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特開2024-167588接着剤およびこれを用いた電子デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167588
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】接着剤およびこれを用いた電子デバイス
(51)【国際特許分類】
   C09J 201/00 20060101AFI20241127BHJP
   C08G 59/24 20060101ALI20241127BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20241127BHJP
   C09J 171/00 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
C09J201/00
C08G59/24
C09J11/06
C09J171/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083768
(22)【出願日】2023-05-22
(71)【出願人】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤原 武
(72)【発明者】
【氏名】佐郷 弘毅
(72)【発明者】
【氏名】高田 章博
(72)【発明者】
【氏名】室本 和美
【テーマコード(参考)】
4J036
4J040
【Fターム(参考)】
4J036AA01
4J036AB07
4J036AD07
4J036AJ08
4J036JA06
4J040EE061
4J040GA05
4J040GA11
4J040JA06
4J040KA04
4J040KA11
4J040KA16
4J040KA17
4J040KA23
4J040KA42
4J040LA06
4J040LA09
4J040MA10
4J040NA19
(57)【要約】
【課題】 従来の低誘電電子基板用の接着剤が有する問題点を解決するために、低誘電電子基板の原料である低誘電率樹脂シートと接着性が良好で、低粗度銅箔や低誘電率レジスト層とも接着性が良好である、耐熱性に優れた接着剤を、硬化温度以下で固体から液状に変化する重合性液晶性化合物(PLC)を用いて実現することである。
【手段】 2官能以上の重合性液晶性化合物、およびこの重合性液晶性化合物と重合可能な硬化成分を含む接着剤であり、低誘電電子基板と金属箔またはレジスト層とを貼り合わせるための接着剤。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2官能以上の重合性液晶性化合物、およびこの重合性液晶性化合物と重合可能な硬化成分を含む接着剤であり、低誘電電子基板と金属箔またはレジスト層とを貼り合わせるための接着剤。
【請求項2】
前記2官能以上の重合性液晶性化合物が、式(1)で表される重合性液晶性化合物である、請求項1に記載の接着剤。
1a-Z-A-Z-A-(Z-Am1-Z-R1b (1)
式(1)中、
、A、およびAは独立して、1,4-シクロヘキシレン、1,4-シクロヘキセニレン、1,4-フェニレン、ビシクロ[2.2.2]オクト-1,4-ジイル、ビシクロ[3.1.0]ヘキス-3,6-ジイル、またはフルオレン-2,7-ジイルであり、これらの環において、少なくとも1つの-CH-は-O-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH=は-N=で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素は、ハロゲン、または少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられてもよい炭素数1~12のアルキルで置き換えられてもよく、このアルキルにおいて、少なくとも1つの-CH-は、-O-、-CO-、-COO-、-OCO-、または-C=C-で置き換えられてもよく;
、Z、Z、およびZは独立して、単結合または炭素数1~20のアルキレンであり、このアルキレンにおいて、少なくとも1つの-CH-は、-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-SO-、-CH=CH-、-CF=CF-、-CH=N-、-N=CH-、または-N=N-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素はハロゲンで置き換えられてもよく;
m1は、0、1、または2であり、
式中に、ZまたはAが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよく、
1aおよびR1bは独立して、式(PG-1)~(PG-5)で表される重合性基から選択される基であり、
式(PG-1)~(PG-5)中、Rは、水素、ハロゲン、-CF、または炭素数1~5のアルキルであり、qは0または1であり、式中に複数あるRは、それらが同一であっても異なっていてもよく;
およびAが1,4-フェニレンであり、Zが単結合であり、m1が0であり、かつ、R1aおよびR1bが式(PG-5)で表される重合性基の場合は、ZおよびZは炭素数が3~20のアルキレンであり、このアルキレンにおいて、少なくとも1つの-CH-は、-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-SO-、-CH=CH-、-CF=CF-、-CH=N-、-N=CH-、または-N=N-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素はハロゲンで置き換えられてもよい。
【請求項3】
前記2官能以上の重合性液晶性化合物のAから右末端のAまでのメソゲン部分が、ビフェニル構造であり、ビフェニル構造とR1aおよびR1bのエポキシ基の間に炭素数が3以上の直鎖状のZおよびZが介在する、請求項2に記載の接着剤。
【請求項4】
前記2官能以上の重合性液晶性化合物のメソゲン部分が、ビシクロヘキシル構造である、請求項2に記載の接着剤。
【請求項5】
前記2官能以上の重合性液晶性化合物の重合性基が、前記式(PG-5)で表される重合性基である、請求項2に記載の接着剤。
【請求項6】
前記硬化成分が、硬化剤、重合開始剤、硬化促進剤、および架橋剤からなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1に記載の接着剤。
【請求項7】
前記硬化剤が、少なくとも2つの水酸基を有するポリフェニレンエーテルオリゴマー、活性エステル硬化剤、および少なくとも2つの水酸基を有するアルキルエーテルからなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項6に記載の接着剤。
【請求項8】
さらに、無機充填剤を1~30体積%含む、請求項1に記載の接着剤。
【請求項9】
前記無機充填剤が、球状シリカ、粉砕シリカ、中空シリカおよびヒュームドシリカの酸化珪素化合物、カーボンナノチューブ、グラフェン、炭化珪素、ならびに酸化マグネシウムおよび酸化亜鉛の金属酸化物からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項8に記載の接着剤。
【請求項10】
前記無機充填剤が、窒化物充填剤であり、前記接着剤を硬化した硬化物の熱伝導率が1W/m・K以上である、請求項8に記載の接着剤。
【請求項11】
前記接着剤が、固体状の接着剤である、請求項1に記載の接着剤。
【請求項12】
前記低誘電電子基板が、液晶ポリマー樹脂、モディファイドポリイミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、シクロオレフィン樹脂、およびフッ素樹脂からなる群から選択される少なくとも1つの層を含む、請求項1または11に記載の接着剤。
【請求項13】
請求項1または11に記載の接着剤を用いた電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5Gや6Gにむけた高周波を扱う電子基板に用いられる低誘電電子基板に金属箔や低誘電率レジスト層を、従来の生産設備およびプロセスで積層可能にするために、低誘電率樹脂シートと接着性が良好で、平滑な銅箔などの金属箔や低誘電率レジスト層などのレジスト層との接着性も良好である、接着層の誘電特性に優れた、重合性液晶性化合物を用いた低誘電電子基板の接着剤およびこの接着剤を用いた電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、通信機器の5G化さらにはbeyond5Gや6G化に伴い、電子基板上での電気信号の高周波化や、アンテナが送受信する電波も高周波化しており、信号処理回路基板やアンテナ基板による信号の損失が問題になっている。そのため、プリント配線基板や、2D、2.5Dでくみ上げられた半導体モジュール用基板に用いられる樹脂材料の低誘電率化、低誘電正接が求められており、従来のポリイミドやエポキシ樹脂に代わり、液晶ポリマー(LCP),ポリフェニレンエーテル(PPE)、シクロオレフィンポリマー(COP)、フッ素樹脂(PTFE)などの樹脂が基板原料として使用され始めている(非特許文献1)。
これらの基板原料の低誘電率樹脂シートやレジスト層は、誘電率を低く抑えるために、樹脂の極性を減らしているので従来のエポキシ接着剤との接着性が悪く、300℃近い高温でラミネートする熱可塑性接着剤を用いたり、低誘電率樹脂シートやレジスト層の表面に接着しやすくする処理を行ったりする必要がある。また、その高温により低誘電電子基板またはレジスト層を構成している樹脂や銅箔が熱による酸化や熱膨張率の差によるダメージを大きく受けてしまう難しさがあるので、200℃以下で強力に接着できる接着剤の開発が望まれている。
【0003】
また、電極や配線となる銅箔は、その表皮効果による特性悪化を避けるために、可能な限り平坦な物を使用する必要がある。元来、銅は接着しにくい金属であり、接着性を向上させるために接着面を粗化したり、その粗化面にさらに他の金属を表面に析出させたりしてガラスエポキシ基板やポリイミドフレキシブル基板に接着されている(非特許文献1)。この易接着処理層が非常に薄い高周波用銅箔は接着剤との接着性が低いため、低誘電電子基板用の接着剤には、この平滑な銅箔との接着性も併せて求められる(非特許文献2)。
【0004】
このように低誘電電子基板用の接着剤には、低誘電率樹脂シートと平滑な銅箔または低誘電率レジスト層との接着性が求められるだけでなく、銅箔をエッチングするなどして形成された回路パターンと直接接しているため、接着剤が硬化した接着層そのものの誘電特性も重要である。そのため、誘電特性に優れたポリオレフィン系の熱圧着式の接着シートが使用される場合が多い(非特許文献1)。ただし、リフローはんだによる電子部品の固定にも耐え得るために、圧着温度はかなり高めに設計されている。一方、エポキシ樹脂を使用した熱硬化型の接着剤も開発されているが、誘電特性、耐熱性や接着性の調整のため様々なポリマーや添加剤と混合されている(特許文献1、2、3)。
【0005】
さらに、プリント配線基板では、最表層にレジストフィルムやカバーレイフィルムを付与したり、基板となるフィルムやプリプレグを積層する場合も多いので、レジストフィルムや、基板同士の接着性が求められる場合も多い(特許文献4、5)。
【0006】
一般的には、強い接着性を実現させるために、エポキシ基を多く含む接着剤が使用されるが、原料としてマレイミド残基や(メタ)アクリル基を使用した低誘電電子基板用の接着剤で、かつ、銅が表面にあまり露出していない部分などの樹脂と樹脂との接着性が重視される部分では、誘電特性を高くすることが難しいエポキシ樹脂は使用せずに、樹脂の主成分であるマレイミド残基や(メタ)アクリル基でも接着性が確保できるので、用いられる基板に合った重合性基の選択も重要な課題となる(特許文献4、5)。
【0007】
低誘電電子基板用の接着剤にはリフロー炉耐性を付与するために、高耐熱性、特に高ガラス転移温度が求められる場合が多い。高ガラス転移温度化の方法の一つとして、LCPのように高分子鎖の中にメソゲン部分を導入し、メソゲン部分の分子間相互作用により高ガラス転移温度化する方法がある。ただし、一般的にはLCPは接着性が低く、軟化温度が高い熱可塑性樹脂であり、接着剤に用いることは難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2023-32287号公報
【特許文献2】特開2023-32286号公報
【特許文献3】特開2022-133352号公報
【特許文献4】特表2015-515927号公報
【特許文献5】国際公開第2011/111471号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「-5G/beyоnd 5Gに向けた― 高速・高周波対応部材の最新開発動向」、技術情報協会、2021、p.49、50、120、121。
【非特許文献2】「次世代通信・ミリ波技術の最新技術動向・今後の展望」、AndTech、2021、p.19、28、29。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、従来の低誘電電子基板用の接着剤が有する問題点を解決するために、低誘電電子基板の原料である低誘電率樹脂シートと接着性が良好で、低粗度銅箔や低誘電率レジスト層とも接着性が良好である、耐熱性に優れた接着剤を、硬化温度以下で固体から液状に変化する重合性液晶性化合物(PLC)を用いて実現することである。さらに、重合性液晶性化合物の硬化物は熱伝導率が高く、付加価値として高放熱性も付与できる。
本発明の接着剤を用いることで、高周波数領域における次世代通信機器およびレーダーなどの基板作製に好適な接着剤を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、2官能以上の重合性液晶性化合物および硬化成分とを、接着成分として用いることにより、優れた誘電特性と接着性を併せ持つ接着剤を実現できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
[1] 2官能以上の重合性液晶性化合物、およびこの重合性液晶性化合物と重合可能な硬化成分を含む接着剤であり、低誘電電子基板と金属箔またはレジスト層とを貼り合わせるための接着剤。
【0013】
[2] 前記2官能以上の重合性液晶性化合物が、式(1)で表される重合性液晶性化合物である、[1]に記載の接着剤。
1a-Z-A-Z-A-(Z-Am1-Z-R1b (1)
式(1)中、
、A、およびAは独立して、1,4-シクロヘキシレン、1,4-シクロヘキセニレン、1,4-フェニレン、ビシクロ[2.2.2]オクト-1,4-ジイル、ビシクロ[3.1.0]ヘキス-3,6-ジイル、またはフルオレン-2,7-ジイルであり、これらの環において、少なくとも1つの-CH-は-O-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH=は-N=で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素は、ハロゲン、または少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられてもよい炭素数1~12のアルキルで置き換えられてもよく、このアルキルにおいて、少なくとも1つの-CH-は、-O-、-CO-、-COO-、-OCO-、または-C=C-で置き換えられてもよく;
、Z、Z、およびZは独立して、単結合または炭素数1~20のアルキレンであり、このアルキレンにおいて、少なくとも1つの-CH-は、-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-SO-、-CH=CH-、-CF=CF-、-CH=N-、-N=CH-、または-N=N-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素はハロゲンで置き換えられてもよく;
m1は、0、1、または2であり、
式中に、ZまたはAが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよく、
1aおよびR1bは独立して、式(PG-1)~(PG-5)で表される重合性基から選択される基であり、
式(PG-1)~(PG-5)中、Rは、水素、ハロゲン、-CF、または炭素数1~5のアルキルであり、qは0または1であり、式中に複数あるRは、それらが同一であっても異なっていてもよく;
およびAが1,4-フェニレンであり、Zが単結合であり、m1が0であり、かつ、R1aおよびR1bが式(PG-5)で表される重合性基の場合は、ZおよびZは炭素数が3~20のアルキレンであり、このアルキレンにおいて、少なくとも1つの-CH-は、-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-SO-、-CH=CH-、-CF=CF-、-CH=N-、-N=CH-、または-N=N-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素はハロゲンで置き換えられてもよい。
【0014】
[3] 前記2官能以上の重合性液晶性化合物のAから右末端のAまでのメソゲン部分が、ビフェニル構造であり、ビフェニル構造とR1aおよびR1bのエポキシ基の間に炭素数が3以上の直鎖状のZおよびZが介在する、[2]に記載の接着剤。
【0015】
[4] 前記2官能以上の重合性液晶性化合物のメソゲン部分が、ビシクロヘキシル構造である、[2]に記載の接着剤。
【0016】
[5] 前記2官能以上の重合性液晶性化合物の重合性基が、前記式(PG-5)で表される重合性基である、[2]~[4]のいずれか1項に記載の接着剤。
【0017】
[6] 前記硬化成分が、硬化剤、重合開始剤、硬化促進剤、および架橋剤からなる群から選択される少なくとも1つを含む、[1]~[5]のいずれか1項に記載の接着剤。
【0018】
[7] 前記硬化剤が、少なくとも2つの水酸基を有するポリフェニレンエーテルオリゴマー、活性エステル硬化剤、および少なくとも2つの水酸基を有するアルキルエーテルからなる群から選択される少なくとも1つを含む、[6]に記載の接着剤。
【0019】
[8] さらに、無機充填剤を1~30体積%含む、[1]~[7]のいずれか1項に記載の接着剤。
【0020】
[9] 前記無機充填剤が、球状シリカ、粉砕シリカ、中空シリカおよびヒュームドシリカの酸化珪素化合物、カーボンナノチューブ、グラフェン、炭化珪素、ならびに酸化マグネシウムおよび酸化亜鉛の金属酸化物からなる群から選択される少なくとも1つである、[8]に記載の接着剤。
【0021】
[10] 前記無機充填剤が、窒化物充填剤であり、前記接着剤を硬化した硬化物の熱伝導率が1W/m・K以上である、[8]に記載の接着剤。
【0022】
[11] 前記接着剤が、固体状の接着剤である、[1]~[10]のいずれか1項に記載の接着剤。
【0023】
[12] 前記低誘電電子基板が、液晶ポリマー樹脂、モディファイドポリイミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、シクロオレフィン樹脂、およびフッ素樹脂からなる群から選択される少なくとも1つの層を含む、[1]~[11]のいずれか1項に記載の接着剤。
【0024】
[13] [1]~[12]のいずれか1項に記載の接着剤を用いた電子デバイス。
【発明の効果】
【0025】
本発明においては重合性液晶性化合物を用いた、低誘電電子基板用の接着剤を用いることにより、低誘電電子基板と金属箔またはレジスト層とを貼り合わせて得られる積層体を製造するのにおいて、設定温度が200℃以下の従来の生産設備を用いて、低誘電率の樹脂を基板原料とする低誘電電子基板と低粗度の銅箔などの金属箔や低誘電率レジスト層などのレジスト層とを接着することができ、また本発明の接着剤が硬化した樹脂部分の誘電特性が優れ、高耐熱な前記積層体を製造することができる。そのことにより、beyond5G、6Gと高周波化が進み電子基板での信号ロスが少なく、半導体チップの発熱量増加に伴う高温にも耐え、放熱性も兼ね備えた電子デバイスを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、[実施例]および[比較例]において、低誘電フィルムと銅箔とのピール強度を測定するために作製したサンプルの概略図である。5cm角の低誘電フィルムの上に、図1のように7cm×1cmの接着成分塗布層付き銅箔を載せ、その後、加熱プレスを用いて本発明の接着剤(接着成分塗布層)を硬化させることにより低誘電フィルムと銅箔とを接着し、2cmのはみ出た部分を引張試験機(オートグラフ)でつかめるようにしている。
図2図2は、図1のサンプルを引張試験機に取り付ける際に用いたジグの概略図である。2mm厚のアルミ板に図1のサンプルを図2のように取り付けて測定した。JIS規格では接着長10cmのサンプルを使用しているが、図2のような簡易法では、測定が進むにつれて銅箔と低誘電フィルムの基材との間の角度が小さくなってしまい、垂直の場合からの測定値からずれてしまうので、接着長を半分の5cmとした。この長さであれば、引張試験機のロードセルの長さもあるため、大きな角度の差はつかない。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に用いられる2官能以上の重合性液晶性化合物、この重合性液晶性化合物と重合可能な硬化成分(以下、硬化成分ということがある。)、これらを含む接着剤であり、低誘電電子基板と金属箔またはレジスト層とを貼り合わせるための本発明の接着剤、および接着剤を用いた本発明の電子デバイス、ならびにこれらの製造方法について詳細に説明する。
本明細書における用語の使い方は以下のとおりである。
「液晶性化合物」は、ネマチック相やスメクチック相などの液晶相を有する化合物、および、液晶相を有しないが誘電率異方性、屈折率異方性、磁化率異方性などのような液晶に特有の物性を有し、液晶組成物の成分として有用な化合物の総称である。液晶温度範囲では配向処理が容易になり、熱可塑性樹脂における延伸処理のように分子の配向を制御することができる。
「化合物(1)」は、2官能以上の重合性液晶性化合物として前記式(1)で表わされる重合性液晶性化合物を意味し、また、式(1)で表わされる化合物の少なくとも1種を意味することもある。なお、「化合物(1-1)」などについても同様であり、化合物(1-1)、化合物(1-2)および化合物(1-3)を総称して「化合物(1)」と表すこともある。1つの化合物(1)が複数のAを有するとき、任意の2つのAは同一でも異なっていてもよい。複数の化合物(1)がRを有するとき、任意の2つのRは同一でも異なっていてもよい。この規則は、qおよびXなど他の記号、基などにも適用される。
「重合体(1)」は該化合物(1)を重合させることによって得られる重合体の少なくとも1種を意味する。なお、「化合物(1)」と同様に、化合物(1-1)、化合物(1-2)および化合物(1-3)それぞれの重合体を総称して「重合体(1)」と表すこともある。
「接着剤(1)」は、2官能以上の重合性液晶性化合物、好ましくは2官能以上の重合性液晶性化合物として、該化合物(1)から選ばれる少なくとも1種、およびこの重合性液晶性化合物と重合可能な硬化成分を含む接着剤であり、低誘電電子基板と金属箔またはレジスト層とを貼り合わせるための接着剤、すなわち本発明の接着剤を意味する。
【0028】
[接着剤]
本発明の接着剤は、2官能以上の重合性液晶性化合物、およびこの重合性液晶性化合物と重合可能な硬化成分を含む接着剤であり、低誘電電子基板と金属箔またはレジスト層とを貼り合わせるための接着剤である。
【0029】
1)化合物(1)
本発明に用いられる2官能以上の重合性液晶性化合物として、好ましい化合物である前記式(1)で表わされる重合性液晶性化合物(1)(以下、化合物(1)ということがある。)は、液晶骨格(棒状のメソゲン骨格)と重合性基を有し、好ましくは共役や極性基が少なく、分子の直線性や対称性が高く、高い重合反応性、広い液晶相温度範囲、良好な混和性などを有する。この化合物(1)は他の液晶性化合物や重合性化合物などと混合するとき、容易に均一になりやすい。
化合物(1)の融点は、接着・硬化温度の観点から好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下、さらに好ましくは160℃以下、または化合物(1)のネマチック相から液体への転移温度は、成形・硬化温度の観点から好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下、さらに好ましくは160℃以下である。
本発明に用いられる2官能以上の重合性液晶性化合物として、前記式(1)で表される化合物(1)は、環構造、結合基および末端基などの基から構成されている。化合物(1)の末端基R1aまたはR1b、環構造A、AまたはAおよび結合基Z、Z、ZまたはZを適宜選択することによって、液晶相発現領域などの物性を任意に調整することができる。末端基、環構造および結合基の種類が、化合物(1)の物性に与える効果、ならびに前記式(1)で定義されるこれら化合物(1)の好ましい例を以下に説明する。なお、環構造、結合基および末端基を、それぞれ「環構造A」、「結合基Z」および「末端基R」と総称して表すこともある。
なお、「アルキルにおける少なくとも1つの-CH-は、-O-で置き換えられてもよい」などの句の意味を一例で示す。C-における少なくとも1つの-CH-が、-O-で置き換えられた基としては、C3O-、CH-O-(CH-、CH-O-CH-O-などである。このように「少なくとも1つの」という語は、「区別なく選択された少なくとも1つの」を意味する。なお、化合物の安定性を考慮して、酸素と酸素とが隣接したCH-O-O-CH-よりも、酸素と酸素とが隣接しないCH-O-CH-O-の方が好ましい。
【0030】
<環構造A :A、AおよびA
化合物(1)の環構造Aは、パラ位で結合したベンゼン環、パラ位で結合したシクロヘキサン環、以下の式(R1-1)~(R1-8)で表される環構造、および式(R2-1)~(R2-8)で表される環構造から選択される基である。

式(R1-1)~(R1-8)、および式(R2-1)~(R2-8)中、Xはハロゲン、または炭素数1~6のアルキルである。
化合物(1)の環構造Aの好ましい例は、式(R1-1)、(R1-2)、(R1-3)、(R2-1)、(R2-2)、および(R2-3)であって、Xはフッ素またはメチルのときであり、融点が低く、常温付近において流動性を示し、有機溶媒に対して高い溶解性を示す。
環構造AおよびAは、1,4-フェニレン、または1,4-シクロヘキシレンであり、これらの環において、少なくとも1つの水素は、ハロゲン、または少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられてもよい炭素数1~6のアルキルで置き換えられてもよい。
これらの環構造である場合、透明点が高く、比誘電率が非常に低く、誘電損失が低く、かつ、粘度が小さいといった特徴を併せ持つ。さらに、融点が低く、常温付近において流動性を示すことが多いため、無溶媒または少量の有機溶媒の使用により塗布法で製膜できる接着剤を容易に調製することが可能となる。
なお、製造上の利点から、環構造Aが式(R1-1)~(R1-8)で表される環構造から選択される基である場合には、環構造AまたはAは少なくとも1つの水素がハロゲン、または炭素数1~6のアルキルで置き換えられていてもよい1,4-フェニレンが好ましく、環構造Aが式(R2-1)~(R2-8)で表される環構造から選択される基である場合には、環構造AまたはAは少なくとも1つの水素がハロゲン、または炭素数1~6のアルキルで置き換えられていてもよい1,4-シクロヘキシレンが好ましい。
【0031】
化合物(1)の環構造AまたはAの特に好ましい例は、1,4-フェニレン、2-メチル-1,4-フェニレン、3-メチル-1,4-フェニレン、2,3-ジメチル-1,4-フェニレン、2,5-ジメチル-1,4-フェニレン、2,6-ジメチル-1,4-フェニレン、3,5-ジメチル-1,4-フェニレン、2-フルオロ-1,4-フェニレン、3-フルオロ-1,4-フェニレン、2,3-ジフルオロ-1,4-フェニレン、2,5-ジフルオロ-1,4-フェニレン、2,6-ジフルオロ-1,4-フェニレン、および3,5-ジフルオロ-1,4-フェニレンの芳香環構造、ならびに
1,4-シクロヘキシレン、2-メチル-1,4-シクロヘキシレン、3-メチル-1,4-シクロヘキシレン、2,3-ジメチル-1,4-シクロヘキシレン、2,5-ジメチル-1,4-シクロヘキシレン、2,6-ジメチル-1,4-シクロヘキシレン、3,5-ジメチル-1,4-シクロヘキシレン、2-フルオロ-1,4-シクロヘキシレン、3-フルオロ-1,4-シクロヘキシレン、2,3-ジフルオロ-1,4-シクロヘキシレン、2,5-ジフルオロ-1,4-シクロヘキシレン、2,6-ジフルオロ-1,4-シクロヘキシレン、および3,5-ジフルオロ-1,4-シクロヘキシレンの脂環構造である。
【0032】
1,4-シクロヘキシレンの立体配置は、シス体であってもトランス体であってもよく、シス体の場合は融点が低く、トランス体の場合は直線性が高く低誘電を示す。
【0033】
環構造Aにおける少なくとも1つの環が1,4-フェニレンの場合、配向秩序パラメーター(orientational order parameter)および磁気異方性が大きい。また、少なくとも2つの環が1,4-フェニレンの場合、透明点が高い。
1,4-フェニレン環上の少なくとも1つの水素が置き換えられていてもよい好ましい例としてはフッ素、炭素数1~6のアルキルまたは-CFであり、融点が低下し、溶解性が高い。また分子分極率が小さくなるため比誘電率が低い。さらに分子運動が抑制されるため誘電損失が低い。
環構造Aにおける少なくとも1つの環が1,4-シクロヘキシレンである場合、透明点が高く、比誘電率が非常に低く、誘電損失が低く、かつ、粘度が小さい。また少なくとも2つの環がトランス-1,4-シクロヘキシレンである場合、透明点が高く、比誘電率が非常に低く、誘電損失が低く、かつ、粘度が小さい。シス-1,4-シクロヘキシレンの場合は融点が低く、トランス-1,4-シクロヘキシレンの場合は直線性が高く低誘電を示す
【0034】
<結合基Z :Z、Z、ZおよびZ
化合物(1)の結合基Zの好ましい例は、単結合、-(CH-、-O(CH-、-(CHO-、または-O(CHO-であり、ここでaは1~20の整数であり、bは1~19の整数であり、cは1~18の整数である。
結合基Zが、単結合、-(CH-、-(CHO-、-O(CH-、または-O(CHO-である場合、粘度が小さくなる。また、結合基Zが-(CH-、-(CHO-、-O(CH-、または-O(CHO-であり、aが2~12程度の整数であり、bが1~11程度の整数であり、cが1~10程度の整数である場合は分子長が長くなり、融点が低下し、かつ、有機溶媒への溶解性が高く、誘電正接が小さい。
【0035】
<末端基R :R1aおよびR1b
化合物(1)の末端基Rは、式(PG-1)~(PG-5)のいずれかで表される重合性基である。
【0036】
【0037】
式(PG-1)~(PG-5)中、Rは、水素、ハロゲン、-CFまたは炭素数1~5のアルキルであり、qは0または1である。
また複数あるRは、それらが同一であっても異なっていてもよい。
【0038】
化合物(1)の末端基Rの好ましい例は、式(PG-1a)~(PG-1d)、(PG-2a)、(PG-3a)、(PG-4a)、および(PG-5a)~(PG-5d)で表される重合性基が挙げられる。
【0039】
【0040】
これらの好ましい重合性基において、(PG-1a)~(PG-1d)、(PG-2a)、および(PG-4a)は、α,β-不飽和ケトンの構造を有しているので、様々な手段により重合し、より大きな分子量を有する高分子へと変化させることができる。(PG-3a)は、電子供与性基に隣接したビニルを有しているので、様々な手段により重合し、より大きな分子量を有する高分子へと変化させることができる。(PG-5a)~(PG-5d)は、ひずみを有する環状エーテルを有しているので、様々な手段により重合し、より大きな分子量を有する高分子へと変化させることができる。
【0041】
式(PG-1)~(PG-5)で表される重合性基は、接着剤の製造条件により、適切なものを選ぶことができる。
低誘電電子基板用の熱硬化性の接着剤を作製する場合は、耐熱性、放熱性などの点から、式(PG-2a)で表されるマレイミド残基、式(PG-5a)で表されるオキシラニル、式(PG-5b)で表されるオキセタニルが好ましい。また、本発明の低誘電電子基板用の接着剤において通常用いられる光硬化性の接着剤を作製する場合、高い硬化性、有機溶媒への溶解性、および取扱いのしやすさなどの点から、式(PG-1)で表されるアクリルやメタクリルが好ましい。
【0042】
以上のように、環構造A、結合基Z、および末端基Rの種類、環の数などを適宜選択することにより、目的の物性を有する化合物(1)を得ることができる。好ましい化合物(1)の例としては、式(1-1)~(1-6)で表される化合物が挙げられる。
【0043】
【0044】
式(1-1)~(1-6)中、
、Z、およびZは独立して、単結合、-(CH-、-O(CH-、-(CHO-、または-O(CHO-であり、ここで、aは1~20の整数であり、bは1~19の整数であり、cは1~18の整数であり、
Xは、フッ素またはメチルであり、Meは、メチルであり、nは、0~4の整数であり、nが2以上であるときを含み、式中にXが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよく、
1aおよびR1bは独立して、式(PG-1)または(PG-5)で表される重合性基である。
【0045】
式(PG-1)および(PG-5)中、Rは、水素、ハロゲン、-CF3、または炭素数1~5のアルキルであり、qは0または1であり、式中に複数あるRは、それらが同一であっても異なっていてもよい。
【0046】
化合物(1-1)~(1-6)の好ましい具体例を以下に示す。
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
式(1-1-1)~(1-6-7)中、
は、単結合、-(CH-、-O(CH-、-(CHO-、または-O(CHO-であり、ここで、aは1~20の整数であり、bは1~19の整数であり、cは1~18の整数であり、mは、0~20の整数であり、Mは、単結合または酸素であり、Xはフッ素またはメチルであり、式中のXが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよく、Meはメチルであり、式中に、複数あるm、またはMは、それらが同一であっても異なっていてもよい。
ただし、化合物(1)のより好ましい具体例の式の定義の関係から、式(1-1-5)と式(1-2-3)、式(1-1-7)と式(1-3-3)、式(1-4-5)と式(1-5-3)、式(1-4-7)と式(1-6-3)において、それぞれ一部重複する化合物(1)を含む。
【0053】
[化合物(1)の合成方法]
化合物(1)は、有機合成化学における公知の手法を組み合わせることにより合成できる。出発物質に目的の末端基、環構造および結合基を導入する方法は、ホーベン-ワイル(Houben-Wyle, Methods of Organic Chemistry, Georg Thieme Verlag, Stuttgart)、オーガニック・シンセシーズ(Organic Syntheses, John Wily & Sons, Inc.)、オーガニック・リアクションズ(Organic Reactions, John Wily & Sons Inc.)、コンプリヘンシブ・オーガニック・シンセシス(Comprehensive Organic Synthesis, Pergamon Press)、新実験化学講座(丸善)などの成書に記載されている。
【0054】
結合基Zの導入方法について、下記スキーム1~4で説明する。これらのスキームにおいて、MSGおよびMSGは、少なくとも1つの環を有する1価の有機基を示し、Halはハロゲンを示す。下記スキームで用いた複数のMSG(またはMSG)は、同一でも異なっていてもよい。下記スキームにおける化合物(1A)~(1F)は上記化合物(1)に相当する。これらの方法は、光学活性な化合物(1)および光学的に不活性な化合物(1)の合成に適用できる。
【0055】
(スキーム1)Zが単結合の化合物
下記に示すように、アリールホウ酸(S1)と公知の方法で合成される化合物(S2)とを、炭酸塩水溶液およびテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムのような触媒の存在下で反応させることにより、MSGとMSGとの間に単結合が導入された化合物(1A)を合成することができる。この化合物(1A)は、公知の方法で合成される化合物(S3)に、n-ブチルリチウム、次いで塩化亜鉛を反応させた後、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムのような触媒の存在下で化合物(S2)をさらに反応させることによっても合成することができる。
【0056】
【0057】
(スキーム2)Zが-(CH-の化合物
下記に示すように、上記のようにして得られた化合物(1B)をパラジウム炭素などの触媒の存在下で水素化することにより、MSGとMSGとの間に-(CH-を有する化合物(1C)を合成することができる。
【0058】
【0059】
(スキーム3)Zが-(CF-の化合物
下記に示すように、J. Am. Chem. Soc., 2001, 123, 5414 に記載されている方法に従い、フッ素化試薬の存在下、ジケトン(S6)を四フッ化硫黄でフッ素化することにより、MSGとMSGとの間に-(CF-を有する化合物(1D)を合成することができる。
【0060】
【0061】
(スキーム4)Zが-(CH4-の化合物
下記に示すように、スキーム1の方法に従って、ホスホニウム塩(S7)を用いて-(CH2-CH=CH-を有する化合物を合成し、これを上記スキーム2と同様にして接触水素化することにより、MSGとMSGとの間に-(CH4-が導入された化合物(1E)を合成することができる。
【0062】
【0063】
(スキーム5)Zが-CHO-または-OCH-の化合物
下記に示すように、化合物(S4)を水素化ホウ素ナトリウムなどの還元剤で還元して化合物(S8)を得る。これを臭化水素酸などでハロゲン化して化合物(S9)を得る。この化合物(S9)と化合物(S10)とを、炭酸カリウムなどの存在下で反応させることにより、MSGとMSGとの間に-OCH-(または-CHO-)が導入された化合物(1F)を合成することができる。
【0064】
【0065】
2)重合体(1)
本発明に用いられる化合物(1)は重合性基(末端基R)を有するので、容易に重合させることが可能である。本発明における重合体(1)は、該化合物(1)を重合させることによって得られる重合体の少なくとも1種である。次項の接着剤(1)において、その他の少なくとも1種の成分として組み合わせで構成される重合体(1)としては、化合物(1)のオリゴマーであってもよい。このオリゴマーは、重合体(1)を構成する化合物(1)の構成単位(constitutional unit)の数(重合度)が少ない低重合体を意味する。オリゴマーの内、構成単位の数に応じて、ダイマー(dimer:二量体)、トライマー(trimer:三量体)、テトラマー(tetramer:四量体)などと呼ぶこともある。
【0066】
3)接着剤(1)
本発明における接着剤(1)は、2官能以上の重合性液晶性化合物、およびこの重合性液晶性化合物と重合可能な硬化成分を含む接着剤であり、好ましくは2官能以上の重合性液晶性化合物として、化合物(1)を少なくとも1種含む接着剤である。接着剤(1)は、好ましくは化合物(1)として2種以上の化合物(1)で構成されていてもよく、また、少なくとも1種の化合物(1)を用いそれと、重合体(1)を含む2官能以上の重合性液晶性化合物以外のその他の少なくとも1種の成分との組み合わせで構成されていてもよい。このようなその他の少なくとも1種の成分である構成要素としては、特に限定されないが、重合体(1)、2官能以上の重合性液晶性化合物以外の重合性化合物(以下「その他の重合性化合物」ということがある。)、有機溶媒、非重合性の液晶性化合物、無機充填剤および繊維状補強剤などが挙げられる。好ましい接着剤(1)としては、少なくとも1種の化合物(1)、硬化成分および重合体(1)で構成される接着剤、少なくとも1種の化合物(1)、硬化成分およびその他の重合性化合物で構成される接着剤、ならびに少なくとも1種の化合物(1)、硬化成分、重合体(1)およびその他の重合性化合物で構成される接着剤などが挙げられる。
【0067】
4)その他の重合性化合物
接着剤(1)は、2官能以上の重合性液晶性化合物以外の重合性化合物(その他の重合性化合物)を含んでいてもよい。2官能以上の重合性液晶性化合物以外の重合性化合物は、以下の2官能以上の重合性液晶性化合物以外の重合性液晶性化合物(以下「その他の重合性液晶性化合物」ということがある。)の少なくとも1種および2官能以上の重合性液晶性化合物以外の重合性非液晶性化合物(以下「その他の重合性非液晶性化合物」ということがある。)の少なくとも1種から構成される。
4-1)その他の重合性液晶性化合物
接着剤(1)は、2官能以上の重合性液晶性化合物以外の重合性液晶性化合物、すなわち単官能の重合性液晶性化合物の少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0068】
4-2)その他の重合性非液晶性化合物
接着剤(1)は、その他の重合性非液晶性化合物の少なくとも1種を構成要素としてもよい。このようなその他の重合性非液晶性化合物としては、膜形成性および機械的強度を低下させない化合物が好ましい。この重合性非液晶性化合物は、液晶性を有しない化合物に分類される。液晶性を有しない重合性化合物であるその他の重合性非液晶性化合物としては、ビニル誘導体、スチレン誘導体、(メタ)アクリル酸誘導体、ソルビン酸誘導体、フマル酸誘導体、イタコン酸誘導体などの誘導体、変性ポリイミドオリゴマー、変性マレイミドオリゴマー、変性ポリフェニレンエーテルオリゴマー、変性ポリフェニレンサルファイドオリゴマー、変性ポリブタジエンエラストマーなどの変性されたエンジニアリングプラスチックのオリゴマーや変性されたエラストマー、すなわち付加重合性二重結合などの重合性官能基を有する高分子量化合物を意味するマクロマーが挙げられる。これらの誘導体の好ましい例を以下に示す。
文中、「(メタ)アクリロイルオキシ」は、アクリロイルオキシまたはメタクリロイルオキシを意味し、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートまたはメタクリレートを意味し、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸またはメタクリル酸を意味する。
【0069】
好ましいビニル誘導体としては、塩化ビニル、フッ化ビニル、酢酸ビニル、ピバリン酸ビニル、2,2-ジメチルブタン酸ビニル、2,2-ジメチルペンタン酸ビニル、2-メチル-2-ブタン酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、2-エチル-2-メチルブタン酸ビニル、N-ビニルアセトアミド、p-t-ブチル安息香酸ビニル、N,N-ジメチルアミノ安息香酸ビニル、安息香酸ビニル、エチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルモノビニルエーテル、t-アミルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールメチルビニルエーテル、α,β-ビニルナフタレン、メチルビニルケトン、イソブチルビニルケトンなどが挙げられる。
【0070】
好ましいスチレン誘導体としては、スチレン、o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、o-クロロメチルスチレン、m-クロロメチルスチレン、p-クロロメチルスチレン、α-メチルスチレンなどが挙げられる。
【0071】
好ましい(メタ)アクリル酸誘導体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールEO付加トリアクリレート、ペンタエリストールトリアクリレート、トリス(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェート、ビスフェノールA EO付加ジアクリレート、ビスフェノールA グリジジルジアクリレート(商品名:大阪有機化学工業(株)製「ビスコート700」)、ポリエチレングリコールジアクリレートジメチルイタコネートなどが挙げられる。
【0072】
好ましいソルビン酸誘導体としては、ソルビン酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸リチウム、ソルビン酸1-ナフチルメチルアンモニウム、ソルビン酸ベンジルアンモニウム、ソルビン酸ドデシルアンモニウム、ソルビン酸オクタデシルアンモニウム、ソルビン酸メチル、ソルビン酸エチル、ソルビン酸プロピル、ソルビン酸イソプロピル、ソルビン酸ブチル、ソルビン酸t-ブチル、ソルビン酸ヘキシル、ソルビン酸オクチル、ソルビン酸オクタデシル、ソルビン酸シクロペンチル、ソルビン酸シクロヘキシル、ソルビン酸ビニル、ソルビン酸アリル、ソルビン酸プロパギルなどが挙げられる。
【0073】
好ましいフマル酸誘導体としては、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジイソプロピル、フマル酸ジブチル、フマル酸ジシクロペンチル、フマル酸ジシクロヘキシルなどが挙げられる。
【0074】
好ましいイタコン酸誘導体としては、ジエチルイタコネート、ジブチルイタコネート、ジイソプロピルイタコネートなどが挙げられる。
これらの他にも、ブタジエン、イソプレン、マレイミドなど、多くの重合性非液晶性化合物を用いることができる。
【0075】
5)硬化成分
硬化成分としては、硬化剤、重合開始剤、硬化促進剤、および架橋剤からなる群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。これらの内、硬化剤としては、少なくとも2つの水酸基を有するポリフェニレンエーテルオリゴマー、活性エステル硬化剤、および少なくとも2つの水酸基を有するアルキルエーテルからなる群から選択される少なくとも1つを含むことがより好ましい。
【0076】
6)重合開始剤
接着剤(1)は重合開始剤を構成要素としてもよい。重合開始剤は、接着剤(1)の硬化方法(重合方法)に応じて、熱ラジカル重合開始剤、光ラジカル重合開始剤、光カチオン重合開始剤などを用いればよい。本発明に用いられる2官能以上の重合性液晶性化合物を、無機フィラーと複合化し高熱伝導化させる場合には、無機フィラーが光を吸収してしまうので、熱ラジカル重合開始剤を使用することが好ましい。無機フィラーとの複合材料を数μmの厚みの薄膜で使用する場合には、重合開始剤を増やしたり、強力な重合開始剤を使用することにより、光重合で硬化させることも可能である。
【0077】
好ましい熱ラジカル重合開始剤としては、過酸化ベンゾイル、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシピバレート、ジ-t-ブチルパーオキシド(DTBPO)、t-ブチルパーオキシジイソブチレート、過酸化ラウロイル、2,2’-アゾビスイソ酪酸ジメチル(MAIB)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル(ACN)、2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチルなどが挙げられる。
市販品の過酸化物系の重合開始剤としては、各社から市販されている過酸化ベンゾイルの他、東京化成工業(株)製商品名「ジクミルペルオキシド」、日油(株)製商品名「パークミルD、ナイパーBMT、パーヘキサ25Z」などが挙げられる。アゾ重合開始剤としては、各社から市販されているAIBNの他、富士フイルム和光純薬(株)製商品名「V―40、V-50、V-59、V-65、V-70、V-501、V-601」などが挙げられる。一般に、アゾ重合開始剤は熱ラジカル重合と光ラジカル重合の両方に好適に使用できる。
【0078】
光ラジカル重合開始剤としては、特に限定されず、公知のものを使用することができ、
4-メトキシフェニル-2,4-ビス(トリクロロメチル)トリアジン、2-(4-ブトキシスチリル)-5-トリクロロメチル-1,3,4-オキサジアゾール、9-フェニルアクリジン、9,10-ベンズフェナジン、ベンゾフェノン/ミヒラーズケトン混合物、ヘキサアリールビイミダゾール/メルカプトベンズイミダゾール混合物、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、ベンジルジメチルケタール、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン、2,4-ジエチルキサントン/p-ジメチルアミノ安息香酸メチル混合物、ベンゾフェノン/メチルトリエタノールアミン混合物などが挙げられる。市販品としては、チバ・スペシャリティー社製商品名「ダロキュアーシリーズ1173、4265」、商品名「イルガキュアーシリーズ184、369、500、651、784、819、907、1300、1700、1800、1850、2959」などが挙げられる。
【0079】
光カチオン重合開始剤としては、特に限定されず、公知のものを使用することができ、UCC社製商品名「サイラキューアーUVI-6990、6974」、(株)ADEKA製商品名「アデカオプトマーSP-150、152、170、172」、ローディア社製商品名「Photoinitiator 2074」、チバ・スペシャリティー社製商品名「イルガキュアー250」、みどり化学(株)製商品名「DTS-102」などの市販品が挙げられる。
【0080】
アニオン重合、配位重合およびリビング重合用の好ましい重合開始剤としては、n-C49Li、t-C49Li-R3Alなどのアルカリ金属アルキル化合物、アルミニウム化合物、遷移金属化合物などが挙げられる。
【0081】
7)硬化剤
硬化剤としては、少なくとも2つの水酸基を有するポリフェニレンエーテルオリゴマー、活性エステル硬化剤、および少なくとも2つの水酸基を有するアルキルエーテルからなる群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。
接着剤(1)が、エーテル結合を有する環状化合物である環状エーテルを構成要素とする場合、硬化剤を構成要素として含有してもよい。好ましい硬化剤の例を以下に示す。
【0082】
アミン系硬化剤として、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、o-キシレンジアミン、m-キシレンジアミン、p-キシレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、イソホロンジアミン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ノルボルネンジアミン、1,2-ジアミノシクロヘキサン、3,9-ジプロパンアミン-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-1,2-ジフェニルエタン、o-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシプロピレントリアミン、ポリシクロヘキシルポリアミン、N-アミノエチルピペラジンなどが挙げられる。
【0083】
酸無水物系硬化剤として、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルナジック酸無水物、水素化メチルナジック酸無水物、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸二無水物、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメチレート、グリセリンビス(アンヒドロトリメリテート)モノアセテート、デデセニル無水コハク酸、クロレンド酸無水物などが挙げられる。
【0084】
フェノール系硬化剤として、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、2,3-キシレノール、2,5-キシレノール、2,6-キシレノール、3,4-キシレノール、3,5-キシレノール、m-エチルフェノール、p-エチルフェノール、2,3,5-トリメチルフェノール、2,3,6-トリメチルフェノール、o-イソプロピルフェノール、p-tert-ブチルフェノール、o-sec-ブチルフェノール、p-オクチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、レゾルシノール、1-ナフトール、2-ナフトール、ビスフェノールA、フェノールノボラック、キシリレンノボラック、ビスフェノールAノボラックなどが挙げられる。
上記以外にも特開2004-256687号公報、特開2002-226550号公報などに記載されている硬化剤も使用することができる。
【0085】
活性エステル硬化剤としては、特に限定されず、公知のものを使用することができ、ジシクロペンタジエン型ジフェノール構造を含む活性エステル化合物としてDIC(株)製商品名「HPC-8000H-65T」、ナフタレン構造を含む活性エステル化合物としてDIC(株)製商品名「EXB-8150-65T」、フェノールノボラックのアセチル化物を含む活性エステル化合物として三菱ケミカル(株)製商品名「DC808」、フェノールノボラックのベンゾイル化物を含む活性エステル化合物として三菱ケミカル(株)製商品名「YLH1026」、フェノールノボラックのアセチル化物である活性エステル硬化剤として三菱ケミカル(株)製商品名「DC808」、フェノールノボラックのベンゾイル化物である活性エステル硬化剤として三菱ケミカル(株)製商品名「YLH1026」などの市販品が挙げられる。
【0086】
また、硬化促進剤として、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン、5,6-ジブチルアミノ-1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン等のシクロアミジン化合物;該シクロアミジン化合物に無水マレイン酸、1,4-ベンゾキノン、2,5-トルキノン、1,4-ナフトキノン、2,3-ジメチルベンゾキノン、2,6-ジメチルベンゾキノン、2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ベンゾキノン、2,3-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノン、フェニル-1,4-ベンゾキノン等のキノン化合物、ジアゾフェニルメタン、フェノール樹脂などのπ結合を有する化合物を付加してなる分子内分極を有する化合物;ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の3級アミン化合物;該3級アミン化合物の誘導体;2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物;該イミダゾール化合物の誘導体;トリブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリス(4-メチルフェニル)ホスフィン、ジフェニルホスフィン、フェニルホスフィン等の有機ホスフィン化合物;該有機ホスフィン化合物に無水マレイン酸、上記キノン化合物、ジアゾフェニルメタン、フェノール樹脂等のπ結合を有する化合物を付加してなる分子内分極を有するリン化合物;テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィンテトラフェニルボレート、2-エチル-4-メチルイミダゾールテトラフェニルボレート、N-メチルモルホリンテトラフェニルボレート等のテトラフェニルボロン塩;該テトラフェニルボロン塩の誘導体;トリフェニルホスホニウム-トリフェニルボラン、N-メチルモルホリンテトラフェニルホスホニウム-テトラフェニルボレート等のホスフィン化合物と該テトラフェニルボロン塩との付加物などが挙げられる。
【0087】
架橋剤として、3官能以上の重合性化合物を含有していてもよい。3次元の架橋によりガラス転移温度の向上、誘電正接の低下、機械強度の向上などの効果が期待できる。3官能以上の架橋剤としては、0~3個のエポキシ基および3~0個のアリル基を持つイソシアヌル酸誘導体、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(TGDDM)、(株)、プリンテック社製商品名TECHMORE VG3101Lなどが挙げられる。
【0088】
8)有機溶媒
接着剤(1)は有機溶媒を含有してもよい。接着剤(1)の硬化は有機溶媒中で行っても、無溶媒で行ってもよい。有機溶媒を含有する接着剤(1)を低誘電電子基板上に、スピンコート法などにより塗布した後、有機溶媒を除去してから光硬化させてもよい。また、光硬化後、適当な温度に加温して熱硬化により後処理を行ってもよい。
【0089】
好ましい有機溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、テトラヒドロフラン、γ-ブチロラクトン、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、酢酸2-メトキシ-1-メチルエチル(プロピレングリコールメチルエーテルアセタート:PGMEA)などが挙げられる。上記有機溶媒は1種単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
なお、硬化時の有機溶媒の使用割合を限定することにはあまり意味がなく、硬化効率、溶媒コスト、エネルギーコストなどを考慮して、個々のケースごとに決定すればよい。
【0090】
本発明の接着剤(1)は、総重量の70wt%以下の有機溶媒を含有していることが好ましく、無溶媒の組成物であることが特に好ましい。なお、無溶媒の組成物とは、有機溶媒を使用することなく常温で流動性を保持し、または溶融時に高い流動性を示すワニス状に調製することが可能な組成物である。総重量の70wt%以下の有機溶媒を含有する組成物、または無溶媒の組成物を用いることで硬化物濃度が高くなるため硬化物の機能を有効に発現することができる。
硬化前の接着剤(1)は、常温付近で液体状態であって流動性を保持しており、そのまま無溶媒または総重量に対して70wt%以下の有機溶媒を含有するワニスとして使用できる。すなわち、そのままコーティングまたは接着などの用途に使用でき、高温で溶媒を揮発させる工程などが必要ない。
なお、ここで使用し得る有機溶媒としては、環境負荷の観点から比較的毒性の低いアセトン、メチルエチルケトン、トルエン、キシレン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、エチレングリコールモノメチルエーテル、N,N-ジメチルホルムアミド、メタノール、エタノールなどが挙げられる。本発明の接着剤(1)は非有機溶媒系での高い耐熱性と高い接着層形成が可能であることから、プリント配線基板用積層板、基板用層間絶縁材料、接着フィルム、半導体封止剤、導電性接着剤など本発明の電子デバイスに用いられる各種電子部品用の絶縁材料を提供できる。
【0091】
9)非重合性の液晶性化合物
接着剤(1)は、重合性基を有しない液晶性化合物を構成要素としてもよい。このような非重合性の液晶性化合物の例は、液晶性化合物のデータベースであるリクリスト(LiqCryst, LCI Publisher GmbH, Hamburg, Germany)に記載されている。非重合性の液晶性化合物を含有する接着剤(1)を硬化させることによって、化合物(1)の重合体と非重合性の液晶性化合物との複合材料(composite materials)を得ることができる。このような複合材料では、例えば、高分子分散型液晶のような高分子網目中に非重合性の液晶性化合物が存在している。
【0092】
10)無機充填剤および繊維状補強剤
熱伝導率向上、機械強度向上、粘度調整などのために、無機充填剤を接着剤(1)に加えることができる。なお、本明細書では無機充填剤を無機フィラーということがある。
誘電損失を抑えるためには、球状シリカ、粉砕シリカ、中空シリカ、ヒュームドシリカなどの酸化珪素化合物、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタンなどの金属酸化物、チタン酸カリウムなどの金属塩であってもよい。好ましくは、球状シリカ、中空シリカ、酸化マグネシウム、チタン酸カリウムが好ましく、より好ましくは中空シリカが好ましい。
低誘電電子基板や樹脂部品の接着に用いられる本発明の接着剤(1)は、接着剤(1)が硬化した接着層としての強度を高くするための、繊維状またはウイスカー状の充填剤として、繊維状補強剤が使用できる。ガラスクロス、低誘電ガラスクロス、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、グラフェンなどの無機繊維、珪酸塩ウイスカー、アルミナウイスカー、酸化マグネシウムウイスカー、酸化亜鉛ウイスカー、窒化アルミニウムウイスカーなどの無機ウイスカーが好ましく、より好ましくは低誘電ガラスクロス、酸化アルミニウムウイスカー、窒化アルミニウムウイスカーが好ましい。
機械的強度を高くするためには、充填剤が多い方が好ましいが、多すぎると樹脂が充填剤の隙間を埋めることができない場合がある。また樹脂が多すぎても機械強度を高くする効果が表れない場合がある。また、充填剤を増やすと誘電率が高く、誘電正接が下がる傾向があるので、両者のバランスを取りながら組成を決めることが好ましい。また、無機物の繊維の他に、有機物の繊維を使用することもできる。機械強度の高い有機繊維として、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、液晶性ポリエステル繊維などが挙げられる。有機繊維は、無機繊維に比べると軽量であるので、携帯型機器の低誘電電子基板などを接着するための接着剤(1)に用いられる繊維状補強剤として好ましい。
熱伝導率の高い充填剤としては、粉末状の窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化珪素などの金属窒化物、ダイアモンド、黒鉛、炭化珪素などの炭化物、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化珪素、酸化チタン、酸化錫、酸化ホルミニウム、酸化カルシウムなどの金属酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、などの金属水酸化物、およびコーディエライト、またはムライトなどの珪酸塩化合物、金、銀、銅、白金、鉄、錫、鉛、ニッケル、アルミニウム、マグネシウム、タングステン、モリブデン、ステンレスなどの金属充填剤であってもよい。好ましくは、誘電率が低い、窒化ホウ素、酸化珪素が好ましく、特に六方晶系の窒化ホウ素(h-BN)は誘電率が低く熱伝導率が高いので好ましい。熱伝導率などは無機フィラーが多いほど高くなるが、一般に無機フィラーは樹脂成分とくらべ、比誘電率が大きく誘電正接が小さいので、充填量を増やすと誘電率が大きくなる。したがって、充填量は目的とする誘電率を超えない範囲で必要量を充填することが好ましい。
本発明の接着剤(1)は透明性が高く、低誘電だけでなく、低屈折光学材料に使用する場合は、中空シリカ、球状シリカ、酸化チタン、酸化ジルコニウムなどの粉末を加え、屈折率を調整することができる。
【0093】
充填剤の形状としては、球状、無定形、繊維状、ウイスカー状、筒状、板状などが挙げられる。充填剤の種類、形状、大きさ、添加量などは、目的に応じて適宜選択できる。接着剤(1)が硬化して得られる接着層が絶縁性を必要とする場合、所望の絶縁性および機械強度、誘電率、誘電損失が保たれれば導電性を有する充填剤であっても構わない。
【0094】
球状または不定形状の充填剤の平均粒径は、0.1~200μmであることが好ましい。より好ましくは、1~100μmである。0.1μm以上であると熱伝導率が良好であり、200μm以下であると充填率を上げることができる。また、繊維状の充填剤に関しては、繊維長が長いほど引張強度は向上するが、混練や分散はできなくなる場合があるので、用途によって選択することが好ましい。分散させる場合は、繊維状の充填剤の平均粒径は、0.01~200μmであることが好ましい。より好ましくは、0.1~100μmである。0.01μm以上であると熱伝導率が良好であり、200μm以下であると機械強度を上げることができる。
充填剤の量は、接着剤(1)が硬化した後の接着層中20~95wt%の充填剤を含有するようにすることが好ましい。より好ましくは、50~95wt%である。20wt%以上であると熱伝導率が高くなり好ましい。95wt%以下であると接着層が脆くならず好ましい。
【0095】
充填剤としては、親和処理、易接着処理、分散処理、防水処理などの表面処理された市販品をそのまま用いてもよく、該市販品から表面処理剤を除去したものを用いてもよい。また、処理されていない充填剤を、シランカップリング剤、親和剤、表面張力調整剤、沈降防止剤、凝集防止剤などにより処理して用いてもよい。
【0096】
11)その他の添加剤
化合物(1)および接着剤(1)は高い重合性を有するので、取扱いを容易にするために、安定剤を接着剤(1)に添加してもよい。このような安定剤としては、公知のものを制限なく使用でき、ハイドロキノン、4-エトキシフェノールおよび3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン(BHT)などが挙げられる。
低誘電正接(低tanδ)、高ガラス転移温度が求められる用途では、架橋剤を添加することが好ましい。架橋剤は本発明に用いられる末端に重合性基を有する化合物(1)の重合性基と化学結合し、3次元架橋を形成するものが好ましい。
【0097】
本発明の接着剤(1)は、硬化物の特性を調整するために、本発明に用いられる化合物(1)と反応しない他の樹脂を添加してもよい。ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE樹脂)、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリブタジエン共重合体、ポリビニルアセタール樹脂、天然ゴム、合成ゴム、合成エラストマー、本発明に用いられる化合物(1)の液晶性化合物の骨格とは異なるエポキシ樹脂、オキセタン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、マレイミド樹脂、オキサジン樹脂、オキサゾリン樹脂などが挙げられる。特に誘電特性を重視する場合には、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE樹脂)、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂が好ましい。これらの樹脂中に未反応の部位があり、本発明に用いられる化合物(1)と反応する場合もあるが、その場合は架橋のような構造になるため、完全に反応しない場合と比べ特性が向上する効果が期待できる。
【0098】
12)接着剤(1)が硬化した接着層
本発明の別の実施形態である接着剤(1)が硬化した接着層は、上記接着剤(1)の硬化物であるために低い誘電率を有するとともに、熱伝導率、耐熱性、剛性、弾性、成形流動性、耐薬品性、および寸法安定性等にも優れる。
【0099】
接着剤(1)が硬化した接着層が液晶性を示す場合、硬化前の配向処理により分子配向を制御できる。比誘電率と熱伝導率は分子の配向方向により異方性が発現する。低誘電電子基板の誘電率設計や熱設計の際に、発熱するICの真下は厚み方向に熱伝導率が高く、ICの真下以外は横方向に配向させて熱を広範囲に広げるようにデザインするなど、より進んだ材料設計が可能になる。配向方法は下記方法により制御できる。
接着剤(1)中の液晶分子のメソゲン部位を配向制御する方法としては、無機フィラー表面に配向能を有するシランカップリング剤や配向剤などで処理する方法、該接着剤(1)自体が有する自己配向規制力により配向させる方法などが挙げられる。これらの方法は、1種単独で行っても、2種以上を組み合わせて行ってもよい。このような配向制御方法により制御する配向状態としては、ホモジニアス、ツイスト、ホメオトロピック、ハイブリッド、ベンドおよびスプレー配向などが挙げられ、用途や配向制御方法に応じて適宜決定することができる。また、製膜時や成形時において、硬化前に液晶状態で、ずり応力を加え物理的に配向させることもできる。
【0100】
配向温度は、室温~250℃、好ましくは室温~200℃、より好ましくは室温~180℃の範囲である。上記熱処理時間は、5秒~2時間、好ましくは10秒~60分、より好ましくは20秒~30分の範囲である。熱処理時間が上記範囲よりも短いと、接着剤(1)からなる層の温度を所定の温度まで上昇できないことがあり、上記範囲よりも長いと、生産性が低下することがある。なお、上記熱処理条件は、接着剤(1)に用いられる成分の種類および組成比、重合開始剤の有無および含有量などによって変化するため、あくまでおおよその範囲を示したものである。特に、接着剤(1)に用いられる重合性成分の重合開始温度より高くなってしまうと、配向する前に硬化してしまうので、分子鎖が一定方向に配向した接着層は得られない。
【0101】
接着剤(1)の硬化方法(重合方法)としては、重合性基(重合性成分)のラジカル重合法、アニオン重合法、カチオン重合法、配位重合法などが挙げられるが、分子配列を固定化したり、らせん構造を固定化したりするには、電子線、紫外線、可視光線または赤外線(熱線)などの光線や熱を利用した熱重合法や光重合法が適している。熱重合法はラジカル重合開始剤の存在下で行うことが好ましく、光重合法は光ラジカル重合開始剤の存在下で行うのが好ましい。光ラジカル重合開始剤の存在下、紫外線または電子線などを照射する重合法によって、液晶分子の配列が固定化された重合体が得られる。得られる重合体は、単独重合体、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれであってもよく、用途などに応じて適宜選択すればよい。
【0102】
接着剤(1)の配向を光重合法により固定する際には、通常、紫外線または可視光線が用いられる。光照射に用いられる光の波長は、150~500nm、好ましくは250~450nm、より好ましくは300~400nmの範囲である。光照射の光源としては、低圧水銀ランプ(殺菌ランプ、蛍光ケミカルランプ、ブラックライト)、高圧放電ランプ(高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ)およびショートアーク放電ランプ(超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、水銀キセノンランプ)、紫外線発光ダイオードなどが挙げられる。これらの中では、メタルハライドランプ、キセノンランプ、紫外線発光ダイオードおよび高圧水銀ランプが好ましい。
【0103】
上記光源と接着剤(1)との間にフィルターなどを設置して特定の波長領域のみを通すことにより、照射光源の波長領域を選択してもよい。光源から照射する光量は、2~5000mJ/cm2、好ましくは10~3000mJ/cm2、より好ましくは100~2000mJ/cm2の範囲である。光照射時の温度条件は、上述した熱処理温度と同様に設定されることが好ましい。
【0104】
熱重合法により接着剤(1)の配向を固定化する条件としては、熱硬化温度が、室温~350℃、好ましくは室温~250℃、より好ましくは50℃~200℃の範囲であり、硬化時間は、5秒~10時間、好ましくは1分~5時間、より好ましくは5分~1時間の範囲である。硬化後は、応力ひずみなど抑制するために徐冷することが好ましい。また、再加熱処理を行い、ひずみなどを緩和させてもよい。
【0105】
上記のようにして配向制御した硬化物または硬化過程の接着剤(1)を延伸などの機械的操作により、さらに任意の方向に配向制御してもよい。
単離した重合体(1)は、有機溶媒に溶かしてその他の成分とともに接着剤(1)を調製して、配向処理基板上で配向・硬化させフィルムなどに加工してもよく、この場合2つの重合体を混合して加工してもよく、複数の重合体を積層させてもよい。該有機溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドジメチルアセタール、テトラヒドロフラン、クロロホルム、1,4-ジオキサン、ビス(メトキシエチル)エーテル、γ-ブチロラクトン、テトラメチル尿素、トリフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸エチル、ヘキサフルオロ-2-プロパノール、2-メトキシエチルアセテート、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどが好ましい。これらは、アセトン、ベンゼン、トルエン、ヘプタン、塩化メチレンなど一般的な少量の有機溶媒と混合して用いてもよい。
【0106】
直線性の高い接着剤(1)が、非常に狭い範囲で液晶相を示す場合は、結晶性が高い場合には一定方向に軸が揃ったドメインを形成するので、ビスフェノールA構造などの重合性化合物と比べ配向方向の熱伝導率が高くなる。また、配向方向が揃った高分子シートの表面や結晶性の樹脂フィラーなどを結晶成長のコアとして存在させた状態で、等方相液体の状態からゆっくり硬化させることによっても、配向や結晶性が制御できる。ただし、結晶性を高くし過ぎるとフレキシブル性が低くなる傾向があるので、適切な結晶性の接着剤(1)を使用する必要がある。
【0107】
13)接着剤(1)を用いて低誘電電子基板と金属箔またはレジスト層とを貼り合わせて得られる積層体
本発明の接着剤(1)を用いて低誘電電子基板と金属箔またはレジスト層とを貼り合わせて得られる積層体は、上記接着剤(1)の硬化物である接着層を含む積層体であり、フィルム状、シート状、板状、繊維状、三次元形状の電子部品として使用することもできる。
薄膜状、フィルム状、シート状、板状、繊維状、三次元形状の積層体などで使用する場合、好ましい形状はフィルムおよび薄膜である。フィルムおよび薄膜は、接着剤(1)を低誘電電子基板などに塗布した状態で硬化させることによって得られる。また、有機溶媒を含有する接着剤(1)を、配向処理した低誘電電子基板に塗布し、有機溶媒を除去した後に硬化させることによっても得られる。なお、本明細書におけるシートの膜厚は1mm以上であり、フィルムの膜厚は5μm以上1mm未満、好ましくは10~500μm、より好ましくは20~300μmであり、薄膜の膜厚は5μm未満である。
【0108】
以下、有機溶媒を含有する接着剤(1)を用いて、積層体としてのフィルムを製造する方法について具体的に説明する。
まず、離型処理した低誘電電子基板上に接着剤(1)を塗布し、有機溶媒を乾燥除去して膜厚の均一な塗膜層を形成する。塗布方法としては、スピンコート法、ロールコート法、カーテンコート法、フローコート法、プリント法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、ワイヤーバーコート法、デップコート法、スプレーコート法、メニスカスコート法などが挙げられる。
【0109】
有機溶媒の乾燥除去は、室温での風乾、ホットプレートでの乾燥、乾燥炉での乾燥、温風や熱風の吹き付けなどにより行うことができる。有機溶媒除去の条件は特に限定されず、有機溶媒がおおむね除去され、塗膜層の流動性がなくなるまで乾燥すればよい。なお、接着剤(1)に用いる化合物の種類と組成比によっては、塗膜層を乾燥する過程で、塗膜層中の液晶分子の分子配向が完了していることがある。このような場合、乾燥工程を経た塗膜層は、前述した熱処理工程を経由することなく、重合工程(硬化工程)に供することができる。しかしながら、塗膜層中の液晶分子の配向をより均一化させるためには、乾燥工程を経た塗膜層を液晶相発現温度まで加熱し液晶状態で配向させ、その後に光重合または熱重合処理して配向を固定化することが好ましい。
【0110】
また、接着剤(1)を使用する場合には、塗布前に低誘電電子基板表面を配向処理することも好ましい。配向処理方法としては、基板上に配向膜を形成するだけでもよいし、低誘電電子基板上に配向膜を形成させた後、レーヨン布などでラビング処理する方法、低誘電電子基板を直接レーヨン布などでラビング処理する方法、さらには酸化珪素を斜方蒸着する方法、延伸フィルム、光配向膜またはイオンビームなどを用いるラビングフリー配向などの方法が挙げられる。また、低誘電電子基板表面の処理を行わなくても、所望の配向状態を形成することができる場合もある。ホメオトロピック配向を形成する場合はラビング処理などの表面処理を行わない場合が多いが、より高い配向性を実現する点でラビング処理を行ってもよい。また、通常の塗布方法では基板と平行方向のズリ応力が接着剤である溶液にかかるため、なにも処理しない場合には液晶分子は基板と平行方向に弱く配向することが多い。
【0111】
上記配向膜としては、接着剤(1)の配向を制御できるものであれば特に限定されず、公知の配向膜を用いることができ、例えば、ポリイミド、ポリアミド、ポリビニルアルコール、アルキルシラン、アルキルアミンまたはレシチン系配向膜が好適である。垂直配向させる場合にはシランカップリング剤も好適である。
【0112】
上記ラビング処理には任意の方法を採用することができ、通常は、レーヨン、綿およびポリアミドなどの素材からなるラビング布を金属ロールなどに捲き付け、低誘電電子基板または配向膜に接した状態でロールを回転させながら移動させる方法や、ロールを固定したまま低誘電電子基板側を移動させる方法などが採用される。
【0113】
また、より均一な配向を得るために配向制御添加剤を接着剤(1)中に含有させてもよい。このような配向制御添加剤としては、イミダゾリン、4級アンモニウム塩、アルキルアミンオキサイド、ポリアミン誘導体、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン縮合物、ポリエチレングリコールおよびそのエステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ラウリル硫酸アミン類、アルキル置換芳香族スルホン酸塩、アルキルリン酸塩、脂肪族または芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物、ラウリルアミドプロピルベタイン、ラウリルアミノ酢酸ベタイン、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンアルキルアミン、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩、パーフルオロアルキルと親水性基とを有するオリゴマー、パーフルオロアルキルと親油性基とを有するオリゴマー、パーフルオロアルキルを有するウレタン、および、1級アミノ基を有する有機ケイ素化合物(アルコキシシラン型、直鎖状のシロキサン型、および、3次元縮合型のシルセスキオキサン型の有機ケイ素化合物)などが挙げられる。
【0114】
上記低誘電電子基板としては、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリケトンサルファイド、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリアリレート、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、セルロース、トリアセチルセルロースまたはその部分鹸化物、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ノルボルネン樹脂などのプラスティックフィルム基板およびガラス強化樹脂基板のほか、アルカリガラス、ホウ珪酸ガラス、フリントガラスなどのガラス基板;アルミニウム、鉄、銅などの金属基板;シリコンなどの無機基板;などが挙げられる。
【0115】
上記フィルム基板は、一軸延伸フィルムでも、二軸延伸フィルムであってもよい。上記フィルム基板は、事前に鹸化処理、コロナ処理、プラズマ処理などの表面処理を施してもよい。なお、これらのフィルム基板上には、上記接着剤(1)に含まれる有機溶媒に侵されないような保護層を形成してもよい。保護層として用いられる材料としては、例えばポリビニルアルコールが挙げられる。さらに、保護層と上記フィルム基板からなる低誘電電子基板との密着性を高めるためにアンカーコート層を形成させてもよい。このようなアンカーコート層は、保護層と上記フィルム基板からなる低誘電電子基板との密着性を高めるものであれば、無機系および有機系のいずれの材料であってもよい。
【0116】
14)電子部品および電子デバイス
本発明の接着剤を用いて低誘電電子基板と金属箔またはレジスト層とを貼り合わせて得られる積層体は、各種電子部品として用いることができる。さらには、本発明の接着剤を用いて得られる各種電子部品は、各種電子デバイスとしての用途に有用である。
【0117】
[製造方法]
以下、低誘電電子基板接着用の本発明の接着剤を製造する方法、および該接着剤を用いて低誘電電子基板と金属箔またはレジスト層とを貼り合わせて得られる積層体や本発明の電子デバイスを製造する方法について具体的に説明する。
【0118】
本発明の接着剤は、その接着剤を半硬化させた固体状の接着剤である接着シートの他、そのまま液晶相や等方相を発現する温度領域で液状の接着剤として用いる他に、有機溶媒に溶解させて溶液やスラリーの液状接着剤として使用することもできる。接着剤の調製は、2官能以上の重合性液晶性化合物、および硬化成分に、必要に応じて有機溶媒、無機充填剤、上述した各種の添加剤などを加え、撹拌機を用いて組成ムラが無くなる程度まで撹拌・脱泡する。例えば、自転・公転ミキサーを用い、回転数2000rpmで10分間撹拌後、回転数2200rpmで10分間脱泡する。自転・公転ミキサーの他には、攪拌モーター、らいかい機、三本ロール、ボールミル、自転・公転ミル、遊星ミル、ビーズミル、ジェットミルなどを用いて分散させることができる。
【0119】
本発明の接着剤を用いて低誘電電子基板と金属箔またはレジスト層とを貼り合わせて、積層体や本発明の電子デバイスを製造する方法を以下に説明する。
低誘電電子基板と金属箔またはレジスト層とを貼り合わせるために、本発明の接着剤を低誘電電子基板と金属箔またはレジスト層とを貼り合わせる面に塗布する。接着剤の塗布は、これら貼り合わせる面の全てに行ってもよく、片方、例えば、低誘電電子基板の貼り合わせる面に行い、金属箔またはレジスト層の貼り合わせる面には行わなくてもよい。
これら貼り合わせる面に対する接着剤の塗布方法には、上記低誘電電子基板用の本発明の接着剤を均一にコーティングするために、ウェットコーティング法を用いることが好ましい。ウェットコーティング法の内、上記積層体や本発明の電子デバイスを少量作製する場合には簡便で均質な製膜が可能であるスピンコート法が好ましい。生産性を重視する場合には、グラビアコート法、ダイコート法、バーコート法、リバースコート法、ロールコート法、スリットコート法、ディッピング法、スプレーコート法、キスコート法、リバースキスコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、インクジェット法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、ロッドコート法などが好ましい。ウェットコーティング法は、これらの方法から必要とする膜厚、粘度や硬化条件などに応じて適宜選択することができる。
一方、必要な部分にのみ接着剤を印刷したい場合には、有機溶媒やシリカの量を調整することにより粘度を調整し、インクジェット法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、ディスペンサー法を用いてパターニングすることができる。
本発明の接着剤を用いてこれら貼り合わせる面に接着剤を塗布した後、公知の方法により低誘電電子基板と金属箔またはレジスト層とを貼り合わせて積層体や本発明の電子デバイスを製造することができる。
【0120】
固体状の接着剤である接着シートを製造する場合には、離型処理した基材上に上記液状接着剤を上記塗布方法などでコーティングし剥離するキャスト成形法などの樹脂成形法を用いることができる。キャスト成形法を用いて、接着剤を半硬化させることにより、転写可能な接着シートを形成することもできる。得られた接着シートを用いて、公知の方法(例えば、「トコトンやさしい プリント配線基板の本 第2版、日刊工業新聞社、2018、p.106」参照。)により低誘電電子基板と金属箔またはレジスト層とを貼り合わせて積層体や本発明の電子デバイスを製造することができる。
【実施例0121】
実施例(化合物、接着剤、重合体(硬化物)、積層体などの作製例を含む)により、本発明をさらに詳しく説明する。本発明はこれらの実施例によって制限されない。
【0122】
[化合物(1)の合成例]
化合物(1)は、合成例1など合成例に示す手順により合成した。特に記載のない限り、反応は窒素雰囲気下で行った。合成した化合物は、NMR分析などの方法により同定した。化合物(1)、接着剤、重合体(硬化物)、積層体などの特性は、下記の方法により測定した。
【0123】
<NMR分析>
測定には、日本電子(株)製のJNM-ECZRを用いた。H-NMRの測定では、試料をCDClなどの重水素化溶媒に溶解させ、測定は、室温で、500MHz、積算回数16回の条件で行った。テトラメチルシランを内部標準として用いた。19F-NMRの測定では、CFClを内部標準として用い、積算回数32回の条件で行った。核磁気共鳴スペクトルの説明において、sはシングレット、dはダブレット、tはトリプレット、qはカルテット、quinはクインテット、sexはセクステット、mはマルチプレット、brはブロードであることを意味する。
【0124】
<ガスクロマト分析>
測定には、(株)島津製作所製のGC-2014型ガスクロマトグラフを用いた。カラムは、アジレント・テクノロジーズ(株)(Agilent Technologies Inc.、現:キーサイト・テクノロジー(株))製のキャピラリカラムDB-1(長さ30mまたは15m、内径0.25mm、膜厚0.25μm)を用いた。キャリアーガスとしては窒素(1ml/分)を用いた。試料気化室の温度を300℃、検出器(FID)部分の温度を300℃に設定した。試料はアセトンなどの適切な溶媒に溶解して、1wt%の溶液となるように調製し、得られた溶液1μlを試料気化室に注入した。記録計には(株)島津製作所製のGCSolutionシステムなどを用いた。
【0125】
<HPLC分析>
測定には、(株)島津製作所製のProminence(LC-20AD;SPD-20A)を用いた。カラムは(株)ワイエムシー製のYMC-Pack ODS-A(長さ150mm、内径4.6mm、粒子径5μm)を用いた。溶出液は、メタノール/純水、またはアセトニトリル/純水を適宜混合して用いた。検出器としてはUV検出器、RI検出器、CORONA検出器などを適宜用いた。UV検出器を用いた場合、検出波長は210~254nmとした。試料はメタノールまたはアセトニトリルに溶解して、0.1wt%の溶液となるように調製し、この溶液1μLを試料室に導入した。記録計としては(株)島津製作所製のC-R7Aplusを用いた。
【0126】
<紫外可視分光分析>
測定には、(株)島津製作所製のPharmaSpec UV-1700用いた。検出波長は190nmから700nmとした。試料はアセトニトリルに溶解して、0.01mmol/Lの溶液となるように調製し、石英セル(光路長1cm)に入れて測定した。
【0127】
<測定試料>
転移温度(透明点、融点、重合開始温度など)、および化合物が液晶相を示す場合は相構造およびを測定するときには、化合物そのものを試料として用いた。
【0128】
(1)転移温度(℃)
測定には、(株)日立ハイテクサイエンス(旧エスアイアイ・ナノテクノロジー(株))製の高感度示差走査熱量計、X-DSC7000を用いた。試料は、3~5℃/分の速度で昇降温し、試料の相変化に伴う吸熱ピークまたは発熱ピークの開始点を外挿により求め、転移温度を決定した。化合物の融点、重合開始温度もこの装置を使って測定した。化合物が液晶相を示す場合は、固体からスメクチック相、ネマチック相などの液晶相に転移する温度を「液晶相の下限温度」と略すことがある。化合物が結晶から液体に転移する温度を「透明点」と略すことがある。
【0129】
結晶はCと表した。結晶の種類の区別がつく場合は、それぞれをC1、C2のように表した。液晶相がある場合は、スメクチック相はS、ネマチック相はNと表した。スメクチック相の中で、スメクチックA相、スメクチックB相、スメクチックC相、またはスメクチックF相の区別がつく場合は、それぞれSA、SB、SC、またはSFと表した。液体(等方相:アイソトロピック)はIと表した。転移温度は、例えば、「C 50.0 N 100.0 I」のように表記した。これは、結晶からネマチック相への転移温度が50.0℃であり、ネマチック相から液体への転移温度が100.0℃であることを示す。
【0130】
(2)相構造
化合物が液晶相を示す場合は、偏光顕微鏡を備えた融点測定装置のホットプレート(メトラー・トレド(株)FP-52型ホットステージ)に試料を置いた。この試料を、3℃/分の速度で加熱しながら相状態とその変化を偏光顕微鏡で観察し、相の種類を特定した。
【0131】
[合成例1]
化合物(S01 :化合物(1)において、R1aおよびR1bはともに式(PG-5)、Rは水素(複数ある記号は同一)、q=0、AおよびAはともに1,4-シクロヘキシレン、Zは-CHO-、Zは単結合、Zは-OCH-、m1=0である化合物)の合成
4,4’-ビシクロヘキシルジオール(S01-a)は、例えば富士フイルム和光純薬(株)で市販されている。この原料を一般的な再結晶ろ過などの手法を用いて精製し、トランス体を単離し使用した。
【0132】
窒素雰囲気下で、水素化ナトリウム(55wt%)(2.42g、55.56mmol)のN,N-ジメチルホルムアミド(60mL)溶液に、10℃で4,4’-ジシクロヘキサノール(S01-a)(5.00g、25.3mmol)を加えた。この溶液を40℃で30分間攪拌した後に、エピブロモヒドリン(10.4g、75.8mmol)を加え、40℃で3日間加熱攪拌した。反応混合物である反応液をゆっくりと純水に加えてトルエン(200mL)にて抽出し、有機層を純水で3回洗浄し、得られた有機層を減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:トルエン/酢酸エチル=4/1(容積比))により精製し、化合物(S01)(5.10g、16.5mmol)を得た。この化合物(S01)の転移点はC 38.3 I(℃)であった。また重合開始温度は137.1℃であった。
【0133】
また、化合物(S01)のH-NMRシグナルは以下の通りであった。
δ(ppm;CDCl):3.71-3.68(dd,2H)、3.46-3.42(dd,2H)、3.24-3.17(tt,2H)、3.14-3.10(m,2H)、2.79-2.78(dd,2H)、2.60-2.59(dd,2H)、2.08-2.01(m,4H)、1.77-1.71(m,4H)、1.23-1.12(m、4H)、1.05-0.92(m,6H)。
【0134】
[合成例2]
化合物(S02 :化合物(1)において、R1aおよびR1bはともに式(PG-5)、Rは水素(複数ある記号は同一)、q=0、AおよびAはともに1,4-シクロヘキシレン、Zは-(CHO-、Zは単結合、Zは-O(CH-、m1=0である化合物)の合成

4,4’-ビシクロヘキシルジオール(S01-a)は、例えば富士フイルム和光純薬(株)で市販されている。この原料を一般的な再結晶ろ過などの手法を用いて精製し、トランス体を単離し使用した。1-ブロモ-6-ヘキセンは、例えば富士フイルム和光純薬(株)で市販されている。
【0135】
(第1段) 2-(4-ブロモブチル)オキシランの合成
窒素雰囲気下で、1-ブロモ-6-ヘキセン(25.0g、153mmol)のジクロロメタン(200mL)溶液に、25℃にてメタクロロ過安息香酸(mCPBA)(70wt%)(45.2g、184mmol)を少量ずつ追加し、室温にてそのまま3時間攪拌した。反応混合物である反応液を純水に空け、ジクロロメタン(200ml)にて抽出し、有機層を飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液で1回、純水で2回洗浄し、有機層を55℃、0.01MPaの条件で減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:ジクロロメタン)により精製し、無色で液体の2-(4-ブロモブチル)オキシラン(24.6g、138mmol)を得た。
【0136】
(第2段) 化合物(S02)の合成
エピブロモヒドリンの代わりに、前段で得た2-(4-ブロモブチル)オキシラン(7.26g、40.6mmol)を用いた以外は、[合成例1]と同様の操作にて化合物(S02)(8.00g、20.35mmol)を得た。この化合物(S02)は常温で液状であり、冷却すると-5℃で結晶化した。また重合開始温度は200.0℃であった。
また、化合物(S02)のH-NMRシグナルは以下の通りであった。
δ(ppm;CDCl):3.40-3.37(dd,4H)、3.36-3.35(dd,2H)、3.07-3.02(tt,2H)、2.87-2.83(m,2H)、2.69-2.67(m,2H)、2.41-2.39(dd,2H)、1.99-1.95(m,4H)、1.69-1.66(m,4H)、1.55-1.41(m,12H)、1.13-1.05(m、4H)、1.00-0.87(m,6H)。
【0137】
[合成例3]
化合物(S03 :化合物(1-3)において、R1aおよびR1bはともに式(PG-5)、Rは水素(複数ある記号は同一)、q=0、Zは-(CHO-、Zは単結合、Zは-O(CH-、b=4、n=2、3および5位のXはともにメチルである化合物)の合成

【0138】
化合物(S03-b)の合成
窒素雰囲気下で、3,3’,5,5’-テトラメチル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジオール(S03-a)(10.0g、41.3mmol)、炭酸カリウム(15.0g、109mmol)、テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)(4.0g、12.4mmol)のN,N’-ジメチルホルムアミド(DMF)(200mL)溶液に、常温にて6-ブロモ-1-ヘキセン(17.1g, 105mmol)を追加し、60℃で6時間攪拌した。反応混合物である反応液を純水に加えてトルエン(200mL)で3回抽出し、合わせた有機層を純水で3回、ブラインで1回洗浄した後に有機層を40℃で減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:ヘプタン/酢酸エチル=9/1(容積比))により精製し、化合物(S03-b)(14.7g、36.0mmol)を得た。
【0139】
(第2段) 化合物(S03)の合成
窒素雰囲気下で、化合物(S03-b)(13.0g、32.0mmol)のジクロロメタン(200mL)溶液に、氷冷下にてメタクロロ過安息香酸(mCPBA)(65wt%)(37.3g, 140.7mmol)を少量ずつ追加し、室温に戻しつつ終夜攪拌した。反応液を飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液に加えて水層からジクロロメタン(200ml)で2回抽出し、合わせた有機層を飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液で1回、純水で1回、ブラインで1回洗浄した後に有機層を40℃で減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:トルエン/酢酸エチル=9/1(容積比))により精製し、トルエン/エタノール=1/4(容積比)から再結晶を行うことで化合物(S03)(6.81g、32.0mmol)を得た。この化合物(S03)の転移点はC 99.2 I(℃)であった。また重合開始温度は165℃であった。
また、化合物(S03)のH-NMRシグナルは以下の通りであった。
δ(ppm;CDCl):7.18(s,4H)、3.81-3.79(t,4H)、2.99-2.96(m,2H)、2.80-2.78(dd,2H)、2.5より2-2.51(dd,2H)、2.32(s,12H)、1.92-1.86(m,4H)、1.76-1.60(m,8H)。
【0140】
[接着特性(ピール強度)、誘電特性(比誘電率および誘電正接)および放熱性(熱拡散率)の物性評価]
[実施例1]
<接着特性測定用試料の作製と接着特性評価>
2官能以上の重合性液晶性化合物である化合物(1)として重合性の化合物(S01)0.31gと、硬化成分(硬化剤)としてSABIC合資会社製ポリフェニレンエーテルオリゴマー(両末端水酸基)、商品名:ノリルTMSA90-100樹脂(mPPE)1.60gを秤取り、20mLのスクリュー管瓶に入れ、3.0gのトルエンおよび1.0gのN-メチルピロリドンをさらに加え80℃で溶解させた。この溶液を25℃に温度設定した実験室に一晩放置し、硬化成分(硬化促進剤)として東京化成工業(株)製、商品名:2-エチル-4-メチルイミダゾールを、樹脂成分の2wt%になるように、薬さじを用いて加え、混合して本発明の低誘電電子基板用の接着剤である溶液を得た。
硬化触媒を加えた本発明の低誘電電子基板用の接着剤である溶液を、7cm角にカットした、金属箔として高周波基板用銅箔(古河電工株式会社製、商品名:FV-WS(厚み18μm))の微細粗化面に、乾燥後の厚みが約5μmになるようにスピンコーターを用いて塗布し(1000rpmで20秒回転)、100℃に設定したホットプレートで30分間溶媒を乾燥させた。
乾燥後の接着成分塗布層付き銅箔を1cm幅にデザインカッターナイフで切断し、5cm角に切り出し、低誘電電子基板としてアセトンで脱脂洗浄した低誘電フィルムである液晶ポリマーフィルム(千代田インテグレ(株)製商品名、ぺリキュール(登録商標)LCP、50μm厚み)の中央部分に図1のように載せ、2枚の200μm厚みのアズワン(株)製のPTFEシートで挟み込み、(株)井元製作所製の小型手動加熱プレスを用いて10MPaの圧力で、200℃で30分間硬化させた。昇温時は、100℃から20℃温度が高くなる毎に、一度圧力をリリースさせることにより、脱ガスを行った。このようにして本発明の接着剤を用いて、接着剤が硬化した硬化物である接着層によって低誘電電子基板と金属箔とを貼り合わせた積層体の試験片を得た。
出来上がった上記試験片の裏面の全面に両面テープ(ニチバン(株)製商品名:ナイスタック)を貼り、図2のように2mm厚のアルミ板を曲げて自作したジグに固定し、(株)島津製作所製オートグラフAGC-X(1kNタイプ)に取り付け、接着層を形成した長さ2cm部分の銅箔であって、5cm角の低誘電フィルムからはみ出た2cm部分の接着層付き銅箔を50mm/分の速度で真上に引っ張ることにより、接着特性(ピール強度)を測定した。また、垂直方向への引き剥がしピール強度を測定しているが、測定長が長くなりすぎると、基材を取り付けてあるステージを移動させないと、角度がついてくるため、測定開始後、1~21mmの間の引き剥がしトルクの最も小さい部分を測定値とした。測定結果は表1のように規定した。
【0141】
[表1]
接着特性(ピール強度)評価の基準表
【0142】
<誘電特性評価用試料の作製と、誘電特性の評価>
接着特性評価に用いたものと同じ上記接着剤である溶液を、ドライ膜厚が約40μm、塗布された部分が8cm角以上になるようにバーコーターを用いて塗布し、100℃に設定したホットプレート上で30分間乾燥させた。膜厚が足りない場合は数回に分けて塗布-乾燥を繰り返した。乾燥後、窒素をフローできる容器の底部に、試料がカールしないように市販のポリイミド粘着テープを用いて試料を固定し、窒素をフローさせた状態で熱風式のオーブンに入れ、200℃で30分間硬化させた。
硬化後の試料は、大気中で放置すると水分を吸収してしまうため、電子デシケータ中に保管した。
【0143】
<誘電特性の評価方法>
ベクトルネットワークアナライザー(アンリツ(株)製MS46522B-043型)に接続した、(株)エーイーティー(AET, INC.)製の空洞共振器(TEモード10GHz用)を用いて、誘電特性測定用試料の、共振周波数のシフト量と減衰量を測定し、同社製ソフトウエアを用いて比誘電率および誘電正接(tanδ)の誘電特性を求めた。この際、膜厚が測定精度に大きく影響するため、作製したサンプルの総厚を(株)ミツトヨ製のデジマチックマイクロメータで5点測定しその平均値を計算に用いた。測定時はサンプル中の水分量の影響を少なくするために、前夜は電子デシケータ内に静置し、測定日は温度20℃、相対湿度48%RHの実験室で、試料を60分以上静置したあとで測定を開始した。膜厚が大きいので硬化収縮によりサンプルがカールする場合があるが、共振器に差し込むことができるように平らに押さえて測定した。また、この際にクラックが入る事もあるが、隙間が無い場合は共振法では殆ど影響がないので、そのまま測定を続行した。
この測定値はポリイミドフィルムと硬化膜の2層分の測定結果であるので、サンプル作製と同時に、200℃で1時間熱処理したポリイミドフィルムのみを準備しておき、このポリイミドフィルムの測定値を第1層の誘電特性として用いて、同社の2層膜計算用の表計算シートで硬化膜のみの比誘電率および誘電正接の誘電特性を求めた。
【0144】
<放熱性(熱拡散率)の評価方法>
誘電特性を測定した2層フィルムを折り曲げ、ポリイミドフィルムから剥がれた硬化物の小片を得た。この硬化物の小片の厚み方向の放熱性(熱拡散率)を、(株)アイフェイズ製熱拡散率測定装置アイフェイズ・モバイル1型を用いて測定した(この装置は、1辺が2mm以上で平坦かつ上下面が平行であれば、精度良く熱拡散率が測定できるものである)。
【0145】
[実施例2]
重合性の化合物として2官能以上の重合性液晶性化合物である化合物(S02)を0.39g用いた以外は実施例1と同様にサンプルを作製し、評価した。その結果を実施例2とする。
【0146】
[実施例3]
重合性の化合物として2官能以上の重合性液晶性化合物である化合物(S03)を0.44g用いた以外は実施例1と同様にサンプルを作製し、評価した。その結果を実施例3とする。
【0147】
[実施例4]
実施例1の硬化成分(硬化促進剤)をリン系硬化促進剤(北興化学工業(株)製商品名:TBPLA)に変更して樹脂成分の3wt%になるように加え、樹脂成分に対し無機充填剤としてシリカ粉末(デンカ(株)製商品名:デンカ溶融シリカ(DF)超微粒子球状タイプ SFP―130MC)を20wt%添加し、シランカップリング剤(JNC(株)製商品名:サイラエースS510)を固形分に対し1wt%添加した以外は実施例1と同様にサンプルを作製し、評価した。その結果を実施例4とする。
【0148】
[実施例5]
実施例1の硬化成分(硬化促進剤)をリン系硬化促進剤(北興化学工業(株)製商品名:TBPLA)に変更して樹脂成分の3wt%になるように加え、樹脂成分に対し無機充填剤として窒化物充填剤である窒化ホウ素粉末(モメンティブエナジーサプライ(合)製商品名:窒化ホウ素パウダー(BN) PTX25)を20wt%添加した以外は実施例1と同様にサンプルを作製し、評価した。その結果を実施例5とする。
【0149】
[実施例6]
実施例1の硬化成分(硬化剤)を活性エステル硬化剤(DIC(株)製商品名:HPC-8000H-65T)0.45gに変更し、硬化成分(硬化促進剤)としてホスニウム系硬化促進剤(北興化学工業(株)製商品名:TBP―3S)に変更して樹脂成分の3wt%になるように加えて使用した以外は実施例1と同様にサンプルを作製し、評価した。その結果を実施例6とする。
【0150】
[実施例7]
実施例3の硬化成分(硬化促進剤)をリン系硬化促進剤(北興化学工業(株)製商品名:TBPLA)に変更して樹脂成分の3wt%になるように加えた以外は実施例1と同様にサンプルを作製し、評価した。その結果を実施例6とする。
【0151】
[比較例1]
重合性の化合物として市販のビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル(株)製商品名:JER(登録商標)828)0.74gに変更し、硬化成分(硬化剤)としてSABIC合資会社製ポリフェニレンエーテルオリゴマー(両末端水酸基)、商品名:ノリルTMSA90-100樹脂(mPPE)3.20gを用いた以外は実施例1と同様にサンプルを作製し、評価した。その結果を比較例1とする。
【0152】
[比較例2]
比較例1と同様の接着剤である溶液に、無機充填剤として実施例4と同様のシリカ粉末を20wt%加えたサンプルを作製し、評価した。その結果を比較例2とする。
【0153】
[比較例3]
実施例6の重合性の化合物(S01)を市販のビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル(株)製商品名:JER(登録商標)828)0.76gに変更し、硬化成分(硬化剤)として活性エステル硬化剤(DIC(株)製商品名:HPC-8000H-65T)を0.89gに変更した以外は、実施例6と同様にサンプルを作製し、評価した。その結果を比較例3とする。
【0154】
<評価結果>
[表2]
重合性の化合物が異なる接着剤の特性表
【0155】
[表3]
無機充填剤添加接着剤の特性表
【0156】
[表4]
硬化成分として硬化剤が異なる接着剤の特性表
【0157】
[表5]
硬化成分として硬化促進剤が異なる接着剤の特性表
【0158】
表2より、本発明に用いられる2官能以上の重合性液晶化合物を用いた本発明の接着剤を使用することにより、誘電特性および接着特性に優れた接着を実現可能であることがわかる。また、熱拡散率も少しではあるが高く放熱性が良好であることがわかる。
表3からは本発明の接着剤に無機充填剤を添加することにより、比誘電率および誘電正接が低く、放熱性に優れた接着層を形成可能であることがわかる。
表4からは硬化成分として活性エステル硬化剤を使用すると、水酸基を有するPPEオリゴマーの硬化剤よりも比誘電率が高く、誘電正接も高くなっていることがわかる。活性エステル硬化剤をエポキシ基と重合させる技術的な難しさが現れているものと考えられ、硬化ノウハウの蓄積により低減可能と考えている。一方、表5から硬化成分(硬化促進剤)をイミダゾール系からリン系に変更することによっても誘電特性(比誘電率)や接着特性が向上することがわかる。より強力に接着でき、誘電特性に優れた接着剤の実現が好ましいが、目標とする絶縁抵抗や硬化温度により、最適なものを選ぶことが望ましい。
【0159】
電子基板用の接着剤は、はんだ付け時にリフロー炉などを使用するため、耐熱性が求められる。実施例1と比較例1について、TG/DTA熱分析装置((株)リガク製、8121/S-SL型TG/DTA)を用いて、5%重量減の温度を測定した。
【0160】
[表6]
【0161】
表6より、本発明に用いられる2官能以上の重合性液晶性化合物は、化合物(S-01)のような脂環タイプであっても、半導体封止剤などで広く使用されているビフェニル型のエポキシ化合物と遜色のない耐熱性を示すことがわかる。もちろん硬化剤などの分解温度にも左右されるが、半導体基板用途で問題なく使用できる耐熱性を本発明の接着剤が持ち合わせていることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0162】
以上のように、本発明の接着剤は、低誘電電子基板と金属箔またはレジスト層とを貼り合わせるのに用いられ、これから得られる積層体は、各種電子部品として用いることができる。さらには、本発明の接着剤を用いて得られる各種電子部品は、本発明の各種電子デバイスとしての用途に有用である。
図1
図2