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特開2024-168689発酵水素の製造方法及び発酵水素の製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168689
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】発酵水素の製造方法及び発酵水素の製造装置
(51)【国際特許分類】
   C12P 3/00 20060101AFI20241128BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20241128BHJP
   C12N 1/20 20060101ALN20241128BHJP
【FI】
C12P3/00
C12M1/00 D
C12N1/20 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085566
(22)【出願日】2023-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小出 和宏
(72)【発明者】
【氏名】米村 隆平
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 市郎
【テーマコード(参考)】
4B029
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029BB02
4B029CC01
4B029DF01
4B029DF04
4B029GA02
4B064AA03
4B064CA02
4B064CA40
4B064CC03
4B064CC22
4B064CD09
4B064CD19
4B064DA16
4B065AA01X
4B065AC14
4B065BB14
4B065BC43
4B065CA01
4B065CA54
(57)【要約】
【課題】高収率で発酵水素を製造することが可能であり、糖質の濃度が高い場合であっても、菌体の増殖阻害が起こりにくく、発酵水素を効率的に製造する方法を提供すること。
【解決手段】糖質を含む培地中、熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子の存在下で嫌気性細菌を培養して前記糖質から水素を生成させることを特徴とする発酵水素の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖質を含む培地中、熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子の存在下で嫌気性細菌を培養して前記糖質から水素を生成させることを特徴とする発酵水素の製造方法。
【請求項2】
前記熱可塑性ポリウレタン樹脂の比重が1.05~1.20であることを特徴とする請求項1に記載の発酵水素の製造方法。
【請求項3】
前記嫌気性細菌が通性嫌気性細菌であることを特徴とする請求項1に記載の発酵水素の製造方法。
【請求項4】
前記培地が液体培地であることを特徴とする請求項1に記載の発酵水素の製造方法。
【請求項5】
少なくとも水素の排出口を備える培養容器と、前記培養容器内に配置された、糖質を含む培地と、前記培地中に存在する嫌気性細菌及び熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子とを備えることを特徴とする発酵水素の製造装置。
【請求項6】
前記熱可塑性ポリウレタン樹脂の比重が1.05~1.20であることを特徴とする請求項5に記載の発酵水素の製造装置。
【請求項7】
前記嫌気性細菌が通性嫌気性細菌であることを特徴とする請求項5に記載の発酵水素の製造装置。
【請求項8】
前記培地が液体培地であることを特徴とする請求項5に記載の発酵水素の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、発酵水素の製造方法及び発酵水素の製造装置に関し、より詳しくは、嫌気性細菌を用いた発酵水素の製造方法及び発酵水素の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は、二酸化炭素を生成しないクリーンなエネルギーとして注目されており、様々な製造方法が検討されている。発酵法による水素生産もその一つであり、Clostridium属等の水素生成細菌(嫌気性細菌)を用いて糖質等の有機材料を水素発酵させる方法(例えば、特開2007-159457号公報(特許文献1)及び特開2021-3077号公報(特許文献2))が知られている。このような発酵法による水素生産において、例えば、Clostridium属の菌体をグルコースの存在下で培養した場合、理論上、グルコース1molから4molの水素が生成すると計算される。また、Enterobacter属の菌体をグルコースの存在下で培養した場合、中間体としてギ酸が生成し、このギ酸から水素が生成するため、理論上、グルコース1molから2molの水素が生成すると計算される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-159457号公報
【特許文献2】特開2021-3077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、実際には、グルコースが解糖される代謝経路には、水素生成に関与しない代謝が存在するため、グルコース1molからの水素の生成量が、Clostridium属では2mol程度、Enterobacter属では0.5~1mol程度となり、十分な水素収率は得られていなかった。また、従来の発酵法による水素生産では、水素生成量を増加させるためにグルコース等の糖質の濃度を高くしても、生成物である水素や二酸化炭素により菌体の増殖が阻害されるという問題もあった。このように、従来の発酵法による水素生産においては、菌体の増殖や水素の生成が十分ではなく、実用化に向けて、菌体の増殖率や水素収率の向上が課題となっている。
【0005】
そこで、本開示の一態様は、高収率で発酵水素を製造することが可能であり、糖質の濃度が高い場合であっても、菌体の増殖阻害が起こりにくく、発酵水素を効率的に製造する方法を提供することを目的とする。また、本開示の他の態様は、高収率で発酵水素を製造することが可能であり、糖質の濃度が高い場合であっても、菌体の増殖阻害が起こりにくく、発酵水素を効率的に製造することが可能な装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は以下の態様を提供する。
【0007】
[1]糖質を含む培地中、熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子の存在下で嫌気性細菌を培養して前記糖質から水素を生成させる、発酵水素の製造方法。
【0008】
[2]前記熱可塑性ポリウレタン樹脂の比重が1.05~1.20である、[1]に記載の発酵水素の製造方法。
【0009】
[3]前記嫌気性細菌が通性嫌気性細菌である、[1]又は[2]に記載の発酵水素の製造方法。
【0010】
[4]前記培地が液体培地である、[1]~[3]のうちのいずれか1項に記載の発酵水素の製造方法。
【0011】
[5]少なくとも水素の排出口を備える培養容器と、前記培養容器内に配置された、糖質を含む培地と、前記培地中に存在する嫌気性細菌及び熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子とを備える、発酵水素の製造装置。
【0012】
[6]前記熱可塑性ポリウレタン樹脂の比重が1.05~1.20である、[5]に記載の発酵水素の製造装置。
【0013】
[7]前記嫌気性細菌が通性嫌気性細菌である、[5]又は[6]に記載の発酵水素の製造装置。
【0014】
[8]前記培地が液体培地である、[5]~[7]のうちのいずれか1項に記載の発酵水素の製造装置。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、高収率で発酵水素を製造することが可能であり、さらに、糖質の濃度が高い場合であっても、菌体の増殖阻害が起こりにくく、多量の発酵水素を効率的に製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。「~」を用いて示された数値範囲の最小値又は最大値は、「~」を用いて示された他の数値範囲の最大値又は最小値と任意に組み合わせ可能である。また、個別に記載した上限値及び下限値も任意に組み合わせ可能である。
【0017】
本開示の一態様の発酵水素の製造方法は、糖質及び熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子の存在下で嫌気性細菌を培養して前記糖質から水素を生成させる方法である。
【0018】
また、本開示の他の態様の発酵水素の製造装置は、少なくとも水素の排出口を備える培養容器と、前記培養容器内に配置された、糖類を含む培地と、前記培地中に存在する嫌気性細菌及び熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子とを備える装置である。
【0019】
(嫌気性細菌)
嫌気性細菌としては、糖質から水素を生成することが可能な嫌気性の菌体であれば特に制限はなく、例えば、Enterobacter属、Escherichia coli(大腸菌)、Citrobacter属、Klebsiella属、Bacillus属等の通性嫌気性細菌;Clostridium属、Ruminococcus属等の偏性嫌気性細菌が挙げられる。これらの嫌気性細菌の中でも、培養時に要求される培養容器の密閉度が低く、培養温度が比較的低いため、設備面や操作面の要件が穏和になり、保温に要するエネルギーコストを低減できるという観点から、通性嫌気性細菌が好ましく、Enterobacter属及びKlebsiella属がより好ましい。
【0020】
(培地及び糖質)
培地としては、糖質を含み、使用する嫌気性細菌に応じた培地であれば特に制限はないが、嫌気性細菌の増殖効率や水素の生産効率の観点から、液体培地が好ましい。
【0021】
糖質としては、嫌気性細菌の培養に用いることができるものであれば特に制限はなく、例えば、糖類、糖アルコールが挙げられる。糖類としては、グルコース、ガラクトース、フルクトース、マンノース、キシロース等の単糖類;スクロース、マルトース等の二糖類;単糖が3~10個結合したオリゴ糖;単糖が11個以上結合した、デンプン等の多糖類が挙げられる。糖アルコールとしては、マンニトール、ソルビトール、グリセロール、キシリトール、エリトリトール等のアルジトール;イノシトール等のシクリトールが挙げられる。これらの糖質の中でも、糖質1モルあたりの水素生産収率及び糖質系バイオマスの主要構成糖であることなどの観点から、グルコース、フルクトース、スクロース、ガラクトース、キシロース、マンニトール、ソルビトール及びグリセロールが好ましい。これらの糖類、糖アルコールは、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよく、また調達コストの観点からこれらの混合物である糖質廃液を使用してもよい。
【0022】
(熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子)
熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子は、ポリオール成分及び鎖延長剤とイソシアネート成分とのウレタン化反応の反応生成物である。
【0023】
(ポリオール成分)
ポリオール成分としては、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオールが挙げられる。これらのポリオール成分は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0024】
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、ジオール類とカーボネート類との脱アルコール反応や脱フェノール反応によって得られるものである。このポリカーボネートポリオールは、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。ジオール類としては、例えば、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。これらのジオール類は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。カーボネート類としては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、ジエチレンカーボネート等が挙げられる。これらのカーボネート類は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0025】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、低分子ポリオール類又は低分子ポリアミン類との1分子中に活性水素を2個以上有する化合物を開始剤としてアルキレンオキサイド類を付加重合させることによって得られるものや、環状エーテルモノマーを開環重合することによって得られるものが挙げられる。これらのポリエーテルポリオールは、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。低分子ポリオール類としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、3,3-ジメチロールヘプタン、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン-1,4-ジオール、シクロヘキサン-1,4-ジメタノール、ダイマー酸ジオール、ビスフェノールA、ビス(β-ヒドロキシエチル)ベンゼン、キシリレングリコール等が挙げられる。これらの低分子ポリオール類は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。低分子ポリアミン類としては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トルエンジアミン、メタフェニレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン、キシリレンジアミン等が挙げられる。これらの低分子ポリアミン類は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。アルキレンオキサイド類としては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等が挙げられる。これらのアルキレンオキサイド類は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。環状エーテルモノマーとしては、例えば、メチルグリシジルエーテル等のアルキルグリシジルエーテル類、フェニルグリシジルエーテル等のアリールグリシジルエーテル類、テトラヒドロフラン等が挙げられる。これらの環状エーテルモノマーは、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0026】
ポリオール成分の数平均分子量としては、熱可塑性ポリウレタン樹脂の成形性が向上し、また、熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子の機械的特性が向上するという観点から、750~3000が好ましく、800~2000がより好ましく、1000~2000が更に好ましい。なお、ポリオール成分の数平均分子量は、JIS K 7252-3(プラスチック-サイズ排除クロマトグラフィーによる高分子の平均分子量及び分子量分布の求め方-第3部:常温付近での方法)に準拠して測定することができる。
【0027】
(鎖延長剤)
鎖延長剤としては、例えば、低分子ジオール類、二官能の低分子グリコールエーテル類等が挙げられる。これらの鎖延長剤は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。低分子ジオール類としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン等が挙げられる。これらの低分子ジオール類は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。二官能の低分子グリコールエーテル類としては、例えば、2,2-ビス(4-ポリオキシエチレン-オキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ポリオキシプロピレン-オキシフェニル)プロパン、ジメチロールヘプタンエチレンオキサイド付加物、ジメチロールヘプタンプロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。これらの二官能の低分子グリコールエーテル類は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。これらの鎖延長剤の中でも、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、及びこれらの混合物が好ましい。
【0028】
また、熱可塑性ポリウレタン樹脂の特性を損なわない範囲であれば、官能基数が1の活性水素化合物や官能基数が3以上の活性水素化合物を、低分子ジオール類や二官能の低分子グリコールエーテル類と併用してもよい。官能基数が1の活性水素化合物としては、例えば、1-デカノール、1-ドデカノール、ステアリルアルコール、1-ドコサノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。官能基数が3以上の活性水素化合物としては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、ソルビトール等が挙げられる。これらの活性水素化合物は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0029】
鎖延長剤の数平均分子量としては、柔軟性や可撓性の観点から、60~300が好ましい。鎖延長剤の数平均分子量が前記下限以上であると、熱可塑性ポリウレタン樹脂中のウレタン基濃度が相対的に低くなり、溶融混練時に未溶融物が残存することをさらに抑制でき、熱可塑性ポリウレタン樹脂の溶融物が高粘度化することをさらに抑制できるため、熱可塑性ポリウレタン樹脂の成形性が向上する傾向にあり、また、熱可塑性ポリウレタン樹脂の硬さ、100%モジュラス、引張強さ、引裂強さが充分である上に、伸びの低下をさらに抑制でき、柔軟性や可撓性がさらに向上する傾向にある。他方、鎖延長剤の数平均分子量が前記上限以下であると、熱可塑性ポリウレタン樹脂中のウレタン基濃度が相対的に高くなり、熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子の機械的物性がさらに向上する傾向にある。
【0030】
鎖延長剤は、ポリオール成分の活性水素基のモル数に対する鎖延長剤の活性水素基のモル数の比(R’値=[鎖延長剤の活性水素基のモル数]/[ポリオール成分の活性水素基のモル数])が、好ましくは0.1~15、より好ましくは0.3~12となるように配合することが望ましい。R’値は、熱可塑性ポリウレタン樹脂のハードセグメント量の指標であり、R’値が前記上限以下であると、熱可塑性ポリウレタン樹脂の硬さ、100%モジュラス、引張強さ、引裂強さが充分である上に、伸びの低下をさらに抑制でき、柔軟性や可撓性がさらに向上する傾向にある、R’値が前記下限以上であると、熱可塑性ポリウレタン樹脂中のウレタン基濃度が相対的に高くなり、熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子の機械的物性がさらに向上する傾向にある。
【0031】
(イソシアネート成分)
イソシアネート成分としては、例えば、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、芳香脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート、前記イソシアネートのビウレット体、ダイマー体、トリマー体、ダイマー・トリマー体、カルボジイミド体、ウレトンイミン体、前記イソシアネートと2官能以上のポリオール等との反応で得られるアダクト体が挙げられる。これらのイソシアネート成分は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。芳香族ジイソシアネートとしては、例えば、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルエーテルジイソシアネート、2-ニトロジフェニル-4,4’-ジイソシアネート、2,2’-ジフェニルプロパン-4,4’-ジイソシアネート、3,3’-ジメチルジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、4,4’-ジフェニルプロパンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、ナフチレン-1,4-ジイソシアネート、ナフチレン-1,5-ジイソシアネート、3,3’-ジメトキシジフェニル-4,4’-ジイソシアネート等が挙げられる。これらの芳香族ジイソシアネートは、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、2-メチル-ペンタン-1,5-ジイソシアネート、3-メチル-ペンタン-1,5-ジイソシアネート、デカメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、トリオキシエチレンジイソシアネート等が挙げられる。これらの脂肪族ジイソシアネートは、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。芳香脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、キシリレン-1,4-ジイソシアネート、キシリレン-1,3-ジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等が挙げられる。これらの芳香脂肪族ジイソシアネートは、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。脂環族ジイソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネート、水素添加トリレンジイソシアネート、水素添加キシレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、水素添加テトラメチルキシレンジイソシアネート等が挙げられる。これらの脂環族ジイソシアネートは、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0032】
イソシアネート成分は、ポリオール成分の活性水素基のモル数と鎖延長剤の活性水素基のモル数との合計量(活性水素基の全モル数)に対するイソシアネート成分のイソシアネート基のモル数の比(R値=[イソシアネート基のモル数]/[活性水素基の全モル数])が、好ましくは0.7~1.3、より好ましくは0.8~1.2となるように配合することが望ましい。R値が前記下限以上であると、耐熱性、物性に優れた熱可塑性ポリウレタン樹脂が得られ、他方、R値が前記上限以下であると、加熱成形可能な特性が得られる。
【0033】
(ウレタン化触媒)
ウレタン化反応に用いる触媒としては、アミン系触媒、有機金属系触媒、リン系触媒等が挙げられる。アミン系触媒としては、例えば、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、N-メチルイミダゾール、N-エチルモルホリン、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセン等が挙げられる。有機金属系触媒としては、例えば、酢酸カリウム、スタナスオクトエート、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジブチルスズジアセテート等の錫化合物、チタン酸エステル、ジルコニウム化合物、ビスマス化合物、鉄化合物等が挙げられる。リン系触媒としては、例えば、トリブチルホスフィン、ホスフォレン、ホスフォレンオキサイド等が挙げられる。これらのウレタン化触媒は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。これらのウレタン化触媒の中でも、錫化合物、チタン酸エステル、ジルコニウム化合物、ビスマス化合物、鉄化合物が好ましい。また、触媒の添加量としては、得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂の総量に対して、5質量%以下が好ましく、0.001~2質量%がより好ましい。
【0034】
(その他の添加剤)
熱可塑性ポリウレタン樹脂を製造する際には、必要に応じて、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、加水分解防止剤、耐熱性向上剤、耐候性改良剤、反応性遅延剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、導電付与剤、着色剤、無機および有機充填剤、繊維系補強材、結晶核剤等の各種添加剤を配合してもよい。これらの添加剤は、熱可塑性ポリウレタン樹脂を製造する際に通常使用されるものを使用することができる。
【0035】
(熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子の製造方法)
熱可塑性ポリウレタン樹脂の製造方法としては、ポリオール成分及び鎖延長剤とイソシアネート成分とをウレタン化反応させることができる方法であれば、特に制限はなく、例えば、ワンショット法、プレポリマー法、バッチ反応法、連続反応法、ニーダによる方法、押出機による方法等の公知の製造方法を採用することができる。
【0036】
熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子は、このようにして得られる種々の形状(例えば、フレーク状、ペレット状、パウダー状、グラニュール状、ロッド状、シート状、ブロック状等)の熱可塑性ポリウレタン樹脂の固形物をフレーク状に粉砕し、これを押出機に投入して150~240℃程度の温度で溶融混練した後、溶融混練物を吐出させ、所望の粒径にストランドカット又は水中カットすることによって得ることができる。
【0037】
熱可塑性ポリウレタン樹脂の比重としては、1.05~1.20が好ましく、1.10~1.18がより好ましい。熱可塑性ポリウレタン樹脂の比重が前記範囲内にあると、熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子が培地中を浮遊するため、熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子により培地が攪拌され、攪拌のためのエネルギーコストを削減できる。
【0038】
熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子の平均粒径としては、2~6mmが好ましく、3~5mmがより好ましい。熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子の平均粒径が前記範囲内にあると、気泡の排出、効率的な撹拌の面で有利である。
【0039】
熱可塑性ポリウレタン樹脂の硬さとしては、熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子が培養中の衝突により損傷しにくいという観点から、75以上が好ましく、80以上がより好ましい。なお、熱可塑性ポリウレタン樹脂の硬さは、JIS K7312に準拠してタイプAデュロメータにより測定することができる。
【0040】
熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子は、細孔を有しないものであることが好ましい。細孔を有しない熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子を使用すると、熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子に培地成分が吸着することをさらに抑制できるため、嫌気性細菌の増殖の阻害を高度に抑制でき、水素生成量がさらに増加する傾向にある。
【0041】
〔発酵水素の製造方法〕
本開示の一態様の発酵水素の製造方法は、糖質を含む培地中、熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子の存在下で嫌気性細菌を培養することにより、糖質から水素を生成させる方法である。嫌気性細菌の培養方法としては、回分培養であっても連続培養であってもよい。連続培養を行う場合、培地を連続的に供給・排出することから、嫌気性細菌の流出を防ぐために、嫌気性細菌を固定化する必要がある。また、回分培養においても、培養後に嫌気性細菌を回収しやすいという観点から、嫌気性細菌を固定化してもよい。嫌気性細菌の固定化担体としては特に制限はないが、熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子が好ましい。さらに、嫌気性細菌の培養時には、攪拌機等により培地を攪拌してもよい。
【0042】
糖質を含む培地中で嫌気性細菌を培養すると、糖質から水素と二酸化炭素が生成する。従来の発酵水素の製造方法では、生成した水素や二酸化炭素が嫌気性細菌の増殖を阻害するため、水素生成量が増加せず、発酵水素を効率的に製造することは困難である。この現象は、培地中の糖質の濃度が高くなると、顕著である。一方、本開示の一態様の発酵水素の製造方法においては、糖質から水素と二酸化炭素が生成しても、嫌気性細菌の増殖が阻害されず、水素生成量が増加し、発酵水素を効率的に製造することが可能である。特に、水素生成量を増加させるために培地中の糖質の濃度を高くしても、嫌気性細菌の増殖は阻害されず、発酵水素を効率的に製造することができる。これは、培地中に存在する熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子が、培地中に溶存する水素や二酸化炭素の気化を促進し、培地中に溶存する水素や二酸化炭素の濃度が低減されるためと推察される。また、培地中に溶存する水素や二酸化炭素の気化が促進されるため、糖質からの水素や二酸化炭素の生成反応も促進され、水素生成量が増加すると推察される。他方、熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子の代わりに、ポリエチレン粒子やポリビニルアルコール系粒子を使用しても、嫌気性細菌の増殖が阻害されるため、水素生成量が増加せず、発酵水素を効率的に製造することは困難である。これは、ポリエチレン粒子やポリビニルアルコール系粒子には、培地中に溶存する水素や二酸化炭素の気化を促進する作用がないためと推察される。また、熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子の代わりに、活性炭粒子を使用すると、培地成分が活性炭粒子に吸着するため、嫌気性細菌が十分に増殖せず、水素生成量を増加させるために培地中の糖質の濃度を高くしても、その効果が十分に得られない。
【0043】
〔発酵水素の製造装置〕
本開示の他の態様の発酵水素の製造装置は、少なくとも水素の排出口を備える培養容器と、前記培養容器内に配置された、糖質を含む培地と、前記培地中に存在する嫌気性細菌及び熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子とを備えるものである。このような発酵水素の製造装置は、上述した本開示の一態様の発酵水素の製造方法に好適に用いることができる。
【0044】
前記培養容器としては、培養容器内を嫌気状態に維持できるものであれば特に制限はなく、回分式であっても連続式であってもよい。連続式の培養容器の場合、培地を連続的に供給・排出することから、嫌気性細菌の流出を防ぐために、嫌気性細菌を固定化する必要がある。また、回分式の培養容器においても、培養後に嫌気性細菌を回収しやすいという観点から、嫌気性細菌を固定化してもよい。嫌気性細菌の固定化担体としては特に制限はないが、熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子が好ましい。さらに、回分式及び連続式のいずれの培養容器においても、生成した水素と二酸化炭素を含む気体が培養容器から排出されるように、水素の排出口を備えていることが必要である。また、前記培養容器は、攪拌機を備えていてもよい。
【0045】
本開示の他の態様の発酵水素の製造装置においては、前記培養容器に、糖質を含む培地が配置されており、この培地中に、嫌気性細菌と熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子とが分散されている。培地中に嫌気性細菌と熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子とを共存させることによって、嫌気性細菌の培養時に、糖質から水素と二酸化炭素が生成しても、嫌気性細菌の増殖が阻害されず、水素生成量が増加し、発酵水素を効率的に製造することが可能である。特に、水素生成量を増加させるために培地中の糖質の濃度を高くしても、嫌気性細菌の増殖は阻害されず、発酵水素を効率的に製造することができる。これは、上述したように、熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子により、培地中に溶存する水素や二酸化炭素の気化が促進されるためと推察される。また、培地中に溶存する水素や二酸化炭素の気化が促進されるため、糖質からの水素や二酸化炭素の生成反応も促進され、水素生成量が増加すると推察される。一方、糖質を含む培地中に熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子が存在しない場合には、生成した水素や二酸化炭素が嫌気性細菌の増殖を阻害するため、水素生成量が増加せず、発酵水素を効率的に製造することが困難となる。この現象は、培地中の糖質の濃度が高くなると、顕著である。また、熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子の代わりに、ポリエチレン粒子やポリビニルアルコール系粒子が存在しても、嫌気性細菌の増殖が阻害されるため、水素生成量が増加せず、発酵水素を効率的に製造することは困難である。これも、上述したように、ポリエチレン粒子やポリビニルアルコール系粒子には、培地中に溶存する水素や二酸化炭素の気化を促進する作用がないためと推察される。さらに、熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子の代わりに、活性炭粒子が存在する場合には、培地成分が活性炭粒子に吸着するため、嫌気性細菌が十分に増殖せず、水素生成量を増加させるために培地中の糖質の濃度を高くしても、その効果が十分に得られない。
【0046】
本開示の一態様の発酵水素の製造方法及び本開示の他の態様の発酵水素の製造装置において、培地中の糖質の濃度としては、従来の発酵水素の製造方法における糖質濃度(1.0~1.5質量%)を採用してもよいが、水素生成量を増加させるために糖質濃度を高くしても、上述した熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子の添加効果により、生成する水素や二酸化炭素による嫌気性細菌の増殖阻害が抑制されるため、発酵水素を効率的に製造できるという観点から、1.5質量%以上(より好ましくは1.5~4.5質量%、更に好ましくは2.0~4.5質量%)の糖質濃度を採用することが好ましい。
【0047】
また、本開示の一態様の発酵水素の製造方法及び本開示の他の態様の発酵水素の製造装置において、培地中の熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子の濃度としては、嫌気性細菌の増殖阻害が抑制され、水素生成量が増加し、発酵水素を効率的に製造することができるという観点から、1.0質量%以上が好ましく、5.0質量%以上がより好ましい。また、培地中の熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子の濃度の上限としては、発酵水素の製造装置に占める培地の質量比を高く保つという観点から、10.0質量%以下が好ましく、7.5質量%以下がより好ましい。
【0048】
さらに、本開示の一態様の発酵水素の製造方法及び本開示の他の態様の発酵水素の製造装置において、培養温度や培養容器の密閉度等の培養条件及びその制御方法としては特に制限はなく、使用する嫌気性細菌に応じた条件及び制御方法を適宜選択すればよい。
【実施例0049】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例で使用した熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子は、以下の方法により合成した。
【0050】
(合成例1~5)
攪拌機及び温度計を備えた反応容器に、表1に示す種類と量のポリオール成分及び鎖延長剤を投入して均一に混合した。得られた混合液を70℃に加熱した後、表1に示す量のイソシアネート成分を添加してウレタン反応を行い、ポリウレタン樹脂を得た。その後、ポリウレタン樹脂の温度が100℃に上昇した時点で、ポリウレタン樹脂をバットの流し込み、放冷して固化させた。得られた固形物を80℃の電気炉内で16時間加熱して熟成させた後、室温まで冷却した。得られた固形物を粉砕し、フレーク状の熱可塑性ポリウレタン樹脂(TPU-1~TPU-5)を得た。
【0051】
<熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子の作製>
各合成例で得られたフレーク状の熱可塑性ポリウレタン樹脂(合成例3においては、このフレーク状の熱可塑性ポリウレタン樹脂と表1に示す量のヒンダードアミン光安定剤とを予めドライブレンドした混合物)を単軸押出機に投入して240℃以下の温度で混練し、ひも状に吐出させて冷却した後、ストランドカッターで裁断して、熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子(TPU-1粒子~TPU-5粒子)を得た。
【0052】
<熱可塑性ポリウレタン樹脂シートの作製>
熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子(TPU-1粒子~TPU-5粒子)を、熱プレス成形機を用い、温度180~200℃、圧力10MPaの条件でプレス成形して、厚さ2mmの熱可塑性ポリウレタン樹脂シート(TPU-1シート~TPU-5シート)を作製した。
【0053】
<比重>
熱可塑性ポリウレタン樹脂シート(厚さ2mm)を裁断して、2cm角の試験片(厚さ2mm)を作製し、この試験片を用いて水中置換法により熱可塑性ポリウレタン樹脂(TPU-1~TPU-5)の比重を測定した。その結果を表1に示す。
【0054】
<平均粒径>
熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子10個を無作為に抽出し、各粒子の長径をノギスにより測定して平均し、熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子(TPU-1粒子~TPU-5粒子)の平均粒径を求めた。その結果を表1に示す。
【0055】
<硬さ>
熱可塑性ポリウレタン樹脂シート(厚さ2mm)を6枚重ねて、厚さ12mmの試験片を作製し、この試験片を用いて、JIS K7312に準拠してタイプAデュロメータにより熱可塑性ポリウレタン樹脂(TPU-1~TPU-5)の硬さを測定した。その結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
・ポリカーボネートジオール:東ソー株式会社製「N-980R」、分子量2000。
・ポリテトラメチレンエーテルジオール:三菱ケミカル株式会社製「PTMEG-1000」、分子量1000。
・ポリエチレングリコール:三洋化成工業株式会社製「PEG-6000S」、分子量8300。
・1,4-ブタンジオール:三菱ケミカル株式会社製「14BG」。
・ジフェニルメタンジイソシアネート:東ソー株式会社製。
・ヒンダードアミン光安定剤:BASF社製「Chimassorb-944」。
【0058】
また、実施例及び比較例で使用した嫌気性細菌は、以下の方法により前培養した。
【0059】
(前培養)
ペプトン(極東製薬工業株式会社製)、酵母エキス(極東製薬工業株式会社製)及びNaClを所定量含有する水溶液とD-グルコースを所定量含有する水溶液とをそれぞれ別個に滅菌(121℃、15min)し、これらを混合してPYSG培地(ペプトン:24g/L、酵母エキス:2g/L、NaCl:4g/L、D-グルコース:15g/L)を調製した。このPYSG培地8mlに、Enterobacter aerogenes ATCC51697株を植菌し、35℃で一晩静置培養し、前培養液を調製した。
【0060】
(実施例1)
先ず、水素ガス排出口を備えるバッチ式培養容器(容量:50ml)と、気体導入口及び気体排出口を備え、10質量%(2.5N)のNaOH水溶液を満たしたCO吸収槽(容量:250ml)と、気体導入口及び液体排出口を備え、蒸留水を満たした密閉水槽(容量:250ml)とを、この順で直列に連結した。具体的には、前記培養容器の水素ガス排出口と前記CO吸収槽の気体導入口とを接続し、前記CO吸収容器の気体排出口と前記密閉水槽の気体導入口とを接続した。
【0061】
次に、ペプトン(極東製薬工業株式会社製)、酵母エキス(極東製薬工業株式会社製)及びNaClを所定量含有する水溶液20mlとD-グルコースを所定量含有する水溶液5mlとをそれぞれ別個に滅菌(121℃、15min)し、これらを、前記培養容器(容量:50ml)内で混合して、種々のグルコース濃度(0.5~5.0質量%)のPYSG培地(ペプトン:24g/L、酵母エキス:2g/L、NaCl:4g/L、D-グルコース:5~50g/L)25mlを調製した。
【0062】
合成例1で得られたTPU-1粒子1.25gを80℃で1時間乾熱滅菌した後、前記PYSG培地に添加し、さらに、前記前培養液0.25mlを植菌(1%植菌)した。前記培養容器の気相部分に純度99.9%の窒素ガスを流量0.6L/minで1分間流通させて、前記培養容器の気相の空気を窒素で置換した後、前記培養容器を35℃の恒温機内に静置して、E.aerogenesの嫌気培養を24時間行った。
【0063】
培養中、グルコースからHとCOが生成し、前記培養容器中の気体の体積が増加するため、前記培養容器からHとCOとを含む気体が排出される。そこで、前記培養容器から排出された気体を、前記培養容器に連結した前記CO吸収槽に導入してCOを吸収させた後、前記CO吸収槽を通過したHを含む気体を、前記CO吸収槽に連結した前記密閉水槽に導入した。このとき、前記密閉水槽から溢れ出た水の質量を培養開始から2分毎に測定し、これを水素生成量とした。また、培養終了後(培養開始から24時間後)の菌体濃度(培地の濁度(OD600))を測定した。表2には、グルコース濃度が1.5質量%及び4.5質量%のPYSG培地を用いた場合の培養開始から24時間後の水素生成量及び菌体濃度(OD600)を示す。
【0064】
また、いずれのグルコース濃度においても培養開始から24時間後には水素生成量の増加がほとんど見られなかったため、培養開始から24時間後の水素生成量を総水素生成量とした。この総水素生成量を各グルコース濃度について求め、総水素生成量が飽和する(最大となる)グルコース濃度を求めた。その結果も表2に示す。
【0065】
さらに、培養終了後のTPU-1粒子を目視観察して、熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子への培地吸着の有無を確認した。その結果も表2に示す。
【0066】
(実施例2~5)
TPU-1粒子の代わりに合成例2~5で得られたTPU-2粒子~TPU-5粒子1.25gを用いた以外は実施例1と同様にして、E.aerogenesの培養を行い、培養開始から2分毎に水素生成量を測定し、また、培養終了後(培養開始から24時間後)の菌体濃度(培地の濁度(OD600))を測定した。表2には、グルコース濃度が1.5質量%及び4.5質量%のPYSG培地を用いた場合の培養開始から24時間後の水素生成量及び菌体濃度(OD600)を示す。また、実施例1と同様にして、総水素生成量が飽和する(最大となる)グルコース濃度を求め、さらに、熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子への培地吸着の有無を確認した。これらの結果も表2に示す。なお、実施例5においては、培養終了後の熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子に水による膨潤が見られた。
【0067】
(比較例1)
ペプトン(極東製薬工業株式会社製)、酵母エキス(極東製薬工業株式会社製)及びNaClを所定量含有する水溶液20mlに顆粒状活性炭(富士フイルム和光純薬株式会社製、比重:1.8~2.1、平均粒径:4mm)1.25gを添加した分散液とD-グルコースを所定量含有する水溶液5mlとをそれぞれ別個に滅菌(121℃、15min)し、これらを、前記培養容器(容量:50ml)内で混合して、前記顆粒状活性炭を分散させた、種々のグルコース濃度(0.5~5.0質量%)のPYSG培地(ペプトン:24g/L、酵母エキス:2g/L、NaCl:4g/L、D-グルコース:5~50g/L)25mlを調製した以外は実施例1と同様にして、E.aerogenesの培養を行い、培養開始から2分毎に水素生成量を測定し、また、培養終了後(培養開始から24時間後)の菌体濃度(培地の濁度(OD600))を測定した。表2には、グルコース濃度が1.5質量%及び4.5質量%のPYSG培地を用いた場合の培養開始から24時間後の水素生成量及び菌体濃度(OD600)を示す。また、実施例1と同様にして、総水素生成量が飽和する(最大となる)グルコース濃度を求め、さらに、顆粒状活性炭への培地吸着の有無を確認した。これらの結果も表2に示す。
【0068】
(比較例2)
TPU-1粒子の代わりにポリエチレン粒子(東ソー株式会社製「ペトロセン175K」、比重:0.92、平均粒径:4mm)1.25gを用いた以外は実施例1と同様にして、E.aerogenesの培養を行い、培養開始から2分毎に水素生成量を測定し、また、培養終了後(培養開始から24時間後)の菌体濃度(培地の濁度(OD600))を測定した。表2には、グルコース濃度が1.5質量%及び4.5質量%のPYSG培地を用いた場合の培養開始から24時間後の水素生成量及び菌体濃度(OD600)を示す。また、実施例1と同様にして、総水素生成量が飽和する(最大となる)グルコース濃度を求め、さらに、ポリエチレン粒子への培地吸着の有無を確認した。これらの結果も表2に示す。
【0069】
(比較例3)
TPU-1粒子の代わりにポリビニルアルコール系粒子(クラレアクア株式会社製「クラゲール」、比重:1.02、平均粒径:4mm)1.25gを用いた以外は実施例1と同様にして、E.aerogenesの培養を行い、培養開始から2分毎に水素生成量を測定し、また、培養終了後(培養開始から24時間後)の菌体濃度(培地の濁度(OD600))を測定した。表2には、グルコース濃度が1.5質量%及び4.5質量%のPYSG培地を用いた場合の培養開始から24時間後の水素生成量及び菌体濃度(OD600)を示す。また、実施例1と同様にして、総水素生成量が飽和する(最大となる)グルコース濃度を求め、さらに、ポリビニルアルコール系粒子への培地吸着の有無を確認した。これらの結果も表2に示す。
【0070】
(比較例4)
TPU-1粒子を添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして、E.aerogenesの培養を行い、培養開始から2分毎に水素生成量を測定し、また、培養終了後(培養開始から24時間後)の菌体濃度(培地の濁度(OD600))を測定した。表2には、グルコース濃度が1.5質量%及び4.5質量%のPYSG培地を用いた場合の培養開始から24時間後の水素生成量及び菌体濃度(OD600)を示す。また、実施例1と同様にして、総水素生成量が飽和する(最大となる)グルコース濃度を求めた。その結果も表2に示す。
【0071】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上説明したように、本開示によれば、糖質の濃度が高い場合であっても、菌体の増殖阻害が起こりにくく、発酵水素を効率的に製造することも可能となる。したがって、本開示の一態様の発酵水素の製造方法及び製造装置は、高濃度の糖質から多量の発酵水素を高収率で製造することが可能な方法及び装置として有用である。