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特開2024-16810粘着フィルム及び半導体装置の製造方法
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  • 特開-粘着フィルム及び半導体装置の製造方法 図1
  • 特開-粘着フィルム及び半導体装置の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016810
(43)【公開日】2024-02-07
(54)【発明の名称】粘着フィルム及び半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/38 20180101AFI20240131BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20240131BHJP
   C09J 133/18 20060101ALI20240131BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20240131BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J201/00
C09J133/18
H01L21/78 M
H01L21/78 W
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023114100
(22)【出願日】2023-07-11
(31)【優先権主張番号】P 2022119099
(32)【優先日】2022-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 徹弥
(72)【発明者】
【氏名】藪下 諭
【テーマコード(参考)】
4J004
4J040
5F063
【Fターム(参考)】
4J004AA10
4J004AA14
4J004AB01
4J004BA02
4J004CA05
4J004CB03
4J004CC02
4J004DB02
4J004EA06
4J004FA05
4J040DF021
4J040DF022
4J040DF031
4J040DF061
4J040DF081
4J040EF282
4J040FA292
4J040JB09
4J040KA16
4J040KA23
4J040KA31
4J040LA01
4J040NA20
4J040PA20
4J040PA42
5F063AA16
5F063AA18
5F063BA17
5F063BA48
5F063DD67
5F063DD85
5F063EE07
5F063EE11
5F063EE22
5F063EE27
5F063EE73
(57)【要約】
【課題】貼付しているときの粘着力を保持しつつ伸長したときには剥離を容易にすることが可能な粘着フィルム、及びこの粘着フィルムを用いる半導体装置の製造方法の提供。
【解決手段】粘着層と基材層を含む粘着フィルムであり、前記粘着フィルムを200%伸長する前の前記粘着層の表面粗さ(Sa)の値Sに対する、200%伸長したときの前記粘着層の表面粗さ(Sa)の値S’の比S’/Sが11以上である、粘着フィルム。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着層と基材層を含む粘着フィルムであり、前記粘着フィルムを200%伸長する前の前記粘着層の表面粗さ(Sa)の値Sに対する、200%伸長したときの前記粘着層の表面粗さ(Sa)の値S’の比S’/Sが11以上である、粘着フィルム。
【請求項2】
前記値S’が、0.15μm~10.0μmである、請求項1に記載の粘着フィルム。
【請求項3】
前記粘着フィルムを200%伸長する前の前記粘着層のタック値Aに対する、200%伸長したときの前記粘着層のタック値A’の比A’/Aが0.5以下である、請求項1に記載の粘着フィルム。
【請求項4】
前記タック値Aが、30gf~500gfである、請求項3に記載の粘着フィルム。
【請求項5】
前記粘着層が2種以上のポリマーを含み、少なくとも2種の前記ポリマーのSP値の差が0.1以上である、請求項1に記載の粘着フィルム。
【請求項6】
前記粘着層において最も含有量の多いポリマーの含有率が、前記粘着層に含まれるポリマーの総含有量に対して90質量%未満である、請求項5に記載の粘着フィルム。
【請求項7】
SP値の差が0.1以上である少なくとも2種の前記ポリマーにおいて、引張弾性率の比が1.20以上である、請求項5に記載の粘着フィルム。
【請求項8】
前記ポリマーの少なくとも1種はニトリル基含有(メタ)アクリルポリマーである、請求項5に記載の粘着フィルム。
【請求項9】
粘着層と基材層を含む粘着フィルムであり、前記粘着フィルムを200%伸長する前の前記粘着層のタック値Aに対する、200%伸長したときの前記粘着層のタック値A’の比A’/Aが0.5以下である、粘着フィルム。
【請求項10】
前記タック値Aが、30gf~500gfである、請求項9に記載の粘着フィルム。
【請求項11】
複数の半導体チップが一の面上に配置される請求項1~請求項10のいずれか1項に記載の粘着フィルムを伸長することにより、隣接する二つの前記半導体チップの間隔を拡大することを含む、半導体装置の製造方法。
【請求項12】
前記伸長を行った後で、前記半導体チップを前記粘着フィルムから剥離することを含む、請求項11に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項13】
前記伸長を行った後、且つ前記半導体チップの剥離を行う前に、前記半導体チップに機能層を設けることを含む、請求項12に記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着フィルム及び半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
壁、板等に物品を一時的に貼り付けて剥がすために粘着性テープが用いられている。前記用途に用いられる粘着フィルムは、貼付の際には十分な粘着力を有し、剥離の際には糊残りなく、且つ容易に剥離できることが望まれる。しかしながら貼付時の粘着力と剥離時の剥がしやすさは相反する特徴である。
【0003】
特許文献1に記載の伸長剥離テープは、粘着剤層にアクリルビーズを含有させている。この伸長剥離テープを伸長すると、厚みが薄くなった粘着剤層の表面にアクリルビーズが表出して凹凸が形成するため、被粘着面と粘着剤層との間の接触面積が減り、伸長剥離テープを容易に剥がすことができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-339353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献1に記載の伸長剥離テープのように粒子を添加した場合、粒子の存在によって非伸長時の粘着力が低下しやすく、貼付しているときの粘着力を十分に保持することが難しい。
【0006】
そこで、本開示の一態様は、貼付しているときの粘着力を保持しつつ伸長したときには剥離を容易にすることが可能な粘着フィルム、及びこの粘着フィルムを用いる半導体装置の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を提供するための具体的な手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1> 粘着層と基材層を含む粘着フィルムであり、前記粘着フィルムを200%伸長する前の前記粘着層の表面粗さ(Sa)の値Sに対する、200%伸長したときの前記粘着層の表面粗さ(Sa)の値S’の比S’/Sが11以上である、粘着フィルム。
<2> 前記値S’が、0.15μm~10.0μmである、<1>に記載の粘着フィルム。
<3> 前記粘着フィルムを200%伸長する前の前記粘着層のタック値Aに対する、200%伸長したときの前記粘着層のタック値A’の比A’/Aが0.5以下である、<1>又は<2>に記載の粘着フィルム。
<4> 前記タック値Aが、30gf~500gfである、<3>に記載の粘着フィルム。
<5> 前記粘着層が2種以上のポリマーを含み、少なくとも2種の前記ポリマーのSP値の差が0.1以上である、<1>~<4>に記載の粘着フィルム。
<6> 前記粘着層において最も含有量の多いポリマーの含有率が、前記粘着層に含まれるポリマーの総含有量に対して90質量%未満である、<5>に記載の粘着フィルム。
<7> SP値の差が0.1以上である少なくとも2種の前記ポリマーにおいて、引張弾性率の比が1.20以上である、<5>又は<6>に記載の粘着フィルム。
<8> 前記ポリマーの少なくとも1種はニトリル基含有(メタ)アクリルポリマーであ
る、<5>~<7>のいずれか1項に記載の粘着フィルム。
<9> 粘着層と基材層を含む粘着フィルムであり、前記粘着フィルムを200%伸長する前の前記粘着層のタック値Aに対する、200%伸長したときの前記粘着層のタック値A’の比A’/Aが0.5以下である、粘着フィルム。
<10> 前記タック値Aが、30gf~500gfである、<9>に記載の粘着フィルム。
<11> 複数の半導体チップが一の面上に配置される<1>~<10>のいずれか1項に記載の粘着フィルムを伸長することにより、隣接する二つの前記半導体チップの間隔を拡大することを含む、半導体装置の製造方法。
<12> 前記伸長を行った後で、前記半導体チップを前記粘着フィルムから剥離することを含む、<11>に記載の半導体装置の製造方法。
<13> 前記伸長を行った後、且つ前記半導体チップの剥離を行う前に、前記半導体チップに機能層を設けることを含む、<12>に記載の半導体装置の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、貼付しているときの粘着力を保持しつつ伸長したときには剥離を容易にすることが可能な粘着フィルム、及びこの粘着フィルムを用いる半導体装置の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】粘着フィルムの構成を示す概略断面図である。
図2】実施例2の粘着フィルムの粘着層の表面をレーザー顕微鏡で観察した写真である。(A)は200%伸長する前、(B)は200%伸長時である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本開示を制限するものではない。
【0011】
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、各成分には、該当する物質が複数種含まれていてもよい。組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本開示において「層」との語には、当該層が存在する領域を観察したときに、当該領域の全体に形成されている場合に加え、当該領域の一部にのみ形成されている場合も含まれる。
【0012】
本開示において粘着フィルム又は粘着フィルムを構成する各層の厚みは、公知の手法で測定できる。例えば、ダイヤルゲージ等を用いて測定してもよく、粘着フィルムの断面画
像から測定してもよい。あるいは、層を構成する材料を溶剤等を用いて除去し、除去前後の質量、材料の密度、層の面積等から算出してもよい。層の厚みが一定でない場合は、任意の5点で測定した値の算術平均値を層の厚みとする。
本開示において「(メタ)アクリル」はアクリル及びメタクリルのいずれか一方又は両方を意味し、「(メタ)アクリレート」はアクリレート及びメタクリレートのいずれか一方又は両方を意味する。
本開示において図面を参照して実施形態を説明する場合、当該実施形態の構成は図面に示された構成に限定されない。また、各図における部材の大きさは概念的なものであり、部材間の大きさの相対的な関係はこれに限定されない。
【0013】
<粘着フィルム>
本開示の一実施形態における粘着フィルムは、粘着層と基材層を含み、前記粘着フィルムを200%伸長する前の前記粘着層の表面粗さ(Sa)の値Sに対する、200%伸長したときの前記粘着層の表面粗さ(Sa)の値S’の比S’/Sが11以上である。
【0014】
上記構成を採る本開示の粘着フィルムは、貼付しているときの粘着力を保持しつつ伸長したときには剥離を容易にすることが可能となる。特許文献1に記載の伸長剥離テープのように、粘着剤層に粒子を含有させる場合、特に粒子が無機粒子の場合には、伸長しにくい傾向にある。また、粘着剤層に粒子を含有させる場合、貼付しているときの粘着力を十分に保持することが難しい。
【0015】
本開示において粘着フィルムの200%伸長は、以下の方法で行う。
粘着フィルムを伸長する前の粘着層の表面に2点印を付け、2点間の距離が2倍になるまで伸長する。伸長する際は、前記2点をそれぞれ治具で挟み、治具を互いに反する方向に動かし粘着フィルムを伸長させる。2点間の距離は、例えば10mmとすることができる。
【0016】
本開示において、表面粗さ(Sa)の値Sは、以下の方法で測定される。
粘着層側が上面となるようにレーザー顕微鏡に粘着フィルムを配置し、倍率100倍で画像処理を行い、算術平均高さSaを得て値Sとする。
【0017】
本開示において、表面粗さ(Sa)の値S’は、以下の方法で測定される。
粘着フィルムを上述の方法で200%伸長させた状態で、一辺の長さが50mmの枠板に張り付け、この枠板をレーザー顕微鏡に配置し、倍率100倍で画像処理を行い、算術平均高さSaを得て値S’とする。
【0018】
値S及び値S’の測定に用いるレーザー顕微鏡としては、例えば、オリンパス株式会社製「レーザー顕微鏡OLS4100」を用いることができる。
【0019】
比S’/Sは、12以上であることが好ましく、14以上であることがより好ましい。比S’/Sの上限値は特に制限はなく、25以下であってもよく、20以下であってもよい。
【0020】
また、本開示の他の一実施形態における粘着フィルムは、粘着層と基材層を含み、前記粘着フィルムを200%伸長する前の前記粘着層のタック値Aに対する、200%伸長したときの前記粘着層のタック値A’の比A’/Aが0.5以下であってもよく、0.4以下であってもよい。比A’/Aの下限値は特に制限はなく、0.1以上であってもよく、0.2以上であってもよい。
【0021】
本開示において、タック値Aは以下の方法で測定される。
粘着フィルムを幅20mm、長さ100mmの大きさに切断し、タック試験機の測定部に、粘着層が上になるように設置する。23±5℃にて、SUS製Φ5mmプローブを粘着層に接触させ、プローブ下降速度120mm/分、荷重50gf、加圧時間1秒、プローブ上昇速度600mm/分の条件で、プローブの下降、加圧及び上昇を実施し、得られた値をタック値Aとする。
【0022】
本開示において、タック値A’は、以下の方法で測定される。
粘着フィルムを上述の方法で200%伸長させた状態で、粘着フィルムの粘着層側に直径10mmの貫通穴を有する枠板を押し当てて貼り付ける。粘着層が測定面側になるように粘着フィルムが貼付された枠板をタック試験機に設置する。前述の貫通穴を通るようにプローブを配置して、プローブの下降、加圧及び上昇を実施し、得られた値をタック値A’とする。タック値A’の測定条件は、タック値Aの測定条件と同様である。
【0023】
タック値A及びタック値A’を測定するタック試験機としては、例えば、株式会社レスカ製「プローブタック試験機TAC-II」を用いることができる。
【0024】
貼付しているときの粘着力の保持性の観点から、表面粗さ(Sa)の値Sは7.0μm以下であることが好ましく、6.0μm以下であることがより好ましく、5.0μm以下であることがさらに好ましい。表面粗さ(Sa)の値Sの下限値は特に制限はなく、0.001μm以上であってもよく、0.005μm以上であってもよく、0.010μm以上であってもよい。
【0025】
伸長したときの剥離の容易性の観点から、表面粗さ(Sa)の値S’は、0.15μm以上であることが好ましく、0.20μm以上であることがより好ましく、0.3μm以上であることがさらに好ましい。表面粗さ(Sa)の値S’の上限値は特に制限はなく、10.0μm以下であってもよく、7.0μm以下であってもよく、5.0μm以下であってもよい。
【0026】
貼付しているときの粘着力の保持性の観点から、タック値Aは30gf以上であることが好ましく、50gf以上であることがより好ましく、70gf以上であることがさらに好ましい。タック値Aの上限値は特に制限はなく、500gf以下であってもよく、400gf以下であってもよく、300gf以下であってもよい。
【0027】
伸長したときの剥離の容易性の観点から、タック値A’は450gf以下であることが好ましく、350gf以下であることがより好ましく、250gf以下であることがさらに好ましい。タック値Aの上限値は特に制限はなく、5gf以上であってもよく、10gf以上であってもよく、17gf以上であってもよい。
【0028】
本開示の粘着フィルムの一例として、図1に粘着フィルムの断面構成を概略的に示す。図1に示すように、粘着フィルム30は、基材層10と粘着層20を含む。粘着フィルム30はその他の層を有していてもよい。
【0029】
[粘着層]
粘着層は、比S’/Sが11以上であるか、又は比A’/Aが0.5以下であれば、特に限定されない。好ましい態様の例として、例えば、粘着層が2種以上のポリマーを含み、少なくとも2種の前記ポリマーのSP値の差が0.1以上であることが挙げられる。
少なくとも2種の前記ポリマーのSP値の差が0.1以上であると、これらのポリマーどうしは相溶性が低いため、粘着層内に相分離構造が形成される傾向にある。相分離構造を有する粘着層を伸長すると、粘着層の伸び量が部分的に不均一となり、表面に凹凸が現出しやすい。
【0030】
粘着層に含まれる少なくとも2種のポリマーは、SP値の差が0.1以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましく、0.5以上であることがさらに好ましい。前記SP値の差の上限値は特に制限されないが、2以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましく、1以下であることがさらに好ましい。本開示において、SP値はFedors法により求めた値である。
【0031】
ポリマーの種類は特に制限されず、粘着層の粘着性、耐熱性等を考慮して選択することが好ましい。具体的には、ポリマーは、(メタ)アクリルポリマー、シリコーン、ウレタンポリマー等が挙げられる。ポリマーの少なくとも1種は(メタ)アクリルポリマーであることが好ましく、2種以上の(メタ)アクリルポリマーを用いることがより好ましい。
【0032】
少なくとも1種のポリマーは、カルボン酸基、水酸基、アミド基、ニトリル基等の官能基を有することが好ましく、ニトリル基含有(メタ)アクリルポリマーであることがより好ましい。
【0033】
(メタ)アクリルポリマーは、単独重合体であっても共重合体であってもよく、単独重合体と共重合体とを併用してもよい。(メタ)アクリルポリマーの少なくとも1種は共重合体であることが好ましい。
【0034】
共重合体は、ガラス転移温度(Tg)が比較的低い(例えば、-20℃以下)モノマーに由来する構成単位を含むことが好ましい。なお、Tgが比較的低いモノマーとは、そのモノマーで単独重合体を合成したときのガラス転移温度が比較的低いモノマーをいう。Tgが20℃以下のモノマーAとしては、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸エチル、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。共重合体は、モノマーAに由来する構成単位を1種単独で含んでいても、2種以上の組み合わせで含んでいてもよい。
【0035】
共重合体がモノマーAに由来する構成単位を含む場合、共重合体におけるモノマーAに由来する構成単位の総含有率は、60質量%超であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、75質量%以上であることがさらに好ましい。また、当該総含有率は、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、88.5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0036】
少なくとも1種のポリマーは、官能基を有するモノマーBに由来する構成単位を含む共重合体であることが好ましい。官能基としては、カルボン酸基、水酸基、アミド基、ニトリル基等が挙げられる。官能基は、架橋性官能基であっても、非架橋性官能基であってもよい。架橋性官能基としては、カルボン酸基、水酸基、アミド基等が挙げられ、非架橋性官能基としてはニトリル基等が挙げられる。共重合体は、モノマーBに由来する構成単位を、1種単独で含んでいても、2種以上の組み合わせで含んでいてもよい。少なくとも1種のポリマーは、ニトリル基含有(メタ)アクリルポリマーであることがより好ましい。
【0037】
架橋性官能基を有する官能基を有するモノマーBに由来する構成単位を含む共重合体は、架橋型ポリマーであってもよい。架橋型ポリマーは、架橋剤を使用して架橋させることができる。架橋型ポリマーは、架橋型(メタ)アクリルポリマーであることが好ましく、架橋型(メタ)アクリル共重合体であることが好ましい。
【0038】
架橋性官能基を有するモノマーB1としては、(メタ)アクリル酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。非架橋性官能基を有するモノマーB2としては、(メタ)アクリロニ
トリル等が挙げられる。
【0039】
共重合体がモノマーB1に由来する構成単位を含む場合、共重合体におけるモノマーB1に由来する構成単位の総含有率は、0.5質量%以上であることが好ましく、4.0質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましい。また、当該総含有率は、30質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。
【0040】
少なくとも1種のポリマーは、モノマーB2に由来する構成単位の総含有率が、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましい。また、当該含有率は、40質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。
【0041】
ポリマーのうち少なくとも1種は、ニトリル基を有するモノマーに由来する構成単位を含む共重合体であることが好ましく、(メタ)アクリロニトリルモノマーに由来する構成単位を含む共重合体であることがより好ましい。併用するポリマーは、ニトリル基を有するモノマーに由来する構成単位を含まない単独重合体であってもよく、ニトリル基を有するモノマーに由来する構成単位を含まない共重合体であってもよい。
【0042】
ニトリル基を有するモノマーに由来する構成単位を含む共重合体における、ニトリル基を有するモノマーに由来する構成単位の含有率は、10質量%以上であることが好ましく、12質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることがさらに好ましい。また、当該含有率は、25質量%以下であることが好ましく、24質量%以下であることがより好ましく、23質量%以下であることがさらに好ましい。
【0043】
ニトリル基を有するモノマーに由来する構成単位を含む共重合体における、モノマーAに由来する構成単位の総含有率は、60質量%以上であることが好ましく、65質量%以上であることがより好ましく、75質量%以上であることがさらに好ましい。また、当該総含有率は、95質量%以下であることが好ましく、93質量%以下であることがより好ましく、90質量%以下であることがさらに好ましい。
【0044】
ニトリル基を有するモノマーに由来する構成単位を含む共重合体における、モノマーB1に由来する構成単位の総含有率は、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、2質量%以上であることがさらに好ましい。また、当該総含有率は、6質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、4.5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0045】
ニトリル基を有するモノマーに由来する構成単位を含まない共重合体における、モノマーAに由来する構成単位の総含有率は、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。また、当該総含有率は、90質量%以下であることが好ましく、85質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることがさらに好ましい。
【0046】
ニトリル基を有するモノマーに由来する構成単位を含まない共重合体における、モノマーB1に由来する構成単位の総含有率は、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましい。また、当該総含有率は、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。
【0047】
ポリマーの少なくとも2種において、(メタ)アクリロニトリルモノマーに由来する構成単位の占める割合の差は、10質量%以上であることが好ましく、11質量%以上であることがより好ましく、12質量%以上であることがさらに好ましい。(メタ)アクリロニトリルモノマーに由来する構成単位の占める割合の差の上限値は特に制限されないが、15質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。
【0048】
2種の(メタ)アクリルポリマーの好ましい組み合わせとしては、例えば下記(I)及び(II)が挙げられ、伸長前の粘着性を保持する観点からは、(II)が好ましい。
(I)ニトリル基含有(メタ)アクリルポリマーと、ニトリル基を含まない(メタ)アクリルポリマーとの組み合わせ
(II)2種ともニトリル基含有(メタ)アクリルポリマーであり、(メタ)アクリロニトリルモノマーに由来する構成単位の含有率が互いに異なる。
【0049】
共重合体は、モノマーA及びモノマーB以外のその他のモノマーに由来する構成単位を含んでもよい。その他のモノマーとしては、Tgが20℃超のモノマーが挙げられ、アクリル酸1-アダマンチル、メタクリル酸1-アダマンチル等が挙げられる。共重合体におけるその他のモノマーに由来する構成単位の総含有率は、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0050】
粘着フィルムを剥離した後の被着体への粘着層の付着(糊残り)を抑制する観点からは、ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、例えば1×10以上であってよく、3×10以上であってよい。また、粘着性を確保する観点からは、Mwは1.1×10以下であってよく、1×10以下であってよい。
粘着フィルムを剥離した後の被着体への粘着層の付着(糊残り)を抑制する観点からは、ポリマーの数平均分子量(Mn)は、10×10以上であってよく、12×10以上であってよい。また、粘着性を確保する観点からは、Mnは20×10以下であってよく、15×10以下であってよい。
ポリマーのMn及びMwは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)を用いた通常の方法により測定される。
【0051】
粘着層において最も含有量の多いポリマーの含有率は、ポリマーの総含有量に対して90質量%未満であることが好ましく、88質量%以下であることがより好ましく、85質量%以下であることがさらに好ましい。最も含有量の多いポリマーの含有率が90質量%以下であると、粘着フィルムの表面に凹凸が形成されやすい傾向にある。
【0052】
SP値の差が0.1以上である少なくとも2種の前記ポリマーにおいて、引張弾性率の比が1.20以上であることが好ましく、1.25以上であることがより好ましく、3以上であることがさらに好ましく、6以上であることが特に好ましい。当該引張弾性率の比が1.20以上であると、粘着フィルムの表面に凹凸が形成されやすい傾向にある。当該引張弾性率の比の上限値は特に制限されず、7以下であってもよく、9以下であってもよく、12以下であってもよい。
なお、本開示において、引張弾性率の比は、引張弾性率の低いポリマーを分母、引張弾性率の高いポリマーを分子とし、それぞれの引張弾性率の値を分母及び分子に導入して求める。
【0053】
ポリマーの引張弾性率の測定方法は以下のとおりである。
測定対象のポリマー100質量部と、架橋剤(東ソー株式会社製、コロネートL)2.2質量部(固形分換算)とをメチルエチルケトンに溶解し、測定組成物を調製する。片面が離型処理された厚み38μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの離型
処理された側の面に、乾燥後の厚みが20μmとなるように前記測定組成物を塗工し、乾燥して粘着層を形成する。次いで、ポリエチレンテレフタレートフィルムを粘着層から剥離し、長さ30mm、直径約1mmの試験片を作製する。引張試験機を用いて各試験片を引っ張り、荷重に対する試験片の伸びを測定する。次いで、測定値から荷重を横軸、伸びを縦軸としたグラフを作成し、荷重-伸び曲線の立ち上がり部の接線から各試験片の引張弾性率を算出する。
【0054】
ポリマーが架橋型ポリマーの場合には、粘着層は架橋剤を含むことが好ましい。本開示では、粘着層に含まれる架橋剤の一部又は全部が架橋構造を形成している状態も「粘着層が架橋剤を含む状態」と称する。
架橋剤の種類としては特に制限されず、粘着剤の種類等に応じて選択できる。具体的には、イソシアネート架橋剤、メラミン架橋剤、過酸化物架橋剤、金属アルコキシド架橋剤、金属キレート架橋剤、金属塩架橋剤、カルボジイミド架橋剤、オキサゾリン架橋剤、アジリジン架橋剤、アミン架橋剤等が挙げられる。
上記架橋剤の中でも安定した粘着特性の観点からは、イソシアネート架橋剤が好ましい。粘着層に含まれる架橋剤は、1種単独でも2種以上の組み合わせであってもよい。
【0055】
イソシアネート架橋剤は特に制限されず、公知のイソシアネート基を有する化合物(イソシアネート化合物)から選択できる。反応性の観点からは、2官能イソシアネート化合物(2個のイソシアネート基を有する化合物)及び多官能イソシアネート(3個以上のイソシアネート基を有する化合物)が好ましく、多官能イソシアネート化合物がより好ましい。
【0056】
2官能イソシアネート化合物としては、脂肪族ジイソシアネート化合物、脂環式ジイソシアネート化合物、芳香族ジイソシアネート化合物、これらのジイソシアネート化合物のカルボジイミド変性物、これらのジイソシアネート化合物を分子中に有する高分子化合物等が挙げられる。
【0057】
脂肪族ジイソシアネート化合物としては、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHDI)、リジンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアナートメチル(NBDI)等が挙げられる。
【0058】
脂環式ジイソシアネート化合物としては、トランスシクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、H6-XDI(水添XDI)、H12-MDI(水添MDI)等が挙げられる。
【0059】
芳香族ジイソシアネート化合物としては、ダイマー酸ジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート(2,4-TDI)、2,6-トリレンジイソシアネート(2,6-TDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(4 ,4’-MDI)、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(2,4’-MDI)、1,4-フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリデンジイソシアネート(TMXDI)、トリジンジイソシアネート(TODI)、1,5-ナフタレンジイソシアネート(NDI)等が挙げられる。
【0060】
多官能イソシアネート化合物としては、2官能イソシアネート化合物の三量体、2官能イソシアネート化合物の三量体を分子中に有する高分子化合物などが挙げられる。
2官能イソシアネート化合物の三量体としては、2官能イソシアネート化合物のイソシアヌレート体、2官能イソシアネート化合物のアダクト体、2官能イソシアネート化合物のビウレット体等が挙げられる。
【0061】
イソシアネート架橋剤の中でも、脂肪族ジイソシアネート化合物の三量体が好ましく、脂肪族ジイソシアネート化合物のアダクト体がより好ましく、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートのアダクト体がさらに好ましく、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン(TMP)アダクト体が特に好ましい。
【0062】
粘着層に含まれる架橋剤の含有量は、例えば、粘着層に含まれる固形分100質量部に対して0.1質量部~10質量部であってもよく、0.5質量部~5質量部であってもよく、1質量部~3質量部であってもよい。
【0063】
必要に応じ、粘着層は可塑剤を含んでもよい。可塑剤の種類は特に制限されず、粘着剤の種類等に応じて選択できる。具体的には、アジピン酸ポリエステル等のポリエステル可塑剤、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)等のフタル酸エステル、テレフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)等のテレフタル酸エステル、アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)等のアジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、リン酸エステル、クエン酸エステル、エポキシ化植物油等が挙げられる。
粘着層に含まれる可塑剤は、1種単独でも2種以上の組み合わせでもよい。
【0064】
ポリエステル可塑剤の分子量は特に制限されず、例えば、500~4,000の範囲内であってもよい。
粘着フィルムを剥離した後の被着体への粘着層の付着(糊残り)を抑制する観点からは、ポリエステル可塑剤の分子量は1,500~4,000であることが好ましい。
【0065】
粘着層に含まれる可塑剤の含有量は、例えば、粘着層に含まれる粘着剤の固形分100質量部に対して5質量部~30質量部であってもよく、10質量部~25質量部であってもよく、15質量部~22質量部であってもよい。
【0066】
必要に応じ、粘着層は粘着付与剤を含んでもよい。粘着付与剤の種類は特に制限されず、粘着剤の種類等に応じて選択できる。具体的には、石油樹脂、テルペンフェノール樹脂、テルペン樹脂、脂環族飽和水素樹脂、β-ピネン重合体、水素添加ロジン、及び水素添加ロジンエステル等が挙げられる。
粘着層が粘着付与剤を含むことで、伸長前の粘着力が向上し粘着保持性により優れる傾向にある。
【0067】
必要に応じ、粘着層は界面活性剤、フィラー等を含んでもよい。粘着層中のフィラーの含有量は、伸長前の粘着力の低下を抑える観点から、粘着層に含まれる固形分に対して30質量%以下であることが好ましく、質量20%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることがさらに好ましい。
【0068】
粘着層の厚さは、被着体に対する十分な粘着力を確保する観点からは、1μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることがさらに好ましい。経済性の観点からは、粘着層の厚さは100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることがさらに好ましい。
【0069】
粘着フィルムを伸長して表面に現出した凹凸の凹部と凸部とにおいて、ポリマーの成分比率が異なることが好ましい。一例として、凹部と凸部とにおいて、ニトリル基の含有量が異なることが好ましく、凸部の方が凹部よりもニトリル基の含有量が多いことがより好ましい。
【0070】
ぞれぞれの領域及び凹凸部におけるポリマーの成分比率は、顕微ラマン分光法を用いて粘着層の表面を構成する成分の分布を分析することで測定される。例えば、粘着層を構成する複数の成分について、分析対象の成分に由来するピークを予め同定しておき、その信号強度に基づいて、その成分の分布量を2次元画像化することで、各成分の分布を分析する。
【0071】
[基材層]
基材層としては特に限定されず、当該技術分野で使用されている基材層から適宜選択することができる。良好な伸長性を得る観点からは、基材層は樹脂を含むことが好ましく、熱可塑性樹脂を含むことがより好ましい。
熱可塑性樹脂としては、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、熱可塑性エラストマー等が挙げられる。伸長性の観点からは、ポリ塩化ビニルが好ましい。
【0072】
基材層に含まれる可塑剤の含有量は、例えば、粘着層に含まれる樹脂100質量部に対して10質量部~55質量部であってもよく、20質量部~50質量部であってもよく、25質量部~45質量部であってもよい。
【0073】
貼付の際の視認性向上の観点から、基材層は着色剤を含んでもよい。
着色剤としては染料、顔料等が挙げられ、耐久性の観点からは顔料が好ましい。着色剤として具体的には、アルカリブルー、ジスアゾエロー、フタロシアニンブルー、紺青、群青、コバルト青等が挙げられる。
【0074】
着色剤が粒子状である場合、基材層からの着色剤の脱落を抑制する観点から、着色剤の最大粒子径は伸長したときの基材層の厚さより小さいことが好ましい。例えば、着色剤の最大粒子径は25μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。
本開示において着色剤の「最大粒子径」は、着色剤の粒子(好ましくは100個以上)の投影像から得られる個々の粒子の最大径(投影像の径が最長となるときの長さ)の最大値とする。
【0075】
基材層に含まれる着色剤の含有率は、例えば、基材層の固形分全体に対して0.1質量%~2.0質量%であることが好ましく、0.2質量%~1.5質量%であることがより好ましく、0.3質量%~1.0質量%であることがさらに好ましい。
【0076】
基材層の厚さは、十分な強度を確保する観点からは10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、50μm以上であることがさらに好ましい。十分な伸長性を確保する観点からは、基材層の厚さは500μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましく、150μm以下であることがさらに好ましい。
【0077】
[その他の構成]
必要に応じ、粘着層の外表面(基材層に対向する側と逆側の面)にはセパレータ等が配置されていてもよい。
【0078】
<粘着フィルムの製造方法>
本開示の粘着フィルムは、公知の方法により製造することができる。例えば、粘着層形成用組成物を基材層に付与し、乾燥することにより、粘着フィルムを製造することができる。あるいは、離型処理されたPETフィルムに粘着層形成用組成物を付与し、乾燥して粘着層を形成した後、この粘着層を基材層に移し、そしてPETフィルムを剥離して、粘
着層と基材層とが積層された粘着フィルムを製造することができる。
粘着層形成用組成物は、上述の少なくとも2種のポリマーを含み、さらにその他の樹脂成分、及び所望により添加されるその他の成分を含んでいてもよい。
【0079】
[粘着層形成用組成物の調製]
粘着層形成用組成物の調製方法は特に制限されず、公知の組成物調製方法を使用することができる。粘着層形成用組成物の調製に使用する溶媒は特に限定されず、ポリマーを溶解可能である有機溶媒であることが好ましい。有機溶媒としては、トルエン、メチルエチルケトン、酢酸エチル等が挙げられる。
【0080】
[付与及び乾燥]
粘着層形成用組成物を基材層に付与する方法は特に限定されず、ロールコート法、バーコート、キスコート等の公知の塗布方法を使用することができる。粘着層形成用組成物の付与量は、乾燥後に形成される組成物層の厚みが目的の粘着層の厚みに近くなるよう適宜調整することが好ましい。
付与された粘着層形成用組成物を乾燥する方法は特に限定されず、公知の乾燥方法を使用することができる。例えば、50℃~150℃で0.1分~60分乾燥させる方法でもよい。
【0081】
<粘着フィルムの用途>
本開示の粘着フィルムは、壁、板等に物品を一時的に貼り付けて剥がすために用いることができる。また、本開示の粘着フィルムは半導体チップ、セラミックコンデンサ等の電子部品の製造方法でも好適に使用することができる。
【0082】
具体的には、粘着フィルム上に複数の半導体チップを配置した後、粘着フィルムを伸長して隣接する二つの前記半導体チップの間隔を拡大する工程で使用し、チップの加工又はピックアップ工程で使用することもできる。
【0083】
本開示の一実施形態における粘着フィルムは、200%伸長前後での表面粗さ(Sa)の比S’/Sが11以上であるため、200%伸長前後でのタック値の比A’/Aが十分に小さくなり、貼付しているときの粘着力を保持しつつ、伸長したときには剥離を容易にすることが可能である。
特に、粘着層が2種以上のポリマーを含み、少なくとも2種のポリマーのSP値の差を0.1以上とすることで、粘着層への粒子の添加量を低減又は粒子の添加を不要とすることができるため、粒子の添加に起因した不具合の発生を抑制することができる。粒子に起因する不具合としては、例えば、粘着層から粒子が脱離し、被粘着体の表面が粒子で汚染されること、粘着層中で粒子とポリマーとの界面を起点に凝集破壊し、剥離後の被粘着体の表面に糊残りすること、等が挙げられる。
【0084】
<半導体パッケージの製造方法>
本開示の半導体パッケージの製造方法では、本開示の粘着フィルムを用いて、半導体パッケージを製造する。本開示の粘着フィルムは、ダイシングフィルム、又はダイシングダイボンディングフィルムとして使用してもよい。
【0085】
例えば、本開示の半導体パッケージの製造方法は、複数の半導体チップが一の面上に配置される本開示の粘着フィルムを伸長することにより、隣接する二つの前記半導体チップの間隔を拡大することを含む。伸長を行った後で、半導体チップを粘着フィルムから剥離することができる。
複数の半導体チップは、本開示の粘着フィルム上にウエハを配置し、このウエハを個片化して得てもよい。また、先に個片化した半導体チップを本開示の粘着フィルム上に配置
してもよい。
【0086】
粘着フィルムを伸長した後、且つ半導体チップの剥離を行う前に、半導体チップに機能層を設ける工程を含んでもよい。機能層としては絶縁層が挙げられる。
【実施例0087】
以下、上記実施形態を実施例により具体的に説明するが、上記実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0088】
(アクリルポリマー1)
下記モノマーの共重合物であるアクリルポリマー1を用いた。上述の方法によりアクリルポリマー1のSP値を求めた。アクリルポリマー1のSP値は10.3である。
・アクリル酸ブチル:88.1質量部
・メタクリル酸2-ヒドロキシエチル:0.6質量部
・アクリル酸ニトリル:11.2質量部
アクリルポリマー1のMnは140000であり、Mwは910000であり、Mw/Mnは6.5であった。
【0089】
(アクリルポリマー2)
下記モノマーの共重合物であるアクリルポリマー2を用いた。アクリルポリマー2のSP値は11.0である。
・アクリル酸ブチル:71.2質量部
・メタクリル酸2-ヒドロキシエチル:4.8質量部
・アクリル酸ニトリル:24.0質量部
アクリルポリマー2のMnは140000であり、Mwは610000であり、Mw/Mnは4.4であった。
【0090】
(アクリルポリマー3の合成)
以下の成分を溶液重合により、共重合することによって重合体を得た。
・アクリル酸2-ヒドロキシエチル:25質量部
・アクリル酸2-エチルヘキシル:75質量部
【0091】
得られた重合体に、重合禁止剤としてジブチルヒドロキシトルエンを、ウレタン化触媒としてジオクチルスズジラウレートを添加した後、2-メタクリロキシエチルイソシアネート(昭和電工株式会社製カレンズMOI)を16質量部加え、アクリルポリマー3を得た。アクリルポリマー3のSP値は10.4である。
アクリルポリマー3のMnは140000であり、Mwは500000であり、Mw/Mnは3.6であった。
【0092】
(アクリルポリマー4の合成)
溶液重合する成分比を以下のように変更したこと以外はアクリルポリマー3と同様の方法でアクリルポリマー4を得た。アクリルポリマー4のSP値は10.0である。
・アクリル酸2-ヒドロキシエチル:17質量部
・アクリル酸2-エチルヘキシル:83質量部
アクリルポリマー4のMnは140000であり、Mwは600000であり、Mw/Mnは4.3であった。
【0093】
(ポリマーの引張弾性率)
上述の方法によりアクリルポリマー1~4の引張弾性率を測定し、その比を求めた。引張弾性率比を表1に示す。
【0094】
(粘着層用組成物の調製)
下記表1に示すアクリルポリマーを、架橋剤及び可塑剤とともにメチルエチルケトンに溶解し、粘着層用組成物を調製した。
架橋剤としてはコロネートL(東ソー株式会社製、トリレンジイソシアネートのTMPアダクト体)を使用した。添加量はアクリルポリマーの合計配合量100部に対して2.2部(質量部、固形分換算)とした。
可塑剤としてはD-810(株式会社ADEKA製、テレフタル酸ビス(2-エチルヘキシル))を使用し、添加量はアクリルポリマーの合計配合量100部に対して20部(質量部、固形分換算)とした。
【0095】
(粘着フィルムの作製)
片面が離型処理された厚み38μmのPETフィルムの離型処理された側の面に、乾燥後の厚みが20μmとなるように粘着層用組成物を塗工し、乾燥して粘着層を形成した。次いで、室温(25℃)にて、基材の片面に上記PETフィルムの粘着層側を貼り合わせ、ゴムロールで加圧して粘着層を基材上に転写し、PETフィルムを剥離して、基材層と粘着層とを有する粘着フィルムを作製した。
【0096】
基材層としては、可塑剤(株式会社ADEKA社製、P-200)を全体の44質量%、顔料(フタロシアニンブルー、最大粒子径10μm)を全体の0.5質量%の量で含むポリ塩化ビニルフィルム(厚さ120μm)を用いた。
【0097】
(表面粗さの測定)
伸長前の表面粗さ(Sa)の値S、及び200%伸長時の表面粗さ(Sa)の値S’を上述の方法で測定した。測定結果から比S’/Sを求め、表2に示す。
【0098】
(タック値の測定)
伸長前のタック値A、及び200%伸長時のタック値A’を上述の方法で測定した。測定結果から比A’/Aを求め、表2に示す。
【0099】

【表1】
【0100】
【表2】
【0101】
表2に示すように、比S’/Sが11以上である実施例1~4は、伸長前のタック値Aが十分に高く粘着性に優れていた。また、実施例1~4は、200%伸長時のタック値A’が十分に低下し、比A’/Aが0.5以下であり、伸長時の剥離性に優れていた。
【0102】
図2は、実施例2の粘着フィルムの粘着層をレーザー顕微鏡で2000倍の倍率で平面観察した写真であり、(A)は粘着フィルムの伸長前、(B)は200%伸長時の写真である。図2(A)に示されるように、伸長前は粘着層の表面に凹凸が見られないが、200%伸長すると表面に凹凸が現出していることがわかる。
【0103】
実施例1と実施例2を比較すると、実施例2の粘着フィルムの方が、200%伸長時の表面粗さ(Sa)の値S’が大きい。このことから、アクリル酸ニトリルに由来する構成単位を多く含むポリマーの配合量を多くするほど、200%伸長時の表面粗さ(Sa)の値S’が大きくなることがわかる。
【0104】
実施例2と実施例3を比較すると、実施例2の粘着フィルムの方が比S’/Sが大きく、且つ比A’/Aが小さかった。このことから、引張弾性率の比が大きいほど比S’/Sを大きくできることがわかる。また、引張弾性率の比が大きいほど伸長前のタック値Aが十分に高く粘着性に優れ、且つ伸長時の剥離性に優れることがわかる。
【0105】
これに対して、比較例1は比S’/Sが11未満であり、その結果、200%伸長時のタック値A’が十分に低下せず、軽剥離化しなかった。この理由は、ポリマーを1種類のみ使用しているため、粘着層内での相分離構造が形成せず、よって伸長時に凹凸が現出しなかったためと推測される。
比較例2及び比較例3では、比S’/Sが11未満であり、200%伸長時のタック値A’が十分に低下せず、軽剥離化しなかった。この理由は、粘着層内での相分離構造の形成量が少なかったためと推測される。
比較例4も比S’/Sが11未満であり、200%伸長時のタック値A’が十分に低下せず、むしろ200%伸長時のタック値A’が伸長前のタック値Aよりも大きくなり、伸長したときに剥離がよりしにくくなった。この理由は、引張弾性率の比が小さいため、相分離構造の伸び量に差が生じ難く、結果、表面に凹凸が現出されにくいものと推測される。
【符号の説明】
【0106】
10 基材層
20 粘着層
30 粘着フィルム
図1
図2