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  • 特開-微生物発電装置の運転方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168705
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】微生物発電装置の運転方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04492 20160101AFI20241128BHJP
   H01M 8/16 20060101ALI20241128BHJP
   H01M 8/04746 20160101ALI20241128BHJP
   H01M 8/04828 20160101ALI20241128BHJP
【FI】
H01M8/04492
H01M8/16
H01M8/04746
H01M8/04828
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085598
(22)【出願日】2023-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】小松 和也
(72)【発明者】
【氏名】浅井 蒼平
【テーマコード(参考)】
5H127
【Fターム(参考)】
5H127AA08
5H127BA06
5H127BA28
5H127BA57
5H127BB02
5H127DB37
5H127DC02
5H127DC03
5H127DC07
5H127DC37
(57)【要約】
【課題】正極の電位の低下を防ぎ、高い出力を維持できるようになる微生物発電装置を提供する。
【解決手段】負極6を有し、有機物を含む原水が該負極6内を通るように供給されるアノード室4と、正極5を有し、該アノード室4に対し非導電性多孔質材料よりなる区隔材2によって隔てられたカソード室3とを備え、該正極5および負極6が該区隔材2に接しており、酸素含有ガスが該カソード室3に供給される微生物発電装置の運転方法において、該カソード室3から排出される水量に基づき、アノード室4内の流量を調整することを特徴とする微生物発電装置の運転方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極を有し、有機物を含む原水が該負極内を通るように供給されるアノード室と、
正極を有し、該アノード室に対し非導電性多孔質材料よりなる区隔材によって隔てられたカソード室と
を備え、該正極および負極が該区隔材に接しており、酸素含有ガスが該カソード室に供給される微生物発電装置の運転方法において、
該カソード室から排出される水量に基づき、アノード室内の流量を調整することを特徴とする微生物発電装置の運転方法。
【請求項2】
前記カソード室から排出される単位時間当たりの水量が所定値以下となるように前記アノード室内の流量を調整することを特徴とする請求項1の微生物発電装置の運転方法。
【請求項3】
前記アノード室内の液を該アノード室の一端側から取り出し、他端側から該アノード室内に流入させる循環手段が設けられており、
該循環手段による循環流量及び/又は原水供給量を調整することにより、前記アノード室内の流量を調整することを特徴とする請求項2の微生物発電装置の運転方法。
【請求項4】
前記アノード室は、前記他端側に原水の流入口を備え、前記一端側に廃液の流出口を備えていることを特徴とする請求項3の微生物発電装置の運転方法。
【請求項5】
前記カソード室から排出される単位時間当たりの水量W3と、前記アノード室に供給される原水の流量W1と前記循環流量W2との和との比W3/(W1+W2)が所定値以下となるように、前記循環流量及び/又は原水供給量を調整することを特徴とする請求項4の微生物発電装置の運転方法。
【請求項6】
前記比W3/(W1+W2)が所定値以下となるように、前記循環流量を調整することを特徴とする請求項5の微生物発電装置の運転方法。
【請求項7】
前記区隔材を構成する非導電性多孔質材料が紙、織布、又は不織布であることを特徴とする請求項1~6のいずれかの微生物発電装置の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物を微生物に酸化分解させる際に得られる還元力を電気エネルギーとして取り出す微生物発電装置の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物発電では、微生物が有機物を資化する際に得られる電気エネルギーを取り出すことにより発電が行われる。
【0003】
微生物発電では、アノード室内に有機物含有水が供給され、微生物が有機物を酸化して発生する電子が外部抵抗を介して正極に移動する。
【0004】
特許文献1には、負極を有したアノード室と、該アノード室に対しプロトン透過性を有した区隔材を介して隔てられており、正極を有したカソード室とを備え、前記正極が、弾性を有したスペーサに押圧されることにより前記区隔材に押し付けられて密着しており、これにより微生物発電の効率を高くすることができる微生物発電装置が記載されている。
【0005】
特許文献1は、カソード室に空気を流通させるエアカソード式の微生物発電装置である。特許文献1には、区隔材として、非導電性物質よりなる紙、織布、不織布、ハニカム成形体、または格子状成形体が記載されている。
【0006】
特許文献2には、アノード室とカソード室とを隔てる非導電性イオン透過膜を、アノード室、カソード室それぞれに配置された導電性充填材で挟み込むように密着させるとともに、原水をアノード室の導電性充填材内を通すように供給する微生物発電装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009-231229号公報
【特許文献2】特開2009-152091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
微生物発電装置では、運転を継続すると、アノード室内の負極で微生物が過度に増殖したり、原水中の懸濁固形物などが捕捉されたりすることにより、アノード室の通水圧損が上昇することがある。区隔材として、紙や織布、不織布などの多孔質材を用いた場合、アノード室の通水圧損が上昇すると、アノード室から区隔材を通してカソード室に流出する原水量が増えるようになる。アノード室からカソード室に流出する原水量が増えると、カソード室で原水中の有機物の酸化反応が起こることで正極(カソード)の電位が低下し、出力が低下してしまう。例えばアノード室への供給量の5%がカソード室に漏れれば、それだけで発電量は5%減少してしまう。
【0009】
また、アノード室からカソード室に流出する原水量が増えると、カソード室に酸素含有ガスを供給するエアカソードでは、正極が水没することで酸素供給速度が著しく減少したり、正極表面に好気性の生物膜が付着したりして、カソード反応自体も起こりにくくなり、発電量が低下することがある。
【0010】
アノード室からカソード室に流出する原水量を減少させるために、アノード室に供給する原水の流量を過度に少なくしてしまうと、負極材表面の微生物に充分に基質が供給されず、発電量が低下する。
【0011】
本発明は、正極室への水漏れを抑制し、高い発電量が長期にわたって安定して得られる微生物発電装置の運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の微生物発電装置の運転方法は、負極を有し、有機物を含む原水が該負極内を通るように供給されるアノード室と、正極を有し、該アノード室に対し非導電性多孔質材料よりなる区隔材によって隔てられたカソード室とを備え、該正極および負極が該区隔材に接しており、酸素含有ガスが該カソード室に供給される微生物発電装置の運転方法において、該カソード室から排出される水量に基づき、アノード室内の流量を調整することを特徴とする。
【0013】
本発明の一態様では、前記カソード室から排出される単位時間当たりの水量が所定値以下となるように前記アノード室内の流量を調整する。
【0014】
本発明の一態様では、前記アノード室内の液を該アノード室の一端側から取り出し、他端側から該アノード室内に流入させる循環手段が設けられており、該循環手段による循環流量及び/又は原水供給量を調整することにより、前記アノード室内の流量を調整する。
【0015】
本発明の一態様では、前記アノード室は、前記他端側に原水の流入口を備え、前記一端側に廃液の流出口を備えている。
【0016】
本発明の一態様では、前記カソード室から排出される単位時間当たりの水量W3と、前記アノード室に供給される原水の流量W1と前記循環流量W2との和との比W3/(W1+W2)が所定値以下となるように、前記循環流量及び/又は原水供給量を調整する。
【0017】
本発明の一態様では、前記比W3/(W1+W2)が所定値以下となるように、前記循環流量を調整する。
【0018】
本発明の一態様では、前記区隔材を構成する非導電性多孔質材料が紙、織布、又は不織布である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の微生物発電装置では、カソード室から排出される水の流量に基づいてアノード室の通水量を制御する。これにより、アノード室からカソード室に流出する原水量が減少し、高い発電量が長期にわたって安定して得られるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る微生物発電装置の断面模式図である。
図2】実施例及び比較例の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0022】
図1は本発明の実施形態に係る微生物発電装置の概略的な構成を示す模式的断面図である。
【0023】
槽体1内が、区隔材2によってカソード室3とアノード室4とに区画されている。カソード室3内にあっては、スペーサ5aに押圧されることによって区隔材2に密着するように、導電性多孔質材料のボード状成形体よりなる正極5が配置されている。このスペーサ5aによって形成されるスペース3aに対し、ガス流入口7から空気などの酸素含有ガスが導入され、ガス流出口8から排ガスが流出する。
【0024】
アノード室4内には、導電性多孔質材料よりなる負極6が配置されている。この負極6は、区隔材2に密着しており、負極6表面で生成したプロトン(H)が区隔材2を通ってカソード室3に移動できるようになっている。
【0025】
アノード室4には流入口4aから原水を導入し、流出口4bから処理液を排出させる。なお、アノード室4内は嫌気性とされる。
【0026】
アノード室4内の液は循環往口9、循環配管10、循環用ポンプ11及び循環戻口12を介して循環される。この循環用ポンプ11の回転数を制御するために、制御器17が設けられている。
【0027】
この循環配管10には、アノード室4から流出してきた液のpHを測定するpH計14が設けられると共に、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ添加手段13が接続されている。
【0028】
負極6に微生物が担持されている。負極6は、多くの微生物を保持できるよう、表面積が大きく空隙が多く形成され通水性を有する導電性多孔体で構成されることが好ましい。具体的には、導電性物質のシートや導電性物質をフェルト状その他の多孔性シート状にした多孔性導電体(例えばグラファイトフェルト、発泡チタン、発泡ステンレス等)が挙げられる。
【0029】
特に、負極6は、フェルト等の繊維体よりなることが好ましい。負極をアノード室内に設置する場合、アノード室厚みよりも大きい厚さのものを押し縮めてアノード室に挿入し、それ自身の復元弾性によって区隔材2に密着させるようにしてもよい。
【0030】
負極6は、全体の厚さが3mm以上40mm以下、特に5~20mm程度であることが好ましい。
【0031】
正極5としては、導電性材料で構成された多孔質基材に触媒を坦持させたものが好ましく、例えばカーボンペーパーやグラファイトフェルトを基材とし、白金などの酸素還元触媒を坦持させたものが好適である。大きな電力を必要としない場合、安価なグラファイト電極をそのまま(つまり、白金を担持させずに)正極として使用してもよい。また、白金以外の安価な触媒、例えば、コバルト、ニッケル等を使用しても良い。
【0032】
正極5は、表面が水で覆われて酸素供給速度が低下するのを防ぐため、撥水加工されたものであることが好ましい。例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)で疎水化されることが好適である。
【0033】
カソード室3のガス流出口8は,できる限り下位に配置するのが好ましく、例えば、正極室の高さの10%以下、特に5%以下に位置させるのが好ましい。なお、ガス流出口8の下端より下方には水が溜まり、正極5の下端近傍は水没するが、正極全体に対する比率としては小さい。
【0034】
区隔材2としては、非導電性材料よりなる紙、織布、不織布、いわゆる半透性有機膜(精密濾過膜)、ハニカム成形体、格子状成形体等が使用できる。区隔材2としては、プロトンの移動の容易さから親水的な材料で構成されたものを用いるか、もしくは疎水膜を親水化した精密濾過膜が好ましい。疎水性の材料を使用する場合は、織布、不織布、ハニカム等の形状として水が通りやすいように加工するとよい。区隔材2を構成する非導電性材料としては、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネイト、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニルアルコール(PVA)、セルロース、酢酸セルロース等が好適である。プロトンを透過させ易くするために、区隔材2は厚さが10μm~1mm特に30~100μm程度の薄いものが好ましい。
【0035】
正極5を区隔材2に押し付けるためのスペーサ5aの材質は、非導電性、耐腐食性及び適度な弾力性を有するものが好適であり、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等を使用できる。
【0036】
この実施の形態では、正極5及び負極6が区隔材2に対しそれぞれ約0.1kg/cm程度の圧力で押し付けられて密着している。そのため、負極6及び正極5と区隔材2との間のプロトンの移動抵抗が小さい。
【0037】
この微生物発電装置で用いられる原水としては、下水、有機性産業排水(例えば食品工場排水)のほか、生ごみ等の有機性廃棄物の嫌気性処理液などが挙げられる。アノード室4中の有機物濃度は、発電効率を高くするために100~2000mg/L程度の高濃度であることが好ましい。
【0038】
有機物と、好ましくは微生物の栄養源とを含む原水を、pH7~9になるように調整したうえで供給し、微生物反応により電子とプロトンとを生成させる。アノード室の温度条件は常温から中高温、具体的には20~60℃程度であり、特に25~45℃程度とすることが好ましい。
【0039】
カソード室3に流通させる酸素含有ガスとしては、空気、酸素富化空気、酸素ガス等が挙げられ、中でも空気が好適である。
【0040】
アノード室4内に存在させることで電気エネルギーを産生させる微生物は、電子供与体としての機能を有するものであれば特に制限されない。微生物発電装置の運転開始に際して、このような微生物を含む液又は汚泥として、他の微生物発電装置からの流出水、下水等の有機物含有水を処理する生物処理槽から得られる活性汚泥、下水の最初沈澱池からの流出水に含まれる微生物、嫌気性消化汚泥等を植種としてアノード室に供給し、微生物を負極に保持させることが好ましい。発電効率を高くするためには、アノード室内に保持される微生物量は高濃度であることが好ましく、例えば微生物濃度は1~50g/Lであることが好ましい。
【0041】
このように構成された微生物発電装置において、原水を流入口4aからアノード室4に供給するとともに、ポンプ11を作動させてアノード室4内の液を循環させる。また、カソード室3に酸素含有ガスを通気する。これにより、
(有機物)+HO→CO+H+e
なる反応が進行する。この電子eが負極6、端子22、外部抵抗21、端子20を経て正極5へ流れる。
【0042】
上記反応で生じたプロトンHは、区隔材2を通って正極5に移動する。正極5では、
+4H+4e→2H
なる反応が進行する。このような反応により、正極5と負極6との間に起電力が生じ、端子20,22を介して外部抵抗21に電流が流れる。
【0043】
この反応によりカソード室3内に生じた水と、区隔材2を通ってカソード室3に移動してきた水は、ガス流出口8から排ガスとともに流出する。排出された水を原水やアノード室に戻してもよい。
【0044】
アノード室4では、微生物による有機物の分解反応によりCOが生成することにより、pHが低下しようとする。そこで、pH計14の検出pHが好ましくは7~9となるようにアルカリが添加される。このアルカリは、アノード室6に直接に添加されてもよいが、循環配管10に添加することにより、アノード室4内の全域を部分的な偏りなしにpH7~9に保つことができる。
【0045】
原水は、図1では、アノード室4に直接に供給されているが、循環配管10を介してアノード室4に供給されてもよい。
【0046】
原水の供給量W1と、配管10によるアノード室4内の液の循環量W2との比(循環比率)は、アノード室内が完全混合に近くなるように、W1/W2=1/10以下、特に1/50以下が好ましく、原水のBOD濃度が10,000mg/Lを超えるような高濃度の場合には1/200以下とすることが好ましい。アノード室4内の上昇流速LVは、2~30m/hr特に5~15m/hrが好ましい。
【0047】
本発明では、カソード室3から排出される水の流量に基づいてアノード室4内の流速(LV)を制御する。これにより、アノード室からカソード室に流出する原水量が減少し、、正極5(エアカソード)の水没が抑制され、高い出力を維持できる。
【0048】
本発明では、具体的には、カソード室3からガスとともに排出される単位時間当たりの水量を測定し、この水量が所定値を超えないようにアノード室4内の上昇流速LVを制御し、アノード室4内の区隔材2に面した部分に加えられる水圧を所定圧以下とする。カソード室3からガスとともに排出される単位時間当たりの水量を測定するには、排ガス流出口8から気液混合状態で排出される水を気液分離してタンクに貯留し、該タンク内の水位の経時変化などで測定するのが好ましい。
【0049】
本発明の一態様では、エアカソードの下部が水没することにより開回路電圧が所定電圧(例えば0.4V)以下となるときのカソード室からの単位時間当たり流出水量を求めておき、カソード室からの流出水量がこの水量よりも多くならないようにアノード室4内の流速(LV)を制御する。
【0050】
アノード室4からカソード室3に有機物含有水が流出すると、カソード室3内で好気性菌が増殖して有機物が分解され、発電効率が低下してしまう。そのため、本発明では、カソード室3から排出される単位時間当たり水量W3と、アノード室4への単位時間当たり原水供給量W1と循環水量W2の和との比W3/(W1+W2)が0.3以下、特に0.15以下となるようにするのが好ましい。
【0051】
本発明では、アノード室4に窒素ガスなどの酸素を含有しないガスを連続的又は間欠的に通気してもよい。これにより、負極6表面にガスによる剪断力が与えられ、生物膜の過度な付着による閉塞を防ぐ効果が高まる。また、アノード室4から溶存酸素がパージされるので、アノード室4内における好気性スライムの増殖などによる性能低下が防止される。なお、カソード室からの排ガスを、必要に応じ脱酸素処理した後、アノード室に通気し、アノード室からの溶存酸素のパージに用いてもよい。
【0052】
本発明では、カソード室3からの排出水量W3に基づいて循環水量W2を調節することが好ましいが、カソード室3からの排出水量W3に基づいて原水供給量W1を調節してもよく、原水供給量W1及び循環水量W2を調節してもよい。
【実施例0053】
以下、実施例及び参考例について説明する。
【0054】
[実施例1]
図1に示す微生物発電装置を作成した。この微生物発電装置のアノード室4の容積は175mL(図1において高さ250mm、奥行き(紙面と垂直方向の寸法)70mm、幅(厚さ)10mm)、カソード室3の容積は87.5mL(図1において高さ250mm、奥行き70mm、幅(厚さ)5mm)である。カソード室3の下端からの空気流出口8の下縁までの高さは10mmである。
【0055】
区隔材2として厚さ50μmのポリプロピレン製不織布を使用した。
【0056】
負極6としては、250mm×70mmで厚さ10mmのグラファイトフェルトを使用した。
【0057】
正極5としては、PTFEで撥水加工した厚さ160μmのカーボンペーパーの片面に、Pt担持カーボンブラック(Pt含有量
50重量%)をナフィオン(登録商標)溶液に分散させた液を0.5mg-Pt/cmとなるように塗布し、130℃で乾燥させて得られたものを重ね合わせて用いた。
【0058】
負極6のグラファイトフェルト、正極5のカーボンペーパーには、それぞれステンレス線を導電性ペーストで接着して電気引出し線とし、3Ωの外部抵抗21に接続した。
【0059】
スペーサ5aとして厚さ4mmのポリエチレン製の格子状成形体を配置し、正極5を区隔材2に押しつけ、両者を密着させた。
【0060】
なお、原水の通水に先立って、他の微生物発電装置の流出液を植菌として通液した。カソード室3には空気を300mL/minの流量にて下向流で供給した。
【0061】
35℃の環境下において、アノード室4には、1250mg/Lの濃度の酢酸と、50mMの濃度のリン酸バッファと、塩化アンモニウム50mg/Lとを含む原水(BOD濃度1000mg/L)をW1=0.7mL/minの流入量で供給し、同量の処理液を排出させた。
【0062】
循環配管10の循環流量W2は175mL/minとした。W1/W2は0.7/175=0.004である。アノード室4内の上昇流速LVは15m/hrである。pH計14の検出pHが約7.5となるように1Nの水酸化ナトリウムを循環液に添加した。
【0063】
上記条件で運転を開始したところ、10日ほどで55mW(3.1W/m-電極投影面積)の発電量に達した。同一条件で運転を継続した結果、運転開始から41日間はカソード室3からの水の排出量は25mL/min未満であり、W3/(W1+W2)は0.14未満であった。
【0064】
42日目にカソード室3からの排出水量(W3)が25mL/minを超え、カソード室3から排出される水量W3と、アノード室4への原水供給量W1と循環水量W2の和との比W3/(W1+W2)が0.14を超えるようになったため、循環流量W2を120mL/minに低下させた。これ以降、カソード室3からの排出水量W3は25mL/min未満で推移した。発電量の推移を図2に示す。なお、初期の開回路電圧は0.6~0.7Vであった。42日目以降の開回路電圧は0.5~0.6Vで推移した。
【0065】
[比較例1]
実施例1において、循環流量W2を変更せず、175mL/minのままとしたこと以外は同一条件とした。発電量の推移を図2に示す。
【0066】
[比較例2]
実施例1において、アノード室4内の原水流入口4a付近の圧力を測定し、検出圧力が100kPaを超えないように循環流量W2を調整した。運転開始から29日まではこの検出圧力は100kPa以下であった。30日目に、この検出圧力が100kPaを超えるようになったため、検出圧力が100kPaを超えないように循環流量を80mL/minに減少させ、68日目に60mL/minに減少させた。発電量の推移を図2に示す。
【0067】
[考察]
発電量は、実施例1及び比較例1、2のいずれも10日ほどで約55mW(3.1W/m-電極投影面積)に達した。
【0068】
比較例1では、その後2週間で20mW(1.1W/m)となった後も低下が続き、45日目以降5mW(0.3W/m)前後で推移した。45日目以降は、カソード室3から50mL/min程度の水が排出され、カソード室3から排出される水量W3と、アノード室4への原水供給量W1と循環水量W2の和との比W3/(W1+W2)が0.33程度となっていた。そのため、カソード室3での有機物酸化反応が進行したり、正極5が水没したりして発電量が低下したと考えられる。なお、このとき、開回路電圧は、初期の0.6~0.7Vに対して、0.3~0.4Vに低下していた。
【0069】
比較例2では、25~30日目頃は発電量が20mW(1.1W/m)前後で推移していたが、30日目に循環流量W2を80mL/minに低下させると発電量が10mW(0.6W/m)となり、以後、2ヶ月間安定して推移した。カソード室3からの流出水量は30日以降、10mL/min未満で推移し、カソード室3への水漏れは抑制されており、開回路電圧は0.5~0.6Vを維持していた。発電量が低い理由としては、循環流量W2が少ないために、アノード室4内の通水速度が小さく、基質の拡散が不十分であるためと考えられる。
【0070】
一方、実施例1では、20日目以降、35mW(2.0W/m)前後で90日目まで安定して推移した。また、カソード室3への水漏れが抑制されるとともに、アノード室4内の通水速度が高く保たれることにより、高い発電量が長期安定的に維持された。
【0071】
以上の実施例及び比較例より、本発明によると、多孔質区隔材を用いた微生物発電装置の運転において、アノード室の通水流量を適正に保ちながら、カソード室への水漏れを抑制し、高い発電量を長期にわたって安定して得られるようになることが認められた。
【符号の説明】
【0072】
1 槽体
2 区隔材
3 カソード室
4 アノード室
5 正極
6 負極
10 循環配管
11 循環用ポンプ
17 制御器
図1
図2