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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168268
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】樹脂成形体の特性推測方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 48/92 20190101AFI20241128BHJP
   G01N 25/20 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
B29C48/92
G01N25/20 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084791
(22)【出願日】2023-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大賀 裕太
(72)【発明者】
【氏名】加賀 雅文
(72)【発明者】
【氏名】折内 卓矢
(72)【発明者】
【氏名】笹村 達也
【テーマコード(参考)】
2G040
4F207
【Fターム(参考)】
2G040AB12
2G040BA14
2G040BA28
2G040CA02
2G040DA02
2G040DA12
2G040EA01
2G040EC09
2G040HA16
4F207AA16
4F207AA45
4F207AB07
4F207AB11
4F207AM23
4F207AP05
4F207AR06
4F207KA01
4F207KA17
4F207KM05
4F207KW50
(57)【要約】
【課題】回帰分析により求めた回帰式を用いて、樹脂成形体の機械的強度を1つの物性値から推測することのできる、樹脂成形体の特性推測方法を提供する。
【解決手段】結晶性樹脂を含む樹脂からなる樹脂成形体の降温ピーク面積を測定する工程と、予め用意された回帰式を用いて、前記樹脂成形体の機械的強度を前記降温ピーク面積から推測する工程と、を含み、前記降温ピーク面積が、示差走査熱量測定により得られる示差走査熱量曲線において降温時に現れる発熱ピークの面積である、樹脂成形体の特性推測方法を提供する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性樹脂を含む樹脂からなる樹脂成形体の降温ピーク面積を測定する工程と、
予め用意された回帰式を用いて、前記樹脂成形体の機械的強度を前記降温ピーク面積から推測する工程と、
を含み、
前記降温ピーク面積が、示差走査熱量測定により得られる示差走査熱量曲線において降温時に現れる発熱ピークの面積である、
樹脂成形体の特性推測方法。
【請求項2】
前記機械的強度が、引張特性と粘弾性特性のいずれか一方又は両方である、
請求項1に記載の樹脂成形体の特性推測方法。
【請求項3】
前記回帰式として、前記引張特性を推測するための第1の回帰式と前記粘弾性特性を推測するための第2の回帰式の少なくともいずれか一方が用いられ、
前記第1の回帰式が、前記樹脂成形体と同じ材料からなる複数の第1の成形体の降温ピーク面積の測定値を説明変数、前記複数の第1の成形体の引張特性の測定値を目的変数とする回帰分析により得られ、
前記第2の回帰式が、前記樹脂成形体と同じ材料からなる複数の第2の成形体の降温ピーク面積の測定値を説明変数、前記複数の第2の成形体の粘弾性特性の測定値を目的変数とする回帰分析により得られる、
請求項2に記載の樹脂成形体の特性推測方法。
【請求項4】
前記引張特性が、引張強さと引張伸びの少なくともいずれか一方を含む、
請求項2又は3に記載の樹脂成形体の特性推測方法。
【請求項5】
前記粘弾性特性が、貯蔵弾性率を含む、
請求項2又は3に記載の樹脂成形体の特性推測方法。
【請求項6】
前記結晶性樹脂が、フッ素系材料である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂成形体の特性推測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶性樹脂を含む樹脂からなる樹脂成形体の特性推測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、実際に射出成形により成形品を得ることなく、設計段階で成形品の機械的強度を推測する方法が知られている(特許文献1を参照)。特許文献1に記載の方法によれば、結晶性ポリオレフイン系樹脂の射出成形品の結晶化度および配向度と機械的強度との重相関データ(重回帰式)をそれぞれの実測データを用いた重回帰分析によって作成しておき、成形条件、成形樹脂特性などの成形諸元に基づく解析によって結晶化度と配向度を求め、求められた結晶化度および配向度と、前記重相関データとから射出成形品の機械的強度を推測する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-156885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の方法においては、推測対象である射出成形品の結晶化度と配向度という2つの物性値を取得し、重相関データに代入することにより、機械的強度を推測する。特許文献1に記載の方法のような、回帰分析により求めた回帰式を用いて目的の材料特性を推測する方法においては、当然ながら、推測対象の試料から取得する物性値の数が少ない方が推測の簡便性において好ましい。
【0005】
本発明の目的は、回帰分析により求めた回帰式を用いて、樹脂成形体の機械的強度を1つの物性値から推測することのできる、樹脂成形体の特性推測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、結晶性樹脂を含む樹脂からなる樹脂成形体の降温ピーク面積を測定する工程と、予め用意された回帰式を用いて、前記樹脂成形体の機械的強度を前記降温ピーク面積から推測する工程と、を含み、前記降温ピーク面積が、示差走査熱量測定により得られる示差走査熱量曲線において降温時に現れる発熱ピークの面積である、樹脂成形体の特性推測方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、回帰分析により求めた回帰式を用いて、樹脂成形体の機械的強度を1つの物性値から推測することのできる、樹脂成形体の特性推測方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、一般的な構成を備える電線の径方向の断面図である。
図2図2は、樹脂成形体の製造装置の概略構成図である。
図3図3は、示差走査熱量測定により得られたDSC曲線の一例である。
図4図4は、試料A~Jの押出成形工程における各種温度条件と、示差走査熱量測定により得られた昇温ピーク面積値と降温ピーク面積値を示す表である。
図5図5(a)は、引張強さと昇温ピーク面積の相関図であり、図5(b)は、引張強さと降温ピーク面積の相関図である。
図6図6(a)は、引張伸びと昇温ピーク面積の相関図であり、図6(b)は、引張伸びと降温ピーク面積の相関図である。
図7図7(a)は、貯蔵弾性率と昇温ピーク面積の相関図であり、図7(b)は、貯蔵弾性率と降温ピーク面積の相関図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施の形態に係る樹脂成形体の特性推測方法においては、予め用意された回帰式を用いて、結晶性樹脂を含む樹脂からなる樹脂成形体の示差走査熱量測定により得られる結晶性樹脂の結晶化熱量から、引張特性、粘弾性特性などの機械的強度を推測する。
【0010】
上記の結晶性樹脂としては、例えば、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、PA(ポリアミド)、POM(ポリアセタール、ポリオキシメチレン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、LCP(液晶ポリマー)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などが挙げられる。
【0011】
上記の結晶性樹脂を含む樹脂からなる樹脂成形体は、例えば、芯線の表面を覆う被覆材やシースなどの電線の被覆材や、樹脂チューブである。より具体的には、例えば、結晶性樹脂であるフッ素樹脂を含む材料からなる電線の被覆材である。また、上記の結晶性樹脂を含む樹脂からなる樹脂成形体は、典型的には、電線の被覆材などのような、結晶性樹脂を含む樹脂を押出成形して成形される樹脂成形体であるが、射出成形などの押出成形以外の方法によって成形された樹脂成形体であってもよい。
【0012】
上記の示差走査熱量測定は、示差走査熱量計(DSC)を用いて試料に熱を与えて相変化する際の熱量を測定する熱分析の手法であり、結晶化度評価にもよく用いられるものである。樹脂成形体に含まれる結晶性樹脂の結晶化熱量は、DSCを用いた示差走査熱量測定により得られる示差走査熱量曲線(DSC曲線)の降温ピーク面積の値として求められる。この降温ピーク面積は、樹脂成形体を加熱して樹脂成形体に含まれる結晶性樹脂を溶融させた後で、樹脂成形体を冷却して結晶性樹脂中に再度結晶を生成させることにより現れるDSC曲線の発熱ピークの面積である。
【0013】
上記の機械的強度に含まれる引張特性とは、例えば、引張強さ(MPa)、引張伸び(%)であり、上記の粘弾性特性とは、例えば、貯蔵弾性率(Pa)、損失弾性率(Pa)や、貯蔵弾性率と損失弾性率の比で表される損失正接(-)である。
【0014】
図1は、一般的な構成を備える電線1の径方向の断面図である。電線1は、芯線10と、芯線10の表面を覆う被覆材11を備える。芯線10は、例えば、銅や銅合金等からなる複数本の素線を撚り合わせた撚線導体などから構成される。被覆材11は、本発明の実施の形態に係る、結晶性樹脂を含む樹脂を押出成形して成形される樹脂成形体の一例である。
【0015】
図2は、樹脂成形体の製造装置60の概略構成図である。図2においては、樹脂成形体である被覆材11を芯線10の表面に被覆する場合の様子が示されている。
【0016】
図2に示されるように、被覆材11の原料となる、結晶性樹脂を含む樹脂からなる原料ペレットを押出機61に投入して混練すると、クロスヘッド62を介してダイ62aから溶融した樹脂が押し出される。押し出された樹脂は、走行ラインに沿って移動する芯線10の表面に被覆される。そして、芯線10の表面に被覆された樹脂は、ダイ62aから押し出された直後から空冷された後、水槽63で水冷される。このようにして、ダイ62aから押し出された樹脂は、空冷および水冷による冷却過程で固化して被覆材11となり、電線1が得られる。水槽63を通過した電線1は、外径測定器64により外径を測定された後、ドラム等に巻き取られる。樹脂成形体の製造装置60は、制御装置69を有しており、制御装置69により、押出条件の制御を含む種々の制御を行うように構成されている。
【0017】
以下、本発明の実施の形態に係る樹脂成形体の特性推測方法の一例として、実施した上述の電線1に含まれる被覆材11の特性推測の手順と結果について説明する。この例においては、結晶性樹脂を含む樹脂を押出成形して成形される樹脂成形体として、フッ素系材料(結晶性樹脂であるフッ素樹脂と、フッ素ゴムとの複合材料)からなる被覆材11を用意し、その引張強さ、引張伸び、貯蔵弾性率を推測した。
【0018】
まず、製造装置60を用いた押出成形により、芯線10の表面を被覆する、熱履歴(材料の温度変化の履歴)の異なる10個の被覆材11(以下、試料A~Jと呼ぶ)を形成した。
【0019】
この押出成形工程に用いた押出機61は充実押出を実施するフッ素樹脂用押出機であり、スクリューの直径が20mm、ニップル径が1.05mm、ダイ62aの穴径が1.65mmであった。また、芯線10の送り速度を4m/min、押出機61のスクリューの回転数を15rpmとした。また、芯線10として、断面積が0.5mmの撚線を用いた。被覆材11の材料としては、フッ素系樹脂を約30%含有するフッ素系材料(フッ素ゴム、フッ素系樹脂、及び、充填材や架橋助剤、滑剤などからなる少量のマスターバッチからなる複合コンパウンド)を用意し、80℃、24h以上の真空乾燥を施した後にこれを使用した。
【0020】
次に、押出成形された試料A~Jに電子線照射による架橋処理を施した。電子線の照射量は全ての試料に対して75kGyとした。
【0021】
次に、架橋後の試料A~Jを芯線10から剥離した後、引張試験、動的粘弾性試験、及び示差走査熱量測定を実施した。
【0022】
引張試験は、JIS3005に則って実施し、試料A~Jの引張強度及び引張伸びを測定した。ここで、引張試験により得られた応力ひずみ線図の最大点応力を引張強度、破断点伸びを引張伸びとした。この引張試験においては、各条件において3回の測定を行い、得られた3つの測定値の平均値を特性値とした。
【0023】
動的粘弾性試験では、40℃~200℃の温度帯で試料A~Jの貯蔵弾性率の測定を行った。具体的には、芯線10を引き抜いたチューブ状の試料A~Jに対して、周波数10Hz、歪み0.5%、昇温速度10℃/minの条件下で、試料温度を40℃~200℃まで変化させ、0.5℃間隔で貯蔵弾性率を測定した。そして、測定結果から、試料温度50℃時の貯蔵弾性率を抜き出し代表値とした。
【0024】
示差走査熱量測定では、DSC(示差走査熱量計)を用いて、試料A~Jの吸熱反応や発熱反応を測定した。この示差走査熱量測定のプロセスは、以下のとおりである。まず、試料温度を-50℃の平衡状態に保ち、そこから10℃/minの昇温速度で昇温させた。そして、250℃まで昇温し、試料が溶融した後に、-50℃まで10℃/minの降温速度で降温させた。
【0025】
図3は、示差走査熱量測定により得られたDSC曲線の一例である。このDSC曲線は、ヒートフローを温度の関数として表すものである。フッ素系材料においては、昇温時には220℃付近に吸熱ピークが現れ、降温時には200℃付近に発熱ピークが現れる。吸熱ピークは、昇温時に試料に含まれる結晶性材料であるフッ素樹脂の結晶が融解することによるものであり、発熱ピークは、降温時にフッ素樹脂の結晶が再度生成されることによるものであると解釈できる。
【0026】
示差走査熱量測定により得られたDSC曲線から、昇温時に現れる吸熱ピークの面積(昇温ピーク面積)の値と降温時に現れる発熱ピークの面積(降温ピーク面積)の値を算出した。昇温ピーク面積値は、フッ素樹脂の融解熱量を表し、昇温時に融解する結晶の量の指標となる。降温ピーク面積値は、フッ素樹脂の結晶化熱量を表し、降温時に生成される結晶の量の指標となる。昇温ピーク面積値は、180℃~245℃を積分範囲とする積分により求め、降温ピーク面積値は、150℃~215℃を積分範囲とする積分により求めた。
【0027】
図4は、試料A~Jの押出成形工程における各種温度条件と、示差走査熱量測定により得られた昇温ピーク面積値と降温ピーク面積値を示す表である。図4に含まれる「成形温度(℃)」の「C1」~「C3」は、押出機61内の原料ペレットの通り路(バレル)の温度である。C1が最も上流(原料ペレット投入口の近傍)の位置の温度であり、C3が最も下流(クロスヘッド62の近傍)である。C2は、C1とC3の凡そ中央に位置する。「N」はネック(押出機61とクロスヘッド62の間)の温度、「CL」はネックを固定するためのクランプの温度である。「H」はクロスヘッド62の温度、「D」はダイ62aの温度である。また、「芯線温度(℃)」は、芯線10の温度である。
【0028】
図5(a)は、引張強さと昇温ピーク面積の相関図であり、図5(b)は、引張強さと降温ピーク面積の相関図である。図6(a)は、引張伸びと昇温ピーク面積の相関図であり、図6(b)は、引張伸びと降温ピーク面積の相関図である。図7(a)は、貯蔵弾性率と昇温ピーク面積の相関図であり、図7(b)は、貯蔵弾性率と降温ピーク面積の相関図である。
【0029】
図5(a)に示される点線は、昇温ピーク面積の測定値を説明変数、引張強さの測定値を目的変数とする回帰分析により得られた回帰式(y=-3.8763x+32.331:yは引張強さ(MPa)、xは昇温ピーク面積(J/g))を表す直線である。図5(b)に示される点線は、降温ピーク面積の測定値を説明変数、引張強さの測定値を目的変数とする回帰分析により得られた回帰式(y=7.6957x-25.755:yは引張強さ(MPa)、xは降温ピーク面積(J/g))を表す直線である。
【0030】
図6(a)に示される点線は、昇温ピーク面積の測定値を説明変数、引張伸びの測定値を目的変数とする回帰分析により得られた回帰式(y=-81.365x+570.27:yは引張伸び(%)、xは昇温ピーク面積(J/g))を表す直線である。図6(b)に示される点線は、降温ピーク面積の測定値を説明変数、引張伸びの測定値を目的変数とする回帰分析により得られた回帰式(y=199.08x-836.51:yは引張伸び(%)、xは降温ピーク面積(J/g))を表す直線である。
【0031】
図7(a)に示される点線は、昇温ピーク面積の測定値を説明変数、貯蔵弾性率の測定値を目的変数とする回帰分析により得られた回帰式(y=1×10x+1×10:yは貯蔵弾性率(Pa)、xは昇温ピーク面積(J/g))を表す直線である。図7(b)に示される点線は、降温ピーク面積の測定値を説明変数、貯蔵弾性率の測定値を目的変数とする回帰分析により得られた回帰式(y=-2×10x+2×10:yは貯蔵弾性率(Pa)、xは降温ピーク面積(J/g))を表す直線である。
【0032】
図5(a)、(b)、図6(a)、(b)、図7(a)、(b)によれば、引張強さ、引張伸び、及び貯蔵弾性率は、昇温ピーク面積との間に大きな相関性は確認されなかったが、降温ピーク面積との間には大きな相関性(相関係数R>0.80)が確認された。このことから、成形条件(押出成形工程における成形温度や芯線温度など)により変化する降温ピーク面積を用いることにより、引張強さ、引張伸び、及び貯蔵弾性率を高い精度で推測できることがわかる。また、同様に、引張強さ、引張伸び、貯蔵弾性率以外の機械的強度、例えば、損失弾性率や、貯蔵弾性率と損失弾性率の比で表される損失正接などの貯蔵弾性率以外の粘弾性特性についても、降温ピーク面積を用いることにより高い精度で推測することができる。
【0033】
また、ここでは結晶性樹脂であるフッ素樹脂を含むフッ素系複合材料から形成される樹脂成形体の引張特性と粘弾性特性を推測する方法について述べたが、その他の結晶性樹脂を含む樹脂(単一材料でも複合材料でもよい)から形成される樹脂成形体の引張特性と粘弾性特性についても、同様の方法により引張特性と粘弾性特性を推測することができる。
【0034】
また、上記の本実施の形態に係る樹脂成形体の特性推測方法は、樹脂成形体の形態、例えば、チューブ押出、電線押出などの押出形態や、製造装置60のダイ62aの形状によって変化する形態、を問わずに適用することができる。さらに、射出成形などの押出成形以外の方法によって成形された樹脂成形体に対しても同様に適用することができる。
【0035】
すなわち、所定の結晶性樹脂を含む樹脂について、引張特性や粘弾性特性などの機械的強度とDSC曲線の降温ピーク面積との関係を回帰式として予め求めておくことによって、その結晶性樹脂を含む樹脂の機械的強度を示差走査熱量測定の結果と回帰式から推測することができる。
【0036】
より具体的には、推測対象である樹脂成形体と同じ材料からなり、異なる条件で成形された複数の樹脂成形体に、示差走査熱量測定と機械的強度の測定を実施し、降温ピーク面積と機械的強度をそれぞれ測定する。そして、降温ピーク面積の測定値を説明変数、機械的強度の測定値を目的変数とする回帰分析により、機械的強度を推測するための回帰式を得る。得られた回帰式に機械的強度を推測したい樹脂成形体の降温ピーク面積の測定値を代入することにより、機械的強度の推測値を得ることができる。
【0037】
例えば、樹脂成形体の引張特性を推測したい場合には、推測対象である樹脂成形体と同じ材料からなり、異なる条件で成形された複数の樹脂成形体に、示差走査熱量測定と引張試験を実施し、降温ピーク面積と引張特性値をそれぞれ測定する。そして、降温ピーク面積の測定値を説明変数、引張特性の測定値を目的変数とする回帰分析により、引張特性を推測するための回帰式を得る。得られた回帰式に引張特性を推測したい樹脂成形体の降温ピーク面積の測定値を代入することにより、引張特性の推測値を得ることができる。
【0038】
また、樹脂成形体の粘弾性特性を推測したい場合には、推測対象である樹脂成形体と同じ材料からなり、異なる条件で成形された複数の樹脂成形体に、示差走査熱量測定と粘弾性試験を実施し、降温ピーク面積と粘弾性特性値をそれぞれ測定する。そして、降温ピーク面積の測定値を説明変数、粘弾性特性の測定値を目的変数とする回帰分析により、粘弾性特性を推測するための回帰式を得る。得られた回帰式に粘弾性特性を推測したい樹脂成形体の降温ピーク面積の測定値を代入することにより、粘弾性特性の推測値を得ることができる。
【0039】
(実施の形態の効果)
上記本発明の実施の形態によれば、予め用意された回帰式を用いて、結晶性樹脂を含む樹脂を成形して成形される樹脂成形体の示差走査熱量測定により得られる降温ピーク面積(結晶性樹脂の結晶化熱量)から、引張特性や粘弾性特性を推測することができる。すなわち、降温ピーク面積という1つの物性値を測定することにより、引張試験や粘弾性試験を実施することなく、樹脂成形体の引張特性や粘弾性特性を高い精度で推測できる。
【0040】
上記本発明の実施の形態によれば、降温ピーク面積という1つの物性値のみを測定すればよいため、簡便かつ短時間で樹脂成形体の引張特性や粘弾性特性などの機械的強度を評価することができる。また、少量の試料(例えば5mg程度)があれば示差走査熱量測定を実施することができるため、樹脂成形体の機械的強度を少量の試料から推測することができる。また、この降温ピーク面積から機械的強度を推測する方法を機械的強度の実測と組み合わせることにより、樹脂成形体の最終持性値の二重確認を行うことができる。
【0041】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について記載する。ただし、以下の記載は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0042】
[1]結晶性樹脂を含む樹脂からなる樹脂成形体の降温ピーク面積を測定する工程と、予め用意された回帰式を用いて、前記樹脂成形体の機械的強度を前記降温ピーク面積から推測する工程と、を含み、前記降温ピーク面積が、示差走査熱量測定により得られる示差走査熱量曲線において降温時に現れる発熱ピークの面積である、樹脂成形体の特性推測方法。
【0043】
[2]前記機械的強度が、引張特性と粘弾性特性のいずれか一方又は両方である、上記[1]に記載の樹脂成形体の特性推測方法。
【0044】
[3]前記回帰式として、前記引張特性を推測するための第1の回帰式と前記粘弾性特性を推測するための第2の回帰式の少なくともいずれか一方が用いられ、前記第1の回帰式が、前記樹脂成形体と同じ材料からなる複数の第1の成形体の降温ピーク面積の測定値を説明変数、前記複数の第1の成形体の引張特性の測定値を目的変数とする回帰分析により得られ、前記第2の回帰式が、前記樹脂成形体と同じ材料からなる複数の第2の成形体の降温ピーク面積の測定値を説明変数、前記複数の第2の成形体の粘弾性特性の測定値を目的変数とする回帰分析により得られる、上記[2]に記載の樹脂成形体の特性推測方法。
【0045】
[4]前記引張特性が、引張強さと引張伸びの少なくともいずれか一方を含む、上記[2]又は[3]に記載の樹脂成形体の特性推測方法。
【0046】
[5]前記粘弾性特性が、貯蔵弾性率を含む、上記[2]又は[3]に記載の樹脂成形体の特性推測方法。
【0047】
[6]前記結晶性樹脂が、フッ素系材料である、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の樹脂成形体の特性推測方法。
【0048】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。また、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7