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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168416
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】酸化中和処理方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 23/00 20060101AFI20241128BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
C22B23/00 102
C22B3/44 101A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085090
(22)【出願日】2023-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中曽根 僚
(72)【発明者】
【氏名】山本 堅士
(72)【発明者】
【氏名】山口 洋平
(72)【発明者】
【氏名】永井 啓明
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宣好
(72)【発明者】
【氏名】三ツ井 宏之
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA19
4K001BA19
4K001DB21
4K001DB23
4K001DB26
(57)【要約】
【課題】中和剤に要するコストを低減できる酸化中和処理方法を提供する。
【解決手段】酸化中和処理方法は、反応槽10内の被処理水に酸化剤および中和剤を添加して、酸化中和反応により中和澱物を生成する酸化中和工程と、排ガスと水酸化ナトリウム水溶液とを接触させて、未反応の水酸化ナトリウムを含む除害廃液を排出する除害工程とを有する。除害廃液を中和剤の一部として反応槽10に供給する。除害廃液を酸化中和処理の中和剤として再利用するので、新規の中和剤の消費量を低減でき、中和剤に要するコストを抑えることができる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応槽内の被処理水に酸化剤および中和剤を添加して、酸化中和反応により中和澱物を生成する酸化中和工程と、
排ガスと水酸化ナトリウム水溶液とを接触させて、未反応の水酸化ナトリウムを含む除害廃液を排出する除害工程と、を備え、
前記除害廃液を前記中和剤の一部として前記反応槽に供給する
ことを特徴とする酸化中和処理方法。
【請求項2】
前記中和剤の残部は炭酸塩であり、
前記排ガスは、前記酸化中和工程で発生した二酸化炭素を含む前記反応槽の環集ガスを含み、
前記除害廃液は前記除害工程で生成された炭酸ナトリウムを含む
ことを特徴とする請求項1記載の酸化中和処理方法。
【請求項3】
前記酸化剤は塩素ガスであり、
前記排ガスは、前記酸化中和工程における未反応の塩素ガスを含む前記反応槽の環集ガスを含み、
前記除害廃液は前記除害工程で生成された次亜塩素酸ナトリウムを含む
ことを特徴とする請求項1記載の酸化中和処理方法。
【請求項4】
前記被処理水は塩化ニッケル水溶液または塩化コバルト水溶液である
ことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の酸化中和処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化中和処理方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、塩化ニッケル水溶液などの被処理水に酸化剤および中和剤を添加して中和澱物を生成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケルの湿式製錬プロセスでは、ニッケル硫化物を塩素浸出し、得られた塩化ニッケル水溶液から不純物を除去して、電解採取により電気ニッケルを回収することが行われる。塩化ニッケル水溶液から不純物を除去する方法として酸化中和法が知られている。
【0003】
酸化中和処理には酸化剤および中和剤が必要であり、これらの薬剤コストが操業コストの大半を占めている。特に、ニッケルの湿式製錬プロセスにおいて行われる酸化中和処理に中和剤として炭酸ニッケルを用いる場合には、購入した炭酸ナトリウムを炭酸化剤として用いて炭酸ニッケルを製造するため、炭酸ニッケルの消費量が多いほど、薬剤コストが高くなる。
【0004】
この点について特許文献1には、系内の中和除害工程で得られた炭酸ナトリウム水溶液を利用して炭酸ニッケルを製造することが開示されている。これにより、酸化中和処理に必要な量の炭酸ニッケルを製造しつつ、購入した炭酸ナトリウムの使用量を低減でき、薬剤コストを抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-248245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示された方法では、炭酸ニッケルの製造において炭酸ナトリウムと塩化ニッケル水溶液とを反応させるため、pHの上昇に寄与する分など、相当量の炭酸ナトリウムがロスする。したがって、中和除害工程で得られた炭酸ナトリウムの全ての炭酸根を、酸化中和処理の中和剤として用いられる炭酸ニッケルとして再利用できるわけではなく、薬剤コストを抑える効果に限界がある。そこで、酸化中和処理の中和剤に要するコストをより低減することが求められている。
【0007】
本発明は上記事情に鑑み、中和剤に要するコストを低減できる酸化中和処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1態様の酸化中和処理方法は、反応槽内の被処理水に酸化剤および中和剤を添加して、酸化中和反応により中和澱物を生成する酸化中和工程と、排ガスと水酸化ナトリウム水溶液とを接触させて、未反応の水酸化ナトリウムを含む除害廃液を排出する除害工程と、を備え、前記除害廃液を前記中和剤の一部として前記反応槽に供給することを特徴とする。
第2態様の酸化中和処理方法は、第1態様において、前記中和剤の残部は炭酸塩であり、前記排ガスは、前記酸化中和工程で発生した二酸化炭素を含む前記反応槽の環集ガスを含み、前記除害廃液は前記除害工程で生成された炭酸ナトリウムを含むことを特徴とする。
第3態様の酸化中和処理方法は、第1または第2態様において、前記酸化剤は塩素ガスであり、前記排ガスは、前記酸化中和工程における未反応の塩素ガスを含む前記反応槽の環集ガスを含み、前記除害廃液は前記除害工程で生成された次亜塩素酸ナトリウムを含むことを特徴とする。
第4態様の酸化中和処理方法は、第1~第3態様のいずれかにおいて、前記被処理水は塩化ニッケル水溶液または塩化コバルト水溶液であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、除害廃液を酸化中和処理の中和剤として再利用するので、新規の中和剤の消費量を低減でき、中和剤に要するコストを抑えることができる。しかも、除害廃液をそのまま反応槽に供給するので、除害廃液に含まれるアルカリ成分の全てを中和剤として利用できる。そのため、除害廃液を利用して炭酸ニッケルを製造する場合に比べて、中和剤に要するコストをより低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ニッケルの湿式製錬プロセスの全体工程図である。
図2】第1実施形態における酸化中和処理設備の説明図である。
図3】第2実施形態における酸化中和処理設備の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
〔第1実施形態〕
本発明の第1実施形態に係る酸化中和処理方法は、被処理水に酸化剤および中和剤を添加して中和澱物を生成する方法である。例えば、被処理水に含まれる不純物を酸化中和法により除去する。
【0012】
被処理水として、塩化ニッケル水溶液、塩化コバルト水溶液などが挙げられる。被処理水は不純物を含んでもよい。塩化ニッケル水溶液に含まれる不純物として、鉄、鉛、マンガン、コバルトなどが挙げられる。塩化コバルト水溶液に含まれる不純物として、鉄、鉛、マンガンなどが挙げられる。被処理水は、酸化中和処理を経て、不純物が除去される。ただし、処理後の被処理水には、除去しきれない不純物が残留することがある。
【0013】
本実施形態の酸化中和処理方法は、以下に説明するニッケルの湿式製錬プロセスの脱鉄工程および脱鉛工程に好適に適用される。そのため、以下、脱鉄工程および脱鉛工程において塩化ニッケル水溶液を処理する場合を例に説明する。ただし、本実施形態の酸化中和処理方法は脱鉄工程および脱鉛工程に限定されず、いかなるプロセスの工程にも適用し得る。また、被処理水は塩化ニッケル水溶液に限定されない。
【0014】
図1に示すように、ニッケルの湿式製錬プロセスでは、まず、原料であるニッケル硫化物を浸出工程で処理して浸出液を得る。ニッケル硫化物として、ニッケルマットおよびニッケル・コバルト混合硫化物を用いることができる。
【0015】
浸出工程には塩素浸出工程およびセメンテーション工程が含まれる。塩素浸出工程では、浸出槽に吹き込まれる塩素ガスの酸化力によって、原料スラリー中の固形物に含まれる金属が実質的に全て液中に浸出される。セメンテーション工程では、塩素浸出液とニッケル硫化物、好ましくはニッケルマットとを接触させて、銅とニッケルとの置換反応を行う。これにより、例えばニッケルマット中のニッケルが液に置換浸出され、液中の銅イオンが硫化銅または金属銅の形態で析出する。浸出工程で得られる浸出液は、主成分が塩化ニッケル水溶液であり、コバルトのほか、銅、鉄、鉛などの不純物が含まれる。
【0016】
脱鉄工程では、酸化中和法により浸出液(塩化ニッケル水溶液)から鉄、砒素などの不純物を除去する。脱鉄工程では、浸出液に酸化剤を作用させて酸化還元電位(Ag/AgCl電極基準、以下同じ。)を400~1,100mVに調整しつつ、中和剤を添加してpHを1.5~3に調整する。酸化中和反応により浸出液に含まれる鉄、砒素などの不純物を水酸化物または酸化物として沈澱させる。固液分離により沈澱物を除去することで、不純物が除去された脱鉄終液が得られる。
【0017】
溶媒抽出工程では、脱鉄終液に含まれるコバルトを溶媒抽出により分離し、粗塩化ニッケル水溶液と粗塩化コバルト水溶液とを得る。粗塩化ニッケル水溶液のニッケル濃度は160~200g/Lである。また、粗塩化ニッケル水溶液には、鉛、マンガン、コバルト、亜鉛などの不純物が含まれる。なお、脱鉄終液に含まれるコバルトは有機溶媒に抽出され、脱鉄終液中の塩化ニッケルから選択分離されるが、それでもなお極微量のコバルトは抽出残液(粗塩化ニッケル水溶液)側に残留する。
【0018】
粗塩化コバルト水溶液は、浄液工程において不純物が除去されて、高純度塩化コバルト水溶液となってコバルト電解工程に送られる。コバルト電解工程では電解採取により電気コバルトが製造される。
【0019】
粗塩化ニッケル水溶液は、脱鉛工程において不純物が除去されて、高純度塩化ニッケル水溶液となる。脱鉛工程では、粗塩化ニッケル水溶液に酸化剤を作用させて酸化還元電位を600~1,200mVに調整しつつ、中和剤を添加してpHを4~6に調整する。酸化中和反応により粗塩化ニッケル水溶液に含まれる鉛、マンガン、コバルトなどの不純物をニッケル澱物と共沈させる。固液分離により沈澱物を除去することで高純度塩化ニッケル水溶液が得られる。
【0020】
なお、脱鉛工程の後、必要に応じて他の浄液処理を行ってもよい。例えば、塩化ニッケル水溶液に残留した微量の亜鉛を陰イオン交換樹脂に吸着させることで除去してもよい。高純度塩化ニッケル水溶液はニッケル電解工程に送られる。ニッケル電解工程では電解採取により電気ニッケルが製造される。
【0021】
脱鉄工程および脱鉛工程では、図2に示す酸化中和処理設備AAが用いられる。酸化中和処理設備AAは反応槽10および除害塔20を有する。反応槽10において酸化中和工程が行われ、除害塔20において除害工程が行われる。
【0022】
反応槽10には被処理水が連続的に供給される。被処理水は、脱鉄工程の場合は浸出工程で得られた浸出液であり、脱鉛工程の場合は溶媒抽出工程で得られた粗塩化ニッケル水溶液である。いずれの場合も、被処理水は不純物を含む塩化ニッケル水溶液である。なお、必要に応じて、前工程で得られた液を希釈したものを被処理水としてもよい。
【0023】
反応槽10には酸化剤および中和剤が供給される。反応槽10内の被処理水に酸化剤および中和剤を添加して、酸化中和反応により中和澱物を生成する(酸化中和工程)。反応槽10には被処理水と酸化剤および中和剤とを撹拌するための撹拌機11が備えられている。
【0024】
酸化剤は塩化ニッケル水溶液の酸化還元電位を上昇させることができるものであれば特に限定されないが、不純物を増加させることがない塩素ガスが好ましい。中和剤として、炭酸ニッケル、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、水酸化ニッケル、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムなどを用いることができる。これらのうち、炭酸ニッケルおよび水酸化ニッケルは塩化ニッケル水溶液の不純物を増加させることがないため好ましい。
【0025】
酸化剤の添加量は被処理水の酸化還元電位が酸化中和処理に適した範囲となるように調整される。脱鉄工程に適した酸化還元電位は400~1,100mVであり、脱鉛工程に適した酸化還元電位は600~1,200mVである。また、中和剤の添加量は被処理水のpHが酸化中和処理に適した範囲となるように調整される。脱鉄工程に適したpHは1.5~3であり、脱鉛工程に適したpHは4~6である。
【0026】
中和澱物を含むスラリーは反応槽10から連続的に排出される。スラリーは処理後液と中和澱物とに固液分離される。処理後液は、脱鉄工程の場合は脱鉄終液であり、脱鉛工程の場合は高純度塩化ニッケル水溶液である。
【0027】
なお、酸化中和処理設備AAは複数の反応槽10を有してもよい。複数の反応槽10を直列に接続して、酸化中和処理を段階的に行ってもよい。この場合、被処理液は最も上流の反応槽10に連続的に供給され、下流の反応槽10に順に流れていく。
【0028】
酸化剤として供給された塩素ガスは被処理水に吸収され、ほぼ全量が酸化中和反応に寄与する。それでもなお、有毒ガスである塩素ガスが反応槽10の外部に漏洩することを防止するため、反応槽10の気相部には環集配管12が接続されており、誘引ファンにより反応槽10の内部が負圧に保たれている。誘引ファンで引かれたガス(以下、「環集ガス」と称する。)は、環集配管12を通って除害塔20に送られる。
【0029】
脱鉄工程および脱鉛工程において被処理水のpHは酸性領域であり、炭酸イオンが液中に溶解し難い。そのため、中和剤として炭酸ニッケル、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウムなどの炭酸塩を用いた場合、液中に溶出した炭酸イオンは二酸化炭素となって気相に分配される。発生した二酸化炭素は環集ガスとして排出され、除害塔20に送られる。
【0030】
除害塔20の中腹部には充填物が充填された充填物層21が形成されている。充填物層21の上方にはノズル22が配置されており、そのノズル22から水酸化ナトリウム水溶液からなる吸収液が散布される。散布された吸収液は、充填物の表面を伝わりながら流下した後、除害塔20の底部に一時的に貯留される。
【0031】
除害塔20の側壁のうち充填物層21の下方には、除害処理対象である排ガスの供給配管23が接続されている。除害塔20に導入された排ガスは塔頂に向かって上昇し、充填物層21を通過する間に吸収液と向流気液接触する。排ガスと水酸化ナトリウム水溶液からなる吸収液とを接触させることにより、排ガスに含まれる有害成分などが吸収液に捕集される(除害工程)。このようにして除害処理された排ガスは、除害塔20の塔頂から大気に放出される。
【0032】
吸収液は除害塔20の底部に一時的に貯留された後、除害廃液として排出される。なお、除害塔20の底部に貯留された吸収液を上部のノズル22に戻して、除害塔20内で吸収液を循環させてもよい。この場合、除害処理の進行とともに吸収液に含まれる水酸化ナトリウムが徐々に消費される。そのため、除害塔20の底部に貯留された吸収液の一部を除害廃液として排出するとともに、これを補う量の新規の吸収液を除害塔20に供給する。
【0033】
除害塔20には反応槽10の環集ガスが排ガスとして導入される。なお、脱鉄工程の反応槽10の環集ガスと脱鉛工程の反応槽10の環集ガスとを別々の除害塔20に導入してもよいし、同一の除害塔20に導入してもよい。また、除害塔20には、湿式製錬プロセスの他の工程で発生する排ガスを導入してもよい。
【0034】
本実施形態では、除害塔20から排出された除害廃液を反応槽10に供給する。除害廃液は酸化中和処理の中和剤の一部として用いられる。したがって、反応槽10に供給される中和剤は、一部が除害廃液であり、残部が炭酸ニッケルなどの新規の中和剤である。除害処理により吸収液に含まれる水酸化ナトリウムの一部が消費される。逆に言えば、除害廃液には未反応の水酸化ナトリウムが含まれる。特に、排ガスに含まれる有害成分を安全上、環境上問題ない濃度にまで低下させるには吸収液のpHを9~11程度に高くする必要があり、この場合、除害廃液に相当量の水酸化ナトリウムが残留する。除害廃液をそのまま反応槽10に供給することにより、除害廃液に含まれる水酸化ナトリウムを酸化中和処理の中和剤として利用できる。
【0035】
また、酸化中和処理の中和剤として炭酸塩を用いた場合には、二酸化炭素が発生し、その二酸化炭素が反応槽10の環集ガスに含まれる。二酸化炭素を含む環集ガスを排ガスとして除害塔20に導入すると、二酸化炭素と水酸化ナトリウムとが反応して炭酸ナトリウムが生成される。したがって、除害廃液には炭酸ナトリウムも含まれる。このような除害廃液を反応槽10に供給すれば、炭酸ナトリウムも酸化中和処理の中和剤として利用できる。
【0036】
なお、二酸化炭素を水酸化ナトリウム水溶液に捕集するには、水酸化ナトリウム水溶液のpHが高いほど好ましい。具体的には、水酸化ナトリウム水溶液のpHは9以上が好ましい。ただし、pHを上昇させると吸収液の生成に使用する水酸化ナトリウムの量が増加するため、pHを11以下とすることが工業的には好ましい。
【0037】
反応槽10に酸化剤として供給された塩素ガスは、基本的にはほぼ全量が被処理水に吸収されるが、微量の塩素ガスが未反応のまま反応槽10の気相部に抜ける。そのため、反応槽10の環集ガスには未反応の塩素ガスが含まれる。塩素ガスを含む環集ガスを排ガスとして除害塔20に導入すると、塩素ガスと水酸化ナトリウムとが反応して次亜塩素酸ナトリウムが生成される。したがって、除害廃液には次亜塩素酸ナトリウムも含まれる。このような除害廃液を反応槽10に供給すれば、次亜塩素酸ナトリウムを酸化中和処理の酸化剤として利用できる。
【0038】
以上のように、除害廃液を酸化中和処理の中和剤として再利用すれば、その分、新規の中和剤(炭酸ニッケルなど)の消費量を低減できる。そのため、中和剤に要するコストを抑えることができる。特に、本実施形態では、除害廃液をそのまま反応槽10に供給するので、除害廃液に含まれるアルカリ成分(水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム)の全てを中和剤として利用できる。そのため、除害廃液を利用して炭酸ニッケルを製造する場合に比べて、中和剤に要するコストをより低減できる。
【0039】
また、中和剤として炭酸塩を用いると、二酸化炭素が発生し、その二酸化炭素が吸収液に捕集される。そのため、除害廃液を系外に排出すると、炭素が系外に排出されることになる。除害廃液を系内で再利用すれば、その分、系外に排出される炭素量を削減でき、カーボンニュートラルに寄与することができる。
【0040】
なお、複数の反応槽10を直列に接続して酸化中和処理を段階的に行う場合、除害廃液をいずれの反応槽10に供給してもよい。ただし、除害廃液には中和に寄与しない成分も含まれることから、中和反応のための滞留時間を確保するために、上流の反応槽10に除害廃液を供給することが好ましい。
【0041】
〔第2実施形態〕
つぎに、本発明の第2実施形態に係る酸化中和処理方法を説明する。
図1に示すように、ニッケルの湿式製錬プロセスには、粗塩化コバルト水溶液の浄液工程が含まれる。この浄液工程には複数の詳細工程が含まれる。詳細工程の一つとして薄液中和工程がある。薄液中和工程では、粗塩化コバルト水溶液の浄液工程の各所で発生する薄液を処理する。薄液はコバルト濃度が5~50g/Lの塩化コバルト水溶液である。
【0042】
薄液を酸化中和処理に付すことにより、薄液に含まれるコバルトを水酸化物として回収する。回収されたコバルト水酸化物を系内に繰り返すことにより、コバルトの実収率を高くしている。また、系内には洗浄水などとして水が投入されるところ、酸化中和後の固液分離で得られる濾液を系外に払出すことによって、系内の水バランスを保っている。本実施形態の酸化中和処理方法は、この薄液中和工程に適用したものである。なお、酸化中和処理は、第1実施形態のごとく被処理水に含まれる不純物を除去する目的のほか、本実施形態のごとく被処理水に含まれる目的物質を回収する目的でも行われる。
【0043】
薄液中和工程では、図3に示す酸化中和処理設備BBが用いられる。酸化中和処理設備BBは反応槽10および除害塔20を有する。反応槽10には被処理水が連続的に供給される。被処理水は薄液(塩化コバルト水溶液)である。
【0044】
反応槽10には酸化剤および中和剤が供給される。反応槽10内の被処理水に酸化剤および中和剤を添加して、酸化中和反応により中和澱物を生成する(酸化中和工程)。特に限定されないが、酸化剤として塩素ガス、中和剤として水酸化ナトリウムが好適に用いられる。中和澱物はコバルト水酸化物を含む。
【0045】
中和澱物を含むスラリーは反応槽10から連続的に排出される。スラリーは処理後液と中和澱物とに固液分離される。コバルトを回収するため、中和澱物は系内に繰り返される。
【0046】
なお、酸化中和処理設備BBは複数の反応槽10を有してもよい。複数の反応槽10を直列に接続して、酸化中和処理を段階的に行ってもよい。
【0047】
除害塔20には吸収液として水酸化ナトリウム水溶液が供給されている。また、除害塔20には排ガスとして湿式製錬プロセスの各所から排出されるガスが導入されている。排ガスには、例えば、二酸化炭素、塩素、二酸化硫黄などが含まれる。排ガスには反応槽10の環集ガスが含まれてもよいし、含まれなくてもよい。
【0048】
排ガスと水酸化ナトリウム水溶液からなる吸収液とを接触させることにより、排ガスに含まれる有害成分などが吸収液に捕集される(除害工程)。このようにして除害処理された排ガスは、除害塔20の塔頂から大気に放出される。
【0049】
吸収液は除害塔20の底部に一時的に貯留された後、除害廃液として排出される。この除害廃液を反応槽10に供給する。除害廃液は酸化中和処理の中和剤の一部として用いられる。除害廃液には未反応の水酸化ナトリウムが含まれる。除害廃液をそのまま反応槽10に供給することにより、除害廃液に含まれる水酸化ナトリウムを酸化中和処理の中和剤として利用できる。
【0050】
除害塔20に導入される排ガスに二酸化炭素が含まれる場合には、除害廃液に炭酸ナトリウムが含まれる。この炭酸ナトリウムも酸化中和処理の中和剤として利用できる。除害塔20に導入される排ガスに塩素ガスが含まれる場合には、除害廃液に次亜塩素酸ナトリウムが含まれる。この次亜塩素酸ナトリウムは酸化中和処理の酸化剤として利用できる。
【0051】
このように、除害廃液を酸化中和処理の中和剤として再利用するので、、新規の中和剤の消費量を低減できる。そのため、中和剤に要するコストを抑えることができる。
【0052】
なお、複数の反応槽10を直列に接続して酸化中和処理を段階的に行う場合、除害廃液をいずれの反応槽10に供給してもよい。ただし、除害廃液には中和に寄与しない成分も含まれることから、中和反応のための滞留時間を確保するために、上流の反応槽10に除害廃液を供給することが好ましい。
【実施例0053】
(実施例1)
図1に示すニッケルの湿式製錬プロセスの操業を行った。脱鉛工程において、直列に接続された3つの反応槽を用いて、酸化中和法により粗塩化ニッケル水溶液に含まれる不純物を除去した。各反応槽の容量は50mである。第1槽に供給される粗塩化ニッケル水溶液のニッケル濃度は120~125g/Lである。第1槽への粗塩化ニッケル水溶液の流量は2,500~3,000L/分である。脱鉛工程で生成された中和澱物のニッケル品位は56~60%であった。
【0054】
第1槽および第2槽に酸化剤および中和剤を添加した。第3槽には酸化剤のみを添加した。酸化剤として塩素ガス、中和剤として炭酸ニッケルを用いた。第1槽における粗塩化ニッケル水溶液のpHが5.0~5.1となるように炭酸ニッケルの添加量を調整した。また、第1槽における粗塩化ニッケル水溶液の酸化還元電位が900~1,000mVとなるように塩素ガスの吹き込み量を調整した。
【0055】
第1~第3の反応槽の環集ガスを除害塔に導入した。また、除害塔から排出された除害廃液を第1槽に供給した。除害廃液のアルカリ濃度(水酸化ナトリウムおよび炭酸ナトリウムの合計濃度)は1.1mol/L、pHは9.0~9.5である。また、第1槽への除害廃液の供給量を8L/分とした。その結果、脱鉛工程で生成された中和澱物1t当たりの炭酸ニッケル使用量は2.00tであった。
【0056】
(比較例1)
実施例1において、除害塔から排出された除害廃液を反応槽に供給しなかった。その結果、脱鉛工程で生成された中和澱物1t当たりの炭酸ニッケル使用量は2.06tであった。
【0057】
以上より、除害廃液を反応槽に供給することで、中和澱物1t当たりの炭酸ニッケル使用量を2.06tから2.00tに、およそ3%低減できることが確認された。
【0058】
(実施例2)
図1に示すニッケルの湿式製錬プロセスの操業を行った。粗塩化コバルト水溶液の浄液工程に含まれる薄液中和工程において、直列に接続された2つの反応槽を用いて、酸化中和法により薄液に含まれるコバルトを回収した。酸化剤として塩素ガス、中和剤として水酸化ナトリウムを用いた。
【0059】
除害塔から排出された除害廃液を第1槽に供給した。ここで、除害廃液の供給量を、第1槽への薄液の流量に対して5%とした。
【0060】
(比較例2)
実施例2において、除害塔から排出された除害廃液を反応槽に供給しなかった。
【0061】
反応槽に新規に供給した水酸化ナトリウムの量を確認したところ、実施例2の水酸化ナトリウムの使用量は比較例2の場合の80%であることが確認された。以上より、除害廃液を反応槽に供給することで、水酸化ナトリウムの使用量を20%低減できることが確認された。
【符号の説明】
【0062】
AA、BB 酸化中和処理設備
10 反応槽
11 撹拌機
12 環集配管
20 除害塔
21 充填物層
22 ノズル
23 供給配管
図1
図2
図3