(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169074
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】光学フィルム
(51)【国際特許分類】
C08L 69/00 20060101AFI20241128BHJP
C08L 33/06 20060101ALI20241128BHJP
C08G 63/672 20060101ALI20241128BHJP
C08F 20/12 20060101ALI20241128BHJP
C08F 220/12 20060101ALI20241128BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20241128BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20241128BHJP
H10K 50/86 20230101ALI20241128BHJP
H10K 59/10 20230101ALI20241128BHJP
【FI】
C08L69/00
C08L33/06
C08G63/672
C08F20/12
C08F220/12
C08J5/18 CFD
G02B5/30
H10K50/86
H10K59/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086263
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】並木 慎悟
【テーマコード(参考)】
2H149
3K107
4F071
4J002
4J029
4J100
【Fターム(参考)】
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4J100BC04P
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4J100JA32
(57)【要約】
【課題】ISB系ポリカーボネート樹脂とアクリル樹脂とを含む樹脂組成物からなる光学フィルムにおいて、低複屈折であると共に、耐熱性、透明性が良好である、光学フィルムを提供する。
【解決手段】
構造単位(1)を65重量%以上、90重量%以下含有するポリカーボネート樹脂と、構造単位(2)を50重量%以上、100重量%以下含有するアクリル樹脂とを含有する樹脂組成物を用いてなる光学フィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構造単位を65重量%以上、90重量%以下含有するポリカーボネート樹脂と、
下記式(2)で表される(メタ)アクリレート構造単位を50重量%以上、100重量%以下含有するアクリル樹脂とを含有する樹脂組成物を用いてなる光学フィルム。
【化1】
【化2】
(式(2)中、R
1は水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基である。R
2はシクロヘキサン構造を含有し、さらに置換基を有していてもよいアルキル基、シクロアルキル基である。)
【請求項2】
前記ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度が130℃以上、160℃以下である、請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
前記ポリカーボネート樹脂が脂肪族ジヒドロキシ化合物、または脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含有する、請求項1又は2に記載の光学フィルム。
【請求項4】
前記アクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)が10,000以上、500,000以下である、請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項5】
前記アクリル樹脂が下記式(3)で表されるアクリレート構造単位を0.1重量%以上、10重量%以下含有する、請求項1又は4に記載の光学フィルム。
【化3】
(式(3)中、R
3は水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基である。)
【請求項6】
前記ポリカーボネート樹脂を50重量%以上、99重量%以下、前記アクリル樹脂を1重量%以上、50重量%以下含有する、請求項1、2、または、4のいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項7】
請求項1、2、または、4に記載の光学フィルム、および、直線偏光子を備え、これらが積層されている、偏光板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルム、および、該光学フィルムを用いた偏光板に関する。
【背景技術】
【0002】
石油資源の枯渇や二酸化炭素排出量の増加による地球温暖化が危惧されていることから、植物由来モノマーを原料としたプラスチックの開発が求められている中で、植物由来原料であるイソソルビド(以下、「ISB」と称する場合がある。)を用いたポリカーボネート樹脂が開発され、自動車内外装部材やガラス代替用途、光学用途等に使用され始めている(例えば特許文献1、2参照)。
【0003】
液晶ディスプレイや有機ELディスプレイには偏光板が用いられており、一般に、偏光板はヨウ素を含有させたポリビニルアルコール系フィルムからなる直線偏光子に、接着剤又は粘着剤を介して偏光子保護フィルムを貼り合わせたものが用いられている。この偏光子保護フィルムに用いられる樹脂には、位相差が小さく、かつ耐熱性が高いことが求められ、アセチルセルロースやアクリル、シクロオレフィン等の樹脂が使用されている。特許文献3、4ではISB系ポリカーボネート樹脂とアクリル樹脂を混ぜ合わせることで低複屈折の樹脂組成物を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2004/111106号
【特許文献2】国際公開第2007/148604号
【特許文献3】特開2018-131587号公報
【特許文献4】特開2021-88651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献3、4ではISB系ポリカーボネート樹脂とアクリル樹脂との屈折率を一致させることで透明性の高い樹脂組成物を得ている。本発明者らの検討によると、特許文献3、4のアクリル樹脂はISB系ポリカーボネート樹脂とは非相溶であり、非相溶系のアロイでは、それを成形してなるフィルムに延伸や曲げなど大きな変形を加えた場合にフィルムに大きなヘーズが発生し、透明性を損なうことが判明した。光学用途に用いるにはこれは重欠点となる。また、特許文献3、4に報告されている材料では耐熱性も不十分である。
【0006】
上記実情に鑑みて、本発明の課題は、ISB系ポリカーボネート樹脂とアクリル樹脂とを含む樹脂組成物からなる光学フィルムにおいて、低複屈折であると共に、耐熱性、透明性が良好である、光学フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の構造を有するポリカーボネート樹脂と特定の構造を有するアクリル樹脂とを含有する樹脂組成物を用いてなるフィルムが、耐熱性と低複屈折の両特性を満足することを見出した。すなわち本発明の要旨は下記に存する。
【0008】
[1] 下記式(1)で表される構造単位を65重量%以上、90重量%以下含有するポリカーボネート樹脂と、
下記式(2)で表される(メタ)アクリレート構造単位を50重量%以上、100重量%以下含有するアクリル樹脂とを含有する樹脂組成物を用いてなる光学フィルム。
【0009】
【0010】
【0011】
(式(2)中、R1は水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基である。R2はシクロヘキサン構造を含有し、さらに置換基を有していてもよいアルキル基、シクロアルキル基である。)
【0012】
[2] 前記ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度が130℃以上、160℃以下である、[1]に記載の光学フィルム。
【0013】
[3] 前記ポリカーボネート樹脂が脂肪族ジヒドロキシ化合物、または脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含有する、[1]又は[2]に記載の光学フィルム。
【0014】
[4] 前記アクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)が10,000以上、500,000以下である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の光学フィルム。
【0015】
[5] 前記アクリル樹脂が下記式(3)で表されるアクリレート構造単位を0.1重量%以上、10重量%以下含有する、[1]~[4]のいずれか1つに記載の光学フィルム。
【0016】
【0017】
(式(3)中、R3は水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基である。)
【0018】
[6] 前記ポリカーボネート樹脂を50重量%以上、99重量%以下、前記アクリル樹脂を1重量%以上、50重量%以下含有する、[1]~[5]のいずれか一つに記載の光学フィルム。
【0019】
[7] [1]~[6]のいずれかに記載の光学フィルム、および、直線偏光子を備え、これらが積層されている、偏光板。
【発明の効果】
【0020】
所定の樹脂組成物を用いてなる、本発明の光学フィルムは、耐熱性と光学特性に優れており、また、延伸性等の機械特性にも優れているため、偏光板保護フィルムやディスプレイ前面保護フィルム等の用途に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
【0022】
本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0023】
本明細書において「繰り返し構造単位」とは、樹脂中で同じ構造が繰り返し現れる構造単位であって、それぞれが連結することで当該樹脂を構成するような構造単位を意味する。例えば、ポリカーボネート樹脂の場合、カルボニル基も含めて繰り返し構造単位と呼称する。また、「構造単位」とは、樹脂を構成する部分構造であって、繰り返し構造単位に含まれる特定の部分構造のことを意味する。例えば、樹脂中で隣り合う連結基に挟まれた部分構造や、重合体の末端部分に存在する重合反応性基と、該重合性反応基に隣り合う連結基とに挟まれた部分構造を言う。より具体的には、ポリカーボネート樹脂の場合、カルボニル基が連結基であって、隣り合うカルボニル基に挟まれた部分構造のことを構造単位と呼称する。
【0024】
[光学フィルム]
本発明の光学フィルムは、下記式(1)で表される構造単位を65重量%以上、90重量%以下含有するポリカーボネート樹脂と、下記式(2)で表される(メタ)アクリレート構造単位を50重量%以上、100重量%以下含有するアクリル樹脂とを含有する樹脂組成物を用いてなるフィルムである。つまり、以下において説明するように、該樹脂組成物を成形してなるフィルムである。以下、前記式(1)で表される構造単位を「構造単位(1)」、前記式(2)で表される(メタ)アクリレート構造単位を「構造単位(2)」と称する場合がある。尚、各種構造単位の重量比率は、例えば、1H-NMRを分析し、各構造単位に由来するピークの面積比と、各構造単位の分子量を計算に用いて求めることができる。
【0025】
【0026】
【化5】
(式(2)中、R
1は水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基である。R
2はシクロヘキサン構造を含有し、さらに置換基を有していてもよいアルキル基、シクロアルキル基である。)
【0027】
<ポリカーボネート樹脂>
本発明の光学フィルムを構成する樹脂組成物は、前記式(1)で表される構造単位を65重量%以上、90重量%以下含有するポリカーボネート樹脂を含有する。以下、このポリカーボネート樹脂を「本発明におけるポリカーボネート樹脂」と称する場合がある。
【0028】
(ジヒドロキシ化合物)
構造単位(1)を形成するジヒドロキシ化合物としては、立体異性体の関係にある、イソソルビド(ISB)、イソマンニド、イソイデットが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも植物由来の資源として豊富に存在し、容易に入手可能な種々のデンプンから製造されるソルビトールを脱水縮合して得られるイソソルビドが入手、及び製造のし易さ、得られる成形品の特性(例えば、耐熱性、耐衝撃性、表面硬度、カーボンニュートラル)の面から最も好ましい。
【0029】
ポリカーボネート樹脂中の構造単位(1)の含有量の下限は68重量%以上がより好ましく、70重量%以上がさらに好ましい。上限は85重量%以下がより好ましく、80重量%以下がさらに好ましい。後述する本発明におけるアクリル樹脂中の構造単位(2)が構造単位(1)と高い相溶性を有するため、前記範囲内であると透明性の高い樹脂組成物が得られる。また、構造単位(1)はガラス転移温度の高い構造でもあり、耐熱性の高い樹脂が得られる。尚、本明細書において、ポリカーボネート樹脂中の構造単位(1)の含有量とは、ポリカーボネート樹脂を構成する全ての構造単位、及び連結基の重量の合計量を100重量%とした際の、構造単位(1)の含有量(重量%)を意味する。ポリカーボネート樹脂中のその他の構造単位の含有量についても同様に定義される。
【0030】
本発明におけるポリカーボネート樹脂は構造単位(1)以外の構造単位を含有してもよい。以下、構造単位(1)以外の構造単位を「その他の構造単位」と称する場合がある。その他の構造単位を形成する化合物としては、脂肪族ジヒドロキシ化合物、脂環式ジヒドロキシ化合物、エーテル含有ジヒドロキシ化合物、アセタール含有ジヒドロキシ化合物、芳香族含有ジヒドロキシ化合物、ジエステル化合物が挙げられる。尚、ジエステル化合物に由来する構造単位を部分的に組み込んだポリカーボネート樹脂はポリエステルカーボネート樹脂と称される。本明細書において、ポリカーボネート樹脂とはポリエステルカーボネート樹脂を包含するものとする。
【0031】
脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、以下のジヒドロキシ化合物が挙げられる。エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ヘプタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール等の直鎖脂肪族ジヒドロキシ化合物;1,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキシレングリコール等の分岐鎖を有する脂肪族ジヒドロキシ化合物。
【0032】
脂環式ジヒドロキシ化合物としては、例えば、以下のジヒドロキシ化合物が挙げられる。1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、2,6-デカリンジメタノール、1,5-デカリンジメタノール、2,3-デカリンジメタノール、2,3-ノルボルナンジメタノール、2,5-ノルボルナンジメタノール、1,3-アダマンタンジメタノール、リモネン等のテルペン化合物から誘導されるジヒドロキシ化合物等に例示される、脂環式炭化水素の1級アルコールであるジヒドロキシ化合物;1,2-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,3-アダマンタンジオール、水添ビスフェノールA、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール等に例示される、脂環式炭化水素の2級アルコール、又は3級アルコールであるジヒドロキシ化合物。
【0033】
エーテル含有ジヒドロキシ化合物としては、オキシアルキレングリコール類やアセタール環を含有するジヒドロキシ化合物が挙げられる。オキシアルキレングリコール類としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等を用いることができる。
【0034】
アセタール含有ジヒドロキシ化合物としては、例えば、スピログリコール(別名:3,9-ビス(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)やジオキサングリコール(別名:2-(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-5-エチル-5-ヒドロキシメチルー1,3-ジオキサン)等を用いることができる。
【0035】
芳香族含有ジヒドロキシ化合物としては、例えば以下のジヒドロキシ化合物を用いることができる。2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジエチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-(3-フェニル)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-(3,5-ジフェニル)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-エチルヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、ビス(4-ヒドロキシ-3-ニトロフェニル)メタン、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,3-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン、1,3-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジスルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジクロロジフェニルエーテル等の芳香族ビスフェノール化合物;2,2-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン、1,3-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)スルホン等の芳香族基に結合したエーテル基を有するジヒドロキシ化合物;9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシプロポキシ)-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-イソブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-tert-ブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3,5-ジメチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-tert-ブチル-6-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(3-ヒドロキシ-2,2-ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレン等のフルオレン環を有するジヒドロキシ化合物。
【0036】
ジエステル化合物としては、例えば、以下に示すジカルボン酸等が挙げられる。テレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’-ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸。尚、これらのジカルボン酸成分はジカルボン酸そのものとしてポリエステルカーボネート樹脂の原料とすることができるが、製造方法に応じて、メチルエステル体、フェニルエステル体等のジカルボン酸エステルや、ジカルボン酸ハライド等のジカルボン酸誘導体を原料とすることもできる。
【0037】
上記その他の構造単位の中でも、脂肪族ジヒドロキシ化合物、又は脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含有することが、機械的特性や耐熱性の観点から好ましい。中でも1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノールがより好ましい。
【0038】
本発明におけるポリカーボネート樹脂におけるその他の構造単位の含有量の下限は1重量%以上が好ましく、3重量%以上がより好ましい。また、上限は30重量%以下が好ましく、25重量%以下がより好ましく、20重量%以下がさらに好ましい。前記範囲内であると、構造単位(1)が持つ優れた特性を大きく損なわずに、他の物性とのバランスを改善することができる。
【0039】
ビスフェノール化合物等の芳香族含有ジヒドロキシ化合物やジエステル化合物を共重合成分に用いることで、ポリカーボネート樹脂の耐熱性を向上させることができる場合があるが、一方で、ポリカーボネート樹脂に芳香族構造が多く含まれると耐候性が低下する傾向にある。また、ビスフェノール化合物やジエステル化合物と、構造単位(1)を形成するジヒドロキシ化合物の重合反応性には大きな差異があるため、ビスフェノール化合物やジエステル化合物が末端基に残存することで、高い分子量のポリカーボネート樹脂が得られ難くなり、耐衝撃性等の機械的特性が低下する傾向がある。反応を促進させようとして反応温度を高く上げると、構造単位(1)が熱分解し、得られるポリカーボネート樹脂が着色する傾向にある。これらの理由により、芳香族含有ジヒドロキシ化合物やジエステル化合物に由来する構造単位の含有割合は、10重量%以下が好ましく、5重量%以下がより好ましい。
【0040】
(連結基を導入するための化合物(炭酸ジエステル))
本発明におけるポリカーボネート樹脂に含有される連結基は、連結基を導入するための化合物(例えば、炭酸ジエステルやハロゲン化カルボニル)を重縮合反応に用いることで導入される。尚、炭酸ジエステルやハロゲン化カルボニルによってポリカーボネート樹脂に導入される連結基はカルボニル基である。
【0041】
後述する溶融重合法に用いることができる観点から、下記式(5)で表される炭酸ジエステルを用いることが好ましい。
【0042】
【0043】
(式(5)中、A1およびA2は、それぞれ置換基を有していてもよい炭素数1~18の脂肪族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基であり、A1とA2とは同一であっても異なっていてもよい。)
【0044】
A1およびA2は、置換又は無置換の芳香族炭化水素基であることが好ましく、無置換の芳香族炭化水素基がより好ましい。尚、脂肪族炭化水素基の置換基としては、エステル基、エーテル基、アミド基、ハロゲン原子が挙げられ、芳香族炭化水素基の置換基としては、メチル基、エチル基等のアルキル基が挙げられる。
【0045】
前記式(5)で表される炭酸ジエステルとしては、例えば、ジフェニルカーボネート(以下、DPCと略記することがある。)、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート及びジ-tert-ブチルカーボネート等のジアルキルカーボネートが例示されるが、反応性の観点から、好ましくはジフェニルカーボネート、置換ジフェニルカーボネートであり、特に好ましくはジフェニルカーボネートである。
【0046】
炭酸ジエステルは、塩化物イオン等の不純物を含む場合があり、これらの不純物が重合反応を阻害したり、得られる樹脂の色相を悪化させたりする場合があるため、必要に応じて、蒸留等により精製したものを使用することが好ましい。
【0047】
重縮合反応は、反応に用いる全ジヒドロキシ化合物と全連結基を導入するための化合物(例えば、炭酸ジエステル)のモル比率を厳密に調整することで、反応速度や得られる樹脂の分子量を制御できる。ポリカーボネートの場合、全ジヒドロキシ化合物に対する炭酸ジエステルのモル比率を、0.90~1.10に調整することが好ましく、0.96~1.05に調整することがより好ましく、0.98~1.03に調整することが特に好ましい。炭酸ジエステル以外の他の連結基を導入するための化合物を混合させて用いる場合は、炭酸ジエステルと他の連結基を導入するための化合物との合計量を全ジヒドロキシ化合物に対して前記のモル比率の範囲に調整する。モル比率が前記範囲内であると、所望とする分子量の樹脂を良好な反応速度で製造することができ、樹脂中の低分子量化合物の残存量も少なくできるため、色調や熱安定性、成形性に優れた樹脂を得ることができる。
【0048】
<本発明におけるポリカーボネート樹脂の製造方法>
本発明におけるポリカーボネート樹脂は一般に用いられる重合方法で製造することができる。例えば、ホスゲンやカルボン酸ハロゲン化物を用いた溶液重合法又は界面重合法や、溶媒を用いずに反応を行う溶融重合法を用いて製造することができる。これらの製造方法のうち、溶媒や毒性の高い化合物を使用しないことから環境負荷を低減することができ、また、生産性にも優れる溶融重合法によって製造することが好ましい。
【0049】
溶融重合法では、上述したジヒドロキシ化合物と連結基を導入するための化合物(例えば、炭酸ジエステル)とをエステル交換反応により重縮合させることで、ポリカーボネート樹脂を得る。より詳細には、エステル交換反応において副生するモノヒドロキシ化合物等を系外に除去することによって得ることができる。
【0050】
エステル交換反応は、エステル交換反応触媒(以下、エステル交換反応触媒を「重合触媒」と称する)の存在下で進行する。重合触媒の種類は、エステル交換反応の反応速度、及び得られるポリカーボネート樹脂の品質に非常に大きな影響を与え得る。
【0051】
重合触媒としては、得られるポリカーボネート樹脂の透明性、色調、耐熱性、耐候性、及び機械的特性を満足させ得るものであれば特に制限はない。重合触媒としては例えば、長周期型周期表における第I族、又は第II族(以下、単に「1族」、「2族」と表記する。)の金属化合物、並びに塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を使用することができ、中でも1族金属化合物及び/又は2族金属化合物が好ましい。
【0052】
1族金属化合物としては、例えば、以下の化合物が挙げられる。水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸セシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸セシウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素セシウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素カリウム、フェニル化ホウ素リチウム、フェニル化ホウ素セシウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸セシウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、リン酸水素2セシウム、フェニルリン酸2ナトリウム、フェニルリン酸2カリウム、フェニルリン酸2リチウム、フェニルリン酸2セシウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、セシウムのアルコレート、フェノレート、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2リチウム塩及び2セシウム塩等。1族金属化合物としては、重合活性と得られるポリカーボネート樹脂の色調の観点から、リチウム化合物が好ましい。
【0053】
2族金属化合物としては、例えば、以下の化合物が挙げられる。水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム及びステアリン酸ストロンチウム等。2族金属化合物としては、マグネシウム化合物、カルシウム化合物又はバリウム化合物が好ましく、重合活性と得られるポリカーボネート樹脂の色調の観点から、マグネシウム化合物及び/又はカルシウム化合物がより好ましく、カルシウム化合物がさらに好ましい。
【0054】
尚、前記の1族金属化合物及び/又は2族金属化合物と共に補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能であるが、1族金属化合物及び/又は2族金属化合物のみを使用することが好ましい。得られるポリカーボネート樹脂の色調の観点から、2族金属化合物のみを使用することがより好ましい。
【0055】
前記重合触媒の使用量は、反応に使用した全ジヒドロキシ化合物1mol当たり0.1μmol以上が好ましく、0.5μmol以上がより好ましく、1μmol以上がさらに好ましい。また、重合触媒の使用量は、反応に使用した全ジヒドロキシ化合物1mol当たり50μmol以下が好ましく、20μmol以下がより好ましく、10μmol以下がさらに好ましい。
【0056】
重合触媒の使用量を上述の範囲に調整することにより、重合速度を高めることができるため、重合温度を必ずしも高くすることなく、所望の分子量のポリカーボネート樹脂を得ることが可能になり、ポリカーボネート樹脂の色調の悪化を抑制することができる。また、未反応の原料が重合途中で揮発してジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルのモル比率が崩れてしまうことを防止することができるため、所望の分子量と共重合比率の樹脂をより確実に得ることができる。さらに、副反応の併発を抑制することができるため、ポリカーボネート樹脂の色調の悪化又は成形加工時の着色をより一層防止することができる。
【0057】
1族金属の中でもナトリウム、カリウム、セシウムがポリカーボネート樹脂の色調へ与える悪影響や、鉄がポリカーボネート樹脂の色調へ与える悪影響を考慮すると、ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウム、セシウム、及び鉄の合計含有量は、1重量ppm以下であることが好ましい。この場合には、ポリカーボネート樹脂の色調の悪化をより一層防止することができ、ポリカーボネート樹脂の色調をより一層良好なものにすることができる。同様の観点から、ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウム、セシウム、及び鉄の合計含有量は、0.5重量ppm以下であることがより好ましい。尚、これらの金属は使用する触媒からのみではなく、原料や反応装置から混入する場合がある。出所にかかわらず、ポリカーボネート樹脂中のこれらの金属の含有量は、ナトリウム、カリウム、セシウム及び鉄の合計の含有量として、上述の範囲にすることが好ましい。
【0058】
ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを重縮合させる方法は、上述の触媒存在下、複数の反応器を用いて多段階で実施される。反応の形式は、バッチ式、連続式、あるいはバッチ式と連続式の組み合わせの方法があるが、より少ない熱履歴でポリカーボネート樹脂が得られ、生産性にも優れている連続式を採用することが好ましい。
【0059】
重合速度の制御や得られるポリカーボネート樹脂の品質の観点からは、反応段階に応じてジャケット温度と内温、反応系内の圧力を適切に選択することが重要である。具体的には、重縮合反応の反応初期においては相対的に低温、低真空でプレポリマーを得、反応後期においては相対的に高温、高真空で所定の値まで分子量を上昇させることが好ましい。この場合には、未反応のモノマーの留出を抑制し、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのモル比率を所望の比率に調整し易くなる。その結果、重合速度の低下を抑制することができる。また、所望の分子量や末端基を持つポリマーをより確実に得ることが可能になる。
【0060】
重縮合反応の温度を調整することにより、生産性の向上や製品への熱履歴の増大の回避が可能になる。さらに、モノマーの揮散、及びポリカーボネート樹脂の分解や着色をより一層防止することが可能になる。具体的には、第1段目の反応における反応条件としては、以下の条件を採用することができる。即ち、重合反応器の内温の最高温度は、通常160~230℃、好ましくは170~220℃、より好ましくは180~210℃の範囲で設定する。また、重合反応器の圧力(以下、圧力とは絶対圧力を表す)は、通常1~110kPa、好ましくは5~50kPa、より好ましくは7~30kPaの範囲で設定する。また、反応時間は、通常0.1~10時間、好ましくは1~5時間の範囲で設定する。第1段目の反応は、発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ留去しながら実施されることが好ましい。
【0061】
第2段目以降は、反応系の圧力を第1段目の圧力から徐々に下げ、引き続き発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ除きながら、最終的には反応系の圧力(絶対圧力)を1kPa以下にすることが好ましい。また、重合反応器の内温の最高温度は、通常200~260℃、好ましくは210~240℃、より好ましくは215~230℃の範囲で設定する。また、反応時間は、通常0.1~10時間、好ましくは0.5~5時間、より好ましくは1~3時間の範囲で設定する。
【0062】
撹拌動力等を指標に用いて、所定の還元粘度(分子量)に到達したことを確認したら、反応器に窒素を導入して圧力を常圧に戻す、又は反応器から溶融樹脂を抜き出すことで重縮合反応を停止する。溶融状態の樹脂をダイスヘッドからストランドの形態で吐出し、冷却固化させ、回転式カッター等でペレット化される。必要に応じて、ペレット化する前に押出脱揮、押出混錬、押出濾過の工程を加えてもよい。この工程で添加剤を樹脂に混ぜ合わせたり、真空ベントで低分子量成分を脱揮したり、ポリマーフィルターを用いて異物を除去する。
【0063】
<本発明におけるポリカーボネート樹脂の特性>
(分子量)
本発明におけるポリカーボネート樹脂の分子量は、還元粘度や、1H-NMRにより測定される数平均分子量等で表すことができる。これらの測定方法により得られる値は数値が高いほど分子量が大きいことを示す。1H-NMRにより測定される数平均分子量は8,000以上、30,000以下が好ましい。下限は9,000以上がより好ましく、10,000以上がさらに好ましい。上限は25,000以下がより好ましく、20,000以下がさらに好ましい。また、本発明におけるポリカーボネート樹脂の還元粘度は0.3dL/g以上、1.0dL/g以下が好ましい。下限は0.35dL/g以上がより好ましく、0.38dL/g以上がさらに好ましい。上限は0.8dL/g以下がより好ましく、0.7dL/g以下がさらに好ましい。前記範囲内であると、十分な機械的強度が得られるとともに、溶融成形時の流動性も好ましい範囲に調整できる。尚、本明細書において、1H-NMRにより測定される数平均分子量は「1H-NMRにより測定される数平均分子量」と記載し、単に「数平均分子量(Mn)」、「数平均分子量」又は「Mn」と記載される場合には、後述するGPCにより測定される数平均分子量を指すものとする。
【0064】
(ガラス転移温度)
本発明におけるポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は130℃以上、160℃以下が好ましい。下限は135℃以上がより好ましく、140℃以上がさらに好ましい。上限は155℃以下がより好ましく、150℃以下がさらに好ましい。前記範囲内であると、十分な耐熱性と機械物性を有し、溶融加工性にも優れる。
【0065】
(溶融粘度)
本発明におけるポリカーボネート樹脂の溶融粘度は240℃において、1000Pa・s以上、5000Pa・s以下が好ましい。下限は1500Pa・s以上がより好ましく、2000Pa・s以上がさらに好ましい。上限は4000Pa・s以下がより好ましく、3000Pa・s以下がさらに好ましい。前記範囲内であると、十分な機械的強度が得られるとともに、溶融成形時における流動性も確保できる。さらにこの場合には、剪断発熱により樹脂温度が上昇することに起因する、着色や発泡をより一層防止することができる。尚、本明細書において溶融粘度とは、キャピラリーレオメーター(株式会社東洋精機製作所製)を用いて測定される、温度240℃、剪断速度91.2sec-1における溶融粘度をいう。溶融粘度の測定方法の詳細は後述する。
【0066】
<アクリル樹脂>
本発明の光学フィルムを構成する樹脂組成物は、構造単位(2)を50重量%以上、100重量%以下含有するアクリル樹脂を含有する。以下、このアクリル樹脂を「本発明におけるアクリル樹脂」と称する場合がある。尚、本明細書において、アクリル樹脂中の構造単位(2)の含有量とは、アクリル樹脂を構成する全ての構造単位の重量の合計量を100重量%とした際の、構造単位(2)それぞれの含有量(重量%)を意味する。アクリル樹脂中のその他の構造単位の含有量についても同様に定義される。
【0067】
本発明におけるアクリル樹脂は本発明におけるポリカーボネート樹脂との相溶性を有することが好ましく、その観点から、前記式(2)中、R1は水素原子、又はメチル基であることが好ましく、耐熱性がより高いメチル基がより好ましい。R2はシクロヘキサン構造を含有する構造であり、この構造が本発明におけるポリカーボネート樹脂との相溶性を高める。構造単位(2)を形成するビニル化合物としては、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメチルアクリレート、シクロヘキシルメチルメタクリレート、1-エチルシクロヘキシルアクリレート、1-エチルシクロヘキシルメタクリレート、2-シクロヘキシルプロピル-2-イルアクリレート、2-シクロヘキシルプロピル-2-イルメタクリレート、ヒドロキシシクロヘキシルアクリレート、ヒドロキシシクロヘキシルメタクリレート、シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート、シクロヘキサンジメタノールモノメタクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルアクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも調達性や、得られるアクリル樹脂の耐熱性や低複屈折等の物性の観点から、シクロヘキシルメタクリレート、ヒドロキシシクロヘキシルメタクリレート、シクロヘキサンモノメタクリレートを用いることがより好ましく、シクロヘキシルメタクリレートがさらに好ましい。
【0068】
本発明におけるアクリル樹脂中の構造単位(2)の含有量の下限は70重量%以上が好ましく、80重量%以上がより好ましく、85重量%以上が特に好ましい。上限は99重量%以下が好ましい。前記範囲内であると、本発明におけるポリカーボネート樹脂との相溶性が良好となり、耐熱性や光学特性にも優れる。
【0069】
本発明におけるアクリル樹脂は構造単位(2)以外の構造単位を含有することが好ましく、下記式(3)で表されるアクリレート構造単位を導入することがより好ましい。下記式(3)で表されるアクリレート構造単位を導入することにより、主鎖の熱分解を抑制し、アクリル樹脂の熱安定性を向上させることができる。
【0070】
【化7】
(式(3)中、R
3は水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基である。)
【0071】
構造単位(3)を形成するビニル化合物としては、上記定義を満たし、主鎖がアクリレート構造単位となる構造であれば特に制約はないが、所望の樹脂特性を変化させずに熱安定性を向上させる観点から、構造単位(3)を形成するビニル化合物としては、分子量が比較的に小さいものや構造単位(2)と似た構造が好ましく、メチルアクリレート、エチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレートを用いるのがより好ましい。構造単位(3)の含有量の下限は0.1重量%以上が好ましく、0.5重量%以上がより好ましい。上限は10重量%以下が好ましく、5重量%以下がより好ましい。前記範囲内であると、本発明におけるポリカーボネート樹脂との相溶性を損なわずに、溶融成形に用いるのに十分な熱安定性を付与することができる。
【0072】
本発明におけるアクリル樹脂はエーテル基やヒドロキシル基を含有する(メタ)アクリレート構造単位を含有すると、本発明におけるポリカーボネート樹脂との相溶性を向上することができる。エーテル基やヒドロキシル基を含有する(メタ)アクリレート構造単位を形成するビニル化合物としては、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、メトキシエチルアクリレート、メトキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシエトキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエトキシエチルメタクリレート、グリセリンモノアクリレート、グリセリンモノメタクリレート、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、ポリトリメチレングリコールモノアクリレート、ポリトリメチレングリコールモノメタクリレート、ポリカプロラクトン変性2-ヒドロキシエチルアクリレート、ポリカプロラクトン変性2-ヒドロキシエチルメタクリレート等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。各種物性をバランスさせる観点から、当該成分の含有量は1重量%以上、20重量%以下とすることが好ましい。
【0073】
本発明におけるアクリル樹脂はさらに別の構造単位を含有してもよく、その他の構造単位を形成するビニル化合物としては、アクリロニトリル、スチレン、α-メチルスチレン、ブタジエン、多官能(メタ)アクリレート等を用いることができる。これらを適宜組み合わせることで、アクリル樹脂の熱安定性を向上させたり、アクリル樹脂の屈折率を調整して、樹脂組成物の透明性を向上させること等ができる。ポリカーボネート樹脂との相溶性を確保する観点から、当該成分の含有量は比較的少量とすることが好ましく、0.1重量%以上、10重量%以下とすることが好ましい。下限は0.3重量%以上がより好ましく、0.5重量%以上がさらに好ましい。上限は7重量%以下がより好ましく、5重量%以下がさらに好ましい。
【0074】
<本発明におけるアクリル樹脂の特性>
(分子量、分子量分布)
本発明におけるアクリル樹脂の各種分子量は、後述するGPCにより測定することができる。本発明におけるアクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)は10,000以上、500,000以下であることが好ましい。重量平均分子量の下限は20,000以上がより好ましく、30,000以上がさらに好ましい。上限は400,000以下がより好ましく、300,000以下がさらに好ましい。前記範囲内であると、本発明におけるポリカーボネート樹脂との相溶性が良好となり、機械物性にも優れる。
【0075】
数平均分子量(Mn)は10,000以上、200,000以下が好ましい。分子量分布(Mw/Mn)は1.0以上、5.0以下が好ましい。アクリル樹脂の分子量は重合に用いるモノマーと、ラジカル重合開始剤や連鎖移動剤の量比によって調整することができる。
【0076】
(ガラス転移温度)
本発明におけるアクリル樹脂のガラス転移温度は30℃以上、120℃以下が好ましい。下限は40℃以上がより好ましく、50℃以上がさらに好ましい。上限は110℃以下がより好ましく、100℃以下がさらに好ましい。前記範囲内であると、アクリル樹脂が室温で固体となり取扱性に優れる。また、本発明におけるポリカーボネート樹脂と同等の温度で溶融加工することができる。
【0077】
<本発明におけるアクリル樹脂の製造方法>
本発明におけるアクリル樹脂の製造方法としては、例えば、塊状重合法、溶液重合法、及び懸濁重合法、乳化重合法等の水系分散重合法が挙げられる。これらの中で重合後の樹脂の回収工程の簡略化や、重合発熱の制御の観点から水系分散重合法が好ましく、懸濁重合法が特に好ましい。懸濁重合法では、重合後の樹脂は平均粒子径5μm~1mm程度の球状粒子として得られるため、押出や成形等の加工作業に用いる際の流動性が良好であり、また、粉塵飛散の懸念が少ないために取扱性に優れる。
【0078】
<樹脂組成物>
本発明の光学フィルムを構成する樹脂組成物は、本発明におけるポリカーボネート樹脂を50重量%以上、99重量%以下含有し、本発明におけるアクリル樹脂を1重量%以上、50重量%以下含有することが好ましい。本発明におけるポリカーボネート樹脂の含有量の下限は60重量%以上がより好ましく、70重量%以上がさらに好ましい。上限は95重量%以下がより好ましく、90重量%以下がさらに好ましい。本発明におけるアクリル樹脂の含有量の下限は5重量%以上がより好ましく、10重量%以上がさらに好ましい。上限は40重量%以下がより好ましく、30重量%以下がさらに好ましい。前記範囲内とすることで、耐熱性や低複屈折、機械物性等の種々の物性を高いレベルでバランスさせることができる。
【0079】
(添加剤)
本発明のフィルムを構成する樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂とアクリル樹脂以外にも、添加剤等の他の成分を含んでいてもよく、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、フィラー等の充填剤、中和剤、滑剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、分散剤、着色剤、難燃剤、帯電防止剤、導電性付与剤、架橋剤、架橋助剤、金属不活性化剤、分子量調整剤、防菌剤、防黴材、蛍光増白剤、有機拡散剤、無機拡散剤等を添加剤として用いることができる。
【0080】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば、芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリオレフィン、アモルファスポリオレフィン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)等の合成樹脂;アクリルゴム、ブタジエンゴム、シリコーンゴム等のエラストマー;ポリ乳酸、ポリブチレンスクシネート等の生分解性樹脂等の1種、又は2種以上の樹脂をさらに含有してもよい。
【0081】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明のフィルムを構成する樹脂組成物は、例えば、樹脂組成物を構成する上述の各成分を機械的に溶融混練する方法によって製造することができる。溶融混練機としては、単軸押出機、二軸押出機、ブラベンダー、バンバリーミキサー、ニーダーブレンダー、ロールミル等を用いることができる。混練に際しては、各成分を一括して混練してもよく、また、任意の成分を混練した後、他の残りの成分を添加して混練する多段分割混練法を用いてもよい。中でも真空ベントを備えた二軸押出機を用いて、各成分を連続的に投入し、連続的に樹脂組成物を取得する方法が生産性や品質均一性の観点で好ましい。混練温度の下限は、通常150℃以上、好ましくは180℃以上、より好ましくは200℃以上である。混練温度の上限は、通常280℃以下、好ましくは260℃以下、より好ましくは250℃以下、さらに好ましくは240℃以下である。この範囲であると、混練機による加熱や剪断発熱による熱劣化を抑制しつつ、生産性(混練の処理速度)も高められる。
【0082】
<樹脂組成物の特性>
(透明性)
本発明のフィルムを構成する樹脂組成物は、後述する方法で測定されるヘーズの値が7%以下であることが好ましく、6%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましい。前記範囲内であると、高い透明性が求められる用途に適用することができる。
【0083】
(耐熱性)
本発明のフィルムを構成する樹脂組成物は、後述する方法にて測定されるガラス転移温度が130℃以上、160℃以下が好ましい。下限は135℃以上がより好ましく、140℃以上がさらに好ましい。上限は155℃以下がより好ましく、150℃以下がさらに好ましい。前記範囲内であると、実用的な耐熱性を備えつつ、延伸性等の機械的特性や溶融加工性等にも優れる。
【0084】
<成形品>
本発明のフィルムを構成する樹脂組成物は、例えば、射出成形(インサート成形法、二色成形法、サンドイッチ成形法、ガスインジェクション成形法等)、押出成形法、インフレーション成形法、Tダイフィルム成形法、ラミネート成形法、ブロー成形法、中空成形法、圧縮成形法、カレンダー成形法等の成形法により種々の成形品に加工することができる。成形品の形状には特に制限はなく、シート、フィルム、板状、粒子状、塊状体、繊維、棒状、多孔体、発泡体等が挙げられる。
【0085】
(用途)
成形品の用途は特に限定されないが、本発明の光学フィルムを構成する樹脂組成物は、光学特性や耐熱性、成形性に優れ、高い透明性を兼ね備えているため、光学フィルムや光ディスク、光学プリズム、レンズ等の光学用途に適しており、特に偏光板保護フィルムやディスプレイ前面保護フィルム等、低複屈折が求められる用途に好適に用いられる。
【0086】
[本発明の光学フィルムの製造方法]
上記した樹脂組成物を用いて未延伸フィルムを製膜する方法としては、樹脂組成物を溶媒に溶解させてキャストした後、溶媒を除去する流延法や、溶媒を用いずに前記樹脂を溶融させて製膜する溶融製膜法を採用することができる。溶融製膜法としては、具体的にはTダイを用いた溶融押出法、カレンダー成形法、熱プレス法、共押出法、共溶融法、多層押出、インフレーション成形法等がある。未延伸フィルムの製膜方法は特に限定されないが、流延法では残存溶媒による問題が生じるおそれがあるため、好ましくは溶融製膜法、中でも後の延伸処理のし易さから、Tダイを用いた溶融押出法が好ましい。
【0087】
溶融製膜法により未延伸フィルムを成形する場合、成形温度を270℃以下とすることが好ましく、265℃以下とすることがより好ましく、260℃以下とすることが特に好ましい。成形温度が高過ぎると、得られるフィルム中の異物や気泡の発生による欠陥が増加したり、フィルムが着色したりする可能性がある。ただし、成形温度が低すぎると樹脂組成物の溶融粘度が高くなりすぎ、成形が困難となり、厚みの均一な未延伸フィルムを製造することが困難になる可能性があるので、成形温度の下限は通常200℃以上、好ましくは210℃以上、より好ましくは220℃以上である。ここで、未延伸フィルムの成形温度とは、溶融製膜法における成形時の温度であって、通常、溶融樹脂を押し出すダイス出口の温度を測定した値である。
【0088】
フィルム中に異物が存在すると、偏光板として用いられた場合に光抜け等の欠点として認識される。樹脂組成物中の異物を除去するために、前記の押出機の後にポリマーフィルターを取り付け、樹脂組成物を濾過した後に、ダイスから押し出してフィルムを成形する方法が好ましい。その際、押出機やポリマーフィルター、ダイスを配管でつなぎ、溶融した樹脂組成物を移送する必要があるが、配管内での熱劣化を極力抑制するため、滞留時間が最短になるように各設備を配置することが重要である。また、押出後のフィルムの搬送や巻き取りの工程はクリーンルーム内で行い、フィルムに異物が付着しないように最善の注意が求められる。
【0089】
延伸前のフィルム原反(未延伸フィルム)の厚みは、延伸後のフィルムの膜厚の設計や、延伸倍率等の延伸条件に合わせて決められるが、厚すぎると厚み斑が生じやすく、薄すぎると延伸時の破断を招く可能性があるため、通常30μm以上、好ましくは40μm以上、さらに好ましくは50μm以上であり、また、通常200μm以下、好ましくは160μm以下、さらに好ましくは120μm以下である。
【0090】
未延伸フィルムの長手方向の長さは500m以上であることが好ましく、さらに1000m以上が好ましく、特に1500m以上が好ましい。生産性や品質の観点から、本発明の光学フィルムを製造する際は、連続で延伸を行うことが好ましいが、通常、延伸開始時に所定の位相差に合わせ込むために条件調整が必要であり、フィルムの長さが短すぎると条件調整後に取得できる製品の量が減ってしまう。
【0091】
前記未延伸フィルムを延伸することにより、面積を広げ、膜厚ムラを小さくすることができる。または延伸によってポリマー鎖を配向させることにより、所定の位相差を持たせることで光学フィルムを得ることができる。延伸方法としては縦一軸延伸、テンター等を用いる横一軸延伸、あるいはそれらを組み合わせた同時二軸延伸、逐次二軸延伸等、公知の方法を用いることができる。本発明のフィルムを構成する樹脂組成物は低複屈折の特性を持っていることから、未延伸フィルムを製品として使用したり、同時二軸延伸により面内位相差を発現しないようにする延伸方法を用いることが好ましい。延伸はバッチ式で行ってもよいが、連続式の方が生産性や得られる延伸フィルムの品質の観点で好ましい。
【0092】
延伸温度は、原料として用いる樹脂のガラス転移温度(Tg)に対して、(Tg-20℃)~(Tg+30℃)の範囲が好ましい。延伸温度の下限は(Tg-10℃)以上がより好ましく、(Tg-5℃)以上がさらに好ましい。上限は(Tg+25℃)以下がより好ましく、(Tg+20℃)以下がさらに好ましい。延伸倍率は目的とする位相差値により決められるが、縦、横それぞれ、1.2倍~4倍、より好ましくは1.5倍~3.5倍、さらに好ましくは2倍~3倍である。延伸倍率が小さすぎると生産性が悪く、一方、延伸倍率が大きすぎると、延伸中にフィルムが破断したり、しわが発生するおそれがある。本発明の光学フィルムを延伸して用いる場合は、後述する方法で延伸した場合の最大延伸倍率が2.7倍以上であると、延伸工程が安定するため好ましい。
【0093】
延伸速度も目的に応じて適宜選択されるが、下記数式で表される歪み速度で通常30%/分~2000%/分、好ましくは50%/分~1000%/分、より好ましくは70%/分~500%/分、特に好ましくは100%/分~400%/分となるように選択することができる。延伸速度が過度に大きいと延伸時の破断を招いたり、高温条件下での長期使用による光学的特性の変動が大きくなったりする可能性がある。また、延伸速度が過度に小さいと生産性が低下するだけでなく、延伸中にポリマー分子鎖の配向緩和が生じ、所望の配向性を得られなくなるおそれがある。
歪み速度(%/分)={延伸速度(mm/分)/原反フィルムの長さ(mm)}×100
【0094】
未延伸フィルムを延伸した後、必要に応じて加熱炉により熱固定処理を行ってもよいし、テンターの幅を制御したり、ロール周速を調整したりして、緩和工程を行ってもよい。熱固定処理の温度としては、未延伸フィルムに用いられる樹脂のガラス転移温度(Tg)に対し、60℃~(Tg)、好ましくは70℃~(Tg-5℃)の範囲で行う。熱処理温度が高すぎると、所望の位相差から大きく低下したり、しわが発生したりする可能性がある。また、緩和工程を設ける場合は、延伸によって広がったフィルムの幅に対して、95%~100%に収縮させることで、フィルムに生じた応力を取り除くことができる。この際にフィルムにかける処理温度は、熱固定処理温度と同様である。前記のような熱固定処理や緩和工程を行うことで、複屈折をさらに低下させたり、高温条件下での長期使用による光学特性の変動を抑制することができる。
【0095】
用途によって求められる厚みは異なるが、本発明の光学フィルムは靭性に優れることから、特に薄くすることが求められる用途において優位性があるため、未延伸フィルム、延伸フィルムともに最終的に製品となるフィルムの厚みは50μm以下であることが好ましい。45μm以下がより好ましく、40μm以下がさらに好ましい。一方、厚みが過度に薄いと、フィルムの取り扱いが困難になり、製造中にしわが発生したり、破断が起こったりするため、本発明の光学フィルムの厚みの下限としては、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上である。
【0096】
本発明の光学フィルムは、低複屈折が求められる用途に適しており、後述する方法にて測定される波長590nmにおける面内の複屈折(Δn)が0.010以下であることが好ましい。0.009以下がより好ましく、0.008以下がさらに好ましい。前記範囲内であると、応力や変形に対して複屈折が発現しにくい特性を有していることになり、フィルム製造においても低複屈折のフィルムを安定的に製造することができる。
【0097】
本発明の光学フィルムは、後述する方法にて測定される光弾性係数の絶対値が14×10-12Pa-1以下であることが好ましく、13×10-12Pa-1以下であることがさらに好ましい。光弾性係数が過度に大きいと、本発明のフィルムを画像表示装置に組み込んだ際に、画面の周囲が白くぼやけるような画像品質の低下が起きる可能性がある。特に大型の表示装置や、折り曲げ可能(ベンダブル、ローラブル、フォルダブル)の表示装置に用いられる場合にはこの問題が顕著に現れる。
【0098】
[偏光板]
本発明の光学フィルムは、公知の直線偏光子と積層貼合することで偏光板となる。前記直線偏光子としては、幅方向または長手方向のいずれかに吸収軸を有する偏光フィルムや液晶化合物を採用することができる。偏光フィルムとしては具体的には、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて一軸延伸したフィルム、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等ポリエン系配向フィルム等が挙げられる。これらの中でも、ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素などの二色性物質を吸着させて一軸延伸した長尺偏光フィルムが、偏光二色比が高く特に好ましい。
【0099】
本発明の光学フィルムと前記偏光フィルムとは、粘接着剤を介して積層されていてもよい。粘接着剤としては、前記積層フィルム(偏光板)の光学特性を損なわないものであれば、公知の粘接着剤を使用することができる。
【0100】
前記偏光板は、前述のごとく、十分な耐熱性と光学特性を備えると共に、精密性・薄型・均質性を求められる機器に好適に用いることができるよう構成されている。そのため、前記偏光板は、例えば液晶ディスプレイに用いる液晶パネルや、有機ELディスプレイに用いられる有機ELパネルなどに好適に用いることができる。
【実施例0101】
以下、本発明について実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。
【0102】
[測定方法]
各種物性の測定は、下記の方法に従って行った。
【0103】
<ポリカーボネート樹脂の測定>
(還元粘度)
ポリカーボネート樹脂試料を塩化メチレンに溶解させ、0.6g/dLの濃度の樹脂溶液を調製した。ウベローデ型粘度管(森友理化工業社製)を用いて、20.0℃±0.1℃の温度で、溶媒の通過時間t0及び溶液の通過時間tを測定した。得られたt0及びtの値を用いて次式(i)により相対粘度ηrelを求め、更に、得られた相対粘度ηrelと濃度c[g/dL]を用いて次式(ii)により還元粘度ηsp/cを求めた。この値が高いほど分子量が大きい。
ηrel=t/t0 (i)
ηsp/c=(ηrel-1)/c (ii)
【0104】
(1H-NMRにより測定される数平均分子量)
ポリカーボネート樹脂試料約15mgを秤取し、重クロロホルム約0.7mLに溶解し、これを内径5mmのNMR用チューブに入れ、1H-NMRスペクトルを測定した。ポリカーボネート樹脂の各繰り返し構造単位に基づくシグナルと、各種末端基のシグナルの強度比より、1H-NMRにより測定される数平均分子量を計算した。用いた装置や条件は次のとおりである。
・装置:JNM-ECZ400S(日本電子株式会社製)
・測定温度:30℃
・緩和時間:6秒
・積算回数:64回
【0105】
例えば、ISB(イソソルビド)とCHDM(1,4-シクロヘキサンジメタノール)の共重合ポリカーボネート樹脂の1H-NMRの解析は、以下のとおり行う。尚、ISB二重結合末端とCHDM二重結合末端とは、重合反応中に熱分解反応によって生成する末端基構造である。
【0106】
(積分値を算出する範囲)
(a):5.6-4.4ppm:全ISB繰り返し構造単位由来(プロトン数:4、分子量:172.14)
(b):2.2-0.5ppm:全CHDM繰り返し構造単位由来(プロトン数:10、分子量:170.21)
(c):4.4ppm:ISBのヒドロキシ末端基由来(プロトン数:1)
(d):3.6-3.5ppm:ISBヒドロキシ末端基由来(プロトン数:1)とCHDMヒドロキシ末端基由来(プロトン数:2)
(e):3.5-3.4ppm:CHDMヒドロキシ末端基由来(プロトン数:2)とISB二重結合末端基由来(プロトン数:1)
(f):2.6ppm:ISBヒドロキシ末端基由来(プロトン数:1)
(g):6.7-6.5ppm:ISB二重結合末端基由来(プロトン数:1)
(h):2.3ppm:CHDM二重結合末端基由来(プロトン数:2)
(i):7.4ppm:DPC(ジフェニルカーボネート)末端基由来(プロトン数:2、分子量:93.10)
【0107】
(各構造のモル数に相当する値の計算)
・全ISB繰り返し構造単位(a´):(a)積分値/4
・全CHDM繰り返し構造単位(b´):(b)積分値/10
・ISBヒドロキシ末端基(c´):(c)積分値+(f)積分値
・CHDMヒドロキシ末端基(d´):{(d)積分値-(f)積分値}/2+{(e)積分値-(g)積分値}/2
・ISB二重結合末端基(e´):(g)積分値
・CHDM二重結合末端基(f´):(h)積分値/2
・DPC末端基(i´):(i)積分値/2
【0108】
(1H-NMRにより測定される数平均分子量の計算)
(a´×172.14+b´×170.21+i´×93.10)/{(c´+d´+e´+f´+i´)/2}
【0109】
(溶融粘度)
ポリカーボネート樹脂試料を90℃で5時間以上、真空乾燥した。次いで、キャピラリーレオメーター(株式会社東洋精機製作所製)を用いて溶融粘度を測定した。測定温度は240℃とし、剪断速度は6.08~1824sec-1の範囲とした。剪断速度91.2sec-1における値を測定対象の樹脂の溶融粘度として用いた。オリフィスは1mmφ×10mmLを用いた。
【0110】
(ガラス転移温度)
ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量計DSC6220(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製)を用いて測定した。約10mgの樹脂を同社製アルミパンに入れて密封し、50mL/分の窒素気流下、200℃から測定を開始し、0℃まで20℃/分の速度で冷却した。0℃で3分保持し、再び200℃まで20℃/分の速度で昇温した。昇温時のDSCデータより、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線の勾配が最大になる点で引いた接線との交点の温度である、補外ガラス転移開始温度を求め、それをガラス転移温度とした。
【0111】
<アクリル樹脂の測定>
(GPC)
アクリル樹脂の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、及び分子量分布(Mw/Mn)はゲル浸透クロマトグラフィー法(GPC)を用いて測定した。テトラヒドロフラン10mLに樹脂試料約10mgを溶解させ、0.45μmフィルターで濾過した溶液をGPC測定用のサンプルとした。ゲル浸透クロマトグラフィー測定装置HLC-8320(東ソー株式会社製)に、高分子測定ガードカラムTSK-GUARD COLUMN SUPER H-H(東ソー株式会社製)と2本の高分子測定カラムTSK-GEL SUPER HM-H(東ソー株式会社製)を直列に接続して使用した。検出器には示差屈折計(RI)を用いた。分離カラム温度:40℃、移動層:テトラヒドロフラン、移動層の流量:0.6mL/分、サンプル注入量:10μLの条件で測定を行った。ピーク分子量1,560~19,500,000の分子量既知のポリメチルメタクリレート(Polymer Laboratories社製)を標準ポリマーとして検量線を作成し、Mn、Mw及びMw/Mnを求めた。
【0112】
(ガラス転移温度)
アクリル樹脂のガラス転移温度は、上記ポリカーボネート樹脂における方法と同様に測定した。
【0113】
<樹脂組成物の測定>
(ガラス転移温度)
樹脂組成物のガラス転移温度は、上記ポリカーボネート樹脂における方法と同様に測定した。
【0114】
(ヘーズ)
真空乾燥器で90℃、5時間以上乾燥をした樹脂試料約4gを、縦7cm、横7cm、厚さ0.5mmの金型を用い、試料の上下にポリイミドフィルムを敷いて、温度210~230℃で約3分間予熱し、圧力10MPaで約3分間加圧後、金型ごと取り出し、冷却してシートを作製した。JIS K7136に準拠し、ヘーズメーターNDH4000(日本電色工業株式会社製)を使用し、D65光源にて、シート成形品のヘーズを測定した。
【0115】
<未延伸フィルムの測定>
(未延伸フィルムの成形)
100℃の熱風乾燥器で6時間以上、乾燥をした樹脂試料約4gを、縦14cm、横14cm、厚さ0.1mmの金型を用い、試料の上下にポリイミドフィルムを敷いて、温度210~230℃で3分間予熱し、圧力10MPaで5分間加圧後、金型ごと取り出し、冷却して未延伸フィルムを作製した。
【0116】
(光弾性係数)
He-Neレーザー、偏光子、補償板、検光子、光検出器からなる複屈折測定装置と振動型粘弾性測定装置(レオロジー社製DVE-3)を組み合わせた装置を用いて測定した(詳細は、日本レオロジー学会誌Vol.19,p93-97(1991)を参照。)。前述の方法により作製した未延伸フィルムから、幅5mm、長さ20mmの試料を切り出し、粘弾性測定装置に固定し、25℃の室温で貯蔵弾性率E’を周波数96Hzにて測定した。同時に、出射されたレーザー光を偏光子、試料、補償板、検光子の順に通し、光検出器(フォトダイオード)で拾い、ロックインアンプを通して角周波数ω又は2ωの波形について、その振幅とひずみに対する位相差を求め、ひずみ光学係数O’を求めた。このとき、偏光子と検光子の吸収軸の方向は直交し、またそれぞれ、試料の伸長方向に対してπ/4の角度をなすように調整した。光弾性係数Cは、貯蔵弾性率E’とひずみ光学係数O’を用いて次式より求めた。
C=O’/E’
光弾性係数の値が小さいほど、フィルムに応力が掛かった時に複屈折を発現しにくくなり、そのフィルムを組み込んだデバイスの品質信頼性が高まることになる。
【0117】
(延伸性(最大延伸倍率))
前述の方法で作製した未延伸フィルムから、縦70mm、横100mmのフィルム片を切り出し、バッチ式二軸延伸装置(アイランド工業社製BIX-277-AL)を用いて、自由端一軸延伸を行い、延伸フィルムを得た。延伸条件としては、オーブンの設定温度を樹脂のガラス転移温度+20℃、延伸速度を250%/分とし、延伸倍率2倍とした。この条件で延伸成功した場合は、延伸倍率を2.1倍、2.2倍、と徐々に上げていき、破断する延伸倍率に到達するまで延伸を繰り返し行った。破断した延伸倍率の一つ前の延伸倍率を最大延伸倍率とした。この倍率が大きいほど延伸性に優れている。
【0118】
<延伸フィルムの測定>
(位相差、複屈折(Δn))
上記の方法で延伸を行った中で、2.6倍の延伸倍率の条件で得られた延伸フィルムの中央部を幅4cm、長さ4cmに切り出し、位相差測定装置(王子計測機器社製KOBRA-WPR)を用いて位相差を測定し、590nmの位相差(R590)と位相差フィルムの厚みを用い、次式より複屈折(Δn)を求めた。
複屈折(Δn)=R590[nm]/(フィルム厚み[mm]×106)
低複屈折が求められる用途においては、この複屈折の値が小さいほど好ましい。
【0119】
[使用原料]
以下の実施例と製造例で用いた化合物の略号、及び製造元は次のとおりである。
【0120】
・ISB:イソソルビド(ロケットフルーレ社製)
・CHDM:1,4-シクロヘキサンジメタノール(SK Chemical社製)
・DPC:ジフェニルカーボネート(三菱ケミカル株式会社製)
・ホスホン酸(東京化成工業株式会社製)
・Irganox1010:ペンタエリスリトール-テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](BASF社製)
・CHMA:シクロヘキシルメタクリレート(三菱ケミカル株式会社製)
・HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート(三菱ケミカル株式会社製)
・MA:メチルアクリレート(三菱ケミカル株式会社製)
・AMBN:2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(富士フイルム和光純薬株式会社製)、製品名V59
・硫酸ナトリウム(東京化成工業株式会社製)
・1-オクタンチオール(東京化成工業株式会社製)
・分散剤
【0121】
国際公開第2022/114157号に記載された方法でポリマー分8重量%の分散剤水溶液を調製し、懸濁重合の分散剤として用いた。
【0122】
<製造例1・参考例1>PC-1
竪型攪拌反応器3器と横型攪拌反応器1器、並びに二軸押出機からなる連続重合設備を用いて、ポリカーボネート樹脂の重合を行った。ISBとCHDM、DPCをそれぞれタンクで溶融させ、ISB 38.3kg/hr、CHDM 4.2kg/hr、DPC 62.9kg/hr(モル比でISB/CHDM/DPC=0.900/0.100/1.010)の流量で第1竪型攪拌反応器に連続的に供給した。同時に、重合触媒である酢酸カルシウム1水和物の水溶液を、全ジヒドロキシ化合物1molに対して酢酸カルシウム1水和物が1.5μmolとなる添加量にて第1竪型攪拌反応器に供給した。各反応器の内温、内圧、滞留時間は、それぞれ、第1竪型攪拌反応器:190℃、25kPa、120分、第2竪型攪拌反応器:195℃、10kPa、90分、第3竪型攪拌反応器:205℃、4kPa、45分、第4横型攪拌反応器:230℃、0.1~1.0kPa、120分とした。得られるポリカーボネート樹脂の還元粘度が0.45dL/gとなるように、第4横型攪拌反応器の内圧を微調整しながら運転を行った。第4横型攪拌反応器から抜き出したポリカーボネート樹脂を、溶融状態のままベント式二軸押出機TEX30α(株式会社日本製鋼所製)に供給した。押出機は3つの真空ベント口を有しており、ここで樹脂中の残存低分子量成分を脱揮除去するとともに、第1ベントの手前で触媒失活剤としてホスホン酸を、ポリカーボネート樹脂に対して0.64重量ppm添加し、第3ベントの手前でIrganox1010をポリカーボネート樹脂に対して1000重量ppm添加した。押出機を通過したポリカーボネート樹脂を引き続き溶融状態のまま、目開き10μmのウルチプリーツ・キャンドルフィルター(PALL社製)に通して、異物を濾過した。その後、ダイスからストランド状にポリカーボネート樹脂を押出し、水冷、固化させた後、回転式カッターで切断することによりペレット化した。このようにして得られたポリカーボネート樹脂を「PC-1」と表記する。このポリカーボネート樹脂の分析結果を参考例1として表1に示す。
【0123】
<製造例2・参考例2>PC-2
原料の仕込みをISB 29.8kg/hr、CHDM 12.6kg/hr、DPC 62.9kg/hr(モル比でISB/CHDM/DPC=0.700/0.300/1.008)の流量とした以外は製造例1と同様に行った。このポリカーボネート樹脂の分析結果を参考例2として表1に示す。
【0124】
【0125】
<製造例3・参考例3>Acryl-1
撹拌機、冷却管及び温度計を備えた重合装置中に、脱イオン水450部、硫酸ナトリウム0.1部、分散剤水溶液1部を入れて撹拌して、均一な水溶液とした。次に、CHMA 198部、MA 2部、1-オクタンチオール0.1部、重合開始剤としてAMBN 0.2部を加え、撹拌して水性分散液とした。次いで、重合装置内を十分に窒素置換し、水性分散液を75℃に昇温して3時間保持した後、90℃に昇温して1時間保持した。その後、反応液を40℃に冷却して、アクリル樹脂の水性懸濁液を得た。この水性懸濁液を濾過布で濾過し、濾過物を脱イオン水で洗浄し、熱風乾燥器で60℃、10時間乾燥して、アクリル樹脂(Acryl-1)を得た。このアクリル樹脂の分析結果を参考例3として表2に示す。
【0126】
<製造例4・参考例4>Acryl-2
CHMA 178部、HEMA 20部、MA 2部とした以外は製造例3と同様に行い、アクリル樹脂(Acryl-2)を得た。このアクリル樹脂の分析結果を参考例4として表2に示す。
【0127】
<参考例5>Acryl-3
アクリペットVH001(三菱ケミカル株式会社製)を用いた。このアクリル樹脂の分析結果を参考例5として表2に示す。
【0128】
【0129】
<実施例1>
PC-1 90重量部、Acryl-1 10重量部をブレンドし、真空乾燥器で90℃、5時間以上乾燥した後、混練装置ラボプラストミル(株式会社東洋精機製作所製)を使用して、温度220℃、スクリュー回転数100rpmの条件にて3分間、溶融混練し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物について、前述の各種評価を行った。結果を表3に示す。
【0130】
<実施例2~3、比較例1~4。
表3に示した配合にした以外は実施例1と同様に行い、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物について、前述の各種評価を行った。結果を表3に示す。尚、比較例3については成形品のヘーズが大きかったために、Δnと光弾性係数を測定することができなかった。
【0131】
【0132】
上記の結果から、本発明の光学フィルムは透明性に優れるとともに、ガラス転移温度、複屈折、延伸性にも優れることが分かった(実施例1~3)。これに対して、比較例の光学フィルムは、ヘーズ、ガラス転移温度、複屈折、光弾性係数の1つ以上が好適な範囲から外れており、実施例と比べて性能が劣っている(比較例1~4)。