206
4J002GD01
4J011AA05
4J011AC04
4J011PA25
4J011PA36
4J011PC02
4J011PC08
4J011QA08
4J011QA19
4J011SA61
4J011TA07
4J011UA01
4J011VA01
4J011WA02
4J100AB02Q
4J100AB07P
4J100AB13Q
4J100AB15Q
4J100AB16Q
4J100AF06Q
4J100AF10Q
4J100AM02Q
4J100AN03Q
4J100AN14Q
4J100AP02Q
4J100AQ11Q
4J100AQ21Q
4J100AS02Q
4J100AS07Q
4J100BA02Q
4J100BA31Q
4J100BA32P
4J100BA33Q
4J100CA04
4J100FA03
4J100JA16
4K021AA01
4K021BA02
4K021DB36
4K021DB43
4K021DB53
4K021DC01
4K021DC03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】硬化体を効率的に製造可能な重合性組成物と、重合性組成物の硬化体を含むイオン交換樹脂、イオン交換膜、膜電極接合体、及び水素製造装置とを提供する。
【解決手段】一側面によると、重合性組成物が提供される。重合性組成物は、式(I)に表される第4級アンモニウム塩と、重合性単量体と、炭素数1以上4以下の直鎖状若しくは分岐状のアルキレングリコールと、特定の構造を有する窒素含有化合物(N,N-ジメチルプロピレン尿素など)とを含む。

【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)に表される第4級アンモニウム塩と、
重合性単量体と、
炭素数1以上4以下の直鎖状若しくは分岐状のアルキレングリコールと、
下記式(II)に表される窒素含有化合物と、
を含む重合性組成物:
【化1】
上記式(I)において、
は、炭素数2以上5以下のアルケニル基であり、
は、炭素数1以上10以下のアルキレン基であり、
、R、及びRは、それぞれ独立に、炭素数1以上4以下の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又は、炭素数1以上4以下の直鎖状若しくは分岐状のアルコキシ基であり、
は、陰イオンであり、
【化2】
上記式(II)において、
10は、炭素数1以上4以下のアルキル基であり、
11は、炭素数1以上4以下のアルキル基であり、
12は、水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基、炭素数1以上3以下のアルキル基を置換基として有する第2級アミノ基、又は、炭素数1以上3以下のアルキル基を置換基として有する第3級アミノ基であり、
11及びR12は、互いに結合して複素環を形成してもよく、
10、R11、及びR12の合計炭素数は、3以上7以下である。
【請求項2】
前記式(I)に表される第4級アンモニウム塩の濃度は、5質量%以上95質量%以下である、請求項1に記載の重合性組成物。
【請求項3】
前記式(II)に表される窒素含有化合物の濃度は、1質量%以上10質量%以下である、請求項1に記載の重合性組成物。
【請求項4】
前記アルキレングリコールの濃度は、1質量%以上50質量%以下である、請求項1に記載の重合性組成物。
【請求項5】
前記重合性単量体の濃度は、1質量%以上50質量%以下である、請求項1に記載の重合性組成物。
【請求項6】
前記第4級アンモニウム塩は、(ビニルベンジル)トリメチルアンモニウム・クロリド、( (ビニルベンジル)トリメチルアンモニウム・トリフラート、(ビニルベンジル)トリメチルアンモニウム・ビストリフルオロメタンスルホニルイミドからなる群より選択される少なくとも1種の塩を含む、請求項1に記載の重合性組成物。
【請求項7】
前記式(II)に表される窒素含有化合物は、N,N-ジメチルプロピレン尿素、1-メチル-2-ピロリドン、N-メチル-2-ピペリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、及びテトラメチルウレアからなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含む、請求項1に記載の重合性組成物。
【請求項8】
前記式(II)に表される窒素含有化合物の引火点は、60℃以上である、請求項1に記載の重合性組成物。
【請求項9】
前記重合性単量体は、ジビニルベンゼン、1,2―ビス(4-ビニルフェニルエタン、トリビニルベンゼン、1,6―ビス(4-ビニルベンジルオキシ)ヘキサン、及びN,N-ジメチル-N-(4-ビニルベンジル)―4―(4-ビニルフェニル)ブタンー1-アンモニウムクロリドからなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含む、請求項1に記載の重合性組成物。
【請求項10】
前記式(II)に表される窒素含有化合物の質量M1と前記アルキレングリコールの質量M2との比M1/M2は、0.03以上10以下である、請求項1に記載の重合性組成物。
【請求項11】
重合開始剤を更に含む請求項1に記載の重合性組成物。
【請求項12】
前記重合開始剤は、過酸化ベンゾイル、p-クロロベンゾイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシオクトエート、1-フェニル-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、2―ベンジルー2―(N,N-ジメチルアミノ)―1-(4-モルホリノフェニル)ブタンー1-オン、2-メチルー1-[4-(メチルチオ)フェニル]―2-2モルホリノプロパンー1-オンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含む、請求項11に記載の重合性組成物。
【請求項13】
請求項1に記載の重合性組成物の硬化体を含むイオン交換樹脂。
【請求項14】
請求項13に記載のイオン交換樹脂と基材とを含むイオン交換膜。
【請求項15】
請求項14に記載のイオン交換膜と電極とを含む膜電極接合体。
【請求項16】
請求項14に記載のイオン交換膜を含む水素製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合性組成物、イオン交換樹脂、イオン交換膜、膜電極接合体、及び水素製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水素の製造方法として、水を電気分解して水素ガス及び酸素ガスを発生させる水電解法が研究されている。二酸化炭素の発生が抑制された方法で得られたエネルギーを電力として用いて製造された水素は、COフリー水素、若しくはグリーン水素と呼ばれ、化石燃料に代わる次世代のクリーンエネルギーとして期待されている。
【0003】
水電解法のうち、陰イオン交換膜(Anion Exchanege Membrane:AEM)を用いたAEM式水電解法は、触媒に高価な貴金属を用いる必要がなく、注目を集めている。AEM式水電解装置は、例えば、AEMと、AEMにより隔てられ、アノード及びカソードをそれぞれ具備した陽極室及び陰極室とを備えている。AEMは、例えば、多孔質基材に、イオン交換樹脂を充填させることにより得られる。イオン交換樹脂として、第4級アンモニウム基を有する樹脂を用いることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2022-502522号公報
【特許文献2】国際公開2016/027595号公報
【特許文献3】国際公開2011/125717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、硬化体を効率的に製造可能な重合性組成物と、重合性組成物の硬化体を含むイオン交換樹脂、イオン交換膜、膜電極接合体、及び水素製造装置とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一側面によると、重合性組成物が提供される。重合性組成物は、下記式(I)に表される第4級アンモニウム塩と、重合性単量体と、炭素数1以上4以下の直鎖状若しくは分岐状のアルキレングリコールと、下記式(II)に表される窒素含有化合物とを含む。
【0007】
【化1】
【0008】
上記式(I)において、Rは、炭素数2以上5以下のアルケニル基である。Rは、炭素数1以上10以下のアルキレン基である。R、R、及びRは、それぞれ独立に、炭素数1以上4以下の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又は、炭素数1以上4以下の直鎖状若しくは分岐状のアルコキシ基である。Xは、陰イオンである。
【0009】
【化2】
【0010】
上記式(II)において、R10は、炭素数1以上4以下のアルキル基である。R11は、炭素数1以上4以下のアルキル基である。R12は、水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基、炭素数1以上3以下のアルキル基を置換基として有する第2級アミノ基、又は、炭素数1以上3以下のアルキル基を置換基として有する第3級アミノ基である。R11及びR12は、互いに結合して複素環を形成してもよい。R10、R11、及びR12の合計炭素数は、3以上7以下である。
【0011】
一側面によると、イオン交換樹脂が提供される。イオン交換樹脂は、実施形態に係る重合性組成物の硬化体及びこの硬化体のアニオンのイオン交換体の少なくとも一方を含む。
【0012】
一側面によると、イオン交換膜が提供される。イオン交換膜は、実施形態に係るイオン交換樹脂と、基材とを含む。
【0013】
一側面によると、膜電極接合体が提供される。膜電極接合体は、実施形態に係るイオン交換膜と、電極とを含む。
【0014】
一側面によると、水素製造装置が提供される。水素製造装置は、実施形態に係るイオン交換膜を含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、硬化体を効率的に製造可能な重合性組成物と、重合性組成物の硬化体を含むイオン交換樹脂、イオン交換膜、膜電極接合体、及び水素製造装置とが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態に係る水素製造装置の一例を概略的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施形態に係る重合性組成物は、重合性組成物は、上記式(I)に表される第4級アンモニウム塩と、重合性単量体と、炭素数1以上4以下の直鎖状若しくは分岐状のアルキレングリコールと、上記式(II)に表される窒素含有化合物とを含む。
【0018】
このような重合性組成物を用いると、硬化体を効率的に製造できる。その理由は、以下のとおりであると考えられる。すなわち、式(I)に示す重合性基を有する第4級アンモニウム塩の重合性単量体に対する相溶性は、重合性基を有する第1級アンモニウム塩よりも低い傾向にある。本発明者らが鋭意研究した結果、炭素数1以上4以下の直鎖状若しくは分岐状のアルキレングリコールと、式(II)に表される窒素含有化合物とを、共溶媒として用いることにより、式(I)に示す重合性基を有する第4級アンモニウム塩と重合性単量体とが分離しにくい重合性組成物を得られることを見出した。この理由は定かではないが、窒素含有化合物の相溶性が、第4級アンモニウム塩及び重合性単量体の双方に優れる、あるいは、窒素含有化合物が界面活性剤効果を発揮するためと考えられる。このような相溶性に優れ、相分離が生じにくい重合性組成物を用いると、重合性組成物の攪拌等を行うことなく、連続的に硬化体を製造できる。また、実施形態に係る重合性組成物は、第4級アンモニウム塩若しくは重合性単量体との相溶性が低い光重合開始剤を加えても、優れた相溶性を実現できる。そのため、この重合性組成物は、光硬化用の重合性組成物として好適に用いられる。
【0019】
[重合性組成物]
実施形態に係る重合性組成物は、典型的には、常温常圧下で液状である。ここで、常温とは、20℃以上40℃以下の温度を意味し、常圧とは、1気圧を意味する。重合性組成物の25℃、音叉振動式粘度測定法による粘度は、一例によると、300mPa・s以下であり、他の例によると、100mPa・s以下である。液状の重合性組成物を用いると、イオン交換性能の高いイオン交換樹脂を実現できる。
【0020】
実施形態に係る重合性組成物は、下記式(I)に表される第4級アンモニウム塩と、重合性単量体と、炭素数1以上4以下の直鎖状若しくは分岐状のアルキレングリコールと、式(II)に表される窒素含有化合物とを含む。
【0021】
【化3】
【0022】
上記式(I)において、Rは、炭素数2以上5以下のアルケニル基である。Rは、ビニル基又はアリル基であることが好ましく、ビニル基であることがより好ましい。
【0023】
は、炭素数1以上10以下のアルキレン基である。Rは、炭素数1以上5以下のアルキレン基であることが好ましく、メチレン基又はエチレン基であることがより好ましく、メチレン基であることが更に好ましい。
【0024】
、R、及びRは、それぞれ独立に、炭素数1以上4以下の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又は、炭素数1以上4以下の直鎖状若しくは分岐状のアルコキシ基である。R、R、及びRは、それぞれ独立に、炭素数1以上4以下の直鎖状アルキル基であることが好ましく、メチル基又はエチル基であることがより好ましい。
【0025】
は、一価の陰イオンであってもよく、二価の陰イオンであってもよい。Xは、例えば、ハロゲン化物イオン、テトラフルオロボレート、重炭酸イオン、水酸化物イオン、トリフラート、又は、ビストリフオロメタンスルホンイミドである。ハロゲン化物イオンは、例えば、フッ化物イオン、塩化物イオン、又は、臭化物イオンである。Xは、塩化物イオン、トリフラート、又は、ビストリフオロメタンスルホンイミドであることが好ましい。Xが塩化物イオンであると、単位質量当たりのイオン交換基の量が多いイオン交換樹脂を実現できる。Xが、トリフラート、又は、ビストリフオロメタンスルホンイミドであると、組成物の溶解性が高まり、重合性組成物における第4級アンモニウム塩の濃度を高め易い傾向にある。
【0026】
第4級アンモニウム塩の具体例には、(ビニルベンジル)トリアルキルアンモニウム塩、4-エテニル-N,N-ジメチルベンゼンエタンアミニウム塩、4-エテニル-N,N-ジメチルベンゼンプロパンアミニウム塩、が挙げられる。
【0027】
(ビニルベンジル)トリアルキルアンモニウム塩の具体例には、(ビニルベンジル)トリメチルアンモニウム・クロリド、(ビニルベンジル)トリメチルアンモニウム・トリフラート、(ビニルベンジル)トリメチルアンモニウム・ビストリフオロメタンスルホンイミド、(ビニルベンジル)ジメチルエチルアンモニウム・クロリド、(ビニルベンジル)ジメチルエチルアンモニウム・トリフラート、(ビニルベンジル)ジメチルエチルアンモニウム・ビストリフオロメタンスルホンイミド、(ビニルベンジル)トリメチルアンモニウム・テトラフルオロボレート、(ビニルベンジル)トリメチルアンモニウム・ビカーボネート、(ビニルベンジル)トリメチルアンモニウム・ハイドロキサイド等が挙げられる。
【0028】
その他の第4級アンモニウム塩の具体例には、4-エテニル-N,N-ジメチルベンゼンエタンアミニウム・クロリド、4-エテニル-N,N-ジメチルベンゼンエタンアミニウム・トリフラート、4-エテニル-N,N-ジメチルベンゼンエタンアミニウム・ビストリフルオロメメタンスルホニウム、4-エテニル-N,N-ジメチルベンゼンエタンアミニウム・ハイドロキキサイド、4-エテニル-N,N-ジメチルベンゼンプロパンアミニウム・クロリド、4-エテニル-N,N-ジメチルベンゼンプロパンアミニウム・トリフラート、4-エテニル-N,N-ジメチルベンゼンプロパンアミニウム・ビストリフルオロメメタンスルホニウム、4-エテニル-N,N-ジメチルベンゼンプロパンアミニウム・ハイドロキキサイド等が挙げられる。
【0029】
第4級アンモニウム塩としては、(ビニルベンジル)トリアルキルアンモニウム塩を用いることが好ましく、(ビニルベンジル)トリメチルアンモニウム・クロリド、(ビニルベンジル)トリメチルアンモニウム・トリフラート、及び(ビニルベンジル)トリメチルアンモニウム・ビストリフルオロメタンスルホニルイミドからなる群より選択される少なくとも1種の塩を用いることがより好ましい。
【0030】
重合性組成物において、第4級アンモニウム塩が占める割合は、例えば、5質量%以上95質量%以下である。この割合は、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることが好ましく、65質量%以上であることがより好ましい。この割合が高いと、単位質量当たりのイオン交換基の量が多いイオン交換樹脂が得られる傾向にある。この割合は、92質量%以下であってもよく、85質量%以下であってもよく、80質量%以下であってもよい。
【0031】
重合性組成物における第4級アンモニウム塩が占める割合は、例えば、原料として使用した第4級アンモニウム塩の合計質量から、重合反応後に未反応で残った第4級アンモニウム塩の重量を引くことにより測定できる。
【0032】
重合性組成物において、第4級アンモニウム塩が占める割合は、その種類によって変わり得る。ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリドの濃度は、例えば、60質量%以上70質量%以下である。ビニルベンジルトリメチルアンモニウムトリフラートの濃度は、例えば、75質量%以上85質量%以下である。ビニルベンジルトリメチルアンモニウムビストリフオロメタンスルホンイミドの濃度は、例えば、85質量%以上95質量%以下である。
【0033】
重合性単量体は、上記第4級アンモニウム塩と重合するコモノマーであり得る。重合性単量体は、第4級アンモニウム塩同士を架橋し、硬化体の耐久性を高め得る。
【0034】
重合性単量体は、1分子中に1つのラジカル重合性基を有していてもよく、1分子中に2以上のラジカル重合性基を有していてもよい。ラジカル重合性基としては、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基等が挙げられ、ビニル基を用いることが好ましい。
【0035】
重合性単量体としては、例えば、ビニル基を1つ有するビニル化合物、ビニル基を2つ有するジビニル化合物、アリル基を1つ有するアリル化合物、及びアリル基を2つ有するジアリル化合物、及び、ジエンからなる群より選択される少なくとも1種を用いる。重合性単量体は、重合性基を2つ有していることが好ましく、ジビニル化合物であることがより好ましい。
【0036】
重合性単量体の具体例には、ジビニルベンゼン、ジビニルベンゼン誘導体、ジビニルスルホン、ブタジエン、クロロプレン、ジビニルフェニル、トリビニルベンゼン類、ジビニルナフタレン、アリルアミン、ジアリルアミン、ジビニルピリジン、スチレン、アクリロニトリル、メチルスチレン、アクロレイン、メチルビニルケトン、ビニルビフェニル、ジアリルイソシアヌレート、1,2-ビス(4-ビニルフェニル)エタン、トリビニルベンゼン、1,6-ビス(4-ビニルベンジルオキシ)ヘキサン、及び、N,N-ジメチル-N-(4-ビニルベンジル)-4-(4-ビニルフェニル)ブタン-1-アンモニウムクロリド等が挙げられる。
【0037】
ラジカル重合性単量体としては、ジビニルベンゼン、1,2-ビス(4-ビニルフェニル)エタン、トリビニルベンゼン、1,6-ビス(4-ビニルベンジルオキシ)ヘキサン、及び、N,N-ジメチル-N-(4-ビニルベンジル)-4-(4-ビニルフェニル)ブタン-1-アンモニウムクロリドからなる群より選択される少なくとも1種のスチレン誘導体を用いることが好ましい。
【0038】
重合性組成物において、重合性単量体が占める割合は、例えば、0.1質量%以上50質量%以下であり、好ましくは、1質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは、2質量%以上10質量%以下である。この割合が高いと、硬化体の耐久性が高まる傾向にある。この割合が過剰に高いと、イオン交換樹脂の性能が低下し得る。この割合は、例えば、原料として使用した重合性組成物の合計質量から、重合反応後に未反応で残った重合性組成物の重量を引くことにより測定できる。
【0039】
第4級アンモニウム塩の質量M3と、重合性単量体の質量M4との比M3/M4は、例えば、1以上100以下であり、好ましくは、3以上50以下であり、より好ましくは、5以上25以下である。この比が高いと、イオン交換樹脂の性能が高まる傾向にある。この比が低いと、硬化体の耐久性が高まる傾向にある。
【0040】
炭素数1以上4以下の直鎖状若しくは分岐状のアルキレングリコールは、有機溶媒として機能し得る。アルキレングリコールの炭素数は、1以上3以下であることが好ましく、2であることがより好ましい。
【0041】
アルキレングリコールの沸点は、110℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましい。この沸点に上限値は特にないが、一例によると、300℃以下である。
【0042】
アルキレングリコールの引火点は、90℃以上であることが好ましく、110℃以上であることがより好ましい。この引火点に下限値は特にないが、一例によると、200℃以上である。
【0043】
アルキレングリコールの具体例には、メチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、テトラメチレングリコール等が挙げられる。アルキレングリコールとしては、エチレングリコールを用いることが好ましい。
【0044】
重合性組成物において、アルキレングリコールが占める割合は、例えば、1質量%以上50質量%以下であり、好ましくは、5質量%以上40質量%以下であり、より好ましくは、10質量%以上35質量%以下である。この割合が高いと、重合性組成物の相溶性が高まる傾向にある。この割合が過剰に高いと、イオン交換樹脂の性能が低下し得る。この割合は、例えば、原料として使用した重合性組成物の合計質量から、重合反応後に未反応で残った重合性組成物の重量を引くことにより測定できる。
【0045】
第4級アンモニウム塩の質量M3と、アルキレングリコールの質量M2との比M3/M2は、例えば、0.01以上95以下であり、好ましくは、1以上50以下であり、より好ましくは、1.8以上10以下である。この比が高いと、イオン交換樹脂の性能が高まる傾向にある。この比が低いと、重合性組成物の相溶性が高まる傾向にある。
【0046】
重合性単量体の質量M4と、アルキレングリコールの質量M2との比M4/M2は、例えば、0.02以上1以下であり、好ましくは、0.05以上0.5以下であり、より好ましくは、0.10以上0.25以下である。この比が高いと、硬化体の耐久性が高まる傾向にある。この比が低いと、重合性組成物の相溶性が高まる傾向にある。
【0047】
窒素含有化合物は、下記式(II)に表される。窒素含有化合物は、重合性組成物の分離を抑制する安定剤として機能し得る。
【0048】
【化4】
【0049】
上記式(II)において、R10は、炭素数1以上4以下のアルキル基である。R10は、炭素数1以上4以下のアルキル基である。R11は、メチル基又はエチル基であることが好ましい。
【0050】
11は、炭素数1以上4以下のアルキル基である。R11は、メチル基又はエチル基であることが好ましい。
【0051】
12は、水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基、炭素数1以上3以下のアルキル基を置換基として有する第2級アミノ基、又は、炭素数1以上3以下のアルキル基を置換基として有する第3級アミノ基である。R12は、水素原子、メチル基、エチル基、ジメチルアミノ基、又はジエチルアミノ基であることが好ましい。
【0052】
11及びR12は、互いに結合して複素環を形成してもよい。この複素環の環員炭素数は、例えば、2以上6以下であり、3以上5以下であってもよい。この複素環の環員窒素原子数は、1又は2である。この複素環は、例えば、炭素数1以上3以下のアルキル基を置換基として有していてもよい。
【0053】
10、R11、及びR12の合計炭素数は、3以上7以下である。合計炭素数は、4以上であってもよく、5以上であってもよく、6以上であってもよい。
【0054】
窒素含有化合物は、常温常圧下において、液状であってもよく、固体状であってもよいが、液状であることが好ましい。
【0055】
窒素含有化合物の沸点は、100℃以上であることが好ましく、140℃以上であることがより好ましい。この沸点に上限値は特にないが、一例によると、300℃以下である。
【0056】
窒素含有化合物の引火点は、60℃以上であることが好ましく、70℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましい。この引火点に上限値は特にないが、一例によると、200℃以下である。
【0057】
窒素含有化合物のモル質量は、例えば、70g/mol以上200g/mol以下であり、好ましくは、80g/mol以上130g/mol以下である。
【0058】
窒素含有化合物としては、例えば、N,N-ジメチルプロピレン尿素、1-メチル-2-ピロリドン、N-メチル-2-ピペリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、及びテトラメチルウレアからなる群より選択される少なくとも1種の化合物が挙げられる。窒素含有化合物としては、N,N-ジメチルプロピレン尿素、1-メチル-2-ピロリドン、N-メチル-2-ピペリドン、及び1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物を用いることが好ましい。これらの化合物を用いると、重合性組成物の重合性が高まる傾向にある。
【0059】
重合性組成物において、窒素含有化合物が占める割合は、例えば、1質量%以上10質量%以下であり、好ましくは、1質量%以上5質量%以下であり、より好ましくは、2.0質量%以上4.0質量%以下である。この割合が高いと、重合性組成物の相溶性が高まる傾向にある。この割合が過剰に高いと、イオン交換樹脂の性能が低下し得る。この割合は、例えば、原料として使用した重合性組成物の合計質量から、重合反応後に未反応で残った重合性組成物の重量を引くことにより測定できる。
【0060】
重合性組成物において、窒素含有化合物の量は、第四級アンモニウム塩に対して、例えば、0.01モル当量以上0.5モル当量以下としてもよい。この量は、好ましくは、0.03モル当量以上0.4モル当量以下であり、より好ましくは、0.1モル当量以上0.3モル当量以下である。
【0061】
第4級アンモニウム塩の質量M3と、窒素含有化合物の質量M1との比M3/M1は、例えば、5以上95以下であり、好ましくは、7以上50以下であり、より好ましくは、10以上30以下である。この比が高いと、イオン交換樹脂の性能が高まる傾向にある。この比が低いと、重合性組成物の相溶性が高まる傾向にある。
【0062】
重合性単量体の質量M4と、窒素含有化合物の質量M1との比M4/M1は、例えば、0.01以上50以下であり、好ましくは、0.1以上25以下であり、より好ましくは、0.5以上5以下である。この比が高いと、硬化体の耐久性が高まる傾向にある。この比が低いと、重合性組成物の相溶性が高まる傾向にある。
【0063】
窒素含有化合物の質量M1とアルキレングリコールの質量M2との比M1/M2は、例えば、0.03以上10以下であり、好ましくは、0.03以上3以下であり、より好ましくは、0.05以上0.3以下である。この比がこの範囲内にあると、重合性組成物の相溶性が高まる傾向にある。
【0064】
実施形態に係る重合性組成物は、重合開始剤、有機溶媒、その他添加剤等を含んでいてもよい。
【0065】
重合開始剤としては、熱重合開始剤及び光重合開始剤の少なくとも一方を用いる。熱重合開始剤としては、過酸化ベンゾイル、p-クロロベンゾイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、tert-ブチル(2-エチルヘキサノイル)ペルオキシドヘキサノアート、tert-ブチルパーオキシオクトエート等が挙げられる。光重合開始剤としては、1-フェニル-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、2-ベンジル-2-(N,N-ジメチルアミノ)-1-(4-モルホリノフェニル)ブタン-1-オン、及び2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-2モルホリノプロパン-1-オン等が挙げられる。
【0066】
重合性組成物において、重合開始剤が占める割合は、例えば、0.1質量%以上10質量%以下であり、好ましくは、1質量%以上5質量%以下である。この割合は、例えば、原料として使用した重合性組成物の合計質量から、重合反応後に未反応で残った重合性組成物の重量を引くことにより測定できる。
【0067】
上記アルキレングリコール及び窒素含有化合物以外の有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、ジアルキレングリコール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、1-ブタノール、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、1-ヘプタノール、1-オクタノール、1-ノナノール、1-デカノール、イソデカノール、トリデカノール、1-ウンデカノール、1-ドデカノール、2-ブタノール、3-ペンタノール、3-ヘキサノール、3-ヘプタノール、2-ウンデカノール、2-ドデカノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、シクロオクタノール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-オクタンジオール、1,2-デカンジオールからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いる。
【0068】
重合性組成物は、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、ジアルキレングリコール、及び3価のアルコールからなる群より選択される少なくとも1種を含まないことが好ましい。重合性組成物は、炭素数1以上3以下のアルコールを含まないことが好ましい。これらの化合物を含むと、重合性組成物の相溶性が低下し得る。これらの化合物の含有量は、5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることが更に好ましい。これらの化合物の含有量の下限値は、例えば、0質量%であり、他の例によると、100ppm以上である。この割合は、例えば、NMR、液体クロマトグラフィーにより測定できる。
【0069】
重合性組成物は、水を含まないことが好ましい。重合性組成物が水を含むと、重合性単量体や重合開始剤等の組成物を構成する成分が析出し得る。重合性組成物における水の濃度は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが更に好ましい。水の濃度の下限値は、一例によると、0質量%であり、他の例によると、100ppmである。この濃度は、例えば、カールフィッシャー水分量測定、ガスクロマトグラフィーにより測定できる。
【0070】
その他添加剤としては、酸化防止剤、重合禁止剤、可塑剤、界面活性剤等の公知の添加剤を用い得る。
【0071】
重合禁止剤としては、例えば、4-ヒドロキシー2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(4-OH-TEMPO)、4-tert-ブチルカテコール(TBC)、クペロン、及びベンゾキノンからなる群より選択される少なくとも1種を用いる。
【0072】
重合性組成物において、重合禁止剤が占める割合は、例えば、0.0001質量%以上2質量%以下であり、好ましくは、0.001質量%以上1.0質量%以下であり、より好ましくは、0.005質量%以上0.1質量%以下である。この割合は、例えば、ガスクロマトグラフィーにより測定できる。
【0073】
[イオン交換樹脂]
実施形態に係るイオン交換樹脂は、実施形態に係る重合性組成物の硬化体を含む。イオン交換樹脂は、第4級アンモニウム塩と重合性単量体との共重合体であり得る。イオン交換樹脂は、この硬化体のアニオンのイオン交換体であってもよい。硬化体のアニオンのイオン交換体とは、硬化体の第4級アンモニウム基のアニオンを、他の種類のアニオンに置換した樹脂を意味する。
【0074】
イオン交換樹脂は、アニオン交換樹脂として好適に用いられ得る。
【0075】
イオン交換樹脂は、イオン交換基として、第4級アンモニウム基を含む。第4級アンモニウム基のアニオンは、例えば、ハロゲン化物イオン、トリフラート、ビストリフオロメタンスルホンイミド、水酸化物イオン、炭酸イオン、又は重炭酸イオンである。対イオンは、水酸化物イオン、炭酸イオン、重炭酸イオン、又はハロゲン化物イオンであることが好ましい。これらのイオンを有するイオン交換樹脂は、アニオン交換樹脂として好適である。
【0076】
イオン交換樹脂の重量平均分子量は、例えば、1,000以上であり、好ましくは、5,000以上である。イオン交換樹脂の平均分子量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーや極限粘度法により測定できる。
【0077】
イオン交換樹脂は、例えば、炭化水素からなる主鎖に、第4級アンモニウム基を含む複数の側鎖が結合した構造を有する。複数の主鎖が、ラジカル重合性単量体である架橋剤を介して結合していてもよい。
【0078】
実施形態に係るイオン交換樹脂は、例えば、下記式(IV)に表される構造を有する。式(IV)に表される構造を有するイオン交換樹脂は、ラジカル重合性単量体としてジビニルベンゼンを含む重合性組成物を硬化させることにより得られる。
【0079】
【化5】
【0080】
式(IV)において、R1aは、炭素数1以上4以下のアルキレン基である。R、R、R、及びRは、それぞれ独立に、式(I)におけるものと同義である。X1は、ハロゲン化物イオン、トリフラート、ビストリフオロメタンスルホンイミド、水酸化物イオン、炭酸イオン、重炭酸イオン、又は、テトラフルオロボレートである。X1は、水酸化物イオン、炭酸イオン、又は重炭酸イオンであることが好ましい。
【0081】
イオン交換樹脂は、例えば、実施形態に係る重合性組成物を、熱重合又は光重合させることにより得られる。
【0082】
[イオン交換膜]
実施形態に係るイオン交換膜は、実施形態に係るイオン交換樹脂と、基材とを含む。イオン交換樹脂は、基材に担持され得る。実施形態に係るイオン交換膜は、アニオン交換膜(Anion Exchange Membrane:AEM)として好適に用いられ得る。
【0083】
実施形態に係るイオン交換膜は、水素製造装置、水電解装置、燃料電池、電気透析装置、拡散透析装置、純水製造装置、イオン交換水製造装置等に用いられ得る。実施形態に係るイオン交換膜は、AEM式水素製造装置、AEM式水電解装置、又は燃料電池用の陰イオン交換膜として好適に用いられ得る。
【0084】
イオン交換膜の厚みは、例えば、1μm以上500μm以下である。厚いイオン交換膜を用いると、膜抵抗が高まる傾向にある。薄いイオン交換膜を用いると、膜抵抗が低下する傾向にある。イオン交換膜の厚みは、10μm以上200μm以下であることが好ましく、20μm以上100μm以下であることがより好ましい。イオン交換膜の厚みの測定方法は、実施例で後述する。
【0085】
実施形態に係るイオン交換膜のイオン交換容量は、例えば、1.0mmol/g以上であり、他の例によると、2.0mmol/g以上であり、更に他の例によると、2.5mmol/g以上である。実施形態に係るイオン交換膜は、第4級アンモニウム塩の濃度が高い重合性組成物を用い得るため、高いイオン交換容量を実現できる。イオン交換容量に上限値は特にないが、一例によると、4.0mmol/g以下であり、他の例によると、3.0mmol/g以下である。イオン交換容量の測定方法は、実施例で後述する。
【0086】
実施形態に係るイオン交換膜の膜抵抗は、例えば、2.0Ω・cm以下であり、他の例によると、1.0Ω・cm以下である。膜抵抗に下限値は特にないが、一例によると、0.1Ω・cm以上であり、他の例によると、0.2Ω・cm以上である。膜抵抗の測定方法は、実施例で後述する。
【0087】
実施形態に係るイオン交換膜の含水率は、例えば、20%以上であり、他の例によると、30%以上であり、更に他の例によると、40%以上である。イオン交換膜の含水率が高いと、水のイオン伝導性が高まる傾向にあり、伝導度が向上すると考えらえる。膜の機械強度を高めるという点からは、イオン交換膜の含水率は、120%以下であることが好ましく、100%以下であることが好ましい。含水率の測定方法は、実施例で後述する。
【0088】
基材は、イオン交換樹脂の支持体として機能する。基材は、多孔質膜であることが好ましい。基材としては、例えば、多孔質フィルム、織布、不織布、スポンジ、フィルム等を用い得る。基材として多孔質膜を用いる場合、基材の孔にイオン交換樹脂が充填されていることが好ましい。
【0089】
基材は、例えば、ポリオレフィン樹脂、フッ素系樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、ポリエーテルミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリアクリレート、酢酸セルロース、ポリエーテルエーテルケトン又はこれらの共重合体である。ポリオレフィン樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリメチルペンテン、ポリブテン、ポリペンテン、ポリヘキセン、ポリメチルヘプテン、及びこれらの共重合体を含む。フッ素系樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ(テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン)、ポリフッ化ビニリデンポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、及びこれらの共重合体を含む。基材は、ポリオレフィン樹脂を含むことが好ましく、ポリエチレン及びポリプロピレンの少なくとも一方を含むことがより好ましい。
【0090】
基材の膜厚は、例えば、1μm以上500μm以下であり、好ましくは、5μm以上200μm以下であり、より好ましくは10μm以上150μm以下であり、更に好ましくは20μm以上100μm以下である。
【0091】
基材の空隙率は、例えば、25%以上60%以下であり、好ましくは、30%以上50%以下であり、より好ましくは35%以上45%以下である。
【0092】
[イオン交換膜の製造方法]
実施形態に係るイオン交換膜の製造方法は、実施形態に係る重合性組成物と基材とを接触させて第1構造体を得ることと、第1構造体に紫外線を照射して第2構造体を得ることとを含む。
【0093】
この製造方法では、第4級アンモニウム塩を含む重合性組成物を用いるため、イオン交換基を有さない化合物のみからなる重合性組成物を用いた場合と比較して、重合させて得られた樹脂にイオン交換基を導入する工程を省略できる。また、紫外線照射により重合性組成物の一部若しくは全部を重合させるため、熱重合させる方法と比較して短時間でイオン交換膜を製造できる。
【0094】
以下、製造方法の詳細を記載する。
【0095】
実施形態に係る重合性組成物と基材との接触方法については、特に制限されない。重合性組成物を基材に塗布してもよく、スプレー噴射してもよく、滴下してもよい。また、重合性組成物内に基材を浸漬させてもよい。1gの基材に対する重合性組成物の量は、例えば、0.2g以上2.0g以下とする。基材は、重合性組成物との密着性を高めるために、コロナ処理、グロー放電処理、アルカリ処理等の表面処理が施されていてもよい。
【0096】
第1構造体においては、基材に重合性組成物が担持されている。第1構造体の基材の少なくとも一方の主面を、樹脂フィルムで被覆することが好ましく、両面を樹脂フィルムで被覆することがより好ましい。樹脂フィルムで被覆することにより、第1構造体に担持された重合性組成物の組成変化を抑制できる。すなわち、重合性組成物が有機溶媒を含む場合、有機溶媒の揮発により重合性組成物の組成が変化し得る。樹脂フィルムで被覆することにより、有機溶媒の揮発を抑制できる。また、樹脂フィルムで被覆することにより、イオン交換膜の表面の平滑性が高まり、また、厚みが均一なイオン交換膜を得られる。樹脂フィルムの樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー、四フッ化エチレン・六エチレンプロピレンコポリマー等を用いる。
【0097】
この第1構造体に紫外線を照射することにより、重合性組成物が重合された第2構造体、すなわち、イオン交換膜を得る。紫外線照射に際しては、照射波長は、例えば、300nm以上400nm以下とし、好ましくは、330nm以上380nm以下とする。紫外線強度は、例えば、1mW/cm以上10000mW/cm以下とし、好ましくは、50mW/cm以上8000mW/cm以下とする。照射時間は、例えば、0.5秒以上3時間以下とし、好ましくは、1秒以上1時間以下とする。照射源としては、例えば、紫外線発光ダイオード(light-emitting diode:LED)、ハロゲンランプ、キセノンランプ、タングステンランプ、水銀ランプ等を用いる。照射波長の制御し易さや発熱のしにくさの点から、LEDを用いることが好ましい。
【0098】
上述したとおり、重合性組成物に有機溶媒が含まれる場合、有機溶媒の揮発により重合性組成物の組成が変化し得るため、第1構造体を得た直後に紫外線を照射することが好ましい。具体的には、第1構造体の製造後、好ましくは0.5時間以内に、より好ましくは0.1時間以内に、紫外線を照射する。なお、有機溶媒は、紫外線照射時又は後述の熱処理時に揮発するため、イオン交換膜には残留しない。
【0099】
第1構造体に紫外線を照射して第2構造体を得た後に、第2構造体を熱処理して第3構造体、すなわち、イオン交換膜を得てもよい。すなわち、紫外線照射により重合性組成物の一部を重合させた後、熱重合により重合性組成物を完全に重合させてもよい。熱処理に際しては、加熱温度は、例えば、50℃以上150℃以下とし、好ましくは、80℃以上130℃以下とする。加熱時間は、例えば、1分以上3時間以下とし、好ましくは、3分以上1時間以下とする。加熱方法は、ホットプレート、オーブン、赤外線ヒータ、加熱炉等を用い得る。
【0100】
なお、紫外線照射を省略し、熱処理のみ行ってもよい。また、熱処理後に紫外線照射を行ってもよい。
【0101】
光照射後、加熱後、もしくは光照射及び加熱後に得られた構造体を、水、有機溶媒(エタノール、アセトン、クロロホルム、ジクロロメタンなど)、又はこれらの混合溶媒で洗浄することで重合性組成物に含まれていたエチレングリコールなどを洗い落としてもよい。また、水を使用する際は、下記記載のアニオン置換処理を併せて行ってもよい。
【0102】
以上の方法で得られたイオン交換膜は、乾燥処理が施されてもよい。乾燥処理に際しては、乾燥温度を、例えば、40℃以上90℃以下とし、乾燥時間を、例えば、3時間以上24時間以下とする。
【0103】
以上の方法で得られたイオン交換膜に対して、アニオンの置換処理を行ってもよい。これにより、イオン交換樹脂の第4級アンモニウム基のアニオンを、他の種類のアニオンに置換できる。第4級アンモニウム基のアニオンが、トリフラート又はビストリフルオロメタンスルホンイミドである場合、塩化水素溶液、臭化水素溶液等のハロゲン化合物含有水溶液にイオン交換膜を一定時間浸漬させることにより、アニオンをハロゲン化物イオンに置換できる。第4級アンモニウム基のアニオンがハロゲン化物イオンである場合、水酸化ナトリウム溶液等の水酸化アルカリ金属溶液にイオン交換膜を一定時間浸漬させることにより、アニオンを水酸化物イオンに置換できる。第4級アンモニウム基のアニオンが水酸化物イオンである場合、炭酸カリウム溶液、重炭酸ナトリウム溶液等の炭酸塩溶液にイオン交換膜を一定時間浸漬させることにより、アニオンを炭酸イオン若しくは重炭酸イオンに置換できる。あるいは、第4級アンモニウム基のアニオンが水酸化物イオンであるイオン交換膜を、大気に一定時間曝すことにより、アニオンを炭酸イオン若しくは重炭酸イオンに置換できる。
【0104】
[膜電極接合体]
実施形態に係る膜電極接合体は、実施形態に係るイオン交換膜と、電極とを含む。膜電極接合体Membrane Electrode Assembly:Membrane Electrode Assembly(MEA)において、イオン交換膜と電極とは一体化されている。電極は、陰極である第1電極と陽極である第2電極とを含んでいてもよい。膜電極接合体は、第1電極及び第2電極との間にイオン交換膜が介在していてもよい。
【0105】
実施形態に係る膜電極接合体は、水素製造装置、水電解装置、燃料電池等用に用いられ得る。
【0106】
電極は、金属触媒と、任意に、イオン伝導剤、導電剤、及び結着剤とを含み得る。電極において金属触媒、イオン伝導剤、導電剤、及び結着剤が占める割合は、それぞれ、例えば、50質量%以上99質量%以下、0.1質量%以上30質量%以下、0.1質量%以上30質量%以下、及び、0.1質量%以上30質量%以下である。
【0107】
金属触媒は、酸化若しくは還元反応を促進する。金属触媒は、典型的には、粒子の形状にある。金属触媒としては、例えば、白金、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、スズ、鉄、コバルト、ニッケル、マンガン、モリブデン、タングステン、バナジウム、クロム、タンタル、ジルコニウム、アルミニウム、亜鉛、これらの酸化物若しくは水酸化物、又はこれらの合金を用いる。陽極用の金属触媒は、ニッケルを含むことが好ましい。陰極用の金属触媒は、白金、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、スズ、鉄、コバルト、ニッケル、マンガン、又はこれらの合金を含むことが好ましい。
【0108】
イオン伝導剤は、電極のイオン伝導性を高める。イオン伝導剤としては、塩基性官能基を有する、パーフルオロカーボン重合体、芳香族ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホンなどが挙げられる。イオン伝導剤として、イオン交換樹脂を用いてもよい。イオン交換樹脂は、実施形態に係るイオン交換樹脂を用いてもよく、他のイオン交換樹脂を用いてもよい。他のイオン交換樹脂としては、例えば、イミダゾール基を有するイオン交換樹脂を用いる。
【0109】
導電剤は、電極の電子伝導性を高める。導電剤は、金属触媒の担体として用いられてもよい。導電剤としては、例えば、カーボンブラック、活性炭、黒鉛、フラーレン、カーボンナノチューブ、又はこれらの混合物を用いる。
【0110】
結着剤は、電極の剛性を高める。結着剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoro ethylene;PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVdF)、フッ素系ゴム、ポリアクリル酸化合物、イミド化合物、又はこれらの混合物を用い得る。
【0111】
膜電極接合体は、例えば、以下の方法で製造される。
【0112】
先ず、上述した方法で実施形態に係るイオン交換膜を準備する。イオン交換膜は、湿潤状態にあってもよいが、乾燥状態にあることが好ましい。
【0113】
次に、金属触媒と、任意に、イオン伝導剤、導電剤、結着剤及び有機溶媒とを混合して、第1電極形成用組成物を調製する。この第1電極形成用組成物を、例えば、剥離紙上に塗布し、第1塗膜を得る。この第1塗膜を乾燥させる。乾燥後の第1塗膜を剥離紙から剥がし取り、イオン交換膜の一方の主面上に積層させる。イオン交換膜の一方の主面上に、イオン伝導剤を塗布しておいてもよい。イオン交換膜の一方の主面上に第1電極形成用組成物を直接塗布し、第1塗膜を形成してもよい。
【0114】
次に、金属触媒と、任意に、イオン伝導剤、導電剤、結着剤及び有機溶媒とを混合して、第2電極形成用組成物を調製する。この第2電極形成用組成物を、例えば、剥離紙上に塗布し、第2塗膜を得る。この第2塗膜を乾燥させる。乾燥後の第2塗膜を剥離紙から剥がし取り、イオン交換膜の他方の主面上に積層させる。イオン交換膜の他方の主面上に、イオン伝導剤を塗布しておいてもよい。イオン交換膜の他方の主面上に第1電極形成用組成物を直接塗布し、第2塗膜を形成してもよい。また、第2塗膜形成後に第1塗膜を形成してもよい。
【0115】
得られた積層体に対して、加熱、加圧、又はこれら両方の処理を施すことにより、第1塗膜及び第2塗膜とイオン交換膜とを一体化させる。このようにして、第1電極、イオン交換膜、及び第2電極がこの順で積層された膜電極接合体が得られる。なお、第1電極又は第2電極は省略してもよい。
【0116】
[水素製造装置]
実施形態に係る水素製造装置は、実施形態に係るイオン交換膜を含む。水素製造装置は、実施形態に係る膜電極接合体を含んでいてもよい。
【0117】
実施形態に係る水素製造装置は、実施形態に係るイオン交換膜を含むため、効率的に水を分解できる。
【0118】
以下、実施形態に係る膜電極接合体を含む水素製造装置について、図1を参照しながら詳細に説明する。
【0119】
図1は、実施形態に係る水素製造装置の一例を概略的に示す断面図である。図1に示す水素製造装置1は、膜電極接合体4と、膜電極接合体4により隔てられた、第1電極室2及び第2電極室3とを備えている。
【0120】
膜電極接合体4は、陰イオン交換膜5と、陰イオン交換膜5の一方の主面上に担持された第1電極6と、陰イオン交換膜の他方の主面上に担持された第2電極7とを含む。第1電極6及び第2電極7には、図示しない導線を介して電源に接続されている。第1電極及び第2電極の表面にはガス拡散層が設けられていてもよい。ガス拡散層としては、例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス、ニッケルフォーム、チタンフォーム、多孔グラファイト等を用いる。
【0121】
第1電極室2には、第1電極6が備えられ、水素排出管8が接続されている。水素排出管8は、図示しない水素タンクに接続されている。第1電極室2には、図示しない第1隔壁が設けられていてもよい。第1隔壁には、第1電極室2と接続する複数の溝と、これらの溝及び水素排出管8に接続される水素排出路が設けられている。第1隔壁は、電子伝導性の材料で構成されることが好ましい。第1隔壁には、例えば、金属プレートを用いる。第1隔壁は、上述したガス拡散層と接触していてもよい。
【0122】
第2電極室3には、第2電極7が備えられ、酸素排出管9及び水供給管10が接続されている。酸素排出管9は、図示しない酸素タンクに接続されている。水供給管10は、図示しない水供給装置に接続されている。第2電極室3には、図示しない第2隔壁が設けられていてもよい。第2隔壁には、第2電極室3と接続する複数の溝と、これらの溝、酸素排出管9及び水供給管10に接続される酸素排出路が設けられている。第2隔壁は、電子伝導性の材料で構成されることが好ましい。第2隔壁には、例えば、金属プレートを用いる。第2隔壁は、上述したガス拡散層と接触していてもよい。
【0123】
次に、実施形態に係る水素製造装置を用いた水素製造方法について、図1を参照しながら詳細に説明する。
【0124】
先ず、水供給管10を介して、第2電極室3に処理対象液を供給する。処理対象液は、水であってもよく、アルカリ性水溶液であってもよい。アルカリ性水溶液は、例えば、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、若しくは重炭酸塩の水溶液である。アルカリ性水溶液のpHは、例えば、10以上14以下である。アルカリ性水溶液の濃度は、例えば、0.1質量%以上30質量%以下である。
【0125】
膜電極接合体4に接触した処理対象液は、陰イオン交換膜5に保持される。すなわち、処理対処液は、陰イオン交換膜5を介して第1電極室2に供給される。
【0126】
次に、図示しない電源から第1電極6及び第2電極7に電力を供給する。これにより、第1電極6において、下記式(A)に示す通り、水(HO)が分解されて、水素(H)及び水酸化物イオン(OH)が生成する。生成された水酸化物イオンは、陰イオン交換膜5を介して第2電極7へと供給される。供給された水酸化物イオンは、第2電極7において、下記式(B)に示すとおり、酸素(O)及び水(HO)へと分解及び合成される。
【0127】
2HO+2e → H+2OH (A)
2OH → 1/2O+HO+2e (B)
第1電極室2で生成した水素ガスは、水素排出管8を介して水素タンクに供給される。第2電極室3で生成した酸素ガスは、酸素排出管9を介して酸素タンクに供給される。
【実施例0128】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
【0129】
<重合性組成物の調製>
(実施例1)
6gのビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリドと、0.37gの重合性単量体と、3.15gの有機溶媒と、0.2当量の窒素含有化合物と、0.09gの光重合開始剤と、0.05gの熱重合開始剤と0.0015gの重合禁止剤とを常温常圧下で混合して、重合性組成物を得られた。重合性単量体としては、ジビニルベンゼンを用いた。有機溶媒としては、エチレングリコールを用いた。窒素含有化合物としては、0.36gのN,N-ジメチルプロピレン尿素(DMPU)を用いた。光重合開始剤としては、1-フェニル-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オンを用いた。熱重合開始剤としては、tert-ブチルパーオキシオクトエートを用いた。重合禁止剤としては、4-ヒドロキシー2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルを用いた。
【0130】
(実施例2~8、比較例1~19)
表1に示すとおり、添加剤の種類を変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で重合性組成物を調製した。
【0131】
<評価試験>
(相分離)
実施例及び比較例で得られた重合性組成物について、目視により相分離を確認した。具体的には、スクリュー管内の10gの重合性組成物を300秒間攪拌した後、10分後に目視で相分離できたものを「あり」とし、確認できなかったものを「なし」とした。
【0132】
(重合性)
実施例及び比較例で得られた重合性組成物について、重合性を確認した。具体的には、実施例9の方法でイオン交換膜を作製した際に、膜表面が均一に透明なものは重合性を「良好」とした。一方で、膜表面の一部が白濁したものは重合性を「不良」とした。
【0133】
【表1】
【0134】
【表2】
【0135】
<イオン交換膜の製造>
(実施例9)
先ず、基材を準備した。基材としては、膜厚25μm、空隙率42%のポリエチレン製フィルムを用いた。
【0136】
この基材を実施例1に係る重合性組成物に浸漬させた後、重合性組成物内から引き上げた。このようにして、基材に重合性組成物が担持された第1構造体を得た。この第1構造体の両方の主面をPETフィルムで被覆した。第1構造体の一方の主面上からLEDを用いて紫外線を照射して、第2構造体を得た。照射波長は365nmであり、照射強度は100mW/cmであり、照射時間は1分間であった。
【0137】
次に、第2構造体を熱乾燥機に設置し、加熱処理をした。膜の表面温度が110℃程度となるように加熱温度は120℃とし、加熱時間は15分とした。加熱後の第2構造体からPETフィルムを剥がし取り、イオン交換膜を得た。
【0138】
(実施例10~13)
表3に示す重合性組成物を用いたこと以外は、実施例9に記載したのと同様の方法でイオン交換膜を製造した。
【0139】
<性能評価>
(膜厚測定)
実施例及び比較例で得られたイオン交換膜の膜厚を測定した。具体的には、ミツトヨ社製、ID-H0530を用いて測定した。
【0140】
(イオン交換容量及び含水率の測定)
実施例及び比較例で得られたイオン交換膜の陰イオン交換容量(IEC)及び含水率を測定した。
【0141】
具体的には、先ず、イオン交換膜を0.2mol/LのNaNO3水溶液に10時間以上浸漬させて、対イオンを塩化物イオンから硝酸イオンに置換した。なお、実施例19~22に係るイオン交換膜については、硝酸イオンへの変換に先立って、対イオンを塩化物イオンに置換した。塩化物イオンへの置換は、0.5mol/LのHCl水溶液にイオン交換膜を10時間以上浸漬させることにより行った。
【0142】
硝酸イオンへの置換の際に遊離した塩化物イオンの量を、硝酸銀水溶液を用いて電位差滴定装置で測定した。得られた値をA(mol)とした。電位差滴定装置としては、COMTITE-900、平沼産業株式会社製を用いた。
【0143】
次に、イオン交換膜を1mol/LのHCl水溶液に4時間以上浸漬させた。浸漬後のイオン交換膜をイオン交換水で十分水洗した後、表面部の水分をふき取り、イオン交換膜の重量を測定した。得られた値をW(g)とした。このイオン交換膜を60℃で5時間にわたって減圧乾燥させて乾燥後の重量を測定した。得られた値をD(g)とした。遊離した塩化物イオンの量(A)、及び乾燥後のイオン交換膜の重量(D)に基づいて、イオン交換膜の陰イオン交換容量を次式により求めた。
【0144】
陰イオン交換容量[mmol/g-乾燥重量]=A×1000/D
また、湿潤時のイオン交換膜の重量(W)及び乾燥後のイオン交換膜の重量(D)に基づいて、イオン交換膜の含水率を次式により求めた。
含水率[%]=(W-D)/D×100。
【0145】
(膜抵抗測定)
実施例及び比較例で得られたイオン交換膜の膜抵抗を測定した。この結果を表2に示す。
具体的には、先ず、イオン交換膜を0.5mol/LのNaCl水溶液に30分以上浸漬させた。浸漬後のイオン交換膜を、白金電極を備えた2室セルの中央に設置した。イオン交換膜の両側に0.5mol/LのNaCl水溶液を満たし、交流ブリッジ(周波数1000サイクル/秒)により25℃における電極間の抵抗値を測定した。次いで、イオン交換膜を設置しない場合の電極間の抵抗値を測定した。イオン交換膜設置後の電極間の抵抗値から、イオン交換膜を設置しない電極間の抵抗値を差し引いた。得られた値を膜抵抗とした。
【0146】
【表3】
【0147】
以下に、好ましい実施形態を付記する。
[1]
下記式(I)に表される第4級アンモニウム塩と、
重合性単量体と、
炭素数1以上4以下の直鎖状若しくは分岐状のアルキレングリコールと、
下記式(II)に表される窒素含有化合物と、
を含む重合性組成物:
【0148】
【化6】
【0149】
上記式(I)において、
は、炭素数2以上5以下のアルケニル基であり、
は、炭素数1以上10以下のアルキレン基であり、
、R、及びRは、それぞれ独立に、炭素数1以上4以下の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又は、炭素数1以上4以下の直鎖状若しくは分岐状のアルコキシ基であり、
は、陰イオンであり、
【0150】
【化7】
【0151】
上記式(II)において、
10は、炭素数1以上4以下のアルキル基であり、
11は、炭素数1以上4以下のアルキル基であり、
12は、水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基、炭素数1以上3以下のアルキル基を置換基として有する第2級アミノ基、又は、炭素数1以上3以下のアルキル基を置換基として有する第3級アミノ基であり、
11及びR12は、互いに結合して複素環を形成してもよく、
10、R11、及びR12の合計炭素数は、3以上7以下である。
[2]
前記式(I)に表される第4級アンモニウム塩の濃度は、5質量%以上95質量%以下である、[1]に記載の重合性組成物。
[3]
前記式(II)に表される窒素含有化合物の濃度は、1質量%以上10質量%以下である、[1]又は[2]に記載の重合性組成物。
[4]
前記アルキレングリコールの濃度は、1質量%以上50質量%以下である、[1]乃至[3]の何れかに記載の重合性組成物。
[5]
前記重合性単量体の濃度は、1質量%以上50質量%以下である、[1]乃至[4]の何れかに記載の重合性組成物。
[6]
前記第4級アンモニウム塩は、(ビニルベンジル)トリメチルアンモニウム・クロリド、( (ビニルベンジル)トリメチルアンモニウム・トリフラート、(ビニルベンジル)トリメチルアンモニウム・ビストリフルオロメタンスルホニルイミドからなる群より選択される少なくとも1種の塩を含む、[1]乃至[5]の何れかに記載の重合性組成物。
[7]
前記式(II)に表される窒素含有化合物は、N,N-ジメチルプロピレン尿素、1-メチル-2-ピロリドン、N-メチル-2-ピペリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、及びテトラメチルウレアからなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含む、[1]乃至[6]の何れかに記載の重合性組成物。
[8]
前記式(II)に表される窒素含有化合物の引火点は、60℃以上である、[1]乃至[7]に記載の重合性組成物。
[9]
前記重合性単量体は、ジビニルベンゼン、1,2―ビス(4-ビニルフェニルエタン、トリビニルベンゼン、1,6―ビス(4-ビニルベンジルオキシ)ヘキサン、及びN,N-ジメチル-N-(4-ビニルベンジル)―4―(4-ビニルフェニル)ブタンー1-アンモニウムクロリドからなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含む、[1]乃至[8]の何れかに記載の重合性組成物。
[10]
前記式(II)に表される窒素含有化合物の質量M1と前記アルキレングリコールの質量M2との比M1/M2は、0.03以上10以下である、[1]乃至[9]の何れかに記載の重合性組成物。
[11]
重合開始剤を更に含む[1]乃至[10]の何れかに記載の重合性組成物。
[12]
前記重合開始剤は、過酸化ベンゾイル、p-クロロベンゾイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシオクトエート、1-フェニル-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、2―ベンジルー2―(N,N-ジメチルアミノ)―1-(4-モルホリノフェニル)ブタンー1-オン、2-メチルー1-[4-(メチルチオ)フェニル]―2-2モルホリノプロパンー1-オンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含む、[11]に記載の重合性組成物。
[13]
[1]乃至[12]の何れかに記載の重合性組成物の硬化体を含むイオン交換樹脂。
[14]
[13]に記載のイオン交換樹脂と基材とを含むイオン交換膜。
[15]
[14]に記載のイオン交換膜と電極とを含む膜電極接合体。
[16]
[14]に記載のイオン交換膜を含む水素製造装置。
【符号の説明】
【0152】
1…水素製造装置、2…第1電極室、3…第2電極室、4…膜電極接合体、5…陰イオン交換膜5、6…第1電極、7…第2電極、8…水素排出管、9…酸素排出管、10…水供給管10。
図1