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特開2024-168769炭酸カルシウムの製造方法及び製造システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168769
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】炭酸カルシウムの製造方法及び製造システム
(51)【国際特許分類】
   C01F 11/18 20060101AFI20241128BHJP
   C01B 32/50 20170101ALI20241128BHJP
   C04B 18/167 20230101ALI20241128BHJP
   C22B 3/06 20060101ALI20241128BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20241128BHJP
   C22B 3/22 20060101ALI20241128BHJP
   C22B 7/04 20060101ALI20241128BHJP
   C22B 7/02 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
C01F11/18 B
C01B32/50 ZAB
C04B18/167
C22B3/06
C22B3/44 101A
C22B3/22
C22B7/04 B
C22B7/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085700
(22)【出願日】2023-05-24
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度から2023年度まで実施された国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構の産業廃棄物中カルシウム等を用いた加速炭酸塩化プロセス研究開発に関する委託研究における産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大谷 晃平
(72)【発明者】
【氏名】森 大輔
(72)【発明者】
【氏名】河野 直弥
(72)【発明者】
【氏名】宮本 真二
【テーマコード(参考)】
4G076
4G146
4K001
【Fターム(参考)】
4G076AA16
4G076AB28
4G076AC04
4G076BA13
4G076BA30
4G076BD01
4G076CA02
4G076DA30
4G146JA02
4G146JB09
4G146JC21
4K001BA04
4K001BA12
4K001BA14
4K001BA24
4K001DB02
4K001DB03
4K001DB04
4K001DB05
4K001DB16
4K001DB23
(57)【要約】
【課題】二酸化炭素を固定しつつ、カルシウム含有物からのカルシウム回収率を高めることができ、しかも高純度の炭酸カルシウムを製造することのできる、炭酸カルシウムの製造方法を提供する。
【解決手段】カルシウム含有物、酸、及び水を接触させて、カルシウムイオンを含む第1溶液(A1)を調製する第1工程(S1)と、前記第1溶液(A1)中の二酸化炭素を脱気して第2溶液(A2)を調製する第2工程(S2)と、前記第2溶液(A2)の水素イオン指数(pH)を、炭酸カルシウムが析出し得る水素イオン指数(pH)よりも高く且つ水酸化カルシウムが析出し得る水素イオン指数(pH)よりも低く調整して不溶化物を分離し、第3溶液(A3)を調製する第3工程(S3)と、前記第3溶液(A3)と二酸化炭素吸収液(B1)とを接触させて、炭酸カルシウムを生成する第4工程(S4)とを含む、炭酸カルシウムの製造方法とした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウム含有物、酸、及び水を接触させて、カルシウムイオンを含む第1溶液(A1)を調製する第1工程(S1)と、
前記第1溶液(A1)中の二酸化炭素を脱気して第2溶液(A2)を調製する第2工程(S2)と、
前記第2溶液(A2)の水素イオン指数(pH)を、炭酸カルシウムが析出し得る水素イオン指数(pH)よりも高く且つ水酸化カルシウムが析出し得る水素イオン指数(pH)よりも低く調整して不溶化物を分離し、第3溶液(A3)を調製する第3工程(S3)と、
前記第3溶液(A3)と二酸化炭素吸収液(B1)とを接触させて、炭酸カルシウムを生成する第4工程(S4)と、
を含む、炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項2】
前記カルシウム含有物が、廃コンクリート、セメント、モルタル、鉄鋼スラグ、石灰石、カルシウム含有岩石、廃石膏、製紙スラッジ、生コンスラッジ、石炭流動床ボイラー燃焼灰、及びごみ焼却灰からなる群から選択される1種以上である、請求項1に記載の炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項3】
前記酸が、塩酸、硝酸、及び硫酸からなる群から選択される1種以上の無機強酸である、請求項1又は2に記載の炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項4】
前記二酸化炭素吸収液(B1)を、二酸化炭素を含むガス、塩基、及び水を接触させて調製する、請求項1~3のいずれか1項に記載の炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項5】
前記第4工程(S4)において前記炭酸カルシウムを生成する際に生じる液相を電気透析して、前記酸と前記塩基とを再生する第5工程(S5)をさらに含む、請求項4に記載の炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項6】
カルシウム含有物、酸、及び水を接触させて、カルシウムイオンを含む第1溶液(A1)を調製するカルシウムイオン抽出槽と、
前記第1溶液(A1)中の二酸化炭素を脱気して第2溶液(A2)を調製する脱気装置と、
前記第2溶液(A2)の水素イオン指数(pH)を、炭酸カルシウムが析出し得る水素イオン指数(pH)よりも高く且つ水酸化カルシウムが析出し得る水素イオン指数(pH)よりも低く調整して不溶化物を分離し、第3溶液(A3)を調製する水素イオン指数調整装置と、
前記第3溶液(A3)と二酸化炭素吸収液(B1)とを接触させて、炭酸カルシウムを生成する反応槽と、
を少なくとも備える、炭酸カルシウムの製造システム。
【請求項7】
前記二酸化炭素吸収液(B1)を、二酸化炭素を含むガス、塩基、及び水を接触させて調製する二酸化炭素吸収槽をさらに備える、請求項6に記載の炭酸カルシウムの製造システム。
【請求項8】
前記炭酸カルシウムを生成する際に生じる液相を電気透析して、前記酸と前記塩基とを再生する電気透析装置をさらに備える、請求項7に記載の炭酸カルシウムの製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸カルシウムの製造方法及び製造システムに関する。詳述すると、本発明は、二酸化炭素を固定しつつ、炭酸カルシウムを製造する方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化の原因物質と言われている温室効果ガスの中でも、特に影響が大きいのが二酸化炭素(炭酸ガス)であり、大気中の二酸化炭素濃度の増大を防止することが地球温暖化抑制手段の1つとなり得る。そのため、化石資源の利用を制限して大気中への二酸化炭素の放出量を削減する技術についての研究が行われている。また、既に放出した大気中の二酸化炭素を吸収・固定する技術や、化石資源を燃焼した二酸化炭素を大気中に放出させることなく、あるいは大気中への放出を抑えつつ吸収・固定する技術について、日本を含む多くの国で盛んに研究されている。
【0003】
近年、二酸化炭素を吸収・固定する方法の1つとして、二酸化炭素を化学反応により炭酸塩として固定するというアイディアが提案されている。例えば、特許文献1では、第2族元素を含む被溶解物(廃コンクリートや鉄鋼スラグ等の廃材又は岩石等)を硝酸で溶解して第2族元素の硝酸塩溶液と生成し、二酸化炭素を水酸化ナトリウムに吸収させて炭酸ナトリウム溶液を生成し、第2族元素の硝酸塩溶液と炭酸ナトリウム溶液とを接触させて第2族元素の炭酸塩を生成することで、二酸化炭素の固定化を行うようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-096975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、第2族元素の炭酸塩の中でも、炭酸カルシウムは、建材、セメント、製紙、プラスチック、ゴム、食品、及び医薬品等といった幅広い分野で有用である。そこで、上記のような二酸化炭素の固定化技術において、カルシウム含有物からのカルシウム回収率を高めつつ、高純度の炭酸カルシウムを製造することのできる方法の確立が望まれている。
しかしながら、特許文献1に記載の技術においては、カルシウム含有物からのカルシウム回収率を高めることや、高純度の炭酸カルシウムを製造することについては、十分に検討されていない。
【0006】
そこで、本発明は、二酸化炭素を固定しつつ、カルシウム含有物からのカルシウム回収率を高めることができ、しかも高純度の炭酸カルシウムを製造することのできる、炭酸カルシウムの製造方法及び製造システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、下記[1]~[2]が提供される。
[1] カルシウム含有物、酸、及び水を接触させて、カルシウムイオンを含む第1溶液(A1)を調製する第1工程(S1)と、
前記第1溶液(A1)中の二酸化炭素を脱気して第2溶液(A2)を調製する第2工程(S2)と、
前記第2溶液(A2)の水素イオン指数(pH)を、炭酸カルシウムが析出し得る水素イオン指数(pH)よりも高く且つ水酸化カルシウムが析出し得る水素イオン指数(pH)よりも低く調整して不溶化物を分離し、第3溶液(A3)を調製する第3工程(S3)と、
前記第3溶液(A3)と二酸化炭素吸収液(B1)とを接触させて、炭酸カルシウムを生成する第4工程(S4)と、
を含む、炭酸カルシウムの製造方法。
[2] カルシウム含有物、酸、及び水を接触させて、カルシウムイオンを含む第1溶液(A1)を調製するカルシウムイオン抽出槽と、
前記第1溶液(A1)中の二酸化炭素を脱気して第2溶液(A2)を調製する脱気装置と、
前記第2溶液(A2)の水素イオン指数(pH)を、炭酸カルシウムが析出し得る水素イオン指数(pH)よりも高く且つ水酸化カルシウムが析出し得る水素イオン指数(pH)よりも低く調整して不溶化物を分離し、第3溶液(A3)を調製する水素イオン指数調整装置と、
前記第3溶液(A3)と二酸化炭素吸収液(B1)とを接触させて、炭酸カルシウムを生成する反応槽と、
を少なくとも備える、炭酸カルシウムの製造システム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、二酸化炭素を固定しつつ、カルシウム含有物からのカルシウム回収率を高めることができ、しかも高純度の炭酸カルシウムを製造することのできる、炭酸カルシウムの製造方法及び製造システムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態の炭酸カルシウムの製造方法の一例を示すフロー図である。
図2】本実施形態の炭酸カルシウムの製造システムの一例を示す概略構成図である。
図3】本実施形態の炭酸カルシウムの製造方法の他の例を示すフロー図である。
図4】本実施形態の炭酸カルシウムの製造システムの他の例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書に記載された数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。例えば、数値範囲として「A~B」及び「C~D」が記載されている場合、「A~D」及び「C~B」の数値範囲も、本発明の範囲に含まれる。
また、本明細書に記載された数値範囲「下限値~上限値」は、特に断りのない限り、下限値以上、上限値以下であることを意味する。
また、本明細書において、実施例の数値は、上限値又は下限値として用いられ得る数値である。
【0011】
[炭酸カルシウムの製造方法及び製造システムの態様]
本実施形態の炭酸カルシウムの製造方法は、二酸化炭素とカルシウム含有物とを原料として、二酸化炭素を固定しつつ、炭酸カルシウムを製造する方法である。大まかには、図1に示すように、カルシウム(Ca)抽出を行う第1工程(S1)と、二酸化炭素(CO)脱気を行う第2工程(S2)と、水素イオン指数(pH)調整を行う第3工程(S3)と、炭酸カルシウム(CaCO)生成を行う第4工程(S4)とを含む。
本実施形態の炭酸カルシウムの製造方法を構成する第1工程(S1)、第2工程(S2)、第3工程(S3)、及び第4工程(S4)は、詳細には、以下のとおりである。
・第1工程(S1):カルシウム含有物、酸、及び水を接触させて、カルシウムイオンを含む第1溶液(A1)を調製する。
・第2工程(S2):前記第1溶液(A1)中の二酸化炭素を脱気して第2溶液(A2)を調製する。
・第3工程(S3):前記第2溶液(A2)の水素イオン指数(pH)を、炭酸カルシウムが析出し得る水素イオン指数(pH)よりも高く且つ水酸化カルシウムが析出し得る水素イオン指数(pH)よりも低く調整して不溶化物を分離し、第3溶液(A3)を調製する。
・第4工程(S4):前記第3溶液(A3)と二酸化炭素吸収液(B1)とを接触させて、炭酸カルシウムを生成する。
【0012】
本実施形態の炭酸カルシウムの製造方法は、例えば、図2に示す炭酸カルシウムの製造システムにより実施される。
図2に示す炭酸カルシウムの製造システム1は、大まかには、カルシウム抽出槽10と、脱気装置20と、水素イオン指数調整装置30と、反応槽40とを少なくとも備える。
カルシウム抽出槽10では、カルシウム含有物、酸、及び水を接触させて、カルシウムイオンを含む第1溶液(A1)を調製する。
脱気装置20では、前記第1溶液(A1)中の二酸化炭素を脱気して第2溶液(A2)を調製する。
水素イオン指数調整装置30では、前記第2溶液(A2)の水素イオン指数(pH)を、炭酸カルシウムが析出し得る水素イオン指数(pH)よりも高く且つ水酸化カルシウムが析出し得る水素イオン指数(pH)よりも低く調整して不溶化物を分離し、第3溶液(A3)を調製する。
反応槽40では、前記第3溶液(A3)と二酸化炭素吸収液(B1)とを接触させて、炭酸カルシウムを生成する。
なお、図2中、符号10aは第1溶液(A1)の送液管であり、符号20aは第2溶液(A2)の送液管であり、符号30aは第3溶液(A3)の送液管であり、符号50は二酸化炭素吸収槽であり、符号50aは二酸化炭素吸収液(B1)の送液管である。
第1溶液(A1)、第2溶液(A2)、第3溶液(A3)、及び二酸化炭素吸収液(B1)は、例えば、図示省略する送液ポンプ等を用いて送液される。
【0013】
以下、本実施形態の炭酸カルシウムの製造方法及び製造システムについて、詳細に説明する。
【0014】
<第1工程(S1)>
第1工程(S1)では、カルシウム含有物、酸、及び水を接触させて、カルシウムイオンを含む第1溶液(A1)を調製する。
第1工程(S1)では、第4工程(S4)において炭酸カルシウムを生成するためのカルシウム源として、カルシウム含有物に含まれるカルシウムを抽出する。
第1工程(S1)は、例えば、図2に示す炭酸カルシウムの製造システム1のカルシウム抽出槽10にて実施される。
【0015】
カルシウム含有物としては、例えば、廃コンクリート、セメント、モルタル、鉄鋼スラグ、石灰石、カルシウム含有岩石、廃石膏、製紙スラッジ、生コンスラッジ、石炭流動床ボイラー燃焼灰、及びごみ焼却灰からなる群から選択される1種以上が挙げられる。
ここで、カルシウム含有物からのカルシウム抽出効率向上の観点から、カルシウム含有物は、破砕処理物又は粉砕処理物であることが好ましく、粉砕処理物であることが好ましい。具体的には、カルシウム含有物は、粒径が、好ましくは1,000μm以下、より好ましくは500μm以下、更に好ましくは300μm以下、より更に好ましくは100μm以下である。
【0016】
酸としては、好ましくは、塩酸、硝酸、及び硫酸からなる群から選択される1種以上の無機強酸が挙げられ、これらの中でも塩酸が好ましい。
例えば、酸として塩酸を用いる場合、カルシウムは下記反応式(1)及び(2)等により抽出される。
CaO+2HCl→CaCl+HO ・・・(1)
CaCO+2HCl→CaCl+HO+CO ・・・(2)
【0017】
第1工程(S1)において、カルシウム含有物と、酸と、水とを接触させる態様は特に制限されないが、カルシウム含有物と酸水溶液とを接触させることが好ましく、カルシウム含有物と、塩酸、硝酸、及び硫酸からなる群から選択される1種以上の無機強酸の水溶液とを接触させることがより好ましい。
酸水溶液を用いる場合、酸濃度は、カルシウム含有物からのカルシウムの抽出効率向上の観点及び酸再生の観点等から、好ましくは0.1モル/L~10モル/L、より好ましくは0.1モル/L~1モル/Lである。
【0018】
また、カルシウム抽出槽10においては、カルシウム含有物からのカルシウム抽出効率向上の観点から、例えば、撹拌及び超音波印加からなる群から選択される1種以上の処理を施すようにしてもよい。
【0019】
第1工程(S1)において酸水溶液を用いる場合、カルシウム含有物と酸水溶液との配合比率(固液比:S/L)は、カルシウム含有物からのカルシウム抽出効率向上の観点及び経済性の観点(カルシウム含有物に含まれるカルシウムを抽出するために最適な量の酸水溶液を用いる観点)等から、質量比で、好ましくは20g/L~1,000g/L、より好ましくは80g/L~400g/Lである。
【0020】
第1工程(S1)において酸水溶液を用いる場合、酸水溶液の温度は、カルシウム含有物からのカルシウム抽出効率向上の観点から、好ましくは10℃以上である。また、カルシウム含有物からのカルシウム抽出にかかるエネルギーを抑制して系全体にかかるエネルギーの低減を図る観点から、好ましくは100℃以下、より好ましくは25℃以下である。
【0021】
第1工程(S1)において酸水溶液を用いる場合、カルシウム含有物と酸水溶液との接触時間は、上記条件に応じて適宜設定される。
【0022】
第1工程(S1)で調製された、カルシウムイオンを含む第1溶液(A1)は、第2工程(S2)に供される。
第1溶液(A1)は、例えば、図2に示す炭酸カルシウムの製造システム1の第1溶液(A1)の送液管10aを介して、二酸化炭素脱気装置20に送液される。
なお、カルシウムイオン抽出後のカルシウム含有物の残渣は、第1溶液(A1)から除去することが好ましいが、第2工程(S2)以降で当該残渣を除去するようにしてもよい。
【0023】
<第2工程(S2)>
第2工程(S2)では、第1溶液(A1)中の二酸化炭素を脱気して第2溶液(A2)を調製する。
第1溶液(A1)には、カルシウム含有物由来の二酸化炭素及び/又は大気由来の二酸化炭素(特に、カルシウム含有物由来の二酸化炭素(上記反応式(2)を参照))が溶解しており、第2工程(S2)を実施することにより、二酸化炭素濃度を低減した第2溶液(A2)を調製することができる。したがって、次工程である第3工程(S3)において、pHを上昇させた際に、炭酸カルシウムが析出するのを抑制することができる。よって、第3工程(S3)において、pHを上昇させた後もカルシウムイオンが析出(不溶化)することなく保持され、これを第4工程(S4)において生成する炭酸カルシウムの原料として供することができる。したがって、カルシウム含有物からのカルシウム回収率を向上させることができる。
なお、第2工程(S2)を実施せずに第3工程(S3)を実施した場合、pHを上昇させた際に、第1溶液(A1)に溶解している二酸化炭素の存在に起因して炭酸カルシウムが析出してしまう。第3工程(S3)では、炭酸カルシウム以外にも、カルシウム以外の元素の不溶化物も生じてしまい、これらと炭酸カルシウムを分離することは困難である。そのため、第3工程(S3)で不溶化物を除去する際に、炭酸カルシウムを損失することになる。したがって、第2工程(S2)を実施せずに第3工程(S3)を実施した場合、カルシウム含有物からのカルシウム回収率を向上させることが困難になる。
【0024】
第1溶液(A1)中の二酸化炭素を脱気する方法は、特に制限されないが、例えば減圧及び加熱からなる群から選択される1種以上の処理が挙げられる。但し、二酸化炭素の脱気にかかるエネルギーを抑制して系全体にかかるエネルギーの低減を図る観点から、二酸化炭素を脱気する方法としては、減圧が好ましい。
減圧方法としては、例えば、第1溶液(A1)を密閉容器内に収容し、該密閉容器内のヘッドスペースを、アスピレーター等の減圧装置を用いて減圧する方法が挙げられる。このような減圧方法は、例えば、第1溶液(A1)を収容する密閉容器と、該密閉容器内のヘッドスペースを減圧する減圧装置とを備える装置系により実施される。
【0025】
本発明の効果を向上させやすくする観点から、二酸化炭素の脱気は、好ましくは大気圧の1/5以下の減圧、より好ましくは大気圧の1/8以下の減圧、更に好ましくは大気圧の1/10以下、より更に好ましくは大気圧の1/50以下、更になお好ましくは大気圧の1/100以下の減圧により行う。この場合の減圧方法についても、既述のように、第1溶液(A1)を密閉容器内に収容し、該密閉容器内のヘッドスペースを、アスピレーター等の減圧装置を用いて減圧する方法が挙げられる。つまり、ヘッドスペースの圧力を上記範囲に減圧することが好ましい。
【0026】
第2工程(S2)で調製された、二酸化炭素脱気済みの第2溶液(A2)は、第3工程(S3)に供される。
第2溶液(A2)は、例えば、図2に示す炭酸カルシウムの製造システム1の第2溶液(A2)の送液管20aを介して、水素イオン指数調整装置30に送液される。
【0027】
なお、二酸化炭素の排出量削減の観点から、第1溶液(A1)中の二酸化炭素を脱気した際に発生した二酸化炭素は、二酸化炭素吸収槽50に供給し、二酸化炭素吸収液(B1)を調製する際に利用することが好ましい。
【0028】
<第3工程(S3)>
第3工程(S3)では、第2溶液(A2)の水素イオン指数(pH)を、炭酸カルシウムが析出し得る水素イオン指数(pH)よりも高く且つ水酸化カルシウムが析出し得る水素イオン指数(pH)よりも低く調整して不溶化物を分離し、第3溶液(A3)を調製する。
この工程により、カルシウム以外の元素を不溶化して低減させた第3溶液(A2)を調製することができる。一方で、既述のように、第2工程(S2)において二酸化炭素の脱気を行っているため、第3工程(S3)において、カルシウムイオンは析出することなく、溶液中に保持される。したがって、次工程である第4工程(S4)において、二酸化炭素吸収液(B1)に含まれる炭酸イオンが、カルシウム以外の元素と反応するのを抑制して、高純度の炭酸カルシウムを生成させることができる。
なお、第3工程(S3)を実施することなく、第4工程(S4)を実施した場合、次工程である第4工程(S4)において、二酸化炭素吸収液(B1)に含まれる炭酸イオンが、カルシウム以外の元素とも反応する結果、生成される炭酸カルシウムには、カルシウム以外の元素の不溶化物(カルシウム以外の元素の炭酸塩)が多く混在してしまう。そのため、炭酸カルシウムの純度を高めることができなくなる。
【0029】
第2溶液(A2)のpHを調整する方法としては、特に制限されないが、例えば、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等から選択される1種以上の強塩基を添加する方法が挙げられる。
【0030】
第3工程(S3)において、不溶化の対象となる元素としては、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、ベリリウム(Be)、クロム(Cr)、セシウム(Se)、イットリウム(Y)、ガリウム(Ga)、ランタン(La)、イッテルビウム(Yb)、セリウム(Ce)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、トリウム(Th)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、インジウム(In)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、銅(Cu)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、スズ(Sn)、バナジウム(V)、及び銀(Ag)等が挙げられる。
ここで、カルシウムを不溶化させることなく、カルシウム以外の金属を析出させやすくする観点から、第2溶液(A2)のpHは、好ましくは8.0以上13.0未満、より好ましくは9.0以上13.0未満、更に好ましくは10.0以上13.0未満、より更に好ましくは10.5以上13.0未満に調整される。
【0031】
第3工程(S3)で調製された、カルシウム以外の元素を不溶化して低減させた第3溶液(A3)は、第4工程(S4)に供される。
第3溶液(A3)は、例えば、図2に示す炭酸カルシウムの製造システム1の第3溶液(A3)の送液管30aを介して、反応槽40に送液される。
なお、pH調整により生じた不溶化物は、第3工程(S3)にて、第3溶液(A3)から除去される。
【0032】
<第4工程(S4)>
第4工程(S4)では、第3溶液(A3)と二酸化炭素吸収液(B1)とを接触させて、炭酸カルシウムを生成する。
第3溶液(A3)は、カルシウム以外の元素を不溶化して低減させている。したがって、二酸化炭素吸収液(B1)中の炭酸イオンがカルシウム以外の元素と反応することを抑制して、高純度の炭酸カルシウムを生成させることができる。しかも、第3工程(S3)において、カルシウムは不溶化することなく、溶液中に溶解した状態で保持されている。したがって、カルシウムが第3工程(S3)において不溶化物として除去されることがないため、カルシウム含有物からのカルシウム回収率も向上させることができる。
【0033】
(二酸化炭素吸収液(B1))
二酸化炭素吸収液(B1)は、二酸化炭素を含むガス、塩基、及び水を接触させて調製する。
二酸化炭素吸収液(B1)は、好ましくは、二酸化炭素を含むガスと塩基水溶液とを接触させて調製する。
二酸化炭素を含むガスとしては、例えば、空気、燃焼排ガス等が挙げられる。
燃焼排ガスとしては、例えば、製鉄所等の各種工場から排出される燃焼排ガス、LNG火力発電所から排出される燃焼排ガス、石炭火力発電所から排出される燃焼排ガス、製油所の水素製造装置から排出されるオフガスが挙げられる。二酸化炭素の固定化効率をより向上させやすくする観点から、これらの中でも、二酸化炭素濃度が高い、石炭火力発電所から排出される燃焼排ガスや製油所の水素製造装置から排出されるオフガスが好適である。
なお、二酸化炭素を含むガスが燃焼排ガスのように高温のガスである場合、燃焼排ガスを冷却して適切な温度に低下させた後、二酸化炭素吸収槽50に供給するようにしてもよい。燃焼排ガスの冷却方法としては、例えば熱交換器を用いた方法等が挙げられる。また、燃焼排ガスは、必要に応じて、脱硝、集塵、及び脱硫から選択される1種以上の処理を施した後、二酸化炭素吸収槽50に供給するようにしてもよい。
【0034】
塩基としては、二酸化炭素を吸収するための塩基として一般に用いられているものを適宜採用することができる。具体的には、例えば、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等から選択される1種以上の強塩基等が挙げられる。
塩基水溶液を用いる場合、塩基水溶液の塩基濃度は、二酸化炭素の吸収効率向上の観点及び塩基水溶液の再生の観点等から、好ましくは0.1モル/L~10モル/L、より好ましくは0.1モル/L~1モル/Lである。
例えば、塩基が水酸化ナトリウムである場合、二酸化炭素は、下記反応式により吸収される。
CO+2NaOH→NaCO+H
【0035】
なお、第4工程(S4)における炭酸カルシウムの生成は、例えば、酸が塩酸であり、塩基が水酸化ナトリウムである場合、下記反応式(4)のように行われる。
CaCl+NaCO→CaCO↓+2NaCl ・・・(4)
【0036】
<第5工程(S5)>
本実施形態では、図3に示すように、さらに下記第5工程(S5)を含むことが好ましい。
・第5工程(S5):前記第4工程(S4)において前記炭酸カルシウムを生成する際に生じる液相を電気透析して、前記酸と前記塩基とを再生する。
具体的には、例えば図4に示す炭酸カルシウム製造装置1aのように、電気透析装置60をさらに備え、電気透析装置60に炭酸カルシウムを生成する際に生じる液相を供給して電気透析し、酸と塩基とを再生するようにしてもよい。なお、図4に示す炭酸カルシウム製造装置1a中、図1と同一の構成については、同一の符号を付しており、詳細な説明は省略する。
そして、再生された酸を、第1工程(S1)において利用することで、カルシウム含有物からカルシウムを抽出する際に用いる酸を系内で循環利用することが可能になる。
また、再生された塩基を、二酸化炭素吸収液(B1)の調製において利用することで、二酸化炭素を吸収させる際に用いる塩基を系内で循環利用することが可能になる。さらには、再生された塩基を、第3工程(S3)におけるpH調整に用いることでも、塩基を系内で循環利用することが可能になる。
したがって、系全体にかかる試薬コストの低減を図ることが可能となる。
【0037】
例えば、第4工程(S4)における炭酸カルシウムの生成が上記反応式(4)のように行われる場合、酸と塩基は、下記反応式(5)のように行われる。
NaCl+HO→NaOH+HCl ・・・(5)
【0038】
<炭酸カルシウムの用途>
本実施形態において製造された炭酸カルシウムは、各種用途として有用である。例えば、製紙、ゴム、プラスチック、食品、及び化粧品等の広範囲な工業分野で、充填剤、顔料、及び増量剤などとして利用することができる。
また、炭酸カルシウムは、石灰石、セメント原料、細骨材、アスファルト添加剤、及びストーンペーパー等の用途としても有用である。
【0039】
[提供される本発明の一態様]
本発明の一態様では、下記[1]~[8]が提供される。
[1]
カルシウム含有物、酸、及び水を接触させて、カルシウムイオンを含む第1溶液(A1)を調製する第1工程(S1)と、
前記第1溶液(A1)中の二酸化炭素を脱気して第2溶液(A2)を調製する第2工程(S2)と、
前記第2溶液(A2)の水素イオン指数(pH)を、炭酸カルシウムが析出し得る水素イオン指数(pH)よりも高く且つ水酸化カルシウムが析出し得る水素イオン指数(pH)よりも低く調整して不溶化物を分離し、第3溶液(A3)を調製する第3工程(S3)と、
前記第3溶液(A3)と二酸化炭素吸収液(B1)とを接触させて、炭酸カルシウムを生成する第4工程(S4)と、
を含む、炭酸カルシウムの製造方法。
[2]
前記カルシウム含有物が、廃コンクリート、セメント、モルタル、鉄鋼スラグ、石灰石、カルシウム含有岩石、廃石膏、製紙スラッジ、生コンスラッジ、石炭流動床ボイラー燃焼灰、及びごみ焼却灰からなる群から選択される1種以上である、上記[1]に記載の炭酸カルシウムの製造方法。
[3]
前記酸が、塩酸、硝酸、及び硫酸からなる群から選択される1種以上の無機強酸である、上記[1]又は[2]に記載の炭酸カルシウムの製造方法。
[4]
前記二酸化炭素吸収液(B1)を、二酸化炭素を含む排ガス、塩基、及び水を接触させて調製する、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の炭酸カルシウムの製造方法。
[5]
前記第4工程(S4)において前記炭酸カルシウムを生成する際に生じる液相を電気透析して、前記酸と前記塩基とを再生する第5工程(S5)をさらに含む、上記[4]に記載の炭酸カルシウムの製造方法。
[6]
カルシウム含有物、酸、及び水を接触させて、カルシウムイオンを含む第1溶液(A1)を調製するカルシウムイオン抽出槽と、
前記第1溶液(A1)中の二酸化炭素を脱気して第2溶液(A2)を調製する脱気装置と、
前記第2溶液(A2)の水素イオン指数(pH)を、炭酸カルシウムが析出し得る水素イオン指数(pH)よりも高く且つ水酸化カルシウムが析出し得る水素イオン指数(pH)よりも低く調整して不溶化物を分離し、第3溶液(A3)を調製する水素イオン指数調整装置と、
前記第3溶液(A3)と二酸化炭素吸収液(B1)とを接触させて、炭酸カルシウムを生成する反応槽と、
を少なくとも備える、炭酸カルシウムの製造システム。
[7]
前記二酸化炭素吸収液(B1)を、二酸化炭素を含む排ガス、塩基、及び水を接触させて調製する二酸化炭素吸収槽をさらに備える、上記[6]に記載の炭酸カルシウムの製造システム。
[8]
前記炭酸カルシウムを生成する際に生じる液相を電気透析して、前記酸と前記塩基とを再生する電気透析装置をさらに備える、上記[7]に記載の炭酸カルシウムの製造システム。
【実施例0040】
本発明について、以下の実施例により具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
[実施例1、比較例1~2]
下記実施例1及び比較例1~2を実施し、カルシウム含有物からのカルシウム回収率と、カルシウム選択率について検討した。
なお、実施例1及び比較例1~2の処理においては、加熱は行わず、いずれも室温(25℃)で実施した。
【0042】
<実施例1>
撹拌槽に1モル/Lの塩酸水溶液500mLと直径10mm以下に粉砕した廃コンクリート56gを加えて、廃コンクリートからカルシウムを抽出した。次いで、カルシウム抽出液と抽出残渣とを真空ろ過器で固液分離した。カルシウム抽出液が、上記第1溶液(A1)に対応する。
次いで、カルシウム抽出液を容量500mLの密閉容器内に収容し、電動アスピレーターを用いて、密閉容器内のヘッドスペースの圧力を大気圧の1/10に減圧して30分間静置し、カルシウム抽出液中の二酸化炭素の脱気を行い、二酸化炭素が脱気されたカルシウム抽出液(上記第2溶液(A2)に対応)を調製した。
次いで、二酸化炭素を脱気した後のカルシウム抽出液に、1モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH調整し、pHを10.8に上昇させた後、測定用サンプルとしてその上清(第3溶液(A3)に対応)を採取した。pHの測定は、電極式pHメーター(東興化学研究所製、製品名:PH METER TPX-999i)により行った。
そして、イオンクロマト測定装置(Metrohm社製、製品名:Eco IC)を用いて、測定用サンプルのカルシウムイオン及びカルシウム以外のカチオンの濃度を測定した。
なお、カルシウム回収率及びカルシウム選択率は、以下の計算式により算出した。
カルシウム回収率={抽出液中カルシウム量/抽出前の廃コンクリート中のカルシウム量}×100
カルシウム選択率={抽出液中カルシウム量/(抽出液中カルシウム量+抽出液中不純物カチオン量)}×100
カルシウム回収率が高いほど、カルシウム含有物からのカルシウムの回収率が高いといえる。
また、カルシウム選択率が高いほど、得られる炭酸カルシウムの純度が高いといえる。
【0043】
<比較例1>
実施例1と同様の実験を、カルシウム抽出液からの二酸化炭素の脱気及びpH調整を行うことなく実施した。
【0044】
<比較例2>
実施例1と同様の実験を、カルシウム抽出液からの二酸化炭素の脱気を行うことなく実施した。
【0045】
結果を表1に示す。
【表1】
【0046】
表1より、以下のことがわかる。
実施例1では、二酸化炭素の脱気とpH調整を行ったことにより、カルシウム回収率及びカルシウム選択率ともに優れた値を示し、カルシウム含有物からのカルシウム回収率が高く、しかも高純度の炭酸カルシウムが得られていることがわかる。
これに対し、二酸化炭素の脱気及びpH調整を行っていない比較例1では、カルシウム選択率が十分ではなく、高純度の炭酸カルシウムが得られていないことがわかる。
また、pH調整を行ったものの、二酸化炭素の脱気を行っていない比較例2では、カルシウム回収率が十分ではなく、カルシウム含有物からのカルシウム回収率が十分ではないことがわかる。
【符号の説明】
【0047】
1、1a 炭酸カルシウム製造システム
10 カルシウム抽出槽
10a 第1溶液(A1)の送液管
20 脱気装置
20a 第2溶液(A2)の送液管
30 水素イオン指数調整装置
30a 第3溶液(A3)の送液管
40 反応槽
40a (炭酸カルシウム生成時に生じる)液相の送液管
50 二酸化炭素吸収槽
50a 二酸化炭素吸収液(B1)の送液管
60 電気透析装置
図1
図2
図3
図4