(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167717
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】筋シナジー解析装置、筋シナジー解析方法、情報処理装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/372 20210101AFI20241127BHJP
A61B 5/397 20210101ALI20241127BHJP
【FI】
A61B5/372
A61B5/397
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083975
(22)【出願日】2023-05-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.2022年9月22日 ICLR2023にて発表 https://iclr.cc/Conferences/2023 https://openreview.net/pdf?id=5XrQ2mskPQz 2.2022年11月19日 ICLR2023にて発表 https://openreview.net/forum?id=5XrQ2mskPQz https://openreview.net/pdf?id=5XrQ2mskPQz 3.2023年2月2日 ICLR2023にて発表 https://openreview.net/forum?id=5XrQ2mskPQz https://openreview.net/pdf?id=5XrQ2mskPQz
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591063394
【氏名又は名称】公益財団法人東京都医学総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊勢崎 隆司
(72)【発明者】
【氏名】西村 幸男
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA03
4C127AA04
4C127GG10
(57)【要約】
【課題】実際の神経系の筋協調構造を模擬する筋シナジーの解析を可能にする。
【解決手段】この発明の一態様は、脳活動の特徴量を表す脳活動計測データと、解析対象の筋シナジーに係る複数の筋肉の筋活動の特徴量を表す筋活動計測データを取得する。そして、前記脳活動計測データと活動度計算パラメータとに基づいて前記筋シナジーの時系列的な活動の大きさを表す筋シナジー活動度を計算し、計算した前記筋シナジー活動度と筋肉重みパラメータとに基づいて前記筋シナジーに関係する前記複数の筋肉の活動を推定する。そして、前記筋活動計測データと前記筋活動の推定データとの間の誤差を計算し、計算した前記誤差を減少させるべく前記活動度計算パラメータおよび前記筋肉重みパラメータを更新する処理を繰り返し、前記誤差が収束したときの前記筋シナジー活動度および前記筋肉重みパラメータを前記筋シナジーの解析結果を表す情報として出力する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳活動を計測し、前記脳活動の特徴量を表す脳活動計測データを出力する脳活動計測部と、
前記脳活動の計測と並行して、解析対象の筋シナジーに関係する複数の筋肉の筋活動を計測し、前記筋活動の特徴量を表す筋活動計測データを出力する筋活動計測部と、
前記脳活動計測部および筋活動計測部に接続される情報処理装置と
を具備し、
前記情報処理装置は、
前記脳活動計測データと予め用意された活動度計算パラメータとに基づいて、前記筋シナジーの時系列的な活動の大きさを表す筋シナジー活動度を計算する第1の処理部と、
前記筋シナジー活動度と予め用意された筋肉重みパラメータとに基づいて、前記筋シナジーに関係する前記複数の筋肉の前記筋活動を推定し、筋活動推定データを出力する第2の処理部と、
前記筋活動計測データと前記筋活動推定データとの間の誤差を計算し、前記誤差を減少させるべく前記活動度計算パラメータおよび前記筋肉重みパラメータを更新する第3の処理部と、
前記誤差が収束したときの前記筋シナジー活動度および前記筋肉重みパラメータを、前記筋シナジーの解析結果を表す情報として出力する第4の処理部と
を備える筋シナジー解析装置。
【請求項2】
脳活動計測部から、脳活動の特徴量を表す脳活動計測データを取得する第1の処理部と、
筋活動計測部から、前記脳活動の計測と並行して計測された、解析対象の筋シナジーに関係する複数の筋肉の筋活動の特徴量を表す筋活動計測データを取得する第2の処理部と、
前記脳活動計測データと予め用意された活動度計算パラメータとに基づいて、前記筋シナジーの時系列的な活動の大きさを表す筋シナジー活動度を計算する第3の処理部と、
前記筋シナジー活動度と予め用意された筋肉重みパラメータとに基づいて、前記筋シナジーに関係する前記複数の筋肉の筋活動を推定し、筋活動推定データを出力する第4の処理部と、
前記筋活動計測データと前記筋活動推定データとの間の誤差を計算し、前記誤差を減少させるべく前記活動度計算パラメータおよび前記筋肉重みパラメータを更新する第5の処理部と、
前記誤差が収束したときの前記筋シナジー活動度および前記筋肉重みパラメータを、前記筋シナジーの解析結果を表す情報として出力する第6の処理部と
を備える情報処理装置。
【請求項3】
前記情報処理装置は、
複数の筋シナジーを解析対象とする場合に、前記複数の筋シナジーの各々について、前記第3の処理部および前記第4の処理部により前記筋シナジー活動度および前記筋活動推定データを計算し、
前記複数の筋シナジーについてそれぞれ計算された前記筋活動推定データを合成し、合成された前記筋活動推定データを前記第5の処理部に入力する
請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記第3の処理部は、前記筋シナジー活動度として、前記筋シナジーの時系列的な活動の大きさを表すスカラー値を計算する、請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記第6の処理部は、前記誤差の時系列上の変化が予め設定したしきい値未満になった場合に、前記誤差が収束したと判定する、請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項6】
脳活動計測部により、脳活動を計測して前記脳活動の特徴量を表す脳活動計測データを得る過程と、
筋活動計測部により、前記脳活動の計測と並行して解析対象の筋シナジーに関係する複数の筋肉の筋活動を計測し、前記筋活動の特徴量を表す筋活動計測データを得る過程と、
情報処理装置により、前記脳活動計測データと予め用意された活動度計算パラメータとに基づいて、前記筋シナジーの時系列的な活動の大きさを表す筋シナジー活動度を計算する過程と、
前記情報処理装置により、前記筋シナジー活動度と予め用意された筋肉重みパラメータとに基づいて、前記筋シナジーに関係する前記複数の筋肉の前記筋活動を推定し、筋活動推定データを出力する過程と、
前記情報処理装置により、前記筋活動計測データと前記筋活動推定データとの間の誤差を計算し、前記誤差を減少させるべく前記活動度計算パラメータおよび前記筋肉重みパラメータを更新する過程と、
前記情報処理装置により、前記誤差が収束したときの前記筋シナジー活動度および前記筋肉重みパラメータを、前記筋シナジーの解析結果を表す情報として出力する過程と
を備える筋シナジー解析方法。
【請求項7】
請求項2乃至5のいずれかに記載の情報処理装置が備える第1乃至第6の処理部が行う処理の少なくとも1つを、前記情報処理装置が備えるプロセッサに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の一態様は、複数の筋肉の協調構造を表す筋シナジーを解析するために用いる筋シナジー解析装置および筋シナジー解析方法と、筋シナジー解析装置に設けられる情報処理装置とそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
人の身体には、複数の筋肉を協調的に制御する仕組みが備わっており、この複数の筋肉の協調構造は「筋シナジー」と呼ばれている。一つの筋シナジーは、一つの運動ニューロンとそれに接続する複数の筋肉とから構成される。運動ニューロンは大脳皮質運動野などに存在し、その活動によって筋シナジーの活動度を定め、運動ニューロンと各筋肉との接続の強さによって筋シナジーの活動度に応じた筋活動が各筋肉において定まる。
【0003】
このような神経系と筋肉との接続的構造を数値解析によってモデル化する技術がある。その主要な技術の1つとして、筋活動によって生じる生体電位信号である筋電図(EMG )を複数筋部位で時系列的に計測した数値群を行列とみなし、行列の因子に分解する行列因子分解手法が知られている。行列因子分解手法のアルゴリズムとしては、例えば非特許文献1に記載されるように、非負値行列分解アルゴリズム(Non-negative Matrix Factorization: NMF)や独立成分分析手法等が用いられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Matthew C. Tresch, Vincent C.K. Cheung, and Andrea d’Avella. “Matrix Factorization Algorithms for the Identification of Muscle Synergies: Evaluation on Simulated and Experimental Data Sets.” Journal of neurophysiology VOL 95. APRIL 2006: 2199-2212.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、非特許文献1に記載された行列因子分解手法のアルゴリズムは、運動時に生じたEMG のみを対象に因子分解を行うものとなっている。このため、例えば神経系の異なる複数の筋協調構造が運動時に同様にEMG を発生する場合に、EMG のみを対象に因子分解すると、上記複数の筋協調構造が同一の筋シナジーとして導出されてしまう可能性がある。従って、実際の神経系の筋協調構造を模擬する筋シナジーの解析が困難だった。
【0006】
この発明は上記事情に着目してなされたもので、実際の神経系の筋協調構造を模擬する筋シナジーの解析を可能にする技術を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためにこの発明に係る筋シナジー解析装置または解析方法の一態様は、脳活動計測部により脳活動を計測して前記脳活動の特徴量を示す脳活動計測データを得ると共に、筋活動計測部により前記脳活動の計測と並行して解析対象の筋シナジーに関係する複数の筋肉の筋活動を計測し、当該筋活動の特徴量を示す筋活動計測データを得る。そして情報処理装置により、前記脳活動計測データと予め用意された活動度計算パラメータとに基づいて、前記筋シナジーの時系列的な活動の大きさを表す筋シナジー活動度を計算し、計算した前記筋シナジー活動度と予め用意された筋肉重みパラメータとに基づいて、前記筋シナジーに関係する前記複数の筋肉の筋活動を推定する。そして、前記筋活動計測データと前記筋活動の推定データとの間の誤差を計算して、この誤差を減少させるべく前記活動度計算パラメータおよび前記筋肉重みパラメータを更新する処理を繰り返し実行し、前記誤差が収束したときの前記筋シナジー活動度および前記筋肉重みパラメータを、前記筋シナジーの解析結果を表す情報として出力するようにしたものである。
【0008】
この発明の一態様によれば、筋活動の計測と並行して脳活動が計測され、その計測データをもとに神経系に対応する筋シナジーの活動度と筋活動が推定される。そして、この筋活動の推定データと筋活動の計測データとの誤差が収束するまで、活動度計算パラメータおよび筋肉重みパラメータを更新する処理が繰り返し行われる。このため、神経系に対応する筋活動の推定値が反映された筋活動度と筋肉重みを筋シナジーとして導出することが可能となる。従って、神経系の異なる複数の筋協調構造が運動している場合に、それぞれの神経系に対応した筋シナジーを導出することが可能となる。
【発明の効果】
【0009】
すなわちこの発明の一態様によれば、実際の神経系の筋協調構造を模擬する筋シナジーの解析を可能にする技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、この発明の第1の実施形態に係る筋シナジー解析装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、
図1に示した筋シナジー解析装置に設けられる情報処理装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、
図1に示した筋シナジー解析装置に設けられる情報処理装置のソフトウェア構成の一例を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、
図3に示した情報処理装置の制御部が実行する筋シナジー解析処理の処理手順と処理内容の一例を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、この発明の第2の実施形態に係る筋シナジー解析装置のソフトウェア構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照してこの発明に係わる実施形態を説明する。
【0012】
[第1の実施形態]
第1の実施形態は、解析対象の筋シナジーを1つと仮定した場合を示すものである。
【0013】
(構成例)
(1)筋シナジー解析装置
図1は、この発明の第1の実施形態に係る筋シナジー解析装置の構成の一例を示すブロック図である。
【0014】
筋シナジー解析装置は、脳活動計測ユニットBUと、筋活動計測ユニットMUと、これらのユニットBU,MUに対し信号ケーブルSLを介して接続される情報処理装置IS1とを備えている。
【0015】
なお、脳活動計測ユニットBUおよび筋活動計測ユニットMUと情報処理装置IS1との間は、信号ケーブルSL以外に、例えばBluetooth(登録商標)等の小電力無線データ伝送規格を採用した無線インタフェースを介して接続されるようにしてもよい。このようにすると、ユーザUSが装置から受ける負荷が軽減されて、計測中の運動の自由度を高めることが可能となる。
【0016】
脳活動計測ユニットBUは、複数(N)チャネルの電極をユーザUSの頭部の大脳皮質表面に対応する部位に貼付することにより時系列の脳波信号を計測し、計測した脳波信号から脳活動を表す特徴量を抽出する。この脳活動計測ユニットBUの計測動作の一例は動作例において説明する。
【0017】
筋活動計測ユニットMUは、ユーザUSの解析対象となる筋シナジーに関係する複数(M)の筋肉に対応する部位にそれぞれ電極を貼付することにより時系列の筋電図信号を計測し、計測した筋電図信号から筋活動を表す特徴量を抽出する。この筋活動計測ユニットMによる筋活動計測動作の一例も動作例において説明する。
【0018】
(2)情報処理装置IS1
情報処理装置IS1は、例えばパーソナルコンピュータやタブレット型端末等の情報処理端末により構成される。なお、情報処理装置IS1は、Web上またはクラウド上に設置されるサーバコンピュータに設けられてもよい。
【0019】
図2および
図3は、それぞれ情報処理装置IS1のハードウェア構成およびソフトウェア構成の一例を示すブロック図である。
【0020】
情報処理装置IS1は、中央処理ユニット(Central Processing Unit:CPU)等のハードウェアプロセッサを使用した制御部1を備え、この制御部1に対し、バス6を介して、プログラム記憶部2およびデータ記憶部3を有する記憶ユニットと、入力インタフェース(以後インタフェースをI/Fと記載する)部4と、出力I/F部5とを接続したものとなっている。
【0021】
入力I/F部4は、上記脳活動計測ユニットBUにより計測された脳活動の特徴量を表すデータ、および上記筋活動計測ユニットMUにより計測された筋活動の特徴量を表すデータをそれぞれ取り込む。なお、脳活動計測ユニットBUおよび筋活動計測ユニットMUと情報処理装置IS1との間が無線回線を介して接続される場合には、入力I/F部4は無線インタフェースを備える。また、キーボードや外部記憶媒体等の入力デバイスが接続されていてもよい。
【0022】
出力I/F部5は、筋シナジーの解析結果を表す情報を、例えば情報処理装置IS1に付属する表示デバイスに出力する。なお、出力I/F部5には無線インタフェースが設けられていてもよい。無線インタフェースを備えることで、情報処理装置IS1は筋シナジーの解析結果を表す情報を、例えばLAN(Local Area Network)や公衆ネットワークを介して外部端末へ送信することが可能となる。
【0023】
プログラム記憶部2は、例えば、記憶媒体としてHDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)等の随時書込みおよび読出しが可能な不揮発性メモリと、ROM(Read Only Memory)等の不揮発性メモリとを組み合わせて構成されたもので、OS(Operating System)等のミドルウェアに加えて、この発明の第1の実施形態に係る各種制御処理を実行するために必要な各種プログラムを格納する。
【0024】
データ記憶部3は、例えば、記憶媒体として、HDDまたはSSD等の随時書込みおよび読出しが可能な不揮発性メモリと、RAM(Random Access Memory)等の揮発性メモリと組み合わせて構成されたもので、その記憶領域に、活動度計算パラメータ記憶部31と、筋肉重みパラメータ記憶部32を備えている。
【0025】
活動度計算パラメータ記憶部31には、活動度計算パラメータが記憶される。活動度計算パラメータは、脳活動に対応する筋シナジーの活動度(活性度とも云う)を計算するために使用される。
【0026】
筋肉重みパラメータ記憶部32には、筋肉重みパラメータが記憶される。筋肉重みパラメータは、筋シナジーに関係する各筋肉の筋活動度を計算するために使用される。
【0027】
制御部1は、この発明の第1の実施形態に係る処理機能として、活動度計算部11と、筋活動計算部12と、誤差計算部13と、パラメータ更新部14と、筋シナジー出力部15とを備えている。
【0028】
これらの処理部11~15は、いずれもプログラム記憶部2に格納されたアプリケーション・プログラムを、制御部1のハードウェアプロセッサに実行させることにより実現される。なお、上記各処理部11~15の一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェアを用いて実現されてもよい。
【0029】
活動度計算部11は、脳活動計測ユニットBUから出力される脳活動の特徴量を表す計測データを入力I/F部4を介して取得する。そして活動度計算部11は、取得した上記脳活動の特徴量と、活動度計算パラメータ記憶部31に記憶された活動度計算パラメータとに基づいて、筋シナジーの活動度を算出する。なお、筋シナジー活動度の算出処理の一例は、動作例において説明する。
【0030】
筋活動計算部12は、上記活動度計算部11により算出された上記筋シナジーの活動度と、筋肉重みパラメータ記憶部32に記憶された筋肉重みパラメータとに基づいて、上記筋シナジーに関係する各筋肉の筋活動を推定する。この筋活動推定処理の一例についても、動作例で説明する。
【0031】
誤差計算部13は、上記筋活動計測ユニットMUから出力される筋活動の特徴量を表す計測データを入力I/F部4を介して取得する。そして誤差計算部13は、上記筋活動計算部12により算出された筋活動の推定値と、上記筋活動計測ユニットMUから取得した上記筋活動の特徴量との間の誤差を算出し、算出した誤差をパラメータ更新部14へ出力する。
【0032】
パラメータ更新部14は、上記誤差計算部13から出力された誤差をもとに、当該誤差を減少させるべく、活動度計算パラメータ記憶部31および筋肉重みパラメータ記憶部32に記憶される活動度計算パラメータおよび筋肉重みパラメータをそれぞれ更新する。
【0033】
筋シナジー出力部15は、上記誤差計算部13から出力される誤差の変化が予め設定されたしきい値未満に収束したか否かを判定する。そして筋シナジー出力部15は、上記誤差が収束したと判定したときの、上記活動度計算部11により得られた筋シナジーの活動度と、筋肉重みパラメータ記憶部32に記憶されている筋肉重みパラメータとを、筋シナジーの解析結果を表す情報として出力I/F部5から出力する。
【0034】
(動作例)
次に、以上のように構成された筋シナジー解析装置の動作例を説明する。
【0035】
図4は、情報処理装置IS1の制御部1が実行する筋シナジー解析処理の処理手順と処理内容の一例を示すフローチャートである。
【0036】
(1)準備
ユーザUSの頭部の、大脳皮質表面に対応する複数の部位に、脳活動計測ユニットBUのNチャネルの電極を貼付する。またそれ共に、ユーザUSの解析対象となる筋シナジーに関係する複数の筋肉に対し、筋活動計測ユニットMUのM個の電極を装着する。
【0037】
そして、上記脳活動計測ユニットBUおよび筋活動計測ユニットMUを、それぞれ信号ケーブルSLにより情報処理装置IS1に接続する。この結果、脳活動計測ユニットBUおよび筋活動計測ユニットMUは、情報処理装置IS1から供給される電源によりそれぞれ動作することが可能となる。なお、脳活動計測ユニットBUおよび筋活動計測ユニットMUは、それぞれ独立する電源回路を備えていてもよい。
【0038】
(2)脳活動および筋活動の計測
この状態で、情報処理装置IS1に対し例えば入力デバイスから解析処理要求が入力されると、情報処理装置IS1の制御部1は、上記解析処理要求をステップS10により検知し、以後計測処理動作を以下のように実行する。
【0039】
(2-1)脳活動の計測
脳活動計測ユニットBUでは、N チャネルの電極により脳波信号Si(t)(i =1,…,N) が時系列で計測され、計測された脳波信号Si(t)(i =1,…,N) からそれぞれ時刻t における特徴量が算出される。
【0040】
上記特徴量を算出するために、脳活動計測ユニットBUでは、例えばδ (1.5~4Hz)、θ (4~8Hz)、α (8~14Hz)、β1 (14~20Hz)、β2 (20~30Hz)、γ1 (30~50Hz)、γ2 (50~90Hz)、γ3 (90~120Hz)、γ4 (120~150Hz) の9個の帯域を設定する。そして、これらの帯域においてそれぞれNチャネルの各脳波信号に対してバンドパスフィルタを適用してフィルタリング処理を行い、これにより9N (N チャネル×9個の帯域)次元の特徴量v(i, j)(t) (i = 1, …, N) (j =δ, …,γ4)を得る。
【0041】
脳活動計測ユニットBUは、以上のように得た脳波信号の9N 次元の特徴量v(i, j)(t) を、脳活動計測データとして情報処理装置IS1へ出力する。
【0042】
これに対し情報処理装置IS1の制御部1は、ステップS11において、上記脳活動計測データを入力I/F部4を介して取得し、活動度計算部11に入力する。
【0043】
(2-2)筋活動の計測
一方、筋活動計測ユニットMUでは、M 個の筋肉に装着された電極により筋電図信号mk(t) (k =1, …,M)が時系列で計測される。但しt は時刻を表す。そして、各筋電図信号mk(t) に対して、20-500Hzを通過させるバンドパスフィルタを適用することで、運動時のノイズが除去される。続いて、ノイズ除去後の上記筋電図信号mk(t) に対して、例えば10Hz以下の帯域を通過させるローパスフィルタを適用することで、整流化処理が行われる。この結果、筋活動計測ユニットMUでは、上記各筋電図信号mk(t) の振幅特徴量ak(t) (k = 1, …,M) が得られる。
【0044】
筋活動計測ユニットMUは、以上のように得た各筋電図信号mk(t) の振幅特徴量ak(t) を、筋活動計測データとして情報処理装置IS1へ出力する。
【0045】
これに対し情報処理装置IS1の制御部1は、ステップS12において、上記筋活動計測ユニットMUから出力される筋活動計測データを入力I/F部4を介して取得し、誤差計算部13に入力する。
【0046】
(3)筋シナジー活動度の算出
上記脳活動計測データを取得すると、情報処理装置IS1の制御部1はステップS13に移行し、活動度計算部11により筋シナジー活動度を以下のように算出する。
【0047】
すなわち、活動度計算部11は、脳活動計測ユニットBUから取得した脳活動計測データに含まれる特徴量v
(i, j)(t) (i = 1, …, N) (j =δ, …,γ4)と、活動度計算パラメータ記憶部31から読み込んだ活動度計算パラメータw
brain=[w
(i, j)] (i =1, …, N) (j =δ, …, γ4) とをもとに、時刻t における筋シナジーの活性度c(t) を、以下の式により算出する。
【数1】
【0048】
なお、筋シナジーの活性度c(t) の算出方法は、活性度c(t)がスカラー値として得られるものであれば、他の計算方法でも構わない。
【0049】
(4)筋活動の算出
情報処理装置IS1の制御部1は、次にステップS14に移行し、筋活動計算部12において、上記活動度が算出された筋シナジーに関係する各筋肉の筋活動を、以下のように推定する。
【0050】
すなわち、筋活動計算部12は、上記活動度計算部11により算出された筋シナジーの活動度c(t)と、筋肉重みパラメータ記憶部32から読み込んだ筋肉重みパラメータwmuscle = [wk] (k =1, …, M) とをもとに、筋活動a^(t) [a^k(t)] (k=1, …, M)を
a^(t) =c(t) wmuscle
として推定する。そして、得られた筋活動の推定データを誤差計算部13へ出力する。
【0051】
(5)筋活動の誤差の計算
情報処理装置IS1の制御部1は、次にステップS15に移行し、誤差計算部13において、上記筋活動計算部12から出力された筋活動a^(t) の推定データと、先にステップS12において取得した筋活動計測データに含まれる筋電図信号mk(t) の振幅特徴量ak(t) を表す計測データとの間で、時刻が対応するもの同士の誤差ek を計算する。
【0052】
この誤差ek の計算には、例えば以下の式が用いられる。
【数2】
すなわち、この例では、誤差計算部13により二乗平均平方根誤差e=[ek ]が算出される。
【0053】
誤差計算部13は、算出した上記二乗平均平方根誤差e=[ek ]をパラメータ更新部14へ出力する。
【0054】
(6)パラメータの更新
情報処理装置IS1の制御部1は、次にステップS16に移行し、パラメータ更新部14においてパラメータの更新処理を以下のように実行する。
【0055】
すなわち、パラメータ更新部14は、上記誤差計算部13から出力される筋活動の誤差e=[ek ]に基づいて、当該誤差e=[ek ]を減少させるべく、活動度計算パラメータ記憶部31に記憶された活動度計算パラメータwbrain、および筋肉重みパラメータ記憶部32に記憶された筋肉重みパラメータwmuscleをそれぞれ更新する。
【0056】
更新式としては、例えば、誤差e=[ek ]に対し各変数で偏微分した勾配を更新項とする以下の式が用いられる。
【数3】
但し、ηは更新率である。なお、更新方法としては、上記の方法以外にどのような方法が採用されても構わない。
【0057】
(7)筋シナジー解析結果の出力
情報処理装置IS1の制御部1は、上記パラメータの更新処理が1回行われるごとに、筋シナジー出力部15の制御の下、ステップS17において、上記誤差計算部13により計算された誤差e=[ek ]の前回の更新時からの変化量が、予め設定されたしきい値未満となったか否かを判定する。そして、この判定の結果、誤差e=[ek ]の変化量がしきい値未満になっていない場合には、ステップS11に戻り、ステップS11~ステップS17により上記(2)~(6)で説明した一連の処理を繰り返し実行する。
【0058】
一方、誤差e=[ek ]の変化量がしきい値未満になると、筋シナジー出力部15は誤差が収束したと判断してステップS18に移行し、このとき活動度計算部11により得られた筋シナジー活動度c(t) と、筋肉重みパラメータwmuscleとを取得する。そして、筋シナジー出力部15は、取得した上記筋シナジー活動度c(t) と、筋肉重みパラメータwmuscleとを、時刻t における筋シナジーの解析結果を表す情報として、出力I/F部5から例えば表示デバイスに出力し、表示させる。
【0059】
なお、筋シナジーの解析結果を表す情報は、出力I/F部5からLANなどのネットワークを介して外部端末に送信されてもよい。また、ユーザや管理者の閲覧要求に応えるため、上記筋シナジーの解析結果を表す情報は、データ記憶部3内に保存されるようにしてもよい。
【0060】
(効果)
以上述べたように第1の実施形態では、筋活動計測ユニットMUから、解析対象の筋シナジーに関係する各筋肉について計測された筋電図の特徴量を示す筋活動計測データを取得すると共に、それと並行して脳活動計測ユニットBUから、大脳皮質運動野について計測された脳活動の特徴量を示す脳活動計測データを取得する。そして、取得した脳活動の特徴量と活動度計算パラメータとをもとに筋シナジー活動度を計算し、計算した筋シナジー活動度と筋肉重みパラメータとをもとに上記筋シナジーに関係する筋肉の筋活動を推定する。そして、この筋活動の推定値と上記筋活動の計測値との間の誤差を計算し、計算した誤差を減少させるべく上記活動度計算パラメータおよび上記筋肉重みパラメータを更新する処理を繰り返し実行し、上記誤差が収束したときの上記筋シナジー活動度および上記筋肉重みパラメータを筋シナジーの解析結果を表す情報として出力するようにしている。
【0061】
従って、神経系に対応する筋活動の推定値が反映された筋活動度と筋肉重みを、筋シナジーを表す情報として出力することが可能となる。従って、実際の神経系の筋協調構造を模擬する筋シナジーを導出することが可能となる。
【0062】
[第2の実施形態]
前記第1の実施形態では、解析対象の筋シナジーが1つの場合について述べたが、第2の実施形態では、解析対象の筋シナジーが複数の場合、例えば3つの場合について説明する。
【0063】
図5は、この発明の第2の実施形態に係る筋シナジー解析装置の主要部を構成する情報処理装置のソフトウェア構成の一例を示すブロック図である。なお、
図5において前記
図3と同一部分には同一符号を付して詳しい説明は省略する。
【0064】
情報処理装置IS2の制御&データ記憶部7は、上記3つの筋シナジーに対応する3つの筋シナジー計算ブロック161~163を備えている。これらの筋シナジー計算ブロック161~163は、いずれも
図3に示した活動度計算部11および筋活動計算部12と、活動度計算パラメータ記憶部31および筋肉重みパラメータ記憶部32とを備えている。そして、筋シナジー計算ブロック161~163は、それぞれ異なる筋シナジーに関する活動度と、当該筋シナジーに関係する筋肉の筋活動を推定する。
【0065】
さらに制御&データ記憶部7は、筋活動集約部17を備えている。この筋活動集約部17は、上記筋シナジー計算ブロック161~163からそれぞれ出力される筋活動の推定値を集約する。集約手法としては、例えば加算処理が用いられる。筋活動集約部17は、上記各筋活動推定値の集約データを誤差計算部13に入力する。
【0066】
このような構成であるから、脳活動計測ユニットBUから出力される脳活動の特徴量を示す脳活動計測データをもとに、先ず筋シナジー計算ブロック161~163の各々において、解析対象の3つの筋シナジーにおける活動度と、筋肉の筋活動の推定値がそれぞれ算出される。
【0067】
次に、算出された上記3つの筋活動の推定値が筋活動集約部17により集約され、集約された上記筋活動の推定値と、筋活動計測ユニットMUにより計測された筋活動の特徴量との間の誤差が誤差計算部13により算出される。そして、算出された上記語差をもとにパラメータ更新部14が、上記誤差を減少させるべく、上記筋シナジー計算ブロック161~163の活動度計算パラメータおよび筋肉重みパラメータをそれぞれ更新する処理を繰り返し実行する。そして最後に、筋シナジー出力部15が、上記誤差の時間変化がしきい値未満になったときの、上記筋シナジー計算ブロック161~163により得られた活動度と筋肉重みパラメータを、それぞれ筋シナジーの解析結果として出力する。
【0068】
従って、第2の実施形態によれば、3つの異なる筋シナジーについてそれぞれその神経系に対応する筋活動の推定値が反映された筋活動度と筋肉重みを筋シナジーとして導出することが可能となる。
【0069】
[その他の実施形態]
その他、脳活動計測部および筋活動計測部の構成、情報処理装置の構成と当該情報処理装置が備える各部の処理内容等については、この発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形実施可能である。
【0070】
以上、この発明の実施形態を詳細に説明してきたが、前述までの説明はあらゆる点においてこの発明の例示に過ぎない。この発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。つまり、この発明の実施にあたって、実施形態に応じた具体的構成が適宜採用されてもよい。
【0071】
要するにこの発明は、上記各実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【符号の説明】
【0072】
BU…脳活動計測ユニット
MU…筋活動計測ユニット
IS1,IS2…情報処理装置
1…制御部
2…プログラム記憶部
3…データ記憶部
4…入力I/F部
5…出力I/F部
6…バス
7…制御&データ記憶部
11…活動度計算部
12…筋活動計算部
13…誤差計算部
14…パラメータ更新部
15…筋シナジー出力部
161~163…筋シナジー計算ブロック
17…筋活動集約部
31…活動度計算パラメータ記憶部
32…筋肉重みパラメータ記憶部