(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167960
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/145 20060101AFI20241128BHJP
【FI】
A61B5/145
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084302
(22)【出願日】2023-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002789
【氏名又は名称】弁理士法人IPX
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 明
(72)【発明者】
【氏名】夏秋 嶺
(72)【発明者】
【氏名】東 里奈
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038KK10
4C038KL05
4C038KM01
4C038KY03
(57)【要約】
【課題】被計測者の身体的な負担が小さい非侵襲的手法にて血中成分を計測できる情報処理装置を提供する。
【解決手段】本発明の一態様によれば、情報処理装置が提供される。この情報処理装置は、プロセッサを備える。プロセッサは、受付ステップと、処理ステップと、を実行するように構成される。受付ステップでは、被計測者の脈波同期電磁波データの入力を受け付ける。処理ステップでは、脈波同期電磁波データの振幅及び位相のうち少なくとも一方に基づく特徴量を推定器に入力することで、被計測者の血中成分を推定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報処理装置であって、
プロセッサを備え、
前記プロセッサは、受付ステップと、処理ステップと、を実行するように構成され、
前記受付ステップでは、被計測者の脈波同期電磁波データの入力を受け付け、
前記処理ステップでは、前記脈波同期電磁波データの振幅及び位相のうち少なくとも一方に基づく特徴量を推定器に入力することで、前記被計測者の血中成分を推定する、もの。
【請求項2】
請求項1に記載の情報処理装置において、
前記脈波同期電磁波データは、複数のプローブ電磁波周波数を用いて計測されたものであり、
前記特徴量は、複数のプローブ電磁波周波数における計測値から抽出される、もの。
【請求項3】
請求項2に記載の情報処理装置において、
前記脈波同期電磁波データは、プローブ電磁波周波数を周期的に切り替えながら計測されたものである、もの。
【請求項4】
請求項1に記載の情報処理装置において、
前記特徴量は、前記脈波同期電磁波データの各波における前記振幅又は前記位相が最大となるピーク点の平均値を含む、もの。
【請求項5】
請求項1に記載の情報処理装置において、
前記特徴量は、前記脈波同期電磁波データの各波における前記振幅又は前記位相の大きさで並べた複数の計測点それぞれの平均値、又は、前記脈波同期電磁波データの各波における一定間隔ごとの計測値それぞれの平均値を含む、もの。
【請求項6】
請求項5に記載の情報処理装置において、
前記処理ステップでは、前記脈波同期電磁波データと同時に計測された脈拍によって前記脈波同期電磁波データの各波の周期変動を補正し、
前記特徴量は、各波における一定間隔ごとの計測値それぞれの平均値を含む、もの。
【請求項7】
請求項1に記載の情報処理装置において、
前記脈波同期電磁波データは、前記被計測者の人体で電磁波を反射させることで、又は前記被計測者の人体に電磁波を透過させることで取得されたものである、もの。
【請求項8】
請求項1に記載の情報処理装置において、
前記推定器は、前記特徴量と紐付けられた血中成分の実測値を教師データとする機械学習によって構築される、もの。
【請求項9】
情報処理方法であって、
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の情報処理装置の各ステップを備える、方法。
【請求項10】
プログラムであって、
コンピュータを、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の情報処理装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置、情報処理方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
血糖値を計測する手法として、下記の文献に開示されるような侵襲式の計測方法が従来用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
侵襲式の計測方法は、痛みが発生するとともに、非衛生的である。そのため、一日に複数回の血糖値の計測が必要となる糖尿病の患者に対し、身体的な負担が非常に大きくなる。
【0005】
本発明では上記事情に鑑み、被計測者の身体的な負担が小さい非侵襲的手法にて血中成分を計測できる情報処理装置を提供することとした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、情報処理装置が提供される。この情報処理装置は、プロセッサを備える。プロセッサは、受付ステップと、処理ステップと、を実行するように構成される。受付ステップでは、被計測者の脈波同期電磁波データの入力を受け付ける。処理ステップでは、脈波同期電磁波データの振幅及び位相のうち少なくとも一方に基づく特徴量を推定器に入力することで、被計測者の血中成分を推定する。
【0007】
このような態様によれば、非侵襲的に計測できる脈波同期電磁波データから、血中成分を高精度で推定できる。すなわち、被計測者の身体的な負担が小さい非侵襲的手法にて血中成分を計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】情報処理装置2のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図3】ユーザ端末3のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図4】情報処理装置2(プロセッサ23)によって実現される機能を示すブロック図である。
【
図5】情報処理システム1によって実行される情報処理の流れを示すアクティビティ図である。
【
図6】脈波同期電磁波データの計測方法の模式図である。
【
図7】脈波同期電磁波データの一例と、プローブ電磁波周波数の周期とを時系列で示すグラフである。
【
図8】脈波同期電磁波データにおける計測点と特徴量の一例とを示す模式図である。
【
図9】脈波同期電磁波データの周期変動の補正の一例を示すグラフである。
【
図10】推定器に含まれる複素ニューラルネットワークの一例である。
【
図11】推定器に含まれる判定チャートの一例である。
【
図12】教師データ取得のための脈波同期電磁波データ及び血糖値の計測方法例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。
【0010】
ところで、本実施形態に登場するソフトウェアを実現するためのプログラムは、コンピュータが読み取り可能な非一時的な記録媒体(Non-Transitory Computer-Readable Medium)として提供されてもよいし、外部のサーバからダウンロード可能に提供されてもよいし、外部のコンピュータで当該プログラムを起動させてクライアント端末でその機能を実現(いわゆるクラウドコンピューティング)するように提供されてもよい。
【0011】
また、本実施形態において「部」とは、例えば、広義の回路によって実施されるハードウェア資源と、これらのハードウェア資源によって具体的に実現されうるソフトウェアの情報処理とを合わせたものも含みうる。また、本実施形態においては様々な情報を取り扱うが、これら情報は、例えば電圧・電流を表す信号値の物理的な値、0又は1で構成される2進数のビット集合体としての信号値の高低、又は量子的な重ね合わせ(いわゆる量子ビット)によって表され、広義の回路上で通信・演算が実行されうる。
【0012】
また、広義の回路とは、回路(Circuit)、回路類(Circuitry)、プロセッサ(Processor)、及びメモリ(Memory)等を少なくとも適当に組み合わせることによって実現される回路である。すなわち、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等を含むものである。
【0013】
1.ハードウェア構成
本節では、ハードウェア構成について説明する。
【0014】
<情報処理システム1>
図1は、情報処理システム1を表す構成図である。情報処理システム1は、情報処理装置2と、ユーザ端末3とを備える。情報処理装置2と、ユーザ端末3とは、電気通信回線を通じて通信可能に構成されている。一実施形態において、情報処理システム1とは、1つ又はそれ以上の装置又は構成要素からなるものである。仮に例えば、情報処理装置2のみからなる場合であれば、情報処理システム1は、情報処理装置2となりうる。以下、これらの構成要素について説明する。
【0015】
<情報処理装置2>
図2は、情報処理装置2のハードウェア構成を示すブロック図である。情報処理装置2は、通信バス20と、通信部21と、記憶部22と、プロセッサ23とを備える。通信部21、記憶部22、及びプロセッサ23は、情報処理装置2の内部において通信バス20を介して電気的に接続されている。
【0016】
<通信部21>
通信部21は、USB、IEEE1394、Thunderbolt(登録商標)、有線LANネットワーク通信等といった有線型の通信手段が好ましいものの、無線LANネットワーク通信、3G/LTE/5G等のモバイル通信、BLUETOOTH(登録商標)通信等を必要に応じて含めてもよい。すなわち、これら複数の通信手段の集合として実施することがより好ましい。すなわち、情報処理装置2は、通信部21及びネットワークを介して、外部から種々の情報を通信してもよい。
【0017】
<記憶部22>
記憶部22は、前述の記載により定義される様々な情報を記憶する。これは、例えば、プロセッサ23によって実行される情報処理装置2に係る種々のプログラム等を記憶するソリッドステートドライブ(Solid State Drive:SSD)等のストレージデバイスとして、あるいは、プログラムの演算に係る一時的に必要な情報(引数、配列等)を記憶するランダムアクセスメモリ(Random Access Memory:RAM)等のメモリとして実施されうる。記憶部22は、プロセッサ23によって実行される情報処理装置2に係る種々のプログラムや変数等を記憶している。
【0018】
<プロセッサ23>
プロセッサ23は、情報処理装置2に関連する全体動作の処理・制御を行う。プロセッサ23は、例えば中央処理装置(Central Processing Unit:CPU)である。プロセッサ23は、記憶部22に記憶された所定のプログラムを読み出すことによって、情報処理装置2に係る種々の機能を実現する。すなわち、記憶部22に記憶されているソフトウェアによる情報処理が、ハードウェアの一例であるプロセッサ23によって具体的に実現されることで、プロセッサ23に含まれる各機能部として実行されうる。これらについては、次節においてさらに詳述する。なお、プロセッサ23は単一であることに限定されず、機能ごとに複数のプロセッサ23を有するように実施してもよい。またそれらの組合せであってもよい。
【0019】
<ユーザ端末3>
図3は、ユーザ端末3のハードウェア構成を示すブロック図である。ユーザ端末3は、通信バス30と、通信部31と、記憶部32と、プロセッサ33と、表示部34と、入力部35と、を備える。通信部31、記憶部32、プロセッサ33、表示部34、及び入力部35は、ユーザ端末3の内部において通信バス30を介して電気的に接続されている。通信部31、記憶部32及びプロセッサ33の説明は、情報処理装置2における各部の説明と同様のため省略する。
【0020】
<表示部34>
表示部34は、ユーザが操作可能なグラフィカルユーザインターフェース(Graphical User Interface:GUI)の画面を表示する。表示部34は、ユーザ端末3の筐体に含まれるものであってもよいし、外付けされるものであってもよい。具体的には、表示部34は、CRTディスプレイ、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、又はプラズマディスプレイ等の表示デバイスとして実施され得る。これらの表示デバイスは、ユーザ端末3の種類に応じて使い分けて実施されることが好ましい。
【0021】
<入力部35>
入力部35は、ユーザによってなされた操作入力を受け付ける。操作入力は、命令信号として通信バス30を介してプロセッサ33に転送される。プロセッサ33は、必要に応じて、転送された命令信号に基づいて所定の制御や演算を実行しうる。入力部35は、ユーザ端末3の筐体に含まれるものであってもよいし、外付けされるものであってもよい。例えば、入力部35は、表示部34と一体となってタッチパネルとして実施されてもよい。入力部35がタッチパネルとして実施される場合、ユーザは、入力部35に対してタップ操作、スワイプ操作等を入力することができる。入力部35としては、タッチパネルに代えて、スイッチボタン、マウス、QWERTYキーボード等が採用可能である。
【0022】
情報処理装置2は、オンプレミス形態であってもよく、クラウド形態であってもよい。クラウド形態の情報処理装置2としては、例えば、SaaS(Software as a Service)、クラウドコンピューティングという形態で、上述の機能や処理を提供してもよい。
【0023】
2.機能構成
本節では、本実施形態の機能構成について説明する。記憶部22に記憶されているソフトウェアによる情報処理がハードウェアの一例であるプロセッサ23によって具体的に実現されることで、プロセッサ23に含まれる各機能部として実行されうる。
【0024】
図4は、情報処理装置2(プロセッサ23)によって実現される機能を示すブロック図である。具体的には、情報処理装置2(プロセッサ23)は、受付部231と、処理部232と、出力部233とを備える。
【0025】
受付部231は、種々の情報を取得するように構成される。例えば、受付部231は、被計測者の脈波同期電磁波データの入力を受け付ける。具体的には、受付部231は、脈波同期電磁波データをユーザ端末3から取得する。
【0026】
処理部232は、種々の情報を処理するように構成される。例えば、処理部232は、脈波同期電磁波データの振幅及び位相に基づく特徴量を推定器に入力することで、被計測者の血中成分(具体的には血糖値)を推定する。推定器は、例えば記憶部22に記憶されている。
【0027】
出力部233は、種々の情報を出力するように構成される。例えば、出力部233は、推定した血糖値をユーザ端末3に出力する。
【0028】
3.情報処理方法
本節では、情報処理装置2の情報処理方法について説明する。この情報処理方法は、情報処理装置2の各部が、各ステップとしてコンピュータにより実行される。
【0029】
具体的には、この情報処理方法は、受付ステップと、処理ステップと、出力ステップとを備える。受付ステップでは、被計測者の脈波同期電磁波データの入力を受け付ける。処理ステップでは、脈波同期電磁波データの振幅及び位相に基づく特徴量を推定器に入力することで、被計測者の血中成分(具体的には血糖値)を推定する。出力ステップでは、推定した血糖値をユーザ端末3に出力する。
【0030】
図5は、情報処理システム1によって実行される情報処理の流れを示すアクティビティ図である。以下では、このアクティビティ図の各アクティビティに沿って、情報処理を説明する。
【0031】
<脈波同期電磁波データの計測>
計測装置10は、脈波同期電磁波データを計測する装置である。計測装置10としては、例えば、電磁波(特にミリ波:MMW)によって脈波に同期した電磁波の振幅及び位相を計測することが可能なVNA(ベクトルネットワークアナライザ)が使用される。この計測装置10は、非侵襲式である。計測装置10は、被計測者の脈波同期電磁波データを計測する(アクティビティA110)。
【0032】
図6は、脈波同期電磁波データの計測方法の模式図である。
図6Aに示すように、脈波同期電磁波データは、人体の表面で反射した反射電磁波S11の検出によって取得される。また、
図6Bに示すように、脈波同期電磁波データは、人体を透過した透過電磁波S21の検出によっても取得できる。透過電磁波S21は、脈波同期電磁波データの位相が透過した人体の部位全体の積分値として得られる。なお、電磁波を照射する部位(つまり脈波同期電磁波データの計測部位)は任意であるが、透過電磁波S21を計測する場合は、耳たぶ、手のひらの水かき等の肉厚の小さい部位で計測を行うことが好ましい。
【0033】
図7は、脈波同期電磁波データの一例と、プローブ電磁波周波数の周期とを時系列で示すグラフである。
図7の上段の波形は、脈波に同期した電磁波の振幅(dB)を示す。
図7の中段の波形は、脈波に同期した電磁波の位相(rad)を示す。
図7の下段は、プローブ電磁波周波数の切り替え手順を示す。
【0034】
本実施形態で用いられる脈波同期電磁波データは、複数のプローブ電磁波周波数を用いて計測されたものである。具体的には、脈波同期電磁波データは、60GHz、70GHz及び80GHzの3種類のプローブ電磁波周波数を周期的に切り替えながら計測されたものである。60-80GHzの周波数は、脈波に同期した電磁波に対する感度が良好で、かつ、肌を透過しやすい。
【0035】
詳細には、
図7に示すように、60GHzでの計測、70GHzでの計測、及び80GHzでの計測を、この順にて一定間隔で繰り返し行う。3つのプローブ電磁波周波数の計測(サンプリング)が1回ずつ実行される1サイクルの長さは、短い方が好ましく、典型的には0.000001~1秒であり、例えば約0.130秒である。
【0036】
また、脈波同期電磁波データの1つの波における計測点の数(つまりサンプリング回数)は、多い方が好ましく、典型的には1~1000000であり、例えば約6である。
【0037】
図7の「位相」の波形中、白点は、60GHzでの計測点、黒点は、70GHzでの計測点、ハッチされた点は、80GHzでの計測点である。なお、
図7の「振幅」では、プローブ電磁波周波数ごとの計測点は図示が省略されている。
図7に示される振幅及び位相の波形は、それぞれ複数のプローブ電磁波周波数における計測値の集合で構成されている。
【0038】
このように、複数のプローブ電磁波周波数で脈波同期電磁波データを構成することで、血液に含まれる種々の成分による影響を抽出することができる。そのため、後述する推定器における推定精度が高められる。また、複数のプローブ電磁波周波数を周期的に切り替えることで、計測タイミングやドリフトによる計測値のバラツキを均すことができる。
【0039】
計測装置10は、上述の手順で取得した脈波同期電磁波データを、ユーザ端末3に送信する(アクティビティA120)。
【0040】
次に、ユーザ端末3は、脈波同期電磁波データを計測装置10から受信する(アクティビティA130)。アクティビティA130では、例えば、次の2段階の情報処理が実行される。(1)プロセッサ33は、通信部31を介して、脈波同期電磁波データを計測装置10から受信する。(2)プロセッサ33は、受信された脈波同期電磁波データを記憶部32に記憶させる。
【0041】
脈波同期電磁波データの受信後、ユーザ端末3のプロセッサ33は、脈波同期電磁波データを情報処理装置2に送信する(アクティビティA140)。アクティビティA140では、例えば、次の2段階の情報処理が実行される。(1)プロセッサ33は、記憶部32に記憶された脈波同期電磁波データを読み出す。(2)プロセッサ33は、通信部31を介して、脈波同期電磁波データを情報処理装置2に送信する。
【0042】
次に、情報処理装置2は、脈波同期電磁波データをユーザ端末3から受信する(アクティビティA150)。つまり、受付部231は、被計測者の脈波同期電磁波データの入力を受け付ける。アクティビティA150では、例えば、次の2段階の情報処理が実行される。(1)プロセッサ23は、通信部21を介して、脈波同期電磁波データをユーザ端末3から受信する。(2)プロセッサ23は、受信された脈波同期電磁波データを記憶部22に記憶させる。
【0043】
<特徴量の抽出>
脈波同期電磁波データの受信後、情報処理装置2は、脈波同期電磁波データの振幅及び位相に基づく特徴量を抽出する(アクティビティA160)。「特徴量」とは、血糖値を推定する推定器への入力値である。本実施形態では、脈波同期電磁波データが複数のプローブ電磁波周波数で計測されているため、特徴量は、複数のプローブ電磁波周波数における計測値から抽出される。
【0044】
本実施形態では、特徴量は、予め定めた手順によって脈波同期電磁波データの複数の計測値から算出された数値の集合である。本実施形態では、特徴量は、脈波同期電磁波データの各波における位相の大きさで並べた複数の計測点それぞれの平均値を含む。
【0045】
図8は、脈波同期電磁波データにおける計測点と特徴量の一例とを示す模式図である。脈波同期電磁波データには、
図8Aに示すように、複数の波W1,W2が含まれる。まず、処理部232は、各波において、第1プローブ電磁波周波数60GHzで計測された複数の計測点を、位相の大きさ順に、第1評価点P11、第2評価点P12、第3評価点P13、第4評価点P14及び第5評価点P15の順に並べる。つまり、処理部232は、複数の計測点を位相の大きさ順にラベリングする。各評価点は、脈波同期電磁波データにおける振幅及び位相を含む複素数で表現される。なお、第1評価点P11は、位相が最大となるピーク点である。なお、評価点の数は、2以上であればよく、5に限定されない。
【0046】
次に、処理部232は、各波それぞれにおいて、第1評価点P11から第5評価点P15それぞれに対し複素差分を算出する。複素差分は、各評価点の数値から、各波における位相が最も小さい計測点の数値を減じたものである。
【0047】
複素差分の算出後、処理部232は、複数の波W1,W2における第1評価点P11から第5評価点P15それぞれの複素差分の平均値を算出する。平均値を算出する各評価点の数(波の数)は、例えば5秒の計測期間に含まれる波の数とされる。
【0048】
処理部232は、この平均値の算出を、第2プローブ電磁波周波数70GHz及び第3プローブ電磁波周波数80GHzで計測された複数の計測点それぞれに対しても行う。その結果、第1プローブ電磁波周波数、第2プローブ電磁波周波数、及び第3プローブ電磁波周波数それぞれにおいて、第1評価点P11から第5評価点P15の平均値が算出される。つまり、3種類のプローブ電磁波周波数×5つの評価点=15の平均値が算出される。
【0049】
第1評価点P11は、上述のように各波の位相のピーク点であるから、特徴量は、脈波同期電磁波データの各波における位相が最大となるピーク点の平均値を含む。これにより、脈波同期電磁波データの計測部位(例えば指)の動き、圧力変化、位置変動、皮膚状態の変化(例えば発汗)などによる雑音の影響が排除される。また、特徴量は、複数のプローブ電磁波周波数における計測値で構成されている。これにより、血液に含まれる種々の成分それぞれの影響(特徴値)を抽出することができる。
【0050】
平均値の算出後、処理部232は、さらにこの平均値を正規化する。この正規化は、各評価点の平均値の振幅(平均振幅)を0から1の範囲にし、各評価点の平均値の位相(平均位相)を0からπの範囲にするものである。例えば、第1評価点P11について、各プローブ電磁波周波数における第1評価点P11の平均値のうち振幅の絶対値の最小値をAmin、最大値をAmaxとし、位相の最小値をPmin、最大値をPmaxとすると、平均振幅の正規化は下記式(1)、平均位相の正規化は下記式(2)で実現される。第2評価点P12以降についても同様である。
【数1】
【数2】
【0051】
以上の正規化によって、
図8Bに示すように、特徴量FVが得られる。特徴量FVは、複素数である複数の評価値V11-V35を含む。V11,V12,V13,V14,V15は、第1プローブ電磁波周波数での第1評価点P11から第5評価点P15それぞれの平均値を正規化した評価値である。V21,V22,V23,V24,V25は、第2プローブ電磁波周波数での第1評価点P11から第5評価点P15それぞれの平均値を正規化した評価値である。V31,V32,V33,V34,V35は、第3プローブ電磁波周波数での第1評価点P11から第5評価点P15それぞれの平均値を正規化した評価値である。
【0052】
このように、複数の計測点での平均値が特徴量に含まれることで、推定器に血液の流量の変化を入力することができるため、血糖値の推定精度が向上する。
【0053】
<特徴量抽出の変形例>
特徴量は、各波における一定間隔ごとの計測値それぞれの平均値を含んでもよい。
図9は、脈波同期電磁波データの周期変動の補正の一例を示すグラフである。この変形例では、まず、
図9Aに示される複数の波を含む生の脈波同期電磁波データに対し、
図9Bに示すように、各波の周期を揃える補正を行う。
【0054】
具体的には、処理部232は、脈波同期電磁波データと同時に計測された脈拍によって脈波同期電磁波データの各波の周期変動を補正する。脈拍は、例えば、パルスオキシメータ等の光学式の計測機器によって計測される。処理部232は、各波と同じタイミングで計測された脈拍の周期を用いて、脈拍データの各波の周期を同じ長さに規格化する。
【0055】
周期変動の補正後、処理部232は、波ごとの一定のタイミング(例えば、1/5周期の点、2/5周期の点・・・)における複数の計測値PT1,PT2,PT3,PT4,PT5それぞれに対し、上述した手順で複素差分を算出する。さらに、処理部232は、複数の波における計測値PT1,PT2,PT3,PT4,PT5それぞれの複素差分の平均値を算出する。なお、平均値を算出する計測値の数は、2以上であればよく、5に限定されない。
【0056】
平均値の算出後、処理部232は、さらにこの平均値を正規化する。この正規化は、各計測値の平均値の振幅(平均振幅)を0から1の範囲にし、各計測値の平均値の位相(平均位相)を0からπの範囲にするものである。正規化は、計測値PT1、PT2,PT3,PT4,PT5それぞれの平均値における、振幅の絶対値及び位相それぞれの最小値及び最大値を用いて行われる。
【0057】
このように周期変動を補正した上で、各波で統一されたタイミングでの計測値の平均値を特徴量とすることで、時間局所的に発生する雑音の影響を排除できる。
【0058】
<推定器への入力>
特徴量の抽出後、情報処理装置2は、特徴量を推定器に入力する(アクティビティA170)。推定器は、複素ニューラルネットワーク(CVNN)と、判定チャートとを含む。推定器は、記憶部22に記憶されている。
図10は、推定器に含まれる複素ニューラルネットワークの一例である。
図11は、推定器に含まれる判定チャートの一例である。
【0059】
図10の複素ニューラルネットワークは、脈波同期電磁波データから抽出した特徴量(数値群)を入力とし、
図11の判定チャートに入力するための推定用複素数を出力とする。特徴量に含まれるデータ(複素数)の数が
図8Bのように15の場合、この複素ニューラルネットワークは、15の複素数の入力に対し、1の推定用複素数を出力する。また、この複素ニューラルネットワークは、1層の隠れ層(中間層)を有する。なお、隠れ層の数は、2層以上であっても良い。
【0060】
図10の複素ニューラルネットワークから出力された推定用複素数の位相は、
図11の判定チャートに入力される。この判定チャートは、推定用複素数の位相と、血糖値との関係を記述したものである。推定器は、例えば、推定用複素数の位相が0の場合、「50mg/dL」を血糖値の推定値として出力し、位相がπの場合、「200mg/dL」を推定された血糖値として出力する。これらの出力値は目的とする血糖値範囲(典型的には10mg/dLから600mg/dL)に合わせて設定することができる。
【0061】
情報処理装置2は、推定器が出力した血糖値を記憶部22に記憶させる(アクティビティA180)。さらに、情報処理装置2は、血糖値をユーザ端末3に送信する(アクティビティA190)。アクティビティA190では、例えば、次の2段階の情報処理が実行される。(1)プロセッサ23は、記憶部22に記憶された血糖値を読み出す。(2)プロセッサ23は、通信部21を介して、血糖値をユーザ端末3に送信する。
【0062】
次に、ユーザ端末3は、血糖値をユーザ端末3から受信する(アクティビティA200)。アクティビティA200では、例えば、次の2段階の情報処理が実行される。(1)プロセッサ33は、通信部31を介して、血糖値を情報処理装置2から受信する。(2)プロセッサ33は、受信された血糖値を記憶部32に記憶させる。
【0063】
血糖値の受信後、ユーザ端末3は、血糖値を表示部34に表示させる(アクティビティA210)。これにより、脈波同期電磁波データから推定された被計測者の血糖値が出力される。
【0064】
<推定器の構築>
処理部232が使用する推定器は、特徴量と紐付けられた血中成分(具体的には血糖値)の実測値を教師データとする機械学習によって構築される。血糖値の実測値は、穿刺等による侵襲式の血糖値計測器を用いて被計測者の血液から直接計測された値である。教師データは、同時に計測された脈波同期電磁波データと血糖値との組み合わせで構成される。
図12は、教師データ取得のための脈波同期電磁波データ及び血糖値の計測方法例である。
【0065】
図12の上段のグラフは、脈波同期電磁波データの計測タイミングを示している。「計測」と記載された枠は、例えば10分間の連続的な計測を示す。また、各計測のインターバルは、例えば15秒である。
図12の例では、3回の計測後に、例えば5分間の食事をとり、その後、6回の計測が行われる。また、10分ごと(つまり1回の計測ごと)に、被計測者における脈波同期電磁波データの計測部位(つまり計測装置10の取り付け位置)が変更される。計測した脈波同期電磁波データは、例えば、1分毎に記録される。
【0066】
図12の下段のグラフは、脈波同期電磁波データと同時に計測した血糖値を表している。横軸は、脈波同期電磁波データと同期した時間軸であり、縦軸は、血糖値の大きさである。血糖値の計測は、例えば5分ごとに実施される。なお、血糖値の計測値は、10分の時間遅れがあるため、
図12の下段のグラフは、10分ずつ時間を前にずらす補正が行われている。
【0067】
このようにして得られた教師データを用いて、
図10の複素ニューラルネットワークを構築する。すなわち、教師データに含まれる脈波同期電磁波データから抽出された特徴量を複素ニューラルネットワークに入力し、出力(推定用複素数)の位相が
図11の判定チャートにおける教師データの血糖値に対応するように、複素ニューラルネットワークの重み計数を調整する。例えば、教師データの血糖値が「125mg/dL」であった場合、この教師データに含まれる脈波同期電磁波データの特徴量を入力した際に、出力の位相が「π/2」となるように学習を行わせる。
【0068】
4.作用
本実施形態の作用をまとめると、次の通りとなる。非侵襲的に計測できる脈波同期電磁波データから、血糖値を高精度で推定できる。すなわち、被計測者の身体的な負担が小さい非侵襲的手法にて血糖値を計測することができる。
【0069】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0070】
5.その他
上記実施形態では、情報処理装置2が種々の記憶・制御を行ったが、情報処理装置2に代えて、複数の外部装置が用いられてもよい。すなわち、種々の情報やプログラムは、ブロックチェーン技術等を用いて複数の外部装置に分散して記憶されてもよい。
【0071】
本実施形態の態様は、情報処理システム1に限定されず、情報処理方法であっても、プログラムであってもよい。情報処理方法は、情報処理装置2の各ステップを備える。プログラムは、コンピュータを、情報処理装置2として機能させる。
【0072】
情報処理システム1は、情報処理装置2とユーザ端末3とが統合されたものであってもよい。つまり、情報処理装置2において、計測装置10からの脈波同期電磁波データの受信及び血糖値の推定結果の出力が行われてもよい。
【0073】
情報処理装置2は、複素ニューラルネットワークが出力する推定用複素数の位相に加えて、又はこの位相に替えて、推定用複素数の振幅を用いて血糖値を推定してもよい。つまり、判定チャートとして、振幅に血糖値を紐づけたもの、又は位相と振幅との組み合わせに血糖値を紐づけたものが用いられてもよい。
【0074】
情報処理装置2は、脈波同期電磁波データの位相のみに基づく特徴量、又は振幅のみに基づく特徴量を用いて、血糖値を推定してもよい。つまり、情報処理装置2は、脈波同期電磁波データの振幅及び位相のうち少なくとも一方に基づく特徴量を推定器に入力すればよい。また、特徴量は、位相に替えて、脈波同期電磁波データの各波における振幅が最大となるピーク点の平均値を含んでもよい。さらに、振幅のみを推定に用いる場合、又は位相のみを推定に用いる場合は、複素ニューラルネットワークに替えて実数ニューラルネットワークを用いることができる。
【0075】
情報処理装置2は、血糖値以外の血中成分の推定を行ってもよい。例えば、情報処理装置2は、血中脂質、血中塩分濃度等を推定するように構成されてもよい。血中脂質の推定により、被計測者の身体的な負担が小さい非侵襲的手法にて、脳血管疾患等のリスクを予測できる。
【0076】
情報処理装置2が用いる推定器は、必ずしもニューラルネットワークを含む必要はない。また、推定器は、必ずしも機械学習で構築される必要はなく、機械学習以外の統計学的手法で構築されてもよい。
【0077】
次に記載の各態様で提供されてもよい。
【0078】
(1)情報処理装置であって、プロセッサを備え、前記プロセッサは、受付ステップと、処理ステップと、を実行するように構成され、前記受付ステップでは、被計測者の脈波同期電磁波データの入力を受け付け、前記処理ステップでは、前記脈波同期電磁波データの振幅及び位相のうち少なくとも一方に基づく特徴量を推定器に入力することで、前記被計測者の血中成分を推定する、もの。
【0079】
(2)上記(1)に記載の情報処理装置において、前記脈波同期電磁波データは、複数のプローブ電磁波周波数を用いて計測されたものであり、前記特徴量は、複数のプローブ電磁波周波数における計測値から抽出される、もの。
【0080】
(3)上記(2)に記載の情報処理装置において、前記脈波同期電磁波データは、プローブ電磁波周波数を周期的に切り替えながら計測されたものである、もの。
【0081】
(4)上記(1)から(3)のいずれか1つに記載の情報処理装置において、前記特徴量は、前記脈波同期電磁波データの各波における前記振幅又は前記位相が最大となるピーク点の平均値を含む、もの。
【0082】
(5)上記(1)から(4)のいずれか1つに記載の情報処理装置において、前記特徴量は、前記脈波同期電磁波データの各波における前記振幅又は前記位相の大きさで並べた複数の計測点それぞれの平均値、又は、前記脈波同期電磁波データの各波における一定間隔ごとの計測値それぞれの平均値を含む、もの。
【0083】
(6)上記(5)に記載の情報処理装置において、前記処理ステップでは、前記脈波同期電磁波データと同時に計測された脈拍によって前記脈波同期電磁波データの各波の周期変動を補正し、前記特徴量は、各波における一定間隔ごとの計測値それぞれの平均値を含む、もの。
【0084】
(7)上記(1)から(6)のいずれか1つに記載の情報処理装置において、前記脈波同期電磁波データは、前記被計測者の人体で電磁波を反射させることで、又は前記被計測者の人体に電磁波を透過させることで取得されたものである、もの。
【0085】
(8)上記(1)から(7)のいずれか1つに記載の情報処理装置において、前記推定器は、前記特徴量と紐付けられた血中成分の実測値を教師データとする機械学習によって構築される、もの。
【0086】
(9)情報処理方法であって、上記(1)から(8)のいずれか1つに記載の情報処理装置の各ステップを備える、方法。
【0087】
(10)プログラムであって、コンピュータを、上記(1)から(8)のいずれか1つに記載の情報処理装置として機能させるためのプログラム。
もちろん、この限りではない。
【0088】
最後に、本開示に係る種々の実施形態を説明したが、これらは、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。当該新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。当該実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0089】
1 :情報処理システム
2 :情報処理装置
3 :ユーザ端末
10 :計測装置
20 :通信バス
21 :通信部
22 :記憶部
23 :プロセッサ
30 :通信バス
31 :通信部
32 :記憶部
33 :プロセッサ
34 :表示部
35 :入力部
231 :受付部
232 :処理部
233 :出力部