(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168415
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】酸化中和処理方法
(51)【国際特許分類】
C22B 23/00 20060101AFI20241128BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
C22B23/00 102
C22B3/44 101A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085089
(22)【出願日】2023-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中曽根 僚
(72)【発明者】
【氏名】山本 堅士
(72)【発明者】
【氏名】山口 洋平
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA19
4K001BA19
4K001DB21
4K001DB23
4K001DB26
(57)【要約】
【課題】塩素が水を酸化して塩酸および酸素を発生させる副反応がどの程度生じているか監視できる酸化中和処理方法を提供する。
【解決手段】酸化中和処理方法は、反応槽内の不純物を含む被処理水に、酸化剤として塩素ガスを吹き込み、中和剤を添加して、酸化中和反応により不純物を含む中和澱物を生成する酸化中和工程と、反応槽の環集ガスの酸素濃度および窒素濃度を測定する測定工程と、環集ガスの窒素濃度から求められる大気由来の酸素濃度を環集ガスの酸素濃度から差し引いて反応由来の酸素濃度を求め、反応由来の酸素濃度に環集ガスの物量を乗じて酸素発生量を求める酸素発生量推定工程とを有する。酸素発生量に基づき副反応がどの程度生じているか監視できる。また、酸素発生量が少なくなるように酸化中和工程の条件を調整することで、酸化剤および中和剤の消費量を低減でき、薬剤コストを抑制できる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応槽内の不純物を含む被処理水に、酸化剤として塩素ガスを吹き込み、中和剤を添加して、酸化中和反応により前記不純物を含む中和澱物を生成する酸化中和工程と、
前記反応槽の環集ガスの酸素濃度および窒素濃度を測定する測定工程と、
前記環集ガスの前記窒素濃度から求められる大気由来の酸素濃度を前記環集ガスの前記酸素濃度から差し引いて反応由来の酸素濃度を求め、該反応由来の該酸素濃度に前記環集ガスの物量を乗じて酸素発生量を求める酸素発生量推定工程と、を備える
ことを特徴とする酸化中和処理方法。
【請求項2】
前記中和剤は炭酸塩であり、
前記測定工程において、前記環集ガスの前記窒素濃度は、前記環集ガスの前記酸素濃度および二酸化炭素濃度から特定される
ことを特徴とする請求項1記載の酸化中和処理方法。
【請求項3】
前記酸素発生量を指標として前記酸化中和工程の条件を調整する調整工程を備える
ことを特徴とする請求項1記載の酸化中和処理方法。
【請求項4】
前記被処理水は塩化ニッケル水溶液であり、
前記調整工程において、前記塩化ニッケル水溶液のニッケル濃度を調整する
ことを特徴とする請求項3記載の酸化中和処理方法。
【請求項5】
前記調整工程において、前記塩素ガスの吹き込み量を調整する
ことを特徴とする請求項3記載の酸化中和処理方法。
【請求項6】
前記被処理水は塩化ニッケル水溶液である
ことを特徴とする請求項1~3、5のいずれかに記載の酸化中和処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化中和処理方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、塩化ニッケル水溶液などの被処理水に含まれる不純物を酸化中和法により除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケルの湿式製錬プロセスでは、ニッケル硫化物を塩素浸出し、得られた塩化ニッケル水溶液から不純物を除去して、電解採取により電気ニッケルを回収することが行われる。塩化ニッケル水溶液から不純物を除去する方法として酸化中和法が知られている。例えば、特許文献1には、酸化中和法により塩化ニッケル水溶液に含まれる鉛などの不純物を除去することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
塩化ニッケル水溶液に酸化剤として塩素ガスを吹き込み、中和剤として塩基性炭酸ニッケルを添加すると、次の主反応によりニッケル澱物が生成される。これと同時に、塩化ニッケル水溶液に含まれる鉛、マンガンなどの不純物が水酸化物または酸化物として沈澱する。これらの中和澱物を固液分離により除去すれば、清澄な塩化ニッケル水溶液が得られる。
(主反応)
3NiCl2+Cl2+(4/3)Ni3(CO3)(OH)4・4H2O
→Ni3O2(OH)4+4NiCl2+(4/3)CO2+6H2O
【0005】
しかし、酸化剤として塩素を用いた酸化中和処理においては、前記の主反応だけでなく、塩素が水を酸化して塩酸および酸素を発生させる次の副反応も生じることがある。
(副反応)
Cl2+H2O→2HCl+(1/2)O2
【0006】
副反応により酸化剤である塩素が消費されるとともに、副反応により生じた塩酸が中和剤を消費する。すなわち、酸化剤および中和剤の一部が中和澱物の生成に寄与せず、薬剤ロスとなる。そのため、副反応は酸化剤および中和剤の消費量が増加する原因となり、薬剤コストの増加を招いている。
【0007】
そこで、副反応が抑制されるような操業条件を選択し、酸化剤および中和剤の消費量を低減することが考えられる。そのためには、副反応がどの程度生じているか監視する必要があるが、その方法は知られていない。
【0008】
本発明は上記事情に鑑み、塩素が水を酸化して塩酸および酸素を発生させる副反応がどの程度生じているか監視できる酸化中和処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1態様の酸化中和処理方法は、反応槽内の不純物を含む被処理水に、酸化剤として塩素ガスを吹き込み、中和剤を添加して、酸化中和反応により前記不純物を含む中和澱物を生成する酸化中和工程と、前記反応槽の環集ガスの酸素濃度および窒素濃度を測定する測定工程と、前記環集ガスの前記窒素濃度から求められる大気由来の酸素濃度を前記環集ガスの前記酸素濃度から差し引いて反応由来の酸素濃度を求め、該反応由来の該酸素濃度に前記環集ガスの物量を乗じて酸素発生量を求める酸素発生量推定工程と、を備えることを特徴とする。
第2態様の酸化中和処理方法は、第1態様において、前記中和剤は炭酸塩であり、前記測定工程において、前記環集ガスの前記窒素濃度は、前記環集ガスの前記酸素濃度および二酸化炭素濃度から特定されることを特徴とする。
第3態様の酸化中和処理方法は、第1または第2態様において、前記酸素発生量を指標として前記酸化中和工程の条件を調整する調整工程を備えることを特徴とする。
第4態様の酸化中和処理方法は、第3態様において、前記被処理水は塩化ニッケル水溶液であり、前記調整工程において、前記塩化ニッケル水溶液のニッケル濃度を調整することを特徴とする。
第5態様の酸化中和処理方法は、第3または第4態様において、前記調整工程において、前記塩素ガスの吹き込み量を調整することを特徴とする。
第6態様の酸化中和処理方法は、第1~第3、第5態様のいずれかにおいて、前記被処理水は塩化ニッケル水溶液であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、酸素発生量に基づき、塩素が水を酸化して塩酸および酸素を発生させる副反応がどの程度生じているか監視できる。また、酸素発生量が少なくなるように酸化中和工程の条件を調整することで、酸化剤および中和剤の消費量を低減でき、薬剤コストを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】ニッケルの湿式製錬プロセスの全体工程図である。
【
図4】粗塩化ニッケル水溶液のニッケル濃度と酸素発生量との関係を示すグラフである。
【
図5】塩素量と酸素発生量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明の一実施形態に係る酸化中和処理方法は、被処理水に含まれる不純物を酸化中和法により除去する方法である。
【0013】
被処理水は不純物を含む水溶液である。被処理水として、塩化ニッケル水溶液、塩化コバルト水溶液などが挙げられる。塩化ニッケル水溶液に含まれる不純物として、鉄、鉛、マンガン、コバルトなどが挙げられる。塩化コバルト水溶液に含まれる不純物として、鉄、鉛、マンガンなどが挙げられる。被処理水は、酸化中和処理を経て、不純物が除去される。ただし、処理後の被処理水には、除去しきれない不純物が残留することがある。
【0014】
本実施形態の酸化中和処理方法は、以下に説明するニッケルの湿式製錬プロセスの脱鉄工程および脱鉛工程、特に脱鉛工程に好適に適用される。そのため、以下、脱鉛工程において塩化ニッケル水溶液を処理する場合を例に説明する。ただし、本実施形態の酸化中和処理方法は脱鉛工程に限定されず、いかなるプロセスの工程にも適用し得る。また、被処理水は塩化ニッケル水溶液に限定されない。
【0015】
図1に示すように、ニッケルの湿式製錬プロセスでは、まず、原料であるニッケル硫化物を浸出工程で処理して浸出液を得る。ニッケル硫化物として、ニッケルマットおよびニッケル・コバルト混合硫化物を用いることができる。
【0016】
浸出工程には塩素浸出工程およびセメンテーション工程が含まれる。塩素浸出工程では、浸出槽に吹き込まれる塩素ガスの酸化力によって、原料スラリー中の固形物に含まれる金属が実質的に全て液中に浸出される。セメンテーション工程では、塩素浸出液とニッケル硫化物、好ましくはニッケルマットとを接触させて、銅とニッケルとの置換反応を行う。これにより、例えばニッケルマット中のニッケルが液に置換浸出され、液中の銅イオンが硫化銅または金属銅の形態で析出する。浸出工程で得られる浸出液は、主成分が塩化ニッケル水溶液であり、コバルトのほか、銅、鉄、鉛などの不純物が含まれる。
【0017】
脱鉄工程では、酸化中和法により浸出液(塩化ニッケル水溶液)から鉄、砒素などの不純物を除去する。脱鉄工程では、浸出液に酸化剤を作用させて酸化還元電位(Ag/AgCl電極基準、以下同じ。)を400~1,100mVに調整しつつ、中和剤を添加してpHを1.5~3に調整する。酸化剤として、例えば塩素ガスが用いられる。また、中和剤として、例えば炭酸ニッケルが用いられる。酸化中和反応により浸出液に含まれる鉄、砒素などの不純物を水酸化物または酸化物として沈澱させる。固液分離により沈澱物を除去することで、不純物が除去された脱鉄終液が得られる。
【0018】
溶媒抽出工程では、脱鉄終液に含まれるコバルトを溶媒抽出により分離し、塩化ニッケル水溶液と塩化コバルト水溶液とを得る。以下、説明の便宜のため、溶媒抽出工程で得られる塩化ニッケル水溶液および塩化コバルト水溶液を、それぞれ粗塩化ニッケル水溶液および粗塩化コバルト水溶液と称する。粗塩化ニッケル水溶液のニッケル濃度は160~200g/Lである。また、粗塩化ニッケル水溶液には、鉛、マンガン、コバルト、亜鉛などの不純物が含まれる。なお、脱鉄終液に含まれるコバルトは有機溶媒に抽出され、脱鉄終液中の塩化ニッケルから選択分離されるが、それでもなお極微量のコバルトは抽出残液(粗塩化ニッケル水溶液)側に残留する。
【0019】
粗塩化コバルト水溶液は、浄液工程において不純物が除去されて、高純度塩化コバルト水溶液となってコバルト電解工程に送られる。コバルト電解工程では電解採取により電気コバルトが製造される。
【0020】
粗塩化ニッケル水溶液は、脱鉛工程において不純物が除去されて、高純度塩化ニッケル水溶液となる。脱鉛工程の詳細は後に説明する。なお、脱鉛工程の後、必要に応じて他の浄液処理を行ってもよい。例えば、塩化ニッケル水溶液に残留した微量の亜鉛を陰イオン交換樹脂に吸着させることで除去してもよい。高純度塩化ニッケル水溶液はニッケル電解工程に送られる。ニッケル電解工程では電解採取により電気ニッケルが製造される。
【0021】
図2に示すように、脱鉛工程は、希釈工程、酸化中和工程、および固液分離工程の3つの小工程を有する。なお、以下の説明において「粗塩化ニッケル水溶液」との用語は、脱鉛工程の始液という意味のほか、希釈工程および酸化中和工程における被処理水という意味でも用いる。
【0022】
希釈工程では、粗塩化ニッケル水溶液に希釈剤を添加して希釈することによりニッケル濃度を低下させる。例えば、溶媒抽出工程で得られた粗塩化ニッケル水溶液(ニッケル濃度160~200g/L)を、ニッケル濃度が90~130g/Lとなるように希釈する。なお、粗塩化ニッケル水溶液の主成分は塩化ニッケルであることから、粗塩化ニッケル水溶液の塩化物イオン濃度を示す指標としてニッケル濃度を用いることができる。
【0023】
粗塩化ニッケル水溶液のニッケル濃度を130g/L以下とすれば、塩化物イオン濃度が低いためクロロ錯体が不安定化し、酸化中和工程において不純物、特にコバルトが沈澱しやすくなる。また、粗塩化ニッケル水溶液のニッケル濃度を130g/L以下とすれば、澱物粒子の核成長が促進され粒径が大きくなることから、固液分離工程の濾過性が向上する。粗塩化ニッケル水溶液のニッケル濃度を90g/L以上とすれば、希釈剤の添加量を少なくでき、粗塩化ニッケル水溶液の液量の大幅な増加を抑制できるので、設備容量を増加させる必要がない。
【0024】
希釈剤としてはニッケル電解廃液を用いることが好ましい。ニッケル電解廃液は、ニッケル電解工程において高純度塩化ニッケル水溶液を電解液として用いた後の廃液として得られる。ニッケル電解廃液を希釈剤として用いることで、湿式製錬プロセスの系内全体の液量を増加させないようにすることができる。希釈剤としてニッケル電解廃液に代えて工業用水を用いてもよい。工業用水を用いれば、ニッケル電解廃液を用いるよりも、少量の液で粗塩化ニッケル水溶液を目的とするニッケル濃度にまで希釈できる。
【0025】
希釈後の粗塩化ニッケル水溶液は酸化中和工程に送られる。酸化中和工程では、粗塩化ニッケル水溶液に酸化剤を作用させて酸化還元電位を600~1,200mVに調整しつつ、中和剤を添加してpHを4~6に調整する。酸化中和反応により粗塩化ニッケル水溶液に含まれる鉛、マンガン、コバルトなどの不純物をニッケル澱物と共沈させる。以下、不純物を含むニッケル澱物を中和澱物と称する。
【0026】
酸化剤として塩素ガスが用いられる。中和剤として、炭酸ニッケル、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、水酸化ニッケル、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムなどを用いることができる。これらのうち、炭酸ニッケルおよび水酸化ニッケルは塩化ニッケル水溶液の不純物を増加させることがないため、塩化ニッケル水溶液の酸化中和処理に好適に用いられる。
【0027】
中和澱物を含むスラリーは固液分離工程において、高純度塩化ニッケル水溶液と中和澱物とに分けられる。中和澱物の主成分はニッケルの水酸化物および酸化物である。そのため、中和澱物は硫酸ニッケルの原料として利用される。
【0028】
酸化中和工程では、
図3に示す反応槽が用いられる。反応槽には粗塩化ニッケル水溶液が連続的に供給される。粗塩化ニッケル水溶液の流量は、例えば、2,200~3,000L/分である。また、反応槽には酸化剤(塩素ガス)および中和剤が連続的に供給される。反応槽内の被処理水(粗塩化ニッケル水溶液)に、酸化剤として塩素ガスを吹き込み、中和剤を添加して、酸化中和反応により中和澱物を生成する。反応槽には粗塩化ニッケル水溶液と酸化剤(塩素ガス)および中和剤とを撹拌するための撹拌機が備えられている。中和澱物を含むスラリーは反応槽から連続的に排出される。
【0029】
なお、複数の反応槽を直列に接続して、酸化中和処理を段階的に行ってもよい。この場合、粗塩化ニッケル水溶液は最も上流の反応槽に連続的に供給され、下流の反応槽に順に流れていく。また、希釈工程を濃度調整槽で行ってもよいし、希釈工程と酸化中和工程とを同一の反応槽で行ってもよい。後者の場合、希釈前の粗塩化ニッケル水溶液と希釈剤の両方を反応槽に供給すればよい。この場合、反応槽から連続的に排出されるスラリー中の粗塩化ニッケル水溶液のニッケル濃度、あるいは希釈前の粗塩化ニッケル水溶液のニッケル濃度と希釈剤のニッケル濃度とを指標として、粗塩化ニッケル水溶液の希釈率を調整すればよい。
【0030】
酸化剤として供給された塩素ガスは粗塩化ニッケル水溶液に吸収され、ほぼ全量が酸化中和反応に寄与する。それでもなお、有毒ガスである塩素ガスが反応槽の外部に漏洩することを防止するため、反応槽の気相部には環集配管が接続されており、誘引ファンにより反応槽の内部が負圧に保たれている。誘引ファンで引かれたガス(以下、「環集ガス」と称する。)は、環集配管を通って除害塔に送られる。環集ガスには反応槽で発生したガスのほか、反応槽の隙間から流入した大気(フリーエアー)が含まれる。
【0031】
粗塩化ニッケル水溶液に酸化剤として塩素ガスを吹き込み、中和剤として塩基性炭酸ニッケルを添加すると、次の主反応によりニッケル澱物が生成される。これと同時に、粗塩化ニッケル水溶液に含まれる鉛、マンガンなどの不純物が水酸化物または酸化物として沈澱する。
(主反応)
3NiCl2+Cl2+(4/3)Ni3(CO3)(OH)4・4H2O
→Ni3O2(OH)4+4NiCl2+(4/3)CO2+6H2O
【0032】
なお、中和剤として炭酸ニッケル、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウムなどの炭酸塩を用いた場合、二酸化炭素が発生する。発生した二酸化炭素は環集ガスとして排出される。
【0033】
また、酸化剤として塩素を用いた酸化中和処理においては、前記の主反応だけでなく、塩素が水を酸化して塩酸および酸素を発生させる次の副反応も生じることがある。副反応により発生した酸素は環集ガスとして排出される。
(副反応)
Cl2+H2O→2HCl+(1/2)O2
【0034】
副反応により酸化剤である塩素が消費されるとともに、副反応により生じた塩酸が中和剤を消費する。すなわち、酸化剤および中和剤の一部が中和澱物の生成に寄与せず、薬剤ロスとなる。そのため、副反応は酸化剤および中和剤の消費量が増加する原因となり、薬剤コストの増加を招いている。
【0035】
そこで、副反応が抑制されるような操業条件を選択し、酸化剤および中和剤の消費量を低減することが考えられる。そのためには、副反応がどの程度生じているか監視する必要がある。しかし、副反応がどの程度生じているかを直接測定することは困難である。そこで、本実施形態では、以下の測定工程および酸素発生量推定工程により、副反応がどの程度生じているかを監視する。
【0036】
測定工程では、反応槽の環集ガスの酸素濃度および窒素濃度を測定する。濃度測定にはガス分析計を用いることができる。環集ガスの酸素濃度および窒素濃度は、ガス分析計などで直接測定してもよいし、他の成分の濃度から間接的に特定してもよい。例えば、中和剤として炭酸塩を用いた場合には、主反応により発生した二酸化炭素も環集ガスに含まれる。この場合、環集ガスの酸素濃度および二酸化炭素濃度をガス分析計により直接測定し、それらの測定値から環集ガスの窒素濃度を特定してもよい。環集ガスに含まれる酸素および二酸化炭素の残部が窒素であると仮定し、100%から酸素濃度および二酸化炭素濃度を差し引いた値を窒素濃度とすればよい。
【0037】
なお、大気の成分は、窒素が78.1%、酸素が20.9%、アルゴンが0.9%、その他の微量成分が0.1%であることが知られている。100%から酸素濃度および二酸化炭素濃度を差し引いた値は、正確には、窒素、アルゴン、その他の微量成分(二酸化炭素を除く)の合計濃度である。
【0038】
つぎに、酸素発生量推定工程では、環集ガスの酸素濃度および窒素濃度から副反応により生じた酸素の量(以下、「酸素発生量」と称する。)を求める。具体的には、まず、環集ガスの窒素濃度から大気由来の酸素濃度(以下、「大気酸素濃度」と称する。)を求める。反応槽において窒素は発生しないから、環集ガスに含まれる窒素は全て大気由来である。また、大気に含まれる窒素と酸素の比率は既知である。そのため、環集ガスの窒素濃度に大気の窒素と酸素の比率を乗じれば大気酸素濃度が得られる。環集ガスの窒素濃度に乗じる比率は、窒素濃度を直接測定した場合には0.268(=20.9%/78.1%)であり、100%から酸素濃度および二酸化炭素濃度を差し引いた値を窒素濃度とした場合には0.264(=20.9%/79.1%)である。
【0039】
つぎに、環集ガスの酸素濃度から大気酸素濃度を差し引いて反応由来の酸素濃度(以下、「発生酸素濃度」と称する。)を求める。そして、発生酸素濃度に環集ガスの物量を乗じて酸素発生量を求める。環集ガスの物量としては、例えば、環集配管を流れる環集ガスの流量を用いることができる。
【0040】
例えば、環集ガスの酸素濃度が16.9%、二酸化炭素濃度が34.7%であったとする。この場合、窒素濃度(アルゴンなども含む)は48.4%と求まる。大気酸素濃度は窒素濃度(アルゴンなども含む)48.4%に0.264を乗じて12.8%と求まる。そして、環集ガスの酸素濃度16.9%から大気酸素濃度12.8%を差し引いて、発生酸素濃度は4.1%と求まる。
【0041】
酸素発生量は副反応により発生した酸素の量である。したがって、酸素発生量は副反応がどの程度生じているかの指標となる。すなわち、酸素発生量に基づき副反応がどの程度生じているか監視できる。
【0042】
また、酸素発生量を指標として酸化中和工程の条件を調整することで、副反応を抑制できる(調整工程)。例えば、酸素発生量が管理値以下となるように、酸化中和工程の条件を調整すればよい。
【0043】
被処理水が塩化ニッケル水溶液の場合、塩化ニッケル水溶液のニッケル濃度を調整することで、副反応の発生を抑制できる。
図4に示すグラフの横軸は脱鉛工程の粗塩化ニッケル水溶液のニッケル濃度であり、縦軸は前述の方法で求めた酸素発生量である。
図4のグラフから分かるように、粗塩化ニッケル水溶液のニッケル濃度が高いほど、酸素発生量が少なくなる。水溶液の塩化ニッケル濃度が高いほど水の活量が低下することが知られている。粗塩化ニッケル水溶液のニッケル濃度が高いと、水の活量が低下して水の酸化反応の平衡電位が上昇し、水の酸化、すなわち副反応が抑制されたと推測される。
【0044】
例えば、酸素発生量が管理値を上回った場合に、粗塩化ニッケル水溶液のニッケル濃度を高くすればよい。なお、粗塩化ニッケル水溶液のニッケル濃度は、希釈工程における希釈剤の添加量により調整できる。
【0045】
反応槽への塩素ガスの吹き込み量を調整することによっても、副反応を抑制できる。
図5に示すグラフの横軸は塩素量(反応槽への塩素ガスの流量を反応槽への粗塩化ニッケル水溶液の流量で割った値)であり、縦軸は前述の方法で求めた酸素発生量である。
図5のグラフから分かるように、粗塩化ニッケル水溶液のニッケル濃度が低い場合、特に111g/L以下の場合には、塩素量が少ないほど、酸素発生量が少なくなる。そこで、例えば、酸素発生量が管理値を上回った場合に、反応槽への塩素ガスの吹き込み量を少なくすればよい。ただし、塩素ガスの吹き込み量は粗塩化ニッケル水溶液の酸化還元電位に影響する。粗塩化ニッケル水溶液の酸化還元電位が酸化中和処理に適した範囲、脱鉛工程においては600~1,200mVとなるように塩素量を調整することが好ましい。
【0046】
そのほか、被処理水の温度を調整することによっても、副反応を抑制できると考えられる。
【0047】
以上のように、酸素発生量が少なくなるように酸化中和工程の条件を調整することで、副反応を抑制できる。その結果、酸化剤および中和剤の消費量を低減でき、薬剤コストを抑制できる。