(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168996
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】電子写真感光体、電子写真感光体カートリッジ及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 5/147 20060101AFI20241128BHJP
【FI】
G03G5/147 502
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086156
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 ちよ子
(72)【発明者】
【氏名】宮下 渉
(72)【発明者】
【氏名】安藤 明
【テーマコード(参考)】
2H068
【Fターム(参考)】
2H068AA03
2H068BB07
2H068BB08
2H068FA03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】感光体表面が平滑で外観が良好であり、像流れの発生を防ぐことができ、それでいてマルテンス硬度及び弾性変形率も高い、電子写真感光体を提供する。
【解決手段】感光層と保護層とを順次備えた電子写真感光体であって、保護層が、下記式で表される構造を有する重合体を含有する。
[式(1)]
[式(2)]
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性支持体上に感光層と保護層とを順次備えた電子写真感光体であって、
前記保護層が、下記式(1)及び(2)で表される構造を有する重合体を含有する電子写真感光体。
[式(1)]
(式(1)中、l、m、n、oはそれぞれ0以上10以下の整数であり、l+m+n+oは1以上である。Rは、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数1以上8以下のアルキレン基、置換基を有してもよい炭素数1以上8以下のオキシアルキレン基、及び、-O-(C=O)-(CX
2)
p-(但し、pは1以上6以下の整数であり、Xは水素原子又は置換基を表す)のうちから選ばれる2価の基を表す。Tは任意の原子との結合手を表す。Qはヒドロキシ基又は下記式(3)を表す。Z
1は、それぞれ独立に、水素原子、または炭素数1以上4以下のアルキル基を表し、少なくとも1つ以上が炭素数1以上4以下のアルキル基である。)
[式(2)]
(式(2)中、f、g、h、i、j、kはそれぞれ0以上10以下の整数であり、f+g+h+i+j+kは1以上である。Rは、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数1以上8以下のアルキレン基、置換基を有してもよい炭素数1以上8以下のオキシアルキレン基、及び、-O-(C=O)-(CX
2)
p-(但し、pは1以上6以下の整数であり、Xは水素原子又は置換基を表す)のうちから選ばれる2価の基を表す。Tは任意の原子との結合手を表す。Qはヒドロキシ基又は下記式(3)を表す。Z
1は、それぞれ独立に、水素原子、または炭素数1以上4以下のアルキル基を表し、少なくとも1つ以上が炭素数1以上4以下のアルキル基である。)
[式(3)]
(式(3)中、Z
2は式(1)又は(2)中におけるRとの結合手を表す。Z
1は、水素原子、または炭素数1以上4以下のアルキル基を表す。Tは任意の原子との結合手を表す。)
【請求項2】
導電性支持体上に感光層と保護層とを順次備えた電子写真感光体であって、
前記保護層が、下記式(1’)で表される構造を有する化合物a及び下記式(2’)で表される構造を有する化合物bが重合した重合体を含有する電子写真感光体。
[式(1’)]
(式(1’)中、l、m、n、oはそれぞれ0以上10以下の整数であり、l+m+n+oは1以上である。Rは、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数1以上8以下のアルキレン基、置換基を有してもよい炭素数1以上8以下のオキシアルキレン基、及び、-O-(C=O)-(CX
2)
p-(但し、pは1以上6以下の整数であり、Xは水素原子又は置換基を表す)のうちから選ばれる2価の基を表す。Qはヒドロキシ基又は下記式(3’)を表す。Z
1は、それぞれ独立に、水素原子、または炭素数1以上4以下のアルキル基を表し、少なくとも1つ以上が炭素数1以上4以下のアルキル基である。)
[式(2’)]
(式(2’)中、f、g、h、i、j、kはそれぞれ0以上10以下の整数であり、f+g+h+i+j+kは1以上である。Rは、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数1以上8以下のアルキレン基、置換基を有してもよい炭素数1以上8以下のオキシアルキレン基、及び、-O-(C=O)-(CX
2)
p-(但し、pは1以上6以下の整数であり、Xは水素原子又は置換基を表す)のうちから選ばれる2価の基を表す。Qはヒドロキシ基又は下記式(3’)を表す。Z
1は、それぞれ独立に、水素原子、または炭素数1以上4以下のアルキル基を表し、少なくとも1つ以上が炭素数1以上4以下のアルキル基である。)
[式(3’)]
(式(3')中、Z
2は式(1')又は式(2')中におけるRとの結合手を表す。Z
1は、水素原子、または炭素数1以上4以下のアルキル基を表す。)
【請求項3】
前記式(1)、式(2)、式(1')及び式(2')のうちの少なくとも1つの式のRが、置換基を有してもよい炭素数1以上8以下のオキシアルキレン基、又は、-O-(C=O)-(CX2)p-(但し、pは1以上6以下の整数であり、Xは水素原子又は置換基を表す)である、請求項1又は2に記載の電子写真感光体。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の電子写真感光体を有する電子写真感光体カートリッジ。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の電子写真感光体を有する画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機やプリンター等に用いられる電子写真感光体、これを用いた電子写真感光体カートリッジ及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンター及び複写機等では、帯電した有機系感光体(OPC)ドラムに光を照射すると、その部分が除電されて静電潜像が生じ、静電潜像にトナーが付着することにより画像を得ることができる。このように電子写真技術を利用した機器において、感光体は基幹部材である。
【0003】
この種の有機系感光体は、材料選択の余地が大きく、感光体の特性を制御し易いことから、電荷の発生と移動の機能を別々の化合物に分担させる“機能分離型の感光体”が主流となってきている。例えば、電荷発生物質(CGM)と電荷輸送物質(CTM)を同一層中に有する単層型の電子写真感光体(以下、単層型感光体という)と、電荷発生物質(CGM)を含有する電荷発生層と電荷輸送物質(CTM)を含有する電荷輸送層を積層してなる積層型の電子写真感光体(以下、積層型感光体という)とが知られている。また、感光体の帯電方式としては、感光体表面を負電荷に帯電させる負帯電方式と、感光体表面を正電荷に帯電させる正帯電方式を挙げることができる。
現在実用化されている感光体の層構成と帯電方式の組み合わせとしては、“負帯電積層型感光体”と、“正帯電単層型感光体”とを挙げることができる。
【0004】
“負帯電積層型感光体”は、アルミニウム管等の導電性基体上に、樹脂等からなる下引き層(UCL)を設け、その上に電荷発生物質(CGM)と樹脂等からなる電荷発生層(CGL)を設け、さらにその上に、正孔輸送物質(HTM)と樹脂等からなる電荷輸送層(CTL)を設けてなる構成を有するものが一般的である。
【0005】
一方で、“正帯電単層型感光体”は、アルミニウム管等の導電性基体上に、樹脂等からなる下引き層(UCL)を設け、その上に電荷発生物質(CGM)、正孔輸送物質(HTM)及び電子輸送物質(ETM)と樹脂等からなる単層の感光層を設けてなる構成を有するものが一般的である(例えば特許文献1参照)。
【0006】
いずれの感光体においても、コロナ放電方式や接触方式で感光体表面を帯電させた後、感光体を露光して表面電荷を中和することで、周囲表面との電位差による静電潜像を形成する。その後、トナーを感光体表面に接触させて、静電潜像に対応するトナー像を形成し、これを紙等に転写及び加熱溶融定着させることでプリントが完成する。
【0007】
上述のように、電子写真感光体は、導電性支持体上に感光層を形成したものが基本構成であるが、耐摩耗性等の改良目的で、感光層上に保護層を設けることも行われている。
【0008】
感光体表面の機械的強度ないし耐摩耗性を改良する技術としては、感光体の最表層として、連鎖重合性官能基を有する化合物を含有する層を形成し、これに熱や光、放射線等のエネルギーを与えることで重合させて硬化樹脂層を形成した感光体が開示されている(例えば特許文献1、2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第9417538号明細書
【特許文献2】国際公開第2010/035683号(特許第5263296号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述のように、感光体表面の機械的強度ないし耐摩耗性を改良する方法として、硬化性樹脂としての多官能アクリレート又は多官能メタクリレートを使用して保護層を形成する方法が知られている。
しかし、ある種の多官能アクリレート又は多官能メタクリレートを使用して保護層を形成すると、感光体表面に凹凸が生じ外観が不良となるほか、像流れ(画像ボケ)が発生する課題があった。
【0011】
本発明の課題は、導電性支持体上に感光層と保護層とを順次備えた電子写真感光体に関して、感光体表面が平滑で外観が良好であり、像流れの発生を防ぐことができ、それでいて感光体のマルテンス硬度及び弾性変形率も高い、新たな電子写真感光体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、多官能アクリレート又は多官能メタクリレートの中でも、特定の構造を有する化合物を使用して保護層を形成することにより、上記課題を解決するものである。
すなわち、本発明の要旨は、以下の[1]~[5]に存在する。
【0013】
[1] 導電性支持体上に感光層と保護層とを順次備えた電子写真感光体であって、前記保護層が、下記式(1)及び(2)で表される構造を有する重合体を含有する電子写真感光体。
【0014】
【0015】
式(1)中、l、m、n、oはそれぞれ0以上10以下の整数であり、l+m+n+oは1以上である。Rは、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数1以上8以下のアルキレン基、置換基を有してもよい炭素数1以上8以下のオキシアルキレン基、及び、-O-(C=O)-(CX2)p-(但し、pは1以上6以下の整数であり、Xは水素原子又は置換基を表す)のうちから選ばれる2価の基を表す。Tは任意の原子との結合手を表す。Qはヒドロキシ基又は下記式(3)を表す。Z1は、それぞれ独立に、水素原子、または炭素数1以上4以下のアルキル基を表し、少なくとも1つ以上が炭素数1以上4以下のアルキル基である。
【0016】
【0017】
式(2)中、f、g、h、i、j、kはそれぞれ0以上10以下の整数であり、f+g+h+i+j+kは1以上である。Rは、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数1以上8以下のアルキレン基、置換基を有してもよい炭素数1以上8以下のオキシアルキレン基、及び、-O-(C=O)-(CX2)p-(但し、pは1以上6以下の整数であり、Xは水素原子又は置換基を表す)のうちから選ばれる2価の基を表す。Tは任意の原子との結合手を表す。Qはヒドロキシ基又は下記式(3)を表す。Z1は、それぞれ独立に、水素原子、または炭素数1以上4以下のアルキル基を表し、少なくとも1つ以上が炭素数1以上4以下のアルキル基である。
【0018】
【0019】
式(3)中、Z2は式(1)又は(2)中におけるRとの結合手を表す。Z1は、水素原子、または炭素数1以上4以下のアルキル基を表す。Tは任意の原子との結合手を表す。
【0020】
[2] 導電性支持体上に感光層と保護層とを順次備えた電子写真感光体であって、前記保護層が、下記式(1’)で表される構造を有する化合物a及び下記式(2’)で表される構造を有する化合物bが重合した重合体を含有する電子写真感光体。
【0021】
【0022】
式(1’)中、l、m、n、oはそれぞれ0以上10以下の整数であり、l+m+n+oは1以上である。Rは、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数1以上8以下のアルキレン基、置換基を有してもよい炭素数1以上8以下のオキシアルキレン基、及び、-O-(C=O)-(CX2)p-(但し、pは1以上6以下の整数であり、Xは水素原子又は置換基を表す)のうちから選ばれる2価の基を表す。Qはヒドロキシ基又は下記式(3’)を表す。Z1は、それぞれ独立に、水素原子、または炭素数1以上4以下のアルキル基を表し、少なくとも1つ以上が炭素数1以上4以下のアルキル基である。
【0023】
【0024】
式(2’)中、f、g、h、i、j、kはそれぞれ0以上10以下の整数であり、f+g+h+i+j+kは1以上である。Rは、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数1以上8以下のアルキレン基、置換基を有してもよい炭素数1以上8以下のオキシアルキレン基、及び、-O-(C=O)-(CX2)p-(但し、pは1以上6以下の整数であり、Xは水素原子又は置換基を表す)のうちから選ばれる2価の基を表す。Qはヒドロキシ基又は下記式(3’)を表す。Z1は、それぞれ独立に、水素原子、または炭素数1以上4以下のアルキル基を表し、少なくとも1つ以上が炭素数1以上4以下のアルキル基である。
【0025】
【0026】
式(3')中、Z2は式(1')又は式(2')中におけるRとの結合手を表す。Z1は、水素原子、または炭素数1以上4以下のアルキル基を表す。
【0027】
[3] 前記式(1)、式(2)、式(1')及び式(2')のうちの少なくとも1つの式のRが、置換基を有してもよい炭素数1以上8以下のオキシアルキレン基、又は、-O-(C=O)-(CX2)p-(但し、pは1以上6以下の整数であり、Xは水素原子又は置換基を表す)である、[1]又は[2]に記載の電子写真感光体。
【0028】
[4] [1]~[3]のいずれか1に記載の電子写真感光体を有する電子写真感光体カートリッジ。
[5] [1]~[3]のいずれか1に記載の電子写真感光体を有する画像形成装置。
【発明の効果】
【0029】
本発明の電子写真感光体は、感光体表面が平滑で外観が良好であり、像流れの発生を防ぐことができ、それでいて感光体のマルテンス硬度及び弾性変形率も高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の一例に係る電子写真感光体を用いて構成することができる画像形成装置の構成例を概略的に示した図である。
【
図2】感光体のマルテンス硬度及び弾性変形率を測定した際の、圧子の押込み深さと荷重曲線との一般的な関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を実施するための形態(以下、発明の実施の形態)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することが出来る。
【0032】
<<本電子写真感光体>>
本発明の実施形態の一例に係る電子写真感光体(「本電子写真感光体」とも称する)は、導電性支持体上に、感光層と保護層とを順次備えた電子写真感光体であり、前記保護層は、硬化性化合物が硬化してなる硬化物を含有することが好ましい。
【0033】
本電子写真感光体は、感光層及び保護層以外の層を有することは任意に可能である。
また、本電子写真感光体の帯電方式は、感光体表面を負電荷に帯電させる負帯電方式、感光体表面を正電荷に帯電させる正帯電方式のいずれであってもよい。
【0034】
本電子写真感光体においては、導電性支持体とは反対側が、上側又は表面側となり、導電性支持体側が、下側又は裏面側となる。本発明の効果がより得られる観点から、前記保護層は最表層であることが好ましい。
【0035】
<本保護層>
本電子写真感光体の保護層(「本保護層」とも称する)は、下記式(1)及び(2)で表される構造を有する重合体を含有する層であるのが好ましい。
本保護層が、下記式(1)及び(2)で表される構造を有する重合体を含有するにあたっては、下記式(1)で表される構造を有する重合体と下記式(2)で表される構造を有する重合体の両方を含有するのでもよく、1つの重合体の中に下記式(1)で表される構造と下記式(2)で表される構造の両方を有する重合体を含有するのでもよく、また、これら2つの重合体をいずれも含有するのでもよい。
【0036】
【0037】
【0038】
本保護層はまた、下記式(1’)で表される構造を有する化合物a及び下記式(2’)で表される構造を有する化合物bが重合した重合体を含有する層であるのが好ましい。言い換えれば、本保護層は、硬化性化合物が硬化してなる硬化物を含有し、前記硬化性化合物が、下記式(1’)で表される構造を有する化合物及び下記式(2’)で表される構造を有する化合物を含むことが好ましい。
本保護層が、下記式(1’)で表される構造を有する化合物a及び下記式(2’)で表される構造を有する化合物bが重合した重合体を含有するにあたっては、前記化合物a同士が重合した重合体と前記化合物b同士が重合した重合体の両方を含有するのでもよく、前記化合物aと前記化合物bとが重合した重合体を含有するのでもよく、これら2つの重合体をいずれも含有するのでもよい。その中でも、前記化合物aと前記化合物bとの混合物を重合することで、前記化合物aと前記化合物bとが重合した重合体を含有するのが好ましい。
【0039】
なお、前記化合物aと前記化合物bとの混合物は、例えば、ジペンタエリトリトール、ペンタエリトリトールを混合して反応させて合成することができる。この際、さらに、例えばε-カプロラクトンを加えて反応させることが好ましい。ε-カプロラクトンを加えた場合、前記式(1)、前記式(2)、下記式(1’)及び下記式(2’)における連結基Rが-O-(C=O)-(CX2)p-(但し、pは1以上6以下の整数であり、Xは水素原子又は置換基を表す)となる化合物を合成することができる。
ジペンタエリトリトール、ペンタエリトリトール及びε-カプロラクトンを用いる場合、ε-カプロラクトンの仕込み量すなわち配合量は、ジペンタエリトリトール及びペンタエリトリトールの合計仕込み量1.0当量に対して、0.01当量以上が好ましく、0.05当量以上がより好ましく、0.10当量以上がさらに好ましい。一方、2.0当量以下が好ましく、1.0当量以下がより好ましく、0.5当量以下がさらに好ましい。
【0040】
【0041】
【0042】
前述のように、ある種の多官能アクリレート又は多官能メタクリレートを使用して保護層を形成すると、感光体表面に凹凸が生じたり、膜の状態にムラが生じて部分的に表面が粗くなったりすることによって外観が不良となるほか、像流れ(画像ボケ)が発生する課題があった。前者は、多官能アクリレート又は多官能メタクリレートの結晶性が高いことにより、感光体表面にそれらの結晶が析出することが原因であると推察される。後者は、多官能アクリレート又は多官能メタクリレートの構造と含有量バランスが原因であると推察され、構造の対称性が大きく崩れると重合体にしたときにひずみが生じ、保護層の膜が乱れて、ひいては像流れを引き起こすものと考えられる。
上記式(1’)で表される化合物a、及び上記式(2’)で表される化合物bは、それぞれ単独でも、対称性が低い構造であれば結晶は析出しにくいと考えられるが、前述のように像流れの発生が懸念される。前記化合物aと前記化合物bを併用することにより、異なる構造が入り組みパッキングしにくくなって、結晶析出がより抑制され、同時に像流れも起こしにくくなると考えられる。また、上記式(2’)で表される化合物bは、上記式(1’)で表される化合物aを2量化したような類似の構造となっており、混合使用したときにも電気特性に悪い影響を及ぼさない点でも好ましい。
したがって、前記化合物a及び前記化合物bを使用して保護層を形成すると、感光体表面に結晶が析出することがなく、硬化後の感光体表面が平滑となり、像流れの発生も防ぐことができる。言い換えれば、保護層が、前記化合物a及び前記化合物bが重合した重合体を含有する感光体は、感光体表面に結晶が析出することがなく、硬化後の感光体表面が平滑となり、像流れの発生も防ぐことができる。さらに言い換えれば、保護層が、前記式(1)及び(2)で表される構造を有する重合体を含有する感光体は、感光体表面に結晶が析出することがなく、硬化後の感光体表面が平滑となり、像流れの発生も防ぐことができる。
【0043】
[式(1)及び式(1’)]
上記式(1)及び上記式(1’)中、l、m、n、oはそれぞれ0以上10以下の整数である。その中でも、l、m、n、oのいずれかが1以上の整数であるのが好ましく、一方、l、m、n、oがそれぞれ8以下の整数であるのが好ましく、4以下の整数であるのがより好ましく、2以下の整数であるのがさらに好ましい。
【0044】
l+m+n+oは、上記式(1)および上記式(1’)中に含まれる連結鎖Rの等量を意味し、1以上であれば、分子の末端側に配置されたC=O結合を有する基(例えば(メタ)アクリロイル基)同士の立体反発を抑制し、C=O結合を有する基(例えば(メタ)アクリロイル基)の脱離を防止できる観点から好ましく、2以上であるのがさらに好ましい。他方、20以下であれば保護層の機械的強度の観点から好ましく、12以下であるのがより好ましく、6以下であるのがさらに好ましく、4以下であるのが特に好ましい。
【0045】
上記式(1)及び式(1’)中、連結鎖Rが存在することにより、分子の末端側に配置されたC=O結合を有する基(例えば(メタ)アクリロイル基)同士の立体反発を抑制し、C=O結合を有する基(例えば(メタ)アクリロイル基)の脱離を防止できる観点から、Rは、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数1以上8以下のアルキレン基、置換基を有してもよい炭素数1以上8以下のオキシアルキレン基、及び、-O-(C=O)-(CX2)p-(但し、pは1以上6以下の整数であり、Xは水素原子又は置換基を表す)のうちから選ばれる2価の基である。中でも、合成のしやすさの点から、置換基を有してもよい炭素数1以上8以下のオキシアルキレン基、又は、-O-(C=O)-(CX2)p-(但し、pは1以上6以下の整数)が好ましく、-O-(C=O)-(CX2)p-(但し、pは1以上6以下の整数であり、Xは水素原子又は置換基を表す)がより好ましい。
ここで、前記炭素数は、置換基を有する場合は置換基中の炭素の数は含まず、前記アルキレン基又は前記オキシアルキレン基の主鎖の炭素のみの数を意味する。置換基を有しない場合は、前記アルキレン基又は前記オキシアルキレン基の主鎖の炭素数を意味する。
【0046】
本発明において「置換基を有してもよい」とは、置換基を有することができるという意味であり、置換基を有する場合及び有さない場合の両方を包含する意味である。
【0047】
前記炭素数1以上8以下のアルキレン基及び炭素数1以上8以下のオキシアルキレン基は、置換基を有してもよいが、置換基を有しないことが好ましい。置換基を有する場合は、置換基としては、メチル基、エチル基、ジメチル基等を挙げることができる。その中でも、原料の入手しやすさ、合成のしやすさの観点から、メチル基が好ましい。
【0048】
炭素数1以上8以下のアルキレン基としては、-CH2-、-CH2-CH2-、-CH(CH3)-CH2-、-CH2-CH(CH3)-、-CH2-CH2-CH2-、-CH2-CH2-CH2-CH2-等を挙げることができる。その中でも、-CH2-、-CH2-CH2-が好ましく、-CH2-がより好ましい。
炭素数1以上8以下のオキシアルキレン基としては、-O-CH2-、-O-CH2-CH2-、-O-CH(CH3)-CH2-、-O-CH2-CH(CH3)-、-O-CH2-CH2-CH2-、-O-CH2-CH2-CH2-CH2-等を挙げることができる。その中でも、-O-CH2-CH2-、-O-CH(CH3)-CH2-が好ましく、-O-CH2-CH2-がより好ましい。
【0049】
連結鎖Rが炭素数1以上8以下のオキシアルキレン基である場合、式(1’)で表される構造を有する化合物aの1分子内に有する前記オキシアルキレン基の数は、2以上が好ましく、4以上がより好ましい。一方、12以下が好ましく、10以下がより好ましく、6以下がさらに好ましい。
連結鎖Rが-O-(C=O)-(CX2)p-である場合、pは1以上6以下の整数である。その中でも、pは1以上5以下の整数であるのがより好ましい。
連結鎖Rが-O-(C=O)-(CX2)p-である場合、Xは水素原子又は置換基を表す。前記置換基としては、前述した炭素数1以上8以下のアルキレン基及び炭素数1以上8以下のオキシアルキレン基が有してもよい置換基と同様のものが挙げられる。これらの中でも、Xは水素原子が好ましい。
【0050】
上記式(1)中、Tは任意の原子との結合手を表す。当該任意の原子としては、例えば炭素、水素、窒素、酸素等が想定される。
【0051】
上記式(1)中のQは、極性を有し混合層の形成を抑制する観点から、ヒドロキシ基又は下記式(3)であるのが好ましい。
また、上記式(1’)中のQは、極性を有し混合層の形成を抑制する観点から、ヒドロキシ基又は下記式(3’)であるのが好ましい。
【0052】
上記式(1)及び式(1’)中のZ1は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1以上4以下のアルキル基を表し、少なくとも1つ以上が炭素数1以上4以下のアルキル基であるのが好ましい。上記式(1)及び式(1’)中のZ1は、2つ以上が炭素数1以上4以下のアルキル基であるのがより好ましく、3つ以上が炭素数1以上4以下のアルキル基であるのがさらに好ましく、全てのZ1が炭素数1以上4以下のアルキル基であるのが特に好ましい。より多くのZ1が炭素数1以上4以下のアルキル基である方が、オゾン等の酸性ガスが、Z1が結合する未反応の炭素-炭素二重結合に接近することを立体的に阻害するため、耐ガス性が良好となる。
また、式(1)及び式(1’)中のZ1が炭素数1以上4以下のアルキル基である場合、前記アルキル基の炭素数は、1以上3以下であることが好ましく、1以上2以下であることがより好ましく、1であること、すなわち、メチル基であることがさらに好ましい。
【0053】
[式(2)及び式(2’)]
上記式(2)及び上記式(2’)中、f、g、h、i、j、kはそれぞれ0以上10以下の整数である。その中でも、f、g、h、i、j、kのいずれかが1以上の整数であるのが好ましく、一方、f、g、h、i、j、kがそれぞれ8以下の整数であるのが好ましく、4以下の整数であるのがより好ましく、2以下の整数であるのがさらに好ましい。
【0054】
f+g+h+i+j+kは、上記式(2)および上記式(2’)中に含まれる連結鎖Rの等量を意味し、1以上であれば、分子の末端側に配置されたC=O結合を有する基(例えば(メタ)アクリロイル基)同士の立体反発を抑制し、C=O結合を有する基(例えば(メタ)アクリロイル基)の脱離を防止できる観点からであるから好ましく、2以上であるのがさらに好ましく、4以上であるのが特に好ましい。他方、20以下であれば、保護層の機械的強度の観点から好ましく、18以下であるのがより好ましく、12以下であるのがさらに好ましく、6以下であるのが特に好ましい。
【0055】
上記式(2)及び上記式(2’)中、Rは、分子の末端側に配置されたC=O結合を有する基(例えば(メタ)アクリロイル基)同士の立体反発を抑制し、C=O結合を有する基(例えば(メタ)アクリロイル基)の脱離を防止できる観点から、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数1以上8以下のアルキレン基、置換基を有してもよい炭素数1以上8以下のオキシアルキレン基、及び、-O-(C=O)-(CX2)p-(但し、pは1以上6以下の整数であり、Xは水素原子又は置換基を表す)のうちから選ばれる2価の基であるのが好ましい。中でも、合成のしやすさの点から、炭素数1以上8以下のオキシアルキレン基、-O-(C=O)-(CX2)p-(但し、pは1以上6以下の整数)が好ましく、-O-(C=O)-(CX2)p-(但し、pは1以上6以下の整数であり、Xは水素原子又は置換基を表す)がより好ましい。
ここで、前記炭素数は、置換基を有する場合は置換基中の炭素の数は含まず、前記アルキレン基又は前記オキシアルキレン基の主鎖の炭素のみの数を意味する。置換基を有しない場合は、前記アルキレン基又は前記オキシアルキレン基の主鎖の炭素数を意味する。
【0056】
前記炭素数1以上8以下のアルキレン基及び炭素数1以上8以下のオキシアルキレン基は置換基を有してもよいが、置換基を有しないことが好ましい。置換基を有する場合は、置換基としては、メチル基、エチル基、ジメチル基等を挙げることができる。その中でも、原料の入手しやすさ、合成のしやすさの観点から、メチル基が好ましい。
【0057】
炭素数1以上8以下のアルキレン基としては、-CH2-、-CH2-CH2-、-CH(CH3)-CH2-、-CH2-CH(CH3)-、-CH2-CH2-CH2-、-CH2-CH2-CH2-CH2-等を挙げることができる。その中でも、-CH2-、-CH2-CH2-が好ましく、-CH2-がより好ましい。
炭素数1以上8以下のオキシアルキレン基としては、-O-CH2-、-O-CH2-CH2-、-O-CH(CH3)-CH2-、-O-CH2-CH(CH3)-、-O-CH2-CH2-CH2-、-O-CH2-CH2-CH2-CH2-等を挙げることができる。その中でも、-O-CH2-CH2-、-O-CH(CH3)-CH2-が好ましく、-O-CH2-CH2-がより好ましい。
連結鎖Rが炭素数1以上8以下のオキシアルキレン基である場合、式(2’)で表される構造を有する化合物bの1分子内に有する前記オキシアルキレン基の数は、2以上が好ましく、4以上がより好ましい。一方、12以下が好ましく、10以下がより好ましく、6以下がより好ましい。
【0058】
連結鎖Rが-O-(C=O)-(CX2)p-である場合、pは1以上6以下の整数である。その中でも、pは1以上5以下の整数であるのがより好ましい。
連結鎖Rが-O-(C=O)-(CX2)p-である場合、Xは水素原子又は置換基を表す。前記置換基としては、前述した炭素数1以上8以下のアルキレン基及び炭素数1以上8以下のオキシアルキレン基が有してもよい置換基と同様のものが挙げられる。これらの中でも、Xは水素原子が好ましい。
【0059】
上記式(2)中、Tは任意の原子との結合手を表す。当該任意の原子としては、例えば炭素、水素、窒素、酸素等が想定される。
【0060】
上記式(2)中のQは、極性を有し混合層の形成を抑制する観点から、ヒドロキシ基又は下記式(3)であるのが好ましい。
また、上記式(2’)中のQは、極性を有し混合層の形成を抑制する観点から、ヒドロキシ基又は下記式(3’)であるのが好ましい。
【0061】
上記式(2)及び式(2’)中のZ1は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1以上4以下のアルキル基を表し、少なくとも1つ以上が炭素数1以上4以下のアルキル基であるのが好ましい。上記式(2)及び式(2’)中のZ1は、2つ以上が炭素数1以上4以下のアルキル基であるのがより好ましく、4つ以上が炭素数1以上4以下のアルキル基であるのがさらに好ましく、全てのZ1が炭素数1以上4以下のアルキル基であるのが特に好ましい。より多くのZ1が炭素数1以上4以下のアルキル基である方が、オゾン等の酸性ガスが、Z1が結合する未反応の炭素-炭素二重結合に接近することを立体的に阻害するため、耐ガス性が良好となる。
また、式(2)及び式(2’)中のZ1が炭素数1以上4以下のアルキル基である場合、前記アルキル基の炭素数は、1以上3以下であることが好ましく、1以上2以下であることがより好ましく、1であること、すなわち、メチル基であることがさらに好ましい。
【0062】
前記式(1)、式(2)、式(1')及び式(2')のうちの少なくとも1つの式のRが、置換基を有してもよい炭素数1以上8以下のオキシアルキレン基、又は、-O-(C=O)-(CX2)p-(但し、pは1以上6以下の整数であり、Xは水素原子又は置換基を表す)であるのが好ましい。
【0063】
【0064】
式(3)中、Z1は、水素原子又は炭素数1以上4以下のアルキル基を表し、Z2は式(1)又は式(2)中におけるRとの結合手を表す。Tは任意の原子との結合手を表す。
式(3)中のZ1が炭素数1以上4以下のアルキル基である場合、前記アルキル基の炭素数は、1以上3以下であることが好ましく、1以上2以下であることがより好ましく、1であること、すなわち、メチル基であることがさらに好ましい。
【0065】
【0066】
式(3')中、Z1は、水素原子又は炭素数1以上4以下のアルキル基を表し、Z2は式(1')又は式(2')中におけるRとの結合手を表す。
式(3')中のZ1が炭素数1以上4以下のアルキル基である場合、前記アルキル基の炭素数は、1以上3以下であることが好ましく、1以上2以下であることがより好ましく、1であること、すなわち、メチル基であることがさらに好ましい。
【0067】
電子写真感光体の保護層が、前記連結鎖R、前記式(1)及び(2)で表される構造を有する重合体を含有する層であることは、例えば以下の方法により確認することができる。
電子写真感光体から保護層部分を単離し、熱分解GC/MS分析をすることで、保護層が含有する構造を分析し、前記連結鎖R、下記式(5)で表される構造及び下記式(6)で表される構造を検知することができる。下記式(5)で表される構造及び下記式(6)で表される構造は、前記式(1)で表される構造及び前記式(2)で表される構造の部分構造に相当する。
【0068】
【0069】
式(5)中、Z3は任意の原子との結合手を表す。
【0070】
【0071】
式(6)中、Z4は炭素数1以上4以下のアルキル基を表す。Tは任意の原子との結合手を表す。
【0072】
[式(5)及び式(6)]
上記式(5)中、Z3は任意の原子との結合手を表す。当該任意の原子としては、例えば炭素、水素、窒素、酸素等が想定される。
上記式(6)中、Z4は炭素数1以上4以下のアルキル基を表す。Tは任意の原子との結合手を表す。当該任意の原子としては、例えば炭素、水素、窒素、酸素等が想定される。
式(6)中のZ4が炭素数1以上4以下のアルキル基である場合、前記アルキル基の炭素数は、1以上3以下であることが好ましく、1以上2以下であることがより好ましく、1であること、すなわち、メチル基であることがさらに好ましい。
【0073】
前記式(5)で表される構造を有する場合、熱分解GC/MS分析により検知される化合物の例としては、ペンタエリスリトール、メチルペンタエリスリトール、ジメチルペンタエリスリトール、トリメチルペンタエリスリトール、テトラメチルペンタエリスリトール、エチルペンタエリスリトール、ジエチルペンタエリスリトール、トリエチルペンタエリスリトール、テトラエチルペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等を挙げることができる。
なお、前記式(6)で表される構造を有する場合、硬化前(重合前)の保護層が含有する化合物の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、2-エチルプロパ-2-エン酸、2-プロピルプロパ-2-エン酸、2-ブチルプロパ-2-エン酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、2-エチルプロパ-2-エン酸メチル、2-プロピルプロパ-2-エン酸メチル、2-ブチルプロパ-2-エン酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、2-エチルプロパ-2-エン酸エチル、2-プロピルプロパ-2-エン酸エチル、2-ブチルプロパ-2-エン酸エチル等を挙げることができる。
これらの硬化前(重合前)の保護層が含有する化合物は、未反応化合物として硬化後の保護層中に残留する場合がある。その場合、硬化後の保護層に対して熱分解GC/MS分析を行った結果、前記の未反応化合物が検知され、それにより、当該保護層が前記式(6)で表される構造を有する重合体を含有する層であると推察することができる。
【0074】
[分子量]
上記式(1’)で表される構造を有する化合物aの分子量は、保護層形成用塗布液への溶解性、及び保護層の機械的強度の観点から、300以上であるのが好ましく、400以上であるのがより好ましく、450以上であるのがさらに好ましい。他方、1200以下であるのが好ましく、1000以下であるのがより好ましく、900以下であるのがさらに好ましい。
上記式(2’)で表される構造を有する化合物bの分子量は、保護層形成用塗布液への溶解性、及び保護層の機械的強度の観点から、500以上であるのが好ましく、600以上であるのがより好ましく、700以上であるのがさらに好ましい。他方、1400以下であるのが好ましく、1200以下であるのがより好ましく、1000以下であるのがさらに好ましい。
【0075】
[官能基当量]
前記式(1’)で表される化合物a又は前記式(2’)で表される化合物bに関しては、化合物a又は化合物bの分子量Xと、1分子内に有するアクリロイル基およびメタクリロイル基の数Yが、下記式(4)を満たすのが好ましい。
120 ≦ X/Y ≦ 400 (4)
【0076】
極性の(メタ)アクリロイル基またはヒドロキシ基の数が多ければ、前述した極性基による混合抑制効果が高まり、混合層の形成をより一層抑制することができる。すなわち、分子量に対して、十分な極性基(アクリロイル基又はメタクリロイル基)を有することで、混合層の形成をより一層抑制することができる。また、耐摩耗性を発揮するのに十分な機械的強度を得ることができる。
かかる観点から、前記式(1’)又は(2’)のいずれかで表される化合物a又はbにおいて、1分子内に有するアクリロイル基およびメタクリロイル基の数Yに対する、化合物a又はbの分子量Xの比率(X/Y)すなわち官能基当量は400以下であるのが好ましく、中でも300以下、その中でも200以下、その中でも180以下であるのがさらに好ましい。
他方、当該比率(X/Y)すなわち官能基当量が大きければ、残留応力が少なくクラックが発生しにくいと考えられるため、当該比率(X/Y)すなわち官能基当量は120以上であるのが好ましく、中でも130以上、その中でも140以上、その中でも150以上であるのがさらに好ましい。
なお、1分子内に有するアクリロイル基およびメタクリロイル基の数Yは、2以上であるのが好ましく、3以上であるのが好ましく、4以上であるのがより好ましい。一方、12以下であるのが好ましく、10以下であるのがより好ましく、8以下であるのがさらに好ましく、6以下であるのが特に好ましい。
【0077】
(金属酸化物粒子)
本保護層は、電荷輸送能を付与する観点及び機械的強度を向上させる観点から、金属酸化物粒子を含有するのが好ましい。
【0078】
金属酸化物粒子としては、電子写真感光体に使用可能な金属酸化物粒子を使用することができる。
金属酸化物粒子としては、例えば、酸化チタン、酸化スズ、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化鉄等の1種の金属元素を含む金属酸化物粒子、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等の複数の金属元素を含む金属酸化物粒子を挙げることができる。金属酸化物粒子は、一種類の粒子のみを用いてもよいし、複数の種類の粒子を混合して用いてもよい。
これらの金属酸化物粒子の中でも、酸化チタン、酸化スズ、酸化アルミニウム、酸化珪素、又は、酸化亜鉛が好ましく、より好ましくは酸化チタンおよび酸化スズである。特には酸化チタンが好ましい。
【0079】
酸化チタン粒子の結晶型としては、ルチル、アナターゼ、ブルッカイト、アモルファスのいずれも用いることができる。また、これらの結晶状態の異なるものから、複数の結晶状態のものが含まれていてもよい。
【0080】
金属酸化物粒子の表面は、種々の表面処理が為されていてもよい。例えば、酸化スズ、酸化アルミニウム、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、酸化珪素等の無機物、またはステアリン酸、ポリオール、有機珪素化合物等の有機物による処理が施されていてもよい。特に、酸化チタン粒子を用いる場合には、有機珪素化合物により表面処理されていることが好ましい。
当該有機珪素化合物としては、例えば、ジメチルポリシロキサン等のシリコーンオイル、メチルジメトキシシラン等のオルガノシラン、ヘキサメチルジシラザン等のシラザン、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤等を挙げることができる。特に、本保護層の機械的強度を向上させる観点から、連鎖重合性官能基を有する、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシランが好ましい。
なお、これらの表面処理された粒子の最表面は、このような処理剤で処理される前に、酸化アルミニウム、酸化珪素または酸化ジルコニウム等の処理剤等で処理されていても構わない。
【0081】
金属酸化物粒子の粒径は、平均一次粒子径が500nm以下のものが好ましく、より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは50nm以下である。また、より好ましくは1nm以上、さらに好ましくは5nm以上である。
この平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡(Transmission electron microscope 以下、TEMとも称する)により直接観察される粒子の径の算術平均値によって求めることが可能である。
【0082】
また、電気特性の観点から、本保護層中の金属酸化物粒子の含有量は、本保護層が含有する前記重合体100質量部に対して20質量部以上であるのが好ましく、中でも60質量部以上、その中でも80質量部以上であるのがさらに好ましい。他方、表面電荷を維持する観点から、200質量部以下であるのが好ましく、中でも160質量部以下、その中でも120質量部以下であるのがさらに好ましい。
【0083】
(その他の材料)
本保護層は、上記材料の他に、必要に応じてその他の材料を含んでいてもよい。その他の材料としては、例えば、電荷輸送能を高める観点から、「電荷輸送物質」を含有してもよいし、また、重合反応を促進するため、「重合開始剤」を含有してもよい。さらに必要に応じて、例えば安定剤(熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤等)、分散剤、帯電防止剤、着色剤、潤滑剤等を含んでいてもよい。これらは適宜1種単独で、または2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いることができる。
【0084】
[電荷輸送物質]
本保護層に含有させる電荷輸送物質は、後述する本感光層に用いられる電荷輸送物質と同様のものを用いることができる。
【0085】
また、感光体表面のマルテンス硬度を向上させる観点から、保護層には、連鎖重合性官能基を有する電荷輸送物質を重合させてなる構造を含有させてもよい。
連鎖重合性官能基を有する電荷輸送物質の連鎖重合性官能基としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、エポキシ基等を挙げることができる。この中でも硬化性の観点から、アクリロイル基またはメタクリロイル基が好ましい。連鎖重合性官能基を有する電荷輸送物質の電荷輸送物質部分の構造としては、カルバゾール誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、ブタジエン誘導体又はエナミン誘導体、並びに、これらの化合物の複数種が結合したものが好ましい。
【0086】
本電子写真感光体の保護層中での電荷輸送物質の含有量は、特に限定されない。電気特性の観点から、前記式(1)又は(2)で表される構造を有する重合体、もしくは、前記式(1’)又は(2’)で表される構造を有する化合物の重合体、もしくは、前記R’で表される基、前記式(5)で表される構造及び前記式(6)で表される構造を有する重合体100質量部に対して10質量部以上であるのが好ましく、中でも30質量部以上であるのがより好ましく、中でも50質量部以上であるのがさらに好ましい。また、表面抵抗を良好に保持する観点から、300質量部以下であるのがより好ましく、中でも200質量部以下であるのがより好ましく、中でも150質量部以下であるのがさらに好ましい。
【0087】
[重合開始剤]
重合開始剤には、熱重合開始剤、光重合開始剤等が含まれる。
【0088】
熱重合開始剤としては、例えば、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロパーオキサイド等の過酸化物系化合物、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)等のアゾ系化合物を挙げることができる。
【0089】
光重合開始剤は、ラジカル発生機構の違いにより、直接開裂型と水素引き抜き型に分類できる。
【0090】
直接開裂型の光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン、2-ベンゾイル-2-プロパノール、1-ベンゾイルシクロヘキサノール、2,2-ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、2-メチル-4’-(メチルチオ)-2-モルフォリノプロピオフェノン等のアセトフェノン系またはケタール系化合物、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、O-トシルベンゾイン等のベンゾインエーテル系化合物、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フォスフィンオキサイド、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フォスフィンオキサイド、リチウムフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フォスフォネート等のアシルフォスフィンオキサイド系化合物を挙げることができる。
【0091】
水素引き抜き型の光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、4-ベンゾイル安息香酸、2-ベンゾイル安息香酸、2-ベンゾイル安息香酸メチル、ベンゾイルぎ酸メチル、ベンジル、p-アニシル、2-ベンゾイルナフタレン、4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’-ジクロロベンゾフェノン、1,4-ジベンゾイルベンゼン等のベンゾフェノン系化合物、2-エチルアントラキノン、2-イソプロピルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン等のアントラキノン系またはチオキサントン系化合物等を挙げることができる。その他の光重合開始剤としては、カンファーキノン、1-フェニル-1,2-プロパンジオン-2-(o-エトキシカルボニル)オキシム、アクリジン系化合物、トリアジン系化合物、イミダゾール系化合物等を挙げることができる。
【0092】
光重合開始剤は、効率的に光エネルギーを吸収してラジカルを発生させるために、光照射に用いられる光源の波長領域に、吸収波長を有することが好ましい。
ラジカル発生効率の低下を防止する観点から、光重合開始剤の中でも比較的長波長側に吸収波長を有する、アシルフォスフィンオキサイド系化合物を含有することが好ましい。
この場合、保護層表面の硬化性を補う観点から、アシルフォスフィンオキサイド系化合物と水素引き抜き型開始剤とを併用することがさらに好ましい。アシルフォスフィンオキサイド系化合物に対する水素引き抜き型開始剤の含有割合は、特に限定されるものではない。例えば表面硬化性を補う観点から、アシルフォスフィンオキサイド系化合物1質量部に対し、水素引き抜き型開始剤を0.1質量部以上含有するのが好ましく、内部硬化性を維持する観点から、5質量部以下の割合で含有するのが好ましい。
【0093】
また、光重合促進効果を有するものを単独または上記光重合開始剤と併用して用いることもできる。光重合促進効果を有するものとしては、例えば、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、安息香酸(2-ジメチルアミノ)エチル、4,4’-ジメチルアミノベンゾフェノン等を挙げることができる。
【0094】
前記重合開始剤は1種又は2種以上を混合して用いてもよい。重合開始剤の含有量は、ラジカル重合性を有する総含有量100質量部に対し0.5~40質量部であるのが好ましく、中でも1質量部以上或いは20質量部以下であるのがさらに好ましい。
【0095】
(本保護層の形成方法)
次に、本保護層の形成方法について説明する。
本保護層の形成方法は、特に限定されない。例えば、前記式(1’)で表される構造を有する化合物a、又は、前記式(2’)で表される構造を有する化合物b、必要に応じて前記金属酸化物粒子、必要に応じて前記重合開始剤、必要に応じて前記電荷輸送物質、さらに必要に応じてその他の物質を、溶媒に溶解した塗布液または分散媒に分散した塗布液(「本保護層形成用塗布液」と称する)を本感光層上に塗布し、硬化することにより本保護層を形成することができる。
【0096】
[保護層形成用塗布液に用いる溶媒]
本保護層形成用塗布液に用いる有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、2-メトキシエタノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン等のエーテル類;ギ酸メチル等のエステル類;アセトン等のケトン類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム等の塩素化炭化水素類;n-ブチルアミン等の含窒素化合物類;アセトニトリル等の非プロトン性極性溶剤類等を挙げることができる。これらの中から任意の組み合わせ及び任意の割合の混合溶媒を用いることもできる。また、単独では本電子写真感光体の保護層用の物質を溶解しない有機溶媒であっても、例えば、上記の有機溶媒との混合溶媒とすることで溶解可能であれば、使用することができる。一般に、混合溶媒を用いた方が塗布ムラを少なくすることができる。後述の塗布方法において浸漬塗布法を用いる場合、下層を溶解しない溶媒を選択することが好ましい。この観点から、感光層に好適に用いられるポリカーボネート、ポリアリレートへの溶解性が低い、アルコール類を含有させることが好ましい。
【0097】
本保護層形成用塗布液に用いる有機溶媒と、固形分の量比は、保護層形成用塗布液の塗布方法により異なり、適用する塗布方法において均一な塗膜が形成されるように適宜変更して用いればよい。
【0098】
[塗布方法]
本保護層を形成するための塗布液の塗布方法は特に限定されず、例えば、スプレー塗布法、スパイラル塗布法、リング塗布法、浸漬塗布法等を挙げることができる。
【0099】
上記塗布法により塗布膜を形成した後、塗膜を乾燥させる。この際、必要且つ充分な乾燥が得られれば、乾燥の温度、時間は問わない。ただし、感光層塗布後に風乾のみで保護層の塗布を行った場合は、後述する感光層の形成方法に記載の方法で充分な乾燥を行うことが好ましい。
【0100】
[本保護層の硬化方法]
本保護層は、本保護層形成用塗布液を塗布後、外部からエネルギーを与えて硬化させて形成することができる。このとき用いられる外部エネルギーとしては熱、光、放射線を挙げることができる。
【0101】
熱のエネルギーを加える方法としては、空気、窒素等の気体、蒸気、あるいは各種熱媒体、赤外線、電磁波を用いた加熱方法を挙げることができる。また、該加熱は、塗工表面側あるいは支持体側から行うことができる。加熱温度は100℃以上170℃以下が好ましい。
【0102】
光のエネルギーとしては、主に紫外光(UV)に発光波長をもつ高圧水銀灯や、メタルハライドランプ、無電極ランプバルブ、発光ダイオード等のUV照射光源を利用することができる。また、連鎖重合性化合物や光重合開始剤の吸収波長に合わせて可視光光源の選択も可能である。
光照射量は、硬化性の観点から、10J/cm2以上が好ましく、30J/cm2以上がさらに好ましく、100J/cm2以上が特に好ましい。また、電気特性の観点から、500J/cm2以下が好ましく、300J/cm2以下がさらに好ましく、200J/cm2以下が特に好ましい。
他方、放射線のエネルギーとしては、電子線(EB)を用いるものを挙げることができる。
【0103】
これらのエネルギーの中で、反応速度制御の容易さ、装置の簡便さ、ポッドライフの長さの観点から、光のエネルギーを用いたものが好ましい。
【0104】
該保護層を硬化した後、残留応力の緩和、残留ラジカルの緩和、電気特性改良の観点から、加熱工程を加えてもよい。加熱温度としては、好ましくは60℃以上、より好ましくは100℃以上であり、好ましくは200℃以下、より好ましくは150℃以下である。
【0105】
(層厚)
本保護層の厚さは、耐摩耗性の観点から、0.5μm以上であるのが好ましく、中でも1μm以上であるのがさらに好ましい。他方、電気特性の観点から、5μm以下であるのが好ましく、中でも3μm以下であるのがさらに好ましい。
また、同様の観点から、本保護層の厚さは、本感光層の厚さに対して1/50以上であるのが好ましく、中でも1/40以上であるのがより好ましく、その中でも1/30以上であるのがさらに好ましい。他方、1/5以下であるのが好ましく、中でも1/10以下であるのがより好ましく、その中でも1/20以下であるのがさらに好ましい。
【0106】
<本感光層>
本電子写真感光体における感光層(「本感光層」とも称する)は、少なくとも電荷発生物質(CGM)および電荷輸送物質を含有する層であればよい。
【0107】
本感光層は、同一層内に、電荷発生物質、電荷輸送物質をともに含有する単層型感光層であってもよいし、また、電荷発生層と電荷輸送層とに分離された積層型感光層であってもよい。
単層型感光層及び積層型感光層のいずれであっても、保護層と感光層との間に混合層が形成されると、当該混合層では電荷輸送物質の濃度が感光層に比べて低いため、電荷輸送能力が低下する、という機構は同じように発生する。そのため、単層型感光層及び積層型感光層のいずれであっても本発明の効果を享受することができる。ただし、一般的に、単層型感光層では、バインダー樹脂の他に、正孔輸送物質、電子輸送物質及び電荷発生物質を同一層内に有するため、低分子成分の割合が高くなり、積層型感光層に比べて、感光層のガラス転移点は低くなる。よって、保護層を形成する際の加熱乾燥や、硬化時に発生する熱によって感光層が軟化し易いため、単層型感光層の方が混合層をより形成し易いと考えられる。かかる観点からすると、単層型感光層の方が、積層型感光層に比べて、本発明の効果をより一層享受できると考えられる。
【0108】
<単層型感光層>
本感光層が単層型感光層の場合、少なくとも、電荷発生物質(CGM)、正孔輸送物質(HTM)及び電子輸送物質(ETM)と、バインダー樹脂とを同一層内に含有するのが好ましい。
【0109】
(電荷発生物質)
本感光層に用いる電荷発生物質としては、例えば、無機系光導電材料や有機顔料等の各種光導電材料が使用できる。中でも、特に有機顔料が好ましく、更に、フタロシアニン顔料、アゾ顔料がより好ましい。
【0110】
特に、電荷発生物質としてフタロシアニン顔料を用いる場合、具体的には、無金属フタロシアニン、銅、インジウム、ガリウム、錫、チタン、亜鉛、バナジウム、シリコン、ゲルマニウム等の金属、またはその酸化物、ハロゲン化物等の配位したフタロシアニン類等が使用される。3価以上の金属原子への配位子の例としては、酸素原子、塩素原子の他、ヒドロキシ基、アルコキシ基等を挙げることができる。中でも、特に感度の高いX型、τ型無金属フタロシアニン、A型、B型、D型等のチタニルフタロシアニン、バナジルフタロシアニン、クロロインジウムフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニン等が好適である。
【0111】
またアゾ顔料を使用する場合には、各種公知のビスアゾ顔料、トリスアゾ顔料が好適に用いられる。
【0112】
また、電荷発生物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。さらに、電荷発生物質を2種以上併用する場合、併用する電荷発生物質の混合方法としては、それぞれの電荷発生物質を後から混合して用いてもよいし、合成、顔料化、結晶化等の電荷発生物質の製造及び処理工程において混合して用いてもよい。
【0113】
電気特性の観点から、電荷発生物質の粒子径は小さいことが望ましい。具体的には、電荷発生物質の粒子径は1μm以下が好ましく、より好ましくは0.5μm以下である。下限は0.01μm以上である。ここで電荷発生物質の粒子径とは、感光層に含有された状態での粒子径を意味する。
【0114】
さらに、単層型感光層内の電荷発生物質の量は、感度の観点から、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。また、感度及び帯電性の観点から、50質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
【0115】
(電荷輸送物質)
電荷輸送物質は、主に正孔輸送能を有する正孔輸送物質と、主に電子輸送能を有する電子輸送物質に分類される。但し、本感光層が単層型感光層である場合は、少なくとも正孔輸送物質及び電子輸送物質を同一層内に含有するのが好ましい。
【0116】
[正孔輸送物質]
正孔輸送物質(HTM)は、公知の材料の中から選択して用いることができる。例えば、カルバゾール誘導体、インドール誘導体、イミダゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ベンゾフラン誘導体等の複素環化合物、アニリン誘導体、ヒドラゾン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、ブタジエン誘導体及びエナミン誘導体並びにこれらの化合物の複数種が結合したもの、及びこれらの化合物からなる基を主鎖若しくは側鎖に有する重合体等の電子供与性物質等を挙げることができる。
【0117】
これらの中でも、カルバゾール誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、ブタジエン誘導体及びエナミン誘導体並びにこれらの化合物の複数種が結合したものが好ましく、アリールアミン誘導体、エナミン誘導体がより好ましい。
【0118】
正孔輸送物質の分子量は、電気特性の観点から600以上が好ましく、650以上がより好ましく、700以上がさらに好ましく、740以上が特に好ましい。他方、合成の容易さ及び化合物の安定性の観点から1200以下が好ましく、1000以下がより好ましく、900以下がさらに好ましい。
【0119】
正孔輸送物質は、1種のみを単独で用いてもよく、また2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0120】
以下に好ましい正孔輸送物質の構造を例示する。
【0121】
【0122】
【0123】
【0124】
上記の正孔輸送物質の中でも、電気特性の点から、HTM31、HTM32、HTM33、HTM34、HTM35、HTM39、HTM40、HTM41、HTM42,HTM43、HTM48が好ましく、HTM39,HTM40,HTM41,HTM42,HTM43,HTM48がさらに好ましい。
【0125】
[電子輸送物質]
電子輸送物質(ETM)は、公知の材料の中から選択して用いることができる。例えば、2,4,7-トリニトロフルオレノン等の芳香族ニトロ化合物、テトラシアノキノジメタン等のシアノ化合物、ジフェノキノン等のキノン化合物等の電子吸引性物質や、公知の環状ケトン化合物やペリレン顔料(ペリレン誘導体)等を挙げることができる。これらの中でも、電気特性の観点から、キノン化合物、ペリレン顔料(ペリレン誘導体)が好ましく、キノン化合物がより好ましい。
前記キノン化合物の中でも、電気特性の観点から、ジフェノキノン又はジナフチルキノンが好ましい。その中でも、ジナフチルキノンがより好ましい。
【0126】
電子輸送物質の分子量は、電気特性の観点から400以上が好ましく、410以上がより好ましく、420以上がさらに好ましい。他方、1000以下が好ましく、800以下がより好ましく、600以下がさらに好ましい。
【0127】
電子輸送物質は、1種のみを単独で用いてもよく、また2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0128】
以下に好ましい電子輸送物質の構造を例示する。
【0129】
【0130】
上記の電子輸送物質の中でも、電気特性の点から、ET-2、ET-5が好ましく、ET-2がさらに好ましい。
【0131】
[正孔輸送物質と電子輸送物質の含有量]
単層型感光層中の正孔輸送物質の含有質量に対する電子輸送物質の含有質量の比率は、電子輸送性の観点から、0.3以上であるのが好ましく、中でも電気特性の観点から0.4以上がより好ましい。一方、正孔輸送性の観点から、1.0以下であるのが好ましく、中でも電子輸送物質の析出抑制の観点から0.9以下がより好ましく、その中でも接着性の観点から0.8以下がより好ましい。
【0132】
本電子写真感光体における正孔輸送物質の含有量は、正孔輸送性の観点から、次に説明するバインダー樹脂100質量部に対して50質量部以上であるのが好ましく、中でも80質量部以上であるのがより好ましく、その中でも90質量部以上であるのがさらに好ましい。他方、上限値に関しては、析出抑制の観点から、200質量部以下であるのがより好ましく、その中でも150質量部以下であるのがさらに好ましい。
【0133】
(バインダー樹脂)
次に、本感光層に用いるバインダー樹脂について説明する。
本感光層に用いるバインダー樹脂としては、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等のビニル重合体またはその共重合体;ビニルアルコール樹脂;ポリビニルブチラール樹脂;ポリビニルホルマール樹脂;部分変性ポリビニルアセタール樹脂;ポリアリレート樹脂;ポリアミド樹脂;ポリウレタン樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリエステル樹脂;ポリエステルカーボネート樹脂;ポリイミド樹脂;フェノキシ樹脂;エポキシ樹脂;シリコーン樹脂;及びこれらの部分的架橋硬化物を挙げることができる。また上記樹脂は珪素試薬等で修飾されていてもよい。またこれらは1種を単独で用いてもよく、また2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いることもできる。
【0134】
また、本感光層に用いるバインダー樹脂としては、界面重合で得られた1種、または2種類以上のポリマーを含有することが好ましい。
【0135】
上記界面重合により得られるバインダー樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂が好ましく、ポリカーボネート樹脂、またはポリアリレート樹脂がより好ましく、ポリカーボネート樹脂がさらに好ましい。また、特に芳香族ジオールを原料とするポリマーであることが好ましい。
【0136】
(その他の物質)
上記材料以外にも、本感光層中には、成膜性、可撓性、塗布性、耐汚染性、耐ガス性、耐光性等を向上させるために周知の酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、電子吸引性化合物、レベリング剤、可視光遮光剤等の添加物を含有させてもよい。また、本感光層には、必要に応じて増感剤、染料、顔料(但し、前記した電荷発生物質、正孔輸送物質、電子輸送物質であるものを除く)、界面活性剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。界面活性剤の例としては、シリコ-ンオイル、フッ素系化合物等を挙げることができる。本発明では、これらを適宜、1種単独で、または2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いることができる。
【0137】
また、感光層表面の摩擦抵抗を軽減する目的で、感光層にフッ素系樹脂、シリコーン樹脂等を含んでもよく、これらの樹脂からなる粒子や酸化アルミニウム等の無機化合物の粒子を含有させてもよい。
【0138】
(層厚)
本感光層が単層型感光層の場合、本感光層の厚さは、耐絶縁破壊性の観点から、20μm以上であるのが好ましく、中でも25μm以上であるのがさらに好ましい。他方、電気特性の観点から、50μm以下であるのが好ましく、中でも40μm以下であるのがさらに好ましい。
【0139】
<積層型感光層>
本電子写真感光体が積層型感光層である場合、例えば電荷発生物質(CGM)を含有する電荷発生層(CGL)上に、電子輸送物質(ETM)及び正孔輸送物質(HTM)を含有する電荷輸送層(CTL)を積層してなる構成を挙げることができる。この際、電荷発生層(CGL)及び電荷輸送層(CTL)以外の他の層を備えることも可能である。
【0140】
<電荷発生層(CGL)>
電荷発生層は、通常、電荷発生物質(CGM)とバインダー樹脂を含有する。
電荷発生物質(CGM)及びバインダー樹脂は、上記単層型感光層で説明したものと同様である。
【0141】
(その他の成分)
電荷発生層は、電荷発生物質及びバインダー樹脂のほかに、必要に応じて、他の成分を含有することができる。例えば成膜性、可撓性、塗布性、耐汚染性、耐ガス性、耐光性等を向上させる目的で、公知の酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、電子吸引性化合物、レベリング剤、可視光遮光剤、充填剤等の添加物を含有させてもよい。
【0142】
(配合比)
電荷発生層において、電荷発生物質の比率が高過ぎると、電荷発生物質の凝集等により塗布液の安定性が低下するおそれがある一方、電荷発生物質の比率が低過ぎると、感光体としての感度の低下を招くおそれがあるため、バインダー樹脂と電荷発生物質との配合比(質量)は、バインダー樹脂100質量部に対して、電荷発生物質を10質量部以上含有するのが好ましく、中でも30質量部以上含有するのがより好ましく、他方、1000質量部以下の割合で含有するのが好ましく、中でも500質量部以下の割合で含有するのがさらに好ましく、膜強度の観点からは、300質量部以下の割合で含有するのがより好ましく、200質量部以下の割合で含有するのがさらに好ましい。
【0143】
(層厚)
電荷発生層の厚さは、0.1μm以上であるのが好ましく、中でも0.15μm以上であるのがさらに好ましい。他方、10μm以下であるのが好ましく、中でも6μm以下であるのがさらに好ましい。
【0144】
<電荷輸送層(CTL)>
電荷輸送層(CTL)は、通常、正孔輸送物質(HTM)とバインダー樹脂とを含有し、さらに電子輸送物質(ETM)を含有していてもよい。
電子輸送物質(ETM)、正孔輸送物質(HTM)及びバインダー樹脂は、上記単層型感光層で説明したものと同様である。
【0145】
電荷輸送層(CTL)において、バインダー樹脂と前記正孔輸送物質(HTM)との配合割合は、バインダー樹脂100質量部に対して正孔輸送物質(HTM)を20質量部以上の割合で配合するのが好ましく、中でも、残留電位低減の観点から、30質量部以上の割合で配合することがより好ましく、更に繰り返し使用した際の安定性や電荷移動度の観点から、40質量部以上の割合で配合することがさらに好ましい。一方、感光層の熱安定性の観点からは、バインダー樹脂100質量部に対して正孔輸送物質(HTM)を200質量部以下の割合で配合することが好ましく、更に正孔輸送物質(HTM)とバインダー樹脂との相溶性の観点から、150質量部以下の割合で配合することがより好ましく、ガラス転移温度の観点から、120質量部以下の割合で配合することが特に好ましい。
【0146】
(その他の成分)
電荷輸送層は、電子輸送物質(ETM)及び正孔輸送物質(HTM)及びバインダー樹脂のほかに、必要に応じて他の成分を含有することができる。例えば成膜性、可撓性、塗布性、耐汚染性、耐ガス性、耐光性等を向上させる目的で、公知の酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、電子吸引性化合物、レベリング剤、可視光遮光剤、充填剤等の添加物を含有させてもよい。
【0147】
(層厚)
電荷輸送層の層厚は、特に制限するものではない。電気特性、画像安定性の観点、更には高解像度の観点から、5μm以上50μm以下であるのが好ましく、中でも10μm以上或いは35μm以下であるのがより好ましく、その中でも15μm以上或いは25μm以下であるのがさらに好ましい。
【0148】
<感光層の形成方法>
積層型及び単層型のいずれにおいても、上記各層は次のように形成することができる。
含有させる物質を溶剤に溶解又は分散させて得られた塗布液を、導電性支持体上に浸漬塗布、スプレー塗布、ノズル塗布、バーコート、ロールコート、ブレード塗布等の公知の方法により、各層ごとに順次、塗布及び乾燥工程を繰り返すことにより形成することができる。
但し、このような形成方法に限定するものではない。
【0149】
塗布液の作製に用いられる溶媒又は分散媒は、特に制限は無い。具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、2-メトキシエタノール等のアルコール類、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、1,1,1-トリクロロエタン、テトラクロロエタン、1,2-ジクロロプロパン、トリクロロエチレン等の塩素化炭化水素類等を挙げることができる。また、これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を任意の組み合わせ及び種類で併用してもよい。
【0150】
溶媒又は分散媒の使用量は特に制限されない。各層の目的や選択した溶媒及び分散媒の性質を考慮して、塗布液の固形分濃度や粘度等の物性が所望の範囲となるように適宜調整するのが好ましい。
塗布膜の乾燥は、室温における指触乾燥後、通常30℃以上、200℃以下の温度範囲で、1分から2時間の間、静止又は送風下で加熱乾燥させることが好ましい。また、加熱温度は一定であってもよく、乾燥時に温度を変更させながら加熱を行ってもよい。
【0151】
<本導電性支持体>
本電子写真感光体の導電性支持体(「本導電性支持体」とも称する)としては、その上に形成される層を支持し、導電性を示すものであれば、特に限定されない。
本導電性支持体としては、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、銅、ニッケル等の金属材料や金属、カーボン、酸化錫等の導電性粉体を共存させて導電性を付与した樹脂材料や、アルミニウム、ニッケル、ITO(酸化インジウム酸化錫合金)等の導電性材料をその表面に蒸着または塗布した樹脂、ガラス、紙等を主として使用することができる。
本導電性支持体の形態としては、ドラム状、シリンダー状、シート状、ベルト状等のものが用いられる。
本導電性支持体は、金属材料からなる導電性支持体の上に、導電性及び表面性等の制御のためや欠陥被覆のため、適当な抵抗値を持つ導電性材料を塗布したものでもよい。
【0152】
本導電性支持体としてアルミニウム合金等の金属材料を用いる場合、金属材料に陽極酸化被膜を施して用いてもよい。
【0153】
陽極酸化被膜の平均膜厚は、20μm以下であるのが好ましく、特に7μm以下であるのがさらに好ましい。
【0154】
金属材料に陽極酸化被膜を施す場合、封孔処理を行うことが好ましい。封孔処理は、公知の方法で行うことができる。
【0155】
本導電性支持体の表面は、平滑であってもよく、また特別な切削方法を用いたり、研磨処理を施したりすることにより、粗面化されていてもよい。また、支持体を構成する材料に適当な粒径の粒子を混合することによって、粗面化されたものであってもよい。
なお、本導電性支持体と感光層との間には、接着性及びブロッキング性等の改善のために、次に説明する下引き層を設けてもよい。
【0156】
<本下引き層>
本電子写真感光体は、本感光層と本導電性支持体との間に下引き層(「本下引き層」とも称する)を有していてもよい。
【0157】
本下引き層としては、例えば、樹脂、樹脂に有機顔料や金属酸化物等の粒子を分散したもの等を用いることができる。
下引き層に用いる有機顔料の例としては、フタロシアニン顔料、アゾ顔料、ペリレン顔料等を挙げることができる。中でも、フタロシアニン顔料、アゾ顔料、具体的には、前述した電荷発生物質として用いる場合のフタロシアニン顔料やアゾ顔料を挙げることができる。
【0158】
本下引き層に用いる金属酸化物粒子の例としては、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化鉄等の1種の金属元素を含む金属酸化物粒子、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等の複数の金属元素を含む金属酸化物粒子を挙げることができる。下引き層には、上記1種類の粒子のみを用いてもよく、複数の種類の粒子を任意の比率及び組み合わせで混合して用いてもよい。
【0159】
上記金属酸化物粒子の中でも、酸化チタンおよび酸化アルミニウムが好ましく、特に酸化チタンが好ましい。なお、酸化チタン粒子は、例えば、その表面が任意の無機物または有機物等によって処理されていてもよい。また酸化チタン粒子の結晶型としては、ルチル、アナターゼ、ブルッカイト、アモルファスのいずれも用いることができる。また複数の結晶状態のものが含まれていてもよい。
【0160】
本下引き層に用いられる金属酸化物粒子の粒径としては、特に限定されない。下引き層の特性、および下引き層を形成するための溶液の安定性の面から、平均一次粒径として10nm以上であることが好ましく、また100nm以下、より好ましくは50nm以下である。
【0161】
本下引き層に用いられるバインダー樹脂としては、例えば、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ブチラールの一部がホルマールや、アセタール等で変性された部分アセタール化ポリビニルブチラール樹脂等のポリビニルアセタール系樹脂;ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、スチレン-アルキッド樹脂、シリコーン-アルキッド樹脂、フェノール-ホルミアルデヒド樹脂等の絶縁性樹脂等の中から選択し、用いることができる。但し、これらポリマーに限定されるものではない。また、これらバインダー樹脂は単独で用いても、2種類以上を混合して用いてもよく、硬化剤とともに硬化した形でも使用してもよい。
中でも、ポリビニルアセタール系樹脂や、アルコール可溶性の共重合ポリアミド、変性ポリアミド等が良好な分散性及び塗布性を示すことから好ましい。その中でも、アルコール可溶性の共重合ポリアミドが特に好ましい。
【0162】
上記バインダー樹脂に対する粒子の混合比は、任意に選ぶことができる。10質量%から500質量%の範囲で使用することが、分散液の安定性及び塗布性の面で好ましい。
【0163】
本下引き層の膜厚は、任意に選ぶことができる。電子写真感光体の特性、および上記分散液の塗布性から0.1μm以上であるのが好ましく、20μm以下であるのがさらに好ましい。また下引き層には、公知の酸化防止剤等を含んでいてもよい。
【0164】
<その他の層>
また、本電子写真感光体は、上述した本導電性支持体、本感光層、本保護層及び本下引き層以外に、必要に応じて適宜他の層を有していてもよい。
【0165】
<本電子写真感光体の物性>
本電子写真感光体は、次のような物性を有することができる。
【0166】
(マルテンス硬度)
本電子写真感光体では、実用上十分な耐摩耗性を備える観点から、そのマルテンス硬度が355N/mm2以上であることが好ましく、中でも370N/mm2以上、その中でも400N/mm2以上であることがより好ましい。
本発明において、感光体のマルテンス硬度とは、感光体の表面側から測定したマルテンス硬度を意味する。
前記マルテンス硬度は、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0167】
(弾性変形率)
本電子写真感光体はまた、実用上十分な耐摩耗性を備える観点から、その弾性変形率は45%以上であることが好ましく、48%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。
本発明において、感光体の弾性変形率とは、感光体の表面側から測定した弾性変形率を意味する。
前記弾性変形率は、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0168】
<<本画像形成装置>>
本電子写真感光体を用いて画像形成装置(「本画像形成装置」)を構成することができる。
【0169】
図1に示すように、本画像形成装置は、本電子写真感光体1、帯電装置2、露光装置3及び現像装置4を備えて構成され、更に、必要に応じて転写装置5、クリーニング装置6及び定着装置7が設けられる。
本電子写真感光体1は、上述した本電子写真感光体であれば特に制限はない。
図1ではその一例として、円筒状の導電性支持体の表面に上述した感光層を形成したドラム状の感光体を示している。この本電子写真感光体1の外周面に沿って、帯電装置2、露光装置3、現像装置4、転写装置5及びクリーニング装置6がそれぞれ配置されている。
【0170】
帯電装置2としては、コロトロンやスコロトロン等の非接触のコロナ帯電装置、或いは電圧印加された帯電部材を感光体表面に接触させて帯電させる接触型帯電装置(直接型帯電装置)を挙げることができる。接触帯電装置の例としては、帯電ローラ、帯電ブラシ等を挙げることができる。なお、
図1では、帯電装置2の一例としてローラー型の帯電装置(帯電ローラ)を示している。
【0171】
露光装置3は、本電子写真感光体1に露光を行って本電子写真感光体1の感光面に静電潜像を形成することができるものであれば、その種類に特に制限はない。
また、感光体内部露光方式によって露光を行うようにしてもよい。露光を行う際の光は任意である。
【0172】
トナーTの種類は任意であり、粉状トナーのほか、懸濁重合法や乳化重合法等を用いた重合トナー等を用いることができる。
【0173】
現像装置4の構成も任意である。
図1に示した現像装置4は、トナーTを、規制部材(現像ブレード)45により薄層化するとともに、所定の極性に摩擦帯電させ、現像ローラ44に担持しながら搬送して、感光体1の表面に接触させる構成を備えている。但し、この構成に限定するものではない。
転写装置5は、その種類に特に制限はなく、コロナ転写、ローラー転写、ベルト転写等の静電転写法、圧力転写法、粘着転写法等、任意の方式を用いた装置を使用することができる。
【0174】
クリーニング装置6は、特に制限はない。例えばブラシクリーナー、ブレードクリーナー等、任意のクリーニング装置を用いることができる。感光体表面に残留するトナーが少ないか、ほとんど無い場合には、クリーニング装置6は無くても構わない。
定着装置7についても、その構成は任意である。
なお、画像形成装置は、上述した構成に加え、例えば除電工程を行うことができる構成としてもよい。
【0175】
また、画像形成装置は更に変形して構成してもよく、例えば、前露光工程、補助帯電工程等の工程を行うことができる構成としたり、オフセット印刷を行う構成としたり、更には複数種のトナーを用いたフルカラータンデム方式の構成としてもよい。
【0176】
<<本電子写真カートリッジ>>
本電子写真感光体1を、帯電装置2、露光装置3、現像装置4、転写装置5、クリーニング装置6及び定着装置7のうち1つ又は2つ以上と組み合わせて、一体型のカートリッジ(「本電子写真カートリッジ」と称する)として構成することができる。
【0177】
本電子写真カートリッジは、複写機やレーザービームプリンタ等の電子写真装置本体に対して着脱可能な構成とすることができる。その場合、例えば本電子写真感光体1やその他の部材が劣化した場合に、この電子写真感光体カートリッジを画像形成装置本体から取り外し、別の新しい電子写真感光体カートリッジを画像形成装置本体に装着することにより、画像形成装置の保守及び管理が容易となる。
【0178】
<<語句の説明>>
本発明において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
【実施例0179】
以下、実施例を示して本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。ただし、以下の実施例は本発明を詳細に説明するために示すものであり、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下に示した実施例に限定されるものではなく任意に変形して実施することができる。また、以下の実施例、及び比較例中の「部」の記載は、特に指定しない限り「質量部」を示す。
【0180】
[製造例1:反応物(M1)の製造]
200mL4つ口反応容器に、ジペンタエリトリトール(8.00g)、メタクリル酸(24.38g)、トルエン(24.00g)、ハイドロキノン(0.06g)、p-トルエンスルホン酸一水和物(1.35g)及び塩化銅(II)(0.05g)を仕込んだ。反応液中に圧空を50mL/分で吹き込み、昇温して還流状態とし、生成する水を留去しながら14時間反応させた後、60℃まで降温してトルエン30mLと水140mLを添加した。有機層を分離して、0.5規定水酸化ナトリウム水溶液で2回洗浄後、0.5規定塩酸水溶液で洗浄し、さらに5%食塩水で洗浄した。得られた有機層に活性白土(11g)を加えて撹拌し、活性白土を濾別後、4-メトキシフェノール(20mg)を添加し減圧濃縮することにより、下記式(C1)で表される化合物(分子量:662.73)を主成分とする反応物(M1)20.45gを白色結晶として得た。
当該反応物(M1)を液体クロマトグラフィー-質量分析法(LC/MS)で分析し、ピーク面積が最大である主成分が、m/z=663([M+H]+)のイオンピークを与えたことから、下記式(C1)であることを確認した。
当該反応物をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で分析したところ、数平均分子量(Mn)=756、重量平均分子量(Mw)=818、Mw/Mn=1.082であった。
【0181】
【0182】
[製造例2:反応物(M2)の製造]
製造例1で使用したジペンタエリトリトールの代わりに、ペンタエリトリトール(7.00g)を使用して、メタクリル酸(26.56g)、トルエン(21.00g)、ハイドロキノン(0.03g)、p-トルエンスルホン酸一水和物(0.83g)、塩化銅(II)(0.03g)を仕込んで9時間反応させた以外は製造例1と同様にして、下記式(C2)で表される化合物(分子量:408.45)を主成分とする反応物(M2)18.15gを白色結晶として得た。
当該反応物(M2)を液体クロマトグラフィー-質量分析法(LC/MS)で分析し、ピーク面積が最大である主成分が、m/z=409([M+H]+)のイオンピークを与えたことから、下記式(C2)であることを確認した。
当該反応物をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で分析したところ、数平均分子量(Mn)=508、重量平均分子量(Mw)=542、Mw/Mn=1.067であった。
【0183】
【0184】
[製造例3:反応物(M3)の製造]
製造例1の仕込み量を、ジペンタエリトリトール(5.30g)、メタクリル酸(17.94g)、トルエン(15.90g)、ハイドロキノン(0.04g)、p-トルエンスルホン酸一水和物(1.01g)、塩化銅(II)(0.04g)として、さらにε-カプロラクトン(7.85g)を仕込んで6時間反応させた以外は製造例1と同様にして、下記式(C3)で表される化合物(分子量:776.87)を主成分とする反応物(M3)17.92gを淡黄色オイルとして得た。
当該反応物(M3)を液体クロマトグラフィー-質量分析法(LC/MS)で分析し、ピーク面積が最大である主成分が、m/z=777([M+H]+)のイオンピークを与えたことから、下記式(C3)であることを確認した。
当該反応物をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で分析したところ、数平均分子量(Mn)=1111、重量平均分子量(Mw)=1247、Mw/Mn=1.123であった。
【0185】
【0186】
[製造例4:反応物(M4)の製造]
製造例3の仕込み量を、ジペンタエリトリトール(6.00g)、メタクリル酸(18.28g)、トルエン(18.00g)、ハイドロキノン(0.04g)、p-トルエンスルホン酸一水和物(1.02g)、塩化銅(II)(0.04g)、ε-カプロラクトン(5.93g)とした以外は製造例3と同様にして、前記式(C3)で表される化合物(分子量:776.87)を主成分とする反応物(M4)17.90gを淡黄色オイルとして得た。
当該反応物(M4)を液体クロマトグラフィー-質量分析法(LC/MS)で分析し、ピーク面積が最大である主成分が、m/z=777([M+H]+)のイオンピークを与えたことから、前記式(C3)であることを確認した。
当該反応物をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で分析したところ、数平均分子量(Mn)=995、重量平均分子量(Mw)=1108、Mw/Mn=1.113であった。
【0187】
[製造例5:反応物(M5)の製造]
製造例3の仕込み量を、ジペンタエリトリトール(7.00g)、メタクリル酸(21.33g)、トルエン(21.00g)、ハイドロキノン(0.05g)、p-トルエンスルホン酸一水和物(1.19g)、塩化銅(II)(0.04g)、ε-カプロラクトン(3.14g)とした以外は製造例3と同様にして、前記式(C3)で表される化合物(分子量:776.87)を含有する反応物(M5)18.00gを透明オイル中、一部白濁結晶の状態で得た。
当該反応物をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で分析したところ、数平均分子量(Mn)=856、重量平均分子量(Mw)=955、Mw/Mn=1.116であった。
【0188】
[製造例6:反応物(M6)の製造]
製造例3の仕込み量を、ジペンタエリトリトール(7.50g)、メタクリル酸(22.85g)、トルエン(22.50g)、ハイドロキノン(0.05g)、p-トルエンスルホン酸一水和物(1.27g)、塩化銅(II)(0.04g)、ε-カプロラクトン(1.68g)とした以外は製造例3と同様にして、前記式(C3)で表される化合物(分子量:776.87)を含有する反応物(M6)20.74gを白濁結晶として得た。
当該反応物をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で分析したところ、数平均分子量(Mn)=807、重量平均分子量(Mw)=884、Mw/Mn=1.095であった。
【0189】
[製造例7:反応物(M7)の製造]
製造例2の仕込み量を、ペンタエリトリトール(6.50g)、メタクリル酸(24.66g)、トルエン(19.50g)、ハイドロキノン(0.09g)、p-トルエンスルホン酸一水和物(2.06g)、塩化銅(II)(0.07g)として、さらにε-カプロラクトン(2.72g)を仕込んで6時間反応させた以外は製造例2と同様にして、前記式(C2)で表される化合物(分子量:408.45)及び下記式(C4)で表される化合物(分子量:522.59)を含有する反応物(M7)19.08gを淡黄濁結晶として得た。
当該反応物(M7)を液体クロマトグラフィー-質量分析法(LC/MS)で分析し、ピーク面積が最大である主成分が、m/z=409([M+H]+)のイオンピークを与えたことから、前記式(C2)であることを確認した。また、前記式(C2)ピークの次に面積が大きいピークが、m/z=523([M+H]+)のイオンピークを与えたことから、下記式(C4)であることを確認した。
当該反応物をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で分析したところ、数平均分子量(Mn)=551、重量平均分子量(Mw)=642、Mw/Mn=1.133であった。
【0190】
【0191】
[製造例8:反応物(M8)の製造]
製造例3の仕込み量を、ジペンタエリトリトール(7.50g)、メタクリル酸(22.85g)、トルエン(22.50g)、ハイドロキノン(0.05g)、p-トルエンスルホン酸一水和物(1.27g)、塩化銅(II)(0.04g)、ε-カプロラクトン(0.84g)とした以外は製造例3と同様にして、前記式(C3)で表される化合物(分子量:776.87)を含有する反応物(M8)18.96gを白濁結晶として得た。
当該反応物をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で分析したところ、数平均分子量(Mn)=779、重量平均分子量(Mw)=849、Mw/Mn=1.090であった。
【0192】
[製造例9:反応物(M9)の製造]
製造例2の仕込み量を、ペンタエリトリトール(6.50g)、メタクリル酸(24.66g)、トルエン(19.50g)、ハイドロキノン(0.09g)、p-トルエンスルホン酸一水和物(2.06g)、塩化銅(II)(0.07g)として、さらにε-カプロラクトン(1.36g)を仕込んで6時間反応させた以外は製造例2と同様にして、前記式(C4)で表される化合物(分子量:522.59)を含有する反応物(M9)17.58gを白濁結晶として得た。
当該反応物をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で分析したところ、数平均分子量(Mn)=520、重量平均分子量(Mw)=586、Mw/Mn=1.127であった。
【0193】
[製造例10:反応物(M10)の製造]
製造例3の仕込み量を、ジペンタエリトリトール(5.71g)、メタクリル酸(23.22g)、トルエン(20.19g)、ハイドロキノン(0.05g)、p-トルエンスルホン酸一水和物(1.29g)、塩化銅(II)(0.04g)、ε-カプロラクトン(3.42g)として、さらにペンタエリトリトール(1.02g)を仕込んだ以外は製造例3と同様にして、前記式(C3)で表される化合物(分子量:776.87)及び前記式(C4)で表される化合物(分子量:522.59)を含有する反応物(M10)18.26gを淡黄色オイル中、一部白濁結晶の状態で得た。
当該反応物をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で分析したところ、数平均分子量(Mn)=802、重量平均分子量(Mw)=914、Mw/Mn=1.139であった。
【0194】
[製造例11:反応物(M11)の製造]
製造例3の仕込み量を、ジペンタエリトリトール(6.16g)、メタクリル酸(25.04g)、トルエン(21.78g)、ハイドロキノン(0.06g)、p-トルエンスルホン酸一水和物(1.39g)、塩化銅(II)(0.05g)、ε-カプロラクトン(1.84g)として、さらにペンタエリトリトール(1.10g)を仕込んだ以外は製造例3と同様にして、前記式(C3)で表される化合物(分子量:776.87)及び前記式(C4)で表される化合物(分子量:522.59)を含有する反応物(M11)20.16gを淡黄色オイル中、一部白濁結晶の状態で得た。
当該反応物をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で分析したところ、数平均分子量(Mn)=738、重量平均分子量(Mw)=831、Mw/Mn=1.125であった。
【0195】
[製造例12:反応物(M12)の製造]
製造例3の仕込み量を、ジペンタエリトリトール(4.30g)、メタクリル酸(26.18g)、トルエン(19.80g)、ハイドロキノン(0.06g)、p-トルエンスルホン酸一水和物(1.45g)、塩化銅(II)(0.05g)、ε-カプロラクトン(1.93g)として、さらにペンタエリトリトール(2.30g)を仕込んだ以外は製造例3と同様にして、前記式(C3)で表される化合物(分子量:776.87)及び前記式(C4)で表される化合物(分子量:522.59)を含有する反応物(M12)16.04gを淡黄色オイルとして得た。
当該反応物をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で分析したところ、数平均分子量(Mn)=675、重量平均分子量(Mw)=769、Mw/Mn=1.140であった。
【0196】
[製造例13:反応物(M13)の製造]
製造例3の仕込み量を、ジペンタエリトリトール(4.67g)、メタクリル酸(28.45g)、トルエン(21.51g)、ハイドロキノン(0.07g)、p-トルエンスルホン酸一水和物(1.58g)、塩化銅(II)(0.05g)、ε-カプロラクトン(1.05g)として、さらにペンタエリトリトール(2.50g)を仕込んだ以外は製造例3と同様にして、前記式(C3)で表される化合物(分子量:776.87)及び前記式(C4)で表される化合物(分子量:522.59)を含有する反応物(M13)17.42gを淡黄色オイル中、一部白濁結晶の状態で得た。
当該反応物をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で分析したところ、数平均分子量(Mn)=635、重量平均分子量(Mw)=715、Mw/Mn=1.125であった。
【0197】
<結晶析出テスト>
製造例1~13で得られた反応物(M1)~(M13)について、結晶の析出しやすさを確認するために以下の方法で結晶析出テストを実施した。
メタノール/1-プロパノール/トルエン=7/1/2の混合溶媒1.60gに、反応物(M1)~(M13)をそれぞれ0.40g溶解して、各反応物の20wt%溶液を調製した。この溶液を膜厚75μmのPETフィルムにアルミを蒸着したシートの上にポリスポイトで1滴滴下して室温で風乾し、結晶が析出し始める時間を計測した。最大で10分間まで観察し、10分経過しても結晶が析出し始めない反応物は結晶性が低く析出しにくいと判断した。評価基準を以下に示す。本実施例では、「○」の場合を合格とし、「△」以下を不合格とした。
このテストで結晶が析出し始める時間が10分未満であると、保護層を形成した際に感光体表面上に結晶が析出して表面が平滑でなくなり荒れてしまうおそれがある。また、結晶が析出し始める時間が短いほど感光体表面上に結晶が析出する確率が高くなる。
【0198】
評価結果を表1に示す。なお、表1中、「DPE」はジペンタエリトリトール、「PE」はペンタエリトリトール、「CL」はε-カプロラクトンを表す。
○:結晶析出開始まで10分以上
△:結晶析出開始まで5分以上10分未満
×:結晶析出開始まで1分以上5分未満
××:結晶析出開始まで1分未満
【0199】
【0200】
(下引き層形成用塗布液P1の作製)
CuKα線を用いた粉末X線回折において、回折角2θ=27.3°±0.2°に明瞭なピークを示すD型チタニルフタロシアニン20部と、1,2-ジメトキシエタン280部を混合し、サンドグラインドミルで2時間粉砕して微粒化分散処理を行った。ここにさらにポリビニルブチラール(電気化学工業(株)製、商品名「デンカブチラール」#6000C)を2.5質量%含有する1,2-ジメトキシエタン溶液400部と、1,2-ジメトキシエタン170部とを加えて混合して下引き層形成用塗布液P1を作製した。
【0201】
(単層型感光層形成用塗布液Q1の作製)
CuKα線を用いた粉末X線回折において、回折角2θ=27.3°±0.2°に明瞭なピークを示すD型チタニルフタロシアニンを2.6部、下記構造のペリレン顔料1を1.3部、ポリビニルブチラール樹脂を0.5部、下記正孔輸送物質(HTM48、分子量748)を90部、下記電子輸送物質(ET-2、分子量424.2)を70部、ビフェニル構造を有するポリカーボネート樹脂を100部、レベリング剤としてシリコーンオイル(信越シリコーン社製:商品名KF-96)0.05部を、テトラヒドロフラン(以下適宜THFと略)とトルエン(以下適宜TLと略)の混合溶媒(THF80質量%、TL20質量%)793.35部に加えて混合し、固形分濃度25質量%の単層型感光層形成用塗布液Q1を作製した。
【0202】
【0203】
【0204】
【0205】
(保護層形成用塗布液S1の作製)
予めメタノール/1-プロパノール/トルエンの混合溶媒に溶解した、製造例1で得られた反応物(M1)と、光重合開始剤としてIrgacure OXE03(BASFジャパン株式会社製)と、酸化チタン粒子(平均一次粒径40nm、3.5質量%のメチルジメトキシシランで表面処理)分散スラリーとを混合して、反応物(M1)/酸化チタン粒子/Irgacure OXE03(質量比)=100/60/3であり、溶媒組成がメタノール/1-プロパノール/トルエン(質量比)=7/1/2である保護層形成用塗布液S1(固形分濃度27.0質量%)を得た。
【0206】
(保護層形成用塗布液S2~S13の作製)
前記反応物(M1)の代わりに、製造例2で得られた反応物(M2)~製造例13で得られた反応物(M13)を用いた以外、保護層形成用塗布液S1と同様にして、保護層形成用塗布液S2~S13(固形分濃度 27.0質量%)をそれぞれ得た。
【0207】
<単層型感光体の作製>
以下の手順により、単層型感光体を作製した。
【0208】
[比較例1]
表面が切削加工された30mmφ、長さ244mmのアルミニウム製シリンダーに下引き層形成用塗布液P1を浸漬塗布し、乾燥後の膜厚が0.4μmとなるように下引き層を設けた。下引き層上に単層型感光層形成用塗布液Q1を浸漬塗布し、125℃で24分間乾燥し、乾燥後の膜厚が32μmになるように単層型感光層を設けた。単層型感光層上に保護層形成用塗布液S1をリング塗布し、窒素雰囲気下で感光体を60rpmで回転させながら、365nmのLED光を1.3W/cm2の強度で2分間照射することにより、硬化後の膜厚が2μmになるように保護層を設け、感光体A1を作製した。
【0209】
[比較例2]
保護層形成用塗布液S1を保護層形成用塗布液S2に変更したこと以外、感光体A1と同様にして感光体A2を作製した。
【0210】
[比較例3]
保護層形成用塗布液S1を保護層形成用塗布液S3に変更したこと以外、感光体A1と同様にして感光体A3を作製した。
【0211】
[比較例4]
保護層形成用塗布液S1を保護層形成用塗布液S4に変更したこと以外、感光体A1と同様にして感光体A4を作製した。
【0212】
[比較例5]
保護層形成用塗布液S1を保護層形成用塗布液S5に変更したこと以外、感光体A1と同様にして感光体A5を作製した。
【0213】
[比較例6]
保護層形成用塗布液S1を保護層形成用塗布液S6に変更したこと以外、感光体A1と同様にして感光体A6を作製した。
【0214】
[比較例7]
保護層形成用塗布液S1を保護層形成用塗布液S7に変更したこと以外、感光体A1と同様にして感光体A7を作製した。
【0215】
[比較例8]
保護層形成用塗布液S1を保護層形成用塗布液S8に変更したこと以外、感光体A1と同様にして感光体A8を作製した。
【0216】
[比較例9]
保護層形成用塗布液S1を保護層形成用塗布液S9に変更したこと以外、感光体A1と同様にして感光体A9を作製した。
【0217】
[実施例1]
保護層形成用塗布液S1を保護層形成用塗布液S10に変更したこと以外、感光体A1と同様にして感光体A10を作製した。
【0218】
[実施例2]
保護層形成用塗布液S1を保護層形成用塗布液S11に変更したこと以外、感光体A1と同様にして感光体A11を作製した。
【0219】
[実施例3]
保護層形成用塗布液S1を保護層形成用塗布液S12に変更したこと以外、感光体A1と同様にして感光体A12を作製した。
【0220】
[実施例4]
保護層形成用塗布液S1を保護層形成用塗布液S13に変更したこと以外、感光体A1と同様にして感光体A13を作製した。
【0221】
<感光体外観の評価>
実施例及び比較例で得られた感光体A1~A13の表面状態を目視で観察した。評価基準を以下に示す。また、評価結果を表2に示す。本実施例では、「○」の場合を合格とし、「△」以下を不合格とした。
○:感光体表面全体が平滑である。
△:感光体表面の一部に凹凸やムラがある。
×:感光体表面全体がざらざらして凹凸がある。
【0222】
<像流れの評価>
実施例及び比較例で得られた感光体A3~A7、A10~A13を、電子写真方式のプリンターに装着し、温度32℃、相対湿度80%の環境下で印刷して、常温常湿下で画像を観察した。評価基準を以下に示す。また、評価結果を表2に示す。本実施例では、「○」の場合を合格とし、「△」以下を不合格とした。
なお、感光体A1,A2,A8,A9は感光体表面全体に凹凸が生じていたため、像流れの評価を行うことができなかった。
○:全く像流れ(画像ボケ)が見られない。
△:一部像流れ(画像ボケ)が見られる。
×:著しく像流れ(画像ボケ)が見られる。
【0223】
<マルテンス硬度及び弾性変形率測定>
実施例及び比較例で得られた感光体A5~A7、A10~A13について、温度25℃、相対湿度50%の環境下で、微小硬度計(Fischer社製:FISCHERSCOPE HM2000)を用いて、感光体の表面側から、下記測定条件で測定した。各サンプルのマルテンス硬度及び弾性変形率を表2に示す。
なお、感光体A1,A2,A8,A9は感光体表面全体がに凹凸が生じていたため、マルテンス硬度及び弾性変形率の測定を行うことができなかった。感光体A3,A4については、像流れの評価が悪かったため、マルテンス硬度及び弾性変形率の測定を行わなかった。
【0224】
(マルテンス硬度及び弾性変形率測定条件)
圧子:対面角136°のビッカース四角錐ダイヤモンド圧子
最大押し込み荷重:0.2mN
負荷所要時間:10秒
除荷所要時間:10秒
【0225】
マルテンス硬度は、下記式より求められる。
マルテンス硬度(N/mm2)=最大押し込み荷重/最大押し込み荷重時のくぼみ面積
【0226】
弾性変形率は下記式により定義される値であり、押し込みに要した全仕事量に対して、除荷の際に膜が弾性によって行う仕事の割合である。
弾性変形率(%)=(We/Wt)×100
上記式中、全仕事量Wt(nJ)は
図2中のA-B-D-Aで囲まれる面積を示し、弾性変形仕事量We(nJ)はC-B-D-Cで囲まれる面積を示す。弾性変形率が大きいほど、負荷に対する変形が残留しにくく、弾性変形率が100の場合には変形が残らないことを意味する。
本実施例では、マルテンス硬度は350N/mm
2以上を「合格」、弾性変形率は45%以上を「合格」とした。
【0227】
【0228】
<考察>
式(1’)で表される構造を有する化合物及び式(2’)で表される構造を有する化合物のどちらも含有しない反応物(M1)及び(M2)は、結晶析出テストで結晶が析出し始める時間が10分未満であった。これらの反応物を使用した比較例1、2の感光体A1、A2は、感光体表面に結晶が析出してしまい表面がざらざらとなり、感光体外観が不良であった。このような状態の感光体は保護層膜が乱れているため実使用することができない。
【0229】
式(1’)で表される構造を有する化合物又は式(2’)で表される構造を有する化合物のどちらか一方のみを含有する反応物(M3)~(M9)は、ε-カプロラクトンの仕込み量が少なくなるほど結晶が析出しやすくなった。
また、ε-カプロラクトンの仕込み量が同じもの同士で比べると、式(2’)で表される構造を有する化合物のみを含有する反応物(M6)及び(M8)は、式(1’)で表される構造を有する化合物のみを含有する反応物(M7)及び(M9)よりも結晶が析出しやすかった。
【0230】
反応物(M3)~(M9)を使用した比較例3~9の感光体A3~A9においても、感光体表面の結晶析出は反応物についてテストした場合と同じ傾向となった。式(2’)で表される構造を有する化合物のみを含有するもの同士(反応物(M5)、(M6)、(M8))で比べると、いずれも感光体表面の膜の一部にムラが見られ、ε-カプロラクトンの仕込み量が最も少ない反応物(M8)を使用した場合に感光体外観が最も悪くなった。
一方、像流れ(画像ボケ)については、式(2’)で表される構造を有する化合物のみを含有するもの同士(反応物(M3)、(M4)、(M5))の比較から、ε-カプロラクトンの仕込み量が多くなるほど悪くなることがわかった。
【0231】
式(1’)で表される構造を有する化合物及び式(2’)で表される構造を有する化合物のどちらも含有する反応物(M10)~(M13)は、結晶析出テストで10分経過しても結晶は析出しなかった。これらの反応物を使用した実施例1~4の感光体A10~A13は、感光体表面が平滑で、感光体外観が良好な状態であり、また像流れ(画像ボケ)も見られず良好であった。
式(1’)で表される構造を有する化合物及び式(2’)で表される構造を有する化合物のどちらも含有することにより、反応物としての結晶性が低下して結晶が析出しにくくなったと考えられる。また、比較例の場合と異なり、ε-カプロラクトンの仕込み量に関係なく、結晶は析出せず、感光体の表面状態が良好で、かつ像流れも良好な感光体が得られることがわかった。
【0232】
マルテンス硬度及び弾性変形率については、ε-カプロラクトンの仕込みモル比が同じ1である実施例1の感光体A10と比較例5の感光体A5を比較すると、式(1’)で表される構造を有する化合物及び式(2’)で表される構造を有する化合物のどちらも含有する反応物を用いた実施例1の感光体A10の方が、式(2’)で表される構造を有する化合物のみを含有する反応物を用いた比較例5の感光体A5よりも、マルテンス硬度及び弾性変形率が高かった。
また、実施例3の感光体A12と実施例4の感光体A13を比較すると、ε-カプロラクトンの仕込みモル比が0.25である実施例4の感光体A13の方が、マルテンス硬度及び弾性変形率が高くなった。
式(1’)で表される構造を有する化合物及び式(2’)で表される構造を有する化合物のどちらも含有する反応物(M10)~(M13)を使用すると、保護層の硬化時に異なる構造のものがランダムかつ複雑に組み合わさって重合体を形成することにより、感光体にした時のマルテンス硬度及び弾性変形率が高くなったものと考えられる。高いマルテンス硬度及び弾性変形率となることにより、機械的強度に優れ、感光体の耐刷性が上がることが期待できる。
【0233】
上記実施例及び比較例の結果、並びに、これまで本発明者が行ってきた試験の結果等から、保護層が前記式(1)及び(2)で表される構造を有する重合体を含有すれば、すなわち、前記式(1’)で表される構造を有する化合物及び前記式(2’)で表される構造を有する化合物を用いて保護層を形成すれば、感光体表面が平滑で外観が良好であり、像流れの発生を防ぐことができ、それでいてマルテンス硬度及び弾性変形率も高い感光体を得ることができる。
【0234】
前記式(1’)及び(2’)で表される構造を有する化合物は、保護層の硬化時に反応して分子末端の二重結合と反応可能な官能基とが結合して重合するため、式(1)と式(2)で表される構造を有する重合体がランダムに複雑に組み合わさった共重合体となる可能性が高いと予想される。
【0235】
前記化合物aと前記化合物bを併用することにより、異なる構造が入り組み、パッキングしにくくなることから、結晶析出が抑制されると考えられる。
また、前記式(1’)ではl、m、n、oが、前記式(2’)ではf、g、h、i、j、kが、それぞれ独立した整数であり、それぞれすべて同じ整数の場合を除いて、非対称な構造となる。この場合、前記式(1’)で表される構造を有する化合物a及び前記式(2’)で表される構造を有する化合物bは、それぞれの結晶性がさらに低く抑えられると考えられるため好ましい。
したがって、前記化合物a及び前記化合物bを使用して保護層を形成すると、感光体表面に結晶が析出することがなく、硬化後の感光体表面が平滑となり、像流れの発生も防ぐことができる。言い換えれば、保護層が、前記化合物a及び前記化合物bが重合した重合体を含有する感光体は、感光体表面に結晶が析出することがなく、硬化後の感光体表面が平滑となり、像流れの発生も防ぐことができる。さらに言い換えれば、保護層が、前記式(1)及び(2)で表される構造を有する重合体を含有する感光体は、感光体表面に結晶が析出することがなく、硬化後の感光体表面が平滑となり、像流れの発生も防ぐことができる。
よって、実施例1~4では、前記式(1’)及び(2’)中のRは、-O-(C=O)-(CH2)5-であるが、pの値が異なる場合や、前記式(1’)及び(2’)中のRが置換基を有してもよい炭素数1以上8以下のアルキレン基又は置換基を有してもよい炭素数1以上8以下のオキシアルキレン基である場合であっても、同様の効果を得ることができると考えられる。