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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168229
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】栽培装置および栽培方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 9/20 20060101AFI20241128BHJP
   A01G 9/24 20060101ALI20241128BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
A01G9/20 A
A01G9/24 U
A01G7/00 601Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084718
(22)【出願日】2023-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(72)【発明者】
【氏名】岩田 幸良
【テーマコード(参考)】
2B022
2B029
【Fターム(参考)】
2B022DA17
2B029KA06
2B029SD22
2B029SD27
2B029SD28
(57)【要約】
【課題】農業施設において、太陽熱をより安価な構造で効率的に利用すること。
【解決手段】実施形態の栽培装置は、農作物を栽培する農業施設内に設けられた高畝の側面に沿って配置される筐体と、前記筐体内に水を供給する給水機構と、前記筐体内の水を排水する排水機構と、前記給水機構と前記排水機構とのうち少なくとも一方の作動を制御する制御部と、を備え、前記筐体内には、断熱材が充填され、前記制御部は、前記断熱材が充填された領域に対する給水または排水を制御して前記筐体内の熱伝導率を制御する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
農作物を栽培する農業施設内に設けられた高畝の側面に沿って配置される筐体と、
前記筐体内に水を供給する給水機構と、
前記筐体内の水を排水する排水機構と、
前記給水機構と前記排水機構とのうち少なくとも一方の作動を制御する制御部と、を備え、
前記筐体内には、断熱材が充填され、
前記制御部は、前記断熱材が充填された領域に対する給水または排水を制御して前記筐体内の熱伝導率を制御する、
栽培装置。
【請求項2】
前記高畝の周辺の気温を検出する第1温度センサと、
前記高畝の土壌温度を検出する第2温度センサと、を備え、
前記制御部は、前記第1温度センサにより検出された気温と、前記第2温度センサにより検出された土壌温度との温度差に基づいて前記領域に対する給水または排水を制御する、
請求項1に記載の栽培装置。
【請求項3】
前記筐体内の水の温度を検出する第3温度センサを備え、
前記制御部は、前記第3温度センサにより検出された前記水の温度に基づいて、前記領域に対する給水または排水を制御する、
請求項1に記載の栽培装置。
【請求項4】
前記制御部は、季節および/または時間帯に応じて前記領域に対する給水または排水を制御する、
請求項1に記載の栽培装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記農作物の種類または前記農作物を栽培する土壌の種類に応じて前記領域に対する給水または排水を制御する、
請求項1に記載の栽培装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記排水機構により排水された水が前記農作物を栽培する土壌に供給されるように前記給水機構を制御する、
請求項1に記載の栽培装置。
【請求項7】
農作物を栽培する農業施設内に設けられた高畝の側面に沿って配置される筐体内に水を供給する給水機構と、前記筐体内の水を排水する排水機構と、前記給水機構と前記排水機構とのうち少なくとも一方の作動を制御し、
前記筐体内には、断熱材が充填され、
前記断熱材が充填された領域に対する給水または排水を制御して前記筐体内の熱伝導率を制御する、
栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農作物の栽培装置および栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、化石燃料に依存する農業体系を見直すことが求められている。農業施設の暖房は、化石燃料の消費による二酸化炭素の主要な排出源であり、これを減らすことが農業分野における脱炭素社会の実現にとって重要となる。例えば、イチゴは冬季に栽培される作物であるが、収量を確保するために室温を加温するのが一般的である。しかし近年では、レイズドベッドによる土耕で作業性を確保しつつ、冬季に加温せずに一定の収量が確保できることが明らかになりつつあるが、室内を暖房した場合に比べると収量が落ちることや、寒冬の年に収量が低下することが課題となっている。そこで、無加温で土壌温度を安定させ、安定して農作物を栽培できる技術が求められている。
【0003】
従来では、雪山の融解を抑制し、冷熱を利用する目的で、モミガラを断熱材として利用する技術が知られている(例えば、非特許文献1参照)。また従来では、結晶構造を変化させて熱伝導率を変化させたり、断熱材の含水率を変化させることで熱伝導率を変化させる技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。また従来では、水の入ったチューブや蓄熱水槽に日中に熱を貯留して夜間に放熱する技術や、断熱材を使って株元を保温したり、比熱の高い石で栽培用のベッドを作って日中に貯熱する技術等が知られている(例えば、非特許文献2および3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60-109829号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】上村靖司他、「貯雪用断熱被覆材としての籾殼の伝熱過程 第1報:露天雪保存実験および物性測定」、公益社団法人日本雪氷学会、日本雪氷学会誌雪氷70巻1号、15-22頁、2008年1月
【非特許文献2】川嶋浩樹他、「多層保温被覆資材と水蓄熱体の利用がパイプハウスの暖房負荷に及ぼす影響」、農業施設学会、農業施設44巻2号、p.23-32、2013年6月
【非特許文献3】「施設農業における熱エネルギーの効率的利用技術の開発」、農林水産省農林水産技術会議事務局、プロジェクト研究成果シリーズ576、p.1-125、2017年3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来の結晶構造を変化させて熱伝導率を変化させる技術については、コンピュータのCPU(Central Processing Unit)の冷却等の小規模なものへの利用が想定されており、農業のような大規模な施設への適用は、コスト面からも断熱材の製造の観点からも適用が非常に困難になる場合があった。また、従来の水を入れたチューブや水槽に昼間の熱を貯留して夜間に放出したり、保温材を株元に設置したり、比熱の高い石に貯熱する技術については、農業現場で安価に適用できる反面、貯熱や放熱の制御は難しく効果が限定的になる場合があった。したがって、太陽熱の効率的な利用ができない場合があった。
【0007】
本発明の態様は、このような事情を考慮してなされたものであり、農業施設において、太陽熱をより安価な構造で効率的に利用することができる栽培装置および栽培方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る栽培装置および栽培方法は、以下の構成を採用した。
本発明の第1の態様である栽培装置は、農作物を栽培する農業施設内に設けられた高畝の側面に沿って配置される筐体と、前記筐体内に水を供給する給水機構と、前記筐体内の水を排水する排水機構と、前記給水機構と前記排水機構とのうち少なくとも一方の作動を制御する制御部と、を備え、前記筐体内には、断熱材が充填され、前記制御部は、前記断熱材が充填された領域に対する給水または排水を制御して前記筐体内の熱伝導率を制御する、栽培装置である。
【0009】
本発明の第2の態様である栽培装置は、更に、前記高畝の周辺の気温を検出する第1温度センサと、前記高畝の土壌温度を検出する第2温度センサと、を備え、前記制御部は、前記第1温度センサにより検出された気温と、前記第2温度センサにより検出された土壌温度との温度差に基づいて前記領域に対する給水または排水を制御するものである。
【0010】
本発明の第3の態様である栽培装置は、更に、前記筐体内の水の温度を検出する第3温度センサを備え、前記制御部は、前記第3温度センサにより検出された前記水の温度に基づいて、前記領域に対する給水または排水を制御するものである。
【0011】
本発明の第4の態様である栽培装置は、更に、前記制御部は、季節および/または時間帯に応じて前記領域に対する給水または排水を制御するものである。
【0012】
本発明の第5の態様である栽培装置は、更に、前記制御部は、前記農作物の種類または前記農作物を栽培する土壌の種類に応じて前記領域に対する給水または排水を制御するものである。
【0013】
本発明の第6の態様である栽培装置は、更に、前記制御部は、前記排水機構により排水された水が前記農作物を栽培する土壌に供給されるように前記給水機構を制御するものである。
【0014】
本発明の第7の態様である栽培方法は、農作物を栽培する農業施設内に設けられた高畝の側面に沿って配置される筐体内に水を供給する給水機構と、前記筐体内の水を排水する排水機構と、前記給水機構と前記排水機構とのうち少なくとも一方の作動を制御し、前記筐体内には、断熱材が充填され、前記断熱材が充填された領域に対する給水または排水を制御して前記筐体内の熱伝導率を制御する、栽培方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の態様によれば、農業施設において、太陽熱をより安価な構造で効率的に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態の栽培装置を利用した太陽熱利用システム1の構成図である。
図2】高畝構造体HS1、HS2の配置例について説明するための図である。
図3】栽培装置CEの構成の一例を示す図である。
図4】モミガラの水分状態と熱伝導率との関係を示す図である。
図5】制御装置100の機能の一例を示す図である。
図6】実施形態の制御装置100により実行される処理の一例を示すフローチャートである。
図7】高畝構造体HS内に充填された水が土壌内に供給される例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照し、栽培装置および栽培方法の実施形態について説明する。なお、以下では、農業施設内に設けられた栽培装置が、太陽光による熱を利用して土壌の温度調整を行う熱利用システムを用いて説明する。
【0018】
[概略構成]
図1は、実施形態の栽培装置を利用した太陽熱利用システム1の構成図である。図1に示す太陽熱利用システム1は、例えば、農業用ハウス(農業施設の一例)GH内に一以上の栽培装置CE1~CEnが設けられている。栽培装置CE1~CEnのそれぞれには、例えばイチゴやメロン、スイカ、トマト、サツマイモ等の農作物CRが栽培される。農作物CRには、各種野菜類の他、果樹類、きのこ類、穀類等が含まれてよい。以下、栽培装置CE1~CEnを区別して説明する場合を除き、単に「栽培装置CE」と称して纏めて説明する。
【0019】
実施形態の栽培装置CEは、例えばY軸方向にn個の栽培装置が所定間隔で配置されている。栽培装置CEは、農作物CRを生育するための土壌MEが地面RLよりも所定の高さだけ盛り上がった高畝(レイズベッド)になっており、高畝の側面には、高畝を支持する構造体(以下、「高畝構造体」)HS1、HS2が設けられている。高畝構造体HS1、HS2は、「筐体」の一例である。図2は、高畝構造体HS1、HS2の配置例について説明するための図である。実施形態の高畝構造体HS1、HS2は、高畝の土壌MEに沿って図中X軸方向に所定距離延伸させた横長構造となっている。
【0020】
例えば、栽培装置CEは、図1、2に示すように、所定条件に応じて高畝構造体HS1、HS2内に水を給水して高畝構造体HS1、HS2内に水を充填させたり、高畝構造体HS1、HS2内に充填させた水を排水させることにより、高畝構造体HS1、HS2内の熱伝導率を変化させる。これにより、栽培装置CEは、太陽光により得られる熱を有効に活用して、土壌MEの温度を制御することができる。
【0021】
図3は、栽培装置CEの構成の一例を示す図である。栽培装置CEは、例えば、制御装置100と、温度センサ200と、給水機構300と、排水機構400とを備える。制御装置100は、「制御部」の一例である。
【0022】
制御装置100は、栽培装置CE全体を制御する。制御装置100は、例えば農作物CRの周辺状況(例えば温度)を取得したり、高畝構造体HS1、HS2への給排水を制御する。制御装置100の機能の詳細については後述する。
【0023】
温度センサ200は、栽培装置CEに関連する温度を検出する。温度センサ200は、例えば、高畝の周辺の気温(外気温度)を検出する第1温度センサ200-1と、地面(土壌ME)の温度を検出する第2温度センサ200-2とを備える。また、温度センサ200は、高畝構造体HS1、HS2に充填された水の温度(水温)を検出する第3温度センサ200-3が設けられていてもよい。図3の例では、第3温度センサ200-3が高畝構造体HS2のみに設けられているが、高畝構造体HS1にも設けられてよい。また、栽培装置CEは、温度センサ200に加えて、例えば、高畝構造体HS1、HS2内の水分状態を検出するセンサが設けられていてもよい。
【0024】
給水機構300は、高畝構造体HS1、HS2に水を給水する。例えば、給水機構300は、例えば、給水弁や給水ポンプ等を有し、制御装置100の制御により給水弁を開けたり、給水ポンプを作動させて配管や暗渠等を流れる水を高畝構造体HS1、HS2に供給する。また、給水機構300は、制御装置100の制御により給水弁を閉めたり、給水ポンプの作動を停止させて給水を終了する。
【0025】
排水機構400は、高畝構造体HS1、HS2に充填された水を排水する。例えば、排水機構400は、排水弁を有し、制御装置100の制御により排水弁を開けて高畝構造体HS1、HS2内の水を配管や暗渠、または土壌MEへ排水する。また、排水機構400は、制御装置100の制御により排水弁を閉めて排水を完了する。なお、上述した給水機構300および排水機構400は一例であり、他の給排水機構(装置)によって、高畝構造体HS1、HS2への給排水が行われてもよい。また、図3の例において、給水機構300および排水機構400は、高畝構造体HS1、HS2の両方の給排水を行っているが、高畝構造体HS1、HS2ごとに、給水機構300および排水機構400が設けられ、高畝構造体HS1とHS2とで異なる給排水が実行されてよい。
【0026】
ここで、実施形態の高畝構造体HS1、HS2は、周囲に板状の壁体B1、B2を有する。壁体B1、B2は、平面形状でもよく波状形状でもよく、他の形状でもよい。また、高畝構造体HS1、HS2には、壁体B1、B2を支持するフレーム等が設けられてよく、遮水のために壁体B1、B2の外周を覆うビニールシート等が設けられていてもよい。また、高畝構造体HS1、HS2の底部は、排水弁の開閉によって高畝構造体HS1、HS2内に水を充填させたり、充填させて水を排水させる機構が設けられている。また、高畝構造体HS1、HS2の上部は給水機構300からの水が内部に供給できるように開口部が設けられる。
【0027】
また、壁体B1、B2で囲まれた領域(空間)には断熱材HIが充填される。断熱材HIは、例えば、モミガラ等の有機質資材である。モミガラは、水分状態によって熱伝導率が大きく異なる。図4は、モミガラの水分状態と熱伝導率との関係を示す図である。図4では、一例として、4種類のサンプル(モミガラ)を用いて水分状態(保水性[pF])と、熱伝導率[W/mk]との関係を示している。図4の例では、何れのサンプルも飽和状態(0[pF])では熱伝導率が約0.8~1.0[W/mk]程度に高くなるが、1[pF]程度になるまで排水されると熱伝導率が約0.2[W/mk]以下に減少する。また、モミガラは、排水性が極めて高く、断熱材HIへの水の出し入れを速やかに行うことができる。また、モミガラは、水田地帯では比較的簡単かつ安価に手に入る。したがって、モミガラを用いることで、より安価な断熱材HIを形成できる。なお、実施形態では、モミガラに代えて(または加えて)、水耕栽培で使われるヤシガラやピートモス等が用いられてもよい。
【0028】
[制御装置]
次に、制御装置100の機能について具体的に説明する。制御装置100は、農業用ハウスGH内に設けられる複数の栽培装置CE1~CEnのうち、一または複数の栽培装置に対する給排水を制御する。したがって、実施形態の太陽熱利用システム1には、一以上の制御装置100が設けられてよい。
【0029】
図5は、制御装置100の機能の一例を示す図である。実施形態の制御装置100は、例えば、取得部110と、温度制御部120と、記憶部130とを備える。取得部110と、温度制御部120とは、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。また、これらの構成要素のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)等のハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予めHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリ等の記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROM等の着脱可能な記憶媒体(非一過性の記憶媒体)に格納されており、記憶媒体がドライブ装置等に装着されることで制御装置100の記憶装置にインストールされてもよい。
【0030】
記憶部130は、上記の各種記憶装置、或いはEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等により実現されてよい。記憶部130には、例えば、取得部110により取得された情報や、給排水を制御するための調整情報132、プログラム、その他各種情報等が格納される。調整情報とは、給水または排水を行うか否かを判定するための閾値等の各種条件(パラメータ)が格納される。
【0031】
取得部110は、例えば、第1温度センサ200-1により検出された栽培装置CEの周囲の外気温、第2温度センサ200-2により検出された土壌ME内の温度を取得する。また、取得部110は、温度センサ200に高畝構造体HS1、HS2内の水温を検出する第3温度センサ200-3を有する場合に、水温を取得してもよい。また、取得部110は、高畝構造体HS1、HS2内の水分状態を検出するセンサを有する場合に、上記センサから高畝構造体HS1、HS2内の水分状態を取得してもよい。これらの情報は、所定周期または所定のタイミングを繰り返し取得される。
【0032】
温度制御部120は、取得部110により入力された情報等に基づいて、給水機構300による給水制御と排水機構400による排水制御とのうち、少なくとも一方を制御する。温度制御部120は、例えば、判定部122と、給排水制御部124とを備える。判定部122は、例えば、取得部110により取得された情報に基づいて、給排水を行うか否かの判定を行う。給排水制御部124は、判定部122による判定結果に基づいて給水機構300による給水制御と、排水機構400による排水制御とのうち、少なくとも一方を制御して高畝構造体HS1、HS2における熱伝導率を制御する。例えば、給排水制御部124は、土壌MEの温度が所定の温度範囲となるように、高畝構造体HS1、HS2への給排水を制御する。所定の温度範囲は、固定範囲でもよく、土壌MEの種類や農作物CRの種類に応じた可変値でもよく、ユーザ(管理者)等によって可変に設定されてもよい。所定の温度範囲の情報は、例えば、調整情報132として記憶部130に記憶される。
【0033】
[処理フロー]
図6は、実施形態の制御装置100により実行される処理の一例を示すフローチャートである。なお、図6の処理は、所定周期または所定のタイミングで繰り返し実行されてよい。図6の例において、取得部110は、第1温度センサ200-1により外気温度を取得し(ステップS110)し、更に第2温度センサ200-2により土壌温度を取得する(ステップS120)。ステップS110とS120の処理は、逆の順序で実行されてよい。次に、判定部122は、外気温度と土壌温度との温度差が閾値以上であるか否かを判定する(ステップS130)。閾値は、固定値でもよく、土壌MEの成分に応じた可変値でよく、農作物CRの種類等に応じた可変値でもよく、ユーザ(管理者)等によって可変に設定されてもよい。閾値は、予め調整情報132として記憶部130に記憶される。
【0034】
ステップS130の処理において、温度差が閾値以上であると判定された場合、給排水制御部124は、高畝構造体HS1、HS2に対する給排水制御を行う(ステップS140)。なお、給排水制御部124は、高畝構造体HS1、HS2の両方の給排水制御を行ってもよく、何れか一方の給排水制御を行ってもよい。これにより、本フローチャートの処理を終了する。また、ステップS130の処理において、温度差が閾値以上でないと判定された場合、本フローチャートの処理は、終了する。
【0035】
次に、上述のステップS140の処理について具体的に説明する。なお、以下では、一例として季節(時期)が冬の場合の例について説明する。例えば、温度制御部120は、土壌の温度が所定の温度範囲となるように、高畝構造体HS1、HS2内への給排水を制御する。例えば、外気温度と土壌温度との温度差が閾値以上であり、外気温度が土壌温度よりも高い場合、給排水制御部124は、給水機構300により高畝構造体HS1、HS2に対する給水制御を実行させる。この給水を行うことで高畝構造体HS1、HS2内の断熱材HIが充填された領域(空間)に水が充填され、高畝構造体HS1、HS2内の熱伝導率が向上するため、外気温度の熱が土壌MEに供給しやすくなり、土壌MEを温めることができる。また、高畝構造体HS1、HS2内に充填された水の温度も上昇させることができる。
【0036】
また、温度差が閾値以上であると判定された場合であって、土壌温度の方が外気温度よりも大きい場合、給排水制御部124は、排水機構400により高畝構造体HS1、HS2内の断熱材HIの領域(空間)に充填された水を排水させる排水制御を実行させる。これにより、高畝構造体HS1、HS2内の熱伝導率が低くなるため、土壌ME内の熱が外部に放熱しにくくなり、土壌ME内の保温効果を向上させることができる。
【0037】
なお、給排水制御部124は、図6に示す制御に代えて(または加えて)、外気温度または土壌温度の何れかが所定温度以上であると判定された場合に、給排水制御を行ってもよい。例えば、土壌温度が上限値を超える場合、または所定時間における温度の上昇率に基づいて近い将来に土壌温度が上限値を超える可能性があると判定した場合に、高畝構造体HS1、HS2への給水制御により高畝構造体HS1、HS2内に水を充填させて土壌ME内の熱を外部に逃がして、土壌温度を所定の温度範囲内になるまで低下させる制御を行ってもよい。なお、上限値は、固定値でもよく、農作物CEの種類または土壌MEの種類に応じた可変値であってもよく、ユーザが設定してもよい。上限値の情報は、例えば、調整情報132として記憶部130に記憶される。
【0038】
また、給排水制御部124は、上述した給排水する水量や給排水時間を制御してもよい。この場合、給排水制御部124は、外気温度と土壌温度との温度差の大きさに応じて制御してもよく、断熱材HIの種類に応じて制御してもよい。温度差の大きさに応じて高畝構造体HS1、HS2への水の充填量を制御することで、高畝構造体HS1、HS2内の熱伝導率をより適切に調整して、土壌温度を適切な値に調整することができるとともに、温度の変化度合も調整することができる。また、断熱材HIによって、水分状態と熱伝導率との関係が異なる可能性があるため、断熱材HIの種類に応じて給排水の量や時間を制御することで、より適切な温度調整が実現できる。また、給排水制御部124は、取得部110により取得された高畝構造体HS1、HS2内の水分状態が所定の状態となるように給排水制御を行ってもよい。
【0039】
また、給排水制御部124は、季節(時期)および/または時間帯に応じて高畝構造体HS1、HS2内への給水または排水を制御してもよい。これにより、温度センサ200を設けていない構成であっても単に季節(夏、冬に相当する月日)や時間帯(日中、夜間)等を基準に、土壌ME内を適切な温度に調整することができる。
【0040】
また、給排水制御部124は、図6に示す制御に代えて(または加えて)、高畝構造体HS1、HS2の水の温度を検出する第3温度センサ200-3を有する場合に、第3温度センサ200-3により検出された水温に基づいて、高畝構造体HS1、HS2への給水または排水を制御してもよい。例えば、水温度が所定温度以上である場合には、土壌温度を高くなりすぎていると判断し充填している水を排水したうえで、新たに冷たい水を給水する制御を行い、土壌MEの熱を放熱させる。これにより、土壌MEの温度をより適切に調整することができる。
【0041】
なお、栽培装置CEは、高畝構造体HS1、HS2内に充填された水を排水する場合に、高畝構造体HS1、HS2内に挟まれた土壌ME内に供給してもよい。図7は、高畝構造体HS内に充填された水が土壌内に供給される例を示す図である。なお、以下の例では、説明の便宜上、主に高畝構造体HS2について説明するが、高畝構造体HS1側に同様の構成が設けられてもよい。図7の例では、給水機構300が備える給水弁310および給水ポンプ320と、排水機構400が備える排水弁410とが示されている。排水弁410が開いて高畝構造体HS2内に充填された水が排水される場合に、制御装置100の制御により給水機構300は給水ポンプ320を作動させ、高畝構造体HS2から排出された水を土壌MEの上部まで移動させ、上部から土壌MEに散布する。これにより、高畝構造体HS2内に充填された水を有効に利用することができる。更に、高畝構造体HS2内で温められた水を土壌MEに提供することで、土壌温度をより効率的に向上させることができる。
【0042】
なお、高畝構造体HS1、HS2内の断熱材HIを充填させる空間の厚さW1や高畝部分の高さ(地面FLからの高さ)H1については、農作物の種類に応じて適宜変更されてよい。制御装置100は、厚さW1や高さH1により高畝構造体HSによる放熱や保温を調整することができる。
【0043】
以上説明した実施形態によれば、栽培装置において、農作物を栽培する農業施設内に設けられた高畝の側面に沿って配置される高畝構造体HS(筐体の一例)と、高畝構造体HS内に水を供給する給水機構300と、高畝構造体HS内の水を排水する排水機構400と、給水機構300と排水機構400とのうち少なくとも一方の作動を制御する制御装置(制御部の一例)100と、を備え、高畝構造体HS内には、断熱材HIが充填され、制御装置100は、断熱材HIが充填された領域に対する給水または排水を制御して高畝構造体HS内の熱伝導率を制御することにより、農業施設において、太陽熱をより安価な構造で効率的に利用することができる。
【0044】
具体的には、実施形態によれば、レイズドベッド等の高畝の側面にモミガラ等を用いた断熱層(高畝構造体)を形成し、周囲の環境(気温等)よりも土壌の温度が高いときには排水して断熱層の熱伝導率を低くすることで、太陽熱をより安価な構造で効率的に保温させることができる。また、実施形態によれば、周囲の温度よりも土壌の温度の方が低い場合に、高畝構造体に水を加えて断熱層を飽和することで断熱層の熱伝導率を高め、周囲の熱を土壌MEに取り込ませることができる。例えば、農業用ハウスGH内は、夜間は冷えるが、特に天気が良い日中には高温になる。そのため、日中に高畝構造体に水を入れて熱伝導率を高め、日中の熱を保温したい土壌に取り組み、夜間は排水して高畝構造体の熱伝導率を低下させて保温するという操作を繰り返すことで、土壌温度を適切に制御することができる。また、実施形態によれば、高畝構造体から排水された高温の水を土壌に灌漑することで、より効率的に土壌温度を上昇させることができる。
【0045】
本実施形態に示す手法は、より安価で大規模な展開が可能であり、農業等の大規模な施設を有する農業分野で広く適用することができる。また、大規模に展開することで、コスト面での優位性がより高いものとなる。現在では施設農業分野での熱利用の大半は、化石資源に依存しているため、世界的な脱炭素の流れから日本でも全産業において温暖化ガス排出量の削減が求められている。本実施形態は、自然エネルギーである太陽熱を最大限に活用するシステムであるため、農業施設の脱炭素化に貢献することができ、ネット・ゼロ・エネルギー・グリーンハウス(ZEG)の要素技術となりうるものである。また、本実施形態に示す手法は、土壌以外の多孔質体に適用されてよい。
【0046】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0047】
1…太陽熱利用システム、100…制御装置、110…取得部、120…温度制御部、130…記憶部、200…温度センサ、300…給水機構、400…排水機構、HG…農業用ハウス、CE…栽培装置、HS1、HS2…高畝構造体
図1
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図7