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特開2024-168422初期応力算出プログラム、及び初期応力算出方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168422
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】初期応力算出プログラム、及び初期応力算出方法
(51)【国際特許分類】
   G01L 1/00 20060101AFI20241128BHJP
   G01N 3/00 20060101ALI20241128BHJP
   E02D 1/00 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
G01L1/00 M
G01N3/00 D
E02D1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085103
(22)【出願日】2023-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】川久保 昌平
(72)【発明者】
【氏名】板場 智史
【テーマコード(参考)】
2D043
2G061
【Fターム(参考)】
2D043AA01
2G061AA11
2G061AB01
2G061CA06
2G061DA12
2G061EA04
(57)【要約】
【課題】本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、従来技術に比して小孔径のオーバーコアリングによって、高精度で初期応力を求めることができる初期応力算出プログラムと初期応力算出方法を提供することである。
【解決手段】本願発明の初期応力算出プログラムは、オーバーコアリングによる応力解放法によって得られた測定ひずみに基づいて初期応力を求める機能を、コンピュータに実行させるプログラムであって、複素応力関数設定処理と応力算定式設定処理、解析ひずみ算定式設定処理、応力算出処理をコンピュータに実行させる機能を備えたものである。応力算出処理では、測定ひずみとなるように逆解析を行うことによって初期応力を求める。
【選択図】図19
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーバーコアリングによる応力解放法によって得られた測定ひずみに基づいて、初期応力を求める機能を、コンピュータに実行させるプログラムであって、
ひずみ計領域、接着領域、コア岩盤領域、及び周辺岩盤領域の4領域ごとに、初期応力に基づいて設定される関数であって、式C1で示す面内第1複素応力関数φ(z)、面内第2複素応力関数ψ(z)、及び面外複素応力関数χ(z)を設定する複素応力関数設定処理と、
前記4領域ごとに、前記面内第1複素応力関数φ(z)に基づいて直応力σを求める関数と、前記面内第2複素応力関数ψ(z)に基づいて直応力σを求める関数を、式C2で設定するとともに、直応力σを求める関数を式C3で設定する応力算定式設定処理と、
式C2と式C3によって得られる直応力に基づいて解析ひずみを求める関数を、式C4で設定する解析ひずみ算定式設定処理と、
式C4の左辺が前記測定ひずみとなるように逆解析を行うことによって、初期直応力を求める応力算出処理と、を前記コンピュータに実行させる機能を備えた、
ことを特徴とする初期応力算出プログラム。
【請求項2】
前記算定式設定処理では、前記4領域ごとに、前記面外複素応力関数χ(z)に基づいてせん断応力を求める関数を式C5で設定し、
前記算定式設定処理では、式C5によって得られるせん断応力に基づいてせん断ひずみを求める関数を式C6で設定し、
前記応力算出処理では、式C6の左辺が前記測定ひずみとなるように逆解析を行うことによって、初期せん断応力を求める、
ことを特徴とする請求項1記載の初期応力算出プログラム。
【請求項3】
前記測定ひずみ、感度係数aij、及び初期応力の関係を式C7で設定する測定ひずみ関係式設定処理と、
前記感度係数aijを設定する感度係数設定処理と、を前記コンピュータに実行させる機能をさらに備え、
前記応力算出処理では、前記感度係数設定処理で設定された前記感度係数aijと、前記測定ひずみと、を式C7に入力することによって、初期直応力と初期せん断応力を求める、
ことを特徴とする請求項2記載の初期応力算出プログラム。
【請求項4】
前記感度係数設定処理では、ひずみ計の位置ごとに前記感度係数ai1~ai6を設定し、
また前記感度係数設定処理では、直応力及びせん断応力ごとに単位大きさを設定したうえで、式C1、式C2、式C3、及び式C4で得られる前記解析ひずみを、前記感度係数aijとして設定し、
前記測定ひずみが7個以上得られているときは、最小二乗法によって式C7の初期直応力と初期せん断応力を求める、
ことを特徴とする請求項3記載の初期応力算出プログラム。
【請求項5】
コア軸方向の応力のつり合いによって得られる連成複素応力関数を、式C8で設定する連成複素応力関数設定処理と、
前記複素応力関数設定処理で設定された複素応力関数と、前記連成複素応力関数と、を重ね合わせた重合複素応力関数を、式C9で設定する重合複素応力関数設定処理と、を前記コンピュータに実行させる機能をさらに備え、
前記感度係数設定処理では、ひずみ計の位置ごとに前記感度係数ai1~ai6を設定し、
また前記感度係数設定処理では、直応力及びせん断応力ごとに単位大きさを設定したうえで、式C9、式C2、式C3、及び式C4で得られる前記解析ひずみを、前記感度係数aijとして設定し、
前記測定ひずみが7個以上得られているときは、最小二乗法によって式C7の初期直応力と初期せん断応力を求める、
ことを特徴とする請求項3記載の初期応力算出プログラム。
【請求項6】
オーバーコアリングによる応力解放法によって得られた測定ひずみに基づいて、初期応力を求める方法であって、
オーバーコアリングによる応力解放法によって、前記測定ひずみを取得する測定工程と、
ひずみ計領域、接着領域、コア岩盤領域、及び周辺岩盤領域の4領域ごとに、初期応力に基づいて設定される関数であって、式C1で示す面内第1複素応力関数φ(z)、面内第2複素応力関数ψ(z)、及び面外複素応力関数χ(z)を設定する複素応力関数設定工程と、
前記4領域ごとに、前記面内第1複素応力関数φ(z)に基づいて直応力σを求める関数と、前記面内第2複素応力関数ψ(z)に基づいて直応力σを求める関数を、式C2で設定するとともに、直応力σを求める関数を式C3で設定する応力算定式設定工程と、
式C2と式C3によって得られる直応力に基づいて解析ひずみを求める関数を式C4で設定する解析ひずみ算定式設定工程と、
式C4の左辺が前記測定ひずみとなるように逆解析を行うことによって、初期直応力を求める応力算出工程と、を備えた、
ことを特徴とする初期応力算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、地盤の初期応力の算出に関する技術であり、より具体的には、オーバーコアリングによって採取された円柱供試体を「ひずみ計領域」と「接着領域」、「コア岩盤領域」からなる3層構造モデルとし、さらに面内と面外における応力成分の連成効果を考慮した弾性理論による厳密解を初期応力として得ることができる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
岩盤上、あるいは岩盤内に構築する構造物の設計計画を行うにあたっては、その岩盤の力学特性を把握することが極めて重要となる。岩盤の力学特性としては、例えば岩盤の応力状態や変形係数などが挙げられ、このうち岩盤の応力状態は、トンネルや大深度地下空洞を新設するための設計、あるいは想定以上の変状が見られる既設トンネルや経年劣化が顕著な老朽トンネルなどを補強するための設計にとって、不可欠な情報といえる。また、このような設計を行うにあたっては、応力のうち2次元の応力成分(例えば、ボーリング軸に直交する面内の成分)のみならず、3次元の応力成分(面内成分に加え、軸方向の成分)が必要とされる。
【0003】
岩盤の応力状態を把握するには原位置試験、すなわち実際に現地で応力測定を行うのが一般的であり、特許文献1、2に示される「応力解放法」と、特許文献3に示される「水圧破砕法」に大別することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62-220823号公報
【特許文献2】特開2005-69937号公報
【特許文献3】特開昭62-050591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献3に示されるような水圧破砕法は、地上からボーリング孔を設け、そのうち所定区間をパッカーで塞栓するとともに、この部分に対して水圧を与えることで人工亀裂を発生させ、水圧と亀裂の関係から岩盤の応力を求める手法である。このように水圧破砕法は、地上からのボーリング孔で応力を測定することができるものの、2次元の応力成分しか得ることができず、3次元の応力成分を把握するためには方向を変えて複数のボーリング孔を設ける必要がある。
【0006】
一方、特許文献1や特許文献2に示されるような応力解放法は、オーバーコアリング前後の解放ひずみを一定時間連続計測することで岩盤の応力を求める手法である。以下、図29を参照しながら、特許文献1に示される埋設ひずみ法の手順について説明する。まず、図29(a)の初期状態に対して、図29(b)に示すように例えばφ46mmの径でパイロット孔PHを削孔する。そして、図29(c)に示すようにパイロット孔PHにひずみ計ISを設置すると同時に、パイロット孔PHとひずみ計ISの間にグラウトGRを注入する。グラウトGRが硬化すると、例えばφ200mmの径でオーバーコアリングOCを行い、図29(d)に示す円柱の供試体SPを取り出して、オーバーコアリング前後のひずみ計ISの値を読み取る。この応力解放法では、3次元の応力成分を測定することができるものの、トンネル坑内からの水平ボーリング孔を利用する手法であり、地上からのボーリング孔で応力を測定することはできない。
【0007】
従来の応力解放法は、オーバーコアリングした円柱供試体を「ひずみ計領域」と「コア岩盤領域」からなる2層構造モデルとしたうえで解析により応力を求めるか、あるいは別途感度試験を実施してグラウト層(接着領域)を含めたひずみ感度係数を求める手法であり、ひずみ計をコア岩盤に接着するためのグラウト層(接着領域)を考慮していない。そのため応力解放法によって初期応力を解析のみで求める場合には、十分な解析精度を得ることができなかった。さらに特許文献1に示される従来の応力解放法は、コア岩盤の径(円柱供試体の径)を無限遠として取り扱うため、オーバーコアリングが大孔径(通常φ200mm程度)となり、したがって測定及び感度試験を行うには多大な労力と時間が強いられる。また、大孔径のオーバーコアリングが避けられないことから、大深度ボーリングやコントロールボーリングに適用することもできない。一方、特許文献2の応力解放法では、φ76~86mmでのオーバーコアリングが可能であるが、孔内に湧水がある場合や多孔質岩盤では、ひずみ計ISの接着作業が困難となって測定ができない場合がある等、現場の制約条件が伴う。
【0008】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、従来技術に比して小孔径でオーバーコアリングを行うとともに、特許文献1の従来手法による確実なグラウトによってひずみ計を埋設することで、高精度で初期応力を求めることができる初期応力算出プログラムと初期応力算出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、コア岩盤を有限位置として取り扱うことによって小孔径のオーバーコアリングを実現するとともに、円柱供試体を「ひずみ計領域」と「接着領域」、「コア岩盤領域」からなる3層構造モデルとしたうえで三次元解析を行う、という点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われた発明である。
【0010】
本願発明の初期応力算出プログラムは、オーバーコアリングによる応力解放法によって得られた測定ひずみに基づいて初期応力を求める機能を、コンピュータに実行させるプログラムであって、複素応力関数設定処理と応力算定式設定処理、解析ひずみ算定式設定処理、応力算出処理をコンピュータに実行させる機能を備えたものである。このうち複素応力関数設定処理では、ひずみ計領域と接着領域、コア岩盤領域、周辺岩盤領域の4領域ごとに、式C1で示す面内第1複素応力関数φ(z)と面内第2複素応力関数ψ(z)、面外複素応力関数χ(z)を設定する。なお、これら面内第1複素応力関数φ(z)と面内第2複素応力関数ψ(z)、面外複素応力関数χ(z)は初期応力に基づいて設定される関数である。また応力算定式設定処理では、面内第1複素応力関数φ(z)に基づいて直応力σを求める関数と、面内第2複素応力関数ψ(z)に基づいて直応力σを求める関数を、4領域ごとに式C2で設定するとともに、直応力σを求める関数を4領域ごとに式C3で設定する。解析ひずみ算定式設定処理では、式C2と式C3によって得られる直応力に基づいて解析ひずみを求める関数を式C4で設定し、応力算出処理では、式C4の左辺が測定ひずみとなるように逆解析を行うことによって初期主応力を求める。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【0011】
本願発明の初期応力算出プログラムは、初期せん断応力を求める処理をコンピュータに実行させる機能を備えたものとすることもできる。この場合、算定式設定処理では、面外複素応力関数χ(z)に基づいてせん断応力を求める関数を、4領域ごとに式C5で設定し、算定式設定処理では、式C5によって得られるせん断応力に基づいてせん断ひずみを求める関数を式C6で設定する。そして応力算出処理では、式C6の左辺が測定ひずみとなるように逆解析を行うことによって、初期せん断応力を求める。
【数5】
【数6】
【0012】
本願発明の初期応力算出プログラムは、測定ひずみ関係式設定処理と感度係数設定処理をコンピュータに実行させる機能をさらに備えたものとすることもできる。この測定ひずみ関係式設定処理では、測定ひずみと感度係数aij、初期応力の関係を式C7で設定し、感度係数設定処理では、感度係数aijを設定する。この場合、応力算出処理では、感度係数設定処理で設定された感度係数aijと、測定ひずみを式C7に入力することによって、初期直応力と初期せん断応力を求める。
【数7】
【0013】
本願発明の初期応力算出プログラムは、直応力及びせん断応力ごとに単位大きさを設定したうえで感度係数aijを設定するものとすることもできる。この場合、感度係数設定処理では、ひずみ計の位置ごとに感度係数ai1~ai6を設定するとともに、直応力とせん断応力ごとに単位大きさを設定したうえで、式C1と式C2、式C3、式C4で得られる解析ひずみを感度係数aijとして設定する。そして、測定ひずみが7個以上得られているときは、最小二乗法によって式C7の初期直応力と初期せん断応力を求める。
【0014】
本願発明の初期応力算出プログラムは、連成複素応力関数設定処理と重合複素応力関数設定処理をコンピュータに実行させる機能をさらに備えたものとすることもできる。この連成複素応力関数設定処理では、コア軸方向の応力のつり合いによって得られる連成複素応力関数を式C8で設定し、重合複素応力関数設定処理では、複素応力関数設定処理で設定された複素応力関数と、連成複素応力関数を重ね合わせた重合複素応力関数を式C9で設定する。この場合、感度係数設定処理では、ひずみ計の位置ごとに感度係数ai1~ai6を設定するとともに、直応力とせん断応力ごとに単位大きさを設定したうえで、式C9と式C2、式C3式C4で得られる解析ひずみを感度係数aijとして設定する。そして、測定ひずみが7個以上得られているときは、最小二乗法によって式C7の初期直応力と初期せん断応力を求める。
【数8】
【数9】
【0015】
本願発明の初期応力算出方法は、オーバーコアリングによる応力解放法によって得られた測定ひずみに基づいて初期応力を求める方法であって、測定工程と複素応力関数設定工程、応力算定式設定工程、算定式設定工程、応力算出工程を備えた方法である。このうち測定工程では、オーバーコアリングによる応力解放法によって測定ひずみを取得し、複素応力関数設定工程では、式C1で示す面内第1複素応力関数φ(z)と面内第2複素応力関数ψ(z)、面外複素応力関数χ(z)を、4領域ごとに設定する。また応力算定式設定工程では、面内第1複素応力関数φ(z)に基づいて直応力σを求める関数と、面内第2複素応力関数ψ(z)に基づいて直応力σを求める関数を、4領域ごとに式C2で設定するとともに、直応力σを求める関数を4領域ごとに式C3で設定する。解析ひずみ算定式設定工程では、式C2と式C3によって得られる直応力に基づいて解析ひずみを求める関数を式C4で設定し、応力算出工程では、式C4の左辺が測定ひずみとなるように逆解析を行うことによって初期直応力を求める。
【発明の効果】
【0016】
本願発明の初期応力算出プログラム、及び初期応力算出方法には、次のような効果がある。
(1)コア岩盤の径を有限長として解析することからオーバーコアリングを小孔径(例えばφ100mmなど、ボーリング孔と同径)とすることができ、これにより地上からの大深度測定やコントロールボーリングへの適用が可能となる。
(2)接着領域(グラウト層)も評価した解析であるため、ひずみ感度係数の算定が高精度となり、その結果、高い精度で初期応力を求めることができる。
(3)地上からボーリング孔の測定で3次元の初期応力成分を評価することができるため、応力解放法では必須とされるトンネルが形成されていない状況でも測定することができる。また、単独のボーリング孔の測定で3次元の初期応力成分を評価することができるため、水圧破砕法のように複数のボーリング孔を掘削する必要がない。
(4)理論解析法のため、市販されている表計算ソフトを利用した解析も可能となり、現場の作業員でも迅速かつ容易に解析結果を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本願発明における順解析の手順を示すフロー図。
図2】複素応力関数と応力算定式を示す数式図。
図3】ひずみ計領域と接着領域、コア岩盤領域、周辺岩盤領域からなる4層構造の解析モデルを示す断面図。
図4】(a)は4層構造の解析モデルと各種の応力成分を示すモデル図、(b)はオーバーコアリング後の合力の作用と反作、合力の釣合状態を示すモデル図。
図5】(a)はデカルト座標系における応力成分を示すモデル図、(b)は極座標系を示すモデル図。
図6】周辺岩盤領域における複素係数と、応力境界に沿って線積分した物理量、せん断剛性率を求める数式を示す数式図。
図7】測定ひずみを順解析によって求める数式を示す数式図。
図8】(a)はオーバーコアリング前の反対方向の応力がオーバーコアリング後に作用した状態を示すモデル図、(b)はポアソン効果によってコア軸方向の応力が作用した状態を示すモデル図。
図9】各領域の境界条件に基づいて設定される数式を示す数式図。
図10】面内問題の実部にかかる23元一次連立方程式を示す数式図。
図11】面内問題の虚部にかかる23元一次連立方程式を示す数式図。
図12】面外問題の実部にかかる8元一次連立方程式と、虚部にかかる8元一次連立方程式を示す数式図。
図13】連成問題におけるコア軸方向の釣合式を示す数式図。
図14】(a)はコア岩盤領域に生じた内圧を模式的に示すモデル図、(b)は接着領域に生じた内外圧を模式的に示すモデル図、(c)はひずみ計領域に生じた外圧を模式的に示すモデル図。
図15】連成問題における複素応力関数を含む数式を示す数式図。
図16】式1による複素応力関数と式21による連成複素応力関連成を重ね合わせた複素応力関数を含む数式を示す数式図。
図17】斜めひずみ成分εの方向と角度αをなす斜めひずみ成分εαを模式的に示すモデル図。
図18】測定ひずみと初期応力の関係を表す測定ひずみ関係式を示す数式図。
図19】本願発明における逆解析の手順を示すフロー図。
図20】本願発明の初期応力算出方法の主な工程を示すフロー図。
図21】(a)は順解析例で用いた初期応力条件を示すモデル図、(b)は方位角と仰角を模式的に示すモデル図。
図22】順解析例で用いたひずみ計の配置と測定ひずみを示すモデル図。
図23】順解析によって得られた「ひずみに与えるオーバーコアリング径の影響」を示すグラフ図。
図24】順解析によって得られた「ひずみに与える接着領域(グラウト層)の厚さ比の影響」を示すグラフ図。
図25】順解析によって得られた「ひずみに与えるヤング率の比の影響」を示すグラフ図。
図26】順解析によって得られた「ひずみに与えるポアソン比の比の影響」を示すグラフ図。
図27】検証のための逆解析を行う諸条件を示すモデル図。
図28】検証のための逆解析の結果と、既往論文との比較を示すモデル図。
図29】(a)は一様な初期応力が領域に及んでいる状態を示すステップ図、(b)はφ46mmのパイロット孔を削孔により孔周辺で応力分布が変化した状態を示すステップ図、(c)はφ200mm程度でオーバーコアリングを行った状態を示すステップ図、(d)はオーバーコアリング試料が採取された状態を示すステップ図。なお、この図は従来の水平ボーリングを想定したものであるが、本願発明では(c)のオーバーコアリングを小孔径にしたうえで鉛直ボーリングにも適用できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本願発明の初期応力算出プログラム、及び初期応力算出方法の実施形態の例を図に基づいて説明する。
【0019】
1.解析手法
本願発明は、ひずみ計で測定された値(以下、「測定ひずみ」という。)から初期応力を算出するものであり、数値解析法に拠ることなく弾性理論による厳密解を求める手法である。そのため本願発明では、弾性理論に基づく関数を設定することとなるが、測定ひずみを説明変数、初期応力を目的関数とする関数に基づいて解析するのではなく、初期応力を説明変数、測定ひずみを目的関数とする関数に基づいて解析する。そして、その関数を「順解析」することなく、「逆解析」を行うことで初期応力を算出する。そこで、まずは本願発明で取り扱う順解析の手順について説明する。
【0020】
図1は、本願発明における順解析の手順を示すフロー図である。この図に示すように順解析では、各種の条件値が得られた(図1のStep101)こととする。ここで条件値とは、初期応力(σ 、σ 、σ )、複数のひずみ計ISの位置と角度(H、V図21(a))、後述する領域ごとのヤング率E、ポアソン比ν、及び内径r等である。各種の条件値が得られると、パイロット孔PHの軸方向(以下、単に「コア軸方向」という。)に直交する面の応力成分(面内問題)を解き(図1のStep102~Step104)、ポアソン比を考慮したコア軸方向の応力成分(連成問題)を解く(図1のStep105~Step106)とともに、面内問題と連成問題の解析結果を重ね合わせる(図1のStep107)。他方、コア軸方向の応力成分(面外問題)も解き(図1のStep108~Step110)、ここまでの解析結果を用いて最終的にひずみ計による測定ひずみを算出する(図1のStep111)。以下、順解析を行うための各種関数について詳しく説明する。
【0021】
(複素応力関数の設定)
本願発明では、図2の式1に示す「複素応力関数」を用いることを技術的特徴の一つとしている。この複素応力関数は、3つの関数で構成され、便宜上ここでは上段の関数のことを「面内第1複素応力関数φ(z)」、中段の関数のことを「面内第2複素応力関数ψ(z)」、下段の関数のことを「面外複素応力関数χ(z)」ということとする。式1のうち、a (i)とa (i)、a-1 (i)、k(i)、b (i)、b―2 (i)、c (i)、c―1 (i)はそれぞれ係数(以下、「複素係数」という。)であり、「i」は図3図4に示す領域を表している。すなわち本願発明の順解析では、「ひずみ計領域(i=1)」と「接着領域(i=2)」、「コア岩盤領域(i=3)」、「周辺岩盤領域(i=4)」からなる4層構造を解析モデルとしており、このうちひずみ計領域と接着領域、コア岩盤領域からなる3層構造が応力解放法によって得られる円柱の供試体SPに相当する。なお、図3に示す「r」はそれぞれの領域の半径(内径)であり、「E」と「ν」はそれぞれ領域ごとのヤング率とポアソン比である。また、r~rはいずれも有限長であるが、rに関してはひずみ計ISから十分離れているとして無限長とすることもあり、その場合は無限大(∞)の添え字で示すこととする。
【0022】
これら複素応力関数が設定されると、デカルト座標系での応力(直応力σとせん断応力τ)と変位は図2の式2で与えられ、極座標系での応力(直応力σとせん断応力τ)と変位は図2の式3で与えられる。なお、図5(a)では式2のデカルト座標系と応力成分を示し、図5(b)では式3の極座標系を示している。また、式2や式3の「’」は1階微分を示し、「’ ’」は2階微分を示しており、せん断剛性率G図6の式6で与えられる。
【0023】
周辺岩盤領域(i=4)は、z→∞とするとその応力成分は一定値(初期応力)となる。これらをσ 、σ 、τxy 、τxz 、τyz と表すと、i=4における複素係数は式2から図6の式4とすることができる。そして、応力を境界に沿って線積分して得られる物理量は合力であり、図6の式5で得られる。
【0024】
そして、デカルト座標系でのひずみ成分は式2によって図7の式7と式8で与えられ、極座標系でのひずみ成分は式3によって図7の式9と式10で与えられる。ただし、式7や式9によってひずみ成分ε(i)を求めるには複素係数(a (i)など)やσ (i)が必要となるが、これら複素係数とσ (i)の算出に関しては後述する。なお、式7~式10によって得られる「ひずみσ(i)、τ(i)」は順解析によるいわば解析結果としてのひずみである。そこで、実測して得られる「測定ひずみ」と区別するため、式7~式10によって求められるひずみのことを特に「解析ひずみ」ということとする。
【0025】
(境界条件)
オーバーコアリングにより応力解放された供試体は、図8に示すように、r=r においてオーバーコアリング前に作用していたものと反対方向の応力が作用する。図8(a)はオーバーコアリング前の反対方向の応力がオーバーコアリング後に作用した状態を示すモデル図である。図8(a)の応力を合力として表すと、図9の式11で示すことができる。なお図4(b)では、その合力を模式的に示している。
【0026】
コア岩盤領域と接着領域との境界(r=r)、そして接着領域とひずみ計領域との境界(r=r)では、図9の式12で示す合力の作用と反作用、及び変位の連続条件が成り立つ。また、ひずみ計領域の内縁(r=r)では、図9の式13で示すように合力が自由となる条件式が成り立つ。
【0027】
ここまで説明した条件によれば、式1に示す複素応力関数の複素係数(a (i)など)を求めることができる。具体的には、複素係数a (4)の実部と虚部がともに「0」であることから面内問題では23元(6複素係数×4領域―1)一次連立方程式が導かれ、面外問題では8元(2複素係数×4領域)一次連立方程式が導かれる。図10の式14では面内問題の実部にかかる23元一次連立方程式を示し、図11の式15では面内問題の虚部にかかる23元一次連立方程式、図12の式16では面外問題の実部にかかる8元一次連立方程式を示し、図12の式17では面外問題の虚部にかかる23元一次連立方程式を示している。なお、式14と式16に示す「a (4)・」などの「・」は実部を表しており、式15と式17示す「a (4)‘」などの「’」は虚部を表している。そして、式14~式17を解くことによって、複素係数が得られるわけである。
【0028】
(ポアソン効果による連成問題)
オーバーコアリング後の円柱供試体のコア軸方向には、図8(a)に示すようにオーバーコアリング前の反対方向の直応力σ が作用し、また図8(b)に示すようにコア軸方向同にはポアソン効果による応力も作用する。そのためコア軸方向には、図8(a)に示す応力と図8(b)に示す応力を重ね合せた、図13の式18で示される応力が作用する。このコア軸方向に重ねた応力は面積比によって各領域に配分され、分配された各領域のコア軸方向における応力の釣り合い関係は、図13の式19で表すことができる。この結果、領域間で応力差が生じるため、図14に示すように内外圧が生じる。このとき、r=rやr=rにおいては、図13の式20で示すように変位の連続条件が成り立つ。
【0029】
式19と式20から図15の式21が導かれ、この式21を解くことによって内外圧pとp、コア軸方向の直応力σ (1)とσ (2)、σ (3)(便宜上ここでは、ティルトを省略している)が求められる。この結果、連成問題における複素応力関数(以下、特に「連成複素応力関数」という。)は図15の式22で決定される。
【0030】
(重ね合わせ)
式1による複素応力関数と、式22による連成複素応力関数が得られると、これらを図16の式23によって重ね合わせることによって、新たな複素応力関数(以下、特に「重合複素応力関数」という。)が得られる。なお、式23に含まれる係数は、図16の式24に示すとおりである。また、重合複素応力関数が得られると、これを用いて式2を図16の式25で表すことができ、同様に、重合複素応力関数を用いて式3を図16の式26で表すことができる。
【0031】
式14~式17を解くことによって複素係数(a (i)など)が得られると、式2や式3(あるいは、式25や式26)によってσ (i)を除く応力5成分(σ (i)、σ (i)、τyz (i)、τxz (i)、τxy (i))が得られる。またσ (i)は、図16の式27で求められる。そして、解析ひずみの三次元成分は式7と式8(あるいは、式9と式10) によって求められ、図17に示す斜めひずみ成分εα図16の式28で算定される。
【0032】
(三次元初期応力の逆解析)
ここまで、初期応力を含む条件値が与えられるという条件の下、これら初期応力等に基づいて解析ひずみを求める「順解析」について説明した。しかしながら、オーバーコアリングによる応力解放法では測定ひずみが得られ、初期応力を直接的に測定することはできない。そこで、ここまで説明した手順をサブルーチン化することにより、逆解析を行うことによって、測定ひずみから初期応力を求めることが可能となる。
【0033】
ひずみ計ISによる測定ひずみε (1)と初期応力の関係を、図18の式29に示す。式29のaij(以下、「感度係数aij」という。)は、ひずみ計ISの位置に特有の値であり、「単位大きさ」の初期応力値を与えたときのひずみの大きさを示すものである。例えば、感度係数a11は、6つの初期応力成分(σ 、σ 、σ 、τyz 、τxz 、τxy )のうちσ =1(単位大きさ)として設定し、他の成分を「0」としたときに、式14~式17、式2や式3(あるいは、式25や式26)、及び式7と式8(式9と式10)によって得られる解析ひずみεの値として設定することができる。同様に、感度係数a12は、σ =1(単位大きさ)とし、他の成分を「0」としたうえで得られる解析ひずみεの値として設定することができ、感度係数a15は、στxz =1(単位大きさ)とし、他の成分を「0」としたうえで得られるせん断ひずみ(解析せん断ひずみ)τxzの値として設定することができる。
【0034】
そして、上記した手順を経て全ての感度係数aijが得られると、ひずみ計ISによる測定ひずみε (1)~εN (1)を式29に入力することによって、6つの初期応力成分(σ 、σ 、σ 、τyz 、τxz 、τxy )を求めることができる。なお、6箇所(N=6)に設けられたひずみ計ISによって測定する場合、1通り(1組)の初期応力成が得られるが、通常は7個所以上(N≧7)に設けられたひずみ計ISによって測定することから、この場合は最小二乗法を適用して式29を解くとよい。
【0035】
図19は、本願発明における逆解析の手順を示すフロー図である。この図に示すように逆解析(すなわち、実際の測定)では、領域ごとのヤング率E、ポアソン比ν、及び内径rが得られ(図19のStep201)、また複数(図19ではn個)のひずみ計ISの位置と角度(θ、α図5(b))が得られ(図19のStep202)、そしてひずみ計ISごとの測定ひずみが得られる(図19のStep204)。各種の条件値が得られると、ひずみ計ISごとに感度係数aij(感度係数ai1~ai6)を設定していく。このとき直応力σとせん断応力τごとに「単位大きさ(=1)」を設定したうえで(図19のStep203)、感度係数aijを設定することができるのは上記したとおりである。
【0036】
全てのひずみ計ISについて感度係数aijを設定することができると、ひずみ計ISによる測定ひずみε (1)~εN (1)を式29に入力することによって、6つの初期応力成分(σ 、σ 、σ 、τyz 、τxz 、τxy )を求める。このとき、7個所以上(N≧7)に設けられたひずみ計ISによって測定するときは、最小二乗法を適用して式29を解くとよい。
【0037】
6つの初期応力成分が得られると、図19に示す数式によって「I、I、I」を求め、これを係数とする三次方程式を解くことによって初期主応力σ とσ 、σ を算定する。また、図21(b)に示すように、式(30)と、初期主応力σ 、σ 、σ 、6つの初期応力成分(σ 、σ 、σ 、τyz 、τxz 、τxy )によって方向余弦l、m、nを求め、さらに式(31)によって方位角H、仰角Vを求めることもできる。
【0038】
2.初期応力算出プログラム
次に、本願発明の初期応力算出プログラムついて説明する。なお、本願発明の初期応力算出方法は、本願発明の初期応力算出プログラムを利用して初期応力を求める方法である。したがって、まずは本願発明の初期応力算出プログラムについて説明し、その後に本願発明の初期応力算出方法について説明することとする。
【0039】
本願発明の初期応力算出プログラムは、オーバーコアリングによる応力解放法によって得られた測定ひずみに基づいて初期応力を求める機能をコンピュータに実行させるプログラムであって、複素応力関数設定処理と応力算定式設定処理、解析ひずみ算定式設定処理、応力算出処理をコンピュータに実行させる機能を備えたものであり、さらに測定ひずみ関係式設定処理や感度係数設定処理、連成複素応力関数設定処理、重合複素応力関数設定処理をコンピュータに実行させる機能を備えたものとすることもできる。
【0040】
複素応力関数設定処理では、図2の式1に示す「面内第1複素応力関数φ(z)」と「面内第2複素応力関数ψ(z)」、「面外複素応力関数χ(z)」からなる「複素応力関数」を設定する。
【0041】
応力算定式設定処理では、直応力σを求める関数と、直応力σを求める関数、そして直応力σを求める関数を設定する。直応力σと直応力σを求める関数は、式2や式3、あるいは式25や式26で設定することができ、直応力σを求める関数は式27で設定することができる。
【0042】
また応力算定式設定処では、せん断応力τyzを求める関数と、せん断応力τxzを求める関数、そしてせん断応力τxyを求める関数を設定することもできる。せん断応力τyzとせん断応力τxz、せん断応力τxyを求める関数は、式2や式3、あるいは式25や式26で設定することができる。
【0043】
解析ひずみ算定式設定処理では、直応力σと直応力σ、直応力σに基づいて解析ひずみを求める関数(以下、「解析ひずみ算定式」という。)を設定する。この解析ひずみ算定式は、式7や式9で設定することができる。また解析ひずみ算定式設定処理では、せん断ひずみ(解析せん断ひずみ)を求める関数を設定することもできる。この場合の解析ひずみ算定式は、式8や式10で設定することができる。
【0044】
応力算出処理では、解析ひずみ算定式の左辺が「測定ひずみ」となるように逆解析を行うことによって、初期直応力を求める。また、応力算定式設定処でせん断応力を求める関数を設定し、解析ひずみ算定式設定処理で解析せん断ひずみを求める関数を設定しているときは、初期せん断応力を求めることもできる。
【0045】
測定ひずみ関係式設定処理では、測定ひずみと感度係数aij、そして初期応力の関係を表す数式(以下、「測定ひずみ関係式」という。)を設定する。この測定ひずみ関係式は、式29で設定することができる。感度係数設定処理では、感度係数aijを設定する。このとき直応力σとせん断応力τごとに「単位大きさ(=1)」を設定したうえで、感度係数aijを設定することができる。
【0046】
連成複素応力関数設定処理では、連成複素応力関数を設定する。この連成複素応力関数は、式22で設定することができる。重合複素応力関数設定処理では、式1による複素応力関数と、式22による連成複素応力関数を重ね合わせることによって、重合複素応力関数を設定する。この重合複素応力関数は、式23で設定することができる。この場合、応力算定式設定処では、直応力σと直応力σを求める関数を式25や式26で設定するとよい。
【0047】
感度係数設定処理で全てのひずみ計ISについて感度係数aijを設定すると、測定ひずみε (1)~εN (1)を式29に入力することによって、6つの初期応力成分(σ 、σ 、σ 、τyz 、τxz 、τxy )を求める。このとき、7個所以上(N≧7)に設けられたひずみ計ISによって測定するときは、最小二乗法を適用して式29を解くとよい。
【0048】
3.初期応力算出方法
次に、本願発明の初期応力算出方法ついて図を参照しながら説明する。なお、本願発明の初期応力算出方法は、ここまで説明した本願発明の初期応力算出プログラムを利用して初期応力を求める方法である。したがって本願発明の初期応力算出プログラムで説明した内容と重複する説明は避け、本願発明の初期応力算出方法に特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「2.初期応力算出プログラム」や「1.解析手法」で説明したものと同様である。
【0049】
図20は、本願発明の初期応力算出方法の主な工程を示すフロー図である。この図に示すように、まずオーバーコアリングによる応力解放法によって測定ひずみを取得する(図20のStep10)。具体的には、ボーリングマシン等を用いて地盤を削孔(掘削)してボーリング孔BHを構築し(図20のStep11)、パイロット孔PHを削孔する(図20のStep12)。次いでパイロット孔PHにひずみ計ISを設置し(図20のStep13)、パイロット孔PHとひずみ計ISの間にグラウトGRを注入する(図20のStep14)。そしてグラウトGRが硬化するのを待って、オーバーコアリングOCを行い(図20のStep15)、供試体SPを取り出して(図20のStep16)、オーバーコアリング前後のひずみ計ISの値を読み取る。
【0050】
応力解放法による測定を行うと、本願発明における逆解析を実行する。具体的には、初期応力算出プログラムの複素応力関数設定処理によって、図2の式1に示す「面内第1複素応力関数φ(z)」と「面内第2複素応力関数ψ(z)」、「面外複素応力関数χ(z)」からなる「複素応力関数」を設定する(図20のStep20)。次いで、応力算定式設定処理によって、直応力σを求める関数と、直応力σを求める関数、直応力σを求める関数、せん断応力τyzを求める関数、せん断応力τxzを求める関数、せん断応力τxyを求める関数を設定する(図20のStep30)。
【0051】
また解析ひずみ算定式設定処理によって、解析ひずみ算定式を設定する(図20のStep40)。そして領域ごとのヤング率E、ポアソン比ν、及び内径rが得られ、また複数のひずみ計ISの位置と角度、ひずみ計ISごとの測定ひずみが得られると、応力算出処理によって、解析ひずみ算定式の左辺が「測定ひずみ」となるように逆解析を行うことによって初期応力を求める(図20のStep50)。
【0052】
4.ひずみに与える各パラメータの影響検証
図21(a)に示す初期応力条件のもと、図22に示すひずみ計ISの配置を想定し、順解析によって解析ひずみを求めた。この計算では(1)オーバーコアリング径の比r/r、(2)接着領域(グラウト層)の厚さ比、(3)ヤング率の比、そして(4)ポアソン比の比をそれぞれパラメータ(横軸)としており、ひずみに与える影響をそれぞれ図23~26によって定量的に示している。
【0053】
(1)オーバーコアリング径の比
図23は、順解析によって得られた「ひずみに与えるオーバーコアリング径の影響」を示すグラフ図である。この図から分かるように、オーバーコアリング径の比r/rが10を超えるまでは各ひずみ成分は一定とならない。つまり、コア岩盤の径(供試体SPの径)を無限遠として取り扱う従来手法では、オーバーコアリング径の比r/rが10を下回るときに正確なひずみを求めることができないことになる。通常の測定で適用されるオーバーコアリング径の比は10を下回ることが多く、特に低コススト化のためにオーバーコアリング径の比r/rを小さくする場合、本願発明のように「ひずみに与えるオーバーコアリング径の影響」を考慮することが望ましい。
【0054】
(2)接着領域の厚さ比
図24は、順解析によって得られた「ひずみに与える接着領域(グラウト層)の厚さ比tの影響」を示すグラフ図である。この図から分かるように、接着領域の厚さ比tが0.6を超える(t>0.6)と、急激にひずみが変化しているのが分かる。実際の測定器では接着領域の厚さ比tを0.7程度とすることもあり、本願発明のように「ひずみに与える接着層の厚さ比の影響」を考慮することは極めて重要である。
【0055】
(3)ヤング率の比
図25は、順解析によって得られた「ひずみに与えるヤング率の比の影響」を示すグラフ図である。この図から分かるように、ヤング率の比E/Eが0.05を下回る(E/E<0.05)と、ひずみの変化が激しくなるのが分かる。硬岩の場合はヤング率の比E/Eが0.01程度であるためその影響は看過できない。したがって、本願発明のように「ひずみに与えるヤング率の比の影響」を考慮することは極めて重要である。
【0056】
(4)ポアソン比の比
図26は、順解析によって得られた「ひずみに与えるポアソン比の比の影響」を示すグラフ図である。この図から分かるように、ポアソン比の比ν/νがひずみに影響を与えるのは、数十マイクロ(数10×10-6)と比較的小さい。しかしながら、この程度のひずみの差が応力逆解析に与える影響は少なくないため、やはり本願発明のように「ひずみに与えるポアソン比の比の影響」を考慮して精度よく解析することが必要である。
【0057】
(5)逆解析の検証
本願発明の逆解析を検証するため、図19に示すフローにしたがい、また図27に示す条件において、逆解析を行った。その結果を図28に示す。なお破線枠は、既往論文(LeemanとPender)と比較した箇所である。この図から分かるように、本願発明の逆解析(Kawakubo)によって得られた結果と、既往文献による解析結果を比較すると、略同じ値を示している。すなわち、本願発明の逆解析から得られる結果は妥当であり、本願発明の逆解析が実用的であることを確認することができた。
【0058】
(6)検証のまとめ
上記した(1)~(4)により、オーバーコア径のみならず、コア岩盤領域、接着領域、ひずみ計(金属製)領域の物性値の違いは、初期応力の逆解析に重大な影響を与えることが確認された。本願発明は、これらを考慮に入れたうえで初期応力を算出することから、従来技術に比して高い精度で初期応力を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本願発明の初期応力算出プログラム、及び初期応力算出方法は、杭基礎、トンネルや地下空洞を新設するための設計、施工中の地下空洞の安定性検討、あるいは変状トンネル補強設計など、種々の構造物設計や安定性検討に利用することができる。本願発明によれば、弾性理論上最も精緻なモデルを設定したうえで初期応力を求めることから、構造物等のより的確な設計が可能となり、その結果、我が国の建設インフラストラクチャーの高品質化につながることを考えれば、本願発明は産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
【符号の説明】
【0060】
BH ボーリン孔
GR グラウト
IS ひずみ計
OC オーバーコアリング
PH パイロット孔
SP 供試体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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