(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168473
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】エンコーダ
(51)【国際特許分類】
G01D 5/245 20060101AFI20241128BHJP
【FI】
G01D5/245 W
G01D5/245 110M
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085187
(22)【出願日】2023-05-24
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.FRAM
(71)【出願人】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】忍田 真一
(72)【発明者】
【氏名】松原 正夫
(72)【発明者】
【氏名】長濱 忍
(72)【発明者】
【氏名】山本 剛生
【テーマコード(参考)】
2F077
【Fターム(参考)】
2F077AA37
2F077CC02
2F077NN04
2F077PP01
2F077PP12
2F077PP13
2F077PP14
2F077PP19
2F077QQ13
2F077QQ17
(57)【要約】
【課題】回転体の回転を検知する際に、回転体の軸方向の領域を有効利用する。
【解決手段】回転体の回転を検知するエンコーダであって、前記回転体の軸方向に着磁した中空の多極磁石と、前記多極磁石の回転によって電圧パルスを発生するウィーガンドワイヤと、前記電圧パルスによって前記回転体の回転角度を検知するシングルターン用センサを備え、前記軸方向において、前記ウィーガンドワイヤの少なくとも一部が前記多極磁石と重なっており、前記ウィーガンドワイヤの長手方向が、前記多極磁石と重なる範囲における前記多極磁石の外周のいずれかの接線と平行であるエンコーダを提供する。
【選択図】
図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体の回転を検知するエンコーダであって、
前記回転体の軸方向に着磁した中空の多極磁石と、
前記多極磁石の回転によって電圧パルスを発生するウィーガンドワイヤと、
前記電圧パルスによって前記回転体の回転角度を検知するシングルターン用センサと、
を備え、
前記軸方向において、前記ウィーガンドワイヤの少なくとも一部が前記多極磁石と重なっており、
前記ウィーガンドワイヤの長手方向が、前記多極磁石と重なる範囲における前記多極磁石の外周のいずれかの接線と平行である
エンコーダ。
【請求項2】
前記ウィーガンドワイヤの全部が前記多極磁石と重なっている
請求項1に記載のエンコーダ。
【請求項3】
前記多極磁石は前記軸方向から見て4極以上の前記多極磁石であり、
前記エンコーダは、前記電圧パルスによって、前記シングルターン用センサの検知結果から前記回転体の回転数の演算を行う演算部を更に備え、
前記シングルターン用センサは、前記ウィーガンドワイヤが前記電圧パルスを発生する度に前記回転体の回転角度を検知し、
前記演算部は、今回の前記回転角度の検知の結果と前回の前記回転角度の検知の結果を比較して前記回転体の回転方向を算出し、前記回転数を演算する
請求項1または2に記載のエンコーダ。
【請求項4】
前記シングルターン用センサは、回転角度検知用磁石を有し、前記回転角度検知用磁石を用いて前記回転体の回転角度を検知する
請求項3に記載のエンコーダ。
【請求項5】
前記エンコーダは、前記回転角度検知用磁石から出る磁場の少なくとも一部を変化させる磁気スリットを有し、
前記シングルターン用センサは、前記磁気スリットによる前記磁場の変化を用いて前記回転体の回転角度を検知する
請求項4に記載のエンコーダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンコーダに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、励磁磁石とウィーガンドワイヤを用いたエンコーダが知られている(例えば、特許文献1-3参照)。
[先行技術文献]
[特許文献]
特許文献1 特開2022-187943号公報
特許文献2 特開2022-79329号公報
特許文献3 特開2022-187942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
回転体の回転を検知する際に、回転体の軸方向の領域を有効利用する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、回転体の回転を検知するエンコーダを提供する。上記エンコーダは、前記回転体の軸方向に着磁した中空の多極磁石を備えてよい。上記いずれかのエンコーダは、前記多極磁石の回転によって電圧パルスを発生するウィーガンドワイヤを備えてよい。上記いずれかのエンコーダは、前記電圧パルスによって前記回転体の回転角度を検知するシングルターン用センサを備えてよい。上記いずれかのエンコーダの前記軸方向において、前記ウィーガンドワイヤの少なくとも一部が前記多極磁石と重なっていてよい。上記いずれかのエンコーダにおいて、前記ウィーガンドワイヤの長手方向が、前記多極磁石と重なる範囲における前記多極磁石の外周のいずれかの接線と平行であってよい。
【0005】
上記いずれかのエンコーダにおいて、前記ウィーガンドワイヤの全部が前記多極磁石と重なっていてよい。
【0006】
上記いずれかのエンコーダにおいて、前記多極磁石は前記軸方向から見て4極以上の前記多極磁石であってよい。上記いずれかの前記エンコーダは、前記電圧パルスによって、前記シングルターン用センサの検知結果から前記回転体の回転数の演算を行う演算部を更に備えてよい。上記いずれかのエンコーダにおいて、前記シングルターン用センサは、前記ウィーガンドワイヤが前記電圧パルスを発生する度に前記回転体の回転角度を検知してよい。上記いずれかのエンコーダにおいて、前記演算部は、今回の前記回転角度の検知の結果と前回の前記回転角度の検知の結果を比較して前記回転体の回転方向を算出し、前記回転数を演算してよい。
【0007】
上記いずれかのエンコーダにおいて、前記シングルターン用センサは、回転角度検知用磁石を有してよい。上記いずれかのエンコーダにおいて、前記シングルターン用センサは、前記回転角度検知用磁石を用いて前記回転体の回転角度を検知してよい。
【0008】
上記いずれかのエンコーダは、前記回転角度検知用磁石から出る磁場の少なくとも一部を変化させる磁気スリットを有してよい。上記いずれかのエンコーダにおいて、前記シングルターン用センサは、前記磁気スリットによる前記磁場の変化を用いて前記回転体の回転角度を検知してよい。
【0009】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴のすべてを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例におけるエンコーダ10を示す図である。
【
図2A】ウィーガンドワイヤ14と多極磁石20の配置例を示す図である。
【
図2B】ウィーガンドワイヤ14と多極磁石20の他の配置例を示す図である。
【
図2C】ウィーガンドワイヤ14と多極磁石20の他の配置例を示す図である。
【
図3A】電圧パルスが発生する多極磁石20の回転角度を示す図である。
【
図3B】多極磁石20が時計回りに52.5°地点まで回転した状態を示す図である。
【
図3C】多極磁石20が時計回りに225°地点まで回転した状態を示す図である。
【
図3D】多極磁石20が時計回りに52.5°地点まで回転した後に、反時計回りに225°地点まで回転した状態を示す図である。
【
図4A】比較例における磁石50の回転による電圧パルスの発生を示す図である。
【
図4B】比較例における磁石50が1発目の電圧パルスを発生させた後に225°地点まで回転した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。本明細書では、各図における同一の部分には同一の符号を付し、説明を省略する場合がある。また、説明の便宜上一部の構成を図示しない場合がある。
【0012】
本明細書では、X軸、Y軸およびZ軸の直交座標系を用いて技術的事項を説明する場合がある。直交座標系は、構成要素の相対位置を特定するに過ぎず、特定の方向を限定するものではない。例えばZ軸方向は地面に対する高さ方向を限定して示すものではない。なお、+Z軸方向と-Z軸方向とは互いに逆向きの方向である。正負を記載せず、Z軸方向と記載した場合、+Z軸および-Z軸に平行な方向を意味する。
【0013】
本明細書において「同一」、「等しい」、「平行」または「垂直」のように称した場合、製造ばらつき等に起因する誤差を有する場合も含んでよい。当該誤差は、例えば10%以内である。
【0014】
図1は、実施例におけるエンコーダ10を示す図である。エンコーダ10は回転体12の回転を検知する。エンコーダ10は回転体12の回転角度、回転数、回転方向の少なくとも一つを検知する。一例として回転体12は、モーターの回転軸や、ステージの軸である。
図1において、回転体12は、Z軸方向を軸方向として、XY平面内で回転する。
【0015】
エンコーダ10は、多極磁石20、ウィーガンドワイヤ14およびシングルターン用センサ16を備える。エンコーダ10は、演算部18、磁気スリット24、支持台40および磁性体ディスク42を備えてよい。
図1ではエンコーダ10および回転体12のXZ断面を示している。回転体12、多極磁石20、支持台40および磁性体ディスク42の形状は、回転軸を中心にXY平面において円形状であってよい。
図1ではシングルターン用センサ16とウィーガンドワイヤ14は磁気スリット24をはさんで同じ側に配置されるが違う側に配置されても良い。その場合、シングルターン用センサ16とウィーガンドワイヤ14がZ軸方向において磁気スリット24をはさんで配置される。
【0016】
多極磁石20は、2つ以上の第1の極性部21および2つ以上の第2の極性部22を有する。第1の極性部21および第2の極性部22は、一方がN極であり他方がS極である。図中の第1の極性部21にハッチングを付している。多極磁石20は、回転体12の軸方向に着磁している。つまり、本例の多極磁石20では、第1の極性部21および第2の極性部22が回転体12の軸方向に並んで配置されている。また、多極磁石20の周方向に沿って、第1の極性部21および第2の極性部22が交互に配置されている。例えば
図1に示した第2の極性部22の周方向における隣には第1の極性部21が配置されており、第1の極性部21の周方向における隣には第2の極性部22が配置されている。Z方向からみて周方向に沿って第1の極性部21、第2の極性部22がそれぞれ2個以上配置されてよく、3コ以上配置されてもよい。
【0017】
多極磁石20は、円柱状であってよく、円柱の底面と垂直な方向に空洞が設けられていてよい。つまり多極磁石20は、円筒状のリング磁石であってよい。本明細書では、円筒状、または、他の筒形状の空洞部分が存在することを中空と称する。本例では、XY面において空洞部分の周囲を多極磁石20が囲んでいる。本例の多極磁石20は、中空である。多極磁石20は、円筒状の底面と垂直な方向に着磁していてよい。
【0018】
多極磁石20は、回転体12に取り付けられる。多極磁石20の中空部分は、Z軸方向において回転体12と重なっている。回転体12も中空である場合、Z軸方向において回転体12の中空部分と多極磁石20の中空部分が重なっていてよい。多極磁石20は、回転体12とともに回転する。
【0019】
ウィーガンドワイヤ14は、磁気感度が異なる材料で形成された層が積層されたワイヤである。ウィーガンドワイヤ14は、第1の材料の中心部の周りを、第2の材料の外周部が覆っている2層構造のワイヤであってよい。中心部の形状は例えば円柱状である。第1の材料と第2の材料とは、透磁率が互いに異なり、保持力が互いに異なる材料である。ウィーガンドワイヤ14の周りにはコイルが巻かれていてよい。中心部と外周部は磁気感度が異なる。そのため外部磁場の強さが徐々に変化した場合、ある磁場の強さにおいて磁気感度の高い方の磁化の向きだけが変化する。その時、ウィーガンドワイヤ14に巻かれたコイルに電圧が発生する。ウィーガンドワイヤ14の中心部の磁気感度が外周部の磁気感度よりも高くてよく、外周部の磁気感度が中心部の磁気感度よりも高くてもよい。
【0020】
ウィーガンドワイヤ14は、多極磁石20の回転によって電圧パルスを発生する。ウィーガンドワイヤ14は、Z軸方向において多極磁石20と重なって配置されている。そのため、多極磁石20が回転体12とともに回転するとウィーガンドワイヤ14にかかる外部磁場の強さが変化する。この磁場の変化を利用してウィーガンドワイヤ14は電圧を発生する。
【0021】
シングルターン用センサ16は、回転体12の回転角度を検知する。シングルターン用センサ16は、磁気センサ方式、光学式、容量式、Inductive式またはレゾルバ方式のセンサであってよい。一例としてシングルターン用センサ16は、ホール素子、トンネル磁気抵抗素子(TMR)、半導体磁気抵抗素子(SMR)、異方性磁気抵抗素子(AMR)または巨大磁気抵抗素子(GMR)である。
【0022】
本例のシングルターン用センサ16は、ウィーガンドワイヤ14が発生した電圧パルスによって回転体12の回転角度を検知する。本例のシングルターン用センサ16は、ウィーガンドワイヤ14を電源として動作する。シングルターン用センサ16は、ウィーガンドワイヤ14が電圧パルスを発生する度に回転体12の回転角度を検知してよい。なお図示していないが、ウィーガンドワイヤ14とシングルターン用センサ16は配線で接続されてよい。
【0023】
演算部18は、ウィーガンドワイヤ14の電圧パルスによって、前記シングルターン用センサの検知結果から回転体12の回転数の演算を行う。回転数の演算方法は後述する。演算部18は、演算結果を保存してよい。一例として演算部18は、記憶素子にFRAM(低消費電力不揮発性メモリ)を用いる。演算部18は、ウィーガンドワイヤ14の電圧パルスを整流してもよい。本例では、ウィーガンドワイヤ14、シングルターン用センサ16および演算部18は支持台40に取り付けられているが、演算部18は後述する磁場検知素子34と同一パッケージで構成されてもよい。本例では、支持台40は回転しない。支持台40の形状は、回転軸を中心にXY平面において円形状であってよく、中空であってよい。Z軸方向において支持台40の中空部分と多極磁石20の中空部分が重なっていてよい。
【0024】
エンコーダ10には外部から電源が供給されてよい。その場合、シングルターン用センサ16および演算部18は、外部電源からの電力によって動作してよい。エンコーダ10はシングルターン機能およびマルチターン機能を有する。シングルターン機能とは回転体が1周内のどの角度にあるかを検知する機能のことをいう。マルチターン機能は、外部電源オフ時においても回転体の回転数を記録する機能のことをいう。
【0025】
一例として、マルチターン機能は、外部電源とは別個にバッテリを用いることで実現することができる。しかしその場合にはバッテリのメンテナンスが必要となる。また、歯車等の状態により機械的に回転数を記録する方式もあるが、機構が複雑になること、および、機構の摩耗等により長期的な信頼性の点で課題がある。
【0026】
本例のエンコーダ10は、ウィーガンドワイヤ14を電源として用いることでマルチターン機能を実現している。また後述するように本例のエンコーダ10は、シングルターン用センサ16の検知結果を用いてシングルターン機能およびマルチターン機能の両方を実現している。すなわち、1つのセンサでシングルターン機能およびマルチターン機能の両方を実現している。これによりエンコーダ10の部品点数を削減しエンコーダ10をシンプルな構成にできる。
【0027】
シングルターン用センサ16は、回転角度検知用磁石30を有してよい。回転角度検知用磁石30は、第1の極性部31および第2の極性部32を有する。第1の極性部31および第2の極性部32は、一方がN極であり他方がS極である。図中では、第1の極性部31にハッチングを付している。
【0028】
シングルターン用センサ16は、回転角度検知用磁石30を用いて回転体12の回転角度を検知してよい。回転角度検知用磁石30と、磁気スリット24との間に、磁場検知素子34を有してよい。磁場検知素子34は、回転体12の回転による、回転角度検知用磁石30からの磁場の変化を検知することで回転体12の回転角度を検知してよい。
【0029】
磁気スリット24は、回転角度検知用磁石30から出る磁場の少なくとも一部を変化させる。本例の磁気スリット24は、磁性体ディスク42に構成される。磁性体ディスク42は回転体12に取り付けられており、回転体12とともに回転する。回転体12が回転し、磁気スリット24がシングルターン用センサ16の上方に来ることで回転角度検知用磁石30から出る磁場を変化させる。磁性体ディスク42の形状は、回転軸を中心にXY平面において円形状であってよく、中空であってよい。Z軸方向において支持台40の中空部分と多極磁石20の中空部分が重なっていてよい。
【0030】
シングルターン用センサ16は、磁気スリット24による磁場の変化を用いて回転体12の回転角度を検知してよい。シングルターン用センサ16の検知結果と、磁気スリット24の取り付けられている角度から、回転体12の回転角度を検知することができる。磁気スリット24は、回転体12の外部の円周方向に複数設けられてよい。
図1のXZ断面においては、多極磁石20よりもX軸方向負側の磁性体ディスク42に取り付けられた他の磁気スリット24を示している。
【0031】
例えば磁気スリット24は、磁性体ディスク42の他の部分とは、磁気抵抗が異なる部分である。この場合、磁場検知素子34と向かい合う位置に磁気スリット24が配置された状態と、配置されていない状態とでは、磁場検知素子34が検知する磁場の強度が変化する。磁性体ディスク42の周方向における、磁気スリット24どうしの間隔、または、磁気スリット24の開口長さは、一定でなくてよい。磁性体ディスク42の径方向における磁気スリット24の開口幅は、一定でなくてよい。周方向の磁気スリット24どうしの間隔、または、磁気スリット24の開口長さは、一定で、円周方向にスリット数の異なる別の周方向の磁気スリット24を用意してもよい。
図1では、径方向の内側に磁気スリット24-1が設けられ、径方向外側に磁気スリット24-2が設けられている。磁気スリット24-1の1周内の総数は、磁気スリット24-2の1周内の総数よりも少なくてよい。磁性体ディスク42の複数の磁気スリット24と磁場検知素子34の位置関係に基づいて磁場検知素子34が検知する磁場強度分布における1周内の位置が定まる。シングルターン用センサ16は、磁場検知素子34が検知する磁場強度分布における1周内の位置を示す電気信号に基づいて、回転体12の回転角度を検出してよい。
【0032】
図2Aは、ウィーガンドワイヤ14と多極磁石20の配置例を示す図である。
図2Aは、
図1におけるZ軸負側からウィーガンドワイヤ14と多極磁石20を見た場合の配置例を示している。
図2Aにおいては、説明のため他の構成は図示していない。またウィーガンドワイヤ14は外枠のみを点線で図示している。当該点線は、ウィーガンドワイヤ14の外形であってよく、ウィーガンドワイヤ14の周りに巻かれたコイルの外形であってよく、その他パッケージ等も含めたウィーガンドワイヤ14を含むモジュールの外形であってもよい。
【0033】
本例の多極磁石20は、XY平面における円周上に2つの第1の極性部21と、2つの第2の極性部22を有する。本例の多極磁石20は、円周方向に90°毎に第1の極性部21と第2の極性部22を有する。
【0034】
本例のウィーガンドワイヤ14は長手を有する。例えば円柱状のウィーガンドワイヤ14の長手方向は、円状の断面と垂直な方向である。
図2Aにおいて、ウィーガンドワイヤ14はY軸方向に長手を有する。本例では、軸方向(Z軸方向)において、ウィーガンドワイヤ14の少なくとも一部が多極磁石20と重なっている。これによってウィーガンドワイヤ14と多極磁石20の中空部分26が重なる範囲を少なくすることができ、中空部分26を配線を通すなどの他の用途のために有効利用することができる。XY平面におけるウィーガンドワイヤ14の面積の内、10%以上が多極磁石20と重なっていてよく、30%以上が多極磁石20と重なっていてよく、50%以上が多極磁石20と重なっていてよく、70%以上が多極磁石20と重なっていてよく、90%以上が多極磁石20と重なっていてよく、100%が多極磁石20と重なっていてもよい。
【0035】
ウィーガンドワイヤ14の長手方向は、多極磁石20と重なる範囲における多極磁石20の外周のいずれかの接線と平行であってよい。重なる範囲とは、軸方向においてウィーガンドワイヤ14と多極磁石20の重なる範囲から中空部分26を除いた範囲である。図中に重なる範囲の長手方向における一方の端から他方の端までの幅をAで示している。重なる範囲における外周とは、上記重なる範囲にある多極磁石20の外周を指す。言い換えると幅Aに含まれる多極磁石20の外周を指す。つまり
図2Aにおいてウィーガンドワイヤ14の長手方向は、幅AのY軸正側の端における多極磁石20の外周の接線から、幅Aの中央における外周の接線(Y軸と平行)を経て、幅AのY軸負側の端における外周の接線までのいずれかの接線と平行であってよい。本例のウィーガンドワイヤ14の長手方向は、幅Aの中央における多極磁石20の外周の接線と平行である。
【0036】
図2Bは、ウィーガンドワイヤ14と多極磁石20の他の配置例を示す図である。本例では、軸方向においてウィーガンドワイヤ14と多極磁石20の中空部分26は重なっていない。軸方向における、中空部分26におけるウィーガンドワイヤ14の割合を中空活用率とする。
中空活用率=(中空部分26の面積-中空部分26と重なるウィーガンドワイヤ14の面積)÷(中空部分26の面積)
中空活用率は50%以上であってよく、70%以上であってよく、90%以上であってよい。本例の中空活用率は100%である。これにより、中空部分26を他の用途のために有効利用することができる。
【0037】
本例のウィーガンドワイヤ14の短辺は多極磁石20の外周と交わらず、ウィーガンドワイヤ14の少なくとも1つの長辺が多極磁石20の外周と交わっている。そのため幅Aは、ウィーガンドワイヤ14の長辺のうち、中空部分26に近い方の長辺が多極磁石20の外周と交わる部分で規定される。
【0038】
図2Cは、ウィーガンドワイヤ14と多極磁石20の他の配置例を示す図である。本例では、軸方向においてウィーガンドワイヤ14の全部が多極磁石20と重なっている。本例の中空活用率も100%である。本例において重なる範囲の外周を規定する場合、ウィーガンドワイヤ14の一方の短辺を延長した線が多極磁石20の外周と交わるところから、他方の短辺を延長した線が多極磁石20の外周と交わるところまでとしてよい。
【0039】
図3Aは、電圧パルスが発生する多極磁石20の回転角度を示す図である。
図3Aも同様に、
図1におけるZ軸負側からウィーガンドワイヤ14と多極磁石20を見た図を示しており、他の構成は省略している。本例のウィーガンドワイヤ14は、多極磁石20のX軸方向の中央よりもX軸方向負側において多極磁石20と重なっている。ウィーガンドワイヤ14の長手方向(Y軸方向)の中央と、多極磁石20のY軸方向の中央は一致している。
【0040】
本例の多極磁石20も、XY平面における円周上に2つの第1の極性部21と、2つの第2の極性部22を有する。本例の多極磁石20も、円周方向に90°毎に第1の極性部21と第2の極性部22を有する。
図3Aに示した状態における多極磁石20の回転角度を0°とする。回転角度が0°の場合、ウィーガンドワイヤ14の長手方向の中央は、第1の極性部21と第2の極性部22の境界と重なっている。
【0041】
図中の角度の数値は、0°からの時計回りの角度を示している。多極磁石20が回転し、回転角度が、図中に示した角度(ただし0°以外)のうち、回転方向に対応する角度になるとウィーガンドワイヤ14が電圧パルスを発生する。図中のCWは時計回りを意味し、CCWは反時計回りを意味している。CWの後に記載した角度は、多極磁石20が時計回りに回転しているときに、ウィーガンドワイヤ14が電圧パルスを発生する角度を示しており、CCWの後に記載した角度は、多極磁石20が反時計回りに回転しているときに、ウィーガンドワイヤ14が電圧パルスを発生する角度を示している。CWおよびCCWの後のカッコ内のプラスとマイナスの記号は、ウィーガンドワイヤ14が発生する電圧パルスの正負を示している。五角形で囲まれた数字は、多極磁石20が0°から時計回りに回転したときの電圧パルスが発生する順番を表している。三角形で囲まれた数字は、多極磁石20が52.5°を超えて時計回りに回転した後に、反時計回りに回転したときの電圧パルスが発生する順番を表している。五角形および三角形の頂点の向きが電圧パルスの正負を表している。
【0042】
図3Aにおける0°の配置から多極磁石20が時計回りに回転した場合、ウィーガンドワイヤ14は多極磁石20が52.5°回転した地点、142.5°回転した地点、232.5°回転した地点、322.5°回転した地点でそれぞれ電圧パルスを発生する。0°の配置から多極磁石20が反時計回りに回転した場合、ウィーガンドワイヤ14は多極磁石20が307.5°回転した地点、217.5°回転した地点、127.5°回転した地点、37.5°回転した地点でそれぞれ電圧パルスを発生する。
【0043】
本例の多極磁石20は、軸方向(Z軸方向)から見て2つの第1の極性部21と、2つの第2の極性部22を有する。つまり軸方向から見て4極の多極磁石20である。そのため、多極磁石20が一回転する間に電圧パルスが4回発生する。ただし、電圧パルスが発生する角度および回数は、ウィーガンドワイヤ14と多極磁石20の配置や形状、構成によって変化する。多極磁石20は軸方向から見て4極以上の多極磁石20であってよい。
【0044】
図3Bは、多極磁石20が時計回りに52.5°地点まで回転した状態を示す図である。上述のように、多極磁石20が0°の状態から52.5°地点まで回転すると、ウィーガンドワイヤ14が電圧パルスを発生する。52.5°地点は、内部に1の数字が表示された下向きの五角形で表されている。この時の電圧パルスの極性を負とし、図中の下向きのパルスで表している。
【0045】
図3Cは、多極磁石20が時計回りに225°地点まで回転した状態を示す図である。上述の通り52.5°地点で負の電圧パルスが発生する。その後、多極磁石20がさらに回転し、142.5°地点(内部に2の数字が表示された上向きの五角形)まで達すると2発目の電圧パルスが発生する。この時の電圧パルスの極性は正である。
【0046】
その後さらに回転し、225°地点に達する。しかし232.5°地点(内部に3の数字が表示された下向きの五角形)には達していないため、3発目の電圧パルスは発生しない。
【0047】
図3Dは、多極磁石20が時計回りに52.5°地点まで回転した後に、反時計回りに225°地点まで回転した状態を示す図である。上述の通り時計回りに52.5°地点まで回転するとウィーガンドワイヤ14は負の電圧パルスを発生する。本例ではその後142.5°地点に達する前に、多極磁石20が反時計回りに回転し始める。そして反時計回りに回転しながら、37.5°地点(内部に1の数字が表示された上向きの三角形)に達すると正の電圧パルスが発生する。ただし、時計回りに52.5°地点を超えてからの移動角度が少ないと、ウィーガンドワイヤ14が十分磁化されない。その場合は、反時計回りに回り始めた後の37.5°地点での電圧パルスは発生しない。
【0048】
その後、多極磁石20は反時計回りに回転し、0°地点を超え、307.5°地点(内部に2の数字が表示された下向きの三角形)に達すると負の電圧パルスが発生する。37.5°地点で電圧パルスが発生していない場合、これが2発目の電圧パルス(反時計回りに回り始めた後では1発目の電圧パルス)となる。
【0049】
その後さらに回転し、225°地点に達する。しかし217.5°地点(内部に3の数字が表示された上向きの三角形)には達していないため、3発目の電圧パルスは発生していない。
【0050】
外部電源オフ時において、シングルターン用センサ16は、ウィーガンドワイヤ14が発生する電圧パルスによって回転体12の回転角度を検知する。すなわち、52.5°地点で電圧パルスが発生した場合、シングルターン用センサ16が検知する回転体12の回転角度は52.5°となる。シングルターン用センサ16が検知した回転体12の回転角度は演算部に記録される。
【0051】
演算部18は、今回の回転角度の検知の結果と、前回の回転角度の検知の結果を比較して回転体12の回転方向を算出し、回転数を演算してよい。演算部18は、時計回りにおける所定の回転量を検知した場合にカウント値をプラス1し、反時計回りにおける所定の回転量を検知した場合にカウント値をマイナス1することで、回転数を演算してよい。
図3A等に示すように、円周方向に4極を有する多極磁石20を用いる場合、当該所定の回転量は360°を4分割した90°である。この場合、カウント値が4に達した場合に時計回りに1回転したと判定でき、カウント値が-4に達した場合に反時計回りに1回転したと判定できる。演算部18は、カウント値が設定値(例えば+4または-4)に達する毎に回転数を更新するとともに、カウント値を0にリセットしてよい。
【0052】
図3A等では、シングルターン用センサ16が今回の電圧パルスに応じて検出した回転角度から、前回の電圧パルスに応じて検出した回転角度を減算した値が、90°または-270°の場合は、回転体12が時計回りに90°回転したと判定する。この場合、演算部18は、カウント値をプラス1してよい。また、当該減算した値が270°または-90°の場合は、回転体12が反時計回りに90°回転したと判定する。この場合、演算部18は、カウント値をマイナス1してよい。当該減算した値の絶対値が90°より小さい(本例では減算した値が-15°または15°)場合、回転体12はほぼ回転していないと判定してよい。この場合、演算部18はカウント値を変更しない。
【0053】
図3Aから
図3Dに示した例においては、シングルターン用センサ16が前回の電圧パルスに応じて回転角度52.5°を検知したあとに、今回の電圧パルスに応じて回転角度142.5°を検知すると、演算部18はカウントを1プラスする。シングルターン用センサ16が前回の電圧パルスに応じて回転角度52.5°を検知したあとに、今回の電圧パルスに応じて回転角度37.5°を検知すると、演算部18はカウントを変更しない。シングルターン用センサ16が前回の電圧パルスに応じて回転角度52.5°を検知したあとに、今回の電圧パルスに応じて回転角度307.5°を検知すると、演算部18はカウントを1マイナスする。
【0054】
演算部18は、上記カウントが1プラスされた場合、回転体12の回転方向を時計回りと判断してよい。演算部18は、上記カウントが1マイナスされた場合、回転体12の回転方向を反時計回りと判断してよい。演算部18は、上記カウントが変更されなかった場合、回転体12の回転方向を前回の検知結果から判断した回転方向と反対の回転方向であると判断してよい。
【0055】
このような動作によって演算部18は回転数を演算する。これによって、エンコーダ10は、1つのセンサ(シングルターン用センサ16)で回転角度を検知でき、外部電源がオフの場合でも回転数を記録することができる。エンコーダ10は、シングルターン用センサ16以外の回転角センサを備えなくてよい。
【0056】
本例のエンコーダ10は、外部電源がオフの状態からオンした場合に、回転体12の回転方向を検出することができる。
図3Cおよび
図3Dに示した例においては、時計回りに225°の地点に達したのか、反時計回りに225°の地点に達したのかを、直前の検知の結果を基に判別することができる。そのため、電源オン時に回転数を補正することができる。
【0057】
上記説明においては、電圧パルスが発生する角度を小数点以下1桁まで検知していたが、シングルターン用センサ16の測定精度はそこまで高くなくてよい。
図3Aから
図3Dに示した例では、90°以内で回転体12の回転角度を検知できれば上述の手順で回転数および回転方向を検知することができる。
【0058】
図4Aは、比較例における磁石50の回転による電圧パルスの発生を示す図である。磁石50は、第1の極性部21と第2の極性部を1つずつ有する棒磁石である。つまり磁石50は、軸方向から見て2極磁石である。また、磁石50は中空ではない。
図4Aにおいては、ウィーガンドワイヤ14と磁石50の位置をY軸方向にずらして図示してあるが、実際には重なっていてよい。
【0059】
磁石50が1回転する間に電圧パルスは2回発生する。電圧パルスの発生を示す
図4A中の五角形および三角形の表記は、
図3Aと同様である。
図4Aでは、磁石50が時計回りに回転し、1発目の電圧パルスが発生している。
【0060】
図4Bは、比較例における磁石50が1発目の電圧パルスを発生させた後に225°地点まで回転した図である。
図3Cと同様に、磁石50が1発目の電圧パルスを発生させた後に時計回りに回転して225°に達した場合、一度もパルスを発生させることなく
図4Bの状態になる。
【0061】
図3Dにおいて説明した通り、磁石50の回転方向が反対になるタイミングによっては、最初の電圧パルスは発生しない場合がある。すなわち磁石50は、180°回転しても電圧パルスが発生しない場合がある。そのため、磁石50が1発目の電圧パルスを発生させた後に反時計回りに回転しても一度もパルスを発生させることなく
図4Bの状態になりうる。
【0062】
そのため磁石50の回転角度が225°で電源がオンになった場合、磁石50の回転方向を判別することができない。よって比較例では回転数を補正することができない。
【0063】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0064】
10・・・エンコーダ、12・・・回転体、14・・・ウィーガンドワイヤ、16・・・シングルターン用センサ、18・・・演算部、20・・・多極磁石、21・・・第1の極性部、22・・・第2の極性部、24・・・磁気スリット、26・・・中空部分、30・・・回転角度検知用磁石、31・・・第1の極性部、32・・・第2の極性部、34・・・磁場検知素子、40・・・支持台、42・・・磁性体ディスク、50・・・磁石