(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169092
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】熱処理装置及び熱処理装置のメンテナンス方法、並びにランプスリーブの再生方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/26 20060101AFI20241128BHJP
【FI】
H01L21/26 T
H01L21/26 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086285
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】312007423
【氏名又は名称】グローバルウェーハズ・ジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】須藤 治生
(72)【発明者】
【氏名】青木 竜彦
(72)【発明者】
【氏名】加藤 学
(57)【要約】
【課題】ランプスリーブ内壁に堆積している粒状のSiOxを除去するべきタイミングを容易に得て、生産効率の低下を防止し、また、熱処理にかかる消費電力の上昇を抑制する。
【解決手段】半導体基板Wを加熱する複数のランプ30と、前記複数のランプの各々を包囲するように着脱可能に配置され、前記複数のランプの照射光を反射するランプスリーブ33と、前記複数のランプにランプ電圧を印加する電源60と、前記半導体基板の温度を検出する温度検出部50と、前記複数のランプに印加するランプ電圧又はランプ電流を制御するコントローラ70と、前記ランプスリーブのクリーニングのタイミングを表示または音声により警告する警告部80と、を備え、前記コントローラは、前記複数のランプに印加されるランプ電圧又はランプ電流が所定の閾値を越えた場合に、前記警告部により警告させる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板を加熱する複数のランプと、
前記複数のランプの各々を包囲するように着脱可能に配置され、前記複数のランプの照射光を反射するランプスリーブと、
前記複数のランプにランプ電圧を印加する電源と、
前記半導体基板の温度を検出する温度検出部と、
前記複数のランプに印加するランプ電圧又はランプ電流を制御するコントローラと、
前記ランプスリーブのクリーニングのタイミングを表示または音声により警告する警告部と、を備え、
前記コントローラは、前記温度検出部により検出された前記半導体基板の温度に基づき、前記複数のランプに印加するランプ電圧又はランプ電流を制御し、前記複数のランプに印加されるランプ電圧又はランプ電流が所定の閾値を越えた場合に、前記警告部により警告させることを特徴とする熱処理装置。
【請求項2】
前記コントローラは、前記複数のランプに印加されるランプ電圧又はランプ電流が所定の閾値を越えた場合に、前記複数のランプへのランプ電圧またはランプ電流の印加を停止し、
該当する前記ランプのランプスリーブが取り外され、再度、前記ランプスリーブの取り付けがなされることにより、前記コントローラは、前記該当するランプへのランプ電圧またはランプ電流の印加を可能とすることを特徴とする請求項1に記載の熱処理装置。
【請求項3】
請求項1に記載された熱処理装置のメンテナンス方法であって、
前記コントローラにより、
前記複数のランプに印加するランプ電圧又はランプ電流を制御し、前記複数のランプにより半導体基板を加熱するステップと、
前記温度検出部により前記半導体基板の温度を検出し、前記半導体基板の温度に基づき、前記複数のランプに印加するランプ電圧を制御するステップと、
前記複数のランプに印加されるランプ電圧又はランプ電流が所定の閾値を越えた場合に、前記複数のランプの各々を包囲するように配置され、前記複数のランプの照射光を反射するランプスリーブに対するクリーニングのタイミングを、前記警告部により表示または音声を用いて警告させるステップと、を有することを特徴とする熱処理装置のメンテナンス方法。
【請求項4】
前記警告部により表示または音声を用いて警告させるステップの後、
該当する前記ランプのランプスリーブを取り外して、前記ランプスリーブに対し酸性水溶液を用いて洗浄するステップと、
洗浄された前記ランプスリーブを取り付けるステップと、を有することを特徴とする請求項3に記載の熱処理装置のメンテナンス方法。
【請求項5】
請求項3に記載の熱処理装置のメンテナンス方法を用いるランプスリーブの再生方法であって、
前記コントローラにより、前記複数のランプの照射光を反射するランプスリーブに対するクリーニングのタイミングを、前記警告部により表示または音声を用いて警告させるステップの後、
前記ランプスリーブに対し酸性水溶液を用いて洗浄するステップを有することを特徴とするランプスリーブの再生方法。
【請求項6】
前記ランプスリーブに対し酸性水溶液を用いて洗浄するステップにおいて、
前記ランプスリーブを、1%以上5%以下の濃度のHF水溶液に1min以上100min以下浸漬して洗浄することを特徴とする請求項5に記載のランプスリーブの再生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理装置及び熱処理装置のメンテナンス方法、並びにランプスリーブの再生方法に関し、特に、ランプの熱エネルギーにより半導体基板を熱処理する熱処理装置及び熱処理装置のメンテナンス方法、並びにランプスリーブの再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、半導体デバイスの基板に用いられるシリコンウェーハは、半導体デバイスの活性領域となる表面および表層において、COP(Crystal Originated Particle)と呼ばれるボイド欠陥が存在しない無欠陥層を形成することが求められる。このような要求に対する技術として、急速昇降温熱処理(RTP;Rapid Thermal Process)を施す技術が知られている。
【0003】
RTPを行う熱処理装置(以下、RTP装置と呼ぶ)は、1200℃を超える温度までシリコンウェーハを急速昇温するために、発熱源であるランプから照射される光(以下、「照射光」とも呼ぶ)を効率良くシリコンウェーハに吸収させ、エネルギー損失が極力少なくなるように装置構成が工夫されている。
【0004】
例えば、特許文献1(特開2017-11282号公報)には、加熱ランプからの照射光の反射率を高くする(処理される基板へのエネルギー効率を高める)目的で、ランプの周囲を覆う反射皮膜に銀を含むランプスリーブが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、RTP装置において、繰り返し熱処理を行っていくと、チャンバー内の温度を1200℃以上の所定の温度にするためにランプに印加する電圧(以下、「ランプ電圧」とも呼ぶ)を徐々に大きくする必要があるという現象が生じていた。それに伴い、RTP(熱処理)にかかる消費電力が徐々に大きくなるという課題があった。
シリコンウェーハの温度が上昇し難くなるのは、運転回数に比例して、ランプからの照射光が次第にシリコンウェーハへ届き難くなり、エネルギー損失が大きくなるためと考えられる。
【0007】
このような課題を解決するため、本願発明者は、シリコンウェーハの最高到達温度が1200℃を超える温度でRTP装置の連続運転を行い、ランプ出力の経時変化をもたらす原因を特定するため鋭意研究を重ねた。その結果、加熱ランプを包含するように配置されるランプスリーブの内壁が曇ることで反射率が低下することが主原因であることを知見した。
【0008】
さらに、この曇りの原因を調査した結果、曇りは粒状SiOxの堆積によるものであり、このSiOxは、ランプジャケットに使用されるガラス(ランプガラス)が、フィラメントからの熱を受けて昇化して発生したものと判明した。
【0009】
本発明は、このような事情のもとになされたものであり、ランプスリーブ内壁に堆積している粒状のSiOxを除去するべきタイミングを容易に得て、生産効率の低下を防止し、また、熱処理にかかる消費電力の上昇を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するためになされた、本発明に係る熱処理装置は、半導体基板を加熱する複数のランプと、前記複数のランプの各々を包囲するように着脱可能に配置され、前記複数のランプの照射光を反射するランプスリーブと、前記複数のランプにランプ電圧を印加する電源と、前記半導体基板の温度を検出する温度検出部と、前記複数のランプに印加するランプ電圧又はランプ電流を制御するコントローラと、前記ランプスリーブのクリーニングのタイミングを表示または音声により警告する警告部と、を備え、前記コントローラは、前記温度検出部により検出された前記半導体基板の温度に基づき、前記複数のランプに印加するランプ電圧又はランプ電流を制御し、前記複数のランプに印加されるランプ電圧又はランプ電流が所定の閾値を越えた場合に、前記警告部により警告させることに特徴を有する。
なお、前記コントローラは、前記複数のランプに印加されるランプ電圧又はランプ電流が所定の閾値を越えた場合に、前記ランプへのランプ電圧またはランプ電流の印加を停止し、該当する前記ランプのランプスリーブが取り外され、再度、前記ランプスリーブの取り付けがなされることにより、前記コントローラは、前記該当するランプへのランプ電圧またはランプ電流の印加を可能とすることが望ましい。
【0011】
このような構成によれば、ランプスリーブ内壁に堆積している粒状のSiOxを除去するべきタイミングを容易に得ることができ、このタイミングに従ってSiOxの堆積による曇りを除去することにより、不要なチャンバーメンテナンスの時間が生じることがなく、生産効率の低下を防止することができる。
また、ランプスリーブに付着したSiOxの堆積による曇りを除去することにより、ランプスリーブにおける照射光の反射率を回復させ、ランプ出力を増加させなくとも効果的に半導体基板を所望の温度に加熱することができ、熱処理にかかる消費電力の上昇を抑制することができる。
【0012】
また、前記課題を解決するためになされた、本発明に係る熱処理装置のメンテナンス方法は、前記コントローラにより、前記複数のランプに印加するランプ電圧又はランプ電流を制御し、前記複数のランプにより半導体基板を加熱するステップと、前記温度検出部により前記半導体基板の温度を検出し、前記半導体基板の温度に基づき、前記複数のランプに印加するランプ電圧を制御するステップと、前記複数のランプに印加されるランプ電圧又はランプ電流が所定の閾値を越えた場合に、前記複数のランプの各々を包囲するように配置され、前記複数のランプの照射光を反射するランプスリーブに対するクリーニングのタイミングを、前記警告部により表示または音声を用いて警告させるステップと、を有することに特徴を有する。
なお、前記警告部により表示または音声を用いて警告させるステップの後、該当する前記ランプのランプスリーブを取り外して、前記ランプスリーブに対し酸性水溶液を用いて洗浄するステップと、洗浄された前記ランプスリーブを取り付けるステップと、を有することが望ましい。
【0013】
このような方法によれば、ランプスリーブ内壁に堆積している粒状のSiOxを除去するべきタイミングを容易に得ることができ、このタイミングに従ってSiOxの堆積による曇りを除去することにより、不要なチャンバーメンテナンスの時間が生じることがなく、生産効率の低下を防止することができる。
また、ランプスリーブに付着したSiOxの堆積による曇りを除去することにより、ランプスリーブにおける照射光の反射率を回復させ、ランプ出力を増加させなくとも効果的に半導体基板を所望の温度に加熱することができ、熱処理にかかる消費電力の上昇を抑制することができる。
【0014】
また、前記課題を解決するためになされた、本発明に係るランプスリーブの再生方法は、前記熱処理装置のメンテナンス方法を用いるランプスリーブの再生方法であって、前記コントローラにより、前記複数のランプの照射光を反射するランプスリーブに対するクリーニングのタイミングを、前記警告部により表示または音声を用いて警告させるステップの後、前記ランプスリーブに対し酸性水溶液を用いて洗浄するステップを有することに特徴を有する。
なお、前記ランプスリーブに対し酸性水溶液を用いて洗浄するステップにおいて、前記ランプスリーブを、1%以上5%以下の濃度のHF水溶液に1min以上100min以下浸漬して洗浄することが望ましい。
【0015】
このような方法によれば、ランプスリーブの内壁に堆積している粒状のSiOxを容易に除去することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ランプスリーブ内壁に堆積している粒状のSiOxを除去するべきタイミングを容易に得て、生産効率の低下を防止し、また、熱処理にかかる消費電力の上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態を示すRTP装置(熱処理装置)を概略的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、
図1のRTP装置が備えるハロゲンランプを拡大して示す断面図である。
【
図3】
図3は、本発明に係る制御方法の流れを示すフローである。
【
図4】
図4は、実施例の実験1の結果を示す顕微鏡写真である。
【
図5】
図5は、実施例の実験3の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面等を参照して詳細に説明する。
本発明の実施形態は、ランプスリーブ内に配置されたランプ(例えば高電圧タングステンハロゲンランプ)を熱源とするRTP装置(熱処理装置)を例にして説明する。
図1は、本発明の実施形態を示すRTP装置100(熱処理装置)を概略的に示す断面図である。このRTP装置100は、処理室20を備え、この処理室20は、チャンバー側壁2と、チャンバー側壁2に結合されるチャンバー底部4と、チャンバー側壁2の上方にわたって配置される石英窓6とを有する。
【0019】
処理室20を構成するチャンバー側壁2、チャンバー底部4および石英窓6は、その中にある半導体基板であるシリコンウェーハWを熱処理するためのチャンバー25を形成している。RTP装置100には、チャンバー25内にシリコンウェーハWを移送するために、チャンバー側壁2を貫通したスリットバルブドア(図示せず)が設けられている。
なお、本実施形態では半導体基板としてシリコンウェーハWを例にして説明するが、シリコンウェーハWに限定されず、例えばSiCウェーハ、GaNウェーハ、回路パターンが形成されたウェーハ等であってもよい。
【0020】
また、RTP装置100は、チャンバー側壁2に形成されたガス導入口20aを備え、このガス導入口20aはチャンバー25に1つまたは複数の処理ガスを与えるように構成されるガス供給源18に接続されている。また、RTP装置100は、チャンバー側壁2に形成されたガス排出口20bを備え、このガス排出口20bは、チャンバー25から外へ排気するために真空ポンプ21に接続されている。
また、RTP装置100は、処理室20内のチャンバー25にシリコンウェーハWを支持する基板支持部40を備える。また、図示しないが、シリコンウェーハWをその中心軸周りに所定速度で回転させる回転手段を備えている。
【0021】
基板支持部40は、シリコンウェーハWの外周部を支持する環状のサセプタ40aと、サセプタ40aを支持するステージ40bとを備える。
また、このRTP装置100におけるシリコンウェーハWの温度制御は、基板支持部40のステージ40bに埋め込まれた複数の放射温度計50(温度検出部)を用いて行う。放射温度計50は、コンピュータであるコントローラ70に接続され、このコントローラ70は、放射温度計50により取得されたシリコンウェーハWの温度情報に基づきシリコンウェーハWの温度を制御する。
【0022】
即ち、コントローラ70は、放射温度計50によって、シリコンウェーハWの下部の基板径方向における基板面内多点(例えば9点)の温度を測定し、その測定された温度に基づいて複数のハロゲンランプ30の制御(各ランプの個別のON-OFF制御や、供給電力の増減制御、発光する光の発光強度の制御等)を行う。
【0023】
複数のハロゲンランプ30は、石英窓6の上方に配置され、石英窓6を通してシリコンウェーハWに向かって熱エネルギーを送るように構成される。複数のハロゲンランプ30は、平面視において例えば六角形パターンに配置される。複数のハロゲンランプ60はそれぞれ、電源60に電気的に接続するために加熱アセンブリベース17に接続されている。
【0024】
各ハロゲンランプ30は、例えば
図2に示すように構成されている。
図2に示すハロゲンランプ30は、石英ガラスにより形成されたランプガラス31中にタングステンのフィラメントコイル32を配置し、ランプガラス31中にハロゲンガスを含むガスが封入されている。
【0025】
また、ランプガラス31は筒状のランプスリーブ33に包囲されており、ランプスリーブ33の内壁33aは、ランプガラス31の発光した熱エネルギーが下方のシリコンウェーハWに向かうように傾斜している。また、ランプスリーブ33の内壁33aは、好ましくはAuめっきが施されている。これは、Auめっきは、耐熱性が高く、反射率が高い、加えて、耐酸性が高いという理由による。
ランプスリーブ33は、RTP装置100から着脱可能に構成されており、容易にランプスリーブ33のみ取り外し可能に構成されている。詳しくは後述するが、この構成により、ランプスリーブ33の洗浄を容易に行い、ランプスリーブ33を再生させた上で、再度RTP装置100に取り付けることができる。
各ハロゲンランプ30には、電源60よりランプ電圧が印加される。このランプ電圧の値は、コントローラ70によって制御される。なお、コントローラ70はランプ電圧ではなく、ハロゲンランプ30に印加する電流(以下、「ランプ電流」とも呼ぶ)を制御してもよい。
【0026】
また、本実施の形態に係るRTP装置100は、例えば画面表示、あるいは警告音(音声)によりランプスリーブ33の内壁33aの汚染度を通知し、ランプスリーブ33の内壁33aのクリーニングを促すための警告部80を備えている。
具体的には、コントローラ70は、シリコンウェーハWの温度を所定温度(例えば1300℃)とするために必要なハロゲンランプ30へ印加するランプ電圧(或いはランプ電流)が、所定の閾値を越えた場合に、警告部80により警告を行う。
【0027】
続いて、本発明に係る熱処理装置(RTP装置)の一連の動作について
図3のフローに基づいて説明する。
最初に、
図1に示すRTP装置100において、所望の初期温度で保持された処理室20内にシリコンウェーハWを収容する(
図3のステップS1)。
【0028】
そして、例えばシリコンウェーハWを1300℃の目標温度で熱処理する場合、コントローラ70は、それに対応するハロゲンランプ30へ印加するランプ電圧(初期設定電圧)を決定し、電源60により各ハロゲンランプ30へランプ電圧を印加する。各ハロゲンランプ30は、供給されたランプ電圧に応じた光をシリコンウェーハWに向けて照射する。これによりシリコンウェーハWが加熱開始される(
図3のステップS2)。
【0029】
尚、各ハロゲンランプ30において、フィラメントコイル32が配置されたランプガラス31の表面は、フィラメントコイル32の熱により粒状SiOxに昇華し、ランプスリーブ33の内壁33aに付着する。そのため、RTP装置100を連続運転して熱処理を繰り返すと、ランプスリーブ33の内壁33aに粒状SiOxが堆積し、曇りとなってランプスリーブ33の熱反射機能を低下させることになる。なお、ランプスリーブ内壁にSiOxが堆積するのは1250℃以上での熱処理において顕著となるため、1250℃以上の最高到達温度で熱処理を行うRTP装置に本実施形態を適用するのが特に好ましい。
【0030】
シリコンウェーハWが加熱される間、放射温度計50によって、シリコンウェーハWの下部の基板径方向における基板面内多点(例えば9点)の温度が測定される(
図3のステップS3)。
コントローラ70は、ステップS3での測定温度に基づきハロゲンランプ30への印加電圧(或いは電流)を測定し(
図3のステップS4)、シリコンウェーハWが所望の温度になるように印加電圧(或いは電流)を制御する。
ここで、コントローラ70は、ハロゲンランプ30への印加電圧(或いは電流)が所定の閾値を越えた場合(
図3のステップS5)、警告部80によりランプスリーブ33のクリーニングが必要であるとする警告を画面等での表示や音声により行う(
図3のステップS6)。また、コントローラ70は、ハロゲンランプ30へのランプ電圧の印加を停止し、RTP装置100の運転を停止する(
図3のステップS8)。
【0031】
警告部80による警告がなされると、RTP装置100の運転停止後、ランプスリーブ33のクリーニング作業を行えばよい。即ち、ランプスリーブ33を取り外し、酸性水溶液(例えば1%以上5%以下の濃度のHF水溶液に1min以上100min以下浸漬)を用いて洗浄し、その後、洗浄したランプスリーブ33を取り付ける。これにより、コントローラ70は、ハロゲンランプ30へのランプ電圧の印加を可能とし、RTP装置100の運転を再開する。なお、酸性水溶液としてHF水溶液を使用する場合、濃度が1%未満であると、洗浄に時間がかかる虞がある。また、濃度が5%を超えると、Auメッキされたランプスリーブ33のニッケル本体が破損する虞がある。そのため、HF水溶液の濃度は、1%以上5%以下が好ましい。
一方、
図3のステップS5において、ハロゲンランプ30への印加電圧(或いは印加電流)が所定の閾値を越えない場合、熱処理完了までシリコンウェーハWの熱処理が行われる(
図3のステップS7)。
【0032】
以上のように、本発明に係る実施形態によれば、ランプスリーブ33の内壁33aに堆積している粒状のSiOxを除去するべきタイミングを容易に得ることができ、このタイミングに従ってSiOxの堆積による曇りを除去することにより、不要なチャンバーメンテナンスの時間が生じることがなく、生産効率の低下を防止することができる。
また、ランプスリーブ33の内壁33aに付着したSiOxの堆積による曇りを除去することにより、ランプスリーブ33における照射光の反射率を回復させ、ランプ出力を増加させなくとも効果的に半導体基板を所望の温度に加熱することができ、熱処理にかかる消費電力の上昇を抑制することができる。
【0033】
尚、前記実施の形態においては、コントローラ70によりハロゲンランプ30へ供給する電圧の大きさを監視するものとしたが、本発明においては、それに限定されるものではなく、ハロゲンランプ30へ供給する電流の大きさを監視し、それが所定の閾値を越えるか否かにより警告の制御をおこなってもよい。
【0034】
また、前記実施の形態においては、複数のハロゲンランプ30に印加するランプ電圧を一律に制御する例について説明したが、本発明にあっては、それに限定されるものではない。
例えば、各ハロゲンランプ30がそれぞれ対応するシリコンウェーハWの領域ごとに温度を測定し、各領域の温度に基づき対応するハロゲンランプ30のそれぞれの印加電圧を制御、及び監視するようにしてもよい。
より具体的には、シリコンウェーハWの中心から半径方向に所定幅を持つ同心円状の複数の領域(領域1、2、・・・、n)に分割し、各領域の温度に基づき対応するハロゲンランプ30のそれぞれの印加電圧を制御してもよい。
【実施例0035】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は、下記実施例により限定解釈されるものではない。
【0036】
(実験1)
実験1では、RTP装置を連続運転することにより、ハロゲンランプのランプスリーブの内壁が曇るか否かを検証した。
RTP装置で半導体用シリコンウェーハに対し加熱温度1300℃の熱処理プロセスで10万回の連続運転を行った。
10万回の連続使用を行ったランプスリーブについて、その内壁をSEM/EDXにより観察した。この観察結果の顕微写真を
図4に示す。
【0037】
SEM観察の結果、スリーブの内壁は黒く曇っており、粒状の付着物が確認された。EDX分析より、この粒状の付着物は、新品のランプスリーブからは検出されないSiとOからなるSiOxであることが判明した。
【0038】
(実験2)
実験2では、SiOxが付着したランプスリーブをHF水溶液で洗浄する場合の好ましいHF水溶液の濃度について検証した。
実施例1では、実験1で用いた連続使用済みのランプスリーブを、5%のHF水溶液で1min間洗浄した。その結果、SiOxがHFで溶解し、曇りが解消した。なお、この洗浄済みの再生品について、SEM/EDXでスリーブ内壁を観察した結果、SiOxは完全ではないが、大幅に除去されていることが分かった。
【0039】
実施例2では、実験1で用いた連続使用済みのランプスリーブを、1%のHF水溶液で洗浄し、SiOxがHFで溶解して曇りが解消するまで観察した。その結果、SiOxがHFで溶解し、曇りが解消するまで100min間を要した。この洗浄時間は実用的な範囲の最大値と判断した。
【0040】
比較例1では、実験1で用いた連続使用済みのランプスリーブを、0.9%のHF水溶液で洗浄し、SiOxがHFで溶解して曇りが解消するまで観察した。その結果、SiOxがHFで溶解し、曇りが解消するまで100minより長い時間を要した。即ち、濃度が1%未満のHF水溶液では、洗浄に時間が掛かりすぎるため、HF水溶液は1%以上が好ましいことを確認した。
【0041】
また、比較例2では、実験1で用いた連続使用済みのランプスリーブを、6%のHF水溶液で1min間洗浄した。その結果、SiOxがHFで溶解し、曇りが解消したものの、ランプスリーブを覆うAuメッキの剥がれが生じ、ランプスリーブのニッケル本体を破損する虞が生じた。
そのため、HF水溶液の濃度は、1%以上5%以下が好ましく、その洗浄時間(浸漬時間)は1min以上100min以下の範囲であることを確認した。
【0042】
(実験3)
実験3では、実験1で得られた連続使用済みのランプスリーブ(中古品)の内壁、実験2で洗浄再生したランプスリーブ(再生品)の内壁、及び新品のランプスリーブの内壁のそれぞれについて、SolisSpec-3700DUV紫外可視近赤外分光光度計(株式会社島津製作所製)を用いて、光の反射率を測定した。その結果を
図5のグラフに示す。
図5のグラフの縦軸は反射率(%)であり、横軸は波長(nm)である。
【0043】
図5のグラフに示すように、洗浄再生したランプスリーブ(再生品)の内壁は、シリコンウェーハ加熱に影響が大きい900nm以上の波長の反射率が、連続使用済みのランプスリーブ(中古品)の内壁のものに対し、53%~90%程度回復しており、完全ではないが新品に近づいたことが分かった。