(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167795
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】アルミニウム合金鋳塊の製造方法、アルミニウム合金連続鋳造棒、及び、アルミニウム合金鍛造品
(51)【国際特許分類】
C22C 1/02 20060101AFI20241127BHJP
C22C 21/00 20060101ALI20241127BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20241127BHJP
C22B 21/00 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
C22C1/02 503J
C22C21/00 N
C22B7/00 F
C22B21/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084130
(22)【出願日】2023-05-22
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】木村 佳文
(72)【発明者】
【氏名】荒山 卓也
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA02
4K001BA22
4K001BA23
4K001DA05
4K001GA19
(57)【要約】
【課題】市中のアルミニウム合金スクラップを活用しつつ、そのスクラップから混入する元素によって生成するAl-Fe-Mn-Siの化合物の粗大化を抑制できる、6000系アルミニウム合金鋳塊の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のアルミニウム合金鋳塊の製造方法は、所定の割合の添加元素を含むアルミニウム合金鋳塊を製造するアルミニウム合金鋳塊の製造方法において、アルミニウム合金スクラップを含む原料であって、Siの含有比率が0.60質量%以上0.90質量%以下である以外は前記添加元素の含有比率が前記アルミニウム合金鋳塊と同じ組成範囲である原料を溶解して1次溶湯を得る1次溶解工程と、得られた1次溶湯又は1次溶湯を固めたインゴットを溶解した溶湯に金属Si又はSi含有合金を添加して、Siの含有比率を0.90質量%以上1.9%質量%以下の範囲内に調整する2次溶解工程と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cuを0.30質量%以上1.0質量%以下の範囲内、Mgを0.80質量%以上1.8質量%以下の範囲内、Siを0.90質量%以上1.9質量%以下の範囲内、Mnを0.30質量%以上1.2質量%以下の範囲内、Feを0.20質量%以上0.65質量%以下の範囲内、Znを0.25質量%以下の範囲内、Crを0.050質量%以上0.30質量%以下の範囲内、Tiを0.01質量%以上0.1質量%以下の範囲内、Bを0.0010質量%以上0.030質量%以下の範囲内、Zrを0.0010質量%以上0.050質量%以下の範囲内の添加元素を含み、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金鋳塊を製造するアルミニウム合金鋳塊の製造方法において、
アルミニウム合金スクラップを含む原料であって、Siの含有比率が0.60質量%以上0.90質量%以下である以外は前記添加元素の含有比率が前記アルミニウム合金鋳塊と同じ組成範囲である原料を溶解して1次溶湯を得る1次溶解工程と、
前記1次溶解工程で得られた前記1次溶湯又は前記1次溶湯を固めたインゴットを溶解した溶湯に金属Si又はSi含有合金を添加して、Siの含有比率を0.90質量%以上1.9%質量%以下の範囲内に調整する2次溶解工程と、を有する、アルミニウム合金鋳塊の製造方法。
【請求項2】
前記1次溶解工程において、Siの含有比率が0.60質量%未満である場合、金属Si又はSi含有合金を添加してSiの含有比率を0.60質量%以上0.90質量%以下の範囲内に調整する、請求項1に記載のアルミニウム合金鋳塊の製造方法。
【請求項3】
前記1次溶解工程において、Siの含有比率が0.90質量%を超えている場合、アルミ地金、又は、低Si含有比率が低いアルミニウム合金スクラップを投入してSiの含有比率を0.60質量%以上0.90質量%以下の範囲内に調整する、請求項1に記載のアルミニウム合金鋳塊の製造方法。
【請求項4】
前記アルミニウム合金スクラップが、3000系合金を含むスクラップ、4000系合金を含むスクラップ、5000系合金を含むスクラップ、及び、6000系合金を含むスクラップのいずれか1種以上からなる、請求項1に記載のアルミニウム合金鋳塊の製造方法。
【請求項5】
前記1次溶解工程を行う溶解炉と成分調整を行う溶解炉とを樋で連結された状態で直列に配置され、前記1次溶解工程で得られた前記1次溶湯を鋳造せずに成分調整を行う溶解炉に移注できる溶解設備を用いる、請求項1に記載のアルミニウム合金鋳塊の製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のアルミニウム合金鋳塊の製造方法によって製造されたアルミニウム合金鋳塊を用いて得られ、0.2%耐力が350MPa以上を有する、アルミニウム合金連続鋳造棒。
【請求項7】
請求項6に記載されたアルミニウム合金連続鋳造棒を用いて得られ、0.2%耐力が370MPa以上を有する、アルミニウム合金鍛造品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金鋳塊の製造方法、アルミニウム合金連続鋳造棒、及び、アルミニウム合金鍛造品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、世界中のカーボンニュートラルに向けた動向の中、製造工程におけるCO2排出量の削減が課題となっている。
アルミニウム製造時のCO2排出量抑制のため、純アルミニウム(純度99.0%以上)と比較して融点が低いアルミニウム合金のスクラップを活用することは溶解時のエネルギー原単位を改善する上で重要となる。
【0003】
アルミニウム合金のスクラップを原料としてアルミニウム合金やアルミニウム合金製品を製造する方法が知られている(例えば、特許文献1~3)。アルミニウム合金のスクラップは、使用済みのアルミニウム製品から回収されたものであり、リサイクル原料として溶解、成分調整して生産されて、アルミニウム合金の原料となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2020-514556号公報
【特許文献2】特表2020-527653号公報
【特許文献3】特開2022-137762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなリサイクル原料由来のアルミニウム合金原料になるアルミニウム合金のスクラップの活用にあたっては。例えば6000系合金へスクラップを使用する場合、建材から発生する6063のサッシ屑など純度の良いものが好まれる。しかし、スクラップからはSi、Fe、Mn等の不純物が混入する。溶解鋳造工程にてこれらの化合物(例えばAl-Fe-Mn-Si)が粗大成長した状態で鋳造棒に存在すると製品の機械的特性が低下する。
【0006】
本発明は上記事情を鑑みてなされたものであり、アルミニウム合金の製造において市中のアルミニウム合金スクラップを活用しつつ、アルミニウム合金スクラップから混入する元素によって生成するAl-Fe-Mn-Siの化合物の粗大化を抑制できる、6000系アルミニウム合金鋳塊の製造方法、アルミニウム合金連続鋳造棒、及び、アルミニウム合金鍛造品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0008】
本発明の態様1は、Cuを0.30質量%以上1.0質量%以下の範囲内、Mgを0.80質量%以上1.8質量%以下の範囲内、Siを0.90質量%以上1.9質量%以下の範囲内、Mnを0.30質量%以上1.2質量%以下の範囲内、Feを0.20質量%以上0.65質量%以下の範囲内、Znを0.25質量%以下の範囲内、Crを0.050質量%以上0.30質量%以下の範囲内、Tiを0.01質量%以上0.1質量%以下の範囲内、Bを0.0010質量%以上0.030質量%以下の範囲内、Zrを0.0010質量%以上0.050質量%以下の範囲内の添加元素を含み、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金鋳塊を製造するアルミニウム合金鋳塊の製造方法において、アルミニウム合金スクラップを含む原料であって、Siの含有比率が0.60質量%以上0.90質量%以下である以外は前記添加元素の含有比率が前記アルミニウム合金鋳塊と同じ組成範囲である原料を溶解して1次溶湯を得る1次溶解工程と、前記1次溶解工程で得られた前記1次溶湯又は前記1次溶湯を固めたインゴットを溶解した溶湯に金属Si又はSi含有合金を添加して、Siの含有比率を0.90質量%以上1.9%質量%以下の範囲内に調整する2次溶解工程と、を有するアルミニウム合金鋳塊の製造方法である。
【0009】
本発明の態様2は、態様1のアルミニウム合金鋳塊の製造方法において、前記1次溶解工程において、Siの含有比率が0.60質量%未満である場合、金属Si又はSi含有合金を添加してSiの含有比率を0.60質量%以上0.90質量%以下の範囲内に調整する。
【0010】
本発明の態様3は、態様1のアルミニウム合金鋳塊の製造方法において、前記1次溶解工程において、Siの含有比率が0.90質量%を超えている場合、アルミ地金、又は、低Si含有比率が低いアルミニウム合金スクラップを投入してSiの含有比率を0.60質量%以上0.90質量%以下の範囲内に調整する。
【0011】
本発明の態様4は、態様1から3のいずれか一つのアルミニウム合金鋳塊の製造方法において、前記アルミニウム合金スクラップが、3000系合金を含むスクラップ、4000系合金を含むスクラップ、5000系合金を含むスクラップ、及び、6000系合金を含むスクラップのいずれか1種以上からなる。
【0012】
本発明の態様5は、態様1から4のいずれか一つのアルミニウム合金鋳塊の製造方法において、前記1次溶解工程を行う溶解炉と成分調整を行う溶解炉とを樋で連結された状態で直列に配置され、前記1次溶解工程で得られた前記1次溶湯を鋳造せずに成分調整を行う溶解炉に移注できる溶解設備を用いる。
【0013】
本発明の態様6は、態様1から5のいずれか一つのアルミニウム合金鋳塊の製造方法によって製造されたアルミニウム合金鋳塊を用いて得られ、0.2%耐力が350MPa以上を有する、アルミニウム合金連続鋳造棒である。
【0014】
本発明の態様7は、態様6のアルミニウム合金連続鋳造棒を用いて得られ、0.2%耐力が370MPa以上を有する、アルミニウム合金鍛造品である。
【発明の効果】
【0015】
本発明のアルミニウム合金鋳塊の製造方法によれば、市中のアルミニウム合金スクラップを活用しつつ、アルミニウム合金スクラップから混入する元素によって生成するAl-Fe-Mn-Siの化合物の粗大化を抑制できる、6000系アルミニウム合金鋳塊の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】(a)は1次溶解工程で得られた1次溶湯を一度インゴットに固めて、インゴットを2次溶解工程に投入する場合の概念図であり、(b)は1次溶解工程で得られた1次溶湯をそのまま2次溶解工程に投入する場合の概念図である。
【
図2】(a)は本実施形態のアルミニウム合金連続鋳造棒の組織観察部位を説明するための模式図であり、(b)は本実施形態のアルミニウム合金連続鋳造棒の引張特性を評価する部位を説明するための模式図である。
【
図3】本実施形態のアルミニウム合金鍛造品の引張特性を評価するための鍛造品の作製を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに必ずしも限定されるものではなく、その効果を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0018】
[アルミニウム合金鋳塊の製造方法]
本実施形態に係るアルミニウム合金鋳塊の製造方法によって製造されるアルミニウム合金鋳塊について説明する。
本実施形態のアルミニウム合金鋳塊は、Cuを0.30質量%以上1.0質量%以下の範囲内、Mgを0.80質量%以上1.8質量%以下の範囲内、Siを0.90質量%以上1.9質量%以下の範囲内、Mnを0.30質量%以上1.2質量%以下の範囲内、Feを0.20質量%以上0.65質量%以下の範囲内、Znを0.25質量%以下の範囲内、Crを0.050質量%以上0.30質量%以下の範囲内、Tiを0.01質量%以上0.1質量%以下の範囲内、Bを0.0010質量%以上0.030質量%以下の範囲内、Zrを0.0010質量%以上0.050質量%以下の範囲内の添加元素を含み、残部がAl及び不可避不純物からなる。
【0019】
本実施形態のアルミニウム合金鋳塊は、MgとSiを含む点で6000系アルミニウム合金の鍛造品に相当する。
【0020】
(Cu:0.30質量%以上、1.0質量%以下)
Cuは、アルミニウム合金中でMg-Si系化合物を微細に分散させる作用や、Q相を始めとするAl-Cu-Mg-Si系化合物として析出することでアルミニウム合金の引張強さを向上させる作用を有する。Cuの含有率が上記の範囲内にあることによって、アルミニウム合金鋳塊の常温における機械的特性を向上させることができる。
【0021】
(Mg:0.80質量%以上、1.8質量%以下)
Mgは、アルミニウム合金の引張強さを向上させる作用を有する。アルミニウム母相へMgが固溶する、あるいは、β”相などのMg-Si系化合物(Mg2Si)、またはQ相を始めとするAl-Cu-Mg-Si系化合物(AlCuMgSi)として析出することで、アルミニウム合金の強化に寄与する。また、Mg2Siは、アルミニウム合金中でのCuAl2相の生成を抑制する作用がある。CuAl2相の生成が抑制されることによって、アルミニウム合金鋳塊の耐食性が向上する。Mgの含有率が上記の範囲内にあることによって、アルミニウム合金鋳塊の常温における機械的特性とともに耐食性を向上させることができる。
【0022】
(Si:0.90質量%以上、1.9質量%以下)
Siは、Mgと同様にアルミニウム合金鋳塊の常温における機械的特性と共に耐食性を向上させる作用を有する。但し、アルミニウム合金にSiを過剰に添加すると、粗大な初晶Si粒が晶出することにより、アルミニウム合金の引張強さが低下するおそれがある。Siの含有率が上記の範囲内にあることによって、初晶Siの晶出を抑えつつ、アルミニウム合金鋳塊の常温における機械的特性と共に耐食性を向上させることができる。
【0023】
(Mn:0.30質量%以上、1.2質量%以下)
Mnは、アルミニウム合金中でAl-Mn-Fe-SiやAl-Mn-Cr-Fe-Siなどの金属間化合物を含む微細な粒状の晶出物を形成することで、アルミニウム合金の引張強さを向上させる作用を有する。Mnの含有率が上記の範囲内にあることによって、アルミニウム合金鋳塊の常温における機械的特性を向上させることができる。
【0024】
(Fe:0.20質量%以上、0.65質量%以下)
Feは、アルミニウム合金中でAl-Mn-Fe-Si、Al-Mn-Cr-Fe-Si、Al-Fe-Si、Al-Cu-Fe、Al-Mn-Feなどの金属間化合物を含む微細な晶出物として晶出することで、アルミニウム合金の引張強さを向上させる作用がある。Feの含有率が上記の範囲内にあることによって、アルミニウム合金鋳塊の常温における機械的特性を向上させることができる。
なお、Fe/Mnの関係が1.4未満である。Fe/Mnの関係が1.4未満であることによって、2.0μm以上のAlFeSi系化合物の晶出を抑制することができ、機械的特性を向上することができる。
【0025】
(Cr:0.050質量%以上、0.30質量%以下)
Crは、アルミニウム合金中でAl-Mn-Cr-Fe-SiやAl-Fe-Crなどの金属間化合物を含む微細な粒状の晶出物を形成することで、アルミニウム合金の引張強さを向上させる作用を有する。Crの含有率が上記の範囲内にあることによって、アルミニウム合金鋳塊の常温における機械的特性を向上させることができる。
【0026】
(Ti:0.010質量%以上、0.10質量%以下)
Tiは、アルミニウム合金の結晶粒を微細化し、展伸加工性を向上させる作用を有する。Ti含有率が0.010質量%未満の場合、結晶粒の微細化効果が十分に得られないおそれがある。一方、Ti含有率が0.10質量%を超えると、粗大な晶出物を形成し、展伸加工性が低下するおそれがある。また、アルミニウム合金鋳塊にTiを含む粗大な晶出物が多量に混入すると靭性が低下する場合がある。したがって、Tiの含有率は0.010質量%以上、0.10質量%以下とする。Tiの含有率は、好ましくは0.015質量%以上、0.050質量%以下である。
【0027】
(B:0.0010質量%以上、0.030質量%以下)
Bは、アルミニウム合金の結晶粒を微細化し、展伸加工性を向上させる作用を有する。
上述したTiと共にBをアルミニウム合金に添加することによって、結晶粒の微細化効果が向上する。Bの含有率が0.0010質量%未満では、結晶粒の微細化効果が十分に得られないおそれがある。一方、Bの含有率が0.030質量%を超えると、粗大な晶出物を形成し、介在物としてアルミニウム合金鋳塊に混入するおそれがある。また、アルミニウム合金の最終製品にBを含む粗大な晶出物が多量に混入すると靭性が低下する場合がある。したがって、Bの含有率は0.0010質量%以上、0.030質量%とする。Bの含有率は、好ましくは0.0050質量%以上、0.025質量%である。
【0028】
(Zr:0.0010質量%以上、0.050質量%以下)
Zrは、0.050質量%以下であれば、Al3ZrおよびAl-(Ti,Zr)という形で析出することで、再結晶抑制効果や析出強化によりアルミニウム合金鋳塊の強度の向上に寄与する。ただし、Zrの含有率が0.050質量%を超えると粗大なZr化合物として晶出することによって、アルミニウム合金鋳塊の耐食性の低下につながるおそれがある。このため、Zrの含有率は、0.050質量%以下とする。また、上記の再結晶抑制効果や析出強化による鍛造品の強度の向上の効果を得るためにはZrの含有率は、0.0010質量%以上であることが好ましい。
【0029】
(Zn:0.250質量%以下)
Znは0.250質量%以下であればよい。Znの含有率が0.250質量%を超えるとMgZn2が生成し、Al母相から粒界に析出することで粒界腐食を起こし、アルミニウム合金鋳塊の耐食性の低下につながる。このため、Znの含有率は、0.250質量%以下、あるいは全く含まないことが好ましい。
【0030】
(不可避不純物)
不可避不純物は、アルミニウム合金鋳塊の原料又は製造工程から不可避的にアルミニウム合金に混入する不純物である。不可避不純物の例としては、Ni、Sn、Beなどを挙げることができる。これらの不可避不純物の含有率は0.1質量%を超えないことが好ましい。
【0031】
[アルミニウム合金鋳塊の製造方法]
次に、本実施形態のアルミニウム合金鋳塊の製造方法を説明する。
本実施形態のアルミニウム合金鋳塊は、例えば、溶解(溶湯形成)工程と、鋳造工程とを含む方法によって製造することができる。
【0032】
(溶解工程)
溶解(溶湯形成)工程は、アルミニウム合金の溶湯を形成する。
本実施形態のアルミニウム合金鋳塊の製造方法においては、溶解(溶湯形成)工程は、2つの小工程(1次溶解工程、2次溶解工程)からなる。
【0033】
<1次溶解工程>
1次溶解工程では、アルミニウム合金スクラップを含む原料であって、Siの含有比率が0.60質量%以上0.90質量%以下である以外は上述の添加元素(Cu、Mg、Mn、Fe、Zn、Cr、Ti、B、Zr)の含有比率が製造するアルミニウム合金鋳塊と同じ組成範囲である原料を溶解して1次溶湯を得る。
【0034】
1次溶解工程で得られた1次溶湯は一度インゴットに固めてもよいし、そのまま2次溶解工程を実施する溶解炉に移注してもよい。
図1はかかる構成について概念的に示す図である。
図1(a)は、配合したアルミニウム合金スクラップを含む原料を準備し、次いで、1次溶解炉に原料を投入して1次溶解工程を実施して1次溶湯を得て、その1次溶湯を一旦、インゴットに固めた後、そのインゴットを原料として2次溶解炉で2次溶解工程を実施して2次溶湯を得るフローを概念的に示す図である。
一方、
図1(b)は、配合したアルミニウム合金スクラップを含む原料を準備し、次いで、1次溶解炉に原料を投入して1次溶解工程を実施して1次溶湯を得て、その1次溶湯をそのまま樋を介して2次溶解炉へ移住し、2次溶解工程を実施して2次溶湯を得るフローを概念的に示す図である。
【0035】
1次溶解工程では、投入した原材料(原料)が全量溶解するような条件で実施する。原料として、アルミニウム合金スクラップ、アルミニウム地金(アルミ地金)、Cu屑、母合金等が挙げられるが、例えば、780~850℃で溶解を実施する。
アルミニウム合金スクラップとしては例えば、アルミニウム缶やアルミニウム缶の再生塊といったAl-Mn系(3000系)合金のスクラップ、ADC12やA356といったAl-Si系(4000系)合金のスクラップ、5052や5083といったAl-Mg系(5000系)合金のスクラップ、及び、6063や6061等のAl-Mg-Si系(6000系)合金のスクラップが挙げられる。
アルミ地金(純アルミ)は、純度や成分によって普通純度地金、高純度地金、合金地金に分類され、形状や用途からはインゴット(一般原材料用鋳塊)、スラブ(圧延用に調整された鋳塊)、ビレット(押出用に調整された鋳塊)などに区別できる。
【0036】
Siの含有比率が0.60質量%未満である場合、例えば、金属Si又はSi含有合金を添加してSiの含有比率を0.60質量%以上0.90質量%の範囲内に調整する。添加材料は調整のしやすさから金属Siが好ましい。
また、Siの含有比率が0.90質量%を超えている場合、アルミ地金、又は、低Si含有比率が低いアルミニウム合金スクラップを投入してSiの含有比率を0.60質量%以上0.90質量%の範囲内に調整する。低Si含有比率が低いアルミニウム合金スクラップとしては、3000系合金スクラップ、5000系合金を含むスクラップ、及び、6000系合金を含むスクラップが挙げられる。
Siの含有比率(成分分析)は例えば、発光分光分析によって行うことができる。
【0037】
スクラップからSi、Fe、Mnが混入しこれを溶解した場合、溶解過程の所定の温度域でAl-Fe-Mn-Si化合物が生成する。この生成量はSi量の影響を特に大きく受ける。生成量が多くなるとこれらを溶解するためには溶解温度を850℃以上に設定する必要がある。そうすると溶解時に使用するエネルギーが増加するため好ましくない。
また、Siの含有比率が0.6質量%を下回ると、2次溶解工程で追加するSi量が多くなりすぎ、投入したSiが全量溶けきるまでに時間がかかるため、エネルギーロスが発生する。よって、1次溶解工程で得る合金組成のSiの含有比率は0.60質量%以上0.90質量%以下とすることを要する。
【0038】
原料中のアルミニウム合金スクラップの使用比率(配合比率)が高いほど、溶解時のエネルギー原単位を改善する上で好ましい。
アルミニウム合金スクラップの配合比率は例えば、50%以上とすることができる。例えば、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、100%とすることできる。一方で溶解時のエネルギー原単位の改善効果は低くなるものの、アルミニウム合金スクラップの配合比率を50%未満例えば、40%、30%、20%、10%とすることもできる。
【0039】
純アルミニウム地金の融点は約660℃である。それに対し、例えばADC12は融点が570℃、それ以外のものでも650℃以下と融点が10℃以上低いため、溶解しやすくこれを活用することで溶解時のエネルギー原単位が改善する。
【0040】
アルミニウム合金スクラップとしては、ADC12やA356といったSiを4質量%~12質量%、Cuを0.01質量%以上3.0質量%以下含むAl-Si系(4000系)合金、他アルミニウム缶やアルミニウム缶の再生塊といったMnを0.7質量%~1.4質量%、Mgを0.5質量%以上1.4質量%以下含むAl-Mn系(3000系)、5052や5083といったMgを2.0質量%~5.0質量%含むAl-Mg系(5000系)、6063や6061等のSiを0.2質量%以上0.8質量%以下、Mgを0.45質量%以上1.2質量%以下含むAl-Mg-Si系(6000系合金)から組成範囲を超えない範囲で使用できる。
アルミ缶のスクラップは通常、溶解する前に缶表面の塗料を除去するために400~500℃での加熱処理工程を経て使用される。
Al-Si系合金を添加することによって2次溶解工程におけるSi添加量を削減できるため、これを使用しながら他合金種のスクラップを組み合わせて使用することが好ましい。
【0041】
<2次溶解工程>
2次溶解工程は、1次溶解工程で得られた1次溶湯又は1次溶湯から得たインゴットを溶解した溶湯に金属Si又はSi含有合金を添加して、Siの含有比率を0.90質量%以上1.9%質量%に調整する工程である。添加材料は調整のしやすさから金属Siが好ましい。
【0042】
ここでの成分調整時は700℃以上800℃以下にて実施する。
700℃を下回ると、この溶湯を鋳造する際に溶湯経路内での温度低下にてAl-Fe-Mn-Si系化合物が粗大成長し、製品の機械的特性を損なう。また、800℃を超えると、アルミニウム溶湯中への大気中の水素溶解量が増大し溶湯内の水素ガス量が増加、結果鋳造した製品にポロシティが発生するため機械的特性を損なう。よって700℃以上、800℃以下の範囲が好ましい。
【0043】
(鋳造工程)
2次溶解工程で得られた溶湯はフラックス処理を行い、その後、GBF(ガス・バブリング・フィルトレーション)処理を実施した上で鋳造用の鋳型に鋳込まれる。
鋳込まれた溶湯は竪型(縦型)連続鋳造、もしくは水平(横型)連続鋳造のいずれかの方式で連続鋳造を実施することでアルミニウム合金連続鋳造棒が得られる。
【0044】
本実施形態に係るアルミニウム合金鋳塊の製造方法において、1次溶解工程を行う溶解炉と成分調整を行う溶解炉とを樋で連結された状態で直列に配置され、1次溶解工程で得られた1次溶湯を鋳造せずに成分調整を行う溶解炉に移注できる溶解設備を用いてもよい。
【0045】
[アルミニウム合金連続鋳造棒]
本実施形態に係るアルミニウム合金連続鋳造棒は、本実施形態に係るアルミニウム合金鋳塊の製造方法によって得られたアルミニウム合金鋳塊を用いて、竪型(縦型)連続鋳造、もしくは水平(横型)連続鋳造のいずれかの方式で連続鋳造を実施することで製造されてものであり、0.2%耐力が350MPa以上を有する。
【0046】
[アルミニウム合金鍛造品]
本実施形態に係るアルミニウム合金鍛造品は、本実施形態に係るアルミニウム合金連続鋳造棒を用いて製造され、0.2%耐力が370MPa以上を有する。
例えば、本実施形態に係るアルミニウム合金連続鋳造棒について、均質化熱処理工程と、鍛造工程と、溶体化処理工程と、焼き入れ処理工程と、時効処理工程とを実施することによって、本実施形態に係るアルミニウム合金鍛造品を製造することができる。
【実施例0047】
次に、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれら実施例のものに限定されるものではない。
【0048】
(アルミニウム合金スクラップの例)
2次合金メーカー、スクラップメーカーより入手したアルミニウム合金スクラップを発光分光分析にて得た各スクラップの成分分析値(質量%)を表1に示す。成分分析は、JIS H1305 2005に定められているアルミニウムおよびアルミニウム合金の発光分光分析に則り実施した。
【0049】
【0050】
(実施例1~6、比較例1~6)
実施例1~6は、表1に示したアルミニウム合金スクラップとアルミ地金の組み合わせ(配合)、又は、アルミニウム合金スクラップのみを原料として用いた。
実施例及び比較例のいずれについても、Si以外の含有比率については、Cuを0.30質量%以上1.0質量%以下の範囲内、Mgを0.80質量%以上1.8質量%以下の範囲内、Mnを0.30質量%以上1.2質量%以下の範囲内、Feを0.20質量%以上0.65質量%以下の範囲内、Znを0.25質量%以下の範囲内、Crを0.050質量%以上0.30質量%以下の範囲内、Tiを0.01質量%以上0.1質量%以下の範囲内、Bを0.0010質量%以上0.030質量%以下の範囲内、Zrを0.0010質量%以上0.050質量%以下の範囲内の添加元素を含み、残部がAl及び不可避不純物からなるように配合した。
さらに実施例では、Siの含有比率を0.60質量%以上、0.90質量%以下の範囲内になるように配合した。一方、比較例では、Siの含有比率が0.60質量%以上、0.90質量%以下の範囲外になるように配合した。
【0051】
実施例及び比較例のいずれも竪型連続鋳造装置を用いて、溶解工程及び鋳造工程を行った。
まず、原材料を200kg溶解炉に投入し、溶解温度を780℃で全量、1次溶解した。
実施例では1次溶解工程で得られた1次溶湯を一度、インゴットに鋳造した後、2次溶解工程にてSi量を調整して、Siの含有比率を0.90質量%以上1.9%質量%以下の範囲内に収めつつ、連続鋳造棒を得た。
一方、比較例では一次溶解工程で得られた溶湯を一度、インゴットに鋳造した後、2次溶解工程にてSiの含有比率の調整を行わずに、連続鋳造棒を得た。
【0052】
鋳造条件は以下の通りでああった;
鋳造径:直径φ82mm
鋳造速度:230mm/min
冷却水量:30L/min
鋳造温度:720℃
【0053】
<1次溶解工程後の評価>
原材料溶解して1次溶湯とした後に炉底の残存物(Al-Fe-Mn-Si化合物)の有無を確認した。残存物の確認には鉄製の攪拌工具を用い、炉底の沈降物(残存物)の有無を確認した。攪拌工具に沈降物(残存物)が接触した場合、小石に当たったような感触が得られる。
【0054】
<連続鋳造棒の評価(組織)>
図2(a)を参照して、得られたアルミニウム合金連続鋳造棒10の、鋳造方向における中央近傍の横断面の中心部10aの組織観察片を採取し、走査型電子顕微鏡(SEM)にて組織観察を実施した。組織観察にて組織内に5μm以上のAl-Fe-Mn-Si化合物(表2中の組織内の巨大金属間化合物)が見られたものを×、見られないものを〇と判定した。結果を表2に示す。
【0055】
<連続鋳造棒の評価(引張特性)>
得られたアルミニウム合金連続鋳造棒10について、下記の方法により引張特性を測定した。
引張特性は、ASTM-E8規格に準拠して評価する。すなわち、
図2(b)を参照して、アルミニウム合金連続鋳造棒10の鋳造方向に延在する中心部位10bにおいて、標点間距離25.4mm、平行部直径6.4mmの引張試験片を採取する。得られた試験片に対して、常温(25℃)において2mm/分の速度で引張試験を行なうことによって0.2%耐力を測定した。結果を表2に示す。
【0056】
<鍛造品の評価(引張特性)>
図3に示すように、直径φ82mmのアルミニウム合金連続鋳造棒10をその側面方向から据え込み加工で41mm厚みにまで据え込みを行った50%据込品について、下記条件にてT6処理を施し引張試験を実施した;
・鍛造条件:鍛造温度520℃
・T6処理条件:540℃で3hr(溶体化処理)→焼入れ工程(水温40℃)→180℃で6hr(時効処理工程)。
この引張試験片に対して、常温(25℃)において2mm/分の速度で引張試験を行なうことによって0.2%耐力を測定した。結果を表2に示す。
【0057】
【0058】
表2からわかるように、1次溶解工程後に、実施例ではいずれも、沈降物(Al-Fe-Mn-Si化合物)がなかったのに対して、比較例ではいずれも、沈降物(Al-Fe-Mn-Si化合物)があった。
また、実施例ではいずれも、組織内に5μm以上のAl-Fe-Mn-Si化合物がなかったのに対して、比較例ではいずれも、5μm以上のAl-Fe-Mn-Si化合物があった。
また、実施例のアルミニウム合金連続鋳造棒はいずれも、0.2%耐力が350MPa以上を有していたのに対して、比較例のアルミニウム合金連続鋳造棒はいずれも、0.2%耐力が350MPa未満だった。
また、実施例のアルミニウム合金鍛造品はいずれも、0.2%耐力が370MPa以上を有していたのに対して、比較例のアルミニウム合金連続鍛造品はいずれも、0.2%耐力が350MPa未満だった。