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特開2024-168956窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価方法、窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価装置、及び窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168956
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価方法、窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価装置、及び窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/207 20180101AFI20241128BHJP
   C04B 35/587 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
G01N23/207
C04B35/587
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086047
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】末永 和史
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA18
2G001CA01
2G001LA11
2G001MA04
2G001NA07
(57)【要約】
【課題】シリコン原料粉末が窒化珪素基板の表面に凹凸を発生させ易いものであるか否かを評価することができる窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価方法等を提供すること。
【解決手段】窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価方法では、窒化珪素基板用シリコン原料粉末からX線回折スペクトルを取得し、前記X線回折スペクトルに基づき、スペクトルピークの半値幅と相関を有する評価値を算出し、前記評価値に基づき、前記窒化珪素基板用シリコン原料粉末を評価する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化珪素基板用シリコン原料粉末からX線回折スペクトルを取得し、
前記X線回折スペクトルに基づき、スペクトルピークの半値幅と相関を有する評価値を算出し、
前記評価値に基づき、前記窒化珪素基板用シリコン原料粉末を評価する、
窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載の窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価方法であって、
前記X線回折スペクトルを取得するときにCu-X線源を使用し、
前記スペクトルピークの回折角2θが、93°以上97°以下の範囲内、又は、135°以上139°以下の範囲内にある、
窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価方法であって、
前記スペクトルピークは、(511)面におけるスペクトルピークであり、
前記評価値は、前記半値幅に基づき算出された結晶子サイズであり、
前記結晶子サイズを、67.1nm以上71.1nm以下の閾値と対比することで、前記窒化珪素基板用シリコン原料粉末を評価する、
窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価方法であって、
前記スペクトルピークは、(533)面におけるスペクトルピークであり、
前記評価値は、前記半値幅に基づき算出された結晶子サイズであり、
前記結晶子サイズを、86.2nm以上90.7nm以下の閾値と対比することで、前記窒化珪素基板用シリコン原料粉末を評価する、
窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価方法であって、
前記評価値は、基準半値幅に対する前記半値幅の比率であり、
前記基準半値幅は、製造した窒化珪素基板における不良発生率が所定の基準値となる窒化珪素基板用シリコン原料粉末において算出された前記半値幅であり、
前記評価値を閾値と対比することで、前記窒化珪素基板用シリコン原料粉末を評価する、
窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価方法。
【請求項6】
X線回折スペクトルを取得するように構成されたX線回折スペクトル取得部と、
前記X線回折スペクトルに基づき、スペクトルピークの半値幅と相関を有する評価値を算出するように構成された評価値算出部と、
を備える窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価装置。
【請求項7】
X線回折スペクトルを測定するX線回折スペクトル測定装置と、
請求項6に記載の窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価装置と、
を備える窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価方法、窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価装置、及び窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、焼結体の色を従来材に比べて黒色化し、かつ、色むらを少なくするとともに、充分な強度を有する窒化珪素系セラミックス焼結体を提供するための技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-267786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
窒化珪素基板には、シリコン原料粉末を主原料として用いて製造されるものと、窒化珪素粉末を主原料として用いて製造されるものとがある。本開示は、シリコン原料粉末を主原料として用いて製造される窒化珪素基板に関係する。シリコン原料粉末を主原料として用いて製造される窒化珪素基板においては、窒化珪素基板の表面に凹凸が発生することがある。窒化珪素基板の表面に凹凸が発生する原因は不明であった。本発明者の分析により、シリコン原料粉末の中には、それを用いて製造した窒化珪素基板の表面に凹凸を発生させ易いものがあることが分かった。そのため、シリコン原料粉末を使用する前に、そのシリコン原料粉末が窒化珪素基板の表面に凹凸を発生させ易いものであるか否かを評価できることが望ましい。
【0005】
本開示の1つの局面では、シリコン原料粉末が窒化珪素基板の表面に凹凸を発生させ易いものであるか否かを評価することができる窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価方法、窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価装置、及び窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価システムを提供することが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の1つの局面は、窒化珪素基板用シリコン原料粉末からX線回折スペクトルを取得し、前記X線回折スペクトルに基づき、スペクトルピークの半値幅と相関を有する評価値を算出し、前記評価値に基づき、前記窒化珪素基板用シリコン原料粉末を評価する、窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価方法である。
【0007】
本開示の1つの局面である窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価方法によれば、シリコン原料粉末が窒化珪素基板の表面に凹凸を発生させ易いものであるか否かを評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】パワーモジュール及び窒化珪素回路基板の構成を表す側面図である。
図2】窒化珪素基板の製造方法を表す説明図である。
図3】成形体を積層配置した状態を示す説明図である。
図4】窒化珪素回路基板の製造方法を表す説明図である。
図5】窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価システムの構成を表す説明図である。
図6】X線回折スペクトル測定装置の構成を表す説明図である。
図7】回折角2θが93°以上97°以下の範囲内にあるX線回折スペクトルを表す説明図である。
図8】回折角2θが135°以上139°以下の範囲内にあるX線回折スペクトルを表す説明図である。
図9】窒化珪素基板用シリコン原料粉末SP1~SP5の平均結晶子サイズD_Aaveと不良発生率NGRとの関係を表すグラフである。
図10】窒化珪素基板用シリコン原料粉末SP1~SP5の半値幅比率ARと不良発生率NGRとの関係を表すグラフである。
図11】窒化珪素基板用シリコン原料粉末SP1~SP4の平均結晶子サイズD_Baveと不良発生率NGRとの関係を表すグラフである。
図12】窒化珪素基板用シリコン原料粉末SP1~SP4の半値幅比率BRと不良発生率NGRとの関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の例示的な実施形態について図面を参照しながら説明する。
<第1実施形態>
1.パワーモジュール1及び窒化珪素回路基板2の構成
図1に基づき、パワーモジュール1及び窒化珪素回路基板2の構成を説明する。窒化珪素回路基板2は、窒化珪素基板3と、金属回路5と、金属放熱板7と、ろう材層9、11と、を備える。パワーモジュール1は、窒化珪素回路基板2と、半導体チップ13と、ヒートシンク15と、を備える。
【0010】
窒化珪素基板3は、例えば、第1面と、第2面とを有する。第1面は、後述する成形体作製工程S2中、及び焼結工程S3中の上面である。第2面は、第1面とは反対側の面である。窒化珪素基板3の平面形状は、例えば、矩形形状である。平面形状とは、窒化珪素基板3の厚さ方向から見たときの形状である。例えば、窒化珪素基板3のそれぞれの辺の長さは100mm以上である。
【0011】
金属回路5は銅板から成る。金属回路5は、ろう材層9により、窒化珪素基板3の第1面に取り付けられている。金属放熱板7は銅板から成る。金属放熱板7は、ろう材層11により、窒化珪素基板3の第2面に取り付けられている。半導体チップ13は金属回路5に取り付けられている。ヒートシンク15は金属放熱板7に取り付けられている。
【0012】
2.窒化珪素基板3の製造方法
例えば、図2に示す方法で窒化珪素基板3を製造することができる。製造方法は、スラリー作製工程S1、成形体作製工程S2、焼結工程S3、及び窒化工程S4を含む。
【0013】
(2-1)スラリー作製工程S1
例えば、シリコン原料粉末に焼結助剤を添加して原料粉末を得る。シリコン原料粉末とは、窒化珪素基板用シリコン原料粉末219である。焼結助剤として、例えば、希土類元素酸化物、マグネシウム化合物等が挙げられる。原料粉末を使用してスラリーを作製する。
【0014】
シリコン原料粉末として、例えば、工業的に入手可能なグレードのシリコン原料粉末が挙げられる。粉砕前のシリコン原料粉末のメジアン径D50は6μm以上であることが好ましく、7μm以上であることが一層好ましい。
【0015】
粉砕前のシリコン原料粉末のBET比表面積は3m/g以下であることが好ましく、2.5m/g以下であることが一層好ましい。粉砕前のシリコン原料粉末の酸素量は1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることが一層好ましい。粉砕前のシリコン原料粉末が含む不純物炭素量は0.15質量%以下であることが好ましく、0.10質量%以下であることが一層好ましい。
【0016】
シリコン原料粉末の純度は、99%以上であることが好ましく、99.5%以上であることが一層好ましい。シリコン原料粉末に含まれる不純物酸素は、反応焼結によって得られる窒化珪素基板3の熱伝導を阻害する要因の1つである。シリコン原料粉末の純度が高いほど、窒化珪素基板3の熱伝導率が向上する。
【0017】
マグネシウム化合物からの酸素量を制限することにより、シリコン原料粉末に含まれる不純物酸素の量と、マグネシウム化合物からの酸素量との総量が、窒化珪素に換算した珪素の量に対して、0.1質量%以上1.1質量%以下の範囲となるように原料粉末を調製することが好ましい。
【0018】
シリコン原料粉末に含まれる不純物炭素は、反応焼結によって得られる窒化珪素基板3において、窒化珪素粒子の成長を阻害する。窒化珪素粒子の成長が阻害されると、窒化珪素基板3が緻密化し難い。窒化珪素基板3が緻密化し難いと、窒化珪素基板3の熱伝導率や絶縁特性が低下する。そのため、シリコン原料粉末に含まれる不純物炭素は、できるだけ少ないことが好ましい。
【0019】
なお、本明細書において、BET比表面積(m/g)とは、BET比表面積計を用い、BET一点法(JIS R 1626:1996「ファインセラミックス粉体の気体吸着BET法による比表面積の測定方法」)によって求めた値である。また、メジアン径D50(μm)とは、レーザ回折・散乱法によって求めた粒度分布において累積度数が50%となるときの粒径である。
【0020】
窒化珪素基板3の製造方法において、必須ではないが、原料粉末に窒化珪素の粉末を含んでもよい。ただし、珪素に比べて窒化珪素を使用した場合はコストがかかるので、窒化珪素の使用量はできるだけ少ない方がよい。窒化珪素の使用量は、窒化珪素換算において、珪素の50mol%以下であることが好ましく、10mol%以下であることがより好ましく、5mol%以下であるのが特に好ましい。
【0021】
例えば、シート状の成形体は、窒化珪素換算において、珪素の50mol%以下が窒化珪素であるように、窒化珪素を含む。そのシート状の成形体を窒化して窒化珪素基板3を製造することができる。
【0022】
希土類元素酸化物として、例えば、イットリウム(Y)、イッテルビウム(Yb)、ガドリニウム(Gd)、エルビウム(Er)、ルテチウム(Lu)等の酸化物が挙げられる。これらの希土類元素酸化物は、入手が容易であり、酸化物として安定している。希土類元素酸化物の具体例として、例えば、酸化イットリウム(Y)、酸化イッテルビウム(Yb)、酸化ガドリニウム(Gd)、酸化エルビウム(Er)、酸化ルテチウム(Lu)等が挙げられる。
【0023】
窒化珪素基板において、三価の酸化物(RE:REは希土類元素)に換算した希土類元素酸化物のモル数をM1とする。窒化珪素基板において、窒化珪素(Si)に換算した珪素のモル数をM2とする。M2は、珪素が全て窒化したときに得られる窒化珪素のモル数である。窒化珪素基板において、MgOに換算したマグネシウム化合物のモル数をM3とする。
【0024】
M1、M2、及びM3の合計モル数に対するM1のモル比(以下では希土類酸化物のモル比とする)は、例えば、0.5mol%以上2mol%未満である。希土類酸化物のモル比が0.5mol%以上である場合、焼結助剤の効果が高くなり、窒化珪素基板の密度が充分に高くなる。希土類酸化物のモル比が2.0mol%未満である場合、低熱伝導率の粒界相が増加し難く、焼結体の熱伝導率が上がるとともに、高価な希土類元素酸化物の使用量が減少する。特に、希土類酸化物のモル比は、0.6mol%以上2mol%未満であることが好ましく、1mol%以上1.8mol%以下であることがさらに好ましい。
【0025】
マグネシウム化合物として、「Si」、「N」又は「O」を含有するマグネシウム化合物を1種類又は2種類以上使用することができる。マグネシウム化合物として、酸化マグネシウム(MgO)、窒化珪素マグネシウム(MgSiN)、珪化マグネシウム(MgSi)、窒化マグネシウム(Mg)等が好ましい。
【0026】
マグネシウム化合物の合計質量に対する、窒化珪素マグネシウムの質量の比率(以下では窒化珪素マグネシウム質量比とする)が87質量%以上であることが好ましい。窒化珪素マグネシウム質量比が87質量%以上である場合、得られる窒化珪素基板中の酸素濃度を低減することができる。窒化珪素マグネシウム質量比が87質量%未満である場合、焼結後の窒化珪素粒子内の酸素量が多くなるため、焼結後の窒化珪素基板の熱伝導率が低くなる。従って、窒化珪素基板の熱伝導率を向上させるためには、窒化珪素マグネシウム質量比が高いことが好ましい。窒化珪素マグネシウム質量比は、90質量%以上であることが一層好ましい。
【0027】
M1、M2、及びM3の合計モル数に対するM3のモル比(以下ではマグネシウム化合物のモル比とする)は、例えば、8mol%以上15mol%未満である。マグネシウム化合物のモル比が8mol%以上である場合、焼結助剤の効果が高くなり、窒化珪素基板の密度が充分に高くなる。マグネシウム化合物のモル比が15mol%未満である場合、低熱伝導率の粒界相が増加し難く、焼結体の熱伝導率が高くなる。特に、マグネシウム化合物のモル比は、8mol%以上14mol%未満であることが好ましく、9mol%以上11mol%以下であることが一層好ましい。
【0028】
スラリーを作製する方法として、例えば、以下の方法がある。シリコン原料粉末に、希土類元素酸化物及びマグネシウム化合物を、所定の比率となるように添加する。次に、分散媒を添加する。分散媒は、例えば、有機溶剤である。必要に応じて、分散剤も添加する。
【0029】
次に、ボールミルで粉砕することにより、原料粉末の分散物であるスラリーを作製する。分散媒は、例えば、有機溶剤である。分散媒として、例えば、エタノール、n-ブタノール、トルエン等が挙げられる。分散剤として、例えば、ソルビタンエステル型分散剤、ポリオキシアルキレン型分散剤等が挙げられる。
【0030】
分散媒の添加量は、例えば、原料粉末の総量に対して、40質量%以上70質量%以下であることが好ましい。分散剤の添加量は、例えば、原料粉末の総量に対して、0.3質量%以上2質量%以下であることが好ましい。なお、分散後に、必要に応じて分散媒の除去、又は、他の分散媒への置換を行ってもよい。
【0031】
(2-2)成形体作製工程S2
上述のようにして得られたスラリーに対し、例えば、分散媒、有機バインダ、分散剤等を加える。次に、必要に応じて真空脱泡を行う。次に、スラリーの粘度を所定の範囲に調整する。その結果、塗工用スラリーが得られる。
【0032】
次に、得られた塗工用スラリーをシート成形機でシート状に成形する。次に、所定のサイズに切断し、乾燥する。その結果、シート状の成形体が得られる。
塗工用スラリーの作製に使用する有機バインダは特に限定されない。塗工用スラリーの作製に使用する有機バインダとして、例えば、PVB系樹脂、エチルセルロース系樹脂、アクリル系樹脂等が挙げられる。PVB系樹脂として、例えば、ポリビニルブチラール樹脂等が挙げられる。分散媒、有機バインダ、分散剤等の添加量は、塗工条件に応じて、適宜調整することができる。
【0033】
塗工用スラリーをシート状に成形する方法は特に限定されない。塗工用スラリーをシート状に成形する方法として、例えば、ドクターブレード法、押出成形法等が挙げられる。
【0034】
成形体作製工程S2において作製されるシート状の成形体の厚さは、例えば、0.15mm以上0.8mm以下である。作製されたシート状の成形体は、必要に応じて、例えば、打ち抜き機等を使用して所定のサイズに切断される。
【0035】
(2-3)焼結工程S3、窒化工程S4
焼結工程S3は、成形体中に含まれる有機バインダを除去する脱脂工程と、成形体中に含まれる珪素と窒素とを反応させて窒化珪素を形成する窒化工程S4と、窒化工程S4の後に行われる緻密化焼結工程とを含む。
【0036】
脱脂工程、窒化工程S4、及び緻密化焼結工程を、別々の炉で逐次的に実施してもよいし、同一の炉で連続的に実施してもよい。また、一つの炉内で、1600枚以上の成形体を一緒に熱処理する。同じ炉内で熱処理された成形体は、ロットが同じとなる。
【0037】
焼結工程S3では、例えば、図3に示すように、セッタ200の上に複数枚の成形体100Aを積層する。セッタ200は窒化硼素(BN)から成る。成形体100Aと成形体100Aとの間には、図示しない分離材を挟む。複数枚の成形体100Aの上に重石300を配置する。
【0038】
この状態で、複数枚の成形体100Aを電気炉内に設置する。次に、脱脂工程を実施する。次に、窒化工程S4を実施する。窒化工程S4では、窒素雰囲気で所定温度まで昇温させる。
【0039】
次に、焼結装置において、緻密化焼結工程を実施する。緻密化焼結工程は、例えば、重石300によって、成形体100Aに10Pa以上1000Pa以下の荷重をかけながら実施される。
【0040】
なお、上述した分離材として、例えば、厚さが約3μm以上20μm以下の窒化硼素(BN)粉層が挙げられる。窒化硼素粉層は、緻密化焼結工程の後に、焼結体となった窒化珪素基板の分離を容易にする機能を有する。窒化硼素粉層は、例えば、それぞれの成形体100Aの片面に、スラリーの状態である窒化硼素粉を塗布することで形成される。スラリーの状態である窒化硼素粉を塗布する方法として、例えば、スプレー、ブラシ塗布、スクリーン印刷等の方法がある。窒化硼素粉は、例えば、95%以上の純度、及び、1μm以上20μm以下のメジアン径D50を有していることが好ましい。
【0041】
以上の工程により、窒化珪素基板が完成する。上記の製造方法では、純度の高いシリコン原料粉末を使用することにより、熱伝導率が110W/(m・K)以上の窒化珪素基板を製造することができる。本実施形態における窒化珪素基板は、シート状の成形体に含まれる珪素を窒化してなる窒化珪素基板である。窒化珪素基板の厚さは、例えば、0.15mm以上0.8mm以下である。
【0042】
3.パワーモジュール1及び窒化珪素回路基板2の製造方法
図4に基づき、パワーモジュール1及び窒化珪素回路基板2の製造方法を説明する。工程S11では、ろう付けにより、金属板105と、金属放熱板107とを窒化珪素基板3に取り付ける。次に、工程S12では、金属板105の一部を除去し、金属回路5を形成する。次に、工程S13では、分割することにより、複数の窒化珪素回路基板2を得る。さらに、半導体チップ13及びヒートシンク15を窒化珪素回路基板2に取り付ける。
【0043】
4.評価システム201の構成
図5図6に基づき、評価システム201の構成を説明する。評価システム201は、窒化珪素基板用シリコン原料粉末219の評価に使用される。図5に示すように、評価システム201は、X線回折スペクトル測定装置203と、評価装置205とを備える。評価装置205は、窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価装置に対応する。
【0044】
X線回折スペクトル測定装置203は、図6に示すように、X線回折スペクトル測定部211と、X線発生装置213と、X線回折測定・制御系215と、冷却水送水装置217と、を備える。
【0045】
X線回折スペクトル測定部211は、試料台221を備える。試料台221の上に、評価の対象である窒化珪素基板用シリコン原料粉末219を置くことができる。X線回折スペクトル測定部211において、X線発生装置213が発生させた入射X線223が、窒化珪素基板用シリコン原料粉末219に入射する。図6における225は、試料の直上から見たときのX線進行方向である。
【0046】
X線回折スペクトル測定部211は、検出器227を備える。検出器227は、回折X線229を検出する。回折X線229は、入射X線223が窒化珪素基板用シリコン原料粉末219で回折して生じたX線である。なお、図6における231はθ軸である。また、図6における233は散乱ベクトル方向である。θはブラッグ角である。
【0047】
X線発生装置213は、高圧電源機器241と、X線発生管球243と、を備える。高圧電源機器241は、X線発生管球243に電気245を供給する。X線発生管球243は、入射X線223を発生させる。入射X線223は、X線回折スペクトル測定部211に送られる。本実施形態では、X線発生管球243は、Cu-X線源である。X線発生管球243は、CuKα1線と、CuKα2線とを発生させる。
【0048】
X線回折測定・制御系215は、X線発生装置制御部251と、検出器・ゴニオメータ制御部253と、スペクトルデータ取得・記録部255と、を備える。X線発生装置制御部251は、X線発生装置213を制御する。検出器・ゴニオメータ制御部253は、検出器227と、図示しないゴニオメータとを制御する。スペクトルデータ取得・記録部255は、X線回折スペクトル測定部211において行った測定で得られたX線回折スペクトルを取得し、記録する。
【0049】
冷却水送水装置217は、冷却水257を循環させる。冷却水257は、X線発生管球243を冷却する。
図5に示す評価装置205は、CPUと、例えば、RAM又はROM等の半導体メモリと、を有するマイクロコンピュータを備える。評価装置205の各機能は、CPUが非遷移的実体的記録媒体に格納されたプログラムを実行することにより実現される。また、このプログラムが実行されることで、プログラムに対応する方法が実行される。
【0050】
評価装置205は、データ取得部207と、データ処理部209と、を備える。データ取得部207は、X線回折スペクトル測定装置203からX線回折スペクトルを取得する。データ取得部207は、X線回折スペクトル取得部に対応する。データ処理部209は、データ取得部207が取得したX線回折スペクトルに基づき、窒化珪素基板用シリコン原料粉末219を評価するための処理を行う。この処理については後述する。データ処理部209は評価値算出部に対応する。
【0051】
5.窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価方法
以下の方法で窒化珪素基板用シリコン原料粉末219を評価することができる。評価には、例えば、評価システム201を使用することができる。
【0052】
まず、試料台221の上に、評価の対象となる窒化珪素基板用シリコン原料粉末219を置く。次に、X線回折スペクトル測定装置203は、X線回折スペクトルを測定する。X線回折スペクトルを測定するとき、Cu-X線源を使用する。X線回折スペクトル測定装置203は、測定して得られたX線回折スペクトルをスペクトルデータ取得・記録部255に記録する。
【0053】
スペクトルデータ取得・記録部255に記録されたX線回折スペクトルは、例えば、図7に示すように、回折角2θが93°以上97°以下の範囲内に2つのスペクトルピークPA1、PA2が重なった形状を有する。スペクトルピークPA1、PA2は、(511)面におけるスペクトルピークである。(511)はミラー指数である。スペクトルピークPA1は、CuKα1線により生じたスペクトルピークである。スペクトルピークPA2は、CuKα2線により生じたスペクトルピークである。
【0054】
また、スペクトルデータ取得・記録部255に記録されたX線回折スペクトルは、例えば、図8に示すように、回折角2θが135°以上139°以下の範囲内に2つのスペクトルピークPB1、PB2が重なった形状を有する。スペクトルピークPB1、PB2は、(533)面におけるスペクトルピークである。(533)はミラー指数である。スペクトルピークPB1は、CuKα1線により生じたスペクトルピークである。スペクトルピークPB2は、CuKα2線により生じたスペクトルピークである。
【0055】
次に、データ取得部207は、スペクトルデータ取得・記録部255に記録されたX線回折スペクトルを取得する。次に、データ処理部209は、X線回折スペクトルについて、統計分布関数を用いたフィッティングを行う。統計分布関数として、例えば、ローレンツ関数等が挙げられる。フィッティングを行うことで、図7に示すように、スペクトルピークPA1、PA2を得ることができる。また、フィッティングを行うことで、図8に示すように、スペクトルピークPB1、PB2を得ることができる。
【0056】
次に、データ処理部209は、フィッティング後のX線回折スペクトルに基づき、スペクトルピークPA1、PA2、PB1、PB2のそれぞれについて、半値幅を測定する。スペクトルピークPA1、PA2、PB1、PB2の半値幅を、それぞれ、FWHM_A1、FWHM_A2、FWHM_B1、FWHM_B2とする。
【0057】
次に、データ処理部209は、FWHM_A1とFWHM_A2との平均値である平均半値幅FWHM_Aaveを算出する。また、データ処理部209は、FWHM_B1とFWHM_B2との平均値である平均半値幅FWHM_Baveを算出する。
【0058】
次に、データ処理部209は、以下の式(1)により、半値幅比率ARを算出する。
式(1) AR=FWHM_Aave/XA
式(1)において、XAは、基準半値幅である。基準半値幅とは、製造した窒化珪素基板における不良発生率NGRが所定の基準値となる窒化珪素基板用シリコン原料粉末219において算出された平均半値幅FWHM_Aaveである。不良発生率NGRについては後述する。
【0059】
また、データ処理部209は、以下の式(2)により、半値幅比率BRを算出する。
式(2) BR=FWHM_Bave/XB
式(2)において、XBは、基準半値幅である。基準半値幅とは、製造した窒化珪素基板における不良発生率NGRが所定の基準値となる窒化珪素基板用シリコン原料粉末219において算出された平均半値幅FWHM_Baveである。
【0060】
次に、データ処理部209は、スペクトルピークPA1、PA2、PB1、PB2のそれぞれについて、結晶子サイズDを算出する。結晶子サイズDは、以下の式(3)により算出される。
【0061】
式(3) D=Kλ/(βcosθ)
式(3)はScherrerの式である。式(3)においてKは定数であり、その値は0.9である。λは入射X線223の波長である。βはスペクトルピークの半値幅である。θは、スペクトルピークのブラッグ角である。
【0062】
例えば、スペクトルピークPA1について結晶子サイズDを算出する場合、式(3)に代入するβはスペクトルピークPA1の半値幅FWHM_A1であり、式(1)に代入するθはスペクトルピークPA1のブラッグ角である。スペクトルピークPA2、PB1、PB2について結晶子サイズDを算出する場合も同様である。
【0063】
スペクトルピークPA1、PA2、PB1、PB2において算出された結晶子サイズDを、それぞれ、D_A1、D_A2、D_B1、D_B2とする。
次に、データ処理部209は、D_A1とD_A2との平均値である平均結晶子サイズD_Aaveを算出する。また、データ処理部209は、D_B1とD_B2との平均値である平均結晶子サイズD_Baveを算出する。
【0064】
なお、半値幅比率ARは、スペクトルピークの半値幅であるFWHM_Aaveに比例する値であるから、スペクトルピークの半値幅と相関を有する。また、半値幅比率BRは、スペクトルピークの半値幅であるFWHM_Baveに比例する値であるから、スペクトルピークの半値幅と相関を有する。また、平均結晶子サイズD_Aave、D_Baveは、スペクトルピークの半値幅であるβを含む式(3)より算出される値であるから、スペクトルピークの半値幅と相関を有する。よって、半値幅比率AR、BR、及び平均結晶子サイズD_Aave、D_Baveは、それぞれ、スペクトルピークの半値幅と相関を有する評価値に対応する。スペクトルピークの半値幅と相関を有するとは、一定の規則に従い、スペクトルピークの半値幅の変化に応じて、変化することを意味する。スペクトルピークの半値幅と相関を有する評価値として、例えば、スペクトルピークの半値幅が増加するほど、増加する評価値、あるいは、スペクトルピークの半値幅が増加するほど、減少する評価値等が挙げられる。
【0065】
次に、データ処理部209は、半値幅比率AR、BR、平均結晶子サイズD_Aave、D_Baveのうちのいずれか1以上に基づき、窒化珪素基板用シリコン原料粉末219を評価する。例えば、データ処理部209は、例えば、以下の条件J1~J4のそれぞれについて、成立するか否かを判断する。
(J1)
半値幅比率ARを予め設定された閾値と対比したとき、半値幅比率ARはその閾値より大きい。
(J2)
半値幅比率BRを予め設定された閾値と対比したとき、半値幅比率BRはその閾値より大きい。
(J3)
平均結晶子サイズD_Aaveを予め設定された閾値と対比したとき、平均結晶子サイズD_Aaveはその閾値より小さい。閾値の値は、67.1nm以上71.1nm以下である。
(J4)
平均結晶子サイズD_Baveを予め設定された閾値と対比したとき、平均結晶子サイズD_Baveはその閾値より小さい。閾値の値は、86.2nm以上90.7nm以下である。
【0066】
データ処理部209は、例えば、J1~J4のうち、N個以上の条件が成立した場合、窒化珪素基板用シリコン原料粉末219が良好であると評価する。Nは1~4のうちのいずれかの自然数である。
【0067】
データ処理部209が判断する条件は、J1~J4から選択された1~3個の条件であってもよい。選択された条件が1個の場合、データ処理部209は、その1個の条件が成立した場合、窒化珪素基板用シリコン原料粉末219が良好であると評価する。
【0068】
選択された条件が2個の場合、データ処理部209は、N個の条件が成立した場合、窒化珪素基板用シリコン原料粉末219が良好であると評価する。Nは1~2の自然数である。選択された条件が3個の場合、データ処理部209は、N個の条件が成立した場合、窒化珪素基板用シリコン原料粉末219が良好であると評価する。Nは1~3の自然数である。
【0069】
6.実施例
(6-1)窒化珪素基板用シリコン原料粉末SP1~SP5の評価
評価対象として、窒化珪素基板用シリコン原料粉末SP1~SP5を用意した。SP1~SP5のそれぞれについて、前記「5.窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価方法」に記載の方法により、評価を行った。その結果、半値幅比率AR、BR、平均結晶子サイズD_Aave、D_Baveを得た。これらを表1、表2に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
半値幅比率ARの算出に使用した基準半値幅XAは、SP1において算出された平均半値幅FWHM_Aaveである。半値幅比率BRの算出に使用した基準半値幅XBは、SP1において算出された平均半値幅FWHM_Baveである。SP1は、後述する不良発生率NGRが10%である窒化珪素基板用シリコン原料粉末である。10%は、不良発生率NGRの基準値に対応する。
【0073】
表1におけるPAaveは、スペクトルピークPA1のブラッグ角θと、スペクトルピークPA2のブラッグ角θとの平均値である。表2におけるPBaveは、スペクトルピークPB1のブラッグ角θと、スペクトルピークPB2のブラッグ角θとの平均値である。
【0074】
(6-2)窒化珪素基板用シリコン原料粉末SP1~SP5の不良発生率NGRの算出
窒化珪素基板用シリコン原料粉末SP1~SP5のそれぞれについて、以下の方法で不良発生率NGRを算出した。
【0075】
窒化珪素基板用シリコン原料粉末SP1~SP5を用い、前記「2.窒化珪素基板3の製造方法」に記載の方法で、複数の窒化珪素基板3を製造した。それぞれの窒化珪素基板3を目視観察し、凹凸の有無を判断した。明らかに凹凸が少ないものは良品とした。明らかに凹凸が多いものは不良品とした。
【0076】
目視観察だけでは良品か不良品かを判断できないものについては、凹凸の高さを測定した。凹凸の高さの測定には、3次元形状測定装置(GFM社製、商品名:MikroCAD)を使用した。凹凸の高さとは、目視で発見した凸部の中心から半径5μmの範囲内における最大高さと最小高さの差である。測定した凹凸の高さが25μm以下であれば良品とした。凹凸の高さが25μmを超えていれば不良品とした。
【0077】
次に、以下の式(4)により、不良発生率NGRを算出した。不良発生率NGRの単位は%である。
式(4) NGR=(A/(A+A))×100
式(4)において、Aは不良品の数である。Aは良品の数である。
【0078】
(6-3)窒化珪素基板用シリコン原料粉末SP1~SP5の評価値と不良発生率NGRとの関係
窒化珪素基板用シリコン原料粉末SP1~SP5の平均結晶子サイズD_Aaveと不良発生率NGRとの関係を図9に示す。窒化珪素基板用シリコン原料粉末SP1~SP5の半値幅比率ARと不良発生率NGRとの関係を図10に示す。
【0079】
窒化珪素基板用シリコン原料粉末SP1~SP4の平均結晶子サイズD_Baveと不良発生率NGRとの関係を図11に示す。窒化珪素基板用シリコン原料粉末SP1~SP4の半値幅比率BRと不良発生率NGRとの関係を図12に示す。
【0080】
図9に示すように、平均結晶子サイズD_Aaveが小さいほど、不良発生率NGRが低かった。67.1nm以上71.1nm以下の閾値を設定したとき、平均結晶子サイズD_Aaveがその閾値より小さければ、不良発生率NGRは10%以下であった。
【0081】
図10に示すように、半値幅比率ARが大きいほど、不良発生率NGRが低かった。0.944の閾値を設定したとき、半値幅比率ARがその閾値より大きければ、不良発生率NGRは10%以下であった。
【0082】
図11に示すように、平均結晶子サイズD_Baveが小さいほど、不良発生率NGRが低かった。86.2nm以上90.7nm以下の閾値を設定したとき、平均結晶子サイズD_Baveがその閾値より小さければ、不良発生率NGRは10%以下であった。
【0083】
図12に示すように、半値幅比率BRが大きいほど、不良発生率NGRが低かった。0.944の閾値を設定したとき、半値幅比率BRがその閾値より大きければ、不良発生率NGRは10%以下であった。
【0084】
8.窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価方法が奏する効果
上述したとおり、半値幅比率AR、BR、平均結晶子サイズD_Aave、D_Baveは、不良発生率NGRと相関のある値である。そのため、半値幅比率AR、BR、平均結晶子サイズD_Aave、D_Baveに基づき、窒化珪素基板用シリコン原料粉末219を使用した場合の不良発生率NGRを予測することができる。すなわち、本実施形態の窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価方法によれば、窒化珪素基板用シリコン原料粉末219が窒化珪素基板3の表面に凹凸を発生させ易いものであるか否かを評価することができる。
【0085】
パワーモジュール1は、窒化珪素基板3を搭載している。本開示の評価方法により、窒化珪素基板用シリコン原料粉末219が窒化珪素基板3の表面に凹凸を発生させ易いものであるか否かを評価することで、結果として、パワーモジュール1を評価することができる。よって、本開示の評価方法は、パワーモジュール1の評価方法とすることができる。
<他の実施形態>
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0086】
(1)窒化珪素基板3を用いて、パワーモジュール1以外のパワーモジュールを製造してもよい。
(2)評価値として、平均結晶子サイズD_Aaveに代えて、結晶子サイズD_A1、又は、結晶子サイズD_A2を用いてもよい。
【0087】
評価値として、平均結晶子サイズD_Baveに代えて、結晶子サイズD_B1、又は、結晶子サイズD_B2を用いてもよい。
(3)窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価は、回折角2θが93°以上97°以下の範囲内のスペクトルピークのみに基づいて行ってもよい。また、窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価は、回折角2θが、135°以上139°以下の範囲内のスペクトルピークのみに基づいて行ってもよい。
【0088】
(4)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。
【0089】
(5)上述した評価システム201の他、当該評価システム201を構成要素とするさらに上位のシステム、評価装置205としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実態的記録媒体、窒化珪素基板の品質管理方法等、種々の形態で本開示を実現することもできる。
[本明細書が開示する技術思想]
[項目1]
窒化珪素基板用シリコン原料粉末からX線回折スペクトルを取得し、
前記X線回折スペクトルに基づき、スペクトルピークの半値幅と相関を有する評価値を算出し、
前記評価値に基づき、前記窒化珪素基板用シリコン原料粉末を評価する、
窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価方法。
[項目2]
項目1に記載の窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価方法であって、
前記X線回折スペクトルを取得するときにCu-X線源を使用し、
前記スペクトルピークの回折角2θが、93°以上97°以下の範囲内、又は、135°以上139°以下の範囲内にある、
窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価方法。
[項目3]
項目1又は2に記載の窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価方法であって、
前記スペクトルピークは、(511)面におけるスペクトルピークであり、
前記評価値は、前記半値幅に基づき算出された結晶子サイズであり、
前記結晶子サイズを、67.1nm以上71.1nm以下の閾値と対比することで、前記窒化珪素基板用シリコン原料粉末を評価する、
窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価方法。
[項目4]
項目1~3のいずれか1つの項目に記載の窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価方法であって、
前記スペクトルピークは、(533)面におけるスペクトルピークであり、
前記評価値は、前記半値幅に基づき算出された結晶子サイズであり、
前記結晶子サイズを、86.2nm以上90.7nm以下の閾値と対比することで、前記窒化珪素基板用シリコン原料粉末を評価する、
窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価方法。
[項目5]
項目1~3のいずれか1つの項目に記載の窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価方法であって、
前記評価値は、基準半値幅に対する前記半値幅の比率であり、
前記基準半値幅は、製造した窒化珪素基板における不良発生率が所定の基準値となる窒化珪素基板用シリコン原料粉末において算出された前記半値幅であり、
前記評価値を閾値と対比することで、前記窒化珪素基板用シリコン原料粉末を評価する、
窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価方法。
[項目6]
X線回折スペクトルを取得するように構成されたX線回折スペクトル取得部と、
前記X線回折スペクトルに基づき、スペクトルピークの半値幅と相関を有する評価値を算出するように構成された評価値算出部と、
を備える窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価装置。
[項目7]
X線回折スペクトルを測定するX線回折スペクトル測定装置と、
項目6に記載の窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価装置と、
を備える窒化珪素基板用シリコン原料粉末の評価システム。
【符号の説明】
【0090】
1…パワーモジュール、2…窒化珪素回路基板、3…窒化珪素基板、5…金属回路、7…金属放熱板、9、11…ろう材層、13…半導体チップ、15…ヒートシンク、100A…成形体、105…金属板、107…金属放熱板、200…セッタ、201…評価システム、203…X線回折スペクトル測定装置、205…評価装置、207…データ取得部、209…データ処理部、211…X線回折スペクトル測定部、213…X線発生装置、215…X線回折測定・制御系、217…冷却水送水装置、219…窒化珪素基板用シリコン原料粉末、221…試料台、223…入射X線、227…検出器、229…回折X線、241…高圧電源機器、243…X線発生管球、245…電気、251…X線発生装置制御部、253…検出器・ゴニオメータ制御部、255…スペクトルデータ取得・記録部、257…冷却水、300…重石
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12